説明

放射線用シンチレータプレートの製造方法及び放射線用シンチレータプレート

【課題】発光効率の更なる向上を図ることができる放射線用シンチレータプレート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】CsIと、融点の異なる複数の賦活剤化合物を含み、蒸着により蛍光体膜を形成するシンチレータプレートにおいて、前記複数の賦活剤化合物の少なくとも一つは、前記CsIの融点に対し前後50℃以内の範囲に融点を持つことを特徴とする放射線用シンチレータプレート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨウ化セシウムを主成分とする放射線用シンチレータプレートの製造方法とその製造方法で製造された放射線用シンチレータプレートとに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、X線画像のような放射線画像は医療現場において病状の診断に広く用いられている。特に、増感紙−フィルム系による放射線画像は、長い歴史のなかで高感度化と高画質化が図られた結果、高い信頼性と優れたコストパフォーマンスを併せ持った撮像システムとして、いまなお、世界中の医療現場で用いられている。しかしながらこれら画像情報はいわゆるアナログ画像情報であって、自由な画像処理や瞬時の画像転送を行うことができないものであった。
【0003】
その後、デジタル方式の放射線画像検出装置として、コンピューテッドラジオグラフィ(CR)が登場している。CRでは、デジタルの放射線画像が直接得られ、陰極管や液晶パネル等の画像表示装置に画像を直接表示することが可能なことから、写真フィルム上への画像形成が不要となり、アナログの銀塩写真方式による画像形成に比べ、病院や診療所での診断作業の利便性を大幅に向上させている。
【0004】
CRは、主に医療現場で受け入れられており、輝尽性蛍光体プレートを用いてX線画像を得ている。ここで、「輝尽性蛍光体プレート」というのは、被写体を透過した放射線を蓄積して、赤外線などの電磁波(励起光)の照射で時系列的に励起させることにより、蓄積された放射線をその線量に応じた強度で輝尽発光として放出するものであり、所定の基板上に輝尽性蛍光体が層状に形成された構成を有している。
【0005】
しかしながら、この輝尽性蛍光体プレートでは、SN比や鮮鋭性が十分でなく、空間分解能も不十分であり、スクリーン・フィルムシステムの画質レベルには到達していない。
そこで、さらに新たなデジタルX線画像技術として、例えば、雑誌Physics Today、1997年11月号24頁のジョン・ローランズ論文"Amorphous Semiconductor Usher in Digital X−ray Imaging"や、雑誌SPIEの1997年32巻2頁のLavvy E.Antonukの論文"Development of A High Resolution、 Active Matrix、Flat−Panel Imager with Enhanced Fill Factor"などに記載された、薄膜トランジスタ(TFT)を用いた平板X線検出装置(FPD:Flat Panel Detecter)が登場している。このFPDにおいては放射線画像をデジタル情報として取得して自由に画像処理をおこなったり、瞬時に画像情報を伝送したりすることが可能となっている。
【0006】
また、FPDでは、CRに比べ、装置の小型化が可能である点や、動画表示が可能である点において優れているという特徴がある。しかしながら、CRと同様、スクリーン・フィルムシステムの画質レベルには到達しておらず、高画質に対する要望が近年益々高まっていた。
【0007】
ここで、FPDでは、放射線を可視光に変換するために発光する特性を有するX線蛍光体で作られたシンチレータプレートを使用しているが、TFTや該TFTを駆動する回路等にて発生する電気ノイズが大きいために、低線量撮影において、SN比が低下し、画質レベルを十分にするだけの発光効率を確保することができないものであった。
【0008】
一般に、シンチレータプレートの発光効率は、蛍光体層の厚さ、蛍光体のX線吸収係数によって決まるが、蛍光体層の厚さを厚くすればするほど、蛍光体層内での発光光の散乱が生じ、鮮鋭性が低下する。そのため、画質に必要な鮮鋭性を決めると、膜厚も自ずと決定される。
【0009】
そこで、今日では、蛍光体層の厚さを十分に確保した状態で鮮鋭性の低下を抑えられる材料の改良が進められており、その一改良結果物としてヨウ化セシウムが用いられている。当該ヨウ化セシウムは、放射線から可視光への変換率が比較的高く、蒸着によって容易に柱状結晶構造を形成し得るため、蛍光体層の厚さが厚くなっても、光ガイド効果により結晶内での発光光の散乱を抑えることができるものである。
【0010】
ここで、蛍光体層の形成に際し、CsIの単独使用では、発光効率が低いために各種の賦活剤が用いられる。賦活剤の濃度は、ベースとなるCsIに対して0.01mol%以上とすることで発光効率が上昇することが知られている。
【0011】
例えば、特許文献1では、CsIとヨウ化ナトリウム(NaI)を任意のモル比で混合したものを蒸着により基板上にナトリウム付活ヨウ化セシウム(CsI:Na)として堆積させ、後工程としてアニールを行うことで可視変換効率を向上させ、X線蛍光体として使用する技術が開示されている。
【0012】
また、最近では、例えば特許文献2のように、CsIを蒸着で、インジウム(In)、タリウム(Tl)、リチウム(Li)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、ナトリウム(Na)等の付活物質をスパッタで形成するX線蛍光体を作製する技術が開示されている。
【0013】
しかしながら、特許文献1に記載の方法や、特許文献2に記載の方法によりX線蛍光体を作製する技術をもってしても放射線照射による発光効率は未だ低いものであった。特に、特許文献2では、CsIへの賦活剤に関して記載されているものの、該賦活剤の融点に着目したものではなく、放射線照射による発光効率においては、更なる改良が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特公昭54−35060号公報
【特許文献2】特開2001−59899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、発光効率の更なる向上を図ることができる放射線用シンチレータプレートおよびその製造方法を、提供することである。
