説明

放射線−光変換素子、放射線検出器

【課題】物質透過性の高い放射線に対して高い検出感度をもち、かつ、入射放射線に対して2次元画像を得ることのできる放射線検出器を得る。
【解決手段】この放射線検出器10は、放射線−光変換素子20と撮像素子30とから構成される。放射線−光変換素子20は、円柱状の蛍光素子21が多数束ねられて構成されている。個々の蛍光素子21は、撮像素子30における個々の画素31に対応して配置されている。この蛍光素子21においては、シンチレータ材料で構成された円柱状の蛍光体22が、その円柱の軸(長軸)が検出すべき放射線の入射方向に沿うように設定される。蛍光体22の上面221及びその側面222には、金属層23が形成されている。下面223には、金属層23が形成されていない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線、γ線、高エネルギーの電子線や中性子線等の放射線を可視光又は紫外光に変換する放射線−光変換素子に関する。また、これを用いて放射線の2次元画像を検出する放射線検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
X線、γ線、電子線、中性子線等の放射線を検出する検出器として多くのものが知られているが、その中でも蛍光材料を用いたシンチレータを用いた放射線検出器は広く用いられている。この検出器においては、シンチレータはこれらの放射線を吸収することによって可視光や紫外光を発し、これらの光を光電子増倍管やCCD等の光検出器で検出することによって、間接的に放射線を検出することができる。一般にこれらの放射線を光電子増倍管やCCD等の光検出器で直接検出することは困難であるが、ここでは、放射線がこれらの光検出器で検出できる可視光や紫外光に変換されるため、光検出器を用いて可視光や紫外光と同様に検出することができる。
【0003】
ここで、単に放射線を検出するだけでなく、その2次元画像が得られれば、多方面において有益な検出器となる。例えば、X線やγ線の2次元画像を得る技術は医療分野において重要であり、中性子線の2次元画像を得る技術は原子力の分野において重要である。そこで、特に上記の光検出器にCCD等の固体撮像素子を用いて、放射線の2次元画像を得る技術が開発されている。
【0004】
このため、例えば特許文献1には、基板上に柱状構造を有するシンチレータ材料を形成した構成のシンチレータパネルを、保護膜等をその表面に形成した上で、撮像素子(CCD)の表面に貼り付けた形態の放射線検出器(イメージセンサ)が記載されている。ここでは、無機シンチレータ材料として使用されるCsI等の柱状結晶が基板上に蒸着等の方法によって形成され、この中で放射線が吸収されることによって発生した光は撮像素子に入射し、検出される。
【0005】
また、特許文献2には、撮像素子の画素に対応させて多数の光ファイバを配列し、この光ファイバの材料に蛍光材料(シンチレータ材料)を溶解一体化させた構造を有する放射線検出器が記載されている。この構造においては、光ファイバとシンチレータとを一体化させた構成を用いるため、蛍光材料が発生した光を高効率で撮像素子の画素に導くことができる。
【0006】
こうした技術を用いることによって、放射線の2次元画像を得ることのできる放射線検出器が得られた。
【0007】
【特許文献1】特開2000−356679号公報
【特許文献2】特開平8−610号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の放射線検出器に対しては、2次元画像を得ることと同時に、検出すべき放射線に対して高い検出感度を有することも求められる。検出すべき放射線をシンチレータ中で充分に吸収させ、充分な発光を得るためには、この放射線を充分に吸収できるだけのシンチレータの厚さが必要となる。すなわち、シンチレータが充分厚くないと充分な発光強度が得られず、充分な検出感度が得られない。
【0009】
この点に対し、特許文献1に記載の放射線検出器にあっては、柱状構造のシンチレータ材料を蒸着法等で形成することが必要であるため、その厚さを例えば1cm以上とすることは困難である。従って、透過性の低い低エネルギーの電子線やX線に対しては有効であるが、特に透過性の高い放射線であるγ線や中性子線を高い検出感度で検出することは困難である。
【0010】
一方、特許文献2に記載の放射線検出器においては、光ファイバを長く(シンチレータを厚く)することは可能である。しかしながら、ここで用いられるのはシンチレータ自身ではなく、蛍光材料を添加した光ファイバである。この蛍光材料の添加量が多いほど、放射線による発光強度は大きくなるが、一般に、光ファイバに添加できる該蛍光材料の量は限定される。従って、この場合には、光ファイバを長くした場合でも、充分な検出感度を得ることは困難である。
