説明

放射線治療用患者位置決めシステム

【課題】放射線治療装置の位置決めシステムの乾酪化、小型化と、位置決め精度の向上を実現する。
【解決手段】患者支持台1の駆動機構2を、治療室床面50に設置された回転駆動部3と、該回転駆動部に保持された鉛直方向駆動部4と該鉛直方向駆動部に保持された水平方向駆動部5によって構成するとともに、第1X線撮像装置10Aの受像装置11を支持部材13によって回転駆動部3に支持する。また、第1X線撮像装置10Aを回転駆動部3の回転軸20上に同軸的に配置し、鉛直方向駆動部4を回転駆動部3の回転軸20を横切る位置に配置し、かつ患者支持台1を、回転軸20をはさんで対抗した位置にある水平駆動部5及び該鉛直方向駆動部の支持部4aによって保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線又は陽子線をはじめとする粒子線等の放射線を患部に照射して治療する放射線治療装置において、患者の位置決めを行う患者位置決めシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療は、放射線を腫瘍部位に照射して腫瘍細胞のDNAを損傷することにより治療を行うものであり、腫瘍部位付近の正常細胞のDNAが損傷されないように正確な照射を実施する必要がある。特に陽子線などの粒子線治療においては、ビームの特性から腫瘍部位に高い線量を集中させることができるが、その反面、より高精度な位置決めが要求されることになり、ビームに対する患者の位置を精度良く決めることが必要となる。
【0003】
治療室での患者位置決めは、例えば特許文献1に記載のように、まず、患者支持台上の固定具に患者を固定した後、体表マーカーとレーザマーカーにより粗決めを行う。次に、現在の患者位置を確認するために、X線撮像装置を用いて患者を撮影する。このX線画像を位置決め画像と称する。
【0004】
予め作成され保存しておいた患者の参照画像と上記の位置決め画像を比較することにより患者位置のずれ量を把握したのち、患者支持台駆動機構により患者支持台を平行移動又は回転させて位置ずれを補正し、患者の位置決めを行う。
【0005】
従来技術では、X線撮像装置を用いて鉛直方向X線を照射して患者を撮影するのにあたって、例えば特許文献1に記載のように、X線受像装置を患者支持台の駆動機構とは独立した駆動機構によって照射中心点の鉛直下方に移動させていた。また、そのとき患者支持台は、例えば特許文献1及び2に記載のように、患者支持台の下にX線撮像装置を構成するX線受像装置を進退可能に配置するため、駆動装置に対し片持ちはりの状態で保持されている。
【0006】
【特許文献1】特開2007−61438号公報
【特許文献2】特開2003−205045号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
陽子線などのブラックピーク特性を持つ粒子線の場合、ビームの高い照射精度を生かすためにより正確な患者位置決めが要求される。これには、X線撮像装置による位置決め画像の位置精度及び患者治療台の位置精度の向上が必要となる。
【0008】
従来技術では、上記のように、X線撮像装置を用いて鉛直方向X線を照射して患者を撮影するのにあたって、X線受像装置を患者支持台の駆動機構とは独立した駆動機構によって照射中心点の鉛直下方に移動させていた。そのため、位置決めシステムが複雑、大型化する問題があった。
【0009】
また、上記のように、患者支持台の下にX線撮像装置を配置するために患者支持台が駆動装置に対し片持ちはりの状態で保持されていた。そのため、照射中心点付近での患者支持台の変位が大きく、放射線に対する患部の位置決め精度を向上させることが困難であった。
【0010】
本発明は、上記従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、その第1の目的は、システムを簡略化、小型化できる放射線治療用患者位置決めシステムを提供することにある。
【0011】
本発明の第2の目的は、患部の位置決め精度を向上することができる放射線治療用患者位置決めシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記第1の目的を達成する本発明の特徴は、X線受像装置を患者支持台の駆動機構に保持することである。
【0013】
また、上記第1及び第2の目的を達成する本発明の特徴は、駆動機構を、放射線治療室の床面に設置され患者支持台を回転移動させる回転駆動部と、該回転駆動部に設置され患者支持台を鉛直方向に平行移動させる鉛直方向駆動部とを有して構成するとともに、X線撮像装置を該回転駆動部の回転軸上に配置しかつ該鉛直方向駆動部を前記回転駆動部の回転軸を横切る位置に配置することである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、位置決めシステムを簡略化、小型化することができる。
【0015】
また、本発明によれば、放射線に対する患部の位置決め精度を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の放射線治療用患者位置決めシステムの実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0017】
