説明

放射線治療装置および放射線治療装置の照射野確認画像取得方法

【課題】本発明は、照射野確認画像において、治療計画で撮影したX線CTによる画像との比較に必要な基準となる部位のみのコントラストを高めることを目的とする。
【解決手段】放射線治療装置が、照射野確認用放射線を照射する放射線照射手段と、患者を支持する患者支持台と、照射野確認画像を出力する放射線画像検出器と、放射線画像検出器を患者支持台に対して接離するように移動させる検出器移動手段と、照射野確認画像のコントラストを求め、照射野確認画像に含まれる体内組織の輪郭部分のコントラストが最大となるように検出器移動手段を駆動して放射線画像検出器を移動させる制御手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療用放射線を患者の患部に照射する放射線治療装置において、患部の位置を確認するために用いられる照射野確認画像を取得する放射線治療装置および照射野確認画像の取得方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、線形加速器やマイクロトロンなどの電子加速器を用いた放射線発生装置から放射されるX線や電子線、またはサイクロトロンやシンクロトロンから放射される粒子線を患者の患部に照射して治療する放射線治療装置が使用されている。放射線治療は、治療用放射線によって患者の患部の細胞を損傷させることによって治療するものであり、正常な細胞を損傷させないように放射線を正確に患部に照射させる必要がある。
【0003】
放射線治療においては、予め診断用のX線CTで患部の位置と形状を画像化し治療計画を立てる。そして、放射線治療装置による治療に先立って、正常な細胞を損傷させることのないように強度を下げた治療用放射線を患部が含まれる領域に照射し、その透過放射線を撮影して照射野確認画像を取得する。照射野確認画像は治療用放射線の照射位置と患部の位置とを一致させるために用いられる画像であり、具体的には、照射野確認画像と治療計画で撮影したX線CTによる画像とを比較しながら両画像が一致するように患者を移動させて位置合わせを行っている。患部と治療用放射線の位置合わせを正確に行った上で放射線治療(治療のための通常の強度の治療用放射線の照射)が行なわれる(例えば、特許文献1)。
【0004】
照射野確認画像と治療計画で撮影したX線CTによる画像とを比較する際には、照射野確認画像上で確認し易い基準となる体内組織(例えば、骨)の位置を比較することによって行われ、これら画像間で基準となる体内組織の位置が正確に一致するように患者の位置を移動させている。各画像間の対応関係が一致することにより、放射線治療装置においても治療計画で求められた患部の位置が特定できるため、治療用放射線を患部に正確に照射することが可能となる。
【0005】
治療用放射線の患部に対する照射位置精度は、照射野確認画像と治療計画で撮影したX線CTによる画像間のマッチングの精度が直接影響する。そのため、X線CTの画像と比較される照射野確認画像には鮮明な画像が求められるが、後述するように照射野確認画像のコントラストはX線CTの画像に比較して低く、よりコントラストの高い照射野確認画像が求められている。
【0006】
X線画像のコントラストを高める技術としては、患部とその周辺の物質とで密度差がある場合に、その境界面でX線が屈曲することを利用して患部を輪郭強調する方法等が知られている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−61438号
【特許文献2】特開2006−95327号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の照射野確認画像においては、強度を下げた治療用放射線を用いているものの、一般にその放射線エネルギーは診断用放射線に比較して10倍以上高い。そのため、殆どの放射線が患者の体内を透過することとなり、患部とその周辺の体内組織との放射線吸収率の差が観察され難い。すなわち、照射野確認画像は、診断用の画像と比較してコントラストの低い画像となる。また、エネルギーが高い放射線が患者に照射された場合には、患者の体内で散乱される放射線の強度も格段に高くなり、この散乱放射線が照射野確認画像のコントラストをさらに低下させ、解像度を低下させる要因にもなる。
【0009】
