放射線治療装置におけるアイソセンターの変位測定方法、その変位の調整方法、及び変位測定用ファントム
【課題】放射線治療装置において、治療用X線のアイソセンターと、位置決定用レーザー光による仮想アイソセンターと、診断用X線撮影装置から照射される診断用X線の中心位置との変位(ズレ)を測定するための測定方法、その変位を調整するための調整方法、並びにその測定方法及び調整方法に使用する変位測定用ファントムを提供する。
【解決手段】測定方法は、放射線治療装置4のガントリー41から変位測定用ファントム10の内部に包埋されているX線吸収体に治療用X線を照射して得られる照射画像情報から、治療用X線による実際のアイソセンター71の位置と、仮想アイソセンターに配置されたX線吸収体の位置との変位を測定する工程、及び診断用X線撮影装置44からX線吸収体に診断用X線を照射して得られる照射画像情報から、診断用X線の中心位置と、仮想アイソセンターに配置されたX線吸収体の位置との変位を測定する工程を任意の順序で実施する。
【解決手段】測定方法は、放射線治療装置4のガントリー41から変位測定用ファントム10の内部に包埋されているX線吸収体に治療用X線を照射して得られる照射画像情報から、治療用X線による実際のアイソセンター71の位置と、仮想アイソセンターに配置されたX線吸収体の位置との変位を測定する工程、及び診断用X線撮影装置44からX線吸収体に診断用X線を照射して得られる照射画像情報から、診断用X線の中心位置と、仮想アイソセンターに配置されたX線吸収体の位置との変位を測定する工程を任意の順序で実施する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療装置におけるアイソセンターの変位測定方法、及びその変位の調整方法に関する。本発明によれば、放射線治療装置における治療用X線のアイソセンター(実際のアイソセンター)と位置決定用照射線(例えば、レーザー光)の仮想アイソセンターとの変位(ズレ)を測定することができると共に、その測定値を利用して変位(ズレ)を調整(又は修正)することができる。また、本発明は、前記の変位測定方法に用いることのできる変位測定用ファントムにも関する。
【背景技術】
【0002】
がんの治療においては、外科療法、化学療法、放射線治療、又は免疫療法などの治療方法が主に使用されている。これらの治療方法の中で、放射線治療は、電磁波(例えば、X線又はγ線)又は粒子線(例えば、電子線、陽子線、又は中性子線)をがん細胞に照射して、がん細胞を死滅させる方法である。この放射線治療は、がん細胞を死滅させるのに十分な量の放射線を体内に照射し、一方では、正常な組織に損傷を与えないようにすることを目標としている。
【0003】
電磁波としてX線を使用する放射線治療では、従来から放射線治療装置が使用されており、放射線治療部位確認のために超高圧のX線を用いて治療部位の撮影が行われていた。この超高圧X線は、治療用X線と同様の高エネルギーを有するX線であるため、治療部位確認のための十分なコントラストを得る事ができず、詳細の検証を行うまでには至っていなかった。最近では、放射線治療装置に診断用X線撮影装置を付属させることにより、低エネルギーX線による微細な情報を得ることが可能になり、より精度の高い治療を行う事が可能になってきている(例えば、非特許文献1)。このような放射線治療装置の代表例を図1に示す。
図1に示す放射線治療装置4は、ガントリー41、ガントリー回転手段42、診断用X線撮影装置44、及び治療台46を含む。
【0004】
ガントリー41は、がん細胞(がん組織)を死滅させるために使用されるX線(以下、治療用X線)を、その内部で発生させて、治療台46の上に横たわっている患者のがん細胞(がん組織)に向けて治療用X線を照射するための装置である。治療用X線は、ガントリー41に設けた治療用X線照射部41aから治療台46の方向へ照射される。
【0005】
ガントリー回転手段42は、治療用X線照射の中心位置であるアイソセンターが回転中心となるように、診断用X線撮影装置44と一体的に、ガントリー41を360°回転させることのできる手段である。なお、アイソセンターとは、ガントリー41から照射される治療用X線の線束の集中する点を意味し、このアイソセンターと患者の治療目標患部(がん組織)とを一致させて放射線治療を実施する。ガントリー回転手段42による360°回転が可能になることによって、任意の方向から、アイソセンターに向けて、治療用X線を照射することが可能となる。
【0006】
診断用X線撮影装置44は、治療台46の上に横たわっている患者の体内に存在するがん細胞(がん組織)の位置を正確かつ精密に測定するための装置で、診断用X線照射部44aと診断用X線検出部44bとを含む。診断用X線照射部44aから診断用X線が照射され、診断用X線検出部44bにおいて、診断用X線画像を取得することができる。すなわち、患者の体内に存在するがん細胞(がん組織)の位置を外側から正確に把握するのは困難であるが、診断用X線照射部44aから診断用X線を照射し、治療台46の上の患者の体内を通過させ、診断用X線検出部44bで画像を取得することによって、周辺臓器の情報をもとに患者体内のがん細胞(がん組織)の位置を確定する画像(又は画像信号)を得ることができる。診断用X線撮影装置44により、患者体内のがん細胞(がん組織)の位置は、放射線治療する直前の患者、放射線治療中の患者、又は放射線治療後の患者に関して、正確に把握することができ、がん細胞に対してより正確に治療用X線を照射することができる。なお、診断用X線撮影装置44による診断用X線の照射方向は、ガントリー41による治療用X線の照射方向と交差(特に直交)させ、両者の光軸が相互に一致しないように配置することが好ましい。この診断用X線撮影装置44も、ガントリー回転手段42によって、ガントリー41と一体的にアイソセンターを中心に360°回転させることができる。この360°回転によって、任意の方向から、X線撮影を行うことができる。
【0007】
治療台46は、放射線治療を受ける患者を寝かせて、放射線治療を実施するためのベッドである。治療台46は、ガントリー41などとの相対位置の調整可能な位置調整手段(図示せず)を備えており、この位置調整手段によって、様々な方向に治療台46を移動させることができる。治療台46の移動機構と、ガントリー41の360°回転機構とを合わせて調整することによって、正常な組織を避けて、がん細胞(がん組織)に対して、治療用X線を正確に照射することが可能となる。
【0008】
なお、図1には図示されていないが、放射線治療装置4が設置されている放射線治療室には、放射線治療室内の壁面(すなわち、天井や側壁面)から、位置決定用レーザー光が照射されている。この位置決定用レーザー光は、患者の治療目標患部とアイソセンターとを一致させるために使用される。
【0009】
放射線治療装置を使用する放射線治療は、通常、以下の工程(1)〜(6)によって実施される。
(1)治療目標患部の決定工程:
治療計画用CTなどによって、患者の体内に存在するがん細胞(がん組織)の位置を確認して、治療目標患部を決定する。
(2)マーキング工程:
治療目標患部の場所を示すために、患者の皮膚表面上に印(以下、皮膚マーク)を付ける作業を行う。
(3)位置確定工程:
放射線治療室に患者を移動させて、治療目標患部とアイソセンターとを一致させるための作業を行う。
(4)X線撮影工程:
治療用X線を照射する直前に、患者に対して、診断用X線撮影装置によってX線撮影を行う。
(5)位置微調整工程:
放射線治療室においてX線撮影された画像情報と、治療計画用CTにより得られた画像情報とを比較して、患者の位置決めを再度行う。
(6)治療用X線照射工程:
治療用X線を患者に照射する。
【0010】
図1に示す放射線治療装置4を使用して、前記工程(1)〜(6)の放射線治療を実施する場合の具体的操作を、図1〜図3に沿って説明する。
治療目標患部の決定工程(1)では、治療計画用CTなどによって、患者3(図2及び図3参照)の体内に存在するがん細胞(がん組織)の位置を確認して、治療目標患部33を決定する。
次に、マーキング工程(2)では、図2に示すように、患者3の体内の治療目標患部33の場所を示すために、患者3の皮膚表面上の2ヵ所(A点及びB点)に皮膚マーク31を付ける。図2は、マーキング工程後に、患者3を放射線治療室の治療台46に乗せた状態を示している。患者3は、患者頭部固定用枕38やその他の固定具(図示せず)を用いて治療台46に固定させる。
【0011】
続いて、位置確定工程(3)では、図3に示すように、放射線治療室内の壁面(天井及び側面)から位置決定用レーザー光35を患者3に照射し、位置決定用レーザー光35a,35b,35cが皮膚マーク31と一致するように治療台46を移動させ、完全に一致した地点で治療台46を固定する。ここで、位置決定用レーザー光35a,35b,35cは1点で交差するように調整されており、しかも、その交差点(仮想アイソセンター)は、放射線治療装置4のガントリー41から照射される治療用X線によるアイソセンター(実際のアイソセンター)と完全に一致するように調整されている。従って、位置決定用レーザー光35a,35b,35cが皮膚マーク31と完全に一致する地点で治療台46を固定することにより、治療目標患部33とアイソセンター(実際のアイソセンター)とを一致させることができる。
【0012】
具体的には、位置決定用レーザー光35は、図3に示すように、X軸方向位置決定用レーザー光35aと、Y軸方向位置決定用レーザー光35bと、Z軸方向位置決定用レーザー光35cとからなる。X軸方向位置決定用レーザー光35aは、放射線治療室内の天井に備えられたレーザー光照射手段(図示せず)から、床面の方向に向かって、一枚の平面状に照射され、患者3との接触点(体表面)で、体の中心部を咽喉元付近から下半身の方向に延びる線状画像36aを患者3の体表面上に描く。Y軸方向位置決定用レーザー光35bは、放射線治療室内の側壁面に備えられたレーザー光照射手段(図示せず)から、天井及び床面と平行方向に、X軸方向位置決定用レーザー光35aと直交する一枚の平面状に照射され、患者3との接触点(体表面)で、体の側面を縦方向に延びる線状画像36bを描く。Z軸方向位置決定用レーザー光35cは、放射線治療室内の天井に備えられたレーザー光照射手段(図示せず)又は放射線治療装置4から、床面の方向に向かって、X軸方向位置決定用レーザー光35a及びY軸方向位置決定用レーザー光35bとそれぞれ直交する一枚の平面状に照射され、患者3との接触点(体表面)で、体を左右に横断する方向に延びる線状画像36cを描く。
【0013】
X軸方向位置決定用レーザー光35aによる線状画像36aとZ軸方向位置決定用レーザー光35cによる線状画像36cとの交点Cを、皮膚マーク31の交点Aと一致させ、それと同時に、Y軸方向位置決定用レーザー光35bによる線状画像36bとZ軸方向位置決定用レーザー光35cによる線状画像36cとの交点Dを、皮膚マーク31の交点Bと一致させると、治療目標患部33がアイソセンター37に位置することになる。
【0014】
X線撮影工程(4)は、治療目標患部33と仮想アイソセンターとを一致させた状態で実施する。すなわち、治療用X線を照射する直前に、患者3に対して、診断用X線撮影装置44によってX線撮影を行い、患者3の体内における治療目標患部33の実際の位置と、皮膚マーク31から決定される治療目標患部33の位置の変位(ズレ)を測定する。X線撮影を複数の角度で実施することによって、より精度の高い治療目標患部33の3次元の位置を確認することができる。この変位(ズレ)測定を実施する目的は、マーキング工程(2)の実施時点と、位置確定工程(3)の実施時点とが異なり(異時だけでなく異日になることもある)、体調変化及び治療効果などによって体内状況が完全に同一ではないことから、治療目標患部33がずれることがあるためである。放射線治療においては、極めてわずかなズレがあっても、正常組織に損傷を与えることになるので、それを回避することが望まれている。なお、診断用X線撮影装置を備えていない放射線治療装置では、位置確認のために治療用X線を用いて撮影された情報を利用していたが、画像のコントラストが得られず正確性には欠けていた。
【0015】
位置微調整工程(5)は、前記のX線撮影工程(4)で変位(ズレ)が検出された場合に実施し、治療目標患部33の実際の位置とアイソセンター37とを完全に一致させる。こうして、治療目標患部33の位置とアイソセンター37とを完全に一致させた状態で治療用X線照射工程(6)を行う。
【0016】
診断用X線撮影装置を備えていない放射線治療装置では、皮膚マーク31と位置決定用レーザー光35のみによって、治療目標患部とアイソセンターとを一致させていたので、患者の内臓の充満度の差異や呼吸に伴う内臓の動きによって、治療用X線をがん細胞に正確に照射することができない場合もあった。これに対して、前記の放射線治療のように、診断用X線撮影装置を備えた放射線治療装置では、放射線治療室で患者に対して放射線治療を実施する前にX線撮影を行い、その画像を用いることによりがん細胞の位置を確認しながら行う放射線治療は、画像誘導放射線治療(IGRT:image−guided radiation therapy)と呼ばれている。このIGRT法によって、治療用X線照射の精度を更に上げることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】京都大学医学部附属病院放射線科のホームページ「治療設備紹介」http://radiotherapy.kuhp.kyoto-u.ac.jp/index.php?p=13
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
前記のIGRT法によれば、治療用X線照射を高精度で実施することができる。
このIGRT法を高精度で実施するための前提条件として、治療用X線の実際のアイソセンターと、位置決定用レーザー光による仮想アイソセンターと、診断用X線撮影装置から照射される診断用X線の中心とが一致している必要がある。従来から、放射線治療室に放射線治療装置を最初に設置する際には、前記の3点を正確に一致させた状態で設置作業が実施されているが、前記の3点を正確に一致させた状態で設置が行われても、その後に繰り返して実施される運転操作や地震などの振動の影響によって、前記の3点にズレが生じることは避けられない。
しかしながら、従来は、IGRT法を実施する放射線治療装置において、治療用X線の実際のアイソセンターと、位置決定用レーザー光による仮想アイソセンターと、診断用X線撮影装置から照射される診断用X線の中心位置とが一致しているか否かの検査を簡便に実施する方法は知られていなかった。また、高エネルギーX線である治療用X線を用いて撮影された情報をもとに位置確認を実施した場合は、画像のコントラストが得られず、正確性には欠けていた。
従って、本発明の目的は、診断用X線撮影装置を備えた放射線治療装置において、治療用X線の実際のアイソセンターと、位置決定用レーザー光による仮想アイソセンターと変位(ズレ)を測定すると共に、治療用X線の実際のアイソセンターと、前記診断用X線撮影装置から照射される診断用X線の中心位置との変位(ズレ)を測定する手段を提供することにある。
【0019】
また、本発明の別の目的は、前記の変位測定値を利用して、位置決定用レーザー光により決定される仮想アイソセンターを移動させることにより、前記仮想アイソセンターと、治療用X線による実際のアイソセンターの位置及び/又は診断用X線撮影装置から照射される診断用X線の中心位置とを一致させる調整手段を提供することにある。
【0020】
更に、本発明の別の目的は、変位測定用ファントムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前記課題は、本発明により、
放射線治療室内の壁面から照射される位置決定用レーザー光により決定される仮想アイソセンターに対して、放射線治療室の治療台上に載置された変位測定用ファントムの内部に包埋されているX線吸収体が一致する位置で前記変位測定用ファントムを固定し、続いて以下の工程(1)及び工程(2)を任意の順序で実施することを特徴とする、前記位置決定用レーザー光による仮想アイソセンターの位置に対して、前記放射線治療装置のガントリーから照射される治療用X線による実際のアイソセンターの位置との変位及び前記放射線治療装置の診断用X線撮影装置から照射される診断用X線の中心位置との変位を測定する方法:
工程(1)
前記ガントリーから前記X線吸収体に治療用X線を照射して得られる照射画像情報から、前記治療用X線による実際のアイソセンターの位置と、仮想アイソセンターに配置された前記X線吸収体の位置との変位を測定する工程、及び
