説明

放射線検出器

【課題】高い光透過率および高い発光量を有するシンチレータアレイを提供するとともに、当該シンチレータアレイを用いた検出感度の高い放射線検出器を提供すること。
【解決手段】本発明によれば、放射線を吸収して発光する複数の柱状のシンチレータからなるシンチレータアレイと、前記シンチレータの発光を検知する受光器とを備える放射線検出器であって、前記複数の柱状のシンチレータは、その長手方向に前記放射線が入射するように、複数の行・列に二次元配列され、前記シンチレータは、Gd、Al、O、およびCe、ならびにGa、Sc、Y、YbおよびLuから選択される少なくとも1種を含むガーネット型シンチレータ結晶であり、前記シンチレータは、550nmの波長の光に対する吸光係数が0.005mm−1以下である、放射線検出器が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線検出器に関する。より詳細には、ガーネット型シンチレータ結晶を用いた放射線検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線検出器は、陽電子放射断層撮影(PET)装置やX線コンピュータ断層装置(CT装置)などの医療画像装置、高エネルギー物理分野における各種放射線計測装置、資源探査装置などに幅広く応用されている。一般に、放射線検出器は、γ線、X線、α線、中性子線を吸収し、シンチレーション光に変換するシンチレータと、シンチレータ光を受光し、電気信号等に変換する受光素子から構成される。例えば、高エネルギー物理やPETイメージングシステムでは、シンチレータと、核崩壊によって発生する放射線との衝突に基づいて画像が作成される。また、陽電子放射断層撮影法において、被検体内の陽電子(ポジトロン)と対応する電子との相互作用から生じるガンマ線がシンチレータの中へ入って、光検出器によって検出することのできるフォトンに変換される。例えば、被検体内の特定の位置から放出されたフォトンはフォトダイオード(PD)、シリコンフォトマルチプライヤー(Si−PM)、若しくは光電子増倍管(PMT)、又は他の光検出器を使用して、検出することができる。
【0003】
PDやSi−PMは、特に放射線検出器やイメージング機器において、広範な用途を有する。様々なPDが知られており、シリコン半導体から構成されるPDやSi−PMは、感度の高い波長が450〜700nmであり、600nm付近で最も感度が高くなる。そのため、600nm付近に発光ピーク波長を有するシンチレータと組み合わせて使用されている。一般に、PDアレイ、位置検知性アバランシェ・フォトダイオード(PSAPD)から構成されるアバランシェ・フォトダイオード・アレイ(APDアレイ)と称される一形式フォトダイオード、及びSi−PMアレイでは、フォトンを検出して、このフォトンがアレイに衝突する位置を突き止めることができる。
【0004】
そこで、これらの放射線検出器に適するシンチレータには、検出効率の点から密度が高く原子番号が大きいこと(光電吸収比が高いこと)、高速応答の必要性や高エネルギー分解能の点から発光量が多く、蛍光寿命(蛍光減衰時間)が短いことが望まれる。また、シンチレータの発光波長が光検出器の検出感度の高い波長域と一致することも重要である。また、放射線をシンチレーション光に変換するシンチレータは、その変換効率を高めるために、放射線が透過する方向の寸法が長いことが望まれる。そのため、シンチレータ結晶は、大型の結晶として得られることが望まれる。
【0005】
現在、各種放射線検出器へ応用される好ましいシンチレータとして、ガーネット構造を有するシンチレータがある。ガーネット構造を有するシンチレータは、化学的に安定で、劈開性や潮解性が無く、加工性に優れるという利点がある。例えば、特許文献1に記載の、Pr3+の4f5d準位からの発光を利用するガーネット構造を持つシンチレータは、蛍光寿命が40ns程度以下と短いものの、発光ピーク波長が350nm以下と短波長であり、シリコン半導体から構成されるPDやSi−PMの感度の高い波長とは一致しない。
【0006】
また、特許文献2及び非特許文献1には、発光ピーク波長が550nm程度であり、シリコン半導体から構成されるPDの感度の高い波長と一致する発光ピーク波長を有する(YGd)Al12の多結晶ガーネットシンチレータが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2006/049284号パンフレット
【特許文献2】特開2001−181043号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A,579(2007)23−26,"Improvement of ceramic YAG(Ce)Scintillators to (YGd)3Al5O12(Ce) for gamma−ray detectors"
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、非特許文献1に記載の結晶は、5mm厚の結晶において波長560nmの透過率は、20%程度と低く、十分な発光量が得られていない。また、一般に、放射線検出器に用いられるシンチレータは、複数の柱状シンチレータをマトリクス状に組み合わせたシンチレータアレイとして使用して、十分な発光量を確保している。柱状のシンチレータは、その長手方向が放射線の入射方向に対して平行となるように配置されるため、シンチレータの長手方向の寸法が大きい場合、十分な発光量を得るためには、シンチレータの透過率を低減させることが望まれる。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高い光透過率および高い発光量を有するシンチレータアレイを提供するとともに、当該シンチレータアレイを用いた検出感度の高い放射線検出器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明によれば、放射線を吸収して発光する複数の柱状のシンチレータからなるシンチレータアレイと、上記シンチレータの発光を検知する受光器とを備える放射線検出器であって、上記複数の柱状のシンチレータは、その長手方向に前記放射線が入射するように、複数の行・列に二次元配列され、上記シンチレータは、Gd、Al、O、およびCe、ならびにGa、Sc、Y、YbおよびLuから選択される少なくとも1種を含むガーネット型シンチレータ結晶であり、上記シンチレータは、550nmの波長の光に対する吸光係数が0.005mm−1以下である放射線検出器が提供される。
