説明

放射標識ガリウム錯体を合成するためのマイクロ波法

【課題】 陽電子断層撮影法(PET)撮像などの診断薬として使用できる放射標識ガリウム錯体の製造方法の提供。
【解決手段】 Ga3+放射性同位体とキレート剤との反応による放射標識ガリウム錯体の製造に当たり、マイクロ波による活性化を用いて反応を実施する。マイクロ波による活性化の利用によって、68Gaキレート剤の錯形成の効率と再現性が格段に向上する。マイクロ波による活性化によって、化学反応の時間がかなり短縮され、副反応が少なくなり、選択性の向上のために放射化学収率が増す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射標識ガリウム錯体の製造方法に関する。これらの錯体は、例えば陽電子断層撮影法(PET)撮像のための診断薬として使用し得る。
【背景技術】
【0002】
PET撮像は、陽電子を放出する放射性トレーサー分子を用いる断層撮影核撮像技術である。陽電子が電子と出会うと、両方とも消滅し、その結果としてガンマ線の形のエネルギーが放出され、それがPETスキャナにより検出される。人体により用いられる天然物質をトレーサー分子として用いることにより、PETは人体の構造についての情報だけでなく、人体又はその特定領域の生理学的機能についての情報もまた提供する。一般的なトレーサー分子は、例えば、2−フルオロ−2−デオキシ−D−グルコース(FDG)であり、これは天然グルコースに似ており、18F原子が付加されている。前記陽電子放出フッ素により生成するガンマ線はPETスキャナにより検出され、人体の特定領域又は組織(例えば、脳又は心臓)におけるFDGの代謝を示す。トレーサー分子の選択は、何がスキャンされようとしているかに応じて決まる。一般に、関心のある領域に集まる、或いは、特定のタイプの組織(例えば複数のガン細胞)により選択的に取り込まれるトレーサーが選ばれる。スキャンは、放射性トレーサー分子が関心のある生化学的過程に入るある時間間隔の後に得られる動的な一連のもの、或いは、静的な画像からなる。スキャナはトレーサー分子の空間的及び時間的分布を検出する。PETはまた、放射性トレーサー分子の局所的濃度を測定できる定量的撮像法でもある。
【0003】
PETトレーサーに一般に使用される放射性核種は、11C、18F、15O、13N又は76Brである。最近、二官能性キレート剤と放射性金属を含む放射標識金属錯体に基づく新しいPETトレーサーが作り出された。二官能性キレート剤は、金属イオンに配位し、患者の身体の目標部位に結合することになるターゲティングベクターに結合しているキレート剤である。このようなターゲティングベクターは、人体の特定領域又は特定の疾患に恐らく関係する特定の受容体に結合するペプチドであってもよい。ターゲティングベクターはまた、例えば活性化された癌遺伝子に特異性な、従って腫瘍部位を目標とするオリゴヌクレオチドであってもよい。このような錯体の利点は、二官能性キレート剤が、例えば、68Ga、213Bi又は86Yのような、様々な放射性金属で標識できることである。従って、特別な性質を持つ放射標識錯体を、特定の用途に「合わせて作る」ことができる。
【0004】
PET撮像におけるトレーサー分子として使用されるGa放射標識金属錯体の製造では、68Gaが特に興味深い。68Gaは、68Ge/68Gaジェネレーターから得られ、これはサイクロトロンを必要としないことを意味する。68Gaは、89%まで2.92MeVの陽電子放出により崩壊し、その68分の半減期は、余計な放射線は無しに、多くの生化学的過程をin vivoで追跡するのに十分である。+IIIのその酸化状態により、68Gaは、様々なタイプのキレート剤と安定な錯体を形成し、68Gaトレーサーは、脳、腎臓、骨、血液プール、肺及び腫瘍の撮像に用いられている。
【0005】
J.Schumacher et al.,Cancer Res.61,2001,3712−3717は、68Ga−N,N’[2−ヒドロキシ−5−(エチレン−β−カルボキシ)ベンジル]エチレンジアミン−N,N’−二酢酸(68Ga−HBED−CC)の合成を記載する。68Ge/68Gaジェネレーターから得られた68Gaと、Ga3+担体(carrier)とが、キレート剤であるHBED−CCと、酢酸緩衝剤中で、95℃、15分間反応する。錯化していない68Gaは、陽イオン交換カラムを用いて錯体から分離される。合成全体には70分を要すると報告されている。この方法の欠点は、放射標識錯体の全合成時間が非常に長いということである。「放射性でない(cold)」Ga3+担体の添加により、反応の比放射能は低い。さらに、放射標識錯体は、錯形成反応の後で精製しなければならなかった。
【0006】
