説明

放射線撮影装置及び放射線撮影方法

【課題】縞走査法で取得される複数の画像データの一部に異常が生じた場合でも精度よく位相微分画像を生成可能とする。
【解決手段】X線源から放射された放射線を第1の格子を通過させて第1の周期パターン像(G1像)を生成する。G1像を第2の格子により部分的に遮蔽して第2の周期パターン像(G2像)を生成する。第1の格子に対して第2の格子を所定の走査ピッチで移動させ、第2の格子を複数の走査位置に順に設定する。各走査位置でG2像をX線画像検出器により検出して画像データを生成する。各画像データの各画素値が異常画素値であるか否かを所定の判定基準に基づいて判定する。各画像データから異常画素値を除去する。異常画素値が除去された各画像データに基づき、位相微分画像を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線の位相変化に基づく画像を検出する放射線撮影装置及び放射線撮影方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線、例えばX線は、物質を構成する元素の重さ(原子番号)と物質の密度及び厚さとに依存して吸収され減衰するという特性を有する。この特性に着目し、医療診断や非破壊検査等の分野において、被検体の内部を透視するためのプローブとしてX線が利用されている。
【0003】
一般的なX線撮影装置では、X線を放射するX線源と、X線を検出するX線画像検出器との間に被検体を配置して、被検体を透過したX線の撮影を行う。この場合、X線源からX線画像検出器に向けて放射されたX線は、被検体を透過する際に吸収され減衰した後、X線画像検出器に入射する。この結果、被検体によるX線の強度変化に基づく画像がX線画像検出器により検出される。
【0004】
X線吸収能は、原子番号が小さい元素ほど低くなるため、生体軟部組織やソフトマテリアルなどでは、X線の強度変化が小さく、画像に十分なコントラストが得られないといった問題がある。例えば、人体の関節を構成する軟骨部とその周辺の関節液は、いずれも殆どの成分が水であり、両者のX線吸収能の差が小さいため、コントラストが得られにくい。
【0005】
このような問題を背景に、被検体によるX線の強度変化に代えて、被検体によるX線の位相変化に基づいた画像を得るX線位相イメージングの研究が近年盛んに行われている。X線位相イメージングは、被検体に入射したX線の位相変化が強度変化より大きいことに基づき、X線の位相変化を画像化する方法であり、X線吸収能が低い被検体に対しても高コントラストの画像を得ることができる。X線位相イメージングの一種として、2枚の格子とX線画像検出器とを用いてX線タルボ干渉計を構成することにより、X線の位相変化を検出するX線撮影装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
このX線撮影装置は、X線源から見て被検体の背後に第1の格子を配置し、第1の格子からタルボ距離だけ離れた位置に第2の回折格子を配置し、その背後にX線画像検出器を配置したものである。タルボ距離は、第1の回折格子を通過したX線が、タルボ効果によって第1の回折格子の自己像(縞画像)を形成する距離である。この自己像は、被検体でのX線の位相変化で屈折が生じることにより変調される。この変調量を検出することにより、X線の位相変化が画像化される。
【0007】
上記変調量の検出方法として縞走査法が知られている。縞走査法では、第1の格子に対して第2の格子を、所定のピッチで間欠移動させながら、その停止中にX線源からX線を放射し、被検体、第1及び第2の格子を通過したX線をX線画像検出器で検出することにより画像データを生成する。この間欠移動は、第1の格子の面に平行でかつ第1の格子の格子線方向に垂直な方向に行う。X線画像検出器により生成される複数の画像データに基づき、画素毎に画素値の強度変調を表す強度変調信号を生成し、この強度変調信号の位相ズレ量(被検体が存在しない場合の初期位置からの位相差)を算出することにより、上記変調量の二次元分布を表す位相微分画像が得られる。
【0008】
しかし、縞走査法では、一連の撮影動作中に振動等が生じて位置ずれが生じた場合には、複数の画像データのうち一部が異常となり、位相ズレ量の算出精度が低下することにより、位相微分画像の画質が劣化するという問題がある。そこで、第1及び第2の格子の振動を検出する振動センサを設け、この振動センサにより所定値以上の振動が検出された場合に、X線源によるX線放射を停止させ、操作者に再撮影を促すことが提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2004/058070号公報
【特許文献2】特開2008−200360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2に記載のX線撮影システムでは、縞走査法における一連の撮影動作中に振動が検出されるたびに、X線放射が停止されて再撮影が促されるため、再撮影を行う手間が生じるだけでなく、再撮影により被検体(患者)が余計に被曝するという問題がある。
【0011】
また、複数の画像データの一部が異常となる原因として、第1及び第2の格子の振動の他に、被検体の振動や、X線源によるX線放射のばらつき、X線画像検出器への静電気放電によるノイズ等も考えられる。
【0012】
本発明は、縞走査法で取得される複数の画像データの一部に異常が生じた場合でも精度よく位相微分画像を生成可能とする放射線撮影装置及び放射線撮影方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の放射線撮影装置は、放射線源に対向配置された複数の格子と、前記複数の格子のうちいずれかを所定の走査ピッチで移動させ、複数の走査位置に順に設定する走査機構と、前記各走査位置で、前記放射線源から放射され前記複数の格子を通過した放射線を検出して画像データを生成する放射線画像検出器と、前記各画像データの各画素値が異常画素値であるか否かを所定の判定基準に基づいて判定する異常画素値判定部と、前記各画像データから前記異常画素値を除去する異常画素値除去部と、前記異常画素値が除去された前記各画像データに基づいて位相微分画像を生成する位相微分画像生成部と、を備えるものである。
【0014】
前記異常画素値以外の正常画素値の数を、前記各画像データにおいて対応する画素毎にカウントする正常画素値計数部を備えることが好ましい。
【0015】
前記異常画素値判定部は、前記走査機構により設定される全ての前記複数の走査位置で前記放射線画像検出器により前記画像データが生成された後、前記判定を行うことが好ましい。
【0016】
前記正常画素値の数が基準値より少ない画素が所定数以上存在する場合にエラー報知を行うエラー報知部をさらに備えることが好ましい。
【0017】
前記異常画素値判定部は、前記走査機構により設定される前記各走査位置で前記放射線画像検出器により前記画像データが生成されるたびに前記判定を行い、前記正常画素値計数部は、前記異常画素値判定部により前記判定が行われるたびに前記正常画素値の数をカウントしてもよい。
【0018】
この場合、前記走査機構は、前記正常画素値の数が基準値より少ない画素が所定数より少なくなるまで、前記複数の格子のうちいずれかを移動させて新たな走査位置を設定し、前記放射線画像検出器は、前記走査機構により設定された新たな走査位置で前記画像データを生成することが好ましい。
【0019】
また、前記正常画素値の数が基準値より少ない画素が所定数以上とならないまま、前記画像データの生成回数が規定回数に達した場合に、エラー報知を行うエラー報知部をさらに備えることが好ましい。
【0020】
前記画像データ中の前記異常画素値の数に基づき、前記画像データが正常であるか否かを判定する画像データ判定部をさらに備え、前記走査機構は、所定枚の正常な画像データが得られるまで、前記複数の格子のうちいずれかを移動させて新たな走査位置を設定し、前記放射線画像検出器は、前記走査機構により設定された新たな走査位置で前記画像データを生成してもよい。
【0021】
この場合には、所定枚の正常な画像データが得られないまま、前記画像データの生成回数が規定回数に達した場合に、エラー報知を行うエラー報知部を備えることが好ましい。
【0022】
前記判定基準は、前記正常画素値が取り得る下限及び上限により規定される。前記放射線源から放射される放射線の放射線量を計測する放射線量計測部と、前記放射線量検出部により検出された放射線量に基づいて前記判定基準を決定する判定基準決定部と、をさらに備えることが好ましい。
【0023】
前記放射線量計測部は、前記放射線源から放射される放射線の放射線量を、前記複数の格子を介さずに検出する放射線量センサであることが好ましい。前記放射線量計測部は、前記放射線源の管電流を検出するとともに、検出した管電流を時間積算することにより放射線量を計測する管電流時間積算部であってもよい。
【0024】
前記位相微分画像を積分処理して位相コントラスト画像を生成する位相コントラスト画像生成部を備えることが好ましい。
【0025】
前記異常画素値判定部により判定された異常画素値が補正可能であるか否かを判定する補正可否判定部と、前記補正可否判定部により補正可能と判定された異常画素値を、その周辺の正常画素値に基づいて補正する補正処理部と、を備えてもよい。
【0026】
前記複数の格子は、放射線源から放射された放射線を通過させて第1の周期パターン像を生成する第1の格子と、前記第1の周期パターン像を部分的に遮蔽して第2の周期パターン像を生成する第2の格子とからなり、前記走査機構は、前記第1の格子または前記第2の格子を移動させることが好ましい。
【0027】
前記複数の格子は、前記放射線源から放射された放射線を部分的に遮蔽して焦点を分散化する線源格子と、前記線源格子から射出される放射線を通過させて第1の周期パターン像を生成する第1の格子と、前記第1の周期パターン像を部分的に遮蔽して第2の周期パターン像を生成する第2の格子とからなり、前記走査機構は、前記線源格子、前記第1の格子、前記第2の格子のうちいずれかを移動させることが好ましい。
【0028】
前記第1の格子は、吸収型格子であり、入射した放射線を幾何光学的に投影することにより前記第1の周期パターン像を生成することが好ましい。前記第1の格子は、吸収型格子または位相型格子であり、入射した放射線にタルボ効果を生じさせて前記第1の周期パターン像を生成するものであってもよい。
【0029】
本発明の放射線撮影方法は、放射線源に対向配置された複数の格子のうちいずれかを所定の走査ピッチで移動させ、複数の走査位置に順に設定するステップと、前記各走査位置で、前記放射線源から放射され前記複数の格子を通過した放射線を放射線画像検出器により検出して画像データを生成するステップと、前記各画像データの各画素値が異常画素値であるか否かを所定の判定基準に基づいて判定するステップと、前記各画像データから前記異常画素値を除去するステップと、前記異常画素値が除去された前記各画像データに基づいて位相微分画像を生成するステップと、を備える。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、各画像データの各画素値が異常画素値であるか否かを所定の判定基準に基づいて判定し、各画像データから異常画素値を除去し、異常画素値が除去された各画像データに基づいて位相微分画像を生成するので、複数の画像データの一部に異常が生じた場合でも精度よく位相微分画像を生成ことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】X線撮影装置の構成を示す模式図である。
【図2】X線画像検出器の構成を示す模式図である。
【図3】第1及び第2の格子の構成を説明する説明図である。
【図4】強度変調信号を示すグラフである。
【図5】画像処理部の構成を示すブロック図である。
【図6】異常画素値の判定基準を説明する説明図である。
【図7】X線撮影装置の作用を説明するフローチャートである。
【図8】異常画素値の判定基準の変形例を説明する説明図である。
【図9】第2実施形態のX線撮影装置の作用を説明するフローチャートである。
【図10】第3実施形態のX線撮影装置の作用を説明するフローチャートである。
【図11】第4実施形態のX線撮影装置の構成を示す模式図である。
【図12】第4実施形態の変形例を示す模式図である。
【図13】第5実施形態のX線撮影装置の作用を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(第1実施形態)
図1において、X線撮影装置10は、X線源11、格子部12、X線画像検出器13、メモリ14、画像処理部15、画像記録部16、撮影制御部17、コンソール18、及びシステム制御部19を備える。X線源11は、周知のように、回転陽極型のX線管(図示せず)と、X線の照射野を制限するコリメータ(図示せず)とを有し、撮影制御部17の制御に基づき、被検体Hに向けてX線を放射する。
【0033】
格子部12は、第1の格子21、第2の格子22、及び走査機構23を備える。第1及び第2の格子21,22は、X線照射方向であるZ方向に関してX線源11に対向配置されている。X線源11と第1の格子21との間には、被検体Hが配置可能な間隔が設けられている。X線画像検出器13は、例えば、半導体回路を用いたフラットパネル検出器であり、第2の格子22の背後に、検出面13aがZ方向に直交するように配置されている。
【0034】
第1の格子21は、Z方向に直交する格子面内の一方向であるY方向に延伸された複数のX線吸収部21a及びX線透過部21bを備えた吸収型格子である。X線吸収部21a及びX線透過部21bは、Z方向及びY方向に直交するX方向に交互に配列されており、縞状のパターンを形成している。第2の格子22は、第1の格子21と同様にY方向に延伸され、かつX方向に交互に配列された複数のX線吸収部22a及びX線透過部22bを備えた吸収型格子である。X線吸収部21a,22aは、金(Au)、白金(Pt)等のX線吸収性を有する材料により形成されている。X線透過部21b,22bは、シリコン(Si)や樹脂等のX線透過性を有する材料や空隙により形成されている。
【0035】
第1の格子21は、X線源11から放射されたX線を部分的に通過させて第1の周期パターン像(以下、G1像という)を生成する。第2の格子22は、第1の格子21により生成されたG1像を部分的に透過させて第2の周期パターン像(以下、G2像という)を生成する。被検体Hが配置されていない場合において、G1像は、第2の格子22の格子パターンとほぼ一致する。
【0036】
X線画像検出器13は、G2像を検出して画像データを生成する。メモリ14は、X線画像検出器13から読み出された画像データを一時的に記憶する。画像処理部15は、メモリ14に記憶された複数の画像データに基づいて位相微分画像を生成し、この位相微分画像に基づいて位相コントラスト画像を生成する。画像記録部16は、位相微分画像及び位相コントラスト画像を記録する。
【0037】
走査機構23は、第2の格子22をX方向に間欠的に移動させ、第1の格子21に対する第2の格子22の位置(走査位置)を順に変更する。走査機構23は、圧電アクチュエータや静電アクチュエータを有し、撮影制御部17の制御に基づいて駆動される。メモリ14には、走査機構23により変更される第1の格子21に対する第2の格子22の各走査位置でX線画像検出器13により生成された画像データが一括して記憶される。
【0038】
コンソール18は、操作部18a及びモニタ18bを有する。操作部18aは、キーボードやマウス等により構成され、X線源11の管電圧、管電流、照射時間等の撮影条件の設定や、撮影実行指示等の操作入力を可能とする。
【0039】
モニタ18bは、撮影条件等の撮影情報や、画像記録部16に記録された位相微分画像及び位相コントラスト画像の表示を行う。システム制御部19は、操作部18aから入力される信号に応じて各部を統括的に制御する。
【0040】
図2において、X線画像検出器13は、周知のように、入射X線により半導体膜(図示せず)に生じた電荷を収集する画素電極31と、画素電極31によって収集された電荷を読み出すためのTFT(Thin Film Transistor)32とを備えた画素部30が2次元状に多数配列されたものである。半導体膜は、例えば、アモルファスセレンにより形成されている。
【0041】
X線画像検出器13は、ゲート走査線33、走査回路34、信号線35、及び読み出し回路36を有する。ゲート走査線33は、画素部30の行ごとに設けられている。走査回路34は、TFT32をオン/オフするための走査信号を各ゲート走査線33に付与する。信号線35は、画素部30の列ごとに設けられている。読み出し回路36は、各信号線35を介して画素部30から電荷を読み出し、画像データに変換して出力する。各画素部30の詳細な層構成については、例えば、特開2002−26300号公報に記載された層構成と同様である。
【0042】
読み出し回路36は、積分アンプ、A/D変換器、補正回路(いずれも図示せず)等を有する。積分アンプは、各画素部30から信号線35を介して出力された電荷を積分して画像信号を生成する。A/D変換器は、積分アンプにより生成された画像信号を、デジタル形式の画像データに変換する。補正回路は、画像データに対して、欠陥画素補正、暗電流補正、ゲイン補正、リニアリティ補正等を行う。このうち、欠陥画素補正は、前もって得られている欠陥画素情報に基づいて行う。この補正後の画像データがメモリ14に記憶される。この画像データの画素値は、QL値という濃度値で表される。
【0043】
X線画像検出器13は、入射X線を半導体膜で直接電荷に変換する直接変換型に限られず、ヨウ化セシウム(CsI)やガドリウムオキシサルファイド(GOS)等のシンチレータで入射X線を可視光に変換し、可視光をフォトダイオードで電荷に変換する間接変換型であってもよい。さらに、X線画像検出器13として、シンチレータと、CMOSセンサやCCDセンサ等の固体撮像素子とを組み合わせたものを用いてもよい。
【0044】
図3において、X線源11から照射されるX線は、X線焦点11aを発光点としたコーンビーム状である。第1の格子21は、タルボ効果が生じず、X線透過部21bを通過したX線をほぼ幾何光学的に投影するように構成されている。具体的には、X方向へのX線透過部21bの幅を、X線源11から照射されるX線の実効波長より十分大きな値とし、X線透過部21bを通過するX線の大部分がX線透過部21bで回折しないようにすることで実現される。X線源11の回転陽極としてタングステンを用い、管電圧を50kVとした場合には、X線の実効波長は約0.4Åである。この場合には、X線透過部21bの幅を1〜10μm程度とすればよい。
【0045】
これにより、G1像は、第1の格子21からZ方向下流への距離に依らず、常に第1の格子21の自己像となる。G1像は、X線焦点11aからZ方向下流への距離に比例して拡大される。
【0046】
第2の格子22の格子ピッチpは、前述のように、第2の格子22の格子パターンが第2の格子22の位置におけるG1像に一致するように設定されている。具体的には、第2の格子22の格子ピッチpは、第1の格子21の格子ピッチp、X線焦点11aと第1の格子21との間の距離L、第1の格子21と第2の格子22との間の距離Lと、下式(1)をほぼ満たすように設定されている。
【0047】
【数1】

