説明

放射温度計センサ素子の均熱構造

【課題】センサヘッドの外部からの熱外乱によるセンサ素子の熱バランスのくずれで生ずる誤差を抑えるための放射温度計センサ素子均熱構造を提供する。
【解決手段】センサヘッド筺体0101と、センサヘッド筺体内に収められ、赤外線放射エネルギーを検出するセンサ素子0102と、赤外線放射エネルギーを透過する赤外線レンズ0103と、赤外線レンズを透過した赤外線放射エネルギーをセンサ素子へ導く鏡筒0104と、前記センサ素子の赤外線放射エネルギー検出領域周辺以外を覆い、熱伝導性の高い材料で構成されたセンサ治具0105と、センサ素子が検出した信号を変換器へ出力するための出力ケーブル0106と、からなる放射温度計センサ素子の均熱構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線放射エネルギーを検出するセンサ素子を有するセンサヘッドと、検出した信号を温度値へ変換するための変換器が別体で構成され、その間をケーブルによって接続されている放射温度計であって、センサヘッドの周囲温度による影響を抑えた放射温度計に関する。
【背景技術】
【0002】
放射温度計は、放射温度計が設置された雰囲気において、センサヘッドの外部からの熱外乱が起こると、センサ素子の熱バランスがくずれ、例えばサーモパイルのような放射温度計の場合、変換器へ出力される信号に誤差を生ずる。このようなセンサヘッド外部からの熱の影響は、大きな誤差となる。
【0003】
このため、従来の放射温度計では、特許文献1に示すように、センサ素子に空気断熱層を設けた輻射熱温度センサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−109546
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に示した輻射熱温度センサでは、空気断熱層が設けられた個所が一部に限られるため、ケースとの接続部分など断熱が十分とはいえず、外部からの熱の影響で素子に温度分布が生じる恐れがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本件発明では、上記問題を鑑み、以下の放射温度計を提供する。すなわち第一の発明としては、センサヘッド筺体と、センサヘッド筺体内に収められ、赤外線放射エネルギーを検出するセンサ素子と、赤外線放射エネルギーを透過する赤外線レンズと、赤外線レンズを透過した赤外線放射エネルギーをセンサ素子へ導く鏡筒と、前記センサ素子の赤外線放射エネルギー検出領域周辺以外を覆い、熱伝導性の高い材料で構成されたセンサ治具と、センサ素子が検出した信号を変換器へ出力するための出力ケーブルと、からなる放射温度計センサ素子の均熱構造を提供する。
【0007】
第二の発明としては、前記鏡筒が、熱伝導性の高い材料で構成されている第一の発明に記載の放射温度計センサ素子の均熱構造を提供する。
【0008】
第三の発明としては、前記出力ケーブルが、内部に直径0.08ミリメートル以下の導電体を複数本組み合わせることで構成される第一の発明または第二の発明に記載の放射温度計センサ素子の均熱構造を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本件発明の放射温度計センサ素子の均熱構造のように、センサ素子を熱伝導性の高い材料で覆うことで、センサ素子の温度を均一に保ち、指示誤差を小さくすることが可能となる。また、さらに、鏡筒も熱伝導性の高い材料で構成することで指示誤差を抑制することが可能となる。
また、本件発明の放射温度計センサ素子の均熱構造のように、出力ケーブルの導電体の太さを細くすることで、センサ素子への熱の出入りを抑制し、指示誤差を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態1の放射温度計センサ素子の均熱構造を説明するための断面透視概念図
【図2】従来例を説明するための断面透視概念図
【図3】実施形態1の放射温度計センサ素子の均熱構造を用いた場合の指示誤差の変化に関するグラフ
【図4】実施形態2の放射温度計センサ素子の均熱構造を説明するための断面透視概念図
【図5】実施形態2の放射温度計センサ素子の均熱構造を用いた場合の指示誤差の変化に関するグラフ
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本件発明の実施の形態について、添付図面を用いて説明する。なお、本件発明は、これら実施形態に何ら限定されるべきものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得る。
【0012】
実施形態1は主に請求項1、請求項2などに関する。実施形態2は主に請求項3などに関する。
<<実施形態1>>
<実施形態1 概要>
【0013】
本実施形態は、赤外線放射エネルギーを検出するセンサ素子を有するセンサヘッドと、検出した信号を温度値へ変換するための変換器が別体で構成された放射温度計において、センサ素子を均一な温度に保つことを目的として、センサ素子の赤外線放射エネルギー検出面以外を熱伝導性の高い材料で覆ったことを特徴とする放射温度計センサ素子の均熱構造である。
<実施形態1 構成>
【0014】
