説明

放射線測定装置

【課題】簡単な構造で外部からの電磁誘導ノイズを除去することができ、環境ノイズが強いエリアにおいても安定した測定値を出力することが可能な放射線測定装置を提供する。
【解決手段】内部にエリアモニタの放射線を検知する部分を収容するセンサカバー2を、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)からなるものとする。これにより、半導体センサ5の出力に影響を与える外部からの電磁誘導ノイズをセンサカバー2にて遮蔽することができ、携帯電話や蛍光灯のアーク放電等の外部からの電磁誘導ノイズが強い設置場所においても安定した線量率測定値を出力することができる。また、アース線に接続することなく電磁波に対する遮蔽効果を得られるので、アースに接続するための配線を設ける必要がなく簡単な構造であり、エリアモニタ検出部1の設置場所のアース線がノイズの影響を受けている場合であっても影響を受けることなく安定した遮蔽効果を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所、放射線利用研究所または医療施設等において、施設内の所定エリアの放射線線量率を測定し管理するために設置される放射線測定装置に関し、特に、放射線測定装置のセンサに影響を与える外部からの電磁誘導ノイズを遮蔽する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所、放射線利用研究所または医療施設等においては、施設内の所定エリアの放射線線量率を測定し管理するためのエリアモニタとして、放射線測定装置が設置されている。従来のエリアモニタでは、放射線感受センサとして半導体センサまたはシンチレータ式センサを用いた場合、主に人的要因による外部からの妨害電波、具体的には携帯電話や蛍光灯のアーク放電等の強い電磁波により発生する電磁誘導ノイズの影響を受け、放射線以外の要因により誤った測定値を出力することがある。
【0003】
このような外部からの電磁誘導ノイズを除去する技術として、例えば特許文献1では、金属製または導電塗装されたプラスチック製のシールド部に放射線検出素子及び増幅回路を収容し、このシールド部を信号処理基板上に形成されたグランドパターンを介してアースに接続した放射線測定装置が提示されている。
【特許文献1】特開2007−3470号公報
【0004】
また、従来のエリアモニタでは、放射線感受センサ部の健全性を確認するために、エリアモニタの検出部内のセンサ近傍に、ベータ線等の弱い放射線源が設置されることがある。この場合、上記放射線源からの放射線をセンサに感受させるために、センサを覆っている電気シールドの一部または全部を削減する構造が採用される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、従来のエリアモニタでは、エリアモニタ設置場所付近を通る人が所有する携帯電話やエリアモニタ設置場所付近の電波発振源から発振される電波、または付近の蛍光灯のオンオフ時に発生する電磁波等の影響を受け、実際よりも高い誤った測定値を出力するという問題があった。これに対し、特許文献1では、シールド部に伝播する外来電磁波をアースに落とすことにより除去する構造が提示されているが、シールド部をアースに接続するための配線を設ける必要があり、構造が複雑になるという新たな問題が発生する。
【0006】
また、エリアモニタの検出部内に放射線感受センサ部の健全性を確認するための放射線源を設け、センサの電気シールドの一部または全部を削減した場合には、さらに外部からの妨害電波を受けやすくなり、誤った放射線線量率の測定値を頻繁に出力するという問題があった。
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたもので、簡単な構造で外部からの電磁誘導ノイズを除去することができ、環境ノイズが強い設置場所においても安定した測定値を出力することが可能な放射線測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による放射線測定装置は、施設内の所定エリアの放射線線量率を測定し管理するために設置される放射線測定装置であって、放射線を検出するセンサと、このセンサが検出した信号を増幅する増幅回路と、その内部にセンサ及び増幅回路を収容するセンサカバーを有する検出部を備え、センサカバーは炭素繊維強化プラスチックからなり、センサの出力に影響を与える外部からの電磁誘導ノイズを、センサカバーにて遮蔽するようにしたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、センサの出力に影響を与える携帯電話や蛍光灯のアーク放電等の外部からの電磁誘導ノイズを、炭素繊維強化プラスチックからなるセンサカバーにて遮蔽するようにしたので、簡単な構造で、環境ノイズが強い設置場所においても安定した線量率測定値を出力することが可能な放射線測定装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態1について図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施の形態1に係るエリアモニタの検出部を示している。