説明

放射線照射判別方法および放射線照射判別システム

【課題】実験者への作業負担を軽減し、食品や生薬などの試料への放射線照射の有無を客観的に且つ精度よく判別することができる放射線照射判別方法および放射線照射判別システムを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明にかかる放射線照射判別システム100は、パルス発生装置104で制御されたLED102cから食品101に対して励起光を照射し、励起光を照射した食品101から放出された発光を、フィルター102dを介して光電子増倍管102eで検出し、検出した発光の光量を、フォトンカウンティングユニット108を介してパルスカウンタ110で経時的に計測し、放射線照射判別装置112で、経時的に計測した光量に基づいて当該光量の変化量を算出し、算出した変化量に基づいて食品101への放射線照射の有無を判別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料(食品や生薬など)への放射線照射の有無を判別する放射線照射判別方法および放射線照射判別システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
日本では、食品への放射線照射は、馬鈴薯の発芽抑制(芽止め)を目的とする場合を除いて、食品衛生法で原則的に禁止されている。また、海外で放射線が照射された食品の国内への輸入も禁止されている。一方、海外では、食品への放射線照射が、香辛料や乾燥ハーブなどの食品を中心に実際に行われている。なお、この放射線照射は、食品の殺菌、殺虫、発芽抑制などの放射線照射に因る効果を利用して流通期間を延長させることを目的としている。
【0003】
このような状況において、食品や生薬等への放射線照射の有無を判別する技術の確立は、食品流通を適正に管理するため、また放射線照射食品を示す表示を保証するために、不可欠である。
【0004】
現在、食品への放射線照射の有無を判別する方法(特に、香辛料などに有効な方法)には、例えばCEN(ヨーロッパ標準分析委員会)の公定法として認知されている電子スピン共鳴(ESR)法や熱ルミネッセンス(TL)法や光刺激ルミネッセンス(PSL)法などがある。
【0005】
ESR法は、食品を磁場中に置いて食品中のラジカルを測定し、当該測定結果に基づいて食品への放射線照射の有無を判別する方法である。
【0006】
TL法は、食品から採取した鉱物質の熱発光を計測することで、その発光量と発光パターン(曲線)から放射線照射の有無を判別する方法である。具体的には、TL法では、まず、食品中に含まれる微量の発光素体(鉱物質)を分離精製し、光電子増倍管を用いた装置で発光素体の熱発光を計測する。つぎに、熱発光を一度測定した発光素体に放射線(γ線)を照射し、再び光電子増倍管を用いた装置で熱発光を計測する。そして、計測した2つの熱発光の比を予め定められた閾値と比較して放射線照射の有無を判別する。
【0007】
PSL法は、赤外光の照射による励起で食品から発生する可視光領域の光(発光)と食品への放射線照射の履歴との間に関係があることを利用して、放射線照射の有無を判別する方法である(特許文献1、非特許文献1参照)。具体的には、PSL法では、まず、食品に赤外光を照射することで当該食品から放出された発光を、光電子増倍管を用いた装置で計測する。そして、計測した発光の光量の積算値を、測定対象とする食品の種類に応じて経験的に予め求めた閾値(外的標準値)と比較して放射線照射の有無を判別する。換言すると、PSL法では、赤外光照射装置と光電子増倍管とを組み合わせた測定装置を用いて、まず、1秒以上の時間間隔で一定時間内に複数回、発光量を測定し、測定した発光量の積算値を算出する。つぎに、算出した積算値を、測定対象とする食品の種類に応じて経験的に予め求めた判定基準値(外的標準値)と比較する。つぎに、積算値と判定基準値とを比較した結果、積算値が判定基準値より大きければ“照射”と判定し、積算値が判定基準値より小さければ“非照射”と判定する。なお、PSL法では、食品そのものを用いることができるためTL法のような前処理は不要である。
【0008】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0699299号明細書
【非特許文献1】Sanderson D.C. W. et al, “Establishing Luminescence methods to detect irradiated food.”, Sci. Food Technol Today, 12(2), pp.97−102, 1998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、PSL法では、計測した発光の光量の積算値を一定の外的基準値と比較することで食品への放射線照射の有無を判別しているので、具体的に以下のような虞があった。
【0010】
PSL法で計測される光量は、放射線の照射量だけでなく、食品中の発光素体(鉱物)の含有量の影響も受ける。換言すると、食品中の発光素体の組成に因って、計測される光量が変化する。このことから、発光素体の含有量が少ない食品であって放射線を照射したものを対象とした場合に、当該食品を“非照射”と判別してしまう虞があった。また、計測した発光のバックグラウンド値が高い食品であって放射線を照射してないものを対象とした場合に、当該食品を“照射”と判別してしまう虞があった。
【0011】
つまり、PSL法では、食品への放射線照射の有無の判別において、計測した発光の光量の積算値を一定の外的基準値と比較していたので、必ずしも精度よく判別することができない虞があり、判別結果の客観性に欠ける、という問題点があった。
【0012】
また、PSL法では、判別の精度を維持するために、同一種の食品に対して数多くの光量測定を実施して、外的基準値を予め決定する必要があるので、実験者に多くの作業負担をかけていた、という問題点があった。
【0013】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、実験者への作業負担を軽減し、食品や生薬などの試料への放射線照射の有無を客観的に且つ精度よく判別することができる放射線照射判別方法および放射線照射判別システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、本発明者らは、鋭意検討の結果、一定計測時間内に、放射線を照射した食品中の発光素体が放射線照射で蓄積したエネルギーを放出し、計測した光量が計測時間の経過と共に漸次、減衰、消滅すること、また、放射線を照射してない食品では、計測した光量が計測時間の経過と共に減衰、消滅しないこと、を見出した(図4参照)。
【0015】
すなわち、上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる請求項1に記載の放射線照射判別方法は、試料への放射線照射の有無を判別する放射線照射判別方法において、励起光を照射した試料から放出された光の光量を経時的に計測し、計測した光量の変化量または変化率に基づいて試料への放射線照射の有無を判別することを特徴とする。
