説明

放射線画像撮影装置

【課題】放射線画像の残像補正を行う場合に、撮影時の蓄積時間に関わらず、撮影間隔を短縮することができる放射線画像撮影装置を提供する。
【解決手段】放射線画像撮影装置は、次の撮影前の放射線の非照射時に、前の放射線画像の残像データを取得し、次の撮影後、次の放射線画像のデータを取得する画像取得部と、前の放射線画像の残像データおよび次の放射線画像のデータをオフセット補正するオフセット補正部と、オフセット補正後の残像データを、次の撮影時の放射線画像データの蓄積時間に相当するデータに変換する蓄積時間補正部と、オフセット補正後の次の放射線画像のデータから、蓄積時間補正後の残像データを減算して残像補正を行う残像補正部と、撮影装置の動作を制御する制御部とを備えている。制御部は、次の撮影時の蓄積時間よりも短い短縮蓄積時間で、放射線検出器から残像データが読み出されるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を被写体に照射し、被写体を透過した放射線を検出して電気信号に変換し、変換した電気信号に基づいて放射線画像を生成する放射線画像撮影装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
放射線画像撮影装置は、例えば、医療用の診断画像や工業用の非破壊検査などを含む各種の分野で利用されている。放射線画像撮影装置において、被写体を透過した放射線(X線、α線、β線、γ線、電子線、紫外線等)を検出する放射線検出器として、現在では、放射線を電気信号に変換するフラットパネル型検出器(FPD(Flat Panel Detector))を用いるものがある。FPDを用いた放射線画像撮影装置では、被写体が撮影された放射線画像の画質低下の一因として、前に撮影した放射線画像の残像が問題となる。
【0003】
FPDを用いた放射線画像撮影装置では、放射線源から放射線を被写体に照射し、被写体を透過した放射線をFPDで電気信号に変換し、FPDから被写体の画像データに相当する電気信号を読み出して放射線画像を生成する。しかし、FPDから画像データに相当する電気信号を読み出した後にもFPDの内部には画像データに相当する電荷の一部が残留する。この状態で次の被写体を撮影すると、FPD内の残留電荷が残像として次の放射線画像に重畳され、放射線画像が残像の影響を受けた画像となる。
【0004】
そのため、放射線画像撮影装置では、次の被写体を撮影する前に、その前(次の撮影以前)に撮影された被写体の放射線画像の残像による影響を取り除く残像補正処理が行われている。残像補正処理は、通常、以下に示すステップ1〜4の手順で実施される。
【0005】
以下の説明において、Offset(x, y)は、画像データをオフセット(基準電圧レベルからのずれ)補正するためのオフセット補正用データ、Xdata(x, y)は、放射線を照射して撮影された次の被写体の放射線画像のデータ(被補正画像データ)、Lagdata(x, y)は、次の撮影を行う直前に、放射線を照射せずにFPDから読み出された前の放射線画像の残像データ、αは、残像データが読み出されてから次の撮影が行われるまでの間の残像量(残像の電荷量)の減少分を補正するための残像量の補正係数である。
【0006】
(ステップ1)
下記式(1)に示すように、残像データLagdata(x, y)からオフセット補正用データOffset(x, y)を減算することにより、残像データLagdata(x, y)をオフセット補正してオフセット補正後の残像データData1(x, y)を得る。
Data1(x, y) = Lagdata(x, y) - Offset(x, y) … (1)
【0007】
(ステップ2)
下記式(2)に示すように、オフセット補正後の残像データData1(x, y)に残像量の補正係数αを乗算することにより、オフセット補正後の残像データData1(x, y)を残像量補正して残像量補正後の残像データ(補正用画像データ)Data2(x, y)を得る。
Data2(x, y) = α×Data1(x, y) … (2)
【0008】
(ステップ3)
下記式(3)に示すように、被補正画像データXdata(x, y)からオフセット補正用データOffset(x, y)を減算することにより、被補正画像データXdata(x, y)をオフセット補正してオフセット補正後の被補正画像データData3(x, y)を得る。
Data3(x, y) = Xdata(x, y) - Offset(x, y) … (3)
【0009】
(ステップ4)
