説明

放射線グラフト重合用基材及びフィルター素材

【課題】本発明は、ポリマー繊維、特にポリエチレン繊維から構成される放射線グラフト重合用の基材、及び放射線グラフト重合を用いて該基材に機能性官能基を導入することによって得られる放射線グラフト素材における改良に関する。また、本発明は、更に、織布又は不織布基材に対する放射線グラフト重合法における改良にも関する。
【解決手段】本発明の一態様は、ポリマー繊維から構成される織布又は不織布と、該ポリマー繊維よりも強度が高く放射線グラフト重合速度の遅いポリマー補強材とから構成されることを特徴とする織布又は不織布状の放射線グラフト重合用ポリマー基材に関する。また、該ポリマー基材から得られる放射線グラフト重合素材にも関する。更に、本発明の他の態様は、ポリマー単繊維から構成される織布又は不織布材料であって、該繊維の表面部分のみが放射線グラフト重合処理され、繊維の中心部分が非グラフト状態であることを特徴とする放射線グラフト処理材料に関する。本発明の更に他の態様は、ポリマー繊維から構成される織布又は不織布基材に、窒素雰囲気中で電子線を照射する第1工程;照射済みの該基材を、窒素雰囲気中で所定量のモノマーに接触させる第2工程;接触させたモノマーと基材とを、窒素雰囲気中でグラフト重合する第3工程;を含み、第1工程から第3工程を連続で行うことを特徴とする、長尺織布又は不織布基材の放射線グラフト重合方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー繊維、特にポリエチレン繊維から構成される放射線グラフト重合用の基材、及び放射線グラフト重合を用いて該基材に機能性官能基を導入することによって得られる放射線グラフト素材に関する。また、本発明は、更に、織布又は不織布基材に対する放射線グラフト重合法における改良にも関する。
【背景技術】
【0002】
放射線グラフト重合法は、ポリマー基材に放射線を照射してラジカルを形成させ、このラジカル部分に重合性単量体をグラフト反応させるというものであるが、様々な形状の高分子に機能性官能基を導入することができるので、分離機能性材料の製造方法として最近注目されている。特に、半導体産業などの精密電子工業や医薬品製造業においてクリーンルームの空気清浄に最近とみに用いられるようになった空気清浄用ケミカルフィルター素材及び純水製造装置に用いられるイオン交換フィルター素材を製造する方法として、放射線グラフト重合法が注目されている。
【0003】
放射線グラフト重合用のポリマー基材としては、ポリオレフィン系の高分子材料が好適であると考えられているが、その中でも、特にポリエチレンが放射線グラフト重合用の最適な素材であると考えられている。これは、ポリエチレンが、他のポリオレフィン系の材料と比較して、放射線を曝露した際に架橋しやすく且つ崩壊しにくいためである。ポリエチレンを用いた放射線グラフト重合用基材としては、フィルムや中空糸が良く知られており、イオン交換膜、電池用隔膜、空気浄化用材料、アフィニティ分離膜、水処理材料、脱臭剤などとして用いられている。例えば、放射線グラフト重合フィルムを用いて電池用隔膜を製造することが、湯浅時報,54,57−62(1983)「放射線前照射法によるグラフト膜について」に開示されている。更に、ポリマー成形体の水処理材料としての使用が特開平5−111685号公報、特開平5−111637号公報に開示されている。
【0004】
一方、ポリオレフィンやポリエステルなどのポリマー繊維から織布又は不織布を形成して、これをフィルター素材として用いることが広く行われているが、このような織布又は不織布といった繊維の集合体であるフィルター素材用の原材料としてポリエチレン単繊維が用いられた実用例は、本発明者が知る限りではほとんどない。これは、ポリエチレンの融点や耐薬品性などの物理的・化学的特性が、他のポリオレフィン系材料の代表例であるポリプロピレンなどと比較して劣っているために、ポリエチレン単繊維それ自体がフィルター素材としてはあまり注目されなかったためである。実際、ポリエチレン単繊維は、放射線グラフト重合に対して優れた特性を有するが、ポリエチレン単繊維から織布又は不織布を構成し、これに放射線グラフト重合を用いて機能性官能基を導入することにより、放射線グラフト重合織布又は不織布材料を製造しても、その物理的強度が十分ではなく、「へたり」が起こるために、フィルター素材としての強度や形状安定性が得られないためにプリーツ型フィルターへの成形可能が難しかったり、できあがったフィルターの圧力損失が高くなるなどといった問題点があった。
【0005】
このような問題点の解消法として、本発明者らは、芯/鞘複合繊維に放射線グラフト重合を適用することにより、分離機能性の優れた繊維を製造することを提案した(特開平8−199480号公報)。この特許出願において提案されている分離機能性繊維は、鞘材にポリエチレン、芯材にポリプロピレンやポリエチレンテレフタレートのような融点の高い高分子を使用した複合繊維をグラフト用基材として使用するため、不織布化の段階で熱融着法を採用することができ、芯材の物理的強度と各繊維の接点における接合力とが加味されるので、繊維の物理的強度が非常に大きいという特徴があった。
【0006】
しかしながら、この複合繊維においては、鞘材のポリエチレンに主としてグラフト重合が起こるため、ときおり、グラフト重合後の鞘部が芯材から剥離し、芯材と鞘材との間に間隙が生じて、そこに薬剤が残留し、製造工程における洗浄特性の悪化を招くという事態を生じることがあった。また、複合繊維全体としてのグラフト率を高くしようとすると、鞘部のグラフト率が極端に高くなるため、鞘部が崩壊するという現象がまれにみられることがあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、ポリエチレン単繊維で構成される織布又は不織布基材に放射線グラフト重合処理を行って放射線グラフト素材を形成するに際して、形成される放射線グラフト素材の強度を高めるべく鋭意研究を行った。その結果、ポリエチレン単繊維で構成される織布又は不織布状の基材に、該ポリエチレン単繊維よりも強度が高くグラフト重合速度の遅いポリマー補強材を組み合わせることにより、ポリエチレン織布又は不織布材料の物理的強度を高め、これに放射線グラフト重合を適用することにより、優れた機能及び強度を有するフィルター素材が得られ、更に下記に説明する全く予期しなかった優れた効果を奏することを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明の第1の態様は、ポリエチレン繊維から構成される織布又は不織布と、該ポリエチレン繊維よりも強度が高くグラフト重合速度の遅いポリマー補強材とから構成されることを特徴とする織布又は不織布状の放射線グラフト重合用基材に関する。
【0009】
また、本発明は、上記記載の態様に係る放射線グラフト重合用基材に、放射線グラフト重合を用いて機能性官能基が導入されていることを特徴とするフィルター素材にも関する。
【0010】
以下に、本発明の第1の態様に係る放射線グラフト重合用基材の予期しなかった効果に関して説明する。繊維の集合体である織布又は不織布を気体及び液体用のフィルター素材として用いる場合には、圧力損失を小さくするために、フィルター素材をプリーツ状に成形してフィルターを形成することがよく行われる。この場合、不織布を折り曲げたプリーツの山部と山部、谷部と谷部、及び山部と谷部との間の平坦部におけるフィルター素材同士の間隔を一定に保つため、スペーサーを挿入することが一般的である。スペーサーとしては、金属製又はプラスチック製のものが良く使用される。スペーサーの形状は、波型をはじめとして、フィルター素材同士の間の一定間隔を保つために、凹凸が規則的に並んだ形状を採用することが多い。
【0011】
ケミカルフィルターの場合には、織布又は不織布の面風速を均一にすることが極めて重要である。これは、微粒子を除去するための従来のフィルターでは、もし流速が不均一であっても、流速の高い部分に流体が多く流通し、微粒子が多く捕捉されるために、その部分の圧力損失が大きくなり、圧力損失の小さい部分へと流れが向かうので、流速が自然に均一化されるのに対して、ケミカルフィルターの場合には、除去対象物質がガス成分であるために、これを除去したことによる圧力損失の上昇が起こらないからである。したがって、ケミカルフィルターにおいては、面風速を一定にするためのスペーサーの設計に最新の注意が払われてきた。
【0012】
この結果、織布又は不織布の間隔を一定に保つための凹凸が多くならざるを得なかった。ところが、スペーサーの凹凸部が織布又は不織布に接触すると、その部分への空気の接触が妨げられるため、フィルターの有効濾過面積が小さくなる。極端な場合には、非有効
濾過面積が、織布又は不織布の全面積の20%を超える場合もあった。この問題を考慮して、プリーツフィルターの成形においては予め多めに織布又は不織布を折り込む場合が多く、コスト上昇を招いていた。同様の問題は、プリーツフィルターばかりでなく、平行流型のフィルターについてもいえる。
【0013】
ポリマー繊維から構成される織布又は不織布に放射線グラフト重合を適用すると、厚み方向、縦方向及び横方向の寸法変化が起こる。ここで、本発明に係る基材は、ポリエチレン繊維から構成される織布又は不織布に、該ポリエチレン繊維よりも強度が高く、グラフト重合速度の遅いポリマー補強材を組み合わせているので、繊維部分と補強材部分とでは異なる速度でグラフト重合が進行し、したがって異なる率で寸法変化が生じる。その結果、グラフト重合後の基材は起伏のある表面を有するようになる。
【0014】
例えば、ポリエチレンから構成される不織布基材に、ポリマー補強材として、線径のより大きな(即ち、不織布基材を構成するポリエチレンよりも強度が高く、グラフト重合速度が遅い)ポリエチレンのネットを融着した基材に、放射線グラフト重合を行うと、重合後の基材は図1に示すように、表面に起伏を有するようになる。なお、図1において、10は繊維不織布材、11はネット材を示す。
【0015】
