説明

放射線測定器を備えた作業機械

【課題】運転者を放射線被曝から保護しつつ、効率的な作業を行うことが可能な作業機械を提供する。
【解決手段】油圧ショベルを構成する上部旋回体2の上面、フロントアクチュエータ機構3を構成するアーム7の先端部分、及びキャブ5内に放射線測定器21,22,23を設置する。キャブ5内にモニタ装置11を備え、放射線測定器21,22,23の検出データ等をモニタリングする。また、キャブ5内にアラーム装置12を備え、放射線測定器21,22,23の検出データが所定値に達したとき、運転者に警報を発する。さらには、無線通信端末14とGPSユニット15とを備え、放射線測定器21,22,23の検出データとGPSユニット15にて検出された油圧ショベルの現在位置データとを、無線通信端末14を介して外部装置に無線通信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線測定器を備えた作業機械に係り、特に、作業中における放射線被曝から運転者を保護する手段に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所を保有する国においては、原子炉設備からの放射性物質の漏洩及び拡散が発生した場合、国民の健康被害を最小限に抑制することが強く求められる。原子炉設備からの放射性物質の漏洩及び拡散は、地震やそれに伴う津波などの災害により原子炉設備がダメージを受けたときに発生し、災害の復旧及び被災地の復興には、油圧ショベル、ホイールローダ、ダンプカーなどの建設機械や作業車両(本明細書においては、これらを総称して「作業機械」という。)を効率的に稼動させることが不可欠である。
【0003】
しかしながら、原子炉設備から漏洩した放射性物質で汚染された地域では、放射線被曝による運転者の健康被害が懸念されるため、放射線被曝に対する備えのない作業機械及び運転者を被災地に投入することはできない。また、空気中及び地表に拡散した放射性物質は、雨によって地下に浸透し、次いで地下水によって運ばれ、局部的に高濃度の放射性物質が蓄積された土壌を生じることがあり、更には、高濃度の放射性物質が蓄積された土壌が土木工事等によって遠隔地に運搬される可能性もある。このような理由から、仮に地表付近の放射線強度が低レベルであったとしても、地下に蓄積された放射性物質により作業中の運転者が放射線に被曝することもあり得るので、放射性物質による汚染が知られている地域だけでなく、汚染が懸念される地域についても、放射線被曝に対する備えのない作業機械及び運転者を被災地に投入することはできない。
【0004】
なお、危険な作業環境下での作業を安全に行うための作業機械としては、運転者が作業機械に搭乗せず、安全な遠隔地から無線操縦することによって作業を行う無線操縦方式の作業機械が従来知られている(特許文献1参照)。放射性物質により汚染された地域の災害復旧には、この種の作業機械を投入することも考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−102842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、無線操縦方式の作業機械は、オペレータの思い通りに動かすことが難しく、作業性が著しく悪いため、被災地に投入しても復旧作業等を効率的に行うことが困難である。このような事情から、被災地には運転者が搭乗して作業を行う作業機械を投入することが必要であり、そのためには、作業機械に放射線被曝に対する備えを十分に施すことが求められる。
【0007】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、運転者を放射線被曝から保護しつつ、効率的な作業を行うことが可能な作業機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するため、運転席を内包するキャブが備えられた本体部と、該本体部を支承し、作業地点を移動させる走行部と、前記本体部に備えられ、所要の作業を行う作業部とを備えた作業機械において、前記本体部、前記走行部及び前記作業部の少なくとも1つに1乃至複数個の放射線測定器を備え、該放射線測定器の検出データ及び当該検出データから算出される関連データの少なくとも一方を、前記キャブ内に備えられたモニタ装置に表示することを特徴とする。
【0009】
かかる構成によると、作業機械の所要の部位に1乃至複数個の放射線測定器を設定し、その検出データ及び/又はそれから算出される関連データをキャブ内に備えられたモニタ装置に表示するので、運転者は、自ら安全を確認しながら作業を行うことができ、安全基準値を超える放射線に被曝することを未然に防止できて、運転者の安全確保を図ることができる。
【0010】
