説明

放射線治療装置

【課題】放射線治療装置において、治療装置の利用効率を向上するとともに、治療の信頼性を向上する。
【解決手段】治療用放射線を照射する照射ノズル27と、患部に治療用放射線を照射するために患者を乗せて位置決めする治療台13と、を有した治療室内で治療用放射線を用いて治療を行う放射線治療装置において、患者17の治療準備を行う準備室10,16と、準備室に設けられた準備室の治療台13,19と、準備室の治療台を治療用放射線が患部へ照射できるように位置決めした際の位置情報を記憶する記憶装置38と、を備え、治療台25の位置決めは記憶装置38に記憶された位置情報に基づいて行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を用いて治療を行う放射線治療システムに関し、特にシステムの利用効率の向上,治療の信頼性を向上するものに好適である。
【背景技術】
【0002】
放射線治療は、がん等の腫瘍に治療用放射線を照射して腫瘍を死滅させる治療方法であり、腫瘍周辺の正常細胞を破壊しないためにも、腫瘍に治療用放射線を高精度に照射することが求められる。
そこで、設備の利用効率を高め、低コスト化するため、患者セッティングのための準備室と、患者位置決めのためのシミュレータ室と、実際に治療を行う治療室を別々に用意して、各部屋間を搬送路に沿って患者をベッドに乗せたまま移動させ、放射線照射を実行することで、一人の患者が治療装置を占有する時間を減らすことが知られ、例えば特許文献1に記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2000−288102号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術においては、患者の位置決め情報や患者を特定する情報の伝達ミスを生じる恐れがあり、より多くの患者を高い信頼性で治療することが困難である。
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、治療装置の利用効率を良くすると共に、治療の信頼性の向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため本発明は、治療用放射線を照射する照射ノズルと、患部に前記治療用放射線を照射するために患者を乗せて位置決めする治療台と、を有した治療室内で前記治療用放射線を用いて治療を行う放射線治療装置において、前記患者の治療準備を行う準備室と、該準備室に設けられた準備室の治療台と、前記準備室の治療台を前記治療用放射線が患部へ照射できるように位置決めした際の位置情報を記憶する記憶装置と、を備え、前記治療台の位置決めは前記記憶装置に記憶された前記位置情報に基づいて行われるものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、準備室の治療台を治療用放射線が患部へ照射できるように位置決めした際の位置情報を記憶しているので、治療装置の利用効率を向上させることができると共に、準備室でのセッティング状態を誤りなく即座に治療室で再現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面を参照して一実施の形態を詳細に説明する。
【実施例1】
【0008】
図1は放射線治療装置の構成図、図2は患者の搬送方法の説明図であり、一つの治療室22と二つの準備室10と16で構成されている陽子線治療装置である。
【0009】
第1準備室10と第2準備室16には、それぞれ粗位置決めのためのレーザポインタ
15,21と治療台13,19を備えている。治療室22には、陽子線28を照射する照射ノズル27と患者23を乗せて移動する治療台25,患部周辺の透視画像を撮像する画像取得装置42を備えている。照射ノズル27は、回転ガントリ(図示せず)によって、患者11の回りに回転できるので、陽子線28を患者11の全周囲から照射できる。画像取得装置42は、撮像用放射線源29と受像装置30を有し、準備室10,16の治療台13,19は、例えば、治療室22と同じ6自由度で動作できる。
