説明

放射線撮影装置および画像処理方法

【課題】暗部と明部とが同時に写り込んだ画像について視認性の優れた画像処理を施すことができる放射線撮影装置および画像処理方法を提供する。
【解決手段】本発明によれば、元画像P0のコントラストを調整することができるようになっている。元画像P0全体に一様のコントラスト調整を行うのでは、元画像P0の一部においてノイズ成分を増強させてしまう。そこで、元画像P0の低線量部分についてより弱くコントラスト調整を行うようする。この様にすれば、元画像P0のコントラストを調整した際に、低線量部分でノイズ成分が強調されないので、画像の視認性が悪化することがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体に放射線を照射することで画像を取得する放射線撮影装置および画像処理方法に係り、特に画像の輝度調整を行うことができる放射線撮影装置および画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療機関には、放射線で被検体Mの画像を取得する放射線撮影装置が備えられている。この様な放射線撮影装置は、被検体を載置する天板と、放射線を照射する放射線源と、放射線を検出する放射線検出器とを備えている(特許文献1参照)。放射線検出器から出力された検出信号を基に被検体の透視像が写り込んだ画像が取得される。
【0003】
この様な放射線撮影装置において、取得された画像は、時として輝度が不適切で画質が優れていない場合がある。この様な場合に備えて、放射線撮影装置は、画像にコントラスト調整のような所定の処理を施すことができる画像処理部を備え、画像の輝度調整ができるようになっている。
【0004】
画像の輝度調整の方法について説明する。図6は、従来の画像処理の方法について説明する模式図である。放射線検出器から出力された検出信号を基に生成された画像を元画像P0と呼ぶことにする。元画像P0は、輝度調整が未だ行われておらず、視認性はよいものではない。
【0005】
元画像P0に輝度調整をするには、まず元画像P0を基に、帯域画像B1〜B3を生成する。帯域画像B1〜B3とは、元画像P0に属する特定の周波数のみを抜き出した画像である。最も高周波側の帯域画像B1は、元画像P0の細かい構造に関する部分のみを表した画像であり、最も低周波側の帯域画像B3は、元画像P0の全体に写り込んでいる大まかな構造に関する部分のみを表した画像となっている。
【0006】
帯域画像B1〜B3は、各々独立にコントラストの調整処理を受けて調整帯域画像C1〜C3のそれぞれに変換される。このように、従来の画像処理方法においては、元画像P0を周波数解析したときの帯域に応じて異なるコントラスト調整ができるようになっている。これにより、検査の目的に合わせて適切なコントラストの調整が可能となる。例えば、元画像P0の大まかな構造のみを強調したい場合は、帯域画像B3のコントラストを強調するような処理が行われて調整帯域画像C3が生成される。
【0007】
各調整帯域画像C1〜C3は、足し合わされて合計画像ΣCを生成する。
【0008】
ところで、合計画像ΣCには、暗部と明部とが共存している。そのため、合計画像ΣCにおける暗部または明部が視認しにくいがために、このままではあまり視認性の優れた画像となっていない。そこで、合計画像ΣCにおける各部のうち、暗部については特定の画像処理をするようにし、明部については、別の画像処理をするようにする。この様にすることで、部分的に暗さが異なる合計画像ΣCは、その暗さに応じて異なる画像処理を部分的に施される。この様にして、合計画像ΣCは、濃度変換画像Dに変換される。
【0009】
最後に、濃度変換画像Dは、元画像P0に重ねられる。こうして元画像P0の視認性を向上させた処理画像P1が生成される。処理画像P1は、元画像P0を周波数解析したときの帯域を考慮した画像処理と、元画像P0の部分的な輝度とを考慮した画像処理が2重に施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−114083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来の構成によれば次のような問題点がある。
すなわち、従来の放射線撮影装置によれば、元画像P0の暗部において、コントラスト強調処理によりノイズ成分が強調されてしまう。
【0012】
例えば図7に示すような元画像P0の視認性を改善しようとして従来の画像処理を施すものとする。図7におけるGは、元画像P0に写り込むガイドワイヤを示している。元画像P0におけるガイドワイヤ像Gを強調するのが画像処理の目的であるものとする。ガイドワイヤ像Gは、元画像P0における明部R1から暗部R2までの各部分を横切るように存しているとする。