【0012】
本発明の放射線検出器に用いられるシンチレータは、Gd、Al、O、およびCe、ならびにGa、Sc、Y、YbおよびLuから選択される少なくとも1種を含むガーネット型シンチレータ結晶からなる。本発明のシンチレータは、波長550nmの光に対する吸光係数が0.005mm−1以下のガーネット型シンチレータ結晶であるため、光透過率が高く、照射したエネルギー線を良好に透過させることができる。そのため、照射したエネルギー線を効率よくCeの発光エネルギーに変換させて、高い発光量を得ることができる。また、発光ピーク波長が光検出器の検出感度の波長域と一致する蛍光成分を発光することができる。したがって、検出感度の高い放射線検出器を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、検出感度の高い放射線検出器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に従う放射線検出器を示す図である。
【図2】発光量及び蛍光寿命の測定する装置を模式的に示す図である。
【図3】実施例の結晶の透明性を示す図である。
【図4】実施例の結晶の透明性を示す図である。
【図5】実施例の結晶の透過スペクトルを示す図である。
【図6】実施例の結晶の励起・発光スペクトルを示す図である。
【図7】実施例の結晶の励起・発光スペクトルを示す図である。
【図8】実施例の結晶のγ線励起エネルギースペクトルを示す図である。
【図9】実施例の結晶の紫外線励起による蛍光寿命を示す図である。
【図10】実施例の結晶のγ線励起による蛍光寿命を示す図である。
【図11】Gd2.370.6Ce0.03GaAl12を光電子増倍管に接着し,252Cf中性子線を照射して得られたエネルギースペクトルである。
【図12】実施例のシンチレータアレイの写真を示す図である。
【図13】実施例のシンチレータアレイの二次元マップを示す図である。
【図14】比較例のシンチレータアレイの写真を示す図である。
【図15】比較例のシンチレータアレイの二次元マップを示す図である。
【図16】実施例および比較例のγ線励起エネルギースペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明に係る放射線検出器を示す。放射線検出器100は、シンチレータアレイ111と、シンチレータアレイ111の発光を検知する受光器112とを備える。
シンチレータアレイ111は、柱状の細長形状の複数のシンチレータ111aから構成される。柱状のシンチレータ111aの形状としては、例えば、角柱状、円柱状等が挙げられる。本実施形態において、シンチレータ111aは、細長形状の直方体であり、その長手方向に放射線が入射するように、複数の行・列の二次元配列されている。すなわち、シンチレータは、放射線の入射方向に対して長手方向と直交する方向に二次元状に配列されている。シンチレータアレイ111を構成するシンチレータ111aは、複数列のマトリクス状に配置されることが好ましい。シンチレータ111aは、放射線の入射に伴って発光し、放射線を光に変換する。放射線検出器100は、シンチレータ111aの発光を検知する受光器112を備える。受光器112としては、当該分野で通常使用される光検出素子を使用することができ、例としては、フォトダイオード(PD)、シリコンフォトマルチプライヤー(Si−PM)、および光電子増倍管(PMT)等が挙げられる。本発明の放射線検出器は、受光器112に接続され、受光器112から出力された電気信号に基づいて、放射線検出器100における放射線吸収位置等を求める演算処理を行う処理ユニット(不図示)をさらに備え得る。
【0016】
シンチレータアレイ111aは、Gd、Al、O、およびCe、ならびにGa、Sc、Y、YbおよびLuから選択される少なくとも1種を含むガーネット型シンチレータ結晶である。このようなガーネット型シンチレータ結晶は、550nmの波長の光に対する吸光係数が0.005mm−1以下であり、好ましくは、0.003mm−1以下であり、より好ましくは、0.0015mm−1以下である。こうすることで、厚さ5mmの結晶において、波長550nmの光の透過率を80%以上とすることができる。
【0017】
なお、本明細書において、吸光係数とは、厚み1mmの結晶と厚み5mmの結晶とを用意し、波長550nmの光を照射したときの透過率(%)を測定し、下記式(2)により求められるものである。
T=(1−R)−2αL/(1−Re−2αL)・・・(2)
〔式(2)中、αが吸光係数(mm−1)であり、Tが波長550nmの光に対する透過率(%)であり、Rが反射率であり、Lが試料の厚さ(mm)である。〕
【0018】
波長550nmの光の透過率は、70%以上が好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましい。なお、この透過率は、厚み5mmの結晶を波長550nmで測定したものである。
【0019】
好ましくは、本発明のシンチレータに用いられるガーネット型シンチレータ結晶は、以下の式(1)で表される組成を有する。
Gd3−x−yCeREAl5−z12 (1)
【0020】
上記一般式(1)中、0.0001≦x≦0.15、0≦y≦2.9、0≦z≦4.8であり、MはGa及びScから選択される少なくとも1種であり、REはY、Yb及びLuから選択される少なくとも1種である。
【0021】
また、上記一般式(1)においてREをLu、Yとし、0≦z<1とした場合、yの下限を1.8≦yとすることが好ましく、さらにyの下限を2.2≦yとするとより好ましい。こうすることで、波長550nmの透過率を高めることができる。
【0022】
