説明

放射線検出装置

【課題】光検出器が出力する雑音を低減する放射線検出装置を提供する。
【解決手段】放射線が入射する入射面を有し、入射した放射線から光を生成するシンチレータと、前記生成された光を検出する1次元状に配列された複数の光検出器と、所定の抵抗値部分を複数回延伸し、前記抵抗値部分ごとに分岐線を接続可能な線状抵抗部とを備え、前記光検出器は、光から電気信号を生成する光検出素子、及び、前記電気信号中で基準信号強度に達しない信号成分を抑圧し、前記基準信号強度に達する信号成分を抽出する信号抽出回路を有し、前記1次元状に配列された複数の光検出器に含まれるそれぞれの信号抽出回路の出力信号が前記分岐線を通じて前記線状抵抗部に入力され、前記1次元状に配列された光検出器の位置が、それぞれの光検出器の信号抽出回路の出力信号が入力される前記分岐線の接続位置における前記線状抵抗部の抵抗値に対応付けられる放射線検出装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を検出する放射線検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線を検出する放射線検出装置として、シンチレータ及び光検出器が使用されるものがある。シンチレータは、シンチレーション現象により、放射線を光に変換する。放射線検出装置は、シンチレータで変換された光を光検出器で検出することにより、入射される放射線を検出する。放射線には、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、X線、中性子線、荷電粒子線等が含まれる。
【0003】
図1は、放射線検出装置に入射される放射線の例を示す図である。図1の放射線検出装置3は、放射線シンチレータ1及び光検出器2を含む。放射線シンチレータ1は、放射線を光に変換する。光検出器2は、放射線シンチレータ1で変換された光を検出する。放射線検出装置3に入射された放射線は、放射線シンチレータ1で光に変換され、変換された光が光検出器2で検出される。
【0004】
また、シンチレータで変換された光を複数の光検出器で検出することにより、放射線が入射した位置を特定できる放射線検出器が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−8675号公報
【特許文献2】特開2009−121929号公報
【特許文献3】特開2009−25308号公報
【特許文献4】特開2004−264078号公報
【特許文献5】特開昭61−225683号公報
【特許文献6】特開2000−180551号公報
【特許文献7】特開平6−347557号公報
【特許文献8】特開昭60−73484号公報
【特許文献9】特開昭60−135883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
放射線検出器において、シンチレータで変換された光によって放射線を検出する際、複数の光検出器を使用し、電荷分割法等により、放射線が入射された位置を特定することがある。また、広い領域で位置を検出する場合、より多くの光検出器を使用することがある。しかしながら、複数の光検出器を使用すると、光検出器の数に比例して発生する定常的なノイズが大きくなる。一方、光検出器に入射する光の総量は、光検出器の数を増やしても変化しない。よって、結果として、光検出器を増やすことにより、放射線検出器におけるSN比(Signal to Noise ratio)が低下する。よって、各光検出器が出力する雑音を
低減することが求められる。
【0007】
本発明は、光検出器が出力する雑音を低減する放射線検出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
開示の放射線検出装置は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用する。
【0009】
即ち、第1の態様は、
放射線が入射する入射面を有し、入射した放射線から光を生成するシンチレータと、
前記生成された光を検出する1次元状に配列された複数の光検出器と、
所定の抵抗値部分を複数回延伸し、前記抵抗値部分ごとに分岐線を接続可能な線状抵抗部とを備え、
前記光検出器は、光から電気信号を生成する光検出素子、及び、前記電気信号中で基準信号強度に達しない信号成分を抑圧し、前記基準信号強度に達する信号成分を抽出する信号抽出回路を有し、
前記1次元状に配列された複数の光検出器に含まれるそれぞれの信号抽出回路の出力信号が前記分岐線を通じて前記線状抵抗部に入力され、前記1次元状に配列された光検出器の位置が、それぞれの光検出器の信号抽出回路の出力信号が入力される前記分岐線の接続位置における前記線状抵抗部の抵抗値に対応付けられる放射線検出装置とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光検出器が出力する雑音を低減する放射線検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、放射線検出装置に入射される放射線の例を示す図である。
【図2】図2は、中性子検出装置の構成例(1)を示す図である。
【図3】図3は、中性子検出装置の構成例(2)を示す図である。
【図4】図4は、中性子検出装置の光検出器及び抵抗の例を示す図である。
【図5】図5は、中性子検出装置の光検出器の例(1)を示す図である。
【図6】図6は、中性子検出装置の光検出器の例(2)を示す図である。
【図7】図7は、電荷分割法により位置を算出した結果の例を示す図である。
【図8】図8は、図7のグラフのバイアス電圧とピーク半値幅との関係の例を示す図である。
【図9】図9は、中性子検出装置の光検出器の例(3)を示す図である。
【図10】図10は、中性子検出装置の光検出器の例(4)を示す図である。
【図11】図11は、中性子検出装置の光検出器の例(5)を示す図である。
