説明

放射線変換パネルの製造方法とその製造装置

【課題】 鮮鋭性の向上した放射線像変換パネルの製造方法および製造装置を提供する。
【解決手段】 蒸着装置内にて、下記一般式(I)で表される蛍光体もしくは蛍光体原料を含む蒸発源を加熱して発生する物質を基板上に蒸着させることにより蛍光体層を形成する工程を含む放射線変換パネルの製造方法において、該放射線変換パネルの蒸着効率が1〜50%であることを特徴とする放射線変換パネルの製造方法。
一般式(I) M1X・aM2X′2・bM3X″3:eA

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線変換パネルの製造方法およびそれに用いられる製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、X線などの放射線が照射されると、放射線エネルギーの一部を吸収蓄積し、そののち可視光線や赤外線などの電磁波(励起光)の照射を受けると、蓄積した放射線エネルギーに応じて発光を示す性質を有する輝尽性蛍光体(蓄積性蛍光体)を利用した放射線画像記録再生方法が広く実用に供されている。
【0003】
具体的には、輝尽性蛍光体を含有するシート状の放射線像変換パネルに、被検体を透過したあるいは被検体から発せられた放射線を照射して、被検体の放射線画像情報を一旦蓄積記録した後、パネルにレーザ光などの励起光を走査して順次発光光として放出させ、この発光光を光電的に読み取って画像信号を得ることにより最終画像を形成する。読み取りを終えたパネルは、次の撮影のために備えて残存する放射線エネルギーの消去が行われ、繰り返し使用される。
【0004】
放射線画像記録再生方法に用いられる放射線像変換パネルは、基本構造として、支持体(基体)とその上に設けられた蛍光体層とからなるものである(蛍光体層が自己支持性である場合には支持体を必要としない)。また、蛍光体層の上面(支持体に面していない側の面)には通常、保護層が設けられていて、蛍光体層を化学的な変質あるいは物理的な衝撃から保護している。
【0005】
蛍光体層としては、輝尽性蛍光体とこれを分散状態で含有支持する結合剤とからなるもの、蒸着法や焼結法によって形成される結合剤を含まないで輝尽性蛍光体の凝集体のみから構成されるもの、および輝尽性蛍光体の凝集体の間隙に高分子物質が含浸されているものなどが知られている。
【0006】
また、上記放射線画像記録再生方法の中には、放射線吸収機能とエネルギー蓄積機能とを分離して、放射線を吸収して紫外乃至可視領域に発光を示す蛍光体(放射線吸収用蛍光体)を含有する蛍光スクリーンと輝尽性蛍光体(エネルギー蓄積用蛍光体)を含有する放射線像変換パネルとの組合せを用いる放射線画像形成方法がある。この方法は、被検体を透過などした放射線をまず、該スクリーンまたはパネルの放射線吸収用蛍光体により紫外乃至可視領域の光に変換した後、その光をエネルギー蓄積用蛍光体にて放射線画像情報として蓄積記録する。次いで、このパネルに励起光を走査して発光光を放出させ、この発光光を光電的に読み取って画像信号を得るものである。
【0007】
放射線画像記録再生方法(および放射線画像形成方法)は、確かに数々の優れた利点を有する方法であるが、この方法においてかなめとなる放射線像変換パネルは、できる限り高感度であって、かつ画質(鮮鋭度、粒状性など)の良好な画像を与えるものである必要がある。
【0008】
感度および画質を高める目的のため、例えば特公平6−77079号公報に記載されているように、蛍光体層を気相堆積法により形成する放射線像変換パネルの製造方法が提案されている。気相堆積法には蒸着法やスパッタ法などがあり、例えば蒸着法は、蛍光体またはその原料からなる蒸発源を抵抗加熱器や電子線の照射により加熱して蒸発源を蒸発、飛散させ、金属シートなどの基板表面にその蒸発物を堆積させることにより、蛍光体の柱状結晶からなる蛍光体層を形成するものである。
【0009】
気相堆積法により形成された蛍光体層は、結合剤を含有せず、蛍光体のみからなり、蛍光体の柱状結晶と柱状結晶の間には空隙(クラック)が存在する。このため、励起光の進入効率や発光光の取出し効率を上げることができるので高感度であり、また励起光の平面方向への散乱を防ぐことができるので高鮮鋭度の画像を与えることができる。
【0010】
PCT特許出願(特許文献1)には、ユーロピウム付活ハロゲン化セシウム(CsX:Eu)輝尽性蛍光体を基板上に蒸着(一元蒸着)させることからなる放射線像変換パネルの製造方法が開示されている。しかしながら、得られた蒸着膜中に付活剤Euの濃度分布が生じることについても、更にはEu濃度分布を解消するための手段についても、全く記載されていない。
