説明

放射線画像変換パネルの製造装置及び放射線画像変換パネルの製造方法

【課題】高感度で均一かつ耐久性に優れた放射線画像変換パネルを得ることのできる放射線画像変換パネルの製造装置及び放射線画像変換パネルの製造方法を提供する。
【解決手段】放射線画像変換パネルの製造装置1は、真空容器2と、真空容器2の内部に設けられ支持体5に輝尽性蛍光体を蒸着させる蒸発源4と、蒸発源4に対向し所定の曲率半径を有する曲面を備えた支持体ホルダ6と、蒸発源4に対して支持体ホルダ6を回転させることによって蒸発源4から輝尽性蛍光体を支持体5に蒸着させる支持体回転機構10と、支持体ホルダ6の曲面に当接された支持体5の両端部を挟持し、支持体5に張力が発生するように支持体ホルダ6に固定される固定部材7a,7bとを備える。固定部材7a,7bのうち支持体5の少なくとも一端を挟持するものは、スプリング8を介して支持体ホルダ6に固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線画像変換パネルに係り、特に、輝尽性蛍光体層が形成された放射線画像変換パネルの製造装置及びこの放射線画像変換パネルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、銀塩を使用しないで放射線画像を得る方法として、支持体上に輝尽性蛍光体層を形成した放射線画像変換パネルが開発されている。
【0003】
放射線画像変換パネルは、被写体を透過した放射線を輝尽性蛍光体層に吸収させ、被写体各部の放射線透過密度に対応する放射線エネルギーを蓄積することができる。その後、可視光線、赤外線などの電磁波(励起光)によって輝尽性蛍光体を時系列的に励起することにより、輝尽性蛍光体中に蓄積されている放射線エネルギーを輝尽発光として放出させる。そしてこの光の強弱による信号を、例えば光電変換して電気信号とし、ハロゲン化銀写真感光材料などの記録材料、CRTなどの表示装置上に可視像として再生することができる。
【0004】
輝尽性蛍光体層が形成された放射線画像変換パネルにおいて、高感度及び高鮮鋭性を両立させるためには、支持体上に輝尽性蛍光体層を柱状結晶化させることが必要であるが、近年、CsBrなどのハロゲン化アルカリを母体とする輝尽性蛍光体層を蒸着法により形成すると非常に高感度の輝尽性蛍光体が得られることが報告されている(特許文献1)。
【0005】
このように輝尽性蛍光体層を蒸着させる装置としては、真空容器を備え、この真空容器内の上方に支持体を保持する支持体ホルダが備えられた蒸着装置が知られている。このような蒸着装置には、真空容器内の底面付近に輝尽性蛍光体を蒸気として蒸着させる蒸発源が備えられており、支持体を支持体ホルダの蒸発源側の面に押し付けるなどして支持体ホルダに保持させた状態で、蒸発源から輝尽性蛍光体を支持体に蒸着させる。
【0006】
このような蒸着装置によれば、輝尽性蛍光体を蒸気にして支持体に付着させるため、支持体上に輝尽性蛍光体層を均一に形成することができる。
【特許文献1】特開2001−249198号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような蒸着装置において、支持体を支持体ホルダに押し付けただけでは時間の経過と共に支持体が下方に垂れ下がってくる。また、熱膨張率が高い支持体では、蒸着の熱によって支持体の温度が上がると支持体が伸びて下方に垂れてきてしまう。
【0008】
このように支持体と支持体ホルダの密着が十分でなく、両者が離れた状態になると、輝尽性蛍光体の蒸着熱による支持体の温度上昇と共に支持体と支持体ホルダとの間に温度差ができ、支持体全体としての温度を均一に保つことができない。
【0009】
すなわち、蒸着熱により支持体の蒸着源に対向する面が加熱されると、支持体のうち輝尽性蛍光体が早く堆積した部分の温度のみが上昇する。特に、支持体が熱伝導率の高い金属などである場合にこの傾向は顕著となる。この場合において、支持体と支持体ホルダとが離れていると、支持体ホルダを加熱又は冷却することによって支持体全体の温度を所定の範囲内に制御することができない。
【0010】
このように支持体全体の温度が所定の範囲内にない場合には、柱状結晶の生成を制御することができないため、輝度分布の制御をすることができなくなる。したがって、放射線画像変換パネルの感度の不均一化や、膜剥離が生じてしまうという問題があった。
【0011】