上記目的を達成するための本発明の態様の一つは、CsIに対して、融点の異なる複数の賦活剤をそれぞれ0.01mol%以上含んでなる原材料を供給源として、蒸着により基板上に蛍光体膜を形成したことを特徴とするシンチレータプレートにある。
【0016】
また、上記目的を達成するための本発明の別の態様の一つは、ヨウ化セシウムと賦活剤化合物とを含む混合物を350〜620℃で1時間以上加熱する加熱工程と、前記加熱工程の後に、前記混合物を基板上に蒸着して前記基板上に蛍光体層を形成する蒸着工程と、を有することを特徴とする放射線用シンチレータプレートの製造方法にある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の上記目的は以下の構成により達成される。
(1)CsIと、融点の異なる複数の賦活剤化合物を含み、蒸着により蛍光体膜を形成するシンチレータプレートにおいて、前記複数の賦活剤化合物の少なくとも一つは、前記CsIの融点に対し前後50℃以内の範囲に融点を持つことを特徴とする放射線用シンチレータプレート。
(2)前記複数の賦活剤化合物は、100℃以上離れている融点をもつ賦活剤化合物を含むことを特徴とする(1)に記載の放射線用シンチレータプレート。
(3)ヨウ化セシウムと賦活剤化合物とを含む混合物を、含まれている複数の賦活剤化合物の最低融点以上、最高融点以下で加熱する加熱工程と、前記加熱工程の後に、前記混合物を基板上に蒸着して前記基板上に蛍光体層を形成する蒸着工程と、を有することを特徴とする放射線用シンチレータプレートの製造方法。
【0018】
(4)CsIに対して、融点の異なる複数の賦活剤化合物をそれぞれ0.01mol%以上含んでなる原材料を供給源として、蒸着により基板上に蛍光体膜を形成したことを特徴とする放射線用シンチレータプレート。
(5)前記複数の賦活剤化合物は、前記CsIの融点に対し前後50℃以内の範囲に融点をもつ第1の賦活剤化合物を少なくとも含むことを特徴とする前記(4)に記載の放射線用シンチレータプレート。
(6)前記第1の賦活剤化合物は、ヨウ化銅、ヨウ化ユーロピウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化ルビジウム、ヨウ化マンガンのうち、少なくともいずれか一種類を含むことを特徴とする前記(5)に記載の放射線用シンチレータプレート。
(7)前記複数の賦活剤化合物は、前記第1の賦活剤化合物がもつ融点と100℃以上離れている融点をもつ第2の賦活剤化合物を含むことを特徴とする前記(5)又(6)に記載の放射線用シンチレータプレート。
【0019】
(8)前記第2の賦活剤化合物がヨウ化タリウムであることを特徴とする前記(7)に記載の放射線用シンチレータプレート。
(9)ヨウ化セシウムと賦活剤化合物とを含む混合物を350〜620℃で1時間以上加熱する加熱工程と、
前記加熱工程の後に、前記混合物を基板上に蒸着して前記基板上に蛍光体層を形成する蒸着工程と、
を有することを特徴とする放射線用シンチレータプレートの製造方法。
(10) 前記(9)に記載の放射線用シンチレータプレートの製造方法において、
前記賦活剤化合物が、インジウム、タリウム、リチウム、カリウム、ルビジウム、ナトリウム、ユーロピウムのうち、いずれか一の元素又は2以上の元素を含む化合物であることを特徴とする放射線用シンチレータプレートの製造方法。
(11)前記(9)又は(10)に記載の放射線用シンチレータプレートの製造方法において
前記賦活剤化合物が、ヨウ化タリウム又は臭化タリウムであることを特徴とする放射線用シンチレータプレートの製造方法。
【0020】
(12)前記(11)に記載の放射線用シンチレータプレートの製造方法において、
前記ヨウ化タリウムの前記ヨウ化セシウムに対する混合比が0.01〜10mol%であることを特徴とする放射線用シンチレータプレートの製造方法。
(13)前記(9)〜(12)のいずれか一項に記載の放射線用シンチレータプレートの製造方法において、
前記蛍光体層が柱状結晶体の集合体であることを特徴とする放射線用シンチレータプレートの製造方法。
(14)前記(9)〜(13)のいずれか一項に記載の放射線用シンチレータプレートの製造方法において、
前記混合物を蒸着装置の被充填部材に充填して前記加熱工程の処理を実行し、
前記加熱工程の処理に引き続いて前記混合物を前記被充填部材に充填したまま前記蒸着工程の処理を実行することを特徴とする放射線用シンチレータプレートの製造方法。
(15)前記(9)〜(14)のいずれか一項に記載の放射線用シンチレータプレートの製造方法において、
前記加熱工程の処理を0.1Pa以下の真空雰囲気下、不活性ガス雰囲気下又は還元ガス雰囲気下で実行することを特徴とする放射線用シンチレータプレートの製造方法。
(16)前記(9)〜(15)のいずれか一項に記載の放射線用シンチレータプレートの製造方法に従って製造されていることを特徴とする放射線用シンチレータプレート。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、蒸着工程において形成される蛍光体層の結晶の内部がより高く透明化し、蛍光体層の発光効率を今まで以上に更に向上させることができる(下記実施例参照)。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】放射線用シンチレータプレート10の概略構成を示す断面図である。
【図2】放射線用シンチレータプレート10の拡大断面図である。
【図3】蒸着装置61の概略構成を示す図面である。
【図4】放射線画像検出器100の概略構成を示す一部破断斜視図である。
【図5】撮像パネル51の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための最良の形態について説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲は以下の実施形態及び図示例に限定されるものではない。
【0024】
始めに、図1を参照しながら、本発明に係る放射線用シンチレータプレート10の構成について説明する。
図1に示す通り、放射線用シンチレータプレート10は、基板1上に蛍光体層2が形成された構成を有しており、蛍光体層2に放射線が照射された場合に、当該蛍光体層2が入射した放射線のエネルギーを吸収して、波長300〜800nmの電磁波、すなわち、可視光線を中心にした紫外光から赤外光にわたる電磁波(光)を発光するようになっている。
【0025】
基板1はX線等の放射線を透過させることが可能なものであり、樹脂やガラス基板、金属板等から構成されている。基板1の耐性の向上や軽量化といった観点からすれば、基板1としては、1mm以下のアルミ板や炭素繊維強化樹脂シートを始めとする樹脂を用いるのが好ましい。
