説明

放射線撮影装置

【課題】縞走査法を用いて被検体の位相微分画像を生成する放射線撮影装置において、格子の移動精度を向上させる。
【解決手段】X線源とX線画像検出器との間に第1の格子21と第2の格子22とが対向配置されている。走査機構は、第1の格子21に対して第2の格子22を、格子線に直交する方向(x方向)に対して角θをなす方向に相対的に並進移動させ、第1の格子21に対する第2の格子22の相対位置を複数の走査位置に順に設定する。X線画像検出器は、各走査位置において、第2の格子22により生成されるG2像を検出して画像データを生成する。位相微分画像生成部は、X線画像検出器により生成される複数の画像データに基づいて位相微分画像を生成する。第1及び第2の格子21,22に代えて、線源格子を上記方向に並進移動させてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、格子を用いて位相イメージングを行う放射線撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線、例えばX線は、物質を構成する元素の原子番号と、物質の密度及び厚さとに依存して減衰するといった特性を有することから、被検体の内部を透視するためのプローブとして用いられている。X線を用いた撮影は、医療診断や非破壊検査等の分野において広く普及している。
【0003】
一般的なX線撮影装置では、X線を放射するX線源とX線を検出するX線画像検出器との間に被検体を配置して、被検体の透過像を撮影する。この場合、X線源からX線画像検出器に向けて放射されたX線は、X線画像検出器までの経路上に存在する物質の特性(原子番号、密度、厚さ)の差異に応じた量の減衰(吸収)を受けた後、X線画像検出器の画素に入射する。この結果、被検体のX線吸収像がX線画像検出器により検出され画像化される。X線画像検出器としては、X線増感紙とフイルムとの組み合わせや輝尽性蛍光体のほか、半導体回路を用いたフラットパネル検出器(FPD:Flat Panel Detector)が広く用いられている。
【0004】
しかし、X線吸収能は原子番号が小さい元素からなる物質ほど低くなるため、生体軟部組織やソフトマテリアルなどでは、X線吸収像に十分な濃淡(コントラスト)が得られないといった問題がある。例えば、人体の関節を構成する軟骨部とその周辺の関節液は、いずれも殆どの成分が水であり、両者のX線吸収能の差が小さいため、コントラストが得られにくい。
【0005】
近年、被検体のX線吸収能の違いによるX線の強度変化に代えて、被検体の屈折率の違いによるX線の位相変化に基づいた位相コントラスト画像を得るX線位相イメージングの開発が進められている。この位相変化に基づいたX線位相イメージングでは、X線吸収能が低い弱吸収物体であっても高コントラストの画像を取得することができる。
【0006】
このようなX線位相イメージングを可能とするX線撮影装置として、X線源とX線画像検出器との間に、第1及び第2の格子を所定の間隔で平行に配置し、X線源から第1及び第2の格子を通過することにより生成されるX線像をX線画像検出器で撮影することにより位相コントラス画像を取得するX線撮影装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
特許文献1に記載のX線撮影装置では、第1の格子に対して第2の格子を、格子方向にほぼ垂直な方向に、格子ピッチよりも小さい所定量ずつ相対的に並進移動させながら、並進移動を行うたびに撮影を行って複数の画像データを生成し、これらの複数の画像データに基づいて、被検体との相互作用によって生じたX線の位相変化量を検出して位相微分画像を生成する縞走査法が行われる。この位相微分画像に基づいて被検体の位相コントラスト画像を取得することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2004/058070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載のX線撮影装置では、格子ピッチが数μmであり、これを分割したサブミクロンオーダの微小なピッチで第1の格子または第2の格子を並進移動させる必要があるため、格子の移動精度が低いと位相微分画像の算出精度が低下し、画質が劣化してしまう。このため、格子の移動精度の向上が望まれている。