ここで、支持体と支持体ホルダとの密着を強化する方法として、支持体と支持体ホルダとの間にコンタクトメタルを介在させるという方法もある。しかし、この方法では支持体上にコンタクトメタルとして別の膜を付着させる必要があるため、製造工程が煩雑化するという問題があった。
【0012】
本発明の課題は、このような点に鑑みてなされたものであり、製造工程を煩雑化することなく、支持体と支持体ホルダとの密着を強化することにより支持体全体の温度を一定に保ち、高感度で均一かつ耐久性に優れた放射線画像変換パネルを得ることのできる放射線画像変換パネルの製造装置及び放射線画像変換パネルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような課題を解決するために、請求項1の発明は、放射線画像変換パネルの製造装置であって、真空容器と、前記真空容器内に設けられ、支持体に輝尽性蛍光体を蒸着させる蒸発源と、前記蒸発源に対向し所定の曲率半径を有する曲面を備えた支持体ホルダと、前記蒸発源に対して前記支持体ホルダを回転させることによってこの蒸発源から輝尽性蛍光体を前記支持体に蒸着させる支持体回転機構と、前記支持体の両端を挟持し、この支持体を張力を付与させた状態で前記支持体ホルダに固定させる固定部材と、を備えることを特徴とする。
【0014】
請求項1の発明によれば、支持体は固定部材に引っ張られた状態で支持体ホルダの曲面に密着されるので、支持体と支持体ホルダとの密着性が強化される。
【0015】
請求項2の発明は、請求項1に記載の放射線画像変換パネルの製造装置であって、前記固定部材には、前記支持体が温度変化により膨張した場合に伸縮して前記支持体に張力を付与するスプリングが取付けられていることを特徴とする。
【0016】
請求項2の発明によれば、支持体の両端を挟持した固定部材がスプリングを介して支持体ホルダに固定されることにより、支持体が支持体ホルダの方向に付勢されて取付けられ、その張力が可変な状態とされるので、蒸着熱によって支持体が膨張した場合でも支持体の張力は常に一定範囲内となり、支持体と支持体ホルダとの密着は強化されたまま保たれる。
【0017】
請求項3の発明は、放射線画像変換パネルの製造方法であって、真空容器内において、支持体の両端を固定部材により挟持する工程と、前記真空容器内の上方に設けられた支持体ホルダのうち、この真空容器内の底面側に面し所定の曲率半径を有する曲面に前記支持体を当接する工程と、前記固定部材により前記支持体を張力を付与させた状態で前記支持体ホルダに固定する工程と、前記真空容器内の底部に設けられた蒸発源から蒸発する輝尽性蛍光体を前記支持体上に蒸着させて輝尽性蛍光体層を形成する工程と、を備えることを特徴とする。
【0018】
請求項3の発明によれば、支持体は固定部材に引っ張られた状態で支持体ホルダの曲面に密着されるので、支持体と支持体ホルダとの密着性が強化される。
【0019】
請求項4の発明は、請求項3に記載の放射線画像変換パネルの製造方法であって、前記固定部材により前記支持体を張力を付与させた状態で前記支持体ホルダに固定する工程は、前記固定部材に前記支持体が温度変化により膨張した場合に伸縮して前記支持体に張力を付与するスプリングを取付ける工程を含むことを特徴とする。
【0020】
請求項4の発明によれば、固定部材がスプリングを介して固定されることにより、支持体が支持体ホルダの方向に付勢されて取付けられ、その張力が可変な状態とされているので、蒸着熱によって支持体が膨張した場合でも支持体の張力は常に一定範囲内となり、支持体と支持体ホルダとの密着は強化されたまま保たれる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の放射線画像変換パネルの製造装置及び放射線画像変換パネルの製造方法によれば、支持体と支持体ホルダの密着性が強化されることにより、支持体全体の温度を均一に制御することが可能となり、これにより輝度分布を制御して膜剥離や感度の不均一化が生じにくい輝尽性蛍光体層を形成することができる。その結果、高感度で均一かつ耐久性に優れた良好な放射線画像変換パネルを製造することができるという効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
まず、本発明に係る放射線画像変換パネルの製造装置1について説明する。
【0024】
図1に示すように、放射線画像変換パネルの製造装置1(以下、製造装置1とする)は真空容器2を備えており、真空容器2には真空容器2の内部の排気及び大気の導入を行う真空ポンプ3が備えられている。
【0025】
