説明

放射線像変換パネルの製造方法

【課題】 画質の良好な放射線画像を与える放射線像変換パネルの製造方法を提供する。
【解決手段】 蒸着装置内にて、蛍光体材料を含む蒸発源を加熱することによって発生する蛍光体成分を基板上に蒸着堆積させることにより蛍光体層を形成する工程を含む放射線像変換パネルの製造方法において、基板上の任意の箇所における蛍光体成分の堆積速度の時間変化率が0.03乃至2μm/秒2の範囲にあることを特徴とする。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄積性蛍光体を利用する放射線画像記録再生方法に用いられる放射線像変換パネルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
X線などの放射線が照射されると、放射線エネルギーの一部を吸収蓄積し、そののち可視光線や赤外線などの電磁波(励起光)の照射を受けると、蓄積した放射線エネルギーに応じて発光を示す性質を有する蓄積性蛍光体(輝尽発光を示す輝尽性蛍光体等)を利用して、この蓄積性蛍光体を含有するシート状の放射線像変換パネルに、被検体を透過したあるいは被検体から発せられた放射線を照射して被検体の放射線画像情報を一旦蓄積記録した後、パネルにレーザ光などの励起光を走査して順次発光光として放出させ、そしてこの発光光を光電的に読み取って画像信号を得ることからなる、放射線画像記録再生方法が広く実用に供されている。読み取りを終えたパネルは、残存する放射線エネルギーの消去が行われた後、次の撮影のために備えられて繰り返し使用される。
【0003】
放射線画像記録再生方法に用いられる放射線像変換パネル(蓄積性蛍光体シートともいう)は、基本構造として、支持体とその上に設けられた蛍光体層とからなるものである。ただし、蛍光体層が自己支持性である場合には必ずしも支持体を必要としない。また、蛍光体層の上面(支持体に面していない側の面)には通常、保護層が設けられていて、蛍光体層を化学的な変質あるいは物理的な衝撃から保護している。
【0004】
蛍光体層としては、蓄積性蛍光体とこれを分散状態で含有支持する結合剤とからなるもの、蒸着法や焼結法によって形成される結合剤を含まないで蓄積性蛍光体の凝集体のみから構成されるもの、および蓄積性蛍光体の凝集体の間隙に高分子物質が含浸されているものなどが知られている。
【0005】
また、上記放射線画像記録再生方法の別法として特許文献1には、従来の蓄積性蛍光体における放射線吸収機能とエネルギー蓄積機能とを分離して、少なくとも蓄積性蛍光体(エネルギー蓄積用蛍光体)を含有する放射線像変換パネルと、放射線を吸収して紫外乃至可視領域に発光を示す蛍光体(放射線吸収用蛍光体)を含有する蛍光スクリーンとの組合せを用いる放射線画像形成方法が提案されている。この方法は、被検体を透過などした放射線をまず、該スクリーンまたはパネルの放射線吸収用蛍光体により紫外乃至可視領域の光に変換した後、その光をパネルのエネルギー蓄積用蛍光体にて放射線画像情報として蓄積記録する。次いで、このパネルに励起光を走査して発光光を放出させ、この発光光を光電的に読み取って画像信号を得るものである。このような放射線像変換パネルおよび蛍光スクリーンも、本発明に包含される。
【0006】
放射線画像記録再生方法(および放射線画像形成方法)は上述したように数々の優れた利点を有する方法であるが、この方法に用いられる放射線像変換パネルにあっても、できる限り高感度であってかつ画質(鮮鋭度、粒状性など)の良好な画像を与えるものであることが望まれている。
【0007】
感度および画質を高めることを目的として、放射線像変換パネルの蛍光体層を気相堆積法により形成する方法が提案されている。気相堆積法には蒸着法やスパッタ法などがあり、例えば蒸着法は、蛍光体またはその原料からなる蒸発源を抵抗加熱器や電子線の照射により加熱して蒸発源を蒸発、飛散させ、金属シートなどの基板表面にその蒸発物を堆積させることにより、蛍光体の柱状結晶からなる蛍光体層を形成するものである。
【0008】
気相堆積法により形成された蛍光体層は、結合剤を含有せず、蛍光体のみからなり、蛍光体の柱状結晶と柱状結晶の間には空隙が存在する。このため、励起光の進入効率や発光光の取出し効率を上げることができるので高感度であり、また励起光の平面方向への散乱を防ぐことができるので高鮮鋭度の画像を得ることができる。
【0009】
特許文献2には、輝尽性蛍光体層を気相堆積法によって形成するに際して、基板上への堆積速度を経時的に大きくすることにより蛍光体層を形成する放射線像変換パネルの製造方法が開示されている。この特許文献では、蛍光体の平均的な堆積速度を取り上げている。
【0010】
特許文献3には、蒸発源と蒸発源に対して相対的に移動する支持体との間にスリットを有し、そして蒸発源からの蒸発流が支持体面に入射する交角を規制する規制部材を備えた蛍光体蒸着装置が開示されている。その実施例には、支持体を50cm/分の速度で往復移動させることが記載されている。
【0011】
特許文献4には、蛍光体層を基板上に蒸着させて形成する際に、蛍光体層の密度が蛍光体の固体としての密度よりも低くなるように堆積させることにより、光学的に分離された針状構造の蛍光体層を形成する方法が開示されている。この特許文献には、基板を12rpmの回転速度で回転させることが記載されている。
【0012】
しかしながら、上記いずれの特許文献にも、基板上の任意の箇所における堆積速度の安定性(すなわち、変化率)については全く記述されていない。
【0013】
【特許文献1】特開2001−255610号公報
【特許文献2】特許3070941号公報
【特許文献3】特許2789194号公報
【特許文献4】米国特許出願公開第2001/0007352A1号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
放射線像変換パネルの蛍光体層を蒸着法により形成すると、一般には柱状結晶構造の蛍光体からなる蛍光体層が得られ、柱状結晶の平均柱径は数μm乃至数十μmである。しかしながら、柱状結晶の成長過程で蛍光体結晶が局所的に異常に成長することがあり、この異常成長した結晶(異常結晶、Hillockとも言う)の結晶サイズがパネル読み取り時の画素サイズや画像再生時の画像サイズを越えてしまうと、再生された放射線画像上でも点欠陥として確認できるようになり、各種の診断や検査に支障を来すことが分かった。