図1、図2及び図3は、それぞれ、本発明の一実施の形態の位置決めシステムの正面図、平面図及び側面図である。これらの図に示すように、本実施形態の位置決めシステムは、粒子線(例えば陽子線)治療装置の水平照射治療室に用いられるものを想定したものである。
【0018】
図1、図2及び図3において、本実施の形態の位置決めシステムは、治療室の床面50に設けられ、患者80を固定した患者支持台1を鉛直方向及び水平方向に平行移動させかつ回転移動させる患者支持台駆動機構(以下単に駆動機構という)2と、患者の位置を見るためのX線撮像装置10とを有している。
【0019】
駆動機構2は、治療室床面50に設置され患者支持台1を回転移動させる回転駆動部3と、該回転駆動部3の上部に保持され患者支持台1を鉛直方向に平行移動させる鉛直方向駆動部4と、該鉛直方向駆動部4の上部に保持され患者支持台1を水平方向に平行移動させる水平方向駆動部5によって構成されている。回転駆動部3は、治療室において照射中心線30の所定の位置に設定された照射中心点21を通る鉛直線20上に回転軸(回転中心)が位置している。水平方向駆動部は鉛直線20(以下、適宜「回転軸20」という)を外れた位置で鉛直方向駆動部4の上部に支持されている。鉛直方向駆動部4は回転駆動部3の回転軸20を横切る位置に配置されている。
【0020】
そして、患者支持台1は、水平方向駆動部5に保持されるとともに、回転軸20をはさんで当該水平方向駆動部5と反対側に設置された鉛直方向駆動部4の上部の支持部4aによって鉛直方向の荷重を支持されている。支持部4aは摺動支持によって患者支持台1の水平方向の移動を許容している。
【0021】
一方、前記X線撮像装置10は、鉛直線20に沿って鉛直方向下方にX線を照射するX線発生装置であるX線管12と、そのX線を受像する受像装置11とを有する第1X線撮像装置10Aと、照射ノズル31の内部に配置され、照射中心線30に沿って水平方向にX線を照射するX線発生装置であるX線管16と、このX線を受像する受像装置15とを有する第2X線撮像装置10Bとによって構成されている。
【0022】
そして、第1X線撮像装置10Aの受像装置11は、支持部材13によって回転駆動部3に支持され、回転軸20上に保持されている。すなわち、第1X線撮像装置10Aは回転駆動部3の回転軸20上に同軸的に配置されている。
【0023】
照射ノズル31は、図示されていない駆動装置によって、照射中心21を通り鉛直線20及び照射中心線30に直角な軸線35(図2)の回りを回転可能であり、その回転方向の所望の角度位置で停止し、放射線(粒子線)を照射することができる。第1X線撮像装置10AのX線管12及び第2X線撮像装置10Bの受像装置15は、図示されていない駆動装置によって図示の位置から退避可能であり、照射ノズル31の回転時に照射ノズル31と干渉しないようになっている。照射ノズル31内のX線管16も、図示されていない駆動装置によって放射線の照射範囲外の位置に退避可能であり、放射線の照射時に放射線と干渉しないようになっている。
【0024】
本実施形態の位置決めシステムの構成は上述の如くであり、以下、その動作を説明する。 まず、患者支持台1の上に固定具によって患者80を固定し、図示されていない体表マーカーとレーザマーカーにより粗決めを行う。次に、現状の患者位置を確認するために、X線撮像装置10を用いて患者を撮影する。これによって得られた位置決め画像を、予め作成され保存されている患者の参照画像と比較することにより患者位置のずれ量を把握したのち、患者支持台駆動機構2により患者支持台1を平行移動又は回転させて位置ずれを補正し、患者の位置決めを行う。 そして第2X線撮像装置10BのX線管16を図示されていない駆動機構によって照射中心線30から退避させた後に、照射ノズル31から放射線を照射し治療を行う。
【0025】
なお、患者支持台を移動させる際に第2X線撮像装置10Bの受像装置15が障害となる場合には、図示されていない駆動機構によって受像装置15を移動経路から退避させておく。
【0026】
以上のように構成した本実施の形態の患者位置決めシステムでは、第1X線撮像装置10Aの受像装置11が前述の如く、支持部材13によって回転駆動部3に保持されていることから、従来技術の如く独立した駆動装置によって照射中心点21の鉛直下方に移動しなくて済むため、システムの簡略化、小型化を実現したものとなっている。また、第1X線撮像装置10Aは回転駆動部3の回転軸(照射中心点21を通る鉛直線20)上に同軸的に配置されているため、患者支持台がどの様な回転角度であっても、受像装置11が照射中心点の下方に高精度に位置することとなり、高精度な位置決め画像を撮影が可能である。
【0027】
次に、図4及び図5を用いて本実施の形態の位置決めシステムの有する他の効果を説明する。図4及び図5はそれぞれ、図1、図2で示された状態から水平方向駆動部5を動作させて患者支持台1を鉛直方向駆動部4に対して図示左方に移動し、患者80の下腹部を照射中心点21に移動させた場合を示す正面図及び側面図である。これは、前立腺がんなどの下腹部に放射線を照射する場合の例である。
【0028】