【0010】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、縞走査法を用いて被検体の位相微分画像を生成する放射線撮影装置において、格子の移動精度を向上させることを可能とする放射線撮影装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の放射線撮影装置は、放射線源から放射された放射線を通過させて第1の周期パターン像を生成する第1の格子と、前記第1の周期パターン像を部分的に遮蔽することにより第2の周期パターン像を生成する第2の格子と、前記第1の格子に対して前記第2の格子を、格子線方向及びその直交方向に対して傾斜する方向に相対的に並進移動させ、前記第1の格子に対する第2の格子の相対位置を複数の走査位置に順に設定する走査機構と、前記各走査位置において前記第2の周期パターン像を検出して画像データを生成する放射線画像検出器と、前記放射線画像検出器により生成される複数の画像データに基づいて位相微分画像を生成する位相微分画像生成部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の放射線撮影装置は、前記放射線源から放射された放射線を部分的に遮蔽して焦点を分散化する線源格子と、前記放射線源から前記線源格子を介して放射された放射線を通過させて第1の周期パターン像を生成する第1の格子と、前記第1の周期パターン像を部分的に遮蔽することにより第2の周期パターン像を生成する第2の格子と、前記線源格子を格子線方向及びその直交方向に対して傾斜する方向に相対的に並進移動させ、前記線源格子を複数の走査位置に順に設定する走査機構と、前記各走査位置において前記第2の周期パターン像を検出して画像データを生成する放射線画像検出器と、前記放射線画像検出器により生成される複数の画像データに基づいて位相微分画像を生成する位相微分画像生成部と、を備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の放射線撮影装置は、放射線源から放射された放射線を通過させて第1の周期パターン像を生成する第1の格子と、前記第1の格子を格子線方向及びその直交方向に対して傾斜する方向に相対的に並進移動させて複数の走査位置に順に設定する走査機構と、前記各走査位置において前記第1の周期パターン像を検出して画像データを生成する放射線画像検出器と、前記放射線画像検出器により生成される複数の画像データに基づいて位相微分画像を生成する位相微分画像生成部と、を備えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の放射線撮影装置は、前記放射線源から放射された放射線を部分的に遮蔽して焦点を分散化する線源格子と、前記放射線源から前記線源格子を介して放射された放射線を通過させて第1の周期パターン像を生成する第1の格子と、前記線源格子を格子線方向及びその直交方向に対して傾斜する方向に相対的に並進移動させ、前記線源格子を複数の走査位置に順に設定する走査機構と、前記各走査位置において前記第1の周期パターン像を検出して画像データを生成する放射線画像検出器と、前記放射線画像検出器により生成される複数の画像データに基づいて位相微分画像を生成する位相微分画像生成部と、を備えることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の放射線撮影装置は、前記位相微分画像を積分処理することにより位相コントラスト画像を生成する位相コントラスト画像生成部を備える。
【0016】
