放射線センサ
【課題】本発明は、光ファイバにおけるシンチレータ光の損失を低減し、放射線センサの計測範囲を飛躍的に拡大させた放射線センサを提供することを目的としている。
【解決手段】本発明にかかる放射線センサの代表的な構成は、放射線の入射により発光するシンチレータ102と、シンチレータ102で発光した光を導く石英を主成分とする光ファイバ104と、光ファイバ104に接続された光検出部とを備え、シンチレータ102は、1300nm帯または1550nm帯の光を発光することを特徴とする。
【解決手段】本発明にかかる放射線センサの代表的な構成は、放射線の入射により発光するシンチレータ102と、シンチレータ102で発光した光を導く石英を主成分とする光ファイバ104と、光ファイバ104に接続された光検出部とを備え、シンチレータ102は、1300nm帯または1550nm帯の光を発光することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線の入射により発光するシンチレータを用いる放射線センサに関する。
【背景技術】
【0002】
放射線センサの1つとして、シンチレータがある。シンチレータは、放射線が特定の物質に入射したときに、そのエネルギーによって物質の電子が励起され、電子の準位が落ちるときに光(蛍光)を放出する現象(シンチレーション)を利用した放射線検出器である。シンチレータから発光した光は光ファイバによって導き、微弱な発光を光電子増倍管で増幅し、光検出部によって電気信号に変換して、放射線の計数・分析のために使用される。
【0003】
このような放射線センサは、大きなものでは原子力発電所において、小さなものでは医療用途として利用されている。シンチレータによって検出される放射線としては、その材料などによりX線、γ線、中性子線などがある。図9は電磁波の種類と波長を説明する図である。電磁波の波長が10nm〜1pm程度のものを一般にX線と呼び、波長が10pm以下のものをγ線と呼んでいる。中性子線は中性子の粒子線である。
【0004】
従来からシンチレータから出力された光を光ファイバによって導く放射線センサについては様々な構成が提案されている。特許文献1には、光ファイバケーブル自体が放射線照射によって発光するものを用いた放射線検出システムが開示されている。
【特許文献1】特開2000−065938号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1では、シンチレータとして、NaI(ヨウ化ナトリウム)やCsI(ヨウ化セシウム)などの無機シンチレータを用いるとしている。これらは一般的なシンチレータ材料であって、その発光波長は可視光域(400nm:青色光。図9参照)である。この波長の光は光ファイバ内における損失が非常に大きい。図10は光の波長と石英系可視光ファイバの損失波長特性を示す図であって、波長が400nmの光の伝送損失は50dB/km程度であることがわかる。
【0006】
これに対しシンチレータにおける発光は微弱であるため、伝達された光を検出することが可能な光ファイバの長さは数m〜最大30m程度に留まる。
【0007】
ところで、放射線センサの計測範囲を拡大し、遠隔地において放射線を検知したいという要請がある。例えば原子力発電所のように大型施設になると30mはいかにも短く、隣の棟にすら到達できない。このため測定現場に放射線センサを設置することになるが、現地に設置した放射線センサの値を遠隔地で集中管理するような場合、放射線センサの装置が各所に分散することになるため、維持管理が面倒になるという問題がある。また測定現場に電気設備を設置するとなると、万が一の事故時に電源供給が約束されず、肝腎の計測を要するときに計測できないという事態になりかねないという問題がある。
【0008】
そこで本発明は、光ファイバにおけるシンチレータ光の損失を低減し、放射線センサの計測範囲を飛躍的に拡大させた放射線センサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために発明者らが鋭意検討したところ、光通信用光ファイバにおける光の損失は極めて小さいところに着目した。図11は石英系通信用光ファイバの損失波長特性を示す図であって、光通信用波長(近赤外線:波長2500nm〜780nm程度。図9参照)での光ファイバの損失は一般的には1310nm帯において0.35dB/km程度、1550nm帯において0.25dB/km程度と、極めて低い伝送損失であることがわかる。
【0010】
換言すれば、研究開発と技術発展の経緯から光ファイバにおける損失が小さい波長は既知であり、その波長の光が光通信に用いられている。したがってこれらの波長の光を用いることにより、シンチレータの計測範囲を飛躍的に拡大させることができると考えられる。また、近年著しい進歩を遂げている光通信で用いる種々の装置や技術(光直接増幅等)がそのまま適用できる。
【0011】
そこで、光通信用波長(近赤外域)で発光するシンチレータを用いれば、発光波長が光通信で用いる波長と一致するため、既存の計測範囲を飛躍的に拡大させ、また通信用光ファイバや最新の光通信技術を利用することができることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0012】
すなわち本発明にかかる放射線センサの代表的な構成は、放射線の入射により発光するシンチレータと、シンチレータで発光した光を導く石英を主成分とする光ファイバと、光ファイバに接続された光検出部とを備え、シンチレータは、1300nm帯または1550nm帯の光を発光することを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、シンチレータで発光した光は石英系通信用光ファイバを用いて、極めて低い損失で遠隔地に伝達することができ、放射線センサの計測範囲を飛躍的に拡大することができる。