真空容器2の内部の底面付近には輝尽性蛍光体を蒸気として蒸着させる蒸発源4が備えられている。蒸発源4は、輝尽性蛍光体を収容して抵抗加熱法で加熱するものであり、ヒータを巻いたアルミナ製のるつぼから構成しても良いし、ボートや、高融点金属からなるヒータから構成しても良い。
【0026】
本実施形態の蒸発源4はるつぼから構成され、このるつぼには蒸着により支持体5の被形成面に形成される輝尽性蛍光体層の材料となる輝尽性蛍光体が収容されている。
【0027】
ここで、本実施形態における輝尽性蛍光体は、下記一般式(1)で表される輝尽性蛍光体であることが好ましい。
【0028】
一般式(1)
1X・aM2X'2・bM3X"3:eA
[式中、M1はLi、Na、K、Rb及びCsの各原子から選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属原子であり、M2はBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cd、Cu及びNiの各原子から選ばれる少なくとも1種の二価金属原子であり、M3はSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Ga及びInの各原子から選ばれる少なくとも1種の三価金属原子であり、X、X'、X"はF、Cl、Br及びIの各原子から選ばれる少なくとも1種のハロゲン原子であり、AはEu、Tb、In、Ce、Tm、Dy、Pr、Ho、Nd、Yb、Er、Gd、Lu、Sm、Y、Tl、Na、Ag、Cu及びMgの各原子から選ばれる少なくとも1種の金属原子であり、また、a、b、eはそれぞれ0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<e<1.0の範囲の数値を表す。]
【0029】
上記一般式(1)で表される輝尽性蛍光体において、M1は、Li、Na、K、Rb及びCs等の各原子から選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属原子を表し、中でもRb及びCsの各原子から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属原子が好ましく、さらに好ましくはCs原子である。
【0030】
2は、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cd、Cu及びNi等の各原子から選ばれる少なくとも1種の二価の金属原子を表すが、中でも好ましく用いられるのは、Be、Mg、Ca、Sr及びBa等の各原子から選ばれる二価の金属原子である。
【0031】
3は、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Ga及びIn等の各原子から選ばれる少なくとも1種の三価の金属原子を表すが、中でも好ましく用いられるのはY、Ce、Sm、Eu、Al、La、Gd、Lu、Ga及びIn等の各原子から選ばれる三価の金属原子である。
【0032】
Aは、Eu、Tb、In、Ce、Tm、Dy、Pr、Ho、Nd、Yb、Er、Gd、Lu、Sm、Y、Tl、Na、Ag、Cu及びMgの各原子から選ばれる少なくとも1種の金属原子である。
【0033】
輝尽性蛍光体の輝尽発光輝度向上の観点から、X、X'及びX"はF、Cl、Br及びIの各原子から選ばれる少なくとも1種のハロゲン原子を表すが、F、Cl及びBrから選ばれる少なくとも1種のハロゲン原子が好ましく、Br及びIの各原子から選ばれる少なくとも1種のハロゲン原子が更に好ましい。
【0034】
また、一般式(1)において、b値は0≦b<0.5であるが、好ましくは、0≦b<10-2である。
【0035】
ここで、輝尽性蛍光体層は互いに独立した細長い柱状結晶構造を有しており、個々の径及び形状が揃った柱状結晶であることが好ましい。この柱状結晶の太さ、つまり柱状結晶の平均面積は支持体の温度によって影響を受けることから、これらを制御することによって所望する平均面積を有する柱状結晶を作製することが可能である。すなわち、輝尽性蛍光体層が設けられる支持体全体の温度を所定の範囲に調整し、かつ、この所定の温度範囲からの偏差を可能な限り小さくすることにより、柱状結晶の太さを制御し、感度が均一で膜剥離をおこしにくい輝尽性蛍光体層を形成することが可能になる。
【0036】
真空容器2の内部の上面付近には、支持体5を保持する支持体ホルダ6が備えられている。
【0037】