国際公開第99/56791号は、68Ge/68Gaジェネレーターから得られた68GaClと、四座配位アミントリチオレートキレート剤であるトリス(2−メルカプトベンジル)アミン(SN)との反応を記載する。錯形成は、室温で、10分間実施される。記載されている方法の欠点は、放射標識錯体が、in vivoでの試験に使用する前に、液体クロマトグラフィーにより精製しなければならなかったことである。この方法のさらなる欠点は、比較的長い反応時間である。
【0007】
O.Ugur et al.,Nucl.Med.Biol.29,2002,147−157は、68Ga標識された、ソマトスタチンアナログであるDOTA−DPhe−Tyr−オクトレオチド(DOTATOC)の合成を記載する。この化合物は、68Ge/68Gaジェネレーターから得られた68GaClとキレート剤であるDOTATOCとを、100℃で15分間反応させることにより調製される。この方法の欠点は、反応混合物は比較的高い温度で加熱しなければならなかったことである。DOTAキレート剤はペプチドのターゲティングベクターで官能化されており、ペプチド及びタンパク質は熱に弱いことが知られている物質である。従って、記載されている方法では、熱に弱いターゲティングベクターが錯形成の間に破壊される恐れがある。さらなる欠点は、それを動物試験で使用する前に、HPLCにより精製しなければならなかったことである。
【0008】
米国特許第5070346号は、キレート剤であるテトラエチルシクロヘキシル−ビス−アミノエタンチオール(BAT−TECH)の68Ga標識錯体を開示する。この錯体は、68Ge/68Gaジェネレーターから得られた68GaClと、BAT−TECHとを、75℃で15分間反応させることにより合成され、続いて濾過される。この錯体の調製は40分以内で完了した。高い反応温度のために、この方法は、熱に弱いターゲティングベクター、例えば、ペプチド又はタンパク質を含む二官能性キレート剤には適さないであろう。さらなる欠点は、錯形成反応の長い反応時間である。
【0009】
68Gaの比較的短い半減期を考慮すると、68Ga標識錯体(これらの錯体はPET撮像用のトレーサー分子として使用され得るであろう)を合成する迅速な方法が求められている。
【0010】
今回、マイクロ波による活性化の利用によって、68Gaキレート剤の錯形成の効率と再現性が格段に向上することが判明した。マイクロ波による活性化により、化学反応の時間は、かなり短縮され得る、すなわち、反応は2分以内に完了する。10分の反応時間の短縮により、約10%の68Gaの放射能が失われずに保たれるので、これは明らかな改善である。さらに、マイクロ波による活性化により、副反応が少なくなり、選択性の向上のために放射化学収率が増す。66Ga3+67Ga3+及び68Ga3+放射性異性体の溶液は、サイクロトロンによる製造により、或いは、ジェネレーターから得られ、いわゆる擬似担体(pseudo carrier)、すなわち、例えば、Fe3+、Al3+、Cu2+、Zn2+及びIn3+のような他の金属陽イオンを含んでいる。これらの擬似担体は、錯形成反応においてGa3+と競合するので、放射標識反応の選択性を増すことは重要である。従って、マイクロ波による活性化は、全てのGa放射性同位体による、すなわち、66Ga、67Ga及び68Gaによる、放射標識に好ましい効果を及ぼす。
【0011】
マイクロ波による活性化は、18Fによる求核芳香族放射性フッ素化において用いられ、熱処理の場合に報告されたものと同等又はより大きな収率が、より短い反応時間で得られることが見出された(S.Stone−Elander et al.,Appl.Rad.Isotopes 44(5),1993,889−893)。
【特許文献1】国際公開第99/56791号パンフレット
【特許文献2】米国特許第5070346号明細書
【非特許文献1】J.Schumacher et al.,Cancer Res.61,2001,3712−3717
【非特許文献2】O.Ugur et al.,Nucl.Med.Biol.29,2002,147−157
【非特許文献3】S.Stone−Elander et al.,Appl.Rad.Isotopes 44(5),1993,889−893
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、Ga放射標識反応におけるマイクロ波による活性化の利用は、未だ記載されていない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