工程(2)
前記診断用X線撮影装置から前記X線吸収体に診断用X線を照射して得られる照射画像情報から、前記診断用X線の中心位置と、仮想アイソセンターに配置された前記X線吸収体の位置との変位を測定する工程
によって、解決することができる。
【0022】
本発明による測定方法の好ましい態様においては、位置決定用レーザー光が、X軸方向位置決定用レーザー光と、Y軸方向位置決定用レーザー光と、Z軸方向位置決定用レーザー光とからなり、それらの位置決定用レーザー光が、放射線治療室内の天井及び側壁面に設けられた位置決定用レーザー光照射手段から一枚の平面状に相互に直交して照射される。
本発明による測定方法の別の好ましい態様においては、前記ガントリーから前記X線吸収体に治療用X線を照射して得られる照射画像情報を、ガントリーからX線吸収体を通過して延びる通路上に設けた画像収集手段において取得する。
本発明による測定方法の更に別の好ましい態様においては、前記診断用X線撮影装置から前記X線吸収体に診断用X線を照射して得られる照射画像情報を、前記診断用X線撮影装置の診断用X線照射部からX線吸収体を通過して延びる通路上に設けた診断用X線検出部において取得する。
【0023】
また、本発明は、仮想アイソセンター、実際のアイソセンター、又は診断用X線の中心位置のいずれか1点を調整基準点として選定し、請求項1に記載の工程(1)及び工程(2)によって得られる各変位の測定値を利用して、選定された調整基準点以外の2点を調整基準点と一致するように移動させ、仮想アイソセンターと、実際のアイソセンターと、診断用X線の中心位置とを一致させる調整方法にも関する。
【0024】
更に、本発明は、仮想アイソセンター、実際のアイソセンター、又は診断用X線の中心位置の内からいずれか1点を調整基準点として選定し、選定された調整基準点以外の2点の内の1点を第1移動点、もう一方の1点を第2移動点とし、請求項1に記載の工程(1)又は工程(2)のいずれか一方の工程を実施して得られる変位の測定値を利用して、第1移動点を調整基準点と一致するように移動させ、続いて、請求項1に記載の工程(1)又は工程(2)のもう一方の工程を実施して得られる変位の測定値を利用して、第2移動点を調整基準点と一致するように移動させ、仮想アイソセンターと、実際のアイソセンターと、診断用X線の中心位置とを一致させる調整方法にも関する。
【0025】
本発明による調整方法の好ましい態様においては、仮想アイソセンターの移動を、放射線治療室内の壁面に設けた位置決定用レーザー光照射手段の調整により実施し、実際のアイソセンターの移動を、放射線治療装置の調整により実施し、診断用X線の中心位置の移動を、放射線治療装置の設けた診断用X線撮影装置の調整により実施する。
本発明による調整方法の別の好ましい態様においては、実際のアイソセンターを調整基準点として選定する。
本発明による調整方法の更に別の好ましい態様においては、実際のアイソセンターを調整基準点として選定し、仮想アイソセンターを第1移動点として選定し、診断用X線の中心位置を第2移動点として選定する。
【0026】
更に、本発明は、放射線治療室内の壁面から照射される位置決定用レーザー光により決定される仮想アイソセンターに対して、放射線治療室の治療台上に載置された変位測定用ファントムの内部に包埋されているX線吸収体が一致する位置で前記変位測定用ファントムを固定し、放射線治療装置のガントリーを、ガントリー回転手段によってアイソセンターを回転中心として回転させた場合の最頂上部に位置させ、続いて、最頂上部に位置するガントリーから治療用X線を床面に向かって鉛直方向に照射させ、前記X線吸収体を照射した後の照射画像情報から、治療用X線が描く軌跡と、治療台回転盤の回転軸との変位を測定する方法にも関する。
また、前記測定方法において得られた変位の測定結果を利用して、ガントリー回転手段によってアイソセンターを回転中心として回転させた場合の最頂上部に位置させたガントリーから照射される治療用X線が描く軌跡と、治療台回転盤の回転軸との変位を調整する方法にも関する。
【0027】
本発明による調整方法の更に別の好ましい態様においては、前記測定方法において得られた変位の測定結果を利用して、放射線治療装置の治療台を移動させることにより、前記治療台上に固定された患者の治療目標患部と、治療用X線による実際のアイソセンターの位置とを一致させる。
【0028】
更に、本発明は、放射線治療室の位置決定用レーザー光による仮想アイソセンターと、放射線治療装置の診断用X線撮影装置とを利用して、放射線治療装置のガントリーから照射される治療用X線による実際のアイソセンターの位置と、放射線治療室の治療台上に載置された患者の治療目標患部とを一致させるための治療台の移動制御を行う制御システムにも関する。
【0029】
更に、本発明は、放射線治療装置のガントリーから照射される治療用X線による実際のアイソセンターの位置と、放射線治療室内の壁面から照射される位置決定用レーザー光により決定される仮想アイソセンターの位置と、診断用X線撮影装置から前記X線吸収体に診断用X線を照射することにより、前記診断用X線撮影装置から照射される診断用X線の中心位置との変位を測定するためのファントムにも関する。
【発明の効果】
【0030】
本発明の測定方法は、治療用X線の実際のアイソセンターと、位置決定用レーザー光による仮想アイソセンターと、診断用X線撮影装置から照射される診断用X線の中心位置とが一致しているか否かの検査を簡便に行うことができる。
【0031】
本発明の調整方法は、前記測定方法により得られた変位測定値を利用して、治療用X線の実際のアイソセンターと、位置決定用レーザー光による仮想アイソセンターと、診断用X線撮影装置から照射される診断用X線の中心位置とを一致させることができる。
【0032】
本発明の変位測定用ファントムは、前記測定方法及び調整方法に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】放射線治療装置の模式的斜視図である。
【図2】皮膚マークを付けた後の患者の状態を示す模式的斜視図である。
【図3】皮膚マークと位置決定用レーザー光とを一致させた状態の患者を示す模式的斜視図である。
【図4】本発明による変位測定用ファントムの模式的斜視図である。
【図5】本発明による変位測定用ファントムに用いる位置検出部の模式的部分拡大図である。
【図6】図5の位置検出部の一部を切り欠いて示す模式的部分拡大図である。
【図7】本発明による変位測定用ファントムに用いる保持盤部の一部を切り欠いて示す模式的側面図である。
【図8】本発明による変位測定用ファントムの使用状態を示す模式的斜視図である。
【図9】ズレ検出用レーザー光吸収領域を設けない場合における、位置決定用レーザー光と位置決定用レーザー光吸収帯とを一致させる方法を説明するための図である。
【図10】ズレ検出用レーザー光吸収領域を設けた場合における、位置決定用レーザー光と位置決定用レーザー光吸収帯とを一致させる方法を説明するための図である。
【図11】図1に示す放射線治療装置における変位測定方法及び変位調整方法を示す模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
最初に、本発明の測定方法に用いる変位測定用ファントムの好ましい態様の一例を図4〜図7に沿って説明する。
図4は、変位測定用ファントム10の模式的斜視図であり、変位測定用ファントム10は、位置検出部1と保持盤部2とを含む。図5は、位置検出部1の模式的部分拡大図であり、図6は、位置検出部1の一部を切り欠いて示す模式的部分拡大図であり、図7は、保持盤部2の一部を切り欠いて示す模式的側面図である。
【0035】
図4〜図7に示すとおり、変位測定用ファントム10の位置検出部1は、前記保持盤部2の上面に固定して設けられ、X線吸収体11とX線透過性材料からなる保持棒部12とを有しており、X線吸収体11はX線透過性保持棒部12の内部に包埋されている。
X線透過性保持棒部12の表面には、位置決定用レーザー光吸収帯14及びズレ検出用レーザー光吸収領域16が設けられている。
位置検出部1の保持棒部12は、棒状体の一方の端部側で保持盤部2に固定されており、もう一方の端部側を保持盤部2から突出させており、自由先端部を有していることが好ましい。
【0036】
X線吸収体11は、治療用X線及び診断用X線を吸収する材料からできている。
X線吸収体11の材料としては、X線を吸収可能な材料である限り限定されるものではないが、X線の吸収能が高いことから、タングステンが好ましい。
X線吸収体11の形状は、位置の特定が可能である限り特に限定されないが、図4〜図7に示すような球状が好ましく、X線を吸収してX線画像を形成し、投影された円形の中心から位置を計測することができる。X線吸収体11の寸法も、位置の特定が可能である限り特に限定されないが、例えば、球状X線吸収体の場合は、直径が、好ましくは2mm〜10mm、より好ましくは3mm〜5mmである。
【0037】
保持棒部12におけるX線吸収体11の位置は、図4に示すように、X線画像を形成する際にX線の通路が保持盤部2に妨害されない位置である必要があり、保持盤部2に妨害されない限り、保持棒部12の中央の位置、保持盤部2に近い後方の位置に配置してもよいが、変位(ズレ)検出操作の容易性の観点から、保持盤部2から突出している部分、特には、保持棒部12の自由先端部に配置することが好ましい。
【0038】
保持棒部12の材料としては、保持棒部12の内部に含まれるX線吸収体11のみに治療用X線及び診断用X線を吸収させることが理想なので、治療用X線及び診断用X線に対して透過性を有する必要がある。また、内部にX線吸収体11を包埋して含有する必要がある。従って、X線透過性及び包埋操作の目視確認の容易性から、各種の透明合成樹脂(例えば、アクリル樹脂)が好ましく、透明なガラス等も好適である。
【0039】
保持棒部12の形状は、その内部にX線吸収体11を包埋することができ、更にその側面上に、後述する位置決定用レーザー光吸収帯及びズレ検出用レーザー光吸収領域を設けることのできる形状であれば限定されない。従って、図4〜図7に示すような正四角柱(断面が正方形の四角柱)に限定されず、例えば、円柱や四角柱(断面が長方形の四角柱を含む)の形状とすることができる。
【0040】
位置決定用レーザー光吸収帯14は、X軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14aとY軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14bとZ軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14cとからなる。
X軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14aは、正四角柱状の保持棒部12の上面12U、前方端面12T、及び下面12Dのそれぞれ幅方向の中央に、相互に連続する直線として設け、上面12Uと下面12Dの直線は相互に平行である。
Y軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14bは、正四角柱状の保持棒部12の左側面12L、前方端面12T、及び右側面12Rのそれぞれ幅方向の中央に、相互に連続する直線として設け、左側面12Lと右側面12Rの直線は相互に平行である。また、X軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14aと、Y軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14bは、保持棒部12の前方端面12Tの中心点で相互に直交する。
Z軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14cは、正四角柱状の保持棒部12の上面12U、左側面12L、下面12D、及び右側面12Rにおいて、前方端面12Tの4辺とそれぞれ平行に、相互に連続する直線として設け、上面12Uと下面12Dの直線は相互に平行であり、左側面12Lと右側面12Rの直線は相互に平行である。また、上面12Uと下面12Dの直線は、X軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14aの直線と直交し、左側面12Lと右側面12Rの直線は、Y軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14bの直線と直交する。なお、Z軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14cと前方端面12Tとの間隔は特に限定されないが、例えば、図4〜図7に示すように、前方端面12Tの各辺の長さの1/2とすることができる。
【0041】
位置決定用レーザー光吸収帯14(14a,14b,14c)は、図5及び図6に示すように、保持棒部12の内部に包埋して含まれているX線吸収体11の位置を示すために設けられている。
具体的には、図6に示すように、X軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14aに沿って保持棒部12を切断してできる断面と、Y軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14bに沿って保持棒部12を切断してできる断面と、Z軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14cに沿って保持棒部12を切断してできる断面との交点が、X線吸収体11の中心位置と完全に一致するように位置決定用レーザー光吸収帯14(14a,14b,14c)を設ける。
【0042】
保持棒部12の側面に設けた位置決定用レーザー光吸収帯14(14a,14b,14c)は、放射線治療室内の壁面(天井及び側面)から照射される位置決定用レーザー光35(35a,35b,35c)との位置合わせに用いることができる。具体的には、X軸方向位置決定用レーザー光35aが保持棒部12の側面に描く線状画像と、X軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14aとを一致させ、Y軸方向位置決定用レーザー光35bが保持棒部12の側面に描く線状画像と、Y軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14bとを一致させ、Z軸方向位置決定用レーザー光35cが保持棒部12の側面に描く線状画像と、Z軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14cとを一致させることにより、位置決定用レーザー光35(35a,35b,35c)による仮想アイソセンターの位置と、保持棒部12の内部に包埋されているX線吸収体11の位置を一致させることができる。
【0043】
前記の位置決定用レーザー光吸収帯14の幅は、位置決定用レーザー光35の線状画像との確実な一致性を確認することが目的なので、位置決定用レーザー光35が描く線状画像の幅(一般的には、1mm)とほぼ一致するかことが好ましく、極めて細い線状である。従って、位置決定用レーザー光吸収帯14の幅は、使用される位置決定用レーザー光35が描く線状画像の幅によって変化するが、一般的には、0.5〜1.5mm、特には1mmである。
【0044】
本発明のファントム10において、位置検出部1の保持棒部12はX線透過性材料からなるため、通常は透明であり、レーザー光も吸収せずに透過する。従って、保持棒部12の側面に設ける位置決定用レーザー光吸収帯14は、レーザー光(すなわち、位置決定用レーザー光35)を吸収して肉眼で観察可能にする材料から形成する必要がある。レーザー光吸収性材料(好ましくは、更にX線透過性材料)としては、公知の材料を用いることができ、保持棒部12の側面に公知の方法によって塗布することにより形成することができる。また、保持棒部12の側面に線状の溝を設け、その溝にレーザー光吸収性材料を充填して位置決定用レーザー光吸収帯14を形成することもできる。
【0045】