【図12】図12は、中性子検出装置の光検出器の例(6)を示す図である。
【図13】図13は、中性子検出装置の光検出器の例(7)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して実施形態について説明する。実施形態の構成は例示であり、開示の実施形態の構成に限定されない。
【0013】
ここでは、主として、中性子を検出する放射線検出装置、即ち、中性子検出装置について説明する。
【0014】
〔実施形態1〕
(構成例)
図2は、中性子検出装置の例(1)を示す図である。図2の例では、中性子検出装置10は、中性子シンチレータ100、複数の光検出器300、複数の抵抗400を含む。
【0015】
図2の中性子検出装置10は、平板状の中性子シンチレータ100と、中性子シンチレータ100の一方の面側に配置された光検出器300と、抵抗400とを有する。中性子シンチレータ100の光検出器300が配置された面と反対側の面に検出対象の中性子が入射される。
【0016】
中性子シンチレータ100は、中性子を光に変換する媒体である。中性子シンチレータ100として、例えば、ZnS、Liガラス、LBO単結晶が使用されうる。中性子シンチレータ100は、これらに限定されるものではない。
【0017】
光検出器300は、中性子シンチレータ100で変換された光を検出する。光検出器300は、入射された光を電気信号等に変換して出力する。光検出器300は、入射された光の量に依存した電気信号等を出力する。光検出器300は、例えば、入射された光の量に比例した電荷を出力する。光検出器300の光検出素子として、例えば、MPPC(Multi-Pixel Photon Counter)といった半導体光検出器、光電子増倍管が使用されうる。中性子検出装置10には、複数の光検出器300が設けられてもよい。この複数の光検出器300は、直線上に設けられる。即ち、この複数の光検出器300は、一次元状に配置される。複数の光検出器300を用いることにより、中性子が入射された位置を算出することが可能となる。光検出器300から離れた位置に放射線が入射されると、当該光検出器300で検出される光は弱くなり、当該光検出器300からの出力は小さくなる。また、光検出器300から近い位置に放射線が入射されると、当該光検出器300で検出される光は強くなり、当該光検出器300からの出力は大きくなる。
【0018】
各光検出器300の出力は、抵抗400を直列に接続した電荷分割回路40に接続される。各抵抗400の抵抗値は、等しい抵抗値である。図2のように、電荷分割回路40の中の隣接する2つの抵抗400の接続部には、各光検出器300の検出信号が入力される。電荷分割回路40の中の隣接する2つの抵抗400の接続部は、分岐線を通じて、光検出器300に接続される。図2のように、電荷分割回路40の直列抵抗間に各光検出器300を接続することを「直列抵抗回路に光検出器300を抵抗分割して接続する」という。電荷分割回路40は、所定の抵抗値部分を複数回延伸し、これらの抵抗値部分ごとに光検出器300と接続する分岐線を接続可能な線状抵抗部とすることができる。
【0019】
各光検出器300の出力は、電荷分割回路40で抵抗分割される。抵抗400は、電荷分割用抵抗である。図2のように、電荷分割回路40の両端から出力が得られる。これらの出力に基づいて、電荷分割法等により、中性子が入射された位置を算出することができる。電荷分割回路40の両端には、例えば、電荷増幅器が接続される。電荷増幅器の出力は、例えば、AD(Analog to Digital)変換器等により、デジタルデータに変換されて
コンピュータに入力される。当該コンピュータが、電荷分割法等により、中性子が入射された位置を算出する。
【0020】
図3は、中性子検出装置の例(2)を示す図である。図3の例では、中性子検出装置10は、中性子シンチレータ100、光透過板200、複数の光検出器300、複数の抵抗400を含む。ここでは、主に、図2の中性子検出装置10と異なる点について説明する。
【0021】
図3の中性子検出装置10は、平板状の中性子シンチレータ100と、中性子シンチレータ100の一方の面側に配置された平板状の光透過板200と、光透過板200の中性子シンチレータ100が配置された面と反対側の面側に配置された光検出器300と、抵抗400とを有する。中性子シンチレータ100の透過板200が配置された面と反対側の面に検出対象の中性子が入射される。
【0022】
中性子シンチレータ100と光透過板200とは、接触してもよい。また、光透過板200と光検出器300とは、接触してもよい。ここで、光透過板200は、入射された光を拡散する形態(例えば、光拡散ガラス)としてもよい。光透過板200が光拡散ガラスであるとき、光透過板200に入射された光は、光透過板200によって拡散される。光
が拡散されると、光が、より多くの光検出器300によって、検出され易くなる。また、中性子を吸収するホウケイ酸ガラスを光拡散ガラスにすることで、光透過板200は、光を拡散しつつ、中性子を吸収することができる。光透過板200の厚さは、光検出器300の設置間隔と同程度以上にする。光を拡散する光透過板200の厚さを厚くすると、光が拡散された位置から光検出器300までの距離が長くなるため、光検出器に入射される光は弱くなる。一般に、光の強度は、光源からの距離の2乗に反比例する。しかし、光が拡散された位置から光検出器300までの距離が長くなると、光が拡散される範囲が大きくなり、光を検出する光検出器300の数が増える。多くの光検出器300で光を検出することで、光が入射された位置を算出する際の位置の精度が上がる。例えば、光透過板200の厚さが光検出器300の設置間隔と同じである場合、光透過板200の入射側の面で光が90度に拡散されたとすると、2個または3個の光検出器300によって、光が検出される。よって、光が複数の光検出器300で検出され、かつ、光検出器300に入射される光が弱くならないように、例えば、光透過板200の厚さは、光検出器300の設置間隔と同程度が望ましい。