従って、本発明は、マイクロ波による活性化を利用して反応を実施することを特徴とする、Ga3+放射性同位体とキレート剤との反応による放射標識ガリウム錯体の製造方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に適合する適切なGa3+放射性同位体は、66Ga3+67Ga3+及び68Ga3+、好ましくは、66Ga3+及び68Ga3+、特に好ましくは、68Ga3+である。66Ga3+及び68Ga3+は、PET撮像において有用な放射標識錯体の製造に特に適しており、一方、67Ga3+は、単一光子放射型コンピュータ断層撮影(SPECT)において有用な放射標識錯体の製造に特に適している。
【0015】
66Ga3+は、亜鉛元素標的の照射によるサイクロトロンによる生産により得られる。67Gaの生成量を最少化するために、好ましくは、標的の厚さは、減損したプロトンエネルギーが8MeVを超えるように保たれ、また、照射時間は短く(例えば、<4時間)保たれる。化学的分離は、L.C.Brown,Int.J.Appl.Radiat.Isot.22,1971,710−713に記載されるように、イソプロピルエーテルとHClを用いる溶剤−溶剤抽出法を用いて実施され得る。66Gaは、9.5時間という比較的長い半減期をもち、放出される最も豊富な陽電子は4.2MeVという特異的に大きなエネルギーをもつ。
【0016】
67Ga3+は、サイクロトロンによる生産により得ることができ、また、サイクロトロンによる生産で得られる67GaClは、市販されている化合物である。67Gaの半減期は78時間である。
【0017】
68Gaは、68Ge/68Gaジェネレーターから得られる。このようなジェネレーターは、当技術分野において知られており、例えば、C.Loc’h et al,J.Nucl.Med.21,1980,171−173に記載されている。一般に、68Geは、有機樹脂、或いは、二酸化スズ、二酸化アルミニウム又は二酸化チタンのような無機金属酸化物からなるカラムに充填されている。68Gaは、HCl水溶液によりカラムから溶出し、68GaClを生成する。68Ga3+は、その生産にサイクロトロンを必要とせず、その68分の半減期は、放射線が長く続かず、多くの生化学的過程をPET撮像によりin vivoで追跡するのに十分であるので、本発明による方法において特に好ましい。
【0018】
本発明の方法において使用するのに好ましいキレート剤は、生理学的に許容される形でGa3+放射性同位体を提供するものである。さらに好ましいキレート剤は、放射標識錯体を用いる診断調査に必要とされる時間の間は安定である錯体を、Ga3+放射性同位体と形成するものである。
【0019】
適切なキレート剤は、例えば、DTPA、EDTA、DTPA−BMA、DOA3、DOTA、HP−DOA3、TMT又はDPDPのようなポリアミノポリ酸キレート剤である。これらのキレート剤は、放射線医薬品及び放射線診断薬ではよく知られている。それらの使用と合成は、例えば、米国特許第4647447号、同第5362475号、同第5534241号、同第5358704号、同第5198208号、同第4963344号、欧州特許出願公開第230893号、同第130934号、同第606683号、同第438206号、同第434345号、国際公開第97/00087号、同第96/40274号、同第96/30377号、同第96/28420号、同第96/16678号、同第96/11023号、同第95/32741号、同第95/27705号、同第95/26754号、同第95/28967号、同第95/28392号、同第95/24225号、同第95/17920号、同第95/15319号、同第95/09848号、同第94/27644号、同第94/22368号、同第94/08624号、同第93/16375号、同第93/06868号、同第92/11232号、同第92/09884号、同第92/08707号、同第91/15467号、同第91/10669号、同第91/10645号、同第91/07191号、同第91/05762号、同第90/12050号、同第90/03804号、同第89/00052号、同第89/00557号、同第88/01178号、同第86/02841号及び同第86/02005号に記載されている。
【0020】
適切なキレート剤には、大環状キレート剤、例えば、ポルフィリン様分子、及び、Zhang et al.,Inorg.Chem.37(5),1998,956−963に記載されるペンタアザマクロ環状化合物、フタロシアニン、クラウンエーテル、例えば、セプルクレート(sepulchrate)、クリプテートなどのような窒素クラウンエーテル、ヘミン(プロトポルフィリンIX塩化物)、ヘム、並びに、平面正方対称をもつキレート剤が含まれる。
【0021】