【0011】
従って、物質透過性の高い放射線に対して高い検出感度をもち、かつ、入射放射線に対して2次元画像を得ることのできる放射線検出器を得ることは困難であった。
【0012】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の放射線−光変換素子は、放射線を可視光又は紫外光に変換する放射線−光変換素子であって、前記放射線の入射方向に沿って長軸方向を向けて設けられた柱状のシンチレータ材料からなる蛍光体と、該蛍光体の入射側の面に形成された金属層とを具備する蛍光素子が複数本配列されたことを特徴とする。
本発明の放射線−光変換素子は、前記蛍光素子において、前記入射側の面と対向する面以外の面に金属層が形成されたことを特徴とする。
本発明の放射線−光変換素子において、前記シンチレータ材料は、プラスチックシンチレータ材料であることを特徴とする。
本発明の放射線検出器は、放射線の2次元画像を検出する放射線検出器であって、可視光又は紫外光の2次元画像を検出する撮像素子と、前記蛍光体における前記放射線の出射側の面が前記撮像素子における画素に対応して設置された前記放射線−光変換素子と、を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は以上のように構成されているので、物質透過性の高い放射線に対して高い検出感度をもち、かつ、入射放射線に対して2次元画像を得ることのできる放射線検出器を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態となる放射線検出器につき説明する。図1は、この放射線検出器の構成の概要を示す図である。この放射線検出器10は、放射線−光変換素子20と撮像素子30とから構成される。検出すべき放射線は図1中の上側から白矢印に示されるように、放射線−光変換素子20に対して入射し、ここで放射線がこの中で可視光又は紫外光に変換され、この光を撮像素子30が検出する。ここで検出される放射線は、X線、γ線、電子線、中性子線等、任意の放射線である。なお、図示していないが、この放射線が放射線−光変換素子20に入射する前に光学系を通り、その結像点に放射線−光変換素子20が配置される。
【0016】
撮像素子30は、CCDイメージセンサあるいはCMOSイメージセンサであり、2次元に配列された複数の画素31にはフォトダイオードが対応し、図示していないが、転送用CCDや選択用トランジスタ等がその周囲に形成されている。
【0017】
放射線−光変換素子20は、円柱状の蛍光素子21が多数束ねられて構成されている。これらは、外枠(図示せず)で固定された形態となっており、個々の蛍光素子21は撮像素子30における個々の画素31に対応して配置されている。
【0018】
図2に、円柱状の各蛍光素子21の上面図(a)及びそのA−A方向の断面図を示す。この蛍光素子21においては、シンチレータ材料で構成された円柱状の蛍光体22が、その円柱の軸(長軸)が検出すべき放射線の入射方向に沿うように設定される。蛍光体22の上面221(検出すべき放射線が入射する側の面)及びその側面222には金属層23が形成されている。下面223(検出すべき放射線が入射する側と対向する面、あるいは検出すべき放射線が出射する側の面)には金属層23は形成されていない。蛍光体22の直径は撮像素子30における画素31の大きさに対応し、例えば1μm程度とすることができる。ただし、この直径を撮像素子30における個々の画素31よりも小さくし、複数の蛍光素子21を1つの画素31に対応させる設定としてもよい。この直径を画素31よりも大きくし、複数の画素31を1つの蛍光素子21に対応させる設定とした場合には、得られる2次元画像の解像度は撮像素子30の画素ではなく、この放射線−光変換素子20における蛍光素子21の配列で決まる。
【0019】
蛍光体22の材料としては、プラスチックシンチレータ材料が特に好ましく用いられる。このプラスチックシンチレータ材料は、例えば蛍光材料であるアントラセンやスチルベンゼン等の有機シンチレータ材料をスチレンからなる溶媒中に溶かして固化させて固体プラスチックとしたものである。その直径は前記の通り、撮像素子30の画素31に対応するが、例えば1μm程度とすることができる。その長さは、検出すべき放射線を充分に吸収することのできる長さとして、例えば、100μm〜数10cmの範囲で任意に設定できる。
【0020】