【0014】
また、本発明にかかる放射線センサの他の構成は、放射線の入射により発光するシンチレータと、シンチレータで発光した光を導く石英を主成分とする光ファイバと、光ファイバに接続された光検出部とを備え、シンチレータは、1000nm帯から1800nm帯までの光を発光することを特徴とする。
【0015】
シンチレータで発光した光の伝送損失は、上記の波長帯において1dB/km以下である(図11参照)。したがって上記構成によれば、シンチレータで発光した光の伝達時の損失を低減し、放射線センサの計測範囲を飛躍的に拡大することが可能となる。
【0016】
放射線計測に用いる光ファイバの長さは略30m以上とすることができる。これは上記本発明の構成によって初めて可能となる長さであり、このような長さとすることにより現地に電気設備を必要とすることなく遠隔地で計測を行うことができる。
【0017】
シンチレータは、透明材料に希土類元素、特に光通信分野における光増幅器用の希土類元素を添加した材料にて形成することができる。希土類元素を用いれば、放射線の入射によって1300nm帯または1550nm帯の光、若しくは1000nm帯から1800nm帯までの光を発光させることができる。
【0018】
希土類元素は、エルビウム、プラセオジム、ネオジム、ツリウム、イッテルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、サマリウムの中から選択される1または2以上の元素であってもよい。上記の元素は希土類元素の具体例であり、かかる元素を添加することにより、1000nm帯から1800nm帯までの波長の光を得ることが可能となる。特にエルビウムは1550nm帯を、プラセオジムとネオジムは1300nm帯の波長の光を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、光ファイバにおけるシンチレータ光の損失を低減し、放射線センサの計測範囲を飛躍的に拡大させた放射線センサを提供することができる。したがって遠隔地から放射線を計測することができ、広域の複数の箇所について集中的に管理することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
[実施形態]
以下に本発明にかかる放射線センサの実施形態について図を用いて説明する。なお、以下の実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0021】
図1は放射線センサの全体構成を説明する図である。図1に示す放射線センサ100は、放射線の入射により発光するシンチレータ102が石英を主成分とする光ファイバ104の一端に接続されている。光ファイバ104の他端は光電子増倍管などの光検出部106に接続されて電気信号として出力され、センサ108において検出される。
【0022】
放射線センサ100が主として対象とするのはγ線、X線、中性子線であるが、α線、β線なども測定の対象である。これらの電磁波はエネルギーが高く、シンチレータを発光させて検出することができる。
【0023】
シンチレータ102は光ファイバに所定の元素を添加(ドープ)したものであり、本実施形態では希土類元素の例としてのエルビウムまたはイッテルビウムを添加している。エルビウムは1550nm帯の、イッテルビウムは1030nm帯の波長の光増幅器として利用されている。
【0024】
光ファイバ104は、石英系通信用光ファイバである。光ファイバには石英系のほかにガラス系光ファイバ、プラスチック光ファイバなどがあるが、長距離伝送のためには石英系光ファイバが好ましい。
【0025】
光検出部106は、例えば光電子増倍管(フォトマルチプライヤー:photomultiplier )を用いることができる。光電子増倍管は光電効果を用いて光を電気信号に変換し、さらに電流を増幅(電子増倍)させる装置である。なお光検出部としては、アバランシェ・フォトダイオード(Avalanche Photodiode:APD)や、光スペクトラムアナライザー、光パワー計などを用いることができる。
【0026】
センサ108は、光検出部106から出力される電流を監視するA/D変換部を備え、出力値の判断や記録を行うデータ処理装置である。簡略には電圧または電流を閾値で判断するセンサや、オシロスコープやデジタルマルチメータを用いることができる。
【0027】
ここで、シンチレータ102の発光原理について説明する。図2はシンチレータおよび光増幅器の原理を説明する図である。
【0028】
図2(a)はシンチレータ102の原理を説明する図である。放射線が入射すると添加材料の電子が基底準位から励起準位まで励起され、上準位と呼ばれる安定した準位まで落ちたところに電子が蓄積される。そして上準位から自然に安定な基底準位まで戻るときに、所定の波長の光を自然放出する。放出する光の波長は上準位から基底準位までのエネルギーギャップによって決定され、元素によってそれぞれ決まっている。
【0029】
図2(b)は光増幅器の原理を説明する図であって、数値はエルビウムを例に用いている。図2(b)に示す光増幅器においては、980nmの励起光(レーザ光)を入射することによって添加元素の電子は基底準位から励起準位へと励起され、上準位まで落ちたところで蓄積される。そこに1550nmの信号光が入射されると、上準位に蓄積されていた電子が誘導されて基底準位に戻り、その際に誘導放出されたエネルギーにより光が発せられて増幅される。このとき、増幅される光の波長は上準位と基底準位のエネルギーギャップによって決定され、同じ波長の光が入射されたときにしか増幅は行われない(基底準位への誘導が作用しない)。
【0030】
そして発明者らは、シンチレータ102と光増幅器は、その動作は異なるものの、励起光を放射線に置き換えて考えると原理がよく似ていることに着目した。そして光増幅用に用いられている希土類元素を用いてシンチレータを構成したところ、光通信に用いられる波長帯での発光が得られた。
