説明

放射線治療用線量分布測定装置、及び、放射線治療用線量分布測定装置における散乱線検出器の較正方法

【課題】放射線治療中に散乱線を検出する測定装置において、散乱線検出器の位置と検出感度とを較正することを目的とする。
【解決手段】治療ビームを散乱させる複数の散乱体を含むマーカー板を寝台14上に載置し、散乱線検出器21は治療ビームに基づいて発生する散乱体からの散乱線を検出する。位置算出部41は、その検出結果と、散乱体の設置位置から求められる散乱線検出器21での像とに基づいて散乱線検出器21の位置を求める。領域算出部45は、散乱線検出器21の位置と散乱体の設置位置とに基づいて、散乱線検出器21に散乱線が入射する可能性があるマーカー板内の領域を求め、計数値算出部46は、その領域と散乱体の位置及び材質とに基づいて、入射する散乱線の計数値を求める。補正係数算出部47は、実測値と求められた計数値とに基づいて、検出感度を補正するための補正係数を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、患者の体外から病変部に向けて放射線を照射することで治療を行う放射線治療において、患者に放射線が照射された部位及び線量を検出し、その検出結果を提供する放射線治療用線量分布測定装置に関する。また、この発明は、放射線治療用線量分布測定装置における散乱線検出器を較正する較正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線外照射治療に代表される放射線治療では、治療前に、患者の画像上で照射計画(病変部に対してどの方向から、どれだけの線量の放射線を照射するか)が立案され、これに基づいて患者への照射が行われる。しかし、実際に計画通りの位置で、計画通りの線量の放射線が患者に照射されているか否かを確認する手段がなかった。そのため、病変部への過少照射や正常組織への過剰照射が起こっても、操作者に気づかれないのが実情であった。
【0003】
一方、X線が照射された被写体からの散乱X線を検出し、被写体の断層像を得る方法が提案されている(例えば特許文献1)。この特許文献1に記載の方法は、ペンシル状ビームを走査することにより被写体の3次元散乱線像を再構成して得る方法である。しかしながら、この方法は、ペンシル状ビームのみを想定しており、X線治療で用いられる有限の幅をもったビームが通過した領域の散乱像(治療ビームによる線量の空間分布)を得るものではない。また、エネルギーの高い治療ビーム(数MeV)の被写体内での散乱は前方散乱が優位となるため、入射X線方向に検出器を配置すると、散乱線と透過線との区別が難しく、散乱線の検出に補正処理を必須としている。
【0004】
そこで、治療中に患者体内で散乱されて体外へ出てくるX線(放射線)を検出することで、リアルタイムで線量分布をモニタリングする装置が提案されている(出願番号2007−331108)。この装置は、放射線治療中に患者からの散乱線を測定することで、患者のどの部位にどれだけの線量のX線(放射線)が照射されたのかをモニタリングする装置である。この装置について図1を参照して説明する、図1は、放射線治療用線量分布測定装置における散乱線の測定形態を示す図である。図1に示すように、X線源である照射部11から照射される治療X線ビームは、被検体で散乱される。照射部11から寝台14に載置されている被検体Pに照射される治療X線ビームを中心軸として、その中心軸に対して検出面を所定角度に保ちながら、散乱線検出器21を中心軸の周りで回転させる。すなわち、治療X線ビームを中心軸として、その中心軸の周りのスキャン軌道に沿って散乱線検出器21を移動させる。これにより、散乱線検出器21は、治療X線ビームに基づいて発生する被検体からの散乱線を複数の位置で検出する。そして、散乱線検出器21の検出結果に基づいて、被検体内に照射されたX線の線量の分布を3次元的に再構成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−146426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の放射線治療用線量分布測定装置は、線量分布を測定する検出系を較正する手段を備えていないため、この装置を用いてもなお、患者に実際に照射されたX線の線量が正確に得られないおそれがある。
【0007】
正確な線量分布の測定を妨げる第1の要因は、散乱線検出器の空間的な位置ずれである。正確な線量分布を3次元的に再構成するためには、散乱線検出器が散乱線を検出した時の散乱線検出器の空間的な位置が正確に特定されている必要がある。上記の放射線治療用線量分布測定装置では、放射線を照射するための照射システム(X線源、ガントリ、及び寝台など)の座標上の、所定位置に設定されたスキャン軌道上を散乱線検出器が移動しながら散乱線を検出する。しかしながら、スキャン機構部の機械的たわみや、散乱線検出器の取り付け角度のずれなどのために、散乱線検出器は必ずしも設計値通りの位置にあるとは限らない。そのため、散乱線検出器が設計値どおりのスキャン軌道上にあると仮定して再構成処理を行うと、得られた線量分布が空間的にずれたり、線量の絶対値がずれたりしてしまう。
【0008】
また、第2の要因は、散乱線検出器の検出感度の問題である。散乱線検出器は、多数の検出素子の集合体で構成されている。すべての検出素子の検出感度が一様に100%であることが理想的であるが、実際には検出素子間で検出感度にばらつきがあり、数え落としもある。そのため、検出素子で検出された計数値が正確ではなくなる。そのため、計数値の較正を行わないと、線量の絶対値が正しく求まらない問題がある。
【0009】
以上のように、散乱線検出器の空間的な位置ずれ、及び計数値の不正確さが原因となって、線量分布を適切にモニタリングできないおそれがあった。
【0010】
この発明は上記の問題点を解決するものであり、放射線治療中に散乱線を検出することで、被検体のどの部位にどれだけの線量の放射線が照射されたかをモニタリングする放射線治療用線量分布測定装置において、散乱線検出器の位置と、散乱線検出器の検出感度とを較正することができる放射線治療用線量分布測定装置を提供することを目的とする。また、放射線治療用線量分布測定装置における散乱線検出器を較正する較正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、寝台と、治療用放射線ビームを散乱させる複数の散乱体マーカーが所定位置に配置された散乱部材が前記寝台上に載置された状態で、前記散乱部材に対して前記治療用放射線ビームを照射する照射手段と、2次元的に配置された複数の検出素子を有し、前記治療用放射線ビームに基づいて発生する前記複数の散乱体マーカーからの散乱線を検出することで前記複数の散乱体マーカーを表す第1マーカー像を取得する散乱線検出器と、前記第1マーカー像を取得したときの前記散乱部材の設置位置に基づいて、前記散乱線検出器に映されると推定される前記複数の散乱体マーカーを表す第2マーカー像を求め、前記散乱線検出器における前記第1マーカー像の位置と前記第2マーカー像の位置との差に基づいて、照射系に対する前記散乱線検出器の位置を求める位置算出手段と、前記位置算出手段によって求められた前記散乱線検出器の位置と、前記散乱部材内における前記複数の散乱体マーカーの位置とに基づいて、前記散乱線検出器に散乱線が入射する可能性がある前記散乱体マーカーを含む前記散乱部材内の見込み領域を求める領域算出手段と、前記見込み領域と前記複数の散乱線マーカーの位置及び材質とに基づいて、前記散乱線検出器に入射すると推定される散乱線の計算値を求める計数値算出手段と、前記散乱線検出器が検出した散乱線の実測値と、前記計数値算出手段によって求められた前記散乱線の計算値とに基づいて、前記散乱線検出器の検出感度を補正するための補正係数を算出する補正係数算出手段と、を有することを放射線治療用線量分布測定装置である。