【0023】
光透過板200は、入射される光を通過させる。また、光透過板200は、入射される中性子を吸収する。光透過板200として、例えば、ホウケイ酸ガラスが使用される。ホウケイ酸ガラスは、ボロン入りのガラスである。ボロン入りガラスは、中性子を吸収し得る。透過板200の厚さは、入射される中性子の量と、光検出器300に影響を及ぼす中性子の量とによって決定されうる。光透過板200は、ホウケイ酸ガラスに限定されない。中性子シンチレータ100で変換されなかった中性子(中性子シンチレータ100を透過した中性子)は、中性子を吸収する光透過板200に吸収される。中性子シンチレータ100を透過した中性子が光透過板200に吸収されるので、光検出器300に入射される中性子が低減する。光透過板200は、光検出器300を中性子から保護する。
【0024】
中性子シンチレータ100で変換された光が拡散されず1つの光検出器300のみで光が検出される場合、光が入射された位置(中性子が照射された位置)を算出する際の位置分解能は、光検出器300の設置間隔程度に留まる。一方、光が拡散され複数の光検出器300で光が検出される場合、光が入射された位置の位置分解能は、光検出器300の設置間隔よりも小さくなる。複数の光検出器300で光が検出される場合、光検出器300間をそれぞれの出力電荷で按分した値により、位置を特定できるからである。
【0025】
〈電荷分割法〉
電荷分割法により、放射線が入射された位置を検出する方法ついて説明する。
【0026】
図4は、中性子検出装置の光検出器及び抵抗の例を示す図である。図4のように、複数の光検出器300が直線上に等間隔に配置される。光検出器300の間隔を、距離Wとする。光検出器300が配置される直線上で、一方の端の光検出器300の位置から外側に距離W離れた位置(位置0)から、他方の端の光検出器300の位置から外側に距離W離れた位置(位置L)までを距離Lとする。光検出器300の位置とは、例えば、光検出器300の光入射面の中心位置をいう。各光検出器300の出力は、電荷分割回路で抵抗分割される。電荷分割回路40の両端から出力電荷が得られる。
【0027】
光検出器300に光が入射されると、電荷が出力される。光検出器300からの出力電荷(電荷Q0とする)は、当該光検出器300の位置から両端への抵抗値の比で分配される。ここで、一方の端で得られる出力電荷を電荷Qa、他方の端で得られる出力電荷を電荷Qbとする。
【0028】
また、電荷Q0が出力された光検出器300から一方の端までの抵抗値の和をR1、他方の端までの抵抗値の和をR2とする。一方の端で得られる電荷Qaは、次のように表さ
れる。
【0029】
【数1】

同様に、他方の端で得られる電荷Qbは、次のように表される。
【0030】
【数2】

複数の光検出器300で光が同時に検出された場合は、それぞれの光検出器300からの出力電荷が、両端への抵抗値の比で分配される。両端では、それぞれの光検出器300からの出力電荷の和として、電荷Qa及び電荷Qbが得られる。
【0031】
光が散乱した場合、光検出器300は、発光位置に近いほど、強い光を検出する。光検出器300は、光の強度に応じた電荷を出力する。よって、複数の光検出器300で光が検出される場合、光検出器300の間隔よりも小さい値の位置分解能で、光が入射された位置を算出できる。
【0032】
得られた電荷Qa及び電荷Qbから、光が入射された位置xは、次のように表される。位置xは、光検出器300が配置される直線状の点である。
【0033】
【数3】

ここで、電荷Qa及び電荷Qbにそれぞれ雑音nが含まれているとすると、位置xは、次のように表される。
【0034】
【数4】

ここで、位置xを求めるには、雑音nが次の条件を満たさなければならない。
【0035】
【数5】

この式を満たさないときは、信号が雑音に埋もれ、位置を正確に算出できないからである。
【0036】
このとき、位置xは次のように表せる。
【0037】
【数6】

よって、位置xは、次の式のように近似できる。
【0038】
【数7】

ここで、第2項のnL/(Qa+Qb)が、おおよその位置のゆらぎとなる。光検出器300の光検出デバイスの暗電流に基づく信号は、雑音nの原因の1つである。
【0039】
《光検出器(1)》
図5は、中性子検出装置の光検出器の例(1)を示す図である。光検出器300は、入射された光の信号を抽出する信号抽出回路を含む。ここでは、光検出器300の光検出デバイスとして、MPPCが使用される。図5の光検出器300は、可変抵抗VR01、抵抗R01、抵抗R02、抵抗R03、コンデンサC01、コンデンサC02、及び、MPPCを含む。光検出器300は、MPPCに光が入射されることにより光を検出する。図5の出力が、図2等の電荷分割回路40に接続される。
【0040】
抵抗400に効率よく電荷を供給するために、抵抗R03の抵抗値を暗電流を流すのに支障がない範囲でできるだけ大きな値にする。電荷分割回路40の抵抗値は、全体で10kΩ程度になる値を使用する。電荷分割回路40の抵抗値が小さいと、信号が熱雑音に対して相対的に小さくなり、よいSN比が得られない。熱雑音は、抵抗400全体の抵抗値の平方根の逆数に比例する。よって、抵抗値が大きい方が、熱雑音が小さくなる。従って、電荷分割回路40の抵抗値が全体で10kΩ程度になるので、抵抗R03の抵抗値は、10kΩ〜100kΩ程度にする。
【0041】
