説明

放射線像変換パネルの製造方法

【課題】生産効率が良い放射線像変換パネルの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の基板の表面上に、所定の幅を有する枠が設けられており、この枠で囲まれた領域に蛍光体層が形成されている放射線像変換パネルの製造方法であって、基板の表面に枠を設ける工程と、少なくとも枠の上面に、接着剤を用いてマスク材を剥離可能に貼り付ける工程と、枠で囲まれた領域に気相堆積法により蛍光体層を形成する工程とを有する。接着剤の接着幅をwとし、枠の幅をαとするとき、接着剤の接着幅wは、0<w≦αである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体層を有する、いわゆるIP(Imaging Plate)、またはシンチレータなどの放射線像変換パネルの製造方法に関し、特に、生産効率が良い放射線像変換パネルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、放射線(X線、α線、β線、γ線、電子線、紫外線等)の照射を受けて種々の応答を示す蛍光体が知られており、医療用途などの各種の用途に利用されている。
【0003】
例えば、放射線の照射を受けると、この放射線エネルギの一部を蓄積し、その後、可視光等の励起光の照射を受けると、蓄積されたエネルギに応じた輝尽発光を示す蛍光体が知られている。この蛍光体は、輝尽性蛍光体(蓄積性蛍光体)と呼ばれている。
【0004】
この輝尽性蛍光体の層を有する放射線像変換パネルを利用する、放射線像情報記録再生システムが知られており、例えば、富士フイルム社製のFCR(Fuji Computed Radiography)等として、実用化されている。
このシステムでは、人体などの被写体を介してX線等を照射することにより、放射線像変換パネル(蛍光体層)に被写体の放射線像(放射線画像)を記録する。記録後に、変換パネルを励起光で2次元的に走査して輝尽発光を生ぜしめ、この輝尽発光光を光電的に読み取って画像信号を得、この画像信号に基づいて発生した画像を、CRTなどの表示装置や、写真感光材料などの記録材料等に、被写体の放射線像として出力する。
【0005】
他の例として、放射線の照射を受けて可視光領域の光を発光(蛍光)する蛍光体も知られており、この蛍光体は、シンチレータに用いられている。このシンチレータパネルも放射線像変換パネルの一つである。
被写体を透過した放射線を、シンチレータパネルによって可視光に変換し、その可視光をフォトダイオード等の光電変換素子で電荷に変換し、この電荷をTFT(Thin Film Transistor、薄膜トランジスタ)等で順次読み出して放射線像を形成するシステムが利用されている。
【0006】
放射線像変換パネルは、通常、蛍光体の粉末をバインダ等を含む溶媒に分散してなる塗料を調整して、この塗料をガラスや樹脂製のパネル状の支持体に塗布し、乾燥することによって、作成される。
このように塗布すること以外にも、真空蒸着法またはスパッタリング法等の気相堆積法(真空成膜法)によって、放射線像変換パネルにおいて、基板に蛍光体層を形成することが知られている(特許文献1、2参照)。
【0007】
特許文献1の輝尽性蛍光体パネル(放射線像変換パネル)の製造方法には、基板に枠を150℃以上の耐熱性を有する耐熱性接着剤で接着した後、この枠上に剥離可能で、且つ、この枠の熱膨張に追従する柔軟性を有するマスク材を貼り付け、このマスク材により基板上の輝尽性蛍光体層の蒸着位置を決定して、蒸着法(真空成膜法)によって輝尽性蛍光体層を形成することが記載されている。特許文献1において、基板と枠との熱膨張係数の差は1×10−6/℃以下であり、マスク材として、耐熱性粘着剤つきカプトンテープ(カプトンは、デュポン社の登録商標)が好適であることが記載されている。
【0008】
特許文献2には、結晶化ガラス支持体の上に、エレクトロンビーム法(EB法)による蒸着法(真空成膜法)により、輝尽性蛍光体からなる輝尽層(輝尽性蛍光体層)が形成されてなる放射線像変換パネルが記載されている。この特許文献2においては、ステンレス板のマスクを用いて輝尽層の蒸着領域が決定されている。
【0009】
特許文献1、2に記載されているように、真空成膜法による蛍光体層は、真空中で形成されるので不純物が少なく、また、輝尽性蛍光体以外のバインダなどの成分が殆ど含まれないので、性能のバラツキが少なく、しかも発光効率が非常に良好であるという、優れた特性を有している。
【0010】
【特許文献1】特開2005−315797号公報
【特許文献2】特許第2884356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1においては、マスク材の耐熱性粘着剤の成分が、蒸着時等に放出されて蒸着領域に付着すると、形成される蛍光体は基板と十分な密着性を得ることができない。このため、蛍光体層が剥離するなど歩留まりが低くなり、高い生産性を得ることができないという問題点がある。
また、ステンレス板をマスクとして用いている特許文献2において、マスクとしてステンレス板を枠の上に設けたとしても、蛍光体層を蒸着するときに、基板を加熱した場合、熱膨張によってマスクと、基板、枠との位置が相対的にずれてしまう。このため、枠の上に、蛍光体層となる蛍光体が堆積することを抑制することができない虞がある。枠の上に蛍光体が堆積すると、この蛍光体を取り除く必要があり、放射線像変換パネルを効率良く生産することができない。
【0012】
