説明

放射線検出器の製造方法

【課題】高エネルギーγ線等の高エネルギー放射線に対しても、高感度かつ高いエネルギー識別能力を有するとともに、高い画像分解能を備えた半導体放射線画像検出器を得るための製造方法を提供する。
【解決手段】CdTe単結晶ウェーハ11上にp型CdTe単結晶層12をMOVPE法によりエピタキシャル成長させて形成する。次にp型Si単結晶基板14に導電性樹脂をコートし、前記CdTe単結晶ウェーハ上のp型CdTe単結晶層12と貼り合わせて硬化する。さらにCdTe単結晶ウェーハ11の非接合面およびSi単結晶基板14の非接合面にAuを蒸着して電極15および16を形成する。その後、溝17をCdTe単結晶ウェーハ側の電極16側よりSi単結晶基板14の内部に到達する深さで、X方向およびY方向にそれぞれ形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用放射線診断装置、工業用X線検査装置等に用いられる半導体放射線画像検出器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体放射線検出器としては、大面積化、高感度化、さらには高分解能化の要求が従来あったが、これらの項目をいずれも満足する半導体放射線検出器は実用化されていない。放射線検出用材料として、テルル化カドミウム(以下、CdTeと記す)あるいはテルル化亜鉛カドミウム(以下、CdZnTeと記す)等の高比抵抗結晶が用いられているが、CdTe、CdZnTeの大型バルク結晶を得ることが困難な状況である。
【0003】
そこで、n型Si単結晶基板上にMOVPE法によって、p型CdTe層を0.1〜0.5mm程度エピタキシャル成長により形成し、p型CdTe層の表面からSi基板に達する素子分離溝を直交するように多数設けて、Si単結晶基板裏面側の共通電極と、p型CdTe層の表面側の電極とによって二次元的に配列した多数のヘテロ接合構造の検出素子を有する半導体検出器が開示されている(特許文献1)。本検出器はSi単結晶基板を用いるため、大面積化が可能であるが、p型CdTe層を0.1〜0.5mm程度形成しても、高エネルギーの放射線を検出する感度が十分ではなかった。また、感度を上げるためp型CdTe層を数mmの厚みにエピタキシャル成長させるには長時間要するため、実現が困難である。
【0004】
一方、図4に示すように、10mm角、厚さ2mmのCdZnTeバルク結晶の厚み方向の一方の面に共通電極を設け、他方の面に複数の電極を設けて、複数の画像検出素子を有する放射線検出器が報告されている(非特許文献1)。裏面共通電極と表面各電極との間にバイアス電圧を印加し、裏面共通電極と表面各電極との間に発生する電界により、入射放射線によって発生する電子あるいは正孔を電極に引き出し、放射線画像を光信号電流として検出する。しかし、このタイプの検出器では、前記特許文献1のような素子分離用の溝がないため、発生する電子あるいは正孔を複数の電極が共有するチャージシェアリング効果により画像分解能が低下する。
【0005】
さらに、図5に示すように、厚さ5mmのCdTeバルク結晶の厚み方向の両面に電極を設けてこの結晶を切断して、0.8mm×0.5mmの画素サイズになるように切断し、切断された個片をスペースを設けて64個(8×8)並べた完全分離構造の検出器アレイが高分解能であることが報告されている(非特許文献2)。しかし、CdTe結晶は脆いために取り扱いが困難であるとともに、素子の配列精度を向上することに限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4107616号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】A. E. Bolotnikov, W. R. Cook, F. A. Harrison et al., Nucl.Instrum, Methods Phys. Res. A, 432(1999), 326-331
【非特許文献2】Y. Tomita, Y. Shirayanagi, S. Mitsui et al., (社)映像情報メディア学会技術報告(2004.9.24)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、高エネルギーγ線等の高エネルギー放射線に対しても、高感度かつ高いエネルギー識別能力を有するとともに、高い画像分解能を備えた半導体放射線画像検出器を得るための製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、柔らかく、かつ脆くて取り扱いの困難なCdTeバルク結晶を機械的強度が高いSi単結晶基板等により支持して、かつ素子を分離するため、上記課題を解決しうることを見出した。すなわち、本発明によれば、以下の半導体放射線画像検出器の製造方法が提供される。