【0013】
元画像P0を各帯域画像B1〜B3に分解すると、ガイドワイヤ像Gは元画像P0における細い糸のように写り込んでいるので、最高周波側の帯域画像B1に写り込んでいる。ここで、図7における元画像P0のガイドワイヤ像Gを横切る線分L1,L2を考える。線分L1は、元画像P0における明部R1に位置している線分で、線分L2は、元画像P0における暗部R2に位置している線分である。
【0014】
図8は、帯域画像B1における線分L1,L2上の画素値を表している。線分L1は、明部R1に属するので、総じて画素値は高く、ガイドワイヤ像Gの部分では、周辺と比べて画素値が暗いので、図8のL1の符号が付されたグラフにおいて凹みとなっている。また、線分L2は、暗部R2に属するので、画素値は低く、ガイドワイヤ像Gの部分では、周辺と比べて画素値が暗いので、図8のL2の符号が付されたグラフにおいては、L1の場合の同様に凹みとなっている。
【0015】
しかし、各線分に係るグラフ形を比較すると、線分L2のものの方が線分L1のものよりも多くのノイズ成分を含み、ガイドワイヤ像Gが写り込んでいない部分においても振幅が大きくなっていることが分かる。L2の符号が付されたグラフを一見してどの凹みがガイドワイヤ像Gによるものなのか判別することは難しい。
【0016】
ガイドワイヤ像Gを強調しようとして最高周波側の帯域画像B1のコントラスト処理を行うと、図9に示すように、ガイドワイヤ像Gのみならずノイズ成分も強調されてしまう。こうして、生成された処理画像P1は、図10に示すように、元画像P0における明部R1に対応する部分では、適切にガイドワイヤ像Gが強調されているものの、元画像P0における暗部R2に対応する部分では、元画像P0における暗部R2に含まれていたノイズ成分が強調されて、この部分に明るい点、暗い点が表れることになる。
【0017】
このように、従来の構成によれば、元画像P0におけるある構造物を強調しようとすると、これに伴って元画像P0の暗部R2におけるノイズが強調されてしまい、得られる処理画像P1の視認性が悪化してしまう。
【0018】
本発明は、この様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、暗部と明部とが同時に写り込んだ画像について視認性の優れた画像処理を施すことができる放射線撮影装置および画像処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は上述の課題を解決するために次のような構成をとる。
すなわち、本発明に係る放射線撮影装置は、放射線を照射する放射線源と、照射された放射線を検出する放射線検出手段と、放射線検出手段が出力する検出信号を元に透視画像を生成する画像生成手段と、画像生成手段が生成した透視画像にコントラスト調整を行うコントラスト調整手段とを備え、コントラスト調整手段は、透視画像における低い線量の放射線が写り込んでいる低線量部分について、透視画像における高い線量の放射線が写り込んでいる高線量部分よりも弱くコントラスト調整を行うことを特徴とするものである。
【0020】
また、本発明に係る画像処理方法は、被検体の透視像が写り込んだ透視画像を生成する撮影ステップと、透視画像にコントラスト調整を行うコントラスト調整ステップとを備え、コントラスト調整ステップにおいて、透視画像における低い線量の放射線が写り込んでいる低線量部分について、透視画像における高い線量の放射線が写り込んでいる高線量部分よりも弱くコントラスト調整が行われることを特徴とするものである。
【0021】
[作用・効果]本発明によれば、透視画像のコントラストを調整することができるようになっている。透視画像全体に一様のコントラスト調整を行うのでは、透視画像の一部においてノイズ成分を増強させてしまう。透視画像における低線量部分には多くのノイズ成分が含まれている事情を何ら考慮せずにコントラスト調整を行っているからである。本発明は、この様な事情に鑑みて、透視画像における低い線量の放射線が写り込んでいる低線量部分について、透視画像における高い線量の放射線が写り込んでいる高線量部分よりも弱くコントラスト調整を行うようにしている。この様にすれば、透視画像のコントラストを調整した際に、低線量部分でノイズ成分が強調されないので、画像の視認性が悪化することがない。
【0022】
また、上述の放射線撮影装置において、コントラスト調整手段におけるコントラスト調整は、透視画像における画素値の高い部分を高線量部分とし、透視画像における画素値の低い部分を低線量部分として行えばより望ましい。
