説明

放射温度計

【課題】
ズーミング操作により測定領域を拡縮したときに、測定対象物までの距離に拘らず、常に、マーカー光を測定領域の外縁に一致させて投影し、そのマーカー光を外縁とする測定領域の温度を測定できるようにする。
【解決手段】
測定対象物から放射される赤外線を集光する光学系(2)と、当該光学系で集光される赤外線をセンシングしてそのエネルギー強度に応じた電気信号を出力する赤外線センサ(3)と、前記光学系(2)を介して測定対象物の表面に測定領域(An)の幅ないし大きさを示すマーカー光(Mn)を投影するマーカー用光源(5)とを具備し、前記光学系(2)に、測定対象物に向かって拡がる赤外線センサ(3)のセンシング視野角(δn)の角度とマーカー光の拡がり角度とを互いに一致させて、双方の角度を同時に同程度可変させるズームレンズ機構(6)を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物から放射される赤外線を集光し、そのエネルギー強度に基づいて温度を検出すると同時に、測定対象物の表面に測定領域を示すマーカー光を投影する放射温度計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
市販の放射温度計は、その温度計から測定対象物までの距離(測定距離)Dに対する測定領域の直径(測定領域径、標的径)Sの比(DS比)で表す距離係数(FOV)が、例えば10:1、20:1、80:1等の如く一定に設定されている。
したがって、測定領域は、測定距離が遠くなればなるほど大きくなり、測定領域が大きくなると、より平均的な表面温度が得られるが、その表面状態(例えば、スケールがあるとか、水が付着しているなど)や、温度視路中に存在する水蒸気,ダスト、煙などの影響も受けやすくなって、正しい温度測定が困難となる。
【0003】
また、測定領域が大きくなると、その測定領域が測定対象物以外の物にまで及んで正しい温度測定ができないおそれもあるから、放射温度計による温度の測定は、極力測定対象物に接近して行うのが基本とされているが、測定対象物あるいはその周辺から発せられる高熱の影響を受けるなどして測定対象物に接近することができない場合もあり、このような場合は、DS比が大きいタイプの放射温度計を採択使用するのが好ましいとされている。
【0004】
しかし、測定対象物の大きさや、測定対象物までの距離は、状況に応じて様々に異なるから、DS比が一定に設定された市販の放射温度計は、状況の変化に対応して正確な温度測定を行うことができないという問題があった。
このような問題に鑑み、放射温度計の測定光学系に、熱放射エネルギーが放射される測定対象物上の測定領域の大きさ(DS比)を変更することができるズーミング機構を設けると共に、そのズーミング機構による測定領域の大きさの変化に応じて、測定領域を示すリング状のマーカー光(リング状のレーザマーカー)の大きさを変更する手段を設ける発明が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
図5はこのような従来の放射温度計51を示すもので、測定対象物から放射される赤外線を集光する測定光学系52と、その測定光学系52で集光される赤外線をセンシングしてそのエネルギー強度に応じた電気信号を出力する赤外線センサ53と、測定対象物の表面に測定領域Anに応じた環状のマーカー光Mnを投影するマーカー光投影装置54とを備えている。
測定光学系52は、凹面反射鏡55及び集光レンズ56の位置を調整するズームレンズ機構を備え、望遠側(実線図示)から広角側(破線図示)まで視野角を調整できるようになっており、望遠側では視野角がマイナスとなり、広角側では視野角がプラスと成るようにレンズ設計されている。
【0006】
マーカー光投影装置54は、マーカー用光源57となるレーザダイオードを備え、その光源から測定対象物に照射される投影光軸Zpが、光学系52の測定対象物側で赤外線の測定光軸Zmに同軸合成されて成り、当該投影光軸Zpに沿ってマーカー用光源57から照射されたレーザ光を回転走査させることによりその軌跡を円錐面状に拡げる回転プリズム58を備えている。
【0007】
回転プリズム58は、回転角に応じて厚さが周期的に変化し、回転中心から離れるほど厚くなる円板状に形成されており、回転中心から投影光軸Zpまでの距離を調整することによりレーザ光の拡がり角を調整することができるようになっている。
