説明

放射線治療装置

【課題】被検体に対する放射線照射野を治療部位の形状に精度よく設定できる多分割照射絞り装置を備えた放射線治療装置を提供する。
【解決手段】実施形態の放射線治療装置は、複数のリーフ体の各軌道面に設けた歯形に噛み合わせた複数の駆動ギアを定荷重バネに結合して、定荷重バネにより各リーフ体に対して常に閉方向へ歯形車に力を作用させることで、複数の駆動ギアによるバックラッシュを防ぎ、放射線照射野の設定精度を高め、不必要な放射線照射を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、被検体に対する放射線照射範囲(放射線照射野radiation field)を治療部位の形状に精度よく設定できる多分割照射絞り装置を備えた放射線治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療装置は、被検体に放射線を照射する照射ユニット部を有する。照射ユニット部には、被検体の治療部位、例えば、悪性腫瘍部に対してのみ放射線照射を行うように放射線照射野を設定する照射絞り装置(radiation collimator)が備えられる。被検体への放射線障害を低減させるために、照射絞り装置が形成する放射線照射野は、できるだけ治療部位の形状に近似することが望ましい。通常、照射絞り装置は、放射線軸に沿って、放射線源に近い側に設けられる一対の上部絞り体ブロックと、上部絞り体ブロックより放射線源から遠い側に設けられる一対の下部絞り体ブロックとで構成されている。
【0003】
一対の下部絞り体ブロックは、照射軸に沿って上部絞り体ブロックと直交して重なるように配置される。また、一対の上部絞り体ブロックは、放射線照射軸を中心にして対向して配置され、放射線源を中心に含む同心円上を円弧状の軌道面(X方向)に沿って互いに接近若しくは離反する方向に駆動される。
【0004】
一対の下部絞り体ブロックも放射線照射軸を中心にして対向配置され、放射線源を中心に含む同心円上を、上部絞り体ブロックの移動方向(X方向)に対して直交する方向(Y方向)の円弧状の軌道面に沿って互いに接近若しくは離反するように移動する。下部絞り体ブロックの各々は、複数のリーフ体を密接配列した多分割絞り体ブロックを形成する。
【0005】
多分割絞り体ブロックを構成する各リーフ体は、放射線照射軸に対向する円弧状の軌道面を有し、この軌道面上にはネジ歯形が切られている。
【0006】
このネジ歯形に駆動ギアが噛み合わされており、駆動ギアは、シャフト先端に固着されている。シャフトは、駆動源であるモータからウォームギヤなどの駆動力伝達機構を介して駆動される。ギア駆動量を検出するために、ポテンショメータやエンコーダなどの検出器が配置され、検出情報を基に、制御装置によって、下部絞り体ブロックを構成する各リーフ体が所望位置に設定される。
【0007】
このように、従来の照射絞り装置は、一対の上部絞り体ブロックをX方向に互いに対向して接近若しくは離反するように移動させると共に、一対の下部絞り体ブロックの各ブロックを構成する複数のリーフ体を、それぞれ個別にX方向に直交するY方向に互いに接近若しくは離反するように移動させることで、不規則な治療部位形状に近似させた放射線照射野を形成する。
【0008】
しかし、従来の照射絞り装置は、各リーフ体を個別に移動させために、モータの回転を各種歯車とシャフトを介して各リーフ体に伝達する駆動力伝達機構を用いている。このように、各種の歯車を組み合わせて使用する駆動力伝達機構では、各歯車に生ずるバックラッシュが積み重なる。このため、従来の照射絞り装置は、各リーフ体の位置を正確に制御することが困難であった。
【0009】
更に、各リーフ体を駆動するためのモータを含む駆動力伝達機構は、リーフ体の移動軸に対してモータを平行若しくは直角に設けなければならないという制約がある。このため、下部絞り体ブロックを構成するリーフ体を増加しようとしても、照射絞り装置内の限られたスペース内で、モータを含む駆動力伝達機構を増加できない。
【0010】
