説明

放射線照射された組成物並びにタウロリジン及び/又はタウルルタムを併用する癌の放射線治療

タウロリジン、タウルルタム若しくはそれらの混合物を含む溶液、ゲル若しくは接着剤と共に放射線防護量のPVPを含有する組合せ、又はタウロリジン、タウルルタム若しくはそれらの混合物のコラーゲンを含まない結晶を含む凝集体を電離放射線に曝すことによって形成される組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線照射された組成物、方法、及び癌の治療に関する。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本願は、2006年1月6日に出願された米国特許仮出願第60/756,569号、2006年2月1日に出願された同第60/763,909号、及び2006年9月5日に出願された同第60/842,156号の利益を主張する。
【背景技術】
【0003】
抗菌薬及び抗毒素製剤であるタウロリジン及びその関連生成物であるタウルルタム等のメチロール転移剤は、とりわけ腫瘍の治療において使用される腫瘍壊死因子(TNF)の毒性に対して修飾効果を発揮することが示されている。さらに、正常細胞株の増殖が有意には抑制されなかったという点でメチロール転移剤の作用が選択的であるということが示されている。
【0004】
タウロリジンは作用部位で3つのメチロール基を転移させることによって作用し、中間代謝物であるタウルルタム自体が、非常に耐容性の高い化合物であるタウリナミドの遊離により単一のメチロール基を転移させる。したがって、2つの化合物は本質的に同じ機構によって作用する。なお、メチロール転移は、多くの毒性の高い抗腫瘍薬の特徴であるメチル転移と対比されるものである。タウロリジン及びタウルルタムは毒性が低く、且つ正常細胞に対する細胞毒性が無い。
【0005】
プログラム細胞死は、細胞数の調節における進化的に保存された生物学的原理である。感受性細胞は、適切なリガンドが隣接細胞から分泌されると活性化される細胞死受容体を含有する。プログラム細胞死における著名なシステムはFasリガンド媒介アポトーシスである。CD 95/APO−1としても知られるFasは細胞表面受容体であり、且つFasリガンド(FasL)によるオリゴマー形成時に感受性細胞におけるアポトーシスを媒介する腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーの一員である。
【0006】
放射線も癌の治療に利用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
当該技術分野において、癌の治療用の薬剤及び方法を改善する必要性が残っている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施の形態によれば、本発明は、PVPと共に、タウロリジン、タウルルタム若しくはそれらの混合物を含む溶液、ゲル若しくは接着剤を含む組合せ、又はタウロリジン、タウルルタム若しくはそれらの混合物のコラーゲンを含まない結晶を含む凝集体を電離放射線に曝すことによって形成される組成物に関する。本発明はまた、かかる組成物の形成方法、及び癌又は他の疾患の治療におけるかかる組成物の使用に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
一態様によれば、本発明は、腫瘍を抑制する量の放射線を被験体に投与することを含む併用療法において、タウロリジン及び/又はタウルルタム等のメチロール転移剤を被験体に投与することによる、被験体における癌及び腫瘍の治療に関する。
【0010】
本発明はまた、放射線照射されたメチロール転移剤、及びメチロール転移剤を電離放射線に曝露することによるメチロール転移剤の滅菌方法に関する。メチロール転移剤は結晶質、非晶質であってもよく、PVPを含有する水溶液等の液体中に存在してもよい。
【0011】
幾つかの実施形態において、メチロール転移剤は、タウロリジン及び/又はタウルルタムであり、より好ましくはコラーゲンを含まないタウロリジン結晶及び/又はタウルルタム結晶を含む組成物の形態である。好ましい実施形態において、放射線はX線(レントゲン)又はγ線である。
【0012】
一実施形態によれば、放射線は約0.01Gy〜約100kGyの範囲内である。タウロリジン結晶及び/又はタウルルタム結晶の滅菌については、好ましい放射線量は約0.1〜100kGyの範囲内である。他の実施形態において、放射線量は約1〜60kGy、約10〜50kGy又は約20〜35kGyの範囲内である。
【0013】
驚くべきことに、タウロリジン結晶及び/又はタウルルタム結晶が、放射線照射されていない対応物と比較して実質的に同一の特性及び安定性を有することが見出されている。
【0014】
一実施形態によれば、本発明は、放射線との併用療法においてタウロリジン及び/又はタウルルタム等のメチロール転移剤が癌を治療可能であることに関する。タウロリジン及びその同属体であるタウルルタムは共に、それ自体が細胞生存度に対して事実上何らの効果も示さない薬物濃度で、癌細胞におけるFasリガンドのアポトーシス効果を増強する。
【0015】
組成物がタウロリジン及び/又はタウルルタムを含む溶液、ゲル又は接着剤を含む組合せである実施形態において、組合せはさらに放射線防護量のPVPを含む。米国特許第6,080,397号明細書(参照により本明細書中に援用される)には、PVPと共にタウロリジン及び/又はタウルルタムを含む組成物が開示されている。組合せ中のPVPの存在量は約1〜15重量%、約4〜10重量%又は約5〜6重量%の範囲内であり得る。組合せ中に存在するPVPの平均分子量は、好ましくは約3000〜14000ダルトンの範囲内である。好ましくは、組合せ中に存在するPVPは約50000ダルトンより高分子量を有するPVPを実質的に含まない(例えば、かかるPVPが1重量%未満)。好ましい実施形態において、PVPの平均分子量は約7000〜12000ダルトン、例えば、約7000〜11000ダルトンであるが、平均分子量10000ダルトンのPVPが最も好ましい。好ましい実施形態において、組合せはタウロリジン及び/又はタウルルタム並びにPVPを含有する溶液又はゲルである。かかる好ましい組合せは、約0.1〜10重量%、約0.5〜3重量%、約1〜3重量%の範囲内又は約2重量%の濃度でタウロリジン及び/又はタウルルタムを含む。
【0016】
一実施形態によれば、組成物は、タウロリジン及び/又はタウルルタムのコラーゲンを含まない結晶を含む凝集体を電離放射線に曝すことによって形成される。一実施形態によれば、平均結晶径は約0.1〜1000μm又は約1〜500μmであり得る。結晶は通常の結晶又は微粉化結晶であり得る。微粉化結晶の平均粒径は約1〜10μm、例えば、約5μmであり得る。通常の結晶の粒径は約100〜500μm、例えば、約180〜300μmの範囲内であり得る。
【0017】
本発明はまた、上記で規定した組合せ又は凝集体を電離放射線に曝すことを含む、上記で規定した組成物の形成方法に関する。
【0018】
本発明は、さらに上記で規定した組成物を利用する癌の治療方法に関する。
【0019】
一実施形態によれば、癌の治療方法は癌患者に、PVPと共に、タウロリジン及び/又はタウルルタムを含む溶液、ゲル又は接着剤を投与することを含む。本実施形態によれば、溶液、ゲル、又は接着剤が患者内に存在する間に、癌患者はさらに腫瘍細胞の増殖を抑制又は予防する量の電離放射線を投与される。溶液、ゲル、又は接着剤を含む組合せは最初に腫瘍を抑制又は予防する量で癌患者に投与され、続いて腫瘍を抑制する、予防又は破壊する量の電離放射線を投与される。他の実施形態において、組合せは放射線治療中に投与され得る。他の実施形態において、組合せは放射線治療前及び放射線治療中に投与される。これらの実施形態のすべてにおいて、組合せは放射線治療後にも投与され得る。
【0020】
幾つかの好ましい実施形態において、組合せは溶液又はゲルである。好ましい一実施形態において、組合せはタウロリジン及び/又はタウルルタム並びにPVPを含有する溶液である。
【0021】
放射線は電磁放射線又は粒子放射線であり得る。粒子放射線の例としては、α線、β線及び中性子線が挙げられる。好ましい実施形態において、電離電磁放射線が利用される。特に、好ましい実施形態では電離X線又は電離γ線が利用される。好ましい実施形態では約10-8〜約10-14mの範囲内の波長を有する電離放射線が利用される。概してX線の波長は約10-8〜約10-11m(即ち、約10〜0.01nmの範囲内)である。概してγ線の波長は約10-11〜約10-14mの範囲内である。
【0022】
別の実施形態において、本発明による組成物を用いた癌の治療方法は、電離放射線に曝されたコラーゲンを含まないタウロリジン結晶及び/又はタウルルタム結晶を癌患者に投与することを含む。好ましくは、電離放射線はX線又はγ線の形態である。或る特定の実施形態においては、γ線が好ましい。一実施形態によれば、放射線照射された結晶は接着剤組成物中に存在し得る。好ましくは、接着剤組成物は腫瘍が切除された組織の領域に施用、接着する際、当初は液体又は半液体状態である。施用後、接着剤は組織に接着しながら粘度が増大するか、少なくとも部分的に固化するのが好ましい。好ましい実施形態において、利用される接着剤はフィブリンシーラントマトリクス(fibrin sealant matrix)(例えば、フィブリン糊)である。フィブリン糊はフィブリノーゲン及びトロンビンの別個の溶液の2成分系である。2溶液が組み合わされると、得られる混合物が接着剤を形成する。タウロリジン結晶及び/又はタウルルタム結晶は、2成分を組み合わせてフィブリン糊を形成する前にフィブリノーゲン成分及び/又はトロンビン成分の一方又は両方と混合される。好ましい実施形態において、タウロリジン結晶及び/又はタウルルタム結晶は、フィブリノーゲン成分及びトロンビン成分の混合前に、フィブリノーゲン成分と混合される。タウロリジン結晶及び/又はタウルルタム結晶を、一方及び/又は両方のフィブリン糊成分に添加する前及び/又は後に電離放射線に曝してもよく、フィブリン糊成分を一緒に混合した後に電離放射線に曝してもよい。
【0023】
他の実施形態において、タウロリジン及び/又はタウルルタムを含有する溶液又はゲルは、患者への投与前に、上記フィブリンシーラントマトリクスのフィブリノーゲン成分及び/又はトロンビン成分の一方又は両方中のタウロリジン結晶及び/又はタウルルタム結晶に代替されるか、タウロリジン結晶及び/又はタウルルタム結晶を添加される。
【0024】
さらなる実施形態において、電離放射線が癌患者に投与されるのは、電離放射線に曝されたタウロリジン結晶及び/又はタウルルタム結晶の患者への投与後である。
【0025】
X線又はγ線を利用する際の放射線治療の線量は、約0.01〜100Gyの範囲内、約0.1〜80Gyの範囲内、約1〜10Gyの範囲内、0.5〜10Gyの範囲内又は1〜5Gyの範囲内であり得る。概して、治療期間中、患者には放射線の複数回の線量投与が行われる。治療終了までの放射線治療の全線量は1〜100Gy又は10〜70Gyの範囲内であり得る。
【0026】
メチロール転移剤としては、タウロリジン及びタウルルタム並びにそれらの誘導体等のメチロール含有化合物が挙げられる。メチロール転移剤及びメチロール含有化合物という用語は本明細書において区別なく使用されることもある。米国特許第5,210,083号明細書には、タウロリジン及びタウルルタムという化合物が開示されている。他の好適なメチロール含有化合物としては、タウリナミド誘導体及び尿素誘導体が挙げられ得る。国際公開特許第WO01/39763A2号には、本発明において有用であり得るタウロリジン、タウルルタム、タウリナミド及び尿素の誘導体の例が見出され得る。本発明による利用に特に好ましいメチロール転移剤は、タウロリジン、タウルルタム、それらの生物活性誘導体及びそれらの混合物である。
【0027】
代替的には、化合物はタウリナミド誘導体又は尿素誘導体である。国際公開特許第WO01/39763A2号には、本発明において有用であり得るタウロリジン、タウルルタム、タウリナミド及び尿素の誘導体の例が見出され得る。
【0028】
好適であり得る他のメチロール含有化合物としては、限定するものではないが、1,3−ジメチロール−5,5−ジメチルヒダントイン、ヘキサメチレンテトラミン又はノキシチオリンが挙げられる。タウロリジン誘導体又はタウルルタム誘導体とはそれぞれ、タウロリジン又はタウルルタムの腫瘍活性の少なくとも10%を保有するスルホンアミド化合物を意味する。スルホンアミド化合物はR2N−SO2R’式を有する化合物である。本明細書中に記載の化合物の誘導体は、参照化合物(例えば、タウロリジン又はタウルルタム)とは構造的に異なり得るが、好ましくは参照化合物の生物活性(例えばアポトーシス細胞死の誘導)の少なくとも50%を保持し得る。好ましくは、誘導体は参照化合物の生物活性の少なくとも75%、85%、95%、99%又は100%を有する。場合によっては、誘導体の生物活性は参照化合物の活性レベルを超過し得る。誘導体はまた、参照化合物によって保有されない特性又は活性を保有し得る。例えば、誘導体は毒性が低減されるか、臨床半減期が長くなるか、又は血液脳関門を通過する能力が向上する可能性がある。
【0029】
本発明は本明細書中においてタウロリジン及び/又はタウルルタムに関して記載されることもあるが、他のメチロール転移剤及びメチロール含有化合物が均等に適用可能であり得ることは理解されるはずである。
【0030】