【0031】
なおシンチレータ組成物としては、エルビウム(1550nm帯)およびイッテルビウム(1030nm帯)のほかに、プラセオジム(1300nm帯)、ネオジム(1060nm帯、1300nm帯)、ツリウム(1470nm帯)、ジスプロシウム(1300nm帯)、ホルミウム(1100nm帯、1380nm帯)、サマリウム(1000nm帯、1100nm帯、1380nm帯)を挙げることができる。また、これらの2以上の元素を選択して添加してもよい。
【0032】
シンチレータ102に上記の元素を添加することにより、1000nm帯から1800nm帯までの波長の光を得ることできる。かかる波長帯の光の伝送損失は1dB/km以下と極めて低いため、シンチレータ102で発光した光を長距離に亘って伝送可能である。したがって、光ファイバ104の長さを伸長することができる。
【0033】
中でもエルビウムは1550nm帯を、プラセオジムとネオジムは1300nm帯の波長の光を得ることができる。これらの波長帯域は光通信に多く用いられており、長距離伝送用の石英系光ファイバにおいて極めて低い伝送損失を示す。したがってシンチレータで発光した光を遠くまで伝達することができ、30m〜数kmに及ぶ長さの光ファイバ104によってシンチレータの光を伝送することができる。
【0034】
これにより放射線センサの計測範囲を飛躍的に拡大することができるため、遠隔地から放射線を計測することができ、広域の複数の箇所について集中的に管理することも可能となる。また現地(測定箇所)にはシンチレータを配置するのみであって電気設備を必要としないため、万が一の事故時にも電源に頼ることなく測定することができ、また維持管理の手間も極めて簡略化することができる。
【0035】
また多く用いられる波長であるから、近年著しい進歩を遂げている光通信の種々の装置や技術(光直接増幅等)が適用できる。
【0036】
[他の実施形態]
図3は他の実施形態を説明する図である。図3(a)に示すように、あらかじめ添加元素を励起させておき、放射線によって誘導放出を起こさせる構成である。すなわち励起光(レーザー光)によって励起準位まで励起させ、電子が上準位に蓄積されている状態で放射線を照射することにより、その刺激で誘導放出を発生させる。これによりシンチレータ光を効率よく発生させることができ、光量を増大させることができる。具体的には図3(b)に示すように、シンチレータ光を導くための光ファイバ104に発振器110から励起光を入射し、戻ってきた反射光については励起光カット用フィルタ112を設けてシンチレータ光のみを取り出すことができる。
【0037】
また図4はさらに他の実施形態を説明する図である。原子の基底準位には、実際にはある程度の幅がある。そこで図4に示すように、励起光によって基底準位の上レベルまで電子を励起しておくことにより、放射線を入射した際に励起準位まで励起されやすくすることができる。これによりわずかな放射線でも励起されやすくなり、感度を向上させることができる。
【0038】
次に、測定結果を用いて、本実施形態にかかる放射線センサ100の効果を説明する。上述した如く本実施形態では、シンチレータ102として用いた光ファイバには、希土類元素であるエルビウムまたはイッテルビウムを添加している。以下、エルビウムを添加した光ファイバを「EDF(Erbium Doped Fiber)」、イッテルビウムを添加した光ファイバを「YDF(Ytterbium Doped Fiber)」と称し、EDFおよびYDFを併せて「希土類ドープファイバ」と称する。
【0039】
図5は、測定設備の概略を説明する図である。測定設備は照射室および操作室から構成される。照射室には、シンチレータ102として用いた希土類ドープファイバをアルミケースに収容し、モジュール化したモジュール200と、モジュールに放射線を照射する照射装置202が備えられている。なお、モジュール200は照射台に設置されている。
【0040】
操作室には、モジュール200内の希土類ドープファイバが発光した光の光子数を測定する光電子増倍管204と、希土類ドープファイバの開放端での戻り光を低減させる光終端器206が備えられている。かかる光電子増倍管204には、近赤外波長(950nm〜1700nm)に感応するものを用いた。なお、希土類ドープファイバの末端は、一方は光電子増倍管204に、他方は光終端器206にそれぞれコネクタを介して接続されている。
【0041】
上記の測定設備において、モジュール200に、照射装置202から線量率を変化させながら放射線(コバルト60、γ線)を照射した。そして、照射によりモジュール200内の希土類ドープファイバが発光した光の光子数を光電子増倍管204によって測定した。上記の測定では、サンプリング間隔を1秒とし、測定時間は360秒間とした。なお、測定開始後30秒から330秒の間は放射線の照射を行い、測定開始後0秒から30秒の間、および330秒から360秒の間は照射を停止している。
【0042】
図6は、EDFに放射線を照射した際の光子数の変化を示す図である。図6に示すように、EDFに線量率700000R/h(Roentgen/hour)の放射線を照射すると、照射に伴い光子数が増加している。このことから、EDFに添加されているエルビウムが発光する1550nm帯の波長の光が計測されたものと考えられる。
【0043】
図7は、YDFに放射線を照射した際の光子数の変化を示す図である。図7に示すように、上記と同様にYDFに線量率700000R/hの放射線を照射すると、照射に伴い光子数が増加する。このことから、YDFに添加されているイッテルビウムが発光する1000nm帯の波長の光が計測されたものと考えられる。
【0044】
