説明

放射線感受性リポソーム

【課題】放射線感受性リポソームの治療物質(群)および診断物質(群)の担体としての使用及び該放射線感受性リポソーム製造法、癌等の疾病を処置する方法を提供する。
【解決手段】適当なリポソーム形成脂質および重合可能な共脂質を含むリポソーム送達体であって、該重合可能な共脂質のフラクションは電離放射線に曝露することで重合化し、それによりリポソーム膜を不安定にするリポソーム送達体。該リポソームの不安定化により、リポソームの内容物が漏出する。また該リポソーム封入または会合された物質に応答する症状および疾病を診断し、処置する方法もさらに考えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(本発明の背景)
a)本発明の分野
本発明は放射線感受性リポソームに関し、治療物質および診断物質に対する担体としての該リポソームの使用に関する。さらに、本発明は該放射線感受性リポソームの製造方法に関し、癌および他の状態および疾病を診断し、処置する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
b)関連する分野の詳しい説明
リポソームは、同心の脂質二重層から成る、微視的な小胞である。構造的に、リポソームは、大きさおよび形について、長い筒型から球形であり、数百オングストローム〜ミリメータの区画の範囲にある。全体的な形状に関係無く、二重層は、各ラメラが隣接するのを分離する水層を伴う、閉鎖同心ラメラとして、一般的に形成される。小胞の大きさは通常、直径約20〜約30,000nmの範囲にある。ラメラ間の液体フィルムは通常、約3〜10nmである。リポソームを調製する種々の方法は、文献に記載されている。リポソーム形成についての具体的な総括および情報については、PaganoおよびWeinstein (Ann. Rev. Biophys. Bioeng. 1978, 7:435-68)、および、SzokaおよびPapahadjopoulos (Ann. Rev. Biophys. Bioeng. 1980, 9:467-508)によって総括が、さらに加えて、米国特許第4,229,360; 4,224,179; 4,241,046; 4,078,052および4,235,871号が、文献とされる(これらの教示は引用により本明細書中に包含される)。
【0003】
生物学的な細胞膜は、脂質の両親媒性を利用して、解剖学的な境界、例えば、原形質膜およびミトコンドリア膜を形成する。1960年代初頭、脂質の特定のクラス、特にグリセロリン脂質を用いて、タンパク質を含まない膜モデルを形成できることを、研究者等は実証した。彼等は、支持(supported)二重層膜(BLM)の調製方法を開発した、そして、乾燥したリン脂質の薄いフィルムが自発的に水和し、幾千もの脂質分子の自己−支持閉鎖二重層会合、即ち、リポソームを産生することを発見した。各々のモデル膜における脂質二重層は、水と接触する親水性の頭部と、凝集して水を排除する疎水性の尾部を有する脂質から構成される、二次元流動体である。二重層構造は非常に規則正しいが、二重層の各半平面内における脂質の素早い側方運動のために流動的である。
【0004】
リポソームは、その全体的な大きさおよびラメラ構造の性質に基づいて、3つのカテゴリーに分類できる。この3つの分類は、1997年12月のNew York Academy Sciences Meeting、「生物学および医薬分野におけるリポソーム、およびその使用」により開発され、多重ラメラ小胞(MLV's)、小さな単ラメラ小胞(SUV's)および大きな単ラメラ小胞(LUV's)がある。SUV'sの範囲は、直径およそ20〜50nmであり、水性区画を囲む単脂質二重層から成る。単ラメラ小胞はまた、直径約50nmから600nmの大きさに調製できる。単層小胞は等しく均一な大きさであるのに対して、MLV'sは、大きさが10,000nmまたはその付近までで、非常に多種あり、そして、多数の区画があり、1つより多い二重層を含む。LUVリポソームは、約600nm〜30,000nmの範囲の大きな直径故に、そう名付けられ、1つより多くの二重層を含む場合がある。
【0005】
リポソームは、多くの方法によって調製することができ、その全てではないが、この3つの異なるタイプのリポソームを調製できる。例えば、MLV'sの懸濁液中に直接、金属プローブを浸す方法による超音波分散は、SUV's調製の一般的な方法である。MLVクラスのリポソーム調製には、適当な有機溶媒に脂質を溶解し、次いで、ガスまたは気流下で溶媒を除去することが、一般に、挙げられる。これにより、容器表面上に乾燥脂質の薄いフィルムが残る。その後、脂質分子を遊離させるために攪拌しながら、この容器の側面から水溶液を容器内に導入する。この過程は脂質を分散し、脂質凝集またはリポソームの形成を引き起こす。LUV種類のリポソームは、蒸留水または水溶液を用いて、脂質の薄層をゆっくり水和することにより作製できる。あるいは、リポソームは凍結乾燥により調製できる。この過程には、窒素気流下で脂質溶液を乾燥させ、フィルムにすることが含まれる。その後、このフィルムを揮発性の凍結した有機溶媒、例えばシクロヘキサンまたはt−ブタノール中に溶解し、冷凍し、そして凍結乾燥器に移し、その溶媒を除去する。水溶性薬物を含む医薬品を調製するために、薬物の水溶液を、凍結乾燥した脂質に加えるとすぐに、リポソームが形成される。
【0006】
脂肪親和性薬物は、脂質を用いて有機相中に溶解し、そして、その有機相を除去することにより、二重相中に組み込ませることができる。親油性薬物は、水相を用いて水和することにより、リポソームの二重相構造中に、結果として取り込まれよう。これは、凍結乾燥法および薄層法の双方に応用できる。脂質に対する薬物の割合は、重量当たり約20%までであろう、好ましくは約0.001%〜約0.1%であろう。リポソームの封入特徴および生体適応性により、リポソームは治療物質に対する理想的な担体である。研究の成果は、体内の薬物送達におけるリポソーム開発に貢献している。インビトロ研究の成功が、リポソーム封入されたアンホテリシンB、アントラサイクリンおよび他の薬物の臨床試験をもたらしている。好ましく設計されたリポソームは、循環時間が拡大し、薬物を体内の特定の組織に標的化することができる(Allen, T. M., Liposome Res. 1992, 2:289-305; Allen, T. M., Trends Pharm. Sci. 1994, 15:215-220; Blume等, Biochim. Biophys. Acta 1993,1149:180-184; Klibanov等, J. Liposome Res. 1992, 2:321-334; Lasic等, D. Science 1995, 267:1275-1276; Lasic等, Stealth Liposomes, CRC Press: Boca Raton, FL, 1995)。所望の部位へのリポソーム送達は、体内での長期の循環時間に部分的に依存する、これは、単核食細胞系(MPS)によるリポソームの取り込みが、減少することによってのみ達成され得る。近年、循環期間を拡大するための、立体的に安定化したリポソームに対する方法が、幾つか記載された(Lasic等, Stealth Liposomes, supra; Woodle等, Biochim. Biophys. Acta 1992, 1113:171-199)。頻繁に用いられる方法は、リポソーム中の脂質の幾つかに、ポリ(エチレングリコール)(PEG)を連結することがある。これは、PEGまたはその誘導体と、ホスファチジルエタノールアミン(PE)のアミノ基との化学反応により通常行なわれ、例えば、シアヌル酸を用いて、メトキシ−PEGを活性化し(Klibanov等, FEBS Lett. 1990, 268:235-243; Mori等, FEBS Lett. 1991, 284:263-271)、そしてコハク酸スクシンイミジルを用いて、PEにPEGを連結する(Klibanov等, FEBS Lett., supra, Mori等, FEBS Lett., supra, Woodle等. Proceed. Intern. Symp. Control. Rel. Bioact. Mater 1990,17:77);カルバミル連結を介し、PEに対してカップリングされたメチル−PEG(Allen等, Biochim. Biophys. Acta 1991, 1066:29-37)がある。リポソームの形成の間に、PEG修飾したPEを、他の脂質と共に含有させることにより、リポソーム中に組み込むことができる。あるいは、前もって形成したリポソームの外側に、モノメトキシ−PEGをカップリングする、それには、幾つかのPEフラクションが含まれる(Senior等, Biochim. Biophys. Acta 1991, 1062:77-82)。PEGの組み込み方に関わらず、大きさが約1000〜5000ダルトンの範囲にあるPEGの封入体は、結果として、体内における循環時間が、オーダーの規模またはそれ以上に拡大したリポソームになる。PEG/PEの有用なモル比は、ポリマー鎖の長さに依存する。従って、PEG1900(ここに、1900はPEGの数平均分子量を示す)は、5モルパーセントで、循環時間が拡大するのに有効であるのに対して、PEG750は、15モルパーセントで、類似の安定化を達成するのに必要である(Allen等, Biochim. Biophys. Acta, supra)。この結果は、必要最低限のリポソームの表面被覆が、長いポリマーでは低モル比で、達成されることを示している。種々のホスファチジルコリン(PC)およびPEG−PE、または種々のモル比のPC/コレステロール/PEG−PEから成る、直径100nmのLUVが、多くの研究で役立っている(Woodle等, Biochim. Biophys. Acta, supra)。PC/PEから成るLUV中へのPEG−PEの組み込みは、循環時間が拡大するのに効果的である。大きいリポソームの循環時間は、一般に100nmのLUVより短いが、250nm程の大きさのリポソームにおけるPEG−PE封入体は、循環時間が拡大することが示された(Woodle等, Biochim. Biophys. Acta, supra)。PEG−PEによるリポソームの立体安定化は、固体類似相および液体類似相の双方において、リポソームに影響があることが報告されている(Allen等, Liposome Res., supra)。
【0007】
循環時間の拡大に加えて、特定の組織部位に対するリポソーム送達の成功には、リポソームが間質に侵入する事が必要である。腫瘍は、治療上非常に関心のある特定の組織部位を表す;幾つかの研究グループは、立体的に安定化したリポソーム(PEG−リポソーム)の腫瘍部位における局在化が増大することを報告した。腫瘍部位における脈管構造の透過性の増大により(腫瘍により分泌された血管形成因子のため)、リポソームは毛細血管を避け、腫瘍の間質部分に到達できる。立体的に安定化したリポソームは、血液中で濃度が維持されるために、これらの部位において、より蓄積されるであろう。さらに、親水性表面ポリマーが毛細血管から腫瘍部位への伝達を、より促進する場合があることが知られている。SCIDマウスにおけるマウス大腸癌腫、マウスリンパ腫、マウス乳房癌腫、ヒト扁平上皮癌腫を含む腫瘍に対して、PEG−リポソームの受動的な標的化の報告が、当分野において知られている。抗体をカップリングしたリポソームを介する特異的な標的化は、良く観察されている。抗体(mAb)を連結した立体的に安定化したリポソームは、マウス肺の扁平上皮細胞癌種に局在化し、この部位にドキソルビシンを有効に送達することが知られている。従来のリポソームにmAbsをカップリングすることで、血流からの浄化速度が増加すると思われるが、mAb連結PEG−リポソームは循環中に長く残留し、標的細胞に十分に蓄積される。