後述の実施例においては、ポリエチレン繊維から構成される不織布基材に100d(デニール)のポリエチレンフィラメントを縦横に編みこんだ基材(実施例1)、及び、ポリエチレン不織布基材の両面に、該繊維よりも径が大きなポリエチレンネットを融着した基材(実施例2)を製造し、これに放射線グラフト重合を行っているが、その放射線グラフト重合の前後の基材の表面の形状を図2/図3及び図4/図5(顕微鏡写真)に示す。これらの写真からも、本発明に係る基材にグラフト重合を適用すると、表面に起伏が形成されることが明瞭に示される。
【0016】
このように、本発明の不織布基材にグラフト重合を施すことによって得られるグラフト素材は、表面に起伏を有しているので、これをプリーツ状に折り畳むと、スペーサーを用いることなく、素材同士の間隔が一定に保たれたプリーツが形成される。したがって、本発明によって製造されたグラフト素材をプリーツ状に加工してイオン交換ケミカルフィルターを製造すると、スペーサーを用いることなく、山と山、谷と谷及び山と谷の間の平坦部の間隔が一定に保たれ、流速が均一化し、フィルター全体のイオン交換容量が効率的に消費される。また、スペーサーを挿入する作業が不要であるので、作業の簡略化、コストの低減が図れる。更に、補強材の部分にも、グラフト率は小さいながらもグラフト重合が行われており、したがって、不織布基材の部分と補強材の部分の両方においてイオン交換基を有しているので、素材全体のガス吸着容量がより大きくなり、寿命が長くなる。また、補強材とポリエチレン繊維との接合を工夫することにより、織布/不織布からの繊維片の放出を抑制することも可能になる。
【0017】
本発明において織布又は不織布を構成するポリエチレン単繊維は、通常、数デニールから数十デニールの太さのものが好ましい。
また、織布又は不織布の補強材として機能する、織布又は不織布のポリエチレン単繊維よりも強度が高く放射線グラフト重合速度の遅いポリマー補強材としては、ポリエチレン単繊維よりも太いポリエチレン糸や糸状物の他、それらの加工品、例えばネットなどや、ポリエチレンフィルム等のシート状物、及びシート状物を引き裂いたり穿孔したりしたものなどを使用することができる。これらは、織布又は不織布のポリエチレン単繊維と比較して、線径が太く、また単位重量当たりの表面積が小さいので、放射線グラフト重合速度が小さい。
【0018】
通常、ポリマー材料に放射線グラフト重合を施すと、その材料の物理的強度が低下する
ことが知られている。しかしながら、上記に記載の本発明に係るポリエチレン補強材に関しては、織布/不織布を構成するポリエチレン単繊維と比較して、その線径が大きいので、放射線グラフト重合反応を終了した後もその表面付近しか放射線グラフト重合が進行しておらず、したがってその物理的強度が大きく損なわれることはない。したがって、本発明に係るポリエチレン材料においては、かかる補強材を組み合わせることにより、その物理的強度が放射線グラフト重合の後も大きく低下することなく保持される。
【0019】
補強材として種々の形状のポリエチレンを使用して、これをポリエチレン単繊維と複合させて補強織布/不織布材料に加工する方法としては、補強材がポリエチレン糸又は糸状物である場合には、ポリエチレン単繊維から構成される織布/不織布に該糸又は糸状物を編みこむ方法が便利である。また、補強材がポリエチレンフィルムやネット状物である場合には、ポリエチレン織布/不織布の表面に接着する方法が便利であり、接着方法としては熱融着が好ましい。また、ネット等にポリエチレン単繊維を絡み付かせて不織布材を形成する方法を採用することもできる。
【0020】
ポリエチレン単繊維から構成される織布/不織布の製法としては、当該技術において周知の種々の方法を用いることができるが、ニードルパンチを行ったり、スポット溶接のようなエンボス加工を行ったものなどのように、繊維の集合体を分散させないように種々の工夫を施す方法を採用することが好ましい。
【0021】
なお、上記の説明は、主として、ポリエチレン単繊維から織布又は不織布を形成し、これをポリエチレン補強材と組み合わせることに関して説明しているが、本発明の思想は他のポリマー材料にも適用することができる。即ち、織布又は不織布を構成する繊維としてポリエチレン繊維以外のポリマー繊維を用いることができ、及び/又は、補強材として、織布又は不織布を構成する繊維よりも強度が高くグラフト重合速度の遅いポリマー材料を組み合わせることができる。このようなグラフト重合用基材を放射線グラフト重合にかけると、上記に説明したポリエチレン材料と同様に、織布/不織布材の部分と、補強材の部分のグラフト率が異なり、したがって寸法変化が異なることにより、グラフト重合後の基材は、同様に起伏を有するようになるため、セパレータを用いることなくプリーツ状に成形することが可能になる。また、補強材に関してはグラフト重合率が低いので、その強度が大きく損なわれることがなく、これにより基材の物理的強度が保たれる。
【0022】
即ち、本発明の第2の態様は、ポリマー繊維から構成される織布又は不織布と、該ポリマー繊維よりも強度が高く放射線グラフト重合速度の遅いポリマー補強材とから構成されることを特徴とする織布又は不織布状の放射線グラフト重合用ポリマー基材に関する。
【0023】
本発明の第2の態様に用いることのできる材料としては、織布又は不織布を構成するポリマー繊維としては、塩化ビニルやフッ化ビニルなどのハロゲン化ポリオレフィン類などを用いることができる。また、補強材を構成するポリマー材料としては、ハロゲン化ポリオレフィン類、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン繊維、ビニロン繊維、セルロース繊維、ガラス繊維などの無機繊維などを使用することができる。
【0024】
本発明の上記態様において、グラフト重合用基材にグラフト重合を施した後に形成される起伏の高さ(即ち、プリーツ状に成形した際のプリーツ間の間隔)、数などは、補強材とポリマー繊維基材のグラフト率、補強材の形状、目付、厚さなどを調整することにより制御することができる。
【0025】
また、ポリマー繊維から織布又は不織布基材を形成する際に、該ポリマー繊維よりも放射線グラフト重合速度の遅い他のポリマー繊維を合わせて用い、該ポリマー繊維と該他のポリマー繊維とを混合して織布又は不織布基材を形成することによっても、放射線グラフ
ト重合後の織布又は不織布基材の強度を高めることができる。例えば、ポリエチレン繊維と、ポリエチレンテレフタレート繊維(放射線グラフト処理にかけても殆ど反応しないことが知られている)とを、約80:20の比率で混合して不織布を形成して放射線グラフト重合用基材を得ることができる。このような放射線グラフト重合用基材は、ポリエチレン繊維とポリエチレンテレフタレート繊維とがランダムに絡み合っており、これを放射線グラフト重合反応にかけると、ランダムに絡み合った繊維のうちのポリエチレン繊維のみがグラフト反応し、ポリエチレンテレフタレート繊維は殆ど未反応のままとなる。したがって、グラフト反応が起こっていないポリエチレンテレフタレート繊維によって不織布基材の強度が保たれる。但し、この場合には、ポリエチレン繊維とポリエチレンテレフタレート繊維とが、ランダムに、即ち均一に配置されているので、放射線グラフト重合反応後に起伏は殆ど形成されず、プリーツ状に成形して用いる場合には従来通りスペーサーを使用する必要がある。
【0026】
即ち、本発明の第3の態様は、ポリマー繊維と、該ポリマー繊維よりも放射線グラフト重合速度の遅い他のポリマー繊維とを混合して織布又は不織布を形成したことを特徴とする織布又は不織布状の放射線グラフト重合用ポリマー基材に関する。
【0027】
本発明の第3の態様に用いることのできる材料としては、ポリマー繊維としては、ポリエチレン、或いは塩化ビニルやフッ化ビニルなどのハロゲン化ポリオレフィン類などを用いることができる。また、該ポリマー繊維よりも放射線グラフト重合速度の遅い他のポリマー繊維としては、ハロゲン化ポリオレフィン類、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン繊維、ビニロン繊維、セルロース繊維、ガラス繊維などの無機繊維などを使用することができる。また、他のポリマー繊維として、これらの繊維の2以上を組み合わせて用いることもできる。
【0028】
また、ポリエチレン単繊維の織布又は不織布からなる基材から形成される放射線グラフト素材の強度を高める他の手法として、本発明者らは、ポリエチレン単繊維で構成される織布又は不織布状の基材に放射線グラフト重合処理を行う際に、グラフト反応を繊維の表面部分のみにとどめ、繊維の中心部分は非グラフト状態のままで残存させることにより、従来用いることが難しかったポリエチレン単繊維を用いて、物理的強度の高い、放射線グラフト処理された織布又は不織布素材を提供することができることを見出した。
【0029】
即ち、本発明の第4の態様は、ポリエチレン単繊維から構成される織布又は不織布材料であって、該繊維の表面部分のみが放射線グラフト重合処理され、繊維の中心部分が非グラフト状態であることを特徴とする放射線グラフト処理材料に関する。
【0030】
一般に、放射線グラフト重合は、基材にイオン交換基などの機能性官能基を導入するために行われるので、できるだけ多くの機能性官能基を導入して基材の官能基密度を高めるという観点から、基材の内部深くにまでグラフト重合を行うことが望ましいというのが、当該技術において従来一般的に考えられていた事項である。しかしながら、ポリマー材料に放射線グラフト重合処理を施すと、材料の物理的強度が低下することが知られている。特に、放射線グラフト重合を介して、イオン交換基などに代表される親水基を基材に導入する場合には、イオン交換基の周りに水が引き付けられるので、基材の物理的強度が、グラフト前と比較して大きく低下する。
【0031】
本発明の第4の態様に係る放射線グラフト素材においては、繊維断面の中心部分はグラフトすることなしに、表面部分のみにおいてグラフト重合を行っているので、繊維の中心部分の非グラフト部分の物理的強度は、グラフト前の値を保持する。したがって、繊維全体としての物理的強度をあまり損なうことなく、放射線グラフト重合を介して機能性官能基が導入された繊維素材を得ることができる。即ち、本発明の第4の態様に係る放射線グ