一方、放射線防護のために、放射線照射野の形状を治療部位の形状に近似させることが、近年より一層強くなっている。即ち、治療部位の不規則形状により近似させた放射線照射野を設定できるように、下部絞り体ブロックを構成する各リーフ体の厚みをより薄くすると共に、リーフ体の枚数を増やす必要がある。しかし、前述のように、照射ユニットの限られた空間の中に、リーフ体の増加枚数分だけの駆動力伝達機構を増加して備えるスペースを確保する自由度は極めて低い。このため、きめ細かな放射線照射野設定のために絞り体ブロックを構成するリーフ体の枚数を増やすには、増加する駆動力伝達機構を配置するには、照射絞り装置を大型にしなければならないという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−253686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の実施形態は、上記問題を解決した照射絞り装置を備える放射線治療装置を提供する。
【0013】
又、実施形態は、各リーフ体に定荷重バネにより常に閉方向に力を印加する一方、プーリーを介してワイヤをモータ巻き取り、各リーフ体を開方向に移動することで、バックラッシュをほぼ無くすことができ、且つ、照射ユニットの限られた空間内でのモーター配置の自由度を飛躍的に向上した放射線治療装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の実施形態は、放射線源からの放射線を遮蔽する放射線絞り装置を備え、前記放射線源から放射される放射線の照射野を治療対象部に制限するようにした放射線治療装置である。前記放射線絞り装置は、円弧状の軌道面に歯形を有する複数のリーフ体で形成する一対の絞りブロック体と、前記複数のリーフ体の各歯形に噛み合わせた駆動ギアと、前記駆動ギアに結合され、前記各リーフ体を常に閉方向へ移動するように前記駆動ギアに力を加えるバネ体と、前記複数のリーフ体の各リーフ体に結合されたワイヤと、前記各リーフ体が開方向へ移動するように、前記ワイヤを引く駆動手段と、を具備することを特徴とする。
【0015】
本発明の実施形態による放射線治療装置によれば、各リーフ体に結合され、リーフ体を開方向に移動するワイヤが万一切断した場合でも、バネ体の作用によってリーフ体が常に開方向に移動させる力が働くので、リーフ体が開いたままになることはなく、被検体の安全が確保される。
【0016】
また、下部絞り体ブロックを形成するリーフ体の枚数を増加しても、照射ユニットの限られた空間内に、各リーフ体の駆動力伝達機構を配置する自由度が確保される。
【0017】
更に、各リーフ体の円弧状軌道面に設けた歯型に噛み合わせて各リーフ体を個別に移動できる駆動ギアに定荷重バネを固定する駆動力伝達機構にすることで、歯車を組み合わせて使用する駆動力伝達機構に生ずるバックラッシュの影響を除去できる。
【0018】
更に、一対のシャフトに、駆動ギアを固定する定荷重バネを複数個保持することで、リーフ体の数を増加して放射線照射野の設定精度を向上させると共に、治療部位以外への不必要な放射線照射を防止し、高精度の放射線治療を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態による放射線治療装置の使用状態を示す外観図。
【図2】実施形態の放射線治療装置に備えられている照射絞り装置の側面図。
【図3】図2に直交する方向から見た照射絞り装置の側面図。
【図4】放射線照射野を形成する照射絞り装置の平面図。
【図5】図4の照射絞り装置によって形成される放射線照射野の模式図。
【図6】実施形態による照射絞り装置に使用されるリーフ体とリーフ体駆動機構の概観図。
【図7A】図6の定荷重バネ駆動機構部の拡大図である。
【図7B】図7Aの定荷重バネ駆動機構部のA−A線断面図である。
【図8】図6の定荷重バネの特性図。
【図9】定荷重バネを使用して多数枚のリーフ体を駆動する実施形態。
【図10】実施形態による駆動機構の斜視図であり、複数枚のリーフ体に対して、定荷重バネに結合された駆動ギアが夫々噛み合わされる様子を示す。
【図11】図10の駆動機構を下方から見た斜視図。
【図12】リーフ体の位置を直接検出するリーフ体位置検出装置の実施形態。
【図13】実施形態によるリーフ体の外側端面付近の断面図。
