説明

放射線治療システム

【課題】放射線治療ベッド位置決めにおいて、臓器などの軟組織情報を用いて位置決め精度の向上を図る。
【解決手段】被検診者をのせるベッドと、放射線治療においてベッドを位置決めするベッド位置決め装置と、X線を発生するX線発生装置及びX線発生装置からのX線を受信するX線受像器を有するX線撮像装置とを備え、ベッド位置決め装置は、X線撮像装置で撮影した第1のX線透視画像データ、及び治療計画時に取得したX線CT画像データから生成された軟組織投影画像データに基づいて、ベッド位置決めデータを生成することによって、上記課題を解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線又は粒子線(陽子線や重粒子線などの荷電粒子ビーム)等の各種放射線を患部に照射して治療する放射線治療システムであって、特に、放射線治療用のベッド位置決めシステムを備える放射線治療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍細胞を各種放射線を照射することで壊死させることを目的とする放射線治療は、近年広く行われつつある。用いられる放射線としては最も広く利用されているX線だけでなく、陽子線をはじめとする粒子線を使った治療も行われている。
【0003】
放射線治療の重要なプロセスの一つにベッド位置決めがある。ベッド位置決めとは、一般に治療計画装置から出力されたDRR(Digital Reconstructed Radiograph)画像と放射線照射前にX線撮像装置を用いて治療用ベッド(以下、ベッドと省略する)の上に患者を寝かせた状態で撮影するX線画像(DR画像,Digital Radiograph画像)とを技師または医師が比較することにより、治療計画で決定した照射標的の位置と現在のベッド上の照射標的の位置とのズレを算出し、二種類の画像が一致するようにベッドの移動量を求め、ベッドを移動させるプロセスである。
【0004】
DRR画像は、X線画像を模擬した2次元画像であり、治療計画時に撮影された3次元画像であるCT画像から生成される。なお、ベッド位置決めでは、参照画像として上記DRR画像の代わりにX線シミュレータ等を用いて撮影した画像を用いる場合もある。
【0005】
ベッド位置決めにおいて上記の方法は広く普及している。DR画像とDRR画像を用いたベッド位置決め(以下DR−DRRベッド位置決め)では、平行移動3自由度及び撮影方向を軸とする回転(平面内回転)2自由度を精度良く検出可能だが、X線の撮影方向に直行する軸周りの回転(平面外回転)を自動で検出することは困難であることが知られており(非特許文献1)、より高精度なベッド位置合せの実現は難しい。
【0006】
従来のDR−DRRベッド位置決めと同一の機器で、自動で6自由度を検出可能な位置決め方法としてベッド位置決めシステムにてCT画像とDR画像を用いる方法(以下、CT−DRベッド位置決め)が知られている(非特許文献2)。DR−DRRベッド位置決めでは、治療計画位置でのみ生成したDRR画像とDR画像との画素値を比較し移動量を算出するのに対し、CT−DRベッド位置決めでは治療計画CT画像から様々な角度でDRR画像を作成しDR画像と画素値を比較することで移動量を算出する。治療計画CT画像から全方位のDRR画像を作成可能なため、6自由度を検出可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. Hanley, et al.「The Effects Of Out-Of-Plane Rotations On Two On Two Dimensional Portal Image Registration In Conformal Radiotherapy Of Prostate」, Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys. 33(5), 1331-43, 1995.
【非特許文献2】J. Kim et al.,「Effects of x-ray and CT image enhancements on the robustness and accuracy of a rigid 3D/2D image registration」, Med. Phys . 32(4), April, 2005.
【非特許文献3】:村木 茂、他「3次元画像解析とグラフィックス技術の医学応用に関するサーベイ」電子情報通信学会論文誌 D-II Vol. J97-D-II No.10 pp.1887-1920 2004.
【非特許文献4】Jinkoo Kim, 他,「Effects of x-ray image enhancements on the robustness and accuracy of a rigid 3D/2D image registration」,Medical Physics, vol.32, No.4, 2005.