【0008】
リポソームがその内容物を甚大に喪失することなく、標的部位に到達するためには、リポソームが循環し、脈管構造を回避するのに必要とされる時間に比べて、消極的な漏出が遅くなければならない。しかし、立体的に安定化したリポソームは、いったん腫瘍部位に蓄積され、封入された化学療法物質、例えばドキソルビシンなどの、ゆっくりした消極的な漏出が、その部位の細胞に著しく影響を及ぼし得ることが示された。ひとたび、リポソームが標的部位に到達すれば、リポソームから封入された物質(群)の放出を増大するように刺激することが望ましいであろう。そのような刺激は、ある意味、光力学療法に類似するように、空間および時間的に選択可能であることが理想的であろう。光力学療法については、特定のポルフィリンおよび他の光増感物質を全身投与し、細胞に吸収させ、そして標的部位に集中した可視光線を照射する。従って、光力学的効果は標的細胞の局所的破壊をもたらす。この効果は、光ファイバーを介した干渉光を利用でき、体内の領域において、癌細胞の処置に対し、有効であると証明された。原理的に、疾病を処置するのに成功した光(または他の照射形態)の使用は、多種多様の治療物質を含ませて、特に、光を用ることで、物質が放出する場合に、広く用いる得る。
【0009】
感光性リポソームを設計するのに、幾つかのストラテジーが用いられている。これには、二重層における個々の脂質の光化学修飾、即ち、脂質光化学;光が多荷電解質とリポソームとの会合変化を誘導し、そして、リポソーム中の脂質の幾つかまたは全ての、光に起因された(photoinitiated)重合、即ち、光重合が含まれる。光重合過程の特徴は、それらの倍数的性質であり、これは一般に等価な光照射に対する二重層膜の大きな摂動の結果となる。脂質二重層を光化学的に再生する方法の総括が多数、公表されている(O'Brien等, Bioorganic Photochemistry 1993, 2:111-167)。
【0010】
多成分性の膜において、選択した脂質の光重合により、二重層内での脂質の横転位を変え、重合化した脂質に満たされたドメインを形成することができる(Armitage等, Adv. Polym. Sci. 1996, 126:53-85)。PEおよび他の脂質の層分離を引き起こす過程が、ラメラから非ラメラ層への転移(群)を引き起こし得ることが知られている。1つの重合可能な、および他の非重合可能な成分(群)を用いた、2つの(または多数の)成分脂質二重層の重合化が、脂質のドメイン形成を引き起こし得る。重合可能な脂質は、反応過程のように共有的に連結されたドメインを形成し、順次、非重合可能成分(群)のドメインを産生する。近年、O'Brienと共同研究者等は、非重合可能成分がラメラ構造よりも、非ラメラ構造をとりやすい場合に、膜が不安定化することを示した(Lamparski等, Biochemistry 1992, 31:685-694; Bennett等, Biochemistry 1995, 34:3102-3113)。ホスファチジルエタノールアミン(PE)は、生理条件下において非二重層構造を形成するために、特に関心がある。重合可能なPCおよびPEの2成分リポソームは、安定なリポソームを形成し、重合化するが、各々のアシル鎖の末端に感光性のソルビル部分を含む、ビス−ソルブ(Sorb)PCの光重合化により不安定化される。その結果、適切に設計された脂質二重層の光重合化により、二重層の局所的な不安定化が引き起こされ、封入された試薬が漏出するか(Lamparski等, supra)、または二重層リポソームが融合するか(Bennett等, supra)、のいずれかとして観察される。
【0011】
この独特の研究では、ビス−ソルブPCの発色団が260nmであるために、その感光性の性質を利用した。原理的に、リポソームの不安定化は、文献において知られる反応性脂質集合物の重合化によって、行なうことができる。両親媒性物質の超分子集合体の重合化は、単層、小胞および拡張した二重層において、最初に実証された。人工二重テイル両親媒性物質の導入は、1980年代初頭の、ある炭化水素鎖の末端にメタクリレートを有する、陽イオンアンモニウム塩の記述について直接導かれる、脂肪酸単層の重合化の成功した実証に結びついた。二重層中の脂質ジアセチレン合成および重合化の報告は、以下の通りである。さらに、ジエノイル脂質、加えてメタクリロイル脂質、他の脂質ジアセチレン、およびビニル脂質の合成および重合化は、良く見られる(Ringsdorf等, J. Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 1988, 27:113-158; O'Brien等, Encylopedia Polym. Sci. Engr. 1989, 17:108-135; O'Brien等, Acc. Chem. Res 1998, 31:861-868)。幾つかのポリマー鎖から成る構造になる、幾千の脂質分子の自己形成型配列(self-organized array)における、これら反応性脂質の重合化は、重合型リポソーム形成と称される。
【0012】
重合可能な二重層、および他の超分子集合体を形成するための、主要なストラテジーには、重合可能な脂質単量体を調製し、その単量体から二重層膜などの脂質会合体を形成させ、そして、続いて、その集合体における単量体を、連鎖重合化するものである。重合可能な脂質は、反応基を脂質分子の異なる領域に導入することによって調製される。このタイプの重合可能な脂質の略図を、図1に示す。図1に表すように、重合化ストラテジーAおよびBは、膜−水界面における直接的な影響はない。この系における重合により、脂質鎖の可動性は有意に減少する。対照的に、方法CおよびDは、膜−水界面を変えるが、膜の疎水性内部における影響は、ほとんどない。脂質当たり1つの反応基のみを用いる実施例では、超分子重合体において線状重合体を形成する。分子に第二の重合可能な基の存在(図示せず)は、ポリマー鎖の架橋を形成する。
【0013】
反応性部分の大部分は、上記脂質を修飾し、それを重合化させるのに利用できる。これらの基には、ジアセチレン、アクリロイル、メタアクリロイル、イタコニル(itaconyl)、ジエノイル、ソルビル(sorbyl)、ムコニル(muconyl)、スチリル、ビニル、チオール(またはリポイル(lipoyl))、および鎖末端イソシアネートがある。ポリマー鎖長、即ち重合度(Xn)と、発動因子に対する単量体のモル比との間の関係についての体系的研究は、Xnが[M]/[I]に比例することを明らかにした。さらに、これらの研究は、二重層膜における単量体の相対反応性が、溶液重合化研究の多くから得られた値と類似することを示した。その結果、二重層中のアクリロイル脂質単量体は、脂質単量体を含むジエンよりも、4〜5倍、より反応性がある。
【0014】
二重層膜における脂質の重合化は、光、温度およびレドックス開始を含む、種々の方法により引き起こすことができる。ジアセチレン型、ブタジエン型、ビニル型、アクリロイル型、メタクリロイル型およびチオール型ユニットを、アシル鎖において重合可能なユニットとして用いた。しかし、電離放射線の使用が、連鎖重合を開始することは当分野において知られているが、重合可能な脂質から成る脂質二重層膜を安定化するための、電離放射線の効果については、ほとんど知られていない。Akama等は、膜に含まれる重合可能なリン脂質の重合化によりリポソームが安定化することを報告した。より詳細には、彼等はガンマ−照射により発生したヒドロキシラジカルによる重合化の結果として、リポソームが安定化することを報告した。重合可能なリン脂質の設計は、重合化による安定なリポソームを得るのに重要である(Akama等, J. Mater. Chemistry 2000, 10:1047-1059)。しかし、重合可能な脂質から成る脂質二重層膜を安定化するために、電離放射線を用いることは知られているが、リポソームを不安定化する目的で、電離放射線を用いることについての報告はない。
【0015】
脂質二重層の重合化を開始させる放射エネルギーに関係する、上述の方法は紫外線に依存する。重合化の開始に紫外線しか用いることがでない場合、薬物送達、診断法および試薬放出に対する重合可能なリポソームの潜在的な有用性は制限される。UV光は単に、標的組織が光源に対して表面的で近い場合にのみ用いることができる。深い組織レベルにあるリポソームは、UV光に対して容易に接近できない、そのため、リポソームに封入または会合されている診断または治療物質は、放出されない。それ故に、リポソームを不安定化するのにより良い系が必要である。本明細書中にて引用される文献、特許および他の参考資料のいずれもが、引例により本明細書中に包含される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
(本発明の概要)
本発明は、放射線感受性リポソーム(群)、およびそれを製造方法に関する。本発明は、リポソームに封入および会合された物質に感受性のある、状態および疾病を診断し、処置する方法を、さらに包含する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の1つの側面として、安定なリポソーム形成脂質、および重合可能な共脂質を含むリポソーム送達体であって、該重合可能な共脂質のフラクションは電離放射線に曝露することで重合化し、それによりリポソーム膜を不安定にする、該リポソーム送達体を提供する。より具体的には、本発明の放射線感受性リポソームは、電離放射線に曝露することで重合化し、リポソーム膜を不安定にし、リポソームの内容物を漏出するようになる、重合可能な共脂質(群)をリポソーム膜中に含む。とりわけ、重合可能な共脂質(群)の分離したドメインを形成する、放射線感受性リポソームは、本発明に包含される。このドメインを電離放射線に曝露して重合化させることにより、リポソーム内容物が重合化したドメインを通じ、またはその周囲から漏出することになる。その他の態様について、この放射線感受性リポソームは、リポソーム膜全体に不規則に分布している、重合可能な共脂質(群)を含む。この脂質(群)は、電離放射線に曝露することで重合化し、それによりリポソームの全体を通じて、リポソームの内容物を漏出することになる。従って、リポソーム(群)の不安定化は、リポソーム(群)の脂質二重層における、反応性共脂質(群)の重合化によって、達成され得る。診断および治療性質のある、リポソーム内容物を放出させるために電離放射線を用いることは、臨床方法に基づく、現在利用されている放射線照射に組み込むことが容易であるために、癌および他の疾病を診断し、処置するのに、有効かつ便利な方法を提供する。
【0018】
好ましい態様について、放射線感受性リポソーム(群)には、ポリ(エチレングリコール)(PEG)または立体安定化を与える他の親水性ポリマー、脂質および重合可能な共脂質などの成分を有する、立体的に安定化したリポソーム(群)が含まれる。脂質の例としては、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルグリセロール(PG)、コレステロールなどのステロール、非天然脂質(群)およびカチオン性脂質(群)が挙げられるが、これらに制限されない。重合可能な共脂質の例としては、重合可能な部分を含むモノ−脂質、重合可能な部分を含むビス−脂質、および重合可能な部分を含むモノ−およびビス−脂質の混合物が挙げられるが、これらに制限されない。より具体的には、重合可能な共脂質(群)には、モノ−、ビス−およびヘテロ二機能性の、ジアセチルエニル、アクリロイル、メタクリロイル、ジエノイル、ジエニル、ソルビル、ムコニル、スチリル、ビニルおよびリポイル共脂質(群)が挙げられるが、これらに制限されない。