第1準備室10の患者11は治療台13の天板12の上に乗せられ、陽子線28を照射するときに動かないようにするために、固定具14で固定される。そしてレーザポインタ15で患者11の体表にレーザを照射し、そのレーザと予め患者の体表に付けられた目印を術者が目視で確認しながら治療台13を操作し、患者11の粗位置決めを行う。粗位置決めが完了したときの治療台13の位置(基準位置からの移動量)は、記憶装置38に送られて記憶される。
【0010】
粗位置決めとは、第1準備室10に設けた仮想の陽子線照射位置に、患部が一致するように治療台13を動かして位置決めすることである。しかし、患者の体表に付けた目印を参照して位置決めを行うので、治療(陽子線の照射)のときの患部に対する陽子線の照射精度を許容値以下にすることは期待できない。したがって、別に高精度位置決めを行い、許容値以下の精度となるように位置決めを行う。
【0011】
第1準備室10の治療台13と仮想の陽子線照射位置(レーザポインタ15)の位置関係を、治療室22の治療台25と陽子線28の照射位置(照射ノズル27)の位置関係と同じとすると、後に治療室で行う高精度位置決めのときに、治療台25の制御指令値の換算が不要となる。
【0012】
粗位置決めが完了した患者11は、天板12ごと搬送台車40に乗せて、第1準備室
10から治療室22に搬送し、治療室22の治療台25に固定する。このとき、第1準備室10では、次患者の固定具の取り付けや粗位置決めなどのセッティングが開始される。 図1では、患者11と天板12と固定具14については、搬送前と搬送後を同じ図中に示している。搬送中は患者11と天板12の位置関係がずれないようにし、また、第1準備室10の治療台13と天板12の位置関係と、治療室22の治療台25と天板12の位置関係が同じとなるように、天板12を治療台25に固定できるような構成とすると、後に行われる高精度位置決めのときに、治療台25の制御指令値の換算が不要となる。
【0013】
次に治療室22で高精度位置決めを行うことを説明する。
(1)第1準備室10の治療台13は、治療室22の治療台25と同じ6自由度で動作できる構成とする。
(2)第1準備室10の治療台13と仮想の陽子線照射位置の位置関係を、治療室22の治療台25と陽子線28の照射位置の位置関係と同じとする。
(3)搬送中は患者11と天板12の位置関係がずれないようにする。
(4)第1準備室10の治療台13と天板12の位置関係と、治療室22の治療台25と天板12の位置関係が同じとなるように、天板12を治療台25に固定できる構成とし、作業時間を短縮する。
【0014】
以上により、第1準備室10の治療台13と仮想の陽子線照射位置の相対位置と、治療室22の治療台25と陽子線28の照射位置の相対位置が同じとなる。そのため、記憶装置38に記憶された粗位置決めが完了したときの治療台13の位置(基準位置からの移動量)の分だけ、治療制御システム39から治療室22の治療台25に制御指令値を与えて動かしてやれば、第1準備室10での粗位置決めのセッティングが、治療室22で再現される。
例えば、術者が治療室22において粗位置決めの開始ボタンを押すと、記憶装置38に記憶された粗位置決めの情報を元に、自動的に粗位置決めが行われるようにできるので、治療室22での作業は省力化され、一人の患者11が治療室22を占有する時間を減らせ、治療装置の利用効率を向上できる。また、治療室22と第1準備室10の粗位置決めの情報を記憶装置38にて共有することができるので、粗位置決めに関する情報を第1準備室10の技師から治療室22の術者へ伝達するときの人為的なミスを防ぐことができ、治療の信頼性を向上できる。例えば、治療台13の位置情報の他に、固定具14や粗位置決めに関するセッティングの情報や、患者11の状態や体調に関する患者情報などを第1準備室10に設けた入力装置(図示しない)から入力して、記憶装置38に記憶し、治療室22のディスプレイに表示しておけば、治療前に治療室22の術者が確認できるので、より一層の治療の信頼性向上が図れる。
【0015】
