放射性金属の吸着剤および吸着法
【課題】本発明は、流体中の放射性金属吸着剤および吸着法を提供することを目的とする。
【解決手段】オゾン・活性炭法高度浄水処理場で少なくとも2カ月間液相オゾン酸化された活性炭を150〜450℃で加熱処理して得られた放射性金属吸着剤を、放射性金属を含む流体と接触させることにより前記課題を解決した。
【解決手段】オゾン・活性炭法高度浄水処理場で少なくとも2カ月間液相オゾン酸化された活性炭を150〜450℃で加熱処理して得られた放射性金属吸着剤を、放射性金属を含む流体と接触させることにより前記課題を解決した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オゾン・活性炭法高度浄水処理により少なくとも2カ月間液相オゾン酸化された活性炭を150〜450℃で加熱処理して得られた放射性金属吸着剤およびその放射性金属吸着剤を用いた放射性金属の吸着法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所の事故などに伴って、放射性セシウム134、放射性セシウム137、放射性ストロンチウム89、放射性ストロンチウム90などの放射性金属が大気中や水中に漏出し、環境汚染を引き起ことが世界的に問題になっている。これらの放射性金属は、半減期が長く、長期間にわたって環境汚染を引き起こし、人体に対する被爆が続くために、空気や水などの流体中のこれら放射性金属を効率よく除去する方法の出現が強く望まれている。
これまでこれらの放射性金属の吸着剤としては、天然ゼオライト、イオン交換樹脂が知られており、活性炭はこれらの放射性金属をほとんど吸着しないと言われてきた。(非特許文献1)
【0003】
放射性セシウムを吸着・除去する方法として、たとえば、硝酸水溶液中の放射性セシウムを不溶性フェロシアン化物吸着剤で吸着する方法(特許文献1)、ゼオライトによるイオン交換法で放射性セシウムを除去する方法(特許文献2)などが知られている。これら先行技術は、前処理工程が複雑であり、且つ放射性セシウムの除去効率が悪く、吸着容量が小さいためにこれらの吸着剤を頻繁に交換しなければならず、作業者が被爆し易い多くの作業を伴なうので実用上問題が多かった。
【0004】
酸化処理した繊維状活性炭を放射性核種吸着材として利用すること(特許文献3)も知られている。この特許文献によれば、繊維状活性炭を酸化する方法として、300〜700℃における10分〜5時間の空気酸化、100〜500ppmの気相オゾン酸化、過酸化水素による液相酸化などが開示されているが、これらの方法で酸化処理された繊維状活性炭では、放射性セシウムの吸着速度が遅く、また放射性セシウムの吸着容量が小さいために満足できる吸着剤ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−317697号公報
【特許文献2】特開平8−271692号公報
【特許文献3】特開平6−343856号公報
【非特許文献1】水道協会誌、第80巻(第4号)、p70〜85(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、特殊な処理を施した活性炭を用いて流体中の放射性金属を簡単な操作で効率よく除去する吸着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記本願前の公知文献に記載の技術に鑑み、オゾン・活性炭法高度浄水処理場で行われている現象を確認するために活性炭に対して極低濃度オゾン液相酸化を長期間わたって実験し、得られた液相オゾン酸化活性炭をいろいろな角度から検討した結果、この液相オゾン酸化活性炭を更に特定の温度範囲で処理することによって流体中の放射性金属を効率よく吸着することを見出し、これらの知見を基に更に検討を重ねた結果、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は
(1)オゾン・活性炭法高度浄水処理で少なくとも2カ月間液相オゾン酸化された活性炭を150〜450℃で加熱処理して得られた放射性金属吸着剤、
(2)金属がセシウムである(1)記載の放射性金属吸着剤、