【0016】
また、本発明にかかる請求項2に記載の放射線照射判別方法は、食品への放射線照射の有無を判別する放射線照射判別方法において、試料に対して励起光を照射する励起光照射工程と、前記励起光照射工程で励起光を照射した試料から放出された光を、当該光を選択的に透過するフィルターを介して光電子増倍管で検出し、検出した光の光量を経時的に計測する光量計測工程と、前記光量計測工程で経時的に計測した光量に基づいて当該光量の変化量および/または変化率を算出し、算出した変化量および/または変化率に基づいて試料への放射線照射の有無を判別する放射線照射判別工程と、を含むことを特徴とする。
【0017】
また、本発明にかかる請求項3に記載の放射線照射判別方法は、請求項2に記載の放射線照射判別方法において、前記放射線照射判別工程は、前記光量計測工程で経時的に計測した光量から、第1の時間帯に計測した第1の光量および第2の時間帯に計測した第2の光量を取得する光量取得工程と、前記光量取得工程で取得した第1の光量および第2の光量に基づいて当該第1の光量の平均値と当該第2の光量の平均値との差を算出し、算出した平均値の差に基づいて試料への放射線照射の有無を判別する光量差基準判別工程と、をさらに含むことを特徴とする。
【0018】
また、本発明にかかる請求項4に記載の放射線照射判別方法は、請求項2に記載の放射線照射判別方法において、前記放射線照射判別工程は、前記光量計測工程で経時的に計測した光量に基づいて、光量と時間との関係を示す回帰式を作成する回帰式作成工程と、前記回帰式作成工程で作成した回帰式に基づいて当該回帰式の傾きの値を算出し、算出した傾きの値に基づいて試料への放射線照射の有無を判別する回帰式基準判別工程と、をさらに含むことを特徴とする。
【0019】
また、本発明にかかる請求項5に記載の放射線照射判別方法は、請求項2から4のいずれか1つに記載の放射線照射判別方法において、前記励起光照射工程は、試料に対してLEDで励起光を照射することを特徴とする。
【0020】
また、本発明は放射線照射判別システムに関するものであり、本発明にかかる請求項6に記載の放射線照射判別システムは、試料への放射線照射の有無を判別する放射線照射判別システムにおいて、試料に対して励起光を照射する励起光照射手段と、前記励起光照射手段で励起光を照射した試料から放出された光を、当該光を選択的に透過するフィルターを介して光電子増倍管で検出し、検出した光の光量を経時的に計測する光量計測手段と、前記光量計測手段で経時的に計測した光量に基づいて当該光量の変化量および/または変化率を算出し、算出した変化量および/または変化率に基づいて試料への放射線照射の有無を判別する放射線照射判別手段と、を備えたことを特徴とする。
【0021】
また、本発明にかかる請求項7に記載の放射線照射判別システムは、請求項6に記載の放射線照射判別システムにおいて、前記放射線照射判別手段は、前記光量計測手段で経時的に計測した光量から、第1の時間帯に計測した第1の光量および第2の時間帯に計測した第2の光量を取得する光量取得手段と、前記光量取得手段で取得した第1の光量および第2の光量に基づいて当該第1の光量の平均値と当該第2の光量の平均値との差を算出し、算出した平均値の差に基づいて試料への放射線照射の有無を判別する光量差基準判別手段と、をさらに備えたことを特徴とする。
【0022】
また、本発明にかかる請求項8に記載の放射線照射判別システムは、請求項6に記載の放射線照射判別システムにおいて、前記放射線照射判別手段は、前記光量計測手段で経時的に計測した光量に基づいて、光量と時間との関係を示す回帰式を作成する回帰式作成手段と、前記回帰式作成手段で作成した回帰式に基づいて当該回帰式の傾きの値を算出し、算出した傾きの値に基づいて試料への放射線照射の有無を判別する回帰式基準判別手段と、をさらに備えたことを特徴とする。
【0023】
また、本発明にかかる請求項9に記載の放射線照射判別システムは、請求項6から8のいずれか1つに記載の放射線照射判別システムにおいて、前記励起光照射手段は、試料に対してLEDで励起光を照射することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明にかかる請求項1に記載の放射線照射判別方法は、励起光を照射した試料(食品や生薬など)から放出された光の光量を経時的に計測し、計測した光量の変化量および/または変化率に基づいて試料への放射線照射の有無を判別するので、実験者への作業負担を軽減し、食品や生薬などの試料への放射線照射の有無を客観的に且つ精度よく判別することができるという効果を奏する。ここで、TL法では、食品そのものを用いることができないため食品から発光素体を分離精製する前処理が必要であるが、当該前処理には最低1日の時間を要し、さらに前処理は同時に1から数検体しか行うことができないため、検査時間の観点では必ずしも満足できるものではなかった。ところが、本発明は、試料の前処理が不要であるので、光量の計測から放射線照射の有無の判別までの処理を迅速に行うことができ、その結果、検査時間を短縮することができる。また、TL法では、光電子増倍管を冷却する冷却装置や発光素体を加熱する加熱装置が必要であるため、実施に要する費用が高額になってしまう。ところが、本発明は、これら各装置が不要であるので、光量の計測から放射線照射の有無の判別までの処理を安価な装置構成で実現することができる。
【0025】
また、本発明にかかる請求項2に記載の放射線照射判別方法および請求項6に記載の放射線照射判別システムは、試料(食品や生薬など)に対して励起光を照射し、励起光を照射した試料から放出された光を、当該光を選択的に透過するフィルターを介して光電子増倍管で検出し、検出した光の光量を経時的に計測し、経時的に計測した光量に基づいて当該光量の変化量および/または変化率を算出し、算出した変化量および/または変化率に基づいて試料への放射線照射の有無を判別するので、実験者への作業負担を軽減し、食品や生薬などの試料への放射線照射の有無を客観的に且つ精度よく判別することができるという効果を奏する。ここで、TL法では、食品そのものを用いることができないため食品から発光素体を分離精製する前処理が必要であるが、当該前処理には最低1日の時間を要し、さらに前処理は同時に1から数検体しか行うことができないため、検査時間の観点では必ずしも満足できるものではなかった。ところが、本発明は、試料の前処理が不要であるので、光量の計測から放射線照射の有無の判別までの処理を迅速に行うことができ、その結果、検査時間を短縮することができる。また、TL法では、光電子増倍管を冷却する冷却装置や発光素体を加熱する加熱装置が必要であるため、実施に要する費用が高額になってしまう。ところが、本発明は、これら各装置が不要であるので、光量の計測から放射線照射の有無の判別までの処理を安価な装置構成で実現することができる。
【0026】