そして、照射野確認画像のコントラストが低いと、治療計画で撮影したX線CTによる画像との比較が難しいものとなり、患者の患部と治療用放射線の位置合わせが正確に行えない。このような場合、従来の放射線治療においては、患部周辺にある程度の余裕を持たせて照射領域を定め、治療用放射線を照射させているが、このような方法では患部周辺の正常な細胞を損傷させることとなり患者への副作用が大きくなるという問題がある。
【0010】
X線画像のコントラストを高める技術としては、上述のように特許文献2等の技術が知られているが、これらは比較的エネルギーが低い診断用放射線を用いた場合に有効なものであって、例えば照射野確認画像を得る手段として適用した場合、患部のみならずその周辺の体内組織の輪郭も強調される結果、返ってX線CTによる画像との比較がし難い照射野確認画像となる。
【0011】
本発明は上記の問題を解決するためになされたものである。すなわち、本発明は、治療用放射線による照射野確認画像において、治療計画で撮影したX線CTによる画像との比較に必要な基準となる体内組織のみのコントラストを高め、治療計画で撮影したX線CTによる画像との比較を容易かつ正確なものとすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、本願発明の放射線治療装置は、治療用放射線よりも強度が低い照射野確認用放射線を患部に照射する放射線照射手段と、患者を支持する患者支持台と、患者及び患者支持台を透過した照射野確認用放射線を検出し、照射野確認画像を出力する放射線画像検出器と、放射線画像検出器を照射野確認用放射線の光軸に沿って患者支持台に対して接離するように移動させる検出器移動手段と、照射野確認画像のコントラストを求め、照射野確認画像に含まれる体内組織の輪郭部分のコントラストが最大となるように検出器移動手段を駆動して放射線画像検出器を移動させる制御手段とを備える。このような構成により、照射野確認画像において、所望の体内組織のみのコントラストを高めることが可能となり、治療計画で撮影したX線CTによる画像との比較を容易かつ正確に行うことができる。
【0013】
また、放射線治療装置は、患者支持台を照射野確認用放射線の光軸に直交する方向に移動させる患者支持台移動手段をさらに備え、制御手段は、予め作成された基準画像に含まれる体内組織の位置と照射野確認画像に含まれる体内組織の位置が一致するように患者支持台移動手段を移動させることが好ましい。このような構成により、照射野確認画像と治療計画で撮影したX線CTによる画像とのマッチングを正確に行うことができる。
【0014】
また、治療用放射線及び照射野確認用放射線は、臨界エネルギー値が15keV以上のシンクロトロン放射光であることが好ましい。このような構成により、治療用放射線及び照射野確認用放射線を兼用することが可能となる。
【0015】
また、放射線照射手段は、電子を加速する電子加速器と、加速された電子が衝突しX線を照射するX線変換ターゲットと、X線変換ターゲットを冷却する冷却手段とを備え、加速された電子のビーム径が0.1mmより大きく、0.5mmより小さいことが好ましい。このような構成により、治療計画で撮影したX線CTによる画像の解像度とほぼ等しい解像度の照射野確認画像を得ることができる。
【0016】
また、別の観点からは、本願発明の放射線治療装置の照射野画像取得方法は、治療用放射線よりも強度が低い照射野確認用放射線を患部に照射するステップと、患者及び患者支持台を透過した照射野確認用放射線を放射線検出器で検出して照射野確認画像を得るステップと、放射線画像検出器を照射野確認用放射線の光軸に沿って患者支持台に対して接離するように移動させるステップと、照射野確認画像のコントラストを求め、照射野確認画像に含まれる体内組織の輪郭部分のコントラストが最大となるように放射線画像検出器を移動させるステップとを備える。
【発明の効果】
【0017】
