説明

放射線治療部位監視装置、放射線治療装置、及びその制御方法

【課題】マーカーを用いることなく、治療対象部位を高精度で監視できるようにする。
【解決手段】数種類のエネルギーを治療対象(患者10)に照射する放射線源(監視用X線装置20)と、治療対象を透過した複数のエネルギー領域のフォトン数を、各エネルギー領域毎に弁別して計数する複数のフォトンカウントセンサー22と、該複数のフォトンカウントセンサーの出力に基づいて、治療対象部位(患部10B)とそれ以外(正常部10A)を識別する画像識別手段(患部位置モニター24)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療部位監視装置、放射線治療装置、及びその制御方法に係り、特に、マーカーを用いることなく、患部や病変部等の治療対象部位(単に治療部位とも称する)を高精度で監視することが可能な放射線治療部位監視装置、これを利用した放射線治療装置、及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌などの放射線治療において、治療対象部位である患部や病変部等を監視しながら放射線照射を正確に行ない、患部以外の正常な部位(健全部)での被曝を極力少なくすることが必要である。又、患部への照射残しを無くすことも重要である。そのため従来は、特許文献1に記載されているように体表面にマーカーを固定したり、特許文献2の従来技術に記載されているように、患部に金属のマーカーを埋め込んで、これを確認しながら照射したり、特許文献3に記載されているように、CT画像から骨などのランドマークを抽出したり、特許文献4に記載されているように、超音波断層画像やMRI画像から患部を検出したり、特許文献5や6に記載されているように、X線画像から、必要に応じてマーカーを併用して(特許文献6)、患部を検出するようにしてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−178323号公報
【特許文献2】特開2002−186675号公報(段落0017)
【特許文献3】特開2009−369号公報
【特許文献4】特開2005−95640号公報
【特許文献5】特開2004−57438号公報
【特許文献6】特開2002−200182号公報
【特許文献7】特公表2005−526578号公報
【特許文献8】特公表2007−526036号公報
【特許文献9】特開2003−220151号公報
【特許文献10】特開2008−173182号公報
【特許文献11】特開2009−66106号公報
【特許文献12】特開2001−259059号公報
【特許文献13】特開2009−14624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、図1に模式的に例示するように、患部10Bが正常部10Aを囲むように存在している場合、マーカー12を埋め込んで、そのマーカー12をつなぐ破線A内の範囲に対して放射線を照射すると、マーカー12の埋め込みにより患者に過大な負担を与えるだけでなく、マーカーでは患部10Bと正常部10Aの境が明確でなく不正確であるため、破線Aの外側に照射残りBが生じて、癌が取りきれず再発の危険を生じたり、あるいは、正常部10Aにも放射線を照射してダメージCが発生するという問題点を有していた。
【0005】
特に、放射線治療方法が高度化し、これまででは数方向から照射していたが、最新治療法ではコンピュータ制御によって数多くの方向から線量をフィルタやマスクで調節しながら照射する強度変調放射線治療IMRT(特許文献7や8参照)が適用され、根治率が格段に上がっている。しかしながら、患部が生体の一部であるため動くので、IMRTでは、適用する患部が限定される。
【0006】
更に、精密な細いビームにより、より正確な照射が可能で、動く患部に適用できる動体追跡放射線治療MMRT(特許文献9〜11参照)でも、マーカーが必要で、CTデータや呼吸同期等で患部を推定する必要がある。
【0007】
又、患部周辺を撮影したX線透過撮影画像Xからオプティカルフローを計算し、そのフローベクトルを合成することによって、患部の動きベクトルを計算する呼吸同期照射(特許文献12参照)も提案されているが、ここまで詳細な照射を行うためには、これまでのようにマーカーによる患部確認や推定では正確な制御が困難であった。
【0008】
なお、特許文献13には、空港での手荷物検査や食品中の混入物検査等で、未知の構成材料を判定するための、放射線のエネルギー弁別を行うことにより、透過X線を利用して物質の材質や状態を計測するフォトンカウントセンサーが提案されているが、ラインセンサを用いた走査型で動作が遅く、検出ピッチも過大で、放射線治療に用いることはできなかった。