また本発明は、前記構成の放射線測定器を備えた作業機械において、前記キャブ内に警報装置を更に備え、前記放射線測定器の検出データ及び前記関連データの少なくとも一方が予め安全基準値以下に設定された所定値を超えたとき、前記警報装置を通じて運転者に警報を発することを特徴とする。
【0011】
かかる構成によると、放射線測定器の検出データ及び/又はそれから算出される関連データが予め設定された所定値を超えたとき、前記警報装置を通じて運転者に警報を発するので、運転者が気付かないうちに安全基準値を超える放射線に被曝することを防止でき、運転者の安全をより確実に確保することができる。
【0012】
また本発明は、前記構成の放射線測定器を備えた作業機械において、前記放射線測定器を前記キャブ内に備え、前記モニタ装置を通じて前記キャブ内で測定された前記放射線測定器の検出データ及び当該検出データから算出される関連データの少なくとも一方を運転者に報知することを特徴とする。
【0013】
かかる構成によると、放射線測定器をキャブ内に備えるので、運転席に着座した期間中の運転者の被曝の有無及び被曝量等を知ることができ、運転者の安全確保を図ることができる。
【0014】
また本発明は、前記構成の放射線測定器を備えた作業機械において、前記放射線測定器を前記キャブ外の前記本体部に備え、前記モニタ装置を通じて前記キャブ外の前記本体部で測定された前記放射線測定器の検出データ及び当該検出データから算出される関連データの少なくともいずれか一方を運転者に報知することを特徴とする。
【0015】
かかる構成によると、放射線測定器をキャブ外の本体部に備えるので、運転席への乗降時における運転者の被曝の有無及び被曝量等を知ることができ、運転者の安全を図ることができる。
【0016】
また本発明は、前記構成の放射線測定器を備えた作業機械において、前記放射線測定器を前記作業部に備え、前記モニタ装置を通じて前記作業部の作業箇所で測定された前記放射線測定器の検出データ及び当該検出データから算出される関連データの少なくともいずれか一方を運転者に報知することを特徴とする
かかる構成によると、放射線測定器を作業部に備えるので、作業部を駆動することにより掘削された土砂等の被曝の有無及び被曝量等を知ることができ、運転者の安全を図ることができると共に、当該作業地の汚染度の評価を行うことができる。
【0017】
また本発明は、前記構成の放射線測定器を備えた作業機械において、前記キャブの内外の所要部分に、作業機械の現在位置を検出するGPSユニットと、外部装置との間でデータの送受信を行う無線通信端末とを更に備え、前記放射線測定器の検出データ及び当該検出データから算出される関連データの少なくともいずれか一方並びに前記GPSユニットで測定された現在位置データを、前記無線通信端末を介して前記外部装置に無線送信することを特徴とする。
【0018】
かかる構成によると、放射線測定器の検出データ及び/又は関連データを、GPSユニットで測定された現在位置データと共に外部装置に無線送信するので、複数の運転者の被曝量管理及び作業地の汚染度評価を外部において集中管理することができ、作業の効率化を図ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、作業機械を構成する本体部、走行部及び作業部の少なくとも1つに1乃至複数個の放射線測定器を備え、該放射線測定器の検出データ及び/又は当該検出データから算出される関連データをキャブ内に備えられたモニタ装置に表示するので、運転者の安全を確保できると共に、運転者が搭乗して作業機械を稼働するので、作業の効率化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態に係る油圧ショベルの斜視図である。
【図2】実施形態に係る放射線モニタシステムのシステム構成図である。
【図3】実施形態に係るモニタ装置に表示されるデータの第1例を示す図である。
【図4】実施形態に係るモニタ装置に表示されるデータの第2例を示す図である。
【図5】実施形態に係るモニタ装置に表示されるデータの第3例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る放射線測定器を備えた作業機械の実施形態を、図を参照しながら説明する。本発明は、油圧ショベル、ホイールローダ、ダンプトラック、ブルドーザなど、走行手段と作業用のアクチュエータを備えた全ての作業機械に適用できるが、以下においては、油圧ショベルを例にとって説明する。
【0022】
図1に示すように、実施形態に係る油圧ショベルは、下部走行体(走行部)1と、下部走行体1の上部に旋回可能に設けられた上部旋回体(本体部)2と、上部旋回体2に備えられたフロントアクチュエータ機構(作業部)3と、これらの機械各部1,2,3に設置された放射線測定器21,22,23とから主に構成されている。なお、図1の例では、下部走行体1としてクローラが用いられているが、これに代えてタイヤを用いることもできる。