また、蛍光体層2としては、Csをベースとして結晶が形成されたものであり、CsIが好適である。
【0026】
本発明の態様の一つにおいては、蛍光体層2には、融点の異なる複数の賦活剤が含まれている。これら複数の賦活剤は、ベースとなるCsIに対し、0.01mol%以上含んでいればよい。ここで、CsIに対し、賦活剤が0.01mol%未満であると、CsI単独使用で得られる発光輝度と大差なく、目的とする発光輝度を得ることができない。なお、前述のように規定された賦活剤の含有割合は、蛍光体層2を形成する際の材料における割合を指している。本発明においては、蛍光体層2は、後述するように蒸着により形成されるため、蛍光体層2を形成する際の材料とは、蒸着する際の供給源(蒸着源)となる原材料を指している。
【0027】
また、蛍光体層2に含有される複数の賦活剤の条件としては、当該複数の賦活剤のうち、少なくとも一種類の賦活剤の融点が、CsIの融点(621℃)から前後50℃以内にある第1の賦活剤であることが好ましい。蛍光体層2を構成する第1の賦活剤の具体例としては、ヨウ化銅(605℃)、ヨウ化ユーロピウム(580℃)、ヨウ化ナトリウム(651℃)、ヨウ化ルビジウム(642℃)、ヨウ化マンガン(613℃)が挙げられる。第1の賦活剤の好ましい添加量は0.01mol%〜10mol%であり、より好ましくは0.1mol%〜3.0mol%である。
【0028】
さらに、複数の賦活剤の条件としては、第1の賦活剤との融点の差が少なくとも100℃ 以上離れている第2の賦活剤が含まれていることが好ましい。第2の賦活剤としては、ヨウ化タリウム(441℃)が挙げられる。第2の賦活剤の好ましい添加量は0.01mol%〜10mol%であり、より好ましくは0.1mol%〜3.0mol%である。なお、本発明での融点とは、常圧下における融点である。
【0029】
以下、基板1上に蛍光体層2を形成させる方法について説明する。
蛍光体層2は、蒸着法により形成される。
蒸着法は基板1を概知の蒸着装置内に設置するとともに、蒸着源に前述のように規定された付活剤を含む蛍光体層2の原材料を充填したのち、装置内を排気すると同時に窒素等の不活性なガスを導入口から導入して1.333Pa〜1.33×10-3Pa程度の真空とし、次いで、蛍光体の少なくとも1つを抵抗加熱法、エレクトロンビーム法などの方法で加熱蒸発させて基板1表面に蛍光体を所望の厚みに堆積させ、基板1上に蛍光体層2が形成される。なお、この蒸着工程を複数回に分けて行い、蛍光体層2を形成することも可能である。
【0030】
例えば、同一構成の蒸着源を複数用意し、一つの蒸着源による蒸着が終了したら、次の蒸着源による蒸着を開始し、所望の厚さの蛍光体層2になるまで、これを繰り返し行う。1つの蒸着源により基板1上に蛍光体層2を形成した場合、蒸着源に含まれる原材料のうち、融点が低いものから順に基板1上に付着し、蛍光体層2の最表面は最も融点が高いものの割合が多くなる層構成となるため、前述の操作を繰り返し行うことにより、蛍光体層2、つまり蛍光体膜では、複数の賦活剤が含まれると共に、これら複数の賦活剤の融点が異なるものであっても、基板1上に形成される蛍光体膜中における発光量の分布をより均一にすることが可能となる。
【0031】
なお、蒸着時は、必要に応じて基板1を冷却或いは加熱してもよい。また、蒸着終了後、基板1ごと蛍光体層2を加熱処理してもよい。
なお、蒸着装置については後述する。
【0032】
次に、放射線用シンチレータプレート10の作用について説明する。
放射線用シンチレータプレート10に対し、蛍光体層2側から基板1側に向けて放射線を入射すると、蛍光体層2に入射された放射線は、蛍光体層2中の蛍光体粒子に放射線のエネルギーが吸収され、蛍光体層2からその強度に応じた電磁波(光)が発光される。
【0033】
このとき、基板1上に形成される蛍光体膜には、複数の賦活剤が含まれており、各賦活剤固有の特性を発揮している。また、同時に、蛍光体層2を構成する各柱状結晶均一に形成されているおり、蛍光体膜中における発光量の分布が均一になっている。その結果、蛍光体層2では、瞬時発光の発光効率を向上させ、放射線用シンチレータプレート10の放射線に対する感度を大きく改善させることができる。
【0034】
以上のように、本発明に係る放射線用シンチレータプレート10では、放射線が照射された際に、蛍光体層2の発光効率を飛躍的に向上させて発光輝度を向上させることができる。これより、得られる放射線画像における低線量撮影時のSN比を向上させることもできる。
【0035】
また、本発明の別の態様においては、蛍光体層2はヨウ化セシウムを主成分とするもので、詳しくはヨウ化セシウムと賦活剤化合物とを含む混合物を350〜620℃で1時間以上加熱してその混合物を基板1に蒸着して形成されたものである。図2に示す通り、蛍光体層2は無数の柱状結晶体2aから構成されており、これら各柱状結晶体2aが集合体として基板1上に形成されている。
【0036】
蛍光体層2を原材料となる上記混合物においては、賦活剤化合物としてヨウ化タリウムが適用されており、当該ヨウ化タリウムのヨウ化セシウムに対する混合比が0.01〜10mol%、好ましくは0.01〜3.0mol%となっている。
【0037】
上記混合物における賦活剤化合物は、蛍光体層2がヨウ化セシウムを主成分とするものであれば、公知のいかなる化合物であってもよく、蛍光体層2の発光波長や耐湿性等の要求特性に合わせて任意に選択することができる。その一例として、上記ヨウ化タリウムに代えて、臭化タリウムを適用してもよいし、インジウム、タリウム、リチウム、カリウム、ルビジウム、ナトリウム、ユーロピウム、銅、セリウム、亜鉛、チタン、ガドリニウム、テルビウムのうちいずれか一の元素又は2以上の元素を含む化合物を適用してもよい。
【0038】
次に、図3を参照しながら、上記放射線用シンチレータプレート10を製造する際に用いる蒸着装置61について説明する。
図3に示す通り、蒸着装置61は箱状の真空容器62を有しており、真空容器62の内部には真空蒸着用のボート63が配されている。ボート63は蒸着源の被充填部材であり、当該ボート63には電極が接続されている。当該電極を通じてボート63に電流が流れると、ボート63がジュール熱で発熱するようになっている。放射線用シンチレータプレート10の製造時においては、ヨウ化セシウムと賦活剤化合物とを含む混合物がボート63に充填され、そのボート63に電流が流れることで、上記混合物を加熱・蒸発させることができるようになっている。
【0039】