そして、回転プリズム58の回転に伴う厚さ変化及び屈折面の方向変化を利用して、その回転中心から投影光軸Zpまでの距離に応じた所定の拡がり角でレーザ光が回転走査され、測定対象物の表面にリング状パターンのマーカー光が投影されるようになっている。
したがって、この回転プリズム58の回転中心から投影光軸Zpまでの位置を、測定光学系52のズームレンズ機構に連動させてコントロールすればリング状パターンのマーカー光の直径を自動的に拡大縮小させることができる。
【0008】
図6はこの放射温度計51の測定領域Anとマーカー光Mnの関係を示す図であり、近距離Dと、予め設定された中間距離Dと、遠距離Dの夫々の場合に、望遠側と広角側の双方で測定領域Anとマーカー光Mnの重なり具合を調べた
これによれば、中間距離Dでは、望遠側及び広角側のマーカー光M及びMは、それぞれの測定領域A及びAの外縁に正確に重なるので、ズーミング操作したときにマーカー光Mnと測定領域Anがずれることがない。
【0009】
しかしながら、通常の場合、測定対象物からの距離を一定に保って測定することは不可能であり、近距離Dでは、望遠側及び広角側とも測定領域A及びAが、それぞれのマーカー光M及びMの外側にはみ出し、また、遠距離Dでは、望遠側及び広角側ともマーカー光M及びMは、それぞれの測定領域A及びAの外側に外れてしまう。
したがって、ズーミング操作を伴う従来の放射温度計51においては、マーカー光Mnを照射しても測定領域Mnのおよその位置がわかるだけで、測定領域Anの幅ないし大きさを知ることができず、測定光学系52のズーミング操作したときに、マーカー光Mnを測定領域Anに一致させて拡大縮小させることができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−145483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで本発明は、ズーミング操作により測定領域を拡大縮小したときに、測定対象物までの距離に拘らず、常に、マーカー光を測定領域の幅ないし大きさに一致させたまま拡大縮小させることができ、そのマーカー光で示される測定領域の温度を測定できるようにすることを技術的課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題を達成するために、請求項1の発明によれば、測定対象物から放射される赤外線を集光する光学系と、当該光学系で集光される赤外線をセンシングしてそのエネルギー強度に応じた電気信号を出力する赤外線センサと、前記光学系を介して測定対象物の表面に測定領域の幅ないし大きさを示すマーカー光を投影するマーカー用光源とを具備した放射温度計において、前記光学系に、測定対象物に向かって拡がる前記赤外線センサのセンシング視野角の角度と前記マーカー光の拡がり角度とを互いに略一致させて、双方の角度を同時に同程度可変させるズームレンズ機構が設けられていることを特徴としている。
【0013】
請求項2によれば、そのズームレンズ機構は、センシング視野角を可変調整する視野角調整レンズ系と、当該視野角調整レンズ系で集光された赤外線を実質的に一定光束径の平行光束又は一定集光角の集光光束にして前記赤外線センサに入射させる光束調整レンズ系とを備え、前記マーカー用光源から投影されるマーカー光の投影光軸が、前記光束調整レンズ系と赤外線センサとの間で当該赤外線センサの測定光軸に軸合せされると共に、当該投影光軸上に、前記マーカー光を前記赤外線の平行光束の光束径に符合する幅の光束に整形し、または、前記マーカー光を前記赤外線の集光光束の集光角に符合する拡がり角度の光束に整形するマーカー光整形手段が配されている。
【0014】
さらに、請求項3によれば、光束調整レンズ系により赤外線が集光光束とされた部分でその測定光軸に対し前記投影光軸が軸合せされ、前記マーカー用光源がレーザ光を照射するレーザダイオードから成り、前記マーカー光整形手段が、投影光軸上に設定された拡散基準点から前記レーザ光を前記集光角に略等しい角度で円錐面状に拡がるように回転走査させるレーザ走査装置を備えると共に、投影光軸及び測定光軸の交点から前記拡散基準点までの距離が、前記交点から赤外線の集光点までの距離に略等しく設定されている。
【0015】