(3)金属がストロンチウムである(1)記載の放射性金属吸着剤、
(4)放射性金属を含む流体を(1)記載の放射性金属吸着剤と接触させる流体中の放射性金属の吸着法、
である。
【0009】
原水から水道水を得るための浄水処理法は、通常、凝集沈殿、急速ろ過、オゾン酸化、活性炭処理、塩素処理、生物処理などの単位処理プロセスを複数組み合わせて行われる。
しかし、より上質の水道水が求められる一方で、河川、湖沼、ダムなどの水源が産業廃棄物の流入や、水の富栄養化などに起因して水質が悪化し、臭気物質、トリハロメタンやその前駆物質などの除去のために種々の単位処理プロセスを組み合わせた高度浄水処理を行わないと美味しくて無色無臭の水道水を得ることが困難となってきている。
【0010】
これらの単位処理プロセスの中で、各種の悪臭成分の分解除去のためには「オゾン酸化」は極めて重要であるが、この処理によって生じる副反応生成物を除去するためにその後段に、活性炭処理を行う必要がある。本発明に言う「オゾン・活性炭法高度浄水処理」とは、浄水処理工程において、「オゾン酸化」とその後段に「活性炭処理」の単位処理プロセスを組み込んだ浄水処理を意味する。
この「オゾン・活性炭法高度浄水処理」にはいくつかの処理フローが存在するが、典型的なものは、原水→凝集沈殿→(中塩素処理)→急速ろ過→オゾン酸化→活性炭処理→(後塩素処理)→急速ろ過→浄水、の処理フローである。
【0011】
東京都をはじめ大都市では、原水の品質の悪化に伴い、1992年頃から、このオゾン・活性炭法による高度浄水処理場が多数稼働し始めた。これらの浄水場では、前処理された水はオゾン接触池において10000ppm以上のオゾンを含有するガスで接触酸化され、水中の有機化合物などを酸化分解した後、濃度0.1〜1.0mg/Lの溶存オゾン水を後段の活性炭層に接触させる。この活性炭層での溶存オゾン水の接触時間は、通常5〜20分(空間速度3〜12L/L/時)である。
このような高度浄水処理場での活性炭1グラム当たりのオゾン負荷量は、1日当たり0.02〜0.50mg/gであり、極低オゾン負荷量で長期間、通常1〜6年間かけて活性炭が非常にゆっくりと液相酸化される。
【0012】
本発明者は、オゾン・活性炭法による高度浄水処理場で行われている活性炭に対する液相オゾン酸化の現象を追跡するために、実験室でモデル的な実験を長期間行い、その一部を全国水道研究発表会で発表した(第59回全国水道研究発表会講演集「液相オゾン酸化に伴う粒状活性炭の物性変化に関する検討」p220〜221(平成20年5月))。
【0013】
現在では、日本の各地でオゾン・活性炭法による高度浄水処理場が多数稼働しており、これらの高度浄水処理場から毎年数千トン〜数万トンのオゾン液相酸化活性炭が排出されている。この高度浄水処理場からのオゾン液相酸化活性炭はそのままの状態でもある程度の金属吸着性能を有するが、本発明者は、このオゾン液相酸化活性炭を150〜450℃で加熱処理することによって、放射性金属の吸着性能が飛躍的に向上することを見出した。
【0014】
各高度浄水処理場への原水の水質、前処理条件、活性炭に対するオゾンの液相酸化条件(特にオゾン濃度、酸化期間など)などによって、オゾン液相酸化活性炭の性状が異なり、数々の化合物を吸着して、その比表面積は大幅に低下している。そのために高度浄水処理場からのオゾン液相酸化活性炭を再生する方法として、通常の使用済み活性炭と同様に750〜950℃の高温で水蒸気処理(賦活)する方法も採用されているが、オゾン液相酸化活性炭に対してこのような高温処理を行なうと、放射性金属を全くかほとんど吸着しないことが判明した。また、150℃未満の加熱処理では、放射性金属の吸着性能は今ひとつ不十分である。
【0015】
本発明で使用される活性炭としては、木炭、コークス、石炭、ヤシ殻、樹脂、石油系残渣などを原料として通常の方法により賦活され、その形状は、粉末状、破砕状、円柱状、球状、ハニカム状、繊維状などいかなるものでもよいが、粒状活性炭が取り扱い上好ましい。また、これらの活性炭の比表面積は、50m2/g以上、好ましくは100〜2500m2/gのものである。
【0016】