【0015】
一方、基板を移動させながら、蒸発源から蒸発発生する物質を基板上に堆積させる場合に、蒸発源からの蒸発流の速度(蒸発速度)が一定であっても、基板上に蒸発物質が堆積する速度(堆積速度)は、蒸発源の真上の位置で最大であり、蒸発源から離れるにつれて小さくなる。よって、基板上のある一箇所を考えた場合に、基板の移動速度が速いほど堆積速度の時間変化も大きくなる。そして、上記の異常結晶は、堆積速度の時間変化率が大きいほど増加することが分かった。
【0016】
従って、本発明は、点欠陥が少なく画像ムラの無い、画質の良好な放射線画像を与える放射線像変換パネルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、上述した問題について検討を重ねた結果、基板上の如何なる箇所においても堆積速度の時間変化率が一定値以内にあるときに、異常結晶を顕著に低減できることを見い出し、本発明に至ったものである。
【0018】
従って、本発明は、蒸着装置内にて、蛍光体材料を含む蒸発源を加熱することによって発生する蛍光体成分を基板上に蒸着堆積させることにより蛍光体層を形成する工程を含む放射線像変換パネルの製造方法において、該基板上の任意の箇所における蛍光体成分の堆積速度の時間変化率が0.03乃至2μm/秒2の範囲にあることを特徴とする放射線像変換パネルの製造方法にある。
【発明の効果】
【0019】
本発明の製造方法は、基板の移動速度、蒸発流の蒸発速度および蒸発物質の被着範囲などを好適に調整して、蒸発物質の堆積速度の時間変化率を一定値以内に抑えることによって、画像の点欠陥を招く異常結晶(Hillock)を顕著に低減することができる。さらに、蒸着膜の膜厚も均一にすることができ、画像ムラの発生を防ぐことができる。従って、本発明の方法により製造された放射線像変換パネルは、画質の良好な放射線画像を与え、医療用放射線画像診断に有利に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の放射線像変換パネルの製造方法において、蛍光体成分の堆積速度の時間変化率は0.03乃至1μm/秒2の範囲内にあることが好ましい。
【0021】
蒸着装置内にて、基板を3乃至250mm/秒の範囲内の速度で直線方向に往復移動させることが好ましい。
【0022】
あるいは、基板上の任意の箇所における移動速度が250mm/秒以内であるように、基板上の任意の位置を中心として基板を回転させることが好ましい。さらに、基板の最大移動速度が3乃至250mm/秒の範囲内にあるように、基板上の任意の位置を中心として基板を回転させることが好ましい。
【0023】
蒸着装置内の真空度は0.1乃至10Paの範囲に維持することが好ましい。また、蒸着を抵抗加熱方式により行うことが好ましい。
【0024】
蛍光体は、蓄積性蛍光体であることが好ましく、特には下記基本組成式(I)を有するアルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体であることが好ましい。基本組成式(I)においてMIはCsであり、XはBrであり、AはEuであり、そしてzは1×10-4≦z≦0.1の範囲内の数値であることが好ましい。
【0025】

IX・aMIIX’2・bMIIIX”3:zA ‥‥(I)
【0026】
[ただし、MIはLi、Na、K、Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属を表し;MIIはBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Ni、Cu、Zn及びCdからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ土類金属又は二価金属を表し;MIIIはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Ga及びInからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は三価金属を表し;X、X’及びX”はそれぞれ、F、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表し;AはY、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Cu、Ag、Tl及びBiからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は金属を表し;そしてa、b及びzはそれぞれ、0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<z<1.0の範囲内の数値を表す]
【0027】
以下に、本発明の放射線像変換パネルの製造方法について、蛍光体が蓄積性蛍光体であり、抵抗加熱方式による蒸着法を用いる場合を例にとって、詳細に述べる。
【0028】
蒸着膜形成のための基板は、通常は放射線像変換パネルの支持体を兼ねるものであり、従来の放射線像変換パネルの支持体として公知の材料から任意に選ぶことができるが、特に好ましい基板は、石英ガラスシート、サファイアガラスシート;アルミニウム、鉄、スズ、クロムなどからなる金属シート;アラミドなどからなる樹脂シートである。公知の放射線像変換パネルにおいて、パネルとしての感度もしくは画質(鮮鋭度、粒状性)を向上させるために、二酸化チタンなどの光反射性物質からなる光反射層、もしくはカーボンブラックなどの光吸収性物質からなる光吸収層などを設けることが知られている。本発明で用いられる基板についても、これらの各種の層を設けることができ、それらの構成は所望の放射線像変換パネルの目的、用途などに応じて任意に選択することができる。さらに、蒸着膜の柱状結晶性を高める目的で、基板の蒸着膜が形成される側の表面(基板の表面に下塗層(接着性付与層)、光反射層あるいは光吸収層などの補助層が設けられている場合には、それらの補助層の表面であってもよい)には微小な凹凸が形成されていてもよい。
【0029】
蓄積性蛍光体としては、波長が400〜900nmの範囲の励起光の照射により、300〜500nmの波長範囲に輝尽発光を示す輝尽性蛍光体が好ましい。
【0030】