本発明に係る放射線測定装置であるエリアモニタは、原子力発電所、放射線利用研究所または医療施設等において、施設内の所定エリアの放射線線量率を測定し管理するために設置されるものである。なお、本発明に係るエリアモニタは、図1に示すエリアモニタ検出部1と、図示しない演算部及び測定部を備えているが、演算部及び測定部については本発明に直接関係がないため図示及び説明を省略する。
【0011】
本実施の形態1におけるエリアモニタ検出部1は、その内部にエリアモニタの放射線を検知する部分を収容するセンサカバー2と、このセンサカバー2が設置される指示警報箱3、及びこの指示警報箱3と演算部とを接続する検出器ケーブル4から構成されている。指示警報箱3は、エリアモニタ検出部1の設置場所において現在の線量率測定値を確認し、測定した線量率が上昇した場合に、その状況すなわち警報中であることを、周囲の人の視覚や聴覚に訴えて知らせるものである。エリアモニタ検出部1にて検知した放射線信号は、検出器ケーブル4を介して演算部に送信され、さらに演算部にて演算された線量率情報は検出器ケーブル4を介して指示警報箱3に送信される。
【0012】
センサカバー2の内部には、入射した放射線を電気的信号として出力するユニットが収容されている。以下に、このユニットを構成する要素について図2を用いて説明する。放射線を検出する半導体センサ5は、放射線が入射すると微弱な電気信号を出力する。半導体センサ5により出力された微弱な電気信号は、増幅回路であるプリアンプカード6により増幅され、カウント装置等の電気回路(図示せず)で処理することができる信号に成形される。
【0013】
これらの半導体センサ5及びプリアンプカード6は、電気シールド7により包囲されている。電気シールド7は、半導体センサ5及びプリアンプカード6に侵入する電気的ノイズを吸収し、電気的に安定させるために設置されるものである。また、電気シールド7に包囲された半導体センサ5及びプリアンプカード6と、これらを支持する支持部材である支柱板8の間には絶縁物9が配置され、電気シールド7と支柱板8を電気的に絶縁している。
【0014】
さらに、電気シールド7及び支柱板8を囲むように設置されるセンサカバー2は、炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastics;CFRP)からなり、半導体センサ5の出力に影響を与える外部からの電磁誘導ノイズをセンサカバー2にて遮蔽するものである。
【0015】
炭素繊維強化プラスチックは、炭素繊維をプラスチックに含浸させた複合材料であり、金属材料よりも比強度が大きく軽量で、成型加工性に優れている。また、熱伝導率、熱膨張係数ともに小さく、温度、湿度に対する伸縮がきわめて少ないため、耐候性及び寸法安定性に優れている。また、炭素繊維の性質により電気伝導性も良く、電磁遮蔽特性も優れており、さらには放射線のうちとりわけガンマ線、エックス線に対する優れた透過性を備えていることから、センサカバー2の材料として好適である。
【0016】
以上のような炭素繊維強化プラスチックの特性により、本実施の形態1におけるセンサカバー2は、電磁波の吸収損失(センサカバー2内で電磁波が減衰すること)と、反射損失(反射により電磁波が減衰することで、電磁波の空間インピーダンスとセンサカバー2の固有インピーダンスの不整合により生じる)により、アース線に接続することなく電磁波に対する遮蔽効果を得られるものである。このため、エリアモニタ検出部1の設置場所のアース線がノイズの影響を受けている場合であっても、設置場所の状況に影響を受けることなく遮蔽効果を呈することができる。
【0017】
次に、動作について説明する。エリアモニタ検出部1周辺の放射線の一部がセンサカバー2を通過して半導体センサ5に入射すると、半導体センサ5は微弱な電気信号を出力し、この信号はプリアンプカード6に入力される。プリアンプカード6によって増幅された信号は検出器ケーブル4を介して演算部に送られる。半導体センサ5及びプリアンプカード6のアース線は電気シールド7と同電位とし、測定部の演算ユニットのコモンアース(クリーンアース)に接続され、エリアモニタ検出部1の設置場所とは電気的に絶縁される。これにより、半導体センサ5に設置場所からのノイズが入り込まない構成となっている。
【0018】
