説明

放射線画像検出装置及び放射線画像検出装置に用いられるゲイン設定方法

【課題】A/D変換後の画像補正を複雑にすることなく、適切な濃度階調が描出された高画質なX線画像を得る。
【解決手段】放射線の照射終了後、FPDの撮像領域における一次元の入射線量の分布である線量プロファイルを測定する。線量プロファイルの最大値と最小値の差Δdであるコントラストに基づいて、信号電荷を読み出す際のゲインの値を決定する。ゲインは、コントラストが大きい場合には小さい値に、コントラストが小さい場合には大きい値に決定される。コントラストが小さい場合にゲインを大きくすることで、A/D変換器のダイナミックレンジを有効利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線画像を検出する放射線画像検出装置及び放射線画像検出装置に用いられるゲイン設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野において、放射線、例えばX線を利用したX線撮影システムが知られている。X線撮影システムは、X線を発生するX線源を有するX線発生装置と、X線源が発生し被写体を透過したX線の照射を受けて、被写体の画像情報を表すX線画像を検出するX線画像検出装置とからなる。X線画像検出装置としては、従来のX線フイルムやイメージングプレート(IP)の代わりに、X線画像検出器(FPD:Flat Panel Detector)を利用したものが実用化されている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載されているように、FPDは、X線の入射量に応じた信号電荷を蓄積する複数の画素がマトリクス状に配列された撮像領域を有する検出パネルと、各画素が蓄積した信号電荷を電圧信号として出力する電圧出力回路や、電圧信号をデジタルデータに変換するA/D変換器を有する、画像読み出し用の信号処理回路とを備えている。
【0004】
各画素に蓄積される電荷量に応じた電圧信号は、X線画像の濃度階調を表す画素値に変換される。画素値は、A/D変換器のビット数で決まるダイナミックレンジ内のデジタル値で表される。特許文献1には、A/D変換器のダイナミックレンジを有効利用するために、FPDに入射するX線の線量に応じて、電圧信号を増幅する増幅器(アンプ)の増幅率(ゲイン)を設定可能なFPDが記載されている。
【0005】
FPDに入射するX線の線量は、撮影部位などによって決められる撮影条件に応じて異なる。線量に比例して画素が蓄積する信号電荷の電荷量は増えるので、線量が多い場合は濃度が高いX線画像が、線量が少ない場合は濃度が低いX線画像が得られる。特許文献1のFPDでは、入射するX線の線量を測定して、線量が多い画像に対してはゲインを小さく、線量が少ない画像に対してはゲインを大きく設定することで、A/D変換器のダイナミックレンジを有効利用している。
【0006】
線量が少ない場合にゲインを上げれば、低濃度域を表す画素値をダイナミックレンジに見合った大きさに引き上げることができ、反対に、線量が大きい場合にゲインを下げれば、高濃度域を表す画素値が飽和することなくダイナミックレンジ内に収まる。これにより画像の濃度に応じた適切な濃度階調が描出された高画質なX線画像が得られる。
【0007】
特許文献1には、ゲインの設定方法として、ゲインの値を1つ決定し、1画面の画像を読み出す際には、その値のゲインを1画面内の全画素に対して一律に適用する第1の方法と、特許文献1には、撮像領域内の中央部と周辺部というように複数の領域毎に線量を測定して、各領域の線量に応じて領域毎に異なる値のゲインを設定する第2の方法が記載されている。これによれば、1画面の画像を読み出す際に、複数の領域の濃度に応じた値のゲインが設定されるため、より適切な濃度階調が描出されたX線画像を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−219538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、1画面の全画素に対して一律に同じ値のゲインを設定する第1の方法では、撮像領域の全域に入射する線量の合計値(撮像領域に入射する総線量)に基づいてゲインが設定されるため、線量の合計値が同じ場合には、濃度差が大きい高濃度域と低濃度域が混在し、最大濃度と最低濃度の濃度差(コントラスト)が大きい画像と、全体的に中間的な濃度を持ち最大濃度と最低濃度の濃度差(コントラスト)が小さい画像の2つの画像とを区別できない。そのため、画像のコントラストの大小にかかわらず、線量の合計値が同じ場合には同じ値のゲインが設定されてしまうため、適切な濃度階調を描出できない場合がある。
【0010】