下記式(4)に示すように、オフセット補正後の被補正画像データData3(x, y)から補正用画像データData2(x, y)を減算し、被補正画像データData3(x, y)を残像補正して残像補正後の画像データData4(x, y)を得る。
Data4(x, y) = Data3(x, y) - Data2(x, y) … (4)
【0010】
なお、残像データはノイズ成分が多いため、残像補正で減算を行うことにより、残像補正後の画像データData4(x, y)のノイズ成分が部分的に増大する場合がある。そのため、下記式(5)に示すように、メディアン処理された補正用画像データmedian(Data2(x, y))を減算して残像補正後の画像データData4'(x, y)を算出する場合もある。
Data4'(x, y) = Data3(x, y) - median(Data2(x, y)) … (5)
【0011】
ここで、本発明に関連性のある先行技術文献として、例えば、特許文献1および2を例示することができる。
【0012】
特許文献1は、被検体を照射して検出された放射線検出信号に基づいて放射線画像を得るものである。同文献には、例えば、放射線の非照射時に取得した放射線検出信号と、その蓄積時間に対応したオフセット信号とに基づいてラグ画像を取得し、放射線の照射時に取得した放射線検出信号と、その蓄積時間に対応したオフセット信号とに基づいて放射線画像を取得し、取得された放射線画像からラグ画像を用いてラグ除去することでラグ補正を行うことが開示されている。
【0013】
特許文献2は、撮像部により、放射線を被写体に照射し、被写体を透過した放射線を検出する被写体の撮像に関するものである。同文献には、例えば、撮像部が撮影準備状態に移行したことを認識した直後に、撮像部による放射線照射を行うことなく暗画像を得、暗画像に基づき画像補正データを作成し、撮像部の撮影準備状態を保持しながら、撮像部により放射線照射を行い撮像データを得、画像補正データに基づき撮像データを補正することが開示されている。
【0014】
【特許文献1】国際公開第WO2007−026419号パンフレット
【特許文献2】特開2002−369077号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1では、撮影時と同じ蓄積時間で残像データを取得するので、静止画のような蓄積時間の長い画像を残像補正する場合には残像データを取得するまでにも同一の時間がかかる。そのため、ショット制限(撮影間隔調整)等の処理を加える必要がある。また、長尺撮影のような決まったシーケンスで連続撮影を行う場合にも、残像データの蓄積時間に応じて撮影間隔が長くなるという問題がある。さらに、前述の残像量補正をしていないため、残像補正の精度が悪くなることが懸念される。
【0016】
また、特許文献2では、撮影メニューの設定後から残像データの取得を始めるので、残像データを取得してから次の被写体の撮影までの時間差がさらに大きくなる。そのため、引用文献1と同様の理由で残像補正の精度が悪くなることが懸念される。
【0017】
本発明の第1の目的は、前記従来技術の問題点を解消し、放射線画像の残像補正を行う場合に、撮影時の蓄積時間に関わらず、撮影間隔を短縮することができる放射線画像撮影装置を提供することにある。
本発明の第2の目的は、上記第1の目的に加えて、残像データを読み出してから次の被写体を撮影するまでの間に残像量が減少することによって、残像補正の精度が低下することを防止することができる放射線画像撮影装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、本発明は、放射線源から放射線を被写体に照射し、前記被写体を透過した放射線をフラットパネル型の放射線検出器で検出して、前記被写体が撮影された放射線画像を生成する放射線画像撮影装置であって、
次の撮影が行われる前の放射線の非照射時に、前記放射線検出器から読み出された前の放射線画像の残像データを取得し、前記次の撮影が行われた後、前記放射線検出器から読み出された次の放射線画像のデータを取得する画像取得部と、
前記前の放射線画像の残像データをオフセット補正する第1のオフセット補正部と、
前記次の放射線画像のデータをオフセット補正する第2のオフセット補正部と、
前記オフセット補正された残像データを、前記次の撮影時の放射線画像データの蓄積時間に相当するデータに変換して蓄積時間の補正を行う蓄積時間補正部と、
前記オフセット補正された次の放射線画像のデータから、前記蓄積時間が補正された残像データを減算して前記次の放射線画像の残像補正を行う残像補正部と、