また、YDFに照射する放射線の線量率を200000R/h、100000R/hとした場合においても、700000R/hの場合よりも増加率は低いものの、照射時には光子数が増加する。このことから、YDFの発光は、100000R/h程度の低い線量率においても光電子増倍管204にて検出可能であることが確認できた。
【0045】
以上の結果から、希土類ドープファイバを用いたシンチレータ102を放射線センサ100に利用可能であることが理解できる。次に、YDFに長尺ファイバを接続し、放射線照射時の光子数を測定した。
【0046】
図8は、長尺ファイバを接続したYDFに放射線を照射した際の光子数の変化を示す図である。かかる長尺ファイバには、長さ1kmおよび10kmの光ファイバを用いた。なお、長尺ファイバを接続したYDFに照射した放射線の線量率は700000R/hである。
【0047】
図8に示すように、長尺ファイバを接続しない場合(0kmの場合)と比較しても、1kmのファイバを接続した場合の照射に伴う光子数の変化は明瞭である。このことから、従来の光ファイバを用いた放射線センサの計測範囲は数mから最大30mであるのに対し、シンチレータ102として希土類ドープファイバを用いた放射線センサ100は、1kmまで計測範囲を拡大できることが確認できた。これは、希土類ドープファイバに添加する元素を、伝送損失が1dB/km以下の波長帯の光を発光する希土類元素としたことにより、1kmのファイバにおける光の伝送損失を1dB以下と極めて低くすることができたためと考えられる。
【0048】
また、10kmのファイバを接続した場合、放射線照射に伴う光子数の変化は著しく少なく、はっきりした変化は確認できない。これは、光ファイバの伝送損失によるものと推測される。すなわち、YDFに添加されているイッテルビウムが発光する1000nm帯の波長の光において、光ファイバの伝送損失は約1dB/kmであるため、10kmのファイバでは約10dBの損失となり、損失が大きいため計測が困難だったと考えられる。
【0049】
しかしながら、希土類ドープファイバに添加する希土類元素として、1300nm帯または1550nm帯などの、伝送損失が1dB/kmよりも更に低い波長帯の光を発光する元素を用いることにより、光ファイバにおける伝送損失をより低減できるため、光ファイバの長さを更に伸長することが可能であると考えられる。
【0050】
上記の結果から、シンチレータ102に希土類ドープファイバを用い、かかるシンチレータ102を放射線センサ100に利用することにより、放射線センサ100の計測範囲を飛躍的に拡大させることが可能となることが実証できた。なお、本実施形態においては、希土類ドープファイバに接続する長尺ファイバの長さを1kmおよび10kmとしたため、計測可能範囲は1kmまでしか確認されていないが、数km程度(10km未満)であれば同様に測定可能であると考えられる。
【0051】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は係る実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0052】
例えば本実施形態においては光ファイバ材料に元素を添加することによりシンチレータを構成するよう説明したが、ブロック形状や板形状の透明材料に元素を添加することでもよく、またチップの形態としてシンチレータを構成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、放射線の入射により発光するシンチレータを用いる放射線センサとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】放射線センサの全体構成を説明する図である。
【図2】シンチレータおよび光増幅器の原理を説明する図である。
【図3】他の実施形態を説明する図である。
【図4】さらに他の実施形態を説明する図である。
【図5】測定設備の概略を説明する図である。
【図6】EDFに放射線を照射した際の光子数の変化を示す図である。
【図7】YDFに放射線を照射した際の光子数の変化を示す図である。
【図8】長尺ファイバを接続したYDFに放射線を照射した際の光子数の変化を示す図である。
【図9】電磁波の種類と波長を説明する図である。
【図10】光の波長と石英系可視光ファイバの損失波長特性を示す図である。
【図11】石英系通信用光ファイバの損失波長特性を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
100…放射線センサ
102…シンチレータ
104…光ファイバ
106…光検出部
108…センサ
200…モジュール
202…照射装置
204…光電子増倍管
206…光終端器
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線の入射により発光するシンチレータを用いる放射線センサに関する。
【背景技術】
【0002】
放射線センサの1つとして、シンチレータがある。シンチレータは、放射線が特定の物質に入射したときに、そのエネルギーによって物質の電子が励起され、電子の準位が落ちるときに光(蛍光)を放出する現象(シンチレーション)を利用した放射線検出器である。シンチレータから発光した光は光ファイバによって導き、微弱な発光を光電子増倍管で増幅し、光検出部によって電気信号に変換して、放射線の計数・分析のために使用される。
【0003】
このような放射線センサは、大きなものでは原子力発電所において、小さなものでは医療用途として利用されている。シンチレータによって検出される放射線としては、その材料などによりX線、γ線、中性子線などがある。図9は電磁波の種類と波長を説明する図である。電磁波の波長が10nm〜1pm程度のものを一般にX線と呼び、波長が10pm以下のものをγ線と呼んでいる。中性子線は中性子の粒子線である。
【0004】