【非特許文献5】Frederik Maes, 他,「Multimodality image registration by maximization of mutual information」, IEEE Trans. Med. Image., Vol.16, No.2, 1997.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
X線画像(DR画像)やDRR画像には、主にX線吸収率の高い骨等の構造物が映るため、臓器等の軟組織に腫瘍領域が存在する場合、直接腫瘍位置を画像から観察するのが困難な場合があり、臓器自身の輪郭や領域も不鮮明になる。この理由は、X線画像(DR画像)が人体の3次元構造を2次元面に投影したデータであり、骨と比較し軟組織のX線吸収係数が低く、また臓器毎の係数値の差が小さいため、投影方向に関して複数の軟組織が重なっているとその境界判別が難しくなることが考えられる。このため、X線画像(DR画像)を用いるベッド位置決めでは、腫瘍領域つまり軟組織と骨との位置関係が大きく変化しないと想定し、ベッド位置決めを実施していた。しかし、実際には体内の臓器の位置はわずかながら毎日変化するため、必ずしも治療計画時のCT画像における臓器位置と治療時のベッド上での臓器位置は一致していない場合もある。
【0009】
直交したX線装置により取得されるDR画像と、治療計画用CT画像から作成される任意方向のDRR画像とを用いたベッド位置決め装置では、平行移動および回転の6自由度を検出可能という利点を持つ。
【0010】
本方式を用いる場合、X線撮像装置から得られるDR画像および治療計画用CT画像から得られるDRR画像は共に吸収率の高い骨等の構造物が明瞭に映され、患部や臓器といった軟組織の境界は不明瞭である。そのため、DR画像とDRR画像の画素値を比較してベッド位置決め用の6自由度を検出できても、軟組織の形態情報は十分に利用できておらず、臓器といった軟組織の位置は治療計画時と変わらないと想定してベッド位置決めされている。
【0011】
一方、最近では、腫瘍領域の近傍にある周辺臓器への線量付与をなるべく避け、腫瘍領域(患部)へ放射線を集中させる3次元放射線治療が盛んになっている。例えば、IMRT(Intensity Modulated Radiation Therapy)や粒子線を用いる放射線治療である。これらの3次元治療では、周辺臓器を含めた患部の位置を位置決め時に把握し、骨ではなく臓器に基づいて位置決めすることが、より高精度な照射のために求められ始めている。このような高精度3次元放射線治療では、正常組織への線量投与をなるべく避ける必要がある。
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、放射線治療装置に用いられるX線画像装置により取得されたDR画像と治療計画CT画像とを用いるベッド位置決めにおいて、従来の骨等の構造に加え、臓器といった軟組織の情報を用いて、ベッド位置決め精度の向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した課題を解決する本発明の特徴は、被検診者をのせるベッドと、放射線治療においてベッドを位置決めするベッド位置決め装置と、X線を発生するX線発生装置及びX線発生装置からのX線を受信するX線受像器を有するX線撮像装置とを備え、このベッド位置決め装置が、X線撮像装置で撮影した第1のX線透視画像データ、及び治療計画時に取得したX線CT画像データから生成された軟組織投影画像データに基づいて、ベッド位置決めデータを生成することにある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、骨や軟組織を用いたベッド位置決めが可能となるため、より高精度なベッド位置決めが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を実施するための放射線治療システムの構成図(側面)である。
【図2】本実施例の治療計画装置において、X線CT画像から軟組織を抽出するまでの流れを示すフローチャート図である。
【図3】本実施例の放射線治療システムのベッド位置決めの流れを示すフローチャート図である。
【図4】軟組織特徴形状データ作成の概要を示す図である。