【0019】
本発明のその他の側面は、ビス−ソルブPC、モノ−ソルブPC、ビス−デン(Den)PC、モノ−デンPC、ビス−アクリルPC、モノ−アクリルPC、ビス−メタクリルPC、モノ-メタクリルPC、ビス-ビニルエステルPC、モノ−ビニルエステルPC、ヘテロ二機能性PC、ジアセチレンPC、ムコナートPC;ビス−ソルブPE、モノ−ソルブPE、ビス−デンPE、モノ−デンPE、ビス−アクリルPE、モノ−アクリルPE、ビス−メタクリルPE、モノ−メタクリルPE、ビス−ビニルエステルPE、モノ−ビニルエステルPE、ヘテロ二機能性PE、ジアセチレンPE、ムコナートPE;ビス−ソルブPG、モノ−ソルブPG、ビス−デンPG、モノ−デンPG、ビス−アクリルPG、モノ−アクリルPG、ビス−メタクリルPG、モノ−メタクリルPG、ビス−ビニルエステルPG、モノ−ビニルエステルPG、ヘテロ二機能性PG、ジアセチレンPG、ムコナートPG;ビス−ソルブPA、モノ−ソルブPA、ビス−デンPA、モノ−デンPA、ビス−アクリルPA、モノ−アクリルPA、ビス−メタクリルPA、モノ−メタクリルPA、ビス−ビニルエステルPA、モノ−ビニルエステルPA、ヘテロ二機能性PA、ジアセチレンPAおよびムコナートPAを含み(これらに制限されない)、重合可能な共脂質を含有する、放射線感受性リポソーム(群)を提供する。ヘテロ二機能性脂質の例としては、ジエノイルジエニル、ジエノイルソルビルおよびジエノイルアクリロイルがある。ヘテロ二機能性PCの例としては、ジエノイルソルビルPC(デンソルブPC)およびジエノイルアクリルPC(デンアクリルPC)がある。
【0020】
本発明の1つの態様について、放射線感受性リポソームは、ポリ(エチレングリコール)(PEG)リポソームである。リポソーム中の脂質(群)に対するPEGの連結は、インビボでのリポソームの循環期間を増大させる。PEGリポソーム成分の例としては、PEGとPCs、および/またはPEs、および/またはPAs、および/またはPGs、および/またはコレステロールなどのステロール、および/または非天然脂質、および/またはカチオン性脂質など、種々の組合せがある。本発明の好ましい態様について、リポソーム(群)は、PEG2000−ジオレオイルPE、コレステロール、ジオレオイルPCおよびビス−ソルブPC17,17から成る。本発明のその他の好ましい態様について、リポソーム(群)はPEG2000−ジステアロイルPE、コレステロール、ジステアロイルPCおよびビス−ソルブPC17,17から成る。さらに、本発明のその他の好ましい態様について、リポソーム(群)はPEG2000−ジステアロイルPE、ジステアロイルPCおよびビス−ソルブPC17,17から成る。
【0021】
本発明のその他の側面は、リポソームが放出物質を含む、リポソーム送達体を提供する。放出物質(群)の例としては、リポソームに封入または会合される分子である。あるいは、リポソーム(群)が、脂質会合分子を含む場合がある。放出物質(群)には、治療物質および診断物質が挙げられるが、これらに制限されない。治療物質の例としては、化学療法物質、生物反応修飾物質、生物学的共同因子、医薬物質および放射性医薬物質、細胞毒、放射線増感剤、および遺伝物質が挙げられるが、これらに制限されない。診断物質の例としては、コントラスト物質、ヨウ化物質、放射性医薬物質、蛍光化合物、および消光物質と共に封入された蛍光化合物、MRS/MRI感受性核種を含む物質、およびコントラスト物質をコードする遺伝物質が挙げられるが、これらに制限されない。
【0022】
電離放射線の治療線量は、リポソーム(群)から、封入された水溶性分子または脂質会合分子の放出を、実質的に高めることができる。このように、本条件は、特に、治療および診断を目的とした、立体的に安定化したリポソームを不安定化するのに好ましい条件である。
【0023】
本発明は、リポソーム送達体および放出物質(ここに、放出物質はリポソーム(群)内に封入されるか、あるいはリポソーム(群)と共に会合されている)を含む、医薬組成物もまた包含する。本医薬組成物には、さらに適当な製薬的な担体または希釈剤を含む、または共に会合されている場合がある。放出物質は、治療物質または診断物質の場合がある。治療または診断物質を、リポソーム内または共に会合させ、運搬することは、生物学的適合性および無毒性のインビボ運搬方法を提供する。化学療法物質、生物反応修飾物質、生物学的共同因子、医薬物質および放射性医薬物質、細胞毒、放射線増感剤、遺伝物質、コントラスト物質、ヨウ化物質、蛍光化合物、および消光物質と共に封入された蛍光化合物、MRS/MRI感受性核種を含む物質、およびコントラスト物質をコードする遺伝物質などを、本発明のリポソーム(群)内に封入させ、またはリポソーム(群)と共に会合させ、そして、インビボまたはインビトロにおいて所望の標的部位にて放出させることができる。リポソーム(群)は、種々の組成物および構造物を含ませ、製剤化することができ、潜在的に無毒、分解性および非免疫原性である。
【0024】
その他の態様について、本発明はリポソーム封入または会合された治療物質に対して応答する状態を処置する方法であって、(i)リポソーム送達体および治療物質などの放出物質(ここに、放出物質はリポソーム内に封入されるか、あるいはリポソームと共に会合されている)、および製薬的に許容される担体または希釈剤を含む医薬組成物を患者に投与し、(ii)該リポソームを不安定化し、リポソーム内に封入されるか、あるいはリポソームと共に会合されている治療物質を放出させるために、該患者を放射線に曝す過程を含む方法を提供する。1つの態様において、放射線量の範囲は、約5〜約500ラドである。好ましい態様について、放射線量の範囲は、約50〜約250ラドである。治療物質の例としては、化学療法物質、生物反応修飾物質、生物学的共同因子、医薬物質および放射性医薬物質、細胞毒、放射線増感剤および遺伝物質が挙げられるが、これらに制限されない。リポソーム封入または会合される治療物質(群)に応答する状態の例としては、癌、免疫不全、発達傷害および遺伝性疾患が挙げられるが、これらに制限されない。
【0025】
さらに、その他の態様について、本発明は、疾病の存在または進行を診断する方法であって、(i)リポソーム送達体および診断物質などの放出物質(ここに、診断物質はリポソーム内に封入されるか、あるいはリポソームと共に会合されている)、および製薬的に許容される担体、または希釈剤を含む医薬組成物を患者に投与し、(ii)該リポソームを不安定化し、リポソーム内に封入されるか、あるいはリポソームと共に会合されている診断物質を放出させるために、該患者を放射線に曝し、(iii)分子映像化(イメージング)技術を用いて疾病を診断する過程を含む方法を提供する。1つの態様において、放射線量の範囲は、約5〜約500ラドである。好ましい態様について、放射線量の範囲は、約50〜約250ラドである。診断物質の例としては、コントラスト物質、ヨウ化物質、放射性医薬物質、蛍光化合物、および消光物質と共に封入された蛍光化合物、MRS/MRI感受性核種を含む物質、およびコントラスト物質をコードする遺伝物質などが挙げられるが、これらに制限されない。分子映像化技術の例としては、核磁気共鳴(NMR)、磁気共鳴分光法/磁気共鳴影像法(MRS/MRI)、X線/コンピューター軸性断層撮影法(CT)、陽子射出断層撮影法(PET)、単光子放出コンピューター断層撮影法(SPECT)、超音波および光学基底(optical based)映像化技術が挙げられるが、これらに制限されない。リポソーム封入または会合された診断物質(群)を介して診断することができる状態の例としては、癌、免疫不全、発達傷害および遺伝性疾患が挙げられるが、これらに制限されない。
【0026】
さらに、本発明のその他の態様は、重合可能な共脂質(群)を含む、放性線感受性脂質を製造する方法を提供する。本方法には、リポソーム(群)を構成する脂質を乾燥させ、所望のモル比にて封入または会合される物質を含む、緩衝液を用いて脂質を水和させ、水和二重層を形成させ、この二重層をリポソーム(群)に変換し、リポソーム(群)を精製することが含まれる。脂質を酸素不含雰囲気下、例えばアルゴン気流下で乾燥させ、二重層を超音波ソニックまたは凍結−融解−押出によって、リポソームに変換することが好ましい。リポソームはゲル透過クロマトグラフィーまたは他の方法を用いて精製できる。
【0027】
本発明は、放射線感受性リポソームおよび放出物質を含むリポソーム送達体であって、該リポソームに少なくとも1つのペプチドを連結することにより腫瘍部位に標的化することができるリポソーム送達体が、さらに考えられる。該リポソームには、リポソーム膜中に重合可能な共脂質(群)が含まれ、そのフラクションは、電磁放射線に曝露し、重合化することによって、リポソーム膜を不安定にする。これにより、リポソームの内容物が漏出することになる。リポソーム(群)を腫瘍部位に標的化するペプチドには、ペプチド配列、ペプチド断片、抗体、抗体断片および抗原が挙げられるが、これらに制限されない。
【0028】
本発明の他の対象、特徴および利点は、以下の詳しい説明にて明らかとなろう。しかし、本発明の好ましい態様を示す一方で、本発明の意図および範囲内において種々の変更および改変が、当該詳しい説明により、当業者には明らかであるために、当該詳しい説明および特定の実施例は、例示としてのみ提供するものであると、理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】当分野において周知の重合可能な脂質の略図である。それぞれの模式図中の丸は、分子の親水性部分を表す。疎水性領域を、線(群)によって表す。重合可能な基Xが、二重層の真中に当たる鎖の末端にある場合(タイプA)、疎水性鎖の真中付近にある場合(タイプB)、親水性基の頭部に連結されている場合(タイプC)、または帯電した脂質と静電気的に会合している場合(タイプD)がある。
【図2】種々の反応基を有する、単一置換重合可能ホスファチジルコリンの構造を表し、本発明を例示する。脂質鎖長および/または頭基は変更可能である。
【図3】種々の反応基を有する、二置換重合可能ホスファチジルコリンの構造を表し、本発明を例示する。脂質鎖長および/または頭基は変更可能である。
【図4】ヘテロ二機能性脂質の例として、ジエノイルジエニル、ジエノイルソルビルおよびジエノイルアクリロイルなどを含む、付加的な重合化脂質の構造を示す。
【図5】本発明のリポソームに用いる重合可能なホスファチジルコリンの例として、ビス−ソルブPC、ビス−デンPCおよびビス−アクリルPCを示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(本発明の詳しい説明)
a)定義および一般的な媒介変数
以下の定義は、明細書中にて、本発明を記載するのに用いる種々の用語の意味および範囲を例示し、定義するために記載する。
【0031】