従来からシンチレータから出力された光を光ファイバによって導く放射線センサについては様々な構成が提案されている。特許文献1には、光ファイバケーブル自体が放射線照射によって発光するものを用いた放射線検出システムが開示されている。
【特許文献1】特開2000−065938号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1では、シンチレータとして、NaI(ヨウ化ナトリウム)やCsI(ヨウ化セシウム)などの無機シンチレータを用いるとしている。これらは一般的なシンチレータ材料であって、その発光波長は可視光域(400nm:青色光。図9参照)である。この波長の光は光ファイバ内における損失が非常に大きい。図10は光の波長と石英系可視光ファイバの損失波長特性を示す図であって、波長が400nmの光の伝送損失は50dB/km程度であることがわかる。
【0006】
これに対しシンチレータにおける発光は微弱であるため、伝達された光を検出することが可能な光ファイバの長さは数m〜最大30m程度に留まる。
【0007】
ところで、放射線センサの計測範囲を拡大し、遠隔地において放射線を検知したいという要請がある。例えば原子力発電所のように大型施設になると30mはいかにも短く、隣の棟にすら到達できない。このため測定現場に放射線センサを設置することになるが、現地に設置した放射線センサの値を遠隔地で集中管理するような場合、放射線センサの装置が各所に分散することになるため、維持管理が面倒になるという問題がある。また測定現場に電気設備を設置するとなると、万が一の事故時に電源供給が約束されず、肝腎の計測を要するときに計測できないという事態になりかねないという問題がある。
【0008】
そこで本発明は、光ファイバにおけるシンチレータ光の損失を低減し、放射線センサの計測範囲を飛躍的に拡大させた放射線センサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために発明者らが鋭意検討したところ、光通信用光ファイバにおける光の損失は極めて小さいところに着目した。図11は石英系通信用光ファイバの損失波長特性を示す図であって、光通信用波長(近赤外線:波長2500nm〜780nm程度。図9参照)での光ファイバの損失は一般的には1310nm帯において0.35dB/km程度、1550nm帯において0.25dB/km程度と、極めて低い伝送損失であることがわかる。
【0010】
換言すれば、研究開発と技術発展の経緯から光ファイバにおける損失が小さい波長は既知であり、その波長の光が光通信に用いられている。したがってこれらの波長の光を用いることにより、シンチレータの計測範囲を飛躍的に拡大させることができると考えられる。また、近年著しい進歩を遂げている光通信で用いる種々の装置や技術(光直接増幅等)がそのまま適用できる。
【0011】
そこで、光通信用波長(近赤外域)で発光するシンチレータを用いれば、発光波長が光通信で用いる波長と一致するため、既存の計測範囲を飛躍的に拡大させ、また通信用光ファイバや最新の光通信技術を利用することができることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0012】
すなわち本発明にかかる放射線センサの代表的な構成は、放射線の入射により発光するシンチレータと、シンチレータで発光した光を導く石英を主成分とする光ファイバと、光ファイバに接続された光検出部とを備え、シンチレータは、1300nm帯または1550nm帯の光を発光することを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、シンチレータで発光した光は石英系通信用光ファイバを用いて、極めて低い損失で遠隔地に伝達することができ、放射線センサの計測範囲を飛躍的に拡大することができる。
【0014】
また、本発明にかかる放射線センサの他の構成は、放射線の入射により発光するシンチレータと、シンチレータで発光した光を導く石英を主成分とする光ファイバと、光ファイバに接続された光検出部とを備え、シンチレータは、1000nm帯から1800nm帯までの光を発光することを特徴とする。
【0015】
シンチレータで発光した光の伝送損失は、上記の波長帯において1dB/km以下である(図11参照)。したがって上記構成によれば、シンチレータで発光した光の伝達時の損失を低減し、放射線センサの計測範囲を飛躍的に拡大することが可能となる。
【0016】
放射線計測に用いる光ファイバの長さは略30m以上とすることができる。これは上記本発明の構成によって初めて可能となる長さであり、このような長さとすることにより現地に電気設備を必要とすることなく遠隔地で計測を行うことができる。
【0017】
シンチレータは、透明材料に希土類元素、特に光通信分野における光増幅器用の希土類元素を添加した材料にて形成することができる。希土類元素を用いれば、放射線の入射によって1300nm帯または1550nm帯の光、若しくは1000nm帯から1800nm帯までの光を発光させることができる。
【0018】
希土類元素は、エルビウム、プラセオジム、ネオジム、ツリウム、イッテルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、サマリウムの中から選択される1または2以上の元素であってもよい。上記の元素は希土類元素の具体例であり、かかる元素を添加することにより、1000nm帯から1800nm帯までの波長の光を得ることが可能となる。特にエルビウムは1550nm帯を、プラセオジムとネオジムは1300nm帯の波長の光を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、光ファイバにおけるシンチレータ光の損失を低減し、放射線センサの計測範囲を飛躍的に拡大させた放射線センサを提供することができる。したがって遠隔地から放射線を計測することができ、広域の複数の箇所について集中的に管理することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