そのうちでも、基本組成式(I):
IX・aMIIX’2・bMIIIX”3:zA ‥‥(I)
で代表されるアルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体は特に好ましい。ただし、MIはLi、Na、K、Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属を表し、MIIはBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Ni、Cu、Zn及びCdからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ土類金属又は二価金属を表し、MIIIはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Ga及びInからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は三価金属を表し、そしてAはY、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Mg、Cu及びBiからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は金属を表す。X、X’およびX”はそれぞれ、F、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表す。a、bおよびzはそれぞれ、0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<z<1.0の範囲内の数値を表す。
【0031】
上記基本組成式(I)において、zは1×10-4≦z≦0.1の範囲内にあることが好ましい。MIとしては少なくともCsを含んでいることが好ましい。Xとしては少なくともBrを含んでいることが好ましい。AとしてはEu又はBiであることが好ましく、そして特に好ましくはEuである。また、基本組成式(I)には、必要に応じて、酸化アルミニウム、二酸化珪素、酸化ジルコニウムなどの金属酸化物を添加物として、MIX1モルに対して、0.5モル以下の量で加えてもよい。
【0032】
また、基本組成式(II):
IIFX:zLn ‥‥(II)
で代表される希土類付活アルカリ土類金属弗化ハロゲン化物系輝尽性蛍光体も好ましい。ただし、MIIはBa、Sr及びCaからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ土類金属を表し、LnはCe、Pr、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Nd、Er、Tm及びYbからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素を表す。Xは、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表す。zは、0<z≦0.2の範囲内の数値を表す。
【0033】
上記基本組成式(II)中のMIIとしては、Baが半分以上を占めることが好ましい。Lnとしては、特にEu又はCeであることが好ましい。また、基本組成式(II)では表記上F:X=1:1のように見えるが、これはBaFX型の結晶構造を持つことを示すものであり、最終的な組成物の化学量論的組成を示すものではない。一般に、BaFX結晶においてX-イオンの空格子点であるF+(X-)中心が多く生成された状態が、600〜700nmの光に対する輝尽効率を高める上で好ましい。このとき、FはXよりもやや過剰にあることが多い。
【0034】
なお、基本組成式(II)では省略されているが、必要に応じて下記のような添加物を一種もしくは二種以上を基本組成式(II)に加えてもよい。
bA, wNI, xNII, yNIII
ただし、AはAl23、SiO2及びZrO2などの金属酸化物を表す。MIIFX粒子同士の焼結を防止する上では、一次粒子の平均粒径が0.1μm以下の超微粒子でMIIFXとの反応性が低いものを用いることが好ましい。NIは、Li、Na、K、Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属の化合物を表し、NIIは、Mg及び/又はBeからなるアルカリ土類金属の化合物を表し、NIIIは、Al、Ga、In、Tl、Sc、Y、La、Gd及びLuからなる群より選ばれる少なくとも一種の三価金属の化合物を表す。これらの金属化合物としてはハロゲン化物を用いることが好ましいが、それらに限定されるものではない。
【0035】
また、b、w、x及びyはそれぞれ、MIIFXのモル数を1としたときの仕込み添加量であり、0≦b≦0.5、0≦w≦2、0≦x≦0.3、0≦y≦0.3の各範囲内の数値を表す。これらの数値は、焼成やその後の洗浄処理によって減量する添加物に関しては最終的な組成物に含まれる元素比を表しているわけではない。また、上記化合物には最終的な組成物において添加されたままの化合物として残留するものもあれば、MIIFXと反応する、あるいは取り込まれてしまうものもある。
【0036】
その他、上記基本組成式(II)には更に必要に応じて、Zn及びCd化合物;TiO2、BeO、MgO、CaO、SrO、BaO、ZnO、Y23、La23、In23、GeO2、SnO2、Nb25、Ta25、ThO2等の金属酸化物;Zr及びSc化合物;B化合物;As及びSi化合物;テトラフルオロホウ酸化合物;ヘキサフルオロケイ酸、ヘキサフルオロチタン酸、及びヘキサフルオロジルコニウム酸の1価又は2価の塩からなるヘキサフルオロ化合物;V、Cr、Mn、Fe、Co及びNiなどの遷移金属の化合物などを添加してもよい。さらに、本発明においては上述した添加物を含む蛍光体に限らず、基本的に希土類付活アルカリ土類金属弗化ハロゲン化物系輝尽性蛍光体とみなされる組成を有するものであれば如何なるものであってもよい。
【0037】
基本組成式(III):
IIS:A,Sm ‥‥(III)
で代表される希土類付活アルカリ土類金属硫化物系輝尽性蛍光体も好ましい。ただし、MIIはMg、Ca及びSrからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ土類金属を表す。Aは、Eu及び/又はCeを表す。