ラフト処理材料においては、繊維の中心部分の非グラフト部分が物理的強度保持機能を、繊維の表面部分のグラフト重合された部分が、グラフト重合によって導入されるイオン交換機能等の付加機能を果たすのである。
【0032】
このように、本発明の第4の態様においては、従来の放射線グラフト処理では考えられなかった物理的強度の保持が達成されるので、繊維の強度やへたり等の問題のために、放射線グラフト重合用基材として従来用いることのできなかったポリエチレン単繊維によって構成した織布又は不織布基材を用いて、優れた物理的強度と高いグラフト率を示す放射線グラフト処理材料を得ることができる。
【0033】
本発明の第4の態様において、「繊維の表面部分のみが放射線グラフト重合処理される」とは、繊維断面の全体がグラフト処理されることなく、繊維断面の中心部分に非グラフト部分が残留していることを意味する。非グラフト部分の割合が大きいと、グラフト処理繊維素材の強度は高いが、グラフト率が低くなる。逆に非グラフト部分の割合が小さいと、高いグラフト率が達成されるが、グラフト処理繊維素材の強度が低くなる。グラフト処理部分の深さは、素材の用途によって、望ましいグラフト率と素材の強度とのバランスで決定される。通常は、繊維断面の表面から2/3〜1/3の深さまでグラフト処理された繊維素材が、強度保持と高グラフト率達成のバランスの上で好ましい。
【0034】
繊維基材の表面部分のみにおいてグラフトが行われ、中心部分に非グラフト部分が残存するように放射線グラフト重合反応を進行させること及びグラフト部分の深さの決定は、繊維基材の種類、サイズ、放射線照射の方法、放射線照射の強度、時間、グラフト重合反応の方法、グラフト重合反応条件などの各種パラメーターを適宜選択することにより、当業者が経験的に行うことができる。
【0035】
ポリエチレンは、製造方法により、低密度ポリエチレンと高密度ポリエチレンとに分類される。低密度ポリエチレンは、結晶化度が50〜60%と小さく、非晶部分が多いので、グラフト反応の際にモノマーの拡散速度が大きく、繊維内部にまでグラフト重合が起こり易い。これに対して、高密度ポリエチレンは、比重が0.94より大きく、結晶化度が80〜90%と高くて非晶部分が少ないので、グラフト反応を比較的繊維の表面付近に止めておくのに好都合である。更に、高密度ポリエチレンは、結晶内に生成するラジカル、即ちグラフト反応に使用することができるラジカルが多く、グラフト重合後の強度が大きく、到達グラフト率が高いなどといった利点を有するので、本発明に係る放射線グラフト処理素材を製造するための基材として優れている。
【0036】
なお、本発明の第4の態様に係る技術思想に関しても、ポリエチレン単繊維から構成された織布又は不織布をベースとする素材のみならず、他のポリマー材料にも適用することができる。即ち、本発明の第5の態様は、ポリマー単繊維から構成される織布又は不織布材料であって、該繊維の表面部分のみが放射線グラフト重合処理され、繊維の中心部分が非グラフト状態であることを特徴とする放射線グラフト処理材料に関する。本発明の第5の態様において用いることのできる織布又は不織布材料を構成する繊維基材としては、ポリエチレンの他に、塩化ビニルやフッ化ビニルなどのハロゲン化ポリオレフィン類などを挙げることができる。
【0037】
本発明に係るグラフト重合用基材に放射線グラフト重合を行う方法としては、予め基材に放射線を照射してラジカルを形成した後、重合性単量体(モノマー)を接触させる前照射グラフト重合法と、基材をモノマーの存在下で放射線照射する同時照射グラフト重合法とがあるが、本発明においてはいずれの方法も採用することができる。
【0038】
また、グラフト重合方法は、モノマーと基材との接触の仕方によって、以下のような方
法に分類される。
照射済基材をモノマー液に浸漬したままグラフト重合する方法を液相グラフト重合といい、この場合には反応温度20〜60℃、反応時間2〜10時間が好適である。液相グラフト重合法は、均一にグラフト重合を行うことができるが、薬剤を多量に消費するという問題がある。
【0039】
照射済基材とモノマー蒸気とを接触させる方法を気相グラフト重合といい、比較的蒸気圧の高いモノマーにしか適用できず、グラフトむらが発生しやすいが、廃液発生量が少なく、グラフト重合後の基材が乾燥状態で得られるといった利点がある。この場合には、反応温度として20〜80℃、反応時間2〜10時間が好適である。
【0040】
上記のいずれの重合方法も、本発明に適用することができる。
また、照射済基材に所定量のモノマーを付与して、真空中又は不活性ガス中で反応させることによりグラフト重合する方法を含浸グラフト重合といい、この場合には反応温度20〜60℃、反応時間0.2〜8時間が好適である。この含浸グラフト重合法では、用いたモノマーのほとんど全部を反応させるため、未反応薬剤の残留量が少ないので経済的であり、また、グラフト重合後の基材が乾燥状態で得られるので、基材の取扱いが簡単で、廃液の発生量が少ないなどといった利点を有する。この方法は、織布/不織布などの空隙性材料をグラフト基材とする場合に極めて有効である。
【0041】
なお、含浸グラフト重合法は、以下の理由により、本発明の特に第4及び第5の態様に用いるのに非常に有効である。放射線グラフト重合では、ラジカルを有する照射済基材とモノマーとを接触させて重合反応させるのであるが、重合反応の進行と共に、ラジカルが照射済基材からモノマーへと移動し、モノマー自体が重合を始めるという現象が起こる。このため、反応の後半になるに連れて、モノマーの分子量が大きくなり、モノマーが繊維基材の内部に含浸/侵入することが困難になるため、グラフト反応を繊維基材の表面部分に止め易いのである。これに対して、液相グラフト重合の場合には、モノマー量が基材よりも圧倒的に多いので、反応後半においても未重合モノマーの割合が大きく、これら未重合モノマーが繊維内部へと拡散浸透するので、本発明の第4及び第5の態様に係る繊維の表面部分のみが放射線グラフト重合処理されたグラフト処理素材を得るためには、グラフト反応時間や反応温度などの条件を確実に制御する必要がある。
【0042】
本発明において用いる織布又は不織布基材を構成するポリエチレン単繊維は、通常、数デニールから数十デニールの太さのものが好ましい。
本発明においてグラフト基材として用いられる織布/不織布の製法としては、当該技術において周知の種々の方法を用いることができるが、ニードルパンチを行ったり、スポット溶接のようなエンボス加工を行ったものなどのように、繊維の集合体を分散させないように種々の工夫を施す方法を採用することが好ましい。
【0043】
放射線グラフト重合によって基材に導入する重合性単量体としては、それ自体が種々の機能性官能基を有する重合性単量体や、或いはそれをグラフトした後に更に2次反応を行うことによって機能性官能基を導入することのできる重合性単量体を用いることができる。
【0044】
例えば、本発明によってイオン交換フィルター素材を製造する場合、イオン交換基を有するモノマーとして、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、メタリルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライドなどを用いて放射線グラフト重合を行うことにより、繊維基材に直接機能性官能基を導入してイオン交換フィルター素材を得ることができる。
【0045】
また、放射線グラフト重合の後に更に2次反応を行ってイオン交換基を導入することのできるモノマーとしては、アクリロニトリル、アクロレイン、ビニルピリジン、スチレン、クロロメチルスチレン、メタクリル酸グリシジルなどが挙げられる。例えば、メタクリル酸グリシジルを放射線グラフトによって不織布基材に導入し、次に、亜硫酸ナトリウムなどのスルホン化剤を反応させてスルホン基を導入することにより、イオン交換繊維を得ることができる。また、メタクリル酸グリシジルを介して、ジエタノールアミンなどによって4級アンモニウムや3級アミノ基などのイオン交換基を導入することもできる。
【0046】
本発明の適用例としては、主としてイオン交換フィルター素材を得る方法が挙げられるが、本発明は、この他にもキレート基を有する重金属吸着剤、触媒、アフィニティクロマトグラフィー用担体などにも適用することができる。
【0047】
なお、上記記載の本発明の第1〜第3の態様と、第4及び第5の態様とを組み合わせることもできる。即ち、ポリマー繊維から構成される織布又は不織布と、該ポリマー繊維よりも強度が高く放射線グラフト重合速度の遅いポリマー補強材とから構成される織布又は不織布状の放射線グラフト重合用ポリマー基材、或いは、ポリマー繊維と、該ポリマー繊維よりも放射線グラフト重合速度の遅い他のポリマー繊維とを混合して織布又は不織布を形成したことを特徴とする織布又は不織布状の放射線グラフト重合用ポリマー基材を用い、該基材に対して放射線グラフト重合反応を行って、その際、ポリマー繊維の表面部分のみが放射線グラフト重合処理されるようにすることによって、強度に優れた放射線グラフト処理材料を得ることができる。
【0048】
また、本発明者らは、織布又は不織布材料に対して放射線グラフト重合を行う極めて有効な方法をも見出した。これについて以下に詳説する。
上述したように、放射線グラフト重合法は、同時照射グラフト重合法と前照射グラフト重合法とに分類することができる。いずれの重合法も実用化することができるが、前照射グラフト重合法は、モノマー自体が重合することにより生成する単独重合物(ホモポリマー)の生成量が少なく、例えば水処理用としては純水製造用材料、ガス処理用としては空気浄化用やクリーンエア製造用の材料を製造するための方法として、好適である。
【0049】
前照射グラフト重合法の中でも、照射済み基材と接触させるモノマーが液体か気体かによって、液相グラフト重合法と気相グラフト重合法とに分類される。
気相グラフト重合法は、モノマー使用量が少なく、経済的であるが、蒸気圧の高いモノマーにしか適用することができず、また、製品にグラフトむらを生じ易いという問題点を有している。これに対して、液相グラフト重合法は、広範なモノマーに適用することができるので、汎用性が高い。
【0050】