【0010】
[1] CdTe系単結晶ウェーハ上に、前記CdTe系単結晶より比抵抗の小さいp型あるいはn型のCdTe系単結晶層1をエピタキシャル成長にて形成させた後、前記CdTe系単結晶層1と同じ伝導型を有する半導体単結晶基板と前記CdTe系単結晶層1とを接合し、さらに対向するCdTe系単結晶ウェーハの非接合面と半導体単結晶基板の非接合面にそれぞれ電極を形成し、前記前記CdTe系単結晶ウェーハ上の前記CdTe系単結晶層1とは反対の表面より半導体単結晶基板内部に至るまでX方向およびY方向に少なくとも一本づつ溝を形成することによって素子分離を行う、半導体放射線画像検出器の製造方法。
【0011】
[2] 前記CdTe系単結晶層1と反対の伝導型を有するCdTe系単結晶層2が前記CdTe系単結晶ウェーハ上に前記前記CdTe系単結晶層1とは反対側にエピタキシャル成長にて形成される、前記[1]に記載の半導体放射線画像検出器の製造方法。
【0012】
[3] 前記CdTe系単結晶層1と同じ伝導型を有する半導体単結晶基板とCdTe系単結晶層1との接合が導電性樹脂により行われる、前記[1]または[2]の半導体放射線画像検出器の製造方法。
【0013】
[4] 前記CdTe系単結晶がCdTe単結晶あるいはCdZnTe単結晶であり、前記半導体単結晶がSi単結晶である、前記[1]〜[3]のいずれかの半導体放射線画像検出器の製造方法。
【0014】
[5] 前記溝の形成がダイシング、レーザー、あるいはイオンエッチングにより行われる、前記[1]〜[4]のいずれかの半導体放射線画像検出器の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高エネルギーγ線等の高エネルギー放射線に対しても、高感度かつ高いエネルギー識別能力を有するとともに、高い画像分解能を備えた放射線画像検出器を得るための製造方法を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明第1の実施例を示す図である。
【図2】本発明第2の実施例を示す図である。
【図3】本発明第3の実施例を示す図である。
【図4】第1の従来例を示す図である。
【図5】第2の従来例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0018】
本発明の実施形態について、図1をベースに適宜変更形態を加えて説明をする。放射線を検出する単結晶としてはCdTe単結晶あるいはCdZnTe単結晶が好適に用いられる。CdTe単結晶ウェーハ11上にエピタキシャル成長にて形成するCdTe単結晶層12と接合する基板14としては半導体結晶が用いられるが、なかでもp型あるいはn型のSi単結晶が、コスト、信頼性の観点で好適である。Si基板14と同伝導型のp型あるいはn型のCdTe単結晶層12とは直接接合を行わず、後述するように導電性樹脂等で接合するため、Si単結晶はその面方位を特に選ばない。Si単結晶基板14として、例えば、3インチ〜12インチ、厚み0.5〜1.5mmのウェーハを用いる。
【0019】
一方、CdTe単結晶ウェーハ11は例えば厚み1〜5mm、10〜20mm角程度でごく微量の不純物ドープのある単結晶ウェーハ上にSi単結晶基板14と同じ伝導型のp型あるいはn型のCdTe単結晶層12をMOVPE等により1〜20μmの厚さにエピタキシャル成長させる。CdTe単結晶層12をp型あるいはn型にするため、一般的にはp型にするにはヒ素、n型にするにはヨウ素をドープする。なお、エピタキシャル成長が可能な範囲で、CdTe単結晶ウェーハとその上にエピタキシャル成長させる膜の組成を変えることが可能である。なお、CdTe単結晶ウェーハは比較的高比抵抗であることが好ましく、その比抵抗は10Ωcm以上であることが好ましい。
【0020】
次に、CdTe単結晶ウェーハ11上にエピタキシャル成長したp型あるいはn型のCdTe単結晶層12と同型のp型あるいはn型のSi単結晶基板14とを導電性樹脂、例えば微粒の銀を含むエポキシ樹脂にて接合する。導電性樹脂は常温〜100℃にて硬化させる。この導電性接合層13の硬化後の厚みは1〜 10μm、一方比抵抗は小さいことが好ましいが接合性の点からある程度の樹脂量を必要とするため0.0001〜1Ωcmが好ましい。