当該放射線画像撮影装置の動作を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記次の撮影時の蓄積時間よりも短い短縮蓄積時間で、前記放射線検出器から前記残像データが読み出されるように制御することを特徴とする放射線画像撮影装置を提供するものである。
【0019】
ここで、前記第1のオフセット補正部は、前記前の放射線画像の残像データの蓄積時間に応じて算出されたオフセットデータを用いて、前記前の放射線画像の残像データをオフセット補正し、前記第2のオフセット補正部は、前記次の放射線画像のデータの蓄積時間に応じて算出されたオフセットデータを用いて、前記次の放射線画像のデータをオフセット補正することが好ましい。
【0020】
さらに、前記残像データが読み出されてから前記次の撮影が行われるまでの間の、前記オフセット補正された残像データの残像量の減少分を補正する残像量補正部を備えていることが好ましい。
【0021】
また、当該放射線画像撮影装置は、撮影時の放射線画像のデータの蓄積時間が異なる複数の撮影モードを備えており、
前記制御部は、前記撮影モードが、撮影時の蓄積時間が最短の撮影モードではない場合、前記短縮蓄積時間を、撮影時の蓄積時間が最短の撮影モードにおける、前記撮影時の蓄積時間とするように制御することが好ましい。
【0022】
もしくは、前記制御部は、前記短縮蓄積時間を、当該放射線撮影装置において設定可能な最短の蓄積時間とするように制御するこが好ましい。
【0023】
さらに、撮影を指示する、2段押し型の撮影ボタンを備え、
前記制御部は、前記撮影ボタンが1段目まで押されたタイミングで、前記放射線検出器から前記前の放射線画像の残像データが読み出され、2段目まで押されたタイミングで、撮影が開始されるように制御することが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、次の放射線画像の撮影時の蓄積時間よりも短い蓄積時間で、放射線検出器から前の放射線画像の残像データを読み出すことにより、長尺撮影のような連続撮影の場合であっても、撮影間隔を短縮することができる。また、残像量補正を行うことにより、前の放射線画像の残像データの読み出しから、次の撮影までの間に残像量が減少することによって、残像補正の精度が低下することを防止することができる。
【0025】
また、本発明では、撮影ボタンが1段目まで押されたタイミングで、放射線検出器から前の放射線画像の残像データが読み出されるように制御することにより、残像データを取得するタイミングと、実際に次の撮影を行うタイミングとの時間差を短くできる。そのため、本発明の放射線画像撮影装置のユーザ(オペレータ)にショット制限による時間待ちの違和感を与えることなく、精度の高い残像補正をすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明の放射線画像撮影装置を詳細に説明する。
【0027】
図1は、本発明の放射線画像撮影装置の構成を表す一実施形態のブロック図である。同図に示す放射線画像撮影装置(以下、撮影装置ともいう)10は、放射線を被写体(被検者)Hに照射し、被写体Hを透過した放射線を検出して画像データに相当する電気信号に変換し、この変換した電気信号に基づいて、被写体Hが撮影された放射線画像を生成する。撮影装置10は、撮影部12と、撮影データ処理部14と、画像処理部16と、出力部18と、撮影指示部20と、制御部22とによって構成されている。
【0028】
撮影部12は、放射線を被写体Hに照射し、被写体Hを透過した放射線を検出することで被写体Hの撮影を行う部位である。撮影部12からは、被写体Hが撮影された放射線画像のデータ(アナログデータ)が出力される。撮影部12の詳細は後述する。
【0029】
撮影データ処理部14は、撮影部12から供給された放射線画像データに対して、A/D(アナログ/デジタル)変換等のデータ処理を行う部位である。撮影データ処理部14からは、データ処理後の放射線画像のデータ(デジタルデータ)が出力される。
【0030】
画像処理部16は、撮影データ処理部14から供給されたデータ処理後の放射線画像データに対して、オフセット補正、残像量補正、蓄積時間補正、および、残像補正等の画像処理を行う部位である。画像処理部16は、コンピュータ上で動作するプログラム(ソフトウェア)、専用のハードウェア、ないしは、両者を組み合わせて構成される。画像処理部16からは、画像処理後の放射線画像データが出力される。画像処理部16の詳細は後述する。