この場合に、各レンズ系は請求項4に記載されているように、視野角調整レンズ系が、測定対象物から放射される赤外線を入射し、前記センシング視野角に応じた光束径の平行光束にして出射させる像側テレセントリック可変焦点レンズで成り、光束調整レンズ系が、前記可変焦点レンズの動きに連動して、前記平行光束を予め設定された一定光束径の平行光束にして出射させるズームエキスパンダレンズと、当該レンズから出射された一定光束径の平行光束を赤外線センサに向って一定集光角で集光させる集光レンズから成る。
【0016】
また、請求項5によれば、光束調整レンズ系により赤外線が一定光束径の平行光束とされた部分でその測定光軸に対し前記投影光軸が軸合せされている場合に、マーカー用光源がレーザ光を照射するレーザダイオードから成り、マーカー光整形手段が、前記レーザ光を赤外線の前記光束径に略等しい直径の円筒面状に回転走査させるレーザ走査装置を備えている。
【0017】
この場合に、各レンズ系は請求項6に記載されているように、視野角調整レンズ系が、測定対象物から放射される赤外線を入射し、前記センシング視野角に応じた光束径の平行光束にして出射させる像側テレセントリック可変焦点レンズで成り、光束調整レンズ系が、前記可変焦点レンズの動きに連動して、前記平行光束を予め設定された一定光束径の平行光束にして出射させるズームエキスパンダレンズで成る。
【発明の効果】
【0018】
本発明の放射温度計によれば、測定対象物から放射される赤外線を集光する光学系がズームレンズ機構を備えているので、ズーミング操作を行って赤外線センサのセンシング視野角を可変調整することにより、DS比を任意に調整することができる。
このとき、マーカー用光源から照射されたマーカー光は、ズームレンズ機構を備えた光学系を介して測定対象物に投影されている。
ズームレンズ機構は、センシング視野角とマーカー光の拡がり角度を互いに一致させた状態で双方の角度が同時に同程度可変されるので、ズーミング操作を行うことによりセンシング視野角が調整されて測定対象物の表面上の測定領域が拡大縮小されても、マーカー光はそのセンシング視野角に等しい拡がり角度で投影され、マーカー光の幅ないし大きさもこれに追従して拡大縮小され、マーカー光はその測定領域の外縁に一致した状態で投影される。
したがって、本発明によれば、ズーミング操作により測定領域を拡縮しても、測定対象物までの距離に拘らず、常に、マーカー光を測定領域の外縁に一致させて投影することができ、そのマーカー光を外縁とする測定領域の温度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る放射温度計の一例を示す図。
【図2】その外観を示す図。
【図3】測定領域とマーカー光の関係を示す図。
【図4】他の実施形態を示す図。
【図5】従来装置を示す図。
【図6】従来装置の測定領域とマーカー光の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本例によれば、ズーミング操作により測定領域を拡縮したときに、測定対象物までの距離に拘らず、常に、マーカー光を測定領域の外縁に一致させて投影し、そのマーカー光を外縁とする測定領域の温度を測定できるようにするという目的を達成するために、測定対象物から放射される赤外線を集光する光学系と、当該光学系で集光される赤外線をセンシングしてそのエネルギー強度に応じた電気信号を出力する赤外線センサと、前記光学系を介して測定対象物の表面に測定領域の幅ないし大きさを示すマーカー光を投影するマーカー用光源とを具備し、前記光学系に、測定対象物に向かって拡がる前記赤外線センサのセンシング視野角の角度と前記マーカー光の拡がり角度とを互いに略一致させて、双方の角度を同時に同程度可変させるズームレンズ機構を設けた。
【実施例1】
【0021】
図1及び図2は本発明に係る放射温度計1を示し、測定対象物から放射される赤外線を集光する光学系2と、当該光学系2で集光される赤外線をセンシングしてそのエネルギー強度に応じた電気信号を出力する赤外線センサ3と、その電気信号に基づいて測定対象物の温度を算出する演算装置4と、前記光学系2を介して測定対象物の表面に測定領域Anの幅ないし大きさを示すマーカー光Mnを投影するマーカー用光源5とを具備している。
【0022】
光学系2には、測定対象物に向かって拡がる赤外線センサ3のセンシング視野角δnの角度と前記マーカー光Mnの拡がり角度とを互いに一致させて、双方の角度を同時に同程度可変させるズームレンズ機構6が設けられてなる。