【0021】
導電性接合剤で接合されたSi単結晶基板14の非接合面とCdTe単結晶ウェーハ11の非接合面に電極15及び16を形成する。電極としてはオーミック電極あるいはショットキー電極を形成する。例えば、オーミック電極としてAuあるいはAu−In等を、蒸着法あるいはスパッタリング法等により1μm程度形成する。なお、CdTe単結晶層12とSi単結晶基板14を導電性接合剤にて接合する前に、CdTe単結晶ウェーハ11とSi単結晶基板14の各非接合面側に予め一対のオーミック電極を形成することも可能である。さらに、CdTe単結晶ウェーハ11上に電極を形成する前に、前記接合されるp型あるいはn型のCdTe単結晶層12とは反対の伝導型を有する、n型あるいはp型のCdTe単結晶層を形成することも好適に行われる。
【0022】
最後に、接合一体化されたCdTe単結晶ウェーハ11とSi単結晶基板14とに対して、CdTe単結晶ウェーハ11側の電極16側よりX方向およびY方向に溝17を形成する。溝で分断された各チップの一辺の大きさは目的に応じて変わるが、例えば0.5mm〜1.5mmとする。また、溝の幅は0.1〜0.3mm程度である。溝の深さは少なくとも、CdTe単結晶ウェーハ11の表面の電極16から導電性接合層を超えてSi単結晶基板14内部に至る深さであるが、必要な分解能と基板強度との関係で適宜決める。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
(実施例1)
図1は第1実施例に係るものである。比抵抗2×10Ωcm(p型ライク伝導性)を有し、厚み2mmのCdTe単結晶ウェーハ11上にp型伝導性を有するCdTe単結晶層12をMOVPE法によりエピタキシャル成長させて厚み5μm形成した。一方、1mm厚のp型Si単結晶基板14に導電性樹脂(銀微粒子を含むエポキシ系接着剤)をコートし、前記CdTe単結晶11上のp型CdTe単結晶層12と貼り合わせ、室温で1時間硬化させた。硬化後の接着層の厚みは5μmであった。また比抵抗は0.03Ωcmであった。次にCdTe単結晶ウェーハ11の非接合面およびSi単結晶14の非接合面にAuを蒸着法にて形成し、電極16および15とした。その後、溝17をCdTe単結晶ウェーハ11側の電極16より2.6mmの深さで、X方向およびY方向にともに1mmピッチで形成した。なお、溝幅は0.15mmとした。溝入れの結果、CdTe単結晶ウェーハおよびエピタキシャル成長させたCdTe単結晶層は欠けることなく各素子を形成することができたので放射線検出分解能が良く、また放射線検出感度とエネルギー分解能も良好であった。
【0025】
(実施例2)
図2は第2実施例に係るものである。実施例1同様に、比抵抗2×10Ωcm(p型ライク伝導性)を有し、厚み2mmのCdTe単結晶ウェーハ21上の一方の面にp型伝導性を有するCdTe単結晶層22、および他方の面にn型伝導性を有するCdTe単結晶層25をMOVPE法によりエピタキシャル成長させて厚み5μmづつ形成した。一方、1mm厚のp型Si単結晶基板24に導電性樹脂(銀微粒子を含むエポキシ接着剤)をコートし、前記CdTe単結晶ウェーハ21上のp型CdTe単結晶層22とを貼り合わせて、室温で1時間硬化させた。硬化後の接着層の厚みは5μmであった。また比抵抗は0.03Ωcmであった。次にCdTe単結晶ウェーハ21の非接合面(n型CdTe単結晶層上)およびSi単結晶基板24の非接合面にAuを蒸着法にて形成し、電極26および27とした。その後、溝28をCdTe単結晶ウェーハ側の電極26より2.6mmの深さで、X方向およびY方向ともに1mmピッチで形成した。なお、溝幅は0.15mmとした。溝入れの結果、CdTe単結晶ウェーハおよびエピタキシャル成長させたCdTe単結晶層は欠けることなく各素子を形成することができたので放射線検出分解能が良く、また放射線検出感度とエネルギー分解能も実施例1とほぼ同等であった。
【0026】
(実施例3)