本発明のファントム10において、位置検出部1の保持棒部12には、更にズレ検出用レーザー光吸収領域16を設けることができる。ズレ検出用レーザー光吸収領域16は、X軸方向ズレ検出用レーザー光吸収領域16a、Y軸方向ズレ検出用レーザー光吸収領域16b、及びZ軸方向ズレ検出用レーザー光吸収領域16cの少なくともいずれか1つに設け、好ましくは全てに設ける。ズレ検出用レーザー光吸収領域16は、位置決定用レーザー光吸収帯14と交差(好ましくは直交)させる。ズレ検出用レーザー光吸収領域16は、位置決定用レーザー光吸収帯14と同様に、レーザー光(すなわち、位置決定用レーザー光35)を吸収して肉眼で観察可能にする材料から形成する必要がある。レーザー光吸収性材料(好ましくは、更にX線透過性材料)としては、公知の材料を用いることができ、保持棒部12の側面に公知の方法によって塗布することにより形成することができる。また、保持棒部12の側面に線状の溝を設け、その溝にレーザー光吸収性材料を充填してズレ検出用レーザー光吸収領域16を形成することもできる。
【0046】
ズレ検出用レーザー光吸収領域16は、位置決定用レーザー光吸収帯14(14a,14b,14c)と、位置決定用レーザー光35(35a,35b,35c)が保持棒部12の側面に描く線状画像とを、位置決定用レーザー光吸収帯14の一側面の全長にわたって一致させる操作を容易にするために使用される。
例えば、X軸方向位置決定用レーザー光35aが保持棒部12の側面に描く線状画像と、X軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14aとが一致しないと、図9に示すように、両者の交差点Eでのみレーザー光の吸収が起こり、それ以外の箇所ではレーザー光が透過されるので、両者の線のズレの方向や程度を判断することができないか、極めて困難である。
【0047】
これに対し、X軸方向ズレ検出用レーザー光吸収領域16aも設けると、図10に示すように、位置決定用レーザー光35aが軸方向ズレ検出用レーザー光吸収領域16aとの交差点F及びGでも吸収され、交差点E、F、及びGの3点で位置決定用レーザー光35aが吸収されて観察可能になるため、両者の線のズレの方向や程度を簡単に判断することができ、位置決定用レーザー光吸収帯14(14a,14b,14c)の長さ方向の全体と、位置決定用レーザー光35(35a,35b,35c)が保持棒部12の側面に描く線状画像の全体とを、位置決定用レーザー光吸収帯14の一側面の全長にわたって一致させる操作を容易に行うことができる。
【0048】
従って、ズレ検出用レーザー光吸収領域16を設ける位置は、両者の線のズレの方向や程度の判断を容易にすることが可能な位置であれば特に限定されないが、例えば、図4〜図7に示すように、保持棒部12の各側面に設けた位置決定用レーザー光吸収帯14の少なくとも1端部、好ましくは両端部に、位置決定用レーザー光吸収帯14と交差(好ましくは直交)する帯状体や線状体として設けることができる。
【0049】
本発明のファントムにおいて、位置検出部1は、X線透過性保持棒部12が透明アクリル樹脂などからなるため、位置検出部1が内部に包埋して含んでいるX線吸収体11は、外側から肉眼で明瞭に観察することができる。また、観察している側と反対側の稜線や、反対側の側面に設けた位置決定用レーザー光吸収帯及びズレ検出用レーザー光吸収領域も肉眼で確認することができる。しかしながら、図4、図5、図7及び図8においては、位置検出部1の構造の理解を容易にする目的で、保持棒部12は、不透明な材質から形成されているものとして図示しており、目視可能な反対側の稜線や、反対側の側面に設けた位置決定用レーザー光吸収帯及びズレ検出用レーザー光吸収領域は図示していない。また、X線吸収体11は、その位置の理解を容易にする目的で、点線で図示している。
【0050】
本発明のファントムにおいて、保持盤部2は、図4に示すように、ベース盤21、微調整手段23、及びおもり25を有することができる。
ベース盤21は、放射線治療装置の治療台上に載置可能な底面を有すると共に、上面側に微調整手段23を保持している。微調整手段23は、位置検出部1と保持盤部2との連結接続手段としても機能し、おもり25を備えていることができる。
【0051】
微調整手段23は、位置検出部1と保持盤部2との具体的な連結接続手段である微調整部ベース盤23dを含み、その微調整部ベース盤23dの上に、例えば、第1高さ調整部23a、第2高さ調整部23b、及び第3高さ調整部23cを含むことができる。
微調整手段23は、位置検出部1の高さを微調整しながら、位置検出部1に設けられた位置決定用レーザー光吸収帯14(14a,14b,14c)と位置決定用レーザー光35(35a,35b,35c)とを一致させたい場合に使用される。微調整手段23は、図7に示すように、回転ネジからなることができる。なお、微調整部ベース盤23dには、水平方向調整手段(図示せず)を設けることもできる。
微調整が必要でない場合には、微調整手段23を設けず、位置検出部1をベース盤21に直接保持させることもできる。
おもり25は、位置決定用レーザー光吸収帯14(14a,14b,14c)と位置決定用レーザー光35(35a,35b,35c)とを一致させた後に、その場所から、変位測定用ファントム10が簡単に移動しないようにする必要がある場合に設ける。
【0052】
次に、前記変位測定用ファントムを用いて実施する本発明の変位測定方法及び変位調整方法の代表的態様を図11に沿って説明する。
図11は、図1に示す放射線治療装置4を用いて、本発明の変位測定方法及び変位調整方法を実施する場合を模式的に説明する斜視図である。
【0053】
通常、放射線治療装置4を設置している放射線治療室には、その床面に、治療台46を回転させるための治療台回転盤57が設けられており、この治療台回転盤57は、回転中心53を中心として、図11の矢印Aに示すように、床面から天井方向へ垂直に上方に延びる回転軸に対して両方向(時計回り又は反時計回り)に回転させることができ、任意の回転角度で静止させ、固定させることができる。
【0054】
また、放射線治療室の治療台46は、前記治療台回転盤57と、治療台保持用フレーム59によって連結されているので、治療台46と治療台回転盤57とを一体的に回転させることが可能となり、治療台46は、回転中心53を中心として、床面と平行に両方向(時計回り又は反時計回り)に回転し、任意の回転位置で静止して固定することが可能となる。治療台46には、治療台46を床面と平行に前記回転軸から離れる方向又は近づく方向(B方向)に移動させるための位置調整手段(図示せず)や、治療台46を床面に対して垂直方向(C方向)に上昇又は降下させるための位置調整手段(図示せず)も備えている。
【0055】
放射線治療室に放射線治療装置4を最初に設置する際には、その放射線治療室の床面に設けた治療台回転盤57の回転軸55と完全に一致する治療用X線が、ガントリー41から照射可能になる位置に、放射線治療装置4を設置する。すなわち、放射線治療装置4のガントリー41は、ガントリー回転手段42によってアイソセンターを回転中心として360°回転させることが可能であるが、そのガントリー41を最頂上部に位置させて床面に向かって鉛直方向に治療用X線を照射した場合に、その治療用X線が描く軌跡が、治療台回転盤57の回転軸55と完全に一致することになるように、放射線治療装置4を放射線治療室に設置する。あるいは、一致させずに設置することもできるが、その場合は、最頂上部に位置するガントリー41から床面に向かって鉛直方向に照射される治療用X線の軌跡と、治療台回転盤57の回転軸55とのズレを正確に計測し、そのズレに基づいてアイソセンターの位置と治療台46との位置調整を実施する必要がある。なお、前記の条件を満たすように放射線治療装置4を放射線治療室に設置した後に、繰り返して実施される運転操作や地震などの振動の影響で、放射線治療装置4と前記回転軸55とが当初の相対位置からずれてしまうことがあるが、そのズレの検出も、前記変位測定用ファントムを用いて検出することができる。この点は後述する。
【0056】
また、放射線治療装置4を放射線治療室に最初に設置する際には、位置決定用レーザー光の交差点(仮想アイソセンター)と、治療用X線によるアイソセンター(実際のアイソセンター)とが正確に一致するように設置する。すなわち、放射線治療室内の壁面(すなわち、天井や側壁面)には、位置決定用レーザー光の照射手段(図示せず)が設けられており、それらの照射手段から照射されるX軸方向位置決定用レーザー光35aと、Y軸方向位置決定用レーザー光35bと、Z軸方向位置決定用レーザー光35cとが交差する点を仮想アイソセンターとして用いる必要があり、この仮想アイソセンターは、治療用X線によるアイソセンター(実際のアイソセンター)と正確に一致する必要があるので、この条件を満たすように、放射線治療装置4を放射線治療室に設置する。設置当初はこの条件を満たしている場合でも、その後の運転操作や地震などの振動の影響で、仮想アイソセンターと実際のアイソセンターとがずれてしまうことがある。このようなズレは、一般に、1mm以内に抑制することが望まれている。本発明によれば、前記変位測定用ファントムを用いて前記のズレを精密に検出することができ、ズレの精密な矯正が可能になる。
【0057】
また、診断用X線撮影装置44を備えた放射線治療装置4では、診断用X線の線束の中心と、治療用X線の実際のアイソセンターとが正確に一致するように診断用X線撮影装置44を取り付けている。しかしながら、繰り返される運転操作や地震などの振動の影響で、診断用X線の線束の中心と、治療用X線の実際のアイソセンターとがずれてしまうことがあるが、前記変位測定用ファントムを用いて前記のズレも精密に検出することができる。
【0058】
前記の変位測定用ファントムを用いて、前記の各々の変位(ズレ)を検出し、必要によって変位を修正して調整する方法は、いずれも、以下の工程(1)〜(3)を含む。
(1)変位の検出工程、
(2)必要により、変位の修正工程、及び
(3)好ましくは、修正の確認工程。
なお、後述するが、変位(ズレ)を検出し、その変位を修正ないし調整せずに、変位の測定値を利用して、治療台の移動制御を行い、患者の治療患部を実際のアイソセンターと一致させることもできる。
【0059】
実際のアイソセンターと仮想アイソセンターとの変位(ズレ)に関する検出・調整方法は、例えば、以下の工程(A)〜(E)を含む。
(A)変位測定用ファントム載置工程
この工程は、前記変位測定用ファントム10を放射線治療装置の治療台46上へ載せる工程であり、前記変位測定用ファントム10に含まれるX線吸収体11の位置が、仮想アイソセンターとほぼ一致するように載置するのが好ましい。その際、図11に示すように、X線吸収体11を包埋して含む保持棒部12の自由先端部を治療台端部47から突出させ、ガントリー41から照射される治療用X線が、治療台46と接触しないように配置するのが好ましい。
【0060】
(B)仮想アイソセンターとX線吸収体とを一致させる工程
この工程では、治療台46に載置された前記変位測定用ファントム10に対して、放射線治療室内の壁面(すなわち、天井や側壁面)から位置決定用レーザー光35を照射し、位置決定用レーザー光35によって決定される仮想アイソセンターと、X線吸収体11の位置とを一致させる。この際、位置決定用レーザー光35の照射手段は移動させず、前記変位測定用ファントム10が載置されている治療台46を移動させるか、前記治療台46上で変位測定用ファントム10を移動させるか、あるいは治療台46の移動とファントム10の移動とを組合せて、X線吸収体11の位置を移動させる。微調整手段23による微調整を適宜組合せることもできる。
【0061】
(C)仮想アイソセンターと実際のアイソセンターとの変位測定工程
この工程では、放射線治療装置のガントリー41を回転させ、種々の方向(位置)から治療用X線をX線吸収体11に対して照射して照射画像情報(例えば、X線画像又は画像信号)を取得し、仮想アイソセンターの正確な位置に配置されているX線吸収体11と、実際にガントリーから照射される治療用X線によって形成される実際のアイソセンターとの変位(ズレ)を測定する。照射画像情報は、画像収集手段48によって取得する。画像収集手段48は、ガントリーから照射された治療用X線が、アイソセンターを通過してその延長線を進む通路上に設ける。ガントリー41はアイソセンターを回転中心としてガントリー回転手段42によって360°回転するので、画像収集手段48も、それに伴って、アイソセンターの反対側を360°回転する。照射画像情報は、例えば、回転角45°又は90°毎に取得する。
【0062】
(D)仮想アイソセンターの修正工程
この工程は、仮想アイソセンターと実際のアイソセンターとがずれていた場合に実施する。両者のズレは、X線照射画像情報によって正確に測定されるので、その測定結果に基づいて、いずれか一方の位置を移動させる。調整操作の容易さから、仮想アイソセンターの位置を移動するのが好ましい。仮想アイソセンターの位置は、放射線治療室内の壁面に設けた位置決定用レーザー光照射手段の照射方向を調整することによって実施することができる。
【0063】
(E)修正の確認工程
前記工程(D)による修正を確認することが好ましい。この工程(E)は、修正後の仮想アイソセンターに対して、前記工程(A)「変位測定用ファントム載置工程」、前記工程(B)「仮想アイソセンターとX線吸収体とを一致させる工程」、及び前記工程(C)「仮想アイソセンターと実際のアイソセンターとの変位測定工程」と同様の操作を実施し、仮想アイソセンターと実際のアイソセンターとに変位(ズレ)がないことを確認するものである。
【0064】
前記の工程(A)〜(E)を実施すると、仮想アイソセンターと実際のアイソセンターとが正確に一致するので、図3に示すように、放射線治療室内の壁面(天井及び側面)から位置決定用レーザー光35を患者3に照射し、位置決定用レーザー光35a,35b,35cが皮膚マーク31と一致するように治療台46を移動させ、完全に一致した地点で治療台46を固定するだけで、治療目標患部33とアイソセンター(実際のアイソセンター)とを一致させることができる。
【0065】
前記の工程(A)及び(B)を実施して変位(ズレ)を検出した後、その変位を修正ないし調整せずに、変位の測定値を利用して、治療台の移動制御を行い、患者の治療患部を実際のアイソセンターと一致させることもできる。すなわち、図3に示すように、放射線治療室内の壁面(天井及び側面)から位置決定用レーザー光35を患者3に照射し、位置決定用レーザー光35a,35b,35cが皮膚マーク31と一致するように治療台46を移動させ、完全に一致した地点で治療台46を静止させ、続いて、前記の工程(A)及び(B)によって得られた測定値に従って、治療台46を移動させると、治療目標患部33とアイソセンター(実際のアイソセンター)とを一致させることができる。なお、治療台の移動制御を行うプログラムを含む制御システムを利用する場合は、前記の工程(A)及び(B)によって得られた変位の測定結果を前記プログラムに導入することにより、制御システムに従って治療台46を移動させ、治療目標患部33とアイソセンター(実際のアイソセンター)とを一致させることができる。
【0066】
次に、診断用X線の線束の中心と実際のアイソセンター71とのズレに関する検出・調整方法について説明する。この方法は、仮想アイソセンターと実際のアイソセンターとの変位測定及び場合により実施する変位調整を実施する前に、あるいはその後に実施することができる。また、仮想アイソセンターと実際のアイソセンターとの変位測定の後に実施する場合は、変位調整工程の前に実施することも、あるいはその変位調整工程の後に実施することもできる。以下に、仮想アイソセンターと実際のアイソセンターとの変位測定及び変位調整工程を行った後に実施する好ましい態様に関して説明する。
【0067】
(イ)変位測定用ファントム載置工程
この工程は、前記変位測定用ファントム10を放射線治療装置の治療台46上へ載せる工程であり、前記変位測定用ファントム10に含まれるX線吸収体11の位置が、仮想アイソセンターとほぼ一致するように載置するのが好ましい。その際、図11に示すように、X線吸収体11を包埋して含む保持棒部12の自由先端部を治療台端部47から突出させ、診断用X線照射部44aから照射される診断用X線が、治療台46と接触しないように配置するのが好ましい。
【0068】
(ロ)仮想アイソセンターとX線吸収体とを一致させる工程
この工程では、治療台46に載置された前記変位測定用ファントム10に対して、放射線治療室内の壁面(すなわち、天井や側壁面)から位置決定用レーザー光35を照射し、位置決定用レーザー光35によって決定される仮想アイソセンターと、X線吸収体11の位置とを一致させる。この際、位置決定用レーザー光35の照射手段は移動させず、前記変位測定用ファントム10が載置されている治療台46を移動させるか、前記治療台46上で変位測定用ファントム10を移動させるか、あるいは治療台46の移動とファントム10の移動とを組合せて、X線吸収体11の位置を移動させる。微調整手段23による微調整を適宜組合せることもできる。予め、仮想アイソセンターを実際のアイソセンターと正確に一致させておけば、この工程によって、X線吸収体11と実際のアイソセンターとが正確に一致することになる。