[実施形態]
以下に本発明にかかる放射線センサの実施形態について図を用いて説明する。なお、以下の実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0021】
図1は放射線センサの全体構成を説明する図である。図1に示す放射線センサ100は、放射線の入射により発光するシンチレータ102が石英を主成分とする光ファイバ104の一端に接続されている。光ファイバ104の他端は光電子増倍管などの光検出部106に接続されて電気信号として出力され、センサ108において検出される。
【0022】
放射線センサ100が主として対象とするのはγ線、X線、中性子線であるが、α線、β線なども測定の対象である。これらの電磁波はエネルギーが高く、シンチレータを発光させて検出することができる。
【0023】
シンチレータ102は光ファイバに所定の元素を添加(ドープ)したものであり、本実施形態では希土類元素の例としてのエルビウムまたはイッテルビウムを添加している。エルビウムは1550nm帯の、イッテルビウムは1030nm帯の波長の光増幅器として利用されている。
【0024】
光ファイバ104は、石英系通信用光ファイバである。光ファイバには石英系のほかにガラス系光ファイバ、プラスチック光ファイバなどがあるが、長距離伝送のためには石英系光ファイバが好ましい。
【0025】
光検出部106は、例えば光電子増倍管(フォトマルチプライヤー:photomultiplier )を用いることができる。光電子増倍管は光電効果を用いて光を電気信号に変換し、さらに電流を増幅(電子増倍)させる装置である。なお光検出部としては、アバランシェ・フォトダイオード(Avalanche Photodiode:APD)や、光スペクトラムアナライザー、光パワー計などを用いることができる。
【0026】
センサ108は、光検出部106から出力される電流を監視するA/D変換部を備え、出力値の判断や記録を行うデータ処理装置である。簡略には電圧または電流を閾値で判断するセンサや、オシロスコープやデジタルマルチメータを用いることができる。
【0027】
ここで、シンチレータ102の発光原理について説明する。図2はシンチレータおよび光増幅器の原理を説明する図である。
【0028】
図2(a)はシンチレータ102の原理を説明する図である。放射線が入射すると添加材料の電子が基底準位から励起準位まで励起され、上準位と呼ばれる安定した準位まで落ちたところに電子が蓄積される。そして上準位から自然に安定な基底準位まで戻るときに、所定の波長の光を自然放出する。放出する光の波長は上準位から基底準位までのエネルギーギャップによって決定され、元素によってそれぞれ決まっている。
【0029】
図2(b)は光増幅器の原理を説明する図であって、数値はエルビウムを例に用いている。図2(b)に示す光増幅器においては、980nmの励起光(レーザ光)を入射することによって添加元素の電子は基底準位から励起準位へと励起され、上準位まで落ちたところで蓄積される。そこに1550nmの信号光が入射されると、上準位に蓄積されていた電子が誘導されて基底準位に戻り、その際に誘導放出されたエネルギーにより光が発せられて増幅される。このとき、増幅される光の波長は上準位と基底準位のエネルギーギャップによって決定され、同じ波長の光が入射されたときにしか増幅は行われない(基底準位への誘導が作用しない)。
【0030】
そして発明者らは、シンチレータ102と光増幅器は、その動作は異なるものの、励起光を放射線に置き換えて考えると原理がよく似ていることに着目した。そして光増幅用に用いられている希土類元素を用いてシンチレータを構成したところ、光通信に用いられる波長帯での発光が得られた。
【0031】
なおシンチレータ組成物としては、エルビウム(1550nm帯)およびイッテルビウム(1030nm帯)のほかに、プラセオジム(1300nm帯)、ネオジム(1060nm帯、1300nm帯)、ツリウム(1470nm帯)、ジスプロシウム(1300nm帯)、ホルミウム(1100nm帯、1380nm帯)、サマリウム(1000nm帯、1100nm帯、1380nm帯)を挙げることができる。また、これらの2以上の元素を選択して添加してもよい。
【0032】
シンチレータ102に上記の元素を添加することにより、1000nm帯から1800nm帯までの波長の光を得ることできる。かかる波長帯の光の伝送損失は1dB/km以下と極めて低いため、シンチレータ102で発光した光を長距離に亘って伝送可能である。したがって、光ファイバ104の長さを伸長することができる。
【0033】
中でもエルビウムは1550nm帯を、プラセオジムとネオジムは1300nm帯の波長の光を得ることができる。これらの波長帯域は光通信に多く用いられており、長距離伝送用の石英系光ファイバにおいて極めて低い伝送損失を示す。したがってシンチレータで発光した光を遠くまで伝達することができ、30m〜数kmに及ぶ長さの光ファイバ104によってシンチレータの光を伝送することができる。
【0034】
これにより放射線センサの計測範囲を飛躍的に拡大することができるため、遠隔地から放射線を計測することができ、広域の複数の箇所について集中的に管理することも可能となる。また現地(測定箇所)にはシンチレータを配置するのみであって電気設備を必要としないため、万が一の事故時にも電源に頼ることなく測定することができ、また維持管理の手間も極めて簡略化することができる。
【0035】
また多く用いられる波長であるから、近年著しい進歩を遂げている光通信の種々の装置や技術(光直接増幅等)が適用できる。
【0036】
[他の実施形態]