【0048】
G1像は、X線が被検体Hで位相変化して屈折することにより変調される。この変調量には、被検体HにおけるX線のX方向への屈折角φ(x)が反映される。同図には、被検体HにおけるX線の位相変化を表す位相シフト分布Φ(x)に応じて屈折するX線の経路が例示されている。符号X1は、被検体Hが存在しない場合にX線が直進する経路を示し、符号X2は、被検体Hにより屈折したX線の経路を示している。
【0049】
位相シフト分布Φ(x)は、X線の波長をλ、被検体Hの屈折率分布をn(x,z)として、下式(2)で表される。
【0050】
【数2】

【0051】
屈折角φ(x)は、位相シフト分布Φ(x)と、下式(3)の関係にある。
【0052】
【数3】

【0053】
第2の格子22の位置において、X線は、屈折角φ(x)に応じた量だけX方向に変位する。この変位量Δxは、X線の屈折角φ(x)が微小であることに基づいて、近似的に下式(4)で表される。
【0054】
【数4】

【0055】
このように、変位量Δxは、位相シフト分布Φ(x)の微分値に比例する。したがって、変位量Δxを、縞走査法を用いて検出することにより、位相シフト分布Φ(x)の微分値が得られ、位相微分画像が生成される。
【0056】
縞走査法は、格子ピッチpをM個に分割した値(p/M)を走査ピッチとし、走査機構23により、この走査ピッチで第2の格子22を間欠移動させ、その停止中にX線源11からX線を放射してG2像をX線画像検出器13により撮影することにより行われる。Mは、例えば5とする。
【0057】
上式(1)を僅かに満たさない場合や、第1の格子21と第2の格子22との間にZ方向周りの回転や、XY平面に対する傾斜が僅かに生じている場合には、G2像にモアレ縞が生じる。このモアレ縞は、第2の格子22の並進移動に伴って移動し、X方向への移動距離が格子ピッチpに達すると元のパターンに一致する。このモアレ縞の移動を確認することで、第2の格子22の移動量を確認することができる。
【0058】
上記縞走査により、X線画像検出器13の各画素部30について、M個の画素値が得られる。図4に示すように、座標x,yに位置するM個の画素値I(x,y)は、第1の格子21に対する第2の格子22の走査位置kに応じて周期的に変化する。走査位置kは、第2の格子22を一周期分移動させた場合の走査ピッチ(p/M)ごとの各位置である。走査位置kに対する画素値I(x,y)の変化を表す信号を強度変調信号という。
【0059】
同図中の破線は、被検体Hを配置しない状態で得られる強度変調信号を示している。実線は、被検体Hを配置した状態で、被検体Hにより位相ズレ量ψ(x,y)が生じた強度変調信号を示している。この位相ズレ量ψ(x,y)は、変位量Δxと下式(5)の関係にある。
【0060】
【数5】