【0069】
(ハ)診断用X線撮影工程
この工程では、放射線治療装置の診断用X線撮影装置44をアイソセンターを中心に回転させ、種々の方向(位置)から診断用X線をX線吸収体11に対して照射して照射画像情報(例えば、X線画像又は画像信号)を取得し、実際のアイソセンター(=仮想アイソセンター)の位置に正確に配置されているX線吸収体11と、診断用X線照射部44aから照射される診断用X線の線束の中心との変位(ズレ)を測定する。照射画像情報は、診断用X線検出部44bによって取得する。診断用X線検出部44bは、診断用X線照射部44aから照射された診断用X線が、アイソセンターを通過してその延長線を進む通路上に設ける。診断用X線撮影装置44を構成する診断用X線照射部44aと診断用X線検出部44bとは、回転中心であるアイソセンターを挟んで反対側に配置され、診断用X線撮影装置44は、アイソセンターを回転中心としてガントリー回転手段42によって360°回転するので、診断用X線照射部44aと診断用X線検出部44bとは、それぞれアイソセンターの反対側を360°回転する。照射画像情報は、例えば、回転角45°又は90°毎に取得する。
(ニ)診断用X線撮影装置の修正工程
この工程は、診断用X線撮影装置による診断用X線の線束の中心と実際のアイソセンター(=仮想アイソセンター)とがずれていた場合に実施する。両者のズレは、照射画像情報によって正確に測定されるので、その測定結果に基づいて、診断用X線撮影装置の位置を移動させる。
【0070】
(ホ)修正の確認工程
前記工程(ニ)による修正を確認することが好ましい。この工程(ホ)は、修正後の診断用X線撮影装置に対して、前記工程(イ)「変位測定用ファントム載置工程」、前記工程(ロ)「仮想アイソセンターとX線吸収体とを一致させる工程」、及び前記工程(ハ)「診断用X線撮影工程」と同様の操作を実施し、診断用X線撮影装置による診断用X線の線束の中心と実際のアイソセンター(=仮想アイソセンター)とに変位(ズレ)がないことを確認するものである。
【0071】
仮想アイソセンターと実際のアイソセンターとを一致させた後に、前記の工程(イ)〜(ホ)を実施すると、診断用X線の線束の中心と実際のアイソセンターとが正確に一致するので、図3に示すように、位置決定用レーザー光35を患者3に照射し、位置決定用レーザー光35a,35b,35cが皮膚マーク31と一致するように治療台46を移動させ、完全に一致した地点で治療台46を固定するだけで、治療目標患部33とアイソセンター(実際のアイソセンター)とを一致させることができる。
【0072】
放射線治療室の壁面に設けられた位置決定用レーザー光照射手段は、位置調整操作が比較的用意であるが、放射線治療装置4の位置調整は一般的に極めて困難であり、放射線治療装置4には、診断用X線撮影装置44の位置調整手段が備えられていない場合も多い。このような場合は、実際のアイソセンターと仮想アイソセンターと診断用X線の線束の中心とに変位が確認された場合でも、3つの点を完全に一致させることは実質的に困難であるが、仮想アイソセンターの位置を調整して、3つの点の誤差が1mm以内の範囲に収まるようにすることが好ましい。また、3つの点の誤差を1mm以内の範囲に収めることが困難な場合は、放射線治療装置4の位置調整か、診断用X線撮影装置44の位置調整を実施することが好ましい。
【0073】
前記の工程(イ)及び(ロ)を実施して変位(ズレ)を検出した後、その変位を修正ないし調整せずに、変位の測定値を利用して、治療台の移動制御を行い、患者の治療患部を実際のアイソセンターと一致させることもできる。すなわち、図3に示すように、放射線治療室内の壁面(天井及び側面)から位置決定用レーザー光35を患者3に照射し、位置決定用レーザー光35a,35b,35cが皮膚マーク31と一致するように治療台46を移動させ、完全に一致した地点で治療台46を静止させ、続いて、前記の工程(イ)及び(ロ)によって得られた測定値に従って、治療台46を移動させると、治療目標患部33とアイソセンター(実際のアイソセンター)とを一致させることができる。なお、治療台の移動制御を行うプログラムを含む制御システムを利用する場合は、前記の工程(イ)及び(ロ)によって得られた変位の測定結果を前記プログラムに導入することにより、制御システムに従って治療台46を移動させ、治療目標患部33とアイソセンター(実際のアイソセンター)とを一致させることができる。
【0074】
続いて、治療台回転盤57の回転軸55と、治療用X線との変位(ズレ)を検出し、修正・調整する方法を説明する。
この方法は、例えば、以下の工程(a)〜(e)を含む。
【0075】
(a)変位測定用ファントム載置工程
この工程は、前記変位測定用ファントム10を放射線治療装置の治療台46上へ載せる工程であり、前記変位測定用ファントム10に含まれるX線吸収体11の位置が、仮想アイソセンターとほぼ一致するように載置するのが好ましい。その際、図11に示すように、X線吸収体11を包埋して含む保持棒部12の自由先端部を治療台端部47から突出させ、ガントリー41から照射される治療用X線が、治療台46と接触しないように配置するのが好ましい。
【0076】
(b)仮想アイソセンターとX線吸収体とを一致させる工程
この工程では、治療台46に載置された前記変位測定用ファントム10に対して、放射線治療室内の壁面(すなわち、天井や側壁面)から位置決定用レーザー光35を照射し、位置決定用レーザー光35によって決定される仮想アイソセンターと、X線吸収体11の位置とを一致させる。この際、位置決定用レーザー光35の照射手段は移動させず、前記変位測定用ファントム10が載置されている治療台46を移動させるか、前記治療台46上で変位測定用ファントム10を移動させるか、あるいは治療台46の移動とファントム10の移動とを組合せて、X線吸収体11の位置を移動させる。微調整手段23による微調整を適宜組合せることもできる。
【0077】
(c)回転軸と治療用X線との変位測定工程
この工程では、ガントリー41を最頂上部に位置させた状態で、放射線治療室の治療台46を回転させて、最頂上部に位置させたガントリーから治療用X線をX線吸収体11に対して照射して照射画像情報(例えば、X線画像又は画像信号)を取得し、治療台回転盤57の回転軸55と、実際にガントリーから照射される治療用X線との変位(ズレ)を測定する。照射画像情報は、画像収集手段48によって取得する。画像収集手段48は、ガントリーから照射された治療用X線が、アイソセンターを通過してその延長線を進む通路上に設ける。治療台46は回転軸55を回転中心として180°回転する。照射画像情報は、例えば、回転角45°毎に取得する。
【0078】
(d)回転軸の修正工程
この工程は、治療台回転盤57の回転軸55と治療用X線とがずれていた場合に実施する。両者のズレは、X線照射画像情報によって正確に測定されるので、その測定結果に基づいて、回転軸55又は治療用X線(アイソセンター)のいずれか一方の位置を移動させる。
【0079】
(e)修正の確認工程
前記工程(d)による修正を確認することが好ましい。この工程(e)は、修正後の回転軸に対して、前記工程(a)「変位測定用ファントム載置工程」、前記工程(b)「仮想アイソセンターとX線吸収体とを一致させる工程」、及び前記工程(c)「回転軸と治療用X線との変位測定工程」と同様の操作を実施し、回転軸と治療用X線とに変位(ズレ)がないことを確認するものである。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明による測定方法、調整方法、及び変位測定用ファントムは、放射線治療装置において、治療用X線の実際のアイソセンターと、位置決定用レーザー光による仮想アイソセンターと、診断用X線撮影装置から照射される診断用X線の中心位置との変位(ズレ)を測定して、その変位を調整するために利用することができる。
【符号の説明】
【0081】
1・・・位置検出部;2・・・保持盤部;3・・・患者;4・・・放射線治療装置;
10・・・変位測定用ファントム;11・・・X線吸収体;12・・・保持棒部;
14・・・位置決定用レーザー光吸収帯;
14a・・・X軸方向位置決定用レーザー光吸収帯;
14b・・・Y軸方向位置決定用レーザー光吸収帯;
14c・・・Z軸方向位置決定用レーザー光吸収帯;
16・・・ズレ検出用レーザー光吸収領域;
16a・・・X軸方向ズレ検出用レーザー光吸収領域;
16b・・・Y軸方向ズレ検出用レーザー光吸収領域;
16c・・・Z軸方向ズレ検出用レーザー光吸収領域;
21・・・ベース盤;23・・・微調整手段;23a・・・第1高さ調整部;
23b・・・第2高さ調整部;23c・・・第3高さ調整部;
23d・・・微調整部ベース盤;25・・・おもり;
31・・・皮膚マーク;31a・・・X軸方向皮膚マーク;
31b・・・Y軸方向皮膚マーク;31c・・・Z軸方向皮膚マーク;
33・・・治療目標患部;35・・・位置決定用レーザー光;
35a・・・X軸方向位置決定用レーザー光;
35b・・・Y軸方向位置決定用レーザー光;
35c・・・Z軸方向位置決定用レーザー光;
37・・・アイソセンター;38・・・患者頭部固定用枕;41・・・ガントリー;
41a・・・治療用X線照射部;42・・・ガントリー回転手段;
44・・・診断用X線撮影装置;44a・・・診断用X線照射部;
44b・・・診断用X線検出部;46・・・治療台;47・・・治療台端部;
48・・・画像収集手段;53・・・回転中心;55・・・回転軸;
57・・・治療台回転盤;59・・・治療台保持用フレーム;
71・・・実際のアイソセンター。
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療装置におけるアイソセンターの変位測定方法、及びその変位の調整方法に関する。本発明によれば、放射線治療装置における治療用X線のアイソセンター(実際のアイソセンター)と位置決定用照射線(例えば、レーザー光)の仮想アイソセンターとの変位(ズレ)を測定することができると共に、その測定値を利用して変位(ズレ)を調整(又は修正)することができる。また、本発明は、前記の変位測定方法に用いることのできる変位測定用ファントムにも関する。
【背景技術】
【0002】
がんの治療においては、外科療法、化学療法、放射線治療、又は免疫療法などの治療方法が主に使用されている。これらの治療方法の中で、放射線治療は、電磁波(例えば、X線又はγ線)又は粒子線(例えば、電子線、陽子線、又は中性子線)をがん細胞に照射して、がん細胞を死滅させる方法である。この放射線治療は、がん細胞を死滅させるのに十分な量の放射線を体内に照射し、一方では、正常な組織に損傷を与えないようにすることを目標としている。
【0003】
電磁波としてX線を使用する放射線治療では、従来から放射線治療装置が使用されており、放射線治療部位確認のために超高圧のX線を用いて治療部位の撮影が行われていた。この超高圧X線は、治療用X線と同様の高エネルギーを有するX線であるため、治療部位確認のための十分なコントラストを得る事ができず、詳細の検証を行うまでには至っていなかった。最近では、放射線治療装置に診断用X線撮影装置を付属させることにより、低エネルギーX線による微細な情報を得ることが可能になり、より精度の高い治療を行う事が可能になってきている(例えば、非特許文献1)。このような放射線治療装置の代表例を図1に示す。
図1に示す放射線治療装置4は、ガントリー41、ガントリー回転手段42、診断用X線撮影装置44、及び治療台46を含む。
【0004】
ガントリー41は、がん細胞(がん組織)を死滅させるために使用されるX線(以下、治療用X線)を、その内部で発生させて、治療台46の上に横たわっている患者のがん細胞(がん組織)に向けて治療用X線を照射するための装置である。治療用X線は、ガントリー41に設けた治療用X線照射部41aから治療台46の方向へ照射される。
【0005】
ガントリー回転手段42は、治療用X線照射の中心位置であるアイソセンターが回転中心となるように、診断用X線撮影装置44と一体的に、ガントリー41を360°回転させることのできる手段である。なお、アイソセンターとは、ガントリー41から照射される治療用X線の線束の集中する点を意味し、このアイソセンターと患者の治療目標患部(がん組織)とを一致させて放射線治療を実施する。ガントリー回転手段42による360°回転が可能になることによって、任意の方向から、アイソセンターに向けて、治療用X線を照射することが可能となる。
【0006】
診断用X線撮影装置44は、治療台46の上に横たわっている患者の体内に存在するがん細胞(がん組織)の位置を正確かつ精密に測定するための装置で、診断用X線照射部44aと診断用X線検出部44bとを含む。診断用X線照射部44aから診断用X線が照射され、診断用X線検出部44bにおいて、診断用X線画像を取得することができる。すなわち、患者の体内に存在するがん細胞(がん組織)の位置を外側から正確に把握するのは困難であるが、診断用X線照射部44aから診断用X線を照射し、治療台46の上の患者の体内を通過させ、診断用X線検出部44bで画像を取得することによって、周辺臓器の情報をもとに患者体内のがん細胞(がん組織)の位置を確定する画像(又は画像信号)を得ることができる。診断用X線撮影装置44により、患者体内のがん細胞(がん組織)の位置は、放射線治療する直前の患者、放射線治療中の患者、又は放射線治療後の患者に関して、正確に把握することができ、がん細胞に対してより正確に治療用X線を照射することができる。なお、診断用X線撮影装置44による診断用X線の照射方向は、ガントリー41による治療用X線の照射方向と交差(特に直交)させ、両者の光軸が相互に一致しないように配置することが好ましい。この診断用X線撮影装置44も、ガントリー回転手段42によって、ガントリー41と一体的にアイソセンターを中心に360°回転させることができる。この360°回転によって、任意の方向から、X線撮影を行うことができる。
【0007】
治療台46は、放射線治療を受ける患者を寝かせて、放射線治療を実施するためのベッドである。治療台46は、ガントリー41などとの相対位置の調整可能な位置調整手段(図示せず)を備えており、この位置調整手段によって、様々な方向に治療台46を移動させることができる。治療台46の移動機構と、ガントリー41の360°回転機構とを合わせて調整することによって、正常な組織を避けて、がん細胞(がん組織)に対して、治療用X線を正確に照射することが可能となる。
【0008】
なお、図1には図示されていないが、放射線治療装置4が設置されている放射線治療室には、放射線治療室内の壁面(すなわち、天井や側壁面)から、位置決定用レーザー光が照射されている。この位置決定用レーザー光は、患者の治療目標患部とアイソセンターとを一致させるために使用される。
【0009】
放射線治療装置を使用する放射線治療は、通常、以下の工程(1)〜(6)によって実施される。
(1)治療目標患部の決定工程:
治療計画用CTなどによって、患者の体内に存在するがん細胞(がん組織)の位置を確認して、治療目標患部を決定する。
(2)マーキング工程:
治療目標患部の場所を示すために、患者の皮膚表面上に印(以下、皮膚マーク)を付ける作業を行う。
(3)位置確定工程:
放射線治療室に患者を移動させて、治療目標患部とアイソセンターとを一致させるための作業を行う。
(4)X線撮影工程:
治療用X線を照射する直前に、患者に対して、診断用X線撮影装置によってX線撮影を行う。
(5)位置微調整工程:
放射線治療室においてX線撮影された画像情報と、治療計画用CTにより得られた画像情報とを比較して、患者の位置決めを再度行う。
(6)治療用X線照射工程:
治療用X線を患者に照射する。
【0010】
図1に示す放射線治療装置4を使用して、前記工程(1)〜(6)の放射線治療を実施する場合の具体的操作を、図1〜図3に沿って説明する。
治療目標患部の決定工程(1)では、治療計画用CTなどによって、患者3(図2及び図3参照)の体内に存在するがん細胞(がん組織)の位置を確認して、治療目標患部33を決定する。
次に、マーキング工程(2)では、図2に示すように、患者3の体内の治療目標患部33の場所を示すために、患者3の皮膚表面上の2ヵ所(A点及びB点)に皮膚マーク31を付ける。図2は、マーキング工程後に、患者3を放射線治療室の治療台46に乗せた状態を示している。患者3は、患者頭部固定用枕38やその他の固定具(図示せず)を用いて治療台46に固定させる。