前記第1の格子は、吸収型格子であり、入射した放射線を前記第2の格子に幾何光学的に投影することにより前記第1の周期パターン像を生成する。
【0017】
前記第1の格子は、吸収型格子または位相型格子であり、入射した放射線にタルボ効果を生じさせ前記第1の周期パターン像を生成するものであってもよい。
【0018】
前記位相微分画像生成部は、前記走査位置に対する画素値の変化を表す強度変調信号の位相を算出することにより前記位相微分画像を生成する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、第1の格子、第2の格子、線源格子のうちいずれかの格子を、格子線方向及びその直交方向に対して傾斜する方向に並進移動させるので、縞走査の一周期分の走査に要するストローク(移動距離)が長くなり、格子の移動精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】X線撮影装置の構成を示す概略図である。
【図2】第2の格子の並進移動方向を説明する概略平面図である。
【図3】X線画像検出器の構成を示す模式図である。
【図4】第1及び第2の格子の構成を示す概略側面図である。
【図5】第2の格子の並進移動を説明する図である。
【図6】強度変調信号を例示するグラフである。
【図7】第4の実施形態のX線撮影装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1の実施形態)
図1において、X線撮影装置10は、X線源11、撮影部12、メモリ13、画像処理部14、画像記録部15、撮影制御部16、コンソール17、及びシステム制御部18を備えている。X線源11は、例えば、回転陽極型のX線管と、X線の照射野を制限するコリメータとを有し、被検体Hに向けてX線を放射する。
【0022】
撮影部12は、X線画像検出器20と、第1及び第2の格子21,22とを備える。第1及び第2の格子21,22は、吸収型格子であり、X線照射方向であるz方向に関してX線源11に対向配置されている。X線源11と第1の格子21との間には、被検体Hが配置可能な間隔が設けられている。X線画像検出器20は、例えば、半導体回路を用いたフラットパネル検出器であり、第2の格子22の背後に、検出面20aがz方向に直交するように配置されている。
【0023】
第1の格子21は、z方向に直交する格子面内の一方向であるy方向に延伸された複数のX線吸収部21a及びX線透過部21bを備えている。X線吸収部21a及びX線透過部21bは、z方向及びy方向に直交するx方向に沿って交互に配列されており、縞状のパターンを形成している。第2の格子22は、第1の格子21と同様にy方向に延伸され、かつx方向に沿って交互に配列された複数のX線吸収部22a及びX線透過部22bを備えている。X線吸収部21a,22aは、金(Au)、白金(Pt)等のX線吸収性を有する金属からなる。X線透過部21b,22bは、シリコン(Si)や樹脂等のX線透過性を有する材料からなる。
【0024】
第1の格子21は、X線源11から放射されたX線を部分的に通過させて第1の周期パターン像(以下、G1像という)を生成する。第2の格子22は、第1の格子21により生成されたG1像を部分的に透過させて第2の周期パターン像(以下、G2像という)を生成する。G1像は、第2の格子22の格子パターンとほぼ一致する。
【0025】
X線画像検出器20は、G2像を検出して画像データを生成する。メモリ13は、X線画像検出器20から読み出された画像データを一時的に記憶する。画像処理部14は、位相微分画像生成部14aと位相コントラスト画像生成部14bとにより構成されている。位相微分画像生成部14aは、メモリ13に記憶された画像データに基づいて位相微分画像を生成する。位相コントラスト画像生成部14bは、位相微分画像に基づいて位相コントラスト画像を生成する。画像記録部15は、位相微分画像や位相コントラスト画像を記録する。撮影制御部16は、X線源11及び撮影部12の制御を行う。
【0026】