なお、被充填部材として、ヒータを巻回したアルミナ製のるつぼを適用してもよいし、高融点金属製のヒータを適用してもよい。
真空容器62の内部であってボート63の直上には基板1を保持するホルダ64が配されている。ホルダ64にはヒータ(図示略)が配されていてもよく、当該ヒータを作動させることでホルダ64に装着した基板1を加熱することができるようになっている。基板1を加熱した場合には、基板1の表面の吸着物を離脱・除去したり、基板1とその表面に形成される蛍光体層2との間に不純物層が形成されるのを防止したり、基板1とその表面に形成される蛍光体層2との密着性を強化したり、基板1の表面に形成される蛍光体層2の膜質の調整をおこなったりすることもできる。
【0040】
ホルダ64には当該ホルダ64を回転させる回転機構65が配されている。回転機構65は、ホルダ64に接続された回転軸65aとその駆動源となるモータ(図示略)から構成されたもので、当該モータを駆動させると、回転軸65aが回転してホルダ64をボート63に対向させた状態で回転させることができるようになっている。また、ボート63と、基板1との間には、必要に応じて抵抗加熱ボート63から蒸発する蛍光体の蒸気流を調節するためのスリットが設けられていても良い。
【0041】
蒸着装置61では、上記構成の他に、真空容器62に真空ポンプ66が配されている。真空ポンプ66は、真空容器62の内部の排気と真空容器62の内部へのガスの導入とをおこなうもので、当該真空ポンプ66を作動させることにより、真空容器62の内部を一定圧力のガス雰囲気下に維持することができるようになっている。
【0042】
次に、本発明に係る放射線用シンチレータプレート10の製造方法について説明する。
当該放射線用シンチレータプレート10の製造方法においては、上記で説明した蒸発装置61を好適に用いることができる。下記では、蒸発装置61を用いて放射線用シンチレータプレート10を製造する方法について説明する。
【0043】
始めに、ホルダ64に基板1を取り付けるとともに、ボート63にヨウ化セシウムとヨウ化タリウムとを含む粉末状の混合物を充填する(準備工程)。この場合、ボート63と基板1との間隔を100〜1500mmに設定し、その設定値の範囲内のままで後述の蒸着工程の処理をおこなうのが好ましい。
【0044】
準備工程の処理を終えたら、真空ポンプ66を作動させて真空容器62の内部を排気し、真空容器62の内部を0.1Pa以下の真空雰囲気下にする(真空雰囲気形成工程)。ここでいう「真空雰囲気下」とは、100Pa以下の圧力雰囲気下のことを意味し、0.1Pa以下の圧力雰囲気下であるのが好適である。
【0045】
真空雰囲気形成工程の処理を終えたら、真空容器62の内部を0.1Pa以下の真空雰囲気下に維持しながら、ボート63に電極から電流を流し、ヨウ化セシウムとヨウ化タリウムとを含む混合物を350〜620℃で1時間以上加熱する(加熱工程)。なお、ヨウ化セシウムの融点が621℃でヨウ化タリウムの融点が441℃であるため、加熱工程中の加熱温度は441〜621℃の範囲内で設定するのが好適である。
【0046】
加熱工程の処理を終えたら、ヨウ化セシウムとヨウ化タリウムとを含む混合物をボート63に充填したまま、真空容器62の内部を再度排気してアルゴン等の不活性ガスを真空容器62の内部に導入し、当該真空容器62の内部を0.1Pa以下の真空雰囲気下に維持する。その後、ホルダ64のヒータと回転機構65のモータとを駆動させ、ホルダ64に取付け済みの基板1をボート63に対向させた状態で加熱しながら回転させる。
【0047】
この状態において、電極からボート63に電流を流し、ヨウ化セシウムとヨウ化タリウムとを含む混合物を700℃程度で所定時間加熱してその混合物を蒸発させる。その結果、基板1の表面に無数の柱状結晶体2aが順次成長して所望の厚さの蛍光体層2が形成される(蒸着工程)。これにより、本発明に係る放射線用シンチレータプレート10を製造することができる。
【0048】
以上の放射線用シンチレータプレート10の製造方法によれば、蒸着工程前の加熱工程においてヨウ化セシウムとヨウ化タリウムとを含む混合物を所定の条件で加熱するため、蒸着工程において形成される蛍光体層2の各柱状結晶体2aの内部がより高く透明化し、当該蛍光体層2の光ガイド効果が高まる。そのため、蛍光体層2の発光効率を今まで以上に更に向上させることができる(下記実施例参照)。
【0049】
更に、加熱工程後に、その加熱工程の処理の用に供した同一の蒸着装置61で蒸着工程の処理をおこなうため、加熱工程から蒸着工程にかけてヨウ化セシウムとヨウ化タリウムとを含む混合物が外気に触れることはなく、蒸着源となるその混合物に水分が付着するのを防止することができる。そのため、蛍光体層2の白濁を防止して当該蛍光体層2の発光効率を確実に向上させることができる。
なお、上記記載事項においては、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々の改良及び設計変更をおこなってもよい。
【0050】
一の改良・設計変更事項として、上記加熱工程及び蒸着工程では抵抗加熱法による処理としたが、当該各工程の処理は電子ビームによる処理であってもよいし、高周波誘導による処理でもよい。本実施形態では、比較的簡単な構成で取り扱いが容易、安価、かつ、非常に多くの物質に適用可能である点から、上記の通り、抵抗加熱法による加熱処理を適用するのが好ましい。抵抗加熱法による加熱処理を実行すると、同一のボート63において、ヨウ化セシウムとヨウ化タリウムとの混合物の加熱処理と蒸着処理という両処理を両立することができる。
【0051】
他の改良・設計変更事項として、真空雰囲気形成工程では、アルゴン、窒素等の不活性ガスや水素と窒素との混合ガス等の還元ガスを真空容器62の内部に導入して真空容器62の内部を0.1Pa以下の不活性ガス雰囲気下又は0.1Pa以下の還元ガス雰囲気(還元ガスとしては、還元作用のあるガスであればいかなるガスも使用可能であるが、安全性の観点から、窒素に対し水素を5%未満の比率で含有させた混合ガスを用いるのがよい。)とし、その雰囲気下で上記加熱工程の処理を実行してもよい。ただし、作業の容易性という観点からすれば、加熱工程中における真空容器62の内部のガス雰囲気を、上記の通り、真空雰囲気下とするのが好適である。
【0052】
他の改良・設計変更事項として、蒸着装置61のボート63とホルダ64との間に、ボート63からホルダ64に至る空間部を遮断するシャッタ(図示略)を配してもよい。この場合、当該シャッタによってボート63上の混合物の表面に付着した目的物以外の物質が蒸着工程の初期段階で蒸発し、その物質が基板1に付着するのを防止することができる。