【0061】
したがって、各画素部30について、縞走査で得られるM個の画素値I(x,y)に基づき、強度変調信号の位相ズレ量ψ(x,y)を求めることにより、位相微分画像が得られる。
【0062】
次に、位相ズレ量ψ(x,y)の算出方法について説明する。走査位置kに対する画素値I(x,y)の変化を表す強度変調信号は、一般に下式(6)で表される。
【0063】
【数6】

【0064】
ここで、Aは入射X線の強度に対応し、Aは強度変調信号の振幅に対応する値である。nは正の整数、iは虚数単位である。また、δは、下式(7)で表される参照位相である。
【0065】
【数7】

【0066】
上式(6)において、n≧2以上の高次の項を無視することにより、強度変調信号は、図4に示した正弦波を示す下式(8)で表される。
【0067】
【数8】

【0068】
上式(8)を満たす画素値I(x,y)は理論値である。一方、X線画像検出器20により実際に得られる画素値I(x,y)は誤差を含んでいる。X線画像検出器20により得られる画素値I(x,y)から位相ズレ量ψ(x,y)を算出するために、まず、上式(8)を下式(9)のように変形する。
【0069】
【数9】

【0070】
ここで、パラメータa,a,aは、それぞれ下式(10)〜(12)で表される。
【0071】
【数10】


【数11】


【数12】

【0072】
そして、最小二乗法等を用いて、画素値I(x,y)の理論値と実測値との差を最小にするパラメータa,a,aの値を求めれば、下式(13)を用いて、位相ズレ量ψ(x,y)が算出される。
【0073】
【数13】

【0074】
この最小二乗法を用いた位相ズレ量の方法は、「応用光学 光計測入門 谷田貝豊彦著 第二版 平成17年2月15日発行 丸善株式会社 (第196頁〜第198頁)」により知られている。この最小二乗法により導かれる下記の連立方程式(14)〜(16)を解くことにより、パラメータa,a,aを決定することができる。
【0075】
【数14】