これに対して、1画面内の複数の領域毎にゲインを設定する第2の方法では、1画面内の領域間の濃度差に応じた値のゲインが設定されるため、第1の方法に比べて、領域毎に適切な濃度階調が描出できるというメリットがある。しかしながら、第2の方法は、特許文献1にも記載(段落0116)されているように、A/D変換後の画像補正において、領域毎に設定されたゲインに応じた修正処理が必要になるため、A/D変換後の画像補正(オフセット補正や感度補正)が複雑になるという問題が生じる。
【0011】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたもので、その目的は、A/D変換後の画像補正を複雑にすることなく、適切な濃度階調が描出された高画質なX線画像を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の放射線画像検出装置は、放射線の入射量に応じた信号電荷を蓄積する複数の画素が行及び列の二次元に配列された撮像領域と、前記各画素に前記信号電荷を蓄積させる蓄積動作と前記各画素から前記信号電荷を読み出す読み出し動作とを行わせるためのスイッチング素子と、各画素に行単位又は列単位で接続され前記放射線の入射量に応じた電流が流れる複数の配線とを有し、放射線源から照射され被写体を透過した放射線を受けて被写体の放射線画像を検出する検出パネルと、前記画素から読み出された前記信号電荷を電圧信号に変換して、前記電圧信号を増幅して出力する電圧出力回路と、出力された前記電圧信号をデジタルデータに変換するA/D変換器とを含む信号処理回路と、前記読み出し動作の開始前に、前記スイッチング素子がオフされた状態で前記複数の配線に流れる前記電流を検出して、前記撮像領域内における、少なくとも前記放射線の入射線量の一次元の分布を表す線量プロファイルを測定する線量プロファイル測定手段と、前記線量プロファイルのコントラストに応じて、前記電圧信号を増幅する増幅率であるゲインの値を1つ決定し、決定した値のゲインを前記電圧出力回路に設定するゲイン設定手段とを備えていることを特徴とする。
【0013】
前記ゲイン設定手段は、前記コントラストが小さいほど前記ゲインの値を大きくすることが好ましい。
【0014】
前記コントラストは、前記線量プロファイルにおける最大値と最小値の差である。前記ゲイン設定手段は、前記コントラストに加えて、前記最小値に基づいて前記ゲインの値を決定してもよい。前記線量プロファイルは、前記撮像領域の一部の線量プロファイルでもよい。撮像領域の一部の線量プロファイルとして、例えば関心領域に対応する線量プロファイルを用いれば、関心領域の濃度に応じた適切なゲインを設定できる。
【0015】
前記配線は、前記撮像領域内において前記画素に列単位で接続され、前記画素から前記信号電荷を読み出すための信号線であり、前記線量プロファイル測定手段は、前記スイッチング素子がオフ状態のときに前記画素から前記信号線にリークするリーク電流を検出することにより、前記線量プロファイルを測定することが好ましい。
【0016】
前記電圧出力回路は、信号線毎に接続されており、前記線量プロファイル測定手段は、前記リーク電流に応じて前記電圧出力回路が出力する出力電圧を読み出して前記線量プロファイルを測定することが好ましい。前記リーク電流に応じた前記出力電圧の読み出し時には、前記電圧出力回路のゲインを最大にすることが好ましい。
【0017】
前記線量プロファイル測定手段は、前記リーク電流を検出することにより、前記信号線の配列方向の一次元の前記線量プロファイルを測定することが好ましい。
【0018】
前記線量プロファイル測定手段は、X線の照射開始後、各行の画素から前記信号線に流れ出す前記リーク電流の時間差を利用して、前記撮像領域内の二次元の前記線量プロファイルを測定することが好ましい。
【0019】
前記線量プロファイル測定手段は、前記放射線の照射終了後に前記線量プロファイルの測定を開始することが好ましい。
【0020】
前記画素にバイアス電圧を印加するためのバイアス線を利用し、前記線量プロファイル測定手段は、前記スイッチング素子がオフ状態のときに前記バイアス線に流れるバイアス電流を検出することにより、前記線量プロファイルを測定してもよい。
【0021】
本発明の放射線画像検出装置に用いられるゲイン設定方法は、放射線の入射量に応じた信号電荷を蓄積する複数の画素が行及び列の二次元に配列された撮像領域と、前記各画素に前記信号電荷を蓄積させる蓄積動作と前記各画素から前記信号電荷を読み出す読み出し動作とを行わせるためのスイッチング素子と、各画素に行単位又は列単位で接続され前記放射線の入射量に応じた電流が流れる複数の配線と、前記画素から読み出された前記信号電荷を電圧信号に変換して、前記電圧信号を増幅して出力する電圧出力回路と、出力された前記電圧信号をデジタルデータに変換するA/D変換器とを含む信号処理回路とを有し、放射線源から照射され被写体を透過した放射線を受けて前記被写体の放射線画像を検出する放射線画像検出装置に用いられ、前記電圧信号を増幅する増幅率であるゲインを設定するゲイン設定方法において、前記読み出し動作の開始前に、前記スイッチング素子がオフされた状態で前記複数の配線に流れる前記電流を検出して、前記撮像領域内における、少なくとも前記放射線の入射線量の一次元の分布を表す線量プロファイルを測定する線量プロファイル測定ステップと、前記線量プロファイルのコントラストに応じて、前記電圧信号を増幅する増幅率であるゲインの値を1つ決定し、決定した値のゲインを前記電圧出力回路に設定するゲイン設定ステップとを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、放射線の照射開始後、信号電荷の読み出し動作を開始する前に、撮像領域における少なくとも一次元の線量プロファイルを測定し、線量プロファイルのコントラストに応じて、ゲインの値を1つ決定し、その値のゲインで読み出し動作を行うから、A/D変換後の画像補正を複雑にすることなく、適切な濃度階調が描出された高画質なX線画像が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】X線撮影システムの構成を示す概略図である。
【図2】FPDの電気的な構成を示す図である。
【図3】線量プロファイルの説明図である。
【図4】ゲインを決定するためのLUTの説明図である。
【図5】コントラストに応じたゲインの設定方法の説明図である。
【図6】線量プロファイルの測定方法の説明図である。
【図7】ゲイン設定方法の手順を示すフローチャートである。
【図8】関心領域の線量プロファイルのコントラストの説明図である。
【図9】二次元の線量プロファイルの説明図である。
【図10】リーク電流の時間差の説明図である。
【図11】各行の画素のリーク電圧の読み出し方法の説明図である。
【図12】バイアス電流に基づいて線量プロファイルを測定する場合のFPDの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1において、X線撮影システム10は、X線発生装置11と、X線撮影装置12とからなる。X線発生装置11は、X線源13と、X線源13を制御する線源制御装置14と、照射スイッチ15とで構成される。X線源13は、X線を放射するX線管13aと、X線管13aが放射するX線の照射野を限定する照射野限定器(コリメータ)13bとを有する。
【0025】
X線管13aは、熱電子を放出するフィラメントからなる陰極と、陰極から放出された熱電子が衝突してX線を放射する陽極(ターゲット)とを有している。照射野限定器13bは、例えば、X線を遮蔽する複数枚の鉛板を井桁状に配置し、X線を透過させる照射開口が中央に形成されたものであり、鉛板の位置を移動することで照射開口の大きさを変化させて、照射野を限定する。
【0026】
線源制御装置14は、X線源13に対して高電圧を供給する高電圧発生器と、X線源13が照射するX線のエネルギースペクトルを決める管電圧、単位時間当たりの照射量を決める管電流、およびX線の照射時間を制御する制御部とからなる。高電圧発生器は、トランスによって入力電圧を昇圧して高圧の管電圧を発生し、高電圧ケーブルを通じてX線源13に駆動電力を供給する。管電圧、管電流、照射時間といった撮影条件は、線源制御装置14の操作パネルを通じて放射線技師などのオペレータにより手動で設定される他、X線撮影装置12から通信ケーブルを介して設定される。
【0027】
照射スイッチ15は、放射線技師によって操作され、線源制御装置14に信号ケーブルで接続されている。照射スイッチ15は二段階押しのスイッチであり、一段階押しでX線源13のウォームアップを開始させるためのウォームアップ開始信号を発生し、二段階押しでX線源13に照射を開始させるための照射開始信号を発生する。これらの信号は信号ケーブルを通じて線源制御装置14に入力される。
【0028】
線源制御装置14は、照射スイッチ15からの制御信号に基づいて、X線源13の動作を制御する。照射スイッチ15から照射開始信号を受けた場合、線源制御装置14は、X線源13への電力供給を開始するとともに、タイマを作動させてX線の照射時間の計測を開始する。そして、撮影条件で設定された照射時間が経過すると、X線の照射を停止させる。X線の照射時間は、撮影条件に応じて変化するが、静止画撮影の場合には、X線の最大照射時間が約500msec〜約2s程度の範囲に定められている場合が多く、照射時間はこの最大照射時間を上限として設定される。
【0029】
X線撮影装置12は、電子カセッテ21、撮影台22、撮影制御装置23、およびコンソール24から構成される。電子カセッテ21は、FPD36(図2参照)と、FPD36を収容する可搬型の筐体とからなり、X線源13から照射されて被検体(被写体)Hを透過したX線を受けて被検体HのX線画像を検出する、可搬型の放射線画像検出装置である。電子カセッテ21は、平面形状が略矩形の偏平な筐体を有し、平面サイズはフイルムカセッテやIPカセッテと略同様の大きさである。
【0030】