また、上記一般式(1)においてMをGaとし0≦y<0.1とした場合、zの下限を1≦zとすることが好ましく、さらにzの下限を2≦zとするとより好ましい。こうすることで、波長550nmの透過率を高めることができる。
【0023】
本実施形態のガーネット型シンチレータ結晶において、Ceの濃度xは、0.0001≦x≦0.15であり、好ましくは、0.001≦x≦0.15であり、より好ましくは、0.006≦x≦0.15である。このように、上記一般式(1)において好適なCeの値をとることで、Gd3+のエネルギー準位からCe3+のエネルギー準位へのエネルギー遷移が促進され、結果として蛍光寿命が短くなり、長寿命発光成分が減少するとともに、発光量が高くなる。
【0024】
本実施の形態に係るガーネット型シンチレータ結晶は、γ線で励起させることができ、これにより、蛍光発光させることが可能になる。その発光ピーク波長は、460nm以上700nm以下とすることができ、好ましくは、460nm以上560nm以下とすることができる。そのため、シリコン半導体から構成されるPDやSi−PMの感度の高い波長と一致させることができる。
【0025】
本実施形態に係るガーネット型シンチレータ結晶は、単結晶であることが好ましい。単結晶とすることにより、粒界が存在しないか、あるいは、非常に少なく、均一な結晶軸方位をとることができる。そのため、結晶内部における応力や歪みの発生を少なくでき、Ce本来の発光特性が引き出され、高い発光量を得ることができる。例えば、γ線励起による蛍光発光の発光量を20000photon/MeV以上とすることができ、好ましくは、40000photon/MeV以上とすることができ、より好ましくは、50000photon/MeV以上とすることができる。
【0026】
本明細書において、発光量とは、φ3mm×2mmサイズの結晶を25℃で測定したものをいい、例えば、図2のような測定装置を用いて測定することができる。この測定装置では、暗箱10内に、Cs137γ線源11と、測定サンプルであるシンチレータ12と、光電子増倍管14とが備えられている。シンチレータ12は、光電子増倍管14に、テフロン(登録商標)テープ13を用いて物理的に固着されるとともに、光学接着剤等により光学接着されている。そして、Cs137γ線源11から、622keVのγ線をシンチレータ12に照射し、光電子増倍管14より出力される、パルス信号を前置増幅器15、波形整形増幅器16へと入力し、増幅・波形整形し、さらにマルチチャンネルアナライザ17へと入力し、パーソナルコンピュータ18を用いてCs137γ線励起のエネルギースペクトルを取得する。得られたエネルギースペクトル中の光電吸収ピークの位置を既知のシンチレータであるCe:LYSO(発光量:33000photon/MeV)と比較し、光電子増倍管14の波長感度をそれぞれ考慮し、発光量を最終的に算出する。
【0027】
この測定方法では、シンチレーションカウンティング法による発光量を測定しており、放射線に対する光電変換効率を求めることができる。そのため、シンチレータが持つ固有の発光量を測定することができる。
【0028】
本実施の形態のガーネット型結晶では上記一般式(1)において好適なx、y、zの値をとることで液相からの単結晶育成を可能にし、大型で、高品質の単結晶を育成することができる。
【0029】
また、一般式(1)において好適なGa及びScの値をとることで、Gd3+のエネルギー準位からCe3+のエネルギー準位へのエネルギー遷移が促進され、結果として蛍光寿命が短くなり、長寿命発光成分が減少するとともに、発光量が高くなる。
【0030】
さらに、上記一般式(1)において好適なCeの値をとることで、Gd3+のエネルギー準位からCe3+のエネルギー準位へのエネルギー遷移が促進され、結果として蛍光寿命が短くなり、長寿命発光成分が減少するとともに、発光量が高くなる。
【0031】
具体的には、上記一般式(1)で表されるガーネット型結晶において、例えば、式中0.006≦x≦0.15、0≦y≦2.7、1.5≦z≦3.5であり、REがY、MがGaとすることで、発光量が30000photon/MeV以上のガーネット型結晶とすることができる。また、さらに、吸光係数が0.005mm−1以下の結晶にすることで、発光量が40000photon/MeV以上のガーネット型結晶とすることができる。
【0032】
また、上記一般式(1)で表されるガーネット型結晶において、式中、例えば、0.006≦x≦0.15、0.3≦y≦2.7、1.5≦z≦3.5であり、REがLu、MがGaとすることで、発光量が25000photon/MeV以上のガーネット型結晶とすることができる。また、さらに、吸光係数が0.005mm−1以下の結晶にすることで、発光量を40000photon/MeV以上のガーネット型結晶とすることができる。
【0033】
また、上記一般式(1)で表されるガーネット型結晶において、式中、例えば、0.006≦x≦0.15、0.3≦y≦2.9、0.5≦z≦3であり、REがY、MがScであり、吸光係数が0.005mm−1以下の結晶にすることで、発光量が20000photon/MeV以上のガーネット型結晶とすることができる。
【0034】
また、上記一般式(1)で表されるガーネット型結晶において、式中、例えば、0.006≦x≦0.15、0.3≦y≦2.9、0.5≦z≦2.5であり、REがLu、MがScであり、吸光係数が0.005mm−1以下の結晶にすることで、発光量が30000photon/MeV以上のガーネット型結晶とすることができる。
【0035】
また、上記一般式(1)において、式中0.001≦x≦0.15、0≦y≦0.1、2.0≦z≦3.5であり、REがY、Luであり、吸光係数が0.005mm−1以下の結晶にすることで、発光量が40000photon/MeV以上のガーネット型結晶とすることができる。
【0036】