【数15】


【数16】

【0076】
なお、上記説明では、上式(6)からn≧2以上の高次の項を無視して上式(9)に変形しているが、n≧2以上の項は、線形結合として付加される項であるため、n≧2以上の項を含めた場合においても同様に上式(13)〜(16)が成立する。
【0077】
図5において、画像処理部15は、異常画素値判定部40、異常画素値除去部41、位相微分画像生成部42、位相コントラスト画像生成部43、及び正常画素値計数部44を有する。異常画素値判定部40は、メモリ14に記憶されたM枚の画像データDの各画素について、各画素値が正常画素値であるか異常画素値であるかを判定する。
【0078】
異常画素値除去部41は、異常画素値判定部40により判定された異常画素値を除去する。位相微分画像生成部42は、M枚の画像データDから、異常画素値判定部40により除去された異常画素値以外の正常画素値を用いて位相微分画像を生成する。位相コントラスト画像生成部43は、位相微分画像生成部42により生成された位相微分画像を、X方向に沿って積分処理することにより、位相コントラスト画像を生成する。
【0079】
具体的には、異常画素値判定部40は、図6に示すように、正常な強度変調信号が取り得る所定範囲(下限IMIN〜上限IMAX)に含まれる画素値I(x,y)を正常画素値と判定し、それ以外の画素値を異常画素値と判定する。同図の場合には、画素値I(x,y)は所定範囲外であるため、異常画素値判定部40により異常画素値と判定され、異常画素除去部41により除去される。
【0080】
位相微分画像生成部42は、画像データDから異常画素除去部41を介して正常画素値のみを受け取り、正常画素値のみを用いて強度変調信号を構成し、この強度変調信号の位相ズレ量ψ(x,y)を算出することにより位相微分画像を生成する。具体的には、連立方程式(14)〜(16)において、各左辺の和から異常画素値に対応する走査位置kの項を除外して演算を行う。ここで、異常画素値に対応する走査位置kの項が除外されることにより、参照位相δは非等間隔となる。図6の場合には、k=2の項が連立方程式(14)〜(16)の各左辺の和から除外され、非等間隔の参照位相δ,δ,δ,δに対応する正常画素値I(x,y),I(x,y),I(x,y),I(x,y)を用いて演算が行われる。これは、同図に示すように、正常画素値I(x,y),I(x,y),I(x,y),I(x,y)のみを正弦波でフィッティングし、このフィッティング波形の位相ズレ量ψ(x,y)を算出することに相当する。
【0081】
正常画素値計数部44は、異常画素値判定部40により判定された正常画素値の数を対応する画素ごとにカウントする。システム制御部19は、正常画素値のカウント数Cが所定の基準値S(例えば3)より少ない画素が所定数以上(例えば、1以上)存在するか否かを判定する。カウント数Cが基準値Sより少ない画素が所定数以上存在する場合には、該画素部30に対応する強度変調信号の位相ズレ量ψ(x,y)が精度よく算出されないため、システム制御部19は、モニタ18bを制御して、異常が生じている旨のエラーメッセージの表示(エラー報知)を行う。ここで、システム制御部19及びモニタ18bがエラー報知部を構成する。なお、このエラー報知を、音声やランプの点灯等により行ってもよい。
【0082】
なお、位相ズレ量ψ(x,y)の算出は、上式(14)〜(16)でパラメータがa,a,aの3個であることから分かるように、強度変調信号を構成する正常画素値の数は、最低3個必要である。このため、基準値Sを“3”とすることが好ましい。また、いわゆるサンプリング定理を満たすためには、強度変調信号を構成する正常画素値の数は、最低4個必要であるため、より厳しく、基準値Sを“4”とすることも好ましい。
【0083】
次に、図7に示すフローチャートに沿ってX線撮影装置10の作用を説明する。被検体Hが配置され、操作部18aにより撮影指示がなされると(ステップS10でYES)、走査機構23により第2の格子22が所定の走査ピッチずつ間欠移動されながら、各走査位置kにおいて、X線源11によるX線照射と、X線画像検出器13によるG2像の検出が行われる(ステップS11)。この縞走査の結果、M枚の画像データDが生成され、メモリ14に格納される。
【0084】
このM枚の画像データDに基づき、異常画素値判定部40により、各画像データDの各画素値I(x,y)が正常画素値であるか異常画素値であるかが判定される(ステップS12)。この判定が終了すると、正常画素値計数部44により、正常画素値の数が対応する画素ごとにカウントされる(ステップS13)。システム制御部19により、正常画素値のカウント数Cが所定の基準値Sより少ない画素が所定数以上存在するか否かが判定され(ステップS14)、カウント数Cが基準値Sより少ない画素が所定数以上存在する場合には(ステップS14でYES)、モニタ18にエラーメッセージの表示が行われ(ステップS15)、位相微分画像及び位相コントラスト画像の生成が行われずに動作が終了する。
【0085】
一方、カウント数Cが基準値Sより少ない画素が所定数以上存在しない場合には(ステップS14でNO)、異常画素除去部41により異常画素値が除去される(ステップS16)。この後、位相微分画像生成部42により、正常画素値のみを用いて強度変調信号が構成され、この位相ズレ量ψ(x,y)を算出することにより位相微分画像が生成される(ステップS17)。
【0086】
そして、位相コントラスト画像生成部43により、位相微分画像に対して積分処理が行われ、位相コントラスト画像が生成され(ステップS18)、モニタ18bに、位相微分画像及び位相コントラスト画像が画像表示される(ステップS19)。
【0087】
異常画素値が生じる原因としては、X線撮影装置10や被検体Hに生じる振動、X線源11によるX線放射のばらつき、X線画像検出器13への静電気放電によるノイズ等がある。振動が生じた場合には、画像データDに全体的に異常画素が生じやすい。一方、X線放射のばらつきや静電気放電が生じた場合には、画像データDに部分的に異常画素が生じやすい。本実施形態では、いずれの場合においても異常画素値の除去が行われるため、位相微分画像が精度よく生成される。
【0088】
なお、X線画像検出器13の画素部30の欠陥により、欠陥画素(画素値が固定的な欠陥)が生じる可能性があるが、この欠陥画素は、前述のように読み出し回路36内で補正が行われるため、異常画素値判定部40では異常画素値と判定されない。
【0089】
上記実施形態では、異常画素値判定部40は、正常な強度変調信号が取り得る所定範囲に含まれる画素値I(x,y)が含まれるか否かに基づいて異常画素値を判定しているが、図8に示すように、判定対象の画素値I(x,y)が、その前後の画素値Ij−1(x,y),Ij+1(x,y)から推定される範囲Wに含まれるか否かに基づいて異常画素値を判定してもよい。同図の場合には、画素値I(x,y)は、範囲Wに含まれないため、異常画素値と判定される。なお、強度変調信号の端部に位置する画素値I(x,y)の判定を行う場合には、その前後の画素値として、画素値I(x,y)と画素値IM−1(x,y)とを用いる。同様に、強度変調信号の端部に位置する画素値IM−1(x,y)の判定を行う場合には、その前後の画素値として、画素値IM−2(x,y)と画素値I(x,y)とを用いる。
【0090】
また、上記実施形態では、カウント数Cが基準値Sより少ない画素が所定数以上存在する場合に、位相微分画像及び位相コントラスト画像の生成が行わずに動作を終了しているが、この終了動作を行わずに位相微分画像及び位相コントラスト画像の生成を行い、これらを画像表示するとともにエラー報知を行ってもよい。
【0091】
なお、カウント数Cが基準値Sより少ない画素が少なくとも1つ以上存在する場合に位相微分画像の生成を行うには、異常画素値を補正することが好ましい。この異常画素値の補正方法として、2つの補正方法がある。第1の補正方法は、画像データDにおいて異常画素値を、その周囲の正常画素値を用いて補正する方法である。第2の補正方法は、画像データDの状態で補正を行わずに、位相微分画像を生成した後、画像データD上での異常画素値に対応する画素値(異常位相微分値)を、その周囲の正常画素値に対応する画素値(正常位相微分値)を用いて補正する方法である。
【0092】
(第2実施形態)
上記第1実施形態では、縞走査によりM枚の画像データDが生成された後に正常画素値及び異常画素値の判定を行っているが、本実施形態では、1枚の画像データDが生成されるたびに正常画素値及び異常画素値の判定を行う。本実施形態は、システム制御部19による各部の制御方法が異なること以外は、第1実施形態と同一であるため、各部の説明は省略する。
【0093】
図9において、被検体Hが配置され、操作部18aにより撮影指示がなされると(ステップS20でYES)、まず、第2の格子22がk=0の初期位置に配置された状態で、X線源11によりX線照射が行われる(ステップS21)。X線画像検出器13により画像データDが生成される(ステップS22)と、異常画素値判定部40により、画像データDの各画素値I(x,y)が正常画素値であるか異常画素値であるかが判定される(ステップS23)。そして、正常画素値計数部44により、正常画素値の数が画素ごとにカウントされる(ステップS24)。
【0094】
次いで、システム制御部19により、正常画素値のカウント数Cが所定の基準値S(例えば4)より少ない画素が所定数以上存在するか否かが判定される(ステップS25)。ここでは、カウント数Cは、高々1であるため、カウント数Cが所定の基準値Sより少ない画素が所定数以上存在すると判定される(ステップS25でYES)。
【0095】
そして、システム制御部19により、撮影指示がなされてからのX線照射回数(すなわち、画像データの生成回数)が照射制限回数(例えば7回)に達したか否かが判定される(ステップS26)。ここでは、まだ1回しかX線照射が行われていないため、照射制限回数に達していないと判定される(ステップS26でNO)。この後、走査機構23により第2の格子22が1走査ピッチだけ移動され(ステップS27)、同様に、ステップS21〜S27が繰り返し実行される。
【0096】
ステップS25において、カウント数Cが所定の基準値Sより少ない画素が所定数以上存在しないと判定されると(ステップS25でNO)、第1実施形態と同様に、異常画素除去部41により異常画素値が除去されたうえで(ステップS28)、位相微分画像生成部42により位相微分画像が生成され(ステップS29)、位相コントラスト画像生成部43により位相コントラスト画像が生成される(ステップS30)。そして、モニタ18bに、位相微分画像及び位相コントラスト画像が画像表示される(ステップS31)。
【0097】
ステップS26において、X線照射回数が照射制限回数に達したと判定された場合には(ステップS26でYES)、モニタ18にエラーメッセージの表示(エラー報知)が行われ(ステップS32)、位相微分画像及び位相コントラスト画像の生成が行われずに動作が終了する。
【0098】