しかしながら、織布や不織布などのような空隙の非常に多い基材に対して前照射液相グラフト重合を施す場合には、放射線の照射時やグラフト重合反応時に、基材中の空隙内に入り込んでいる酸素を十分に除去しておかなければ、高いグラフト率で均一にグラフト重合することが難しく、グラフト重合後の製品の物理的安定性にも問題を生じる。更に、グラフト重合後に、基材の空隙内に入り込んでいる不要なモノマーを洗浄するのに多量の洗浄液を必要とし、その廃液処理に多大なコストがかかる。
【0051】
このような問題点を解決する方法として、本発明者らは、特許1933644号において、新しいグラフト重合法を提案した。
この方法は、放射線照射とグラフト重合反応とを分離して、予め放射線照射した基材に、所定量のモノマー液を含浸し、その後減圧を行うことによって残存酸素を除去して、気相減圧下でグラフト重合反応させるという放射線グラフト重合法である。この方法は、基材に付着したモノマー液が気相グラフト反応のモノマー蒸発源となること、グラフト後の
製品が乾燥状態で仕上がること、グラフト率の制御が容易であることなどといった点で、液相グラフト重合法と気相グラフト重合法の両方の利点を兼ね備えた画期的な方法であった。更に、この方法は、放射線照射工程と、グラフト重合反応工程とを分離したことにより、グラフト重合反応を行う者が照射線源を所有する必要がなくなり、少量生産に向いていた。
【0052】
しかしながら、この方法には、次のような問題点があった。放射線照射において基材中に生成するラジカルの分布は、放射線のエネルギーにも依存するが、基材中において均一である。放射線照射とグラフト重合反応とが分離して行われると、非晶部のラジカルは消失し、結晶内に生成したラジカルのみがグラフト重合反応に利用されることになる。したがって、ラジカルの利用効率が小さく、十分なグラフト率を得るためには、高い線量を照射しなければならなかった。
【0053】
また、放射線照射からグラフト重合反応までの時間が長くなると、照射済み基材の収納容器の材質にも依存するが、収納容器から酸素の混入が起こり、ラジカル数の減少やラジカルの質の変質が起こり易い。更に、照射済み基材の保管工程からグラフト重合反応に移行する段階は、収納容器からの照射済み基材の取出し、取出した基材の反応装置への収納・取付けなどの作業に人手を要するのに加えて、この段階中に基材が空気中に曝露されるので、ラジカルの減少、変質が起こり易かった。
【0054】
グラフト重合時においては、放射線照射時よりも更に酸素の存在が反応の進行に悪影響を与えるので、一度空気中に曝露された基材から酸素を除去しなければならず、基材の空隙内に入り込んだ酸素を十分に除去するには、減圧操作が必要であった。したがって、グラフト重合反応容器を、真空容器に準じた密閉容器にする必要があり、処理工程の連続化を阻む大きな要因になっていた。
【0055】
このような現状において、長尺の織布又は不織布材料を、大量に連続的に放射線グラフト重合処理することのできる方法が待望されていた。
本発明者は上記の課題を解決する方法を見出すべく鋭意研究を重ねた結果、基材への電子線の照射、照射済み基材へのモノマーの含浸及びグラフト重合反応を、窒素雰囲気中で連続に行うことによって、特に長尺の織布/不織布材料に対して効率よく放射線グラフト重合を行うことができることを見出した。即ち、本発明の第6の態様は、繊維の集合体である織布又は不織布基材に、窒素雰囲気中で電子線を照射する第1工程;照射済みの該基材を、窒素雰囲気中で所定量のモノマーに接触させる第2工程;接触させたモノマーと基材とを、窒素雰囲気中でグラフト重合する第3工程;を含み、第1工程から第3工程までを連続で行うことを特徴とする、長尺織布又は不織布基材の放射線グラフト重合方法に関する。所望の場合には、上記第1工程の前に、基材中に存在する空気を窒素ガスで置換する予備工程を行うことが好ましい。
【0056】
本発明方法の第6の態様において用いる放射線の線源としては、電子線が好ましい。γ線を用いる場合には、ロール状に巻かれた織布又は不織布基材を照射台の上に載置して、冷却しながら照射するが、これは人手の必要な作業のため、1バッチあたりの処理基材量が数百メートルと限られてしまう。これに対して、電子線照射では、放射線の透過力は小さいが、線量率が大きいために、織布や不織布をロールから高速で送り出して照射を行い、再びロールに巻き取るという方法を採用することができる。したがって、基材のm数が大きくなっても問題が生じないので、大量生産に向いている。
【0057】
本発明の第6の態様においては、電子線の照射条件は、電圧が100keV〜500keVの範囲、電子線電流が3mA〜50mAの範囲、照射線量が30kGy〜200kGyの範囲であることが好ましい。上記のパラメーターがこの範囲内であると、通常の織布
又は不織布の表裏に均一にラジカルが生成され、基材の搬送速度も、量産が可能な程度に十分に大きくとることができる。
【0058】
本発明の第6の態様に係る方法においては、放射線照射工程とグラフト重合反応とが連続しているため、放射線照射によって生成したラジカルが消失しないうちにグラフト反応に利用することができる。したがって、必要な照射線量は、従来の方法の1/4〜1/7に低減することができる。
【0059】
本発明の第6の態様において、放射線照射時における窒素雰囲気を達成するための手段としては、当該技術において周知の種々の方法を用いることができるが、系中に液体窒素を導入するという方法が、酸素の除去と照射時の昇温防止とを同時に達成することができるので好ましい。電子線照射時の基材の温度は、基材の形状や、放射線照射からグラフト重合反応までの時間にもよるが、概して−50℃〜+50℃であることが好ましい。本発明方法によれば、放射線を照射した基材を、グラフト重合前に空気に曝露することがないので、基材中に入り込む酸素を極力低減することができ、また、グラフト重合反応容器を密閉構造にして減圧にする必要もないため、処理工程を連続化することが可能である。
【0060】
本発明の第6の態様に係る方法においては、放射線照射を行う前に、織布又は不織布基材中に存在している酸素を除去することが必要であるが、この酸素の除去のために窒素置換の予備工程を設けることが好ましい。例えば、放射線照射工程において、基材に窒素を吹き付けるなどといった方法を採用することによっても基材中の酸素を除去することができ、この場合には窒素置換予備工程を不要にすることもできるが、本発明方法を様々な形状の織布又は不織布基材に適用するためには、窒素置換の予備工程を設けた方が好ましい。
【0061】
窒素置換は、系の減圧−窒素導入の操作を行うことによって達成することができる。減圧−窒素導入操作の回数は、処理する基材の形状や基材の長さなどによって決定することができる。窒素置換予備工程における減圧操作は、密閉容器中で行う方が好ましいが、グラフト重合反応時ほど酸素濃度の制御を厳しく行う必要がないので、連続装置の中で一定の減圧状態を保持することが可能なチャンバーを配置することでも十分である。減圧−窒素導入の操作を数回繰り返すことにより、基材の空隙中の酸素濃度を、容易に所望の値以下に低下させることができる。本発明方法において十分な窒素置換を行うために必要な減圧の程度及び窒素導入の量は、基材の形状、素材、基材の搬送速度等によって大きく変化するが、一般に、系を20〜30mmHgに減圧した後、窒素を導入して系の圧を大気圧とすることにより、窒素置換を行うことができる。系中の酸素濃度を更に低くする場合には、この操作を2〜3回繰り返すことができる。
【0062】
本発明の第6の態様に係る方法においては、放射線照射工程とグラフト重合反応工程との間に、基材と所定量のモノマーとを接触させる第2工程を設けている。この工程は、グラフト重合反応に使用する量のモノマーを放射線照射を行った基材に予め付与しておくためである。本工程において、グラフト重合反応に使用される量を超える過剰のモノマーを基材から除去しておくことにより、グラフト重合反応後に基材から過剰のモノマーを除去する作業を排除することができる。また、照射済み基材をモノマー液中に浸漬させたまま液相グラフト重合を行う従来法においては、グラフト率の制御を反応温度と反応時間で行っていたが、本発明方法によれば、モノマー付与量が制御されることにより、反応温度と反応時間による制御に加えて、更に安定したグラフト率の制御が可能になる。
【0063】
基材を所定量のモノマーと接触させる方法としては、当該技術において公知な種々の方法を採用することができるが、例えば製品をケミカルフィルターとして用いる場合のようにその寿命が長い方が好ましい場合には、グラフト率が大きい方が好ましく、この目的の
ためには、基材をモノマー液中に含浸するのが簡単な方法である。但し、基材をモノマー液中に浸漬して基材を引き上げると、モノマー液の付着量は、基材の重量の5倍以上になり、液だれが起こる。本発明方法において、所定量のモノマーを基材に接触させるためには、余分なモノマー液をロール等で絞り取ることが必要である。もちろん、当該技術において周知の他の方法によって余分なモノマー液を取り除くことができる。
【0064】
所定量のモノマー液を付与された基材は、次に、グラフト重合工程にかけられる。本発明方法において、グラフト重合は、モノマーを含浸された基材を、窒素雰囲気下で、20〜80℃のグラフト重合温度に加熱することによって行われる。この際、グラフト重合反応温度にも依存するが、高いグラフト率を短時間で得るためには、雰囲気中の酸素濃度を1000ppm以下に維持することが望ましい。所定の反応速度と到達グラフト率を達成するように、酸素濃度、放射線照射線量、グラフト重合反応温度を適宜調整することができる。本発明においては、一般に、上記の範囲内のグラフト重合温度において、5分間〜5時間、好ましくは5分〜1時間、最も好ましくは10分〜30分間、基材を加熱することによってグラフト重合反応を進行させる。
【0065】