【0011】
続いて、位置確定工程(3)では、図3に示すように、放射線治療室内の壁面(天井及び側面)から位置決定用レーザー光35を患者3に照射し、位置決定用レーザー光35a,35b,35cが皮膚マーク31と一致するように治療台46を移動させ、完全に一致した地点で治療台46を固定する。ここで、位置決定用レーザー光35a,35b,35cは1点で交差するように調整されており、しかも、その交差点(仮想アイソセンター)は、放射線治療装置4のガントリー41から照射される治療用X線によるアイソセンター(実際のアイソセンター)と完全に一致するように調整されている。従って、位置決定用レーザー光35a,35b,35cが皮膚マーク31と完全に一致する地点で治療台46を固定することにより、治療目標患部33とアイソセンター(実際のアイソセンター)とを一致させることができる。
【0012】
具体的には、位置決定用レーザー光35は、図3に示すように、X軸方向位置決定用レーザー光35aと、Y軸方向位置決定用レーザー光35bと、Z軸方向位置決定用レーザー光35cとからなる。X軸方向位置決定用レーザー光35aは、放射線治療室内の天井に備えられたレーザー光照射手段(図示せず)から、床面の方向に向かって、一枚の平面状に照射され、患者3との接触点(体表面)で、体の中心部を咽喉元付近から下半身の方向に延びる線状画像36aを患者3の体表面上に描く。Y軸方向位置決定用レーザー光35bは、放射線治療室内の側壁面に備えられたレーザー光照射手段(図示せず)から、天井及び床面と平行方向に、X軸方向位置決定用レーザー光35aと直交する一枚の平面状に照射され、患者3との接触点(体表面)で、体の側面を縦方向に延びる線状画像36bを描く。Z軸方向位置決定用レーザー光35cは、放射線治療室内の天井に備えられたレーザー光照射手段(図示せず)又は放射線治療装置4から、床面の方向に向かって、X軸方向位置決定用レーザー光35a及びY軸方向位置決定用レーザー光35bとそれぞれ直交する一枚の平面状に照射され、患者3との接触点(体表面)で、体を左右に横断する方向に延びる線状画像36cを描く。
【0013】
X軸方向位置決定用レーザー光35aによる線状画像36aとZ軸方向位置決定用レーザー光35cによる線状画像36cとの交点Cを、皮膚マーク31の交点Aと一致させ、それと同時に、Y軸方向位置決定用レーザー光35bによる線状画像36bとZ軸方向位置決定用レーザー光35cによる線状画像36cとの交点Dを、皮膚マーク31の交点Bと一致させると、治療目標患部33がアイソセンター37に位置することになる。
【0014】
X線撮影工程(4)は、治療目標患部33と仮想アイソセンターとを一致させた状態で実施する。すなわち、治療用X線を照射する直前に、患者3に対して、診断用X線撮影装置44によってX線撮影を行い、患者3の体内における治療目標患部33の実際の位置と、皮膚マーク31から決定される治療目標患部33の位置の変位(ズレ)を測定する。X線撮影を複数の角度で実施することによって、より精度の高い治療目標患部33の3次元の位置を確認することができる。この変位(ズレ)測定を実施する目的は、マーキング工程(2)の実施時点と、位置確定工程(3)の実施時点とが異なり(異時だけでなく異日になることもある)、体調変化及び治療効果などによって体内状況が完全に同一ではないことから、治療目標患部33がずれることがあるためである。放射線治療においては、極めてわずかなズレがあっても、正常組織に損傷を与えることになるので、それを回避することが望まれている。なお、診断用X線撮影装置を備えていない放射線治療装置では、位置確認のために治療用X線を用いて撮影された情報を利用していたが、画像のコントラストが得られず正確性には欠けていた。
【0015】
位置微調整工程(5)は、前記のX線撮影工程(4)で変位(ズレ)が検出された場合に実施し、治療目標患部33の実際の位置とアイソセンター37とを完全に一致させる。こうして、治療目標患部33の位置とアイソセンター37とを完全に一致させた状態で治療用X線照射工程(6)を行う。
【0016】
診断用X線撮影装置を備えていない放射線治療装置では、皮膚マーク31と位置決定用レーザー光35のみによって、治療目標患部とアイソセンターとを一致させていたので、患者の内臓の充満度の差異や呼吸に伴う内臓の動きによって、治療用X線をがん細胞に正確に照射することができない場合もあった。これに対して、前記の放射線治療のように、診断用X線撮影装置を備えた放射線治療装置では、放射線治療室で患者に対して放射線治療を実施する前にX線撮影を行い、その画像を用いることによりがん細胞の位置を確認しながら行う放射線治療は、画像誘導放射線治療(IGRT:image−guided radiation therapy)と呼ばれている。このIGRT法によって、治療用X線照射の精度を更に上げることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】京都大学医学部附属病院放射線科のホームページ「治療設備紹介」http://radiotherapy.kuhp.kyoto-u.ac.jp/index.php?p=13
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
前記のIGRT法によれば、治療用X線照射を高精度で実施することができる。
このIGRT法を高精度で実施するための前提条件として、治療用X線の実際のアイソセンターと、位置決定用レーザー光による仮想アイソセンターと、診断用X線撮影装置から照射される診断用X線の中心とが一致している必要がある。従来から、放射線治療室に放射線治療装置を最初に設置する際には、前記の3点を正確に一致させた状態で設置作業が実施されているが、前記の3点を正確に一致させた状態で設置が行われても、その後に繰り返して実施される運転操作や地震などの振動の影響によって、前記の3点にズレが生じることは避けられない。
しかしながら、従来は、IGRT法を実施する放射線治療装置において、治療用X線の実際のアイソセンターと、位置決定用レーザー光による仮想アイソセンターと、診断用X線撮影装置から照射される診断用X線の中心位置とが一致しているか否かの検査を簡便に実施する方法は知られていなかった。また、高エネルギーX線である治療用X線を用いて撮影された情報をもとに位置確認を実施した場合は、画像のコントラストが得られず、正確性には欠けていた。
従って、本発明の目的は、診断用X線撮影装置を備えた放射線治療装置において、治療用X線の実際のアイソセンターと、位置決定用レーザー光による仮想アイソセンターと変位(ズレ)を測定すると共に、治療用X線の実際のアイソセンターと、前記診断用X線撮影装置から照射される診断用X線の中心位置との変位(ズレ)を測定する手段を提供することにある。
【0019】
また、本発明の別の目的は、前記の変位測定値を利用して、位置決定用レーザー光により決定される仮想アイソセンターを移動させることにより、前記仮想アイソセンターと、治療用X線による実際のアイソセンターの位置及び/又は診断用X線撮影装置から照射される診断用X線の中心位置とを一致させる調整手段を提供することにある。
【0020】
更に、本発明の別の目的は、変位測定用ファントムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前記課題は、本発明により、
放射線治療室内の壁面から照射される位置決定用レーザー光により決定される仮想アイソセンターに対して、放射線治療室の治療台上に載置された変位測定用ファントムの内部に包埋されているX線吸収体が一致する位置で前記変位測定用ファントムを固定し、続いて以下の工程(1)及び工程(2)を任意の順序で実施することを特徴とする、前記位置決定用レーザー光による仮想アイソセンターの位置に対して、前記放射線治療装置のガントリーから照射される治療用X線による実際のアイソセンターの位置との変位及び前記放射線治療装置の診断用X線撮影装置から照射される診断用X線の中心位置との変位を測定する方法:
工程(1)
前記ガントリーから前記X線吸収体に治療用X線を照射して得られる照射画像情報から、前記治療用X線による実際のアイソセンターの位置と、仮想アイソセンターに配置された前記X線吸収体の位置との変位を測定する工程、及び
工程(2)
前記診断用X線撮影装置から前記X線吸収体に診断用X線を照射して得られる照射画像情報から、前記診断用X線の中心位置と、仮想アイソセンターに配置された前記X線吸収体の位置との変位を測定する工程
によって、解決することができる。
【0022】
本発明による測定方法の好ましい態様においては、位置決定用レーザー光が、X軸方向位置決定用レーザー光と、Y軸方向位置決定用レーザー光と、Z軸方向位置決定用レーザー光とからなり、それらの位置決定用レーザー光が、放射線治療室内の天井及び側壁面に設けられた位置決定用レーザー光照射手段から一枚の平面状に相互に直交して照射される。
本発明による測定方法の別の好ましい態様においては、前記ガントリーから前記X線吸収体に治療用X線を照射して得られる照射画像情報を、ガントリーからX線吸収体を通過して延びる通路上に設けた画像収集手段において取得する。
本発明による測定方法の更に別の好ましい態様においては、前記診断用X線撮影装置から前記X線吸収体に診断用X線を照射して得られる照射画像情報を、前記診断用X線撮影装置の診断用X線照射部からX線吸収体を通過して延びる通路上に設けた診断用X線検出部において取得する。
【0023】
また、本発明は、仮想アイソセンター、実際のアイソセンター、又は診断用X線の中心位置のいずれか1点を調整基準点として選定し、請求項1に記載の工程(1)及び工程(2)によって得られる各変位の測定値を利用して、選定された調整基準点以外の2点を調整基準点と一致するように移動させ、仮想アイソセンターと、実際のアイソセンターと、診断用X線の中心位置とを一致させる調整方法にも関する。
【0024】
更に、本発明は、仮想アイソセンター、実際のアイソセンター、又は診断用X線の中心位置の内からいずれか1点を調整基準点として選定し、選定された調整基準点以外の2点の内の1点を第1移動点、もう一方の1点を第2移動点とし、請求項1に記載の工程(1)又は工程(2)のいずれか一方の工程を実施して得られる変位の測定値を利用して、第1移動点を調整基準点と一致するように移動させ、続いて、請求項1に記載の工程(1)又は工程(2)のもう一方の工程を実施して得られる変位の測定値を利用して、第2移動点を調整基準点と一致するように移動させ、仮想アイソセンターと、実際のアイソセンターと、診断用X線の中心位置とを一致させる調整方法にも関する。
【0025】
本発明による調整方法の好ましい態様においては、仮想アイソセンターの移動を、放射線治療室内の壁面に設けた位置決定用レーザー光照射手段の調整により実施し、実際のアイソセンターの移動を、放射線治療装置の調整により実施し、診断用X線の中心位置の移動を、放射線治療装置の設けた診断用X線撮影装置の調整により実施する。
本発明による調整方法の別の好ましい態様においては、実際のアイソセンターを調整基準点として選定する。
本発明による調整方法の更に別の好ましい態様においては、実際のアイソセンターを調整基準点として選定し、仮想アイソセンターを第1移動点として選定し、診断用X線の中心位置を第2移動点として選定する。
【0026】
更に、本発明は、放射線治療室内の壁面から照射される位置決定用レーザー光により決定される仮想アイソセンターに対して、放射線治療室の治療台上に載置された変位測定用ファントムの内部に包埋されているX線吸収体が一致する位置で前記変位測定用ファントムを固定し、放射線治療装置のガントリーを、ガントリー回転手段によってアイソセンターを回転中心として回転させた場合の最頂上部に位置させ、続いて、最頂上部に位置するガントリーから治療用X線を床面に向かって鉛直方向に照射させ、前記X線吸収体を照射した後の照射画像情報から、治療用X線が描く軌跡と、治療台回転盤の回転軸との変位を測定する方法にも関する。
また、前記測定方法において得られた変位の測定結果を利用して、ガントリー回転手段によってアイソセンターを回転中心として回転させた場合の最頂上部に位置させたガントリーから照射される治療用X線が描く軌跡と、治療台回転盤の回転軸との変位を調整する方法にも関する。
【0027】
本発明による調整方法の更に別の好ましい態様においては、前記測定方法において得られた変位の測定結果を利用して、放射線治療装置の治療台を移動させることにより、前記治療台上に固定された患者の治療目標患部と、治療用X線による実際のアイソセンターの位置とを一致させる。
【0028】
更に、本発明は、放射線治療室の位置決定用レーザー光による仮想アイソセンターと、放射線治療装置の診断用X線撮影装置とを利用して、放射線治療装置のガントリーから照射される治療用X線による実際のアイソセンターの位置と、放射線治療室の治療台上に載置された患者の治療目標患部とを一致させるための治療台の移動制御を行う制御システムにも関する。
【0029】
更に、本発明は、放射線治療装置のガントリーから照射される治療用X線による実際のアイソセンターの位置と、放射線治療室内の壁面から照射される位置決定用レーザー光により決定される仮想アイソセンターの位置と、診断用X線撮影装置から前記X線吸収体に診断用X線を照射することにより、前記診断用X線撮影装置から照射される診断用X線の中心位置との変位を測定するためのファントムにも関する。
【発明の効果】
【0030】
本発明の測定方法は、治療用X線の実際のアイソセンターと、位置決定用レーザー光による仮想アイソセンターと、診断用X線撮影装置から照射される診断用X線の中心位置とが一致しているか否かの検査を簡便に行うことができる。
【0031】
本発明の調整方法は、前記測定方法により得られた変位測定値を利用して、治療用X線の実際のアイソセンターと、位置決定用レーザー光による仮想アイソセンターと、診断用X線撮影装置から照射される診断用X線の中心位置とを一致させることができる。
【0032】
本発明の変位測定用ファントムは、前記測定方法及び調整方法に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】放射線治療装置の模式的斜視図である。
【図2】皮膚マークを付けた後の患者の状態を示す模式的斜視図である。
【図3】皮膚マークと位置決定用レーザー光とを一致させた状態の患者を示す模式的斜視図である。
【図4】本発明による変位測定用ファントムの模式的斜視図である。
【図5】本発明による変位測定用ファントムに用いる位置検出部の模式的部分拡大図である。
【図6】図5の位置検出部の一部を切り欠いて示す模式的部分拡大図である。
【図7】本発明による変位測定用ファントムに用いる保持盤部の一部を切り欠いて示す模式的側面図である。
【図8】本発明による変位測定用ファントムの使用状態を示す模式的斜視図である。
【図9】ズレ検出用レーザー光吸収領域を設けない場合における、位置決定用レーザー光と位置決定用レーザー光吸収帯とを一致させる方法を説明するための図である。
【図10】ズレ検出用レーザー光吸収領域を設けた場合における、位置決定用レーザー光と位置決定用レーザー光吸収帯とを一致させる方法を説明するための図である。
【図11】図1に示す放射線治療装置における変位測定方法及び変位調整方法を示す模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
最初に、本発明の測定方法に用いる変位測定用ファントムの好ましい態様の一例を図4〜図7に沿って説明する。
図4は、変位測定用ファントム10の模式的斜視図であり、変位測定用ファントム10は、位置検出部1と保持盤部2とを含む。図5は、位置検出部1の模式的部分拡大図であり、図6は、位置検出部1の一部を切り欠いて示す模式的部分拡大図であり、図7は、保持盤部2の一部を切り欠いて示す模式的側面図である。
【0035】
図4〜図7に示すとおり、変位測定用ファントム10の位置検出部1は、前記保持盤部2の上面に固定して設けられ、X線吸収体11とX線透過性材料からなる保持棒部12とを有しており、X線吸収体11はX線透過性保持棒部12の内部に包埋されている。
X線透過性保持棒部12の表面には、位置決定用レーザー光吸収帯14及びズレ検出用レーザー光吸収領域16が設けられている。
位置検出部1の保持棒部12は、棒状体の一方の端部側で保持盤部2に固定されており、もう一方の端部側を保持盤部2から突出させており、自由先端部を有していることが好ましい。
【0036】