以下、各準備室10,16でセッティングの作業を行う人を技師,治療室22で治療を行う人を術者と称し区別する。例えば、セッティング作業から治療まで同一の人が行う場合も、セッティングの作業を行う場合を技師,治療を行う場合を術者と称し、一人でセッティングから治療までを行う場合についても、患者の確認,治療部位等のミスを防いで治療の信頼性を向上させることができる。
【0016】
次に、治療計画の通りの照射方向となるように、回転ガントリによって照射ノズル27を回転させる。治療計画は、事前に撮影したX線CT装置等の画像から患部の位置や大きさ等を確認して、計算機を用いてシミュレーションを行い、陽子線28のエネルギおよび線量,方向,照射回数等を決めて記憶装置38に記憶しておく。また、回転ガントリは必ずしもこのタイミングで回転させる必要はなく、他の作業の作業性や制御のし易さなどを考慮して決めればよい。
【0017】
高精度位置決めは、画像取得装置42で得られた患部周辺の治療画像を参照しながら、陽子線28の照射位置に患部が一致するように、術者が治療台25を操作する。陽子線
28の照射位置は、各装置の幾何学的条件などから算出して、治療画像に重ねてディスプレイに表示すれば、術者が直接確認できる。また、治療計画で作成した参照画像と治療画像を並べてディスプレイに表示すれば、術者は位置決めの状況を確認できるため理解がし易い。
【0018】
その後、治療計画に基づいて患者11の患部に陽子線28の照射が行われる。例えば、一度の治療で陽子線を複数回照射を行う場合は、治療台25の移動,回転ガントリの回転,治療画像による照射位置と患部の確認,陽子線28の照射が繰り返される。
一方、第2準備室16では、治療室22で患者11の治療が行われている間に、別の患者17の固定具20の取り付けや粗位置決めなどのセッティングが行われており、治療室22の患者11の治療が終了すると、患者17は治療室22に搬送され、治療台25に固定される。このとき、第2準備室16では次の患者固定具の取り付けや粗位置決めなどのセッティングが開始される。
【0019】
第2準備室16でのセッティングや搬送の方法,情報の流れは、第1準備室10と同じである。次いで治療室22の治療台25を、記憶装置38に記憶されている患者17の粗位置決めが完了したときの治療台19の位置(基準位置からの移動量)の分だけ、治療制御システム39から治療室22の治療台25に制御指令値を与えて動かす。その結果、最初に治療を行った第1準備室10の患者11のときと同じように、第2準備室16での粗位置決めのセッティングが、治療室22で再現されることになる。続いて高精度位置決め、治療(陽子線28の照射)が行われる。そして患者17の治療が終了すると、第1準備室10でセッティングを行っていた患者が治療室22に搬入される。
【0020】
以上のように、順次、空いた準備室(10または16)でセッティングを行うことで、治療装置の空き時間や患者の待ち時間を減らすことができ、効率よく治療準備(セッティング)と治療を行うことができる。固定具の取り付けや粗位置決めなどのセッティングを、治療室22とは別の場所で行っても、各準備室10,16のセッティングの状態を治療室22ですぐに再現できるので、各準備室10,16を設けたことによる時間のロスは殆ど発生しない。
【実施例2】
【0021】
次に図2と図3を用いて、他の実施例を説明する。図2は患者の搬送方法の説明図、図3は放射線治療装置の構成図である。
本実施例は、一つの治療室76と二つの準備室60と68で構成されている陽子線治療装置である。第1準備室60と第2準備室68には、それぞれ粗位置決めのためのレーザポインタ65,73と患者を乗せて移動する治療台63,71と、患部周辺の透視画像を撮像する画像取得装置94,95を備えている。本実施例は実施例1に、画像取得装置
94,95を追加したものである。
【0022】
準備室60,68の治療台63,71は、治療室76の治療台79と同じ6自由度で動作できる。治療室76は、治療用の陽子線82を照射する照射ノズル81と6自由度で動作できる治療台79と、患部周辺の透視画像を撮像する画像取得装置96を備えている。照射ノズル81は、図示しない回転ガントリによって、患者61の回りに回転できるので、陽子線82を患者61の全周囲から照射できる。本実施例の画像取得装置は、実施例1と同じように撮像用放射線源と受像装置で構成されている。