撮影台22は、電子カセッテ21が着脱自在に取り付けられるスロットを有し、X線が入射する入射面がX線源13と対向する姿勢で電子カセッテ21を保持する。電子カセッテ21は、筐体のサイズがフイルムカセッテやIPカセッテと略同様の大きさであるため、フイルムカセッテやIPカセッテ用の撮影台にも取り付け可能である。なお、撮影台22として、被検体Hを立位姿勢で撮影する立位撮影台を例示しているが、被検体Hを臥位姿勢で撮影する臥位撮影台でもよい。
【0031】
撮影制御装置23は、有線方式や無線方式により電子カセッテ21と通信可能に接続されており、電子カセッテ21を制御する。具体的には、電子カセッテ21に対して撮影条件を送信して、FPD36の信号処理の条件を設定させるとともに、X線源13の照射タイミングとFPD36の蓄積動作を同期させるための同期信号をX線発生装置11から受信して、これを電子カセッテ21に送信することにより、X線源13とFPD36の同期制御を行う。また、撮影制御装置23は、電子カセッテ21が出力する画像データを受信してコンソール24に送信する。
【0032】
コンソール24は、患者の性別、年齢、撮影部位、撮影目的といった情報が含まれる検査オーダの入力を受け付けて、検査オーダをディスプレイに表示する。検査オーダは、HIS(病院情報システム)やRIS(放射線情報システム)といった患者情報や放射線検査に係る検査情報を管理する外部システムから入力されるか、放射線技師などのオペレータにより手動入力される。オペレータは、検査オーダの内容をディスプレイで確認し、その内容に応じた撮影条件をコンソール24の操作画面を通じて入力する。
【0033】
コンソール24は、撮影制御装置23に対して撮影条件を送信するとともに、撮影制御装置23から送信されるX線画像のデータに対して、ガンマ補正、周波数処理等の各種画像処理を施す。画像補正処理済みのX線画像はコンソール24のディスプレイに表示される他、そのデータがコンソール24内のハードディスクやメモリ、あるいはコンソール24とネットワーク接続された画像蓄積サーバといったデータストレージデバイスに格納される。
【0034】
図2において、FPD36は、TFTアクティブマトリクス基板を有し、この基板上にX線の入射量に応じた信号電荷を蓄積する複数の画素37を配列してなる撮像領域38を有する検出パネル35と、画素37を駆動して信号電荷の読み出しを制御するゲートドライバ39と、画素37から読み出された信号電荷をデジタルデータに変換して出力する信号処理回路40と、ゲートドライバ39と信号処理回路40を制御して、FPD36の動作を制御する制御回路41とを備えている。複数の画素37は、所定のピッチで二次元にn行(x方向)×m列(y方向)のマトリクスに配列されている。
【0035】
FPD36は、X線を可視光に変換するシンチレータ(図示せず)を有し、シンチレータによって変換された可視光を画素37で光電変換する間接変換型である。シンチレータは、画素37が配列された撮像領域38の全面と対向するように配置されている。シンチレータは、CsI(ヨウ化セシウム)やGOS(ガドリニウムオキシサルファイド)などの蛍光体からなる。なお、X線を直接電荷に変換する変換層(アモルファスセレン等)を用いた直接変換型のFPDを用いてもよい。
【0036】
画素37は、可視光の入射によって電荷(電子−正孔対)を発生する光電変換素子であるフォトダイオード42、フォトダイオード42が発生した電荷を蓄積するキャパシタ(図示せず)、およびスイッチング素子として薄膜トランジスタ(TFT)43を備える。
【0037】
フォトダイオード42は、a−Si(アモルファスシリコン)などの半導体層(例えばPIN型)を有し、その上下に上部電極および下部電極が配されている。フォトダイオード42は、下部電極にTFT43が接続され、上部電極にはバイアス線44が接続される。
【0038】
バイアス線44は、撮像領域38内の画素37の行数分(n行分)設けられる。バイアス線44は、各行の複数の画素37に接続される共通配線であり、結線45で結束されて、バイアス電源46に繋がれている。結線45、バイアス線44を通じて、バイアス電源46からフォトダイオード42の上部電極にバイアス電圧Vbが印加される。バイアス電圧Vbの印加により半導体層内に電界が生じ、光電変換により半導体層内で発生した電荷(電子−正孔対)は、一方がプラス、他方がマイナスの極性を持つ上部電極と下部電極に移動し、キャパシタに電荷が蓄積される。
【0039】
TFT43は、ゲート電極が走査線47に、ソース電極が信号線48に、ドレイン電極がフォトダイオード42にそれぞれ接続される。走査線47と信号線48は格子状に配線されている。走査線47は撮像領域38内の画素37の行数分(n行分)設けられ、各走査線47は各行の複数の画素37に接続される共通配線である。信号線48は画素37の列数分(m列分)設けられ、各信号線48は各列の複数の画素37に接続される共通配線である。各走査線47はゲートドライバ39に接続され、各信号線48は信号処理回路40に接続される。