【0031】
出力部18は、画像処理部16から供給された画像処理後の放射線画像データを出力する部位である。出力部18は、例えば、放射線画像を画面上に表示するモニタ、放射線画像をプリント出力するプリンタ、放射線画像データを記憶する記憶装置等である。
【0032】
撮影指示部20は、撮影条件や撮影モードを設定し、被写体Hの撮影を指示する部位である。撮影指示部20として、撮影条件や撮影モードを設定するための入力キー、撮影の指示には、2段押し型の撮影ボタンが用いられている。撮影ボタンは、1段目まで押されると(半押しされると)撮影の準備状態となり、2段目まで押されると(全押しされると)撮影が開始される。撮影指示部20からは、撮影ボタンが押されていない状態、1段目ないし2段目まで押された状態のいずれかを表す撮影指示信号が出力される。
【0033】
ここで、撮影装置10には、撮影モードとして、放射線の強度および照射時間(照射量)等の撮影条件を手動で設定する手動撮影モードの他に、あらかじめ放射線の強度、照射時間などの撮影条件が設定されている、静止画などを撮影する第1の撮影モードと、長尺画像などを撮影する第2の撮影モードが設けられている。第1の撮影モードでは、第2の撮影モードと比べて撮影時の蓄積時間が長く設定されている。
【0034】
蓄積時間は、放射線検出器において、放射線が電荷に変換され、その電荷を蓄積している時間である。撮影装置10では、例えば、被写体Hの撮影時には、所定の蓄積時間の後に画像データ(放射線画像データ)が放射線検出器から読み出される。また、放射線画像データが読み出されてから、前の放射線画像の残像データが取得されるまでの間は、残像量を減らす目的で画像データ(残像データ)の空読みが所定の蓄積時間の間隔で行われる。また、次の撮影が行われる前の最後の空読みから、次の放射線画像の撮影時の蓄積時間よりも短い蓄積時間(短縮蓄積時間)の後に残像データの読み出しが行われる。
【0035】
制御部22は、撮影指示部20から供給された撮影指示信号に応じて、撮影装置10の動作を制御する部位である。制御部22は、例えば、所定の撮影条件ないし撮影モードで撮影が行われるように撮影部12を制御する。また、短縮蓄積時間で、放射線検出器から前の放射線画像の残像データが読み出されるように制御する。また、制御部22は、画像処理部16において、撮影された放射線画像データが取得され、画像処理が行われるように制御する。
【0036】
制御部22の制御の下で、次の放射線画像の撮影時の蓄積時間よりも短い蓄積時間で、FPD32から前の放射線画像の残像データを読み出すことにより、長尺撮影のような連続撮影の場合であっても、撮影間隔を短縮することができる。
【0037】
続いて、撮影部12について説明する。
【0038】
撮影部12は、照射制御部24と、放射線源26と、撮影台28と、放射線検出部30とによって構成されている。
【0039】
照射制御部24は、放射線源26を駆動して、撮影モードに応じて設定された強度の放射線が設定された時間だけ照射されるように照射量を制御する。放射線源26から照射された放射線は、撮影台28上の被写体Hを透過して放射線検出部30に入射される。
【0040】
放射線検出部30は、被写体Hを透過した放射線をFPD32で検出して電気信号(放射線画像データ)に変換する。放射線検出部30からは、被写体Hが撮影された放射線画像のデータ(アナログデータ)が出力される。FPD32は、放射線を電荷に直接変換する直接方式のFPD、もしくは、放射線を一旦光に変換し、変換された光をさらに電気信号に変換する間接方式のFPDのどちらでも利用可能である。
【0041】
直接方式のFPDは、アモルファスセレン等の光導電膜、キャパシタ、スイッチ素子としてのTFT(Thin Film Transistor)等によって構成される。例えば、X線等の放射線が入射されると、光導電膜から電子−正孔対(e−hペア)が発せられる。その電子−正孔対はキャパシタに蓄積され、キャパシタに蓄積された電荷が、TFTを介して電気信号として読み出される。
【0042】
一方、間接方式のFPDは、蛍光体で形成されたシンチレータ層、フォトダイオード、キャパシタ、TFT等によって構成される。例えば、「CsI:Tl」等の放射線が入射されると、シンチレータ層が発光(蛍光)する。シンチレータ層による発光はフォトダイオードで光電変換されてキャパシタに蓄積され、キャパシタに蓄積された電荷が、TFTを介して電気信号として読み出される。
【0043】