【0038】
基本組成式(IV):
IIIOX:Ce ‥‥(IV)
で代表されるセリウム付活三価金属酸化ハロゲン化物系輝尽性蛍光体も好ましい。ただし、MIIIはPr、Nd、Pm、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びBiからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は三価金属を表す。Xは、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表す。
【0039】
ただし、本発明において蛍光体は蓄積性蛍光体に限定されるものではなく、X線などの放射線を吸収して紫外乃至可視領域に(瞬時)発光を示す蛍光体であってもよい。そのような蛍光体の例としては、LnTaO4:(Nb,Gd)系、Ln2SiO5:Ce系、LnOX:Tm系(Lnは希土類元素である)、CsX系(Xはハロゲンである)、Gd22S:Tb、Gd22S:Pr,Ce、ZnWO4、LuAlO3:Ce、Gd3Ga512:Cr,Ce、HfO2等を挙げることができる。
【0040】
多元蒸着(共蒸着)により蒸着膜を形成する場合には、蒸発源として、上記蓄積性蛍光体の母体成分を含むものと付活剤成分を含むものからなる少なくとも二個の蒸発源を用意する。多元蒸着は、蛍光体の母体成分と付活剤成分の融点や蒸気圧が大きく異なる場合に、その蒸発速度を各々制御して蛍光体母体中に付活剤を均一に含有させることができるので好ましい。各蒸発源は、所望とする蓄積性蛍光体の組成に応じて、蛍光体の母体成分および付活剤成分それぞれのみから構成されていてもよいし、添加物成分などとの混合物であってもよい。また、蒸発源は二個に限定されるものではなく、例えば別に添加物成分などからなる蒸発源を加えて三個以上としてもよい。
【0041】
蛍光体の母体成分は、母体を構成する化合物それ自体であってもよいし、あるいは反応して母体化合物となりうる二以上の原料の混合物であってもよい。また、付活剤成分は、一般には付活剤元素を含む化合物であり、例えば付活剤元素のハロゲン化物や酸化物が用いられる。
【0042】
付活剤がEuである場合に、付活剤成分のEu化合物におけるEu2+化合物のモル比はできるだけ高いことが好ましい。所望とする輝尽発光(あるいは瞬時発光であっても)はEu2+を付活剤とする蛍光体から発せられるからである。一般に、市販されているEu化合物には酸素混入のためにEu2+とEu3+が混合して含まれていることが多いが、このような場合には、予めEu化合物をBrガス雰囲気中で溶融処理して含有酸素を除去し、そして得られたEuBr2を用いることが望ましい。
【0043】
蒸発源は、その含水量が0.5重量%以下であることが好ましい。蒸発源となる蛍光体母体成分や付活剤成分が、例えばEuBr、CsBrのように吸湿性である場合には特に、含水量をこのような低い値に抑えることは突沸防止などの点から重要である。蒸発源の脱水は、上記の各蛍光体成分を減圧下で100〜300℃の温度範囲で加熱処理することにより行うことが好ましい。あるいは、各蛍光体成分を窒素ガス雰囲気などの水分を含まない雰囲気中で、該成分の融点以上の温度で数十分乃至数時間加熱溶融してもよい。
【0044】
さらに、本発明において、蒸発源、特に蛍光体母体成分を含む蒸発源は、アルカリ金属不純物(蛍光体の構成元素以外アルカリ金属)の含有量が10ppm以下であり、そしてアルカリ土類金属不純物(蛍光体の構成元素以外アルカリ土類金属)の含有量が5ppm(重量)以下であることが望ましい。とりわけ、蛍光体が前記基本組成式(I)を有するアルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体である場合には望ましい。このような蒸発源は、アルカリ金属やアルカリ土類金属など不純物の含有量の少ない原料を使用することにより調製することができる。
【0045】
本発明においては、例えば図1に示すような抵抗加熱器を備えた蒸着装置を用いて、基板上に蛍光体の蒸着膜を形成することができる。
【0046】
図1は、本発明に用いられる蒸着装置の構成例を示す概略断面図である。図1において、蒸着装置は、チャンバ1、基板加熱ヒータ2、基板保持・移動部材3、シャッタ5、抵抗加熱器6、7、ガス導入管8、蒸着速度モニタ9、真空計10、ガス分析計11、主排気バルブ12、および補助排気バルブ13から構成される。
【0047】
上記の複数の蒸発源を、図1の蒸着装置の抵抗加熱器6、7の加熱容器6a、7aにそれぞれ充填する。また、基板4を基板保持・移動部材3に保持させて固定する。装置のチャンバ1内を主排気バルブ12および補助排気バルブ13により排気して0.1〜10Pa程度の中真空度とする。好ましくは0.1〜4Paの真空度にする。特に好ましくは、チャンバ1内を排気して1×10-5〜1×10-2Pa程度の高真空度とした後、ガス導入管8よりArガス、Neガス、N2ガスなどの不活性ガスを導入して不活性ガスの圧力を0.1〜10Pa、好ましくは0.1〜4Paにする。これにより、装置内の水分圧や酸素分圧等を下げることができる。真空度は真空計10にて検出され、ガス分圧はガス分析計11にて検出される。排気装置としては、ロータリーポンプ、ターボ分子ポンプ、ディフュージョンポンプ、クライオポンプ、メカニカルブースタ等を適宜組み合わせて用いることができる。
【0048】
加熱容器6a、7a内の蒸発源と基板4との距離は、基板のサイズ等によっても異なるが、一般に10乃至1000mmの範囲にあり、各蒸発源間の距離は10乃至1000mmの範囲にある。
【0049】
基板4を、基板保持・移動部材3によって、直線方向に往復移動させるか、あるいは基板上の回転軸を中心に回転移動させる。
【0050】
図2は、基板を直線移動させる場合の代表的な例を示す上面図であり、図3は、図2のI−I線に沿った断面図である。図2及び図3において、蒸発源は二個一組で三組(61、71、62、72、63、73)が等間隔で配置されてなり、それぞれ被蒸着エリア81、82、83を有する。ここで、被蒸着エリア(被着範囲)とは、蒸発源の真上の基板位置における最大堆積速度に対して、その10%以上の堆積速度が維持される領域を意味する。基板(サイズm×n)41は、矢印21の方向に往復移動する。hは、基板41と蒸発源62、72との距離であり、iは、被蒸着エリア82の直径である。