なお、本実施形態では、照射制限回数をMより大きな値に設定した場合には、正常画素値が強度変調信号の1周期分を超える数だけ得られる可能性がある。この場合には、上式(14)〜(16)のMを、その1周期分を超える数に置き換えることにより、同様に位相ズレ量ψ(x,y)を算出することができる。
【0099】
本実施形態では、照射制限回数を上限として、正常画素値のカウント数Cが所定の基準値Sに達するまでX線照射及び画像データDの生成が行われるため、カウント数Cが基準値Sに達せず異常終了する確率が減る。また、照射制限回数を規定しているので、被検体Hが所定量以上被曝することはない。
【0100】
なお、本実施形態では、X線照射回数が照射制限回数に達した場合に、位相微分画像および位相コントラスト画像の生成が行わずに動作を終了しているが、この終了動作を行わずに位相微分画像及び位相コントラスト画像の生成を行い、これらを画像表示するとともにエラー報知を行ってもよい。
【0101】
この場合、異常画素値の補正を行うことが好ましい。この異常画素値の補正方法として、2つの補正方法がある。第1の補正方法は、画像データDにおいて異常画素値を、その周囲の正常画素値を用いて補正する方法である。第2の補正方法は、画像データDの状態で補正を行わずに、位相微分画像を生成した後、画像データD上での異常画素値に対応する画素値(異常位相微分値)を、その周囲の正常画素値に対応する画素値(正常位相微分値)を用いて補正する方法である。
【0102】
(第3実施形態)
上記第2実施形態では、画素部30ごとに正常画素値の数をカウントし、正常画素値のカウント数Cが所定の基準値Sに達するまでX線照射及び画像データDの生成を行っているが、画像データDが得られるたびに画像データDが正常であるか否かを判定し、所定枚の正常な画像データDが得られるまでX線照射及び画像データDの生成を行うようにしてもよい。
【0103】
本実施形態では、図10に示すように、第2実施形態と同様に、撮影指示がなされ(ステップS40でYES)、第2の格子22がk=0の初期位置に配置された状態でX線照射が行われ(ステップS41)、画像データDが生成されると(ステップS42)、異常画素値判定部40により、画像データDの各画素値I(x,y)が異常画素値であるか否かが判定される(ステップS43)。そして、システム制御部19により、画像データDが正常であるか否かが判定される(ステップS44)。この判定は、画像データD中の異常画素値の数が所定数未満であるか否かに基づいて行われる。なお、システム制御部19が画像データ判定部を構成する。
【0104】
次いで、画像データDが正常であると判定された場合には(ステップS44でYES)、システム制御部19により、所定枚(例えば、4枚)の正常な画像データDが得られたか否かが判定される(ステップS45)。ここでは、画像データDの1枚しか得られていないため、所定枚の正常な画像データDは得られていないと判定される(ステップS45でNO)。
【0105】
そして、システム制御部19により、撮影指示がなされてからのX線照射回数(画像データの生成回数)が照射制限回数に達したか否かが判定される(ステップS46)。ここでは、まだ1回しかX線照射が行われていないため、照射制限回数に達していないと判定される(ステップS46でNO)。この後、走査機構23により第2の格子22が1走査ピッチだけ移動され(ステップS47)、同様に、ステップS41〜S47が繰り返し実行される。なお、ステップS44において、画像データDが正常でないと判定された場(ステップS44でNO)合には、ステップS46に移行する。
【0106】
ステップS45において、所定枚の正常な画像データDが得られたと判定されると(ステップS45でNO)、第2実施形態と同様に、異常画素除去部41により異常画素値が除去されたうえで(ステップS48)、位相微分画像が生成され(ステップS49)、位相コントラスト画像が生成される(ステップS50)。そして、モニタ18bに、位相微分画像及び位相コントラスト画像が画像表示される(ステップS51)。
【0107】
なお、本実施形態では、X線照射回数が照射制限回数に達した場合に、位相微分画像および位相コントラスト画像の生成が行わずに動作を終了しているが、この終了動作を行わずに位相微分画像及び位相コントラスト画像の生成を行い、これらを画像表示するとともにエラー報知を行ってもよい。
【0108】
(第4実施形態)
上記第1実施形態では、異常画素値判定部40は、所定範囲(下限IMIN〜上限IMAX)に基づいて正常画素値及び異常画素値を判定しているが、本実施形態では、この判定基準をX線源11から放射されるX線量を計測することにより決定する。本実施形態では、第1実施形態と同一構成については同一の符号を付し、説明は省略する。
【0109】
図11において、本実施形態のX線撮影装置50は、第1実施形態の構成に加えて、X線量センサ51と判定基準決定部52とを備える。X線量センサ51は、X線画像検出器13の検出面13aにおいて、X線源11からX線が第1及び第2の格子21,22を介さずに照射される領域13b上に配置されている。
【0110】
判定基準決定部52は、X線の非照射時と照射時においてX線量センサ51により検出されるX線量に基づいて、下限IMINと上限IMAXとを決定する。異常画素値判定部40は、判定基準決定部52により決定された下限IMIN及び上限IMAXに基づいて正常画素値及び異常画素値の判定を行う。
【0111】
なお、判定基準決定部52による下限IMIN及び上限IMAXの決定は、X線源11からX線照射が行われるたびに行ってもよいが、第1回目のX線照射時にのみ行い、第2回目のX線照射時以降において、第1回目のX線照射時に決定された下限IMIN及び上限IMAXを用いてもよい。また、X線量センサ51を、X線画像検出器13の一部の画素部30を用いて構成してもよい。
【0112】
また、本実施形態の変形例として、図12に示すように、X線量センサ51に代えて、X線源11の管電流を計測する管電流時間積算部54を設けてもよい。管電流時間積算部54は、X線源11による各X線照射時に管電流を検出するとともに、検出した管電流を時間積算することによりX線量を計測する。判定基準決定部52は、管電流時間積算部54により得られるX線量に基づいて、下限IMINと上限IMAXとを決定する。
【0113】
なお、X線量センサ51に加えて管電流時間積算部54を設け、X線量センサ51と管電流時間積算部54との2つのX線量の検出値を考慮して下限IMINと上限IMAXとを決定してもよい。X線量センサ51または管電流時間積算部54が放射線量計測部を構成する。この放射線量モニタ部及び判定基準決定部を、上記第2及び第3実施形態に適用してもよいことは言うまでもない。
【0114】
(第5実施形態)
上記各実施形態では、X線画像検出器13により生成された画像データDから異常画素値判定部40により異常画素値を検出しているが、静電気放電が起因の場合には、異常画素値は、1枚の画像データD中に孤立して生じる場合があり、異常画素値の周囲の正常画素値で補正が可能な場合がある。
【0115】
そこで、本実施形態では、図13に示すように、X線画像検出器13により1枚の画像データDが生成された(ステップS60)後、異常画素値判定部40により画像データD中の異常画素値を判定する(ステップS61)。画像データD中の隣接画素同士の画素値の差は本来あまり大きくないが、静電気放電等により異常画素値が生じた場合には、異常画素値は、それに隣接する画素値との差が大きくなるため、隣接する画素値との比較により容易に検出可能である。
【0116】
次いで、ステップS61で判定された複数の異常画素値のうちから1つの異常画素値を選択し(ステップS62)、その周囲の正常画素値から補正可能であるか否かを判定する(ステップS63)。該異常画素値が孤立しており補正が可能な場合には(ステップS63でYES)、該異常画素値をその周囲の正常画素値で補正する(ステップS64)。一方、複数の正常画素値が塊状に生じており、周囲の正常画素値で補正が行えない場合には(ステップS63でNO)、補正処理は行わない。
【0117】
この後、選択中の異常画素値が最終の異常画素値であるか否かを判定し(ステップS65)、最終の異常画素値に達するまでの間、別の異常画素値を選択し(ステップS66)、ステップS63〜S65を繰り返し実行する。最終の異常画素値に達した場合には(ステップS65でYES)、画像データD中の異常画素値を確定する(ステップS67)。この後、確定された異常画素値が異常画素値除去部41により除去される。また、確定された正常画素値が正常画素値計数部44によりカウントされる。本実施形態のその他の構成及び作用は、上記各実施形態と同一である。
【0118】
(その他の実施形態)
上記各実施形態では、被検体Hを配置した状態でのみ撮影を行なっているが、被検体Hを配置せずに同様に撮影を行うことにより、位相微分画像を生成して、これをオフセット画像として記憶しておき、被検体Hを配置して撮影が行われた場合に生成された位相微分画像からオフセット画像を減算してもよい。このように被検体Hを配置せずに行う撮影についても本発明を適用可能である。
【0119】
また、上記各実施形態では、被検体HをX線源11と第1の格子21との間に配置しているが、被検体Hを第1の格子21と第2の格子22との間に配置してもよい。
【0120】
また、上記各実施形態では、縞走査時に第2の格子22を格子線に直交する方向(X方向)に移動させているが、本出願人により特願2011−097090号として出願されているように、第2の格子22を格子線に対して傾斜する方向(XY平面内でX方向及びY方向に直交しない方向)に移動させてもよい。この場合には、第2の格子22の移動のX方向成分に基づいて、走査位置kを設定すればよい。第2の格子22を格子線に対して傾斜する方向に移動させることにより、縞走査の一周期分の走査に要するストローク(移動距離)が長くなるため、移動精度が向上するといった利点がある。
【0121】
また、上記各実施形態では、縞走査時に第2の格子22を移動させているが、第2の格子22に代えて、第1の格子21を格子線に直交する方向または傾斜する方向に移動させてもよい。
【0122】
また、上記各第実施形態では、X線源11から射出されるコーンビーム状のX線を射出するX線源11を用いているが、平行ビーム状のX線を射出するX線源を用いることも可能である。この場合には、上式(1)に代えて、p=pをほぼ満たすように第1及び第2の格子21,22を構成すればよい。
【0123】
また、上記各実施形態では、X線源11から射出されたX線を第1の格子21に入射させており、X線源11は単一焦点であるが、X線源11の射出側直後に、WO2006/131235号公報等に記されたマルチスリット(線源格子)を設けることにより、X焦点を分散化してもよい。マルチスリットの格子線はY方向に平行である。これより、高出力のX線源を用いることが可能となり、X線量が向上するため、位相微分画像の画質が向上する。この場合、マルチスリットのピッチpは、下式(17)を満たす必要がある。ここで、距離Lは、マルチスリットから第1の格子21までのZ方向への距離を表す。
【0124】
【数17】