X線吸収体11は、治療用X線及び診断用X線を吸収する材料からできている。
X線吸収体11の材料としては、X線を吸収可能な材料である限り限定されるものではないが、X線の吸収能が高いことから、タングステンが好ましい。
X線吸収体11の形状は、位置の特定が可能である限り特に限定されないが、図4〜図7に示すような球状が好ましく、X線を吸収してX線画像を形成し、投影された円形の中心から位置を計測することができる。X線吸収体11の寸法も、位置の特定が可能である限り特に限定されないが、例えば、球状X線吸収体の場合は、直径が、好ましくは2mm〜10mm、より好ましくは3mm〜5mmである。
【0037】
保持棒部12におけるX線吸収体11の位置は、図4に示すように、X線画像を形成する際にX線の通路が保持盤部2に妨害されない位置である必要があり、保持盤部2に妨害されない限り、保持棒部12の中央の位置、保持盤部2に近い後方の位置に配置してもよいが、変位(ズレ)検出操作の容易性の観点から、保持盤部2から突出している部分、特には、保持棒部12の自由先端部に配置することが好ましい。
【0038】
保持棒部12の材料としては、保持棒部12の内部に含まれるX線吸収体11のみに治療用X線及び診断用X線を吸収させることが理想なので、治療用X線及び診断用X線に対して透過性を有する必要がある。また、内部にX線吸収体11を包埋して含有する必要がある。従って、X線透過性及び包埋操作の目視確認の容易性から、各種の透明合成樹脂(例えば、アクリル樹脂)が好ましく、透明なガラス等も好適である。
【0039】
保持棒部12の形状は、その内部にX線吸収体11を包埋することができ、更にその側面上に、後述する位置決定用レーザー光吸収帯及びズレ検出用レーザー光吸収領域を設けることのできる形状であれば限定されない。従って、図4〜図7に示すような正四角柱(断面が正方形の四角柱)に限定されず、例えば、円柱や四角柱(断面が長方形の四角柱を含む)の形状とすることができる。
【0040】
位置決定用レーザー光吸収帯14は、X軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14aとY軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14bとZ軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14cとからなる。
X軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14aは、正四角柱状の保持棒部12の上面12U、前方端面12T、及び下面12Dのそれぞれ幅方向の中央に、相互に連続する直線として設け、上面12Uと下面12Dの直線は相互に平行である。
Y軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14bは、正四角柱状の保持棒部12の左側面12L、前方端面12T、及び右側面12Rのそれぞれ幅方向の中央に、相互に連続する直線として設け、左側面12Lと右側面12Rの直線は相互に平行である。また、X軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14aと、Y軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14bは、保持棒部12の前方端面12Tの中心点で相互に直交する。
Z軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14cは、正四角柱状の保持棒部12の上面12U、左側面12L、下面12D、及び右側面12Rにおいて、前方端面12Tの4辺とそれぞれ平行に、相互に連続する直線として設け、上面12Uと下面12Dの直線は相互に平行であり、左側面12Lと右側面12Rの直線は相互に平行である。また、上面12Uと下面12Dの直線は、X軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14aの直線と直交し、左側面12Lと右側面12Rの直線は、Y軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14bの直線と直交する。なお、Z軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14cと前方端面12Tとの間隔は特に限定されないが、例えば、図4〜図7に示すように、前方端面12Tの各辺の長さの1/2とすることができる。
【0041】
位置決定用レーザー光吸収帯14(14a,14b,14c)は、図5及び図6に示すように、保持棒部12の内部に包埋して含まれているX線吸収体11の位置を示すために設けられている。
具体的には、図6に示すように、X軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14aに沿って保持棒部12を切断してできる断面と、Y軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14bに沿って保持棒部12を切断してできる断面と、Z軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14cに沿って保持棒部12を切断してできる断面との交点が、X線吸収体11の中心位置と完全に一致するように位置決定用レーザー光吸収帯14(14a,14b,14c)を設ける。
【0042】
保持棒部12の側面に設けた位置決定用レーザー光吸収帯14(14a,14b,14c)は、放射線治療室内の壁面(天井及び側面)から照射される位置決定用レーザー光35(35a,35b,35c)との位置合わせに用いることができる。具体的には、X軸方向位置決定用レーザー光35aが保持棒部12の側面に描く線状画像と、X軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14aとを一致させ、Y軸方向位置決定用レーザー光35bが保持棒部12の側面に描く線状画像と、Y軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14bとを一致させ、Z軸方向位置決定用レーザー光35cが保持棒部12の側面に描く線状画像と、Z軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14cとを一致させることにより、位置決定用レーザー光35(35a,35b,35c)による仮想アイソセンターの位置と、保持棒部12の内部に包埋されているX線吸収体11の位置を一致させることができる。
【0043】
前記の位置決定用レーザー光吸収帯14の幅は、位置決定用レーザー光35の線状画像との確実な一致性を確認することが目的なので、位置決定用レーザー光35が描く線状画像の幅(一般的には、1mm)とほぼ一致するかことが好ましく、極めて細い線状である。従って、位置決定用レーザー光吸収帯14の幅は、使用される位置決定用レーザー光35が描く線状画像の幅によって変化するが、一般的には、0.5〜1.5mm、特には1mmである。
【0044】
本発明のファントム10において、位置検出部1の保持棒部12はX線透過性材料からなるため、通常は透明であり、レーザー光も吸収せずに透過する。従って、保持棒部12の側面に設ける位置決定用レーザー光吸収帯14は、レーザー光(すなわち、位置決定用レーザー光35)を吸収して肉眼で観察可能にする材料から形成する必要がある。レーザー光吸収性材料(好ましくは、更にX線透過性材料)としては、公知の材料を用いることができ、保持棒部12の側面に公知の方法によって塗布することにより形成することができる。また、保持棒部12の側面に線状の溝を設け、その溝にレーザー光吸収性材料を充填して位置決定用レーザー光吸収帯14を形成することもできる。
【0045】
本発明のファントム10において、位置検出部1の保持棒部12には、更にズレ検出用レーザー光吸収領域16を設けることができる。ズレ検出用レーザー光吸収領域16は、X軸方向ズレ検出用レーザー光吸収領域16a、Y軸方向ズレ検出用レーザー光吸収領域16b、及びZ軸方向ズレ検出用レーザー光吸収領域16cの少なくともいずれか1つに設け、好ましくは全てに設ける。ズレ検出用レーザー光吸収領域16は、位置決定用レーザー光吸収帯14と交差(好ましくは直交)させる。ズレ検出用レーザー光吸収領域16は、位置決定用レーザー光吸収帯14と同様に、レーザー光(すなわち、位置決定用レーザー光35)を吸収して肉眼で観察可能にする材料から形成する必要がある。レーザー光吸収性材料(好ましくは、更にX線透過性材料)としては、公知の材料を用いることができ、保持棒部12の側面に公知の方法によって塗布することにより形成することができる。また、保持棒部12の側面に線状の溝を設け、その溝にレーザー光吸収性材料を充填してズレ検出用レーザー光吸収領域16を形成することもできる。
【0046】
ズレ検出用レーザー光吸収領域16は、位置決定用レーザー光吸収帯14(14a,14b,14c)と、位置決定用レーザー光35(35a,35b,35c)が保持棒部12の側面に描く線状画像とを、位置決定用レーザー光吸収帯14の一側面の全長にわたって一致させる操作を容易にするために使用される。
例えば、X軸方向位置決定用レーザー光35aが保持棒部12の側面に描く線状画像と、X軸方向位置決定用レーザー光吸収帯14aとが一致しないと、図9に示すように、両者の交差点Eでのみレーザー光の吸収が起こり、それ以外の箇所ではレーザー光が透過されるので、両者の線のズレの方向や程度を判断することができないか、極めて困難である。
【0047】
これに対し、X軸方向ズレ検出用レーザー光吸収領域16aも設けると、図10に示すように、位置決定用レーザー光35aが軸方向ズレ検出用レーザー光吸収領域16aとの交差点F及びGでも吸収され、交差点E、F、及びGの3点で位置決定用レーザー光35aが吸収されて観察可能になるため、両者の線のズレの方向や程度を簡単に判断することができ、位置決定用レーザー光吸収帯14(14a,14b,14c)の長さ方向の全体と、位置決定用レーザー光35(35a,35b,35c)が保持棒部12の側面に描く線状画像の全体とを、位置決定用レーザー光吸収帯14の一側面の全長にわたって一致させる操作を容易に行うことができる。
【0048】
従って、ズレ検出用レーザー光吸収領域16を設ける位置は、両者の線のズレの方向や程度の判断を容易にすることが可能な位置であれば特に限定されないが、例えば、図4〜図7に示すように、保持棒部12の各側面に設けた位置決定用レーザー光吸収帯14の少なくとも1端部、好ましくは両端部に、位置決定用レーザー光吸収帯14と交差(好ましくは直交)する帯状体や線状体として設けることができる。
【0049】
本発明のファントムにおいて、位置検出部1は、X線透過性保持棒部12が透明アクリル樹脂などからなるため、位置検出部1が内部に包埋して含んでいるX線吸収体11は、外側から肉眼で明瞭に観察することができる。また、観察している側と反対側の稜線や、反対側の側面に設けた位置決定用レーザー光吸収帯及びズレ検出用レーザー光吸収領域も肉眼で確認することができる。しかしながら、図4、図5、図7及び図8においては、位置検出部1の構造の理解を容易にする目的で、保持棒部12は、不透明な材質から形成されているものとして図示しており、目視可能な反対側の稜線や、反対側の側面に設けた位置決定用レーザー光吸収帯及びズレ検出用レーザー光吸収領域は図示していない。また、X線吸収体11は、その位置の理解を容易にする目的で、点線で図示している。
【0050】
本発明のファントムにおいて、保持盤部2は、図4に示すように、ベース盤21、微調整手段23、及びおもり25を有することができる。
ベース盤21は、放射線治療装置の治療台上に載置可能な底面を有すると共に、上面側に微調整手段23を保持している。微調整手段23は、位置検出部1と保持盤部2との連結接続手段としても機能し、おもり25を備えていることができる。
【0051】
微調整手段23は、位置検出部1と保持盤部2との具体的な連結接続手段である微調整部ベース盤23dを含み、その微調整部ベース盤23dの上に、例えば、第1高さ調整部23a、第2高さ調整部23b、及び第3高さ調整部23cを含むことができる。
微調整手段23は、位置検出部1の高さを微調整しながら、位置検出部1に設けられた位置決定用レーザー光吸収帯14(14a,14b,14c)と位置決定用レーザー光35(35a,35b,35c)とを一致させたい場合に使用される。微調整手段23は、図7に示すように、回転ネジからなることができる。なお、微調整部ベース盤23dには、水平方向調整手段(図示せず)を設けることもできる。
微調整が必要でない場合には、微調整手段23を設けず、位置検出部1をベース盤21に直接保持させることもできる。
おもり25は、位置決定用レーザー光吸収帯14(14a,14b,14c)と位置決定用レーザー光35(35a,35b,35c)とを一致させた後に、その場所から、変位測定用ファントム10が簡単に移動しないようにする必要がある場合に設ける。
【0052】
次に、前記変位測定用ファントムを用いて実施する本発明の変位測定方法及び変位調整方法の代表的態様を図11に沿って説明する。
図11は、図1に示す放射線治療装置4を用いて、本発明の変位測定方法及び変位調整方法を実施する場合を模式的に説明する斜視図である。
【0053】
通常、放射線治療装置4を設置している放射線治療室には、その床面に、治療台46を回転させるための治療台回転盤57が設けられており、この治療台回転盤57は、回転中心53を中心として、図11の矢印Aに示すように、床面から天井方向へ垂直に上方に延びる回転軸に対して両方向(時計回り又は反時計回り)に回転させることができ、任意の回転角度で静止させ、固定させることができる。
【0054】
また、放射線治療室の治療台46は、前記治療台回転盤57と、治療台保持用フレーム59によって連結されているので、治療台46と治療台回転盤57とを一体的に回転させることが可能となり、治療台46は、回転中心53を中心として、床面と平行に両方向(時計回り又は反時計回り)に回転し、任意の回転位置で静止して固定することが可能となる。治療台46には、治療台46を床面と平行に前記回転軸から離れる方向又は近づく方向(B方向)に移動させるための位置調整手段(図示せず)や、治療台46を床面に対して垂直方向(C方向)に上昇又は降下させるための位置調整手段(図示せず)も備えている。
【0055】
放射線治療室に放射線治療装置4を最初に設置する際には、その放射線治療室の床面に設けた治療台回転盤57の回転軸55と完全に一致する治療用X線が、ガントリー41から照射可能になる位置に、放射線治療装置4を設置する。すなわち、放射線治療装置4のガントリー41は、ガントリー回転手段42によってアイソセンターを回転中心として360°回転させることが可能であるが、そのガントリー41を最頂上部に位置させて床面に向かって鉛直方向に治療用X線を照射した場合に、その治療用X線が描く軌跡が、治療台回転盤57の回転軸55と完全に一致することになるように、放射線治療装置4を放射線治療室に設置する。あるいは、一致させずに設置することもできるが、その場合は、最頂上部に位置するガントリー41から床面に向かって鉛直方向に照射される治療用X線の軌跡と、治療台回転盤57の回転軸55とのズレを正確に計測し、そのズレに基づいてアイソセンターの位置と治療台46との位置調整を実施する必要がある。なお、前記の条件を満たすように放射線治療装置4を放射線治療室に設置した後に、繰り返して実施される運転操作や地震などの振動の影響で、放射線治療装置4と前記回転軸55とが当初の相対位置からずれてしまうことがあるが、そのズレの検出も、前記変位測定用ファントムを用いて検出することができる。この点は後述する。
【0056】
また、放射線治療装置4を放射線治療室に最初に設置する際には、位置決定用レーザー光の交差点(仮想アイソセンター)と、治療用X線によるアイソセンター(実際のアイソセンター)とが正確に一致するように設置する。すなわち、放射線治療室内の壁面(すなわち、天井や側壁面)には、位置決定用レーザー光の照射手段(図示せず)が設けられており、それらの照射手段から照射されるX軸方向位置決定用レーザー光35aと、Y軸方向位置決定用レーザー光35bと、Z軸方向位置決定用レーザー光35cとが交差する点を仮想アイソセンターとして用いる必要があり、この仮想アイソセンターは、治療用X線によるアイソセンター(実際のアイソセンター)と正確に一致する必要があるので、この条件を満たすように、放射線治療装置4を放射線治療室に設置する。設置当初はこの条件を満たしている場合でも、その後の運転操作や地震などの振動の影響で、仮想アイソセンターと実際のアイソセンターとがずれてしまうことがある。このようなズレは、一般に、1mm以内に抑制することが望まれている。本発明によれば、前記変位測定用ファントムを用いて前記のズレを精密に検出することができ、ズレの精密な矯正が可能になる。
