説明

放射線検出器

【課題】放射性物質を使用することなく、光パルス発光手段を用いることにより、長期間にわたって放射線検出器の動作の健全性を確認することができ、さらに、その際、この動作健全性確認手段が放射線の測定そのものに影響を与えない放射線検出器を提供する。
【解決手段】光にも有感な放射線を検出する放射線検出部と信号増幅部と波高弁別部とカウンタ部とからなる放射線検出手段と、この放射線検出手段の動作健全性の確認のための光パルス発光部と前記光パルス発光部の動作を制御する発光制御部と前記光パルス発光部から前記放射線検出部近傍まで光を導く光路からなり、前記発光制御部に前記光パルス発光部の発光時間特性を調整する機構を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射線を検出する放射線検出器に係り、特に光パルスを用いた動作確認手段を備え長期にわたって連続使用することが可能な放射線検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の放射線検出器では、使用時における放射線検出器の動作の健全性の確認を、バグソースと呼ばれる放射線源を放射線検出器の内部や外部に付属させ、放射線検出部にバグソースから一定の放射線を入射させ、それによる検出器の応答を評価することによって行っている。しかしながら、バグソースとして放射線源を用いる場合は、その取り扱いが煩雑で、また、測定レンジ全体にわたる動作確認が困難であった。
【0003】
一方で、放射線バグソースを使用しない手段として、放射線検出器が光にも有感な放射線検出部を使用している場合には、パルス状に発光する光パルス発生手段を放射線検出器に付属させて配備し、当該光パルスを放射線検出部に入射させ、その応答を検証するようにしたものがある。
【0004】
特許文献1は、光パルスを利用した放射線検出器の動作確認手段の第1の従来例であり、光パルスを放射線検出部に照射し、その時の応答によりバイアス電圧の異常検出を行うことが開示されている。この動作確認手段は、光パルスに対する放射線検出器の応答が一定範囲にあるか否かにより、バイアス電圧の異常を検知するものである。 特許文献2は、光パルスによって放射線検出器の動作健全性を確認する第2の従来例である。この第2の従来例は、校正用の照射手段として光パルス照射手段を用い、光パルスが照射された放射線検出器の波高スペクトルデータを解析することにより動作健全性を評価している。
【0005】
しかしながら、上記2つの従来例は、校正用の光パルス照射手段が常時一定の出力を与え続けるものではないので、放射線検出器の健全性の評価確認を常時実施することはできなかった。その理由は、第一に光パルス照射手段を長期間連続的に使用すると発光量が変化すること、第二に発光による応答の時間特性が放射線による応答の時間特性と異なることによって、放射線を検出するという放射線検出器そのものの機能が損なわれる可能性があること、特に、放射線検出器が不感時間を補正する機能を有していた場合、発光による応答の時間特性の違いによって、不感時間補正機能に基づく誤差が増加してしまうことが挙げられる。
【0006】
したがって、従来の光パルスを用いた動作確認手段は、一時的な動作確認手段として使用されるのであれば問題はないが、常時使用すると測定対象である放射線の経時的な変化を放射線検出器が正しく計測できない可能性が生じることになり、放射線を測定する装置として信頼性を保持しながらこれらの動作確認機能を常時使用し続けることは困難であった。
【特許文献1】特公平6−72930号公報
【特許文献2】特開2006−84345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
放射性物質を使用することなく、光パルス発光手段を用いることにより、長期間にわたって放射線検出器の動作の健全性を確認することができる放射線検出器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、光にも有感な放射線を検出する放射線検出部と信号増幅部と波高弁別部とカウンタ部とからなる放射線検出手段と、この放射線検出手段の動作健全性の確認のための光パルス発光部と前記光パルス発光部の動作を制御する発光制御部と前記光パルス発光部から前記放射線検出部近傍まで光を導く光路からなり、前記発光制御部に前記光パルス発光部の発光時間特性を調整する機構を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、放射性物質を使用することなく、光パルス発光手段を用いることにより、長期間にわたって放射線検出器の動作の健全性を常時確認することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係る放射線検出器の実施の形態について、図面を参照して説明する。