【0053】
次に、上記放射線用シンチレータプレート10の一適用例として、図4及び図5を参照しながら、当該放射線用シンチレータプレート10を具備した放射線画像検出器100の構成について説明する。
【0054】
図4に示す通り、放射線画像検出器100には、撮像パネル51、放射線画像検出器100の動作を制御する制御部52、書き換え可能な専用メモリ(例えばフラッシュメモリ)等を用いて撮像パネル51から出力された画像信号を記憶する記憶手段であるメモリ部53、撮像パネル51を駆動して画像信号を得るために必要とされる電力を供給する電力供給手段である電源部54、等が筐体55の内部に設けられている。筐体55には必要に応じて放射線画像検出器100から外部に通信を行うための通信用のコネクタ56、放射線画像検出器100の動作を切り換えるための操作部57、放射線画像の撮影準備の完了やメモリ部53に所定量の画像信号が書き込まれたことを示す表示部58、等が設けられている。
【0055】
ここで、放射線画像検出器100に電源部54を設けるとともに放射線画像の画像信号を記憶するメモリ部53を設け、コネクタ56を介して放射線画像検出器100を着脱自在にすれば、放射線画像検出器100を持ち運びできる可搬構造とすることができる。
【0056】
図5に示すように、撮像パネル51は、放射線用シンチレータプレート10と、放射線用シンチレータプレート10からの電磁波を吸収して画像信号を出力する出力基板20と、から構成されている。
【0057】
放射線用シンチレータプレート10は、放射線照射面側に配置されており、入射した放射線の強度に応じた電磁波を発光するように構成されている。
出力基板20は、放射線用シンチレータプレート10の放射線照射面と反対側の面に設けられており、放射線用シンチレータプレート10側から順に、隔膜20a、光電変換素子20b、画像信号出力層20c及び基板20dを備えている。
【0058】
隔膜20aは、放射線用シンチレータプレート10と他の層を分離するためのものであり、例えばOxi−nitrideなどが用いられる。
光電変換素子20bは、透明電極21と、透明電極21を透過して入光した電磁波により励起されて電荷を発生する電荷発生層22と、透明電極21に対しての対極になる対電極23とから構成されており、隔膜20a側から順に透明電極21、電荷発生層22、対電極23が配置される。
【0059】
透明電極21とは、光電変換される電磁波を透過させる電極であり、例えばインジウムチンオキシド(ITO)、SnO2、ZnOなどの導電性透明材料を用いて形成される。
電荷発生層22は、透明電極21の一面側に薄膜状に形成されており、光電変換可能な化合物として光によって電荷分離する有機化合物を含有するものであり、電荷を発生し得る電子供与体及び電子受容体としての導電性化合物をそれぞれ含有している。電荷発生層22では、電磁波が入射されると、電子供与体は励起されて電子を放出し、放出された電子は電子受容体に移動して、電荷発生層22内に電荷、すなわち、正孔と電子のキャリアが発生するようになっている。
【0060】
ここで、電子供与体としての導電性化合物としては、p型導電性高分子化合物が挙げられ、p型導電性高分子化合物としては、化合物1−1〜化合物1−8に示したポリフェニレンビニレン、ポリチオフェン、ポリ(チオフェンビニレン)、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリフルオレン、ポリ(p−フェニレン)又はポリアニリンの基本骨格を持つものが好ましい(化合物1−1〜化合物1−8で、xは1以上の整数であることが好ましい)。
【0061】
ここで、電子供与体としての導電性化合物としては、p型導電性高分子化合物が挙げられ、p型導電性高分子化合物としては、化合物1−1〜化合物1−8に示したポリフェニレンビニレン、ポリチオフェン、ポリ(チオフェンビニレン)、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリフルオレン、ポリ(p−フェニレン)又はポリアニリンの基本骨格を持つものが好ましい(化合物1−1〜化合物1−8で、xは1以上の整数であることが好ましい)。
【0062】
【化1】

また、電子受容体としての導電性化合物としては、n型導電性高分子化合物が挙げられ、n型導電性高分子化合物としては、化合物2−1〜化合物2−2に示したポリピリジンの基本骨格を持つものが好ましく、特にポリ(p−ピリジルビニレン)の基本骨格を持つものが好ましい(化合物2−1〜化合物2−2で、xは1以上の整数である)。
【0063】
【化2】

電荷発生層22の膜厚は、光吸収量を確保するといった観点から、10nm以上(特に100nm以上)が好ましく、また電気抵抗が大きくなりすぎないといった観点から、1μm以下(特に300nm以下)が好ましい。
【0064】
対電極23は、電荷発生層22の電磁波が入光される側の面と反対側に配置されている。対電極23は、例えば、金、銀、アルミニウム、クロムなどの一般の金属電極や、透明電極21の中から選択して用いることが可能であるが、良好な特性を得るためには仕事関数の小さい(4.5eV以下)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするのが好ましい。
【0065】
また、電荷発生層22を挟む各電極(透明電極21及び対電極23)との間には、電荷発生層22とこれら電極が反応しないように緩衝地帯として作用させるためのバッファー層を設けてもよい。バッファー層は、例えば、フッ化リチウム及びポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(4−スチレンスルホナート)、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル[1,10]フェナントロリンなどを用いて形成される。
【0066】
画像信号出力層20cは、光電変換素子20bで得られた電荷の蓄積および蓄積された電荷に基づく信号の出力を行うものであり、光電変換素子20bで生成された電荷を画素毎に蓄積する電荷蓄積素子であるコンデンサ24と、蓄積された電荷を信号として出力する画像信号出力素子であるトランジスタ25とを用いて構成されている。
【0067】