本発明の併用療法は、腫瘍を抑制する、腫瘍を減少させる量又は腫瘍細胞を死滅させる量の放射線を患者に投与することを含む。本明細書において、「腫瘍を抑制する」という用語は腫瘍を減少させる量及び腫瘍細胞を死滅させる量を含むことを意図する。放射線はメチロール転移剤と同時に又は別個に投与され得る。放射線は任意の有効量、例えば、治療当たり約0.1〜100Gy以上の範囲内、好ましくは約0.1〜5Gyの範囲内の線量で、最も好ましくは約1〜4Gyの線量範囲内で投与され得る。利用される放射線は任意の好適な腫瘍を抑制する放射線であり得るが、レントゲン線(X線)が好ましい。
【0031】
メチロール転移剤及び放射線は被験体に同時投与されてもよく、逐次的又は周期的に投与されてもよい。
【0032】
特に好ましい実施形態において、タウロリジン及び/又はタウルルタム等のメチロール転移剤並びにPVPを含有する溶液が、放射線との併用療法において、患者における癌の治療のために投与される。本実施形態によれば、溶液中のPVP濃度は約1〜15重量%の範囲内である。好ましい実施形態において、PVP溶液は米国特許第6,080,397号明細書(参照により本明細書中に援用される)による。特に好ましい実施形態において、溶液中のPVPの重量平均分子量は約7000〜12000ダルトンの範囲である。1つの特に好ましいPVPはポビドンである。好ましい実施形態において、PVPは溶液中に約4〜10重量%の範囲、最も好ましくは約5重量%で存在する。本実施形態の特別な利点は、例えば、5%ポビドンを含有するタウロリジン溶液及び/又はタウルルタム溶液がγ線等の放射線に対して安定であることである。これはポビドンを含まない純粋なタウロリジン溶液及び/又はタウルルタム溶液を使用する場合には当てはまらない。PVPはタウロリジン溶液及び/又はタウルルタム溶液を、例えば、放射線によって引き起こされる酸化に対して安定化させる。タウロリジン及び/又はタウルルタムで前処理された患者は放射線照射され得る。放射線並びにタウロリジン及び/又はタウルルタムは同時に投与することができ、引き続きタウロリジン及び/又はタウルルタムによる処理を継続することができる。溶液は放射線に安定なので、患者から分解生成物が排出されるまで待機する必要がない。
【0033】
好ましい実施形態において、方法は癌を患っている哺乳動物に活性メチロール含有化合物を含有する組成物を新生細胞の死又は増殖低下を誘導するのに十分な用量で投与することによって実施される。「メチロール含有化合物」又は「メチロール転移剤」とは、生理学的条件下でメチロール分子を含有又は生成することが可能な化合物を意味する。メチロール含有化合物はR−CH2−OH基(式中、Rはアルキル、アリール又はヘテロ基である)を有することを特徴とする。本発明はまた、R−CH2−OH構造を含有する化合物を生成すること又はR−CH2−OH構造を含有する化合物に変換することが可能な化合物の使用を含む。
【0034】
本発明が適用可能であり得る癌としては、原発性且つ続発性の黒色腫、神経膠腫、神経芽細胞腫、星状細胞腫、癌性髄膜炎、卵巣癌、前立腺癌、中枢神経系(CNS)癌、肺癌、胃癌、食道癌、膀胱癌、白血病、リンパ腫、腎細胞癌、中皮腫並びにそれらの転移が挙げられる。本発明の方法が有効な他の癌としては、他の原発性且つ続発性の癌腫、肉腫若しくはリンパ腫、頭部及び頚部の癌、肝臓癌、乳癌並びに膵臓癌、又はそれらの転移が挙げられる。
【0035】
特に好ましい実施形態は黒色腫及びその転移の治療を含む。
【0036】
特に有益なのは、とりわけ腫瘍の外科的切除後に、癌細胞におけるアポトーシスを誘導するか、腫瘍細胞の増殖を抑制するか、又は転移の拡大を予防するのに十分な濃度でタウロリジン及び/又はタウルルタムを使用することである。哺乳動物の被験体は典型的にはヒトである。
【0037】
本発明はまた、癌細胞におけるアポトーシスを誘導するのに十分な濃度でのタウロリジン及び/又はタウルルタムの使用、並びに哺乳動物の被験体における腫瘍の治療又は予防のための放射線の使用を含む。
【0038】
本発明によるメチロール転移剤の有効用量は、約0.1〜1000mg/kg被験体体重、好ましくは1日当たり150〜450mg/kg、最も好ましくは1日当たり300〜450mg/kgの範囲内の薬学的投薬単位を含み得る。代替的には、1日当たりのグラム数として約2〜60g/日の用量が投与され得る。好ましい用量は約2.5〜30g/日の範囲のタウロリジン、4〜60g/日の範囲のタウルルタム、又はそれらの混合物であり得る。最も好ましい用量は約10〜20g/日の範囲のタウロリジン、20〜40g/日の範囲のタウルルタム、又はそれらの混合物である。
【0039】
注射又は注入に好適な製剤は、タウロリジン濃度又はタウルルタム濃度を高めた溶液を提供するために、1つ又は複数の可溶化剤(例えば、グルコース等のポリオール)を含有する等張溶液を含み得る。欧州特許第253662B1号明細書にはかかる溶液が記載されている。かかる溶液におけるタウロリジン又はタウルルタムの濃度は1〜60g/リットルの範囲であり得る。
【0040】
メチロール転移剤は概して水に難溶である。したがって、タウロリジン又はタウルルタム(例えば、タウロリジン及び/又はタウルルタム10g〜30g)を含有する比較的大量の水溶液を投与することが必要となる場合が多い。本発明による投与に好ましい溶液は約0.5〜2%のタウロリジン及び/又はタウルルタムを含有する。比較的大量である点を考慮すると一日中都合良く間隔を空けてこれらの化合物を注入によって投与することは都合が良い可能性がある。
【0041】
メチロール転移剤の合計日用量の好ましくは注入による投与は、24時間にわたって一定速度で、又は部分用量のより速い注入スケジュールに従って実行され得る。本スケジュールには、各部分用量の間に中断があり、例えば2時間にわたって2%タウロリジン溶液250ml(5g用量)を注入した後に4時間の短い中断があり、これが24時間の注入期間にかけて繰り返されて、合計日用量20gを達成する。代替的には、2%タウロリジン溶液250mlが1時間にわたって注入され、各部分用量の間に1時間の中断があり、これを日用量に達するまで繰り返すことが可能である。その結果、合計日用量は24時間未満(即ち、およそ半日)で提供されて、その日の残り時間には注入は行われない。
【0042】
一実施形態によれば、4ボトル(各250ml)の2%タウロリジン溶液が、1分間につき40滴、6時間毎に1ボトルの速度で癌患者へ静脈内投与される。療法サイクルは概して1週間毎日注入が行われる投与期と、その後の2週間の休止期である。全体の治療は概して少なくとも2つのかかるサイクルである。静脈内投与される2%タウロリジン溶液の有効性は、1サイクル当たり25〜28ボトルの2%タウロリジン溶液250mlが点滴注入される場合に特に良好であることが見出された。