【0125】
その他の構成や作用については、上記各実施形態と同一である。本実施形態では、マルチスリットの位置がX線焦点の位置となるため、上記各実施形態において、距離Lを、距離Lに置き換えればよい。
【0126】
また、上記各実施形態では、縞走査において第1の格子21または第2の格子22を移動させているが、マルチスリットを設けた場合には、第1及び第2の格子21,22を固定したまま、マルチスリットを移動させることにより縞走査を行うことが可能である。この場合、マルチスリットのピッチpを前述のMで割った値(p/M)を走査ピッチとして、マルチスリットをX方向に間欠移動させればよい。これにより、第1及び第2の格子21,22に対するマルチスリット60の相対位置kは、k=0,1,2,・・・,M−1と順に変更される。その他の構成及び作用は、上記各実施形態と同一である。
【0127】
また、上記各実施形態では、第1の格子21が入射X線を幾何光学的に投影するように構成しているが、WO2004/058070号公報等で知られているように、第1の格子21をタルボ効果が生じる構成としてもよい。第1の格子21でタルボ効果を生じさせるためには、X線の空間干渉性を高めるように、小焦点のX線光源を用いるか、上記マルチスリットを用いて小焦点化すればよい。
【0128】
第1の格子21でタルボ効果が生じる場合には、第1の格子21の自己像(G1像)が、第1の格子21からZ方向下流にタルボ距離Zだけ離れた位置に生じるため、第1の格子21から第2の格子22までの距離Lをタルボ距離Zとする必要がある。この場合には、第1の格子21を位相型格子としてもよい。
【0129】
タルボ距離Zは、第1の格子21の構成とX線のビーム形状とに依存する。第1の格子21が吸収型格子であり、X線源11から射出されるX線がコーンビーム状である場合には、タルボ距離Zは、下式(18)で表される。ここで、mは正の整数である。この場合には、格子ピッチp,pは、上式(1)をほぼ満たすように設定される(ただし、マルチスリットを用いる場合には、距離Lは距離Lに置き換えられる)。
【0130】
【数18】