【0023】
第1準備室60の患者61は治療台63の天板62の上に乗せられ、陽子線82を照射するときに動かないようにするために、固定具64で固定される。そしてレーザポインタ65で患者11の体表にレーザを照射し、そのレーザと予め患者の体表に付けられた目印を術者が目視で確認しながら治療台63を操作し、患者61の粗位置決めを行う。
粗位置決めとは、第1準備室60に設けた仮想の陽子線照射位置に、患部が一致するように治療台63を動かして位置決めすることである。第1準備室60の治療台63と仮想の陽子線照射位置の位置関係を、治療室76の治療台79と陽子線82の照射位置の位置関係と同じとすると、後の治療室での作業のときに、治療台79の制御指令値の換算が不要となる。
【0024】
高精度位置決めは、画像取得装置94で得られた患部周辺の透視画像を参照しながら、仮想の陽子線照射位置に患部が一致するように、技師が治療台63を操作する。このとき、仮想の陽子線照射位置を各装置の幾何学的条件などから算出して、画像取得装置94で得られる透視画像に重ねてディスプレイに表示すれば、術者が直接確認できる。高精度位置決めが完了したときの治療台63の位置(基準位置からの移動量)は、記憶装置92に送られて記憶される。以下、第1準備室の画像取得装置94で得られる患部周辺の透視画像を仮治療画像と称す。
【0025】
高精度位置決めが完了した患者61は、天板62ごと搬送台車40に乗せて、第1準備室60から治療室76に搬送し、治療室76の治療台79に固定する。このとき、第1準備室60では次の患者の固定具の取り付けや粗位置決め,高精度位置決めなどのセッティングが開始される。
図3では、患者61と天板62と固定具64については、搬送前と搬送後を同じ図中に示している。ここで、搬送中は患者61と天板62の位置関係がずれないようにし、また、第1準備室60の治療台63と天板62の位置関係と、治療室76の治療台79と天板62の位置関係が同じとなるように、天板62を治療台79に固定できるような構成とすると、後の治療室での作業のときに、治療台25の制御指令値の換算が不要となる。
【0026】
次に治療室22で作業を行う。
(1)第1準備室60の治療台63は、治療室76の治療台79と同じ6自由度で動作できる構成とする。
(2)第1準備室60の治療台63と仮想の陽子線照射位置の位置関係を、治療室76の治療台79と陽子線82の照射位置の位置関係と同じとする。
(3)搬送中は患者61と天板62の位置関係がずれないようにする。
(4)第1準備室60の治療台63と天板62の位置関係と、治療室76の治療台79と天板62の位置関係が同じとなるように、天板62を治療台79に固定できる構成とする。
【0027】
以上により、第1準備室60の治療台63と仮想の陽子線照射位置の相対位置と、治療室76の治療台79と陽子線82の照射位置の相対位置が同じとなる。そのため、記憶装置92に記憶された高精度位置決めが完了したときの治療台63の位置(基準位置からの移動量)の分だけ、治療制御システム93から治療室76の治療台79に制御指令値を与えて動かしてやれば、第1準備室60での高精度位置決めのセッティングが、治療室76で再現される。
【0028】
例えば、術者が治療室76において高精度位置決めの開始ボタンを押すと、記憶装置
92に記憶された高精度位置決めの情報を元に、自動的に高精度位置決めが行われるので、治療室76での作業は省力化され、一人の患者61が治療室76を占有する時間を減らすことができ、治療装置の利用効率を向上できる。
但し、治療室76では安全のために、術者は画像取得装置96から得られる患部周辺の透視画像(以下、治療画像と称す)を参照して、患部の位置と陽子線82の照射位置を確認する。このとき、陽子線82の照射位置を各装置の幾何学的条件などから算出して、治療画像に重ねてディスプレイに表示すれば、術者が直接確認できるため治療の信頼性が向上する。
【0029】