図3は他の実施形態を説明する図である。図3(a)に示すように、あらかじめ添加元素を励起させておき、放射線によって誘導放出を起こさせる構成である。すなわち励起光(レーザー光)によって励起準位まで励起させ、電子が上準位に蓄積されている状態で放射線を照射することにより、その刺激で誘導放出を発生させる。これによりシンチレータ光を効率よく発生させることができ、光量を増大させることができる。具体的には図3(b)に示すように、シンチレータ光を導くための光ファイバ104に発振器110から励起光を入射し、戻ってきた反射光については励起光カット用フィルタ112を設けてシンチレータ光のみを取り出すことができる。
【0037】
また図4はさらに他の実施形態を説明する図である。原子の基底準位には、実際にはある程度の幅がある。そこで図4に示すように、励起光によって基底準位の上レベルまで電子を励起しておくことにより、放射線を入射した際に励起準位まで励起されやすくすることができる。これによりわずかな放射線でも励起されやすくなり、感度を向上させることができる。
【0038】
次に、測定結果を用いて、本実施形態にかかる放射線センサ100の効果を説明する。上述した如く本実施形態では、シンチレータ102として用いた光ファイバには、希土類元素であるエルビウムまたはイッテルビウムを添加している。以下、エルビウムを添加した光ファイバを「EDF(Erbium Doped Fiber)」、イッテルビウムを添加した光ファイバを「YDF(Ytterbium Doped Fiber)」と称し、EDFおよびYDFを併せて「希土類ドープファイバ」と称する。
【0039】
図5は、測定設備の概略を説明する図である。測定設備は照射室および操作室から構成される。照射室には、シンチレータ102として用いた希土類ドープファイバをアルミケースに収容し、モジュール化したモジュール200と、モジュールに放射線を照射する照射装置202が備えられている。なお、モジュール200は照射台に設置されている。
【0040】
操作室には、モジュール200内の希土類ドープファイバが発光した光の光子数を測定する光電子増倍管204と、希土類ドープファイバの開放端での戻り光を低減させる光終端器206が備えられている。かかる光電子増倍管204には、近赤外波長(950nm〜1700nm)に感応するものを用いた。なお、希土類ドープファイバの末端は、一方は光電子増倍管204に、他方は光終端器206にそれぞれコネクタを介して接続されている。
【0041】
上記の測定設備において、モジュール200に、照射装置202から線量率を変化させながら放射線(コバルト60、γ線)を照射した。そして、照射によりモジュール200内の希土類ドープファイバが発光した光の光子数を光電子増倍管204によって測定した。上記の測定では、サンプリング間隔を1秒とし、測定時間は360秒間とした。なお、測定開始後30秒から330秒の間は放射線の照射を行い、測定開始後0秒から30秒の間、および330秒から360秒の間は照射を停止している。
【0042】
図6は、EDFに放射線を照射した際の光子数の変化を示す図である。図6に示すように、EDFに線量率700000R/h(Roentgen/hour)の放射線を照射すると、照射に伴い光子数が増加している。このことから、EDFに添加されているエルビウムが発光する1550nm帯の波長の光が計測されたものと考えられる。
【0043】
図7は、YDFに放射線を照射した際の光子数の変化を示す図である。図7に示すように、上記と同様にYDFに線量率700000R/hの放射線を照射すると、照射に伴い光子数が増加する。このことから、YDFに添加されているイッテルビウムが発光する1000nm帯の波長の光が計測されたものと考えられる。
【0044】
また、YDFに照射する放射線の線量率を200000R/h、100000R/hとした場合においても、700000R/hの場合よりも増加率は低いものの、照射時には光子数が増加する。このことから、YDFの発光は、100000R/h程度の低い線量率においても光電子増倍管204にて検出可能であることが確認できた。
【0045】
以上の結果から、希土類ドープファイバを用いたシンチレータ102を放射線センサ100に利用可能であることが理解できる。次に、YDFに長尺ファイバを接続し、放射線照射時の光子数を測定した。
【0046】
図8は、長尺ファイバを接続したYDFに放射線を照射した際の光子数の変化を示す図である。かかる長尺ファイバには、長さ1kmおよび10kmの光ファイバを用いた。なお、長尺ファイバを接続したYDFに照射した放射線の線量率は700000R/hである。
【0047】
図8に示すように、長尺ファイバを接続しない場合(0kmの場合)と比較しても、1kmのファイバを接続した場合の照射に伴う光子数の変化は明瞭である。このことから、従来の光ファイバを用いた放射線センサの計測範囲は数mから最大30mであるのに対し、シンチレータ102として希土類ドープファイバを用いた放射線センサ100は、1kmまで計測範囲を拡大できることが確認できた。これは、希土類ドープファイバに添加する元素を、伝送損失が1dB/km以下の波長帯の光を発光する希土類元素としたことにより、1kmのファイバにおける光の伝送損失を1dB以下と極めて低くすることができたためと考えられる。
【0048】
また、10kmのファイバを接続した場合、放射線照射に伴う光子数の変化は著しく少なく、はっきりした変化は確認できない。これは、光ファイバの伝送損失によるものと推測される。すなわち、YDFに添加されているイッテルビウムが発光する1000nm帯の波長の光において、光ファイバの伝送損失は約1dB/kmであるため、10kmのファイバでは約10dBの損失となり、損失が大きいため計測が困難だったと考えられる。
【0049】