本発明の方法においては、好ましくは、大環状キレート剤が用いられる。好ましい実施形態において、これらの大環状キレート剤は、ポリアザ及びポリオキソ大環状化合物におけるように、酸素及び/又は窒素のような少なくとも1個の硬い(hard)ドナー原子を含んでいる。好ましいポリアザ大環状キレート剤の例には、DOTA、TRITA、TETA及びHETAが含まれ、DOTAが特に好ましい。
【0022】
特に好ましい大環状キレート剤は、Ga3+への配位には必要不可欠ではないので、他の分子、例えばターゲティングベクターをそのキレート剤に結合するのに用い得る、カルボキシル基又はアミン基のような官能基を備えている。官能基を含むこのような大環状キレート剤の例は、DOTA、TRITA又はHETAである。
【0023】
さらに好ましい実施形態において、本発明による方法においては、二官能性キレート剤が用いられる。本発明における「二官能性キレート剤」は、ターゲティングベクターに結合しているキレート剤である。本発明による方法において有用な二官能性キレート剤に適するターゲティングベクターは、前記ターゲティングベクターを備える放射標識ガリウム錯体が患者の体に投与された時に、その患者の体の目標部位に結合する化学的又は生物学的部分である。本発明による方法において有用な二官能性キレート剤に適するターゲティングベクターは、タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、抗体又は抗体断片のようなポリペプチド、糖ポリペプチド、リポポリペプチド、RDG結合ペプチドのようなペプチド、糖ペプチド、リポペプチド、炭水化物、核酸、例えばDNA、RNA、アンチセンスオリゴヌクレオチドのようなオリゴヌクレオチド又はこれらの化合物の一部、断片、誘導体若しくは複合体、或いは、比較的小さな有機分子、特に2000Da未満の小さな有機分子のような関心を引く他の化合物である。
【0024】
特に好ましい実施形態において、本発明による方法においては、大環状二官能性キレート剤が用いられる。好ましい大環状二官能性キレート剤には、ターゲティングベクターに、好ましくは、タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、ポリペプチド、糖ポリペプチド、リポポリペプチド、ペプチド、糖ペプチド、リポペプチド、炭水化物、核酸、オリゴヌクレオチド又はこれらの化合物の一部、断片、誘導体若しくは複合体、及び小さな有機分子からなる群から選択されるターゲティングベクターに、特に好ましくは、ペプチド及びオリゴヌクレオチドからなる群から選択されるターゲティングベクターに結合したDOTA、TRITA又はHETAが含まれる。
【0025】
ターゲティングベクターをキレート剤に、リンカー基又はスペーサー分子を介して結合させることができる。リンカー基の例は、ジスルフィド、エステル又はアミドであり、スペーサー分子の例は、鎖状分子、例えば、リシン又はヘキシルアミン或いは短いペプチド系スペーサーである。好ましい実施形態において、放射標識ガリウム錯体のターゲティングベクターとキレート剤部分の間の結合は、ターゲティングベクターが体の中のその目標と、放射標識ガリウム錯体の存在により遮断されたり阻害されたりすることなく、相互作用し得るようなものである。
【0026】
本発明によるマイクロ波による活性化は、マイクロ波オーブンを用いることにより、好ましくは、単一モードのマイクロ波オーブンを用いることにより適切に実施される。適切には、マイクロ波による活性化は、80〜120W、好ましくは、90〜110W、特に好ましくは100Wで実施される。適切なマイクロ波による活性化時間は、20秒〜2分、好ましくは、30秒〜90秒、特に好ましくは、45秒〜60秒の範囲である。
【0027】
反応の温度制御は、例えば、ペプチド又はタンパク質をターゲティングベクターとして含む二官能性キレート剤のような高温に弱いキレート剤が本発明による方法において用いられる場合に、望ましい。マイクロ波による活性化の継続時間は、反応混合物の温度のために、キレート剤及び/又はターゲティングベクターが分解することのないように、調節すべきである。本発明による方法において使用されるキレート剤が、ペプチド又はタンパク質を含んでいる場合、短時間、高温にする方が、より長時間、より低温にするより、一般に好ましい。
【0028】
反応が進行する間、マイクロ波による活性化を、連続的に、或いは、マイクロ波による活性化を何回か、実施してもよい。
【0029】
好ましい実施形態において、本発明は、マイクロ波による活性化を利用して反応を実施することを特徴とする、68Ga3+と硬いドナー原子を含む大環状二官能性キレート剤との反応による68Ga放射標識PET撮像トレーサーの製造方法を提供する。