【図5】ベッド位置決め用画像のモニタ上の配置を示す図である。
【図6】軟組織特徴形状データを利用したベッド位置決めの概要を示す図である。
【図7】実施例の放射線治療システムのX線画像撮像システム115の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。
【実施例1】
【0017】
本実施例の放射線治療システム1は、図1に示すように、治療計画装置101,画像データサーバ110,X線画像撮像システム115,ベッド位置決め装置116,放射線照射システム127を備える。
【0018】
治療計画装置101は、表示装置であるモニタ102,入力手段103,治療計画演算装置104を備える。治療計画演算装置104は、放射線照射による治療に先立って、治療計画を演算するための演算装置である。モニタ102は、治療計画演算処理装置107の演算結果を表示する。入力手段103は、治療計画演算装置107に対しモニタ102上に表示されたユーザーインターフェースを通して指示を与えるための入力手段であり、一般的にはキーボードやマウス等である。また、ユーザーインターフェースとしてはグラフィカルユーザーインタフェース(GUI)が良く用いられる。さらに、治療計画演算装置107は、ネットワーク126に接続し通信をするための通信装置105,演算結果やCT画像等のデータまた治療計画プログラムを保存するための記憶装置106,治療計画プログラムの演算処理及び治療計画装置101を制御するための治療計画演算処理装置107、そして治療計画演算処理装置107にて治療計画プログラムを演算する際に記憶装置106に保存してある治療計画プログラム及び処理に必要なデータを一時的に保管するための主記憶装置108を備える。
【0019】
画像データサーバ110は、ネットワーク126に接続して他の装置とデータの交換をするための通信装置111,データを保存するための記憶装置112,画像データサーバの各内部装置を制御しデータに対し例えばデータ容量の圧縮等の演算を実施するデータ演算処理装置113、及びデータ演算処理装置113が使用する処理プログラムや処理対象データを一時的に格納するための主記憶装置114を備える。
【0020】
また、治療計画演算装置104は、ネットワーク126を介して画像データサーバ110から治療計画用CT画像を取得し、記憶装置106に保存してある軟組織抽出プログラムと主記憶装置108を用いて治療計画用CTから軟組織を抽出するための軟組織抽出演算処理装置109を備える。
【0021】
ベッド位置決め装置116は、表示装置であるモニタ117,入力手段118,ベッド位置決め演算装置119を備える。ベッド位置決め演算装置119は、放射線治療においてベッド128の位置決め演算を実施するための演算装置である。モニタ117は、ベッド位置決め演算装置119で演算した結果を表示する機能、及びユーザーインターフェースを表示する機能を有する。入力手段118は、モニタ117上に表示されるユーザーインターフェースを通じてベッド位置決め演算装置119及びベッド制御装置125への指示を入力するための入力手段である。入力手段118としては、キーボードやマウス等が用いられる。さらに、ベッド位置決め演算装置119は、入力データ及び演算結果を送信するための通信装置120,データ及びベッド位置決め演算プログラムを保存するための記憶装置121,ベッド位置決め演算を実行するためのベッド位置決め演算処理装置122及び、演算プログラムや入力データ等をベッド位置決め演算処理装置122にて使用するために一時的に格納するための主記憶装置123より構成される。また、ベッド位置決め演算装置119は、ネットワーク126を介して画像データサーバ110から軟組織抽出画像を取得し、軟組織特徴形状を算出するための軟組織特徴形状作成演算処理124を備える。軟組織特徴形状作成処理の詳細に関しては後述する。
【0022】