また、金属層23の材料は例えばアルミニウム等であり、画素間のクロストークを抑制するためには可視光又は紫外光を透過させないことが必要であり、その厚さは例えば0.1μm程度である。
【0021】
図3に示すように、これらの有機シンチレータ材料中にX線、γ線、電子線、中性子線(図3中の白矢印)が入射すると、これらの材料は、可視光又は紫外光(図中の細矢印)を発する。特に、蛍光体22の上面221には金属層23が形成されているが、透過性の高い放射線、特に中性子線やγ線は金属層23中を透過する。従って、蛍光体22の上面221に金属層23が形成されていても、これによって放射線の検出感度が低下することはない。
【0022】
これらの光は、発光点(図3中の星印)から周囲の方向に発せられるが、蛍光体22の上面221及び側面222には金属層23が形成されているために、これらの光が上面221及び側面222に達した場合には反射され、金属層の形成されていない下面223に達して図3中の下側から蛍光体22の外部に出射される。すなわち、蛍光素子21は光ファイバとは異なる材料で形成されているにも関わらず、光は蛍光素子21中を伝搬して下側から出射され、光ファイバと同様の機能を果たす。
【0023】
この構成の場合には、上面221に形成された金属層23によって、蛍光素子21の上面221から光が逃げることが抑制される。また、蛍光素子21の側面222から光が抜け、隣接する蛍光素子21に入射した場合には、画素間のクロストークの原因となるが、側面222にも金属層23を形成することによってこれも抑制される。
【0024】
蛍光素子21の下面223から出射した光は、その直下にある撮像素子30の個々の画素31に入射する。ここで、撮像素子30は、CCDイメージセンサやCMOSイメージセンサであり、2次元配列された画素31となるフォトダイオードからの光信号が外部に読み出される。各蛍光素子21は撮像素子30における個々の画素31に対応して配置されているため、この光は各画素31における光信号となって外部に出力される。従って、以降は可視光のイメージセンサと同様の動作により、入射放射線に対して鮮明な2次元画像信号が得られる。
【0025】
この際の放射線−光変換素子部20の製造方法につき説明する。まず、個々の円筒状の蛍光体22は、アントラセンやスチルベンゼン等の有機シンチレータ材料をスチレンからなる溶媒中に溶融させた液体を、蛍光体22の外径と同じ径の細孔を通して射出し、冷却して固化させることによって、得ることができる。また、多数の細孔が開いた板(キャピラリープレート)に有機シンチレータ材料や粉末状のシンチレータ材料を充填することでも同様に製造することができる。蛍光体22は任意のシンチレータ材料で構成することができるが、こうした製造の観点から、上記のプラスチックシンチレータ材料が特に好ましく用いられる。
【0026】
その後、この蛍光体22を所望の長さに切断する。この長さは図2における上下方向の長さとなり、前記の通り、透過性の高い放射線を検出する場合には、この蛍光体22を上下方向に充分長くすることが好ましい。
【0027】
金属層23は、例えば、絶縁物である蛍光体22上に、例えば無電解めっきを用いてその表面全面に形成することができる。ただし、図2、3における下面223においてはこれを除去する必要がある。このため、蛍光体22を所望の長さにする切断を、金属層23の形成後に行うことが好ましい。また、無電解めっき以外にも、例えば蒸着法等によって金属層23形成することも可能である。
【0028】
その後、蛍光素子21を束ね、固定する。この際には、接着剤等を用いてこれらを固定した上で外枠を用いてこれらを固定してもよいが、外枠を用いなくとも充分な固定強度が得られる場合には、外枠を用いる必要はない。
【0029】
また、撮像素子が出射光を高効率で検出するためには、蛍光体22の下面223と撮像素子30の画素(フォトダイオード)との間隔は、できるだけ小さいことが好ましく、蛍光体22の直径以下とすることが好ましい。この間隔が大きい場合には、この隙間から光が隣接する画素に漏れ、クロストークや検出効率の低下の原因となる。
【0030】
以上の構成により、この放射線検出器10は、入射放射線に対して鮮明な2次元画像を得ることができる。特に、蛍光素子21を長くした場合でも製造が可能である。この際、放射線に対して高い発光効率をもつシンチレータ材料で蛍光素子21を形成することができ、かつ、発生した紫外光又は可視光を高効率で撮像素子30に入射させることができる。従って、特に透過性の高い放射線であるγ線や中性子線に対しても、その蛍光体22中での吸収を大きくすることができ、高い検出感度で鮮明な2次元画像を得ることができる。また、放射線が蛍光体22中で吸収されずに撮像素子30に直接達した場合には、撮像素子30におけるノイズの原因となることがあるが、このノイズは低減される。