【0030】
前段に記載された方法の特に好ましい実施形態において、マイクロ波による活性化は、90〜110Wで、30秒〜90秒間実施される。
【0031】
本発明による方法において、68Ga3+が用いられる場合、68Ga3+は、好ましくは、68Ge/68Gaジェネレーターからの溶出液と陰イオン交換体とを接触させ、前記陰イオン交換体から68Ga3+を溶出させることにより、得られる。好ましい実施形態において、陰イオン交換体は、HCOを対イオンとして含む陰イオン交換体である。
【0032】
68Ge/68Gaジェネレーターから得られる68Ga溶出液の処理に陰イオン交換体を使用することは、J.Schuhmacher et al.Int.J.appl.Radiat.Isotopes 32,1981,31−36に記載されている。溶出液に存在する68Geの量を減らすように、Bio−Rad AG 1x8陰イオン交換体を、68Ge/68Gaジェネレーターから得られる4.5N HCl68Ga溶出液の処理に使用された。
【0033】
今回、対イオンとしてHCOを含む陰イオン交換体の使用が、ジェネレーターの溶出液の精製及び濃縮に特に適していることが判明した。溶出液に存在する68Geの量だけでなく、ジェネレーターから68Ga3+と一緒に溶出するいわゆる擬似担体(すなわち、Fe3+、Al3+、Cu2+、Zn2+及びIn3+のような他の金属陽イオン)の量も減らせることができるであろう。これらの擬似担体は、次の錯形成反応において68Ga3+と競合するので、これらの陽イオンの量を放射標識反応に先立ってできるだけ多く除いておくことは特に好ましい。陰イオン交換による精製段階のさらなる利点は、68Ga3+の濃度(溶出後にはピコモル〜ナノモルの範囲にある)をナノモル〜マイクロモルのレベルまで上げられることである。従って、次の錯形成反応におけるキレート剤の量を減らすことが可能であり、このことにより比放射能がかなり上がる。比放射能が増加すると、患者に使用される時に、このようなトレーサーの量を減らすことができるので、この結果は、二官能性キレート剤(すなわち、ターゲティングベクターと結合したキレート剤)を含む68Ga放射標識PETトレーサーの製造にとって重要である。
【0034】
従って、本発明による方法の別の好ましい実施形態は、マイクロ波による活性化を用いて、68Ga3+(この68Ga3+は、68Ge/68Gaジェネレーターからの溶出液と、陰イオン交換体、好ましくはHCOを対イオンとして含む陰イオン交換体とを接触させ、前記陰イオン交換体からの68Ga3+の溶出で得られる)をキレート剤と反応させることによる68Ga放射標識錯体の製造方法である。
【0035】
68Ge/68Gaジェネレーターは、当該技術分野で公知であり、例えば、C.Loc’h et al,J.Nucl.Med.21,1980,171−173、又は、J.Schuhmacher et al.Int.J.appl.Radiat.Isotopes 32,1981,31−36を参照。68Geを、例えばGa(SOを20MeVの陽子で照射することにより、シクロトロンによる生産により得ることができる。それはまた、例えば、68Geの0.5M HCl溶液として市販されてもいる。一般に、68Geは有機樹脂、或いは、二酸化スズ、二酸化アルミニウム又は二酸化チタンのような無機金属酸化物からなるカラムに充填されている。68Gaは、HCl水溶液により68GaClを生成しカラムから溶出する。
【0036】
68Ge/68Gaジェネレーターに適するカラムは、二酸化アルミニウム、二酸化チタン又は二酸化スズのような無機酸化物、或いは、フェノール性水酸基(米国特許第4264468号)又はピロガロール(J.Schuhmacher et al.Int.J.appl.Radiat.Isotopes 32,1981,31−36)を含む樹脂のような有機樹脂からなる。好ましい実施形態において、二酸化チタンを含むカラムを備える68Ge/68Gaジェネレーターが、本発明による方法において使用される。
【0037】
68Ge/68Gaジェネレーターカラムから68Gaを溶出させるのに用いられるHCl水溶液の濃度は、カラムの材料に応じて決まる。適切には、68Gaの溶出には、0.05〜5M HClが使用される。好ましい実施形態において、溶出液は、二酸化チタンを含むカラムを備える68Ge/68Gaジェネレーターから得られ、68Gaは、0.05〜0.1M HCl、好ましくは約0.1M HClを用いて溶出する。
【0038】