図6に本発明の第6の態様に係る方法を行うための装置の概念を示す。該装置は、織布又は不織布基材中に存在する空気を窒素ガスで置換するための窒素置換槽1;織布又は不織布基材に、窒素雰囲気中で電子線を照射するための電子線照射装置3;照射済みの基材を、窒素雰囲気中でモノマーに接触させるためのモノマー含浸槽4;接触させたモノマーと基材とを、窒素雰囲気中でグラフト重合するためのグラフト重合槽5;のそれぞれの装置が、直列に配置されて構成されている。また、ロール状の織布又は不織布基材2を引き出して、上記各装置中を連続して通過させて、グラフト重合処理が終了した後に再びロール状に巻き取るための、シート材料移送手段が、各装置内に配置されている。シート材料移送手段は、シート引き出し装置7、シート搬送ロール8、及びシート巻き取り装置9から構成される。上記に説明したように、窒素置換工程は省略することができ、この場合には、窒素置換槽1は不要である。
【0066】
本発明に係る長尺基材の連続処理装置においては、長尺の基材を、適当な搬送速度で装置中を搬送させることにより、各工程における連続処理にかける。適当な搬送速度は、一般的に、1〜20m/分、好ましくは2〜15m/分、最も好ましくは2〜10m/分の範囲内である。
【0067】
本発明の第6の態様に係る方法を用いて放射線グラフト重合処理することのできる基材としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンや、ポリ塩化ビニルなどのハロゲン化ポリオレフィンなどを材質とする織布、不織布、発泡体等の長尺材料などが挙げられる。
【0068】
なお、本発明の第6の態様に係る方法においては、放射線グラフト重合処理を行う織布又は不織布の長尺シート材料(放射線グラフト重合用長尺シート材料)をそのまま図6に示すような反応装置に取り付けて処理することもできるが、その場合には長尺シート材料の前端部及び後端部に未反応の部分ができる。即ち、図6に示す反応装置に長尺シート材料を取り付けた後、各工程を反応条件にして、巻き取りロール9によって長尺シート材料を巻き取りながら反応を行わせた場合、装置内に当初に取り付けられた長尺シート材料のうち、運転開始時に照射領域3から先の領域に存在していた部分については放射線グラフト重合反応の全工程が行われないままロール9に巻き取られることになる。また、複数のシート材料のロールを連続して処理する場合には、一つの長尺シート材料のロールを処理した後に次のロールを取り付ける際に、先の長尺シート材料の後端部と後の長尺シート材料の前端部とを接合して反応を再開すれば、接合箇所における未反応部分はなくなるが、全てのロールの処理を完了して反応装置を停止させる場合には、シート引き出し装置7か
ら最後のロールのシートが全て引き出され、反応装置を停止させた後に全てのシート材料を巻き取りロール9によって巻き取ることになるので、反応停止時に装置内の重合反応領域5から前の領域に存在していた部分についても、放射線グラフト重合反応の全工程が行われないままロール9に巻き取られることになる。このように、放射線グラフト重合用長尺シート材料の前端及び後端部に放射線グラフト重合反応が行われていない部分が存在するため、この部分を取り除いてフィルター素材などとして使用することになり、製品の歩留まりが低下するという問題がある。例えば、放射線グラフト重合用長尺ロールシートの長さが500mで反応装置内の行程長が50mであるとすると、最初のロールの前端の50m及び最後のロールの後端の50mは未反応の状態で巻き取られることになり、この部分については製品として使用できないことになってしまう。
【0069】
このような問題点を解決するための手段としては、反応装置の行程長と同等か若しくはこれよりも多少大きな長さを有する搬送用長尺材料(ダミーシート)を使用することが考えられる。例えば、まず、このようなダミーシートの前端部が図6に示す装置の巻き取りロール9に取り付けられ、後端が窒素置換槽1内に配置されるように、ダミーシートを装置内の搬送ラインに取り付け、次に放射線グラフト重合用長尺シート材料のロールをシート引き出し装置7にセットし、放射線グラフト重合用長尺シート材料の先端とダミーシートの後端部とを窒素置換槽1内で接合した後、装置の各工程を反応条件にして巻き取りロール9によってダミーシートを巻き取ることにより、放射線グラフト重合用長尺シート材料が順次送り出されるようにする。このようにすれば、放射線グラフト重合用長尺シート材料を、その前端部から全て放射線グラフト重合反応の全工程にかけることができる。更に、放射線グラフト重合用長尺シート材料の後端部に更にダミーシートを接合しておけば、放射線グラフト重合用長尺シート材料を全て放射線グラフト重合反応の全工程にかけてロール9に巻き取った後に装置を停止して、巻き取られた放射線グラフト重合処理済みの長尺シート材料をダミーシートから切り離して取り出す。次に装置内に残されたダミーシートの前端を巻き取りロール9に取り付け、若干量を巻き取りロール9に巻き取ってダミーシートの後端部が窒素置換槽1内に配置されるような状態にした後、新たな放射線グラフト重合用長尺シート材料のロールを引き出し装置7にセットし、上記と同様にダミーシートの後端と放射線グラフト重合用長尺シート材料の前端とを接合した後に、装置の各工程を反応条件にして巻き取りロール9を稼働させることにより、同様に長尺シート材料の全てを放射線グラフト重合処理処理することができる。また、これにより、ロールの取り替えの度に、シート材料を装置内の搬送ラインに沿って取り付ける手間が省け、大きな省力化につながる。
【0070】
上記のような目的で用いることのできる搬送用長尺シート(ダミーシート)としては、ハロゲン化ポリオレフィン類、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン繊維、ビニロン繊維、セルロース繊維、ガラス繊維などの無機繊維などを材質とする非多孔性のフィルムや、ネット材、織布/不織布などを挙げることができる。
【0071】
なお、上記本発明の第6の態様に係る方法では、通常のポリマー単繊維からなる織布/不織布長尺材料を用いて放射線グラフト重合処理することができるが、この場合、グラフト反応によって基材繊維が脆くなって、ロール巻き取りによる装置内での搬送中に織布/不織布長尺材料が破断してしまうなどといった問題点が発生することがある。しかしながら、このような問題点は、織布又は不織布長尺シート基材と、当該長尺シート基材と同等の長さを有するシート搬送用支持材料(搬送シート)とを接合して一緒に巻き取りロールによって巻き取ることによって織布又は不織布長尺シート基材を装置内で搬送することによって解決することができる。このような搬送シートを用いれば、ロールの巻き取り張力によって織布又は不織布長尺シート基材が破断されるなどといった事態を回避することができ、長尺シート基材の強度を考慮することなしにある程度強い力で巻き取ることが可能になる。この手法を実施する手段としては、例えば、図7に示すように、織布又は不織布
長尺シート基材のロール7と、当該長尺シート基材と同等の長さを有する搬送シートのロール7’とを用意し、これらを窒素置換槽内で接合し、接合されたシートを装置内のラインに沿って搬送して、グラフト反応槽を通過した後に、シートを分離して、それぞれの巻き取りロール9及び9’に巻き取るといった方法が挙げられる。
【0072】
上記のような目的で用いることのできるシート搬送用支持材料(搬送シート)としては、ハロゲン化ポリオレフィン類、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン繊維、ビニロン繊維、セルロース繊維、ガラス繊維などの無機繊維などを材質とするネット材や、フィルム、織布/不織布などを用いることができる。
【0073】
更に、本発明の第6の態様に係る方法に従って放射線グラフト重合処理を行う長尺シート材料として、本発明の第1及び第2の態様に係る補強材を組み合わせた織布/不織布材料を用いたり、又は本発明の第3の態様に係る混合ポリマー繊維から構成される織布/不織布材料を用いたり、あるいは本発明の第6の態様に係る放射線グラフト重合処理工程において、本発明の第4及び第5の態様にしたがって繊維の表面部分のみをグラフトすることにより、織布/不織布材料の強度を保持することにより、繊維自体の強度を確保して、上記のようなロール巻取り張力によるシート基材の破断等の問題点を解決することができると共に、グラフト処理後の基材が脆く繊維の脱落が起こり易くなったり、グラフト処理によって基材の寸法が大幅に減少してしまうなどといった基材自体の問題点をも解決することができる。
【0074】
即ち、本発明の第7の態様は、織布又は不織布基材に、窒素雰囲気中で電子線を照射する第1工程;照射済みの該基材を、窒素雰囲気中で所定量のモノマーに接触させる第2工程;接触させたモノマーと基材とを、窒素雰囲気中でグラフト重合する第3工程;を含み、第1工程から第3工程を連続で行うことを特徴とする、長尺織布又は不織布基材の放射線グラフト重合方法であって、織布又は不織布基材が、ポリマー繊維から構成される織布又は不織布と、該ポリマー繊維よりも強度が高く放射線グラフト重合速度の遅いポリマー補強材とから構成される織布又は不織布状の放射線グラフト重合用ポリマー基材、或いは、ポリマー繊維と、該ポリマー繊維よりも放射線グラフト重合速度の遅い他のポリマー繊維とを混合して織布又は不織布を形成したことを特徴とする織布又は不織布状の放射線グラフト重合用ポリマー基材であることを特徴とする上記方法に関する。更に、本発明の第8の態様は、ポリマー繊維から構成される織布又は不織布基材に、窒素雰囲気中で電子線を照射する第1工程;照射済みの該基材を、窒素雰囲気中で所定量のモノマーに接触させる第2工程;接触させたモノマーと基材とを、窒素雰囲気中でグラフト重合する第3工程;を含み、第1工程から第3工程を連続で行うことを特徴とする、長尺織布又は不織布基材の放射線グラフト重合方法であって、放射線グラフト重合反応を、該繊維の表面部分のみが放射線グラフト重合され、繊維の中心部分が非グラフト状態であるような条件下で行うことを特徴とする上記方法に関する。
【0075】
産業上の利用の可能性
本発明によれば、従来あまり用いられることのなかった織布又は不織布の形態のポリエチレンを用いて、優れた特性を示すポリエチレングラフト重合用基材が得られる。
【0076】