【0040】
ゲートドライバ39は、TFT43を駆動することにより、X線の入射量に応じた信号電荷を画素37に蓄積する蓄積動作と、画素37から信号電荷を読み出す読み出し動作と、画素37に蓄積される電荷をリセットするリセット動作とを行わせる。制御回路41は、ゲートドライバ39によって実行される上記各動作の開始タイミングを制御する。
【0041】
蓄積動作ではTFT43がオフ状態にされ、その間に画素37に信号電荷が蓄積される。読み出し動作では、ゲートドライバ39から同じ行のTFT43を一斉に駆動するゲートパルスG1〜Gnを順次発生して、走査線47を一行ずつ順に活性化し、走査線47に接続されたTFT43を一行分ずつオン状態とする。
【0042】
一行分のTFT43がオン状態になると、一行分の画素37のそれぞれに蓄積された信号電荷が、各信号線48を通じて信号処理回路40に入力される。信号処理回路40において、一行分の信号電荷は後述する電圧出力回路55で電圧に変換されて出力され、各信号電荷に応じた出力電圧が、電圧信号D1〜Dmとして読み出される。アナログの電圧信号D1〜Dmはデジタルデータに変換されて、一行分の各画素の濃度を表すデジタルな画素値である画像データが生成される。画像データは、電子カセッテ21の筐体に内蔵されるメモリ56に出力される。
【0043】
フォトダイオード42の半導体層には、X線の入射の有無に関わらず暗電流が発生する。暗電流に応じた電荷である暗電荷はバイアス電圧Vbが印加されているためにキャパシタに蓄積される。暗電荷は、画像データに対してはノイズ成分となるので、これを除去するためにリセット動作が行われる。リセット動作は、画素37において発生する暗電荷を、画素37から信号線48を通じて掃き出す動作である。
【0044】
リセット動作は、例えば、一行ずつ画素37をリセットする順次リセット方式で行われる。順次リセット方式では、信号電荷の読み出し動作と同様、ゲートドライバ39から走査線47に対してゲートパルスG1〜Gnを順次発生して、画素37のTFT43を一行ずつオン状態にする。TFT43がオン状態になっている間、画素37から暗電荷が信号線48を通じて信号処理回路40に入力される。
【0045】
リセット動作では、読み出し動作と異なり、信号処理回路40において、暗電荷に応じた出力電圧の読み出しは行われない。リセット動作では、各ゲートパルスG1〜Gnの発生と同期して、制御回路41から信号処理回路40にリセットパルスRSTが出力される。信号処理回路40においてリセットパルスRSTが入力されると、後述する積分アンプ49のリセットスイッチ49aがオンされて、入力された暗電荷がリセットされる。
【0046】
順次リセット方式に代えて、配列画素の複数行を一グループとしてグループ内で順次リセットを行い、グループ数分の行の暗電荷を同時に掃き出す並列リセット方式や、全行にゲートパルスを入れて全画素の暗電荷を同時に掃き出す全画素リセット方式を用いてもよい。並列リセット方式や全画素リセット方式によりリセット動作を高速化することができる。
【0047】
信号処理回路40は、積分アンプ(積分回路)49、MUX50、増幅器53、S/H部54、およびA/D変換器51等からなる。積分アンプ49は、各信号線48に対して個別に接続される。積分アンプ49は、オペアンプとオペアンプの入出力端子間に接続されたキャパシタとからなり、信号線48はオペアンプの一方の入力端子に接続される。積分アンプ49のもう一方の入力端子(図示せず)はグランド(GND)に接続される。積分アンプ49は、信号線48から入力される信号電荷を積算し、電圧信号D1〜Dmに変換して出力する。
【0048】
各列の積分アンプ49の出力端子には、増幅器53が接続されている。増幅器53は、積分アンプ49が出力する電圧信号D1〜Dmを、設定された値のゲインで増幅する。増幅器53は、例えばオペアンプの出力を入力側に帰還させて入力電圧を増幅して出力する増幅器であり、オペアンプの入力端子に接続する入力抵抗(図示せず)と、オペアンプの入力端子と出力端子の間に接続される帰還抵抗(図示せず)との抵抗値の比を変化させることにより、ゲインの変更が可能なゲイン可変増幅器である。増幅器53のゲインの値は、制御回路41から入力されるゲイン制御信号(GN)により、入力抵抗や帰還抵抗の抵抗値を変化させることにより変更させる。
【0049】
サンプルホールド(S/H)部54は、増幅器53の出力側に接続されており、増幅器53が出力する電圧信号D1〜Dmを保持し、保持した電圧信号D1〜DmをMUX50に出力する。S/H部54は、MUX50に接続される。積分アンプ49、増幅器53、S/H部54及びMUX50は、電圧出力回路55を構成する。MUX50の出力側には、A/D変換器51が接続される。
【0050】
MUX50は、パラレルに接続される複数のS/H部54から順に1つのS/H部54を選択し、選択したS/H部54から出力される電圧信号D1〜DmをシリアルにA/D変換器51に入力する。