【図14】図13のリーフ体の外側端面に形成されるパターンの一例。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、放射線治療装置の全体構成を示す。放射線治療装置100は、放射線源からの放射線を被検体Pへ照射する放射線照射セクション10と、被検体Pを載置する天板22を移動して、放射線照射部位の位置決めをする治療台セクション20と、放射線照射セクション10及び治療台セクション20を総合的に制御する制御セクション30とで構成される。
【0021】
放射線照射セクション10は、放射線治療室の床面に固定された固定架台11と、固定架台11に取り付けられ、固定架台11の水平回転軸Hの周りに、略360度にわたって回転可能な回転架台12と、回転架台12の先端に取り付けられ、被検体Pの患部に放射線を照射する照射ユニット13と、照射ユニット13内に組み込まれ、回転可能な照射絞り装置14とを有している。照射絞り装置14は、照射ユニット13からの放射線照射軸Iの周りを回転する。回転架台12の回転中心軸Hと放射線照射軸Iとの交点がアイソセンタ(isocenter)ICである。尚、回転架台12は、固定して放射線照射もできるし、例えば、回転照射、振子照射、間欠照射などに対応した回転も可能である。
【0022】
治療台セクション20は、アイソセンタICを中心とする円弧に沿って、床面上の軸を矢印G方向に所定角度範囲にわたって回転可能である。
【0023】
治療台セクション20には、天板22を支持する上部機構21と、上部機構21を支持する昇降機構23と、昇降機構23を支持する下部機構24とで構成される。上部機構21は、天板22を長手方向(Y方向)と、幅方向(X方向)に移動させる。昇降機構23は、上部機構21及び天板22を上下方向(D方向)に所定範囲だけ昇降させる。下部機構24は、アイソセンタICを中心軸として、水平方向に距離L離れた位置Fで昇降機構23を水平方向(G方向)に回転させる。即ち、昇降機構23の回転と共に、上部機構21及び天板22も水平方向に所定角度回転する。
【0024】
制御セクション30は、操作部(図示せず)を備える。医療スタッフが、操作部を介して、天板22上の被検体Pの位置決めや、照射絞り装置14による放射線照射野の設定などを行う。
【0025】
照射ユニット13には、照射絞り装置14が放射線の照射軸Iの周りに回転可能に組み込まれる。
【0026】
照射絞り装置14は、放射線治療の際に、悪性腫瘍などの治療部位にのみ放射線を照射して、正常組織には極力放射線を照射しないように放射線照射野を規制するもので、タングステンなどの重金属で構成される。
【0027】
図2は、照射絞り装置14のY軸方向断面である。図示のように、照射絞り装置14は、放射線照射軸Iに対向する一対の上部絞り体ブロック140A、140Bと、一対の下部絞り体ブロック141A、141Bとによって構成される。一対の上部絞り体ブロック140A、140Bは、放射線源S側に設けられる。一対の下部絞り体ブロック141A、141Bは、一対の上部絞り体ブロック140A、140Bの下部で、配列方向が互いに直交するように配置される。
【0028】
放射線照射軸I方向に互いに対向配置される一対の上部絞り体ブロック140A、140Bの下部面には歯形状140A1,140B1が形成されており、駆動ギア140A2、140B2を介して夫々駆動装置142A、142Bによって、放射線源Sを中心とする円弧状の軌道面に沿って、矢印X方向へ互いに接近或いは離反するよう移動する。一対の上部絞り体ブロック140A、140Bの下部に、夫々複数のリーフ体141Am(m=1〜n)、141Bm(m=1〜n)で構成される一対の下部絞り体ブロック141A、141Bが放射線の照射軸I方向に互いに対向配置される。
【0029】
図3は、図2の直交方向から見た照射絞り装置14の側面図である。上部絞り体ブロック140A、140Bに直交して配置される一対の下部絞り体ブロック141A、141Bが、放射線の照射軸I方向に互いに対向配置される。一対の上部絞り体ブロック140A、140Bの下部面には夫々歯形状が形成されており、駆動ギア150A、150Bを介して夫々駆動装置143A、143Bによって、放射線源Sを中心とする円弧状の軌道面に沿って、矢印Y方向へ互いに接近或いは離反するよう移動する。図2に示すように、一対の下部絞り体ブロック141A、141Bは、夫々複数のリーフ体141Am(m=1〜n)、141Bm(m=1〜n)を密に隣接させた集合体として構成した多分割照射絞り体ブロックである。