次に、治療計画の通りの照射方向となるように、回転ガントリによって照射ノズル81を回転させる。治療計画は、事前に撮影したX線CT装置等の画像から患部の位置や大きさ等を確認して、計算機を用いてシミュレーションを行い、陽子線82のエネルギおよび線量,方向,照射回数等を決めて記憶装置92に記憶しておく。また、回転ガントリは必ずしもこのタイミングで回転させる必要はなく、他の作業の作業性や制御のし易さなどを考慮して決めればよい。
その後、治療計画に基づいて患者61の患部に陽子線82の照射が行われる。例えば、一度の治療で陽子線を複数回照射を行う場合は、治療計画に基づいて、治療台79の移動,回転ガントリの回転,治療画像による照射位置と患部の確認,陽子線82の照射が繰り返される。
【0030】
一方、第2準備室68では、治療室76で患者61の治療が行われている間に、別の患者69の固定具72の取り付けや粗位置決め,高精度位置決めなどのセッティングが行われており、治療室76の患者61の治療が終了すると、患者69は治療室76に搬送され、治療台79に固定される。第2準備室68では次の患者固定具の取り付けや粗位置決め,高精度位置決めなどのセッティングが開始される。
第2準備室68でのセッティングや搬送の方法,情報の流れは、第1準備室60と同じである。次いで治療室76の治療台79を、記憶装置92に記憶されている患者69の高精度位置決めが完了したときの治療台71の位置(基準位置からの移動量)の分だけ、治療制御システム93から治療室76の治療台79に制御指令値を与えて動かす。その結果、最初に治療を行った第1準備室60の患者61のときと同じように、第2準備室68での高精度位置決めのセッティングが、治療室76で再現されることになる。続いて陽子線82の照射位置の確認,治療(陽子線28の照射)が行われる。そして患者69の治療が終了すると、第1準備室60でセッティングを行っていた患者が治療室22に搬入される。
【0031】
また、治療室76と各準備室60,68の情報を記憶装置92で共有することにより、高精度位置決めに関する情報を各準備室60,68の技師から治療室76の術者へ伝達するときの人為的なミスを防ぐことができ、治療の信頼性を向上できる。例えば、治療台
63,71の位置の情報の他に、固定具64,72や高精度位置決めに関するセッティングの情報や、患者61,69の状態や体調に関する患者情報などを各準備室60,68に設けた入力装置(図示しない)から入力して、治療室76のディスプレイに表示しておけば、治療前に治療室76の術者が確認できるので、より一層の治療の信頼性向上が図れる。
【0032】
図4は実施例1の制御ブロック図の一例である。
患者の氏名,年齢,性別や生体情報など患者を特定するための患者情報100と、診断時の画像や治療の方法などの治療計画情報101と、各準備室10,16の装置状態などの第1準備室情報102,第2準備室情報103と、治療室22の装置の状態などの治療室情報104を記憶する記憶装置38を備え、これらの情報をまとめて管理する全体管理システム105を備えている。全体管理システム105は、各種情報や制御信号を各準備室10,16と治療室22に送受信する。また、これらの各種情報を、技師や術者など閲覧権限を持っている人が確認するためのディスプレイ107を備えている。各準備室10,16には、それぞれ準備室内の装置を制御するための準備室制御システム108,109と治療台13,19、および、治療台13,19を制御するための治療台制御装置114,115、治療台13,19を手動で操作するための入力装置111,112を備えている。
【0033】
治療室22には、治療室22の各装置を制御するための治療室制御システム110および治療台25,回転ガントリ118を備え、これらを制御する治療室治療台制御装置116と回転ガントリ制御装置117を備えている。また、治療台25を手動で操作するための入力装置113を備えている。また、患部周辺の透視画像を得るための画像取得装置42と陽子線のエネルギや照射の可否などを制御する陽子線制御装置119を備え、それぞれの装置は制御信号や装置の状態などの情報を治療室制御システムと送受信できる構成となっている。図1では、全体管理システム105と各制御システム108,109,110、各制御装置114,115,116,117および周辺機器をまとめて治療制御システム38としている。
【0034】