本発明の目的は、前記従来技術に基づく問題点を解消し、生産効率が良い放射線像変換パネルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は、基板の表面上に、所定の幅を有する枠が設けられており、前記枠で囲まれた領域に蛍光体層が形成されている放射線像変換パネルの製造方法であって、前記基板の表面に前記枠を設ける工程と、少なくとも前記枠の上面に、接着剤を用いてマスク材を剥離可能に貼り付ける工程と、前記枠で囲まれた領域に、気相堆積法により前記蛍光体層を形成する工程とを有し、前記接着剤の接着幅をwとし、前記枠の幅をαとするとき、前記接着剤の接着幅wは、0<w≦αであることを特徴とする放射線像変換パネルの製造方法を提供するものである。
【0014】
本発明において、前記接着剤の接着幅wは、0.1α<w≦0.5αであることが好ましい。
また、本発明においては、前記接着剤は、例えば、シロキサンを含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、蛍光体層を囲む枠が基板に設けられている放射線像変換パネルの製造方法において、基板の表面のうち、枠で囲まれた領域に気相堆積法により蛍光体層を形成する前に、少なくとも枠の上面に、接着剤を用いてマスク材を剥離可能に貼り付ける。この場合、接着剤の接着幅をwとし、枠の幅をαとするとき、この接着剤の接着幅wを0<w≦αとすることにより、接着剤からその成分が放出されて蛍光体層の形成領域に付着しても、基板に対する密着性を低下させることなく蛍光体層を形成することができ、蛍光体層の剥離を抑制することができる。このため、蛍光体層を歩留まり高く製造でき、高い生産性で放射線像変換パネルを製造することができる。
さらには、蛍光体層の剥離を抑制することができるため、この剥離に起因する画像欠陥も抑制でき、画質が良好な放射線像変換パネルを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明の放射線像変換パネルの製造方法を詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る放射線像変換パネルの製造方法により得られる放射線像変換パネルを示す模式的断面図である。
【0017】
図1に示す放射線像変換パネル10(以下、変換パネル10という)は、基本的に、基板12と、この基板12上に設けられた枠14と、この枠14で囲まれた領域に形成された輝尽性蛍光体層(以下、蛍光体層という)16と、接着層18により接着された防湿保護層20とを有する。
変換パネル10は、例えば、輝尽性蛍光体からなる蛍光体層16を有し、被写体を透過した放射線を蓄積(記録)することにより放射線画像を撮影して、励起光の入射によって撮影した放射線画像に応じて輝尽発光光を出射する、いわゆるIP(Imaging Plate)である。
【0018】
なお、本発明は、輝尽性蛍光体からなる蛍光体層16を有する変換パネル10に限定されるものではなく、放射線の入射によって発光(蛍光)するCsIで構成される蛍光体層を有するフラットパネルディテクタなどの放射線像変換パネル(シンチレータパネル)であってもよい。
【0019】
なお、本実施形態の変換パネル10は、上記構成が満たされていれば、蛍光体層16の成膜以前に形成される膜を有していてもよい。この場合、例えば、基板12の表面12aに輝尽発光光を反射するための反射膜を有してもよく、さらに、反射膜上に反射膜を保護するためのバリア膜等を有してもよい。また、これらの膜が形成された基板12の表面12aに蛍光体層16を形成しても良い。
【0020】
本実施形態の変換パネル10において、基板12は、板状部材またはシート部材であり、所定の平面度となるように研磨されていてもよい。また、蛍光体層16を形成する前に、所定の平面度となるように研磨してもよい。
基板12は、特に限定されるものではなく、公知の蛍光体パネルで使用されている各種のものが利用可能である。
一例として、セルロースアセテートフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、トリアセテートフィルム、ポリカーボネートフィルムなどのプラスチックフィルム; 石英ガラス、無アルカリガラス、ソーダガラス、耐熱ガラス(パイレックス(登録商標)等)などから形成されるガラス板; アルミニウムシート、鉄シート、銅シート、クロムシートなどの金属シートあるいは金属酸化物の被服層を有する金属シート、またはアルミニウム合金シートなどの合金シート; 等が例示される。
【0021】
変換パネル10において、基板12の表面12aは、蛍光体層16が発した輝尽発光光の反射面としての機能も要求されるため、例えば、鏡面加工などが施されて、高い光反射性を有することが好ましい。
基板12の好ましい例として、軽量で、かつ良好な光反射性が得られ、さらに本発明の効果を好適に発現できる等の点で、アルミニウム製またはアルミニウム合金製の基板12が好適に例示される。これ以外には、ガラス板などの基材の表面に、アルミニウム層等の金属層またはアルミニウム合金等の合金層を形成してなる基板12も好適に利用可能である。なお、基板12を構成する合金、基材表面に形成される合金層は、腐食防止用のマグネシウムなどを含有するものであってもよい。
【0022】
枠14は、基板12の表面12aにおける蛍光体層16の形成領域A、すなわち、変換パネル10の撮像領域を区画するものであり、本実施形態においては、蛍光体層16の形成領域Aは矩形状であるため、枠14は、その外縁を囲むように設けられており、枠14の外形形状を呈する(図2参照)。この枠14は、所定の厚さおよび幅を有する部材により構成されている。
枠14は、例えば、基板12の表面12aに形成された溝12bに挿入されて基板12に固定されている。
【0023】
後述するように、変換パネル10の製造方法においては、蛍光体層16を形成する前に、基板12の表面12aにおける蛍光体層16の形成領域A、すなわち、変換パネル10の撮像領域を囲む枠14が設けられる。