以上のように本発明によれば、照射野確認画像において、治療計画で撮影したX線CTによる画像との比較に必要な基準となる体内部位のみのコントラストが高められ、照射野確認画像とX線CTによる画像との比較を容易かつ正確に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る放射線治療装置の構成を示す概略構成図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る放射線治療装置の治療用放射線が患者体内で屈曲する様子と、X線画像センサの位置と放射線強度との関係を説明する図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る放射線治療装置の照射野確認画像取得ルーチンのフローチャートである。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る放射線治療装置の構成を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態に係る放射線治療装置について以下に説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態に係る放射線治療装置1の概略構成図である。
【0020】
本実施形態に係る放射線治療装置1は、放射線発生器10、吸収体21、X線シャッタ22、マルチリーフコリメータ30、患者支持台50、X線画像センサ60、コントローラ70、表示装置80等を有する。そして、放射線治療を受ける患者40は、患者支持台50上に支持、固定される。なお、図1においては、説明の便宜上、患者40と患者支持台50とを離して記載しているが、実際には患者40は患者支持台50に密着して支持されている。
【0021】
放射線発生器10は、高エネルギー電子または陽電子を蓄積する蓄積リング(シンクロトロン)11、偏向電磁石12を有する。偏向電磁石12に磁場を発生させることにより蓄積リング11に蓄積されている高エネルギーの電子または陽電子の軌道が曲げられ、光源13から蓄積リング11の接線方向に高強度の放射光14が出射される。放射光14は、可視光からX線領域までの帯域を有し、レーザ光のように指向性が高く、ほぼ平行に進む電磁波である。本実施形態においては、放射光14は、臨界エネルギー値が15keV以上のエネルギースペクトルを有する。
【0022】
吸収体21は、放射線発生器10の光源13から出射される放射光14の光軸上に配置され、放射光14からX線領域において低いエネルギー成分(すなわち、X線において波長が長い成分)を吸収し、エネルギーが高い成分のX線領域のみからなる治療用放射線15を出射する。本実施形態の放射線治療装置1においては、約80keV以上のエネルギーを有するX線を利用するため、本実施形態の吸収体21は、放射光14から80keV以下のX線成分も吸収する。
【0023】
X線シャッタ22は、例えばタングステン等のシャッタ羽根で構成されるメカニカルシャッタであり、吸収体21から出射される治療用放射線15の光軸上に配置され、後述するコントローラ70に接続されている。X線シャッタ22は、コントローラ70の指示に従って治療用放射線15の照射時間を制御する。
【0024】
マルチリーフコリメータ30は、例えばタングステン等の遮蔽板であるリーフ31〜34を備える。水平方向(図1中)に配置されるリーフ31とリーフ32とで構成されるスリットによって治療用放射線15の水平方向のビーム幅を規定し、垂直方向(図1中)に配置されるリーフ33とリーフ34とで構成されるスリットによって治療用放射線15の垂直方向のビーム幅を規定する。マルチリーフコリメータ30は、後述するコントローラ70に接続され、コントローラ70の指示に従って図示しない駆動部を駆動させて、リーフ31とリーフ32の間隔(スリット幅)およびリーフ33とリーフ34の間隔を制御する。リーフ31とリーフ32の間隔およびリーフ33とリーフ34の間隔を制御することにより、治療用放射線15の照射野(照射領域)が決定される。
【0025】
患者支持台50は、放射線の吸収がないようにカーボンファイバ等によって構成され、患者40を支持し固定する。患者支持台50は、コントローラ70に接続されたモータ55を有し、コントローラ70の指示によりモータ55が図示しない移動機構を駆動することによって、図1の水平方向および垂直方向に移動する。患者40を支持した患者支持台50が移動することによって、治療用放射線15の照射位置と患部の位置が調整される。
【0026】
X線画像センサ60は、患者支持台50に面した側に画素を二次元に配列したX線検出面を有し、患者40および患者支持台50を透過した治療用放射線15をX線検出面で検出して照射野確認画像をコントローラ70に出力する画像センサである。X線画像センサ60は、コントローラ70に接続されたモータ65を有し、コントローラ70の指示によってモータ65が図示しない移動機構を駆動することによって患者支持台50に近接または離間する方向に移動する。X線画像センサ60は、照射野確認画像を出力しながら移動し、後述するように照射野確認画像に含まれる体内組織の輪郭部分のコントラストが最大となる位置に配置される。