本実施の形態に係るガーネット型結晶の蛍光寿命(蛍光減衰時間)は、100ナノ秒以下とすることができ、より好ましくは、80ナノ秒以下、さらに好ましくは、70ナノ秒以下とすることができる。したがって、本発明の放射線検出器を用いて蛍光を測定する場合、測定のためのサンプリング時間が短くて済み、高時間分解能、すなわちサンプリング間隔を低減することができる。なお、本発明において、γ線励起による蛍光発光の蛍光減衰時間は、例えば、上述の図2で示す測定装置を用いて測定することができる。具体的には、Cs137γ線源11からγ線をシンチレータ12に照射し、デジタルオシロスコープ19を用いて、光電子増倍管14より出力されるパルス信号を取得し、蛍光減衰成分を解析することで、各蛍光減衰成分の蛍光減衰時間、及び、蛍光寿命成分全体の強度に対する各蛍光減衰成分の強度の割合を算出することができる。
【0037】
このように、本実施の形態に係るガーネット型シンチレータ結晶から構成されるシンチレータアレイは、エネルギー分解能にも優れることから、放射線検出器に用いた場合に高精度な放射線検出が可能となる。また、高時間分解能が実現されることにより、単位時間でのサンプリング数を増加させることが可能になる。
【0038】
本実施の形態に係るシンチレータ用ガーネット型結晶の製造方法について、以下に説明する。いずれの組成の結晶の製造方法においても、出発原料としては、一般的な酸化物原料が使用可能であるが、シンチレータ用単結晶として使用する場合、99.99%以上(4N以上)の高純度原料を用いることが特に好ましく、これらの出発原料を、融液形成時に目的の組成となるように秤量、混合したものを用いる。さらにこれらの原料中には、特に目的とする組成以外の不純物が極力少ない(例えば、1ppm以下)ものが特に好ましい。特に発光波長付近に発光を有する元素(例えば、Tbなど)を極力含まない原料を用いることが好ましい。
【0039】
結晶の育成は、不活性ガス(例えば、Ar、N、He等)雰囲気下で行うことが好ましい。又は、不活性ガス(例えば、Ar、N、He等)と酸素ガスとの混合ガスを使用してもよい。ただし、この混合ガスの雰囲気下で結晶の育成を行う場合、坩堝の酸化を防ぐ目的で、酸素の分圧は2%以下であることが好ましい。なお、結晶成長後のアニールなどの後工程においては、酸素ガス、不活性ガス(例えば、Ar、N、He等)、及び、不活性ガス(例えば、Ar、N、He等)と酸素ガスとの混合ガスを用いることができる。混合ガスを用いる場合、酸素分圧は2%以下という制限は受けず、酸素分圧0%から100%までいずれの混合比のものを使用してもよい。
【0040】
本実施の形態の酸化物のガーネット型結晶の製造方法としては、マイクロ引き下げ法に加え、チョコラルスキー法(引き上げ法)、ブリッジマン法、帯溶融法(ゾーンメルト法)、及び縁部限定薄膜供給結晶成長(EFG法)及び熱間静水圧プレス燒結法等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
また、使用できる坩堝及びアフターヒータの材料としては、白金、イリジウム、ロジウム、レニウム、又はこれらの合金が挙げられる。
【0042】
シンチレータ用結晶の製造においては、さらに高周波発振機、集光加熱器、及び抵抗加熱機を使用してもよい。
【0043】
以下に本実施形態の酸化物のガーネット型シンチレータ結晶の製造方法について、マイクロ引き下げ法を用いた結晶製造法を一例として示すが、これに限定されるものではない。
【0044】
マイクロ引き下げ法については、高周波誘導加熱による雰囲気制御型マイクロ引き下げ装置を用いて行うことができる。マイクロ引き下げ装置は、坩堝と、坩堝底部に設けた細孔から流出する融液に接触させる種を保持する種保持具と、種保持具を下方に移動させる移動機構と、移動機構の移動速度制御装置と、坩堝を加熱する誘導加熱手段とを具備した単結晶製造装置である。このような単結晶製造装置によれば、坩堝直下に固液界面を形成し、下方向に種結晶を移動させることで、単結晶を作製することができる。
【0045】
上記のマイクロ引き下げ装置において、坩堝は、カーボン、白金、イリジウム、ロジウム、レニウム、又はこれらの合金製である。また、坩堝底部外周にカーボン、白金、イリジウム、ロジウム、レニウム、又はこれらの合金からなる発熱体であるアフターヒータが配置される。坩堝及びアフターヒータの誘導加熱手段の出力調整により、発熱量を調整することによって、坩堝底部に設けた細孔から引き出される融液の固液境界領域の温度及びその分布を制御することができる。
【0046】
上記の雰囲気制御型マイクロ引き下げ装置は、チャンバーの材質にはステンレス鋼(SUS)、窓材には石英を採用し、雰囲気制御を可能にするため、ロータリーポンプを具備し、ガス置換前において、真空度が0.13Pa(1×10−3Torr)以下にすることを可能にした装置である。また、チャンバーへは付随するガスフローメータにより精密に調整された流量でAr、N、H、Oガス等を導入できるものである。
【0047】
この装置を用いて、上述の方法にて準備した原料を坩堝に入れ、炉内を排気して高真空にした後、Arガス又はArガスとOガスとの混合ガスを炉内に導入することにより、炉内を不活性ガス雰囲気又は低酸素分圧雰囲気とし、高周波誘導加熱コイルに高周波電力を徐々に印加することにより坩堝を加熱して、坩堝内の原料を完全に融解する。
【0048】
続いて、種結晶を所定の速度で徐々に上昇させて、その先端を坩堝下端の細孔に接触させて充分になじませたら、融液温度を調整しつつ、引き下げ軸を下降させることで結晶を成長させる。
【0049】
種結晶としては、結晶成長対象物と同等ないしは、構造・組成ともに近いものを使用することが好ましいが、これに限定されない。また種結晶として方位の明確なものを使用することが好ましい。
【0050】
準備した材料が全て結晶化し、融液が無くなった時点で結晶成長は終了となる。一方、組成を均一に保つ目的及び長尺化の目的で、原料の連続チャージ用機器を取り入れてもよい。
【0051】
上記のようにして得られたガーネット型シンチレータ結晶は、切削・研磨することにより、所望の形状のシンチレータとすることができる。得られた複数個のシンチレータは、硫酸バリウム等の反射材を用いて、当該分野で公知の方法により、シンチレータアレイとすることができる。シンチレータアレイの形状は柱状であり、好ましくは、角柱状または円柱状である。本発明の好ましい実施形態において、シンチレータアレイは直方体である。
【0052】