前述したように、第1X線撮像装置10Aは回転駆動部3の回転軸20上に同軸的に配置され、鉛直方向駆動部4は回転駆動部3の回転軸20を横切る位置に配置されている。また、患者支持台1は、水平方向駆動部5に保持されるとともに、回転軸20をはさんで当該水平方向駆動部5と反対側に設置された鉛直方向駆動部4の上部の支持部4aによって鉛直方向の荷重を支持されている。
【0029】
このように患者支持台1を支持することによって、患者支持台1を上記のように移動させたとき、患者80の重心位置81は鉛直方向駆動部4の範囲から外れないようになり、患者80の重心位置81は回転軸80を通過して鉛直方向駆動部の支持部4aの手前に達した状態で、患者支持台1が水平駆動部5及び該鉛直方向駆動部の支持部4aによって保持されている。この様に患者80の重心が水平駆動部5及び該鉛直方向駆動部の支持部4aの間にあり、患者支持台が両持ちはりの状態で鉛直方向に支持されていることから、従来技術の如く患者支持台が駆動装置に対し片持ちはりの状態で保持されていた場合と比較し照射中心点付近での患者支持台の変位を大幅に小さくすることが可能となり、放射線に対する患部の位置決め精度を向上させている。
【0030】
以上説明してきた通り、本発明の一実施の形態の位置決めシステムにおいては、第1X線撮像装置10Aの受像装置11が回転駆動部3に保持されているため、従来技術の如く独立した駆動装置によって照射中心点21の鉛直下方に移動しなくて済むため、位置決めシステムを簡略化、小型化することができる。また、患者支持台1がどの様な回転角度であっても、第1X線撮像装置10Aの受像装置11が照射中心点21の下方に高精度に配置されていることから、高精度な位置決め画像を撮影が可能である。更に、照射中心点21近傍で患者支持台1が両持ちはりの状態で鉛直方向に支持されていることから、高精度の患部位置決めが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施の形態の放射線治療用患者位置決めシステムの正面図である。
【図2】本発明の一実施の形態の放射線治療用患者位置決めシステムの平面図である。
【図3】本発明の一実施の形態の放射線治療用患者位置決めシステムの側面図である。
【図4】本発明の一実施の形態の放射線治療用患者位置決めシステムの効果を説明するための正面図である。
【図5】本発明の一実施の形態の放射線治療用患者位置決めシステムの効果を説明するための平面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 患者支持台
2 患者支持台駆動機構
3 患者支持台駆動機構の回転駆動部
4 患者支持台駆動機構の鉛直方向駆動部
4a 支持部
5 患者支持台駆動機構の水平方向駆動部
10 X線撮像装置
10A 第1X線撮像装置
10B 第2X線撮像装置
11 X線受像装置
13 支持部
15 受像装置
16 X線管
20 鉛直線(回転軸)
21 照射中心点
30 照射中心線
31 照射ノズル
35 軸線
80 患者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線治療室内に設置され患者を保持する患者支持台と、この患者支持台を動かす駆動機構と、X線発生装置及びX線受像装置を備え患者の位置を確認するX線撮像装置とを有する放射線治療用患者位置決めシステムにおいて、
前記X線撮像装置のX線受像装置が前記患者支持台を動かす駆動機構に保持されることを特徴とする放射線治療用患者位置決めシステム。
【請求項2】
前記駆動機構が、前記放射線治療室の床面に設置され前記患者支持台を回転移動させる回転駆動部と、この回転駆動部に設置され前記患者支持台を鉛直方向に平行移動させる鉛直方向駆動部とを有し、前記X線受像装置が前記回転駆動部に支持部材を介して保持されることを特徴とする放射線治療用患者位置決めシステム。
【請求項3】
前記駆動機構が、前記放射線治療室の床面に設置され前記患者支持台を回転移動させる回転駆動部と、この回転駆動部に設置され前記患者支持台を鉛直方向に平行移動させる鉛直方向駆動部とを有し、前記X線撮像装置が前記回転駆動部の回転軸上に配置されかつ前記鉛直方向駆動部が前記回転駆動部の回転軸を横切る位置に配置されることを特徴とする請求項1に記載の放射線治療用患者位置決めシステム。
【請求項4】
前記駆動機構が、前記放射線治療室の床面に設置され前記患者支持台を回転移動させる回転駆動部と、この回転駆動部に設置され前記患者支持台を鉛直方向に平行移動させる鉛直方向駆動部と、この鉛直方向駆動部に保持され前記患者支持台を水平方向に平行移動させる水平方向駆動部とを有し、前記患者支持台は前記水平方向駆動部に保持されるとともに、前記回転駆動部の回転軸を挟んで前記水平方向駆動部と反対側に設置された前記鉛直方向駆動部の支持部によって支持されることを特徴とする請求項1に記載の放射線治療用の患者位置決めシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−77957(P2009−77957A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249863(P2007−249863)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】