なお、以下に説明する発明の実施の態様において、光路として光ファイバを用いているが、例えば、ライトガイド等、光を伝える部材であれば何でもよいことはもちろんである。同じく、フィルタとして金属製のフィルタが用いられているが、同様な散乱吸収特性を有する材料であれば、金属に限定されないことはもちろんである。
【0011】
また、本発明に係る放射線検出部として用いられる半導体放射線検出素子として、シリコンやテルル化カドミウム、等の半導体素子を用いることができるが、シンチレータ及び光電子増倍管等の放射線検出部を用いてもよい。
さらに、本発明で用いられる光についても、可視光に限らず、紫外あるいは赤外領域の光を利用してもよい。
【0012】
(第1の実施の形態)
図1を用いて本発明の第1の実施の形態を説明する。
この第1の実施の形態に係る放射線検出器は、光ファイバ1、光にも有感な半導体放射線検出素子からなる放射線検出部2、信号増幅部3と波高弁別部4とカウンタ部5からなる放射線検出手段6、例えばLEDからなる光パルス発光部7、発光制御部8、バイアス電源部14、及び光ファイバ終端位置調整機構部15からなり、発光制御部8はさらに、波高弁別部9、増幅部10、三角波発生部11、立ち上がり検知部12、及びクロック部13から構成される。
【0013】
発光制御部8の動作について説明する。
クロック部13から、カウンタ部5で放射線検出部2が正しく動作していることを確認するために定められた周期の波形信号16が出力される。通常、この周期は測定対象とする放射線の入射を妨害しないことと、カウンタ部5において、計数率処理を行っている構成の場合には、その計数率算出の際の時定数に応じて、値がふらつかないという2つの要素から定められる。
【0014】
波形信号16は、立ち上がり検知部12に入力され、立ち上がり信号17が生成される。立ち上がり信号17は三角波発生部11に入力され、ここで、三角波18が発生し、この三角波は波高弁別レベル22で波形弁別部9により、幅tの信号波形23に変換され、この信号が光パルス発光部7に光ファイバ1を通じて入力される。信号波形23の幅tは可変なので、幅tを調整することにより放射線検出部2からの出力信号24の立ち上がり時間tを変化させることができる。放射線検出部2からの出力は信号増幅部3、波高弁別部4を通り、放射線検出信号と同じようにカウンタ部5で計数される。
【0015】
信号波形23の幅を変える際には、増幅部10の増幅度を変化させることで、出力信号波形19のピーク波高値を変化させることで変化させても良いし、波高弁別部9の波高弁別レベル22を変化させても良い。いずれにしても、これらの変化は可変抵抗などを利用する非常に簡便な方法により実現可能である。
【0016】
放射線光検出部2の出力信号24のパルス発光に対するピーク波高値については、信号24の最大波高値を変化させても良いが、光パルス発光部7に与える信号の最大値を大きくした場合には、発光時間の変化や残光といった望ましくない効果が生じるおそれがある。そのため、光パルス発光部7に与える信号の調整とは別に、光量調整機構として光ファイバ1の先端部の位置を調整することができる光ファイバ終端位置調整機構部15を備えている。この光量調整機構により放射線検出部2への入射光量を調整することができる。
【0017】
上記のように放射線検出器を構成することにより、光パルス発光部7の発光による放射線検出部2からの出力信号24の出力が放射線の入射による出力信号と類似した時間応答特性を有する放射線検出器を提供することができる。そのため、長期間にわたって放射線検出器の動作の健全性を常時確認することができる。
【0018】
特に、時間応答を調整する機構として、信号の増幅度、波高弁別レベルといった、可変抵抗により調整可能な機構と、光ファイバ1の位置の移動といったネジ機構により調整可能な機構を採用したため、ネジ、トリマつまみ等により容易に調整が可能な放射線検出器を提供することができる。
【0019】
(第2の実施の形態)
図2(a)及び図2(b)を用いて、本発明の第2の実施の形態を説明する。
