説明

放射線治療装置

【課題】患部の組織の破壊を抑えて放射線治療を行える放射線治療装置を提供する。
【解決手段】放射線により患部の組織に破壊が発生しない25μmの幅でスリット50が複数形成されたグリッド16を患者の患部18の放射線源側に配置し、グリッド16を透過した放射線を患者の患部18に照射する。放射線により患部の組織に破壊が発生しない所定幅で透過部が複数形成されたグリッド16を患者の患部上における放射線の入射直前の位置に配置し、グリッドを透過した放射線を患者の患部に照射しているので、患部の組織の破壊を抑えて放射線治療を行える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療装置に係り、特に、放射線を患者の患部に照射して治療を行う放射線治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線などの放射線を患者の患部に照射して患部内の腫瘍などの治療を行う放射線治療装置が提案されている。
【0003】
この放射線による治療では、放射線により組織に生物学的損傷を与えることを利用しており、より強い放射線を腫瘍に照射して損傷を与えることが好ましい。
【0004】
しかし、放射線による影響は腫瘍に限らず正常組織にも与えられ、正常組織も含めて患部の組織が破壊されてしまう。
【0005】
そこで、放射線治療において、正常組織の損傷を抑えながら効率的に治療を行えるようにする技術として、特許文献1には、腫瘍等の患部の近傍に、ガンマ線が当たると電子陽電子対を放出する性質を持つ白金などの重金属からなる放射材を配置し、患者の外部からガンマ線を照射する放射線治療装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−49884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、ガンマ線により正常組織も含めて患部の組織が破壊されてしまう。
【0008】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、患部の組織の破壊を抑えて放射線治療を行える放射線治療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の放射線治療装置は、放射線を照射する放射線源と、放射線により患部の組織に破壊が発生しない所定幅で放射線を透過する透過部が複数形成され、前記放射線源から照射された放射線により治療を行う患者の前記放射線源側に配置されたグリッドと、を備えている。
【0010】
本発明は、放射線源から放射線を照射し、放射線により患部の組織に破壊が発生しない所定幅で放射線を透過する透過部が複数形成されたグリッドが、放射線源から照射された放射線により治療を行う患者に対する放射線の入射直前の位置に配置され、放射線源から照射された放射線がグリッドを透過して患者の患部に照射される。
【0011】
このように、請求項1に記載の発明によれば、放射線により患部の組織に破壊が発生しない所定幅で透過部が複数形成されたグリッドを患者の患部上における放射線の入射直前の位置に配置し、グリッドを透過した放射線を患者の患部に照射しているので、患部の組織の破壊を抑えて放射線治療を行える。
【0012】
なお、本発明は、請求項2記載の発明のように、放射線源が、逆コンプトン散乱により発生した放射線を照射してもよい。
【0013】
また、本発明は、請求項3記載の発明のように、前記放射線を、X線とし、前記所定幅を、100μm以下の幅としてもよい。
【0014】
また、請求項3記載の発明は、請求項4記載の発明のように、前記所定幅を、25μm以下の幅とすることが好ましい。
【0015】
また、請求項1〜請求項4記載の発明は、請求項5記載の発明のように、前記透過部を、スリットとしてもよい。
【0016】
また、請求項1〜請求項5記載の発明は、請求項6記載の発明のように、前記グリッドは、放射線を透過しない非透過部と放射線の透過率が高い材料で形成された透過部とが交互に形成されてもよい。
【0017】
また、請求項1〜請求項6記載の発明は、請求項7記載の発明のように、前記グリッドは、前記患者の患部に対する前記放射線の入射直前の位置に配置されることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、患部の組織の破壊を抑えて放射線治療を行うことができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施の形態に係る放射線治療装置の概略構成を示す構成図である。
【図2】実施の形態に係る放射線源の構成を示す構成図である。
【図3】実施の形態に係るグリッドの構成を示す図であり、(A)は平面図、(B)は要部拡大斜視図である。
【図4】ラットに1mmの幅でX線を280Gy照射した際の組織の状態を示す図である。
【図5】ラットに25μmの幅でX線を4000Gy照射した際の組織の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、以下では、放射線としてX線を患者の患部に照射して治療を行う放射線治療装置について説明する。
【0021】
図1には、本実施の形態に係る放射線治療装置10の概略構成を示す構成図が示されている。