【0023】
また、上述の画像処理方法において、コントラスト調整ステップにおけるコントラスト調整は、透視画像における画素値の高い部分を高線量部分とし、透視画像における画素値の低い部分を低線量部分として行われればより望ましい。
【0024】
[作用・効果]上述の構成は、本発明のより具体的な構成を示したものとなっている。透視画像における高線量部分は、被検体において放射線をあまり吸収しない部位であるので、画素値の高い部分となっており、透視画像における低線量部分は、被検体において放射線をよく吸収する部位であるので、画素値の低い部分となっている。したがって、透視画像をコントラスト調整するのに透視画像の画素値を用いることができるのである。
【0025】
また、上述の放射線撮影装置において、透視画像を構成する周波数成分を周波数の各帯域別に抽出して、複数枚の帯域画像を生成する帯域画像生成手段を更に備え、コントラスト調整手段は、各帯域画像にコントラスト調整を施すことで、透視画像のコントラスト調整を行えばより望ましい。
【0026】
また、上述の画像処理方法において、透視画像を構成する周波数成分を周波数の各帯域別に抽出して、複数枚の帯域画像を生成する帯域画像生成ステップを更に備え、コントラスト調整ステップにおいて、各帯域画像にコントラスト調整が施されることで、透視画像のコントラスト調整が行われればより望ましい。
【0027】
[作用・効果]上述の構成は、本発明のより具体的な構成を示したものとなっている。コントラスト調整を帯域画像の各々に対して独立に行うようにすれば、検査の目的に合わせて透視画像の大まかな構造を強調するようにすることもできるし、透視画像の細かな構造を強調するようにすることもできる。
【0028】
また、上述の放射線撮影装置において、コントラスト調整手段は、コントラスト調整の程度を画素値に応じて変化させながら透視画像のコントラスト調整を行えばより望ましい。
【0029】
また、上述の画像処理方法において、コントラスト調整ステップにおいて、コントラスト調整の程度を画素値に応じて変化させながら透視画像のコントラスト調整が行われればより望ましい。
【0030】
[作用・効果]上述の構成は、本発明のより具体的な構成を示したものとなっている。コントラスト調整の程度を画素値に応じて変化させながら透視画像のコントラスト調整を行うようにすれば、透視画像における画素値に応じて段階的にコントラスト調整に強弱が付けられることになるので、生成される処理画像が不自然とならず、視認性に優れたものとなる。
【0031】
また、上述の放射線撮影装置において、画像生成手段が生成する透視画像にはガイドワイヤが写り込んでいればより望ましい。
【0032】
また、上述の画像処理方法において、撮影ステップで生成される透視画像にはガイドワイヤが写り込んでいればより望ましい。
【0033】
[作用・効果]上述の構成は、本発明のより具体的な構成を示したものとなっている。本発明によれば、画像にガイドワイヤ像が写り込んでいる場合であっても、ガイドワイヤの視認性を低下させることなく、コントラスト調整をすることができる。すなわち、画像の高線量部分に写り込むガイドワイヤ像はコントラスト調整が強くかけられて、明確になる一方、画像の低線量部分に写り込むガイドワイヤは、コントラスト調整が強くかけられず、ガイドワイヤ像と関係のないノイズ成分が増幅される状況が避けられる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例1に係るX線撮影装置の構成を説明する機能ブロック図である。
【図2】実施例1に係るX線撮影装置の動作を説明するフローチャートである。
【図3】実施例1に係るX線撮影装置の動作を説明する模式図である。
【図4】実施例1に係るX線撮影装置の動作を説明する模式図である。
【図5】実施例1に係るX線撮影装置の動作を説明する模式図である。
【図6】従来構成のX線撮影装置の動作を説明する模式図である。
【図7】従来構成のX線撮影装置の問題点を説明する模式図である。
【図8】従来構成のX線撮影装置の問題点を説明する模式図である。
【図9】従来構成のX線撮影装置の問題点を説明する模式図である。
【図10】従来構成のX線撮影装置の問題点を説明する模式図である。
【実施例1】
【0035】
以降、本発明の実施例を説明する。実施例におけるX線は、本発明の放射線に相当する。また、FPDは、フラットパネル・ディテクタの略である。
【0036】
<X線撮影装置の全体構成>