【0043】
本発明の第2の実施形態によれば、投与期は、2%タウロリジン溶液250mlが2時間にわたって投与され、その後4時間の中断が設けられ、これが24時間繰り返されて合計日用量を達成する、1日のレジメンを含む。
【0044】
本発明の第3の実施形態によれば、投与期は2%タウロリジン溶液250mlが1時間にわたって注入され、その後1時間の中断があり、日用量が達成されるまでこれが繰り返される1日のレジメンを含む。全用量が(例えば)20gである場合には、本レジメンは7時間のタイムスパンにわたって4ボトルの2%タウロリジン250mlを注入することにより日用量を提供する。その日の残り時間には注入は行われない。患者が肝カウントの上昇を示す場合、注入速度は(例えば、90又は120分にわたって250mlを注入するものへと)延長することができる。
【0045】
特に好ましい実施形態において、患者は少なくとも連続した3日〜連続した約8日の投与期を有する投薬サイクルにかけられる。各投与期にはその後、メチロール含有化合物が患者に投与されない、約1日〜約4週、例えば、1〜14日の、又は3、4週又はそれ以上であってもよい非投与期がある。各投与期中にメチロール含有化合物が毎日投与される。例えば、3、4、5、6、7及び/又は8日の投与期が利用され得ると共に、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13及び/又は14日の非投与期が利用され得る。少なくとも2投薬サイクルが利用され、好ましくは5〜10又はそれ以上の投薬サイクルが利用される。例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10又はそれ以上の逐次投薬サイクルが利用され得る。かかるレジメンによって患者に関する驚くべき且つ予期せぬ結果が示された。特に好ましい一実施形態において、6投薬サイクル(各投与期は5日であり、各投与期は2日の非投与期よって分離される)が利用される。好ましくは、投与中毎日、2%タウロリジン溶液250mlが1日4回患者に静脈内投与される。
【0046】
別の実施形態において、非投与期は1、2、3、4週又はそれ以上の長さ、例えば、約2〜4週間であり得る。例えば、胃及び膵臓等の再発癌患者においては、連続した3〜8日、例えば7日の投与期を有する逐次投薬サイクルで投与され得る。これには、例えば、2%タウロリジン溶液250mlを1日4回注入され、その後1、2、3、4週又はそれ以上、例えば、3週の非投与期がある。先の実施形態と同様に、少なくとも2投薬サイクル、好ましくは5〜10又はそれ以上の投薬サイクルが利用される。
【0047】
腫瘍を抑制する放射線は例えば、1日複数回、1日1回、週1回、週2回、週3回、週4回、週5回、週6回、2週に1回、月1回、又は任意の好適な投与レジメンに従って投与され得る。放射線はメチロール転移剤に関する本明細書に記載の投薬サイクルで投与され得る。
【0048】
流体及び電解質の置換が静脈内2%タウロリジン療法に関して行われ得る。
【0049】
250ml量の完全電解質溶液が、好ましくは2%タウロリジン250mlの注入と平行して同時に、且つ同一の注入速度で与えられる。電解質及び血球数を1日2回監視し、中心静脈圧を1日1回検査すべきである。
【0050】
高ナトリウム血症が観察される場合、まず、脱水症がその原因であるか否かを判定すべきである。利尿剤は、脱水症がその理由でないことを確認したのと同時及び確認後に流体を置換する場合にのみ使用すべきである。
【0051】
メチロール含有化合物は、単独又は1つもしくは複数のさらなる抗悪性腫瘍薬と併用して投与される。好ましい一実施形態において、補助的な薬剤はアポトーシス以外の機構によって腫瘍細胞を死滅させる。例えば、併用療法のレジメンにおいては、代謝拮抗物質、プリン類似体又はピリミジン類似体、アルキル化剤、架橋剤(例えば、白金化合物)及び挿入剤並びに/又は抗生物質が投与される。補助的な薬物はメチロール含有物質の前後又はメチロール含有物質と同時に与えられる。例えば、メチロール転移剤は5−フルオロウラシル(5−FU)等のフルオロピリミジンと同時投与され得る。フルオロピリミジンの有効な日用量は薬学的投薬単位当たり約0.1〜1000mgの範囲であり得る。5−FUの有効な日用量はまた、約100〜5000mg/m2体表面積、好ましくは約200〜1000mg/m2体表面積、より好ましくは約500〜600mg/m2体表面積の範囲であり得る。5−FUは典型的には注射用の250mg又は500mgアンプル、又は経口投与用の250mgカプセルで提供される。
【0052】
別の実施形態において、メチロール転移剤のアポトーシス効果はFasリガンドとの同時投与によって増強され得る。米国特許第5,858,990号明細書には、Fasリガンドポリペプチドが開示されている。Fasリガンドの治療的有効量は概して約0.01〜1000mg/kg患者体重、好ましくは約0.1〜200mg/kg患者体重、最も好ましくは約0.2〜20mg/kg患者体重の範囲である。治療的有効量は1日1回、又は1日複数回(例えば、1日に2、3、4又はそれ以上の回数)の投薬で投与され得る。
【0053】
本発明はまた、放射線と共にメチロール含有化合物を哺乳動物に投与することによって、哺乳動物における薬剤耐性腫瘍(例えば、多剤耐性(MDR)腫瘍)を治療することを含む。薬剤耐性腫瘍は固形腫瘍、非固形腫瘍及びリンパ腫から成る群より選択される。例えば、薬剤耐性腫瘍は黒色腫、乳癌、卵巣癌、結腸癌、前立腺癌、膵臓癌、中枢神経系癌、肝臓癌、肺癌、膀胱癌、リンパ腫、白血病又は肉腫であり得る。
【0054】
別の実施形態によれば、タウロリジン及び/又はタウルルタムを含有する溶液は約1〜20g/lの範囲内の量で、好ましくは約5g/lでタウリンをさらに含有する。
【0055】
さらなる実施形態は、メチロール転移剤を含有する溶液を肝血管に設けられたカテーテルを通して肝臓へ直接投与することによって、原発性肝腫瘍及びその転移の両方を治療する方法を提供する。肝機能及び非虚血状態の維持を手助けするメチロール転移剤を溶液で投与することによって、臓器を過度なストレスに過度に曝すことなく、罹患臓器を対象とした療法が実施される。
【0056】
原発性肝腫瘍の治療のため、メチロール転移剤の溶液は、治療薬が最も有効に臓器へと運ばれるように肝動脈を通して投与され得る。代替的には、溶液は、肝動脈を通じて肝臓へ送達される代わりに、胃十二指腸動脈を介して供給され得る。本実施形態において使用するための好ましい溶液は、肝機能を維持する手助けをすると共に、大量のメチロール転移剤溶液の注入に関連した臓器へのストレスを最小化する手助けをする溶液である。
【実施例】
【0057】
(実施例1)
2%タウロリジン等張溶液