【0057】
また、診断用X線撮影装置44を備えた放射線治療装置4では、診断用X線の線束の中心と、治療用X線の実際のアイソセンターとが正確に一致するように診断用X線撮影装置44を取り付けている。しかしながら、繰り返される運転操作や地震などの振動の影響で、診断用X線の線束の中心と、治療用X線の実際のアイソセンターとがずれてしまうことがあるが、前記変位測定用ファントムを用いて前記のズレも精密に検出することができる。
【0058】
前記の変位測定用ファントムを用いて、前記の各々の変位(ズレ)を検出し、必要によって変位を修正して調整する方法は、いずれも、以下の工程(1)〜(3)を含む。
(1)変位の検出工程、
(2)必要により、変位の修正工程、及び
(3)好ましくは、修正の確認工程。
なお、後述するが、変位(ズレ)を検出し、その変位を修正ないし調整せずに、変位の測定値を利用して、治療台の移動制御を行い、患者の治療患部を実際のアイソセンターと一致させることもできる。
【0059】
実際のアイソセンターと仮想アイソセンターとの変位(ズレ)に関する検出・調整方法は、例えば、以下の工程(A)〜(E)を含む。
(A)変位測定用ファントム載置工程
この工程は、前記変位測定用ファントム10を放射線治療装置の治療台46上へ載せる工程であり、前記変位測定用ファントム10に含まれるX線吸収体11の位置が、仮想アイソセンターとほぼ一致するように載置するのが好ましい。その際、図11に示すように、X線吸収体11を包埋して含む保持棒部12の自由先端部を治療台端部47から突出させ、ガントリー41から照射される治療用X線が、治療台46と接触しないように配置するのが好ましい。
【0060】
(B)仮想アイソセンターとX線吸収体とを一致させる工程
この工程では、治療台46に載置された前記変位測定用ファントム10に対して、放射線治療室内の壁面(すなわち、天井や側壁面)から位置決定用レーザー光35を照射し、位置決定用レーザー光35によって決定される仮想アイソセンターと、X線吸収体11の位置とを一致させる。この際、位置決定用レーザー光35の照射手段は移動させず、前記変位測定用ファントム10が載置されている治療台46を移動させるか、前記治療台46上で変位測定用ファントム10を移動させるか、あるいは治療台46の移動とファントム10の移動とを組合せて、X線吸収体11の位置を移動させる。微調整手段23による微調整を適宜組合せることもできる。
【0061】
(C)仮想アイソセンターと実際のアイソセンターとの変位測定工程
この工程では、放射線治療装置のガントリー41を回転させ、種々の方向(位置)から治療用X線をX線吸収体11に対して照射して照射画像情報(例えば、X線画像又は画像信号)を取得し、仮想アイソセンターの正確な位置に配置されているX線吸収体11と、実際にガントリーから照射される治療用X線によって形成される実際のアイソセンターとの変位(ズレ)を測定する。照射画像情報は、画像収集手段48によって取得する。画像収集手段48は、ガントリーから照射された治療用X線が、アイソセンターを通過してその延長線を進む通路上に設ける。ガントリー41はアイソセンターを回転中心としてガントリー回転手段42によって360°回転するので、画像収集手段48も、それに伴って、アイソセンターの反対側を360°回転する。照射画像情報は、例えば、回転角45°又は90°毎に取得する。
【0062】
(D)仮想アイソセンターの修正工程
この工程は、仮想アイソセンターと実際のアイソセンターとがずれていた場合に実施する。両者のズレは、X線照射画像情報によって正確に測定されるので、その測定結果に基づいて、いずれか一方の位置を移動させる。調整操作の容易さから、仮想アイソセンターの位置を移動するのが好ましい。仮想アイソセンターの位置は、放射線治療室内の壁面に設けた位置決定用レーザー光照射手段の照射方向を調整することによって実施することができる。
【0063】
(E)修正の確認工程
前記工程(D)による修正を確認することが好ましい。この工程(E)は、修正後の仮想アイソセンターに対して、前記工程(A)「変位測定用ファントム載置工程」、前記工程(B)「仮想アイソセンターとX線吸収体とを一致させる工程」、及び前記工程(C)「仮想アイソセンターと実際のアイソセンターとの変位測定工程」と同様の操作を実施し、仮想アイソセンターと実際のアイソセンターとに変位(ズレ)がないことを確認するものである。
【0064】
前記の工程(A)〜(E)を実施すると、仮想アイソセンターと実際のアイソセンターとが正確に一致するので、図3に示すように、放射線治療室内の壁面(天井及び側面)から位置決定用レーザー光35を患者3に照射し、位置決定用レーザー光35a,35b,35cが皮膚マーク31と一致するように治療台46を移動させ、完全に一致した地点で治療台46を固定するだけで、治療目標患部33とアイソセンター(実際のアイソセンター)とを一致させることができる。
【0065】
前記の工程(A)及び(B)を実施して変位(ズレ)を検出した後、その変位を修正ないし調整せずに、変位の測定値を利用して、治療台の移動制御を行い、患者の治療患部を実際のアイソセンターと一致させることもできる。すなわち、図3に示すように、放射線治療室内の壁面(天井及び側面)から位置決定用レーザー光35を患者3に照射し、位置決定用レーザー光35a,35b,35cが皮膚マーク31と一致するように治療台46を移動させ、完全に一致した地点で治療台46を静止させ、続いて、前記の工程(A)及び(B)によって得られた測定値に従って、治療台46を移動させると、治療目標患部33とアイソセンター(実際のアイソセンター)とを一致させることができる。なお、治療台の移動制御を行うプログラムを含む制御システムを利用する場合は、前記の工程(A)及び(B)によって得られた変位の測定結果を前記プログラムに導入することにより、制御システムに従って治療台46を移動させ、治療目標患部33とアイソセンター(実際のアイソセンター)とを一致させることができる。
【0066】
次に、診断用X線の線束の中心と実際のアイソセンター71とのズレに関する検出・調整方法について説明する。この方法は、仮想アイソセンターと実際のアイソセンターとの変位測定及び場合により実施する変位調整を実施する前に、あるいはその後に実施することができる。また、仮想アイソセンターと実際のアイソセンターとの変位測定の後に実施する場合は、変位調整工程の前に実施することも、あるいはその変位調整工程の後に実施することもできる。以下に、仮想アイソセンターと実際のアイソセンターとの変位測定及び変位調整工程を行った後に実施する好ましい態様に関して説明する。
【0067】
(イ)変位測定用ファントム載置工程
この工程は、前記変位測定用ファントム10を放射線治療装置の治療台46上へ載せる工程であり、前記変位測定用ファントム10に含まれるX線吸収体11の位置が、仮想アイソセンターとほぼ一致するように載置するのが好ましい。その際、図11に示すように、X線吸収体11を包埋して含む保持棒部12の自由先端部を治療台端部47から突出させ、診断用X線照射部44aから照射される診断用X線が、治療台46と接触しないように配置するのが好ましい。
【0068】
(ロ)仮想アイソセンターとX線吸収体とを一致させる工程
この工程では、治療台46に載置された前記変位測定用ファントム10に対して、放射線治療室内の壁面(すなわち、天井や側壁面)から位置決定用レーザー光35を照射し、位置決定用レーザー光35によって決定される仮想アイソセンターと、X線吸収体11の位置とを一致させる。この際、位置決定用レーザー光35の照射手段は移動させず、前記変位測定用ファントム10が載置されている治療台46を移動させるか、前記治療台46上で変位測定用ファントム10を移動させるか、あるいは治療台46の移動とファントム10の移動とを組合せて、X線吸収体11の位置を移動させる。微調整手段23による微調整を適宜組合せることもできる。予め、仮想アイソセンターを実際のアイソセンターと正確に一致させておけば、この工程によって、X線吸収体11と実際のアイソセンターとが正確に一致することになる。
【0069】
(ハ)診断用X線撮影工程
この工程では、放射線治療装置の診断用X線撮影装置44をアイソセンターを中心に回転させ、種々の方向(位置)から診断用X線をX線吸収体11に対して照射して照射画像情報(例えば、X線画像又は画像信号)を取得し、実際のアイソセンター(=仮想アイソセンター)の位置に正確に配置されているX線吸収体11と、診断用X線照射部44aから照射される診断用X線の線束の中心との変位(ズレ)を測定する。照射画像情報は、診断用X線検出部44bによって取得する。診断用X線検出部44bは、診断用X線照射部44aから照射された診断用X線が、アイソセンターを通過してその延長線を進む通路上に設ける。診断用X線撮影装置44を構成する診断用X線照射部44aと診断用X線検出部44bとは、回転中心であるアイソセンターを挟んで反対側に配置され、診断用X線撮影装置44は、アイソセンターを回転中心としてガントリー回転手段42によって360°回転するので、診断用X線照射部44aと診断用X線検出部44bとは、それぞれアイソセンターの反対側を360°回転する。照射画像情報は、例えば、回転角45°又は90°毎に取得する。
(ニ)診断用X線撮影装置の修正工程
この工程は、診断用X線撮影装置による診断用X線の線束の中心と実際のアイソセンター(=仮想アイソセンター)とがずれていた場合に実施する。両者のズレは、照射画像情報によって正確に測定されるので、その測定結果に基づいて、診断用X線撮影装置の位置を移動させる。
【0070】
(ホ)修正の確認工程
前記工程(ニ)による修正を確認することが好ましい。この工程(ホ)は、修正後の診断用X線撮影装置に対して、前記工程(イ)「変位測定用ファントム載置工程」、前記工程(ロ)「仮想アイソセンターとX線吸収体とを一致させる工程」、及び前記工程(ハ)「診断用X線撮影工程」と同様の操作を実施し、診断用X線撮影装置による診断用X線の線束の中心と実際のアイソセンター(=仮想アイソセンター)とに変位(ズレ)がないことを確認するものである。
【0071】
仮想アイソセンターと実際のアイソセンターとを一致させた後に、前記の工程(イ)〜(ホ)を実施すると、診断用X線の線束の中心と実際のアイソセンターとが正確に一致するので、図3に示すように、位置決定用レーザー光35を患者3に照射し、位置決定用レーザー光35a,35b,35cが皮膚マーク31と一致するように治療台46を移動させ、完全に一致した地点で治療台46を固定するだけで、治療目標患部33とアイソセンター(実際のアイソセンター)とを一致させることができる。
【0072】
放射線治療室の壁面に設けられた位置決定用レーザー光照射手段は、位置調整操作が比較的用意であるが、放射線治療装置4の位置調整は一般的に極めて困難であり、放射線治療装置4には、診断用X線撮影装置44の位置調整手段が備えられていない場合も多い。このような場合は、実際のアイソセンターと仮想アイソセンターと診断用X線の線束の中心とに変位が確認された場合でも、3つの点を完全に一致させることは実質的に困難であるが、仮想アイソセンターの位置を調整して、3つの点の誤差が1mm以内の範囲に収まるようにすることが好ましい。また、3つの点の誤差を1mm以内の範囲に収めることが困難な場合は、放射線治療装置4の位置調整か、診断用X線撮影装置44の位置調整を実施することが好ましい。
【0073】
前記の工程(イ)及び(ロ)を実施して変位(ズレ)を検出した後、その変位を修正ないし調整せずに、変位の測定値を利用して、治療台の移動制御を行い、患者の治療患部を実際のアイソセンターと一致させることもできる。すなわち、図3に示すように、放射線治療室内の壁面(天井及び側面)から位置決定用レーザー光35を患者3に照射し、位置決定用レーザー光35a,35b,35cが皮膚マーク31と一致するように治療台46を移動させ、完全に一致した地点で治療台46を静止させ、続いて、前記の工程(イ)及び(ロ)によって得られた測定値に従って、治療台46を移動させると、治療目標患部33とアイソセンター(実際のアイソセンター)とを一致させることができる。なお、治療台の移動制御を行うプログラムを含む制御システムを利用する場合は、前記の工程(イ)及び(ロ)によって得られた変位の測定結果を前記プログラムに導入することにより、制御システムに従って治療台46を移動させ、治療目標患部33とアイソセンター(実際のアイソセンター)とを一致させることができる。
【0074】
続いて、治療台回転盤57の回転軸55と、治療用X線との変位(ズレ)を検出し、修正・調整する方法を説明する。
この方法は、例えば、以下の工程(a)〜(e)を含む。
【0075】
(a)変位測定用ファントム載置工程
この工程は、前記変位測定用ファントム10を放射線治療装置の治療台46上へ載せる工程であり、前記変位測定用ファントム10に含まれるX線吸収体11の位置が、仮想アイソセンターとほぼ一致するように載置するのが好ましい。その際、図11に示すように、X線吸収体11を包埋して含む保持棒部12の自由先端部を治療台端部47から突出させ、ガントリー41から照射される治療用X線が、治療台46と接触しないように配置するのが好ましい。
【0076】
(b)仮想アイソセンターとX線吸収体とを一致させる工程
この工程では、治療台46に載置された前記変位測定用ファントム10に対して、放射線治療室内の壁面(すなわち、天井や側壁面)から位置決定用レーザー光35を照射し、位置決定用レーザー光35によって決定される仮想アイソセンターと、X線吸収体11の位置とを一致させる。この際、位置決定用レーザー光35の照射手段は移動させず、前記変位測定用ファントム10が載置されている治療台46を移動させるか、前記治療台46上で変位測定用ファントム10を移動させるか、あるいは治療台46の移動とファントム10の移動とを組合せて、X線吸収体11の位置を移動させる。微調整手段23による微調整を適宜組合せることもできる。
【0077】
(c)回転軸と治療用X線との変位測定工程
この工程では、ガントリー41を最頂上部に位置させた状態で、放射線治療室の治療台46を回転させて、最頂上部に位置させたガントリーから治療用X線をX線吸収体11に対して照射して照射画像情報(例えば、X線画像又は画像信号)を取得し、治療台回転盤57の回転軸55と、実際にガントリーから照射される治療用X線との変位(ズレ)を測定する。照射画像情報は、画像収集手段48によって取得する。画像収集手段48は、ガントリーから照射された治療用X線が、アイソセンターを通過してその延長線を進む通路上に設ける。治療台46は回転軸55を回転中心として180°回転する。照射画像情報は、例えば、回転角45°毎に取得する。
【0078】
(d)回転軸の修正工程
この工程は、治療台回転盤57の回転軸55と治療用X線とがずれていた場合に実施する。両者のズレは、X線照射画像情報によって正確に測定されるので、その測定結果に基づいて、回転軸55又は治療用X線(アイソセンター)のいずれか一方の位置を移動させる。
【0079】
(e)修正の確認工程
前記工程(d)による修正を確認することが好ましい。この工程(e)は、修正後の回転軸に対して、前記工程(a)「変位測定用ファントム載置工程」、前記工程(b)「仮想アイソセンターとX線吸収体とを一致させる工程」、及び前記工程(c)「回転軸と治療用X線との変位測定工程」と同様の操作を実施し、回転軸と治療用X線とに変位(ズレ)がないことを確認するものである。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明による測定方法、調整方法、及び変位測定用ファントムは、放射線治療装置において、治療用X線の実際のアイソセンターと、位置決定用レーザー光による仮想アイソセンターと、診断用X線撮影装置から照射される診断用X線の中心位置との変位(ズレ)を測定して、その変位を調整するために利用することができる。
【符号の説明】
【0081】
1・・・位置検出部;2・・・保持盤部;3・・・患者;4・・・放射線治療装置;
10・・・変位測定用ファントム;11・・・X線吸収体;12・・・保持棒部;
14・・・位置決定用レーザー光吸収帯;