まず、実施例1に係るX線撮影装置1の構成について説明する。X線撮影装置1は、図1に示すように被検体Mを載置する天板2と、天板2の上側に設けられたX線を照射するX線管3と、天板2の下側に設けられたX線を検出するFPD4とを備えている。X線管3は、本発明の放射線源に相当し、FPD4は、本発明の放射線検出手段に相当する。
【0037】
X線管制御部6は、所定の管電流、管電圧、パルス幅でX線管3を制御する目的で設けられている。FPD4は、X線管3から発せられ、被検体Mを透過したX線を検出して検出信号を生成する。この検出信号は、画像生成部11に送出され、そこで被検体Mの投影像が写り込んだ元画像P0が生成される。表示部25は、画像生成部11が出力した被検体Mの投影像を表示する目的で設けられている。元画像P0は、本発明の透視画像に相当し、画像生成部11は、本発明の画像生成手段に相当する。
【0038】
帯域画像生成部12は、元画像P0を構成する周波数成分を周波数の各帯域別に抽出して各帯域画像α,β,γ……を生成する目的で設けられている。コントラスト調整部13は、各帯域画像α,β,γ……にコントラスト調整を施すことで元画像P0のコントラスト調整を行う目的で設けられている。合計部14は、コントラスト調整された各帯域画像α,β,γ……を合計する目的で設けられている。重ね合わせ部15は、合計されたコントラスト調整済みの各帯域画像α,β,γ……を元画像P0に足し合わせる目的に設けられている。帯域画像生成部12は、本発明の帯域画像生成手段に相当し、コントラスト調整部13は、本発明のコントラスト調整手段に相当する。
【0039】
操作卓26は、術者によるX線照射開始などの指示を入力させる目的で設けられている。また、主制御部27は、各制御部を統括的に制御する目的で設けられている。この主制御部27は、CPUによって構成され、各種のプログラムを実行することによりX線管制御部6,各部11,12,13,14,15を実現している。また、上述の各部は、それらを担当する演算装置に分割されて実行されてもよい。記憶部28は、画像処理に用いられるパラメータ、画像処理に伴って生成される中間画像、関連テーブル等のX線撮影装置1の制御に関するパラメータの一切を記憶する。
【0040】
<X線撮影装置の動作>
次に、X線撮影装置1の動作について説明する。実施例1に係るX線撮影装置1を用いて被検体Mの撮影を行うには、図2に示すように、まず被検体Mを天板2に載置し(載置ステップS1),元画像P0の撮影が開始される(撮影ステップS2)。そして、撮影された元画像P0を基に各帯域画像α,β,γ……が生成され(帯域画像生成ステップS3),各帯域画像α,β,γ……についてコントラスト調整が行われる(コントラスト調整ステップS4)。最後に、元画像P0にコントラスト処理が施された処理画像P1が取得される(処理画像生成ステップS5)。以降、これらの各ステップについて順を追って説明する。
【0041】
<載置ステップS1,撮影ステップS2>
天板2に被検体Mを載置した後、術者が操作卓26を通じて撮影開始の指示をX線撮影装置1に与えると、X線管制御部6は、記憶部28に記憶されている管電圧・管電流・パルス幅などのX線管3の制御に関する設定値を読み出す。X線管制御部6は、この設定値通りにX線管3を制御し、X線管3にX線を発生させる。被検体Mを透過したX線は、FPD4で検出され、このときの検出信号が画像生成部11に送出される。画像生成部11は、検出信号を基に被検体Mの透視像が写り込んだ元画像P0を生成する。
【0042】
<帯域画像生成ステップS3>
元画像P0は、帯域画像生成部12に送られてきている。帯域画像生成部12は、元画像P0の周波数成分を高周波側から順に次々と抽出して各帯域画像α,β,γ……を生成する。
【0043】
帯域画像生成部12の動作について説明する。帯域画像生成部12は、図3(a)に示すように元画像P0にハイパスフィルタHを作用する。このハイパスフィルタHは、元画像P0から高周波成分を抽出する行列で規定される画像フィルタとなっている。図3においては、ハイパスフィルタHが元画像P0の左上の端に作用されている様子を模式的に示しており、これにより元画像P0の左上の端における高周波成分が抽出される。この動作を点線の矢印の示すようにハイパスフィルタHを元画像P0に対して移動させながら作用させ、高周波成分を元画像P0の全域に亘って抽出し、高周波成分のみを写し込んだ第1帯域画像αが生成される。第1帯域画像αと元画像P0との画像のサイズは同じであり、図3においては、ハイパスフィルタHを用いた画像変換処理を記号Hpfで表している。
【0044】