【0011】
また、蒸着によりEu系輝尽性蛍光体を作製するとき、蒸着初期にはシャッターにて蒸気を遮断し、蒸着膜中に付活剤Euの濃度分布が生じることを防止する発明が開示されている(特許文献2)。これにより、蛍光体層からの輝尽発光量減少を防止し、蛍光体層の柱状結晶性を上げ、更には蛍光体層に亀裂や剥離突沸の発生を防止し、放射線画像上に画像欠陥をもたらのを防止することができるとの記載がある。しかしながら、この様な方法をとっても効果が十分でないこと、生産効率が低下する等問題は充分解決されたとはいえない現状である。
【特許文献1】WO 01/03156A1号明細書
【特許文献2】特開2003−302497号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、鮮鋭性の向上した放射線像変換パネルの製造方法および製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
輝尽性蛍光体の蒸着において、蒸着効率を上げすぎると蒸気の入射角度が混ざり合って、結晶成長の方向が不均一になり、特性に悪影響を及ぼす。また、蒸着効率を下げすぎると、蒸気の密度が足りないために同じく結晶成長の方向が不均一になり、特性に悪影響を及ぼす。
【0014】
即ち、本発明の目的は、下記構成を採ることにより達成されることがわかった。
【0015】
(請求項1)
蒸着装置内にて、下記一般式(I)で表される蛍光体もしくは蛍光体原料を含む蒸発源を加熱して発生する物質を基板上に蒸着させることにより蛍光体層を形成する工程を含む放射線変換パネルの製造方法において、該放射線変換パネルの蒸着効率が1〜50%であることを特徴とする放射線変換パネルの製造方法。
【0016】
一般式(I) M1X・aM2X′2・bM3X″3:eA
(式中、M1はLi、Na、K、Rb及びCsの各原子から選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属原子であり、M2はBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cd、Cu及びNiの各原子から選ばれる少なくとも1種の二価金属原子であり、M3はSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Ga及びInの各原子から選ばれる少なくとも1種の三価金属原子であり、X、X′、X″はF、Cl、Br及びIの各原子から選ばれる少なくとも1種のハロゲン原子であり、AはEu、Tb、In、Ce、Tm、Dy、Pr、Ho、Nd、Yb、Er、Gd、Lu、Sm、Y、Tl、Na、Ag、Cu及びMgの各原子から選ばれる少なくとも1種の金属原子であり、また、a、b、eはそれぞれ0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<e<1.0の範囲の数値を表す。但し、a、bが共に0となることはない。)
(請求項2)
放射線変換パネルの蒸着効率が2〜40%であることを特徴とする請求項1記載の放射線変換パネルの製造方法。
【0017】
(請求項3)
放射線変換パネルの蒸着効率が3〜30%であることを特徴とする請求項1記載の放射線変換パネルの製造方法。
【0018】
(請求項4)
請求項1〜3のいずれか1項記載の放射線変換パネルの製造方法において、真空容器内に蒸発源と基板回転機構を有する蒸着装置を用い、基板を回転させながら気相堆積法により蒸着することにより、蒸着膜を形成することを特徴とする放射線変換パネルの製造方法。
【0019】
(請求項5)
請求項1〜4のいずれか1項記載の放射線変換パネルの製造方法に用いられることを特徴とする放射線変換パネルの製造装置。
【0020】
本発明における蒸着効率とは、蒸発源への原料仕込量に対し、放射線変換パネルの成膜領域への原料付着量の割合を示したものであり、下記のごとくして求めることが出来る。
【0021】
蒸着効率(%)=(放射線変換パネルの成膜前後の質量変化量)/(蒸発源への原料仕込み量)×100
蒸着効率は上げすぎると蒸気の入射角度が混ざりあって結晶成長の方向が不均一となり、特性に悪影響を及ぼす。また、蒸着効率を下げすぎると、蒸気の密度が足りず同じく結晶成長の方向が不均一になり、特性に悪影響を及ぼしていた。しかし、本発明の蒸着効率であれば、特に蒸着時に基板を回転することにより、特性への悪影響がない状態で効率よく蒸着することが出来る。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、鮮鋭性の向上した放射線像変換パネルの製造方法および製造装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0024】