また、請求項6に記載の発明は、寝台と、前記寝台上に載置された被検体に対して治療用放射線ビームを照射する照射手段と、2次元的に配置された複数の検出素子を有し、前記治療用放射線ビームに基づいて発生する前記被検体内からの散乱線を複数の位置で検出する散乱線検出器と、を有する放射線治療用線量分布測定装置における散乱線検出器の較正方法であって、前記治療用放射線ビームを散乱させる複数の散乱体マーカーが所定位置に配置された散乱部材が、前記被検体の代わりに前記寝台上に載置された状態で、前記照射手段は、前記散乱部材に対して治療用放射線ビームを照射し、前記散乱線検出器は、前記治療用放射線ビームに基づいて発生する前記複数の散乱体マーカーからの散乱線を検出することで前記複数の散乱体マーカーを表す第1マーカー像を取得し、前記散乱部材の設置位置に基づいて前記散乱線検出器に映されると推定される前記複数の散乱体マーカーを表す第2マーカー像を求め、前記散乱線検出器における前記第1マーカー像の位置と前記第2マーカー像の位置との差に基づいて、前記散乱線検出器の位置を求め、前記求められた前記散乱線検出器の位置と、前記散乱部材内における前記複数の散乱体マーカーの位置とに基づいて、前記散乱線検出器に散乱線が入射する可能性がある前記散乱体マーカーを含む前記散乱部材内の見込み領域を求め、前記見込み領域と前記複数の散乱体マーカーの位置及び材質とに基づいて、前記散乱線検出器に入射すると推定される散乱線の計数値を求め、前記散乱線検出器が検出した散乱線の実測値と、前記求められた前記散乱線の計数値とに基づいて、前記散乱線検出器の検出感度を補正するための補正係数を算出することを特徴とする放射線治療用線量分布測定装置における散乱線検出器の較正方法である。
【発明の効果】
【0012】
この発明によると、散乱体マーカーを含む散乱部材を用いて散乱線検出器の位置を求め、さらに、散乱線検出器の位置と散乱体マーカーとの位置関係に基づいて、散乱線検出器に散乱線が入射する可能性がある前乱体マーカーを含む散乱部材内の見込み領域を求め、散乱線検出器に入射すると推定される散乱線の計数値を求めることができる。このように、散乱線検出器に入射する散乱線の計数値を求めることができるため、実際に検出された実測値と計算によって求められた計数値とに基づいて、散乱線検出器の検出感度を補正するための補正係数を求めることが可能となる。このように、この発明によると、散乱線検出器の位置と検出感度とを補正することが可能となる。すなわち、散乱線検出器の空間的なずれと、散乱線の計数値とを補正することができるため、線量分布をより正確にモニタリングすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】放射線治療用線量分布測定装置における散乱線の測定形態を示す図である。
【図2】この発明の実施形態に係る放射線治療用線量分布測定装置を示すブロック図である。
【図3】この発明の実施形態に係る較正方法に用いられるマーカー板を模式的に示す図である。
【図4】マーカー板からの散乱線の測定形態を示す図である。
【図5】照射システム座標系、較正用マーカー座標系、及び検出器座標系を説明するための図である。
【図6】散乱体マーカーの位置と、マーカー像の位置とを示す図である。
【図7】散乱線検出器に散乱線が入射する可能性がある見込み領域を説明するための図である。
【図8】マーカー板からの散乱線の測定形態を示す図である。
【図9】治療ビーム検出器が検出したマーカー像の1例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明の実施形態に係る放射線治療用線量分布測定装置と、散乱線検出器の較正方法とについて説明する。図2は、この発明の実施形態に係る放射線治療用線量分布測定装置を示すブロック図である。
【0015】
この実施形態に係る放射線治療用線量分布測定装置は、照射システム10、ガントリ13、寝台14、散乱線検出システム20、システム制御部30、較正処理部40、記憶部50、画像生成部60、表示部71、及び操作部72を備えている。
【0016】
[照射システム10]
照射システム10は、照射部11と治療ビーム検出器12とを備えている。
【0017】
照射部11は、例えば線形加速器(ライナック)などの機構を有する放射線照射装置である。照射部11では、加速管の一端に設けられた電子銃により、陰極から放射された熱電子は数百keVになるまで加速される。次に、クライストロンで発生したマイクロ波は導波管を使って加速管まで導かれ、そこでこの熱電子は数MeVのエネルギーに達するまで加速される。この加速された熱電子は磁石によってその方向を変えられ、透過型ターゲットに衝突する。このとき制動放射により、数MeVのエネルギーのX線が発生する。照射部11は、コリメータによってこのX線を所定の形状(例えば、円錐形状)に成形し、寝台14上に載置された被検体の3次元領域に照射する。照射部11によって被検体に対して照射される放射線(X線)を、以下、「治療ビーム」と称する場合がある。なお、照射部11が、この発明の「照射手段」の1例に相当する。
【0018】
治療ビーム検出器12は、寝台14を間にして照射部11とは反対側に配置されている。治療ビーム検出器12は、照射部11によって照射されて寝台14を透過した治療ビーム(透過線)を検出する。治療ビーム検出器12には、例えばMV検出器が用いられる。治療ビーム検出器12によって取得された透過線データは、システム制御部30のデータ収集制御部31に出力される。なお、散乱線検出器を較正するにあたって、治療ビーム検出器12を用いても良いし、治療ビーム検出器12を用いなくても良い。
【0019】
照射システム10及び散乱線検出システム20は、ガントリ13(架台)に設置され、ガントリ13を移動・回転させることで、寝台14上に載置された被検体に対して任意の位置に配置することができる。
【0020】
寝台14上には被検体が載置される。寝台14は、図示しない駆動装置によって、被検体の体軸方向と高さ方向とに移動可能となっている。
【0021】
[散乱線検出システム]
散乱線検出システム20は、散乱線検出器21と移動機構部22とを備えている。
【0022】
散乱線検出器21は、2次元的に配置された複数の検出素子を有し、被検体に対して照射された放射線に基づく被検体からの散乱線を検出する。散乱線検出器21には、例えば、数百keVのX線を検出できる半導体検出器や、イメージング・プレートなどが用いられる。
【0023】
散乱線検出器21の検出面には、コリメータが設置されている。例えば図1に示すように、散乱線検出器21の検出面に、コリメータ23が設置されている。このコリメータ23は、格子状のコリメータであり、特定の方向に来た散乱線を選択的に検出するための絞り装置である。コリメータ23のグリッドサイズが、再構成される散乱線の3次元分布の分解能を決定する。グリッドサイズが小さいほど空間分解能は向上するが、散乱線のカウント数が減るため、S/Nが悪くなってしまう。
【0024】
通常の根治的治療の場合、ターゲットに対して総計60〜70Gy程度の線量が30日程度に分割して照射される。すなわち、1日あたりのターゲットに対する照射線量はおおよそ2Gy程度である。2Gyの照射に必要な治療ビーム(X線ビーム)のフォトン数は、文献(空気の電離量から分かる人体の吸収線量、荒木不次男)に記載に従うと、1.3×1111(photons/cm)となる。よって、1cmあたりの散乱数(=散乱線の数)は、3.9×10となる。例えば、グリッドサイズを1cmとし、散乱線検出器21をターゲットから50cm離れた場所に設置すると、1グリッドのカウント数N1cm2は、1.24×10[counts/cm]となる。
【0025】
上記の値は散乱の角度依存性を無視した場合の平均的な値であり、散乱角の大きな位置では二桁近く小さな値となる。なお、診断用のX線透視(10mR)の場合、おおよそ2.4×10[counts/cm]程度である。しかし、X線透視の空間分解能は0.2程度と高い。もし1cmの空間分解能とするならば、2500分の1のカウント数(〜10程度)で足りる。それに対し、散乱角の大きな散乱線を検出する位置に散乱線検出器21を配置した場合でも10程度と、X線透視を1桁上回るカウント数を得ることができる。また、グリッドサイズは、散乱線検出器21の画素サイズの整数倍又は整数分の1である必要がある。ただし、カウント数にロスが生じないよう、散乱線検出器21の画素サイズは、グリッドサイズよりも小さいことが望ましい。例えば、グリッドサイズが1cmのとき、散乱線検出器21の画素サイズは1cm、0.5cm、0.2cm、又は0.1cmなどとなっていれば良い。
【0026】
移動機構部22は、照射部11の治療ビーム軸に対する散乱線検出器21の検出面の角度(すなわち、照射ビーム軸と散乱線検出器21の検出面の法線との角度)、治療ビーム軸を中心とした散乱線検出器21の回転角、被検体と散乱線検出器21の検出面との距離などを制御するために、散乱線検出器21の位置や角度を移動させる。
【0027】