上記方法で得られるガーネット型シンチレータ結晶は、大型結晶とすることができる。このため、本発明のシンチレータは、長手方向の厚みを、1mm以上とすることができる。また、放射線検出器に用いるために、長手方向の厚みを15mm、またはそれ以上の厚みとすることができる。本発明のシンチレータは、ガーネット型シンチレータ結晶を切削・研磨することにより、所望の発光量を得るのに好適な寸法とすることができる。
【0053】
本発明のシンチレータアレイは、放射線により励起されると、460nm以上700nm以下の蛍光ピーク波長で発光することができる。したがって、シリコン半導体から構成されるPDやSi−PMの感度の高い波長と一致させることができる。また、このとき、20000photon/MeV以上の発光量で発光できるため、高い位置分解能かつ高いS/Nを持つ放射線検出器を実現することができる。
【0054】
また、本発明のシンチレータアレイは、蛍光寿命(蛍光減衰時間)が100ナノ秒以下の蛍光成分を発光し、蛍光寿命が100ナノ秒を超える長寿命成分の強度を、蛍光成分全体の強度に対して20%以下にすることができる。したがって、本発明のシンチレータアレイを備えた放射線検出器は、蛍光測定のためのサンプリング時間が短くて済み、高時間分解能、すなわちサンプリング間隔を低減することができる。
【0055】
また、本発明のシンチレータアレイでは、662keVでのエネルギー分解能を10%以下とすることができる。したがって、本発明のシンチレータアレイを備えた放射線検出器では、高精度な放射線検出が可能となる。
【0056】
また、本発明のガーネット型シンチレータ結晶の密度は、6.5〜7.1g/cmの範囲とすることができる。したがって、シンチレータアレイおよびこれを用いる放射線検出器を小型化することができる。
【0057】
このように、本発明のシンチレータアレイは、高発光量、高いエネルギー分解能、高密度かつ短寿命の発光を有するため、本発明のシンチレータアレイを備える放射線検査装置では、高感度かつ高速応答の放射線検出が可能となる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の具体例について、図面を参照して詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるわけではない。なお、以下の実施例では、Ce濃度は、特定の結晶中における濃度か、融液(仕込み)における濃度かのいずれかの記載となっているが、各実施例において、結晶中の濃度1に対して仕込み時の濃度1〜10程度となるような関係があった。また、実施例及び比較例においてマイクロ引下げ法は、坩堝をイリジウムとし、育成雰囲気は酸素1%含有アルゴン、育成温度は、0.05mm/分とした。
【0059】
(実施例1)
マイクロ引下げ法により、Gd2.370.6Ce0.03GaAl12の組成で表されるガーネット型単結晶を作製した。得られた単結晶は、透明であった。
【0060】
(実施例2)
マイクロ引下げ法により、Gd2.370.6Ce0.03GaAl12の組成で表されるガーネット型単結晶を作製した。得られた単結晶は、透明であった。
【0061】
(実施例3)
マイクロ引下げ法により、Gd2.370.6Ce0.03GaAl12の組成で表されるガーネット型単結晶を作製した。得られた単結晶は、透明であった。
【0062】
(実施例4)
マイクロ引下げ法により、Gd2.370.6Ce0.03GaAl12の組成で表されるガーネット型単結晶を作製した。得られた単結晶は、透明であった。
【0063】
(実施例5)
マイクロ引下げ法により、Gd0.572.4Ce0.03Al12の組成で表されるガーネット型単結晶を作製した。得られた単結晶は、透明であった。
【0064】
(実施例6)
マイクロ引下げ法により、Gd0.572.4Ce0.03GaAl12の組成で表されるガーネット型単結晶を作製した。得られた単結晶は、透明であった。
【0065】
(実施例7)
マイクロ引下げ法により、Gd0.572.4Ce0.03GaAl12の組成で表されるガーネット型単結晶を作製した。得られた単結晶は、透明であった。
【0066】
(実施例8)
マイクロ引下げ法により、Gd0.572.4Ce0.03GaAl12の組成で表されるガーネット型単結晶を作製した。得られた単結晶は、透明であった。
【0067】
(実施例9)
マイクロ引下げ法により、Gd1.97LuCe0.03Al12の組成で表されるガーネット型単結晶を作製した。得られた単結晶は、透明であった。
【0068】
(実施例10)
マイクロ引下げ法により、Gd1.97LuCe0.03GaAl12の組成で表されるガーネット型単結晶を作製した。得られた単結晶は、透明であった。
【0069】
(実施例11)
マイクロ引下げ法により、Gd1.97LuCe0.03GaAl12の組成で表されるガーネット型単結晶を作製した。得られた単結晶は、透明であった。
【0070】
(実施例12)
マイクロ引下げ法により、Gd1.97LuCe0.03GaAl12の組成で表されるガーネット型単結晶を作製した。得られた単結晶は、透明であった。
【0071】
(実施例13)
マイクロ引下げ法により、Gd0.27Lu2.7Ce0.03Al12の組成で表されるガーネット型単結晶を作製した。得られた単結晶は、透明であった。
【0072】
(実施例14)
マイクロ引下げ法により、Gd0.27Lu2.7Ce0.03GaAl12の組成で表されるガーネット型単結晶を作製した。得られた単結晶は、透明であった。
【0073】
(実施例15)
マイクロ引下げ法により、Gd0.27Lu2.7Ce0.03GaAl12の組成で表されるガーネット型単結晶を作製した。得られた単結晶は、透明であった。
【0074】
(実施例16)
マイクロ引下げ法により、Gd0.27Lu2.7Ce0.03GaAl12の組成で表されるガーネット型単結晶を作製した。得られた単結晶は、透明であった。
【0075】
(実施例17)
マイクロ引下げ法により、Gd2.370.6Ce0.03ScAl12の組成で表されるガーネット型単結晶を作製した。得られた単結晶は、透明であった。
【0076】
(実施例18)