本発明の放射線画像変換パネルは、支持体(基体)と、該支持体上に気相堆積法により輝尽性蛍光体の柱状結晶により形成された輝尽性蛍光体層を備え、必要に応じて該輝尽性蛍光体層を保護する保護層が設けられている。
【0025】
本発明に係る支持体は従来の放射線画像変換パネルの支持体として公知の材料から任意に選ぶことができる。しかし、気相堆積法により蛍光体層を形成する際の支持体としては石英ガラスシート、アルミニウム、鉄、スズ、クロムなどからなる金属シート及び炭素繊維強化樹脂シートが好ましい。
【0026】
支持体には、その表面を平滑な面とするために樹脂層を有することが好ましい。樹脂層は、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、パラフィン、グラファイト等の化合物を含有することが好ましく、その膜厚は、おおよそ5〜50μmであることが好ましい。この樹脂層は、支持体の表面に設けても裏面に設けても両面に設けても良い。
【0027】
また、支持体上に接着層を設けることが好ましく設置手段としては、貼合法、塗設法等の手段が挙げられる。
【0028】
貼合は加熱、加圧ローラを用いて行い、加熱条件としては80〜150℃が好ましく、加圧条件としては4.90×10〜2.94×102N/cm、搬送速度は0.1〜2.0m/秒が好ましい。
【0029】
本発明に係る輝尽性蛍光体層は、下記一般式(I)で表される輝尽性蛍光体を含有することが好ましい。
【0030】
一般式(I) M1X・aM2X’2・bM3X”3:eA
式中、M1はLi、Na、K、Rb及びCsの各原子から選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属原子であり、M2はBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cd、Cu及びNiの各原子から選ばれる少なくとも1種の二価金属原子であり、M3はSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Ga及びInの各原子から選ばれる少なくとも1種の三価金属原子であり、X、X’、X”はF、Cl、Br及びIの各原子から選ばれる少なくとも1種のハロゲン原子であり、AはEu、Tb、In、Ce、Tm、Dy、Pr、Ho、Nd、Yb、Er、Gd、Lu、Sm、Y、Tl、Na、Ag、Cu及びMgの各原子から選ばれる少なくとも1種の金属原子であり、また、a、b、eはそれぞれ0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<e≦0.2の範囲の数値を表す。但し、a、bが共に0となることはない。
【0031】
上記一般式(I)で表される輝尽性蛍光体において、M1は、Na、K、Rb及びCs等の各原子から選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属原子を表し、中でもRb及びCsの各原子から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属原子が好ましく、さらに好ましくはCs原子である。
【0032】
2は、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cd、Cu及びNi等の各原子から選ばれる少なくとも1種の二価の金属原子を表すが、中でも好ましく用いられるのは、Be、Mg、Ca、Sr及びBa等の各原子から選ばれる二価の金属原子である。
【0033】
3は、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Ga及びIn等の各原子から選ばれる少なくとも1種の三価の金属原子を表すが、中でも好ましく用いられるのはY、Ce、Sm、Eu、Al、La、Gd、Lu、Ga及びIn等の各原子から選ばれる三価の金属原子である。
【0034】
Aは、Eu、Tb、In、Ce、Tm、Dy、Pr、Ho、Nd、Yb、Er、Gd、Lu、Sm、Y、Tl、Na、Ag、Cu及びMgの各原子から選ばれる少なくとも1種の金属原子である。中でも好ましくはEu原子である。
【0035】
輝尽性蛍光体の輝尽発光輝度向上の観点から、X、X’及びX”はF、Cl、Br及びIの各原子から選ばれる少なくとも1種のハロゲン原子を表すが、F、Cl及びBrから選ばれる少なくとも1種のハロゲン原子が好ましく、Br原子が特に好ましい。
【0036】
また、一般式(I)において、b値は0≦b<0.5であるが、好ましくは、0≦b<10-2である。