用語「リポソーム」は、脂質二重層(群)から成る微視的な小胞を意味する。構造的に、リポソームは、大きさおよび形について、長い筒型から球形であり、そして、通常、直径100±10nmであるが、小さいもので25nm程度、大きいもので500nm程度の場合もある。リポソームは、1つまたはそれ以上の二重層(群)を含む場合がある。物質または分子を、リポソーム中に包含することができる。例えば、分子は、リポソーム内に封入されるか、あるいはリポソームと共に会合される場合がある。このように封入または会合された物質(例えば、治療または診断物質)を有するリポソームを、特定の部位(群)(例えば、腫瘍組織などの目的の組織)に標的化し、その内容物を適当な時に放出させることができる。また、リポソームはインビトロまたはインビボにおいて、連結した標的配列、例えばペプチド配列などにより、特定の部位(群)に標的化できる。
【0032】
用語「脂質」は、本明細書中にて言及するように、適当なリポソーム形成条件下で、リポソームを形成することができる、脂肪酸を含む長い鎖分子を意味する。このような脂質の例としては、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルグリセロール(PG)、コレステロールなどのステロール、および非天然脂質(群)、およびDOTMA(N−(1−(2,3−ジオキシルオキシ)プロピル)−N,N,N−トリメチル塩化アンモニウム)などのカチオン性脂質(群)が挙げられるが、これらに制限されない。
【0033】
「重合可能な共脂質」は、本明細書中にて用いるように、脂質鎖(群)中のいずれかの箇所に、少なくと1つの重合可能な部分が組み込まれた、任意の脂質である。脂質鎖(群)中に1つより多く重合可能な部分が組み込まれる場合、そして、その組み込まれた重合可能な部分は、同一または異なるタイプである場合がある。例えば、重合可能な共脂質には、二つの重合可能な共脂質、同じ共脂質中に、例えば、ソルビル基とジエノイル基が含まれる場合もある。電離放射線は、少なくともリポソーム膜中の重合可能な共脂質のフラクションを重合化することで、リポソームから封入または会合されている物質の漏出を引き起こす。例えば、重合可能な脂質が約5%重合化すると、リポソームの内容物の漏出が生じる場合がある。あるいは、重合可能な脂質が約10%重合化すると、リポソームの内容物の漏出が生じる場合がある。しかし、重合化の量および重合化の割合についての制限を示すものではない。任意に与えられるリポソームに封入または会合された物質の漏出量は、リポソームの性質(例えば、リポソーム成分、反応基の位置、反応基の性質など)に依存するように、用いられる重合化のタイプ(例えば、電離放射線)および強度に依存する。
【0034】
用語「重合可能な共脂質の分離したドメイン」は、本明細書および請求の範囲の目的について、単層および二重層中の種々の大きさの群になる、共に密集した重合可能な共脂質を意味する。このドメインは、リポソームに潜在的に不安定な部分を導入するだろう。脂質が、反応性および非反応性脂質の不混和性混合物を形成するために、この「重合可能な共脂質の分離したドメイン」は、反応性脂質のみの群として、または反応性および非反応性脂質の混合物の群として存在する。電離放射線は「重合可能な共脂質の分離したドメイン」を重合化し、ドメインを収縮させ、リポソームから封入または会合された物質の漏出を引き起こす。
【0035】
「遺伝物質」は、本明細書中にて言及するように、染色体(群)、DNA、cDNA、ゲノムDNA、mRNA、ポリヌクレオチド(群)、オリゴヌクレオチド(群)、核酸(群)、および天然のヌクレオチド塩基であるアデニン、グアニン、シトシン、チミンおよびウラシルを含む、任意の人工DNAおよびRNA配列を包含する。この用語はまた、1つまたはそれ以上の修飾ヌクレオチドを有する配列もまた包含する。この用語はさらに、センスおよびアンチセンス核酸を含む。本明細書中のこれらの用語のいずれかの使用により、長さまたは合成起源に対する制限を示唆するものではない。
【0036】
用語「ペプチド」は、本明細書中にて用いるように、1個のアミノ酸またはポリ(アミノ酸)、例えば、ペプチド結合によって連結された、少なくとも2個のアミノ酸を含むポリペプチドを意味する。この用語はさらに、ペプチド断片、エピトープ、タンパク質断片、抗原、抗体、抗体断片、または任意のアミノ酸配列を包含する。タンパク質は、遺伝子によってコードされるポリペプチドである。
【0037】
b)放射線感受性リポソーム
本発明は、ある意味で、リポソームを不安定化し、特定の標的部位において、それに封入または会合された内容物の放出を引き起こす、重合可能な脂質に対する電離放射線の使用を記載する。本方法には、光起因性の放出よりも明確な利点がある。第一に、そして最も重要なことには、電離放射線は、放射エナジーのように、透過が深さに制限されないことがある。電離放射線は、組織の最も深い所でさえ透過できる。第二に、種々の状態および疾病に対する標準的な処置のように、電離放射線の使用は、既に用いられている線源(例えば、病院および診療所における放射線療法)を使用できる。その上、放射線療法に対する線量測定は既に、当分野において慎重に決定されており、すぐに適用できるよう確立されている。要約すれば、本発明は、リポソーム封入または会合された診断物質または治療物質の放出についての新規システム、および方法を提供する。従って、放射線感受性リポソームは、リポソーム封入または会合された物質に感受性のある、状態および疾病、例えば癌、免疫不全、発達傷害、遺伝性疾患などを診断し、処置するのに特に適している。
【0038】
脂質会合、例えばリポソームは、非共有的に会合した両親媒性物質の集合体、即ち、超分子集合体である。これは、支持または自己−支持集合体として分類できる。リポソームの重合化により、前から存在する脂質ドメインを閉じ込めることができるか、または不規則な混合物から脂質ドメインを作り出すことができる。脂質は、単層および二重層において、会合していない反応性および非反応性脂質の不混和性混合物を形成できる。対照的に、重合可能な共脂質の重合化は、増大する重合体ドメインから、非反応性脂質の層分離を有効に誘導することができる。このように、脂質ドメインは、潜在的に不安定な部位をリポソームに与え得る。その後、電離放射線の治療線量により、放射線感受性リポソームから封入された水溶性または脂質会合分子の漏出を、実質的に増大できる。この条件は、場合によっては、立体的に安定化した放射線感受性リポソームを不安定化するのに適している。
【0039】
本発明の1つの側面は、安定なリポソーム形成脂質および重合可能な共脂質を含むリポソーム送達体であって、該重合可能な共脂質のフラクションは、電離放射線に曝露することで重合化し、それにより、リポソーム膜を不安定にする、該リポソーム送達体を提供する。より具体的には、本発明の放射線感受性リポソームは、リポソーム膜中に、電離放射線に曝露することで重合化し、リポソーム膜を不安定化し、そして、リポソームの内容物を漏出するようになる重合可能な共脂質(群)を含む。特に、重合可能な共脂質(群)の分離したドメインを形成する、放射線感受性リポソームは、本発明に包含される。このドメインは電離放射線に曝露することで重合化し、それにより重合化したドメインを通じて、または周辺からリポソーム内容物が漏出することになる。その他の態様について、放射線感受性リポソームは、リポソーム膜全体に不規則に分布している、重合可能な共脂質(群)を含有する。放射線は、分離したドメイン中にてクラスターを形成するか、またはリポソーム膜全体に不規則に分布している、重合可能な共脂質(群)の重合化を引き起し、ある意味、リポソーム(群)を不安定化し、それにより、それに封入または会合された内容物の放出を引き起こす。このように、リポソーム(群)の不安定化は、リポソーム(群)の脂質二重層中の反応性共脂質(群)を重合化することによって起こすことができる。
【0040】
好ましい態様について、放射線感受性リポソーム(群)には、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、または立体安定化を与える他の親水性ポリマー、脂質および重合可能な共脂質などの成分を有する、立体的に安定化したリポソーム(群)が含まれる。脂質の例としては、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルグリセロール(PG)、コレステロールなどのステロール、および非天然脂質(群)、DOTMAなどのカチオン性脂質(群)が挙げられるが、これらに制限されない。重合可能な共脂質の例としては、重合可能な部分を有するモノ−脂質、重合可能な部分を有するビス−脂質、および重合可能な部分を有するモノ−およびビス−脂質の混合物が挙げられるが、これらに制限されない。より具体的には、重合可能な共脂質(群)には、モノ−、ビス−およびヘテロ二機能性の、ジアセチルエニル、アクリロイル、メタクリロイル、ジエノイル、ジエニル、ソルビル、ムコニル、スチリル、ビニルおよびリポイル共脂質(群)が挙げられるが、これらに制限されない(図2、3および4を参照のこと)。ヘテロ二機能性共脂質には、ジエノイルジエニル、ジエノイルソルビルおよびジエノイルアクリロイル共脂質が挙げられるが、これらに制限されない(図4を参照のこと)。
【0041】
重合可能な部分を、脂質鎖中に組み込ませることができる(図4および5を参照のこと)。例えば、ビス−ソルブPCおよびモノ−ソルブPCは、脂質鎖それぞれの両末端あるいは一端と会合している、少なくとも1つの重合可能なソルビル部分を有する(図2および3を参照のこと)。ビス−デンPCは少なくとも1つの重合可能なジエノイル部分を含む、一方で、ビス−アクリルPCは、少なくとも1つの反応性アクリロイル部分を含む(図5を参照のこと)。あるいは、重合可能な共脂質は、同じ共脂質中に、2つの異なる重合可能な部分、例えばソルビルおよびジエノイル基を含んでいても良い。リポソームの成分は、改変することができる、例えば、リポソームには、約5%〜約40%の重合可能な共脂質を含ませることができる。その他の例として、リポソームには、約2%〜約20%の立体安定剤を含ませることができる。さらにその他の例として、リポソームには約5%〜約40%の重合可能な共脂質と、約2%〜約20%の立体安定剤を含ませることができる。
【0042】
本発明のその他の態様においては、ビス−ソルブPC、モノ−ソルブPC、ビス−デンPC、モノ−デンPC、ビス−アクリルPC、モノ−アクリルPC、ビス−メタクリルPC、モノ−メタクリルPC、ビス−ビニルエステルPC、モノ−ビニルエステルPC、ヘテロ二機能性PC、ジアセチレンPC、ムコナートPC;ビス−ソルブPE、モノ−ソルブPE、ビス−デンPE、モノ−デンPE、ビス−アクリルPE、モノ−アクリルPE、ビス−メタクリルPE、モノ−メタクリルPE、ビス−ビニルエステルPE、モノ−ビニルエステルPE、ヘテロ二機能性PE、ジアセチレンPE、ムコナートPE;ビス−ソルブPG、モノ−ソルブPG、ビス−デンPG、モノ−デンPG、ビス−アクリルPG、モノ−アクリルPG、ビス−メタクリルPG、モノ−メタクリルPG、ビス−ビニルエステルPG、モノ−ビニルエステルPG、ヘテロ二機能性PG、ジアセチレンPG、ムコナートPG;ビス−ソルブPA、モノ−ソルブPA、ビス−デンPA、モノ−デンPA、ビス−アクリルPA、モノ−アクリルPA、ビス−メタクリルPA、モノ−メタクリルPA、ビス−ビニルエステルPA、モノ−ビニルエステルPA、ヘテロ二機能性PA、ジアセチレンPAおよびムコナートPAを含む(これらに制限されない)、重合可能な共脂質を含有する、放射線感受性リポソームが提供される。ヘテロ二機能性脂質の例としては、ジエノイルジエニル、ジエノイルソルビルおよびジエノイルアクリロイルがある(図4を参照のこと)。ヘテロ二機能性PCの例としては、ジエノイルソルブPC(デンソルブPC)およびジエノイルアクリルPC(デンアクリルPC)がある。