また、本発明にかかる請求項3に記載の放射線照射判別方法および請求項7に記載の放射線照射判別システムは、放射線照射の判別において、経時的に計測した光量から、第1の時間帯(例えば計測初期や計測開始直後の時間帯)に計測した第1の光量および第2の時間帯(例えば計測末期や計測終了間際の時間帯)に計測した第2の光量を取得し、取得した第1の光量および第2の光量に基づいて当該第1の光量の平均値と当該第2の光量の平均値との差を算出し、算出した平均値の差に基づいて試料への放射線照射の有無を判別するので、容易な計算で、試料への放射線照射の有無を客観的に且つ精度よく判別することができるという効果を奏する。
【0027】
また、本発明にかかる請求項4に記載の放射線照射判別方法および請求項8に記載の放射線照射判別システムは、放射線照射の判別において、経時的に計測した光量に基づいて、光量と時間との関係を示す回帰式を作成し、作成した回帰式に基づいて、所定の時点における当該回帰式の傾きの値を算出し、算出した傾きの値に基づいて試料への放射線照射の有無を判別するので、放射線を照射した試料で確認された、光量が経時的に減衰するという現象を数学的に表すことで、試料への放射線照射の有無を客観的に且つ精度よく判別することができるという効果を奏する。
【0028】
また、本発明にかかる請求項5に記載の放射線照射判別方法および請求項9に記載の放射線照射判別システムは、励起光の照射において、試料に対してLEDで励起光を照射するので、励起光を照射する際のパルス間隔(発光時間間隔)の調整が容易であるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に、本発明にかかる放射線照射判別方法および放射線照射判別システムの実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0030】
まず、本実施の形態の放射線照射判別システム100の全体構成について、図1を参照して説明する。図1は、放射線照射判別システム100の全体構成の一例を示す図である。図1に示すように、放射線照射判別システム100は、光刺激ルミネッセンスの発光原理に基づいて作製したものであり、OSL(Optically Stimulated Luminescence)検出ユニット102とパルス発生装置104と高圧電源106とフォトンカウティングユニット108とパルスカウンタ110と放射線照射判別装置112とで構成されている。なお、これら各装置は、図示の如く、接続ケーブルで接続されている。
【0031】
OSL検出ユニット102は、検査対象(試料)となる食品101(乾燥食品や生薬など)に対して励起光を照射し、励起光を照射した食品101から放出された発光(具体的には、発光の光子)を検出する。図2は、OSL検出ユニット102の構成の一例を示す図である。図2に示すように、OSL検出ユニット102は、暗箱102aと試料皿102bとLED(発光ダイオード)102cとフィルター(ローパスフィルター、バンドパスフィルター)102dと光電子増倍管(PMT:PhotoMultiplier Tube)102eとで構成されている。暗箱102aは、外光を遮断するためのものであり、食品101から放出された発光の光量を検出するために用いる。試料皿102bは、図示の如く、暗箱102a内に設けられ、食品101を配置するためのものである。なお、試料皿102bとして、食品からの遅延発光の影響が少ないステンレス製の試料皿を用いてもよい。また、計測前の食品への露光に因る光ルミネッセンス量の減少が予想されるため、検査対象の食品は暗室内で、暗箱102a内の試料皿102bに置いてもよい。LED102cは、食品101に対して励起光を照射するためのものである。LED102cとして、例えば、イマック(会社名)のLED照明(品番“IDR−LA50/24IR−890−2−C01”:赤外)を用いてもよい。フィルター102dは、LED102cで励起光を照射したことに因り食品から反射した反射光を遮断して、食品から放出された発光を選択的に透過する。フィルター102dとして、例えば、朝日分光(会社名)のバンドパスフィルター(品番“SWPF670”)や光伸光学(会社名)のバンドパスフィルター(品番“IRC−65W”)を用いてもよい。なお、フィルター102dは、1枚のフィルターで構成してもよく、複数枚のフィルターで構成してもよい。また、フィルター102dは、図示の如く、光電子増倍管102eの近傍に設置する。光電子増倍管102eは、食品101から放出され、フィルター102dを透過した発光(具体的には、発光の光子)を検出し、検出した発光(具体的には、発光の光子)を増幅して電気信号(アナログ信号)に変換する。光電子増倍管102eとして、例えば、浜松ホトニクス(会社名)の光電子増倍管(品番“R329P”)を用いてもよい。
【0032】
再び図1に戻り、パルス発生装置104は、LED102cを所定の時間間隔(パルス間隔)で発光させるためのものである。つまり、パルス発生装置104はLED102cを制御する。パルス発生装置104として、例えば、イマック(会社名)のパルス電源(品番“IDT−10S”)を用いてもよい。
【0033】
高圧電源106は、光電子増倍管102eの電極にかける電圧を制御して、光電子増倍管102eへ電源を供給する。
【0034】
フォトンカウンティングユニット108は、光電子増倍管102eから出力されたアナログ信号を所定の閾値を考慮してデジタル信号に変換する。なお、当該閾値は、食品101ごとに決定してもよく、放射線が照射されてない食品101に対して決定した値に基づいて決定してもよい。フォトンカウンティングユニット108として、例えば、浜松ホトニクス(会社名)のフォトンカウンティングユニット(品番“C3866”)を用いてもよい。
【0035】
パルスカウンタ110は、フォトンカウンティングユニット108から出力されたデジタル信号に基づいて光量(所定時間あたりのカウント数)を経時的に(例えば、0.1秒間隔で)計測する。パルスカウンタ110として、例えば、浜松ホトニクス(会社名)のパルスカウンタ(品番“C8747”)を用いてもよい。
【0036】
放射線照射判別装置112は、当該放射線照射判別装置112やパルス発生装置104を統括的に制御するCPU等の制御部112Aと、各種のデータベースやテーブルやファイルなどを格納する記憶部112Bと、を少なくとも備え、これら各部は任意の通信路を介して通信可能に接続されている。なお、放射線照射判別装置112は、一般に市販されるパーソナルコンピュータ等の情報処理装置およびその付属装置で構成することができる。
【0037】
制御部112Aは、OS(Operating System)等の制御プログラム、各種の処理手順等を規定したプログラムおよび所要データを格納するための内部メモリを有し、これらのプログラムに基づいて種々の処理を実行する。制御部112Aは、LED102cが照射する励起光の照射条件(LED102cを発光させる時間間隔やLED102cの照度など)を決定する照射条件決定部112A1と、パルスカウンタ110で経時的に計測した光量に基づいて当該光量の変化量および/または変化率を算出し、算出した変化量および/または変化率に基づいて食品101への放射線照射の有無を判別する放射線照射判別部112A2と、を備えている。