枠14の外形形状は、矩形状に限定されるものではなく、蛍光体層16の形成領域A(変換パネル10の撮像領域)の外形形状に応じて、適宜決定されるものである。
【0024】
なお、枠14の固定方法は、基板12に溝12bを形成する方法に、特に限定されるものではなく、150℃以上の耐熱性を有する耐熱接着剤、または溶解金属を用いて枠14を基板12の表面12aに固定する方法も利用可能である。このような方法で枠14を固定することにより、蛍光体層16の蒸着時または蒸着後の熱処理時に基板12が加熱されても、枠14が基板12から剥離することを防ぐことができる。さらに、溶解金属による枠14の固定に関しては、上記の利点に加え、基板12と枠14との接着部からの透湿を低減することもできる。
なお、耐熱接着剤は、特に限定されるものではなく、一例として、エポキシ接着剤が好適に例示される。また、溶解金属も、同様に、特に限定されるものではなく、一例として、アルミ半田が好適に例示される。
【0025】
枠14は、例えば、適切な冶具を用いて位置合わせをして、基板12表面12aに固定される。溝12bは、機械加工等によって、非常に高い位置精度で形成することができる。従って、このような溝12bを形成し、溝12bに枠14を挿入して、枠14の位置決めを行うことにより、枠14と基板12との位置精度、および基板12に対する蛍光体層16の蒸着位置精度が向上し、蛍光体パネルの撮像面を適正に所定範囲とすることが可能となる。さらに、溝12bに枠14を挿入する構成にすることにより、枠14の厚みを、溝12bに差し込む部分の量だけ、基板12の表面12a上に固定する場合より厚くすることができ、機械的強度の向上を図ると共に、製造上扱いやすくなり、また、枠14の寸法精度も確保しやすくなる。
溝12bの基板12の表面12aからの深さは、枠14が基板12に適正に固定され、枠14の強度が十分に得られる深さであれば、基板12及び蛍光体層16の厚さに応じて、適宜決定すれば良く、溝12bの深さは、好ましくは、0.2mm〜5mmである。
なお、枠14と基板12との位置精度、枠14の取り付け時の加工性等を高くするために、枠14を溝12bに嵌入する構成にすることが特に好ましい。
【0026】
本発明の変換パネル10の蛍光体層16は、上述の如く、放射線(X線、α線、β線、γ線、電子線、紫外線等)の照射を受けると、この放射線エネルギの一部を蓄積し、その後、可視光等の励起光の照射を受けると、蓄積されたエネルギに応じた輝尽発光を示すものである。この蛍光体層16は、例えば、柱状結晶構造を有する。
蛍光体層16は、例えば、アルカリハライド系の蛍光体からなるものであり、真空蒸着法により形成される。
本発明の変換パネル10において、蛍光体層16を形成する蛍光体として、各種のものが利用可能であり、蛍光体層16となる蛍光体は、特に限定されるものではないが、公知の各種のものが利用可能である。
【0027】
特に、本発明の効果が発現し易く、かつ、良好な輝尽発光特性が得られる等の点で、特開昭61−72087号公報に開示される、一般式MIX・aMIIX’・bMIIIX”:cAで示されるアルカリハライド系輝尽性蛍光体が好適に利用される。
(上記式において、MIは、Li,Na,K,PbおよびCsからなる群より選択される少なくとも一種であり、MIIは、Be,Mg,Ca,Sr,Ba,Zn,Cd,CuおよびNiからなる群より選択される少なくとも一種の二価の金属であり、MIIIは、Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Al,GaおよびInからなる群より選択される少なくとも一種の三価の金属であり、X、X’およびX”は、F,Cl,Br,およびIからなる群より選択される少なくとも一種であり、Aは、Eu,Tb,Ce,Tm,Dy,Pr,Ho,Nd,Yb,Er,Gd,Lu,Sm,Y,Tl,Na,Ag,Cu,BiおよびMgからなる群より選択される少なくとも一種である。また、0≦a<0.5であり、0≦b<0.5であり、0<c≦0.2である。)
その中でも、優れた輝尽発光特性を有し、かつ、本発明の効果が特に良好に得られる等の点で、Mが、少なくともCsを含み、Xが、少なくともBrを含み、さらに、Aが、EuまたはBiであるアルカリハライド系輝尽性蛍光体は好ましく、その中でも特に、一般式CsBr:Euで示される輝尽性蛍光体が好ましい。
【0028】
また、これ以外にも、米国特許第3,859,527号明細書、特開昭55−12142号、同55−12144号、同55−12145号、同56−116777号、同58−69281号、同58−206678号、同59−38278号、同59−75200号等の各公報に開示される各種の輝尽性蛍光体も、好適に利用可能である。
【0029】
また、本発明の放射線像変換パネルは、輝尽性蛍光体からなる蛍光体層16を有する変換パネル10に限定はされるものではなく、前述のように、放射線の入射によって発光(蛍光)する蛍光体からなる蛍光体層を有する放射線像変換パネルであってもよい。
このような蛍光体も、公知の物が全て利用可能であるが、同様に、本発明の効果が発現し易く、かつ、良好な輝尽発光特性が得られる等の点で、下記の一般式:
IX・aMIIX’・bMIIIX”:zA
で示されるアルカリ金属ハロゲン化物蛍光体が好ましく例示される。