【0051】
A/D変換器51は、例えば8ビットや12ビットのビット数を持つものが使用され、8ビットであれば256階調の、12ビットであれば4096階調のダイナミックレンジを持つ。A/D変換器51は、そのダイナミックレンジ内で、アナログの電圧信号D1〜Dmをそれぞれの信号レベルに応じたデジタルな画素値に変換する。A/D変換器51のダイナミックレンジが広いほど、描出可能な濃度域が広がる。また、ある濃度域を描出する場合には、A/D変換器51のダイナミックレンジが広いほど、濃度分解能が高くなるため、細かな濃度階調の表現が可能となる。
【0052】
蓄積動作後、信号電荷を読み出す読み出し動作においては、ゲートパルスによってTFT43が一行ずつオン状態にされ、一行内の各列の画素37のキャパシタに蓄積された信号電荷が信号線48を介して各電圧出力回路55に入力される。
【0053】
電圧出力回路55から一行分の電圧信号D1〜Dmが出力されると、制御回路41は、積分アンプ49に対してリセットパルス(リセット信号)RSTを出力し、積分アンプ49のリセットスイッチ49aをオンする。これにより、積分アンプ49に蓄積された一行分の信号電荷がリセットされる。積分アンプ49がリセットされると、ゲートドライバ39から次の行のゲートパルスが出力され、次の行の画素37の信号電荷の読み出しを開始させる。これらの動作を順次繰り返して全行の画素37の信号電荷を読み出す。
【0054】
全行の読み出しが完了すると、一画面分のX線画像を表す画像データがメモリ56に記録される。画像データは、メモリ56から読み出されて通信部34を通じて撮影制御装置23に出力される。こうして被検体HのX線画像が検出される。
【0055】
また、制御回路41は、読み出し動作における増幅器53のゲインの値を決定するために、撮像領域38に入射するX線の入射線量の分布を表す線量プロファイルを測定する線量プロファイル測定動作を実行する。制御回路41は、測定した線量プロファイルのコントラストに応じてゲインの値を決定し、ゲイン制御信号GNを増幅器53に送信することにより、決定した値のゲインを増幅器53に設定する。ゲインは、1画面分の画像の読み出しには1つの値が用いられ、撮像領域38内の全画素37の信号電荷の読み出しに対して一律に適用される。
【0056】
線量プロファイルは、各信号線48の配列方向(x方向:行方向)のX線の入射線量の分布であり、撮像領域38の一次元(x方向)についてではあるが、被検体HのX線画像の濃度分布を表す濃度プロファイルである。図2に示すように、各信号線48には、信号線48が延びるy方向(列方向)に沿ってそれぞれ複数の画素37が接続されており、線量プロファイルは、1本の信号線48に接続された一列分の画素37に入射するX線の線量の合計値を、列毎にプロットしたものである。
【0057】
図3において、X線画像Pは、線量プロファイルを説明するためのX線画像の例であり、説明を簡便にするために、人体などの被検体Hの代わりに、楕円形をした単純な構造物を被写体として撮影した画像である。被写体は、その内部においてX線の減弱係数は一様で、被写体の全域においてX線の透過量は同じである。X線画像Pにおいて、被写体の周囲のハッチング部分は、被写体による減衰がなくX線が入射する素抜け領域を示す。
【0058】
このようなX線画像Pの場合には、各信号線48の配列方向(x方向)の線量プロファイルは、X線画像Pの下方に示すようなグラフになる。この線量プロファイルは、x方向の両端部の素抜け領域においては、信号線48に沿った列方向(y方向)において全画素37にX線が減衰せずに入射するため、それらの画素37の入射線量の積算値である濃度は最大値(max)を示す。そして、楕円形の被写体が位置する領域においては、素抜け領域が減少する。被写体は楕円形をしているため、楕円の端部から中心に向かってy方向における素抜け領域の幅が減少する。楕円の中心において素抜け領域の幅は最小となるため、楕円形の端部から中心に向かって、列毎の線量の積算値も減少し、楕円の中心における濃度が最小値(min)となる。
【0059】
制御回路41は、まず、測定した線量プロファイルから、例えば欠陥画素に対応する画素値などの異常値を取り除く。そして異常値が取り除かれた線量プロファイルの濃度の最大値と最小値の差Δdであるコントラストを算出し、コントラストに応じてゲインの値を決定する。
【0060】
図4のグラフに示すように、制御回路41は、コントラストが大きいほどゲインの値を小さく、コントラストが小さいほどゲインの値が大きくなるようにゲインの値を決定する。制御回路41には、図4のグラフに示されるような、コントラストとゲインの値の対応関係を表すテーブルデータを格納したLUT57(図2参照)が接続されている。制御回路41は、算出したコントラストに対応するゲインの値をLUT57から読み出すことにより、ゲインの値を決定する。もちろんLUT57を利用する代わりに、コントラストとゲインの対応関係を表す演算式を用いた演算により、ゲインの値を決定してもよい。