本発明は、オゾン・活性炭法高度浄水処理で少なくとも2カ月間、好ましくは1〜6年間、より好ましくは1〜4年間、液相オゾン酸化された活性炭を150〜450℃、好ましくは200〜400℃の温度で加熱処理した放射性金属の吸着剤である。この液相オゾン酸化活性炭を150〜450℃に加熱処理する具体的な方法としては、たとえば、触媒、吸着剤などを加熱する方法で、通常よく行なわれている方法がそのまま適用できる。固定層方式、移動層方式、流動層方式などで、炉の形式もキルン炉やハウス型乾燥炉など特に限定されない。加熱処理の雰囲気としては、不活性ガス、燃焼排ガス、空気など任意に選択できる。加熱処理時間は、通常、5分間以上で特に限定されない。要は、液相オゾン酸化活性炭の温度が150〜450℃に達すればよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の対象とする放射性金属は、半減期の長いセシウム134、セシウム137、ストロンチウム89、ストロンチウム90などの長寿命β線、γ線核種である。オゾン・活性炭法高度浄水処理で液相オゾン酸化された活性炭を特定の温度範囲で処理することによって前記の放射性金属を吸着する際に、流体中に共存する成分、特に油成分、金属塩(食塩)などの影響を著しく抑制できることも本発明の大きな特徴である。
また、流体が気体の場合、温度および相対湿度の影響が非常に小さく、120℃以下の温度であれば、相対湿度は75%以上でも良好な吸着性能を維持する。さらに、原子力発電所の事故などに伴って放射性金属を吸着・除去いなければならない突発的な事態に対応するには、放射性金属の吸着剤が短期間に、かつ、多量に必要となる。このような緊急的な要望に対してオゾン・活性炭法による高度浄水処理場から多量に排出される極低濃度オゾン液相酸化活性炭が対応できることは、漏洩した放射性金属による環境汚染および人体への被爆防止、原子力発電所の事故対処などの点で意義が大きく、本発明の最大の特長である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に実施例をあげて、本発明を具体的に説明する。実施例では、便宜上、放射性金属の代わりに非放射性金属を使用し、模擬液および模擬ガスで実験した。これらの模擬液および模擬ガスでの実験においても、両者の金属は化学的には全く同じ性質を有し、非放射性金属を用いた模擬実験でも放射性金属を用いた結果と同じである。
【実施例1】
【0019】
8〜32メッシュの瀝青炭系活性炭a(BET比表面積1150m2/g)をオゾン・活性炭法高度浄水処理場Aで約3年間使用した。この浄水場においては、活性炭aの充填層厚さ約2.5m、通水速度約260m/日(空間速度約4L/L/時)、オゾン濃度約0.26mg/Lで、活性炭aに対するオゾン負荷量は1日当たり約0.05mg/g−活性炭であった。この酸化活性炭試料a1について、次のような熱処理を実施した。
酸化活性炭試料a1の各30gを55mmφの石英ガラス管に充填して窒素ガスを線流速5cm/秒で流通しながら、それぞれ110℃、150℃、350℃、450℃、550℃および850℃の各温度で30分間処理して、窒素ガス中で室温まで冷却して、加熱処理試料a2、a3、a4、a5、a6およびa7をそれぞれ得た。これらの試料および試料a1を乳鉢で微粉砕した各100mgを25mgのCsOH(Csイオンとして22mg)を含む水溶液15mLに懸濁させて、25℃で2時間振とうさせた後、ガラス濾過器で濾過し、濾液5mL中に残留するCsイオンを測定してCs金属吸着量(mg/g−活性炭)を求めた。その結果を表1に示した。
【0020】
【表1】
この実験からオゾン・活性炭法浄水場Aで約3年間、液相オゾン酸化された活性炭a1を110℃で加熱処理しても未加熱品a1とほぼ同等の放射性セシウムの吸着量であるのに対して、液相オゾン酸化された活性炭a1を150〜450℃で加熱処理することによって、放射性セシウムの吸着量が飛躍的に向上することがわかる。また、酸化活性炭を550〜850℃の高温で加熱すると、放射性セシウムの吸着量が大きく低下してしまうことが明らかである。
【実施例2】
【0021】