図3は第3実施例に係るものである。第2実施例におけるCdTe単結晶上に形成するp型CdTe単結晶層をn型CdTe単結晶層に、n型CdTe単結晶層をp型CdTe単結晶層に替えて、かつ、p型Si単結晶基板をn型Si単結晶基板に替えたものである。すなわち、実施例1あるいは2同様に、2×10Ωcm(p型ライク伝導性)を有し、厚み2mmのCdTe単結晶ウェーハ31上の一方の面にn型伝導性を有するCdTe単結晶層32、他方の面にp型伝導性を有するCdTe単結晶層35をMOVPE法によりエピタキシャル成長させて厚み5μmづつ形成した。一方、1mm厚のn型Si単結晶基板34に導電性樹脂(銀微粒子を含むエポキシ接着剤)をコートし、前記CdTe単結晶ウェーハ31上のn型CdTe単結晶層32と貼り合わせ、室温で1時間硬化させた。硬化後の接着層の厚みは5μmであった。また比抵抗は0.03Ωcmであった。次にCdTe単結晶ウェーハ31の非接合面(p型CdTe単結晶層上)およびSi単結晶基板34の非接合面にAuを蒸着にて形成し、電極36および37とした。その後、溝38をCdTe単結晶ウェーハ側の電極1より2.6mmの深さで、X方向およびY方向ともに1mmピッチで形成した。なお、溝幅は0.15mmとした。溝入れの結果、CdTe単結晶ウェーハおよびエピタキシャル成長させたCdTe単結晶層は欠けることなく各素子を形成することができたので放射線検出分解能が良く、また放射線検出感度とエネルギー分解能も実施例1および2とほぼ同等であった。
【0027】
(比較例1)
比較例として、図4に示す構造の素子を作成した。厚さ2mmのCdTe結晶の厚み方向の一方の面にAuの共通電極を設け、他方の面に複数のAu電極を設けた。なおX方向およびY方向ともに電極を1mmピッチ、電極間隔を0.15mmとした。放射線検出分解能は実施例1〜3に比べて低下した。
【0028】
実施例1〜3によれば、放射線検出用として厚みの大きいCdTe単結晶ウェーハを用い、当該CdTe単結晶ウェーハとSi単結晶基板とを導電性を確保しつつ低温で接合することにより、加工および取り扱いが容易になるともに、素子毎に電極が分離して形成されているので放射線検出分解能が優れている。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、医療用放射線診断装置、工業用X線検査装置等に使用される半導体放射線画像検出器の製造方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0030】
11、21、31:CdTe単結晶ウェーハ、12、22、35:p型CdTe単結晶層、13、23、33:導電性接合層、14、24:p型Si単結晶基板、34:n型Si単結晶基板、25、32:n型CdTe単結晶層、15、16、26、27、36、37:電極、17、28、38:分離溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CdTe系単結晶ウェーハ上に、前記CdTe単結晶ウェーハより比抵抗の小さいp型あるいはn型のCdTe系単結晶層1をエピタキシャル成長にて形成させた後、前記CdTe系単結晶層1と同じ伝導型を有する半導体単結晶基板を前記CdTe系単結晶層1に接合し、さらに対向するCdTe系単結晶ウェーハの非接合面と半導体単結晶基板の非接合面にそれぞれ電極を形成し、前記前記CdTe系単結晶ウェーハの前記CdTe層1とは反対の表面より半導体単結晶基板内部に至るまでX方向およびY方向に少なくとも一本づつ溝を形成することによって素子分離を行う、半導体放射線画像検出器の製造方法。
【請求項2】
前記CdTe系単結晶層1と反対の伝導型を有するCdTe系単結晶層2が前記CdTe単結晶ウェーハ上に前記前記CdTe層とは反対側にエピタキシャル成長にて形成される、請求項1に記載の半導体放射線画像検出器の製造方法。
【請求項3】
前記CdTe系単結晶層1と同じ伝導型を有する半導体単結晶基板とCdTe系単結晶層1との接合が導電性樹脂により行われる、請求項1または2に記載の半導体放射線画像検出器の製造方法。
【請求項4】
前記CdTe系単結晶がCdTe単結晶あるいはCdZnTe単結晶であり、前記半導体単結晶がSi単結晶である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体放射線画像検出器の製造方法。
【請求項5】
前記溝の形成がダイシング、レーザー、あるいはイオンエッチングにより行われる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体放射線画像検出器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−242111(P2012−242111A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109374(P2011−109374)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】