(上記式において、MIはLi、Na、K、Rb及びCsからなる群より選択される少なくとも一種のアルカリ金属を表し、MIIは、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ni、Cu、Zn及びCdからなる群より選択される少なくとも一種のアルカリ土類金属又は二価金属を表し、MIIIはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Ga、及びInからなる群より選択される少なくとも一種の希土類元素又は三価金属を表す。また、X、X’およびX”はそれぞれ、F、Cl、Br、及びIからなる群より選択される少なくとも一種のハロゲンを表し、Aは、Y、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Na、Mg、Cu、Ag、Tl及びBiからなる群より選択される少なくとも一種の希土類元素又は金属を表す。また、a、bおよびzはそれぞれ、0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<z<1.0の範囲内の数値を表す。)
特に、前記一般式のMIとしてCsを含んでいるのが好ましく、XとしてIを含んでいることが好ましく、AとしてTlまたはNaを含んでいるのが好ましく、また、zは、1×10−4≦z≦0.1の範囲内の数値であるのが好ましい。中でも特に、式CsI:Tlで示されるアルカリ金属ハロゲン化物系蛍光体は、好ましく用いられる。
【0030】
本発明において、蛍光体層16の形成方法は、特に限定されるものではないが、スパッタリング法、CVD法等の各種の気相堆積法が全て利用可能である。しかしながら、成膜速度および形成する蛍光体層の結晶構造等の点で、蛍光体層16の形成方法としては、真空蒸着法が好適に利用される。
また、特に輝尽性蛍光体からなる蛍光体層16を形成する場合には、蛍光体成分と付活剤(賦活剤:activator)成分の成膜材料を別のルツボ(蒸発源)で加熱/蒸発する、二元の真空蒸着法で蛍光体層を形成するのが好ましい。
【0031】
真空蒸着を行う際における成膜条件や加熱手段にも、特に限定されるものではないが、一旦、系内を高い真空度に排気した後、アルゴンガスや窒素ガス等を系内に導入して、0.01〜3Pa程度の真空度(以下、便宜的に中真空とする)とし、この中真空下で抵抗加熱等によって成膜材料を加熱して真空蒸着を行うのが好ましい。気相堆積法による蛍光体層16は、互いに独立した柱状結晶によって形成されるが、このような中真空下で成膜して得られる蛍光体層16、特に、前記CsBr:Eu等のアルカリハライド系の蛍光体層16は、特に良好な柱状の結晶構造を有し、輝尽発光特性や画像の鮮鋭性等の点で好ましい。
【0032】
防湿保護層20は、蛍光体層16を封止して、吸湿を防止するために、蛍光体層16を覆って封止するために設けられるものである。
防湿保護層20は、十分な防湿性を有するものであれば、各種のものが利用可能であり、特に限定されるものではない。
防湿保護層20を構成する防湿保護フィルムとしては、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上に、SiO膜とSiOとPVA(ポリビニルアルコール)とのハイブリット層とSiO膜との3層を形成してなる合計4層構造の防湿保護層20が例示される。これ以外にも、ガラス板(フィルム)、ポリエチレンテレフタレートまたはポリカーボネート等の樹脂フィルム、樹脂フィルムにSiO、Al、SiCなどの無機物質が堆積したフィルム等も好ましく例示される。なお、PETフィルム上に、SiO膜/SiOとPVAとのハイブリット層/SiO膜の3層を形成した合計4層構造の防湿保護層20において、例えば、SiO膜は、スパッタリング法を用いて、SiOとPVAのハイブリット膜は、PVAとSiOの比率が1:1となるようにゾル・ゲル法を用いて、それぞれ形成すればよい。また、防湿保護層20は、40℃の温度で相対湿度が90%の環境下において、透湿度が0.2〜0.6(g/(m・day))であることが好ましい。
また、PETフィルム上に、SiO膜/SiOとPVAとのハイブリット層/SiO膜の3層構造を有する合計4層構造の防湿保護層20においては、SiO膜を蛍光体層16側に形成することが好ましい。
【0033】
また、接着層18は、防湿保護層20を構成する防湿保護フィルムを枠14の上面14aおよび蛍光体層16の表面16aに貼り付けるためのものである。
この接着層18は、枠14の上面14aおよび蛍光体層16の表面16aに、例えば、接着剤を塗布することにより形成される。
【0034】
本実施形態においては、例えば、接着層18を設けた後、防湿保護層20を蛍光体層16の表面16aを覆うように被せ、防湿保護層20と、枠14および蛍光体層16とを封止接着する。この封止接着方法は、特に限定されるものではないが、例えば、熱ラミネーション法が用いられる。
接着層18で防湿保護層20と枠14の上面14aとを接着するときの接着強度を向上し、良好な接着強度が得られるように、防湿保護層20による蛍光体層16の封止に先立ち、封止部(防湿保護層20と枠14との接着箇所)および蛍光体層16の加熱を、例えば、基板12の加熱等によって行っても良い。
【0035】
なお、接着層18に用いられる接着剤は、防湿性に優れたものであれば、特に限定されるものではない。例えば、ポリエステル系接着剤が好適に用いることができる。さらに、蛍光体層16の表面16aも防湿保護層20と接着する際には、接着剤についても、放射線の入射及び輝尽発光光の出射を妨げない光学特性を有することが好ましい。
【0036】
次に、本実施形態の変換パネル10の製造方法について説明する。
図2は、本発明の実施形態に係る放射線像変換パネルの製造方法における枠の配置状態を示す模式的平面図である。
図3は、本発明の実施形態に係る放射線像変換パネルの製造方法におけるマスクの配置状態を示す模式的断面図である。
図4(a)は、図3の要部を拡大して示す部分断面図であり、(b)は、本発明の実施形態の放射線像変換パネルの製造方法におけるマスクの配置状態の変形例を示す部分断面図であり、(c)は、本発明の実施形態の放射線像変換パネルの製造方法におけるマスクの配置状態の他の変形例を示す部分断面図である。