撮影部12には、第2の格子22を並進移動させ、第1の格子21に対する第2の格子22の相対位置を変更する走査機構23が設けられている。走査機構23は、図2に示すように、第2の格子22を、格子線方向(y方向)及びその直交方向(x方向)に対して傾斜する方向に並進移動させる。本実施形態では、x方向に対して第2の格子22の移動方向がなす角θを45°とする。
【0027】
走査機構23は、圧電アクチュエータや静電アクチュエータにより構成されている。走査機構23は、後述する縞走査の際に、撮影制御部16の制御に基づいて駆動される。詳しくは後述するが、メモリ13には、縞走査の各走査位置でX線画像検出器20により撮影される画像データがそれぞれ記憶される。
【0028】
コンソール17は、撮影条件の設定や撮影実行指示等の操作を可能とする操作部17aと、撮影情報や、表示用位相微分画像、位相コントラスト画像等の表示を行うモニタ17bを備えている。システム制御部18は、操作部17aから入力される信号に応じて各部を統括的に制御する。
【0029】
図3において、X線画像検出器20は、入射X線によりアモルファスセレン(a−Se)等の半導体膜に生じた電荷を収集する画素電極31と、画素電極31によって収集された電荷を読み出すためのTFT(Thin Film Transistor)32とを備えた画素30が2次元状に多数配列されたものである。また、X線画像検出器20は、画素30の行ごとに設けられたゲート走査線33と、各ゲート走査線33にTFT32をオンオフするための走査信号を付与する走査回路34と、画素30の列ごとに設けられた信号線35と、信号線35を介して画素30から電荷を読み出し、画像データに変換して出力する読み出し回路36とから構成されている。なお、各画素30の詳細な層構成については、特開2002−26300号公報に記載されている層構成と同様である。
【0030】
読み出し回路36は、積分アンプ、A/D変換器、補正回路(いずれも図示せず)等により構成されている。積分アンプは、各画素30から信号線35を介して出力された電荷を積分して画像信号を生成する。A/D変換器は、積分アンプにより生成された画像信号を、デジタル形式の画像データに変換する。補正回路は、画像データに対して、暗電流補正、ゲイン補正、及びリニアリティ補正等を行い、補正後の画像データをメモリ13に入力する。
【0031】
X線画像検出器20は、入射X線を電荷に直接変換する直接変換型に限られず、ヨウ化セシウム(CsI)やガドリウムオキシサルファイド(GOS)等のシンチレータで入射X線を可視光に変換し、可視光をフォトダイオードで電荷に変換する間接変換型であってもよい。さらに、TFTに代えて、CMOSセンサ等を用いることも可能である。
【0032】
図4において、X線源11から照射されるX線は、X線焦点11aを発光点としたコーンビームである。第1及び第2の格子21,22は、X線透過部21b,22bを通過したX線を幾何光学的に投影するように構成される。具体的には、x方向に関するX線透過部21b,22bの幅を、X線源11から照射されるX線のピーク波長より十分大きな値とする。これにより、第1及び第2の格子21,22は、X線の大部分を回折させずに、直進性を保ったまま通過させる。例えば、X線源11の回転陽極としてタングステンを用い、管電圧を50kVとした場合には、X線のピーク波長は約0.4Åである。この場合には、X線透過部21b,22bのx方向の幅を1〜10μm程度とすればよい。
【0033】
第1の格子21により生成されるG1像は、X線焦点11aからの距離に比例して拡大される。本実施形態においては、第2の格子22の格子ピッチpは、第2の格子22の位置におけるG1像の周期パターンと一致するように決定される。すなわち、第2の格子22の格子ピッチpは、第1の格子21の格子ピッチをp、X線焦点11aと第1の格子21との間の距離L、第1の格子21と第2の格子22との間の距離Lとした場合、下式(1)をほぼ満たすように決定される。
【0034】
【数1】