ベッド制御装置125は、簡略化して示しているが、放射線を照射する照射標的を載せるベッド128を制御するための制御装置である。ベッド制御装置125は、ベッド位置決め装置116が演算により算出したベッド128の移動量(ベッド位置決めデータ)を受信し、ベッド128に含まれる駆動機構に対し移動指令を送出する機能を持つ。ベッド128及びベッド制御装置125は本明細書では詳細には記述しないが、放射線照射システム127の一部を構成するものである。放射線照射システム127は、その他に放射線を出射する照射ヘッド(照射ノズル)129や照射ヘッドを備え保持するガントリ130,照射ヘッド129やガントリ130を制御するための治療装置制御部131,治療装置制御部131に指示を与えるための治療装置操作卓132を備える。ガントリ129は一般に回転機構を備え、この回転ガントリ129を回転駆動することによって、治療用の放射線の照射方向を任意に変更することができる。ここで、治療照射室には、治療用の放射線を出射する照射ヘッド129,患者をのせるベッド128,X線源134及びX線受像装置135で構成されるX線撮像装置が設置されている。
【0023】
X線画像撮像システム115は、図7に示すように、X線画像撮影装置及びX線画像撮影装置制御操作卓133を備える。X線画像撮像装置は、X線発生装置(X線源)134及びX線源134に対向な位置に配置されたX線受像装置135から構成される。ベッド128は、X線源134とX線受像装置135の間に位置し、ベッド上に照射標的が存在する。X線画像撮像装置は、ベッド128上の照射標的を撮像するために使用する。また、X線受像装置135は、フラットパネルディテクタやイメージインテンシファイア等を使用する。X線画像撮影装置制御操作卓133は、X線画像撮影装置に対し、撮像のための例えばX線源134の電圧や撮影時間等の撮影に必要な撮影条件を設定する機能とそれらをX線撮影装置制御部136に送信する機能を持つ。X線撮像装置制御部136は、受信した操作卓からの指示をX線源134及び受像装置135に送信する。さらに、X線画像撮影装置にて撮影されたX線画像をX線画像撮影装置より受信し画像データサーバ110に送信する機能を持つ。
【0024】
治療計画装置101,画像データサーバ110,ベッド位置決め装置116,X線画像撮像システム115及び、ベッド制御装置125はネットワーク126を介して接続されておりデータをネットワーク経由で送受信することが可能である。
【0025】
図1に示すシステムにおけるベッド位置決め処理の流れについて図2,図3を用いて説明する。画像データは、治療計画装置101,X線画像撮像システム115にて生成され、それらが画像データサーバ110に蓄積され、ベッド位置決め装置116にて使用される。以下に、ベッド位置決め処理の流れについて詳細に説明する。
【0026】
まず、治療計画装置101では、治療計画立案のための治療に先立って取得されたX線CT画像データを画像データサーバ110からネットワーク125を介して読み込み(ステップ201)、X線CT画像を記憶装置106及び主記憶装置108に記憶させる(ステップ202)。治療計画装置101には、照射標的に対してどの領域を照射するのかを設定する機能があり、これを照射領域設定と呼び、設定された領域を照射領域と呼ぶ。また、治療計画装置101は、設定された照射領域に対して、どの方向からどのように放射線を照射するかを、操作者の指示に基づき計算する機能(照射計画機能)を有する。このように、治療計画装置101は治療計画を立案する(ステップ203)。ここまでが、一般的な治療計画手順である。
【0027】
本実施例の治療計画装置10は、軟組織抽出演算処理装置109を備える。この軟組織抽出演算処理装置109は、主記憶装置108に記憶されたX線CT画像(治療計画CT画像)を読み込むと(受信すると)、この治療計画CT画像に基づいて、ベッド位置決めのターゲットとして用いる目的軟組織(臓器)を抽出する(ステップ204)。軟組織自動抽出法としては、非特許文献4に記載されたRegion Growing法,形状モデルを利用した手法などがある。軟組織抽出演算処理装置109は、モニタ117に抽出結果を出力する。モニタ117上には、目的軟組織の塗りつぶしやポリゴン形状で表示される。モニタ117に表示された目標軟組織の表示に基づいて、医療従事者(医師や診断放射線技師など)は、軟組織領域が正しいかどうかを判断する(ステップ205)。抽出精度が十分であると判断された場合、医療従事者は、入力手段118から抽出完了信号を入力する。抽出完了信号が入力されると、ベッド位置決め演算装置119は、この抽出軟組織画像を画像データサーバ110に送信する(ステップ206)。抽出精度が不十分であると判断すると、医療従事者は、入力手段118から抽出開始信号を入力する。