次に、図3(b)に示すように、元画像P0にバンドパスフィルタBを作用させる。バンドパスフィルタBは、ハイパスフィルタHよりも大きな規定行列を有する画像フィルタとなっている。図3においては、バンドパスフィルタBが元画像P0の左上の端に作用されている様子を模式的に示しており、これにより元画像P0の左上の端における高めの周波数範囲の成分が抽出される。この時抽出される周波数成分は、ハイパスフィルタHで抽出される成分よりも低周波側となっている。従って、ハイパスフィルタHでは、第1帯域画像αが有している周波数成分の帯域よりも低い周波数の成分が元画像P0より抽出されることになる。この動作を点線の矢印の示すようにバンドパスフィルタBを元画像P0に対して移動させながら作用させ、高周波成分を元画像P0の全域に亘って抽出し、高めの周波数範囲の成分のみを写し込んだ第2帯域画像βが生成される。第2帯域画像βと元画像P0との画像のサイズは同じであり、図3においては、バンドパスフィルタBを用いた画像変換処理を記号Bpfで表している。
【0045】
そして、元画像P0を縮小して縮小画像Psを生成する(図3(c)参照)。この縮小画像Psに対して、図3(b)と同じ動作を行い、第3帯域画像γを生成する。その後、この縮小画像Psを更に縮小して縮小画像Ptを生成する(図3(d)参照)。この縮小画像Ptに対して、図3(b)と同じ動作を行い、第4帯域画像δを生成する。図3においては、画像を縮小する処理を記号Mag(−)で表している。
【0046】
この様に、元画像P0の縮小とバンドパスフィルタBの作用とを繰り返すごとに元画像P0における低周波側の成分が抽出された帯域画像が取得されることになる。このように、帯域画像生成部12は、元画像P0からより高周波の順に各帯域画像α,β,γ,δ……を生成する。以下の説明において、便宜的に、帯域画像生成部12からは、3つの帯域画像α,β,γが生成されたものとする。第3帯域画像γは、帯域画像生成部12によって元画像P0と同じ大きさまで拡大されたものとする。
【0047】
<コントラスト調整ステップS4>
各帯域画像α,β,γは、コントラスト調整部13に送出される。コントラスト調整部13は、記憶部28に記憶されているコントラスト調整の設定値を読み出して、これを基に各帯域画像α,β,γに対して個別にコントラスト調整を施す。記憶部28に記憶されているコントラストの設定値は、各帯域画像α,β,γにどの程度のコントラスト調整部13を行うかを規定しているパラメータである。以下の説明においては、元画像P0に写り込む細かい構造を強調しようとして、元画像P0に含まれる周波数成分のうち、最も高周波側のものを有する帯域画像αに強めのコントラスト調整を行い、他の帯域画像β,γには弱めのコントラスト調整を行うものとする。このコントラスト調整により、各帯域画像α,β,γから各調整帯域画像Cα,Cβ,Cγが生成されるものとする。なお、各帯域画像α,β,γにどの程度コントラスト調整を行うかは、術者が操作卓26を通じて自由に変更できるようになっている。
【0048】
コントラスト調整部13が帯域画像αのコントラストを調整するときの動作について説明する。帯域画像αには、画素値の高い明部Bと画素値の低い暗部Dとが同時に写り込んでいる。帯域画像αにおける明部Bは、元画像P0においても明部となっている。この元画像P0・帯域画像αにおける明部Bとなっている領域は、被検体内にX線を遮るものがなかったので、高い線量の放射線が検出された領域であり、元画像P0・帯域画像αにおける高い線量の放射線が写り込んでいる部分(高線量部分)となっている。このような高線量部分は、元画像P0における被検体Mの肺野に表れやすい。
【0049】
帯域画像αにおける暗部Dは、元画像P0においても暗部となっている。この元画像P0・帯域画像αにおける暗部Dとなっている領域は、被検体内で多くのX線が遮られたので、低い線量の放射線が検出された領域であり、元画像P0・帯域画像αにおける低い線量の放射線が写り込んでいる部分(低線量部分)となっている。このような低線量部分は、元画像P0における被検体Mの骨部に表れやすい。
【0050】
実施例1における最も特徴的な構成は、コントラスト調整部13の動作が元画像P0の明部Bと暗部Dとで異なる点にある。すなわち、コントラスト調整部13は、元画像P0における明部B(高線量部分)について、より強くコントラスト調整を行い、元画像P0における暗部D(低線量部分)について、より弱くコントラスト調整を行う。すなわち、コントラスト調整部13は、高線量部分よりも低線量部分について、より弱くコントラスト調整を行う。
【0051】