図5は、本実施形態の放射線像変換パネルの製造方法における蛍光体層の形成状態を示す模式的断面図である。
【0037】
本実施形態の変換パネル10の製造方法においては、先ず、例えば、平面視正方形状の基板12(図1参照)を用意する。この基板12は、例えば、アルミニウム合金からなるものである。
この基板12の表面12aに、蛍光体層16が形成される矩形状の形成領域Aを囲む溝12b(図3参照)を形成し、形成領域Aを区画する。
【0038】
次に、溝12bに、例えば、断面形状が長方形の部材からなる枠14を、接着剤をつけて嵌入する。
これにより、図2に示すように、矩形状の形成領域Aを囲むように枠14が形成される。枠14は、例えば、幅がαの部材で構成されている。
また、枠14は、基板12の表面12aにおけるX方向、Y方向と直交する2方向のうち、X方向においては、枠14の内縁15から基板12の縁12cまでの距離がβの位置に配置され、かつY方向においては、枠14の内縁15から基板12の縁12cまでの距離がγの位置に配置されている。
【0039】
次に、図3に示すように、枠14の上面14aに接着剤32を用いて、マスク材30を剥離可能に貼り付ける。
また、マスク材30は、例えば、アルミニウムテープ、カプトンテープ(カプトンは、登録商標)により構成される。
接着剤32は、マスク材30を枠14の上面14aに対して剥離可能に貼り付けることができれば、特に限定されるものではない。接着剤32としては、例えば、シリコーン系接着剤、ラテックス系接着剤、アクリル樹脂系接着剤、オレフィン系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤が用いられるが、蒸着時の基板温度を考慮すると、シリコーン系接着剤を用いたシリコーン系テープが最も有用である。
【0040】
本実施形態においては、形成領域A以外の基板12の表面12aを覆うようにマスク材30が設けられる。この場合、マスク材30の幅Tは、基板12のX方向では距離γと等しく、基板12のY方向では距離βと等しい。このように、マスク材30によって蛍光体層16の形成領域A以外の基板12の表面12領域を規制(マスキング)する。
なお、マスク材30は、蛍光体層16となる蛍光体が枠14の上面14aに堆積物として付着することを防止することができれば良い。このため、マスク材30は、形成領域A以外の基板12の表面12aを覆う大きさを有するものに限定されるものではなく、マスク材30は、少なくとも枠14の上面14aだけを覆うように設ければよい。
【0041】
本発明においては、図4(a)に示すように、マスク材30の接着剤32の接着幅をwとするとき、枠14の幅αに対して接着剤32の接着幅wを、0<w≦αとする。より好ましくは、接着剤の接着幅wは、0.1α<w≦0.5αである。
なお、接着剤32の接着幅wは、枠14の幅α方向と平行な方向における長さのことである。
【0042】
次に、本発明において、枠14の幅αに対して、接着剤32の接着幅wを0<w≦αとする理由について説明する。
接着剤32の接着幅wを0<w≦αとすることについては、本願発明者が、鋭意実験研究して得られた、以下の知見に基づくものである。変換パネル10の蛍光体層16を形成する際、アルミニウムテープを枠14の上面14aに、シロキサンを含む接着剤32を用いて貼り付けた。そして、蛍光体層16を形成し、形成した蛍光体層16について調べたところ、枠14の内縁15の近傍の領域Caでは、蛍光体層16と基板12との密着が不十分となり、蛍光体層16のうち、領域Caで蛍光体層16が部分的に剥離することが分かった。その剥離は、蛍光体層16の成膜条件が適正であるにも拘らず発生した。
【0043】
そこで、その剥離の原因を更に調べたところ、基板12の表面12aに、接着剤32の成分の1つであるシロキサンが付着していることが分かった。そして、剥離と基板12の表面12aに付着する接着剤32の成分であるシロキサンの量との関係を調べたところ、シロキサンの付着量がある量を超えると、剥離が発生する頻度が高くなることを見出した。
更に、蛍光体層16の剥離とマスク材30を固定するための接着剤32の量との関係について調べたところ、接着剤32の接着幅wが枠の幅αを超えると、剥離が発生する頻度が高くなることを見出した。このように、蛍光体層16の剥離の発生する頻度が高くなると、蛍光体パネル10を製造する歩留まりが悪くなり、生産性が低くなる。そこで、接着剤32の接着幅wをw≦αとした。これにより、本発明においては、蛍光体パネル10を歩留まり高く、高い生産効率で製造することができる。
【0044】
また、図4(b)に示すように、マスク材30の端部33を基板12の縁12cに接着剤34を用いて固定した場合ついても、検討したところ、枠14の上面14aにおける接着剤32の接着幅wがw≦αを満たせば、枠14の内縁15の近傍の領域Caのシロキサンの量が少なくなり、蛍光体パネル10を歩留まり高く、高い生産性で製造することができることを本発明者は知見している。
さらには、図4(c)に示すように、接着剤32が枠14の内縁15側に突出する構成であっても、枠14の上面14aにおける接着剤32の接着幅wがw≦αを満たせば、枠14の内縁15の近傍の領域Ca(図4(b)参照)のシロキサンの量が少なくなり、蛍光体パネル10を歩留まり高く、高い生産性で製造することができることを本発明者は知見している。
【0045】
また、マスク材を固定しない場合には、枠14の上面14aに蛍光体層16を構成する蛍光体が堆積してしまう。この場合、変換パネル10を製造するためには、枠14の上面14aの堆積物を取り除く必要がある。これにより、変換パネル10の生産効率が低下する。このため、本発明においては、接着剤32の接着幅wは、0<wとした。以上のことから、本発明においては、接着剤32の接着幅wを0<w≦αとする。