以下、治療の手順に沿って、図4の制御ブロック図を説明する。
第1準備室10の患者11は治療台13の天板12の上に乗せられ、固定具14の取り付けと粗位置決めを行う。粗位置決めは前記の通りレーザポインタ15を用いて行う。粗位置決めが完了したときの治療台13の位置(基準位置からの移動量)は、第1準備室情報102として記憶装置38に送られて記憶される。粗位置決めを完了した患者11は、天板12ごと治療室22に搬送されて、治療室22の治療台25に固定される。このとき、例えばディスプレイ107を治療室22に設置しておき、全体管理システム105が搬送されてきた患者11の氏名など患者を特定するための情報を記憶装置38の患者情報
100から呼び出し、ディスプレイ107に表示すると、治療室22の術者は送られてきた患者本人とディスプレイ107の表示を比較および確認できるため、患者の取り違えなどの医療事故を防ぐ効果がある。
【0035】
治療室22では全体管理システム105によって、粗位置決めが完了したときの治療台13の位置(基準位置からの移動量)が、記憶装置38の第1準備室情報102から呼び出され、治療室制御システム110に送られる。治療室制御システム110は、例えば、送られてきた情報の通り治療台25を動かしたときに、治療台25や患者11が他の機器と接触しないか、治療台25の許容動作範囲を超えていないかなど、情報の正誤をチェックして問題がなければ、治療台25の移動を許可するとともに、その情報を治療台25の制御指令値として治療室治療台制御装置116に送る。
【0036】
治療室治療台制御装置116は、その制御指令値に基づいて、粗位置決めが完了したときの治療台13の位置(基準位置からの移動量)の分だけ、治療台25を動かす。この結果、第1準備室10での粗位置決めのセッティングが再現されることになる。
【0037】
治療室22では固定具14の取り付けと粗位置決めを省くことができ、すぐに高精度位置決めの作業を行うことができる。このように、各準備室10,16と治療室22の情報を共有することで、治療室22における粗位置決めの作業は自動化ができるようになる。治療台25の位置は、治療後に行われる治療方法の確認や治療効果の検証などに利用するため、記憶装置38の治療室情報104として記憶される。
【0038】
全体管理システム105により、記憶装置38に記憶された治療計画情報101の中の陽子線28の照射方向が呼び出され、治療室制御システム110に送られる。そして治療室制御システム110は、送られてきた情報の通り回転ガントリ118を動かしたときに、治療台25や患者11、他の機器などと接触しないかなどをチェックして問題がなければ、回転ガントリ118の移動を許可するとともに、その情報を回転ガントリ118の制御指令値として回転ガントリ制御装置117に送る。
回転ガントリ制御装置117は、その制御指令値に基づいて、治療計画の通りの照射方向となるように、回転ガントリ118を回転させる。回転ガントリ118の位置は、治療後に行われる治療方法の確認や治療効果の検証などに利用するため、記憶装置38の治療室情報104として記憶される。
【0039】
高精度位置決めは、ディスプレイ107に表示された、画像取得装置42で得られた患部周辺の治療画像を参照しながら、陽子線28の照射位置に患部が一致するように、術者が入力装置113を用いて治療台25を操作する。このとき、陽子線28の照射位置を各装置の幾何学的条件などから算出して、治療画像に重ねてディスプレイ107に表示すれば、術者が直接確認できるため治療の信頼性が向上する。
【0040】
また、陽子線28の照射位置と患部の位置のずれ量を、画像処理などの手法を用いて算出し、ディスプレイ107に表示すれば、術者は治療台25の動かす方向と量が分かるため、操作が楽になり作業時間を短縮できる。このときの治療台25の位置は、治療後に行われる治療方法の確認や治療効果の検証などに利用するため、記憶装置38の治療室情報104として記憶される。
【0041】
その後、記憶装置38に記憶されている治療計画情報101の中から陽子線28の照射時間,エネルギなどが呼び出され、その情報に基づいて患者11の患部に陽子線28の照射が行われる。このときの陽子線28の照射時間,エネルギなどは、治療後に行われる治療方法の確認や治療効果の検証などに利用するため、記憶装置38の治療室情報104として記憶される。