このズームレンズ機構6は、前記センシング視野角δnを可変調整する視野角調整レンズ系7と、当該視野角調整レンズ系7で集光された赤外線を実質的に一定集光角θの集光光束にして赤外線センサ3に入射させる光束調整レンズ系9とを備えている。
【0023】
視野角調整レンズ系7は、測定対象物から放射された赤外線を入射し、センシング視野角δnに応じた光束径φnの平行光束Φnとして出射させる像側テレセントリック可変焦点レンズ8で成る。
光束調整レンズ系9は、前記可変焦点レンズ8の動きに連動して、平行光束Φnを予め設定された一定光束径の平行光束Φに調整して出射させるズームエキスパンダレンズ10と、当該レンズ8から出射された一定光束径φの平行光束Φを赤外線センサ3に向う一定集光角θの集光光束Θにする集光レンズ11から成る。
【0024】
このズームレンズ機構6によれば、視野角調整レンズ系7のズーミング操作を行うことにより、望遠側(δ)から広角側(δ)までセンシング視野角δnが調整されたときに、その視野角δnに応じて集光される赤外線光束Δ〜Δが入射され、当該レンズ系7から光束調整レンズ系9のズームエキスパンダレンズ10に対し視野角(δ〜δ)に応じた光束径φn(φ〜φ)の平行光束Φn(Φ〜Φ)が入射される。
そして、ズームエキスパンダレンズ10は、視野角調整レンズ系7の動きに連動してズーミング操作され、視野角δnに応じて光束径が変化する平行光束Φn(Φ〜Φ)を常に一定光束径φの平行光束Φに変換する。
したがって、これを集光レンズ11で集光させることにより赤外線は常に一定集光角θの集光光束Θとなって赤外線センサ3に入射され、その集光角θはセンシング視野角δnが調整されても一定に維持される。
【0025】
また、マーカー用光源5から投影されるマーカー光Mnの投影光軸Zpが、前記光束調整レンズ系9と赤外線センサ3との間で当該赤外線センサ3の測定光軸Zmに軸合せされると共に、投影光軸Zp上には、マーカー光Mnを赤外線の集光光束Θの集光角θに符合する拡がり角度εの光束Eに整形するマーカー光整形手段12が配されている。
【0026】
本例では、マーカー用光源5はレーザ光を照射するレーザダイオードが用いられ、マーカー光整形手段12は、投影光軸Zp上に設定された拡散基準点Pからマーカー光となる前記レーザ光を集光角θに略等しい角度εで円錐面状に拡がるように回転走査させるレーザ走査装置13が用いられており、投影光軸Zp及び測定光軸Zmの交点Pから拡散基準点Pまでの距離は、当該交点Pから赤外線の集光点Pまでの距離に略等しく設定されている。
レーザ走査装置13は任意の構成のものを用いることができるが、本例では、従来装置同様、回転プリズム14を用いて、その回転に伴う厚さ変化及び屈折面の傾斜角度変化を利用してレーザ光を回転走査している。
【0027】
これにより、マーカー光Mnとなるレーザ光は、拡散基準点Pから集光角θに略等しい角度εで円錐面状に回転走査され、投影光軸Zpに沿って拡がる光束Eとなって進行し、測定光軸Zmに軸合せされると、レーザ光の軌跡が赤外線の集光光束Θの外周面により形成される円錐面に重なることとなる。
そして、赤外線の入射方向とは反対方向に進行し、集光レンズ11を透過して光束径φの円筒状光束となって、光束調整レンズ系9のレンズ系10−視野角調整レンズ系7を通り、測定対象物に対して、そのセンシング視野角δnと等しい角度で投影されて、測定領域Anの幅ないし大きさを示すリング状パターンが映し出される。
【0028】
例えば、センシング視野角がδに設定されている場合、測定光軸Zmに軸合せされたマーカー光Mは、ズームエキスパンダレンズ10により光束径φの円筒光束に変換され、さらに、視野角調整レンズ系7により、センシング視野角δで拡がる円錐面状の光束となって、測定対象物から集光される赤外線光束Δの外周面により形成される円錐面に沿って投影される。
したがって、このマーカー光Mにより、測定対象物までの距離にかかわらず、測定対象物の表面に、赤外線光束Δが放射される測定領域Aの大きさに一致するリング状のパターンが映し出される。
【0029】
ここで、ズーミング操作を行いセンシング視野角δに調整した場合、マーカー光Mは、ズームエキスパンダレンズ10により光束径φの円筒光束に変換され、さらに、視野角調整レンズ系7により、センシング視野角δで拡がる円錐面状の光束となって、測定対象物から集光される赤外線光束Δの外周面により形成される円錐面に沿って投影される。
したがって、この場合も、マーカー光Mにより、測定対象物までの距離にかかわらず、測定対象物の表面に、赤外線光束Δが放射される測定領域Aの大きさに一致するリング状のパターンが映し出される。