【0046】
本実施形態においては、枠14は4辺有するものである。この場合、枠14の4辺のうち、4辺とも、すなわち、枠14において全て、接着剤32の接着幅wが0<w≦αを満たすことが好ましい。しかしながら、枠14の4辺のうち、少なくとも1辺について、接着剤32の接着幅wが0<w≦αを満たせば、本発明の効果を得ることができる。
なお、本実施形態においては、接着剤32の接着幅wは、枠14の幅αと同じである。
【0047】
次に、図5に示すように、マスク材30が貼り付けられた状態で、枠14で区画された基板12の表面12aにおける形成領域Aに、例えば、真空蒸着法により、上述の組成を有する蛍光体層16(図1参照)を形成する。そして、蛍光体層16を形成した後、マスク材30を剥がす。本実施形態においては、枠14の上面14aには、蛍光体層16となる蛍光体などの堆積物がない。
次に、蛍光体層16に輝尽発光特性を良好に発現させ、かつ、輝尽発光特性を向上させるために、加熱処理(アニール)を施す。
【0048】
次に、枠14の上面14a、および蛍光体層16の表面16aに、例えば、ディスペンサー等を用いて接着剤を塗布し、接着層18(図1参照)を形成する。
次いで、例えば、ロール状に巻回された、上述の4層構造の防湿保護フィルム(図示せず)を引き出し、熱ラミネーション法により、枠14の上面14aおよび蛍光体層16の表面16aに防湿保護フィルムを貼り付けて、上記4層構造の防湿保護層20(図1参照)を形成する。このようにして、図1に示すような変換パネル10を製造する。
なお、防湿保護層20は、予め接着剤が塗布された保護フィルムを用いて形成することもできる。
【0049】
本実施形態の変換パネル10の製造方法においては、蛍光体層16を形成する際に、枠14の上面14aにマスク材30を、接着剤32を用いて剥離可能に貼り付けており、この接着幅wを0<w≦αとする。これにより、蛍光体層16を、例えば、真空蒸着法で形成する場合、基板12が加熱されて、接着剤32の成分が放出され、蛍光体層16の形成領域Aのうち、枠14の内縁15の近傍の領域Caに付着したとしても、その量は少ない。このため、基板12に対する密着性を低下させることなく蛍光体層16を形成することができ、蛍光体層16の剥離を抑制することができる。このため、蛍光体層16を歩留まり高く製造でき、高い生産性で変換パネル10を製造することができる。
さらには、蛍光体層16の剥離を抑制することができるため、この剥離に起因する画像欠陥も抑制でき、画質が良好な変換パネル10を得ることができる
また、本実施形態においては、枠14の上面14aにマスク材30を貼り付けているため、枠14の上面14aに蛍光体層16を構成する蛍光体が堆積してしまうことが抑制される。これにより、変換パネル10を製造するに当り、枠14の上面14aの堆積物を取り除く必要がないため、変換パネル10を高い生産効率で製造することができる。
【0050】
なお、本発明においては、マスク材30を固定する接着剤32の総面積をSとし、蛍光体層16の形成領域Aの面積をSとするとき、この接着剤32の総面積Sと、蛍光体層16の形成領域Aの面積Sとの比(S/S)をRとするとき、この比Rは、0<R≦0.13であることが好ましい。この比Rは、より好ましくは、0<R≦0.047であり、更に好ましくは、0.05<R≦0.025である。
本発明においては、この比Rについて、上記範囲とすることにより、本発明の効果を得ることができる。
【0051】
また、変換パネル10の製造方法においては、基板12の表面12aの形成領域A(図2参照)に直接蛍光体層16を形成するものに限定されるものではなく、蛍光体層16の形成前に、基板12の表面12aの形成領域A(図2参照)に反射膜、またはポリパラキシレンなどからなるバリア膜等を形成してもよい。また、これらの反射膜またはバリア膜が表面に形成されたものを基板として用いてもよい。
【0052】
また、接着層18で防湿保護層20と基板12とを接着するときの接着強度を向上させ、かつ、熱ラミネーションを1回だけで、良好な接着強度が得られるように、防湿保護層20による蛍光体層16の封止に先立ち、蛍光体層16を、接着層18を構成する接着剤の軟化温度より30℃低い温度から150℃までの範囲の温度に加熱しておくことが好ましい。この範囲の温度には、例えば、基板12の加熱により行うことができる。
【0053】
以上、本発明の放射線像変換パネルの製造方法について説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定はされるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良または変更を行ってもよいのは、もちろんである。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の放射線像変換パネルの製造方法の具体的実施例を挙げ、本発明を、より詳細に説明する。
【0055】
本実施例においては、基板にパリレン薄膜/SiO薄膜を気相堆積させたアルミニウム合金基板(JIS A5083)を用いた。基板の大きさは、X方向の長さが474mm、Y方向の長さが460.5mmであり、厚さは10mmである。
【0056】
本実施例においては、枠14を図2に示すように配置した。この場合、枠14の幅αを5.1mmとし、距離βを20mmとし、距離γを8.25mmとした。
また、形成領域Aは、X方向の距離aを434mmとし、Y方向の距離bを444mmとした。
【0057】
下記表1に示すように、接着剤の接着幅wを種々変えて、マスク材30を枠14の上面14aに貼り付けて、以下のようにして放射線像変換パネルを、各放射線像変換パネルについて20枚製造した。なお、本実施例の放射線像変換パネルの製造方法は、基本的に、本実施形態の製造方法と同様である。