【0037】
本発明の一般式(I)で表される輝尽性蛍光体は、例えば以下に述べる方法により製造される。
【0038】
蛍光体原料としては、
(a)NaF、NaCl、NaBr、NaI、KF、KCl、KBr、KI、RbF、RbCl、RbBr、RbI、CsF、CsCl、CsBr及びCsIから選ばれる少なくとも1種の化合物が用いられる。
【0039】
(b)MgF2、MgCl2、MgBr2、MgI2、CaF2、CaCl2、CaBr2、CaI2、SrF2、SrCl2、SrBr2、SrI2、BaF2、BaCI2、BaBr2、BaBr2・2H2O、BaI2、ZnF2、ZnCl2、ZnBr2、ZnI2、CdF2、CdCl2、CdBr2、CdI2、CuF2、CuCl2、CuBr2、CuI2、NiF2、NiCl2、NiBr2及びNiI2の化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物が用いられる。
【0040】
(c)前記一般式(I)において、Eu、Tb、In、Cs、Ce、Tm、Dy、Pr、Ho、Nd、Yb、Er、Gd、Lu、Sm、Y、Tl、Na、Ag、Cu及びMg等の各原子から選ばれる金属原子を有する化合物が用いられる。
【0041】
上記の数値範囲の混合組成になるように前記(a)〜(c)の蛍光体原料を秤量し、純水にて溶解する。
【0042】
この際、乳鉢、ボールミル、ミキサーミル等を用いて充分に混合することが好ましい。
【0043】
次に、得られた水溶液のpH値Cを0<C<7に調整するように所定の酸を加えた後、水分を蒸発気化させる。
【0044】
次に、得られた原料混合物を石英ルツボあるいはアルミナルツボ等の耐熱性容器に充填して電気炉中で焼成を行う。焼成温度は500〜1000℃が好ましい。焼成時間は原料混合物の充填量、焼成温度等によって異なるが、0.5〜6時間が好ましい。
【0045】
焼成雰囲気としては少量の水素ガスを含む窒素ガス雰囲気、少量の一酸化炭素を含む炭酸ガス雰囲気等の弱還元性雰囲気、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気等の中性雰囲気あるいは少量の酸素ガスを含む弱酸化性雰囲気が好ましい。
【0046】
なお、前記の焼成条件で一度焼成した後、焼成物を電気炉から取り出して粉砕し、しかる後、焼成物粉末を再び耐熱性容器に充填して電気炉に入れ、前記と同じ焼成条件で再焼成を行えば輝尽性蛍光体の発光輝度を更に高めることができる。また、焼成物を焼成温度より室温に冷却する際、焼成物を電気炉から取り出して空気中で放冷することによっても所望の輝尽性蛍光体を得ることができるが、焼成時と同じ、弱還元性雰囲気もしくは中性雰囲気のままで冷却しても良い。
【0047】
また、焼成物を電気炉内で加熱部より冷却部へ移動させて、弱還元性雰囲気、中性雰囲気もしくは弱酸化性雰囲気で急冷することにより、得られた輝尽性蛍光体の輝尽による発光輝度をより一層高めることができ好ましい。
【0048】
また、本発明の輝尽性蛍光体層は気相堆積法によって形成される。
【0049】
輝尽性蛍光体の気相堆積法としては、蒸着法、スパッタリング法、CVD法、イオンプレーティング法、その他を用いることができるが、本発明では特に蒸着法が好ましい。
【0050】
以下、本発明に好適な蒸着法について説明する。なお、ここでは図に示す蒸着装置を使用して支持体に輝尽性蛍光体を蒸着するので、蒸着装置の説明とともに説明する。
【0051】
図1に示すように、蒸着装置1は、真空容器2と、該真空容器2内に設けられて支持体(基体)11に蒸気を蒸着させる蒸発源3と、支持体11を保持する支持体ホルダ4と、該支持体ホルダ4を蒸発源3に対して回転させることによって該蒸発源3からの蒸気を蒸着させる支持体回転機構5と、真空容器2内の排気及び大気の導入を行う真空ポンプ6等を備えている。
【0052】
蒸発源3は、輝尽性蛍光体を収容して抵抗加熱法で加熱するため、ヒータを巻いたアルミナ製のるつぼから構成しても良いし、ボートや、高融点金属からなるヒータから構成しても良い。また、輝尽性蛍光体を加熱する方法は、抵抗加熱法以外に電子ビームによる加熱や、高周波誘導による加熱等の方法でも良いが、本発明では、比較的簡単な構成で取り扱いが容易、安価、かつ、非常に多くの物質に適用可能である点から抵抗加熱法が好ましい。また、蒸発源3は分子源エピタキシャル法による分子線源でも良い。
【0053】
支持体回転機構5は、例えば、支持体ホルダを支持するとともに支持体ホルダ4を回転させる回転軸5aと、真空容器2外に配置されて回転軸5aの駆動源となるモータ(図示しない)等から構成されている。
【0054】