【0131】
また、第1の格子21がX線にπ/2の位相変調を与える位相型格子であり、X線源11から射出されるX線がコーンビーム状である場合には、タルボ距離Zは、下式(19)で表される。ここで、mは0または正の整数である。この場合には、格子ピッチp,pは、上式(1)をほぼ満たすように設定される(ただし、マルチスリットを用いる場合には、距離Lは距離Lに置き換えられる)。
【0132】
【数19】

【0133】
また、第1の格子21がX線にπの位相変調を与える位相型格子であり、X線源11から射出されるX線がコーンビーム状である場合には、タルボ距離Zは、下式(20)で表される。ここで、mは0または正の整数である。この場合には、G1像のパターン周期が第1の格子21の格子周期の1/2倍となるため、格子ピッチp,pは、次式(21)をほぼ満たすように設定される(ただし、マルチスリットを用いる場合には、距離Lは距離Lに置き換えられる)。
【0134】
【数20】


【数21】

【0135】
また、第1の格子21が吸収型格子であり、X線源11から射出されるX線が平行ビーム状である場合には、タルボ距離Zは、下式(22)で表される。ここで、mは正の整数である。この場合には、格子ピッチp,pは、p=pの関係をほぼ満たすように設定される。
【0136】
【数22】

【0137】
また、第1の格子21がX線にπ/2の位相変調を与える位相型格子であり、X線源11から射出されるX線が平行ビーム状である場合には、タルボ距離Zは、下式(22)で表される。ここで、mは0または正の整数である。この場合には、格子ピッチp,pは、p=pの関係をほぼ満たすように設定される。
【0138】
【数22】