静脈内への点滴注入に好適な1つの組成物を以下に示す。
等張滅菌溶液、100ml:
2.0g タウロリジン
5.0g PVP 16 PF UP 蒸留水を加えて100mlの溶液とする(aqua dest. ad solut. 100 ml) pH 7.2〜7.3
濾過滅菌及び放射線滅菌
【0058】
(実施例2)
タウリン及び電解質を有する2%タウロリジン含有等張Taurolin(登録商標)溶液
静脈内への点滴注入に好適な別の組成物を以下に示す。
等張滅菌溶液、100ml:
2.0g タウロリジン
5.0g PVP 17 PF UP
0.5g タウリン
0.3g 塩化ナトリウム
濾過滅菌及び放射線滅菌
【0059】
(実施例3)
タウリン及び電解質を有する2%タウロリジン含有等張Taurolin(登録商標)リンゲル液
静脈内への点滴注入に好適な別の組成物を以下に示す。
等張滅菌溶液、100ml:
2.0g タウロリジン
5.0g PVP 17 PF UP
0.5g タウリン
0.26g 塩化ナトリウム
0.0033g 塩化カリウム
0.004g 塩化カルシウム・2H2
0.003g 炭酸水素ナトリウム
濾過滅菌及び放射線滅菌
【0060】
(実施例4)
タウリン及び電解質を有する2%タウロリジン含有Taurolin(登録商標)乳酸リンゲル液
静脈内への点滴注入に好適な別の組成物を以下に示す。
等張滅菌溶液、100ml:
2.0g タウロリジン
5.0g PVP 17 PF UP
0.5g タウリン
0.20g 塩化ナトリウム
0.013g 塩化カリウム
0.009g 塩化カルシウム・2H2
0.0033g 乳酸ナトリウム50%溶液(Pharmacopeia Europea)
濾過滅菌及び放射線滅菌
【0061】
(実施例5)
タウルルタム溶液
1つの好ましい溶液は以下を含む:
ラクトビオン酸 35.830g
アデノシン 1.340g
ラフィノース5水和物 17.830g
ヒドロキシエチルデンプン(HES)PL 40/0.5 50.000g
グルタチオン 0.929g
アロプリノール 0.136g
タウルルタム 10.000g
KCl 5.200g
MgSO4・7H2O 1.230g
25% NaOH(重量体積百分率(GV))でpH7.8にする
NaOHペレット Merck 6482
蒸留水 900ml
【0062】
溶液を放射線で滅菌した。滅菌後のpHは7.2であり、すぐに使用可能な溶液のpHは7.47である。
【0063】
(実施例6)
黒色腫の治療
黒色腫は皮膚癌の一種であり、その発生率は近年急激に増加した。さらに、悪性黒色腫は放射線療法及び化学療法に対する反応が乏しい。本プロジェクトは新規な抗悪性腫瘍薬であるタウロリジンを単独で又は放射線と併用した場合の、in vitro及びin vivoでの黒色腫の腫瘍増殖に対する効果を評価するよう設計された。
【0064】
マウス黒色腫B16 4A5細胞及びB16 F10細胞を異なる時間タウロリジン(0〜200μg/ml)、X線(レントゲン)放射(0〜4Gy)又はそれらの組合せで処理した。細胞周期をFACScan解析によって評価した。細胞のアポトーシス及び壊死をFACScan解析及びMTTアッセイによって求め、さらにDNAゲル電気泳動によって確認した。タウロリジン単独では、用量及び時間に依存して、B16 4A5及びB16 F10の細胞周期はG0/G1期で停止した(サブG1集団が増加)。対照的に、タウロリジンと放射線の組合せは、G2/M期での細胞周期の停止を誘導した(サブG1集団なし)。B16 4A5細胞及びB16 F10細胞を10〜200μg/mlタウロリジンに曝露すると、用量及び時間に依存した細胞アポトーシスを生じた。さらに、0.5Gy放射線と併用した25μg/mlタウロリジンはB16 4A5細胞において70%のアポトーシスをもたらした一方、いずれか単独ではアポトーシスを誘導できなかった。
【0065】
C57BL/6マウス(8〜10週齢)(n=120)の右側腹部にB16 4A5細胞(マウス1匹当たり5×105)を注射し、対照、PVP(タウロリジンの溶媒)、タウロリジン(5mg/マウス、腹腔内)、放射線(5Gy/マウス)及びタウロリジン+放射線に区分した。腫瘍増殖率、腫瘍/体重比、肺転移、及び生存率を記録した。腫瘍内細胞の有糸分裂/アポトーシス指数、微小血管密度、並びに脾臓細胞傷害性Tリンパ球(CTL)及びナチュラルキラー(NK)細胞媒介の細胞毒性活性にもアクセスした。タウロリジン+放射線は、未処理動物と比較すると、原発性且つ転移性の黒色腫の腫瘍増殖を有意に減弱させた(p<0.001)。さらに、タウロリジン+放射線で処理したマウスは、タウロリジン単独(p<0.01)又は放射線単独(p<0.01)で処理したマウスよりも腫瘍増殖率、腫瘍/体重比、及び肺転移結節の大きな減少を示した。これはタウロリジン+放射線の群において細胞有糸分裂/アポトーシス指数が有意に減少したことを反映している。タウロリジン+放射線で処理したマウスはまた、生存率の向上並びにCTL及びNK細胞の細胞毒性活性を増強することが示された。
【0066】
タウロリジンは2つのマウス黒色腫細胞株において細胞周期の停止及びアポトーシスを誘導する。In vivoで、タウロリジンは放射線照射と組み合わせると、原発性且つ転移性の黒色腫の腫瘍増殖を有意に減弱させるが、これはタウロリジンによる細胞アポトーシスの誘導及び放射線感受性の増強から生じ得る。
【0067】
(実施例7)
2%タウロリジンの静脈内投与を使用する癌患者を治療するための2サイクル投薬スケジュール
2%タウロリジン溶液の4ボトル(各250ml)を、1分間につき40滴、6時間毎に1ボトルの速度で癌患者に静脈内投与した。投薬サイクルは、1週間毎日注入が行われる投与期、続く2週間の非投与期、その後の先に示した1日当たり4ボトルという別の投与期から成る。静脈内投与される2%タウロリジン溶液の有効性は、1サイクル当たり25〜28ボトルの2%タウロリジン溶液250mlが点滴注入される場合に特に良好であることが見出された。
【0068】
(実施例8)
2%タウロリジンの静脈内投与を使用する悪性神経膠腫患者を治療するための4サイクル投薬スケジュール
治療は最低限4サイクルを含む。各サイクルは7日の長さであり、以下の通り構成される:
1.第1サイクル
a.注入時間60分で中心静脈カテーテルを介して2%タウロリジン250ml及び完全電解質溶液250mlを静脈内注入する。
b.本療法が肝カウントの上昇を引き起こす場合には、注入時間を90分又は120分に増大させることが必要である。
c.60分の中断
d.a又はb及びcでの療法を1日当たり合計6回繰り返す。
e.タウロリジン250ml当たりの1日の注入プログラムの継続時間は、注入時間60分では11時間、90分の注入時間では14時間、120分の注入時間では17時間である。残りの時間には薬物は何も投与されない。