この第2の実施の形態は、上記第1の実施の形態における放射線検出部2周辺の構成に特徴がある。この第2の実施の形態は、放射線検出部2と、放射線検出部2が装着される回路基板27と、前記回路基板27の周囲を覆うように設けられた金属フィルタ26とからなる。前記金属フィルタ26の内側表面には溝25が設けられ、前記溝25にそって光ファイバ1が配置されるとともに、光ファイバ終端位置調整機構部15が光ファイバ1に設けられ、放射線検出器の外部筐体29外から操作可能な光ファイバ位置合わせ用つまみ28によって、前記光ファイバ1を上下に移動できる構造となっている。この上下動機構については詳述しないが、通常の歯車等を用いた駆動手段が用いられる。また、その他、この図面で省略されている部位の構成は上記実施の態様1と同様である。
【0020】
本発明に係る放射線検出器は、1cm線量当量(率)(単位:シーベルト(毎秒))、吸収線量(率)(単位:グレイ(毎秒))、放射線放出率 (単位:個毎秒)といったさまざまな単位の放射線をそのモニタの対象とする。放射線検出器の応答そのものは、入射した放射線の粒子が放射線検出部2と相互作用を起こし、電離により電荷が生じることによって信号を発生することによるが、この信号を発生する確率は、必ずしもモニタの対象となる放射線のエネルギー全域に対して許容可能な範囲の分布を示すとは限らない。そのために、この第2の実施の態様では、エネルギー特性を平坦化するために、放射線検出器の内部に金属フィルタ26が用いられる。この金属フィルタ26による放射線の散乱・吸収効果により、放射線検出器の応答を求めたい放射線の単位系に即した形に調整することができる。
【0021】
しかしながら、金属フィルタ26内部に光ファイバ1を導入する場合、その光ファイバの存在する箇所では他の箇所とは異なった放射線の吸収・散乱現象が生じ、その結果、放射線検出部2からみた光ファイバ1の存する方向では他の方向に比べてエネルギー特性が変化することがある。そうした現象を打ち消すために、この第2の実施の態様では、金属フィルタ26の光ファイバ1の敷設方向に溝25を設けることで、こうしたエネルギー特性の方向依存性を解消するようにしている。
【0022】
なお、光ファイバ1の上端より上側については、溝25によりむしろ吸収・散乱の効果が少なくなることによる影響が生じるおそれがあるが、この長さが金属フィルタ26の全長に比べ十分に小さい場合にはその影響は無視しえるし、もし、無視し得ない場合には、光ファイバ1の上端に光ファイバ1と同等の放射線の吸収・散乱特性を有する物質からなる延長部を設け、上下に移動可能とし、溝25による影響が十分に無視しえる位置に前記延長部を配置するようにしてもよい。
【0023】
また、金属フィルタ26に溝25を設ける代わりに、対応個所の金属フィルタの材質を、光ファイバによる散乱・吸収現象を打ち消すことができるような材質に換えてもよい。
【0024】
以上の構成をとることで、光パルスによって放射線検出器を動作確認する際にも、放射線に対する応答特性への影響を少なくすることができ、その結果、光パルスを用いて放射線検出器の動作確認を常時おこなうことが可能となる。
【0025】
(第3の実施の形態)
次に、図3〜図4(b)を用いて本発明に係る第3の実施態様を説明する。
この第3の実施の態様は、上記第2の実施に態様に係る放射線検出部2の近傍に光センサ30を配備したことを特徴としている。光センサ30の出力は発光調整量判定部31に伝えられ、前記発光調整量判定部31の出力は増幅部10と光ファイバ終端位置調整機構部15伝えられことにより、光パルス発光部7の発光調整を行う。上記実施の態様1及び2において、増幅部10と光ファイバ終端位置調整機構部15は、手動による調整を行う構成としていたが、ここでは発光調整量判定部31の出力に応じ、自動的に調整を行う構成としている。また、発光調整量判定部31の出力は上記2つの部分だけでなく、他の部分への入力信号としてもよい。
【0026】
このように、光センサ30の出力により、放射線を模擬する光パルスの時間・強度特性をモニタし、調整すべき発光強度、発光時間特性を調整する信号を、発光時間の調整は増幅部10へ、発光強度の調整は光ファイバ終端位置調整機構部15へ出力し、それぞれの部分がそれらの信号を受けて自動的に発光強度、発光時間特性調整を行うことができる。
【0027】
上記構成をとることにより、発光強度及び発光時間特性の調整を自動的に行うこと可能となり、その結果、長期的に安定して使用することのできるパルス光を用いた動作確認手法を備えた放射線検出器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第1の実施の形態の放射線検出器の構成図。
【図2】(a)は第2の実施の形態の放射線検出部の周辺図、(b)は第2の実施の形態の放射線検出部の断面図。
【図3】第3の実施の形態の放射線検出器の構成図。
【図4】(a)は第3の実施の形態の放射線検出部の周辺図、(b)は第3の実施の形態の放射線検出部の断面図。