【0042】
一度の治療で陽子線を複数回照射を行う場合は、治療計画情報101に基づいて、治療台25の移動,回転ガントリ118の回転,治療画像による照射位置と患部の確認,陽子線28の照射が繰り返される。
以下、各準備室10,16と治療室22の患者の流れや、作業の手順は実施例1と同じなので説明は省略し、情報の流れと全体の管理について説明する。
順次、空いた準備室(10または16)で、患者のセッティングを行い、治療室22で治療が終了すると次の患者が治療室22に搬送され、患者の情報やセッティングの情報は、随時、記憶装置38に追加,書き換えが行われていく。また、これらの各種情報は、必要に応じて技師や術者など閲覧権限を持っている人がディスプレイ107で確認できるようにすると、患者の流れや状態などを把握し易いため、患者の取り違えなどの人為的ミスを防ぐことができる。また、各準備室10,16の状況を把握できるので、必ずしも予定通りの順番で患者を治療する必要はなく、先にセッティングが終了した患者から治療を行うことで、効率よく治療を行うことができ、治療装置の利用効率を向上させることができる。
【0043】
予め患者の治療の順番を記憶しておき、全体管理システムで管理してもよい。例えば、上記のように効率よく治療を行うために、患者の治療の順番を予定と変えた場合は、順番の変更があったことをディスプレイに表示すれば、人為的ミスを防ぐことができる。
図4の制御ブロック図は実施例2についても、同じであり、実施例1と実施例2では機器構成が異なるが、基本的な情報の流れや管理の方法・手順は同じである。
各準備室の治療台の構成は、上記実施例では治療室の治療台と同じ6自由度で動作できる構成としているが、必ずしも同じとする必要はなく、例えば、実施例1の構成の陽子線治療装置の場合は、準備室の治療台は6自由度の治療台より安価な並進3自由度で動作できる構成としてもよい。この場合は、並進動作のみで粗位置決めを行い、姿勢の位置決めは、治療室での高精度位置決めで行うことになる。そのため、実施例1に比べると粗位置決めの位置決め誤差が大きくなるが、準備室の治療台を6自由度の構成より安価な3自由度の構成とできるので、コスト的に有利である。
【0044】
また、準備室の治療台と仮想の陽子線照射位置の位置関係を、治療室の治療台と陽子線の照射位置の位置関係と同じとするとしているが、必ずしも同じとする必要はなく、準備室の仮想照射位置と治療室、および、治療室の陽子線の照射位置と治療台の幾何学的な位置関係が分かっていれば、その分を考慮して治療室の治療台の移動量に換算すればよい。このようにすれば、寸法の制約を受けることなく各装置のレイアウトを自由にすることができる。
【0045】
また、一つの治療室に対して二つの準備室を設ける構成としているが、必ずしもそうする必要はなく、固定具の取り付けや粗位置決め,高精度位置決め,治療のそれぞれに掛かる時間を勘案して、最も効率よく治療室を利用できる構成とすればよく、例えば、一つの治療室に対して三つや四つの準備室を設けてもよく、一つの治療室に対して一つの準備室としてもよい。また、複数の治療室を備えている治療施設では、必ずしも準備室と治療室を対として使用する必要はなく、例えば、二つの治療室を備える治療施設において、三つの準備室を設けて準備の状況や治療の状況に応じて、治療の順番や使用する治療室を決めてもよい。これにより、治療の順番を決めたり、管理したりする装置を備えることで、効率よく治療を行える上、患者の取り違えなどを防ぐことができる。
【0046】
また、患者の取り違えなどの人為的ミスを防ぐには、患者に付帯させ、あるいは治療台の天板に患者を識別できる情報を備えてもよい。例えば、天板に記憶装置を備えておき、準備室でセッティングを行うときに患者名などの患者を識別できる情報を記憶させておく。そして治療室の治療台に天板が装着されたときに、自動的に患者の識別情報を読み取り、全体管理システムまたは治療室制御システムで、治療計画情報の患者識別情報と、天板の患者識別情報を照合し、その結果をディスプレイなどに表示して術者が確認できる。また、患者識別情報の照合の結果が一致したときのみ、治療(陽子線の照射)ができるようにするインターロックを設けることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明による一実施形態の構成を示すブロック図。