まず、本発明の第1及び第2の態様においては、補強材を導入したので、不織布材それ自体の強度が上昇し、更に、グラフト重合反応工程、イオン交換基導入反応工程、フィルター成形加工工程における強度の低下を示さないので、これらの工程における不織布材の破損や不具合が解消される。また、本発明の第1の態様に係るグラフト重合用基材をグラフト重合すると、基材の表面に起伏が形成されるので、これを例えばプリーツ状に成形してフィルターを形成すると、それ自体は吸着能力がなく、フィルターの有効濾過面積を減少させる原因となるセパレータを用いることなく、プリーツ間の間隔を一定に保持するこ
とができ、また、補強材部分においてもグラフト重合が行われており、機能性官能基が導入されているので、フィルター全体の機能を更に向上させることができる。また、セパレータを用いないので、フィルターの軽量化が図れる。更に、フィルターの製造工程が簡素化し、コストの低減が可能になる。
【0077】
また、本発明の第4の態様においては、織布又は不織布の形態のポリエチレン繊維又はポリマー繊維を用いて、補強材を用いることなく、優れた物理的強度及び高いグラフト率を示すポリエチレングラフト重合処理材料が得られる。また、本発明の思想を幅広いポリマー材料に適用して、優れた物理的強度と高いグラフト率を有するポリマーグラフト重合処理材料を得ることができる。
【0078】
本発明の第1〜第5の態様に係るグラフト重合処理材料は、空気清浄用ケミカルフィルター素材や、純水製造装置に用いられるイオン交換フィルター素材などとして、有用である。
【0079】
更には、本発明の第6の態様においては、従来困難であった、長尺基材を連続的に放射線グラフト重合処理にかけることが可能になり、長尺織布又は不織布材料の量産が可能になった。また、ラジカルの利用効率が高く、モノマー消費量が少なくて済み、グラフト重合反応後の洗浄工程も不要である。これによって、製造コストを低減することが可能になった。更に、グラフト重合製品の品質も安定化し、歩留まりが向上した。
【0080】
更に、本発明の第7及び第8の態様によれば、長尺基材の強度を保持しながら連続的に放射線グラフト重合処理にかけることが可能になり、グラフト重合製品の品質の向上を達成することができた。
【0081】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
繊維径20μmのポリエチレン繊維を用いて不織布を形成し、これにエンボス加工を施して、目付60g/m、厚さ約0.35mmの不織布材料を製造した。これに、100d(デニール)のポリエチレンフィラメントを、補強材として、長手方向及び幅方向にそれぞれ2〜3mmの間隔で網目状に編みこんだ。得られた補強不織布基材の引張強度は、長手方向において12kg/5cm、幅方向において5kg/5cmであり、十分な強度を有していた。
【0082】
この基材に、電子線50kGyを照射し、メタクリル酸グリシジルを2時間反応させて、グラフト率146%を得た。グラフト基材の一部からフィラメントを取出して、フィラメント補強材単独のグラフト率を測定したことろ37%であった。これにより、ポリエチレン繊維不織布単独のグラフト率は約160%であると算出された。基材のグラフト前及びグラフト後の表面の形状を図2及び3(顕微鏡写真)に示す。基材の厚さは、図3で示されるように表面に凹凸が形成されたために、約1.7mmに増加した。この不織布基材を、亜硫酸ナトリウム溶液でスルホン化することにより、フィラメント強化強酸性カチオン交換繊維不織布を得た。その中性塩分解容量を測定したところ、2.77meq/gであった。
【0083】
グラフト処理不織布材料の引張強度は、長手方向において17kg/5cm、幅方向において9kg/5cmであり、グラフト重合前よりも増加しており、イオン交換基導入工程でも不織布形状を維持できなくなるようなことは全くなく、繊維片の脱落も認められなかった。
【0084】
この材料を用いて、断面100mm平方、奥行き50mm、山数10のプリーツフィルターを成形した。この際、従来のセパレータを用いないで成形を行った。図8に示すガス吸着試験装置を用いて、5ppmのアンモニアガスを200L/分の速度でフィルターに通ガスした。なお、図8において、101はパーミエーター、102はガスサンプリングライン、103はフィルター取付け部、104は吸引ポンプ、105は流量計を示す。初期のアンモニア除去率は99%を超えていた。約23時間後に除去率が90%に低下した時点で通ガスを停止した。交換容量消費率は78%であった。
比較例1
ポリエチレンフィラメント補強材を編みこむことを除いた以外は実施例1と同様の不織布に、実施例1と同様に放射線グラフト重合及びスルホン化反応を行った。
【0085】
グラフト重合前の不織布材の引張強度は、長手方向において0.35kg/5cm、幅方向において0.07kg/5cmと小さかった。グラフト率は131%であり、重合後の形状は、所々に繊維の塊が認められ、厚さが1〜5mmとばらつきがあったが、不織布の形状は維持されていた。
【0086】
スルホン化反応後の不織布の形状は、取扱いが難しく、丁寧に扱っても綿状になってしまい、フィルターに加工することは無理であった。
実施例2
繊維径10〜30μmのポリエチレン繊維を用いて目付65g/m、厚さ0.4mmの不織布を形成し、その両面にポリエチレンネットを熱融着して、放射線グラフト重合用基材を得た。ポリエチレンネットは、厚さ約0.8mmのポリエチレンフィルムを引き裂いて糸状にし、これを網目幅5mmの網目状に配置し、更に縦線及び横線のそれぞれの間に斜めに糸を配置したネットを形成することにより強度補強を行ったものであった。これに、電子線50kGyを照射し、メタクリル酸グリシジルを2時間反応させて、グラフト率193%を得た。グラフト重合前及び後の基材の表面の形状を図4及び5(顕微鏡写真)に示す。同一の条件でポリエチレンネットのみを放射線グラフト重合してポリエチレンネット単独のグラフト率を測定したところ、70%であった。これにより、ネットを除いたポリエチレン不織布単独のグラフト率は275%であると算出された。放射線グラフト重合後の不織布材の厚さは、凹凸が形成されたために約4.2mmに増加していた。この不織布材を、亜硫酸ナトリウム溶液でスルホン化して、中性塩分解容量2.98meq/gのネット強化強酸性カチオン交換繊維不織布材を得た。
【0087】
この不織布材の引張強度は、グラフト重合前は、長手方向において8kg/5cm、幅方向において7kg/5cmであり十分な強度を有しており、グラフト重合及びスルホン化反応の後においても、長手方向において9kg/5cm、幅方向において15kg/5cmと全く低下することなく、むしろ強くなっていた。上記の処理の間、ポリエチレン繊維の形状の変化や繊維片の脱落は全く認められなかった。
【0088】
この材料を用い、従来のセパレータを用いないで、断面100mm平方、奥行き50mm、山数7のプリーツフィルターを成形した。図8に示す実験装置を用いて、2ppmのアンモニアガスを200L/分の速度でフィルターに通ガスした。初期のアンモニア除去率は98%を超えていた。約61時間後に除去率が90%に低下した時点で通ガスを停止した。交換容量消費率は74%であった。
比較例2
ポリエチレンネットを熱融着しなかったこと以外は実施例2と同様のポリエチレン繊維から構成される不織布に、実施例2と同様の条件で放射線グラフト重合及びスルホン化反応を行い、中性塩分解容量3.04meq/gの強酸性カチオン交換不織布材を得た。この不織布材の引張強度は、長手方向において6kg/5cm、幅方向において2kg/5cmであり、注意深く取扱ったために不織布の形状を維持していた。
【0089】
この不織布材を用いて、実施例2と同様のプリーツフィルターを製造し、通ガス試験を行おうとしたが、不織布の「へたり」のために、圧力損失が大きくなり、ガス流量が132L/分にしか達しなかった。そこで、プリーツの山部と山部との間に幅5mmのアルミニウム製波形セパレータを挿入した。このフィルターを使用して、実施例2と同様の通ガス試験を行った。除去率は通ガス初期においては99%であった。除去率90%に達したところで通ガスを停止したが、交換容量消費率は59%であり、実施例2における74%よりも低下していた。
実施例3
繊維径約20μmのポリエチレン繊維と、繊維径15μmのポリエチレンテレフタレート繊維とを量比75:25で混合した混合繊維を用いて、目付45g/m、厚さ0.25mmの不織布基材を形成した。この不織布の引張強度は、長手方向において8.2kg/5cm、幅方向において6.7kg/5cmであった。
【0090】
この不織布基材の試料(20cm×20cm、1.89g(即ちポリエチレン1.42g))に、実施例1と同様に放射線グラフト重合処理を行ったところ、4.67gのグラフト物が得られた。即ち、ポリエチレンに対するメタクリル酸グリシジルのグラフト率196%が得られた。この不織布材料を、実施例1と同様にスルホン化し、2.72meq/gの中性塩分解容量を有する強酸性カチオン交換不織布が得られた。
【0091】
この不織布は、寸法が19.4cm×20.0cm、厚さが0.63mmであり、厚さが増加した以外は、長手方向及び幅方向における寸法変化は殆どなかった。また、引張強度は、長手方向において7.5kg/5cm、幅方向において6.1kg/5cmであり、引張強度の低下も僅かで、フィルタ加工に十分な強度を有しており、また、連続反応のための搬送にも耐えられる十分な強度を有していた。
実施例4
6デニールの高密度ポリエチレン繊維を用いて、スポット溶着法によって、目付55g/mの不織布基材を製造した。基材の引張強度は、長手方向において5.3kg/5cm、幅方向において4.1kg/5cmであった。
【0092】
この不織布基材に、窒素雰囲気で電子線150kGyを照射した後、不織布重量の130%のメタクリル酸グリシジルを含浸させ、50℃で4時間反応させたところ、メタクリル酸グリシジルのグラフト率124%が得られた。このグラフト処理不織布基材を、亜硫酸ナトリウム10%、イソプロピルアルコール10%の水溶液中に浸漬し、80℃で8時間反応させることによって、スルホン化を行い、強酸性カチオン交換繊維不織布材料を得た。その中性塩分解容量を測定したところ、2.61meq/gであった。
【0093】
このグラフト処理不織布材料の繊維断面の硫黄原子の分布を、SEM−XMA(走査型電子顕微鏡−X線マイクロアナライザー:Scanning Electron Microscope- X-ray Microanalyzer)で観察した。SEM−XMA写真を図9に示す。図9aは、繊維断面のSEM