14a・・・X軸方向位置決定用レーザー光吸収帯;
14b・・・Y軸方向位置決定用レーザー光吸収帯;
14c・・・Z軸方向位置決定用レーザー光吸収帯;
16・・・ズレ検出用レーザー光吸収領域;
16a・・・X軸方向ズレ検出用レーザー光吸収領域;
16b・・・Y軸方向ズレ検出用レーザー光吸収領域;
16c・・・Z軸方向ズレ検出用レーザー光吸収領域;
21・・・ベース盤;23・・・微調整手段;23a・・・第1高さ調整部;
23b・・・第2高さ調整部;23c・・・第3高さ調整部;
23d・・・微調整部ベース盤;25・・・おもり;
31・・・皮膚マーク;31a・・・X軸方向皮膚マーク;
31b・・・Y軸方向皮膚マーク;31c・・・Z軸方向皮膚マーク;
33・・・治療目標患部;35・・・位置決定用レーザー光;
35a・・・X軸方向位置決定用レーザー光;
35b・・・Y軸方向位置決定用レーザー光;
35c・・・Z軸方向位置決定用レーザー光;
37・・・アイソセンター;38・・・患者頭部固定用枕;41・・・ガントリー;
41a・・・治療用X線照射部;42・・・ガントリー回転手段;
44・・・診断用X線撮影装置;44a・・・診断用X線照射部;
44b・・・診断用X線検出部;46・・・治療台;47・・・治療台端部;
48・・・画像収集手段;53・・・回転中心;55・・・回転軸;
57・・・治療台回転盤;59・・・治療台保持用フレーム;
71・・・実際のアイソセンター。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線治療室内の壁面から照射される位置決定用レーザー光により決定される仮想アイソセンターに対して、放射線治療室の治療台上に載置された変位測定用ファントムの内部に包埋されているX線吸収体が一致する位置で前記変位測定用ファントムを固定し、続いて以下の工程(1)及び工程(2)を任意の順序で実施することを特徴とする、前記位置決定用レーザー光による仮想アイソセンターの位置に対して、前記放射線治療装置のガントリーから照射される治療用X線による実際のアイソセンターの位置との変位及び前記放射線治療装置の診断用X線撮影装置から照射される診断用X線の中心位置との変位を測定する方法:
工程(1)
前記ガントリーから前記X線吸収体に治療用X線を照射して得られる照射画像情報から、前記治療用X線による実際のアイソセンターの位置と、仮想アイソセンターに配置された前記X線吸収体の位置との変位を測定する工程、及び
工程(2)
前記診断用X線撮影装置から前記X線吸収体に診断用X線を照射して得られる照射画像情報から、前記診断用X線の中心位置と、仮想アイソセンターに配置された前記X線吸収体の位置との変位を測定する工程。
【請求項2】
位置決定用レーザー光が、X軸方向位置決定用レーザー光と、Y軸方向位置決定用レーザー光と、Z軸方向位置決定用レーザー光とからなり、それらの位置決定用レーザー光が、放射線治療室内の天井及び側壁面に設けられた位置決定用レーザー光照射手段から一枚の平面状に相互に直交して照射される請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
前記ガントリーから前記X線吸収体に治療用X線を照射して得られる照射画像情報を、ガントリーからX線吸収体を通過して延びる通路上に設けた画像収集手段において取得する、請求項1又は2に記載の測定方法。
【請求項4】
前記診断用X線撮影装置から前記X線吸収体に診断用X線を照射して得られる照射画像情報を、前記診断用X線撮影装置の診断用X線照射部からX線吸収体を通過して延びる通路上に設けた診断用X線検出部において取得する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項5】
仮想アイソセンター、実際のアイソセンター、又は診断用X線の中心位置のいずれか1点を調整基準点として選定し、請求項1に記載の工程(1)及び工程(2)によって得られる各変位の測定値を利用して、選定された調整基準点以外の2点を調整基準点と一致するように移動させ、仮想アイソセンターと、実際のアイソセンターと、診断用X線の中心位置とを一致させる調整方法。
【請求項6】
仮想アイソセンター、実際のアイソセンター、又は診断用X線の中心位置の内からいずれか1点を調整基準点として選定し、選定された調整基準点以外の2点の内の1点を第1移動点、もう一方の1点を第2移動点とし、請求項1に記載の工程(1)又は工程(2)のいずれか一方の工程を実施して得られる変位の測定値を利用して、第1移動点を調整基準点と一致するように移動させ、続いて、請求項1に記載の工程(1)又は工程(2)のもう一方の工程を実施して得られる変位の測定値を利用して、第2移動点を調整基準点と一致するように移動させ、仮想アイソセンターと、実際のアイソセンターと、診断用X線の中心位置とを一致させる調整方法。
【請求項7】
仮想アイソセンターの移動を、放射線治療室内の壁面に設けた位置決定用レーザー光照射手段の調整により実施し、実際のアイソセンターの移動を、放射線治療装置の調整により実施し、診断用X線の中心位置の移動を、放射線治療装置の設けた診断用X線撮影装置の調整により実施する、請求項5又は6に記載の調整方法。
【請求項8】
実際のアイソセンターを調整基準点として選定する請求項5又は7に記載の調整方法。
【請求項9】
実際のアイソセンターを調整基準点として選定し、仮想アイソセンターを第1移動点として選定し、診断用X線の中心位置を第2移動点として選定する請求項6又は7に記載の調整方法。
【請求項10】
放射線治療室内の壁面から照射される位置決定用レーザー光により決定される仮想アイソセンターに対して、放射線治療室の治療台上に載置された変位測定用ファントムの内部に包埋されているX線吸収体が一致する位置で前記変位測定用ファントムを固定し、放射線治療装置のガントリーを、ガントリー回転手段によってアイソセンターを回転中心として回転させた場合の最頂上部に位置させ、続いて、最頂上部に位置するガントリーから治療用X線を床面に向かって鉛直方向に照射させ、前記X線吸収体を照射した後の照射画像情報から、治療用X線が描く軌跡と、治療台回転盤の回転軸との変位を測定する方法。
【請求項11】
請求項10に記載の測定方法において得られた変位の測定結果を利用して、ガントリー回転手段によってアイソセンターを回転中心として回転させた場合の最頂上部に位置させたガントリーから照射される治療用X線が描く軌跡と、治療台回転盤の回転軸との変位を調整する方法。
【請求項12】
請求項1〜4及び10のいずれか一項に記載の測定方法において得られた変位の測定結果を利用して、放射線治療装置の治療台を移動させることにより、前記治療台上に固定された患者の治療目標患部と、治療用X線による実際のアイソセンターの位置とを一致させる調整方法。
【請求項13】
放射線治療室の位置決定用レーザー光による仮想アイソセンターと、放射線治療装置の診断用X線撮影装置とを利用して、放射線治療装置のガントリーから照射される治療用X線による実際のアイソセンターの位置と、放射線治療室の治療台上に載置された患者の治療目標患部とを一致させるための治療台の移動制御を行う制御システムであって、
前記仮想アイソセンターの位置に対して、前記放射線治療装置のガントリーから照射される治療用X線による実際のアイソセンターの位置との変位及び前記放射線治療装置の診断用X線撮影装置から照射される診断用X線の中心位置との変位に関して、請求項1〜4のいずれか一項に記載の測定方法において得られた変位の測定結果を導入することを特徴とする、前記の制御システム。
【請求項14】
放射線治療装置のガントリーから照射される治療用X線による実際のアイソセンターの位置と、放射線治療室内の壁面から照射される位置決定用レーザー光により決定される仮想アイソセンターの位置と、診断用X線撮影装置から前記X線吸収体に診断用X線を照射することにより、前記診断用X線撮影装置から照射される診断用X線の中心位置との変位を測定するためのファントムであって、
(1)放射線治療装置の治療台上に載置可能な底面を有する保持盤部、及び
(2)前記保持盤部の上面に設けられた位置検出部
を含み、前記位置検出部が、
(a)X線透過性材料からなる保持棒部、
(b)前記保持棒部の内部に包埋されたX線吸収体、
(c)前記保持棒部表面に設けられ、放射線治療室内の壁面から照射される位置決定用レーザー光が前記保持棒部の表面に描く線状画像と一致する形状を有する線状レーザー光吸収帯、及び
(d)前記線状レーザー光吸収帯に交差させて前記保持棒部表面に設けたズレ検出用レーザー光吸収領域
を含むことを特徴とする、変位測定用ファントム。
【請求項1】
放射線治療室内の壁面から照射される位置決定用レーザー光により決定される仮想アイソセンターに対して、放射線治療室の治療台上に載置された変位測定用ファントムの内部に包埋されているX線吸収体が一致する位置で前記変位測定用ファントムを固定し、続いて以下の工程(1)及び工程(2)を任意の順序で実施することを特徴とする、前記位置決定用レーザー光による仮想アイソセンターの位置に対して、前記放射線治療装置のガントリーから照射される治療用X線による実際のアイソセンターの位置との変位及び前記放射線治療装置の診断用X線撮影装置から照射される診断用X線の中心位置との変位を測定する方法:
工程(1)
前記ガントリーから前記X線吸収体に治療用X線を照射して得られる照射画像情報から、前記治療用X線による実際のアイソセンターの位置と、仮想アイソセンターに配置された前記X線吸収体の位置との変位を測定する工程、及び
工程(2)
前記診断用X線撮影装置から前記X線吸収体に診断用X線を照射して得られる照射画像情報から、前記診断用X線の中心位置と、仮想アイソセンターに配置された前記X線吸収体の位置との変位を測定する工程。
【請求項2】
位置決定用レーザー光が、X軸方向位置決定用レーザー光と、Y軸方向位置決定用レーザー光と、Z軸方向位置決定用レーザー光とからなり、それらの位置決定用レーザー光が、放射線治療室内の天井及び側壁面に設けられた位置決定用レーザー光照射手段から一枚の平面状に相互に直交して照射される請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
前記ガントリーから前記X線吸収体に治療用X線を照射して得られる照射画像情報を、ガントリーからX線吸収体を通過して延びる通路上に設けた画像収集手段において取得する、請求項1又は2に記載の測定方法。
【請求項4】
前記診断用X線撮影装置から前記X線吸収体に診断用X線を照射して得られる照射画像情報を、前記診断用X線撮影装置の診断用X線照射部からX線吸収体を通過して延びる通路上に設けた診断用X線検出部において取得する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項5】
仮想アイソセンター、実際のアイソセンター、又は診断用X線の中心位置のいずれか1点を調整基準点として選定し、請求項1に記載の工程(1)及び工程(2)によって得られる各変位の測定値を利用して、選定された調整基準点以外の2点を調整基準点と一致するように移動させ、仮想アイソセンターと、実際のアイソセンターと、診断用X線の中心位置とを一致させる調整方法。
【請求項6】
仮想アイソセンター、実際のアイソセンター、又は診断用X線の中心位置の内からいずれか1点を調整基準点として選定し、選定された調整基準点以外の2点の内の1点を第1移動点、もう一方の1点を第2移動点とし、請求項1に記載の工程(1)又は工程(2)のいずれか一方の工程を実施して得られる変位の測定値を利用して、第1移動点を調整基準点と一致するように移動させ、続いて、請求項1に記載の工程(1)又は工程(2)のもう一方の工程を実施して得られる変位の測定値を利用して、第2移動点を調整基準点と一致するように移動させ、仮想アイソセンターと、実際のアイソセンターと、診断用X線の中心位置とを一致させる調整方法。
【請求項7】
仮想アイソセンターの移動を、放射線治療室内の壁面に設けた位置決定用レーザー光照射手段の調整により実施し、実際のアイソセンターの移動を、放射線治療装置の調整により実施し、診断用X線の中心位置の移動を、放射線治療装置の設けた診断用X線撮影装置の調整により実施する、請求項5又は6に記載の調整方法。
【請求項8】
実際のアイソセンターを調整基準点として選定する請求項5又は7に記載の調整方法。
【請求項9】
実際のアイソセンターを調整基準点として選定し、仮想アイソセンターを第1移動点として選定し、診断用X線の中心位置を第2移動点として選定する請求項6又は7に記載の調整方法。
【請求項10】
放射線治療室内の壁面から照射される位置決定用レーザー光により決定される仮想アイソセンターに対して、放射線治療室の治療台上に載置された変位測定用ファントムの内部に包埋されているX線吸収体が一致する位置で前記変位測定用ファントムを固定し、放射線治療装置のガントリーを、ガントリー回転手段によってアイソセンターを回転中心として回転させた場合の最頂上部に位置させ、続いて、最頂上部に位置するガントリーから治療用X線を床面に向かって鉛直方向に照射させ、前記X線吸収体を照射した後の照射画像情報から、治療用X線が描く軌跡と、治療台回転盤の回転軸との変位を測定する方法。
【請求項11】
請求項10に記載の測定方法において得られた変位の測定結果を利用して、ガントリー回転手段によってアイソセンターを回転中心として回転させた場合の最頂上部に位置させたガントリーから照射される治療用X線が描く軌跡と、治療台回転盤の回転軸との変位を調整する方法。
【請求項12】
請求項1〜4及び10のいずれか一項に記載の測定方法において得られた変位の測定結果を利用して、放射線治療装置の治療台を移動させることにより、前記治療台上に固定された患者の治療目標患部と、治療用X線による実際のアイソセンターの位置とを一致させる調整方法。
【請求項13】
放射線治療室の位置決定用レーザー光による仮想アイソセンターと、放射線治療装置の診断用X線撮影装置とを利用して、放射線治療装置のガントリーから照射される治療用X線による実際のアイソセンターの位置と、放射線治療室の治療台上に載置された患者の治療目標患部とを一致させるための治療台の移動制御を行う制御システムであって、
前記仮想アイソセンターの位置に対して、前記放射線治療装置のガントリーから照射される治療用X線による実際のアイソセンターの位置との変位及び前記放射線治療装置の診断用X線撮影装置から照射される診断用X線の中心位置との変位に関して、請求項1〜4のいずれか一項に記載の測定方法において得られた変位の測定結果を導入することを特徴とする、前記の制御システム。
【請求項14】
放射線治療装置のガントリーから照射される治療用X線による実際のアイソセンターの位置と、放射線治療室内の壁面から照射される位置決定用レーザー光により決定される仮想アイソセンターの位置と、診断用X線撮影装置から前記X線吸収体に診断用X線を照射することにより、前記診断用X線撮影装置から照射される診断用X線の中心位置との変位を測定するためのファントムであって、
(1)放射線治療装置の治療台上に載置可能な底面を有する保持盤部、及び
(2)前記保持盤部の上面に設けられた位置検出部
を含み、前記位置検出部が、
(a)X線透過性材料からなる保持棒部、
(b)前記保持棒部の内部に包埋されたX線吸収体、
(c)前記保持棒部表面に設けられ、放射線治療室内の壁面から照射される位置決定用レーザー光が前記保持棒部の表面に描く線状画像と一致する形状を有する線状レーザー光吸収帯、及び
(d)前記線状レーザー光吸収帯に交差させて前記保持棒部表面に設けたズレ検出用レーザー光吸収領域
を含むことを特徴とする、変位測定用ファントム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−46709(P2013−46709A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186486(P2011−186486)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【出願人】(308013506)有限会社タイセイメディカル (1)
【出願人】(502117734)アールテック有限会社 (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【出願人】(308013506)有限会社タイセイメディカル (1)
【出願人】(502117734)アールテック有限会社 (3)
【Fターム(参考)】
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