マイクロ引下げ法により、Gd0.27Lu2.7Ce0.03Sc0.5Al4.512の組成で表されるガーネット型単結晶を作製した。得られた単結晶は、透明であった。
【0077】
(実施例19)
マイクロ引下げ法により、Gd0.27Lu2.7Ce0.03ScAl12の組成で表されるガーネット型単結晶を作製した。得られた単結晶は、透明であった。
【0078】
(実施例20)
マイクロ引下げ法により、Gd0.297Lu2.7Ce0.003GaAl12の組成で表されるガーネット型単結晶を作製した。得られた単結晶は、透明であった。
【0079】
(実施例21)
マイクロ引下げ法により、Gd0.297Lu2.55Ce0.15GaAl12の組成で表されるガーネット型単結晶を作製した。得られた単結晶は、透明であった。
【0080】
(実施例22)
マイクロ引下げ法により、Gd2.97Ce0.03GaAl12の組成で表されるガーネット型単結晶を作製した。得られた単結晶は、透明であった。
【0081】
(実施例23)
マイクロ引下げ法により、Gd2.995Ce0.005GaAl12の組成で表されるガーネット型単結晶を作製した。得られた単結晶は、透明であった。
【0082】
(実施例24)
マイクロ引下げ法により、Gd2.97Ce0.03GaAl12の組成で表されるガーネット型単結晶を作製した。得られた単結晶は、透明であった。
【0083】
(比較例1)
熱間静水圧プレス燒結法により、Gd2.97Ce0.03GaAl12の組成で表される透明セラミックスを作製した。
なお、熱間静水圧プレス燒結法を用いた透明セラミックスの作製方法は以下の通りである。はじめに、各粉末原料をアルミナ坩堝に入れ、アルミナの蓋をした後、1500℃で2時間仮焼した。冷却後、純水で洗浄し乾燥したシンチレータ粉末を、24時間ボールミル粉砕し、粒径1〜2μmのシンチレータ粉砕粉を得る。ついで、この粉砕紛に、純水を5重量%添加し、500kg/cmの圧力で一軸プレス成形し、その後、加圧力3ton/cmで冷間静水圧プレスを行って、理論密度に対し64%程度の成形体を得た。その後、得られた成形体をこう鉢に入れ、フタをして、1750℃、3時間の一次燒結を行い、理論密度に対し、98.5%以上の燒結体を得た。
【0084】
(比較例2)
マイクロ引下げ法により、Gd2.97Ce0.03Al12結晶の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。得られた結晶は、不透明な多結晶であった。
【0085】
(比較例3)
マイクロ引下げ法により、Gd2.670.3Ce0.03Al12結晶の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。得られた結晶は、不透明な多結晶であった。
【0086】
(比較例4)
【0087】
マイクロ引下げ法により、Gd2.67Lu0.3Ce0.03Al12結晶の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。得られた結晶は不透明な多結晶であった。
【0088】
(比較例5)
マイクロ引下げ法により、Gd2.670.3Ce0.03ScAl12結晶の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。得られた結晶は、不透明な多結晶であった。
【0089】
(比較例6)
マイクロ引下げ法により、Lu2.67Gd0.3Ce0.03ScAl12結晶の組成で表されるガーネット型結晶を作製した。得られた結晶は、不透明な多結晶であった。
【0090】
各々の光学特性評価及びシンチレータ特性を評価した。なお、特に明示しない限り、実施例1〜24、比較例1〜6で得られた結晶をφ3mm×2mmサイズに加工し、φ3mm面を両面光学研磨して評価した。
1.透過率(T)
実施例1〜24、比較例1〜6で得られた結晶をφ3mm×5mmサイズに加工し、φ3mm面を両面光学研磨し、分光光度計(U4000、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて550nmにおける透過率を測定した。
2.吸光係数(α)
実施例1〜24、比較例1〜6で得られた結晶について、φ3×1mmサイズ及びφ3mm×15mmサイズに加工研磨したものも用意し、発光ピーク波長における透過率をそれぞれ測定し、上記式(2)を用いて、吸光係数α(mm−1)を求めた。
3.励起・発光スペクトル測定
分光蛍光光度計(F−7000、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて、フォトルミネセンス法(X線励起:CuKα)により励起・発光スペクトルを測定した。
4.γ線励起発光量、エネルギー分解能
図2に示す装置を用いて、φ3×2mmサイズに加工研磨した結晶に137Csからのγ線を照射し発光量を測定した。光電子倍増管として、浜松ホトニクス社製のPMT−R7600Uを用いた。得られたエネルギースペクトル中の光電吸収ピークの位置を既知のシンチレータであるCe:LYSO(発光量:33000photon/MeV)と比較し、光電子増倍管の波長感度をそれぞれ考慮し、発光量を算出した。測定温度は25℃とした。エネルギー分解能(ΔE/E)は、662keV(E)を基準とした反値幅(FWHM、ΔE)から算出した。
5.紫外線蛍光寿命測定
250nm紫外線励起(X線励起:CuKα)して生じた発光波長530nmの蛍光成分の蛍光減衰時間を測定した。
6.γ線蛍光寿命測定
図2に示す装置を用いて、137Csからのγ線を照射し蛍光減衰時間を測定した。光電子倍増管として、浜松ホトニクス社製のPMT−R7600Uを用いた。測定温度は25℃とした。
【0091】
図3は、実施例1〜5の結晶を示す図である。図3(a)が実施例1の結晶を示し、図3(b)が実施例2の結晶を示し、図3(c)が実施例3の結晶を示し、図3(d)が実施例4の結晶を示し、図3(e)が実施例5の結晶を示す。図4は、実施例22および実施例23の結晶を示す図であり、図4(a)が実施例22の結晶を示し、図4(b)が実施例23の結晶を示す。いずれも黄色又は橙色透明な結晶であった。
【0092】