【0009】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、マーカーを用いることなく、従って、患者に過大な負担を与えることなく、治療部位を高精度で監視可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、放射線治療部位監視装置において、複数種類のエネルギーを治療対象に照射する放射線源と、治療対象を透過した複数のエネルギー領域のフォトン数を、各エネルギー領域毎に弁別して計数する複数のフォトンカウントセンサーと、該複数のフォトンカウントセンサーの出力に基づいて、治療対象部位とそれ以外を識別する画像識別手段と、を備えることにより、前記課題を解決したものである。
【0011】
ここで、前記フォトンカウントセンサーを、放射線が入射される結晶板と、放射線により該結晶板に発生した電荷信号を読み取る信号読取回路とを、略垂直に配置されたカーボンナノチューブで結合したものとすることができる。
【0012】
又、複数種類のエネルギーは、ある範囲のエネルギーが連続して含まれている白色X線(連続X線)の複数部分をセンサー側で切り分けたものであっても良い。
【0013】
本発明は、又、該放射線治療部位監視装置の出力に基づいて、治療用放射線の照射方向や線量を把握する手段を備えたことを特徴とする放射線治療装置を提供するものである。
【0014】
又、前記把握する手段の出力に基づいて、治療用放射線の照射方向や線量を制御する手段を更に備えたものである。
【0015】
又、前記放射線治療部位監視装置の出力に基づいて、治療用放射線の照射方向や線量を把握し、制御することを特徴とする放射線治療装置の制御方法を提供するものである。
【0016】
なお、フォトンカウントセンサーを使用しても組織の境が明確でない場合は、患部、例えば癌細胞に集まる薬品を投与してから照射することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、フォトンカウントセンサーにより、入射された放射線のエネルギーを弁別して、通常の密度からの画像の濃淡以外に組織の違いをデータとして得ることが出来るため、図2に例示する如く、治療対象部位(患部10B)とそれ以外(正常部10A)を明確に識別することが可能となる。従って、この画像を使用して患部10Bと正常部10Aの輪郭を明確にすることにより、これまでのマーカーでは得られない正確で緻密な治療を行うことが可能となる。
【0018】
又、癌の治療では癌に正確に予定の線量を照射することが最も重要である。これまでは実際の患部にどの程度の線量を照射したかを位置データ等推定で計算していた。これに対して本発明では、常に照射位置とモニター位置が一致しているため、実線量でリアルタイムでまた記録として正確に残り、データの信頼性が飛躍的に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】従来のマーカーで認識される患部形状の一例を示す図
【図2】本発明により認識される患部形状の一例を示す図
【図3】本発明の実施形態の全体構成を示す図
【図4】同じくフォトンカウントセンサーの要部構成を示す断面図
【図5】同じくフォトンカウントセンサーによる患部識別の原理を示す図
【図6】同じくフォトンカンウトセンサーで検出される各物質の吸収率の差の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0021】
本発明に係る放射線治療装置の実施形態は、図3に全体構成を示す如く、複数種類のエネルギーの監視用X線21を治療対象である患者10の患部10Bに照射する放射線源である監視用X線装置20と、患者10を透過したX線から、複数のエネルギー領域のフォトン数を、各エネルギー領域毎に弁別して計数する複数(図では2台)のフォトンカウントセンサー22と、該複数のフォトンカウントセンサー22の出力に基づいて、患部10Bとそれ以外の正常部10Aを識別する画像識別手段(図示省略)を含む患部位置モニター24と、該患部位置モニター24の出力に基づいて、治療用X線31を照射する治療用X線加速器30の照射方向や線量を制御するためのX線治療器コントローラ26とを備えている。
【0022】
図において、28は、治療用X線加速器30を図中の矢印D方向に回動するための回動装置である。また、治療用X線加速器30は、図示しない回動装置により、図中の矢印E方向にも回動可能とされている。