【0035】
X線源11と第1の格子21との間に被検体Hを配置するとG2像が被検体Hにより変調を受ける。この変調量には、被検体Hでの屈折によって偏向したX線の角度が反映される。同図には、被検体Hの位相シフト分布Φ(x)に応じて屈折するX線の1つの経路が例示されている。符号X1は、被検体Hが存在しない場合にX線が直進する経路を示している。この経路X1を進むX線は、第1及び第2の格子21,22を通過してX線画像検出器20に入射する。符号X2は、被検体Hが存在する場合に、被検体Hにより屈折したX線の経路を示している。この経路X2を進むX線は、第1の格子21を通過した後、第2の格子22のX線吸収部22aにより吸収される。
【0036】
被検体Hの位相シフト分布Φ(x)は、被検体Hの屈折率分布をn(x,z)として、下式(2)で表される。ここで、説明の簡略化のため、y座標は省略している。
【0037】
【数2】

【0038】
第2の格子22の位置に形成されたG1像は、被検体HでのX線の屈折により、その屈折角φに応じた量だけx方向に変位する。この変位量Δxは、X線の屈折角φが微小であることに基づいて、近似的に下式(3)で表される。
【0039】
【数3】

【0040】
ここで、屈折角φは、X線の波長λと被検体Hの位相シフト分布Φ(x)を用いて、下式(4)で表される。
【0041】
【数4】

【0042】
このように、変位量Δxは、被検体Hの位相シフト分布Φ(x)に関連している。そして、変位量Δx及び屈折角φは、X線画像検出器20により検出される各画素の強度変調信号の位相ズレ量ψ(被検体Hがある場合とない場合とでの強度変調信号の位相ズレ量)と、下式(5)に示すように関連している。
【0043】
【数5】

【0044】
したがって、上式(4)及び(5)により、強度変調信号の位相ズレ量ψが位相シフト分布Φ(x)の微分量に対応することが分かる。この微分量をxについて積分することにより、位相シフト分布Φ(x)、すなわち位相コントラスト画像が生成される。
【0045】
縞走査法では、強度変調信号を得るために、第1及び第2の格子21,22の一方を他方に対して相対的に並進移動(走査)させながら、所定の複数の走査位置でG2像の撮影を行う。本実施形態では、第1の格子21を固設し、走査機構23により、第2の格子22を、xy平面内でx方向に対して角度θをなす方向に移動させる。G2像にはモアレ縞が生じる。このモアレ縞は、第2の格子22の移動に伴って移動し、x方向への移動距離が第2の格子22の格子周期(格子ピッチp)に達すると元の位置に戻る。
【0046】
図5は、配列ピッチpをM(2以上の整数)個に分割した値(p/M)を走査ピッチとし、この走査ピッチごとに第2の格子22を並進移動させる様子を模式的に示している。走査機構23は、k=0,1,2,・・・,M−1のM個の各走査位置に、第2の格子22を順に移動させる。具体的には、走査機構23は、第2の格子22を、下式(6)で表される距離Sを単位として、xy平面内でx方向に対して角度θをなす方向に段階的に移動させる。
【0047】
【数6】

【0048】
k=0の位置では、主として、X線源11から放射され被検体Hにより屈折されなかったX線が第2の格子22を通過する。k=1,2,・・・と順に第2の格子22を移動させていくと、第2の格子22を通過するX線は、被検体Hにより屈折されなかった成分が減少する一方で、被検体Hにより屈折された成分が増加する。特に、k=M/2の位置では、第2の格子22を通過するX線は、ほぼ被検体Hにより屈折された成分のみとなる。k=M/2の位置を超えると、第2の格子22を通過するX線は、被検体Hにより屈折された成分が減少する一方で、被検体Hにより屈折されなかった成分が増加する。
【0049】
k=0,1,2,・・・,M−1の各走査位置で、X線画像検出器20によりG2像の撮影を行うと、メモリ13にM枚の画像データが記憶される。各画素30について得られるM個の画素値が上記強度変調信号を構成する。
【0050】
具体的には、各画素30で得られたM個の画素値は、図6に例示するように、走査位置kに対して周期的に変化する。同図中の破線は、被検体Hを配置しない状態で得られる強度変調信号を例示している。これに対して、実線は、被検体Hを配置した状態で、被検体Hの影響により位相ズレ量ψ(x,y)が生じた強度変調信号を例示している。ここで、x,yは、画素30の座標を示している。
【0051】
次に、位相ズレ量ψ(x,y)の算出原理について説明する。走査位置kに対する画素値I(x,y)の変化を表す強度変調信号は、一般に下式(7)で表される。
【0052】
【数7】

【0053】
ここで、Aは入射X線の強度に対応し、Aは強度変調信号の振幅に対応する値である。nは正の整数、iは虚数単位である。
【0054】
格子ピッチpを等分割し、走査ピッチを一定とした場合には、下式(8)が成立する。この関係式を適用すると、位相ズレ量ψ(x,y)は、下式(9)で表される。
【0055】
【数8】

【数9】

【0056】
さらに、位相ズレ量ψ(x,y)は、三角関数を用いて下式(10)のように表される。以下、位相ズレ量ψ(x,y)を位相微分値ψ(x,y)と称する。
【0057】
【数10】