【0051】
例えば、基板−蒸発源間の距離h=150mm、被蒸着エリア径i=120mm、基板サイズm×n=45cm×45cmであるとき、蒸発源の真上の位置(被蒸着エリアの中心位置)aにおける堆積速度(最大速度)を100%とすると、被蒸着エリアの端部bにおける堆積速度は約10%である。基板がエリア端部bから中心位置aまで60mm移動すると、その間に堆積速度は10倍(その逆では1/10倍)に変化して最大の変化を示す。
【0052】
本発明において、基板41上の任意の箇所における堆積速度の時間変化率は、2μm/秒2以内である。よって、基板41の直線移動の速度は3乃至250mm/秒の範囲内にあることが好ましい。また、基板41が直線移動する全距離に対して被蒸着エリア内を通過する距離は、最大でも60%以内にすることが好ましい。基板の全移動距離は通常、基板の長さmにほぼ等しい。というのは、被蒸着エリアを広くするには多数の蒸発源が必要で製造コストの増大を招き、また多数の蒸発源を均一に制御するのは技術的により困難だからである。
【0053】
図4は、基板を回転移動させる場合の代表的な例を示す上面図であり、図5は、図4のI−I線に沿った断面図である。図4及び図5において、蒸発源は二個一組で二組(64、74、65、75)が配置されてなり、それぞれ被蒸着エリア84、85を有する。基板(サイズm×n)42は、基板の中心を回転軸として矢印22の方向に回転移動する。hは、基板42と蒸発源64、74との距離であり、iは、被蒸着エリア84の直径である。
【0054】
例えば、基板−蒸発源間の距離h=150mm、被蒸着エリア径i=120mm、基板サイズm×n=45cm×45cmであるとき、蒸発源の真上の位置(被蒸着エリアの中心位置)aにおける堆積速度(最大速度)を100%とすると、被蒸着エリアの端部bにおける堆積速度は約10%である。基板がエリアの端部bから中心位置aまで移動すると、その間に堆積速度は10倍(その逆では1/10倍)に変化することになる。
【0055】
本発明において、基板42上の任意の箇所における堆積速度の時間変化率は、2μm/秒2以内である。よって、基板42の任意の箇所における回転移動の速度は250mm/秒以内であることが好ましい。基板42のサイズによっても異なる。堆積速度の変化率を小さくするためには回転移動速度が遅い方がよいが、遅過ぎると形成される蒸着膜の膜厚が不均一になるので、回転移動速度が最大となる箇所(図4では基板42の角部c)においても回転移動速度は、3乃至250mm/秒の範囲内にあることが好ましい。また、前記と同様の理由で、基板42の外周部が移動する全距離に対して被蒸着エリア内を通過する距離は、最大でも60%以内にすることが好ましい。
【0056】
なお、本発明に係る基板の移動および蒸発源の配置は、図2〜図5に示した構成に限定されるものではなく、蒸発源の組数(一元蒸着の場合には個数)およびその配置は、蒸着装置や基板のサイズ、移動の仕方などに応じて適宜決めることができる。また、基板の直線移動の方向や回転移動の場合の中心軸の位置も任意に定めることができる。
【0057】
次に、抵抗加熱方式により蒸着を行う。抵抗加熱方式は、中程度の真空度で蒸着を行うことができ、柱状結晶の良好な蒸着膜が容易に得られる利点がある。図1の抵抗加熱器6、7にそれぞれ電流を流して加熱容器6a、7a内の蒸発源を加熱する。蒸着に先立って、各蒸発源を充分に加熱して完全に溶融させることが望ましい。
【0058】
蛍光体結晶の異常成長によって発生する点欠陥は、蒸発源から蒸発する物質の突沸やスプラッシ(跳ね掛け)を起点として、蒸発速度の変化や堆積速度の変化によって大きくなると考えられる。そして、異常結晶(Hillock)のサイズは、この起点の大きさ、異常結晶の形状および蒸着膜の膜厚によって決まる。よって、蒸着前に蒸発源を充分に溶融させておくことにより、大きな突沸やスプラッシを防ぐことができる。また、蒸発流を安定させて一定の蒸発速度を維持することができる。
【0059】
蒸発源である蓄積性蛍光体の母体成分や付活剤成分等は加熱されて蒸発、飛散し、そして反応を生じて蛍光体を形成するとともに基板4の表面に堆積する。このとき、基板4を基板加熱ヒータ2により裏面から加熱してもよい。あるいは基板4を冷却してもよい。基板温度は、一般には20乃至350℃の範囲にあり、好ましくは100乃至300℃の範囲にある。各蒸発源の蒸発速度は、加熱器6、7の抵抗電流などを調整することにより制御することができる。堆積速度の変化率を小さくするためには、蒸着中、蒸発速度は一定であることが望ましい。
【0060】
蒸着中、蒸発源の真上の位置における堆積速度は蒸着速度モニタ9により随時検出される。この堆積速度は、一般には0.001乃至16μm/秒の範囲にあり、好ましくは0.01乃至1.6μm/秒の範囲にある。これは、蒸発源の蒸発速度に対応している。
【0061】
蛍光体の堆積速度の時間変化率は、前述したように、一般に基板が被蒸着エリア内をエリアの中心位置を通って移動するときに最大となる。この最大変化率は、被蒸着エリアの中心位置(蒸発源の真上の位置)での堆積速度と端部位置での堆積速度の差を、被蒸着エリアの中心から端部まで基板が移動するのに要する時間で割ることにより、算出することができる。
【0062】
本発明において、基板上の任意の箇所における堆積速度の変化率は2μm/秒2以内である。これにより、異常結晶(Hillock)の発生を顕著に低減することができる。異常結晶の減少の点からは、堆積速度の変化率が小さい方がよい、すなわち基板の移動速度が遅い方がよいが、一方移動速度が遅くなり過ぎると、蒸着膜の膜厚が不均一になって画像ムラが生じたり、柱状結晶性が悪くなって(垂直方向に真っ直ぐに成長しにくくなる)感度の低下を招くことになる。基板上の位置によって堆積速度もその変化率も異なるが、堆積速度の最大変化率は0.03乃至2μm/秒2の範囲内にあることが好ましい。
【0063】
なお、抵抗加熱器による加熱を複数回に分けて行って二層以上の蛍光体層を形成することもできる。蒸着終了後に蒸着膜を熱処理(アニール処理)してもよい。熱処理は、一般には100℃乃至300℃の温度で0.5乃至3時間かけて行い、好ましくは150℃乃至250℃の温度で0.5乃至2時間かけて行う。熱処理雰囲気としては、不活性ガス雰囲気、もしくは少量の酸素ガス又は水素ガスを含む不活性ガス雰囲気が用いられる。