トランジスタ25は、例えばTFT(薄膜トランジスタ)を用いるものとする。このTFTは、液晶ディスプレイ等に使用されている無機半導体系のものでも、有機半導体を用いたものでもよく、好ましくはプラスチックフィルム上に形成されたTFTである。プラスチックフィルム上に形成されたTFTとしては、アモルファスシリコン系のものが知られているが、その他、米国Alien Technology社が開発しているFSA(Fluidic Self Assembly)技術、即ち、単結晶シリコンで作製した微小CMOS(Nanoblocks)をエンボス加工したプラスチックフィルム上に配列させることで、フレキシブルなプラスチックフィルム上にTFTを形成するものとしても良い。さらに、Science,283,822(1999)やAppl.Phys.Lett,771488(1998)、Nature,403,521(2000)等の文献に記載されているような有機半導体を用いたTFTであってもよい。
【0068】
このように、本発明に用いられるトランジスタ25としては、上記FSA技術で作製したTFT及び有機半導体を用いたTFTが好ましく、特に好ましいものは有機半導体を用いたTFTである。この有機半導体を用いてTFTを構成すれば、シリコンを用いてTFTを構成する場合のように真空蒸着装置等の設備が不要となり、印刷技術やインクジェット技術を活用してTFTを形成できるので、製造コストが安価となる。さらに、加工温度を低くできることから熱に弱いプラスチック基板上にも形成できる。
【0069】
トランジスタ25には、光電変換素子20bで発生した電荷を蓄積するとともに、コンデンサ24の一方の電極となる収集電極(図示せず)が電気的に接続されている。コンデンサ24には光電変換素子20bで生成された電荷が蓄積されるとともに、この蓄積された電荷はトランジスタ25を駆動することで読み出される。すなわちトランジスタ25を駆動させることで放射線画像の画素毎の信号を出力させることができる。
【0070】
基板20dは、撮像パネル51の支持体として機能するものであり、基板1と同様の素材で構成することが可能である。
次に、放射線画像検出器100の作用について説明する。
【0071】
まず、放射線画像検出器100に対し入射された放射線は、撮像パネル51の放射線用シンチレータプレート10側から基板20d側に向けて放射線を入射する。
すると、放射線用シンチレータプレート10に入射された放射線は、放射線用シンチレータプレート10中の蛍光体層2が放射線のエネルギーを吸収し、その強度に応じた電磁波を発光する。発光された電磁波のうち、出力基板20に入光される電磁波は、出力基板20の隔膜20a、透明電極21を貫通し、電荷発生層22に到達する。そして、電荷発生層22において電磁波は吸収され、その強度に応じて正孔と電子のペア(電荷分離状態)が形成される。
【0072】
その後、発生した電荷は、電源部54によるバイアス電圧の印加により生じる内部電界により正孔と電子はそれぞれ異なる電極(透明電極膜及び導電層)へ運ばれ、光電流が流れる。
【0073】
その後、対電極23側に運ばれた正孔は画像信号出力層20cのコンデンサ24に蓄積される。蓄積された正孔はコンデンサ24に接続されているトランジスタ25を駆動させると、画像信号を出力すると共に、出力された画像信号はメモリ部53に記憶される。
【0074】
以上の放射線画像検出器100によれば、上記放射線用シンチレータプレート10を備えているので、光電変換効率を高めることができ、放射線画像における低線量撮影時のSN比を向上させるとともに、画像ムラや線状ノイズの発生を防止することができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の実施態様はこれに限定されるものではない。
下記の方法にしたがって実施例1〜実施例16、比較例の放射線像変換パネルを作製した。
【0076】
[実施例1](蒸着源材料の作製)
CsIに対し、複数の付活剤すなわち賦活剤原料として、ヨウ化タリウム(TlI)及びヨウ化ユーロピウム(EuI2)の比率をそれぞれ0.3(mol%)及び0.2(mol%)の比率で混合し、乳鉢にてこれらが均一になるように粉砕し、混合した。(放射線像変換パネルの作製)
炭素繊維強化樹脂シートからなる支持体の片面に、図2に示す蒸着装置20を使用して上記蒸着源材料を蒸着させて蛍光体層を形成した。
【0077】
すなわち、まず、上記蛍光体原料を蒸着材料として蒸着源である抵抗加熱ボート63に充填するとともに、回転機構65により回転される支持体ホルダ64に基板1を設置し、基板1と抵抗加熱ボート63との間隔を400mmに調節した。続いて真空ポンプ66により蒸着装置62内を一旦排気し、Arガスを導入して0.1Paに真空度を調整した後、回転機構65により10rpmの速度で基板1を回転させながら基板1の温度を150℃に保持した。次いで、抵抗加熱ボート63を加熱して蛍光体を蒸着し、蛍光体層2の膜厚が500μmとなったところで基板1への蒸着を終了させて実施例1の放射線像変換パネルを得た。
【0078】
(輝度の測定)
得られた実施例1の放射線画像変換パネルを、10cm×10cmの大きさのCMOSフラットパネル(ラドアイコン社製 X線CMOSカメラシステムShad−o−Box)にセットし、管電圧80kVpのX線を各試料の裏面(シンチレータ蛍光体層が形成されていない面)から照射し、瞬時発光を光ファイバーで取り出し、発光量を浜松ホトニクス社製のホトダイオード(S2281)で測定してその測定値を「発光輝度(感度)」とした。実施例1の放射線画像変換パネルの発光輝度は2.7を示すとともに、測定結果を下記表1に示す。ただし、表1中、各実施例で用いた放射線像変換パネルの発光輝度を示す値は、比較例の放射線像変換パネルの発光輝度を1.0としたときの相対値である。
【0079】
【表1】

【0080】
[実施例2]
(蒸着源材料の作製)で、CsIに対し、複数の賦活剤として、TlI、EuI2及びヨウ化ルビジウム(RbI)の比率をそれぞれ0.2(mol%)、0.2(mol%)及び0.1(mol%)の比率で混合する以外は、実施例1と同様にして放射線像変換パネルを作製し、得られた放射線画像変換パネルを実施例2の放射線画像変換パネルとした。その後、実施例1と同様にして輝度の測定を実施したところ、実施例2の放射線画像変換パネルの発光輝度は3.1を示した。測定結果を表1に示す。
【0081】
[実施例3]
(蒸着源材料の作製)で、CsIに対し、複数の賦活剤として、TlI、EuI2及びヨウ化銅(CuI)の比率をそれぞれ0.2(mol%)、0.2(mol%)及び0.1(mol%)で混合する以外は、実施例1と同様にして放射線像変換パネルを作製し、得られた放射線画像変換パネルを実施例3の放射線画像変換パネルとした。その後、実施例1と同様にして輝度の測定を実施したところ、実施例3の放射線画像変換パネルの発光輝度は2.5を示した。測定結果を表1に示す。
【0082】