【0022】
放射線治療装置10は、X線を照射する放射線源12と、放射線源12からX線の照射領域に配置された治療台14と、X線を透過するスリット50(図3参照)が形成されたグリッド16と、を備えている。
【0023】
治療台14には、治療を行う患者の患部18が配置される。この患部18の上部には、グリッド16が配置される。放射線源12は、治療を行う際に、逆コンプトン散乱を用いてX線が発生し、発生したX線を治療台14へ照射する。
【0024】
図2には、本実施の形態に係る放射線源12の構成を示す構成図が示されている。
【0025】
放射線源12は、電子ビーム発生装置20と、レーザ光発生装置40と、を備えており、電子ビームEとレーザ光Lとを衝突させて逆コンプトン散乱によりX線を発生させる。
【0026】
電子ビーム発生装置20は、電子銃22と、線形加速管24と、第1偏向磁石26と、第2偏向磁石28と、真空容器30と、電子ビームダンプ32と、を備える。
【0027】
線形加速管24は、不図示の高周波電源により所定周波数(例えば、11.424GHz)のマイクロ波が供給されることにより、入射される電子ビームEを加速させる。
【0028】
電子銃22は、電子ビームを発生させる装置であり、線形加速管24に供給されるマイクロ波の周期に同期させてパルス状に電子ビームを発生させる。電子銃22で発生した電子ビームEは、線形加速管24に入射し、線形加速管24内で加速される。
【0029】
線形加速管24を通過した電子ビームEは、第1偏向磁石26に入射する。第1偏向磁石26は、入射した電子ビームEの軌道を磁場で曲げて真空容器30内の所定の直線軌道34を通過させる。真空容器30内の直線軌道34を通過した電子ビームEは、第2偏向磁石28に入射する。第2偏向磁石28は、入射した電子ビームEの軌道を磁場で曲げて電子ビームEを電子ビームダンプ32まで導く。
【0030】
電子ビームダンプ32は、直線軌道34を通過した後の電子ビームEを捕捉して、電子ビームEの漏洩を防止する。
【0031】
一方、レーザ光発生装置40は、レーザ装置42と、レーザ反射ミラー44,46と、を備える。
【0032】
レーザ装置42は、パルス状にレーザ光Lを発生する。レーザ装置42で発生したレーザ光Lは、レーザ反射ミラー44,46に順に入射し、真空容器30内の上記直線軌道34を交差するように導かれる。
【0033】
直線軌道34のレーザ光Lとの交差点48では、電子ビームEとレーザ光Lが衝突し、逆コンプトン散乱が発生してX線が発生する。
【0034】
真空容器30の直線軌道34方向には、X線の透過率の高い材料、例えばプラスチック、ガラスやX線の透過率の高い金属(ベリリウムなど)で構成されたX線取出し窓30Aが形成されている。交差点48で発生したX線はX線取出し窓30Aから外部へ出射され、図1に示す治療台14へ照射される。
【0035】
図3(A)には、本実施の形態に係るグリッド16の構成を示す平面図が示され、図3(B)には、本実施の形態に係るグリッド16の構成を示す要部拡大斜視図が示されている。
【0036】
図3(A)に示すように、グリッド16は、X線を透過しない板状の非透過性部材17に25μmの幅でスリット50が一方方向に並列に複数形成されている。このスリット50は、パターニング等で形成してもよく、レザーカット等により形成してもよい。グリッド16は、患者の放射線源側、具体的には患者の患部18に対する放射線の入射直前の位置に配置される。
【0037】
次に、本実施の形態に係る放射線治療装置10の作用について説明する。
【0038】
放射線治療装置10では、図1に示すように、治療台14上に治療を行う患者の患部18が配置され、患部18の上部にスリット50が位置するようにグリッド16が配置された状態で放射線源12からX線が照射される。
【0039】
放射線源12から照射されたX線は、グリッド16に到達する。グリッド16ではスリット50部分のみでX線が透過する。グリッド16のスリット50部分を透過したX線は患部18に到達する。すなわち、患部18には、グリッド16のスリット50に対応する部分のX線が照射される。本実施の形態では、図3(B)に示すように、グリッド16に幅が25μmの線状のスリット50が複数並列するように設けられているため、患部18に25μmの幅の複数の線状のX線が照射される。
【0040】
ここで、ラットに1mmの幅でX線を複数回に分けて280Gy照射した場合、図4に示すように、照射された部分で組織が破壊される現象が発生する。
【0041】
一方、ラットに25μmの幅でX線を複数回に分けて4000Gy照射した場合では、図5に示すように、照射された部分で組織が破壊されず、細胞の核のみが消失する現象が発生する。
【0042】
すなわち、本実施の形態に係る放射線治療装置10のように、スリット50が形成されたグリッド16を用いて幅を25μmとしたX線を患者の患部18に照射した場合、腫瘍など特定の細胞の核を消去させ、患部18の組織を破壊せずに、腫瘍など特定の細胞に損傷を与えることができる。
【0043】