本発明による方法の好ましい実施形態において、HCOを対イオンとして含む強陰イオン交換体、好ましくは、HCOを対イオンとして含む強陰イオン交換体が用いられる。さらに好ましい実施形態において、この陰イオン交換体は、第四級アミン官能基を備える。別の好ましい実施形態において、この陰イオン交換体は、ポリスチレン−ジビニルベンゼン系の強陰イオン交換樹脂である。特に好ましい実施形態において、本発明による方法において用いられる陰イオン交換体は、対イオンとしてのHCO、第四級アミン官能基を備える強陰イオン交換樹脂であり、この樹脂はポリスチレン−ジビニルベンゼン系である。
【0039】
適切には、本発明による方法において、陰イオン交換体から68Gaを溶出させるために水が用いられる。
【実施例】
【0040】
実施例1
通常の加熱とマイクロ波により活性化を用いる、DOTA−D−Phe−Tyr−オクトレオチド(DOTA−TOC)の68Ga放射標識化の比較
1a)通常の加熱を用いる、DOTA−TOCの68Ga放射標識化
酢酸ナトリウムを、68Ge/68Gaジェネレーターからの溶出液に加えて(1mLに対して36mg)、溶出液のpHを約5.5に調節し、混合物を十分に攪拌した。DOTA−TOC(20nmol)を加えて、反応混合物を96℃で25分間加熱した。反応混合物を室温まで冷却し、C−18 SPE−カラム(HyperSEP S C18)に供し、次に、カラムを2mLのHOで洗い、生成物をエタノール:水(50:50)(1mL)で溶出させた。
【0041】
反応混合物及び生成物を、Vydac RPと、Fast Desalting HR 10/10 FPLCゲル濾過カラムを用いたHPCLで分析した。
【0042】
分析に基づく放射化学収率(RCY)は67%であった。
【0043】
単離後のRCYは34%であった。
【0044】
エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI−MS)を、Fisons Platform(Micromass,Manchester,UK)で、ポジティブモードスキャンを用い、[M+2H]2+を検出して実施した。DOTATOCは、m/z=711.26に検出され、真のGa−DOTATOCは、m/z=746.0(m/zの計算値=746.5)に検出された。
【0045】
1b)マイクロ波による活性化を用いる、DOTA−TOCの68Ga放射標識化
反応混合物を1a)に記載された通りに調製し、パイレックスガラスバイアル(パイレックスは登録商標)に移し、100Wで1分間、マイクロ波により活性化した。反応混合物を室温まで冷却し、C−18 SPEカラム(HyperSPE S C18)に供し、次に、カラムを2mLのHOで洗い、生成物をエタノール:水(50:50)(1mL)で溶出させた。
【0046】
反応混合物及び生成物を、Vydac RPと、Fast Desalting HR 10/10 FPLCゲル濾過カラムを用いたHPCLで分析した。
【0047】
分析に基づく放射化学収率(RCY)は98%を超えていた。
【0048】
単離後のRCYは70%であった。
【0049】
エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI−MS)を、Fisons Platform(Micromass,Manchester,UK)で、ポジティブモードスキャンを用い、[M+2H]2+を検出して実施した。DOTATOCは、m/z=711.26に検出され、真のGa−DOTATOCは、m/z=746.0(m/zの計算値=746.5)に検出された。
【0050】
1c)比較結果
マイクロ波による活性化の場合に、放射性物質の量と生成物の比放射能は21%増加した。単離後の放射化学収率は、通常の加熱により得られる結果に比べて2倍に増加した。マイクロ波による活性化の場合に、反応混合物の放射化学収率は98%を超えていたので、さらなる精製は必要なく、粗反応混合物をin vivoの用途に使用することができるであろう。
【0051】
実施例2
オリゴヌクレオチドに結合したDOTAの68Ga放射標識化
第1段階において、活性化されたヒトK−ras癌遺伝子に特異的な4つの異なるアンチセンスオリゴヌクレオチドをDOTAに結合させた:
・ 5’末端にヘキシルアミノリンカーをもつ17−merホスホジエステルオリゴヌクレオチド;
・ 3’末端にヘキシルアミノリンカーをもつ17−merホスホジエステルオリゴヌクレオチド;
・ 5’末端にヘキシルアミノリンカーをもつ17−merホスホロチオエートオリゴヌクレオチド;及び
・ 5’末端にヘキシルアミノリンカーをもつ2’−O−メチルホスホジエステル。
【0052】
2a)オリゴヌクレオチドへのDOTAの結合