【0030】
図4は、一対の多分割照射絞り体ブロックの平面図である。下部絞り体ブロック141A、141Bを構成する各リーフ体の軌道面には歯形が形成されている。各リーフ体の歯形に駆動ギアが噛み合わされ、各駆動ギアを夫々複数の駆動装置143A1〜143An、143B1〜143Bnで個別に駆動することにより、複数のリーフ体141A1〜141An、141B1〜141Bnが夫々所望の位置へ移動する。
【0031】
即ち、照射絞り装置14は、一対の上部絞り体ブロック140A、140Bを、放射線源Sを中心軸にX方向に互いに接近若しくは離反する方向に移動させると共に、一対の下部多分割照射絞り体ブロック141A、141Bの各リーフ体141A1〜141An、141B1〜141Bnを、それぞれ個別に放射線源Sを中心軸にY方向に互いに接近若しくは離反する方向に移動させることによって所望の放射線照射野U(図5)を形成する。図5は、照射絞り装置14によって、不規則な治療部位の形状Tに近似するように放射線照射野Uを設定した様子を示す。
【0032】
放射線照射野Uの形状を、不規則形状の治療部位Tにより一層近似させるためには、下部絞り体ブロックの各リーフ体141A1〜141An、141B1〜141Bnを、設定した放射線照射野Uの形状に合わせて、より正確に個別に移動させることが重要となる。そのためには、各リーフ体141A1〜141An、141B1〜141Bnの円弧上端面に形成された歯形に噛み合わされている各駆動ギアを含む駆動機構のバックラッシュを除去することと、各リーフ体141A1〜141An、141B1〜141Bnの位置を正確に検出することが求められる。
【0033】
図6は、多分割照射絞り体ブロックを構成するリーフ体141m(m=1〜n)を駆動する本実施形態による駆動機構を示す。リーフ体141mの左端面141mbは、図4に示す放射線照射野形成端面である。即ち、リーフ体141mの左端面141mbが、図面左方向へ移動し、一対の対向するリーフ体(図示せず)の右端面が反対方向(図面右方向)へ移動すると、一対の絞り体ブロック141mによる放射線照射野は小さく閉じられる。リーフ体141mと対向するリーフ体141mとが逆方向に移動すれば、一対の絞り体ブロック141mによる放射線照射野は大きく開かれる。
【0034】
図6に示すように、各リーフ体141mは円弧状に湾曲した軌道面を有しており、その外側端面141ma上に歯形(図示せず)が形成されている。リーフ体141mの外側端面141ma上の歯形に駆動ギア150が噛み合わされている。駆動ギア150は、リーフ体141mに対し常に閉方向に一定の力を与える定荷重バネ160の一方のドラム161に同軸的に固着される。
【0035】
図7Aは、駆動ギア150に一定の力を与えるための定荷重バネ160の構成を示す。定荷重バネ160は、ストロークに拘わらず一定のトルクを保つ特性を持つ。図8の特性図に示すように、定荷重バネ160は、帯状バネ163を第1ドラム161に巻き取ると共に、帯状バネ163を第2ドラム162で反転する方向へ巻き取るものである。帯状バネ163を第2ドラム162へ巻き取る場合、第1ドラム161側へ戻ろうとする回転トルクが一定で、巻き取ったバネ163の長さ(ストローク)によって変化しないという特性をもっている。図8は、この定荷重バネ160の特性を示すもので、横軸は巻き取るバネ163のストローク、縦軸は回転トルクである。そして、定荷重バネ160の第1ドラム161の中心中空部には、第1回転シャフト171が回転可能に挿入されている。第2ドラム162の中心中空部には、第2回転シャフト172が回転可能に挿入される。第1回転シャフト171と第2回転シャフト172は平行に配置される。第1回転シャフト171は、駆動ギア150に固定される。
【0036】