この実施形態では、治療ビームの中心を軸として、その中心軸に対して検出面を所定角度に保ちながら中心軸の周り沿って散乱線検出器21を回転させることで、複数の位置における散乱線データ(すなわち、同一散乱角についての多方向のデータ)を取得する。すなわち、図1に示すように、治療ビームを中心軸として、その中心軸の周りのスキャン軌道に沿って散乱線検出器21を移動させる。これにより、散乱線検出器21は、治療ビームに基づいて発生する被検体からの散乱線を複数の位置で検出する。散乱線検出器21によって取得された散乱線データは、システム制御部30のデータ収集制御部31に出力される。
【0028】
なお、同一散乱角についての多方向のデータを取得するために、散乱角を同一とする散乱線を検出するように、異なる回転角度(すなわち、治療ビーム軸を中心とした円周上の複数の位置)に配置された複数の散乱線検出器を用いるようにしても良い。また、このように異なる回転角度に配置された複数の散乱線検出器を、治療ビームの軸を中心として回転させることで、同一散乱角についての多方向のデータを取得するようにしても良い。これらのように、複数の散乱線検出器を用いることにより、カウント数が増加し、S/Nを向上させることができる。
【0029】
[システム制御部30]
システム制御部30は、データ収集制御部31、照射システム制御部32、及び、スキャン制御部33を備えている。
【0030】
データ収集制御部31は、散乱線検出器21による散乱線データ収集の開始/終了を制御する。また、データ収集制御部31は、散乱線検出器21によって取得された散乱線データを較正処理部40と、画像生成部60の再構成処理部61とに出力する。
【0031】
照射システム制御部32は、照射システム10の動作を制御する。例えば、照射システム制御部32は、照射部11による治療ビームの曝射のタイミングを制御する。また、照射システム制御部32は、ガントリ13の移動位置・回転位置を制御する。また、照射システム制御部32は、寝台14の移動を制御する。
【0032】
スキャン制御部33は、放射線治療時における散乱線計測に関する総合的な制御を行う。例えば、スキャン制御部33は、散乱線によるスキャンの開始及び終了を制御する。
【0033】
[画像生成部60]
画像生成部60は、再構成処理部61と画像処理部62とを備えている。
【0034】
再構成処理部61は、散乱線検出システム20にて取得された各位置における散乱線データと、各散乱線データを検出した位置(散乱線検出器21の位置)を示す位置情報とを用いて画像再構成処理を行うことで、散乱イベント回数(散乱発生回数)の密度の3次元分布を示す散乱線ボリュームデータを生成する。すなわち、再構成処理部61は、多方向の散乱線データを用いて画像再構成処理を行うことで、散乱線ボリュームデータを生成する。再構成の方法としては、例えば、散乱線検出器21の回転軸とコリメータの方向とが直交している場合には、X線CT装置における再構成方法によって散乱線ボリュームデータを生成することができる。一方、散乱線検出器21の回転軸とコリメータ方向とが直交していない場合には、断層撮影の再構成方法によって散乱線ボリュームデータを生成することができる。断層撮影の手法としては、例えば投影画像にフィルタ処理を適用した後、バックプロジェクション処理を行うfiltered backprojection法を用いれば良い。
【0035】
画像処理部62は、再構成処理によって生成された散乱線ボリュームデータを、吸収された放射線量(吸収線量)の3次元分布を示す吸収線量ボリュームデータに変換する。そして、画像処理部62は、吸収線量ボリュームデータに基づいて、被検体の所定部位に関する吸収された放射線量(吸収線量)の分布を示す吸収線量画像データを生成する。画像処理部62によって生成された吸収線量画像データは、表示部71に出力される。表示部71は、吸収線量画像を表示する。
【0036】
(較正処理)
この実施形態では、スキャン軌道上における散乱線検出器21の位置及び取り付け角度を較正し、さらに、散乱線検出器21の各検出素子が検出する散乱線強度の計数値を較正する。なお、散乱線強度の計数値を、散乱線の計数値と称する場合もある。この較正のために、患者に代えてダミーの散乱体を用いて、その散乱体からの散乱線を検出する。その検出結果に基づいて、散乱線検出器21の位置ずれ、及び散乱線の計数値を較正する。
【0037】
まず、較正のために用いる散乱体について、図3及び図4を参照して説明する。図3は、この発明の実施形態に係る較正方法に用いられるマーカー板を模式的に示す図である。図4は、マーカー板からの散乱線の測定形態を示す図である。
【0038】
較正に用いられるマーカー板100は、平板状の人体模擬材110と、その人体模擬材110内に所定間隔をおいて規則的に配置された複数の散乱体マーカー120とを有している。散乱体マーカー120は、スキャン軌道上における散乱線検出器21の位置及び取り付け角度を較正するために用いられる。散乱体マーカー120は、金属などの散乱体であり、治療ビームが照射されると散乱が発生する。人体模擬材110は、散乱線検出器21の計数値の較正に用いられる。人体模擬材110は、密度が人体と同じ程度の材料(例えば水)で構成されていることが好ましい。1例として、人体模擬材110は、1.0g/cm程度の密度を有する材料で構成されていることが好ましい。人体模擬材110の密度を人体の密度と同じ程度にすることで、患者が対象となる実際の治療とほぼ同じ条件下で、ダミーを用いた較正を行うことができる。例えば、散乱線の数及びエネルギーが、実際の治療時と較正時とでほぼ同じになる条件下で、較正を行うことが可能となる。なお、マーカー板100が、この発明の「散乱部材」の1例に相当する。
【0039】
(マーカー情報記憶部52)
マーカー板100を構成する人体模擬材110及び散乱体マーカー120の材質や配置位置などの情報は、記憶部50のマーカー情報記憶部52に予め記憶されている。例えば、散乱体マーカー120の質量密度係数(msc[g/cm])、散乱体マーカー120の大きさ、後述する較正用マーカー座標系Mにおける各散乱体マーカー120の位置を示す座標情報、人体模擬材110の質量密度係数(mho[g/cm])、及び、マーカー板100の位置を示す座標情報が、マーカー情報記憶部52に予め記憶されている。各検出素子に入射する散乱線の計数値を計算するためには、マーカー板100によるX線の吸収量や、マーカー板100が設置されている位置が既知である必要がある。そのため、マーカー板100に関する情報をマーカー情報記憶部52に予め記憶させておく。
【0040】
図4に示すように、照射部11から照射された治療ビームは、マーカー板100内に配置された散乱体マーカー120によって散乱される。そして、散乱体マーカー120によって散乱された散乱線は、散乱線検出器21に検出される。散乱体マーカー120は、人体模擬材110内に規則的に配置されているため、散乱線検出器21には、所定間隔で複数のマーカー像が写る。
【0041】
図3に示すように、マーカー板100は、一辺の長さが長さW1、他の一辺の長さが長さW2、厚さDの直方体の形状を有している。各散乱体マーカー120は、長さW1を有する辺に沿って距離L2の間隔で配置され、長さW2を有する辺に沿って距離L1の間隔で配置されている。複数ある散乱体マーカー120のうち特異点となる散乱体マーカー120の周囲には、距離L1、L2よりも短い距離L3の位置に、散乱体マーカー120が配置されている。この実施形態では1例として、中心にある散乱体マーカー120の周囲には、距離L1、L2よりも短い距離L3の位置に、2つの散乱体マーカー120が配置されている。また、各散乱体マーカー120は、マーカー板100の表面から深さd1の位置に配置されている。
【0042】
散乱線検出器21の座標系上でのマーカー像の位置と各マーカー像間の距離とを基に、散乱線検出器21の設置位置の較正を行うため、各散乱体マーカー120は、設計値通りに精度良く人体模擬材110内に配置されていることが好ましい。また、散乱体マーカー120の大きさは、散乱線検出器21の計測値の較正への影響を低減するために、なるべく小さい方が好ましい。
【0043】
マーカー板100によって散乱された散乱線はあらゆる方向に飛ぶが、散乱線検出器21の設置角度と、散乱線検出器21の検出面に設置されたコリメータ23の開口方向とに合致する散乱線が、散乱線検出器21に検出される。
【0044】
(散乱線検出器21の位置及び取り付け角度の較正)