【0023】
前記フォトンカウントセンサー22は、発明者が特願2009−117818号(出願時未公開)で提案したように、図4に示す如く、放射線が入射される、例えばCdTe系結晶板22Aと、放射線により該結晶板22Aに発生した電荷信号を読み取るための、例えばCMOS集積回路でなる信号読取回路22Bとが、略垂直に配置されたカーボンナノチューブ(CNT)22Cで結合されており、特許文献13のフォトンカウントセンサーのように、ラインセンサを走査することなく、高速且つ高密度で放射線を検出可能とされている。他の構成は、特許文献13のフォトンカウントセンサーと同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0024】
以下、作用を説明する。
【0025】
前記監視用X線装置20からX線を照射すると、フォトンカウントセンサー22には、図5に示す如く、エネルギー範囲ごとに異なる画像が得られる。例えば(A)にはX線エネルギーE以下の画像が得られ、(B)にはX線エネルギーEからEの画像が得られ、(C)にはX線エネルギーE以上の画像が得られる。従って、これらの画像を比較し、患部に集まる物質のX線エネルギー変化による減衰の特徴を解析することによって、(D)に示す如く、患部10Bを特定することができる。図5の例では、患部10BのみX線エネルギーE以上の減衰が異なっている。
【0026】
各物質の吸収率の差の一例を図6に示す。フォトンカウントセンサーにより各エネルギーの透過線の差を検出することによって、物質の違いを判別することができる。
【0027】
なお、前記実施形態においては、患部位置モニター24の出力に基づいて治療用X線加速器30を制御するようにしていたが、制御対象はこれに限定されず、X線以外の放射線治療に適用することが可能である。又、治療手段へのフィードバック制御を行うことなく、患部位置のモニタだけを行なうことも可能である。フォトンカウントセンサー22も、CdTe系結晶板22AやCNT22Cを用いたものに限定されない。更に、フォトンカウントセンサー22の数も2台に限定されず、3台以上設けて、立体的な精度を高めることもできる。
【0028】
又、複数種類のエネルギーは、ある範囲のエネルギーが連続して含まれている白色X線(連続X線)の複数部分をセンサー側で切り分けたものであっても良い。
【0029】
なお、フォトンカウントセンサーを使用しても組織の境が明確でない場合は、患部、例えば癌細胞に集まる薬品を投与してから照射することができる。
【符号の説明】
【0030】
10…患者
10A…正常部
10B…患部
20…監視用X線装置
21…監視用X線
22…フォトンカウントセンサー
22A…結晶板
22B…信号読取回路
22C…カーボンナノチューブ(CNT)
24…患部位置モニター
26…X線治療器コントローラ
28…回動装置
30…治療用X線加速器
31…治療用X線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類のエネルギーを治療対象に照射する放射線源と、
治療対象を透過した複数のエネルギー領域のフォトン数を、各エネルギー領域毎に弁別して計数する複数のフォトンカウントセンサーと、
該複数のフォトンカウントセンサーの出力に基づいて、治療対象部位とそれ以外を識別する画像識別手段と、
を備えたことを特徴とする放射線治療部位監視装置。
【請求項2】
前記フォトンカウントセンサーが、放射線が入射される結晶板と、放射線により該結晶板に発生した電荷信号を読み取る信号読取回路とを、略垂直に配置されたカーボンナノチューブで結合したものであることを特徴とする請求項1に記載の放射線治療部位監視装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の放射線治療部位監視装置の出力に基づいて、治療用放射線の照射方向や線量を把握する手段を備えたことを特徴とする放射線治療装置。
【請求項4】
前記把握する手段の出力に基づいて、治療用放射線の照射方向や線量を制御する手段を更に備えたことを特徴とする請求項3に記載の放射線治療装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の放射線治療部位監視装置の出力に基づいて、治療用放射線の照射方向や線量を把握し、制御することを特徴とする放射線治療装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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