【0058】
位相微分画像生成部14aは、縞走査により取得されメモリ13に記憶されたM枚の画像データに基づき、上式(10)を用いて演算を行うことにより位相微分画像を生成する。位相コントラスト画像生成部14bは、位相微分画像生成部14aにより生成された位相微分画像をx方向に沿って積分処理することにより位相コントラスト画像を生成する。
【0059】
次に、以上のように構成されたX線撮影装置10の作用を説明する。操作部17aから撮影指示が入力されると、走査機構23により第2の格子22が、距離Sを単位として、xy平面内でx方向に対して角度θをなす方向に段階的に並進移動され、各走査位置kにおいて、X線源11によるX線照射及びX線画像検出器20によるG2像の検出が行われる。この結果、X線画像検出器20によりM枚の画像データが生成され、メモリ13に格納される。
【0060】
この後、画像処理部14によりメモリ13に格納されたM枚の画像データが読み出される。画像処理部14内では、位相微分画像生成部14aにより位相微分画像が生成され、生成された位相微分画像は、位相コントラスト画像生成部14に入力される。位相コントラスト画像生成部14bでは、積分処理が行われ位相コントラスト画像が生成される。
【0061】
そして、位相コントラスト画像及び位相微分画像は、画像記録部15に記録された後、コンソール17に入力され、モニタ17bに表示される。
【0062】
本実施形態では、走査機構23による第2の格子22の移動方向を、x方向に対して角度θをなす方向としているため、縞走査の一周期分の走査に要するストロークが、x方向に移動させる場合の1/cosθ倍に増大する。このため、走査機構23による各走査位置への第2の格子22の移動精度が向上し、強度変調信号が精度よく得られるため、位相微分画像の画質が向上する。
【0063】
なお、上記第1の実施形態では、第2の格子22を移動させているが、これに代えて、第1の格子21を移動させてもよい。この場合も同様に、第1の格子21をxy平面内でx方向に対して角度θ(例えば、45°)をなす方向に段階的に移動させる。
【0064】
また、上記第1の実施形態では、強度変調信号の位相ズレ量を位相微分値としているが、これを定数倍したものを位相微分値としてもよい。
【0065】
また、上記第1の実施形態では、位相微分画像の生成を行っているが、これに加えて、吸収画像や小角散乱画像を生成してもよい。吸収画像は、図6に例示した強度変調信号の平均値を求めることにより生成される。小角散乱画像は、強度変調信号の振幅を求めることにより生成される。
【0066】
また、上記第1の実施形態では、被検体HをX線源11と第1の格子21との間に配置しているが、被検体Hを第1の格子21と第2の格子22との間に配置してもよい。
【0067】
また、上記第1の実施形態では、X線源11から射出されるX線をコーンビームとしているが、これに代えて、平行ビームを射出するX線源を用いることも可能である。この場合には、上式(1)に代えて、p=pをほぼ満たすように第1及び第2の格子21,22を構成すればよい。
【0068】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。上記第1の実施形態では、X線源11は単一焦点であるが、第2の実施形態のX線撮影装置では、X線源11の射出側直後に、WO2006/131235号公報等に記されたマルチスリット(線源格子)を設け、焦点を分散化する。これより、高出力のX線源を用いることが可能となり、X線量が向上するため、位相微分画像の画質が向上する。この場合、マルチスリットのx方向への格子ピッチpは、下式(11)を満たす必要がある。本実施形態では、距離Lは、マルチスリットから第1の格子21までの距離である。
【0069】
【数11】