可変抵抗VR01を調整することにより、MPPCに印加する電圧の微調整ができる。抵抗R02の抵抗値と可変抵抗VR01の抵抗値との比により、MPPCに印加する電圧の調整範囲が決まる。例えば、抵抗R01の抵抗値が4.7kΩ、抵抗R02の抵抗値が500kΩ、可変抵抗VR01の最大抵抗値が10kΩ、コンデンサC01の静電容量が0.1μFであるとすると、抵抗R02の抵抗値と可変抵抗VR01の抵抗値との比により、2%の範囲でMPPCに印加する電圧の調整ができる。多くのMPPCの動作電圧が70V近辺であり、そのばらつきが1V以内であるので、抵抗R02の抵抗値と可変抵抗VR01とで、十分調整できる。例えば、基準となるLED(Light Emitting Diode)光源等を使用し、各光検出器300において、出力値が一致するように可変抵抗VR01が調整される。
【0042】
光検出器300には、電源電圧V0が印加される。MPPCに光が入射されると、瞬間的に、抵抗R03に電位が発生する。この電位による電荷は、コンデンサC02を介して、光検出器300の出力パルスとして出力される。コンデンサC02は、信号の直流成分をカットする。
【0043】
《光検出器(2)》
図6は、中性子検出装置の光検出器の例(2)を示す図である。ここでは、光検出器300は、暗電流雑音を除去するために、バイポーラトランジスタを含む。図6の光検出器300は、可変抵抗VR11、抵抗R11、抵抗R12、抵抗R13、コンデンサC11、MPPCを含む。図6の光検出器300は、さらに、抵抗R14、抵抗R15、コンデンサC12、コンデンサC13、及び、トランジスタQ11を含む。光検出器300は、MPPCに光が入射されることにより光を検出する。図6の出力が、図2等の電荷分割回路40に接続される。
【0044】
図6の光検出器300の、可変抵抗VR11、抵抗R11、抵抗R12、抵抗R13、コンデンサC11、MPPCは、それぞれ、図5の光検出器300の、可変抵抗VR01、抵抗R01、抵抗R02、抵抗R03、コンデンサC01、MPPCと同様に動作する。
【0045】
図6の光検出器300は、出力の増幅にバイポーラトランジスタQ11を使用する。図6のように、バイポーラトランジスタQ11のエミッタに出力抵抗R15が接続され、エミッタフォロワが形成される。エミッタフォロワは、増幅度1の回路として知られている。また、バイアス電圧VbをトランジスタQ11の順方向電圧付近に調節する。暗電流によるベースエミッタ間の電圧降下がバイポーラトランジスタがオンになる電圧を超えなければ、暗電流が増幅されないようになる。図6の光検出器300の増幅回路は、トランジスタのD級増幅回路に相当する。図6の光検出器300の増幅回路は、光を検出したMPPCの信号を通過するようにする。即ち、図6の光検出器300の増幅回路は、暗電流雑音に基づく信号を出力しないようにする。
【0046】
ここで、具体例を示す。抵抗の抵抗値、コンデンサの静電容量、トランジスタの特性等は、ここに記載されるものに限定されるものではない。可変抵抗VR11を10kΩ、抵抗R11を4.7kΩ、抵抗R12を470kΩ、抵抗R13を47kΩ、抵抗R14を470kΩ、抵抗R15を4.7kΩ、コンデンサC11を0.1μF、コンデンサC12を22pF、コンデンサC13を220pFとする。また、トランジスタQ11の特性として、ベースエミッタ電圧VBE=500〜600mVで、コレクタ電流IC=0になる
とする。また、トランジスタQ11は、hFE=100とする。よって、バイアス電圧Vb=500〜600mVとなるように調整し、MPPCが光を検出していないときに、光検出器300が暗電流雑音に基づく信号を出力しないようにする。
【0047】
このとき、仮に、MPPCが光を検出して、抵抗R13に1Vの電位が、1μs間、発生したとする。すると、コンデンサC12を通じて最大22μAの電流がトランジスタQ11のベース端子に流せる。また、トランジスタQ11のhFEが100である場合には、抵抗R15には、最大2mAの電流が流れる。しかし、抵抗R15は4.7kΩであるのでコンデンサC12からの入力電圧1Vによる電流は0.2mAで飽和し、ベース電流IBは2μA程度のパルス信号に抑えられる。すると、バイポーラトランジスタQ11がエ
ミッタフォロワとして増幅度≒1で、入力信号(抵抗R13の電圧)を増幅し、光検出器300は、抵抗R13より若干低い1V弱の電位を出力する。結果として、MPPCが光を検出していないときの暗電流による雑音が除去される。従って、複数の光検出器300をつないでも、ノイズが増大しない。
【0048】
図7は、電荷分割法により位置を算出した結果の例を示す図である。図7のグラフは、図6の光検出器300を有する中性子検出装置10に、実際に基準となるLED光源による光を照射し、図4の出力電荷Qa及びQbを所定時間毎に取得し、位置を電荷分割法により算出し、チャネル毎に(位置毎に)カウント(計数)したものである。ここでは、1cmあたり59チャネルとしている。つまり、光検出器300が配置される直線を1/59cm毎のチャネルに分割して、チャネル毎に位置をカウントしている。この分割の幅は
、自由に設定できる。ここでは、QaとQbとの和が閾値としての所定の値を超えたもののみカウントしている。この所定の値は、光検出器300が光を検出しているとみなされる値のうち最低の値とする。図7のグラフでは、バイアス電圧Vbが、462mV、509mV、518mV、589mV、624mV、817mV、1138mVの場合について測定している。バイアス電圧Vbは、バイポーラトランジスタQ11のベースバイアス信号に相当する。各バイアス電圧Vbの測定おいて、各チャネルのカウント数の合計が、所定のカウント数になるまで、測定している。また、ここでは、中性子検出装置10は、16個の光検出器300(MPPC)を有する。MPPCは、5mm間隔で直線上に配置されている。
【0049】
図7の横軸はチャネルであり、縦軸はカウント数である。チャネルは、光検出器300が配置される直線上の距離に対応する。図7のグラフは、620chから660chまでを抜粋したものである。620chから660chまでで、ほぼ7mmである。
【0050】
バイアス電圧Vbが大きい場合、トランジスタQ11のベース電位が上がり、小さな信号であっても増幅される。即ち、バイアス電圧Vbが大きい場合、MPPCが光を検出していない場合であっても、暗電流による電位が増幅される。