f.休止期
2.続くサイクル
a.注入時間60分で中心静脈カテーテルを介して2%タウロリジン250ml及び完全電解質溶液250mlを静脈内注入する。
b.本療法が肝カウントの上昇を引き起こす場合には、注入時間を90分又は120分に増大させることが必要である。
c.60分の中断
d.a又はb及びcでの療法を1日当たり合計4回繰り返す。
e.タウロリジン250ml当たりの1日の注入プログラムの継続時間は、注入時間60分では7時間、90分の注入時間では9時間、120分の注入時間では11時間である。残りの時間には薬物は何も投与されない。
【0069】
(実施例9)
γ線処理及びタウロリジン処理
結晶性タウロリジン粉末
通常の結晶の平均粒径180〜300μm
微粉化結晶の平均粒径=5μm
【0070】
通常の結晶性タウロリジン粉末2バッチを製造し、γ線によって滅菌した。タウロリジン結晶0.5gを、無菌状態及び層流下で5mlのバイアルに秤量した。バイアルをゴム栓及びシールキャップによって閉じた。その後、閉じたバイアルを25kGyのγ線で照射し(範囲認証(Range certification)26〜30kGy))、引き続き分析した。
【0071】
驚くべき結果:
安定性の評価によって、γ線による滅菌後のタウロリジン粉末の結晶が放射線照射されていない結晶と同一であり、且つ放射線照射されていない結晶の規格(標準タウロリジン)に対応する一方、PVPを含まない1%タウロリジン水溶液はγ線にそれほど安定でないことが示された。
【0072】
以下の対照評価が実施され、放射線照射された結晶性タウロリジン粉末、及び放射線照射されていない結晶性タウロリジン粉末から同一の結果が示された:
融点:173〜175℃
赤外分光スペクトル:Philips PU 9706赤外分光光度計
スペクトル写真は放射線照射されていない標準タウロリジンに対応した。
溶解度:1%の清澄水溶液
無菌性:欧州薬局方第5版に従い、化合物は無菌であった。
エンドトキシン:エンドトキシンについての試験は陰性であった。
【0073】
(実施例10)
腫瘍巣の大きさに応じて、およそ0.5g以上のタウロリジン結晶を、実施例9に従って製造した懸濁液として約37℃の温度で二成分系(フィブリノーゲン/トロンビン)に直接挿入し、腫瘍の外科的切除後、手作業で又は噴霧装置を用いて腫瘍巣に局所的に留めた。腫瘍巣の表面への拡散によりタウロリジンを放出するフィブリン接着剤マトリクスを腫瘍巣の内表面上に形成する。
【0074】
代替的には、結晶、好ましくは微粉化タウロリジンを、ダブルチャンバシリンジの1つのチャンバに充填し得る。ダブルチャンバシリンジは他のチャンバにフィブリン糊を含有し、使用前に続いて混合されるべきである。
【0075】
(実施例11)
γ線を受けたタウロリジンゲルの安定性
序論
本実験においては、タウロリジンゲルの粗粒を各最大照射線量32kGyで2回γ線に曝露した。タウロリン(tauroline)含有量を、選択的HPLC法を用いて2回目のγ線照射前後で6回求めた(タウロリジンゲルについてのモノグラフ、4%タウロリジン)。
【0076】
結果
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
考察
合計最大線量64kGyの2回のγ線照射後であっても、タウロリジン含有量はなお特定の放出率3.8〜4.2%の範囲内である。通常のγ線照射の場合には最大線量32kGyは決して超過されず、本実験で選択された64kGyという線量がはるかに高いものであることが強調されるべきである。しかしながら、かかるストレス試験に曝露した場合であっても、活性成分の含有量は放出下限を割り込まない。
【0080】
【化1】

タウロリジン又はタウルルタム(A)のラジカル酸化の最終生成物はタウリナミド、タウリン及びCO2である。
【0081】
デヒドロタウルルタム(HG 40)の決定
放射線照射後、1%タウロリジンの最終的なUV吸収は200〜210nm増加した。本プロセスにおいて、孤立二重結合を有する化合物を生成したに違いない。
【0082】
質量ピーク135(HPLC/MS)
HPLC/MSを用いてタウロリジンの結晶化由来の母液からの残渣を分析すると、タウルルタム、タウリナミド及びタウリンの質量ピークの他に、135(134)という質量ピークが求められた。本ピークはHG 40のピークと一致した。
【0083】
デヒドロタウルルタム(HG 40)の合成
タウリナミド塩基とギ酸の化学反応によって、N−ホルミルタウリナミドが良好な収率で生成する。そのN−ホルミルタウリナミドをポリリン酸中で加熱することによって、脱水及び閉環の結果として、デヒドロタウルルタム(HG 40)が得られる。アミジンとして、当該物質は孤立C=N二重結合を含有する。
【0084】
アルコールから再結晶した無色のプレートレット(融点:172〜174℃(Buechi融点測定装置510))
元素分析
分子量134
計算値: C:26.89% H:4.31% N:20.91% S:23.93%
測定値: C:27.05% H:4.54% N:20.5 % S:23.79%
【0085】
赤外分光スペクトル
タウルルタムの典型的なバンドの他、C=N二重結合に対応する新規のスペクトルバンドが出現する。
【0086】
NMR
NMR分析によって構造を確認する。HClによる加水分解を通じて、HG 40はさらにタウリナミドに変わる。
【0087】
HG 40の互変異性型
【0088】
【化2】

【0089】
二重結合の位置を変えることによって、HG 40の互変異性型を推測する。
【0090】
総括及び結論
1%タウロリジン水溶液の放射線分解生成物についての検査
500mlガラスボトル中に含有される1%タウロリジン溶液のγ線照射(およそ25gKy)後、以下の生成物を単離し得るか、赤外分光法、HPLC/MS分析、アミノ酸分析を用いて定量的に求め得る:
1.タウロリジン含有量 0.78% 3900mg
2.デヒドロタウルルタム 0.156% 780mg
3.タウリナミド 0.0171% 85.5mg
4.タウリン 0.0106% 53mg
5.メチレングリコール 0.0160% 81mg※※
6.CO2 0.0019% 9.7mg
デヒドロタウルルタムの含有量を推定する(HPLC/MS)。HG 40の互変異性型も含有する。
【0091】
タウロリジンのラジカル酸化は、タウロリジンをタウリナミド、タウリン及びCO2にする既知の酸化的な細胞のバイオトランスフォーメーションと同様に起こる。本プロセスにおいて、デヒドロタウルルタムは中間生成物として生成する。
【0092】
(実施例12)
タウルルタム及びデヒドロタウルルタム間の急性毒性比較
序論
γ線を用いて含水タウロリン顆粒の滅菌についての措置を行った。既知の生成物であるタウリナミド及びタウルルタムの他、デヒドロタウルルタムの痕跡を放射線照射された試料において求めた。