8〜32メッシュの瀝青炭系活性炭b(BET比表面積1200m2/g)をオゾン・活性炭法浄水場Bで約1年間使用した。この浄水場においては、活性炭b1の充填層厚さ約2.0m、通水速度約240m/日(空間速度約5L/L/時)、オゾン濃度約0.35mg/Lで、活性炭bに対するオゾン負荷量は1日当たり約0.08mg/g−活性炭であった。この酸化活性炭試料b1について、次のような熱処理を実施した。
酸化活性炭試料b1の各30gを55mmφの石英ガラス管に充填して窒素ガスを線流速5cm/秒で流通しながら、それぞれ100℃、170℃、250℃、450℃、600℃および800℃の各温度で30分間処理して、窒素ガス中で室温まで冷却して、加熱処理試料b2、b3、b4、b5、b6およびb7をそれぞれ得た。これらの試料および試料b1を乳鉢で微粉砕した各100mgを27mgのCs2CO3(Csイオンとして22mg)を含む水溶液15mLに懸濁させて、25℃で2時間振とうさせた後、ガラス濾過器で濾過し、濾液5mL中に残留するCsイオンを測定してCs金属吸着量(mg/g−活性炭)を求めた。その結果を表2に示した。
【0022】
【表2】
この実験からオゾン・活性炭法浄水場Bで約1年間、液相オゾン酸化された活性炭を170〜450℃で加熱処理することによって、放射性セシウムの吸着量が飛躍的に向上することがわかる。また、酸化活性炭を600〜800℃の高温で加熱すると、放射性セシウムの吸着量が大きく低下してしまうことが明らかである。
【実施例3】
【0023】
実施例1の試料a1、a3、a4、a5、a6およびa7を乳鉢で微粉砕した100mgを10mgのSr(OH)2(Srイオンとして7mg)を含む水溶液15mLに懸濁させて、25℃で2時間振とうさせた後、ガラス濾過器で濾過し、濾液5mL中に残留するSrイオンを測定してSr金属吸着量(mg/g−活性炭)を求めた。その結果を表3に示した。
【0024】
【表3】
実施例1および実施例2の放射性セシウムの吸着と同様に放射性ストロンチウムの吸着現象も同じ傾向を示し、170および450℃で加熱処理することによって、放射性ストロンチウムの吸着量が飛躍的に向上することがわかる。また、酸化活性炭を550〜850℃の高温で加熱すると、放射性ストロンチウムの吸着量が大きく低下してしまうことが明らかである。
【実施例4】
【0025】
実施例1の試料a1、a2、a3、a4、a5、a6およびa7の各試料について含水率を約45重量%に調整した後、2cmφのカラムに層長が10cmになるように充填した。このカラムに0.01mg/LのCsOHを含む大気(温度25℃・相対湿度90%)を750mL/分で流通して、カラムから流出するガス中のCsOH濃度を測定して、CsOH破過率が5%になる時間を調べた。その結果を表4に示した。
【0026】
【表4】
実施例1の水溶液中のセシウムの吸着と同じように大気中のセシウムの吸着でも、オゾン・活性炭法浄水場で約3年間、液相オゾン酸化された活性炭を150〜450℃で加熱処理することによって、放射性セシウムの動的吸着性能が著しく向上することが確認された。また、同じ酸化活性炭を550〜850℃の高温で加熱すると、放射性セシウムの動的吸着性能が大きく低下してしまうことも明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の吸着剤と放射性金属を含む流体とを通常の方法で接触させることによって、流体中の放射性金属を効率よく吸着することができる。たとえば、本発明の吸着剤を充填した装置に放射性金属を含む流体を流通する方法、ガスマスクの充填剤として本発明の吸着剤を使用する方法、空気清浄機のフィルターに本発明の吸着剤を使用する方法、放射性金属を含む水が入った容器内に本発明の吸着剤を存在させて放射性金属を吸着する方法などがある。
【技術分野】
【0001】
本発明は、オゾン・活性炭法高度浄水処理により少なくとも2カ月間液相オゾン酸化された活性炭を150〜450℃で加熱処理して得られた放射性金属吸着剤およびその放射性金属吸着剤を用いた放射性金属の吸着法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所の事故などに伴って、放射性セシウム134、放射性セシウム137、放射性ストロンチウム89、放射性ストロンチウム90などの放射性金属が大気中や水中に漏出し、環境汚染を引き起ことが世界的に問題になっている。これらの放射性金属は、半減期が長く、長期間にわたって環境汚染を引き起こし、人体に対する被爆が続くために、空気や水などの流体中のこれら放射性金属を効率よく除去する方法の出現が強く望まれている。