【0051】
バイアス電圧Vbが小さい場合、トランジスタQ11のベース電位が下がり、小さな信号は増幅されない。即ち、バイアス電圧Vbが小さい場合、暗電流による電位は増幅されない。しかし、バイアス電圧Vbを低くしすぎると、MPPCが検出した弱い光の信号も検出されなくなる。
【0052】
例えば、図7のグラフで、バイアス電圧Vbが509mVである場合、635ch付近のピーク近傍以外のチャネルでは、ほとんどカウントされていない。これは、光が検出されない位置のMPPCの暗電流の影響をほぼ除去していることを意味する。バイアス電圧Vbが509mVである場合、及び、462mVである場合も同様に、光が検出されない位置のMPPCの暗電流の影響をほぼ除去している。
【0053】
また、バイアス電流Vbが462mVである場合、バイアス電圧が低すぎるため、MPPCが検出した弱い光の信号が検出されなくなる。弱い光を検出した光検出器300の信号が出力されない。また、検出された強い光の信号も若干弱められて出力される。これらの影響により、光が入射された位置を算出する際の位置の精度が下がる。
【0054】
一方、バイアス電圧Vbが1138mVである場合、ブロードなピークになっており、ピーク近傍以外のチャネルでも、カウントされている。ピークのカウント数は、バイアス電圧Vbが509mVの場合と比べて、小さくなっている。バイアス電圧Vbが高いため、各光検出器300でMPPCでの暗電流に基づく小さな信号が除去されずに出力される。この信号が、位置を算出する際のノイズになっている。
【0055】
図8は、図7のグラフのバイアス電圧とピーク半値幅との関係の例を示す図である。バイアス電圧Vbが509mVである場合、最もピーク半値幅が小さい。このピーク半値幅は、図6の光検出器300を使用する中性子検出装置10の位置分解能に相当する。即ち、本測定で用いた中性子検出装置10では、バイアス電圧Vbを509mV程度にすることが望ましい。バイアス電圧Vbを509mV程度にすることで、光検出器300は、MPPCの暗電流の影響を除去でき、かつ、MPPCで検出した弱い光の信号を出力できる。よって、中性子検出装置10は、光が入射された位置(放射線が入射された位置)を精度よく算出することができる。ただし、以上の値は、測定例であり、適切なバイアス電圧Vbは、暗電流値、素子毎、素子を製造するロット毎に異なる。
【0056】
《光検出器(3)》
図9は、中性子検出装置の光検出器の例(3)を示す図である。ここでは、光検出器300は、暗電流雑音を除去するために、ユニポーラトランジスタ(FET:Field Effect
Transistor、電界効果トランジスタ)を含む。図9の光検出器300は、可変抵抗VR
21、抵抗R21、抵抗R22、抵抗R23、コンデンサC21、MPPCを含む。図9の光検出器300は、さらに、抵抗R24、抵抗R25、コンデンサC22、コンデンサC23、及び、トランジスタQ21を含む。光検出器300は、MPPCに光が入射されることにより光を検出する。図9の出力が、図2等の電荷分割回路40に接続される。
【0057】
図9の光検出器300の、可変抵抗VR21、抵抗R21、抵抗R22、抵抗R23、コンデンサC21、MPPCは、それぞれ、図5の光検出器300の、可変抵抗VR01、抵抗R01、抵抗R02、抵抗R03、コンデンサC01、MPPCと同様に動作する。
【0058】
図9の光検出器300は、出力の増幅にユニポーラトランジスタQ21を使用する。図9のようにトランジスタQ21のソースに出力抵抗R25が接続され、ソースフォロワが形成されている。ソールフォロワは増幅度1の増幅回路として知られている。また、バイアス電圧VbをトランジスタQ21のカットオフ電圧付近に調節し、暗電流雑音がユニポーラトランジスタQ21の閾値Vthを超えないようにバイアス電圧Vbを調節し、暗電流が増幅されないようにする。バイアス電圧Vbは、ユニポーラトランジスタQ21のゲートバイアス信号に相当する。図9の光検出器300の増幅回路は、トランジスタのD級増幅回路に相当する。図9の光検出器300の増幅回路は、光を検出したMPPCの信号のみを通過するようにする。即ち、図9の光検出器300の増幅回路は、暗電流雑音に基づく信号を出力しないようにする。
【0059】
ここで、具体例を示す。抵抗の抵抗値、コンデンサの静電容量、トランジスタの特性等は、ここに記載されるものに限定されるものではない。可変抵抗VR21を10kΩ、抵抗R21を4.7kΩ、抵抗R22を470kΩ、抵抗R23を47kΩ、抵抗R24を470kΩ、抵抗R25を4.7kΩ、コンデンサC21を0.1μF、コンデンサC22を22pF、コンデンサC23を220pFとする。また、トランジスタQ21の特性として、ゲートソース電圧VGS=−600mV以下で、ドレイン電流ID=0になるとす
る。よって、バイアス電圧Vb=−500〜−600mVとなるように調整し、MPPCが光を検出していないときに、暗電流雑音を感じないようにする。
【0060】
このとき、仮に、MPPCが光を検出して、抵抗R23に1Vの電位が、1μs間、発生したとする。すると、コンデンサC22を通じて、トランジスタQ21のゲート端子に1V程度の電位が発生する。また、トランジスタQ21にはドレイン電流が流れ、抵抗R25には、電位が発生し、相応のゲートソース電圧VGSを保つ。即ち、トランジスタQ21は、増幅度1のソースフォロワとして動作し、光検出器300は、抵抗R23より若干低い1V弱の電位を出力する。結果として、暗電流による雑音だけが除去される。従って、複数の光検出器300をつないでも、ノイズが増大しない。
【0061】
《光検出器(4)》