マーカー板100が設置されている位置が既知であれば、散乱線検出器21上に映されると推定されるマーカー像の位置を計算で求めることができる。散乱線検出器21の位置は、設計値からわずかにずれていることがあるため、散乱線検出器21上に実際に映ったマーカー像の位置と、計算で求められたマーカー像の位置(推定された位置)とは必ずしも一致しない。そこで、この実施形態では、測定されたマーカー像の位置と、計算で求められたマーカー像の位置(推定された位置)との差を求め、その差に基づいて、設計値からの散乱線検出器21の位置のずれを推定する。この推定によって、散乱線検出器21の実際の位置や取り付け角度を特定することができる。較正処理の詳細な説明については後述する。
【0045】
(計数値の補正)
また、散乱線検出器21の実際の位置(スキャン軌道)と取り付け角度とが求められ、散乱線検出器21とマーカー板100との位置関係が特定されると、散乱線検出器21がある位置にあるときの、検出素子ごとの「マーカー板見込み領域」を特定することができる。ここで、「マーカー板見込み領域」とは、マーカー板100内のある領域で治療ビームの散乱が発生したときに、検出素子に散乱線が入射する可能性がある散乱体マーカー120を含むマーカー板100内の領域のことである。
【0046】
さらに、マーカー板100の材質及び散乱体マーカー120の設置位置が特定されている場合、放射線治療装置において用いられる公知のシミュレーターを用いることで、各検出素子に入射する散乱線の計数値を算出することができる。このようにして計算によって求めた計数値(計算値)と、実測により得られた計数値(実測値)とに基づいて、計数値(実測値)を補正するための補正係数を検出素子ごとに求めることができる。これにより、計数値(実測値)を補正することができる。マーカー板見込み領域と補正係数を求めるための処理については後述する。
【0047】
(座標系)
次に、較正処理の具体的な内容について説明する。まず、較正処理に用いる座標系について図5を参照して説明する。図5は、照射システム座標系、較正用マーカー座標系、及び検出器座標系を説明するための図である。図5に示すように、照射システム10の中心(例えば、ガントリ13の回転中心)を原点とする3次元直交座標系(x、y、z)を、照射システム座標系Cとして定義する。また、較正用のマーカー板100の中心を原点とする3次元直交座標系(x、y、z)を、較正用マーカー座標系Mとして定義する。また、散乱線検出器21の中心を原点とする3次元直交座標系(x、y、z)を、検出器座標系Diとする。散乱線検出器21は、治療ビームの中心を軸として、その中心軸の周りのスキャン軌道に沿って移動することで、スキャン軌道上の異なる複数の場所で散乱線を検出する。ここでは、スキャン軌道上のi番目のポジションに散乱線検出器21があるときの座標系を検出器座標系Diとする。
【0048】
較正処理を行うために、較正の対象となる位置にガントリ13を移動させ、寝台14上に較正用のマーカー板100を載置する。散乱線検出器21を、スキャン軌道上のスキャン開始位置に移動させておく。この状態で、なるべく多くの散乱体マーカー120からの散乱線が散乱線検出器21に入射して、散乱線検出器21の検出面にマーカー像が映るように、照射部11のコリメータを開けて、照射部11から治療ビームをマーカー板100に対して照射する。較正を行うときの治療ビームの強度を、実際の治療時における強度と同じにしておくことが好ましい。このようにスキャン開始位置に設置された散乱線検出器21によって、複数の散乱体マーカー120からの散乱線を検出することで、散乱体マーカー120の像(マーカー像)を取得する。データ収集制御部31は、散乱線検出器21によって検出された散乱線データを較正処理部40に出力する。
【0049】
なお、ガントリ13の回転角度によって機械的なたわみの大きさは異なると考えられる。そのため、ガントリ13を様々な位置に移動させて、各位置にて散乱線検出器21の位置を較正することが好ましい。様々な位置における機械的なたわみが測定されている場合には、ある位置にて散乱線検出器21の較正を行い、その較正結果に基づいて他の位置における補正量を求めても良い。
【0050】
(較正処理部40、記憶部50)
次に、較正処理を行う較正処理部40と、その較正処理に用いられる情報を記憶する記憶部50とについて説明する。
【0051】
較正処理部40は、位置算出部41、領域算出部45、計数値算出部46、及び、補正係数算出部47を備えている。また、位置算出部41は、マーカー像抽出部42、マーカー像算出部43、及び、フィッティング処理部44を備えている。また、記憶部50は、較正データ記憶部51、マーカー情報記憶部52、コリメータ情報記憶部53、及び、治療ビーム情報記憶部54を備えている。
【0052】
(マーカー像抽出部42)
マーカー像抽出部42は、データ収集制御部31から出力された散乱体マーカー120に起因する散乱線データを受けて、フィルタ処理や閾値処理などを施すことで、散乱線検出器21に映ったマーカー像を抽出する。散乱線検出器21に映された各マーカー像は、マーカー板100に配置された各散乱体マーカー120にそれぞれ対応する。さらに、マーカー像抽出部42は、抽出された各マーカー像の位置関係に基づいて、中心の散乱体マーカー120に対応するマーカー像の座標(検出器座標系Diにおける座標)を求める。そして、マーカー像抽出部42は、検出器座標系Diにおける各マーカー像の位置(座標)を求める。さらに、マーカー像抽出部42は、座標が求められた各マーカー像が、それぞれ対応する散乱体マーカー120を特定する。なお、散乱線検出器21によって実際に検出され、マーカー像抽出部42によって抽出されたマーカー像が、この発明の「第1マーカー像」の1例に相当する。
【0053】
なお、抽出された散乱体マーカーの数が少ない場合、精度良く較正を行うことが困難になるため、抽出された散乱体マーカーの数によってエラーとしても良い。この場合、マーカー板100を設置する位置、照射システム10の位置、散乱線検出器21の位置、治療ビームの出力などを再度設定して、マーカー像を抽出しても良い。
【0054】
ここで、マーカー像抽出部42によるマーカー像の抽出処理の1例について、図6を参照して説明する。図6は、散乱体マーカーの位置と、マーカー像の位置とを示す図である。
【0055】
(ステップS01)
まず、マーカー像抽出部42は、マーカー板100内に配置された各散乱体マーカー120の位置を示す座標情報をマーカー情報記憶部52から取得する。そして、マーカー像抽出部42は、各散乱体マーカー120の位置を示す座標情報に基づいて、各散乱体マーカー120間の距離を求める。
【0056】
そして、マーカー像抽出部42は、図6に示す散乱体マーカー120のなかでも、マーカー板100の中心に配置された散乱体マーカーP6に対応するマーカー像を特定する。マーカー像抽出部42は、中心に配置された散乱体マーカーP6に対応するマーカー像を特定することで、散乱体マーカーP6以外の散乱体マーカーに対応するマーカー像を特定する。散乱体マーカーP6の周囲には、散乱体マーカーP6以外の散乱体マーカーとは異なり、距離L1、L2よりも短い距離L3の位置に、散乱体マーカーP5、P7が配置されている。従って、距離L3の関係に基づくことで、抽出されたマーカー像から散乱体マーカーP6に対応するマーカー像を特定することができる。
【0057】
そのために、マーカー像抽出部42は、全てのマーカー像について他のマーカー像との間の距離を求める。抽出されたマーカー像の数をNeiとすると、各マーカー像について(Nei−1)個の距離が求められる。散乱体マーカーP6の周囲には、散乱体マーカーP6から距離L3の位置に2つの散乱体マーカーP5、P7が配置されている。従って、マーカー像抽出部42は、マーカー像の間の距離が距離L3となる複数のマーカー像を特定し、間の距離が距離L3となるマーカー像を2つ含むマーカー像を、散乱体マーカーP6に対応するマーカー像Q6であると特定する。すなわち、マーカー像Q6の周囲には、距離L3の位置にマーカー像Q5とマーカー像Q7とがそれぞれ表わされているため、マーカー像Q6が散乱体マーカーP6に対応する像であると特定することができる。
【0058】
また、マーカー像Q6から距離L3の位置にある2つのマーカー像を、散乱体マーカーP5に対応するマーカー像Q5と、散乱体マーカーP7に対応するマーカー像Q7としてそれぞれ特定する。ただし、この段階では、マーカー像Q5とマーカー像Q7との区別はできない。
【0059】
(ステップS02)
次に、マーカー像抽出部42は、マーカー像Q5とマーカー像Q7とを区別する。そのために、マーカー像抽出部42は、マーカー像Q5及びマーカー像Q7と、他のマーカー像との間の距離を求める。