しかしながら、希土類ドープファイバに添加する希土類元素として、1300nm帯または1550nm帯などの、伝送損失が1dB/kmよりも更に低い波長帯の光を発光する元素を用いることにより、光ファイバにおける伝送損失をより低減できるため、光ファイバの長さを更に伸長することが可能であると考えられる。
【0050】
上記の結果から、シンチレータ102に希土類ドープファイバを用い、かかるシンチレータ102を放射線センサ100に利用することにより、放射線センサ100の計測範囲を飛躍的に拡大させることが可能となることが実証できた。なお、本実施形態においては、希土類ドープファイバに接続する長尺ファイバの長さを1kmおよび10kmとしたため、計測可能範囲は1kmまでしか確認されていないが、数km程度(10km未満)であれば同様に測定可能であると考えられる。
【0051】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は係る実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0052】
例えば本実施形態においては光ファイバ材料に元素を添加することによりシンチレータを構成するよう説明したが、ブロック形状や板形状の透明材料に元素を添加することでもよく、またチップの形態としてシンチレータを構成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、放射線の入射により発光するシンチレータを用いる放射線センサとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】放射線センサの全体構成を説明する図である。
【図2】シンチレータおよび光増幅器の原理を説明する図である。
【図3】他の実施形態を説明する図である。
【図4】さらに他の実施形態を説明する図である。
【図5】測定設備の概略を説明する図である。
【図6】EDFに放射線を照射した際の光子数の変化を示す図である。
【図7】YDFに放射線を照射した際の光子数の変化を示す図である。
【図8】長尺ファイバを接続したYDFに放射線を照射した際の光子数の変化を示す図である。
【図9】電磁波の種類と波長を説明する図である。
【図10】光の波長と石英系可視光ファイバの損失波長特性を示す図である。
【図11】石英系通信用光ファイバの損失波長特性を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
100…放射線センサ
102…シンチレータ
104…光ファイバ
106…光検出部
108…センサ
200…モジュール
202…照射装置
204…光電子増倍管
206…光終端器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線の入射により発光するシンチレータと、
前記シンチレータで発光した光を導く石英を主成分とする光ファイバと、
前記光ファイバに接続された光検出部とを備え、
前記シンチレータは、1300nm帯または1550nm帯の光を発光することを特徴とする放射線センサ。
【請求項2】
放射線の入射により発光するシンチレータと、
前記シンチレータで発光した光を導く石英を主成分とする光ファイバと、
前記光ファイバに接続された光検出部とを備え、
前記シンチレータは、1000nm帯から1800nm帯までの光を発光することを特徴とする放射線センサ。
【請求項3】
前記光ファイバの長さは略30m以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の放射線センサ。
【請求項4】
前記シンチレータは、透明材料に希土類元素を添加して構成したことを特徴とする請求項1または2に記載の放射線センサ。
【請求項5】
前記希土類元素は、エルビウム、プラセオジム、ネオジム、ツリウム、イッテルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、サマリウムの中から選択される1または2以上の元素であることを特徴とする請求項4記載の放射線センサ。
【請求項1】
放射線の入射により発光するシンチレータと、
前記シンチレータで発光した光を導く石英を主成分とする光ファイバと、
前記光ファイバに接続された光検出部とを備え、
前記シンチレータは、1300nm帯または1550nm帯の光を発光することを特徴とする放射線センサ。
【請求項2】
放射線の入射により発光するシンチレータと、
前記シンチレータで発光した光を導く石英を主成分とする光ファイバと、
前記光ファイバに接続された光検出部とを備え、
前記シンチレータは、1000nm帯から1800nm帯までの光を発光することを特徴とする放射線センサ。
【請求項3】
前記光ファイバの長さは略30m以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の放射線センサ。
【請求項4】
前記シンチレータは、透明材料に希土類元素を添加して構成したことを特徴とする請求項1または2に記載の放射線センサ。
【請求項5】
前記希土類元素は、エルビウム、プラセオジム、ネオジム、ツリウム、イッテルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、サマリウムの中から選択される1または2以上の元素であることを特徴とする請求項4記載の放射線センサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−36752(P2009−36752A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−112029(P2008−112029)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】
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