この抽出開始信号を受信した軟組織抽出演算処理装置109が、再度、軟組織抽出処理を実行する。この抽出開始信号を入力する替わりに、医療従事者がユーザーインターフェースを介してマニュアルにて修正することも可能である。また、軟組織抽出演算処理装置109による再度の軟組織抽出処理の代わりに、一連の軟組織抽出処理を医療従事者が入力手段118にて行うこともできる。すべての臓器抽出処理を入力手段118を用いて目的軟組織の塗りつぶしやポリゴン形状を指定して領域を抽出するなどマニュアルで実行してもよい。画像データサーバ109では受信した抽出軟組織画像を記憶装置112に保存する(ステップ206)。
【0028】
放射線治療では、照射標的への放射線照射前に患者内の腫瘍に設定された照射標的と照射中心点とを一致させる必要があり、これらを一致させるためにベッド位置決めが実施される。本実施例が提供するベッド位置決め装置及び方法について説明する。
【0029】
本実施例が提供するベッド位置決めの流れを図3に示し、これに沿って説明する。ベッド127に照射対象が置かれたのちに、医療従事者が、まずレーザーマーカ等の光学的装置を用いて照射標的が照射中心点近くになるようにベッドを移動する(ステップ301)。ステップ301は、光学的装置を用いずに照射対象上に貼られたまたは描かれたシールや十字線等のマーカを目印に目測でベッドを移動させる場合もある。
【0030】
次に、X線画像撮像システム115では、放射線照射のためにベッド128に固定された患者のX線透視画像を撮影するために、X線源134からのX線の放射を開始する。治療室内に設置されたX線源134から放射されたX線は、患者を通過してX線受像装置135で受信される。X線受像装置135は、得られたX線データをX線画像撮影装置操作卓133に送信する(ステップ302)。
【0031】
X線画像撮影装置操作卓133にてX線データをDR画像データに変換し(ステップ303)、変換したDR画像データを画像データサーバ110に送信する。DR画像データをX線画像撮像システム115より受信した画像データサーバ110は、DR画像データを記憶装置112に保存する。ここで、DR画像データは、ベッド位置決め装置116の分野にて一般的に使用されているダイコム(DICOM)フォーマットであるとする。
【0032】
また、生成した画像データは、X線撮像装置操作卓133からネットワーク126を経由し、位置決め演算装置119の通信装置120に送信される(ステップ304)。位置決め演算装置119では、通信装置に画像データを受信する(ステップ305)と、主記憶装置108にロードされたデータの到着を常に監視しているプログラムが主記憶装置108に画像データを取り込む処理を実施し、さらに記憶装置106へと保存する。
【0033】
ベッド位置決め装置116にて実施する位置決め演算について説明する。ベッド位置決め装置116を操作する操作者(医療従事者)は予めデータサーバから治療計画に使用したCT画像データ及び治療計画に使用したCT画像データから生成した1枚以上のDRR画像を位置決め演算装置119の通信装置120を通じて読みこみ、主記憶装置123または記憶装置121に保存する(ステップ306)。また、X線撮像装置操作卓133から、DR画像の送信終了通知が位置決め装置116に通知されない限り位置決め演算は開始できない。
【0034】
ベッド位置決め装置116のベッド位置決め演算装置119は、主記憶装置128にロードされたCT画像データ及びプログラムを用い、例えば非特許文献4にあるような高速なDRR画像の生成手法を用いて位置決め演算処理装置122により演算を実施し全方向のDRR画像を生成する。非特許文献4の手法は、DRR画像をグラフィックスハードウェアのテクスチャマッピング機能を用いて生成するものである。この手法を用いることにより高速なDRR画像の生成が可能となる。
【0035】