【0038】
ここで、放射線照射判別部112A2は、パルスカウンタ110で経時的に計測した光量から、第1の時間帯(例えば計測初期や計測開始直後の時間帯)に計測した第1の光量および第2の時間帯(例えば計測末期や計測終了間際の時間帯)に計測した第2の光量を取得する光量取得部112A21と、光量取得部112A21で取得した第1の光量および第2の光量に基づいて当該第1の光量の平均値と当該第2の光量の平均値との差を算出し、算出した平均値の差に基づいて食品101への放射線照射の有無を判別する光量差基準判別部112A22と、パルスカウンタ110で経時的に計測した光量に基づいて、光量と時間との関係を示す回帰式を作成する回帰式作成部112A23と、回帰式作成部112A23で作成した回帰式に基づいて当該回帰式の傾きの値(回帰式の一次微分値)を算出し、算出した傾きの値に基づいて食品101への放射線照射の有無を判別する(具体的には、算出した傾きの値が負であれば“照射”と判別し、算出した傾きの値が0または正であれば“非照射”と判別する)回帰式基準判別部112A24と、をさらに備えている。なお、放射線照射判別部112A2は、光量差基準判別部112A22での判別結果および回帰式基準判別部112A24での判別結果に基づいて、食品101への放射線照射の有無を最終的に判別してもよい。また、回帰式基準判別部112A24は、回帰式作成部112A23で作成した回帰式に基づいて判別指標(判別インデックス)を算出し、算出した判別指標(判別インデックス)に基づいて食品101への放射線照射の有無を判別してもよい。
【0039】
記憶部112Bは、ストレージ手段であり、例えば、RAM、ROM等のメモリ装置や、ハードディスクのような固定ディスク装置や、フレキシブルディスクや、光ディスク等を用いることができる。記憶部112Bは、パルスカウンタ110で経時的に計測した光量の値を、当該光量を計測した時刻(または、光量の計測を開始した時点から当該光量を計測した時点までの経過時間)と対応付けて記憶する。
【0040】
ここで、放射線照射判別システム100は、食品101をアニーリングするための加熱装置をさらに備えてもよい。また、光量の計測精度を高めるために、暗箱102内の温度を制御する温度制御装置や、光電子増倍管102eを冷却する冷却装置(光電子増倍管102eの温度を制御する装置)をさらに備えてもよい。
【0041】
なお、放射線照射判別システム100で光量の計測を行う際には、放射線を照射した食品から計測した光量が漸次、減衰するという現象を確認できるように、励起光の波長、強度および計測する光量を事前に調節する(最適化する)ことが望ましい。具体的には、予備実験を行うことで、適切な光源(LED)および適切なフィルター(食品から反射した励起光を遮断し且つ食品から放出された発光を選択的に透過するフィルター)を選択し、光源のパルス間隔(発光時間間隔)を事前に調整することが望ましい。
【0042】
以上の構成において、本実施の形態における放射線照射判別システム100を用いて食品への放射線照射の有無を判別する工程を、図3を参照して説明する。図3は、放射線照射判別システム100を用いて食品101への放射線照射の有無を判別する工程の一例を示す図である。
【0043】
〔工程1:食品設置工程〕検査対象の食品101を、暗箱102a内の試料皿102bに置く。
〔工程2:高圧電源起動工程〕高圧電源106を起動する。
〔工程3:励起光照射工程〕放射線照射判別装置112は、照射条件決定部112A1で、励起光の照射条件を決定し、決定した励起光の照射条件をパルス発生装置104に伝送する。そして、パルス発生装置104は、放射線照射判別装置112から伝送された励起光の照射条件に基づいてLED102cを起動する。そして、LED102cは食品101に対して励起光を照射する。
【0044】
〔工程4:光量計測工程〕フィルター102dは、励起光が照射された食品101から放出された発光を選択的に透過し、光電子増倍管102eは、フィルター102dが透過した発光の光子を検出する。
〔工程5:光量計測工程〕光電子増倍管102eは、検出した光子を増幅して電気信号(アナログ信号)に変換する。
〔工程6:光量計測工程〕フォトンカウンティングユニット108は、光電子増倍管102eから出力されたアナログ信号を所定の閾値を考慮してデジタル信号に変換する。そして、パルスカウンタ110は、フォトンカウンティングユニット108から出力されたデジタル信号に基づいて光量を経時的に(例えば0.1秒間隔で)計測し、計測した光量の値を、当該光量を計測した時刻(または、光量の計測を開始した時点から当該光量を計測した時点までの経過時間)と対応付けて放射線照射判別装置112へ伝送する。ここで、放射線が照射された食品とそうでない食品を対象として光量を経時的に計測した結果の一例を図4に示す。図4は、放射線が照射された食品とそうでない食品を対象として光量を経時的に計測した結果の一例を示す図である。図4に示すように、放射線が照射された食品の場合、計測した光量は、時間の経過と共に漸次、減衰している(図4の右のグラフ)。一方、放射線が照射されてない食品の場合、計測した光量は、時間が経過しても減衰せず、時間帯によっては僅かに増加する(図4の左のグラフ)。
【0045】
〔工程7:放射線照射判別工程〕放射線照射判別装置112は、制御部112Aで、パルスカウンタ110から伝送された光量の値および当該光量の計測時刻を相互に関連付けて記憶部112Bの所定の記憶領域に格納する。そして、放射線照射判別装置112は、放射線照射判別部112A2で、パルスカウンタ110から伝送された光量の値に基づいて当該光量の変化量および/または変化率を算出し、算出した変化量および/または変化率に基づいて食品101への放射線照射の有無を判別し、判別結果を記憶部112Bの所定の記憶領域に格納する。
【0046】
ここで、工程7において、放射線照射判別部112A2は、光量取得部112A21で、パルスカウンタ110から伝送された光量の値から、第1の時間帯(例えば計測初期や計測開始直後の時間帯)に計測した第1の光量(例えば5つの光量)および第2の時間帯(例えば計測末期や計測終了間際の時間帯)に計測した第2の光量(例えば5つの光量)を取得し、光量差基準判別部112A22で、光量取得部112A21で取得した第1の光量および第2の光量に基づいて当該第1の光量の平均値と当該第2の光量の平均値との差を算出し、算出した平均値の差に基づいて食品101への放射線照射の有無を判別してもよい。また、放射線照射判別部112A2は、回帰式作成部112A23で、パルスカウンタ110から伝送された光量の値に基づいて、光量と時間との関係を示す回帰式を作成し、回帰式基準判別部112A24で、回帰式作成部112A23で作成した回帰式に基づいて当該回帰式の傾きの値(回帰式の一次微分値)を算出し、算出した傾きの値に基づいて食品101への放射線照射の有無を判別してもよい。具体的には、算出した傾きの値が負であれば“照射”と判別し、算出した傾きの値が0または正であれば“非照射”と判別してもよい。