【0070】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。上記第1の実施形態では、第1の格子21に対して第2の格子22を並進移動させて縞走査を行っているが、第3の実施形態のX線撮影装置では、図7に示すように、X線源11の射出側直後に設けたマルチスリット40を、走査機構41により並進移動させることにより縞走査を行う。
【0071】
走査機構41は、マルチスリット40を、下式(12)で表される距離Sを単位として、xy平面内でx方向に対して角度θをなす方向に段階的に移動させる。これにより、マルチスリット40は、k=0,1,2,・・・,M−1の各走査位置に移動され、各走査位置でX線画像検出器20によりG2像の検出が行われる。その他の構成や作用については、第1の実施形態と同一である。
【0072】
【数12】

【0073】
(第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。上記第1の実施形態では、第1の格子21が入射X線を回折せずに幾何光学的に投影する構成としているが、第4の実施形態のX線撮影装置では、特開2008−200361号公報等に記されているように、第1の格子21でタルボ効果が生じる構成とする。タルボ効果を生じさせるためには、X線の空間干渉性を高めるように、小焦点のX線光源を用いるか、上記のようなマルチスリットを有するX線源を用いればよい。
【0074】
タルボ効果が生じる場合には、第1の格子21の自己像(G1像)は、第1の格子21から下流にタルボ距離Zだけ離れた位置に生じる。このため、本実施形態では、第1の格子21から第2の格子22までの距離Lをタルボ距離Zに設定する必要がある。その他の構成や作用については、第1の実施形態と同一である。
【0075】
第1の格子21が吸収型格子であり、X線源11から射出されるX線がコーンビームである場合には、タルボ距離Zは、下式(13)で表される。ここで、mは正の整数である。
【0076】
【数13】

【0077】
また、第1の格子21がπ/2の位相変調を与える位相型格子であり、X線源11から射出されるX線がコーンビームである場合には、タルボ距離Zは、下式(14)で表される。ここで、mは0または正の整数である。
【0078】
【数14】

【0079】
また、第1の格子21がπの位相変調を与える位相型格子であり、X線源11から射出されるX線がコーンビームである場合には、タルボ距離Zは、下式(15)で表される。ここで、mは0または正の整数である。
【0080】
【数15】

【0081】
また、第1の格子21が吸収型格子であり、X線源11から射出されるX線が平行ビームである場合には、タルボ距離Zは、下式(16)で表される。ここで、mは正の整数である。
【0082】
【数16】

【0083】
また、第1の格子21がπ/2の位相変調を与える位相型格子であり、X線源11から射出されるX線が平行ビームである場合には、タルボ距離Zは、下式(17)で表される。ここで、mは0または正の整数である。
【0084】
【数17】

【0085】
そして、第1の格子21がπの位相変調を与える位相型格子であり、X線源11から射出されるX線が平行ビームである場合には、タルボ距離Zは、下式(18)で表される。ここで、mは0または正の整数である。
【0086】
【数18】

【0087】
(第5の実施形態)
次に、本発明の第5の実施形態について説明する。上記第1の実施形態では、第1の格子21により生成されたG1像を第2の格子22によりG2像としてX線画像検出器20で検出を行っているが、第5の実施形態のX線撮影装置では、第2の格子22を排し、WO2004/058070号公報に記されているように、高空間分解能のX線画像検出器を用いて第1の格子21により生成されるG1像を直接検出し、画像データを生成する。
【0088】
本実施形態では、走査機構により、第1の格子21を、下式(19)で表される距離Sを単位として、xy平面内でx方向に対して角度θをなす方向に段階的に移動させ、各走査位置でX線画像検出器によりG1像の検出を行う。その他の構成や作用については、第1の実施形態と同一である。
【0089】
【数19】