図示を省略しているが、放射線源26と放射線検出部30は、例えば、長尺撮影などの場合のために、撮影台28の長手方向(図1中、左右方向)に沿って往復移動が可能なように構成されている。これに対し、撮影台28を移動可能に構成してもよい。
【0044】
続いて、画像処理部16について説明する。
【0045】
画像処理部16は、図2に示すように、画像取得部34と、第1のオフセット補正部36と、第2のオフセット補正部38と、残像量補正部40と、蓄積時間補正部42と、残像補正部44とによって構成されている。
【0046】
画像取得部34は、次の撮影が行われる前の、放射線が照射されていない非照射時に、FPD32から読み出された前の放射線画像の残像データを取得する。また、画像取得部34は、次の撮影が行われた後、FPD32から読み出された次の放射線画像のデータを取得する。画像取得部34からは、前の放射線画像の残像データ、もしくは、次の放射線画像のデータが出力される。
【0047】
ここで、制御部22は、撮影ボタンが1段目まで押されたタイミングで、FPD32から前の放射線画像の残像データが読み出されるように制御するようにしてもよい。これにより、残像データを取得するタイミングと、実際に次の撮影を行うタイミングとの時間差を短くできる。そのため、撮影装置10のユーザ(オペレータ)にショット制限による時間待ちの違和感を与えることなく、精度の高い残像補正をすることができる。
【0048】
第1のオフセット補正部36は、残像データ用のオフセットデータを用いて、画像取得部34から供給された前の放射線画像の残像データをオフセット補正する。第1のオフセット補正部36からは、オフセット補正後の残像データが出力される。また、第2のオフセット補正部38は、次の放射線画像データ用のオフセットデータを用いて、画像取得部34から供給された次の放射線画像のデータをオフセット補正する。第2のオフセット補正部38からは、オフセット補正後の次の放射線画像データが出力される。
【0049】
FPD32におけるオフセット成分は、電荷を蓄積する蓄積時間に応じて変化する。撮影装置10では、前述の通り、FPD32から読み出される残像データの蓄積時間が、次の被写体Hの撮影時の放射線画像のデータの蓄積時間よりも短い時間に設定される。すなわち、残像データの蓄積時間と次の放射線画像データの蓄積時間が異なる。そのため、残像データと次の放射線画像のデータは、それぞれの蓄積時間に応じて異なるオフセットデータを使用することが望ましい。
【0050】
オフセットデータは、残像データの蓄積時間、次の撮影時の放射線画像データの蓄積時間毎に、あらかじめ算出しておく。オフセットデータの算出方法は各種の方法が公知であり、そのいずれの方法を利用して算出してもよい。
【0051】
残像量補正部40は、残像データの読み出しから次の撮影までの間の残像量の減少分(経時による残像量の減衰量分)を補正する。残像データの読み出しから次の撮影までには、非常に短時間ではあるが時間差がある。残像量は経時とともに減少するので、残像量補正部40は、残像量が次の撮影時点で読み出された場合の残像量に相当する値となるように、第1のオフセット補正部36から供給されたオフセット補正後の残像データを補正する。残像量補正部40からは、残像量補正後の残像データが出力される。
【0052】
残像量補正部40は、FPD32から読み出された残像データに対して、残像量の補正係数α(1以下の定数、例えば、0.9)を乗算することで残像量補正を行う。補正係数αは、個々のFPD32毎に決定される数値であり、あらかじめ算出される。残像補正の精度を向上させるためには、残像データの読み出しのタイミングを、次の撮影のタイミングに近づけるほど残像量の変化が少なくなるので望ましい。
【0053】
補正係数αの算出方法は、例えば、以下の通りである。すなわち、所定照射量の放射線を照射し、FPD32から一定の時間毎に放射線画像を読み出して残像量を取得し、図3に示すような残像量の経時変化の関係を表すグラフを求める。このグラフの曲線は、例えば、関数(exp(−t/τ))で表すことができる。ここで、tは時間、τは時定数である。従って、この関数から、残像データの読み出しタイミングと次の撮影タイミングに基づいて補正係数αを算出する。補正係数αは、実際の使用前、例えば、出荷検査やキャリブレーション等で、予め算出しておく。
【0054】
図3は、前の撮影からの経過時間と、残像量との関係を表すグラフである。グラフの縦軸は、前の放射線画像の残像量、横軸は、前の撮影からの経過時間を表す。このグラフに示すように、前の放射線画像の残像量は、経時とともに減少することが分かる。