図10は、中性子検出装置の光検出器の例(4)を示す図である。ここでは、光検出器300は、暗電流雑音を除去するために、コンパレータを含む。図10の光検出器300は、可変抵抗VR31、抵抗R31、抵抗R32、抵抗R33、コンデンサC31、MPPCを含む。図10の光検出器300は、さらに、抵抗R34、コンパレータ31、スイッチSW31、及び、コンデンサC32を含む。光検出器300は、MPPCに光が入射されることにより光を検出する。図10の出力が、図2等の電荷分割回路40に接続される。
【0062】
図10の光検出器300の、可変抵抗VR31、抵抗R31、抵抗R32、抵抗R33、コンデンサC31、MPPCは、それぞれ、図5の光検出器300の、可変抵抗VR01、抵抗R01、抵抗R02、抵抗R03、コンデンサC01、MPPCと同様に動作する。
【0063】
光検出器300には、電源電圧V0が印加される。MPPCに光が入射されると、瞬間的に、抵抗R33に電位が発生する。コンパレータCP31は、所定の電圧Vbと、抵抗R33に発生した電位とを比較する。コンパレータCP31は、比較回路の1つである。電圧Vbは、あらかじめ設定される一定の値である。電圧Vbは、比較回路の参照信号の一例である。コンパレータCP31は、抵抗R33に発生した電位が、電圧Vbより大きい場合、スイッチSW31を導通する。スイッチSW31が導通すると、MPPCに光が入射されたことによる電位による電荷が、コンデンサC32を介して、光検出器300の出力電荷として出力される。コンデンサC32は、信号の直流成分をカットする。
【0064】
また、コンパレータCP31は、抵抗R33に発生した電位が、電圧Vbより小さい場合、スイッチSW31を導通させない。なお、電圧Vbは、直流であるため、コンデンサC32でカットされる。よって、光検出器300は、出力電荷として、ほぼ0を出力する。
【0065】
ここで、所定の電圧Vbは、MPPCの暗電流によって、抵抗R33に発生する電圧より高い値に設定する。この値は、実験的、経験的に決定されればよい。これにより、MPPCの暗電流による雑音が、出力されない。
【0066】
《光検出器(5)》
図11は、中性子検出装置の光検出器の例(5)を示す図である。ここでは、光検出器300は、暗電流雑音を除去するために、オペアンプを含む。図11の光検出器300は、可変抵抗VR41、抵抗R41、抵抗R42、抵抗R43、コンデンサC41、MPPCを含む。図11の光検出器300は、さらに、抵抗R44、抵抗R45、コンデンサC42、ダイオードD41、及び、オペアンプIC41を含む。抵抗R45は、フィードバック抵抗である。光検出器300は、MPPCに光が入射されることにより光を検出する。図11の出力が、図2等の電荷分割回路40に接続される。
【0067】
図11の光検出器300の、可変抵抗VR41、抵抗R41、抵抗R42、抵抗R43、コンデンサC41、MPPCは、それぞれ、図5の光検出器300の、可変抵抗VR01、抵抗R01、抵抗R02、抵抗R03、コンデンサC01、MPPCと同様に動作する。
【0068】
図11の光検出器300は、出力の増幅にオペアンプIC41を使用し、フィードバック抵抗R45と並列にダイオードD41を接続して雑音を除去する。また、バイアス電圧VbをダイオードD41のカットオフ電圧付近に調節し、暗電流雑音を超える信号でなければ、増幅されないようにする。オペアンプIC41を使用することにより、信号の極性は反転するが、抵抗R43と抵抗R45との比で増幅でき、増幅率だけダイオードD41のカットオフ電圧の急峻度を大きくできる。図11の光検出器300の増幅回路は、光を検出したMPPCの信号のみを通過するようにする。即ち、図11の光検出器300の増幅回路は、暗電流雑音に基づく信号を出力しないようにする。
【0069】
ここで、具体例を示す。抵抗の抵抗値、コンデンサの静電容量、トランジスタの特性等は、ここに記載されるものに限定されるものではない。可変抵抗VR41を最大10kΩ、抵抗R41を4.7kΩ、抵抗R42を470kΩ、抵抗R43を4.7kΩ、抵抗R
44を10kΩ、抵抗R45を10kΩ、コンデンサC41を0.1μF、コンデンサC42を220pFとする。ここで、抵抗R44の抵抗値と抵抗R45の抵抗値とは、同一である。また、ダイオードD41の特性として、順方向電圧VF=180mV以下で、順
方向電流IF=0になるとする。よって、バイアス電圧Vb=−200mV〜−300m
Vとなるように調整し、MPPCが光を検出していないときに、光検出器300が暗電流雑音に基づく信号を出力しないようにする。
【0070】
オペアンプIC41の入力端子間がイマジナリーショートである。オペアンプIC41の出力電圧をVout、抵抗R43の入力電位をVinとすると、次のようになる。
【0071】
【数8】

MPPCが光を検出していない状態では、抵抗R43の入力電位Vinの絶対値が、バイアス電圧Vb(=−200mV〜−300mV)の絶対値よりも小さい。このとき、オペアンプIC41の出力電圧VoutがダイオードD41のカットオフ電圧を超えると、ダイオードD41に順方向の電流が流れ、増幅がされない。暗電流による抵抗R43の電圧Vinとバイアス電圧Vbとがオペアンプの加算回路によって反転増幅されると、抵抗R45の電圧がダイオードD41のカットオフ電圧を超え、ダイオードD41に電流が流れるからである。一方、MPPCが光を検出した場合、抵抗R43の電位(Vin)が大きくなるため、電圧VoutがダイオードD41のカットオフ電圧を超えず、抵抗R43と抵抗R45との比で信号が増幅される。例えば、MPPCが光を検出したことにより、抵抗R43に1Vの電位が発生したとすると、抵抗R41には、−2.1Vの電圧が発生する。この電圧は、ダイオードD41の逆電圧になるため、ダイオードD41には電流が流れない。例えば、抵抗R44と抵抗R45とが等しいとき、光検出器300は、オペアンプの加算回路により、抵抗R43と抵抗R45との比から増幅された電圧からバイアス電圧Vbが引かれた電圧による電荷を、コンデンサC42を介して、出力パルスとして出力する。コンデンサC42は、信号の直流成分をカットする。バイアス電圧Vbは、加算回路における基準信号の一例である。