このように、ズーミング操作により測定領域Anを拡縮したときに、測定対象物までの距離にかかわらず、常に、マーカー光Mnを測定領域Anの幅ないし大きさに一致させて投影することができ、そのマーカー光Mnで示された測定領域Anの温度が測定される。
【0030】
なお、本例の放射温度計1は、図2に示すように、そのグリップ15に、マーカー用光源5を点灯すると同時に、赤外線センサ3及び演算装置4を起動させるトリガースイッチ16が配されている。また、温度計1の本体上面にはセンシング視野角δnを調整するズーム操作子17が設けられ、その背面側には測定された温度を表示する液晶ディスプレイ18が配されている。
【0031】
以上が本発明に係る放射温度計の一構成例であって、次にその作用について説明する。
トリガースイッチ16をオンすると、マーカー用光源5がオンされてマーカー光Mnが投影されると同時に、投影されたマーカー光Mnの内側の測定領域Anから放射された赤外線が赤外線センサ3でセンシングされ、そのエネルギー強度に基づき演算装置4で測定対象物の温度が算出され、その結果が液晶ディスプレイ18に表示される。
【0032】
このとき、測定対象物から放射される赤外線は、光学系2の視野角調整レンズ系7により設定されたセンシング視野角δnで集光されるので、そのセンシング視野角δnと測定対象物までの距離で定まる測定領域Anから、視野角調整レンズ系7及び光束調整レンズ系9を通り、赤外線センサ3に対して集光角θで集光される集光光束Θが形成され、測定領域Anの温度が測定される。
そして、ズームレンズ機構6のズーミング操作を行うことにより、センシング視野角δnを望遠側(δ)から広角側(δ)まで可変調整すると、その視野角δnと測定対象物までの距離により測定領域Anが拡大縮小されるが、光束調整レンズ系9を構成するズームエキスパンダレンズ10からは常に一定光束径の平行光束Φが出射されるので、これを集光レンズ11で集光させることにより、赤外線センサ3に向って常に一定集光角θで赤外線が集光される。
【0033】
ここで、マーカー用光源5から照射されたレーザ光はレーザ走査装置13で回転操作され、投影光軸Zp上の拡散基準点Pから前記集光角θに略等しい角度εで円錐面状に拡がる光束Eに整形される。
投影光軸Zp及び測定光軸Zmの交点Pから拡散基準点Pまでの距離は、当該交点Pから赤外線の集光点Pまでの距離に略等しく設定されているので、角度εで円錐面状に拡がる光束Eは、測定光軸Zmに軸合せされた時点で、角度θで集光される赤外線の集光光束Θの外周面で形成される円錐面に沿って集光レンズ11に向う。
そして、赤外線の進行方向の反対側から、光束調整レンズ系9−視野角調整レンズ系7を通り、マーカー光Mnがセンシング視野角δnと等しい角度で拡がりながら、測定対象物から集光される赤外線光束Δnの外周面で形成される円錐面に沿って投影されるので、測定対象物までの距離にかかわらず、測定対象物の表面に、測定領域Anの幅ないし大きさに一致するリング状のパターンが映し出される。
【0034】
図3は近距離D、中距離D、遠距離Dに測定対象物を置き、それぞれの場合に、望遠側(δ)から広角側(δ)までズーミング操作を行ったときの測定領域Anとマーカー光Mnの関係を示す図である。
センシング視野角δ〜δを調整した場合でも、全ての距離D〜Dにおいて、マーカー光M〜Mは測定領域A〜Aの外縁に正確に重なっていることがわかる。
【0035】
このように、本発明では、マーカー光Mnにより映し出されたリング状パターンが測定領域Anの幅ないし大きさに常に一致しているので、光学系2のズーミング操作に伴って測定領域Anを拡大縮小したときに、測定対象物までの距離に拘らず、常に、マーカー光を測定領域Anの幅ないし大きさに一致させたまま拡大縮小させることができ、測定対象物に投影したマーカー光Mnにより映し出されるパターンを見て測定領域Anを確認することができる。
【実施例2】
【0036】
図4は本発明の他の実施形態を示し、図1との共通部分は同一符号を付して詳細説明を省略する。
本例の放射温度計21は、光学系22のズームレンズ機構23が、測定対象物への視野角δnを調整する視野角調整レンズ系7と、当該視野角調整レンズ7に連動して赤外線センサへ向う光束を実質的に一定光束径の平行光束に維持させる光束調整レンズ系24とを備えており、その平行光束を集光レンズ25により集光させてあるいは平行光束のまま、赤外線センサ3に入射させるようにしている。