【0023】
上部旋回体2には、運転席4を内包するキャブ5が設けられており、キャブ5内には、油圧ショベルの稼働情報のモニタリング及び放射線測定器21,22,23の検出データ等をモニタリングするためのモニタ装置11と、モニタ装置11内に組み込まれ、運転者に警報を発するアラーム装置12とが設置されている。また、運転席4の下方部分には、油圧ショベルの駆動を制御するコントローラ13と、外部装置との間の無線通信を行う無線通信端末14とが設置されている。さらに、上部旋回体2内の所要の部分には、油圧ショベルの現在位置を検出するGPS(Global Positional System)ユニット15が設置されている。
【0024】
フロントアクチュエータ機構3は、上部旋回体2に一端が回動可能に連結されたブーム6と、ブーム6に一端が回動可能に連結されたアーム7と、アーム7に一端が回動可能に連結されたバケット8とからなる。なお、バケット8に代えて、グラップラー等の他のアタッチメントを取り付けることもできる。
【0025】
放射線測定器21は、上部旋回体2上のキャブ5に近い部分に設置され、キャブ5の周囲の放射線強度を測定する。放射線測定器22は、アーム7のバケット8に近い部分に設置され、バケット8で掘削された土砂等の放射線強度を検出する。さらに、放射線測定器23は、キャブ5内に設置され、キャブ5内の放射線強度を検出する。これらの各放射線測定器21,22,23で測定された放射線強度は、キャブ5内に備えられたモニタ装置11に表示される。運転者は、この表示を監視しながら油圧ショベルの運転を行い、モニタ装置11に表示された値が安全基準値以下に設定された所定値以下である場合には、作業を続行し、所定値に達している場合には、作業を中断して安全な地域に避難する。なお、モニタ装置11には、放射線測定器21,22,23の検出信号をそのまま表示するだけでなく、単位時間当たりの放射線量や、累積の放射線量などの関連データを表示することもできる。このような構成にすることにより、運転者は、自ら安全を確認しながら作業を行うことができるので、安全基準値を超える放射線に被曝することを未然に防止でき、運転者の安全確保を図ることができる。
【0026】
アラーム装置12は、放射線測定器21,22,23にて測定された放射線強度が安全基準値以下に設定された所定値を超えたとき、あるいは放射線測定器21,22,23にて測定された放射線強度から算出される単位時間当たりの放射線量や累積の放射線量が安全基準値以下に設定された所定値を超えたとき、運転者に警報を発する。このような構成にすることにより、運転者が気付かないうちに安全基準値を超える放射線に被曝することを防止できるので、運転者の安全をより確実に確保することができる。
【0027】
無線通信端末14としては、例えば50GHz級の無線機など、従来作業機械に搭載されている無線機を利用できる。また、GPSユニット15は、複数の人工衛星が発信する電波を受信して受信器の位置を算出する装置である。
【0028】
図2に、実施形態に係る作業機械に搭載される放射線モニタシステムのシステム構成を示す。この図から明らかなように、実施形態に係る放射線測定システムは、コントローラ13と、コントローラ13の入力部に接続されたGPSユニット15及び放射線測定器21,22,23と、コントローラ31の出力部に接続されたモニタ装置11、アラーム装置12及び無線通信端末14とから構成されている。
【0029】
コントローラ13は、油圧ショベルが起動されたとき、モニタ装置11の駆動を制御し、放射線測定器21,22,23の検出データをモニタ装置11に表示する。また、コントローラ13内に備えられた図示しない演算部は、放射線測定器21,22,23の検出データから単位時間当たりの放射線量や累積の放射線量などの関連データを算出し、コントローラ13は、この関連データをモニタ装置11に表示する。
【0030】
また、コントローラ13内に備えられた図示しない判定部は、放射線測定器21,22,23の検出データ又はその関連データが安全基準値以下に設定された所定に達したか否かを判定し、達したと判定した場合、コントローラ13は、アラーム装置12の駆動を制御して、作業機械の運転者に警報を発報する。
【0031】
さらに、コントローラ13は、無線通信端末14の駆動を制御し、放射線測定器21,22,23の検出データ及び/又はその関連データと、GPSユニット15によって検出された油圧ショベルの現在位置とを図示しない外部装置に送信する。
【0032】