【0064】
上記蛍光体からなる蒸着膜を形成するに先立って、蛍光体母体化合物のみからなる蒸着膜を形成してもよい。この母体化合物の蒸着膜は、一般に柱状結晶構造または球状結晶の凝集体からなり、この上に形成される蛍光体蒸着膜の柱状結晶性をより一層良好にすることができる。なお、蒸着時の基板加熱および/または蒸着後の熱処理によっては、蛍光体蒸着膜中の付活剤など添加物が母体化合物蒸着膜中に拡散するために両者の境界は必ずしも明確ではない。
【0065】
一元蒸着の場合には、蒸発源として蛍光体自体または蛍光体原料混合物を用いてこれを単一の抵抗加熱器で加熱する。蒸発源は予め、所望の濃度の付活剤を含有するように調製する。もしくは、蛍光体母体成分と付活剤成分との蒸気圧差を考慮して、蒸発源に蛍光体母体成分を補給しながら蒸着を行うことも可能である。
【0066】
このようにして、蛍光体の柱状結晶がほぼ厚み方向に成長した蛍光体層が得られる。蛍光体層は、結合剤を含有せず、蛍光体のみからなり、蛍光体の柱状結晶と柱状結晶の間には空隙が存在する。蛍光体層の層厚は、目的とする放射線像変換パネルの特性、蒸着法の実施手段や条件などによっても異なるが、通常は50μm〜1mmの範囲にあり、好ましくは200μm〜700μmの範囲にある。
【0067】
なお、基板は必ずしも放射線像変換パネルの支持体を兼ねる必要はなく、蛍光体層形成後、蛍光体層を基板から引き剥がし、別に用意した支持体上に接着剤を用いるなどして接合して、支持体上に蛍光体層を設ける方法を利用してもよい。あるいは、蛍光体層に支持体(基板)が付設されていなくてもよい。
【0068】
本発明に用いられる蒸着法は、上記の抵抗加熱方式による蒸着法に限定されるものではなく、電子線照射方式による蒸着法等も利用することができる。
【0069】
蛍光体層の表面には、放射線像変換パネルの搬送および取扱い上の便宜や特性変化の回避のために、保護層を設けることが望ましい。保護層は、励起光の入射や発光光の出射に殆ど影響を与えないように、透明であることが望ましく、また外部から与えられる物理的衝撃や化学的影響から放射線像変換パネルを充分に保護することができるように、化学的に安定で防湿性が高く、かつ高い物理的強度を持つことが望ましい。
【0070】
保護層としては、セルロース誘導体、ポリメチルメタクリレート、有機溶媒可溶性フッ素系樹脂などのような透明な有機高分子物質を適当な溶媒に溶解して調製した溶液を蛍光体層の上に塗布することで形成されたもの、あるいはポリエチレンテレフタレートなどの有機高分子フィルムや透明なガラス板などの保護層形成用シートを別に形成して蛍光体層の表面に適当な接着剤を用いて設けたもの、あるいは無機化合物を蒸着などによって蛍光体層上に成膜したものなどが用いられる。また、保護層中には酸化マグネシウム、酸化亜鉛、二酸化チタン、アルミナ等の光散乱性微粒子、パーフルオロオレフィン樹脂粉末、シリコーン樹脂粉末等の滑り剤、およびポリイソシアネート等の架橋剤など各種の添加剤が分散含有されていてもよい。保護層の層厚は一般に、高分子物質からなる場合には約0.1〜20μmの範囲にあり、ガラス等の無機化合物からなる場合には100〜1000μmの範囲にある。
【0071】
保護層の表面にはさらに、保護層の耐汚染性を高めるためにフッ素樹脂塗布層を設けてもよい。フッ素樹脂塗布層は、フッ素樹脂を有機溶媒に溶解(または分散)させて調製したフッ素樹脂溶液を保護層の表面に塗布し、乾燥することにより形成することができる。フッ素樹脂は単独で使用してもよいが、通常はフッ素樹脂と膜形成性の高い樹脂との混合物として使用する。また、ポリシロキサン骨格を持つオリゴマーあるいはパーフルオロアルキル基を持つオリゴマーを併用することもできる。フッ素樹脂塗布層には、干渉むらを低減させて更に放射線画像の画質を向上させるために、微粒子フィラーを充填することもできる。フッ素樹脂塗布層の層厚は通常は0.5μm乃至20μmの範囲にある。フッ素樹脂塗布層の形成に際しては、架橋剤、硬膜剤、黄変防止剤などのような添加成分を用いることができる。特に架橋剤の添加は、フッ素樹脂塗布層の耐久性の向上に有利である。
【0072】
上述のようにして本発明の放射線像変換パネルが得られるが、本発明のパネルの構成は、公知の各種のバリエーションを含むものであってもよい。例えば、画像の鮮鋭度を向上させることを目的として、上記の少なくともいずれかの層を励起光を吸収し発光光は吸収しないような着色剤によって着色してもよい。
【実施例1】
【0073】
[実施例1]基板の直線移動
(1)蒸発源
蒸発源として、純度4N以上の臭化セシウム(CsBr)粉末、および純度3N以上の臭化ユーロピウム(EuBr2)粉末を用意した。各粉末中の微量元素をICP−MS法(誘導結合高周波プラズマ分光分析−質量分析法)により分析した結果、CsBr中のCs以外のアルカリ金属(Li、Na、K、Rb)は各々10ppm以下であり、アルカリ土類金属(Mg、Ca、Sr、Ba)など他の元素は2ppm以下であった。また、EuBr2中のEu以外の希土類元素は各々20ppm以下であり、他の元素は10ppm以下であった。これらの粉末は、吸湿性が高いので露点−20℃以下の乾燥雰囲気を保ったデシケータ内で保管し、使用直前に取り出すようにした。
【0074】
(2)蛍光体層の形成
支持体として、順にアルカリ洗浄、純水洗浄、およびIPA(イソプロピルアルコール)洗浄を施したガラス基板(サイズ:45cm×45cm)4を用意し、図1に示した蒸着装置内の基板保持・移動部材3に固定した。上記CsBr蒸発源を抵抗加熱器6の坩堝容器6aに、EuBr2蒸発源を抵抗加熱器7の坩堝容器7aにそれぞれ充填した。
【0075】
図2及び図3に示したように、三組の蒸発源を、蒸着膜の膜厚分布が±10%以内になるように等間隔で配置した。基板と各蒸発源との間の距離hを150mmとした。被蒸着エリア径iは120mmであった。基板を矢印方向に往復移動させた。基板の直線移動速度は200mm/秒であった。
【0076】
次に、チャンバ1内を主排気バルブ12および補助排気バルブ13により排気して、1×10-3Paの真空度とした。このとき、真空排気装置としてロータリーポンプ、メカニカルブースターおよびターボ分子ポンプの組合せを用いた。ガス導入管8よりチャンバ1内にArガス(純度5N)を導入して、1.0Paの真空度(Arガス圧)とした。基板加熱ヒータ2でガラス基板4を100℃に加熱した。
