説明

放射線検査装置

【課題】温度、湿度、気圧などの大気変動を由来として生じる測定信号の変動を補償する事により、厚さ測定の精度安定性を向上させることを目的とする。
【解決手段】放射線源から放射され、試料を透過してくる放射線を放射線検出器により検出し、坪量の測定を行う放射線検査装置において、
前記検査装置の近傍に温度センサと気圧センサとを配置し、前記温度センサで検出した温度と前記気圧センサで検出した気圧に基づいて大気重量を計算する大気重量演算手段を備え、この大気重量演算手段で計算した大気重量に基づいて前記坪量を補正するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線(例えばベータ線、X線,ガンマ線等)を用いた検査装置に関し、特に放射線源と放射線測定器の間に介在する空気層の影響による被測定物(以下、試料という)の測定精度の改善を図った放射線検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
放射線(以下β線という)が物質層を通過すると,電離作用や励起作用等によって次第にエネルギ―を失って減衰し,更にこの様な非弾性散乱を多数回受けて進行方向が変化する。従って試料の物理量(例えば厚さ)が増すに伴い透過するβ線の数は減少する。この様な原理を応用し,シ―ト状の種々の試料の物理量を測定する装置が知られている。
【0003】
放射線を用いた検査では、放射線源と検出器の間に試料(製品、人体など)を置き、その透過率から例えばβ線の強度を検出して濃淡の画像を得るのが一般的である。このため、β線源と検出器の間に存在する空気層の変化は検出画像(検出精度)に直接影響する。即ち、気温や気圧が変化して密度変化が起きるとそれがそのまま測定誤差につながることになる。
【0004】
β線源を安定駆動するフィードバック制御や温度制御によるβ線量のモニタが行われている。温度や気圧などの変動を監視して測定系にフィードバックし測定対象物を精度良く測定する先行技術として、特開平4−158209や特開2001−227918に開示されたものがある。
【0005】
図4はX線、β線、γ線、赤外線などを用いた透過特性によりシート状の試料の厚さや塗工量測定を行うインライン測定器の一例を示す斜視図である。
シート状の試料1は右から左方向へ一定速度で流れており、この試料を略直行するように放射線源ヘッド(下側・・・以下線源という)2と電離箱等の検出器ヘッド(上側・・・以下検出器という)3が一対となって試料1を走査する形態で測定を行っている。
【0006】
夫々のヘッドは門型と呼ばれるO型フレーム4に支持され、対向する上下ヘッドの位置関係を保持して上下夫々駆動される。夫々のヘッド2,3は、試料の端部付近で折り返しを繰り返してジグザグに測定を繰り返す。更に夫々のヘッドはO型フレーム4の右側に待避位置Aが設けられている。
【0007】
これは、試料をセットする場合や放射線源ヘッド2や検出器ヘッド3のメンテナンス、校正などの際に試料の無い位置に移動する必要があるためである。厚さ測定においては、予め厚さと材質(坪量)が既知の複数の標準サンプルを測定しておき、その坪量に対する透過特性として検量線を求めている。
【0008】
その検量線と試料の透過出力値から逆引きして厚さを換算する。塗工量については図3に示す厚さ測定装置5を2本乃至3本生産ライン内に設置し、塗工工程前後にその透過特性を測定し、夫々の差分を求めることで塗工量を知ることが出来る。
【0009】
図4に示すような方式では高速に流れる試料1に対してヘッド2、3が幅方向に走査するため、ジグザグのライン上を部分的にしか測定出来ない。このため近年では全面測定の要望もある。
【0010】
図5は検出素子(図示省略)が狭ピッチで隙間無く並んだライン型検出器6を設置し、所定の距離はなれた放射線源から放射状に放射線を出射させて全面を測定している状態を示す斜視図である。2aは放射線源、3aは放射線検出器(ラインカメラ)である。
ここで、図4に示す走査型測定器であっても、図5に示す全面測定型測定器であっても校正の際には試料1を一旦取り除いて行わなければならない。
【0011】
即ち、経時変化による線源の劣化、検出器の感度変化、空気層の温度・湿度変化(生産ライン内の空調が悪く季節的または朝晩などの周期的な変動)に対して校正を行う場合は、試料1が無い状態(=空気層)を測定して校正を行う。
【0012】
また、ある程度長期的には標準サンプルを測定して検量線を求め直すことも行われる。図3に示す走査形測定器では、従来リアルタイムにセンサヘッド間の温度を測定して空気温度の補償を行なうと共に、数十分乃至数時間単位程度の間隔で空気層の測定を行ない、この値を用いて測定値の補償演算を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開昭61−11363