【0027】
表示装置80は、コントローラ70に接続され、コントローラ70の指示に従ってX線画像センサ60より出力される照射野確認画像を表示する。
【0028】
コントローラ70は、上述のように、X線シャッタ22、マルチリーフコリメータ30、患者支持台50のモータ55、X線画像センサ60、X線画像センサ60のモータ65および表示装置80と接続され、これらを制御する。また、後述するように、X線画像センサ60から出力される照射野確認画像のコントラストを求め、照射野確認画像に含まれる体内組織の輪郭部分のコントラストが最大となるようにX線画像センサ60のモータ65を駆動する。
【0029】
図2は、本発明の第1の実施の形態に係る放射線治療装置の治療用放射線が患者体内で屈曲する様子と、X線画像センサの位置と放射線強度との関係を説明する図である。図2(a)は、図1の治療用放射線15が患者40の体内で屈曲する様子を模式的に示した図であり、図1の水平方向断面を表している。図2(a)において、体内組織42は、照射野確認画像と治療計画で撮影したX線CTによる画像とを比較する時に基準とされる患者40の体内の組織であり、照射野確認画像上で識別可能な、例えば、組織密度が高い骨である。位置A、位置Bおよび位置Cは、X線画像センサ60の受光面の位置を示しており、X線画像センサ60が各位置に配置された場合のX線画像センサ60が受光する放射線強度Iの分布を図2(b)、(c)および(d)にそれぞれ示す。ここで、図2(b)、(c)および(d)において、図中左側ほど放射線強度Iが高いものとする。なお、図2(a)においては、説明の便宜上、患者支持台50を省略している。
【0030】
マルチリーフコリメータ30より出射される治療用放射線15は、略平行な放射線である。治療用放射線15が患者40に照射された場合、治療用放射線15は患者40の体内組織42に吸収されながら進行し、体内組織42に吸収しきれなかった治療用放射線15が患者40の体内を透過する。そして、患者40の体内を透過した治療用放射線15は、体外に設置されたX線画像センサ60によって検出される。患者40の体内で吸収される治療用放射線15の量は、治療用放射線15が通過する患者40の体内組織によって異なる。特に組織密度が高い体内組織42は他の組織よりも格段に多くの放射線を吸収するため、X線画像センサ60で検出する放射線強度の分布を画像化することにより、体内組織42を画像化することが可能となる。
【0031】
体内組織42が骨の場合、その形状は略円柱状の形態であり、その断面は略楕円形状となる。また、骨は、その周りの軟組織に比べ密度が高く、X線に対する屈折率は1よりも小さい。従って、治療用放射線15が体内組織42(骨)を通過する場合には、骨が一種のレンズとして働き、図2(a)で示すように、体内組織42の周辺部で体内組織42の外側に屈曲した屈曲放射線16となる。
【0032】
ここで、X線画像センサ60が位置Aに配置された場合、X線画像センサ60が検出する放射線は患者40の体内を直進して透過する治療用放射線15と屈曲放射線16であるが、位置Aにおける屈曲放射線16の屈曲量(放射線が直進した場合に対するずれ量)が小さいため略平行放射線として観察される。従って、X線画像センサ60が検出する放射線強度Iの分布は、直進して透過する治療用放射線15の透過量と略同一となる。体内組織42の厚さが中心部から周辺部にかけて徐々に薄くなるような形状の場合、図2(b)に示されるように、体内組織42の周辺部に対応する放射線強度Iはなだらかな曲線となる(矢印72内側)。その結果、この放射線分布から得られる照射野確認画像は、体内組織42の輪郭部分(矢印72)がぼけた不鮮明な画像となる。
【0033】
また、X線画像センサ60が位置Bに配置された場合、X線画像センサ60が位置Aに配置された場合とは異なり、位置Bにおける屈曲放射線16の屈曲量が十分大きくなる。従って、X線画像センサ60が受光する放射線強度Iの分布は、図2(c)に示されるように、体内組織42の外側を直進して透過する治療用放射線15と屈曲放射線16とが重なり合う部分で強度が強くなり(矢印74)、屈曲放射線16が発生する部分で強度が弱くなって(矢印75)観察される。位置Bは、発生した全ての屈曲放射線16と体内組織42の外側を直進して透過する治療用放射線15とが、体内組織42の輪郭部分(矢印72)外側でちょうど重なる位置である。そして、屈曲放射線16は体内組織42の周辺部内側で発生するものであるから、X線画像センサ60が受光する放射線強度Iの分布は、体内組織42の輪郭部分(矢印72)を境に、輪郭部分外側で強度が強く、輪郭部分内側で強度が弱く観察されることとなる。その結果、この放射線分布から得られる照射野確認画像は、体内組織42の輪郭部分(矢印72)が鮮明に強調された画像となる。