これまでこれらの放射性金属の吸着剤としては、天然ゼオライト、イオン交換樹脂が知られており、活性炭はこれらの放射性金属をほとんど吸着しないと言われてきた。(非特許文献1)
【0003】
放射性セシウムを吸着・除去する方法として、たとえば、硝酸水溶液中の放射性セシウムを不溶性フェロシアン化物吸着剤で吸着する方法(特許文献1)、ゼオライトによるイオン交換法で放射性セシウムを除去する方法(特許文献2)などが知られている。これら先行技術は、前処理工程が複雑であり、且つ放射性セシウムの除去効率が悪く、吸着容量が小さいためにこれらの吸着剤を頻繁に交換しなければならず、作業者が被爆し易い多くの作業を伴なうので実用上問題が多かった。
【0004】
酸化処理した繊維状活性炭を放射性核種吸着材として利用すること(特許文献3)も知られている。この特許文献によれば、繊維状活性炭を酸化する方法として、300〜700℃における10分〜5時間の空気酸化、100〜500ppmの気相オゾン酸化、過酸化水素による液相酸化などが開示されているが、これらの方法で酸化処理された繊維状活性炭では、放射性セシウムの吸着速度が遅く、また放射性セシウムの吸着容量が小さいために満足できる吸着剤ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−317697号公報
【特許文献2】特開平8−271692号公報
【特許文献3】特開平6−343856号公報
【非特許文献1】水道協会誌、第80巻(第4号)、p70〜85(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、特殊な処理を施した活性炭を用いて流体中の放射性金属を簡単な操作で効率よく除去する吸着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記本願前の公知文献に記載の技術に鑑み、オゾン・活性炭法高度浄水処理場で行われている現象を確認するために活性炭に対して極低濃度オゾン液相酸化を長期間わたって実験し、得られた液相オゾン酸化活性炭をいろいろな角度から検討した結果、この液相オゾン酸化活性炭を更に特定の温度範囲で処理することによって流体中の放射性金属を効率よく吸着することを見出し、これらの知見を基に更に検討を重ねた結果、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は
(1)オゾン・活性炭法高度浄水処理で少なくとも2カ月間液相オゾン酸化された活性炭を150〜450℃で加熱処理して得られた放射性金属吸着剤、
(2)金属がセシウムである(1)記載の放射性金属吸着剤、
(3)金属がストロンチウムである(1)記載の放射性金属吸着剤、
(4)放射性金属を含む流体を(1)記載の放射性金属吸着剤と接触させる流体中の放射性金属の吸着法、
である。
【0009】
原水から水道水を得るための浄水処理法は、通常、凝集沈殿、急速ろ過、オゾン酸化、活性炭処理、塩素処理、生物処理などの単位処理プロセスを複数組み合わせて行われる。
しかし、より上質の水道水が求められる一方で、河川、湖沼、ダムなどの水源が産業廃棄物の流入や、水の富栄養化などに起因して水質が悪化し、臭気物質、トリハロメタンやその前駆物質などの除去のために種々の単位処理プロセスを組み合わせた高度浄水処理を行わないと美味しくて無色無臭の水道水を得ることが困難となってきている。
【0010】
これらの単位処理プロセスの中で、各種の悪臭成分の分解除去のためには「オゾン酸化」は極めて重要であるが、この処理によって生じる副反応生成物を除去するためにその後段に、活性炭処理を行う必要がある。本発明に言う「オゾン・活性炭法高度浄水処理」とは、浄水処理工程において、「オゾン酸化」とその後段に「活性炭処理」の単位処理プロセスを組み込んだ浄水処理を意味する。