【0061】
図5(A)に示すように、例えば線量プロファイルの濃度の最大値が「90」、最小値が「30」、その差が「60」というように、線量プロファイルのコントラストが比較的大きい場合にはゲインの値gを小さく、例えば「1」に決定する。ゲインの値gが「1」の場合には、最大値「90」×g(「1」)=「90」、最小値「30」×g(「1」)=「30」、その差は「60」となり、ゲインを掛ける前後においてコントラストに変化は無い。
【0062】
なお、図5において、A/D変換器51のダイナミックレンジは、8ビット(256階調)の場合を例示している。また、図5に示す例では、説明の便宜上、線量プロファイルの濃度値に対してゲインを掛ける例で説明しているが、実際には各画素37の濃度を表す電圧信号Dに対してゲインが掛けられる。
【0063】
一方、図5(B)に示すように、線量プロファイルの濃度の最大値が「90」、最小値が「60」、その差が「30」というように、コントラストが比較的小さい場合には、ゲインの値gを大きく、例えば「1.5」に決定する。ゲインの値gが「1.5」の場合には、最大値「90」×g(「1.5」)=「135」、最小値「60」×g(「1.5」)=「90」、その差は「45」となり、ゲインを掛ける前後においてコントラストが大きくなる(「30」→「45」)。
【0064】
このように線量プロファイルのコントラストが小さい場合には、A/D変換器51のダイナミックレンジを使い切るようにゲインを大きくする。ゲインを大きくすると、各画素37の電圧信号Dに応じた画素値のコントラスト(最大値と最小値の差)が大きくなるため、A/D変換器51のダイナミックレンジを有効に使用することができ、細かな濃度階調の表現が可能になる。一方、線量プロファイルのコントラストが大きい場合には、ゲインが大き過ぎると、画素値がA/D変換器51のダイナミックレンジに収まらないおそれもあるため、制御回路41は、画素値がダイナミックレンジに収まるように電圧信号Dのゲインを小さくする。これにより、画像の濃度域に応じて適切な濃度階調が描出されたX線画像が得られる。
【0065】
上記線量プロファイルは一次元ではあるものの画像のコントラストを反映したものであるので、線量プロファイルのコントラストに応じてゲインを設定することで、画像の濃度に応じた適切な濃度階調を描出することができる。
【0066】
図6を参照して、線量プロファイル測定動作を含むFPD36の動作を説明する。FPD36は、撮影条件が設定されると、X線の照射が開始されるまでの間、各行の走査線47に対してゲートパルスG1〜Gnを順次出力してリセット動作を繰り返す。そして、照射スイッチ15が操作されてX線の照射が開始されると、X線発生装置11からの照射開始信号に同期して、全画素37のTFT43をオフ状態にして蓄積動作に移行する。リセット動作から蓄積動作に移行するタイミングは、照射開始信号を受信後、最終行の走査線47に対するゲートパルスGnが出力されて、仕掛かり中の1画面分のリセット動作が終了した時点である。
【0067】
線量プロファイル測定動作は、X線源13からのX線の照射開始後、蓄積動作を経て、信号電荷の読み出し動作が開始されるまでの間に、本例においては、X線の照射が終了した終了した直後に線量プロファイル測定動作が開始される。制御回路41は、X線の照射開始から内蔵タイマでX線の照射時間を計測して、照射時間が経過した時点でX線の照射終了を検出する。
【0068】
制御回路41は、X線の照射終了後に、TFT43をオフにした状態で、画素37から信号線48に漏れるリーク電流を検出することにより、線量プロファイルを測定する。リーク電流の大きさは、各画素37に蓄積される信号電荷CPに比例するので、リーク電流は、各画素37に入射する線量に応じて大きくなる。
【0069】
図6において、出力電圧Vは、積分アンプ49の出力電圧である。積分アンプ49に対して、信号線48に接続された複数の画素37からのリーク電流が入力されると、積分アンプ49は、リーク電流の積算値に対応するリーク電荷CLを蓄積し、そのリーク電荷CLに応じた出力電圧Vであるリーク電圧VLを出力する。
【0070】
X線の照射が開始されると、画素37に蓄積される信号電荷CPはX線の入射量に応じて上昇する。信号電荷CPが蓄積されると、オフ状態のTFT43を介して信号電荷CPの一部が信号線48にリークして、リーク電流が流れる。信号線48にリーク電流が流れると、積分アンプ49に蓄積されるリーク電荷CLが増加し、そのときの積分アンプ49の出力電圧Vであるリーク電圧VLも上昇する。
【0071】