図7Bは、図7AのA−A断面図である。図7Bに示すように、定荷重バネ160の第1ドラム161は、板上バネの一端が駆動ギア150の中心中空部に同軸に固着されて、巻き取られる構造である。巻き取られた第1ドラム161の中心中空部に挿入された第1回転シャフト171は、ベアリング180を介して回転可能に保持される。同様に、定荷重バネ160の第2ドラム162の中心中空部に第2回転シャフト172が摺接するように挿入されている。即ち、定荷重バネ160が一対の回転シャフト171、172によって保持されており、定荷重バネ160の一方のドラムに固定された駆動ギア150によって、リーフ体141mは、常に放射線照射野の閉方向に荷重される。
【0037】
図6に示すように、リーフ体141mの右側端面は、ワイヤ151に結合されている。ワイヤ151は、例えば、ピアノ線である。ワイヤ151は滑車152を介して巻取りモータ153に結合されている軸に巻取られる。巻取りモータ153の回転によって、ワイヤ151が巻取られると、定荷重バネ160に同軸固定される駆動ギア150によってリーフ体141mに常に閉方向へ加わる力に抗して、リーフ体141mが開方向(図面右方向)へ適宜移動される。
【0038】
即ち、巻取りモータ153でワイヤ151を巻き取ることで、リーフ体141mを所望の放射線照射野の位置に移動させる。リーフ体141mを開方向へ移動させる場合にも、駆動ギア150がリーフ体141mの歯形に対して閉方向に作用する力は一定であり変化しない。そのため、駆動ギア150のバックラッシュをほぼ完全に除去することが出来る。
【0039】
巻取りモータ153の巻取りによるリーフ体141mの開方向へ移動量は、制御セクション30(図1)によって、リーフ体141mの位置と被検体の治療部位形状Tに対して設定される放射線照射野Uに応じて、制御される。
【0040】
図4に示すように、一対の下部絞り体ブロック141A、141Bは、それぞれ複数枚のリーフ体141A1〜141An、141B1〜141Bnで構成されている。従って、全てのリーフ体を個別に定荷重バネ160を使用した駆動機構で移動させるために、1対の回転シャフト171、172でY方向に所定間隔で配置される複数の定荷重バネ160を保持する。実施例では、複数の定荷重バネ160を保持する一対の回転シャフト171、172をX方向に複数組設ける。
【0041】
図9は、下部絞り体ブロックの各リーフ体141mの駆動機構に4組の回転シャフトを設けた実施態様である。第1組の回転シャフト171a、172aに係合された定荷重バネ160aの駆動ギア150aは、例えば、第1リーフ体1411に噛み合わされ、同じ第1組の回転シャフト171a、172aに保持されたその他の複数の駆動ギアは、例えば第5リーフ体1415、第10リーフ体14110(いずれも図示せず)の各歯形に噛み合わされる。
【0042】
同様に、第2組の回転シャフト171b、172bに係合された複数の定荷重バネ160bの駆動ギア150bは、第2リーフ体1412の歯形に噛み合わされ、第2組の回転シャフト171b、172bに保持されたその他の駆動ギアは、例えば第6リーフ体1416、第11リーフ体14111(いずれも図示せず)の歯形に噛み合わされる。
【0043】
以下同様に、第3組の回転シャフト171c、172cに保持された複数の定荷重バネ160cの駆動ギア150cは、例えば第3リーフ体1413、第7リーフ体1417、第12リーフ体14112(いずれも図示せず)の歯形に噛み合わされる。
【0044】
第4組の回転シャフト171d、172dに係合された複数の定荷重バネ160dの駆動ギア150dは、例えば第4リーフ体1414、第8リーフ体1418、第13リーフ体14113(いずれも図示せず)の歯形に噛み合わされることになる。
【0045】
このように、少数組の回転シャフト171、172に複数の定荷重バネ160に固定した複数の駆動ギア150を、X方向に密接配置される複数のリーフ体141mに係合させることで、個別に駆動することが可能になる。
【0046】
従って、照射ユニット13内の限られたスペース内でも、リーフ体141mの枚数を増加させて、多数のリーフ体141mを駆動することが可能となる。
【0047】
図10は、図9のリーフ体駆動機構を斜め上方から見た斜視図である。図11は、図10のリーフ体駆動機構を下方から見た斜視図である。図10,図11は、共に、下部絞り体ブロック141A、141Bの一方を示す。
【0048】