例えば治療計画CT画像において、全方向0.5度もしくは1度刻みでCT画像を回転させかつ、数ミリメートル(2〜3ミリメートル)の範囲でCT画像を平行移動させ、それらの組合せを一つのパラメータとする。ガントリ角度を1度刻みずつ増加させ同一パラメータに対するDRR画像の組を生成する(ステップ307)。同一パラメータにおいてガントリ角度が異なる複数枚のDRR画像が生成される。これら複数枚のDRR画像の生成に使用したパラメータは既知であるので、各DRR画像(DRR画像の組と組内のDRR画像)とそれを生成した際の各角度及び平行移動量に関するパラメータを関連付けることができる。これらのパラメータは、CT画像の移動量であるとともにベッドの移動量を表している。DRR画像からパラメータを迅速に探索するために、位置決め演算装置119の主記憶装置123または、記憶装置121にDRR画像とそれを生成するのに使用したパラメータを関連付けて保存する。
【0036】
なお、位置決め演算に使用するDRRの枚数(すなわち角度や移動量の刻み幅や数値範囲)は変更することが可能である。例えば、より多くのDRR画像を使用したり、比較するDRR画像を4枚のみと制限することもできる。1枚以上の画像があれば位置決め演算は可能である。
【0037】
生成されたDRR画像とX線撮像装置操作卓111より送信されたDR画像データとを比較することで最も一致するDRR画像が求まる。DRR画像と画像生成に使用したパラメータは、関連付けられて保存されているので、DRR画像の生成に使用したパラメータを取得することができる。パラメータが取得できれば、照射標的位置が照射中心点とどれぐらい離れているかがわかり、それを解消するために必要なベッド移動量がわかる(ステップ309)。
【0038】
DRR画像データとX線画像データとの比較(ステップ308)には、広く知られている非特許文献5に記載のある相互情報量最大化法を使用する。相互情報量最大化法は、二つの画像間の類似度を求める方法であり、本発明ではDRR画像とDR画像との類似度を計算し、類似度が最大の画像をもっとも一致する画像とする。
【0039】
ベッド位置決め装置116において、ベッド位置決め装置116を操作する操作者は予めデータサーバから治療計画時に作成した軟組織抽出画像データを受信し(ステップ310)、ベッド位置決め演算装置119の記憶装置121および主記憶装置123に保存する。
【0040】
ベッド位置決め演算装置119の軟組織特徴形状データ作成演算装置124が、軟組織抽出画像データから軟組織特徴形状データを作成する(ステップ312)。軟組織特徴形状データ作成演算装置124が軟組織特徴形状データを作成する手順について、図4を用いて説明する。DR画像データとDRR画像データの比較により求めた最適なパラメータと記憶装置121に保存された前記DRR作成プログラムを用いて軟組織抽出画像から軟組織投影画像を作成する。DRR画像と軟組織投影画像を用いて投影画像内で目的軟組織の特徴形状を表す点,線,領域などを持つ軟組織特徴形状データを作成する。例えば軟組織投影画像の境界線(エッジ)とDRR画像上に現れるエッジが両画像で確認できる部位を軟組織特徴形状データとすることができる。図4では説明を簡単にするために軟組織が矩形形状とした場合を示している。軟組織が実際の曲線,局面で構成されている場合にも処理の内容は全く変わらない。撮像対象が3つの矩形物が上下左右にわずかにずれた状態で並んでおり、目的軟組織が2つの別組織にはさまれているとする。この画像データを図4の矢印の方向から投影したDRR画像は長方形をずらして3つ重ねた形状となる。一方臓器抽出した画像を投影すると長方形形状となる。DRR画像と臓器抽出画像は完全に位置が合っているため、目的軟組織の投影形状がDRR画像上でどの位置かは認識可能である。DRR画像上では3つの長方形が重なっているため、目的軟組織の輪郭すべてを認識不可能であるが、軟組織抽出画像の投影像からは、すべての輪郭,領域が認識可能なため、DRR上で目的軟組織の特徴形状である点,線,領域である部分を識別し、軟組織特徴形状データとする。
【0041】
ベッド位置決め装置116のモニタ117にDR画像,DRR画像と軟組織特徴形状データを表示する(ステップ313)。モニタ117上の画像配置例を図5に示す。表示領域501,502,503にX線画像,DRR画像,軟組織特徴形状データを表示し、DR画像と軟組織特徴形状データをフュージョン表示する領域504にてベッド位置決め装置116の操作者は画像のずれ量を確認する。また操作パネル505にて操作者は画像の位置ずれを修正する。
【0042】