【0077】
基板4と各蒸発源との間に設けられたシャッタ5を閉じた状態で、抵抗加熱器6、7に電流を流して各蒸発源を加熱し、完全に溶融させた。その後、CsBr蒸発源側のシャッタ5だけを開き、基板4の表面にCsBr蛍光体母体を堆積させて被覆層を形成した。その3分後に、EuBr2蒸発源側のシャッタ5も開き、被覆層上にCsBr:Eu輝尽性蛍光体を堆積させた。蒸着中、蒸発源真上の堆積速度は0.6μm/秒で一定であった。また、各抵抗加熱器6、7の電流値を調整して、輝尽性蛍光体におけるEu/Csモル濃度比が0.003/1となるように制御した。蒸着終了後、装置内を大気圧に戻し、装置から基板を取り出した。基板上には、蛍光体の柱状結晶がほぼ垂直方向に密に林立した構造の蓄積性蛍光体層(層厚:700μm、面積43cm×43cm)が形成されていた。
このようにして、共蒸着により支持体と蓄積性蛍光体層とからなる本発明に従う放射線像変換パネルを製造した。
【0078】
[実施例2]基板の直線移動
実施例1において、基板の直線移動速度を20mm/秒に変更したこと以外は実施例1と同様にして、本発明に従う放射線像変換パネルを製造した。
【0079】
[実施例3]基板の直線移動
実施例1において、基板の直線移動速度を4mm/秒に変更したこと以外は実施例1と同様にして、本発明に従う放射線像変換パネルを製造した。
【0080】
[比較例1]基板の直線移動
実施例1において、基板の直線移動速度を300mm/秒に変更したこと以外は実施例1と同様にして、比較のための放射線像変換パネルを製造した。
【0081】
[比較例2]基板の直線移動
実施例1において、基板の直線移動速度を4mm/秒に変更したこと、および蒸発源真上の堆積速度を0.1秒毎に0.6μm/秒と0μm/秒の間で変化させたこと以外は実施例1と同様にして、比較のための放射線像変換パネルを製造した。
【0082】

[放射線像変換パネルの性能評価1]
得られた各放射線像変換パネルについて、以下のようにして点欠陥、画像ムラおよび感度の評価を行った。
(1)放射線画像の点欠陥
放射線像変換パネルを室内光を遮蔽可能なカセッテに収納し、これにX線(10mR)を照射した。次いで、パネルをカセッテから取り出した後、ラインスキャン読取装置(励起光:半導体レーザアレイ(波長:660nm)、CCDラインセンサー)を用いて、パネルから画像データを得、得られた画像データを画像再生装置(画像サイズ:200μm)により画像フィルムとして出力した。この出力フィルム上で、点欠陥の多い領域10cm×10cmを選択して、目視により点欠陥の数を数えた。
【0083】
(2)画像ムラ
上記の出力フィルムを目視により観察して画像ムラの有無を調べた。
A:画像ムラが無い、 B:画像ムラが若干ある
C:画像ムラが非常にあり実用上問題がある
【0084】
(3)感度
放射線像変換パネルを室内光を遮蔽可能なカセッテに収納し、これに管電圧80kVp、管電流16mAのX線を照射した。次いで、パネルをカセッテから取り出した後、パネル表面を半導体レーザ光(波長:660nm)で励起し、パネルから放出された輝尽発光光をフォトマルチプライヤで検出し、その発光量(実施例1を基準とした相対値)により感度を評価した。
【0085】
また、蛍光体の堆積速度の最大時間変化率を、被蒸着エリアの中心位置(蒸発源の真上の位置)での堆積速度(V、100%)、端部位置での堆積速度(10%V)、被蒸着エリア径i、および基板移動速度(v1)から、下記式により求めた。
堆積速度の最大変化率 = (V−0.1V)
0.5i/v1
得られた結果をまとめて表1に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
[実施例4]基板の回転移動
実施例1の(2)蛍光体層の形成を、以下のようにして行ったこと以外は実施例1と同様にして、本発明に従う放射線像変換パネルを製造した。
支持体として、順にアルカリ洗浄、純水洗浄、およびIPA洗浄を施したガラス基板(サイズ:45cm×45cm)4を用意し、図1に示した蒸着装置内の基板保持・移動部材3に固定した。上記CsBr蒸発源を抵抗加熱器6の坩堝容器6aに、EuBr2蒸発源を抵抗加熱器7の坩堝容器7aにそれぞれ充填した。
【0088】
図4及び図5に示したように、二組の蒸発源を、蒸着膜の膜厚分布が±10%以内になるように配置した。基板と各蒸発源との間の距離hを150mmとした。被蒸着エリア径iは120mmであった。基板を矢印方向に回転させた。基板の角部cの回転移動速度は約166mm/秒(回転速度10rpm)であった。
【0089】
次に、チャンバ1内を主排気バルブ12および補助排気バルブ13により排気して、1×10-3Paの真空度とした。このとき、真空排気装置としてロータリーポンプ、メカニカルブースターおよびターボ分子ポンプの組合せを用いた。ガス導入管8よりチャンバ1内にArガス(純度5N)を導入して、1.0Paの真空度(Arガス圧)とした。基板加熱ヒータ2でガラス基板4を100℃に加熱した。
【0090】
基板4と各蒸発源との間に設けられたシャッタ5を閉じた状態で、抵抗加熱器6、7に電流を流して各蒸発源を加熱し、完全に溶融させた。その後、CsBr蒸発源側のシャッタ5だけを開き、基板4の表面にCsBr蛍光体母体を堆積させて被覆層を形成した。その3分後に、EuBr2蒸発源側のシャッタ5も開き、被覆層上にCsBr:Eu輝尽性蛍光体を堆積させた。蒸着中、蒸発源真上の堆積速度は0.6μm/秒で一定であった。また、各抵抗加熱器6、7の電流値を調整して、輝尽性蛍光体におけるEu/Csモル濃度比が0.003/1となるように制御した。蒸着終了後、装置内を大気圧に戻し、装置から基板を取り出した。基板上には、蛍光体の柱状結晶がほぼ垂直方向に密に林立した構造の蓄積性蛍光体層(層厚:700μm、面積43cm×43cm)が形成されていた。
このようにして、共蒸着により支持体と蓄積性蛍光体層とからなる本発明に従う放射線像変換パネルを製造した。
【0091】
[実施例5]基板の回転移動
実施例4において、基板の角部の回転移動速度を約83mm/秒(回転速度5rpm)に変更したこと以外は実施例4と同様にして、本発明に従う放射線像変換パネルを製造した。
【0092】
[比較例3]基板の回転移動