【特許文献2】特開平4−158209
【特許文献3】特開2001−227918
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、短期−中期に掛けての測定精度に一番影響を与える空気層の変化に対して、数時間おきに退避・校正動作を行う事で、通常測定では、大きな問題は無い。但し、工場のコールドスタート時や台風通過等による短時間での大気変動が生じる場合には、数時間単位での校正動作では精度維持が難しい場合がある。
【0015】
校正動作の間隔を短くする事は解決策の一つであるが、退避位置での校正動作中は試料の測定ができなくなるというデメリットが存在する。また図4に示すような全面測定型の場合には、試料から外れるまで装置を引き出す必要があるため、装置自体の幅(W)に対して2.5倍程度の幅が必要となり、また、退避動作そのものが行い難いと言う状況がある。
【0016】
比較的測定値に影響を与え易い温度変化を小さくするために測定ギャップの空気層に恒温化した空気を吹き付ける等の対策も行なわれているが、空気消費が多い・恒温化のためのヒータ電力が掛かる等の問題がある。
【0017】
したがって本発明の目的は、温度、湿度、気圧などの大気変動を由来として生じる測定信号の変動を補償する事により、厚さ測定の精度安定性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の放射線検査装置の発明は、
放射線源から放射され、試料を透過してくる放射線を放射線検出器により検出し、坪量の測定を行う放射線検査装置において、
前記検査装置の近傍に温度センサと気圧センサとを配置し、前記温度センサで検出した温度と前記気圧センサで検出した気圧に基づいて大気重量を計算する大気重量演算手段を備え、この大気重量演算手段で計算した大気重量に基づいて前記坪量を補正するように構成したことを特徴とする。
【0019】
請求項2においては、請求項1記載の放射線検査装置において、
前記検査装置の近傍に湿度検出手段を配置し、この湿度検出手段で検出した湿度に基づいて水分重量を計算し、この水分重量に基づいて前記大気重量を補正するように構成したことを特徴とする。
【0020】
請求項3においては、請求項1または2記載の放射線検査装置において、
前記大気重量の計算は飽和水蒸気量の近似式と気体の状態方程式を用いて行なうことを特徴とする。
【0021】
請求項4においては、請求項1乃至3記載の放射線検査装置において、
前記検査装置に線減弱係数比を演算する線減弱係数比演算手段を設け、この線減弱係数比演算手段からの出力に基づいて感度補正を行なうことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば以下のような効果がある。
線源と検出器の間隔が離れていてその間に存在する大気の量が測定対象となる試料の坪量への影響が大きい場合、或いは、薄膜フィルムの様に測定対象となる試料の坪量が小さく大気変動の影響を受け易い場合等に測定精度を高める事ができる。
【0023】
また、全面測定型の測定器を用いる場合にも、退避操作を不要または最小限として連続的に精度良く測定することができ、坪量測定の安定化を図ることができる。
また、工場内の温湿度変動が大きなコールドスタート時や台風通過等の気象変動の際にも安定した精度の良い坪量値を測定することができる。
また、放射線源と放射線検出装置の間に恒温化したドライエアを吹き付ける必要が無くなり、圧縮空気の削減と電力の削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態の一例を示す斜視図である。
【図2】温度30℃湿度50%を基準としたときの湿度変化による水蒸気重量の変化を示す図(a)、および温度30℃湿度50%を基準としたときの湿度変化による大気重量の変化を示す図(b)である。
【図3】本発明による信号処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】従来例を示す斜視図である。
【図5】従来例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下本発明を、図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明の実施形態の一例を示す構成図で(a)は斜視図、(b)は検出器ヘッドと放射線源と試料及び大気の関係を示す模式図である。図3と異なる点は厚さ測定装置の近傍に温度センサ10、気圧センサ・湿度センサ11を配置すると共にこれらのセンサからの出力を入力し、各種の演算(気体の状態方程式や、水分重量、大気重量、坪量補正など)を行う演算手段12を備えている点である。