また、本実施の形態に係る放射線治療装置10は、逆コンプトン散乱により発生したX線を照射する放射線源12を用いている。このように逆コンプトン散乱を用いてX線を照射する放射線源12は、エネルギー特性の揃ったX線を高い強度で照射することができるため、腫瘍など特定の細胞への影響が大きいエネルギーのX線を発生させることにより、特定の細胞により強く損傷を与えることで高い治療効果を得ることができる。
【0044】
以上のように本実施の形態によれば、放射線により患部の組織に破壊が発生しない25μmの幅でスリット50が複数形成されたグリッド16を患者の患部18上に配置し、グリッド16を透過した放射線を患者の患部18に照射しているので、患部18の組織の破壊を抑えて放射線治療を行うことができる。このようにグリッド16を患者の患部18の直前に配置することで、照射された放射線がグリッド16を通過した直後に当該患部の到達するため、スリット50により線状に形成された放射線が空中を通過する際のぼけによる拡がりが防止され、患部の組織の破壊を抑えることができる。
【0045】
以上、本発明を上記実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施の形態に多様な変更または改良を加えることができ、当該変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0046】
例えば、上記実施の形態では、グリッド16に形成されたスリット50の幅を25μmとして25μmの幅のX線を患者の患部18に照射する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。X線では100μmの幅でも組織に破壊を発生させることなく細胞の核のみが消失する現象が発生する。このため、グリッド16に形成されたスリット50の幅は、100μm以下の幅であればよいが、組織に破壊をより確実に防止するには25μm以下の幅であることが好ましい。
【0047】
なお、図3(B)に示すように、各スリット50間のピッチは、広ければ広いほど正常組織に対する損傷を小さく抑えることができるが一方で治療効果も低くなることを鑑み、各々100μm以上400μm以下とする。また、グリッド16の厚み(放射線の進行方向の長さ)、すなわち各スリット50の厚みは、厚ければ厚いほど遮蔽効果を高くすることができるが一方で製造することが難しくなることを鑑み、50μm以上150μm以下とする。
【0048】
また、上記実施の形態では、グリッド16を、X線を透過しない板状の非透過性部材17にX線を透過する透過部としてスリット50を形成して構成した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、金などX線を透過しない非透過部と、シリコンや原子番号の小さい金属材料などX線の透過率が高い材料で形成された透過部を交互に形成して透過するX線の幅を制限するものとしてもよい。
【0049】
また、上記実施の形態では、放射線治療装置10は放射線としてX線を照射して治療を行う場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、照射する放射線は、X線の他、ガンマ線、電子線、粒子線等いずれであってもよい。
【0050】
その他、上記実施の形態で説明した構成は一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において、不要な部分を削除したり、新たな部分を追加したり、接続状態等を変更したりすることができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0051】
10 放射線治療装置
12 放射線源
16 グリッド
18 患部
50 スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を照射する放射線源と、
放射線により患部の組織に破壊が発生しない所定幅で放射線を透過する透過部が複数形成され、前記放射線源から照射された放射線により治療を行う患者の前記放射線源側に配置されたグリッドと、
を備えた放射線治療装置。
【請求項2】
前記放射線源は、逆コンプトン散乱により発生した放射線を照射する
請求項1記載の放射線治療装置。
【請求項3】
前記放射線を、X線とし、
前記所定幅を、100μm以下の幅とした
請求項1又は請求項2記載の放射線治療装置。
【請求項4】
前記所定幅を、25μm以下の幅とした
請求項1〜請求項3の何れか1項記載の放射線治療装置。
【請求項5】
前記透過部を、スリットとした
請求項1〜請求項4の何れか1項記載の放射線治療装置。
【請求項6】
前記グリッドは、放射線を透過しない非透過部と放射線の透過率が高い材料で形成された透過部とが交互に形成された
請求項1〜請求項5の何れか1項記載の放射線治療装置。
【請求項7】
前記グリッドは、前記患者の患部に対する前記放射線の入射直前の位置に配置される
請求項1〜請求項6の何れか1項記載の放射線治療装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−96012(P2012−96012A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209537(P2011−209537)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】