また、支持体ホルダ4には、支持体11を加熱する加熱ヒータ(図示しない)を備えることが好ましい。支持体11を加熱することによって、支持体11表面の吸着物を離脱・除去し、支持体11表面と輝尽性蛍光体との間に不純物層の発生を防いだり、密着性の強化や輝尽性蛍光体層の膜質調整を行うことができる。
【0055】
さらに、支持体11と蒸発源3との間に、蒸発源3から支持体11に至る空間を遮断するシャッタ7を備えている。シャッタによって輝尽性蛍光体の表面に付着した目的物以外の物質が蒸着の初期段階で蒸発し、支持体に付着するのを防ぐことができる。
【0056】
このように構成された蒸着装置1を使用して、支持体11に輝尽性蛍光体層を形成するには、まず、支持体ホルダ4に支持体11を取り付ける。
【0057】
次いで、真空容器2内を真空排気する。その後、支持体回転機構5により支持体ホルダ4を蒸発源3に対して回転させ、蒸着可能な真空度に真空容器2が達したら、加熱された蒸発源3から輝尽性蛍光体を蒸発させて、支持体11表面に輝尽性蛍光体を所望の厚さに成長させる。この場合において、支持体11と、蒸発源3との間隔は、100〜1500mmに設置するのが好ましい。
【0058】
また、前記蒸着工程では複数回に分けて輝尽性蛍光体層を形成することも可能である。さらに、前記蒸着工程では複数の抵抗加熱器あるいはエレクトロンビームを用いて共蒸着し、支持体上で目的とする輝尽性蛍光体を合成すると同時に輝尽性蛍光体層を形成することも可能である。
【0059】
また、蒸着法においては、蒸着時、必要に応じて、被蒸着体(支持体、保護層又は中間層)を冷却あるいは加熱しても良い。
【0060】
さらに、蒸着終了後、輝尽性蛍光体層を加熱処理しても良い。また、蒸着法においては必要に応じてO2、H2等のガスを導入して蒸着する反応性蒸着を行っても良い。
【0061】
形成する輝尽性蛍光体層の膜厚は、放射線画像変換パネルの使用目的によって、また輝尽性蛍光体の種類により異なるが、本発明の効果を得る観点から50〜2000μm、好ましくは50〜1000μmであり、さらに好ましくは100〜800μmである。
【0062】
上記の気相堆積法による輝尽性蛍光体層の形成にあたり、輝尽性蛍光体層が形成される支持体の温度は、室温(rt)〜300℃に設定することが好ましく、さらに好ましくは50〜200℃である。
【0063】
以上のようにして輝尽性蛍光体層を形成した後、必要に応じて輝尽性蛍光体層の支持体とは反対の側に保護層を設けることにより本発明の放射線画像変換パネルを製造する。保護層は、保護層用の塗布液を輝尽性蛍光体層の表面に直接塗布して形成もよいし、また、予め別途形成した保護層を輝尽性蛍光体層に接着してもよい。
【0064】
保護層の材料としては、酢酸セルロース、ニトロセルロース、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリ塩化ビニリデン、ナイロン、ポリ四フッ化エチレン、ポリ三フッ化−塩化エチレン、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体、塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体などの通常の保護層用材料が用いられる。他に透明なガラス基板を保護層として用いることもできる。
【0065】
また、この保護層は蒸着法、スパッタリング法等により、SiC、SiO2、SiN、Al23等の無機物質を積層して形成してもよい。これらの保護層の層厚は0.1〜2000μmが好ましい。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、無論、本発明の実施態様はこれらに限定されるものではない。
【0067】
(放射線画像変換パネルの作製)
炭素繊維強化樹脂シートからなる支持体の片面に輝尽性蛍光体(CsBr:0.0002Eu)を、図1に示す蒸着装置1を使用して蒸着させ輝尽性蛍光体層を形成した。
【0068】
まず、上記蛍光体原料を蒸着材料として抵抗加熱ルツボに充填し、また回転する支持体ホルダ4に支持体11を設置し、支持体11と蒸発源3との間隔を400mmに調節した。続いて蒸着装置1内を一旦排気し、Arガスを導入して0.1Paに真空度を調整した後、10rpmの速度で支持体11を回転しながら支持体11の温度を100℃に保持した。次いで、抵抗加熱ルツボを加熱して所定時間が経過したところでシャッターを開けて輝尽性蛍光体を蒸着し、輝尽性蛍光体層の膜厚が500μmとなったところでシャッターを閉じて蒸着を終了させた。
【0069】
次いで、乾燥空気内で輝尽性蛍光体層を保護層袋に入れ、輝尽性蛍光体層が密封された構造の放射線画像変換パネルを得た。