写真であり、図9bは、繊維断面のイオウ原子の分布を示すXMA写真である。図9bから、繊維断面の半径の表面から約1/3の部分にイオウ原子が存在することが示され、これにより、表面から1/3の部分がグラフト重合されており、中心から約2/3の部分は非グラフト状態のままであることが示された。この不織布材料の引張強度は、乾燥状態で、長手方向において4.6kg/5cm、幅方向において3.7kg/5cmと、処理前に比較して約10%低下したに過ぎず、その後のフィルター加工には、何の支障もなかった。
比較例3
6デニールの低密度ポリエチレン繊維を用いて、スポット溶着法によって、目付60g/mの不織布基材を製造した。基材の引張強度は、長手方向において4.4kg/5c
m、幅方向において3.7kg/5cmであった。この不織布基材を、実施例1と同様に、放射線グラフト重合にかけ、スルホン化を行った。基材全体でのスルホン化前のメタクリル酸グリシジルのグラフト率は130%であった。2.77meq/gの中性塩分解容量を有する強酸性カチオン交換繊維不織布材料が得られた。しかしながら、繊維の強度が不十分であり、一部において不織布の形状が維持できずに綿状になっていた。このグラフト処理材料の繊維断面の硫黄原子の分布を、SEM−XMAで観察した。SEM写真及びXMA写真を図10に示す。図10aは、繊維断面のSEM写真であり、図10bは、繊維断面のイオウ原子の分布を示すXMA写真である。図10bから、繊維断面の中心部分までイオウ原子が存在しており、したがってグラフト反応が繊維断面の中心まで進行していることが分かった。したがって、実施例4の場合と対比して、比較例3においてはグラフト部位が基材の断面全体に分散されており、実施例4においては、基材の表面部分において、より高い密度でグラフトが行われていることが理解される。
【0094】
このグラフト処理不織布材料の引張強度は、乾燥状態で、長手方向において1.4kg/5cm、幅方向において0.3kg/5cmと低下が激しく、これをプリーツ状フィルター素材に加工すると、不織布が破れたり、微細な繊維屑が多量に発生するなど、強度が不十分であった。
実施例5
繊維径約15μmのポリエチレン(PE)単繊維より形成された目付50g/m、厚さ0.3mmの不織布長尺シート(50cm幅×600m)のロール7を、図6に示すような装置の窒素置換槽1に入れ、シートの端部をダミーのネットに接合した。ダミーのネットは、巻き取りロール9から、グラフト重合処理槽5、モノマー含浸槽4及び放射線照射装置3を経て、端部が窒素置換槽1にまで至るものであり、これを巻き取ることにより、照射用の不織布シート2が順次送り出されるようにしたものである。
【0095】
窒素置換槽1と、放射線照射装置3に至るまでの間に存在する隔室と窒素置換槽の壁に設けたシャッターを閉じ、50mmHgまでの減圧及び大気圧までの窒素導入を2回繰り返して、窒素置換を行った。
【0096】
次に、該隔室から液体窒素を気化させた冷却窒素を導入して、放射線照射装置3の照射部の温度を−20℃に、酸素濃度を、グラフト重合処理槽5の出口側で200〜300ppmに設定した。
【0097】
放射線照射装置3の照射条件を、300keV、15mAに設定すると共に、ダミーのネットの搬送速度を2m/分になるように、駆動ロール及び巻き取り装置を調節した。
次に、ダミーのネットを巻き取り、ネットの端部に接合した不織布シート2を、放射線照射装置中に順次搬入させ、放射線照射を行い、更にモノマー含浸槽4でメタクリル酸グリシジル溶液を含浸させ、次のグラフト重合処理槽5において、50℃で20分間グラフト重合反応を行った。不織布シートへのモノマーの含浸率は、予め別の不織布シートを用いて120%となるように絞りロールを調整した。
【0098】
得られたグラフト重合処理不織布シートの目付測定により、600m巻きロールシートの100m毎のグラフト率を算出した結果を表1に示す。不織布基材自体の目付のばらつきを考慮すると、極めて均一なグラフト重合処理長尺不織布シートが得られたことが分かる。
【0099】
グラフト率の値は、得られたグラフト重合物を、60℃のジメチルホルムアミド溶液に6時間浸漬した後、メタノール洗浄し、乾燥して重量を測定することにより、以下の式によって求めた。
【式1】
【0100】

【0101】
【表1】

【0102】
比較例4
酸素濃度を、グラフト重合処理槽5の出口側で1300ppmに設定した以外は同一の条件で、長尺不織布シート材料のグラフト重合を行った。巻き取ったグラフト重合処理不織布材料は、未反応のモノマーによって濡れており、グラフト重合が十分に進行していないことが推察された。
【0103】
実施例4と同様にグラフト率を測定したところ、表2に示す通りであった。巻き取りの300m付近からややグラフト率が上昇しているが、これは、窒素気流により酸素濃度がやや低下したためであると考えられる。
【0104】
【表2】

【0105】
実施例6
実施例5で用いたものと同様の不織布長尺シートを用い、実施例5と同様の方法で処理を行った。但し、グラフト重合処理槽5の出口側での酸素濃度を50〜100ppmに設定し、放射線照射装置3の照射条件を、275keV、3mAに設定し、ダミーのネットの搬送速度は1.5m/分に調節した。また、グラフト重合処理槽5内の搬送ロールは全て使用せず、適宜バイパスして、グラフト重合処理槽5内の滞留時間を20分とするように調節した。
【0106】
実施例5とほぼ同等の結果が得られ、ロール全体に亘って高いグラフト率が得られた。実施例7
実施例1で用いたものと同様の補強不織布基材で長尺不織布シート材料を形成し(幅500mm×長さ600m)、実施例5と同様の方法で放射線グラフト重合処理を行った。結果は、0〜600mまでのグラフト率が実施例5と同様に135%±15%の範囲内であり、均一なグラフト物が得られた。
【0107】
また、幅寸法は、原反が500±3mmであったのに対して、グラフト処理後は500±5mmであり、殆ど寸法変化が認められなかった。
実施例8
実施例4で用いたものと同様の高密度ポリエチレン繊維からなる不織布基材で長尺不織布シート材料を形成し(幅500mm×長さ600m)、実施例5と同様の方法で放射線グラフト重合処理を行った。
【0108】
結果は、0〜600mまでのグラフト率が実施例5と同様に135%±19%の範囲内であり、実用上十分に均一なグラフト物が得られた。
また、幅寸法は、原反が500±5mmであったのに対して、グラフト処理後は500±12mmであり、実用上殆ど問題が認められなかった。
比較例5
比較例3で用いたものと同様の低密度ポリエチレン繊維からなる不織布基材で長尺不織布シート材料を形成し(幅500mm×長さ600m)、実施例5と同様の方法で放射線グラフト重合処理を行った。
【0109】
結果は、反応開始から幅が400mm以下に収縮し、43mを繰り出した時点でシートが断裂した。シートの長さ方向における張力に対する強度が十分でなく、反物として反応させることが不可能であった。
【0110】
本発明の実施態様は、以下の通りである。
1.ポリマー繊維から構成される織布又は不織布と、該ポリマー繊維よりも強度が高く放射線グラフト重合速度の遅いポリマー補強材とから構成されることを特徴とする織布又は不織布状の放射線グラフト重合用ポリマー基材。
【0111】
2.ポリエチレン繊維から構成される織布又は不織布と、該ポリエチレン繊維よりも強度が高く放射線グラフト重合速度の遅いポリエチレン材料とから構成されることを特徴とする織布又は不織布状の放射線グラフト重合用基材。
【0112】
3.該補強材がフィラメントの形状であり、織布又は不織布に編みこまれている上記第1項又は第2項に記載の放射線グラフト重合用基材。
4.該補強材がネットの形状であり、織布又は不織布の表面に接合されている上記第1項又は第2項に記載の放射線グラフト重合用基材。
【0113】
5.ポリマー繊維と、該ポリマー繊維よりも放射線グラフト重合速度の遅い他のポリマー繊維とを混合して織布又は不織布を形成したことを特徴とする織布又は不織布状の放射線グラフト重合用ポリマー基材。
【0114】
6.該ポリマー繊維がポリエチレン繊維であり、該他のポリマー繊維がポリエチレンテレフタレート繊維である上記第5項に記載の放射線グラフト重合用ポリマー基材。
7.上記第1項〜第6項のいずれかに記載の放射線グラフト重合用基材に、放射線グラフト重合を用いて機能性官能基が導入されていることを特徴とする、表面に起伏を有するフィルター素材。
【0115】
8.該機能性官能基がイオン交換基である上記第7項に記載のフィルター素材。
9.放射線グラフト重合によってグリシジルメタクリレートが織布又は不織布基材に導入され、イオン交換基が該グリシジルメタクリレートに導入されている上記第8項に記載のフィルター素材。
【0116】
10.上記第7項〜第9項のいずれかに記載のフィルター素材をプリーツ状に成形したことを特徴とするフィルター。
11.ポリマー単繊維から構成される織布又は不織布材料であって、該繊維の表面部分のみが放射線グラフト重合処理され、繊維の中心部分が非グラフト状態であることを特徴
とする放射線グラフト処理材料。
【0117】
12.ポリマー繊維から構成される織布又は不織布と、該ポリマー繊維よりも強度が高く放射線グラフト重合速度の遅いポリマー補強材とから構成されることを特徴とする織布又は不織布状の放射線グラフト重合用ポリマー基材を放射線グラフト重合処理することによって得られる放射線グラフト処理材料であって、該ポリマー繊維の表面部分のみが放射線グラフト重合処理され、ポリマー繊維の中心部分が非グラフト状態であることを特徴とする放射線グラフト処理材料。
【0118】
13.ポリマー繊維と、該ポリマー繊維よりも放射線グラフト重合速度の遅い他のポリマー繊維とを混合して織布又は不織布を形成したことを特徴とする織布又は不織布状の放射線グラフト重合用ポリマー基材を放射線グラフト重合処理することによって得られる放射線グラフト処理材料であって、該ポリマー繊維の表面部分のみが放射線グラフト重合処理され、ポリマー繊維の中心部分が非グラフト状態であることを特徴とする放射線グラフト処理材料。