【0055】
残像量補正を行うことにより、前の放射線画像の残像データを読み出してから、次の被写体を撮影するまでの間に残像量が減少することによって、残像補正の精度が低下することを防止することができる。
【0056】
蓄積時間補正部42は、残像量補正部40から供給された残像量補正後の残像データを、次の撮影時の放射線画像データの蓄積時間に相当するデータに変換して蓄積時間の補正を行う。FPD32から読み出された残像データの蓄積時間をT1とし、次の撮影時の放射線画像データの蓄積時間がT2とすると、蓄積時間補正部42は、残像量補正後の残像データに対して蓄積時間の補正係数T2/T1を乗算して蓄積時間補正を行う。蓄積時間補正部42からは、蓄積時間補正後の残像データが出力される。
【0057】
撮影装置10では、前述の通り、前の放射線画像の残像データは、次の撮影時の放射線画像のデータの蓄積時間とは異なる蓄積時間とされる。例えば、制御部22は、撮影モードが、撮影時の蓄積時間が最短の撮影モードではない場合、短縮蓄積時間を、撮影時の蓄積時間が最短の撮影モードにおける、撮影時の蓄積時間とするように制御する。あるいは、制御部22は、短縮蓄積時間を、放射線撮影装置において設定可能な最短の蓄積時間(撮影時の蓄積時間が最短の撮影モードよりも短い蓄積時間)とするように制御する。
【0058】
前述の通り、撮影装置10では、次の放射線画像の撮影時の蓄積時間よりも短い短縮蓄積時間で、FPD32から前の放射線画像の残像データが読み出されように制御される。ある一定時間後の残像量は、図4に示すように蓄積時間と正比例の関係にあり、同じ線量の放射線を照射して同じ時間が経過した後の残像量は、蓄積時間に応じて変わる。撮影装置10では、短縮蓄積時間で残像データを取得するため、実際の残像量よりも少ない残像データを取得することになる。そのため、蓄積時間補正を行うことによって、蓄積時間の違いによる残像量の変化分を補正する。
【0059】
図4は、蓄積時間と、ある一定時間後の残像量との関係を表すグラフである。グラフの縦軸は、ある一定時間後の残像量、横軸は、蓄積時間を表す。このグラフに示すように、蓄積時間が長くなると、それに正比例して、ある一定時間後の残像量が長くなることが分かる。
【0060】
残像補正部44は、第2のオフセット補正部38から供給されたオフセット補正後の次の放射線画像のデータから、蓄積時間補正部42から供給された蓄積時間補正後の残像データを減算して次の放射線画像に対して残像補正を行う。
【0061】
次に、撮影装置10の動作を説明する。ここでは、図3のグラフを参照しながら、前の撮影が行われた後、次の撮影が行われるまでの動作について説明する。
【0062】
図3のグラフに示すように、前の撮影が行われて、その放射線画像データがFPD32から読み出されてから、前の放射線画像の残像データが取得されるまでの間は、残像量を減らす目的で画像データの空読みが所定の蓄積時間の間隔で行われる。
【0063】
撮影指示部20において、ユーザにより撮影条件ないし撮影モードが設定され、撮影ボタンが1段目まで押されると、撮影装置10は、制御部22の制御の下で撮影の準備状態となる。図3のグラフに示すように、最後の空読みが行われてから短縮蓄積時間の後に、FPD32から前の放射線画像の残像データが読み出される。短縮蓄積時間は、撮影条件ないし撮影モードによって決定される次の撮影時の放射線画像データの蓄積時間に応じて決定される。
【0064】
FPD32から読み出された残像データは、撮影データ処理部14によってA/D変換等の処理が行われ、画像処理部16に供給される。画像処理部16では、撮影データ処理部14から供給された残像データが画像取得部34によって取得され、続いて、第1のオフセット補正部36によってオフセット補正され、残像量補正部40によって残像量補正された後、蓄積時間補正部42によって蓄積時間補正される。
【0065】
続いて、撮影ボタンが2段目まで押されると、図3のグラフに示すように、次の撮影が開始される。撮影が開始されると、撮影部12において、放射線源26から、撮影条件ないし撮影モードに応じて設定された強度の放射線が設定された時間だけ照射される。照射された放射線は、撮影台28上の被写体Hを透過して放射線検出部30のFPD32に入射され、被写体Hを透過した放射線が電気信号(放射線画像データ)に変換される。
【0066】