【0031】
この点に対し、特許文献1に記載の放射線検出器にあっては、シンチレータ材料を蒸着法等で形成することが必要であるため、その厚さを充分厚く、例えば1cm以上とすることが困難であった。従って、透過性の高い放射線に対する検出感度は不充分であり、かつ撮像素子におけるノイズも大きいため、放射線の2次元画像を高感度で得ることが困難であった。
【0032】
また、特許文献1に記載の放射線検出器においては、シンチレータとなるCsI等が蒸着等によって形成された柱状結晶であり、撮像素子の画素に対して、1つあるいは複数の柱状結晶粒が対応する。しかしながら、結晶粒の大きさや配列の制御を厳密に行うことは困難であるため、発光を高効率で画素毎に検出することが困難であった。さらにまた、1つの結晶粒の中で発生した光が隣接する結晶粒に入射することも抑制できないため、画素間のクロストークも大きかった。
【0033】
一方、特許文献2に記載の放射線検出器においては、撮像素子の画素として光ファイバが対応するため、クロストークの問題は発生しない。しかしながら、放射線を吸収するのはシンチレータではなく、蛍光材料が添加された光ファイバであるため、放射線の吸収効率、発光効率が低く、入射放射線に対する高い検出感度は得られなかった。
【0034】
なお、本発明の実施の形態では、蛍光体22がプラスチックシンチレータで構成されるとしたが、これに限られるものではなく、例えば同様の形態とすることができれば、CsI等の無機シンチレータを用いることも可能である。
【0035】
また、蛍光素子21において、上面221及び側面222に金属層23を形成したが、蛍光素子21同士が接着層によって接着され、蛍光素子21の材料の屈折率と接着層の屈折率との関係により、放射線によって発生した光が蛍光体22と接着層との界面で反射する場合には、側面222に金属層23を形成する必要はない。
【0036】
さらに、撮像素子30としてはCCDやCMOSイメージセンサを用いることができるが、2次元の光強度分布を検出できる撮像素子であれば、これらの代わりに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の形態に係る放射線検出器の概略構造を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る放射線−光変換素子における蛍光素子の構造を示す上面図(a)及び断面図(b)である。
【図3】本発明の実施の形態に係る放射線−光変換素子における蛍光素子内で発生した光の伝搬を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
10 放射線検出器
20 放射線−光変換素子
21 蛍光素子
22 蛍光体
23 金属層
30 撮像素子
31 画素
221 上面
222 側面
223 下面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を可視光又は紫外光に変換する放射線−光変換素子であって、
前記放射線の入射方向に沿って長軸方向を向けて設けられた柱状のシンチレータ材料からなる蛍光体と、該蛍光体の入射側の面に形成された金属層とを具備する蛍光素子が複数本配列されたことを特徴とする放射線−光変換素子。
【請求項2】
前記蛍光素子において、前記入射側の面と対向する面以外の面に金属層が形成されたことを特徴とする請求項1に記載の放射線−光変換素子。
【請求項3】
前記シンチレータ材料は、プラスチックシンチレータ材料であることを特徴とする請求項1又は2に記載の放射線−光変換素子。
【請求項4】
放射線の2次元画像を検出する放射線検出器であって、
可視光又は紫外光の2次元画像を検出する撮像素子と、
前記蛍光体における前記放射線の出射側の面が前記撮像素子における画素に対応して設置された請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の放射線−光変換素子と、
を具備することを特徴とする放射線検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−96648(P2010−96648A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268177(P2008−268177)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】