操作者が軟組織特徴形状データとX線画像を用いて位置合せする方法について図6を用いて説明する。図6に治療時の撮像対象の状態を示す。図4と同様の撮像対象であるが、目的軟組織の位置が治療計画時と図示したよう点線部分からずれているとする。X線画像上で軟組織の例えば輪郭をすべて認識することはできないが、その一部の点,線,領域といった特徴形状があれば、その特徴形状を軟組織特徴形状データと比較し操作者によって位置合せすることができる。また軟組織特徴形状データにおいて形状を表す画素値分布とX線画像の画素値分布を比較することにより自動で位置合せする(ステップ316)ことも可能である。
【0043】
ベッド位置決め装置の操作者が移動量の確認を入力手段から入力され(ステップ315)、DR画像とDRR線画像の画像位置合せ移動量をベッドの移動量に変換し、ベッド制御装置124に送信する(ステップ317)ことで、ベッド位置決めを終了する。
【0044】
以上により、本実施例が提供するベッド位置決めシステムと方法により、臓器といった軟組織の情報を用いて、ベッド位置決めの精度向上が実現する。
【0045】
直交X線装置により取得されるDR画像と、治療計画CT画像を用いる従来のベッド位置決めにおいて、患部や臓器といった軟組織の位置情報を用いた位置決めを妨げる主要因は、DR画像およびDRR画像上で軟組織の領域や輪郭の判別が困難であることが考えられる。これは各画像が2次元投影画像であって、その投影方向によっては画像上の軟組織の領域や輪郭情報が曖昧もしくは消失しているためである。そのため、本実施例では、DR画像とDRR画像に主に描画されている骨組織を用いてベッド位置決めを行うだけでなく、治療計画CT画像にて目的領域・臓器を抽出し、その輪郭や領域情報を用いてDR画像とDRR画像上における対応する輪郭,領域を特定し、その情報を利用してベッド位置決めすることとした。具体的には、治療計画CT画像に基づいて目的領域・臓器(軟組織)を抽出する。また、治療計画CT画像からDRR画像を作成する。抽出した軟組織の領域,輪郭を投影した画像を作成し、これらを元に投影画像上で軟組織の形状となり得る特徴点,輪郭線,領域を表すデータを得る。実際のベッド位置決め時にDR画像,DRR画像、および軟組織の投影した形状特徴データを用いて、DR画像とDRR画像を位置合せする。これにより、軟組織の形状を用いたベッド位置決めが可能となり、ベッド位置決めの精度が向上する。
【0046】
本実施例によれば、治療計画CT画像においてベッド位置決めパラメータ算出するために基準となる軟組織(臓器)を抽出し、目的軟組織抽出画像を作成する。治療計画CT画像から作成されるDRR画像と前記目的軟組織抽出画像をDRR画像と同方向に投影した軟組織投影画像を用いて投影画像上での目的臓器の特徴形状を有する軟組織特徴形状データを作成する。治療時に撮像するX線画像,DRR画像、および軟組織特徴形状データを比較することで軟組織情報を用いたベッド位置決めを行う。このように、本実施例によれば、放射線治療のベッド位置決め、特に高精度3次元放射線治療において、従来の主に骨の構造を用いた位置合せに加え、軟組織の構造を用いたベッド位置決めにより、従来よりも更に高精度なベッド位置決めが可能となる。その結果、治療用の放射線照射線量を患部に集中でき、高精度な放射線治療が可能となる。
【0047】
本実施例は、その機能を損なうことなく本実施例に述べた構成以外にも適用が可能である。まず、本実施例では治療計画装置101,ベッド位置決め装置116,X線撮像装置操作卓133,治療装置操作卓132を独立した装置として記述したが、これらは全てがひとつの装置であってもかまわないし、これらのうちいくつかが一つの装置となっていてもかまわない。
【0048】
本実施例では、X線画像撮像装置操作卓133から位置決め装置116へと送信するDR画像データ及び画像データサーバ110からCT画像データ,臓器抽出画像のフォーマット(データ形式)にダイコムフォーマットを使用しているが、もちろん他のフォーマット、例えばJPEG画像やビットマップ画像等のフォーマットを用いてもかまわない。
【0049】
画像データサーバ110にデータファイルを保存するような構成を取っているが、直接治療計画装置101とベッド位置決め装置116とが通信し、データファイルを交換しても良い。また、DR画像ファイルは、画像データサーバ110に保管せずにベッド位置決め演算処理装置119の記憶装置121に補完しても良い。さらに、治療計画装置101及びベッド位置決め演算装置119は1台の装置であってもかまわない。また、ネットワーク126によるデータファイル等の通信を用いる形態を説明したが、データファイルの交換手段として他の記憶媒体たとえばフロッピー(登録商標)ディスクやCD−R等の大容量記憶媒体を用いても良い。