【0047】
以上説明したように、放射線照射判別システム100は、励起光を照射した食品101から放出された発光の光量を経時的に計測し、計測した光量の変化量に基づいて食品101への放射線照射の有無を判別する。具体的には、放射線照射判別システム100は、食品101に対して励起光を照射し、励起光を照射した食品101から放出された発光を、フィルター102dを介して光電子増倍管102eで検出し、検出した発光の光量を経時的に計測し、経時的に計測した光量に基づいて当該光量の変化量および/または変化率を算出し、算出した変化量および/または変化率に基づいて食品101への放射線照射の有無を判別する。より具体的には、パルス発生装置104で制御されたLED102cから食品101に対して励起光を照射し、励起光を照射した食品101から放出された発光を、フィルター102dを介して光電子増倍管102eで検出し、検出した発光の光量を、フォトンカウンティングユニット108を介してパルスカウンタ110で経時的に計測し、放射線照射判別装置112で、経時的に計測した光量に基づいて当該光量の変化量および/または変化率を算出し、算出した変化量および/または変化率に基づいて食品101への放射線照射の有無を判別する。
【0048】
これにより、実験者への作業負担を軽減し、食品101への放射線照射の有無を客観的に且つ精度よく判別することができる。具体的には、本システムでは、外的基準値を用いないので、食品101のバックグラウンド値や食品101の発光素体含有量に左右されずに、食品101への放射線照射の有無を客観的に且つ精度よく判別することができる。ここで、TL法では、食品そのものを用いることができないため食品から発光素体を分離精製する前処理が必要であるが、当該前処理には最低1日の時間を要し、さらに前処理は同時に1から数検体しか行うことができないため、検査時間の観点では必ずしも満足できるものではなかった。ところが、本システムは、食品101の前処理が不要であるので、光量の計測から放射線照射の有無の判別までの処理を迅速に行うことができ、その結果、検査時間を短縮することができる。また、TL法では、光電子増倍管を冷却する冷却装置や発光素体を加熱する加熱装置が必要であるため、実施に要する費用が高額になってしまう。ところが、本システムは、これら各装置が不要であるので、光量の計測から放射線照射の有無の判別までの処理を安価な装置構成で実現することができる。
【0049】
また、放射線照射の判別では、経時的に計測した光量から、第1の時間帯(例えば計測初期や計測開始直後の時間帯)に計測した第1の光量および第2の時間帯(例えば計測末期や計測終了間際の時間帯)に計測した第2の光量を取得し、取得した第1の光量および第2の光量に基づいて当該第1の光量の平均値と当該第2の光量の平均値との差を算出し、算出した平均値の差に基づいて食品101への放射線照射の有無を判別してもよい。これにより、容易な計算で、食品101への放射線照射の有無を客観的に且つ精度よく判別することができる。
【0050】
また、放射線照射の判別では、経時的に計測した光量に基づいて、光量と時間との関係を示す回帰式を作成し、作成した回帰式に基づいて当該回帰式の傾きの値を算出し、算出した傾きの値に基づいて食品101への放射線照射の有無を判別してもよい。これにより、放射線を照射した食品で確認された、光量が経時的に減衰するという現象を数学的に表すことで、食品101への放射線照射の有無を客観的に且つ精度よく判別することができる。
【0051】
また、励起光の照射において、食品101に対してLED102cで励起光を照射するので、励起光を照射する際のパルス間隔(発光時間間隔)の調整が容易である。
【実施例1】
【0052】
粉末青汁を検査対象として、上述した放射線照射判別システム100で光量を経時的に計測した結果について、図5を参照して説明する。
【0053】
まず、検査対象となる市販の粉末青汁に放射線が照射されてないことをTL法(EN 1788−2001)で確認した。そして、アルミホイルで遮光した状態で粉末青汁へ放射線を室温で照射した。なお、照射条件は、線源が都立産業技術研究所に在る185TBqコバルト60で、線量が0.49kGy〜30kGy、という条件である。照射してから1週間後の粉末青汁の光量を、上述した放射線照射判別システム100で経時的に計測した。計測結果を図5に示す。
【0054】
図5は、照射してから1週間後の粉末青汁の光量を放射線照射判別システム100で経時的に計測した際の計測結果を示す図である。図5に示すように、0.49kGyから30kGyの線量の放射線を照射した全ての粉末青汁において、光量が時間の経過と共に減衰した。一方、放射線を照射してない粉末青汁においては、光量が時間の経過と共に減衰することは無く、僅かに増加した。照射する放射線の線量が増加するにつれて、計測初期における光量も増加する傾向が認められた。ただし、照射する放射線の線量が5kGy以上になると、計測初期における光量の増加は飽和する傾向が認められた。
【0055】
以上、放射線照射判別システム100を用いて光量を経時的に計測した結果、0.49kGy以上の線量の放射線が照射された、照射してから1週間後の粉末青汁であれば、光量の変化量や変化率(具体的には減少量や減少率)に基づいて照射・非照射の判別が可能である。また、計測初期における光量は、照射する放射線の線量に依存する傾向が見られた。換言すると、計測初期における光量の線量依存性が確認された。ただし、照射する放射線の線量が5kGy以上になると、計測初期における光量は、照射する放射線の線量に依存しなくなる傾向が見られた。換言すると、照射する放射線の線量が5kGy以上になると、計測初期における光量の線量依存性が飽和傾向になる(弱まる)ことが確認された。
【実施例2】
【0056】
粉末青汁の他、乾燥ネギ、唐辛子(トウガラシ)を検査対象として、上述した放射線照射判別システム100で光量を経時的に計測した結果について、図6および図7を参照して説明する。
【0057】
まず、検査対象となる2種類の市販の粉末青汁(粉末青汁A、粉末青汁B)、市販の乾燥ネギ、市販のトウガラシのそれぞれに放射線が照射されてないことをTL法(EN 1788−2001)で確認した。なお、TL測定時に分離できた鉱物量は、粉末青汁Aが23mg/g、粉末青汁Bが1.3mg/g、トウガラシが0.07mg/g、乾燥ネギが0.008mg/gであった。そして、アルミホイルで遮光した状態で各検査対象へ放射線を室温で照射した。なお、照射条件は、線源が都立産業技術研究所に在る185TBqコバルト60で、線量が4.6kGy、という条件である。照射後の各検査対象は25℃の恒温槽で7日間保存した。照射してから7日後の各検査対象の光量を、上述した放射線照射判別システム100で経時的に計測した。計測結果を図6に示す。また、非照射の各検査対象の光量も、上述した放射線照射判別システム100で経時的に計測した。計測結果を図7に示す。