【0070】
続いて、基板と蒸発源距離を調整することで蒸着効率を調節し、下記試料1〜6の蒸着効率の異なる試料を造った。また、輝尽性蛍光体の組成を変えた(CsBr:0.001Eu)試料7も作製し評価を行った。
【0071】
得られた放射線画像変換パネルについて下記のような評価を行った。
【0072】
(蒸着効率)
蒸着効率は下記により求めた。
【0073】
蒸着効率(%)=(放射線変換パネルの成膜前後の質量変化量)/(蒸発源への原料仕込み量)×100
(鮮鋭性)
放射線画像変換パネルにCTFチャートを貼付けた後、管電圧80kVP-PのX線を10mR(管球からパネルまでの距離:1.5m)照射した後、半導体レーザ光(発振波長:780nm、ビーム径:100μm)で走査して輝尽励起し、CTFチャート像を輝尽性蛍光体層から放射される輝尽発光として読取り、光検出器(光電子増倍管)で光電変換して画像信号を得た。この信号値により、画像の変調伝達関数(MTF)を調べ、比較例1の値を100として相対値で示した。なお、MTFは、空間周波数が1サイクル/mmの時の値である。
【0074】
【表1】

【0075】
表1より、明らかに本発明1〜5は比較例1および2に比して優れた特性を示すことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】蒸着装置の概略構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0077】
1 蒸着装置
2 真空容器
3 蒸発源
5 支持体(基体)回転機構
7 シャッタ
11 支持体(基体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着装置内にて、下記一般式(I)で表される蛍光体もしくは蛍光体原料を含む蒸発源を加熱して発生する物質を基板上に蒸着させることにより蛍光体層を形成する工程を含む放射線変換パネルの製造方法において、該放射線変換パネルの蒸着効率が1〜50%であることを特徴とする放射線変換パネルの製造方法。
一般式(I) M1X・aM2X′2・bM3X″3:eA
(式中、M1はLi、Na、K、Rb及びCsの各原子から選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属原子であり、M2はBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cd、Cu及びNiの各原子から選ばれる少なくとも1種の二価金属原子であり、M3はSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Ga及びInの各原子から選ばれる少なくとも1種の三価金属原子であり、X、X′、X″はF、Cl、Br及びIの各原子から選ばれる少なくとも1種のハロゲン原子であり、AはEu、Tb、In、Ce、Tm、Dy、Pr、Ho、Nd、Yb、Er、Gd、Lu、Sm、Y、Tl、Na、Ag、Cu及びMgの各原子から選ばれる少なくとも1種の金属原子であり、また、a、b、eはそれぞれ0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<e<1.0の範囲の数値を表す。但し、a、bが共に0となることはない。)
【請求項2】
放射線変換パネルの蒸着効率が2〜40%であることを特徴とする請求項1記載の放射線変換パネルの製造方法。
【請求項3】
放射線変換パネルの蒸着効率が3〜30%であることを特徴とする請求項1記載の放射線変換パネルの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の放射線変換パネルの製造方法において、真空容器内に蒸発源と基板回転機構を有する蒸着装置を用い、基板を回転させながら気相堆積法により蒸着することにより、蒸着膜を形成することを特徴とする放射線変換パネルの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の放射線変換パネルの製造方法に用いられることを特徴とする放射線変換パネルの製造装置。

【図1】
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【公開番号】特開2006−10617(P2006−10617A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−191112(P2004−191112)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】