密度、結晶の状態、発光ピーク波長、550nmにおける透過率(T(%))、及び、吸光係数(α(mm−1))の結果を表1および表2に示す。また、実施例3の透過スペクトルを図5に示す。
【0093】
【表1】


【0094】
【表2】

【0095】
表1で示すように、実施例におけるセリウム付活ガーネット型結晶は、発光量460〜550nm付近に発光ピーク波長を有することから、シリコン半導体から構成されるPDやSi−PM等の480〜700nmに感度の高い波長を有する受光器との組み合わせに適していることがわかる。
【0096】
実施例1〜24で得られた結晶に関する諸特性を表3にまとめる。図6は、実施例13で得られた結晶の励起・発光スペクトルを示す図であり、図7は、実施例15で得られた結晶の励起・発光スペクトルを示す図であり、図6、7において、横軸は発光波長(nm)、縦軸は励起波長(nm)を表す。また、図8は、実施例3で得られたγ線励起エネルギースペクトルを示す。図9は、実施例5〜7で得られた紫外線励起蛍光寿命のスペクトルを示す。図10は、実施例15、20および21で得られたγ励起蛍光寿命のスペクトルを示す。図11は、実施例3の結晶を光電子増倍管に接着し,252Cf中性子線を照射して得られたエネルギースペクトルである。
【0097】
【表3】


【0098】
表3で示すように、本実施例におけるガーネット型シンチレータ結晶は、放射線検出器に用いるシンチレータとしての性能が非常に優れていることが分かる。さらに、好適なCe濃度、Ga濃度をとることで、高発光量かつエネルギー分解能も高くなることが分かる。また、蛍光寿命の単寿命化及び長寿命成分も低減することができることが分かった。また、蛍光寿命は、30〜95ナノ秒程度であり、シンチレータ材料として非常に優れていることが分かった。
【0099】
特に、実施例15、20、および21で得られた結晶について137Csからのγ線を照射し蛍光減衰時間及び発光量を測定した結果、Ce濃度が増加するに従い、蛍光寿命は短くなった。また、実施例20において確認された385nsの長寿命成分は、Ce濃度が増加すると減少した。当該長寿命成分はGd3+のエネルギー準位からCe3+のエネルギー準位へのエネルギー遷移の結果生じるものと考えられ、Ce濃度が増加すると、エネルギー遷移の確立が増加し、長寿命成分が減少すると考えられる。同時に発光量も向上し、実施例15で最大となった。この測定結果からもGd3+のエネルギー準位からCe3+のエネルギー準位へのエネルギー遷移現象の存在が確認できる。
【0100】
図6において、実施例13の結晶は発光波長510nm付近にCe3+の4f5d発光由来の発光ピークが確認され、発光波長312nm付近にGd3+の4f4f発光由来の発光ピークが確認された。Gd3+の4f4f発光由来の発光の励起波長は260nm付近であったが、260nm励起においてCe3+の4f5d発光由来の発光も生じることが分かる。このことから、Gd3+のエネルギー準位からCe3+のエネルギー準位へのエネルギー遷移現象の存在が確認できる。一方、図7の実施例15で得られた結晶では、Ce3+の4f5d発光由来の発光ピークは確認されなかった。
【0101】
また、図8で示すエネルギースペクトルから、実施例3のエネルギー分解能は3.6%であった。
【0102】
また、図9で示すように、Gd0.572.4Ce0.03Al12結晶(実施例5)の紫外線励起では、520nmの蛍光成分は、82nsの蛍光寿命と112nsの長寿命成分を示した。また、Gd0.572.4Ce0.03GaAl12結晶(実施例7)では、長寿命成分が無くなり13ns(14%)、45ns(86%)の蛍光寿命を示した。このように、Ga濃度の増加に伴い、蛍光寿命が短寿命化するのが示された。なお、γ線励起蛍光寿命が紫外線励起に比べて長寿命なのは、γ線励起の場合、Gd3+の各エネルギー準位を経由してCe3+4f5d発光に至るためと考えられる。
【0103】
図11のエネルギースペクトルでは、実施例3の結晶中に含まれるGdと中性子との(n,γ)反応により放出されるγ線がGd2.370.6Ce0.03GaAl12に吸収されることで生じるフォトピークを確認した。
【0104】
さらに、実施例13〜16及び18、19で得られた結晶の蛍光減衰曲線を、フォトルミネッセンスにて観測し、発光波長530nmのCe3+の4f5d発光及び発光波長312nmのGd3+の4f4f発光についてそれぞれ蛍光寿命(蛍光減衰時間)を測定した。結果を、表4に示す。発光波長530nmのCe3+の4f5d発光を励起波長450nmで直接励起した場合には、32〜51nsの蛍光寿命を示し、Ga及びSc濃度の増加とともに、蛍光寿命が短くなった。また、発光波長530nmのCe3+の4f5d発光をGd3+の4f4f発光の励起波長である励起波長250nmで励起した場合には、92〜102nsの長寿命成分が確認された。さらに、発光波長312nmのGd3+の4f4f発光を250nmで励起した場合には、数μs〜127nsの蛍光寿命が得られ、Ga及びSc濃度の増加とともに、蛍光寿命が短くなった。以上の測定結果からもGd3+のエネルギー準位からCe3+のエネルギー準位へのエネルギー遷移現象の存在が確認できる。
【0105】
【表4】

【0106】
(実施例25)
実施例24で得られたガーネット型シンチレータ単結晶を、2.1mm×2.1mm×15mmのサイズに切削・研磨して、直方体のシンチレータを得た。得られたシンチレータ100個を、図1に示すように、長手方向に直行する方向に配列し、硫酸バリウム反射材を用いてシンチレータアレイを作製した。シンチレータアレイの写真を図12に示す。このシンチレータアレイを、位置分解型光電子倍増管H8500上に接着し、137Csγ線を照射して、二次元マップを測定した。二次元マップを測定した図を、図13に示す。二次元マップ測定では、シンチレータアレイの各ピクセル(シンチレータ)に、γ線が入射した場合に各ピクセルに対応するスポットが観察される。このスポットの径が小さくかつスポット間の幅が大きいほど、シンチレータアレイの位置分解能が高いことを示す。実施例24で得られたガーネット型シンチレータ単結晶を用いた本実施例では、シンチレータアレイの各ピクセルにγ線が入射したことを示すスポットの径が小さく、スポットの幅が大きい。また、本実施例のシンチレータアレイに、137Csγ線を照射し、その際のエネルギースペクトルを測定した。結果を図16に示す。