以下、モニタ装置11への各種データの表示例を説明する。図3の例では、モニタ装置11に、油温、燃料残量、キャブ内の1時間当たりの放射線量、キャブ外の1時間当たりの放射線量及びアーム先端の1時間当たりの放射線量が表示されている。また、図4の例では、モニタ装置11に、過去の被曝履歴を示すグラフ、キャブ内の1時間当たりの放射線量、キャブ外の1時間当たりの放射線量及びアーム先端の1時間当たりの放射線量が表示されている。さらに、図5の例では、モニタ装置11に、キャブ内の1時間当たりの放射線量、キャブ外の1時間当たりの放射線量及びアーム先端の1時間当たりの放射線量のリアルタイム値、油圧ショベル起動(キーON)後の積算値及び一日の積算値が表示されている。
【0033】
なお、本発明の要旨は上述の実施形態に限定されるものではなく、適宜の変更を加えることができる。例えば、前記実施形態においては、キャブ5内、キャブ5外及びアーム7に1つずつ放射線測定器を備えたが、必要な箇所に複数個の放射線測定器を備えることもできる。また、前記実施形態においては、放射線測定器21をキャブ5外の上部旋回体2上に設置したが、かかる構成に代えて、又はかかる構成に加えて、下部走行体1のフレーム部分に放射線測定器を設置することもできる。このようにすることにより、地表面の放射線強度等を検出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、油圧ショベル、ホイールローダ及びダンプトラック等の作業機械に利用できる。
【符号の説明】
【0035】
1 下部走行体(走行部)
2 上部旋回体(本体部)
3 フロントアクチュエータ機構(作業部)
4 運転席
5 キャブ
6 ブーム
7 アーム
8 バケット
11 モニタ装置
12 アラーム装置
13 コントローラ
14 無線通信端末
15 GPSユニット
21,22,23 放射線測定器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転席を内包するキャブが備えられた本体部と、該本体部を支承し、作業地点を移動させる走行部と、前記本体部に備えられ、所要の作業を行う作業部とを備えた作業機械において、前記本体部、前記走行部及び前記作業部の少なくとも1つに1乃至複数個の放射線測定器を備え、該放射線測定器の検出データ及び当該検出データから算出される関連データの少なくとも一方を、前記キャブ内に備えられたモニタ装置に表示することを特徴とする放射線測定器を備えた作業機械。
【請求項2】
前記キャブ内に警報装置を更に備え、前記放射線測定器の検出データ及び前記関連データの少なくとも一方が予め安全基準値以下に設定された所定値を超えたとき、前記警報装置を通じて運転者に警報を発することを特徴とする請求項1に記載の放射線測定器を備えた作業機械。
【請求項3】
前記放射線測定器を前記キャブ内に備え、前記モニタ装置を通じて前記キャブ内で測定された前記放射線測定器の検出データ及び当該検出データから算出される関連データの少なくとも一方を運転者に報知することを特徴とする請求項1及び請求項2のいずれか1項に記載の放射線測定器を備えた作業機械。
【請求項4】
前記放射線測定器を前記キャブ外の前記本体部に備え、前記モニタ装置を通じて前記キャブ外の前記本体部で測定された前記放射線測定器の検出データ及び当該検出データから算出される関連データの少なくともいずれか一方を運転者に報知することを特徴とする請求項1及び請求項2のいずれか1項に記載の放射線測定器を備えた作業機械。
【請求項5】
前記放射線測定器を前記作業部に備え、前記モニタ装置を通じて前記作業部の作業箇所で測定された前記放射線測定器の検出データ及び当該検出データから算出される関連データの少なくともいずれか一方を運転者に報知することを特徴とする請求項1及び請求項2のいずれか1項に記載の放射線測定器を備えた作業機械。
【請求項6】
前記キャブの内外の所要部分に、作業機械の現在位置を検出するGPSユニットと、外部装置との間でデータの送受信を行う無線通信端末とを更に備え、前記放射線測定器の検出データ及び当該検出データから算出される関連データの少なくともいずれか一方並びに前記GPSユニットで測定された現在位置データを、前記無線通信端末を介して前記外部装置に無線送信することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の放射線測定器を備えた作業機械。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−229945(P2012−229945A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97197(P2011−97197)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】