この「オゾン・活性炭法高度浄水処理」にはいくつかの処理フローが存在するが、典型的なものは、原水→凝集沈殿→(中塩素処理)→急速ろ過→オゾン酸化→活性炭処理→(後塩素処理)→急速ろ過→浄水、の処理フローである。
【0011】
東京都をはじめ大都市では、原水の品質の悪化に伴い、1992年頃から、このオゾン・活性炭法による高度浄水処理場が多数稼働し始めた。これらの浄水場では、前処理された水はオゾン接触池において10000ppm以上のオゾンを含有するガスで接触酸化され、水中の有機化合物などを酸化分解した後、濃度0.1〜1.0mg/Lの溶存オゾン水を後段の活性炭層に接触させる。この活性炭層での溶存オゾン水の接触時間は、通常5〜20分(空間速度3〜12L/L/時)である。
このような高度浄水処理場での活性炭1グラム当たりのオゾン負荷量は、1日当たり0.02〜0.50mg/gであり、極低オゾン負荷量で長期間、通常1〜6年間かけて活性炭が非常にゆっくりと液相酸化される。
【0012】
本発明者は、オゾン・活性炭法による高度浄水処理場で行われている活性炭に対する液相オゾン酸化の現象を追跡するために、実験室でモデル的な実験を長期間行い、その一部を全国水道研究発表会で発表した(第59回全国水道研究発表会講演集「液相オゾン酸化に伴う粒状活性炭の物性変化に関する検討」p220〜221(平成20年5月))。
【0013】
現在では、日本の各地でオゾン・活性炭法による高度浄水処理場が多数稼働しており、これらの高度浄水処理場から毎年数千トン〜数万トンのオゾン液相酸化活性炭が排出されている。この高度浄水処理場からのオゾン液相酸化活性炭はそのままの状態でもある程度の金属吸着性能を有するが、本発明者は、このオゾン液相酸化活性炭を150〜450℃で加熱処理することによって、放射性金属の吸着性能が飛躍的に向上することを見出した。
【0014】
各高度浄水処理場への原水の水質、前処理条件、活性炭に対するオゾンの液相酸化条件(特にオゾン濃度、酸化期間など)などによって、オゾン液相酸化活性炭の性状が異なり、数々の化合物を吸着して、その比表面積は大幅に低下している。そのために高度浄水処理場からのオゾン液相酸化活性炭を再生する方法として、通常の使用済み活性炭と同様に750〜950℃の高温で水蒸気処理(賦活)する方法も採用されているが、オゾン液相酸化活性炭に対してこのような高温処理を行なうと、放射性金属を全くかほとんど吸着しないことが判明した。また、150℃未満の加熱処理では、放射性金属の吸着性能は今ひとつ不十分である。
【0015】
本発明で使用される活性炭としては、木炭、コークス、石炭、ヤシ殻、樹脂、石油系残渣などを原料として通常の方法により賦活され、その形状は、粉末状、破砕状、円柱状、球状、ハニカム状、繊維状などいかなるものでもよいが、粒状活性炭が取り扱い上好ましい。また、これらの活性炭の比表面積は、50m2/g以上、好ましくは100〜2500m2/gのものである。
【0016】
本発明は、オゾン・活性炭法高度浄水処理で少なくとも2カ月間、好ましくは1〜6年間、より好ましくは1〜4年間、液相オゾン酸化された活性炭を150〜450℃、好ましくは200〜400℃の温度で加熱処理した放射性金属の吸着剤である。この液相オゾン酸化活性炭を150〜450℃に加熱処理する具体的な方法としては、たとえば、触媒、吸着剤などを加熱する方法で、通常よく行なわれている方法がそのまま適用できる。固定層方式、移動層方式、流動層方式などで、炉の形式もキルン炉やハウス型乾燥炉など特に限定されない。加熱処理の雰囲気としては、不活性ガス、燃焼排ガス、空気など任意に選択できる。加熱処理時間は、通常、5分間以上で特に限定されない。要は、液相オゾン酸化活性炭の温度が150〜450℃に達すればよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の対象とする放射性金属は、半減期の長いセシウム134、セシウム137、ストロンチウム89、ストロンチウム90などの長寿命β線、γ線核種である。オゾン・活性炭法高度浄水処理で液相オゾン酸化された活性炭を特定の温度範囲で処理することによって前記の放射性金属を吸着する際に、流体中に共存する成分、特に油成分、金属塩(食塩)などの影響を著しく抑制できることも本発明の大きな特徴である。