従来のエリアモニタでは、例えば繊維強化プラスチックからなるセンサカバーが用いられており、電気シールド7で受けたノイズは通常、検出器ケーブル4にて演算部へ送られる。しかし、携帯電話や蛍光灯のアーク放電等による強い電磁誘導ノイズは、プリアンプカード6上の回路定数により半導体センサ5側に導かれ、半導体センサ5に流れ込み、誤った測定値を出力する原因となっていた。これに対し、本実施の形態1によるエリアモニタでは、上記のような強い電磁誘導ノイズが発生した場合でも、炭素繊維強化プラスチックからなるセンサカバー2により遮蔽されるため、センサカバー2内部の半導体センサ5に影響を与えない。
【0019】
以上のように、本実施の形態1によれば、半導体センサ5及びプリアンプカード6を収容するセンサカバー2を炭素繊維強化プラスチックからなるものとし、半導体センサ5の出力に影響を与える外部からの電磁誘導ノイズをセンサカバー2にて遮蔽するようにしたので、携帯電話や蛍光灯のアーク放電等の外部からの電磁誘導ノイズが強い設置場所、すなわち環境ノイズが強いエリアにおいても、安定した線量率測定値を出力することができる。
【0020】
また、アース線に接続することなく電磁波に対する遮蔽効果を得られるので、アース線に接続するための配線を設ける必要がなく簡単な構造であり、エリアモニタ検出部1の設置場所のアース線がノイズの影響を受けている場合であっても、設置場所の状況に影響を受けることなく安定した遮蔽効果を得られる。
【0021】
さらに、炭素繊維強化プラスチックは優れた成型加工性を有するので、従来のセンサカバー(既製品)の形状を再現させることは容易であり、新たな構成部材を追加することなく、従来と同様の簡単な製造工程で作成することができる。
【0022】
なお、本実施の形態1では、放射線を検出するセンサとして半導体センサ5を用いたが、例えばシンチレーション式センサのようなその他の検出方式による放射線感受センサを用いてもよく、同様の効果を奏する。
【0023】
実施の形態2.
図3は、本発明の実施の形態2に係るエリアモニタのセンサカバー内の構造を示す断面図である。なお、図3中、図2と同一、相当部分には同一符号を付し説明を省略する。上記実施の形態1では、炭素繊維強化プラスチックからなるセンサカバー2により半導体センサ5の出力に影響を与える外部からの電磁誘導ノイズを遮蔽するようにしたが、本実施の形態2ではさらに、炭素繊維強化プラスチックからなるセンサカバー2の内側に導電性金属からなる導電性金属シールド14を設け、妨害電波の一部を電気的に吸収するようにしたものである。
【0024】
本実施の形態2では、エリアモニタの放射線感受センサ部の健全性を確認するために、センサカバー2内部の半導体センサ5近傍に放射線源10を設けた場合について説明する。放射線源10は、半導体センサ5及びプリアンプカード6の健全性を確認するために設けられたものであり、通常の測定時(放射線監視時)には、放射線源10から放出される放射線11は放射線遮蔽板12により遮蔽され、半導体センサ5に影響を与えない構成となっている。
【0025】
このため、放射線11の線質としては、放射線遮蔽板12により簡単に遮蔽できるように例えばベータ線が選択される。ただし、ベータ線は電気シールド7によっても遮蔽されるため、放射線源10と半導体センサ5の間に存在する電気シールド7の一部、すなわち放射線11の飛程経路にあたる部分に穴13を開けた構成となっている。
【0026】
このように穴13が開けられた電気シールド7では、通常の測定時におけるシールド効果が低減する。そこで、本実施の形態2では、導電性の高い銅やアルミニウム等の薄型鋼板からなる導電性金属シールド14をセンサカバー2の内側に設け、炭素繊維強化プラスチックからなるセンサカバー2を透過したわずかな電磁波を導電性金属シールド14にて除去するようにしたものである。なお、導電性金属シールド14は、半導体センサ5やプリアンプカード6のコモンアースに接続され、電気シールド7と同等の機能を有する。
【0027】
以上のように、本実施の形態2によれば、炭素繊維強化プラスチックからなるセンサカバー2の内側に導電性金属シールド14を設けることにより、炭素繊センサカバー2により遮蔽できなかったわずかな電磁波を除去することができ、携帯電話や蛍光灯のアーク放電等の外部からの電磁誘導ノイズが強い設置場所においても、上記実施の形態1よりもさらに安定した線量率測定値を出力することができる。
【0028】
また、本実施の形態2のように、電気シールド7の一部に穴13を開けた場合(図3)、または電気シールド7を全て削減した場合(図示せず)であっても、導電性金属シールド14が電気シールド7と同等の機能を有するので、外部からの電磁誘導ノイズを除去することができ、安定した線量率測定値を出力することができる。
【0029】
なお、本実施の形態2における導電性金属シールド14は、電気シールド7の一部または全部を削減した場合に限らす、上記実施の形態1のように電気シールド7を完全な状態で設けた場合に適用してもよく、上記実施の形態1よりもさらに大きな電磁波遮蔽効果を期待できる。
【0030】
実施の形態3.