このコントラスト調整部13の動作の意味について説明する。図4は、コントラスト調整前における帯域画像αの画素値を表しているグラフである。すなわち、図4は、帯域画像αにおける所定の線分上に配列する画素の画素値を線分における位置と関連づけてグラフ化したものである。
【0052】
暗部Dは、元画像P0における低線量部分なのだから、僅かな線量で被検体Mの撮影が行われた部分である。したがって、暗部Dは、より多くのノイズ成分が含まれている。暗部Dにおける画素値の変動は、図4に示すように、より激しいものとなっている。また、明部Bは、元画像P0における高線量部分なのだから、撮影に十分な多くの線量で被検体Mの撮影が行われた部分である。したがって、明部Bのノイズ成分は、僅かなものとなっている。明部Bにおける画素値の変動は、図4に示すように、より平坦なものとなっている。明部Bにおける凹みは、ノイズ成分ではなく、被検体Mの像に由来するものである。
【0053】
元画像P0にガイドワイヤ像が写り込んでいる場合について説明する。暗部Dにガイドワイヤ像が写り込んでいるとすると、暗部Dにおけるガイドワイヤ像は、図4の左側に現れている各凹みのうちのいずれかとして元画像P0に現れる。このように、暗部Dにおけるガイドワイヤ像は、ノイズ由来の凹みと区別を付けることが難しい状態となっている。
【0054】
また、明部Bにガイドワイヤ像が写り込んでいるとすると、明部Bにおけるガイドワイヤ像は、図4の右側に現れている単一の凹みとして元画像P0に現れる。このように、明部Bにおけるガイドワイヤ像は、ノイズ由来の凹みと判然と区別をすることができる。
【0055】
図5は、コントラスト調整後における調整帯域画像Cαの画素値を表しているグラフである。すなわち、図4は、調整帯域画像Cαにおける所定の線分上に配列する画素の画素値を線分における位置と関連づけてグラフ化したものである。調整帯域画像Cαを参照すると、帯域画像αにおける暗部Dの画素値は、コントラスト調整部13によってほとんど調整を受けていないことが分かる。また、帯域画像αにおける明部Bの画素値は、コントラスト調整部13によって画素値が大幅に変更されたことが分かる。図5における明部Bの凹みは、図4における明部Bの凹みより大きいので、この凹みに相当する被検体Mの像またはガイドワイヤ像は、コントラスト調整処理を通じて強調されたということができる。また、暗部Dは、コントラスト調整がほとんどされないので、暗部Dにおいて被検体Mの像またはガイドワイヤ像を強調しようとして被検体等と関係のないノイズ成分を増幅してしまうことがない。この様に実施例1の構成によれば、元画像P0のコントラストを調整した際に、低線量部分(暗部D)でノイズ成分が強調されないので、画像の視認性が悪化することがない。
【0056】
この様に、実施例1のコントラスト調整によれば、元画像P0の明部Bでノイズが強調されることがない。コントラスト調整によりノイズの強調は起こるものの、明部Bにはほとんどノイズが含まれていないからである。また、実施例1のコントラスト調整によれば、元画像P0の暗部Dでノイズが強調されることもない。実施例1の構成によれば、ノイズを多く含む暗部Dには、コントラスト調整がかけられないからである。
【0057】
実施例1における画像処理の更に具体的な構成について説明する。上述の図4,図5における説明では、暗部Dでは、全くコントラスト調整を行わないようにしていた。しかし、実際は、コントラスト調整部13の動作は、帯域画像αの画素値に応じてコントラスト調整の程度を段階的に変化させながら行われる。つまり、コントラスト調整部13は、帯域画像αの画素値が高ければ高いほどより強くコントラスト調整を行うように設定されている。コントラスト調整を強く施すほど画素値の違いがより強調されることになる。
【0058】
より具体的には、コントラスト調整部13は、コントラスト調整の強さと画素値とが関連した関連テーブルを記憶部28から読み出して、この関連テーブルを参照して、コントラスト調整の強さを変更しながらコントラスト調整を行う。関連テーブルの態様は特に限定されないが、コントラスト調整の強さと画素値とが線形的に関連づけられたものであれば、コントラスト調整の程度の変化が画素値に対して段階的となり好適である。なお、この関連テーブルは、帯域画像αの部分に応じてコントラスト調整の程度を変化させる目的で設けられたものであって、各帯域画像α,β,γ間でコントラスト調整の程度を変化させる目的で設けられている上述のコントラストの設定値とは別の概念である。
【0059】