また、流体が気体の場合、温度および相対湿度の影響が非常に小さく、120℃以下の温度であれば、相対湿度は75%以上でも良好な吸着性能を維持する。さらに、原子力発電所の事故などに伴って放射性金属を吸着・除去いなければならない突発的な事態に対応するには、放射性金属の吸着剤が短期間に、かつ、多量に必要となる。このような緊急的な要望に対してオゾン・活性炭法による高度浄水処理場から多量に排出される極低濃度オゾン液相酸化活性炭が対応できることは、漏洩した放射性金属による環境汚染および人体への被爆防止、原子力発電所の事故対処などの点で意義が大きく、本発明の最大の特長である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に実施例をあげて、本発明を具体的に説明する。実施例では、便宜上、放射性金属の代わりに非放射性金属を使用し、模擬液および模擬ガスで実験した。これらの模擬液および模擬ガスでの実験においても、両者の金属は化学的には全く同じ性質を有し、非放射性金属を用いた模擬実験でも放射性金属を用いた結果と同じである。
【実施例1】
【0019】
8〜32メッシュの瀝青炭系活性炭a(BET比表面積1150m2/g)をオゾン・活性炭法高度浄水処理場Aで約3年間使用した。この浄水場においては、活性炭aの充填層厚さ約2.5m、通水速度約260m/日(空間速度約4L/L/時)、オゾン濃度約0.26mg/Lで、活性炭aに対するオゾン負荷量は1日当たり約0.05mg/g−活性炭であった。この酸化活性炭試料a1について、次のような熱処理を実施した。
酸化活性炭試料a1の各30gを55mmφの石英ガラス管に充填して窒素ガスを線流速5cm/秒で流通しながら、それぞれ110℃、150℃、350℃、450℃、550℃および850℃の各温度で30分間処理して、窒素ガス中で室温まで冷却して、加熱処理試料a2、a3、a4、a5、a6およびa7をそれぞれ得た。これらの試料および試料a1を乳鉢で微粉砕した各100mgを25mgのCsOH(Csイオンとして22mg)を含む水溶液15mLに懸濁させて、25℃で2時間振とうさせた後、ガラス濾過器で濾過し、濾液5mL中に残留するCsイオンを測定してCs金属吸着量(mg/g−活性炭)を求めた。その結果を表1に示した。
【0020】
【表1】
この実験からオゾン・活性炭法浄水場Aで約3年間、液相オゾン酸化された活性炭a1を110℃で加熱処理しても未加熱品a1とほぼ同等の放射性セシウムの吸着量であるのに対して、液相オゾン酸化された活性炭a1を150〜450℃で加熱処理することによって、放射性セシウムの吸着量が飛躍的に向上することがわかる。また、酸化活性炭を550〜850℃の高温で加熱すると、放射性セシウムの吸着量が大きく低下してしまうことが明らかである。
【実施例2】
【0021】
8〜32メッシュの瀝青炭系活性炭b(BET比表面積1200m2/g)をオゾン・活性炭法浄水場Bで約1年間使用した。この浄水場においては、活性炭b1の充填層厚さ約2.0m、通水速度約240m/日(空間速度約5L/L/時)、オゾン濃度約0.35mg/Lで、活性炭bに対するオゾン負荷量は1日当たり約0.08mg/g−活性炭であった。この酸化活性炭試料b1について、次のような熱処理を実施した。
酸化活性炭試料b1の各30gを55mmφの石英ガラス管に充填して窒素ガスを線流速5cm/秒で流通しながら、それぞれ100℃、170℃、250℃、450℃、600℃および800℃の各温度で30分間処理して、窒素ガス中で室温まで冷却して、加熱処理試料b2、b3、b4、b5、b6およびb7をそれぞれ得た。これらの試料および試料b1を乳鉢で微粉砕した各100mgを27mgのCs2CO3(Csイオンとして22mg)を含む水溶液15mLに懸濁させて、25℃で2時間振とうさせた後、ガラス濾過器で濾過し、濾液5mL中に残留するCsイオンを測定してCs金属吸着量(mg/g−活性炭)を求めた。その結果を表2に示した。
【0022】
【表2】
この実験からオゾン・活性炭法浄水場Bで約1年間、液相オゾン酸化された活性炭を170〜450℃で加熱処理することによって、放射性セシウムの吸着量が飛躍的に向上することがわかる。また、酸化活性炭を600〜800℃の高温で加熱すると、放射性セシウムの吸着量が大きく低下してしまうことが明らかである。