【0037】
視野角調整レンズ系7は、測定対象物から放射された赤外線を入射し、センシング視野角δnに応じた光束径φnの平行光束Φnとして出射させる像側テレセントリック可変焦点レンズ8で成り、光束調整レンズ系24は、前記可変焦点レンズ8の動きに連動して、前記平行光束Φnを予め設定された一定光束径φの平行光束Φにして出射させるズームエキスパンダレンズ10で構成されている。
【0038】
これによれば、可変焦点レンズ8のズーミング操作を行うことにより、望遠側(δ)から広角側(δ)までセンシング視野角δnを調整したときに、当該レンズ系7からズームエキスパンダレンズ10に対し視野角(δ〜δ)に応じた光束径φn(φ〜φ)の平行光束Φn(Φ〜Φ)が入射される。
そして、ズームエキスパンダレンズ10は前記可変焦点レンズ8に連動してズーミング操作され、視野角δnに応じて光束径φnが変化する平行光束Φn(Φ〜Φ)を常に一定光束径φの平行光束Φに変換する。
【0039】
また、マーカー用光源5から投影されるマーカー光Mnの投影光軸Zpが、前記光束調整レンズ系24と赤外線センサ3との間で当該赤外線センサ3の測定光軸Zmに軸合せされると共に、当該投影光軸Zp上には、マーカー光Mnを赤外線の平行光束Φの光束径φに略等しい外径の光束Fに整形するマーカー光整形手段26が配されている。
【0040】
本例においても、マーカー用光源5はレーザ光を照射するレーザダイオードから成り、また、マーカー光整形手段26は、前記レーザ光を赤外線の前記光束径φに略等しい直径の円筒面状に回転走査させるレーザ走査装置27を備えている。
このレーザ走査装置27は、マーカー用光源5から投影光軸Zpに沿って照射されたレーザ光を投影光軸Zpと直交する方向に反射させて回転走査させる回転ミラー28と、反射されたレーザ光を投影光軸Zpと平行になる方向に反射させるリングミラー29とを備え、レーザ光を赤外線の平行光束Φの光束径φに略等しい外径の円筒面状の光束Fに整形するようになっている。
【0041】
これにより、マーカー光Mnとなるレーザ光は、光束径φに略等しい外径の円筒面状に回転走査され、投影光軸Zpに沿って進行し、測定光軸Zmと軸合せされると、レーザ光の軌跡が赤外線の平行光束Φの外周面により形成される円筒面に重なることとなる。
そして、マーカー光Mnとなるレーザ光は赤外線の入射方向とは反対方向に進行し、光束調整レンズ系24−視野角調整レンズ系7を通過すると、マーカー光Mnが測定対象物に対してセンシング視野角δnと略等しい角度で投影されて、測定領域Anの幅ないし大きさを示すリング状パターンが映し出される。
【0042】
したがって、本例においても実施例1と同様、マーカー光Mnにより映し出されたリング状パターンが測定領域Anの幅ないし大きさに常に一致しているので、光学系22のズーミング操作に伴って測定領域Anを拡大縮小したときに、測定対象物までの距離に拘らず、常に、マーカー光を測定領域Anの幅ないし大きさに一致させたまま拡大縮小させることができ、測定対象物に投影したマーカー光Mnにより映し出されるパターンを見て測定領域Anを確認することができる。
【0043】
なお、マーカー光Mnによりリング状のパターンを映し出す場合に限らず、例えば、複数本のレーザー光を所定の幅又は角度で照射させることにより測定領域Anの左右両側、あるいは上下左右、さらに、測定領域Anの外縁に所定間隔で複数のレーザポイントを映し出すパターンとしてもよい。
また、リング状パターンやレーザポイントのように測定領域Anの外縁に照射されるものに限らず、測定領域に正確に重なる光スポットを形成する場合でもよい。この場合、マーカー用光源5として例えば高輝度LEDを用いて、マーカー光整形手段により、その光を集光角θに略等しい角度εで拡がる円錐状の拡散光束に整形し、あるいは、赤外線の平行光束Φの光束径φに略等しい外径の平行光束に整形すれば、そのマーカー光Mnを投影することにより赤外線光束Δnの断面形状と一致する円形パターンを映し出すことができる。
さらに、センシング視野角δnの調整は、ズーム操作子17を操作して、視野角調整レンズ系7及び光束調整レンズ系9を構成するレンズを手動で移動させる場合に限らず、小型モータなどを用いて電動で移動させてもよいことはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、距離に応じて測定領域を拡大縮小することのできる放射温度計の用途に適用できる。