【0093】
本報告においては、デヒドロタウルルタムの急性毒性をタウルルタムと比較して評価した。このために、3つの異なる濃度の2つの試験物質と共に、2つの異なるカテゴリーの細胞(筋細胞及び繊維芽細胞)を異なる期間インキュベートした。試験物質の細胞に対する考えられる毒性効果を20時間後に分析した。考えられる細胞損傷の判定基準は生存度及び細胞接着レベルとした。
【0094】
試料
タウルルタム、Geistlich Wolhusen、バッチE/39024/4(粉末)
デヒドロタウルルタム、Geistlich Wolhusen、HG 40、バッチ12/28/98/ib(粉末)
DMEM(GIBCO BRL バッチ10829)、10% FBS(ウシ胎仔血清、GIBCO BRL)及び2mMグルタミンから成る培養培地
細胞:COS−7繊維芽細胞及びC2C12筋芽細胞
【0095】
方法
細胞培養:
COS−7細胞株及びC2C12細胞株を48ウェル皿上に50%の集密度で平板培養し、37℃で24時間インキュベートした。その後、培地を変更した。このために、非改変培地(対照)、又は0.1%、0.25%若しくは0.5%のタウルルタム若しくはデヒドロタウルルタムを含有する培地を使用した。細胞培養物を37℃で5、10、20、60及び120分間インキュベートし、その後、新鮮な培地で3回洗浄した。37℃のインキュベータ内にさらに20時間置いた後、細胞を評価した。
【0096】
細胞生存度:
トリパンブルー染色によって細胞生存度の同定が可能となるのは、トリパンブルーは損傷細胞を透過し得るが、無傷細胞を透過し得ないからである。
【0097】
接着:
生存度の指標として、細胞接着の程度を顕微鏡で評価した。
【0098】
結果
タウルルタム及びデヒドロタウルルタムの細胞接着に対する影響
タウルルタム及びデヒドロタウルルタムをそれぞれ20時間インキュベートした後、細胞接着を分析した。
【0099】
筋細胞の試験(表3)
試験物質(0.1%濃度):
5、10又は20分のインキュベーション期間では、タウルルタム及びデヒドロタウルルタムのいずれに関しても細胞接着の障害は何も示されなかった(100%細胞接着)。2時間のインキュベーション後に、タウルルタムでは細胞損傷を観察することができた(60%細胞接着)。しかしながら、デヒドロタウルルタムではずっと目立たなかった(90%細胞接着)(表3)。
【0100】
試験物質(0.25%濃度)
この最大濃度であっても、20分までのインキュベーションでは細胞接着における有意な変化は示されなかった。60及び120分のインキュベーション期間でのみ、障害を検出でき、デヒドロタウルルタム(80%接着)よりもタウルルタムでより顕著であった(60〜70%接着)(表3)。
【0101】
試験物質(0.5%濃度):
この最大濃度であっても、20分までのインキュベーション期間では接着性の有意な障害は見出されなかった。60〜120分というより長いインキュベーション期間で、明瞭な接着に関連した問題(50〜60%接着)が発現した。しかしながら、デヒドロタウルルタム(80〜90%接着)ではこの程度までは観察されなかった(表3)。
【0102】
繊維芽細胞の試験(表4)
試験物質(0.1%濃度):
a)20分までのインキュベーション期間では、細胞接着はタウルルタム及びデヒドロタウルルタムのいずれに関しても有意には影響されなかった。しかしながら、より長期にわたるインキュベーション期間(60及び120分)で、接着の制限がタウルルタムでは観察されたが、デヒドロタウルルタムでは検出されなかった(表4)。
b)試験物質(0.25%濃度):
この濃度では、接着における変化は少なくとも20分のインキュベーション期間でのみ起こった。しかしながら、接着に関連した問題はデヒドロタウルルタム(80%接着)よりもタウルルタムで(60%接着)ずっと顕著であった(表4)。
c)試験物質(0.5%濃度):
最高濃度でも、10分のインキュベーション期間は事実上無効であった。しかしながら、より長期にわたるインキュベーション期間で、かなりの細胞接着障害がタウルルタム(40%接着まで低下)では起こり、本効果はデヒドロタウルルタム(80%接着)ではずっと目立たなかった(表4)。
【0103】
タウルルタム及びデヒドロタウルルタムの細胞生存度に対する影響
トリパンブルーを用いた接着細胞の生死判別試験により、各群において細胞生存度は95%より高いことが示された。これらの知見はインキュベーション期間、試験物質の濃度又は使用される試験物質とは無関係であった。このことは接着性を維持する事実上すべての細胞が完全に生存していることを意味する。一方、障害細胞は接着特性を失う。これらの知見により、細胞損傷を測定する高感度法として上述した接着試験の妥当性が支持される。
【0104】
考察
試験方法の妥当性
トリパンブルーを用いた生死判別試験により、すべての接着細胞が完全に生存し得ることが示された。これらの知見により、接着が障害細胞生存度の高感度マーカーであることが示される。接着試験は試験物質とのインキュベーションに続いてさらに20時間の細胞インキュベーションを実施するように設計される。その結果、接着試験は試験物質の即時効果についての情報を提供するだけでなく、1回の曝露の結果として生じ得る細胞損傷も含む。
【0105】
細胞種類の比較
タウルルタム及びデヒドロタウルルタムの繊維芽細胞及び筋細胞の接着に対する最大効果は事実上同一である(表3及び表4、最大濃度、及び120分のインキュベーション期間)。これらの知見により、他の細胞も同様にタウルルタム又はデヒドロタウルルタムと反応すると想定することが可能である。
【0106】
タウルルタム及びデヒドロタウルルタムの効果の比較
20分のインキュベーション期間では、タウルルタム及びデヒドロタウルルタムの最高濃度(0.5%)であっても、筋細胞において細胞接着の妨害はそれほど起こらない。60〜120分のインキュベーション期間後でのみ細胞変化が起こるが、すべての濃度でタウルルタムよりもデヒドロタウルルタムの方が目立たない。2時間のインキュベーション期間では、タウルルタムでの50〜60%と比較して、デヒドロタウルルタムでの接着は80〜90%である。デヒドロタウルルタム及びタウルルタムの毒性に関する同様の差異が繊維芽細胞で見出された。10分までのインキュベーション期間では最高濃度であっても何の変化も生じなかった一方、より長い曝露時間(60〜120分)では細胞変化が生じたが、すべての濃度でタウルルタムよりもデヒドロタウルルタムの方がはるかに目立たなかった。最も極端な条件(0.5%、1〜2時間)下であっても、デヒドロタウルルタムでの接着が80%を割らなかった一方、タウルルタムでの接着はほんの40〜60%であった。
【0107】
総括