【0058】
図6は、照射してから7日後の各検査対象の光量を放射線照射判別システム100で経時的に計測した際の計測結果を示す図である。図7は、非照射の各検査対象の光量を放射線照射判別システム100で経時的に計測した際の計測結果を示す図である。図6に示すように、放射線を照射した全ての検査対象において、計測初期における光量はそれぞれ異なるものの、光量は時間の経過と共に減衰した。特に、粉末青汁Aにおいて、計測初期における光量が高かった。一方、図7に示すように、非照射の全ての検査対象においては、光量が時間の経過と共に減衰することは無く、僅かに増加した。非照射の検査対象においても、計測初期における光量はそれぞれ異なった。
【0059】
以上、放射線照射判別システム100を用いて光量を経時的に計測した結果、4.6kGyの線量の放射線が照射された、照射してから7日後の粉末青汁、乾燥ネギ、トウガラシであれば、光量の変化量や変化率(具体的には減少量や減少率)に基づいて照射・非照射の判別が可能である。このことから、放射線照射判別システム100を用いれば、多種類の乾燥粉末食品に対して照射・非照射の判別が可能であることが示唆された。なお、図6に示すように、粉末青汁Aと粉末青汁Bとの間で、計測初期の光量が著しく異なっていた。これは、それぞれに含まれる鉱物量の違いに因るものと考えられる。つまり、粉末青汁Aにおいて計測初期における光量が高かったのは、鉱物量が多かったためと推定される。
【実施例3】
【0060】
トウガラシを検査対象として、上述した放射線照射判別システム100で光量を経時的に計測した結果について、図8を参照して説明する。
【0061】
まず、検査対象となる市販のトウガラシに放射線が照射されてないことをTL法(EN 1788−2001)で確認した。そして、アルミホイルで遮光した状態でトウガラシへ放射線を室温で照射した。なお、照射条件は、線源が都立産業技術研究所に在る185TBqコバルト60で、線量が10kGy、という条件である。照射後のトウガラシを2群に分け、1つの群を25℃の恒温槽で7日間保存し、残りの群を25℃の恒温槽で170日間保存した。照射してから7日後のトウガラシの光量および照射してから170日後のトウガラシの光量を、上述した放射線照射判別システム100で経時的に計測した。計測結果を図8に示す。
【0062】
図8は、照射してから7日後のトウガラシおよび照射してから170日後のトウガラシの光量を放射線照射判別システム100で経時的に計測した際の計測結果を示す図である。図8に示すように、照射してから7日後のトウガラシおよび照射してから170日後のトウガラシにおいて、光量が時間の経過と共に減衰した。照射してから170日後のトウガラシの計測初期における光量は、照射してから7日後のトウガラシの計測初期における光量に比べて減少していた。
【0063】
以上、放射線照射判別システム100を用いて光量を経時的に計測した結果、10kGyの線量の放射線が照射された、照射してから170日後までのトウガラシであれば、光量の変化量や変化率(具体的には減少量や減少率)に基づいて照射・非照射の判別が可能である。また、図8に示すように、貯蔵期間の異なるトウガラシにおいて、計測初期の光量が異なっていた。これは、貯蔵期間(照射後の経過時間)の長さの違いに因るものであると考えられる。
【実施例4】
【0064】
アサリを検査対象として、上述した放射線照射判別システム100で光量を経時的に計測した結果について、図9を参照して説明する。
【0065】
まず、検査対象となる市販のアサリをポリエチレン遠心チューブに入れ、放射線を室温で照射した。なお、照射条件は、線源が都立産業技術研究所に在る185TBqコバルト60で、線量が0〜5.0kGy、という条件である。照射後のアサリは−18℃の冷凍庫で10日間保存し、10日後に、アサリから身を取り出して貝殻のみの状態にした。照射してから10日間後のアサリの貝殻(3個)の外側を、励起光が当るように上に向けて試料皿102bに置き、当該アサリの貝殻(外側)の光量を、上述した放射線照射判別システム100で経時的に計測した。計測結果を図9に示す。なお、計測結果は省略するが、アサリの貝殻(内側)の光量およびアサリの消化管内容物の光量についても、同様に、上述した放射線照射判別システム100で経時的に計測した。
【0066】
図9は、照射してから10日後のアサリの貝殻(外側)の光量を放射線照射判別システム100で経時的に計測した際の計測結果を示す図である。図9に示すように、0.49kGyから5.0kGyの線量の放射線を照射した全てのアサリの貝殻(外側)において、光量が時間の経過と共に減衰した。実施例1と同様に、照射する放射線の線量が増加するにつれて、計測初期における光量も増加する傾向が認められた。なお、アサリの貝殻(内側)およびアサリの消化管内容物を検査対象とした場合においても、アサリの貝殻(外側)を検査対象とした場合と同様の計測結果であった。一方、放射線を照射してないアサリの貝殻(外側)においては、光量が時間の経過と共に僅かに増加した。
【0067】
以上、放射線照射判別システム100を用いて光量を経時的に計測した結果、0.49kGy以上の線量の放射線が照射された、照射してから10日後のアサリの貝殻やアサリの消化管内容物であれば、光量の変化量や変化率(具体的には減少量や減少率)に基づいて照射・非照射の判別が可能である。本実施例の検査対象であるアサリの貝殻は、TL法では光量を計測できずTL法の検査対象外であったので、本発明の有用性は非常に高い。
【実施例5】
【0068】
馬鈴薯を検査対象として、上述した放射線照射判別システム100で光量を経時的に計測した結果について、図10を参照して説明する。
【0069】
まず、検査対象の市販の馬鈴薯へ放射線を室温で照射した。なお、照射条件は、線源が(独)食品総合研究所に在る54TBqコバルト60で、線量が150Gy(線量率12.4Gy/分)、という条件である。照射後の馬鈴薯を計測可能な適当な大きさに切り出し、土壌が付着している側(皮側)を、励起光が当るように上に向けて試料皿102bに置き、当該切り出した馬鈴薯の皮側の光量を、上述した放射線照射判別システム100で経時的に計測した。計測結果を図10に示す。
【0070】
図10は、照射後の馬鈴薯の皮側の光量を放射線照射判別システム100で経時的に計測した際の計測結果を示す図である。図10に示すように、150Gyの線量の放射線を照射した馬鈴薯の皮側において、光量が時間の経過と共に減衰した。一方、放射線を照射してない馬鈴薯の皮側においては、光量が時間の経過と共に減衰することは無く、僅かに増加した。
【0071】
以上、放射線照射判別システム100を用いて光量を経時的に計測した結果、150Gyの線量の放射線が照射された馬鈴薯の皮側(土壌が付着している側)であれば、光量の変化量や変化率(具体的には減少量や減少率)に基づいて照射・非照射の判別が可能である。このことから、土壌が付着した青果物であれば、照射する放射線の線量が少なくても、光量の変化量や変化率(具体的には減少量や減少率)に基づいて照射・非照射の判別が可能であると考えられる。