そして、マーカー像抽出部42は、着目しているマーカー像から距離L3の位置、距離(L1−L3)の位置、及び、距離((L3)+(L2)1/2の位置に、それぞれマーカー像がある場合は、その着目しているマーカー像を、散乱体マーカーP5に対応するマーカー像Q5であると判定する。
一方、マーカー像抽出部42は、着目しているマーカー像から距離L3の位置、距離(L2−L3)の位置、及び、距離((L3)+(L1)1/2の位置に、それぞれマーカー像がある場合は、その着目しているマーカー像を、散乱体マーカーP7に対応するマーカー像Q7であると判定する。
【0060】
(ステップS03)
以上のように、マーカー像Q5、Q6、Q7の位置が特定されると、マーカー像抽出部42は、マーカー像Q5、Q6、Q7の位置に基づいて、他のマーカー像の位置を特定する。例えば、マーカー像抽出部42は、マーカー像Q6の位置、(Q6−Q5)方向のベクトル、及び、(Q6−Q7)方向のベクトルに基づいて、マーカー像全体の平行移動と回転行列とを求め、その逆行列を求める。そして、マーカー像抽出部42は、その逆行列を用いることで、平行移動と回転とが無いマーカー像に変換する。すなわち、マーカー像抽出部42は、逆行列を用いることで、平行移動と回転とを相殺して、平行移動と回転とが無いマーカー像を求める。このように、平行移動と回転とが無いマーカー像の位置が求められると、マーカー像抽出部42は、マーカー板100における各散乱体マーカー120の位置と、各マーカー像の位置とを比較することで、全てのマーカー像Q1、Q2、・・・、QNeiを特定する。すなわち、マーカー像抽出部42は、マーカー情報記憶部52から各散乱体マーカー120の座標情報を受けて、各座標情報が示す各散乱体マーカー120の位置と、各マーカー像の位置とを比較することで、全てのマーカー像について、散乱体マーカー120との対応関係を特定する。
【0061】
上記のステップS01からステップS03までの処理によって、実際に測定された散乱線からマーカー像の位置(座標)が求められる。そして、マーカー像抽出部42は、検出器座標系Diにおける各マーカー像の位置を示す座標情報を、フィッティング処理部44に出力する。
【0062】
(マーカー像算出部43)
マーカー像算出部43は、検出器座標系Diにおけるマーカー像の位置を計算によって求める。具体的には、マーカー像算出部43は、マーカー情報記憶部52から較正用マーカー座標系Mにおける各散乱体マーカー120の座標情報を受けて、その座標情報に基づいて検出器座標系Diにおけるマーカー像の位置を求める。
【0063】
検出器座標系Diにおけるマーカー像の位置を計算で求めるために、照射システム10とマーカー板100と散乱線検出器21との位置関係を写像で表わす。異なる2つの3次元座標系間の変換は、平行移動と回転(3軸)とによって定義できる。例えば、照射システム座標系Cと較正用マーカー座標系Mとでは、照射システム座標系Cの原点を平行移動させることで、較正用マーカー座標系Mの原点に一致させる。この平行移動だけでは、互いの座標系の軸がずれているため、(x、y、z)軸まわりに座標系を回転させることで、照射システム座標系Cと較正用マーカー座標系Mとを一致させる。この平行移動量と回転量とを特定することで、複数の座標系の間で自由に座標変換を行うことができる。以下では、検出器座標系Diにおけるマーカー像の位置を計算で求めるために必要な写像について、図5を参照して説明する。
【0064】
(1)写像TC−M
写像TC−Mは、照射システム座標系Cと較正用マーカー座標系Mとの間の座標変換を表す写像である。
以下の式に示すように、平行移動と回転写像とによって、写像TC−Mを定義する。
C−M=RC−M(θx、θy、θz)T(mC−M
ここで、mC−Mは、較正用マーカー座標系Mと照射システム座標系Cとの間の平行移動量を表している。角度(θx、θy、θz)は、それぞれ、x、y、z軸周りの回転角度を表している。
【0065】
(2)写像TC−Di
写像Tc−Diは、照射システム座標系Cと検出器座標系Diとの間の座標変換を表す写像である。
以下の式に示すように、平行移動と回転写像とによって、写像Tc−Diを定義する。
C−Di=RC−Di(φx、φy、φz)T(mC−Di
ここで、mC−Diは、照射システム座標系Cと検出器座標系Diとの間の平行移動量を表している。角度(φx、φy、φz)は、それぞれ散乱線検出器21の取り付け角度を表している。
【0066】
マーカー像算出部43は、上記の写像を用いることで、検出器座標系Diにおけるマーカー像の座標を求める。
例えば、マーカー板100内のk番目の散乱体マーカー120の座標をP(Pkx、Pky、Pkz)とする。この座標Pは、較正用マーカー座標系Mにおける座標である。
マーカー像算出部43は、散乱体マーカー120の座標Pを上記の写像によって座標変換することで、検出器座標系Diにおける散乱体マーカー120の座標(マーカー像の座標に相当する)を求める。すなわち、マーカー像算出部43は、写像による計算によって、検出器座標系Diにおける散乱体マーカー120の座標を求める。
写像による座標変換によって求められる検出器座標系Diにおける散乱体マーカー120(マーカー像)の座標をP’(P’kx、P’ky、0)とする。
座標P’は、散乱線検出器21の検出面における座標であるため、検出器座標系Diにおいてはz=0となる。
この座標P’は、以下の式(1)で表わすことができる。
【0067】
【数1】

【0068】
マーカー像算出部43は、上記の式(1)に従って、較正用マーカー座標系Mにおける散乱体マーカー120の座標Pを変換することで、検出器座標系Diにおける座標P’を求める。
【0069】
まず、マーカー像算出部43は、照射システム10及び寝台14の設計値(初期値)を用いて、写像C−Diと写像C−Mとを決定し、上記の式(1)に従って座標P’を算出する。例えば、マーカー像算出部43は、放射線治療用線量分布測定装置のキャリブレーションで求められた照射システム10の中心位置(ガントリ13の回転中心)と、較正用のマーカー板100を載置した寝台14の高さとを設計値として用いて、写像C−Diと写像C−Mとを決定する。照射システム10の中心位置を示す座標情報と、寝台14の高さを示す高さ情報とを予め求めておき、記憶部50に記憶させておく。また、操作部72からこれらの情報を入力して、マーカー像算出部43に出力するようにしても良い。なお、照射システム10の中心位置(ガントリ13の回転中心)が、照射システム座標系Cの原点に相当し、寝台14の高さの位置が、較正用マーカー座標系Mのz軸(高さ)の原点に相当する。
【0070】
そして、マーカー像算出部43は、写像によって求めた検出器座標系Diにおける散乱体マーカー120(マーカー像)の座標P’を示す座標情報を、フィッティング処理部44に出力する。なお、マーカー像算出部43にて求められるマーカー像が、この発明の「第2マーカー像」の1例に相当する。
【0071】
(フィッティング処理部44)
フィッティング処理部44は、実際にマーカー板100を撮影して取得された散乱線データから抽出したマーカー像の位置と、写像によって求められた検出器座標系Diにおけるマーカー像(散乱体マーカー120)の位置との差を算出する。すなわち、フィッティング処理部44は、マーカー像抽出部42によって求められた検出器座標系Diにおけるマーカー像の位置(実測値)と、写像によって求められた検出器座標系Diにおけるマーカー像の位置(計算値)との差を算出する。そして、フィッティング処理部44は、マーカー像の位置の差が小さくなるように、散乱線検出器21の位置・向きに関するパラメータをフィッティングする。
【0072】
ここで、治療ビームを照射することで得られたk番目のマーカー像の座標をQ(Qkx、Qky、0)とする。このマーカー像の座標Qは、マーカー像抽出部42にて求められた座標である。座標Qは、散乱線検出器21の検出面における座標であるため、検出器座標系Diにおいてはz=0となる。そして、フィッティング処理部44は、座標P’と座標Qとを用いて、以下の式(2)で表わされる2乗誤差sを定義する。
【0073】
【数2】

【0074】
式(2)において、Nは計測回数を表し、Ne,iは、i回目のスキャンで抽出されたマーカー像の個数である。
【0075】