タウルルタム及びデヒドロタウルルタムの筋細胞及び繊維芽細胞の生存度に対する効果を比較分析することにより、両物質が非常に低い毒性を示すことが時間及び濃度に依存した検討において明らかとなった。試験物質への急性曝露中に、細胞変化は何も観察されなかった。細胞損傷は長期にわたるインキュベーション期間でのみ検出された。試験した濃度及びインキュベーション期間のすべてで、デヒドロタウルルタムの毒性効果がタウルルタムよりも有意に低いことは注目に値する(表3、表4)。
【0108】
γ線に曝露された含水タウロリン顆粒において、デヒドロタウルルタムはタウルルタムと比較して非常に少量でしか存在しない。それをもって、デヒドロタウルルタムはヒトにおける含水タウロリン顆粒の毒性リスクを増大させないと仮定され得る。
【0109】
凡例
表3
筋細胞をタウルルタム又はデヒドロタウルルタム(0.1%、0.25%、0.5%)と37℃で5、10、20、60及び120分間インキュベートした。通常培地で3回すすいだ後、培養物をもう20時間インキュベートした。その後、細胞接着の程度を顕微鏡で観察した。結果を対照培養物の%で示す。接着細胞は生存可能であった。
【0110】
表4
繊維芽細胞をタウルルタム又はデヒドロタウルルタム(0.1%、0.25%、0.5%)と37℃で5、10、20、60及び120分間インキュベートした。通常培地で3回すすいだ後、培養物をもう20時間インキュベートした。その後、細胞接着の程度を顕微鏡で観察した。結果を対照培養物の%で示す。接着細胞は生存可能であった。
【0111】
【表3】

【0112】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線防護量のPVPを含有し、且つタウロリジン、タウルルタム若しくはそれらの混合物をさらに含む溶液、ゲル若しくは接着剤を含む組合せ、又はタウロリジン、タウルルタム若しくはそれらの混合物のコラーゲンを含まない結晶を含む凝集体を電離放射線に曝すことによって形成される組成物。
【請求項2】
前記放射線のレベルが約0.01Gy〜約100kGyである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記放射線がX線又はγ線である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記PVP、及び前記タウロリジン、タウルルタム又はそれらの混合物を含む前記溶液、ゲル又は接着剤を含む前記組合せを含む組成物であって、前記放射線のレベルが約0.01〜100Gyであり、前記組合せ中の前記タウロリジン、タウルルタム又はそれらの混合物の存在量が約0.1〜10重量%であり、前記PVPの平均分子量が約3000〜14000ダルトンであり、前記組合せ中の前記PVPの存在量が約1〜15重量%である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
タウロリジン、タウルルタム又はそれらの混合物のコラーゲンを含まない結晶を含む前記凝集体を含む組成物であって、前記放射線のレベルが約0.1〜100kGyであり、且つ前記結晶の平均結晶径が約0.1〜1000μmの範囲内である、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
前記組合せ又は前記凝集体を電離放射線に曝すことを含む、請求項1に記載の組成物の製造方法。
【請求項7】
前記電離放射線がX線又はγ線である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記放射線のレベルが約0.01Gy〜約100kGyである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記放射線防護量のPVPを含有し、且つタウロリジン、タウルルタム又はそれらの混合物を含む前記溶液、ゲル又は接着剤を癌患者に投与すること、及び該溶液、ゲル又は接着剤が該患者内に存在する間に、腫瘍増殖を抑制又は予防する量の電離放射線を該患者に投与することを含む、請求項1に記載の組成物を用いて腫瘍増殖を治療又は予防するための治療方法。
【請求項10】
最初に前記溶液、ゲル又は接着剤が前記患者に投与され、続いて該患者に前記電離放射線が投与される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記溶液又はゲルが前記患者に投与され、且つ該患者への放射線投与中に該溶液又はゲルが該患者に投与される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記患者への前記放射線の投与前に前記溶液又はゲルが投与される工程をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
患者における腫瘍増殖を治療又は予防するための治療方法であって、タウロリジン、タウルルタム又はそれらの混合物のコラーゲンを含まない結晶を含む前記凝集体を含む、請求項1に記載の組成物の該患者への投与を含み、該凝集体の該患者への投与前、投与中又は投与後のうちの少なくとも1つである期間中に該凝集体が前記電離放射線に曝される治療方法。
【請求項14】
患者における腫瘍増殖を治療又は予防するための組成物の調製におけるタウロリジン、タウルルタム又はそれらの混合物の使用であって、該組成物が、放射線防護量のPVP及びタウロリジン、タウルルタム若しくはそれらの混合物を含有する組合せ、又はタウロリジン、タウルルタム若しくはそれらの混合物のコラーゲンを含まない結晶を含む凝集体を電離放射線に曝すことによって製造される、タウロリジン、タウルルタム又はそれらの混合物の使用。

【公表番号】特表2009−522347(P2009−522347A)
【公表日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−549080(P2008−549080)
【出願日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【国際出願番号】PCT/IB2007/000022
【国際公開番号】WO2007/077528
【国際公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(500140219)エド・ガイストリッヒ・ゼーネ・アクチェンゲゼルシャフト・フュール・ヒェミッシェ・インドゥストリー (10)
【氏名又は名称原語表記】Ed. Geistlich Soehne AG fuer chemische Industrie
【住所又は居所原語表記】Bahnhofstrasse 40, P.O. Box 157, 6110 Wolhusen, Switzerland
【Fターム(参考)】