支持体5としては、一般に各種のガラス、高分子材料、金属などが用いられるが、本実施形態においては特に樹脂などの高分子材料又はアルミニウムシート、鉄シート、銅シートなどの金属シートが好ましい。また、支持体5の厚さは一般に80μm〜5000μmであり、取り扱い上の点から80μm〜3000μmであることが好ましい。
【0038】
支持体ホルダ6は支持体ホルダ基板6b及び支持体ホルダ凸部6aから成り、支持体ホルダ基板6bのうち蒸発源4に対向する面の中央部付近に、支持体ホルダ凸部6aが突出した状態に形成されている。支持体ホルダ凸部6aのうち蒸発源4に対向する面は所定の曲率を備えており、支持体ホルダ6の縦方向の中央部を中心として蒸発源4の方向に膨出した曲面となっている。
【0039】
ここで、支持体ホルダ凸部6aの曲面の曲率半径Rは、R=100〜100000が好ましく、さらに好ましくはR=1000〜20000である。
【0040】
支持体ホルダ基板6bには、支持体5の端部を挟持して支持体ホルダ凸部6aの両端部付近に固定される固定部材7a,7bが備えられている。
【0041】
図2に示すように、固定部材7bはねじによって支持体ホルダ基板6bに固定されている。なお、固定部材7bの固定はねじ止めの他、接着剤などで行ってもよい。また、固定部材7aには3つのスプリング8が取付けられ、このスプリング8の先端部に形成されたフックが支持体ホルダ基板6bに備えられた3つのフック係合部9にそれぞれ係合されることによって、支持体5が支持体ホルダ凸部6aの方向に付勢された状態で取付けられるようになっている。なお、固定部材7a,7b共にスプリング8を介在させて固定してもよい。
【0042】
さらに、支持体ホルダ6には、支持体5を蒸発源4に対して回転させることにより蒸発源4から蒸気を蒸着させる支持体回転機構10が設けられている。支持体回転機構10は、支持体ホルダ6を支持すると共に支持体ホルダ6を回転させる回転軸10aと、真空容器2外に配置されて回転軸10aの駆動源となるモータ(図示せず)等から構成されている。
【0043】
なお、支持体ホルダ6には、支持体5を加熱する加熱ヒータ(図示せず)を備えることが好ましい。この加熱ヒータで支持体5を加熱することによって、支持体5の支持体ホルダ6に対する密着性を強化や、輝尽性蛍光体層の膜質調整を行う。また、支持体5の表面の吸着物を離脱・除去し、支持体5の表面と輝尽性蛍光体との間に不純物層が発生することを防止する。
また、加熱手段として温媒又は熱媒を循環させるための機構(図示せず)を有していてもよい。この場合には、蒸着時の基板温度を50〜150℃といった比較的低温に保持して蒸着する場合に適している。
【0044】
また、支持体5と蒸発源4との間隔は、100mm〜1500mmに設置するのが好ましい。さらに、支持体5と蒸発源4との間に、蒸発源4から支持体5に至る空間を遮断するシャッタ(図示せず)を備えるようにしても良い。シャッタによって輝尽性蛍光体の表面に付着した目的物以外の物質が蒸着の初期段階で蒸発し、支持体5に付着するのを防ぐことができる。
【0045】
続いて、前述の放射線画像変換パネルの製造装置を用いた本発明の放射線画像変換パネルの製造方法について説明する。
【0046】
前述の放射線画像変換パネルの製造装置1を使用して支持体5に輝尽性蛍光体層を形成するには、まず、支持体ホルダ6に支持体5を取付ける。
【0047】
支持体5の取付けにあたっては、まず、支持体5の一端側を固定部材7bで挟持した状態で、固定部材7bを支持体ホルダ基板6bにおける支持体ホルダ凸部6aの一側面付近にねじによって固定する。次に、支持体5を支持体ホルダ凸部6aの曲面に当接した状態で支持体5の他端側を固定部材7aによって挟持し、固定部材7aに取付けられた3つのスプリング8を支持体ホルダ基板6bに備えられた3つのフック係合部9にそれぞれ係合する。
【0048】
次いで、真空容器2内を真空排気する。その後、支持体回転機構10により支持体ホルダ6を蒸発源4に対して回転させ、蒸着可能な真空度に真空容器2が達したら、加熱された蒸発源4から輝尽性蛍光体を蒸発させて、支持体5の表面に輝尽性蛍光体層を所望の厚さに成長させる。この輝尽性蛍光体層12は、10〜1000μm、好ましくは10μm〜500μmの膜厚に形成される。
【0049】
以上の放射線画像変換パネルの製造装置1又は製造方法によれば、支持体5は固定部材7a,7bに引っ張られた状態で支持体ホルダ凸部6aに密着されるので、支持体5と支持体ホルダ6との密着性が強化される。さらに、スプリング8を介在させて固定しているため、支持体5は支持体ホルダ6の方向に付勢された状態で取付けられ、その張力が可変な状態とされる。したがって、支持体5の熱膨張率が高く輝尽性蛍光体の蒸着熱により支持体5が膨張した場合でも、支持体5の張力は常に一定範囲内となり、支持体5と支持体ホルダ6との密着は強化されたまま保たれる。