フィッティング処理部44は、上記の式(2)で表わされる2乗誤差sが小さくなるように、写像C−Di及び写像C−Mを修正していくフィッティング処理を行う。このフィッティング処理には、一般的に知られている最適化処理を利用することができる。フィッティング処理部44は、このフィッティング処理により、2乗誤差sを最小にするパラメータ(写像に含まれている、mC−M、θx、θy、θz、mC−Di、φx、φy、φz)を求める。これにより、散乱線検出器21のスキャン軌道上の位置と取り付け角度とが求められ、また、散乱線検出器21とマーカー板100との位置関係が求められる。具体的には、照射システム座標系Cにおける散乱線検出器21の位置と取り付け角度とが求められる。また、較正用マーカー座標系Mにおける散乱線検出器21の位置と取り付け角度とが求められる。このように、各座標系に対する散乱線検出器21の位置と取り付け角度とが求められる。
【0076】
そして、フィッティング処理部44は、フィッティング処理により得られたパラメータ(mC−M、θx、θy、θz、mC−Di、φx、φy、φz)を示す情報を領域算出部45に出力する。すなわち、フィッティング処理部44は、スキャン軌道上における散乱線検出器21の位置、取り付け角度、及び、散乱線検出器21とマーカー板100との位置関係を示す情報を領域算出部45に出力する。また、較正処理部40は、スキャン軌道上における散乱線検出器21の位置を示す座標情報を画像生成部60の再構成処理部61に出力する。なお、位置算出部41が、この発明の「位置算出手段」の1例に相当する。
【0077】
(領域算出部45)
以上のように散乱線検出器21の実際のスキャン軌道上の位置と取り付け角度とが求められ、散乱線検出器21とマーカー板100との位置関係が特定されると、領域算出部45は、散乱線検出器21がスキャン軌道上のある位置にあるときの、検出素子ごとの「マーカー板見込み領域」を特定する。
【0078】
この「マーカー板見込み領域」について図7を参照して説明する。図7は、散乱線検出器に散乱線が入射する可能性がある見込み領域を説明するための図である。例えば、領域算出部45は、散乱線検出器21がスキャン軌道上のi番目のポジションにあるときに、散乱線検出器21に含まれる検出素子DEx、yが見込む見込み領域Rixiyの位置を求める。
【0079】
フィッティング処理部44によって、スキャン軌道上における散乱線検出器21の位置と取り付け角度とが特定され、散乱線検出器21とマーカー板100との位置関係が特定されている。すなわち、散乱線検出器21の各検出素子と、マーカー板100の各散乱体マーカー120との位置関係が特定されている。領域算出部45は、散乱線検出器21の検出素子とマーカー板100の各散乱体マーカー120との位置関係に基づいて、検出素子DEx、yに散乱線が入射する可能性がある散乱体マーカー120を含むマーカー板100内の領域(見込み領域Rixiy)の位置を求める。また、見込み領域Rixiyを求めるにあたって、散乱線検出器21の検出面に設置されているコリメータ23のグリッド幅と長さとを用いる。すなわち、領域算出部45は、検出素子DEx、yと各散乱体マーカー130との位置関係、及び、コリメータ23のグリッド幅と長さに基づいて、検出素子DEx、yに散乱線が入射する可能性がある散乱体マーカー120を含む見込み領域Rixiyの位置を求める。なお、コリメータ23のグリッド幅と長さとを示す情報は、記憶部50のコリメータ情報記憶部53に記憶されている。領域算出部45は、コリメータ情報記憶部53からコリメータ23のグリッド幅と長さとを示す情報を読み込んで、見込み領域Rixiyの位置を求める。そして、領域算出部45は、散乱線検出器21の検出素子ごとに求められた見込み領域Rixiyの座標情報を計数値算出部46に出力する。なお、領域算出部45が、この発明の「領域算出手段」の1例に相当する。
【0080】
(計数値算出部46)
計数値算出部46は、散乱線検出器21の各検出素子に入射すると推定される散乱線の計数値を計算によって求める。まず、計数値算出部46は、散乱体マーカー120の質量密度係数(msc[g/cm])、散乱体マーカー120の大きさ、較正用マーカー座標系Mにおける散乱体マーカー120の位置を示す座標情報、人体模擬材110の質量密度係数(mho[g/cm])、及び、マーカー板100の位置を示す座標情報を含むマーカー板100に関する情報をマーカー情報記憶部52から読み込む。
【0081】
そして、計数値算出部46は、領域算出部45によって求められた各検出素子の見込み領域Rixiyの座標情報と、マーカー板100に関する情報とに基づいて、各検出素子に入射すると推定される散乱線の計数値Ci、xyを求める。この計算で求められた計数値Ci、xyは、散乱線検出器21がスキャン軌道上のi番目のポジションにあるときの、検出素子DExyが検出する計数値を表している。計数値を求める方法には、一般の放射線治療計画装置に用いられているシミュレーションを用いることができる。例えば、「医療安全のための放射線治療手順マニュアル」(熊谷孝三著、日本放射線技師会出版会)に記載の方法を用いれば良い。そして、計数値算出部46は、各検出素子の計数値Ci、xyを補正係数算出部47に出力する。なお、計数値算出部46が、この発明の「計数値算出手段」の1例に相当する。
【0082】
(補正係数算出部47)
補正係数算出部47は、実測によって求められた計数値(実測値)と、計数値算出部46によって求められた計数値(計算値)とに基づいて、検出素子の感度を補正するための補正係数を検出素子ごとに求める。まず、補正係数算出部47は、データ収集制御部31から出力された散乱体マーカー120に起因する散乱線データを受け付ける。そして、補正係数算出部47は、散乱線検出器21がスキャン軌道上のi番目のポジションにあるときの、検出素子DExyにおける計算による計数値Ci、xyと、データ収集制御部31から受け付けた実測による計数値Si、xyと、に基づいて、検出素子DExyの感度を補正するための補正係数ki、xyを求める。この補正係数ki、xyは、散乱線検出器21がスキャン軌道上のi番目のポジションにあるときの、検出素子の補正係数を表している。検出素子の補正係数ki、xyは、以下の式(3)で表わされる。
【0083】
【数3】

【0084】
計算によって求められた計数値Ci、xyは、見込み領域Rixiyと、マーカー板100に関する情報とに基づいて、計数値算出部46によって求められている。また、見込み領域Rixiyは、写像による計算によって求められた散乱線検出器21の位置、取り付け角度、及び、散乱線検出器21とマーカー板100との位置関係に基づいて、領域算出部45によって求められている。従って、計数値Ci、xyは、見込み領域Rixiyをパラメータとする関数で表わされる。換言すると、計数値Ci、xyは、散乱線検出器21の位置、取り付け角度、及び散乱線検出器21とマーカー板100との位置関係(写像に含まれている、mC−M、θx、θy、θz、mC−Di、φx、φy、φz)をパラメータとする関数で表わされる。
【0085】
以上のように、散乱線検出器21の位置、取り付け角度、及び散乱線検出器21とマーカー板100との位置関係を表すパラメータ(写像に含まれている、mC−M、θx、θy、θz、mC−Di、φx、φy、φz)と、各検出素子の補正係数ki、xyとが求められると、較正処理部40は、そのパラメータと補正係数ki、xyとを較正データ記憶部51に出力する。較正データ記憶部51は、較正処理部40にて求められたパラメータと補正係数ki、xyとを記憶する。また、較正処理部40は、各検出素子の補正係数ki、xyを画像生成部60の再構成処理部61に出力する。なお、補正係数算出部47が、この発明の「補正係数算出手段」の1例に相当する。
【0086】
較正処理部40は、スキャン軌道上の各位置における散乱線検出器21の実際の位置及び取り付け角度と、散乱線検出器21とマーカー板100との位置関係とを求める。そして、較正処理部40は、スキャン軌道上の各位置における見込み領域Rを求め、各位置において検出素子DExyが検出する計数値Cxyを求める。そして、較正処理部40は、各位置における散乱線検出器21が検出した散乱線の実測値である計数値Sxyと、計算によって求められた各位置における散乱線の計数値Cxyとに基づいて、各位置における散乱線検出器21の検出感度を補正するための補正係数kxyを求める。較正処理部40は、散乱線検出器21の位置、取り付け角度、及び散乱線検出器21とマーカー板100との位置関係を表すパラメータと、スキャン軌道上の各位置における各検出素子の補正係数kxyとを較正データ記憶部51に出力する。較正データ記憶部51は、較正処理部40にて求められた各位置におけるパラメータと補正係数とを記憶する。また、較正処理部40は、散乱線検出器21の位置を示す座標情報と、各位置における各検出素子の補正係数kxyとを再構成処理部61に出力する。