【図2】一実施形態による患者搬送方法を示す説明図。
【図3】他の実施形態の構成を示すブロック図。
【図4】さらに、他の実施形態の構成を示すブロック図。
【符号の説明】
【0048】
10…第1準備室、11,17…患者、12,18…天板、13,19…準備室の治療台、14,20…患者固定具、15,21…レーザポインタ、16…第2準備室、22…治療室、25…治療台、27…照射ノズル、28…陽子線、29…撮像用放射線源、30…受像装置、42,94〜96…画像取得装置、93…治療制御システム、100…患者情報、101…治療計画情報、102…第1準備室情報、103…第2準備室情報、104…治療室情報、107…ディスプレイ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療用放射線を照射する照射ノズルと、患部に前記治療用放射線を照射するために患者を乗せて位置決めする治療台と、を有した治療室内で前記治療用放射線を用いて治療を行う放射線治療装置において、
前記患者の治療準備を行う準備室と、該準備室に設けられた準備室の治療台と、前記準備室の治療台を前記治療用放射線が患部へ照射できるように位置決めした際の位置情報を記憶する記憶装置と、
を備え、前記治療台の位置決めは前記記憶装置に記憶された前記位置情報に基づいて行われることを特徴とする放射線治療装置。
【請求項2】
請求項1に記載のものにおいて、前記準備室の治療台は前記治療台と同一の自由度で位置決めが可能とされたことを特徴とする放射線治療装置。
【請求項3】
請求項1に記載のものにおいて、前記準備室内にレーザを照射するレーザポインタと、前記患者の体表に付けられた目印と、を設け、前記レーザポインタと前記準備室の治療台との位置関係を前記照射ノズルと前記治療台と位置関係と同一とすることを特徴とする放射線治療装置。
【請求項4】
請求項1に記載のものにおいて、前記治療台は6自由度で位置決めが可能とされ、前記準備室の治療台は3自由度で位置決めが可能とされたことを特徴とする放射線治療装置。
【請求項5】
請求項1に記載のものにおいて、前記治療室内に患部周辺の治療画像が得られる画像取得装置と前記治療画像を表示するディスプレイとが設けられ、前記治療台は前記治療画像に基づいて位置決めされることを特徴とする放射線治療装置。
【請求項6】
請求項1に記載のものにおいて、前記記憶装置に前記準備室の治療台の粗位置決めに関するセッティング情報,患者の状態や体調に関する患者情報が記憶され、前記治療室内で表示可能とされたことを特徴とする放射線治療装置。
【請求項7】
請求項1に記載のものにおいて、前記準備室は複数設けられたことを特徴とする放射線治療装置。
【請求項8】
請求項1に記載のものにおいて、前記準備室は複数設けられ、各前記準備室の患者の治療順番を記憶した管理装置を備えたことを特徴とする放射線治療装置。
【請求項9】
請求項1に記載のものにおいて、前記患者に付帯された識別情報が記憶された装置を備え、前記治療室で前記識別情報を読み出すことを特徴とする放射線治療装置。
【請求項10】
請求項1に記載のものにおいて、前記準備室は複数設けられ、前記記憶装置は、患者の氏名,年齢,性別、を含む患者情報と、診断時の画像,治療の方法を含む治療計画情報と、前記準備室の装置状態を示す準備室情報と、前記治療室の装置状態を示す治療室情報と、が記憶されたことを特徴とする放射線治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−289373(P2007−289373A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−120031(P2006−120031)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】