[実施例4]
(蒸着源材料の作製)で、CsIに対し、複数の賦活剤として、TlI及びヨウ化インジウム(InI)の比率をそれぞれ0.3(mol%)及び0.2(mol%)で混合する以外は、実施例1と同様にして放射線像変換パネルを作製し、得られた放射線画像変換パネルを実施例4の放射線画像変換パネルとした。その後、実施例1と同様にして輝度の測定を実施したところ、実施例4の放射線画像変換パネルの発光輝度は1.4を示した。測定結果を表1に示す。
【0083】
[実施例5]
(蒸着源材料の作製)で、CsIに対し、複数の賦活剤として、ヨウ化ナトリウム(NaI)及びTlIの比率をそれぞれ0.3(mol%)及び0.2(mol%)の比率で混合する以外は、実施例1と同様にして放射線像変換パネルを作製し、得られた放射線画像変換パネルを実施例5の放射線画像変換パネルとした。その後、実施例1と同様にして輝度の測定を実施したところ、実施例5の放射線画像変換パネルの発光輝度は2.7を示した。測定結果を表1に示す。
【0084】
[実施例6]
(蒸着源材料の作製)で、CsIに対し、複数の賦活剤として、NaI、ヨウ化亜鉛(ZnI2)及びRbIの比率をそれぞれ0.2(mol%)、0.2(mol%)及び0.1(mol%)の比率で混合する以外は、実施例1と同様にして放射線像変換パネルを作製し、得られた放射線画像変換パネルを実施例6の放射線画像変換パネルとした。その後、実施例1と同様にして輝度の測定を実施したところ、実施例6の放射線画像変換パネルの発光輝度は3.1を示した。測定結果を表1に示す。
【0085】
[実施例7]
(蒸着源材料の作製)で、CsIに対し、複数の賦活剤として、RbI、TlI及びCuIの比率をそれぞれ0.2(mol%)、0.2(mol%)及び0.1(mol%)の比率で混合する以外は、実施例1と同様にして放射線像変換パネルを作製し、得られた放射線画像変換パネルを実施例7の放射線画像変換パネルとした。その後、実施例1と同様にして輝度の測定を実施したところ、実施例7の放射線画像変換パネルの発光輝度は2.5を示した。測定結果を表1に示す。
【0086】
[実施例8]
(蒸着源材料の作製)で、CsIに対し、複数の賦活剤として、RbI及びヨウ化ランタン(LaI3)の比率をそれぞれ0.3(mol%)及び0.2(mol%)の比率で混合する以外は、実施例1と同様にして放射線像変換パネルを作製し、得られた放射線画像変換パネルを実施例8の放射線画像変換パネルとした。その後、実施例1と同様にして輝度の測定を実施したところ、実施例8の放射線画像変換パネルの発光輝度は2.1を示した。測定結果を表1に示す。
【0087】
[実施例9]
(蒸着源材料の作製)で、CsIに対し、複数の賦活剤として、ヨウ化マンガン(MnI2)、ヨウ化イットリウム(YI3)及びTlIの比率をそれぞれ0.2(mol%)、0.1(mol%)及び0.2(mol%)の比率で混合する以外は、実施例1と同様にして放射線像変換パネルを作製し、得られた放射線画像変換パネルを実施例9の放射線画像変換パネルとした。その後、実施例1と同様にして輝度の測定を実施したところ、実施例9の放射線画像変換パネルの発光輝度は1.9を示した。測定結果を表1に示す。
【0088】
[実施例10]
(蒸着源材料の作製)で、CsIに対し、複数の賦活剤として、MnI2、TlI及びヨウ化チタン(TiI4)の比率をそれぞれ0.2(mol%)、0.2(mol%)及び0.1(mol%)の比率で混合する以外は、実施例1と同様にして放射線像変換パネルを作製し、得られた放射線画像変換パネルを実施例10の放射線画像変換パネルとした。その後、実施例1と同様にして輝度の測定を実施したところ、実施例10の放射線画像変換パネルの発光輝度は2.8を示した。測定結果を表1に示す。
【0089】
[実施例11]
(蒸着源材料の作製)で、CsIに対し、複数の賦活剤として、TlI、MnI2及びEuI2の比率をそれぞれ0.2(mol%)、0.1(mol%)及び0.2(mol%)の比率で混合する以外は、実施例1と同様にして放射線像変換パネルを作製し、得られた放射線画像変換パネルを実施例11の放射線画像変換パネルとした。その後、実施例1と同様にして輝度の測定を実施したところ、実施例11の放射線画像変換パネルの発光輝度は3.7を示した。測定結果を表1に示す。
【0090】
[実施例12]
(蒸着源材料の作製)で、CsIに対し、複数の賦活剤として、CuI及びTlIの比率をそれぞれ0.2(mol%)及び0.3(mol%)の比率で混合する以外は、実施例1と同様にして放射線像変換パネルを作製し、得られた放射線画像変換パネルを実施例12の放射線画像変換パネルとした。その後、実施例1と同様にして輝度の測定を実施したところ、実施例12の放射線画像変換パネルの発光輝度は3.2を示した。測定結果を表1に示す。
【0091】
[実施例13]
(蒸着源材料の作製)で、CsIに対し、複数の賦活剤として、CuI、LaI3及びTiI4の比率をそれぞれ0.1(mol%)、0.1(mol%)及び0.3(mol%)の比率で混合する以外は、実施例1と同様にして放射線像変換パネルを作製し、得られた放射線画像変換パネルを実施例13の放射線画像変換パネルとした。その後、実施例1と同様にして輝度の測定を実施したところ、実施例13の放射線画像変換パネルの発光輝度は3.9を示した。測定結果を表1に示す。
【0092】
[実施例14]
(蒸着源材料の作製)で、CsIに対し、複数の賦活剤として、EuI2、KI及びLiIの比率をそれぞれ0.3(mol%)、0.1(mol%)及び0.1(mol%)の比率で混合する以外は、実施例1と同様にして放射線像変換パネルを作製し、得られた放射線画像変換パネルを実施例14の放射線画像変換パネルとした。その後、実施例1と同様にして輝度の測定を実施したところ、実施例14の放射線画像変換パネルの発光輝度は3.1を示した。測定結果を表1に示す。
【0093】
[実施例15]
(蒸着源材料の作製)で、CsIに対し、複数の賦活剤として、EuI2、ZnI2及びKIの比率をそれぞれ0.2(mol%)、0.2(mol%)及び0.1(mol%)の比率で混合する以外は、実施例1と同様にして放射線像変換パネルを作製し、得られた放射線画像変換パネルを実施例15の放射線画像変換パネルとした。その後、実施例1と同様にして輝度の測定を実施したところ、実施例15の放射線画像変換パネルの発光輝度は3.4を示した。測定結果を表1に示す。
【0094】
[実施例16]