【実施例6】
【0072】
つぎに、生薬であるウコン、乾燥野菜である乾燥ネギと乾燥エシャロットおよび香辛料である乾燥ジンジャーを検査対象として、以下の(1)〜(3)の方法で放射線照射の有無をそれぞれ判別した。
【0073】
(1)TL法(EN 1788−2001)に従って、検査対象から分離した鉱物について、熱ルミネッセンスの測定を行い、TL比を算出した。“EN 1788−2001”に基づいて、TL比が0.1未満であれば“非照射”と判定し、TL比が0.1以上であれば“照射”と判定した。
(2)PSL法に従って、TL法で行う前処理を施していない検査対象について、発光量の積算値を算出した。PSL測定装置(パルスドPSLスクリーニングシステム:PPSL SURRC社製)を用いてPSL測定を実施した。具体的には、PSL測定装置に付属された試料皿に検査対象を置き、当該試料皿をPSL測定装置に設置した。そして、PSL測定装置に付属された光源で検査対象を照射しながら、1秒間隔で60秒間、発光量を計測し、その積算値を算出した。Sandersonらが、香辛料、乾燥野菜を対象としたときに採用した、照射の有無を判別する際の閾値である“T1(700カウント/分)”および“T2(5000カウント/分)”(EN 13751−2002)を基準として、検査対象の1分あたりのカウント数(発光カウント数)がT1未満であれば“非照射”と判定し、検査対象の1分あたりのカウント数(発光カウント数)がT2以上であれば“照射”と判定した。さらに、検査対象の1分あたりのカウント数(発光カウント数)がT1以上T2未満であれば“中間(Intermediate:照射の可能性は排除できないが明確な判定ができない領域(“照射”、“非照射”の区別が明確につけられない領域))”と判定した。
(3)本発明にかかる放射線照射判別システム100を用いて、検査対象の光量を経時的に計測し、計測した光量に基づいて、対数回帰を用いた回帰式“y=a×Ln(x)+b”(x:計測開始からの経過時間(秒)、y:光量(発光カウント))を作成した。当該回帰式の係数“a”が0または正であれば“非照射”と判別し、当該回帰式の係数“a”が負であれば“照射”と判別した。
【0074】
3つの方法を実施した際の計測結果および判定(判別)結果について図11に示す。図11は、3つの方法を実施した際の計測結果および判定(判別)結果を示す図である。図11に示すように、TL法では全ての検査対象を“非照射”と判定した。また、本発明にかかる放射線照射判別システム100でも、判定精度が高いとされるTL法と同様、全ての検査対象を“非照射”と判定した。一方、PSL法を採用したPSL測定装置では、エシャロットとジンジャーを“中間(I)”と判定した。
【0075】
PSL測定装置を用いた場合、非照射の検査対象であっても、“中間(I)”と判定されることが示された。この原因は、その色の違いなどに起因する照射光の反射やノイズの影響に因り、発光カウントがかなり広い範囲となったこと、であると考えられる。なお、ノイズの影響とは、例えば、各測定ポイントの発光量を積算しているため、1つの測定ポイントで大きなノイズが入ると、積算カウントが大きくなってしまうことである。PSL測定装置における検査対象の種類を細分化し、細分化した検査対象ごとに閾値を最適化することで、判定精度が向上する可能性は考えられる。しかし、実際の現場での対応を考えると、多くの種類の検査対象ごとに閾値を最適化することは困難であると思われる。一方、本発明にかかる放射線照射判別システム100は、回帰式の係数“a”の符号に基づいて、閾値のような外的標準値を用いなくても、放射線照射の有無の判別を明確に行うことができた。
【実施例7】
【0076】
パプリカ、パセリを検査対象として、実施例6で用いたPSL測定装置および本発明にかかる放射線照射判別システム100で放射線照射の有無をそれぞれ判別した。
【0077】
まず、2004年10月17日に、検査対象の市販のパプリカおよびパセリへ放射線を室温で照射した。なお、照射条件は、線源が(独)食品総合研究所に在る54TBqコバルト60で、線量が5.0kGyおよび10kGy(線量率12.4Gy/分)、という条件である。照射後のパプリカおよびパセリは6ヶ月間貯蔵した。照射してから6ヶ月後(2005年4月28日)に、実施例6で用いたPSL測定装置および本発明にかかる放射線照射判別システム100で、照射後のパプリカおよびパセリの光量の計測を行った。計測結果を図12および図13に示す。なお、PSL測定装置における判定基準および放射線照射判別システム100における判別方法は実施例6と同様である。
【0078】
図12は、照射してから6ヵ月後のパプリカの光量を放射線照射判別システム100で経時的に計測した際の計測結果を示す図である。図13は、照射してから6ヵ月後のパセリの光量を放射線照射判別システム100で経時的に計測した際の計測結果を示す図である。図12に示すように、5.0kGyの線量の放射線を照射したパプリカおよび10kGyの線量の放射線を照射したパプリカにおいて、光量が時間の経過と共に減衰した。一方、放射線を照射してないパプリカにおいては、光量の減衰は見られなかった。また、図13に示すように、5.0kGyの線量の放射線を照射したパセリおよび10kGyの線量の放射線を照射したパセリにおいて、光量が時間の経過と共に減衰した。一方、放射線を照射してないパセリにおいては、光量の減衰は見られなかった。
【0079】
PSL測定装置および放射線照射判別システム100を実施した際の計測結果および判定(判別)結果について図14に示す。図14は、PSL測定装置および放射線照射判別システム100を実施した際の計測結果および判定(判別)結果を示す図である。図14に示すように、PSL測定装置では、10kGyの線量の放射線が照射されたパプリカおよびパセリを“中間(I)”と判定した。また、5kGyの線量の放射線が照射されたパセリも“中間(I)”と判定した。なお、この原因は、実施例6でも述べたように、採用している閾値にあると考えられる。一方、本発明にかかる放射線照射判別システム100では、放射線を照射した検査対象を“照射”と判別し、放射線を照射してない検査対象を“非照射”と判別した。本システムでは、積算値の大小を判定基準に用いてないので、検査対象への放射線照射の有無を精度よく判別することができた。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上のように、本発明にかかる放射線照射判別方法および放射線照射判別システムは、食品や生薬などへの放射線照射の有無を判別することができ、行政、監視当局、食品メーカー、流通業者などにおける食品の流通管理に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】放射線照射判別システム100の全体構成の一例を示す図である。
【図2】OSL検出ユニット102の構成の一例を示す図である。