【0034】
また、X線画像センサ60が位置Cに配置された場合、位置Cにおける屈曲放射線16の屈曲量は位置Bにおける屈曲放射線16の屈曲量よりもさらに大きくなる。従って、体内組織42の外側を直進して透過する治療用放射線15と屈曲放射線16とが重なり合う部分(矢印74)の位置は体内組織42の輪郭部分(矢印72)から遠ざかり、図2(d)に示されるような放射線強度分布となる。すなわち、体内組織42の外側を直進して透過する治療用放射線15と屈曲放射線16とが重なり合って強度が強くなる部分(矢印74)と屈曲放射線16が発生して強度が弱くなる部分(矢印75)との間隔が開き、体内組織42の輪郭部分(矢印72)の外側周辺に対応する放射線強度Iはなだらかな曲線となる(矢印72外側)。ここで、体内組織42の外側を直進して透過する治療用放射線15と屈曲放射線16とが重なり合って強度が強くなる部分(矢印74)と屈曲放射線16が発生して強度が弱くなる部分(矢印75)との間隔は、照射野確認画像上では体内組織42の輪郭を示す線幅として観察されることとなるから、位置Cの放射線分布から得られる照射野確認画像は、位置Bの放射線分布から得られる照射野確認画像に比較して体内組織42の輪郭部分(矢印72)の強調が弱く、輪郭線幅の広い不鮮明な画像となる。
【0035】
以上のように、X線画像センサ60が位置Bに配置された場合、照射野確認画像における体内組織42の輪郭部分(矢印72)が最も強調され、体内組織42の輪郭部分のコントラスト(矢印72で示すライン上での放射線強度Iの最大値と最小値の差)も最大となる。
【0036】
なお、本発明の発明者の実験によると、屈曲放射線16の屈曲量は、体内組織42の形状にもよるが、体内組織42とX線画像センサ60との距離に比例し、数10μm/m以下である。また、本実施形態のX線画像センサ60のセンサ分解能は、20〜30μm程度である。従って、屈曲放射線16による体内組織42の輪郭強調効果を得ようとすれば、少なくとも屈曲量がセンサ分解能を上回る必要があるため、体内組織42とX線画像センサ60との距離は、1m以上となる。しかし、例えば、X線画像センサ60のセンサ分解能をより高いものとすれば、体内組織42とX線画像センサ60との距離を縮めることが可能となるため、これに限られるものではない。
【0037】
本実施形態に係る放射線治療装置1は、X線画像センサ60を位置Bに配置し、上述の屈曲放射線16を利用することによって照射野確認画像上の体内組織42の輪郭を強調するように構成されている。
【0038】
図3は、本実施形態に係る放射線治療装置1のコントローラ70で実行される照射野確認画像取得ルーチンのフローチャートである。
【0039】
照射野確認画像取得ルーチンがスタートすると、コントローラ70は、X線画像センサ60の位置を初期化する(S101)。具体的には、コントローラ70は、X線画像センサ60のモータ65を駆動し、X線画像センサ60を患者支持台50に最も近い所定位置(例えば、患者支持台50から50cm離れた位置)に停止させる。
【0040】
次いで、コントローラ70は、治療用放射線15の強度が予め定められた照射野確認画像を得るために必要な強度となるように、X線シャッタ22を制御する(S103)。
【0041】
次いで、コントローラ70は、照射野が予め定められた範囲となるようにマルチリーフコリメータ30の各リーフ31〜34を制御し、治療用放射線15の水平方向および垂直方向のビーム幅を決定する(S105)。
【0042】
次いで、コントローラ70は、患者40の患部がステップS105で決定された照射野に入るように患者支持台50のモータ55を駆動し、患者支持台50を水平方向および垂直方向に移動させる(S107)。
【0043】