このように、コントラスト調整部13は、帯域画像αにおけるノイズ成分が含まれていない低線量部分についてコントラスト調整を強く行い、ノイズ成分が多く含まれている高線量部分についてコントラスト調整を弱く行うようにしている。このようにすることで、帯域画像αのノイズ成分を強調させないで調整帯域画像Cαを生成することができる。なお、コントラスト調整部13の動作は、他の帯域画像β,γについても同様である。
【0060】
<処理画像生成ステップS5>
コントラスト調整部13が生成した各調整帯域画像Cα,Cβ,Cγは、合計部14に送出される。ここで各調整帯域画像Cα,Cβ,Cγは互いに合算されて、合計画像ΣCが取得される。合計画像ΣCは、元画像P0にコントラスト調整がされた画像となっており、元画像P0の周波数成分の各帯域でコントラスト調整が異なっている。
【0061】
合計画像ΣCは、重ね合わせ部15に送出される。重ね合わせ部15は、画像生成部11から元画像P0を受信し、元画像P0と合計画像ΣCとを重ね合わせて、処理画像P1を生成する。処理画像P1は、元画像P0に輝度調整が施されたものとなっている。処理画像P1が表示部25に表示されてX線撮影装置の動作は終了となる。
【0062】
以上のように、実施例1の構成によれば、元画像P0のコントラストを調整することができるようになっている。元画像P0全体に一様のコントラスト調整を行うのでは、元画像P0の一部においてノイズ成分を増強させてしまう。元画像P0における低線量部分には多くのノイズ成分が含まれている事情を何ら考慮せずにコントラスト調整を行っているからである。実施例の構成は、この様な事情に鑑みて、元画像P0の低線量部分については元画像P0の高線量部分よりも弱くコントラスト調整を行うようにしている。この様にすれば、元画像P0のコントラストを調整した際に、低線量部分でノイズ成分が強調されないので、画像の視認性が悪化することがない。
【0063】
また、元画像P0における高線量部分は、被検体MにおいてX線をあまり吸収しない部位であるので、画素値の高い部分となっており、元画像P0における低線量部分は、被検体MにおいてX線をよく吸収する部位であるので、画素値の低い部分となっている。したがって、元画像P0をコントラスト調整するのに元画像P0の画素値を用いることができるのである。
【0064】
実施例1のようにコントラスト調整を帯域画像の各々に対して独立に行うようにすれば、検査の目的に合わせて元画像P0の大まかな構造を強調するようにすることもできるし、元画像P0の細かな構造を強調するようにすることもできる。
【0065】
そして、コントラスト調整の程度を画素値に応じて変化させながら元画像P0のコントラスト調整を行うようにすれば、元画像P0における画素値に応じて段階的にコントラスト調整に強弱が付けられることになるので、処理画像P1が不自然とならず、視認性に優れたものとなる。
【0066】
本発明は、上述の構成に限られず、下記のように変形実施することが可能である。
【0067】
(1)上述の実施例においては、高線量部分は、元画像P0の明部Bとなっており、低線量部分は元画像P0の暗部Dとなっていたが、本発明はこの構成に限られない。すなわち、元画像P0の画素値を反転させた反転画像についても本発明を適応することができる。その場合、コントラスト調整部13は、反転画像の暗部Dを高線量部分とし、反転画像の明部を低線量部分として上述の動作を行う。
【0068】
(2)上述の実施例は、被検体Mをスポット撮影した時の透視画像についてのものであるが、本発明は断層画像などの他の透視画像についても適応できる。
【0069】
(3)上述の実施例におけるコントラスト調整部13は、コントラスト調整の強さと画素値とが関連した関連テーブルを用いていたが、関連テーブルの代わりに、コントラスト調整の強さと画素値との関連性を示す方程式を用いてもよい。この場合、コントラスト調整部13は、記憶部28に記憶されている方程式を読み出して、これに画素値を代入することでコントラスト調整の強さを示す値を取得するようにしてもよい。
【0070】
(4)上述の実施例におけるコントラスト調整部13は、各帯域画像α,β,γに同じ関連テーブルを用いて動作していたが、本発明はこの構成に限られない。すなわち、各帯域画像α,β,γに応じてコントラスト調整部13が参照する関連テーブルを変更させてもよい。
【0071】
(5)上述の実施例においては、元画像P0に写り込む細かい構造を強調しようとして帯域画像αに強めのコントラスト調整を行うようにしていたが、本発明はこの構成に限られない。すなわち、元画像P0に写り込む大まかな構造を強調する目的で帯域画像β,γに強めのコントラスト調整を行うようにしてもよい。
【0072】
(6)上述した実施例は、医用の装置であったが、本発明は、工業用や、原子力用の装置に適用することもできる。
【0073】