【符号の説明】
【0045】
1 放射温度計
2 光学系
3 赤外線センサ
5 マーカー用光源
6 ズームレンズ機構
7 視野角調整レンズ系
8 像側テレセントリック可変焦点レンズ
9 光束調整レンズ系
10 ズームエキスパンダレンズ
11 集光レンズ
12 マーカー光整形手段
13 レーザ走査装置
δn センシング視野角
An 測定領域
Mn マーカー光
Zp 投影光軸
Zm 測定光軸




【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物から放射される赤外線を集光する光学系と、当該光学系で集光される赤外線をセンシングしてそのエネルギー強度に応じた電気信号を出力する赤外線センサと、前記光学系を介して測定対象物の表面に測定領域の幅ないし大きさを示すマーカー光を投影するマーカー用光源とを具備した放射温度計において、
前記光学系に、測定対象物に向かって拡がる前記赤外線センサのセンシング視野角の角度と前記マーカー光の拡がり角度とを互いに略一致させて、双方の角度を同時に同程度可変させるズームレンズ機構が設けられていることを特徴とする放射温度計。
【請求項2】
前記ズームレンズ機構が、前記センシング視野角を可変調整する視野角調整レンズ系と、当該視野角調整レンズ系で集光された赤外線を実質的に一定光束径の平行光束又は一定集光角の集光光束にして前記赤外線センサに入射させる光束調整レンズ系とを備え、
前記マーカー用光源から投影されるマーカー光の投影光軸が、前記光束調整レンズ系と赤外線センサとの間で当該赤外線センサの測定光軸に軸合せされると共に、当該投影光軸上に、前記マーカー光を前記赤外線の平行光束の光束径に符合する幅の光束に整形し、または、前記マーカー光を前記赤外線の集光光束の集光角に符合する拡がり角度の光束に整形するマーカー光整形手段が配された請求項1記載の放射温度計。
【請求項3】
前記光束調整レンズ系により赤外線が集光光束とされた部分でその測定光軸に対し前記投影光軸が軸合せされ、
前記マーカー用光源がレーザ光を照射するレーザダイオードから成り、
前記マーカー光整形手段が、投影光軸上に設定された拡散基準点から前記レーザ光を前記集光角に略等しい角度で円錐面状に拡がるように回転走査させるレーザ走査装置を備えると共に、投影光軸及び測定光軸の交点から前記拡散基準点までの距離が、前記交点から赤外線の集光点までの距離に略等しく設定された請求項2記載の放射温度計。
【請求項4】
前記視野角調整レンズ系が、測定対象物から放射される赤外線を入射し、前記センシング視野角に応じた光束径の平行光束にして出射させる像側テレセントリック可変焦点レンズで成り、
前記光束調整レンズ系が、前記可変焦点レンズの動きに連動して、前記平行光束を予め設定された一定光束径の平行光束にして出射させるズームエキスパンダレンズと、当該レンズから出射された一定光束径の平行光束を赤外線センサに向って一定集光角で集光させる集光レンズから成る請求項3記載の放射温度計。
【請求項5】
前記光束調整レンズ系により赤外線が一定光束径の平行光束とされた部分でその測定光軸に対し前記投影光軸が軸合せされ、
前記マーカー用光源がレーザ光を照射するレーザダイオードから成り、
前記マーカー光整形手段が、前記レーザ光を赤外線の前記光束径に略等しい直径の円筒面状に回転走査させるレーザ走査装置を備えた請求項2記載の放射温度計。
【請求項6】
前記視野角調整レンズ系が、測定対象物から放射される赤外線を入射し、前記センシング視野角に応じた光束径の平行光束にして出射させる像側テレセントリック可変焦点レンズで成り、
前記光束調整レンズ系が、前記可変焦点レンズの動きに連動して、前記平行光束を予め設定された一定光束径の平行光束にして出射させるズームエキスパンダレンズで成る請求項5記載の放射温度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−13188(P2011−13188A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159918(P2009−159918)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(391004595)株式会社佐藤計量器製作所 (3)
【Fターム(参考)】