【0043】
より具体的には、本発明の1つの態様として、ある意味で、リポソームを不安定化し、それにより、その封入された内容物、例えば、治療または診断物質の漏出(ここに、ドメイン二重層間または周辺からの漏出は、ドメイン収縮による)を引き起こす、分離したドメイン中にてクラスター形成された共脂質を重合化するための、電離放射線の使用を記載する。もう1つの態様において、重合可能な共脂質は、リポソーム膜全体に不規則に分布している。電離放射線に曝露することで、この脂質は重合化し、リポソーム全体からリポソームの内容物が漏出するようになる。このように、不安定化は、リポソームの脂質二重層における反応性共脂質の重合化により達成できる。重合可能な共脂質は、重合化の初速度、重合化の限度、および酸素による阻害を調節する、異なる反応性を有する。水と電離放射線の相互作用により、ラジカル連鎖重合を開始することができる、ラジカル種が産生される。インビボまたはインビトロにおける、標的部位(群)でのリポソームの内容物の放出を引き起こすための、電離放射線の使用には、幾つかの明確な利点がある。最も重要なことには、電離放射線は、組織の全層を通じて、透過できるために、透過の深度または標本の厚さによっては、制限されない。さらに、電離放射線の使用は、現在、用いられている診療方法に基づく放射に容易に組み込むことができるために、有効かつ便利な癌および他の疾病を処置する方法を提供する。
【0044】
本発明の1つの態様について、放射線感受性リポソームは、ポリ(エチレングリコール)(PEG)リポソームである。リポソームの脂質に対するPEG連結は、インビボにおけるリポソームの循環期間を増大させる。PEG−リポソーム組成の例としては、PEGおよびPCs、および/またはPEs、および/またはPAs、および/またはPGs、および/またはコレステロールなどのステロール、および/または非天然脂質、および/またはカチオン性脂質の種々の組合せがある。本発明の好ましい態様について、リポソームには、PEG2000−ジオレオイルPE、コレステロール、ジオレオイルPC、およびビス−ソルブPC17,17から構成される。本発明のその他の好ましい態様について、リポソームは、PEG2000−ジステアロイルPE、コレステロール、ジステアロイルPC、およびビス−ソルブPC17,17から構成される。さらに本発明のその他の態様について、リポソーム(群)は、PEG2000−ジステアロイルPE、ジステアロイルPCおよびビス−ソルブPC17,17から構成される。PEG−リポソームの具体的な例としては、約15%PEG2000−ジオレオイルPE、40%コレステロール、20%ジオレオイルPCおよび30%ビス−ソルブPC17,17のモル比のPEG−リポソーム;約15%PEG2000−ジステアロイルPE、40%コレステロール、20%ジステアロイルPCおよび30%ビス−ソルブPC17,17のモル比のPEG−リポソーム;そして、約5%PEG2000−ジステアロイルPE、75%ジステアロイルPC、および20%ビス−ソルブPC17,17のモル比のPEG−リポソームが挙げられるが、これらに制限されない(以下を参照のこと)。
【0045】
電離放射線の診断線量は、放射線感受性リポソームから、封入された水溶性または脂質会合分子の放出を、実質的に増大することができる。この条件は、立体的に安定化した放射線感受性リポソームを不安定化するのに適している。電離放射線の透過深度の増大は、治療目的に特に好ましい。さらに、たいていの中央病院は、収束電離放射線照射を伴う実験装置を有しているため、この放射線照射を導入したリポソームの不安定化は、薬物療法および診断用の物質を送達し、放出するための、空間的、および時間的に選択可能な方法を提供する。
【0046】
リポソームの所望の解剖学的部位への送達は、場合によって、リポソームの長い循環時間に依存し、束縛された親水性のポリマー、例えばPEG−PCによって、リポソームが立体的に安定化される場合に達成され得る。腫瘍部位における脈管構造の増大した透過性により、PEG−リポソームは、毛細血管を回避し、腫瘍の間質部分へ到達するようになる。しかし、ひとたびPEG−リポソームが腫瘍部に入れば、PEG基は封入した物質の素早い放出を妨げる性質がある。その結果、PEG−リポソームから物質の放出を引き起こす方法を探す努力が、続けられている。本発明は、PEG−リポソームを含む、リポソームを不安定化するために、電離放射線を使用した実証に初めて成功したものである。リポソームは、独自に設計された脂質(例えば、重合可能な共脂質)の使用により、放射線感受性にすることができ、リポソームの特徴を改変することができる。反応性脂質の適切な選択により、二重層の特徴を有意に改変できる、架橋ポリマーのネットワークを二重層中に形成させることができる。このように、電離放射線は脂質二重層の重合化を引き起こすことができる。
【0047】
本発明のその他の態様において、放出物質を含有する、リポソーム送達体が提供される。放出物質(群)の例としては、リポソームに封入または会合される分子がある。このように封入された分子は、水溶性分子であっても良い。あるいは、リポソーム(群)は脂質会合分子を含んでいても良い。このように、本発明のリポソームは、水溶性または脂質会合分子である、放出物質を含んでいても良い。放出物質(群)には、治療物質および診断物質が含まれるが、これらに制限されない。治療物質の例としては、化学療法物質、生物学的反応修飾物質、生物学的共同因子、医薬物質および放射性医薬物質、細胞毒、放射線増感剤、および遺伝物質が挙げられるが、これらに制限されない。治療物質の例としては、コントラスト剤、ヨウ化物質、放射性医薬物質、蛍光化合物、および消光物質と共に封入された蛍光化合物、MRS/MRI感受性核種を含む物質、およびコントラスト物質をコードする遺伝物質が挙げられるが、これらに制限されない。
【0048】
放射線感受性リポソームは、腫瘍に関連する領域付近での脈管構造の透過性の増大のために、腫瘍部位に局在化する能力を有する。リポソームからの封入または会合された物質の放出が、消極的に生じる場合、あるいは刺激または誘導される場合がある。例えば、電離放射線は、リポソーム内容物の放出を刺激できる。さらに、標的細胞に対するリポソーム送達は、漏出(消極的または誘導性)を通じて行なわれるか、あるいはエンドサイトーシスを通じて行なわれる場合がある。エンドサイトーシスについて、リポソームは、細胞膜と接触し、エンドソーム内に小胞を形成し、そして他のオルガネラと最終的には融合し、その内容物を放出する。電離放射線の治療線量は、リポソームからの封入された水溶性分子または脂質会合分子の放出を実質的に増大させる。この電離放射線の透過の拡張した深度は、UV光が体内の上皮層を越えて透過できないことによる、UV光を用いたリポソームを不安定化する従来法の制限を打破する。このように、これらの条件は放射線感受性リポソームを不安定化するのに、特に、治療および診断目的に適している。
【0049】
本発明は、またリポソーム送達体および放出物質(ここに、放出物質がリポソーム(群)内に封入されるか、あるいはリポソーム(群)と共に会合されている)を含む医薬組成物も含有する。この医薬組成物は、さらに適当な製薬的な担体または希釈剤を含むか、共に会合されていても良い。放出物質は、治療物質または診断物質の場合がある。リポソーム内または共に会合された治療物質または診断物質は、インビボ送達において、生体適合性および無毒な方法を提供する。化学療法物質、生物学的反応修飾物質、生物学的共同因子、医薬物質および放射性医薬物質、細胞毒、放射線増感剤、遺伝物質、コントラスト剤、ヨウ化物質、蛍光化合物、および消光物質と共に封入された蛍光化合物、MRS/MRI感受性核種を含む物質、コントラスト物質をコードする遺伝物質などを、本発明のリポソーム(群)内に封入し、またはリポソーム(群)と共に会合することができ、そしてインビボまたはインビトロにおいて、所望の標的部位で放出できる。リポソーム(群)は、潜在的に無毒、分解性および非免疫原性の種々の組成物および構造物を含ませ、製剤化することができる。リポソームの薬物送達は、ウィルス型送達、および生体適合性が非常に高く、毒性が低く、副作用がほとんどいなどの他の方法にもまして、利点がある。その上、治療目的で核酸物質をリポソームに添加することが、リポソーム並びにDNAに構造変化を引き起こす場合がある。そのような構造変化に関連する利点としては、当該DNA分子が細胞外および細胞内消化から部分的に保護される構造をとることがある。このように、リポソームは封入された核酸に、標的化および保護機構を提供する。
【0050】
本発明には、放射線感受性リポソームおよび放出物質を含有し、リポソームに連結された少なくとも1つのペプチドを介して、腫瘍部位に標的化できる、リポソーム送達体がさらに考えられる。リポソームには、リポソーム膜中に重合可能な共脂質(群)を含み、そのフラクションは電離放射線に曝露することで重合化し、それによりリポソーム膜を不安定にする。これにより、リポソーム内容物が漏出することになる。リポソーム(群)を腫瘍部位に標的化するペプチドには、ペプチド配列、ペプチド断片、抗体、抗体断片および抗原が含まれる。腫瘍細胞に特異的な抗体を、リポソームに連結することができ、それにより選択的な標的化が可能となる。そのような抗体は、腫瘍細胞上の抗原に選択的に結合し、それによりリポソームが腫瘍組織または悪性組織に近接する。抗体が腫瘍抗原に結合することにより、リポソームを腫瘍組織に連結できる。その後、電離放射線により、リポソーム内容物、例えば抗腫瘍物質の放出を引き起こすことができる。特定の抗原もまた、リポソームに結合させることができる。当該抗原は、連結されたリポソームを、主要部位付近に局在化している抗体に、結びつける。選択的に受容体に結合する、特定のペプチド配列(例えば、エピトープ)もまた、リポソームに連結することができる、ここで、ペプチド配列は幾つでも結合させることができる。ペプチド配列は、特定の組織に対してリポソームを標的化できる。リポソームを腫瘍組織に対して特異的に標的化させるのに、1つまたはそれ以上のペプチドを用いることができる。リポソームの表面に幾つかの標的化ペプチドを導入することによる利点の1つとしては、単一のペプチドに対する標的化親和力が低い場合であっても、リポソームに複数のペプチドを組み込むことは、それらのペプチドが腫瘍組織上の受容体に選択的に結合するする可能性を全体的に増大し得る。
【0051】
c)放射線感受性リポソームの製造
本発明のその他の態様において、重合可能な共脂質(群)を含む、放射線感受性リポソームを産生する方法が提供される。本方法には、リポソームを構成する脂質を乾燥させ、所望のモル比で封入または会合される物質を含む緩衝液を用いて脂質を水和し、水和二重層を形成させ、その二重層をリポソームに変換し、そして、そのリポソームを精製することが含まれる。封入または会合される物質には、治療物質および診断物質が含まれるが、これらに制限されない。
【0052】
リポソームを構成する脂質は、酸素不含雰囲気下で乾燥させることができ、次いで、減圧下で乾燥し、そして重量を測定する。所望のモル比にて脂質を、封入または会合される物質を含む緩衝液を用いて、水和させる。その後、超音波ソニック、凍結融解および押出法、または従来から用いられている他のリポソーム製造方法によって、この水和二重層を、リポソームに変換することができる。幾つかの場合において、pH勾配を用い、ドキソルビシンなどの弱塩基を、リポソーム中に導入することによって、治療物質と共にリポソームを荷電することが望ましい。リポソームは、等張性緩衝液を用いるゲル透過クロマトグラフィーなどにより溶出し、封入または会合されていない物質を除去することによって、精製することができる。他の精製方法を、同様に用いることができる。リポソームの大きさの分布は、動的光散乱により測定することができる。リポソームは、また、電子顕微鏡法により映像化することもできる。リポソームは通常、直径100±10nmであるが、小さいもので直径25nm程、そして大きいもので直径500nm程の場合もある(以下を参照のこと)。