実施例では、4組の一対の回転シャフト171aと172a、171bと172b、171cと172c、171dと172dに夫々複数の定荷重バネ160が保持されている。例えば、第1組の一対の回転シャフト171aと172aに保持された複数の定荷重バネ1601、1602、‥‥、16011に固定される駆動ギア1501、1502、‥‥、15011が、各リーフ体1411、1412、‥‥、14111の歯形に噛み合わされて、それぞれ個別に駆動される。
【0049】
実施例では、第2組の一対の回転シャフト171bと172bにはX方向に11個の定荷重バネ1601、1602、‥‥、16011が保持されている。第3組及び第4組の一対の回転シャフト171cと172c及び171dと172dには夫々X方向に9個の定荷重バネ1601、1602、‥‥、1609が保持されている。このように、一対の回転シャフトに適宜の数の定荷重バネ160を保持すると共に、Y方向に互いに千鳥状に配置することで、少ないスペースに多数のリーフ体141mを配列し、個別に移動できる。
【0050】
治療部位形状Tに近似した放射線照射野U(図5)を形成するためのリーフ体141mの開閉移動は、モータ153によるワイヤ巻取り制御が制御セクション30によって実行される。図12は、リーフ体141mの位置検出装置210の構成を示す。図13は、リーフ体141mの外側端部141maの一部断面図である。
【0051】
図12に示すように、リーフ体141mの円弧状の外側端面141maに歯形141mbが形成されており、この歯形141mbに定荷重バネ160の第1ドラム161に固着された駆動ギア150が噛み合わされている。
【0052】
図13に示すように、リーフ体の外側端面141maの厚み方向には、歯形141mbの形成されている部分と、歯形141mbの形成されていない部分とがある。歯形141mbの形成されていない部分に、Y方向すなわちリーフ体141mの移動方向に沿って、図14に示すような光照射パターン200が固定されている。
【0053】
図12,図13に示すように、光照射部211から、パターン200の固定されているリーフ体141mの外側端面141maの定点Fxへ向けて光が照射される。リーフ体141mの近傍に配置される撮像部212が、パターン200上の定点Fxを含む領域を撮像して定点画像を取得する。光照射部211は、例えば発光ダイオードなどによって構成され、撮像部212は例えばCCDカメラなどによって構成されている。撮像部212の出力は、移動量演算部213に供給される。この移動量演算部213はリーフ体141mの傍に配置する必要はなく、制御部30に設けることができる。
【0054】
図14は、パターン200の一例を示す。パターン200は、例えば約0.5mm四方の領域を網目状に16分割し、分割領域の隅の格子の一つに黒色で示す特定模様200a1〜200a5を形成したものである。
【0055】
特異模様は、着色する以外に、例えば他の分割領域よりも一様に掘り下げたものとしたり、目の粗い溝を刻設したりしたものであってもよい。
【0056】
光照射部211からリーフ体141mの外側端面141maの定点Fxへ向けて光を照射すると、その光はパターン200の一部を照らすことになる。定点Fxは、リーフ体141mの変位に影響されない位置にあって所定の面積を有している。光照射部211は、設置位置及び照射方向が固定されており、且つ、定点Fxをリーフ体141mの外周側の円弧面方向に設定し、パターン200の刻設された領域の一部を含むように設定されている。
【0057】
撮像部212は、リーフ体141mの外周側の円弧面方向を一定間隔で、パターン200上の定点Fxを含む領域を撮像するように設けられる。撮像部212は、定点Fxから反射した光を経時的に受光して、一定間隔で定点画像を取得する。定点画像にはリーフ体141mに刻設されたパターン200の一部が存在している。移動量演算部213は、パターン200に含まれている特異模様200aの位置を特定し、撮像部212で捉えられた特異模様200aの経時的なズレからリーフ体141mの移動量を演算する。
【0058】