同様にして、FPD32から、撮影された放射線画像のデータが読み出され、撮影データ処理部14によってA/D変換等の処理が行われ、画像処理部16に供給される。画像処理部16では、撮影データ処理部14から供給された放射線画像データが画像取得部34によって取得され、第2のオフセット補正部38によってオフセット補正され、残像補正部44により、蓄積時間補正された残像データを用いて残像補正される。
【0067】
残像補正後の放射線画像データは出力部18に供給される。出力部18では、例えば、残像補正後の放射線画像をモニタ上に表示したり、プリンタからプリント出力したり、放射線画像データを記憶装置に保存したりして利用される。
【0068】
撮影装置10における残像補正は、以下に示すステップ1〜5の手順で実施される。
【0069】
以下の説明において、Offset1(x, y)は、前の放射線画像の残像データをオフセット補正するための残像データ用オフセットデータである。Offset2(x, y)は、次の放射線画像データをオフセット補正するための次の放射線画像データ用オフセットデータである。また、被補正画像データXdata(x, y)、前の放射線画像の残像データLagdata(x, y)、残像量の補正係数α、残像データの蓄積時間T1、次の撮影時の放射線画像データの蓄積時間T2は前述の通りである。
【0070】
(ステップ1)
下記式(6)に示すように、残像データLagdata(x, y)から残像データ用オフセットデータOffset1(x, y)を減算することにより、残像データLagdata(x, y)をオフセット補正してオフセット補正後の残像データData1(x, y)を得る。
Data1(x, y) = Lagdata(x, y) - Offset1(x, y) … (6)
【0071】
(ステップ2)
下記式(7)に示すように、オフセット補正後の残像データData1(x, y)に残像量の補正係数αを乗算することにより、オフセット補正後の残像データData1(x, y)を残像量補正して残像補量補正後の残像データData2(x, y)を得る。
Data2(x, y) = α×Data1(x, y) … (7)
【0072】
(ステップ3)
下記式(8)に示すように、残像補量補正後の残像データData2(x, y)に蓄積時間の補正係数T2/T1を乗算することにより、残像補量補正後の残像データData2(x, y)を蓄積時間補正して蓄積時間補正後の残像データ(補正用画像データ)Data3(x, y)を得る。
Data3(x, y) = Data2(x, y)×T2/T1 … (8)
【0073】
(ステップ4)
下記式(9)に示すように、被補正画像データXdata(x, y)からオフセット補正用データOffset2(x, y)を減算することにより、被補正画像データXdata(x, y)をオフセット補正してオフセット補正後の被補正画像データData4(x, y)を得る。
Data4(x, y) = Xdata(x, y) - Offset2(x, y) … (9)
【0074】
(ステップ5)
下記式(10)に示すように、オフセット補正後の被補正画像データData4(x, y)から補正用画像データData3(x, y)を減算することにより、被補正画像データData4(x, y)を残像補正して残像補正後の画像データData5(x, y)を得る。
Data5(x, y) = Data4(x, y) - Data3(x, y) … (10)
【0075】
なお、残像データはノイズ成分が多いため、残像補正で減算を行うことにより、残像補正後の画像データData5(x, y)のノイズ成分が部分的に増大する場合がある。そのため、下記式(11)に示すように、メディアン処理された補正用画像データmedian(Data3(x, y))を減算して残像補正後の画像データData5'(x, y)を算出することが望ましい。
Data5'(x, y) = Data4(x, y) - median(Data3(x, y)) … (11)
【0076】
なお、本発明において、残像量補正は必須ではないが、残像量補正を行う方が、残像量(補正用画像データ)の精度を向上させることができるので、残像補正の精度を向上させるためにも望ましい。また、あらかじめ撮影条件が設定されている撮影モードは、実施形態のように2つの撮影モードに限定されず、1つ以上であれば、いくつの撮影モードが設けられていてもよい。
【0077】
本発明は、基本的に以上のようなものである。
以上、本発明の放射線画像撮影装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の放射線画像撮影装置の構成を表す一実施形態のブロック図である。