O(250μl)中のDOTA(32mg、66μmol)及びSulfo−NHS(14mg、65μmol)を、HO(250μl)中のEDC(13mg、68μmol)に加え、氷の上で30分間攪拌し、次に、室温まで温めて、DOTA−sulfo−NHSを得た。100倍量のDOTA−NHS溶液を、1M炭酸緩衝液(pH 9)中のオリゴヌクレオチド(70〜450nmol)に滴下し、次に、氷の上で冷却した。混合物を室温で10時間放置した。最初に、反応混合物を、NAP 5カラムを用いるゲル濾過により精製し、HOで溶出させ、100μLの1M TEAA(酢酸トリエチルアンモニウム緩衝液)を1mLの生成物溶出液に加えた。次に、生成物溶出液を、C−18 SPEカラム(Supelco)に供し、カラムを50mM TEAA(5mL)、5%のアセトニトリルを含む50mM TEAA(3mL)で洗い、DOTA−オリゴヌクレオチドを、水:アセトニトリル(50:50)(1mL)で溶出させた。減圧遠心機を用いて水−アセトニトリルの画分を乾燥した。生成物を、エレクトロスプレーイオン化質量分析を用いて分析した。直接注入の後のネガティブモードでの分析により、次のデータが得られた:1.DOTA−ホスホジエステル:MS(ESI)m/z:662.27[M−8H]8−;756.36[M−7H]7−;882.91[M−6H]6−。データの再構成により、M=5303.71が得られた;2.DOTA−ホスホロチオエート:MS(ESI)m/z:656.58[M−8H]9−;738.56[M−7H]8−。データの再構成により、M=5917.35が得られた;3.DOTA−2’−O−メチルホスホジエステル:MS(ESI)m/z:674.02[M−6H]9−;770.19[M−8H]8−;885.00[M−7H]7−。データの再構成により、M=6148.84が得られた。
【0053】
2b)68Ga放射標識化
酢酸ナトリウムを68Ge/68Gaジェネレーターからの溶出液に加えて(1mlに対して36mg)、溶出液のpHを約5.5に調節し、混合物を十分に攪拌した。DOTA−オリゴヌクレオチド(10〜100nmol)を加えて、混合物をパイレックスガラスバイアル(パイレックスは登録商標)に移して100Wで1分間、マイクロ波により活性化した。反応混合物を室温まで冷却し、次に、150mM TEAA(HO中、1mL)を加えた。混合物をC−18 SPEカラム(Supelco)に供し、次に、カラムを50mM TEAA(1mL)、5%のアセトニトリルを含む50mM TEAA(1mL)で洗った。生成物を、エタノール:水(50:50)(1mL)、或いは、水:アセトニトリル(50:50)(1mL)で溶出させた。反応混合物を、Vydac RPと、Fast Desalting HR 10/10 FPLCゲル濾過カラムを用いたHPCLで分析した。分析に基づくRCYは50%〜70%の範囲であり、単離後のRCYは30〜52%の範囲であった。より多量のより強い溶出液により、単離後のRCYが増加した。
【0054】
実施例3
ペプチドに結合したDOTAの68Ga放射標識化
第1段階において、4つの異なるペプチドをDOTAに結合させた:
・ バソアクティブインテスティナルペプチド(VIP);28アミノ酸残基;
・ 神経ペプチドY断片18〜36(NPY);19アミノ酸残基;
・ パンクレアスタチン断片37〜52(P);16アミノ酸残基;及び
・ アンジオテンシンII(A);8アミノ酸残基。
【0055】
3a)ペプチドへのDOTAの結合
オリゴヌクレオチドの代わりにペプチド(0.5〜3μmol)を用いて、2a)において記載されたようにして結合させた。
【0056】
反応混合物及び生成物を、Vydac RPと、Fast Desalting HR 10/10 FPLCゲル濾過カラムを用いたHPCLで分析した。エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI−MS)を、Fisons Platform(Micromass,Manchester,UK)で、ポジティブモードスキャンを用い、[M+2H]2+、[M+4H]4+及び[M+5H]5+を検出して、実施した。VIPを、m/z=832.07[M+4H]4+に検出した。(DOTA)−VIPを、m/z=1025.00[M+4H]4+に検出した。(DOTA)−VIPを、m/z=1122.0[M+4H]4+に検出した。(DOTA)−VIPを、m/z=1218.00[M+4H]4+に検出した。NPYをm/z=819.31[M+3H]3+に検出した。DOTA−NPYを、m/z=948.18[M+3H]3+に検出した。Pを、m/z=909.55[M+2H]2+に検出した。DOTA−Pを、m/z=1103.02[M+2H]2+に検出した。Aを、m/z=524.1[M+2H]2+に検出し、DOTA−Aを、m/z=717.20[M+2H]2+に検出した。