【0087】
また、照射部11から照射される治療ビームの強度を変えて、上述した較正処理を行っても良い。すなわち、治療ビームの強度ごとの補正係数kxyを求めても良い。この場合、実際の治療時における治療ビームの強度に対応する補正係数kxyを用いて、散乱線の計数値を補正する。
【0088】
(較正後の撮影)
再構成処理部61は、散乱線検出システム20において取得された各位置(散乱線検出器21の各位置)における散乱線データと、各散乱線データを取得した各位置(散乱線検出器21の各位置)を示す位置情報とを用いて画像再構成処理を行うことで、散乱線ボリュームデータを生成する。
【0089】
例えば、寝台14に被検体P(人体)を載置し、照射部11から治療ビームを被検体Pに対して照射する。そして、治療ビームの中心を軸にして、その中心軸の周りをスキャン軌道に沿って散乱線検出器21を回転させることで、散乱線検出器21は、治療ビームに基づいて発生する被検体Pからの散乱線を複数の位置で検出する。散乱線検出器21によって取得された散乱線データは、データ収集制御部31に出力される。データ収集制御部31は、散乱線検出器21によって取得された各位置における散乱線データを再構成処理部61に出力する。
【0090】
再構成処理部61は、スキャン軌道上の各位置における補正係数kxyを用いて、散乱線検出システム20において取得された各位置における散乱線データを検出素子ごとに補正する。そして、再構成処理部61は、補正された各位置における散乱線データと、各散乱線データを検出した各位置(較正処理部40にて求められた散乱線検出器21の各位置)を示す位置情報とを用いて再構成処理を行うことで、散乱線ボリュームデータを生成する。
【0091】
そして、画像処理部62は、散乱線ボリュームデータを吸収線量ボリュームデータに変換し、その吸収線量ボリュームデータに基づいて、被検体の所定部位の放射線量の分布を示す吸収線量画像データを生成する。なお、画像生成部60が、この発明の「画像生成手段」の1例に相当する。
【0092】
表示部71は、画像処理部62によって生成された吸収線量画像データに基づく画像を表示する。また、表示部71は、散乱線検出器21によって取得された散乱線に基づくマーカー像を表示しても良いし、治療ビーム検出器12によって取得された透過線に基づくマーカー像を表示しても良い。また、操作部72は、システム制御部30に接続され、操作者からの各種指示や条件などを受けて、システム制御部30に出力する。
【0093】
以上のように、この実施形態に係る放射線治療用線量分布測定装置及び較正方法によると、散乱線検出器21の位置と各検出素子の検出感度とが補正されて、より正確な散乱線ボリュームデータを生成することが可能となる。すなわち、散乱線検出器21の空間的な位置ずれと、各検出素子によって検出される散乱線の計数値とを補正することで、線量分布をより正確にモニタリングすることが可能となる。
【0094】
(変形例)
次に、上述した実施形態に係る放射線治療用線量分布装置及び較正方法の変形例について、図8と図9とを参照して説明する。図8は、マーカー板からの散乱線の測定形態を示す図である。図9は、治療ビーム検出器が検出したマーカー像の1例を示す図である。
【0095】
変形例においては、照射システム10に設置されている治療ビーム検出器12を用いる。図8に示すように、治療ビーム検出器12は、マーカー板100(寝台14)を間にして照射部11とは反対側に配置されている。治療ビーム検出器12は、照射部11によって照射されてマーカー板100と寝台14とを透過した治療ビーム(透過線)を検出することで、透過線データを取得する。透過線データは、データ収集制御部31に出力される。このように、治療ビーム検出器12を用いて透過線データを検出することで、散乱体マーカー120を撮影することができる。
【0096】
上述した実施形態において、マーカー像算出部43が写像を決定するときに用いる設計値(初期値)は、マーカー板100が寝台14に沿ってまっすぐに設置されていることを前提としている。例えば、寝台14上の点を原点とし、y軸が寝台14の長手方向に平行な軸、x軸が寝台14の短手方向に平行な軸、z軸がx軸とy軸とに直交する軸とする。また、θx、θy、θzを、それぞれ、x軸、y軸、z軸周りの回転角度とする。上述した実施形態では、θx=θy=θz=0であることを仮定して、設計値(初期値)を設定している。また、照射部11の真下にマーカー板100が設置されていることを前提としている。すなわち、x=y=0であることを仮定して、設計値(初期値)を設置している。
【0097】
図9に、治療ビーム検出器12によって取得されたマーカー像を示す。例えば、マーカー板100が寝台14に沿ってまっすぐに設置されて、x軸方向又はy軸方向へのずれがなく、z軸周りの回転もない場合には、マーカー像600のように、各散乱体マーカー120に対応する各像は、x軸方向又はy軸方向へのずれがなく、z軸周りの回転がない状態で表わされる。一方、マーカー板100がx軸方向又はy軸方向にずれて、z軸周りの回転がある場合には、マーカー像700のように、各散乱体マーカー120に対応する各像は、x軸方向又はy軸方向にずれて、z軸周りに回転した状態で表わされる。
【0098】
寝台14上においてマーカー板100が設置されている位置が、上記の前提から大きくずれている場合、フィッティング処理部44が行うフィッティング処理において収束に時間がかかってしまう。
【0099】
そこで、変形例においては、治療ビーム検出器12を用いてマーカー板100を撮影することで、x軸方向又はy軸方向へのマーカー板100のずれ量と、θz軸周りにおけるマーカー板100の回転量とを特定する。例えば、マーカー像抽出部42は、治療ビーム検出器12によって取得された透過線データをデータ収集制御部31から受けて、治療ビーム検出器12に映ったマーカー像を抽出する。そして、マーカー像抽出部42は、上述した散乱線データに対する処理と同様に、マーカー像全体の平行移動と回転行列とを求める。平行移動が、x軸方向又はy軸方向へのマーカー板100のずれ量を表し、回転行列がθz軸周りにおけるマーカー板100の回転量を表している。
【0100】
マーカー像算出部43は、x軸方向又はy軸方向へのずれ量と回転量とを初期値として用いて、写像C−Diと写像C−Mとを決定し、上記の式(1)に従って座標P’を算出する。そして、フィッティング処理部44は、上記の式(2)で表わされる2乗誤差sが小さくなるように、写像C−Diと写像C−Mとを修正していくフィッティング処理を行う。
【0101】
この変形例のように、初期値としてマーカー板100のずれ量を用いることで、フィッティング処理においてより速い収束が得られる。すなわち、スキャン軌道上における散乱線検出器21の位置、取り付け角度、及びマーカー板100との位置関係をより速く求めることが可能となる。
【符号の説明】
【0102】
10 照射システム
11 照射部
12 治療ビーム検出器
13 ガントリ
14 寝台
20 散乱線検出システム
21 散乱線検出器
22 移動機構部
30 システム制御部
31 データ収集制御部
32 照射システム制御部
33 スキャン制御部
40 較正処理部
41 位置算出部
42 マーカー像抽出部
43 マーカー像算出部
44 フィッティング処理部
45 領域算出部
46 計数値算出部
47 補正係数算出部
50 記憶部
51 較正データ記憶部
52 マーカー情報記憶部
53 コリメータ情報記憶部
54 治療ビーム情報記憶部
60 画像生成部
61 再構成処理部
62 画像処理部
71 表示部
72 操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
寝台と、
治療用放射線ビームを散乱させる複数の散乱体マーカーが所定位置に配置された散乱部材が前記寝台上に載置された状態で、前記散乱部材に対して前記治療用放射線ビームを照射する照射手段と、
2次元的に配置された複数の検出素子を有し、前記治療用放射線ビームに基づいて発生する前記複数の散乱体マーカーからの散乱線を検出することで前記複数の散乱体マーカーを表す第1マーカー像を取得する散乱線検出器と、
前記第1マーカー像を取得したときの前記散乱部材の設置位置に基づいて、前記散乱線検出器に映されると推定される前記複数の散乱体マーカーを表す第2マーカー像を求め、前記散乱線検出器における前記第1マーカー像の位置と前記第2マーカー像の位置との差に基づいて、照射系に対する前記散乱線検出器の位置を求める位置算出手段と、