【0026】
図1(b)に示すように、線源と検出器間に試料を置き、試料を透過したときの放射線減衰量から試料厚さを求める場合には、大気による減衰を含んで測定していることになる。試料の厚さを正確に求めたい場合には、大気による減衰分を補正する事が重要である。
ここでは、検出器で得た試料と大気を含む重量から大気重量を下記の方法により算出した値を減算して試料重量を正確に得る方法について説明する。
【0027】
温度と気圧が坪量に与える影響については、「気体の状態方程式」から導く事ができる。
PV=nRT=(W/m)RT・・・(1)
W=m(PV/RT)・・・・・・・(2)
ここで、m=平均分子量(空気はO2とN2窒素が1:4で構成されているとして、その平均分子量は、32×1/5+28×4/5=28.8)
W=重量[g]
n=モル数
R=リュードベリ定数(1モルの気体定数=8.314472(75)[J・mol−1・K−1])
P=気体の圧力[Pa]
V=体積[m3
T=温度[K]
【0028】
線源と検出器との間に存在する空気の体積をVとする。ここでVは坪量に相当する量として計算するため、1m2の底面に対して線源と検出器ヘッド間の距離を高さとして算出する。気圧をPとし温度をTとし、m(平均分子量)に大気の平均分子量を用いる事で(2)式より線源−検出器間に存在する大気の重量を求める事ができる。
予め算出体積を坪量に相当する底面(1m2)としておけば、大気重量はそのまま大気坪量と等価である。
【0029】
湿度の影響は、水蒸気量の重さとして算出することができる。水蒸気の重さは、飽和水蒸気量と湿度の積として計算されるため、ここでは近似的に飽和水蒸気圧を求めるAntoineの式(アントワン式)を用いる。
log10P=A−(B/T+C)
ここで、P=蒸気圧(Pa)
T=温度(K)
A,B,C=アントワン定数で物質と蒸気圧と温度の単位に依存する定数
例えば水においてはPの単位としてパスカル、Tの単位としてケルビンをとると333K〜423Kの範囲ではA=10.09、B=1668.21、C=45.15となる。
【0030】
例えば、Antoineの式を用いて飽和水蒸気圧を得れば、飽和水蒸気量は、飽和水蒸気量を「気体の状態方程式」のPに代入して算出できる。これによって得た飽和水蒸気量と測定した湿度の積を取れば、大気中の水分重量を得ることができる。先に示したように1m2辺りの底面として体積を計算すれば、これが大気中の湿度による坪量となる。
【0031】
ここまで、空気の坪量と湿度の坪量の計算手法を述べたが、実際には、湿度がもたらす水蒸気の分圧に従って、乾燥空気のモル数が変化する。水蒸気1molの増加に対し、分子数比(約空気28.8/水18)に応じた乾燥空気が減じられる事になる。したがって、湿度を考慮した大気坪量を得るには、乾燥空気に対して湿度の変動に応じた分子数比の加減算を行なった後に水分重量の加算を行なえば良い。
【0032】
図2はこのような演算を行い、例えば30℃50%を基準にした時の湿度変化による水蒸気量の変化と大気重量の変化を求めた図である。厚さ(坪量)測定装置には、内蔵または近傍に温度・湿度・気圧を測定できる検出手段を設置している。
線源と検出器との距離に応じた乾燥空気の重量を気体の状態方程式を用いて、温度と気圧から計算する。
【0033】
具体的な例としては、Antoine(アントワン)の近似式等から飽和水蒸気量を求める。求めた飽和水蒸気量と得られた湿度から、気体の状態方程式を用いて空気中の水分量を求める事ができる。
近似式には、他にもGoff−Gratch(ゴフ−グラッチェ)の式、Magnus−Teten(テーテンス)の式、Wexler−Hyland(Hyland and Wexler)の式ほか、様々な式があるが、使い勝手に合わせて、適宜選択すれば良い。
【0034】
水蒸気分圧に相当する乾燥空気の重量を減じた後、水分重量を加算して、線源と検出器との距離に応じた大気重量を求める。
求めた大気重量は、検出器感度等測定上の都合(例えば大気と試料とで異なる線減弱係数比に代表される感度補正)に合わせて感度補正を行なう。
一方試料を測定した際の線源からの照射が減衰する量を測定し、あらかじめ作成された検量線を用いて、試料の坪量を得る。
【0035】
この坪量から感度補正後の大気重量を減じる事で試料の厚さを精度良く得ることができる。温度、湿度、気圧による大気重量の計算は、上記の計算方法による以外に予め用意した値の参照テーブルや検量線あるいは専用の近似式を用意して計算しても良い。