(7)上述した実施例のいうX線は、本発明における放射線の一例である。したがって、本発明は、X線以外の放射線にも適応できる。
【符号の説明】
【0074】
P0 元画像(透視画像)
S2 撮影ステップ
S3 帯域画像生成ステップ
S4 コントラスト調整ステップ
3 X線管(放射線源)
4 FPD(放射線検出手段)
11 画像生成部(画像生成手段)
12 帯域画像生成部(帯域画像生成手段)
13 コントラスト調整部(コントラスト調整手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を照射する放射線源と、
照射された放射線を検出する放射線検出手段と、
前記放射線検出手段が出力する検出信号を元に透視画像を生成する画像生成手段と、
前記画像生成手段が生成した透視画像にコントラスト調整を行うコントラスト調整手段とを備え、
前記コントラスト調整手段は、透視画像における低い線量の放射線が写り込んでいる低線量部分について、透視画像における高い線量の放射線が写り込んでいる高線量部分よりも弱くコントラスト調整を行うことを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線撮影装置において、
前記コントラスト調整手段におけるコントラスト調整は、透視画像における画素値の高い部分を高線量部分とし、透視画像における画素値の低い部分を低線量部分として行うことを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の放射線撮影装置において、
透視画像を構成する周波数成分を周波数の各帯域別に抽出して、複数枚の帯域画像を生成する帯域画像生成手段を更に備え、
前記コントラスト調整手段は、各帯域画像にコントラスト調整を施すことで、透視画像のコントラスト調整を行うことを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の放射線撮影装置において、
前記コントラスト調整手段は、コントラスト調整の程度を画素値に応じて変化させながら透視画像のコントラスト調整を行うことを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の放射線撮影装置において、
画像生成手段が生成する透視画像にはガイドワイヤが写り込んでいることを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項6】
被検体の透視像が写り込んだ透視画像を生成する撮影ステップと、
透視画像にコントラスト調整を行うコントラスト調整ステップとを備え、
前記コントラスト調整ステップにおいて、透視画像における低い線量の放射線が写り込んでいる低線量部分について、透視画像における高い線量の放射線が写り込んでいる高線量部分よりも弱くコントラスト調整が行われることを特徴とする画像処理方法。
【請求項7】
請求項6に記載の画像処理方法において、
前記コントラスト調整ステップにおけるコントラスト調整は、透視画像における画素値の高い部分を高線量部分とし、透視画像における画素値の低い部分を低線量部分として行われることを特徴とする画像処理方法。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の画像処理方法において、
透視画像を構成する周波数成分を周波数の各帯域別に抽出して、複数枚の帯域画像を生成する帯域画像生成ステップを更に備え、
前記コントラスト調整ステップにおいて、各帯域画像にコントラスト調整が施されることで、透視画像のコントラスト調整が行われることを特徴とする画像処理方法。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載の画像処理方法において、
前記コントラスト調整ステップにおいて、コントラスト調整の程度を画素値に応じて変化させながら透視画像のコントラスト調整が行われることを特徴とする画像処理方法。
【請求項10】
請求項6ないし請求項9のいずれかに記載の画像処理方法において、
撮影ステップで生成される透視画像にはガイドワイヤが写り込んでいることを特徴とする画像処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−111365(P2013−111365A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262098(P2011−262098)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】