【0139】
そして、第1の格子21がX線にπの位相変調を与える位相型格子であり、X線源11から射出されるX線が平行ビーム状である場合には、タルボ距離Zは、下式(23)で表される。ここで、mは0または正の整数である。この場合には、G1像のパターン周期が第1の格子21の格子周期の1/2倍となるため、格子ピッチp,pは、p=p/2の関係をほぼ満たすように設定される。
【0140】
【数23】

【0141】
上記各実施形態は、矛盾しない範囲で相互に組み合わせてもよい。本発明は、医療診断用の放射線撮影装置の他に、工業用の放射線撮影装置等に適用することが可能である。また、放射線は、X線以外に、ガンマ線等を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0142】
10 X線撮影装置
12 格子部
13 X線画像検出器
21 第1の格子
21a X線吸収部
21b X線透過部
22 第2の格子
22a X線吸収部
22b X線透過部
30 画素部
31 画素電極
33 ゲート走査線
35 信号線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線源に対向配置された複数の格子と、
前記複数の格子のうちいずれかを所定の走査ピッチで移動させ、複数の走査位置に順に設定する走査機構と、
前記各走査位置で、前記放射線源から放射され前記複数の格子を通過した放射線を検出して画像データを生成する放射線画像検出器と、
前記各画像データの各画素値が異常画素値であるか否かを所定の判定基準に基づいて判定する異常画素値判定部と、
前記各画像データから前記異常画素値を除去する異常画素値除去部と、
前記異常画素値が除去された前記各画像データに基づいて位相微分画像を生成する位相微分画像生成部と、
を備えることを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項2】
前記異常画素値以外の正常画素値の数を、前記各画像データにおいて対応する画素毎にカウントする正常画素値計数部を備えることを特徴とする請求項1に記載の放射線撮影装置。
【請求項3】
前記異常画素値判定部は、前記走査機構により設定される全ての前記複数の走査位置で前記放射線画像検出器により前記画像データが生成された後、前記判定を行うことを特徴とする請求項2に記載の放射線撮影装置。
【請求項4】
前記正常画素値の数が基準値より少ない画素が所定数以上存在する場合にエラー報知を行うエラー報知部を備えることを特徴とする請求項3に記載の放射線撮影装置。
【請求項5】
前記異常画素値判定部は、前記走査機構により設定される前記各走査位置で前記放射線画像検出器により前記画像データが生成されるたびに前記判定を行い、
前記正常画素値計数部は、前記異常画素値判定部により前記判定が行われるたびに前記正常画素値の数をカウントすることを特徴とする請求項2に記載の放射線撮影装置。
【請求項6】
前記走査機構は、前記正常画素値の数が基準値より少ない画素が所定数より少なくなるまで、前記複数の格子のうちいずれかを移動させて新たな走査位置を設定し、
前記放射線画像検出器は、前記走査機構により設定された新たな走査位置で前記画像データを生成することを請求項5に記載の放射線撮影装置。
【請求項7】
前記正常画素値の数が基準値より少ない画素が所定数以上とならないまま、前記画像データの生成回数が規定回数に達した場合に、エラー報知を行うエラー報知部を備えることを特徴とする請求項6に記載の放射線撮影装置。
【請求項8】
前記画像データ中の前記異常画素値の数に基づき、前記画像データが正常であるか否かを判定する画像データ判定部を備え、
前記走査機構は、所定枚の正常な画像データが得られるまで、前記複数の格子のうちいずれかを移動させて新たな走査位置を設定し、
前記放射線画像検出器は、前記走査機構により設定された新たな走査位置で前記画像データを生成することを請求項1に記載の放射線撮影装置。
【請求項9】
所定枚の正常な画像データが得られないまま、前記画像データの生成回数が規定回数に達した場合に、エラー報知を行うエラー報知部を備えることを特徴とする請求項8に記載の放射線撮影装置。
【請求項10】
前記判定基準は、前記正常画素値が取り得る下限及び上限により規定されていることを特徴とする請求項1から9いずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項11】
前記放射線源から放射される放射線の放射線量を計測する放射線量計測部と、前記放射線量検出部により検出された放射線量に基づいて前記判定基準を決定する判定基準決定部と、を備えることを特徴とする請求項10に記載の放射線撮影装置。
【請求項12】
前記放射線量計測部は、前記放射線源から放射される放射線の放射線量を、前記複数の格子を介さずに検出する放射線量センサであることを特徴とする請求項11に記載の放射線撮影装置。
【請求項13】
前記放射線量計測部は、前記放射線源の管電流を検出するとともに、検出した管電流を時間積算することにより放射線量を計測する管電流時間積算部であることを特徴とする請求項11に記載の放射線撮影装置。
【請求項14】
前記位相微分画像を積分処理して位相コントラスト画像を生成する位相コントラスト画像生成部を備えることを特徴とする請求項1から13いずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項15】
前記異常画素値判定部により判定された異常画素値が補正可能であるか否かを判定する補正可否判定部と、前記補正可否判定部により補正可能と判定された異常画素値を、その周辺の正常画素値に基づいて補正する補正処理部と、を備えることを特徴とする請求項1から14いずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項16】
前記複数の格子は、放射線源から放射された放射線を通過させて第1の周期パターン像を生成する第1の格子と、前記第1の周期パターン像を部分的に遮蔽して第2の周期パターン像を生成する第2の格子とからなり、
前記走査機構は、前記第1の格子または前記第2の格子を移動させることを特徴とする請求項1から15いずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項17】
前記複数の格子は、前記放射線源から放射された放射線を部分的に遮蔽して焦点を分散化する線源格子と、前記線源格子から射出される放射線を通過させて第1の周期パターン像を生成する第1の格子と、前記第1の周期パターン像を部分的に遮蔽して第2の周期パターン像を生成する第2の格子とからなり、
前記走査機構は、前記線源格子、前記第1の格子、前記第2の格子のうちいずれかを移動させることを特徴とする請求項1から15いずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項18】
前記第1の格子は、吸収型格子であり、入射した放射線を幾何光学的に投影することにより前記第1の周期パターン像を生成することを特徴とする請求項1から17いずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項19】
前記第1の格子は、吸収型格子または位相型格子であり、入射した放射線にタルボ効果を生じさせて前記第1の周期パターン像を生成することを特徴とする請求項1から17いずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項20】
放射線源に対向配置された複数の格子のうちいずれかを所定の走査ピッチで移動させ、複数の走査位置に順に設定するステップと、
前記各走査位置で、前記放射線源から放射され前記複数の格子を通過した放射線を放射線画像検出器により検出して画像データを生成するステップと、
前記各画像データの各画素値が異常画素値であるか否かを所定の判定基準に基づいて判定するステップと、
前記各画像データから前記異常画素値を除去するステップと、
前記異常画素値が除去された前記各画像データに基づいて位相微分画像を生成するステップと、
を備えることを特徴とする放射線撮影方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−106882(P2013−106882A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256032(P2011−256032)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】