図4は、本発明の実施の形態3に係るエリアモニタのセンサカバー内の構造を示す断面図である。なお、図4中、図2と同一、相当部分には同一符号を付し説明を省略する。本実施の形態3では、半導体センサ5及びプリアンプカード6を支持する支柱板8と指示警報箱3の間に絶縁物15を設けることにより、支柱板8をエリアモニタ検出部1が設置される設置場所と電気的に絶縁したことを特徴としている。なお、支柱板8は、半導体センサ5及びプリアンプカード6とも絶縁物9により電気的に絶縁されている。
【0031】
上記実施の形態1、2では、支柱板8及び指示警報箱3が受けた電磁波(ノイズ)は、エリアモニタ検出部1の設置場所に接地することで除去している。しかし、設置場所の接地バーの電気的ノイズレベルが高い場合、支柱板8が接地バーや指示警報箱3と同電位となり、電気的に保護しなければならない電気シールド7に影響を与えてしまうという問題がある。
【0032】
そこで、本実施の形態3では、支柱板8と指示警報箱3の間に絶縁物15を設け、支柱板8は電気シールド7と同様に、ノイズレベルが低い測定部に接地される。ただし、電気シールド7は、図4中Aで示す測定部の演算ユニットのコモンアース(クリーンアース)に接続されるのに対し、支柱板8は、図4中Bで示す測定部設置場所の接地バー(ダーティアース)に接続される。
【0033】
本実施の形態3によれば、上記実施の形態1と同様の効果に加え、支柱板8と指示警報箱3を絶縁物15により電気的に絶縁し、支柱板8の電位をノイズレベルが低い測定部側に移すようにしたので、指示警報箱3とその周辺が電磁波により影響を受けた場合であっても安定した線量率測定値を出力することができ、ノイズ耐性に非常に優れたエリアモニタを提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明に係る放射線測定装置は、原子力発電所、放射線利用研究所または医療施設等において、施設内の所定エリアの放射線線量率を測定し管理するエリアモニタとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の形態1に係るエリアモニタの検出部を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係るエリアモニタのセンサカバー内の構造を示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態2に係るエリアモニタのセンサカバー内の構造を示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態3に係るエリアモニタのセンサカバー内の構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 エリアモニタ検出部、2 センサカバー、3 指示警報箱、4 検出器ケーブル、
5 半導体センサ、6 プリアンプカード、7 電気シールド、8 支柱板、
9、15 絶縁物、10 放射線源、11 放射線、12 放射線遮蔽板、13 穴、
14 導電性金属シールド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
施設内の所定エリアの放射線線量率を測定し管理するために設置される放射線測定装置であって、放射線を検出するセンサと、このセンサが検出した信号を増幅する増幅回路と、その内部に前記センサ及び前記増幅回路を収容するセンサカバーを有する検出部を備え、
前記センサカバーは炭素繊維強化プラスチックからなり、前記センサの出力に影響を与える外部からの電磁誘導ノイズを、前記センサカバーにて遮蔽するようにしたことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線測定装置であって、前記センサカバーの内側に、導電性金属からなるシールドを設けたことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の放射線測定装置であって、前記センサ及び前記増幅回路のアース線が接続されるコモンアースに、前記シールドを接続したことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項4】
請求項1に記載の放射線測定装置であって、前記検出部は、前記センサカバー内部に、前記センサ及び前記増幅回路を支持する支持部材をさらに備えており、この支持部材は、前記センサ及び前記増幅回路と電気的に絶縁され、且つ前記検出部が設置される設置場所とも電気的に絶縁されていることを特徴とする放射線測定装置。
【請求項5】
請求項1に記載の放射線測定装置であって、前記センサは、半導体センサまたはシンチレータ式センサであることを特徴とする放射線測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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