【0050】
本実施例では、照射対象が放射線治療システムのベッドに置かれた場合について述べたが、放射線治療システムと同様のベッドとX線撮像システムを持つ部屋でベッド位置決めが行われた場合にもそのまま適用できる。
【0051】
また、本実施例ではX線治療装置について説明したが、X線以外の粒子線を用いる粒子線治療装置も照射ヘッドを備えた回転するガントリを備えており本発明はそのまま適用できる。
【符号の説明】
【0052】
1 放射線治療システム
101 治療計画装置
102,117 モニタ
103,118 入力手段
104 治療計画演算装置
105,111,120 通信装置
106,112,121 記憶装置
107 治療計画演算処理装置
108,114,123 主記憶装置
109 軟組織抽出演算処理装置
110 画像データサーバ
113 データ演算処理装置
115 X線画像撮像システム
116 ベッド位置決め装置
119 ベッド位置決め演算装置
122 ベッド位置決め演算処理装置
124 軟組織特徴形状データ作成演算装置
125 ベッド制御装置
126 ネットワーク
127 放射線治療システム126
128 ベッド
129 照射ヘッド
130 ガントリ
131 治療装置制御部
132 治療装置操作卓
133 X線画像撮像装置操作卓
134 X線源
135 受像装置
136 X線撮像装置制御部
501 DR画像表示領域
502 DRR線画像表示領域
503 軟組織特徴形状データ表示領域
504 フュージョン画像表示領域
505 操作パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検診者をのせるベッドと、
放射線治療において前記ベッドを位置決めするベッド位置決め装置と、
X線を発生するX線発生装置及び前記X線発生装置からの前記X線を受信するX線受像器を有するX線撮像装置とを備え、
前記ベッド位置決め装置は、
前記X線撮像装置で撮影した第1のX線透視画像データ、及び治療計画時に取得したX線CT画像データから生成された軟組織投影画像データに基づいて、ベッド位置決めデータを生成することを特徴とする放射線治療システム。
【請求項2】
前記ベッド位置決め装置は、
治療計画装置から受け取った前記軟組織投影画像データに基づいて、前記軟組織特徴形状を抽出した軟組織特徴形状データを生成し、生成した前記軟組織特徴形状データと前記第1のX線透視画像データを比較して前記ベッド位置決めデータを生成することを特徴とする請求項1に記載の放射線治療システム。
【請求項3】
前記ベッド位置決め装置は、
治療計画装置から受け取った前記軟組織画像データに基づいて、前記軟組織特徴形状を抽出した軟組織特徴形状データを生成し、
前記第1のX線透視画像データに含まれる軟組織画像の特徴形状データと前記軟組織特徴形状データとを比較して前記ベッド位置決めデータを生成することを特徴とする請求項1に記載の放射線治療システム。
【請求項4】
前記軟組織特徴形状の画像と前記第1のX線透視画像の合成画像を表示する表示装置を備えることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の放射線治療システム。
【請求項5】
前記ベッド位置決めデータに基づいて、前記ベッドを移動して位置決め制御するベッド制御装置を備えることを特徴とする放射線治療システム。
【請求項6】
X線CT画像データに含まれる軟組織を抽出し、X線による撮像を模擬して作成された前記軟組織投影画像データを作成する治療計画装置を備える請求項1乃至5のいずれか1項に記載の放射線治療システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−72457(P2011−72457A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225883(P2009−225883)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】