【符号の説明】
【0029】
1…光ファイバ、2…放射線検出部、3…信号増幅部、4…波高弁別部、5…カウンタ部、6…放射線検出部、7…光パルス発光部、8…発光制御部、9…波高弁別部、10…増幅部、11…三角波発生部、12…立ち上がり検知部、13…クロック部、14…バイアス電源部、15…光ファイバ終端位置調整機構部、16…クロック部12の出力信号波形、17…立ち上がり検知部12の出力信号波形、18…三角波発生部11の出力信号波形、19…増幅部10の出力信号波形、20…出力信号波形19のピーク波高値、21…波高弁別部9の入力信号波形、22…波高弁別部9の波高弁別レベル、23…発光制御部8の入力信号波形、24…放射線検出部2の出力信号波形、25…溝、26…金属フィルタ、27…回路基板、28…光ファイバ位置合わせ用つまみ、29…外部筐体、30…光センサ、31…発光調整量判定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光にも有感な放射線を検出する放射線検出部と信号増幅部と波高弁別部とカウンタ部とからなる放射線検出手段と、この放射線検出手段の動作健全性の確認のための光パルス発光部と前記光パルス発光部の動作を制御する発光制御部と前記光パルス発光部から前記放射線検出部近傍まで光を導く光路からなり、前記発光制御部に前記光パルス発光部の発光時間特性を調整する機構を設けたことを特徴とする放射線検出器。
【請求項2】
前記発光制御部が、クロック発生部と立ち上がり検知部と三角波発生部と増幅部と波高弁別部とからなり、前記増幅部は増幅度変化手段を有し、前記増幅度変化手段により前記発光時間特性を調整することを特徴とする請求項1記載の放射線検出器。
【請求項3】
前記増幅度変化手段として、可変抵抗を用いたことを特徴とする請求項2記載の放射線検出器。
【請求項4】
前記発光制御部が、クロック発生部と立ち上がり検知部と三角波発生部と増幅部と波高弁別部とからなり、前記波高弁別部は弁別波高値変化手段を有し、前記弁別波高値変化手段により発光時間特性を調整することを特徴とする請求項1記載の放射線検出器。
【請求項5】
前記波高弁別部の弁別波高値変化手段として、可変抵抗を用いたことを特徴とする請求項4記載の放射線検出器。
【請求項6】
前記放射線検出器に、放射線検出部への入射光量を調整する光量調整機構を備えたことを特徴とする請求項1乃至5記載の放射線検出器。
【請求項7】
前記光量調整機構は、前記発光部から放射線検出部近傍まで入射光を導く光路の放射線検出部側の終端から放射線検出部までの距離を変化させる機構であることを特徴とする請求項6記載の放射線検出器。
【請求項8】
前記放射線検出部が装着された回路基板の周囲に放射線の応答特性を調整するフィルタを配備したことを特徴とする請求項1乃至7記載の放射線検出器。
【請求項9】
前記フィルタの光路沿いの厚みが他の部分よりも小さいことを特徴とする請求項8記載の放射線検出器。
【請求項10】
前記フィルタに溝を設け、前記光路を前記溝に沿って配備したことを特徴とする請求項8記載の放射線検出器。
【請求項11】
前記フィルタの光路沿いの材質が他の部分とは異なる材質にしたことを特徴とする請求項8記載の放射線検出器。
【請求項12】
前記光路の先端部の先に、前記光路と同等の材質による延長部を設けたことを特徴とする請求項1乃至11記載の放射線検出器。
【請求項13】
前記光路として、光ファイバを用いることを特徴とする請求項1乃至12記載の放射線検出器。
【請求項14】
前記放射線検出部の近傍に、発光特性を監視する光センサを設けたことを特徴とする請求項1乃至13記載の放射線検出器
【請求項15】
前記光センサの出力に応じて、前記光パルス発光部の発光時間特性を調整することを特徴とする請求項14記載の放射線検出器。
【請求項16】
前記光センサの出力に応じて、前記光路の放射線検出部側の終端から放射線検出部までの距離を変化させることを特徴とする請求項14又は15記載の放射線検出器。
【請求項17】
前記光センサの出力に応じて、前記増幅部の増幅度又は前記波高弁別部の弁別波高値を変化させることを特徴とする請求項14乃至16記載の放射線検出器。
【請求項18】
前記放射線検出部として、シリコンダイオード、シンチレータと光電子増倍管、又はテルル化カドミウムからなる半導体を用いることを特徴とする請求項1乃至17記載の放射線検出器

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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