【0072】
《光検出器(6)》
図12は、中性子検出装置の光検出器の例(6)を示す図である。ここでは、光検出器300は、暗電流雑音を除去するために、バイポーラトランジスタ、ダイオードを含む。図12の光検出器300は、可変抵抗VR51、抵抗R51、抵抗R52、抵抗R53、コンデンサC51、MPPCを含む。図12の光検出器300は、さらに、抵抗R54、抵抗R55、抵抗R56、抵抗R57、コンデンサC52、コンデンサC53、及び、トランジスタQ51、ダイオードD51を含む。光検出器300は、MPPCに光が入射されることにより光を検出する。図12の出力が、図2等の電荷分割回路40に接続される。
【0073】
図12の光検出器300の、可変抵抗VR51、抵抗R51、抵抗R52、抵抗R53、抵抗R54、抵抗R55、コンデンサC51、コンデンサC52、MPPC、トランジスタQ51は、それぞれ、図6の光検出器300の、可変抵抗VR11、抵抗R11、抵抗R12、抵抗R13、抵抗R14、抵抗R15、コンデンサC11、コンデンサC12、MPPC、トランジスタQ11と同様に動作する。ここでは、主に、図6の光検出器300と異なる点について説明する。
【0074】
ここで、具体例を示す。抵抗の抵抗値、コンデンサの静電容量、トランジスタの特性等は、ここに記載されるものに限定されるものではない。可変抵抗VR51を10kΩ、抵抗R51を4.7kΩ、抵抗R52を470kΩ、抵抗R53を4.7kΩ、抵抗R54を47kΩ、抵抗R55を1kΩ、抵抗R56を4.7kΩ、抵抗R57を100kΩ、コンデンサC51を0.1μF、コンデンサC52を220pF、コンデンサC53を22pFとする。また、トランジスタQ51の特性として、ベースエミッタ電圧VBE=500〜600mVで、コレクタ電流IC=0になるとする。また、トランジスタQ51は、
FE=100とする。
【0075】
このとき、仮に、MPPCが光を検出して、抵抗R53に1Vの電位が、1μs間、発生したとする。すると、コンデンサC52を通じて最大220μAの電流がトランジスタQ51のベース端子に流せる。また、トランジスタQ51のhFEが100である場合には、抵抗R55には、最大22mAの電流が流れる。しかし、抵抗R55は1kΩであるのでコンデンサC52からの入力電圧1Vによる電流は1mAで飽和し、ベース電流IB
10μA程度のパルス信号に抑えられる。すると、バイポーラトランジスタQ51が入力信号(抵抗R53の電圧)を増幅し、抵抗R55の電位は、抵抗R53より若干低い1V弱となる。また、トランジスタQ51のコレクタに接続された抵抗R56には、4.7倍された逆電位の電圧が出力される。
【0076】
さらに、この逆電位の電圧に基づく出力を電荷分割回路40に給電する給電回路が、ダイオードD51、抵抗R57、コンデンサC53となる。当該出力とコンデンサC53との間に、ダイオードD51及び抵抗R57が並列に接続される。MPPCが光を検出すると、抵抗R56の電位が下がる方向に振れる。このとき、ダイオードD51及びコンデンサC53を通じて、この逆電位の電圧に基づく出力パルスが電荷分割回路40に出力される。
【0077】
ここで、ダイオードD51の順電圧は、ノイズ除去に寄与する。MPPCからの信号がなくなると、抵抗R56の電位が上がる方向に振れるので、ダイオードD51に逆方向の電位がかかり、ダイオードD51には電流が流れない。よって、抵抗R57の抵抗だけでコンデンサC53の放電がされる。
【0078】
また、MPPCに信号がなく、他の光検出器300のMPPCで信号があった場合、電荷分割回路40から、コンデンサC53を通じて、電位が下がる方向に信号が漏れてくる。このとき、ダイオードD51に逆電位がかかる方向であるため、ダイオードD51には電流は流れない。よって、抵抗R57のみがコンデンサC53に直列に入ることになるので、MPPCからの信号の増幅に対する影響、及び、電荷分割回路40への影響を抑えられる。従って、複数の光検出器300をつないでも、ノイズが増大しない。
【0079】
《光検出器(7)》
図13は、中性子検出装置の光検出器の例(7)を示す図である。ここでは、光検出器300は、暗電流雑音を除去するために、オペアンプ、ダイオードを含む。図13の光検出器300は、可変抵抗VR61、抵抗R61、抵抗R62、抵抗R63、コンデンサC61、MPPCを含む。図13の光検出器300は、さらに、抵抗R64、抵抗R65、抵抗R66、コンデンサC62、ダイオードD61、ダイオードD62、及び、オペアンプIC61を含む。抵抗R65は、フィードバック抵抗である。光検出器300は、MPPCに光が入射されることにより光を検出する。図13の出力が、図2等の電荷分割回路40に接続される。図13の光検出器300は、図11の光検出器300(光検出器(5))と共通点を有する。ここでは、主に、図11の光検出器300と異なる点について説明する。
【0080】
オペアンプIC61の出力電位に基づく出力を電荷分割回路40に給電する給電回路が、ダイオードD62、抵抗R66、コンデンサC62となる。MPPCが光を検出すると、オペアンプIC61の出力電位が下がる方向に振れる。このとき、ダイオードD62及びコンデンサC62を通じて、この電位に基づく出力パルスが電荷分割回路40に出力される。ダイオードD62、抵抗R66、コンデンサC62による給電回路は、図12の光検出器300のダイオードD51、抵抗R57、コンデンサC53による給電回路と同様の機能を有する。
【0081】
また、ダイオードD62、抵抗R66、コンデンサC62による給電回路は、図9または図10の光検出器300に、図13の光検出器300と同様に、適用されうる。このとき、光検出器300からの出力パルスの正負によって、ダイオードD62の向きが変更されうる。
【0082】
(実施形態の作用効果)