また、下記表1には、実施例1〜4、比較例1〜3の放射線像変換パネルの接着幅に応じて、各放射線像変換パネルにおける接着剤の総面積Sと形成領域の面積Sとの比Rを「接着面積/形成領域」の欄に示している。
【0058】
本実施例においては、製造した実施例1〜4の各放射線像変換パネル、および比較例1〜3の各放射線像変換パネルについて、剥離、枠堆積物および総合を評価項目として、評価した。
なお、マスク材30として耐熱アルミテープ(スリオンテック(株)製:スリオンテープNo.8063)を用いた。この耐熱アルミテープには、シリコーン系接着剤が付いている。本実施例においては、マスク材30(耐熱アルミテープ)の幅は、実施例1〜4、および比較例1〜3で同じとし、マスク材30(耐熱アルミテープ)の接着剤の接着幅を実施例1〜4、および比較例1〜3に応じて変えた。
【0059】
以下、各放射線像変換パネルの製造方法について説明する。
先ず、上述の基板12の表面12a(図2参照)に、幅が5.1mm、深さが1.3mmの溝12bを、平面視四角形状(444.2mm×454.2mm)に形成した。
次に、厚さが2mm、幅αが5.1mm、外形寸法が444.2mm×454.2mmのアルミニウム合金(JIS A5052)部材を、溝12bに耐熱エポキシ接着剤(アレムコプロダクツ社製:アレムコボンド526N(商品名))を用いて接着した。このようにして、枠14(図3参照)を配置した。
【0060】
次に、マスク材30として、耐熱アルミテープを、下記表1に示す実施例1〜4、比較例1〜3の接着剤の接着幅に合わせて貼り付けた。
次に、基板12の表面12aの形成領域Aに、付活剤成分の材料(付活剤成分の成膜材料)として臭化ユーロピウムを、蛍光体成分の材料(蛍光体成分の成膜材料)として臭化セシウムを、それぞれ用いる二元の真空蒸着によって、基板の表面にCsBr:Euからなる蛍光体層16を形成した。
なお、両成膜材料共に、加熱は、タンタル製のルツボと出力6kWのDC電源とを用いる抵抗加熱装置で行った。
【0061】
真空蒸着装置の基板ホルダに基板12をセットすると共に、各成膜材料を真空蒸着装置の所定位置にセットした後、真空チャンバを閉塞し、排気を開始した。排気は、ディフュージョンポンプおよびクライオコイルを用いた。
真空度が8×10−4Paとなった時点で、真空チャンバ内にアルゴンガスを導入して真空度を0.8Paとした。次いで、DC電源を駆動してルツボに通電して、基板12の表面12aに蛍光体層16の形成を開始した。なお、蛍光体層16におけるEu/Csのモル濃度比が0.001:1、成膜速度が8μm/分の成膜条件となるように、両ルツボのDC電源の出力を調整した。なお、上記成膜条件は、予め実験を行い、両ルツボのDC電源の出力を調べている。また、加熱手段によって、蛍光体層16の蒸着開始前の基板12の表面12aの温度が160℃となるように加熱した。
【0062】
予め設定された成膜条件に基づいて、蛍光体層16の厚さが約700μmとなったとされる時点で、DC電源を停止して両ルツボへの通電、および基板を加熱する加熱ヒータへの通電を停止し、蛍光体層の形成を終了した。
そして、基板12の温度が100℃となった時点で、基板12を基板ホルダから取り外し、真空チャンバから取り出した。その後、基板12に、窒素雰囲気下で、温度200℃で1時間の加熱処理を行った。
【0063】
一方、厚さが6μmのPETフィルム上に、スパッタリング法を用いて、SiO膜をl00nmの厚さに形成し、その上に、PVAとSiOとの比率が1:1となるように、ゾル・ゲル法を用いてPVAとSiOとのハイブリット層を600nmの厚さに形成し、このハイブリット層上に、スパッタリング法を用いてSiO膜を100nmの厚さに形成し、防湿保護層20を作製した。
この防湿保護層20(SiO層表面)の全面に、ポリエステル系樹脂(東洋防:バイロン300(登録商標))を塗布し、厚さが1.2μmの接着層18を形成した。
【0064】
そして、蛍光体層16が形成された基板12を100℃に予熱し、枠14の外形寸法(444.2mm×454.2mm)に裁断した防湿保護層20を、接着層18側が蛍光体層16と対向するように、蛍光体層16に被せ、熱ラミネーションにより、防湿保護層20と、枠14の上面14aおよび蛍光体層16の表面16aを封止接着して、図1に示す変換パネル10を得た。
本実施例では、下記表1に示す各接着幅でマスク材30を固定して形成された各変換パネル10を、それぞれ20枚製造して評価した。すなわち、実施例1〜4、比較例1〜3について、それぞれ、20枚の変換パネルを作製した。
【0065】
次に、「剥離」、「枠堆積物」の各評価項目について説明する。
剥離については、作製した各変換パネルのベタ画像を取得し、このベタ画像を用いて評価した。
以下、ベタ画像を用いた剥離の評価方法について説明する。
先ず、変換パネル10の表面全面に、タングステン管球を用い、管電圧が80kVのX線を線量10mR(2.58×10−6C/kg)で照射した後、ラインスキャナ方式の画像読取装置(波長が660nmの半導体レーザ光を照射し、放射線像変換パネルの表面から放射された輝尽発光光をライン状に受光素子が配置されたCCDで受光するもの)で読み取り、読み取った光(受光した光)を電気信号に変換して、放射線画像としてベタ画像を得た。この放射線画像(ベタ画像)をレーザプリンタによりフィルム上に可視像として出力した。
【0066】
次に、各変換パネルについて得られたベタ画像について、シャウカステンを用いて目視にて観察した。ベタ画像に、白く抜けた点があれば、剥離が発生しているとした。
なお、「剥離」の評価において、20枚のうち、剥離が10枚以上発生していたものを「×」とし、20枚のうち、剥離が1枚以下発生していたものを「○」とし、20枚のうち、剥離が発生していないものを「◎」とした。