(蒸着源材料の作製)で、CsIに対し、複数の賦活剤として、EuI2、TlI及びCuIの比率をそれぞれ0.1(mol%)、0.3(mol%)及び0.1(mol%)の比率で混合する以外は、実施例1と同様にして放射線像変換パネルを作製し、得られた放射線画像変換パネルを実施例16の放射線画像変換パネルとした。その後、実施例1と同様にして輝度の測定を実施したところ、実施例16の放射線画像変換パネルの発光輝度は3.8を示した。測定結果を表1に示す。
【0095】
[比較例]
(蒸着源材料の作製)で、TlI以外の賦活剤を混入しない以外は、実施例1と同様にして放射線像変換パネルを作製し、得られた放射線画像変換パネルを比較例の放射線画像変換パネルとした。その後、実施例1と同様にして比較例の放射線画像変換パネルの輝度の測定を実施し、測定された発光輝度を1.0として表1に記載する。測定結果を表1に示す。
【0096】
表1に示すように、本発明により、CsIをベースとして用いて形成される蛍光体層の原材料に融点の異なる複数の賦活剤を含ませることにより、輝度向上の効果が得られることが示される。
【0097】
その際、実施例1,5,12の放射線画像変換パネルと、比較例の放射線画像変換パネルとを比較することにより、複数の賦活剤として、少なくともCsIの融点に対し前後50℃以内の範囲に融点をもつ第1の賦活剤を含ませると、輝度を向上させることが可能であることが示されるが、この状態でさらに第1の賦活剤がもつ融点と100℃以上離れている融点をもつ第2の賦活剤を含ませても、同様に、或いはそれ以上に輝度を向上させることが可能であることが示される。特に、実施例1〜実施例3の放射線画像変換パネルと、実施例4の放射線画像変換パネルとを比較することにより、複数の賦活剤のうち、最大の融点をもつものと、最小の融点もつものとの融点の差が少なくとも100℃以上離れている場合には、一層輝度を向上させることが可能であることが示される。
【0098】
[実施例101]
(1)試料の作製
(101.1)試料101の作製
ヨウ化セシウム(CsI)に対し、賦活剤化合物としてヨウ化タリウム(TlI)を0.3mol%の比率で混合し、これら混合物が均一になるように乳鉢中で粉砕しながらCsIとTlIとを混合した。その後、基板として炭素繊維強化樹脂シートを適用し、かつ、蒸着装置として図3の蒸着装置61と同様のものを適用し、基板上に蛍光体層を形成した。
【0099】
詳しくは、始めに、粉末状とした上記混合物を蒸着材料としてボートに充填するとともに基板をホルダに設置し、当該ボートと当該ホルダとの間隔を400mmに調節した(準備工程)。続いて、真空ポンプを作動させ、真空容器の内部を一旦排気して真空容器の内部を1.0×10-4Paの真空雰囲気とした(真空雰囲気形成工程)。その後、電極からボートに電流を流し、ボートに充填された上記混合物を350℃で2時間加熱した(加熱工程)。
【0100】
続いて、真空容器の内部を再度排気し、真空容器の内部にアルゴンを導入して当該真空容器の内部を0.1Paの真空度に調整した。その後、回転機構のモータとホルダのヒータとを作動させ、基板を10rpmの速度で回転させながら当該基板を150℃に加熱した。この状態で、電極からボートに更に大きな電流を流し、ボートに充填されたままの上記混合物を700℃で加熱して蒸発させ、基板上に蛍光体層を形成した。蛍光体層の層厚が500μmとなったところで基板への蒸着を終了させ(蒸着工程)、その生成物を「試料101」とした。
【0101】
(101.2)試料102〜117の作製
賦活剤化合物の種類,賦活剤化合物のCsIに対する混合比,加熱工程中の処理雰囲気,加熱工程中の加熱温度を下記表2に示す通りに変更し、それ以外は試料101を作製したときと同様にして「試料102〜117」を作製した。ただし、試料115の作製では、加熱工程中において、真空容器の内部の真空度調整をおこなわず、上記混合物を加熱することもしなかった。
【0102】
(2)試料の輝度の測定
管電圧80kVpのX線を各試料101〜117の裏面(蛍光体層が形成されていない面)から照射し、その結果瞬時に発光した光を光ファイバーで取り出し、その発光量を浜松ホトニクス社製のフォトダイオード(S2281)で測定し、その測定値を「発光輝度(感度)」とした。各試料1〜17の測定結果を下記表2に示す。ただし、表2中、各試料101〜117の発光輝度を示す値は、試料115の発光輝度を1.0としたときの相対値である。
【0103】
【表2】

なお、結果は示さないが、上記加熱工程で1時間加熱して形成した試料からも、上記各試料101〜117と略同様の結果が得られた。
【0104】
(3)まとめ
表1に示す通り、試料101〜114と試料115〜117との比較から、試料101〜114は発光輝度が試料115〜117のそれより高く、蒸着工程前の加熱工程の処理中において蒸着材料を350〜620℃で1時間以上加熱するのが有用であることがわかる。
【0105】
試料103,109〜112と試料108,113との比較から、試料103,109〜112は発光輝度が試料108,113のそれより高く、TlIのCsIに対する混合比を0.01〜10mol%とするのが特に有用であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CsIと、融点の異なる複数の賦活剤化合物を含み、蒸着により蛍光体膜を形成するシンチレータプレートにおいて、前記複数の賦活剤化合物の少なくとも一つは、前記CsIの融点に対し前後50℃以内の範囲に融点を持つことを特徴とする放射線用シンチレータプレート。
【請求項2】
前記複数の賦活剤化合物は、100℃以上離れている融点をもつ賦活剤化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の放射線用シンチレータプレート。
【請求項3】
ヨウ化セシウムと賦活剤化合物とを含む混合物を、含まれている複数の賦活剤化合物の最低融点以上、最高融点以下で加熱する加熱工程と、前記加熱工程の後に、前記混合物を基板上に蒸着して前記基板上に蛍光体層を形成する蒸着工程と、を有することを特徴とする放射線用シンチレータプレートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−92528(P2013−92528A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−264154(P2012−264154)
【出願日】平成24年12月3日(2012.12.3)
【分割の表示】特願2007−545198(P2007−545198)の分割
【原出願日】平成18年11月7日(2006.11.7)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】