また、大気重量の補正を行なうに際して、通常では天候の変化に対して、湿度が高い状態で気圧が低く湿度の低い状態で気圧の高い状態である傾向を持つ。このため、湿度か気圧のいずれか一方の測定値を元に他方の要因を含んだ値として補正を行なっても精度向上をはかることができる。
【0036】
図3(a〜c)は本発明の放射線測定装置を用いた信号処理の流れを示すフローチャートである。図において(a)は試料測定用センサで測定した信号処理の流れ、(b)は温度測定装置および気圧測定装置で測定した信号の流れ、(c)は湿度測定装置で測定した信号の流れを示す図である。なお、これら(a〜c)による各センサは放射線測定装置で測定を開始した時点で同時に測定を開始するものとする。
【0037】
図3(a)において、
Step1:試料用の検出器で試料を透過した際の線源からの信号を測定する。
Step2:試料用検量線を用い、
Step3:厚さ(坪量)を求める。
【0038】
図3(b)において、
Step1’:温度センサ・気圧センサ11で測定した信号を演算手段12に入力し、
Step2’:気体の状態方程式を用い、
Step3’:乾燥空気重量を計算する。
【0039】
図3(c)において、
Step1’’:湿度センサで湿度を測定し、
Step2’’:飽和水蒸気圧を計算する。
Step3’’:飽和水蒸気圧から気体の状態方程式を用い、
Step4’’:水分重量を計算する。
【0040】
図3(b)のステップ4’に進み、
Step4’:Step3’で求めた乾燥空気重量とStep4’’で求めた水分重量から水蒸気分圧分を減算する。
Step5’:tep4’’で求めた水分重量とStep4’で求めた水蒸気分圧分を減算した値から大気重量を計算し、
Step6’:大気重量感度補正を行う。
【0041】
図3(a)に戻り、
Step4:Step3で求めた坪量とStep6’で求めた大気重量感度補正の値から大気重量減算し、
ステップ5:補正後の坪量を求め、
ステップ6:補正された坪量を測定値として出力する。
以上のステップにより厚さ測定の補償が行なうことができる。
【0042】
なお、以上の説明は、本発明の説明および例示を目的として特定の好適な実施例を示したに過ぎない。実施例では温度センサ及び気圧センサと湿度センサにより測定した値を用いた例を示したが、気圧や湿度の変化による測定精度の低下は温度変化に比較して少ないので、ある平均的な気圧を用いることにより気圧センサはなくても良い。また測定精度は低下するが気圧センサに湿度の代表的な相関を取り込む運用をすれば湿度センサを用いずに補償を行うことも可能である。
従って本発明は、上記実施例に限定されることなく、その本質から逸脱しない範囲で更に多くの変更、変形を含むものである。
【符号の説明】
【0043】
1 試料
2 線源
2a 放射線源
3 検出器ヘッド(電離箱)
3a 放射線検出器(ラインカメラ)
4 O型フレーム
5 厚さ測定装置
6 ライン型検出器
10 温度センサ
11 気圧・湿度センサ
12 演算手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線源から放射され、試料を透過してくる放射線を放射線検出器により検出し、坪量の測定を行う放射線検査装置において、
前記検査装置の近傍に温度センサと気圧センサとを配置し、前記温度センサで検出した温度と前記気圧センサで検出した気圧に基づいて大気重量を計算する大気重量演算手段を備え、この大気重量演算手段で計算した大気重量に基づいて前記坪量を補正するように構成したことを特徴とする放射線検査装置。
【請求項2】
前記検査装置の近傍に湿度検出手段を配置し、この湿度検出手段で検出した湿度に基づいて水分重量を計算し、この水分重量に基づいて前記大気重量を補正するように構成したことを特徴とする放射線検査装置。
【請求項3】
前記大気重量の計算は飽和水蒸気量の近似式と気体の状態方程式を用いて行なうことを特徴とする請求項1または2記載の放射線検査装置。
【請求項4】
前記検査装置に線減弱係数比を演算する線減弱係数比演算手段を設け、この線減弱係数比演算手段からの出力に基づいて感度補正を行なうことを特徴とする請求項1乃至3記載の放射線検査装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−108859(P2013−108859A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254505(P2011−254505)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】