【0053】
二重層の特徴における重合化の効果は、重合可能な共脂質の設計上の特徴、即ち、用いられる反応基の位置、反応基の性質、および重合化のタイプの結果である。種々の反応性部分を用いて、脂質を改変し、重合化を起こさせることができる。これらの基には、ジアセチレニル、アクリロイル、メタクリロイル、ジエノイル、ジエニル、ソルビル、ムコニル、スチリル、ビニル、リポイルなどが含まれる(図2、3および4を参照のこと)。幾つかのポリマー鎖から成る構造になる、幾千の脂質分子の自己形成型配列における、これら反応性脂質の重合化は、重合型リポソーム形成と称される。重合化二重層膜の形成について、最も成功したストラテジーは、重合可能な脂質単量体を調製し、その単量体から、他の脂質を用いるか、あるいは用いずに脂質二重層を形成し、続いて、その集合体における単量体を、連鎖重合化するものである。
【0054】
d)放射線感受性リポソームの扱い
1つの態様について、本発明は、リポソーム封入または会合された治療物質に対して応答する状態を処置する方法であって、(i)リポソーム送達体、および治療物質などの放出物質(ここに、放出物質はリポソーム内に封入されるか、あるいはリポソームと共に会合されている)、および製薬的に許容される担体または希釈剤を含む医薬組成物を、患者に投与し、そして(ii)該リポソームを不安定化し、リポソーム内に封入されているか、あるいはリポソームと共に会合されている治療物質を放出させるために、該患者を放射線に曝す過程を含む方法を提供する。1つの態様において、放射線量の範囲は、約5〜約500ラドである。好ましい態様について、放射線量の範囲は、約50〜約250ラドである。リポソーム封入されているか、あるいは会合されている治療物質(群)に応答する状態の例としては、癌、免疫不全、発達傷害および遺伝性疾患が挙げられるが、これらに制限されない。治療物質の例としては、化学療法物質、生物反応修飾物質、生物学的共同因子、医薬物質および放射性医薬物質、細胞毒、放射線増感剤および遺伝物質があるが、これらに制限されない。化学療法物質の例としては、ナイトロジェンマスタード(例えば、クロラムブシル、エストラムスチン、メクロメタミン、メルファランなど)などのアルキル化剤;チオテパなどのエチルエニミン(ethylenimine)誘導体;ブスルファンなどのスルホン酸アルキル;カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、メチル−CCNUおよびストレプトゾシンなどのニトロソ尿素化合物;ダカルバジンなどのトリアジン;シスプラチンおよびカルボプラチンなどの金属塩;代謝拮抗物質;メトトレクセイトなどの葉酸類似物質;5−フルオロウラシルおよびフロキシウリジンなどのピリミジン類似物質;6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、デオキシコアホルマイシン(deoxycorformycin)、およびフルダラビン(fludarabine)などのプリン類似物質;ビンカアルカロイド(例えば、ビンブラスチンおよびビンクリスチン)などの天然物;エトポシドおよびテニポシドなどのポドフィルム誘導体;ブレオマイシン、ダクチノマイシン、ドキソルビシン、ミトラマイシン、ミトマイシン、ミトキサントロンなどの抗生物物質;ホルモンおよびホルモン拮抗剤;ハロテスチン(halotestin)、テストラクトンなどのアンドロゲン;プレドニソンおよびデキサメタゾンなどの副腎皮質ホルモン;デチルスチルベストロールなどのエストロゲン;酢酸メゲスチロールおよび酢酸メドロキシプロゲステロンなどのプロゲスチン;タモキシフェンおよびタクソールなどのエストロゲン拮抗物質;フルタミド(flutamide)などのアンドロゲン拮抗物質;ロイプロリドおよびゴセレリンなどのLHRH;ヒドロキシ尿素などの置換尿素;プロカルバジンなどのメチルヒドラジン誘導体;ミトタンなどの副腎比脂質性抑止物質;アミノグルテチシドなどのステロイド合成阻害物質;および、アルトレタミン(altretamine) などの置換メラミンが挙げられるが、これらに制限されない。生物反応修飾物質の例としては、インターフェロンαおよびインターフェロンγなどのインターフェロン;IL−2などのインターロイキン;および腫瘍壊死因子が挙げられるが、これらに制限されない。放射性医薬物質の例としては、メタ−ヨードベンジルグアニジン(MIBG)および111In−標的化ソマトスタチン類似物質[ジエチルエネトリアミンペンタ酢酸(DTPA)−DPhe1]−オクトレオチドが挙げられるが、これらに制限されない。細胞毒の例としては、チラパザミン(tirapazamine)などが挙げられるが、これらに制限されない。放射線増感剤の例としては、ミソニダゾール、エタニダゾール、メトロニダゾールおよびニモラゾールなどのニトロイミダゾール;ドセタキセル(docetaxel)、パクリタキセル(paclitaxel)、ヨードキシウリジン、フルダラビン、ジェムシタビン(gemcitabine)およびタキサンが挙げられるが、これらに制限されない。遺伝物質の例としては、染色体(群)、DNA、cDNA、ゲノムDNA、mRNA、ポリヌクレオチド(群)、オリゴヌクレオチド(群)、核酸(群)、任意の人工DNA配列およびRNA配列、並びにセンスおよびアンチセンス核酸(群)が挙げられるが、これらに制限されない。本発明のリポソームにより、治療物質を体内の特定の部位に運搬することができる。例えば、本リポソームは、抗癌薬物または他の物質を、腫瘍部位に選択に局在化させることによって、毒性を著しく減少させるとともに、高レベルの薬物を腫瘍に運搬できるために、治療活性をさらに向上させることができる。
【0055】
癌処置における電離放射線の使用は、それ自体が診療上の専門分野、放射線腫瘍学を発生させた。さらに、電離放射線の使用は、外科、放射線および化学治療など、三つの癌処置の重要な要素となる。臨床上、電離放射線は広く用いられ、本方法は非常に高性能である。非常に限られた領域に、より強い同種の線量を照射するこができる。癌治療において、放射線および外科は、疾病の局所的な制御を行なうのに最初に用いられるのに対して、化学療法は散在する疾病を扱うことができる。しかし、向上した局所的制御のみによっても、臨床転帰に有意に効果があるであろう。侵襲性癌の非常に多くは、初期の診断において局所的に限定できる。それ故に、初期腫瘍を制御するのに失敗することで、転移速度の増加および転移部位数の増加の結果となる。このように、より効果のある局所的制御を提供する、放射線および外科の改良は、多種多様な固形腫瘍を患っている患者に対する、臨床転帰に非常に影響があろう。立体的に安定化したリポソームは、循環中に存在する期間を長期化し、腫瘍部位に蓄積することができる。その結果、電磁放射線と組合せ、その部位において物質を放出するようにすることは、局所的腫瘍制御について非常に利点がある。そのため、電離放射線リポソームの使用は、疾病処置の大きな展望を含んでいる。
【0056】
e)診断物質としての放射線感受性リポソーム
その他の態様について、本発明は、疾病の存在または進行を診断する方法であって、(i)リポソーム送達体、および診断物質などの放出物質(ここに、診断物質はリポソーム内に封入されるか、あるいはリポソームと共に会合されている)、および製薬的に許容される担体または希釈剤を含む医薬組成物を患者に投与し、(ii)該リポソームを不安定化し、リポソーム内に封入されるか、あるいはリポソームと共に会合されている診断物質を放出させるために、該患者を放射線に曝し、そして(iii)分子映像化技術を用いて疾病を診断する過程を含む方法を提供する。1つの態様において、放射線量の範囲は、約5〜約500ラドである。好ましい態様について、放射線量の範囲は、約50〜約250ラドである。診断物質の例としては、コントラスト物質、ヨウ化物質、放射性医薬物質、抗体、蛍光化合物、および消光物質と共に封入された蛍光化合物、MRS/MRI感受性核種を含む物質、およびコントラスト物質をコードする遺伝物質などが挙げられるが、これらに制限されない。コントラスト物質の例としては、ガドリニウム−ジエチレントリアミン5酢酸(GdDTPA;Magnavist)、別名、ガドペンテテートジメグルミン(gadopentetate dimeglumine)、ガドテリドール(ProHance)、ガドジアミド、ガドテレート(gadoterate)メグルミン、ガドネナート(gadobenate)ジメグルミン(Gd-BOPTA/Dimeg;MultiHance)、マンガホジパイアー3ナトリウム(mangafodipir trisodium)(Mn-DPDP)、フェルモキシド(ferumoxides)、ドキソルビシンの正磁性類似物質およびルボキシル(ruboxyl)(Rb)などが挙げられるが、これらに制限されない。ヨウ化物質の例としては、ジアトリゾアート(3,5−ジ(アセトアミド)−2,4,6−トリヨード安息香酸)、ヨージパミド(3,3'−アジポイル−ジイミノ−ジ(2,4,6−トリヨード安息香酸)、アセトリゾアート(acetrizoate)[3−アセチルアミノ−2,4,6トリヨード安息香酸]、アミノトリゾアート[3−アミノ−2,4,6−トリヨード安息香酸])、およびイオメプロール(iomeprol)などが挙げられるが、これらに制限されない。放射性医薬物質に例としては、フッ素−18フルオロでオキシグルコース([18F]FDG)、Tc−99mデプレオチド(Depreotide)、炭素−11 ヒドロキシエフェドリン(HED)、[18F]セトペロン(setoperone)、[メチル−11C]チミジン、99mTc−ヘキサメチルプロピレンアミノオキシム(HMPAO)、99mTc−L,L−エチルシステイナートダイマー(ECD)、99mTc−セスタミビ(sestamibi)、タリウム201、I−131メタヨードベンジルグアニジン(MIBG)、123I−N−イソプロピル−p−ヨードアンフェタミン(IMP)、99mTc−ヘキサキス−2−メトキシイソブチルイソニトリル(MIBI)、99mTc−テトロフォスミン(tetrofosmin)などが挙げられるが、これらに制限されない。MRS/MRI感受性核種を含む物質の例としては、ペルフルオロカーボンおよびフルオロデオキシグルコースなどが挙げられるが、これらに制限されない。コントラスト物質をコードする遺伝物質の例としては、フェレドキシンなどの常磁性レポーター遺伝子;PEGに付加した常磁性キレート基などのリポソーム脂質における常磁性タグ(群);検出用プローブ;およびルシフェリン/ルシフェラーゼレポーター体などが挙げられるが、これらに制限されない。分子映像化技術の例としては、核磁気共鳴(NMR)、磁気共鳴分光法/磁気共鳴影像法(MRS/MRI)、X線/コンピューター軸性断層撮影法(CT)、陽子射出断層撮影法(PET)、単光子放出コンピューター断層撮影法(SPECT)、超音波および光学基底映像化技術が挙げられるが、これらに制限されない。リポソーム封入または会合された診断物質を介して診断することができる状態の例としては、癌、免疫不全、発達傷害および遺伝性疾患が挙げられるが、これらに制限されない。本発明のリポソームは、診断物質を体内の特定の部位に運搬することができる。例えば、リポソームは、腫瘍部位に診断物質を選択的に局在化することによって、種々の悪性腫瘍を検出し、診断することができるようになる。リポソームは、抗体、抗体断片、抗原、ペプチド配列、ペプチド断片などの連結を介して腫瘍部位に標的化できる。例えば、特定のエピトープが連結されたリポソームは、腫瘍に対して標的化できる(上記)。エピトープが腫瘍組織の受容体に結合した後、リポソームを不安定化し、診断内容物を放出させる。その後、分子映像化技術を用い、リポソームから放出された診断物質をスキャンし、記録することができる。これにより、腫瘍および他の悪性腫瘍を早期に検出できるようになる。あるいは、放射線感受性リポソームを色素、蛍光分子、放射性同位体などを用いて、染色することができる。ひとたびリポソームが腫瘍部位に到着すれば、そのリポソームを不安定化し、腫瘍の侵襲度を測定するのに用いることができる、診断内容物を放出させる。