【図3】放射線照射判別システム100を用いて食品101への放射線照射の有無を判別する工程の一例を示す図である。
【図4】放射線が照射された食品とそうでない食品を対象として光量を経時的に計測した結果の一例を示す図である。
【図5】照射してから1週間後の粉末青汁の光量を放射線照射判別システム100で経時的に計測した際の計測結果を示す図である。
【図6】照射してから7日後の各検査対象の光量を放射線照射判別システム100で経時的に計測した際の計測結果を示す図である。
【図7】非照射の各検査対象の光量を放射線照射判別システム100で経時的に計測した際の計測結果を示す図である。
【図8】照射してから7日後のトウガラシおよび照射してから170日後のトウガラシの光量を放射線照射判別システム100で経時的に計測した際の計測結果を示す図である。
【図9】照射してから10日後のアサリの貝殻(外側)の光量を放射線照射判別システム100で経時的に計測した際の計測結果を示す図である。
【図10】照射後の馬鈴薯の皮側の光量を放射線照射判別システム100で経時的に計測した際の計測結果を示す図である。
【図11】3つの方法を実施した際の計測結果および判定(判別)結果を示す図である。
【図12】照射してから6ヵ月後のパプリカの光量を放射線照射判別システム100で経時的に計測した際の計測結果を示す図である。
【図13】照射してから6ヵ月後のパセリの光量を放射線照射判別システム100で経時的に計測した際の計測結果を示す図である。
【図14】PSL測定装置および放射線照射判別システム100を実施した際の計測結果および判定(判別)結果を示す図である。
【符号の説明】
【0082】
100 放射線照射判別システム
101 食品
102 OSL検出ユニット
102a 暗箱
102b 試料皿
102c LED
102d フィルター
102e 光電子増倍管
104 パルス発生装置
106 高圧電源
108 フォトンカウンティングユニット
110 パルスカウンタ
112 放射線照射判別装置
112A 制御部
112A1 照射条件決定部
112A2 放射線照射判別部
112A21 光量取得部
112A22 光量差基準判別部
112A23 回帰式作成部
112A24 回帰式基準判別部
112B 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料への放射線照射の有無を判別する放射線照射判別方法において、
励起光を照射した試料から放出された光の光量を経時的に計測し、計測した光量の変化量および/または変化率に基づいて試料への放射線照射の有無を判別すること
を特徴とする放射線照射判別方法。
【請求項2】
試料への放射線照射の有無を判別する放射線照射判別方法において、
試料に対して励起光を照射する励起光照射工程と、
前記励起光照射工程で励起光を照射した試料から放出された光を、当該光を選択的に透過するフィルターを介して光電子増倍管で検出し、検出した光の光量を経時的に計測する光量計測工程と、
前記光量計測工程で経時的に計測した光量に基づいて当該光量の変化量および/または変化率を算出し、算出した変化量および/または変化率に基づいて試料への放射線照射の有無を判別する放射線照射判別工程と、
を含むことを特徴とする放射線照射判別方法。
【請求項3】
前記放射線照射判別工程は、
前記光量計測工程で経時的に計測した光量から、第1の時間帯に計測した第1の光量および第2の時間帯に計測した第2の光量を取得する光量取得工程と、
前記光量取得工程で取得した第1の光量および第2の光量に基づいて当該第1の光量の平均値と当該第2の光量の平均値との差を算出し、算出した平均値の差に基づいて試料への放射線照射の有無を判別する光量差基準判別工程と、
をさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の放射線照射判別方法。
【請求項4】
前記放射線照射判別工程は、
前記光量計測工程で経時的に計測した光量に基づいて、光量と時間との関係を示す回帰式を作成する回帰式作成工程と、
前記回帰式作成工程で作成した回帰式に基づいて当該回帰式の傾きの値を算出し、算出した傾きの値に基づいて試料への放射線照射の有無を判別する回帰式基準判別工程と、
をさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の放射線照射判別方法。
【請求項5】
前記励起光照射工程は、試料に対してLEDで励起光を照射すること
を特徴とする請求項2から4のいずれか1つに記載の放射線照射判別方法。
【請求項6】
試料への放射線照射の有無を判別する放射線照射判別システムにおいて、
試料に対して励起光を照射する励起光照射手段と、
前記励起光照射手段で励起光を照射した試料から放出された光を、当該光を選択的に透過するフィルターを介して光電子増倍管で検出し、検出した光の光量を経時的に計測する光量計測手段と、
前記光量計測手段で経時的に計測した光量に基づいて当該光量の変化量および/または変化率を算出し、算出した変化量および/または変化率に基づいて試料への放射線照射の有無を判別する放射線照射判別手段と、
を備えたことを特徴とする放射線照射判別システム。
【請求項7】
前記放射線照射判別手段は、
前記光量計測手段で経時的に計測した光量から、第1の時間帯に計測した第1の光量および第2の時間帯に計測した第2の光量を取得する光量取得手段と、
前記光量取得手段で取得した第1の光量および第2の光量に基づいて当該第1の光量の平均値と当該第2の光量の平均値との差を算出し、算出した平均値の差に基づいて試料への放射線照射の有無を判別する光量差基準判別手段と、
をさらに備えたことを特徴とする請求項6に記載の放射線照射判別システム。
【請求項8】
前記放射線照射判別手段は、
前記光量計測手段で経時的に計測した光量に基づいて、光量と時間との関係を示す回帰式を作成する回帰式作成手段と、
前記回帰式作成手段で作成した回帰式に基づいて当該回帰式の傾きの値を算出し、算出した傾きの値に基づいて試料への放射線照射の有無を判別する回帰式基準判別手段と、
をさらに備えたことを特徴とする請求項6に記載の放射線照射判別システム。
【請求項9】
前記励起光照射手段は、試料に対してLEDで励起光を照射すること
を特徴とする請求項6から8のいずれか1つに記載の放射線照射判別システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2007−47132(P2007−47132A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−234849(P2005−234849)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(506209422)地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター (134)
【出願人】(391017528)日本放射線エンジニアリング株式会社 (4)
【Fターム(参考)】