移動量演算部213は、リーフ体141mの移動に従って時系列で取得される複数の定点画像を解析して、リーフ体141mの移動量を取得する。リーフ体141mが移動すると、リーフ体141mに固定されたパターン200も一緒に移動するので、時系列で取得される複数の定点画像上では、特定模様200aを含むパターン200上で定点Fxの位置が相対的に変化する。従って、移動量演算部213が時系列で取得する複数の定点画像上で、パターン200に対する定点Fxの相対的な位置を認識し、その位置のズレを判断することによって、リーフ体位置検出装置210はリーフ体141mの移動量すなわち位置を検出することができる。
【0059】
リーフ体141mの変位量の多少に依らず、特定模様200aの一部又は全部を定点画像内に存在させることが望ましい。従ってリーフ体141mに形成されるパターン200の大きさは、できるだけ小さいことが望ましい。実施形態では、特定模様200aを撮像部212が撮像する領域よりも小さい領域とするために、パターン200の1単位を約0.5mm四方として特異模様200aを形成している。
【0060】
本実施形態の放射線治療装置によれば、リーフ体に対して閉方向と開方向へ絶えずテンションをかけるようにするので、放射線照射野の設定精度を向上でき、且つ、駆動ギアによるバックラッシュをほぼ無くすことができる。従って、正常組織への放射線照射を防止できる。更に、照射絞り装置内の限られたスペースに、ワイヤで多数のリーフ体を独立して移動させるモータを配置する自由度があるので、リーフ数増やした高精度の放射線治療装置が得られる。万一、リーフ体を開方向へ引っ張っているワイヤが切断した場合でも、定荷重バネの作用によってリーフ体は閉方向へ移動するので、リーフ体が開いたままになることはなく、被検体の安全が確保される。
【0061】
本実施形態では、1対の回転シャフトに複数の定荷重バネを固定して、その数の分だけのリーフ体に駆動力を作用させるので、従来の放射線治療装置に比べ、駆動ギアを回転させるシャフト数を大幅に軽減できる。更に、リーフ体に結合したワイヤは、滑車を介して照射ユニット内の空いている場所に適宜導くことができので、巻取りモータの配置の自由度が飛躍的に向上する。
【0062】
従って、照射ユニット内のデッドスペース部分に、多数の巻取りモータの配置が可能となり、リーフ体の枚数を増加するができ、より高精度に放射線照射野を設定することができる。
【0063】
本実施形態によれば、非接触でリーフ体の変位や位置を検出でき、バックラッシュの影響や歯形車の摩耗による変位又は位置検出誤差を軽減することができる。従って、バックラッシュに関係なく、リーフ体の位置を高精度に検出して、放射線照射野の設定をより確実なものにすることができる。
【0064】
実施形態のモータに代えて油圧や空気圧による動力を利用してリーフ体のワイヤを巻取るようにしても良い。実施形態では、リーフ体の位置をリーフ体位置検出装置によって直接検出したが、駆動ギアの側面に周状に多極磁性パターンを貼付するとともに、駆動ギアの近傍に設けた磁気センサによって多極磁性パターンを検出し、この検出情報に基づきリーフ体の移動量を制御するようにしても良い。
【0065】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態に実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0066】
141m‥‥リーフ体
150‥‥駆動ギア
151‥‥ワイヤ
152‥‥滑車
153‥‥巻取りモータ
160‥‥定荷重バネ
161‥‥第1ドラム
162‥‥第2ドラム
171‥‥第1回転シャフト
172‥‥第2回転シャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線源からの放射線を遮蔽する放射線絞り装置を備え、前記放射線源から放射される放射線の照射野を治療対象部に制限するようにした放射線治療装置において、
前記放射線絞り装置は、
円弧状の軌道面に歯形を有する複数のリーフ体で形成する一対の絞りブロック体と、
前記複数のリーフ体の各軌道面歯形に噛み合わせて、前記各リーフを独立して駆動する複数の駆動ギアと、
前記複数の駆動ギアに結合され、前記各リーフ体を常に閉方向へ移動するように前記駆動ギアに力を加える複数の定加重バネ体と、
前記複数のリーフ体の各リーフ体に結合された複数のワイヤと、