【実施例】
【0057】
f)実施例
以下の実施例は、本発明を例示するものであり、請求の範囲を制限するものとして捉えるべきではない。本実施例は、リポソームを不安定化することについての詳しい説明、および用いた方法の幾つかを例示する。
【0058】
I.放射線感受性リポソーム
1.1 方法
1.1.1 材料
我々が公表していた方法(Lamparski等, Biochemistry 1992, 31:685-694;Sells等, Macromolecules 1994, 27:226-233; Lamparski等, Macromolecules 1995, 28:1786-1794)に基づき、重合可能な脂質を合成した。脂質構造は、H−NMR、13C−NMR、および質量分析によって決定した。クロモホルム/メタノール/水(65:25:4/量)および種々の走査型熱量測定法を用いる薄層クロマトグラフィーにより、精製を行なった(Lamparski等, J. Am. Chem. Soc. 1993, 115:8096-8102)。純粋な脂質を0.35〜0.40のRf内の単一スポットに溶出し、鋭く、高い、協働的で主な相転移温度を示した。重合可能な脂質の保存ベンゼン溶液(およそ20mg/ml)を非晶質アイスとして−40℃にて貯蔵した。1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン(DOPC)およびジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン(DSPC)をCHCl3中、20mg/ml溶液として購入した(Avanti Polar Lipids, Inc.)。緩衝液およびEDTAを緩衝液調製用に購入(Sigma-Aldrich, Inc.)し、標準として用いた。全ての緩衝溶液は、Milli−Q水(Millipore, Inc.)を用いて、調製した。8−アミノナフタレン−1,3,6−トリスルホン酸ナトリウム塩(ANTS)およびp−キシレンビスピリジニウムブロミド(DPX)を、溶液として購入(Molecular Probes, Inc.)し、−20℃にて貯蔵した。
【0059】
1.1.2 リポソームの調製
リポソーム調製に用いた脂質をそれぞれ、アルゴン気流下で乾燥させ、次いで、2時間以上、減圧下で乾燥させた(即ち、減圧乾燥)後、重量を測定した。この方法により、溶媒を除去し、乾燥した、薄層脂質フィルムを得た。この脂質フィルムを、水性緩衝液を加え、そして、主要な相転移温度より高い温度でボルテックス混合し、フラスコの壁から該フィルムを消失させることにより水和した。封入される物質を含ませ、所望のモル比にて脂質を水和した。この水和した二重層を、以下の手順:脂質を十分に水和させ、広域な二重層中に存在することを保証するために、溶液ビンを−78℃の乾燥、冷却/イソプロパノール浴槽中に浸して凍結し、次いで、37℃浴槽中にて融解することから成る、凍結/融解サイクルを10回行なうことにより、リポソームに変換した。この脂質二重層を37℃で、ステンレス押出器具(Lipex Biomembranes, Inc.)を用い、2段重ねの孔の大きさ100nmの核孔等級ポリカルボネートフィルターを通じて押し出すことにより、限定された大きさのリポソームに変換した。このリポソームを、等張性緩衝液を用いるゲル透過クロマトグラフィーカラムにより溶出し、封入または会合されていない物質を除去して精製した。リポソームの大きさの分布を、動的光散乱によって測定した。種々のフィッティング法、即ち、単一指数(single exponential)サンプリング、非ネガティブ制約付き(non-negatively constrained)最小二乗法、および以前に公開されたCONTIN(Koelchens等, Chem. Phys. Lipids 1993, 65:1-10)を用いる、多角動的レーザー光散乱により、角度90°−、60°−および120°から得られたデータを分析することで、小胞直径の分布を得た。リポソームは、直径100±10nmであった。
【0060】
1.2 結果
ビス−ソルブPC(1;図5)、ビス−デンPC(2;図5)、またはビス−アクリルPC(3;図5)のいずれかから構成されるリポソームの電離放射線に対する相対感度を調べた。この重合可能な共脂質は、重合化の初速度、重合化の範囲および酸素による阻害を制御する、種々の反応性を有している。水と電離放射線の相互作用により、ラジカル連鎖重合を開始することができる、ラジカル種が産生される。アクリロイルのラジカル重合化は、成長ラジカルの安定性がほとんどないために、ジエノイルおよびソルビルエステルなどの単量体を含むジエンよりも、一般に早い速度で生じる(Odian, G., 重合化の原理, 1991, John Wiley & Sons, New York)。
【0061】
単量体吸収強度の喪失によって、ビス−ソルブPC、ビス−デンPCまたはビス−アクリルPCのいずれかから成るリポソームの重合化(Rp)を開始する電離放射線度を決定した。リポソーム試料における最大線量は、2.1×104ラド/hであった。この強度は、望むなら弱めることができる。ビス−ソルブPCおよびビス−デンPCの重合化を開始させる電離放射線は、ビス−アクリルPCの重合化は酸素により阻害されるために、水性緩衝液中の溶存酸素の存在に対して、相対的に非感受性であった。120分の最大線量での照射の後でさえ、単量体濃縮において変化はなかった。アクリロイル官能性のラジカル重合化は、伝搬種の高エネルギーのために、酸素に対して非常に感受的である。対照的に、ビス−アクリルPCリポソーム懸濁液の酸素を排除すれば、単量体は数分でポリマーに変換されるだろう。水中(酸素存在または不存在)のビス−ソルブPCリポソームのRpは、ビス−デンPCリポソームのRpの約2倍であった。ビス−アクリルPC(酸素不存在)から成るリポソームは、ビス−ソルブPCリポソームより反応性が、約10倍大きかった。この結果は、熱発動因子由来のラジカルの発生を介する単量体の重合化について得られたものと類似する。
【0062】
我々は、ビス−ソルブPCおよびビス−アクリルPCの重合化の範囲は、電離放射線に対する照射が連続的であるか、不連続であるかに依存しないことを示した。リポソーム試料の放射線照射についての通常の実験方法では、全ての時点において試料を同時に照射するために、不連続な照射が利用された。従って、線源を試料に照射してすぐに、スイッチを切り、それぞれの時点で試料を回収した。幾つかの実験において、試料を連続的に照射した。単量体存在の喪失は、全照射量に依存するが、照射が連続的か、または中断して行なわれたか否かについては、非感受性であった。
【0063】
II. PEG−リポソームの不安定化についての引き金としての電離放射線
相対的に少ない電離放射線量、即ち、治療線量に相当する線量が、PEG−リポソームを不安定化するのに有効であるかどうかを決定するために、リポソームを水溶性蛍光マーカーを封入させて調製した。そして、このマーカーの放出を、電離放射線線量の作用のように決定した。以下の実施例にて、50ラドほどの低い線量が、PEG−リポソームから水溶性マーカーの放出を引き起こすことができることを、実証する。
【0064】
2.1 方法
2.1.1 リポソーム調製
用いた重合可能な共脂質、およびリポソームの調製は、全て、セクション1(上記)に記載の通りである。
【0065】
2.1.2 リポソームの放射線照射
調製し、カラムクロマトグラフィーにより精製した後、ANTSおよびその衝突消光剤DPXを封入したリポソームを、コバルト−60遠隔治療単位(Arizona Cancer Center Experimental Radiation Facility)を用いて、放射線照射した。放射線照射は、0〜1000ラドの範囲の線量にて行なった。漏出は、0〜36時間の範囲の時点で評価した。
【0066】
2.1.3 リポソームの不安定化
リポソーム内容物の放射線照射誘導性放出を、ANTSとDPX(ANTS蛍光の衝突消光剤)が放出され、バルク水性相中にて希釈される際の、ANTS蛍光の脱消光(dequenching)によって監視した(Bennett等, Biochemistry 1995, 34:3102-3113; Ellens等, Biochemistry 1985, 24:3099-3106)。リポソーム集団は、2つの緩衝液:緩衝液1:25mM ANTS、63mM NaCl、10mM グリシン、pH 9.5、230mOs、緩衝液2:90mM DPX、10mM グリシン、pH 9.5、230mOsの等量中にて、調製することにより、ANTSおよびDPXを封入した。
【0067】
高分解セファクリルS−300ゲルでパックしたSECカラムに、懸濁液を通じることにより、リポソームから封入されなかったANTS/DPXを分離した。漏出は360nmにおける励起、および520nmにおいて観察される発光を伴う、時間に対する蛍光脱消光により観察した。試料細胞ホルダーを、適当な温度にサーモスタットで調節し、その試料を連続的に攪拌した。過剰量のトリトンX−100を用いてリポソームを溶出することにより、100%の漏出値を得た。蛍光スキャンに基づく時間を、次の方程式:
100×It−bI0/Itriton−bI0
(ここに、Itは時間(t)ごとの蛍光強度を意味し、I0は初期蛍光値であり、Itritonは、濃度変化に対して補正した小胞のトリトン溶解による100%漏出後の相対蛍光であり、そして、bは、実験中の蛍光染色、ANTSの電離放射線が原因の、任意の漂白化に対して補正した漂白因子である)を用いる、時間(秒)プロットに対する漏出%に変換した。
【0068】
2.2 結果
重合可能なPEG−リポソームにおける電離放射線の効果を評価するために、種々のリポソーム成分を調製した。PEG−リポソーム成分の調製に用いた脂質の割合は、次の通りである:
成分1:PEG2000−ジオレオイルPE、コレステロール、ジオレオイルPC、およびビス−ソルブPC17,17(モル比:15/40/20/30)
成分2:PEG2000−ジオレオイルPE、コレステロール、ジオレオイルPC、およびビス−ソルブPC17,17(モル比:15/40/20/30)。
【0069】
成分1から調製したリポソームについて、有意な放出が、低い線量250ラド程において観察された。増大した放出が、〜2500ラドまでの増大した線量を用いてもまた観察された。成分2から調製したリポソームについて、有意な放出が低い線量50ラド程において観察された。増大した放出が、200〜250ラドまでの増大した線量を用いて見られた。250ラドより大きい放射線線量は、放出をほとんど見られないか、または有意な増大を示さなかった。実験した線量全てにおいて、放出の有意な増加は、時間に対しては観察されなかった。