【0107】
(比較例7)
比較例1で得られた透明セラミックスを用いて、実施例25に記載の方法と同様にして、シンチレータアレイを作製した。シンチレータアレイの写真を図14に示す。このシンチレータアレイを、位置分解型光電子倍増管H8500上に接着し、137Csγ線を照射して、二次元マップを測定した。二次元マップを測定した図を、図15に示す。二次元マップ測定では、スポットの径が大きく、スポット間の幅が小さいことがわかる。また、本比較例のシンチレータアレイに、137Csγ線を照射し、その際のエネルギースペクトルを測定した。結果を図16に示す。
【0108】
図16のエネルギースペクトル図からわかるように、比較例7(比較例1)の透明セラミックスの発光量は、実施例25(実施例24)のシンチレータの約4分の1程度である。このため、図15に示す比較例7のシンチレータアレイの二次元マップは、各スポット間の幅が小さい、すなわち、スポットの分解が悪いと考えられる。また、実施例25のシンチレータの吸光係数は0.0009mm−1であるのに対し、比較例7のシンチレータの吸光係数は0.02mm−1である。比較例7の透明セラミックスは、吸光係数が大きいため、2×2×15mmの寸法のような縦長の形状をとった場合、長手方向の光の吸収が大きくなり、二次元マップのスポットの分離が悪くなると考えられる。一方、実施例25のシンチレータアレイは、二次元マップのスポットの分離が良好であり、その結果、放射線検出器に用いた場合に、検出器の検出感度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0109】
10 暗箱
11 Cs137γ線源
12 シンチレータ
13 テフロン(登録商標)テープ
14 光電子増倍管
15 前置増幅器
16 波形整形増幅器
17 マルチチャンネルアナライザ
18 パーソナルコンピュータ
19 デジタルオシロスコープ
100 放射線検出器
111 シンチレータアレイ
111a シンチレータ
112 受光器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を吸収して発光する複数の柱状のシンチレータからなるシンチレータアレイと、前記シンチレータの発光を検知する受光器とを備える放射線検出器であって、
前記複数の柱状のシンチレータは、その長手方向に前記放射線が入射するように、複数の行・列に二次元配列され、
前記シンチレータは、Gd、Al、O、およびCe、ならびにGa、Sc、Y、YbおよびLuから選択される少なくとも1種を含むガーネット型シンチレータ結晶であり、
前記シンチレータは、550nmの波長の光に対する吸光係数が0.005mm−1以下である、放射線検出器。
【請求項2】
前記シンチレータの長手方向の寸法が、15mm以上である、請求項1に記載の放射線検出器。
【請求項3】
前記シンチレータの長手方向の波長550nmの光に対する透過率が70%以上である、請求項1に記載の放射線検出器。
【請求項4】
前記シンチレータが、蛍光寿命100ナノ秒以下の蛍光成分を有する、請求項1に記載の放射線検出器。
【請求項5】
前記蛍光成分の発光ピーク波長が、460nm以上、700nm以下である、請求項4に記載の放射線検出器。
【請求項6】
前記ガーネット型シンチレータ結晶が、式(1):
Gd3−x−yCeREAl5−z12 (1)
(式(1)中、0.0001≦x≦0.15、0≦y≦2.9、0≦z≦4.8であり、MはGa及びScから選択される少なくとも1種であり、REはY、Yb及びLuから選択される少なくとも1種である)で表される組成を有する、請求項1に記載の放射線検出器。
【請求項7】
前記式(1)において、0.006≦x≦0.15、0≦y≦2.7、1.5≦z≦3.5であり、REがYであり、MがGaである、請求項6に記載の放射線検出器。
【請求項8】
前記式(1)において、0.006≦x≦0.15、0.3≦y≦2.7、1.5≦z≦3.5であり、REがLuであり、MがGaである、請求項6に記載の放射線検出器。
【請求項9】
前記式(1)において、0.006≦x≦0.15、0.3≦y≦2.9、0.5≦z≦3であり、REがYであり、MがScである、請求項6に記載の放射線検出器。
【請求項10】
前記式(1)において、0.006≦x≦0.15、0.3≦y≦2.9、0.5≦z≦2.5であり、REがLuであり、MがScである、請求項6に記載の放射線検出器。
【請求項11】
前記式(1)において、0.001≦x≦0.15、0≦y≦0.1、2.0≦z≦3.5であり、REがY、Luである、請求項6に記載の放射線検出器。
【請求項12】
前記シンチレータの発光量が20000photon/Me以上である、請求項1に記載の放射線検出器。
【請求項13】
前記ガーネット型シンチレータ結晶が、単結晶である、請求項1に記載の放射線検出器。
【請求項14】
前記シンチレータが直方体である、請求項1に記載の放射線検出器。
【請求項15】
前記シンチレータは、複数列のマトリクス状に配置される、請求項1に記載の放射線検出器。
【請求項16】
前記シンチレータアレイが直方体である、請求項1に記載の放射線検出器。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図16】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−2882(P2013−2882A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132573(P2011−132573)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000165974)古河機械金属株式会社 (211)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】