中性子検出装置10は、入射された中性子を中性子シンチレータ100により光に変換する。中性子検出装置10は、変換された光を複数の光検出器300で検出し、中性子が入射された位置を算出する。中性子検出装置10は、MPPC等の光検出デバイスで発生する暗電流等によるノイズを、バイポーラトランジスタ、ユニポーラトランジスタ、コンパレータ、オペアンプ等を使用する回路で低減する。中性子検出装置10では、ダイオード、抵抗、コンデンサによる給電回路(例えば、ダイオードD51、抵抗R57、コンデンサC53による給電回路)により、暗電流による信号が、電荷分割回路40に出力されにくくなる。また、中性子検出装置10では、当該給電回路により、光検出器300は電荷分割回路40から信号の影響を受けにくくなる。各光検出器300から出力される雑音が低減されるため、多くの光検出器300及び抵抗400を接続した場合であっても、電荷分割回路40の両端から得られる出力のノイズが大きくならない。中性子検出装置10によれば、光検出デバイスで発生する暗電流等の影響を除去することにより、精度よく、中性子の入射された位置を算出することができる。
【0083】
(変形例)
上記の実施形態では、中性子を検出する中性子検出装置10について説明した。中性子検出装置10の構成は、中性子線以外の他の放射線を検出する放射線検出装置に適用されうる。他の放射線には、例えば、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、X線、荷電粒子線等が含まれる。
【0084】
放射線検出装置では、中性子シンチレータ100の代わりに、検出対象の他の放射線に対応する放射線シンチレータが使用される。放射線シンチレータは、入射された放射線を光に変換する。放射線シンチレータとして、検出対象の放射線に対応するものが選択される。
【0085】
放射線検出装置では、光透過板200として、例えば、鉛ガラス、アクリルガラスが使用される。光透過板200は、検出対象の放射線を吸収するものが選択される。鉛ガラスは、光を通過させ、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、X線、荷電粒子線等の放射線を吸収する。アクリルガラスは、光を通過させ、アルファ線等の放射線を吸収する。また、光透過板200として、可視光を通過し、可視光より高い周波数を有するX線、ガンマ線を遮蔽する、ローパスフィルタ、バンドパスフィルタが使用されうる。光透過板200として、光を拡散するものが使用されてもよい。
【0086】
放射線検出装置は、放射線シンチレータで変換されなかった放射線を、放射線を吸収する光透過板に吸収させる。光透過板に放射線が吸収されるため、光検出器に入射される放
射線が低減する。これにより、放射線による光検出器の損傷を低減させることができ、光検出器として放射線による影響を受けやすいものを使用できる。
【符号の説明】
【0087】
1 放射線シンチレータ
2 光検出器
3 放射線検出装置
10 中性子検出装置
40 電荷分割回路
100 中性子シンチレータ
200 光透過板
300 光検出器
400 抵抗
C01 コンデンサ
R01 抵抗
VR01 可変抵抗
V0 電源電圧
Vb バイアス電圧
Q11 バイポーラトランジスタ
Q21 ユニポーラトランジスタ
CP31 コンパレータ
SW31 スイッチ
IC41 オペアンプ
D41 ダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線が入射する入射面を有し、入射した放射線から光を生成するシンチレータと、
前記生成された光を検出する1次元状に配列された複数の光検出器と、
所定の抵抗値部分を複数回延伸し、前記抵抗値部分ごとに分岐線を接続可能な線状抵抗部とを備え、
前記光検出器は、光から電気信号を生成する光検出素子、及び、前記電気信号中で基準信号強度に達しない信号成分を抑圧し、前記基準信号強度に達する信号成分を抽出する信号抽出回路を有し、
前記1次元状に配列された複数の光検出器に含まれるそれぞれの信号抽出回路の出力信号が前記分岐線を通じて前記線状抵抗部に入力され、前記1次元状に配列された光検出器の位置が、それぞれの光検出器の信号抽出回路の出力信号が入力される前記分岐線の接続位置における前記線状抵抗部の抵抗値に対応付けられる放射線検出装置。
【請求項2】
前記信号抽出回路は、前記基準信号強度をバイポーラトランジスタのベースバイアス信号で制御する請求項1に記載の放射線検出装置。
【請求項3】
前記信号抽出回路は、前記基準信号強度をユニポーラトランジスタのゲートバイアス信号で制御する請求項1に記載の放射線検出装置。
【請求項4】
前記信号抽出回路は、前記基準信号強度を比較回路の参照信号で制御する請求項1に記載の放射線検出装置。
【請求項5】
前記信号抽出回路は、前記電気信号が入力される第1の入力端子と基準信号が入力される第2の入力端子とを加算する加算回路を含み、前記基準信号強度を前記基準信号で制御する請求項1に記載の放射線検出装置。
【請求項6】
前記信号抽出回路は、前記線状抵抗部からの信号の入力を抑圧する回路を有する請求項1から5のいずれか1項に記載の放射線検出装置。
【請求項7】
前記シンチレータの前記入射面と対向する面に設置され、前記シンチレータが生成した光を透過する光透過板を含む請求項1から6のいずれか1項に記載の放射線検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−52841(P2012−52841A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193699(P2010−193699)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(504151365)大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 (125)
【Fターム(参考)】