図1に本実施形態の放射温度計センサ素子の均熱構造を説明するための断面透視概念図を示した。本実施形態の放射温度計センサ素子の均熱構造は、センサヘッド筺体(0101)と、センサヘッド筺体内に収められ、赤外線放射エネルギーを検出するセンサ素子(0102)と、赤外線放射エネルギーを透過する赤外線レンズ(0103)と、赤外線レンズを透過した赤外線放射エネルギーをセンサ素子へ導く鏡筒(0104)と、前記センサ素子の赤外線放射エネルギー検出領域周辺以外を覆い、熱伝導性の高い材料で構成されたセンサ治具(0105)と、センサ素子が検出した信号を変換器へ出力するための出力ケーブル(0106)と、からなる。
【0015】
「センサヘッド筺体」は、内部に後述する赤外線放射エネルギーを検出するセンサ素子を有している。先にも述べたように、本件発明の放射温度計は、赤外線放射エネルギーを検出するセンサ素子が内蔵されたセンサヘッドと、センサ素子が検出した赤外線放射エネルギーを温度値に変換する変換器とは、別体で構成され、その間を後述する出力ケーブルにて接続されている。このセンサヘッド筺体は、センサ素子の他に、赤外線レンズ、センサ治具といった光学系や、センサ素子を保持するセンサ治具等が収められている。
【0016】
「センサ素子」は、測定対象から放射される赤外線放射エネルギーを検出する。具体的には、マイクロボロメータ、サーモパイル、焦電形温度センサや、光起電力形温度センサ、光電導形温度センサなどのセンサである。本実施形態の放射温度計に用いられる赤外線センサの種類は、使用用途等に応じて、適宜選択することが可能である。このセンサ素子は、先にも述べたように、センサ素子の温度が不均一で温度分布が生じると、検出した赤外線放射エネルギーに基づく出力に誤差が生じ、正確な温度を測定することが出来なくなってしまう。
【0017】
「赤外線レンズ」は、測定対象からの放射される赤外線放射エネルギーを透過し、センサ素子へ集光させるレンズである。赤外線レンズは、測定対象から放射される赤外線放射エネルギーを透過する材料である必要がある。また、赤外線レンズが透過する赤外線放射エネルギーの波長は、前述のセンサ素子が検出できる波長領域でなければならない。具体例としては、可視光波長領域では、フリントガラスや石英、近赤外波長領域では、フッ化カルシウム、赤外波長領域では、シリコンやゲルマニウム、セレン化亜鉛などで赤外線レンズを構成する。
【0018】
「鏡筒」は、赤外線レンズが集光した赤外線放射エネルギーを、センサ素子に導く。また、赤外線レンズを複数有する放射温度計の場合には、この鏡筒内に複数のレンズを収め保持する。固定焦点ではなく可動焦点の場合には、レンズ位置を移動し、焦点位置を調節可能なように構成する。また必要に応じて鏡筒内に、センサ素子へ導かれる赤外線放射エネルギーの量をコントロールするための絞りを設けてもよい。
【0019】
また、鏡筒は後述するセンサ治具と同様に、熱伝導性の高い材料で構成してもよい。鏡筒を熱伝導性の高い材料で構成することで、センサ素子周囲が均一な温度に保たれ、温度分布が生じにくい状態となる。またセンサ素子の視野内に鏡筒が入る場合も、鏡筒の温度がセンサ温度と同じとなるため、鏡筒内に絞りなどを設置する必要もなくなる。
【0020】
「センサ治具」は、センサ素子をセンサヘッド筺体内に保持し、センサ素子の温度が均一になるよう熱伝導性の高い材料から構成されている。
【0021】
図2に従来の放射温度計のセンサヘッド筺体内の断面透視概念図を示した。図2に示した従来の放射温度計のセンサヘッドは、センサヘッド筺体(0201)と、センサ素子(0202)と、赤外線レンズ(0203)と、鏡筒(0204)と、出力ケーブル(0206)とから構成されているが、センサ治具がセンサ素子を覆った構造ではない。一方、図1に示した本実施形態の放射温度計のセンサヘッド筺体内の断面透視概念図では、センサ素子の赤外線放射エネルギー検出面以外をセンサ治具で覆っている。このセンサ治具は、熱伝導性の高い材料で構成されているため、仮にセンサヘッド筺体外部に温度変化が生じたり、一方向から熱が加えられた状態となったりしたときに、外部からの熱によりセンサ治具は熱せられる。このとき、治具は熱伝導性の高い材料で構成されているため、速やかに治具の温度は均一となる。治具が均一な温度となれば、治具に大半を覆われているセンサ素子も均一な温度状態に保持され、測定温度に誤差が生じにくくなる。
【0022】
図3に図2に示した従来の放射温度計のセンサヘッドを用いた場合と本実施形態の放射温度計のセンサヘッドを用いた場合の周囲温度変化による温度値の変化に関するグラフを示した。図3の(1)は、図2に示した従来の放射温度計のセンサヘッドを用いた場合で、(2)は、本実施形態の構造を用いた放射温度計のセンサヘッドである。30℃を基準とし、温度を上昇させ温度を変化させたとき、従来の放射温度計のセンサヘッドに比べて、指示誤差の大きさは小さくなっていることが分かる。30℃から45℃上昇させた75℃では、指示誤差の大きさが半分以下に低減しており、センサ治具を熱伝導性の高い材料で構成したときの効果が表れている。
【0023】
センサ治具を構成する材料としては、例えばアルミニウムや銅、金、銀など熱伝導性の高い材料である。この他にも、熱伝導性の高い材料であればセンサ治具に使用することが可能である。これらの材料の選定については、放射温度計の使用用途等を考慮して決定すればよい。尚、図3に示したグラフはセンサ治具をアルミニウムで構成した場合を示している。