【0050】
したがって、支持体5に輝尽性蛍光体が蒸着することにより支持体5の温度が上昇した場合でも、常に支持体5の全体の温度を所定範囲内にすることが可能となるので、柱状結晶の生成の制御により、輝度分布の制御をすることができるため、放射線画像変換パネルの感度を均一化することが可能となる。
【0051】
以上のように本発明によれば、支持体5の全体の温度を均一に保つことが可能となるので輝度分布の制御がしやすくなり、膜剥離や感度の不均一化が生じにくい輝尽性蛍光体層を形成することができる。その結果、高感度で均一かつ耐久性に優れた良好な放射線画像変換パネルを製造することができるという効果を得ることができる。
【0052】
特に、本発明においては、支持体5として樹脂などの高分子材料又はアルミニウムシート、鉄シート、銅シートなどの薄い金属シートを使用する場合に顕著な効果を得ることができる。
【0053】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の実施態様はこれに限定されるものではない。
【0054】
[実施例1]
真空容器の内部の上面付近において、厚さ0.5mmの支持体の一端側を固定部材で挟持した状態で、固定部材を支持体ホルダ基板における支持体ホルダ凸部の一側面付近にねじによって固定した。次に、支持体を支持体ホルダ凸部の曲面に当接した状態で、支持体の他端側を固定部材によって挟持し、固定部材に取付けられた3つのスプリングを支持体ホルダ基板に備えられた3つのフック係合部にそれぞれ係合することで、支持体に張力を付与した状態で支持体を支持体ホルダに固定した。
次に、蒸発源として輝尽性蛍光体(CsBr:0.0001Eu)を抵抗加熱用タングステンボートに充填して真空容器の内部の底面付近に設置した。
続いて真空容器を一旦排気し、Arガスを導入して真空度を0.1Paに調整した。そして、支持体ホルダに設置された加熱ヒータにより支持体の温度を100℃に調整した。その後タングステンボートを加熱して蒸発源を蒸発させ、膜厚が500μmとなったところで蒸着を終了した。次いで150℃でこの輝尽性蛍光体を加熱処理(アニール処理)することにより、放射線画像変換パネルを作製した。
【0055】
[実施例2]
実施例1の支持体の厚さを0.2mmとして放射線画像変換パネルを得た。
【0056】
[実施例3]
実施例1の支持体の材質をポリカーボネートとして放射線画像変換パネルを得た。
【0057】
[実施例4]
実施例1の支持体の厚さを0.2mmとし、材質をPETとして放射線画像変換パネルを得た。
【0058】
[比較例1]
実施例1の支持体を張力を付与しない状態で支持体ホルダに固定して放射線画像変換パネルを得た。
【0059】
[比較例2]
実施例2の支持体を張力を付与しない状態で支持体ホルダに固定して放射線画像変換パネルを得た。
【0060】
[比較例3]
実施例3の支持体を張力を付与しない状態で支持体ホルダに固定して放射線画像変換パネルを得た。
【0061】
[比較例4]
実施例4の支持体を張力を付与しない状態で支持体ホルダに固定して放射線画像変換パネルを得た。
【0062】
そして、以上のようにして得られた放射線画像変換パネルについて下記のような評価を行った。
【0063】
<輝度分布評価>
放射線画像変換パネルに管電圧80kVpのX線を輝尽性蛍光体層とは逆の支持体側から均一に照射した後、この放射線画像変換パネルをHe−Neレーザー光(633nm)で走査して励起し、放射線画像変換パネル上に等間隔に並んだ25の測定点において、輝尽性蛍光体層から放射される輝尽発光を受光器(分光感度S−5の光電子増倍管)で受光してその強度を測定し、各測定点間の強度のばらつきから感度ムラを評価した。感度ムラは、各パネルの各測定点における輝度の最大値と最小値の幅を25点の測定点の強度の平均値で割り、これを%で表したものである。評価の結果を表1に示す。
【0064】
<付着性>
放射線画像変換パネルの輝尽性蛍光体層の表面に接着テープを貼り付け、テープを剥がしたときに輝尽性蛍光体層が支持体に付着していた面積を測定し、以下に示す基準により付着性の評価を行った。評価の結果を表1に示す。
【0065】
○:支持体5に付着していた輝尽性蛍光体層の面積が60%以上である。
×:支持体5に付着していた輝尽性蛍光体層の面積が60%未満である。
【0066】
【表1】