【0070】
さらに、リポソーム内容物の放出を試験するために用いたPEG−リポソーム成分は、次の通りである:
成分3:PEG2000−ジオレオイルPE、ジオレオイルPC、およびビス−ソルブPC17,17(モル比:5/75/20)
成分4:PEG2000−ジオレオイルPE、コレステロール、ジオレオイルPC、およびビス−ソルブPC17,17(モル比:15/35/18/31)
成分5:PEG2000−ジオレオイルPE、コレステロール、ジオレオイルPC、およびビス−ソルブPC17,17(モル比:16/35/20/28)
成分6:PEG2000−ジオレオイルPE、コレステロール、ジオレオイルPC、およびビス−ソルブPC17,17(モル比:15/35/20/30)
成分7:PEG2000−ジオレオイルPE、コレステロール、ジオレオイルPC、およびビス−ソルブPC17,17(モル比:15/34/21/30)。
【0071】
最新の癌治療において与えられる臨床線量は、2Gy(200ラド)が典型的であり、これらの実験により、癌の処置について、放射線照射誘導性リポソームの不安定化が、潜在的な臨床有用性を明確に実証する。これらは、リポソームの正確な脂質成分の調整が、特定の必要物に接触するための目的に合う放出、即ち、最小の放射線照射を用いた有意な放出、または放射線照射後の時間における増大した放出ができるようになることも、また示す。このデータは、有意な放出を非顕性線量において実施できることを示しており、他の非癌性症状を処置するためのリポソーム放出の引き金として、電離放射線が潜在的に使用できることを示す。
【0072】
III.電離放射線誘導したドキソルビシンの放出
放射線感受性リポソームから封入された物質の放出を、さらに調査するために、我々は、ドキソルビシン放出を測定する、実験をさらに構築した。100〜200ラドがPEG−リポソームから封入されたドキソルビシンの有意な漏出を引き起こすのに必要であることを、我々は実験により示した。従って、以下の実施例にて実施すように、我々は、低い線量100〜200ラドでさえ、PEG−リポソームから封入された物質の放出を引き起こすことができることを示す。
【0073】
3.1 方法
3.1.1 リポソーム調製
本実験において用いたPEG−リポソーム成分の調製に用いた脂質の割合は、以下の通りである:
成分8:PEG2000−ジオレオイルPE、コレステロール、ジオレオイルPC、およびビス−ソルブPC17,17(モル比:4/34/42/20)。
【0074】
このリポソームを、120mM(NH4)2SO4(MilliQ水中、pH 7.0)を用いて水和した。この試料を、乾燥冷却/イソプロパノールおよび60℃において、凍結/融解を10回行なった。その後、この試料を、最小の管孔、直径100nmを用いて、大きさの減少する一連の核孔フィルターを通じて、2回抽出した。そのリポソームを一晩中、冷凍室において保存した。翌日、SephadexG−75カラムにおいて、水性NaCl(pH 7.0、270mOs=等浸透圧)で交換することにより、硫酸アンモニウムをリポソームの外側から除去した。そのカラム由来のフラクションの総リポソーム濃度は、2.77mMであった。
【0075】
ドキソルビシン(MilliQ中、0.5mM、10mg/ml)を添加し、30℃にて、15分間、リポソーム試料と共にインキュベートした。この試料を2〜3分間、氷上に置いた後、5分間平衡化し、次いで、次のカラムを行なった。このSephadexG−75カラムにより、PEG−リポソームの外部からドキソルビシンを、水性NaCl(pH 7.0、270mOsm=等浸透圧)を用いて交換した。この集めたリポソームを用いて、電離放射線に対する感受性を決定した。
【0076】
3.2 結果
放射線照射誘導したドキソルビシン放出は、それぞれの試料の増大した蛍光により、決定した(3回)。100ラドを照射した結果、50%のドキソルビシンが放出した。200ラドを照射した場合、90%のドキソルビシンが放出した、このように、100〜200ラドのような低い線量により、放射線感受性リポソームからの、封入された治療物質の放出を引き起こすことができる。
【0077】
本発明の範囲および意図を逸脱することなく、本発明の種々の改変および変更することは、当業者には明らかであろう。本発明を特に好ましい態様に関連して記載するが、請求する本発明を、そのような特定の実施例に不当に制限すべきではない。実際に、本発明を実施するために記載した方法の種々の改変は、当業者に明らかであり、本請求の範囲の範囲内に含まれる。
【0078】
好ましい態様を例示する役割を果たす、添付図を併せて読むことにより、本発明を最も理解できる。しかし、本発明が、該図面に開示した特定の態様に制限されないことは理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定なリポソーム形成脂質、および重合可能な共脂質を含むリポソーム送達体であって、該重合可能な共脂質のフラクションは電離放射線に曝露することで重合化し、それによりリポソーム膜を不安定にする、該リポソーム送達体。
【請求項2】
該重合可能な共脂質が、リポソーム内において分離したドメインを形成する、請求項1に記載のリポソーム。
【請求項3】
該重合可能な共脂質が、リポソーム全体に不規則に分布している、請求項1に記載のリポソーム。
【請求項4】
該重合可能な共脂質を約5%〜約40%含む、請求項1に記載のリポソーム。
【請求項5】
該リポソームがさらに立体安定剤を含む、請求項1に記載のリポソーム。
【請求項6】
該立体安定剤を約2%〜約20%含む、請求項5に記載のリポソーム。
【請求項7】
該重合可能な共脂質を約5%〜約40%含み、該立体安定剤を約2%〜約20%含む、請求項5に記載のリポソーム。
【請求項8】
該立体安定剤がポリ(エチレングリコール)である、請求項5に記載のリポソーム。
【請求項9】
該重合可能な共脂質が、モノ−、ビス−およびヘテロ二機能性の、ジアセチルエニル、アクリロイル、メタクリロイル、ジエノイル、ジエニル、ソルビル、ムコニル、スチリル、ビニルおよびリポイル共脂質から成る群から選択される、請求項1に記載のリポソーム。
【請求項10】
さらに放出物質を含む、請求項1に記載のリポソーム送達体。
【請求項11】
該重合可能な共脂質を約5%〜約40%含む、請求項10に記載のリポソーム。
【請求項12】
該リポソームがさらに立体安定剤を含む、請求項10に記載のリポソーム。
【請求項13】
該立体安定剤を約2%〜約20%含む、請求項12に記載のリポソーム。
【請求項14】
該重合可能な共脂質を約5%〜約40%含み、該立体安定剤を約2%〜約20%含む、請求項12に記載のリポソーム。
【請求項15】
該立体安定剤がポリ(エチレングリコール)である、請求項12に記載のリポソーム。
【請求項16】
該重合可能な共脂質がモノ−、ビス−およびヘテロ二機能性の、ジアセチルエニル、アクリロイル、メタクリロイル、ジエノイル、ジエニル、ソルビル、ムコニル、スチリル、ビニルおよびリポイル共脂質から成る群から選択される、請求項10に記載のリポソーム。
【請求項17】
該放出物質が水溶性分子である、請求項10に記載のリポソーム。
【請求項18】
該放出物質が脂質会合分子である、請求項10に記載のリポソーム。
【請求項19】
請求項10に記載のリポソームを含む医薬組成物であって、該放出物質が、リポソーム内に封入されるか、あるいはリポソームと共に会合されている治療物質、および製薬的に許容される担体または希釈剤である組成物。
【請求項20】
リポソーム封入または会合された治療物質に対して応答する状態を処置する方法であって、(i)患者に請求項19に記載の組成物を投与し、(ii)該リポソームを不安定化し、リポソーム内に封入されるか、あるいはリポソームと共に会合されている治療物質を放出させるために、患者を放射線に曝す過程を含む方法。
【請求項21】
該放射線の範囲が、約5〜約500ラドである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
該放射線の範囲が、約50〜約250ラドである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
請求項10に記載のリポソームを含む医薬組成物であって、該放出物質が、リポソーム内に封入されるか、あるいはリポソームと共に会合されている診断物質、および製薬的に許容される担体または希釈剤である組成物。
【請求項24】
疾病の存在または進行を診断する方法であって、(i)患者に請求項23に記載の組成物を投与し、(ii)該リポソームを不安定化し、リポソーム内に封入されるか、あるいはリポソームと共に会合されている診断物質を放出させるために、患者を電離放射線に曝し、そして(iii)分子映像化技術を用いることにより、該疾病を診断する過程を含む方法。
【請求項25】
該放射線の範囲が、約5〜約500ラドである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
該放射線の範囲が、約50〜約250ラドである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
請求項10に記載の放射線感受性リポソームを製造する方法であって、(i)該リポソームを構成する脂質を乾燥させ、(ii)所望のモル比にて封入または会合される物質を含む、緩衝液を用いて該脂質を水和し、水和二重層を作り出し、(iii)該二重層をリポソームに変換し、そして(iv)該リポソームを精製する過程を含む方法。
【請求項28】
該脂質を酸素不含ガスの気流下で乾燥させる、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
封入または会合される該物質が、治療物質または診断物質である、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
超音波ソニックまたは凍結−融解−押出によって、該二重層をリポソームに変換する、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
該リポソームをゲル透過クロマトグラフィーによって精製する、請求項27に記載の方法。
【請求項32】
請求項10に記載のリポソームに、少なくとも1つの標的ペプチドを連結することにより、腫瘍部分に標的化できる、放射線感受性リポソーム。
【請求項33】
該ペプチドが、抗体、抗体断片および抗原から成る群から選択される、請求項32に記載の放射線感受性リポソーム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−173896(P2011−173896A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−83861(P2011−83861)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【分割の表示】特願2001−541477(P2001−541477)の分割
【原出願日】平成12年11月30日(2000.11.30)
【出願人】(500210464)ジ・アリゾナ・ボード・オブ・リージェンツ・オン・ビハーフ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・アリゾナ (1)
【出願人】(591030673)バリアン・メディカル・システムズ・インコーポレイテッド (12)
【Fターム(参考)】