【0090】
なお、本実施形態の変形例として、上記第2の実施形態のように、X線源11の射出側直後にマルチスリットを設けてもよい。また、上記第3の実施形態のように、第1の格子21に代えてマルチスリットを移動させてもよい。さらに、上記第4の実施形態のように、第1の格子21でタルボ効果が生じる構成とする場合には、第1の格子21からz方向下流にタルボ距離Zだけ離れた位置にX線画像検出器を配置すればよい。
【0091】
本発明は、医療診断用の放射線撮影装置に限定されず、工業用等のその他の放射線撮影装置に適用することが可能である。また、放射線はX線に限られず、ガンマ線等を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0092】
10 X線撮影装置
20 X線画像検出器
21 第1の格子
21a X線吸収部
21b X線透過部
22 第2の格子
22a X線吸収部
22b X線透過部
30 画素
31 画素電極
33 ゲート走査線
35 信号線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線源から放射された放射線を通過させて第1の周期パターン像を生成する第1の格子と、
前記第1の周期パターン像を部分的に遮蔽することにより第2の周期パターン像を生成する第2の格子と、
前記第1の格子に対して前記第2の格子を、格子線方向及びその直交方向に対して傾斜する方向に相対的に並進移動させ、前記第1の格子に対する第2の格子の相対位置を複数の走査位置に順に設定する走査機構と、
前記各走査位置において前記第2の周期パターン像を検出して画像データを生成する放射線画像検出器と、
前記放射線画像検出器により生成される複数の画像データに基づいて位相微分画像を生成する位相微分画像生成部と、
を備えることを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項2】
前記放射線源から放射された放射線を部分的に遮蔽して焦点を分散化する線源格子と、
前記放射線源から前記線源格子を介して放射された放射線を通過させて第1の周期パターン像を生成する第1の格子と、
前記第1の周期パターン像を部分的に遮蔽することにより第2の周期パターン像を生成する第2の格子と、
前記線源格子を格子線方向及びその直交方向に対して傾斜する方向に相対的に並進移動させ、前記線源格子を複数の走査位置に順に設定する走査機構と、
前記各走査位置において前記第2の周期パターン像を検出して画像データを生成する放射線画像検出器と、
前記放射線画像検出器により生成される複数の画像データに基づいて位相微分画像を生成する位相微分画像生成部と、
を備えることを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項3】
放射線源から放射された放射線を通過させて第1の周期パターン像を生成する第1の格子と、
前記第1の格子を格子線方向及びその直交方向に対して傾斜する方向に相対的に並進移動させて複数の走査位置に順に設定する走査機構と、
前記各走査位置において前記第1の周期パターン像を検出して画像データを生成する放射線画像検出器と、
前記放射線画像検出器により生成される複数の画像データに基づいて位相微分画像を生成する位相微分画像生成部と、
を備えることを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項4】
前記放射線源から放射された放射線を部分的に遮蔽して焦点を分散化する線源格子と、
前記放射線源から前記線源格子を介して放射された放射線を通過させて第1の周期パターン像を生成する第1の格子と、
前記線源格子を格子線方向及びその直交方向に対して傾斜する方向に相対的に並進移動させ、前記線源格子を複数の走査位置に順に設定する走査機構と、
前記各走査位置において前記第1の周期パターン像を検出して画像データを生成する放射線画像検出器と、
前記放射線画像検出器により生成される複数の画像データに基づいて位相微分画像を生成する位相微分画像生成部と、
を備えることを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項5】
前記位相微分画像を積分処理することにより位相コントラスト画像を生成する位相コントラスト画像生成部を備えること特徴とする請求項1から4いずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項6】
前記第1の格子は、吸収型格子であり、入射した放射線を前記第2の格子に幾何光学的に投影することにより前記第1の周期パターン像を生成することを特徴とする請求項1から5いずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項7】
前記第1の格子は、吸収型格子または位相型格子であり、入射した放射線にタルボ効果を生じさせ前記第1の周期パターン像を生成することを特徴とする請求項1から5いずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項8】
前記位相微分画像生成部は、前記走査位置に対する画素値の変化を表す強度変調信号の位相を算出することにより前記位相微分画像を生成することを特徴とする請求項1から7いずれか1項に記載の放射線撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−228301(P2012−228301A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97090(P2011−97090)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】