前記位置算出手段によって求められた前記散乱線検出器の位置と、前記散乱部材内における前記複数の散乱体マーカーの位置とに基づいて、前記散乱線検出器に散乱線が入射する可能性がある前記散乱体マーカーを含む前記散乱部材内の見込み領域を求める領域算出手段と、
前記見込み領域と前記複数の散乱線マーカーの位置及び材質とに基づいて、前記散乱線検出器に入射すると推定される散乱線の計算値を求める計数値算出手段と、
前記散乱線検出器が検出した散乱線の実測値と、前記計数値算出手段によって求められた前記散乱線の計算値とに基づいて、前記散乱線検出器の検出感度を補正するための補正係数を算出する補正係数算出手段と、
を有することを放射線治療用線量分布測定装置。
【請求項2】
散乱線の3次元分布を示す散乱線ボリュームデータを再構成し、前記散乱線ボリュームデータに基づいて画像データを生成する画像生成手段を更に有し、
前記照射手段は、前記散乱部材の代わりに被検体が前記寝台上に載置された状態で、前記被検体に対して治療用放射線ビームを照射し、
前記散乱線検出器は、前記治療用放射線ビームに基づいて発生する前記被検体からの散乱線を複数の位置で検出し、
前記画像生成手段は、前記散乱線検出器が検出した前記被検体内からの散乱線の実測値と前記補正係数とに基づいて、前記被検体内からの散乱線の実測値を補正し、前記位置算出手段によって求められた前記散乱線検出器の位置を示す情報と、前記補正された実測値とに基づいて、前記被検体内を表す散乱線ボリュームデータを再構成し、前記被検体内を表す散乱線ボリュームデータに基づいて、前記被検体内を表す画像データを生成することを特徴とする請求項1に記載の放射線治療用線量分布測定装置。
【請求項3】
前記散乱線検出器は、前記治療用放射線ビームの中心軸に対して検出面を所定角度にして、前記中心軸の周りを回転しながら前記中心軸周りの各位置にて散乱線を検出することで、前記各位置における前記複数の散乱線マーカーを表す前記第1マーカー像を取得し、
前記位置算出手段は、前記散乱部材の設置位置に基づいて前記各位置における前記散乱線検出器に映されると推定される前記複数の散乱体マーカーを表す前記第2マーカー像を求め、前記各位置の前記散乱線検出器における前記第1マーカー像の位置と前記第2マーカー像の位置との差に基づいて、前記照射系に対する位置として前記中心軸周りにおける前記散乱線検出器の位置、前記所定角度、及び、前記散乱部材と前記散乱線検出器との間の位置関係を求め、
前記領域算出手段は、前記位置算出手段によって求められた前記中心軸周りにおける前記散乱線検出器の位置、前記所定角度、及び、前記散乱部材と前記散乱線検出器との間の位置関係に基づいて、前記散乱線検出器に散乱線が入射する可能性がある前記散乱体マーカーを含む前記散乱線部材内の前記見込み領域を、前記中心軸周りの前記各位置について求め、
前記計数値算出手段は、前記各位置における前記見込み領域と前記散乱線マーカーの位置及び材質とに基づいて、前記各位置における前記散乱線検出器に入射すると推定される散乱線の計数値を求め、
前記補正係数算出手段は、前記各位置における前記散乱線検出器が検出した散乱線の実測値と、前記計数値算出手段によって求められた前記各位置における前記散乱線の計数値とに基づいて、前記各位置における前記散乱線検出器の検出感度を補正するための前記補正係数を求め、
前記画像生成手段は、前記被検体に対して前記照射手段が治療用放射線ビームを照射することで、前記散乱線検出器が検出した前記複数の位置についての散乱線の実測値と、前記各位置における前記補正係数とに基づいて、前記各位置における前記実測値を補正し、前記位置算出手段によって求められた前記散乱線検出器の各位置を示す情報と、前記補正された前記各位置における前記実測値とに基づいて、前記被検体内を表す散乱線ボリュームデータを再構成し、前記被検体内を表す散乱線ボリュームデータに基づいて、前記被検体内を表す画像データを生成することを特徴とする請求項2に記載の放射線治療用線量分布測定装置。
【請求項4】
前記位置算出手段は、前記散乱線検出器と前記散乱部材との間で写像による座標変換を行うことで、前記散乱線検出器に映されると推定される前記複数の散乱体マーカーを表す前記第2マーカー像を求め、前記散乱線検出器における前記第1マーカー像の位置と前記第2マーカー像の位置との差に基づいて、前記散乱線検出器の位置を求めることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の放射線治療用線量分布測定装置。
【請求項5】
前記領域算出手段は、前記位置算出手段によって求められた前記散乱線検出器の位置と、前記散乱部材内における前記複数の散乱体マーカーの位置とに基づいて、前記散乱線検出器に配置された各検出素子に散乱線が入射する可能性がある前記散乱体マーカーを含む前記散乱線内の見込み領域を前記検出素子ごとに求め、
前記計数値算出手段は、前記検出素子ごとの見込み領域と前記複数の散乱線マーカーの位置及び材質とに基づいて、前記各検出素子に入射すると推定される散乱線の計数値を求め、
前記補正係数算出手段は、前記散乱線検出器の前記各検出素子が検出した散乱線の実測値と、前記計数値算出手段によって求められた前記各検出素子に入射する散乱線の計数値とに基づいて、前記各検出素子の検出感度を補正するための補正係数を前記検出素子ごとに算出し、
前記画像生成手段は、前記散乱線検出器の前記各検出素子が検出した前記被検体内からの散乱線の実測値と、前記検出素子ごとの補正係数とに基づいて、前記被検体からの散乱線の実測値を前記検出素子ごとに補正し、前記位置算出手段によって求められた前記散乱線検出器の位置を示す情報と、前記補正された実測値とに基づいて、前記被検体内を表す散乱線ボリュームデータを再構成し、前記被検体内を表す散乱線ボリュームデータに基づいて、前記被検体内を表す画像データを生成することを特徴とする請求項2から請求項4のいずれかに記載の放射線治療用線量分布測定装置。
【請求項6】
寝台と、
前記寝台上に載置された被検体に対して治療用放射線ビームを照射する照射手段と、
2次元的に配置された複数の検出素子を有し、前記治療用放射線ビームに基づいて発生する前記被検体内からの散乱線を複数の位置で検出する散乱線検出器と、
を有する放射線治療用線量分布測定装置における散乱線検出器の較正方法であって、
前記治療用放射線ビームを散乱させる複数の散乱体マーカーが所定位置に配置された散乱部材が、前記被検体の代わりに前記寝台上に載置された状態で、前記照射手段は、前記散乱部材に対して治療用放射線ビームを照射し、
前記散乱線検出器は、前記治療用放射線ビームに基づいて発生する前記複数の散乱体マーカーからの散乱線を検出することで前記複数の散乱体マーカーを表す第1マーカー像を取得し、
前記散乱部材の設置位置に基づいて前記散乱線検出器に映されると推定される前記複数の散乱体マーカーを表す第2マーカー像を求め、前記散乱線検出器における前記第1マーカー像の位置と前記第2マーカー像の位置との差に基づいて、前記散乱線検出器の位置を求め、
前記求められた前記散乱線検出器の位置と、前記散乱部材内における前記複数の散乱体マーカーの位置とに基づいて、前記散乱線検出器に散乱線が入射する可能性がある前記散乱体マーカーを含む前記散乱部材内の見込み領域を求め、
前記見込み領域と前記複数の散乱体マーカーの位置及び材質とに基づいて、前記散乱線検出器に入射すると推定される散乱線の計数値を求め、
前記散乱線検出器が検出した散乱線の実測値と、前記求められた前記散乱線の計数値とに基づいて、前記散乱線検出器の検出感度を補正するための補正係数を算出することを特徴とする放射線治療用線量分布測定装置における散乱線検出器の較正方法。
【請求項7】
前記散乱線検出器が検出した前記被検体内からの散乱線の実測値と前記補正係数とに基づいて、前記被検体内からの散乱線の実測値を補正し、前記求められた前記散乱線検出器の位置を示す情報と、前記補正された実測値とに基づいて、前記被検体内を表す前記散乱線ボリュームデータを再構成し、前記被検体内を表す散乱線ボリュームデータに基づいて、前記被検体内を表す画像データを生成することを特徴とする請求項6に記載の放射線治療用線量分布測定装置における散乱線検出器の較正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−207386(P2010−207386A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56493(P2009−56493)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】