【0024】
「出力ケーブル」は、センサ素子が検出した信号を変換器へ出力する。出力ケーブルは、特に限定せず一般的な出力ケーブルを使用することが可能である。長さ等についても、使用用途に応じて適宜選択すればよい。
<実施形態1 効果>
本実施形態の放射温度計センサ素子の均熱構造のように、センサ素子を熱伝導性の高い材料で覆うことで、センサ素子の温度を均一に保ち、指示誤差を小さくすることが可能となる。また、さらに、鏡筒も熱伝導性の高い材料で構成することで指示誤差を抑制することが可能となる。
<<実施形態2>>
<実施形態2 概要>
【0025】
本実施形態の放射温度計センサ素子の均熱構造は、実施形態1に述べた出力ケーブルを、従来から用いられている一般的な出力ケーブルに比べ、出力ケーブル内部の導電体を細くし、出力ケーブルからセンサ素子への熱の出入りを低減させたことを特徴とする放射温度計センサ素子の均熱構造である。
<実施形態2 構成>
【0026】
図4に本実施形態の放射温度計センサ素子の均熱構造を説明するための断面透視概念図を示した。本実施形態の放射温度計センサ素子の均熱構造は、実施形態1に述べたセンサヘッド筺体(0401)と、センサ素子(0402)と、赤外線レンズ(0403)と、鏡筒(0404)と、センサ治具(0405)と、出力ケーブル(0406)とからなる、本実施形態の放射温度計センサ素子の均熱構造において、出力ケーブルが、内部に直径0.08ミリメートル以下の導体を複数本合わせることで構成される導電体を有する。
【0027】
一般的に、センサヘッドと変換器が分離された放射温度計において、センサヘッドと変換器を接続する出力ケーブルは、複数の1本の太さが略0.12ミリメートル程度の導体を7本程度撚り、これを複数本組み合わせて導電体を構成して、さらにこの導電体を複数(一般的には4本程度)組み合わせることで、出力ケーブルが構成される。この導電体の太さは略0.36ミリメートル程度となる。センサヘッドのセンサ素子からの信号は電気信号として変換器へ送られる。従って、出力ケーブルは電気伝導性のよい導体によって構成される必要がある。電気伝導性の良い導体は、一般的に熱伝導性の良い材料であるため、出力ケーブルの導体を介して、センサヘッド内、すなわちセンサ素子への熱の出入りが行われる可能性がある。
【0028】
この影響を少なくするため、本実施形態の放射温度計センサ素子の均熱構造では、出力ケーブル内の導体を、略0.08ミリメートル以下とし、この導体を7本撚ることで、出力ケーブルを構成している。このように、導体の太さを細くし、導電体を構成することで、導電体の太さは略0.15ミリメートル程度と細くなり、センサ素子との熱の出入りを小さくすることが可能となる。
【0029】
図5に本実施形態の放射温度計センサ素子の均熱構造を用いた場合の、周囲温度変化による温度値の変化に関するグラフを示した。測定条件その他については、図3に示したものと同様である。また図中(1)は図2に示した従来の放射温度計のセンサヘッドを用いた場合で、(2)は図1に示した実施形態1の放射温度計のセンサヘッドを用いた場合、(3)は図4に示した本実施形態の放射温度計のセンサヘッドを用いた場合の例である。図5をみて明らかなように、出力ケーブルの導電体を補足することで。センサヘッド周囲の温度変化による指示変動を小さく抑えることが可能となる。
<実施形態2 効果>
本実施形態の放射温度計センサ素子の均熱構造のように、出力ケーブルの導電体の太さを細くすることで、センサ素子への熱の出入りを抑制し、指示誤差を抑えることが可能となる。
【符号の説明】
【0030】
0101 0201 0401 センサヘッド筺体
0102 0202 0402 センサ素子
0103 0203 0403 赤外線レンズ
0104 0204 0404 鏡筒
0105 0205 0405 センサ治具
0106 0206 0406 出力ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサヘッド筺体と、
センサヘッド筺体内に収められ、赤外線放射エネルギーを検出するセンサ素子と、
赤外線放射エネルギーを透過する赤外線レンズと、
赤外線レンズを透過した赤外線放射エネルギーをセンサ素子へ導く鏡筒と、
前記センサ素子の赤外線放射エネルギー検出領域周辺以外を覆い、熱伝導性の高い材料で構成されたセンサ治具と、
センサ素子が検出した信号を変換器へ出力するための出力ケーブルと、
からなる放射温度計センサ素子の均熱構造。
【請求項2】
前記鏡筒は、熱伝導性の高い材料で構成されている請求項1に記載の放射温度計センサ素子の均熱構造。
【請求項3】
前記出力ケーブルは、内部に直径略0.08ミリメートル以下の導電体を複数本組み合わせることで構成される請求項1または2に記載の放射温度計センサ素子の均熱構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−177556(P2012−177556A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39242(P2011−39242)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000133526)株式会社チノー (113)
【Fターム(参考)】