【0119】
14.該織布又は不織布材料が、ポリエチレン単繊維から構成される上記第11〜13項のいずれかに記載の放射線グラフト処理材料。
15.該ポリエチレンが高密度ポリエチレンである上記第14項に記載の放射線グラフト処理材料。
【0120】
16.放射線グラフト重合を用いて機能性官能基が導入されている上記第11項〜第15項のいずれかに記載の放射線グラフト処理材料。
17.機能性官能基がイオン交換基である上記第16項に記載の放射線グラフト処理材料から構成されるフィルター素材。
【0121】
18.機能性官能基が、メタクリル酸グリシジルを介して導入されたスルホン基、4級アンモニウム基又は3級アミノ基である上記第17項に記載のイオン交換フィルター素材。
【0122】
19.機能性官能基が、スチレンスルホン酸ナトリウム、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド又はアクリル酸をグラフトすることによって導入されたイオン交換基である上記第17項に記載のフィルター素材。
【0123】
20.ポリマー単繊維から織布又は不織布を形成し、該織布又は不織布に対して、該繊維の表面部分のみが放射線グラフト重合処理され、繊維の中心部分が非グラフト状態で残存するような制御条件下で放射線グラフト重合処理を行うことを特徴とする上記第11項〜第16項のいずれかに記載の放射線グラフト処理材料の製造方法。
【0124】
21.放射線グラフト重合処理を、前照射含浸グラフト重合法によって行う上記第20項に記載の方法。
22.ポリマー単繊維から織布又は不織布を形成し、該織布又は不織布に対して、該繊維の表面部分のみが放射線グラフト重合処理され、繊維の中心部分が非グラフト状態で残存するような条件で放射線グラフト重合処理を行うことによって、メタクリル酸グリシジルを導入し、次に、これを亜硫酸ナトリウムと反応させてスルホン化するか又はジエタノールアミンの水溶液中でアミノ化することを特徴とする上記第17項に記載のイオン交換フィルター素材の製造方法。
【0125】
23.ポリマー単繊維から織布又は不織布を形成し、該織布又は不織布に対して、該繊維の表面部分のみが放射線グラフト重合処理され、繊維の中心部分が非グラフト状態で残
存するような条件で放射線グラフト重合処理を行うことによって、スチレンスルホン酸ナトリウム、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド又はアクリル酸を導入することを特徴とする上記第17項に記載のイオン交換フィルター素材の製造方法。
【0126】
24.織布又は不織布基材に、窒素雰囲気中で電子線を照射する第1工程;照射済みの該基材を、窒素雰囲気中で所定量のモノマーに接触させる第2工程;接触させたモノマーと基材とを、窒素雰囲気中でグラフト重合する第3工程;を含み、第1工程から第3工程を連続で行うことを特徴とする、長尺織布又は不織布基材の放射線グラフト重合方法。
【0127】
25.基材に電子線を照射する第1工程の前に、基材中に存在する空気を窒素ガスで置換する予備工程を行い、予備工程から第3工程までを連続で行う上記第24項に記載の長尺織布又は不織布基材の放射線グラフト重合方法。
【0128】
26.第2工程において、基材とモノマーとの接触を、基材をモノマー溶液に浸漬した後、グラフト重合に不要なモノマー液を基材から排除することによって行う上記第24項又は第25項に記載の長尺織布又は不織布基材の放射線グラフト重合方法。
【0129】
27.第3工程における窒素雰囲気の酸素濃度が、1000ppm以下である上記第24項〜第26項のいずれかに記載の長尺織布又は不織布基材の放射線グラフト重合方法。
28.第1工程において、電子線の照射条件が、電圧100keV〜500keV、電子線電流3mA〜50mA、照射線量30kGy〜200kGyである上記第24項〜第27項のいずれかに記載の長尺織布又は不織布基材の放射線グラフト重合方法。
【0130】
29.第1工程において、電子線照射時の該基材の温度が−50℃〜+50℃である上記第24項〜第28項のいずれかに記載の長尺織布又は不織布基材の放射線グラフト重合方法。
【0131】
30.予備工程において、窒素置換を、減圧排気と窒素導入とを少なくとも1回繰り返すことによって行う上記第25項〜第29項のいずれかに記載の長尺織布又は不織布基材の放射線グラフト重合方法。
【0132】
31.織布又は不織布基材が、ポリマー繊維から構成される織布又は不織布と、該ポリマー繊維よりも強度が高く放射線グラフト重合速度の遅いポリマー補強材とから構成される織布又は不織布状の放射線グラフト重合用ポリマー基材であることを特徴とする上記第24項〜第30項のいずれかに記載の放射線グラフト重合方法。
【0133】
32.織布又は不織布基材が、ポリマー繊維と、該ポリマー繊維よりも放射線グラフト重合速度の遅い他のポリマー繊維とを混合して織布又は不織布を形成したことを特徴とする織布又は不織布状の放射線グラフト重合用ポリマー基材であることを特徴とする上記第24項〜第30項のいずれかに記載の放射線グラフト重合方法。
【0134】
33.放射線グラフト重合反応を、織布又は不織布基材を構成する繊維の表面部分のみが放射線グラフト重合され、繊維の中心部分が非グラフト状態であるような条件下で行うことを特徴とする上記第24項〜第32項のいずれかに記載の方法。
【0135】
34.長尺織布又は不織布基材の前端及び/又は後端に、放射線グラフト重合処理する必要のない基材搬送用長尺材料を接合して、この基材搬送用長尺材料を反応装置内に搬送することによって長尺織布又は不織布基材を反応装置内に搬送し、反応終了後、長尺織布又は不織布基材を基材搬送用長尺材料から切り離して取り出すことを特徴とする上記第24項〜第33項のいずれかに記載の方法。
【0136】
35.織布又は不織布基材に、窒素雰囲気中で電子線を照射するための電子線照射装置;照射済みの基材を、窒素雰囲気中で所定量のモノマーに接触させるためのモノマー含浸槽;接触させたモノマーと基材とを、窒素雰囲気中でグラフト重合するためのグラフト重合槽;を有し、これらは直列に配列されており、長尺状の織布又は不織布基材を、上記の各装置中に、上記の順番で連続的に通過させるための搬送手段を有することを特徴とする、長尺織布又は不織布基材用の連続放射線グラフト重合処理装置。
【0137】
36.電子線照射装置の前段に、織布又は不織布基材中に存在する空気を窒素ガスで置換するための窒素置換槽を有する上記第35項に記載の装置。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】図1は、本発明に係る補強不織布材料を放射線グラフト重合にかけた後の材料の表面の形状を示す斜視図である。
【図2】図2は、本発明の第1の態様に係る、ポリエチレン繊維から構成される不織布と、該不織布に編みこまれたポリエチレンフィラメント補強材とからなる放射線グラフト重合用基材の、放射線グラフト重合前の繊維の形状を示す顕微鏡写真である。
【図3】図3は、図2に示す基材の放射線グラフト重合後の繊維の形状を示す顕微鏡写真である。
【図4】図4は、本発明の第1の態様に係る、ポリエチレン繊維から構成される不織布と、該不織布の両面に融着されたポリエチレンネット補強材とからなる放射線グラフト重合用基材の、放射線グラフト重合前の繊維の形状を示す顕微鏡写真である。
【図5】図5は、図4に示す基材の放射線グラフト重合後の繊維の形状を示す顕微鏡写真である。
【図6】図6は、本発明の第6の態様に係る方法を実施するための連続放射線グラフト重合処理装置の概念を示す図である。
【図7】図7は、連続放射線グラフト重合処理装置の他の態様の概念を示す図である。
【図8】図8は、本発明の第1の態様に係るグラフト不織布フィルター素材を試験するために用いた試験装置の概略図である。
【図9】図9は、実施例4において製造された高密度ポリエチレン放射線グラフト重合繊維の断面のSEM写真及びXMA写真である。図9aは、繊維の断面のSEM写真であり、図9bは、繊維の断面のイオウ原子の分布を示すXMA写真である。
【図10】図10は、比較例3において製造された低密度ポリエチレン放射線グラフト重合繊維の断面のSEM写真及びXMA写真である。図10aは、繊維の断面のSEM写真であり、図10bは、繊維の断面のイオウ原子の分布を示すXMA写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー繊維と、該ポリマー繊維よりも強度が高く放射線グラフト重合速度の遅いポリマー補強材とから構成される織布又は不織布状の放射線グラフト重合用ポリマー基材であって、ポリマー繊維と、該ポリマー繊維よりも放射線グラフト重合速度の遅い他のポリマー繊維とを混合して織布又は不織布を形成したことを特徴とする、前記放射線グラフト重合用ポリマー基材。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線グラフト重合用基材に、放射線グラフト重合により機能性官能基が導入されていることを特徴とする、織布又は不織布状の放射線グラフト素材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の放射線グラフト重合用基材に、放射線グラフト重合により機能性官能基が導入されていることを特徴とする、表面に起伏を有するフィルター素材。
【請求項4】
請求項3に記載のフィルター素材をプリーツ状に成形したことを特徴とする、フィルター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−217861(P2007−217861A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70969(P2007−70969)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【分割の表示】特願2005−226309(P2005−226309)の分割
【原出願日】平成11年8月10日(1999.8.10)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】