【図2】図1に示す画像処理部の構成を表すブロック図である。
【図3】前の撮影からの経過時間と、残像量との関係を表すグラフである。
【図4】蓄積時間と、ある一定時間後の残像量との関係を表すグラフである。
【符号の説明】
【0079】
10 放射線画像撮影装置
12 撮影部
14 撮影データ処理部
16 画像処理部
18 出力部
20 撮影指示部
22 制御部
24 照射制御部
26 放射線源
28 撮影台
30 放射線検出部
32 FPD
34 画像取得部
36 第1のオフセット補正部
38 第2のオフセット補正部
40 残像量補正部
42 蓄積時間補正部
44 残像補正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線源から放射線を被写体に照射し、前記被写体を透過した放射線をフラットパネル型の放射線検出器で検出して、前記被写体が撮影された放射線画像を生成する放射線画像撮影装置であって、
次の撮影が行われる前の放射線の非照射時に、前記放射線検出器から読み出された前の放射線画像の残像データを取得し、前記次の撮影が行われた後、前記放射線検出器から読み出された次の放射線画像のデータを取得する画像取得部と、
前記前の放射線画像の残像データをオフセット補正する第1のオフセット補正部と、
前記次の放射線画像のデータをオフセット補正する第2のオフセット補正部と、
前記オフセット補正された残像データを、前記次の撮影時の放射線画像データの蓄積時間に相当するデータに変換して蓄積時間の補正を行う蓄積時間補正部と、
前記オフセット補正された次の放射線画像のデータから、前記蓄積時間が補正された残像データを減算して前記次の放射線画像の残像補正を行う残像補正部と、
当該放射線画像撮影装置の動作を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記次の撮影時の蓄積時間よりも短い短縮蓄積時間で、前記放射線検出器から前記残像データが読み出されるように制御することを特徴とする放射線画像撮影装置。
【請求項2】
前記第1のオフセット補正部は、前記前の放射線画像の残像データの蓄積時間に応じて算出されたオフセットデータを用いて、前記前の放射線画像の残像データをオフセット補正し、前記第2のオフセット補正部は、前記次の放射線画像のデータの蓄積時間に応じて算出されたオフセットデータを用いて、前記次の放射線画像のデータをオフセット補正することを特徴とする請求項1に記載の放射線画像撮影装置。
【請求項3】
さらに、前記残像データが読み出されてから前記次の撮影が行われるまでの間の、前記オフセット補正された残像データの残像量の減少分を補正する残像量補正部を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の放射線画像撮影装置。
【請求項4】
当該放射線画像撮影装置は、撮影時の放射線画像のデータの蓄積時間が異なる複数の撮影モードを備えており、
前記制御部は、前記撮影モードが、撮影時の蓄積時間が最短の撮影モードではない場合、前記短縮蓄積時間を、撮影時の蓄積時間が最短の撮影モードにおける、前記撮影時の蓄積時間とするように制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の放射線画像撮影装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記短縮蓄積時間を、当該放射線撮影装置において設定可能な最短の蓄積時間とするように制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の放射線画像撮影装置。
【請求項6】
さらに、撮影を指示する、2段押し型の撮影ボタンを備え、
前記制御部は、前記撮影ボタンが1段目まで押されたタイミングで、前記放射線検出器から前記前の放射線画像の残像データが読み出され、2段目まで押されたタイミングで、撮影が開始されるように制御することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の放射線画像撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−204310(P2009−204310A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−43831(P2008−43831)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】