次いで、コントローラ70は、X線画像センサ60から出力される1画面分の画像データ(画素の輝度データ)を取得し(S109)、コントラスト演算を行う(S111)。ステップS111において、コントローラ70は、S109で取得した画像データから輝度値の最大値(最大輝度値)、最小値(最小輝度値)を求め、最大輝度値を有する画素の位置、最小輝度値を有する画素の位置を特定し、さらに輝度値の最大値と最小値の差から1画面内のコントラスト値を求める。そして、X線画像センサ60の移動距離の情報に関連付けて、最大輝度値を有する画素の位置、最小輝度値を有する画素の位置及びコントラスト値をコントローラ70内のメモリ(図示せず)に格納する(S111)。
【0044】
次いで、コントローラ70は、X線画像センサ60のモータ65を駆動し、X線画像センサ60を患者支持台50から離れる方向に所定量(例えば、10cm)移動させる。そして、所定距離(例えば、1m)の移動が終了したか否かを判断する(S115)。ここで、所定距離の移動が終了したと判断した場合には、ステップS117に進み(S115:YES)、所定距離の移動が終了していないと判断した場合には、S109に戻り、所定距離の移動が終了するまでステップS109〜S115を繰り返す(S115:NO)。
【0045】
X線画像センサ60が所定距離の移動を完了すると、コントローラ70は、ステップS111でメモリに格納した最大輝度値を有する画素の位置、最小輝度値を有する画素の位置及びコントラスト値を読み出し、コントラスト値が最大で、最大輝度値を有する画素と最小輝度値を有する画素との距離が最も短くなるときのX線画像センサ60の移動距離を求める(S117)。そして、コントローラ70は、S117で求めたX線画像センサ60の移動距離に再度X線画像センサ60を移動させて(S119)、照射野確認画像取得ルーチンを終了する。
【0046】
照射野確認画像取得ルーチン終了後のX線画像センサ60の停止位置が、図2(a)の位置Bに対応し、体内組織42の輪郭部分が最も強調され、体内組織42の輪郭部分のコントラストが最大となる照射野視野確認画像を得られる位置となる。コントローラ70は、この位置で取得される照射野確認画像の体内組織42の位置と治療計画で撮影したX線CTによる画像の体内組織42の位置とを比較し、両者の位置が一致するように患者支持台50のモータ55を駆動する。そして、照射野確認画像の体内組織42の位置と治療計画で撮影したX線CTによる画像の体内組織42の位置を一致させた後、コントローラ70は、治療計画で求められた患部の位置情報に基づいて患部に治療用放射線15を照射する。具体的には、治療計画で求められた患部の位置が照射野となるようにマルチリーフコリメータ30を制御し、X線シャッタ22を制御して治療に必要な強度の治療用放射線15を出力する。
【0047】
以上のように、本実施形態の放射線治療装置1によれば、照射野確認画像において、コントラストの高い体内組織42の画像を得ることができるため、照射野確認画像と治療計画で撮影したX線CTによる画像との比較が容易かつ正確に行うことが可能となる。従って、患者40の患部と治療用放射線15との位置合わせが正確に行える。
【0048】
本実施形態の放射線発生器10は、高エネルギー電子または陽電子を蓄積する蓄積リング(シンクロトロン)11として説明したが、本発明は、この実施形態に限定されるものではない。例えば、放射線発生器10には、線形加速器やマイクロトロンなどの電子加速器を用いた放射線発生器を用いることも可能である。
【0049】
図4は、本発明の第2の実施の形態に係る放射線治療装置1´の構成を示す概略構成図である。放射線発生器10´において、電子加速器110とX線変換ターゲット120を用いる点で本発明の第1の実施の形態に係る放射線治療装置1とは異なる。
【0050】
電子加速器110によって、電子が1MeV以上のエネルギーに加速されて出力される。そして、電子加速器110から出力された電子が、X線変換ターゲット120に衝突することにより、X線が照射される。ここで、X線の光源13´の大きさは、X線変換ターゲット120のビーム径と略同一となる。
【0051】
従来の放射線治療においては、X線の光源のビーム径は、一般に2mm程度のものが使われている。これは、十分な放射線強度を得るためには、ある程度大きなビーム径の電子をX線変換ターゲットに入射する必要があるためである。一方、放射線診断の分野においては、X線の光源のビーム径は、一般に0.5mm程度のものが使われている。これは、治療用放射線ほど高い放射線強度が必要ないことと、光源の大きさが大きくなると半影の影響が大きくなり画像の鮮明度(輪郭がぼける度合い)が悪くなるためである。
【0052】