この「剥離」の評価が悪いものは、蛍光体層16の歩留まりが低く、生産性が低いことを示す。
【0067】
枠堆積物については、変換パネルの作製時に、蛍光体層を形成した後、マスク材を剥がしたときに、蛍光体層となる蛍光体の枠の上面への堆積の有無を目視にて確認した。
なお、「枠堆積物」の評価において、20枚のうち、枠の上面への堆積が10枚以上生じていたものを「×」とし、20枚のうち、枠の上面への堆積が1枚以下生じていたものを「○」とし、20枚のうち、枠の上面への堆積がなかったものを「◎」とした。
この「枠堆積物」の評価が悪いものは、変換パネル10を製造する場合、堆積物を取り除く必要があり、生産効率が低いことを示す。
【0068】
総合については、評価項目の「剥離」および「枠堆積物」について、いずれかに「×」があれば、「×」とし、評価項目の「剥離」および「枠堆積物」について、いずれかに「○」があれば、「○」とし、評価項目の「剥離」および「枠堆積物」について、いずれもが「◎」があれば、「◎」とした。
【0069】
本実施例においては、各変換パネルについて、蛍光体層16の形成後にマスク材30を剥がした後の枠14の上面14aのシロキサン量を、ION−TOF社製のTOF−SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析装置)を用いて測定した。TOF−SIMSにおいては、1次イオンにBiを用い、0.2pA、10kHzの条件で1次イオンを照射した。
シロキサン量は、Si15Oを示す信号の相対強度により表わされるものである。
下記表1に示す「シロキサン量」は、各実施例1〜4、比較例1〜3におけるSi15Oを示す信号の相対強度の平均値を示す。
【0070】
なお、下記表1に示す比較例1の「接着幅」の欄の「−」は、マスク材30を接着剤で固定していないことを示す。また、比較例1の「接着面積/形成領域」の欄の「−」は、比較例1では、接着剤を用いていないため、比Rを求めることができないことを示す。比較例1の「シロキサン量」の欄の「−」は、接着剤を用いていないため、シロキサンを検出しなかったことを示す。
【0071】
【表1】

【0072】
上記表1に示すように、実施例1〜実施例4は、いずれも、剥離および枠堆積物の評価が良好であった。また、本発明の好ましい範囲に入る実施例2(接着幅が枠の幅の1/2)、実施例3(接着幅が枠の幅の1/3)は、剥離および枠堆積物の評価が、いずれも特に良好であった。
【0073】
これに対して、比較例1の変換パネルは、接着せずにマスク材を配置したものであり、接着幅が本発明の下限値未満である。この比較例1においては、蛍光体層に剥離はないものの、枠堆積物があり、生産効率が低いものであり、総合評価が劣った。
比較例2は、接着幅が本発明の上限値を超えており、枠堆積物はないものの、剥離の評価が悪く、蛍光体層の歩留まりが低く、生産性が低いものであり、総合評価が劣った。
比較例3は、接着幅が本発明の上限値を超えており、枠堆積物はないものの、剥離の評価が悪く、蛍光体層の歩留まりが低く、生産性が低いものであり、総合評価が劣った。
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の実施形態に係る放射線像変換パネルの製造方法により得られる放射線像変換パネルを示す模式的断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る放射線像変換パネルの製造方法における枠の配置状態を示す模式的平面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る放射線像変換パネルの製造方法におけるマスクの配置状態を示す模式的断面図である。
【図4】(a)は、図3の要部を拡大して示す部分断面図であり、(b)は、本発明の実施形態の放射線像変換パネルの製造方法におけるマスクの配置状態の変形例を示す部分断面図であり、(c)は、本発明の実施形態の放射線像変換パネルの製造方法におけるマスクの配置状態の他の変形例を示す部分断面図である。
【図5】本実施形態の放射線像変換パネルの製造方法における蛍光体層の形成状態を示す模式的断面図である。
【符号の説明】
【0075】
10 放射線像変換パネル(変換パネル)
12 基板
14 枠
16 蛍光体層
18 接着層
20 防湿保護層
30 マスク
32 接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面上に、所定の幅を有する枠が設けられており、前記枠で囲まれた領域に蛍光体層が形成されている放射線像変換パネルの製造方法であって、
前記基板の表面に前記枠を設ける工程と、
少なくとも前記枠の上面に、接着剤を用いてマスク材を剥離可能に貼り付ける工程と、
前記枠で囲まれた領域に、気相堆積法により前記蛍光体層を形成する工程とを有し、
前記接着剤の接着幅をwとし、前記枠の幅をαとするとき、
前記接着剤の接着幅wは、0<w≦αであることを特徴とする放射線像変換パネルの製造方法。
【請求項2】
前記接着剤の接着幅wは、0.1α<w≦0.5αである請求項1に記載の放射線像変換パネルの製造方法。
【請求項3】
前記接着剤は、シロキサンを含む請求項1または2に記載の放射線像変換パネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−14581(P2010−14581A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−175544(P2008−175544)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】