【実施例3】
【0023】
実施例1の試料a1、a3、a4、a5、a6およびa7を乳鉢で微粉砕した100mgを10mgのSr(OH)2(Srイオンとして7mg)を含む水溶液15mLに懸濁させて、25℃で2時間振とうさせた後、ガラス濾過器で濾過し、濾液5mL中に残留するSrイオンを測定してSr金属吸着量(mg/g−活性炭)を求めた。その結果を表3に示した。
【0024】
【表3】
実施例1および実施例2の放射性セシウムの吸着と同様に放射性ストロンチウムの吸着現象も同じ傾向を示し、170および450℃で加熱処理することによって、放射性ストロンチウムの吸着量が飛躍的に向上することがわかる。また、酸化活性炭を550〜850℃の高温で加熱すると、放射性ストロンチウムの吸着量が大きく低下してしまうことが明らかである。
【実施例4】
【0025】
実施例1の試料a1、a2、a3、a4、a5、a6およびa7の各試料について含水率を約45重量%に調整した後、2cmφのカラムに層長が10cmになるように充填した。このカラムに0.01mg/LのCsOHを含む大気(温度25℃・相対湿度90%)を750mL/分で流通して、カラムから流出するガス中のCsOH濃度を測定して、CsOH破過率が5%になる時間を調べた。その結果を表4に示した。
【0026】
【表4】
実施例1の水溶液中のセシウムの吸着と同じように大気中のセシウムの吸着でも、オゾン・活性炭法浄水場で約3年間、液相オゾン酸化された活性炭を150〜450℃で加熱処理することによって、放射性セシウムの動的吸着性能が著しく向上することが確認された。また、同じ酸化活性炭を550〜850℃の高温で加熱すると、放射性セシウムの動的吸着性能が大きく低下してしまうことも明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の吸着剤と放射性金属を含む流体とを通常の方法で接触させることによって、流体中の放射性金属を効率よく吸着することができる。たとえば、本発明の吸着剤を充填した装置に放射性金属を含む流体を流通する方法、ガスマスクの充填剤として本発明の吸着剤を使用する方法、空気清浄機のフィルターに本発明の吸着剤を使用する方法、放射性金属を含む水が入った容器内に本発明の吸着剤を存在させて放射性金属を吸着する方法などがある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オゾン・活性炭法高度浄水処理で少なくとも2カ月間液相オゾン酸化された活性炭を150〜450℃で加熱処理して得られた放射性金属吸着剤。
【請求項2】
金属がセシウムである請求項1記載の放射性金属吸着剤。
【請求項3】
金属がストロンチウムである請求項1記載の放射性金属吸着剤。
【請求項4】
放射性金属を含む流体を請求項1記載の放射性金属吸着剤と接触させる流体中の放射性金属の吸着法。
【請求項1】
オゾン・活性炭法高度浄水処理で少なくとも2カ月間液相オゾン酸化された活性炭を150〜450℃で加熱処理して得られた放射性金属吸着剤。
【請求項2】
金属がセシウムである請求項1記載の放射性金属吸着剤。
【請求項3】
金属がストロンチウムである請求項1記載の放射性金属吸着剤。
【請求項4】
放射性金属を含む流体を請求項1記載の放射性金属吸着剤と接触させる流体中の放射性金属の吸着法。
【公開番号】特開2012−242100(P2012−242100A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109127(P2011−109127)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(508197549)株式会社 永光 (12)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(508197549)株式会社 永光 (12)
【Fターム(参考)】
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