前記複数の定加重バネ体による力に抗して、前記各リーフ体が開方向へ移動するように前記複数のワイヤを独立して巻き取る複数の巻取り装置と、
を具備することを特徴とする放射線治療装置。
【請求項2】
前記放射線絞り装置は、
前記放射線源に近い位置に配置され、第1の円弧状軌道面に歯形を有する一対の上部絞りブロック体と、
前記上部絞りブロック体の各軌道面歯形に噛み合わせて、前記上部絞りブロック体を駆動する駆動ギア装置と、
前記第1の円弧状軌道に直交する第2の円弧状軌道面に歯形を有する複数のリーフ体で形成する一対の下部絞りブロック体と、
前記複数のリーフ体の各軌道面歯形に噛み合わせて、前記複数のリーフを駆動する複数の駆動ギアと、
前記複数の駆動ギアに結合され、前記複数のリーフ体を独立して常に閉方向へ移動するように前記複数の駆動ギアに力を加える複数の定荷重バネ体と、
前記複数のリーフ体に結合された複数のワイヤと、
前記複数の定荷重バネ体による力に抗して、前記複数のリーフ体を独立して開方向へ移動するように前記複数のワイヤを巻き取る巻取り装置と、
を具備することを特徴とする請求項1に記載の放射線治療装置。
【請求項3】
前記複数の定加重バネ体は、板バネを互いに巻き取る2つのドラムで構成され、前記2つのドラムの中心口を貫通する一対の回転シャフトに保持されることを特徴とする請求項2に記載の放射線治療装置。
【請求項4】
前記放射線絞り装置の前記複数の定荷重バネを保持する一対の回転シャフトが、複数対設けられることを特徴とする請求項3に記載の放射線治療装置。
【請求項5】
前記複数のリーフ体の各歯形に噛み合わせる前記複数の駆動ギアが、夫々前記定荷重バネを構成する前記2つのドラムの一方のドラムに保持されることを特徴とする請求項3に記載の放射線治療装置。
【請求項6】
前記複数のリーフ体の各リーフ体に結合される前記複数のワイヤは、ピアノ線であって、
前記複数の巻取り装置は、前記定加重バネ体による閉方向への力に抗して前記各リーフ体が開方向へ移動するように、前記複数のピアノ線を独立して巻き取ることを特徴とする請求項1に記載の放射線治療装置。
【請求項7】
前記一対の回転シャフトの同軸上に保持される複数の駆動ギアと、前記複数組の他の一対の回転シャフトの同軸上に保持される複数の駆動ギアとは、互いに千鳥状に配置されることを特徴とする請求項4に記載の放射線治療装置。
【請求項8】
前記駆動手段は、前記ワイヤを巻き取るモータであって、前記バネ体による各リーフ体を常に閉方向へ移動するように加えられるに力に抗して、前記各リーフ体を開方向へ移動させて、所望の放射線照射野の位置に移動させることを特徴とする請求項1に記載の放射線治療装置。
【請求項9】
前記モータはプーリーを介して前記ワイヤを巻き取る構造で、限られた放射線絞り装置のスペース内に、前記複数のリーフ体を個別に駆動する複数のモータを配置する自由度があることを特徴とする請求項8に記載の放射線治療装置。
【請求項10】
制御部を更に有し、
前記制御部が、前記各リーフ体の位置と被検体の治療部位形状に対して設定される放射線照射野に応じて、前記複数の巻取り装置による前記各リーフ体の開方向へ移動量を独立に制御することを特徴とする請求項1に記載の放射線治療装置。
【請求項11】
前記各リーフ体の軌道面に固定される特定パターンを非接触で検出することによって、前記各リーフ体の位置または移動量を検出する検出装置を更に具備することを特徴とする請求項1に記載の放射線治療装置。
【請求項12】
前記駆動ギアの側面に周状に多極磁性パターンを貼付するとともに、駆動ギアの近傍に設けた磁気センサによって多極磁性パターンを検出し、この検出情報に基づきリーフ体の移動量を制御することを特徴とする請求項1に記載の放射線治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−67613(P2011−67613A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187633(P2010−187633)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【出願人】(594164531)東芝医用システムエンジニアリング株式会社 (892)
【Fターム(参考)】