【0067】
以上、表1の結果から明らかなように、支持体を張力を付与した状態で支持体ホルダに固定した実施例1〜実施例4においては、支持体に付着した輝尽性蛍光体層の面積が60%以上となっている。一方、支持体を張力を付与しない状態で支持体ホルダに固定した比較例1〜比較例4においては、支持体に付着した輝尽性蛍光体層の面積が60%未満となっている。この結果より、支持体を張力を付与して固定した状態で蒸着を行うと、蒸着過程において支持体全体の温度が均一に保たれ、輝尽性蛍光体層の付着性が向上することがわかる。
【0068】
そして、実施例1〜実施例4においては、比較例1〜比較例4に比べて輝度分布の値が低いことがわかる。すなわち、輝尽性蛍光体層の付着性が向上する結果、輝尽発光の強度のばらつきが少なくなり、放射線画像変換パネルの感度ムラが少なくなることがわかる。
【0069】
また、実施例1〜実施例4より、支持体の材質が異なる場合でも同様の作用効果が得られることがわかる。
ただし、実施例1,2及び実施例3,4からわかるように、支持体の材質が金属である場合は熱伝導性が高いため、より支持体の温度の制御がしやすく、支持体全体の温度を一定に保つことによってさらに輝度分布を低く抑えることができる。
【0070】
さらに、実施例1,3及び実施例2,4からわかるように、支持体の厚さが0.5mmの方が0.2mmの場合より輝度分布が低く抑えられており、支持体にある程度剛性がある方が支持体ホルダとの密着が得られやすく、逆にあまり薄いと支持体ホルダに均一に密着させるのが難しいということがわかる。
【0071】
以上より、支持体に張力を付与して支持体ホルダに固定した状態で蒸着を行うことにより、支持体に対する輝尽性蛍光体層の付着性が優れ、感度ムラの少ない放射線画像変換パネルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の放射線画像変換パネルの製造装置を示す断面図である。
【図2】本発明の固定部材により支持体を支持体ホルダに固定した状態を示す平面 図である。
【符号の説明】
【0073】
1 放射線画像変換パネルの製造装置
2 真空容器
3 真空ポンプ
4 蒸発源
5 支持体
6 支持体ホルダ
6a 支持体ホルダ凸部
6b 支持体ホルダ基板
7a,7b 固定部材
8 スプリング
9 フック係合部
10 支持体回転機構
10a 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器と、
前記真空容器内に設けられ、支持体に輝尽性蛍光体を蒸着させる蒸発源と、
前記蒸発源に対向し所定の曲率半径を有する曲面を備えた支持体ホルダと、
前記蒸発源に対して前記支持体ホルダを回転させることによってこの蒸発源から輝尽性蛍光体を前記支持体に蒸着させる支持体回転機構と、
前記支持体の両端を挟持し、この支持体を張力を付与させた状態で前記支持体ホルダに固定させる固定部材と、
を備えることを特徴とする放射線画像変換パネルの製造装置。
【請求項2】
前記固定部材には、前記支持体が温度変化により膨張した場合に伸縮して前記支持体に張力を付与するスプリングが取付けられていることを特徴とする請求項1に記載の放射線画像変換パネルの製造装置。
【請求項3】
真空容器内において、支持体の両端を固定部材により挟持する工程と、
前記真空容器内の上方に設けられた支持体ホルダのうち、この真空容器内の底面側に面し所定の曲率半径を有する曲面に前記支持体を当接する工程と、
前記固定部材により前記支持体を張力を付与させた状態で前記支持体ホルダに固定する工程と、
前記真空容器内の底部に設けられた蒸発源から蒸発する輝尽性蛍光体を前記支持体上に蒸着させて輝尽性蛍光体層を形成する工程と、
を備えることを特徴とする放射線画像変換パネルの製造方法。
【請求項4】
前記固定部材により前記支持体を張力を付与させた状態で前記支持体ホルダに固定する工程は、前記固定部材に前記支持体が温度変化により膨張した場合に伸縮して前記支持体に張力を付与するスプリングを取付ける工程を含むことを特徴とする請求項3に記載の放射線画像変換パネルの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−37121(P2006−37121A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−214212(P2004−214212)
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】