本実施形態に係る放射線治療装置1´においては、照射野確認画像の解像度が放射線診断の画像と同程度の解像度(0.1mm程度)又はそれ以上となるように、電子加速器110によって1MeV以上のエネルギーに加速された電子を0.5mm以下のビーム径に絞ってX線変換ターゲット120に入射させている。しかし、加速された電子のビーム径を絞った場合、治療用放射線15の強度が低下するため、0.1mm以上のビーム径とする必要がある。このような構成によって、放射線治療を行うための放射線強度を維持し、かつ照射野画像を取得する際のコントラストの悪化を防止している。なお、ビーム径を絞られた高エネルギーの電子がX線変換ターゲット120に入射すると、X線変換ターゲット120が発熱するため、X線変換ターゲット120には冷却装置130を取り付ける必要がある。
【符号の説明】
【0053】
1、1´ 放射線治療装置
10、10´ 放射線発生器
11 蓄積リング
12 偏向電磁石
13、13´ X線光源
14 放射光
15 治療用放射線
21 吸収体
22 X線シャッタ
30 マルチリーフコリメータ
40 患者
50 患者支持台
55、65 モータ
60 X線画像センサ
70 コントローラ
80 表示装置
110 電子加速器
120 X線変換ターゲット
130 冷却装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の患部に治療用放射線を照射することにより治療を行う放射線治療装置において、
前記治療用放射線よりも強度が低い照射野確認用放射線を前記患部に照射する放射線照射手段と、
前記患者を支持する患者支持台と、
前記患者及び前記患者支持台を透過した前記照射野確認用放射線を検出し、照射野確認画像を出力する放射線画像検出器と、
前記放射線画像検出器を前記照射野確認用放射線の光軸に沿って前記患者支持台に対して接離するように移動させる検出器移動手段と、
前記照射野確認画像のコントラストを求め、前記照射野確認画像に含まれる体内組織の輪郭部分のコントラストが最大となるように前記検出器移動手段を駆動して前記放射線画像検出器を移動させる制御手段と、
を備えることを特徴とする放射線治療装置。
【請求項2】
前記放射線治療装置は、前記患者支持台を前記照射野確認用放射線の光軸に直交する方向に移動させる患者支持台移動手段をさらに備え、
前記制御手段は、予め作成された基準画像に含まれる体内組織の位置と前記照射野確認画像に含まれる体内組織の位置が一致するように前記患者支持台移動手段を移動させることを特徴とする請求項1に記載の放射線治療装置。
【請求項3】
前記治療用放射線及び照射野確認用放射線は、臨界エネルギー値が15keV以上のシンクロトロン放射光であることを特徴とする請求項1または2に記載の放射線治療装置。
【請求項4】
前記放射線照射手段は、電子を加速する電子加速器と、前記加速された電子が衝突しX線を照射するX線変換ターゲットと、前記X線変換ターゲットを冷却する冷却手段とを備え、
前記加速された電子のビーム径が0.1mmより大きく、0.5mmより小さいことを特徴とする請求項1または2に記載の放射線治療装置。
【請求項5】
患者支持台に支持した患者の患部に治療用放射線を照射することにより治療を行う放射線治療装置の照射野画像取得方法であって、
前記治療用放射線よりも強度が低い照射野確認用放射線を前記患部に照射するステップと、
前記患者及び前記患者支持台を透過した前記照射野確認用放射線を放射線検出器で検出して照射野確認画像を得るステップと、
前記放射線画像検出器を前記照射野確認用放射線の光軸に沿って前記患者支持台に対して接離するように移動させるステップと、
前記照射野確認画像のコントラストを求め、前記照射野確認画像に含まれる体内組織の輪郭部分のコントラストが最大となるように前記放射線画像検出器を移動させるステップと、
を備えることを特徴とする放射線治療装置の照射野画像取得方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−189016(P2011−189016A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58308(P2010−58308)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(599112582)財団法人高輝度光科学研究センター (35)
【Fターム(参考)】