実施例4において、基板の角部の回転移動速度を約833mm/秒(回転速度50rpm)に変更したこと以外は実施例4と同様にして、比較のための放射線像変換パネルを製造した。
【0093】
[比較例4]基板の回転移動
実施例4において、基板の角部の回転移動速度を約300mm/秒(回転速度18rpm)に変更したこと以外は実施例4と同様にして、比較のための放射線像変換パネルを製造した。
【0094】

[放射線像変換パネルの性能評価2]
得られた各放射線像変換パネルについて、前記と同様にして点欠陥および感度の評価を行った。なお、点欠陥は基板の角部付近で多かった。
【0095】
また、基板の角部における蛍光体の堆積速度の時間変化率(最大変化率)は、基板の角部が被蒸着エリア内で最大となる堆積速度と端部位置での堆積速度の差を、その最大堆積速度位置から端部まで基板の角部が移動するのに要する時間で割ることにより求めた。
得られた結果をまとめて表2に示す。
【0096】
【表2】

【0097】
表1及び表2に示した結果から明らかなように、本発明の方法に従って堆積速度の時間変化率を2μm/秒2以内にして製造した放射線像変換パネル(実施例1〜5)はいずれも、堆積速度の変化率が上記範囲外である比較のための放射線像変換パネル(比較例1〜4)に比べて、点欠陥が顕著に減少した。また、本発明のパネル(実施例1〜3)は画像ムラが殆ど発生せず、感度も良好であった。一方、比較例2から、基板の移動速度が一定であっても蒸発速度(蒸発源真上の堆積速度に対応)が変化すると、結果的に堆積速度の変化率が大きくなって、点欠陥が増加することが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明に用いられる蒸着装置の構成例を示す概略断面図である。
【図2】基板の直線移動の代表的な例を示す上面図である。
【図3】図3のI−I線に沿った断面図である。
【図4】基板の回転移動の代表的な例を示す上面図である。
【図5】図4のI−I線に沿った断面図である。
【符号の説明】
【0099】
1 チャンバ
2 基板加熱ヒータ
3 基板保持・移動部材
4、41、42 基板
5 シャッタ
6、7 抵抗加熱器
6a、7a 加熱容器
8 ガス導入管
9 蒸着速度モニタ
10 真空計
11 ガス分析計
12 主排気バルブ
13 補助排気バルブ
61、62、63、64、65、71、72、73、74、75 蒸発源
81、82、83、84、85 被蒸着エリア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着装置内にて、蛍光体材料を含む蒸発源を加熱することによって発生する蛍光体成分を基板上に蒸着堆積させることにより蛍光体層を形成する工程を含む放射線像変換パネルの製造方法において、該基板上の任意の箇所における蛍光体成分の堆積速度の時間変化率が0.03乃至2μm/秒2の範囲にあることを特徴とする放射線像変換パネルの製造方法。
【請求項2】
蛍光体成分の堆積速度の時間変化率が0.03乃至1μm/秒2の範囲内にある請求項1に記載の放射線像変換パネルの製造方法。
【請求項3】
蒸着装置内にて、基板を3乃至250mm/秒の範囲内の速度で直線方向に往復移動させる請求項1または2に記載の放射線像変換パネルの製造方法。
【請求項4】
蒸着装置内での基板上の任意の箇所における移動速度が3乃至250mm/秒の範囲内にあるように、基板上の任意の位置を中心として基板を回転させる請求項1または2に記載の放射線像変換パネルの製造方法。
【請求項5】
蒸着装置内の真空度を0.1乃至10Paの範囲に維持する請求項1乃至4のいずれかの項に記載の放射線像変換パネルの製造方法。
【請求項6】
蒸着を抵抗加熱方式により行う請求項1乃至5のいずれかの項に記載の放射線像変換パネルの製造方法。
【請求項7】
蛍光体が蓄積性蛍光体である請求項1乃至6のいずれかの項に記載の放射線像変換パネルの製造方法。
【請求項8】
蓄積性蛍光体が、基本組成式(I):

IX・aMIIX’2・bMIIIX”3:zA ‥‥(I)

[ただし、MIはLi、Na、K、Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属を表し;MIIはBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Ni、Cu、Zn及びCdからなる群より選ばれる少なくとも一種のアルカリ土類金属又は二価金属を表し;MIIIはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Ga及びInからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は三価金属を表し;X、X’及びX”はそれぞれ、F、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる少なくとも一種のハロゲンを表し;AはY、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Na、Mg、Cu、Ag、Tl及びBiからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素又は金属を表し;そしてa、b及びzはそれぞれ、0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<z<1.0の範囲内の数値を表す]
を有するアルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体である請求項7に記載の放射線像変換パネルの製造方法。
【請求項9】
基本組成式(I)においてMIがCsであり、XがBrであり、AがEuであり、そしてzが1×10-4≦z≦0.1の範囲内の数値である請求項8に記載の放射線像変換パネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−29852(P2006−29852A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−205761(P2004−205761)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】