【0057】
3b)68Ga放射標識化
68Ga放射標識を、DOTAペプチド10〜20nmolを用いて2b)に記載のように行った。
【0058】
反応混合物を、Vydac RPと、Fast Desalting HR 10/10 FPLCゲル濾過カラムを用いたHPCLで分析した。分析に基づくRCYは80%〜90%の範囲であり、単離後のRCYは60〜70%の範囲であった。より多量のより強い溶出液により、単離後のRCYが増加した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ga3+放射性同位体とキレート剤との反応による放射標識ガリウム錯体の製造方法であって、マイクロ波による活性化を用いて反応を実施することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記Ga3+放射性同位体が66Ga3+67Ga3+及び68Ga3+からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記Ga3+放射性同位体が68Ga3+である、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記キレート剤が大環状キレート剤である、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記キレート剤が硬いドナー原子、好ましくはO及びN原子を含む、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記キレート剤が二官能性キレート剤である、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記キレート剤が、タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、ポリペプチド、糖ポリペプチド、リポポリペプチド、ペプチド、糖ペプチド、リポペプチド、炭水化物、核酸、オリゴヌクレオチド又はこれらの化合物の一部、断片、誘導体若しくは複合体、及び小さな有機分子からなる群から選択されるターゲティングベクターを含む二官能性キレート剤である、請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記ターゲットベクターがペプチド又はオリゴヌクレオチドである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記のマイクロ波による活性化が80〜120W、好ましくは90〜110Wで実施される、請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記のマイクロ波による活性化が20秒〜2分間、好ましくは30秒〜90秒間実施される、請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記68Ga3+68Ge/68Gaジェネレーターからの溶出液と陰イオン交換体とを接触させ、陰イオン交換体から68Ga3+を溶出させることによって得られる、請求項3乃至請求項10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記の68Ge/68Gaジェネレーターが二酸化チタンを含むカラムを備える、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記陰イオン交換体が対イオンとしてHCOを含む、請求項11又は請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記陰イオン交換体が強陰イオン交換体である、請求項11乃至請求項13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
68Ga放射標識PETトレーサーの製造のための請求項6乃至請求項14のいずれか1項記載の方法。

【公表番号】特表2006−522783(P2006−522783A)
【公表日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−506106(P2006−506106)
【出願日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【国際出願番号】PCT/GB2004/001550
【国際公開番号】WO2004/089425
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(305040710)ジーイー・ヘルスケア・リミテッド (99)
【Fターム(参考)】