図6において、X線の照射が終了して信号電荷CPの増加が停止した後もリーク電荷CLが増加しているが、これは、リーク電荷CLが、信号線43に接続された複数の画素37からリークするリーク電荷の積算値であり、積分アンプ49からの距離に応じて、各画素37のリーク電荷が積分アンプ49に到達するまでの到達時間に時間差が生じるためである。積分アンプ49に近いほど、その画素37からのリーク電荷の到達時間は早く、遠いほど到達時間は遅い。そのため、積分アンプ49から遠い位置にある画素37のリーク電荷が信号電荷CPの増加停止後に積分アンプ49に到達することもあるので、信号電荷CPの増加停止後においても、リーク電荷CLが増加する。
【0072】
なお、図6においては、説明の便宜上、リーク電荷CLの値は誇張されており、実際には、リーク電荷CLの値は信号電荷CPに対して僅かである。
【0073】
制御回路41は、X線の照射終了後、所定のタイミングで信号処理回路40に対して指令を与えて、リーク電圧VLを読み取る。具体的には、X線の照射終了後、積分アンプ49から遠い位置にある画素37のリーク電荷が積分アンプ49に到達するまでの遅延時間を考慮して、リーク電圧VLを読み取るタイミングが設定される。
【0074】
MUX50は、積分アンプ49を順次選択してそれぞれのリーク電圧VLを読み取り、読み取ったリーク電圧VLがA/D変換器51によってデジタル値に変換されてメモリ56に記録される。制御回路41は、そのデジタル値を読み出して線量プロファイルを生成し、線量プロファイルのコントラストを算出する。そして、LUT57を参照してコントラストに応じたゲインの値を決定する。制御回路41は、決定した値のゲインを増幅器53に設定する。
【0075】
線量プロファイル測定動作は、TFT43をオフした状態で、画素37からリーク電流を検出することにより行われるため、TFT43をオンして電荷を読み出す場合と比べて、画素37に蓄積された信号電荷CPのロス(被検体Hに照射されたX線のロス)が少ない。また、本例においては、線量プロファイルの測定に信号電荷読み出し用の信号処理回路40を利用しているので、専用の測定回路を利用する場合と比べて、部品コストが抑えられる。
【0076】
線量プロファイル測定動作が終了すると、制御回路41からリセットパルスRSTが出力されて積分アンプ49内のリーク電荷CLがリセットされる。この後、1行目の走査線47に対するゲートパルスG1から、各走査線47にゲートパルスが順次出力されて、各画素37の信号電荷CPの読み出し動作が行われる。TFT43がオンされて、信号電荷CPが信号線48を通じて積分アンプ49に入力されると、積分アンプ49の出力電圧Vは、信号電荷CPの量に応じて上昇する。この出力電圧Vが電圧信号Dとして読み取られる。
【0077】
図2に戻って、画像補正部58は、メモリ56に出力されX線画像のデータに対して、FPD36の個体差や環境に起因して生じる固定パターンノイズであるオフセット成分を除去するオフセット補正や、各画素37のフォトダイオード42の感度のばらつきや電圧出力回路55の出力特性のばらつきなどを補正するための感度補正といった画像補正処理を施す。
【0078】
オフセット補正や感度補正は、電子カセッテ21の起動時や定期的に行われるキャリブレーション処理において取得されるオフセット補正データや感度補正データを用いて行われる。オフセット補正データは、X線を照射せずにFPD36から読み出した1画面分の画像データである。オフセット補正データには、各画素37における暗電流特性のばらつきを表す固定パターンノイズや各電圧出力回路55の出力特性のばらつきなどのノイズ成分が反映される。信号電荷にはこうしたノイズ成分が含まれるので、被検体Hを撮影したX線画像のデータからオフセット補正データを画素毎に減算することで、X線画像のデータからノイズ成分が除去される。
【0079】
感度補正データは、被検体Hが無い状態でX線を照射してFPD36から読み出した1画面分の画像データから、オフセット補正データを画素毎に減算して係数化したものである。感度補正データには、各画素37の感度のばらつきが反映される。オフセット補正後のX線画像に対して感度補正データを画素毎に乗算することで、各画素37の感度のばらつきに起因する濃度変動が補正される。
【0080】
画像補正が施されたX線画像は、通信部59によって撮影制御装置23を介してコンソール24に送信される。
【0081】
上記構成による作用について、図7に示すフローチャートを参照しながら説明する。被検体Hの撮影を行う際には、電子カセッテ21がセットされた撮影台22の高さ調節などにより被検体Hの撮影部位と電子カセッテ21との相対位置のポジショニングや、撮影条件の設定などの撮影準備作業が行われる。撮影条件が設定されると、電子カセッテ21のFPD36はリセット動作を開始する。
【0082】
撮影準備作業が終了後、照射スイッチ15が押下されると、線源制御装置14は、X線源13に対してウォームアップ開始信号及び照射開始信号を送信する。X線源13は、照射開始信号を受信すると、X線の照射を開始する(S101)。照射開始信号は、線源制御装置14から撮影制御装置23に対しても送信され、撮影制御装置23は、受信した照射開始信号を電子カセッテ21に送信する。
【0083】
電子カセッテ21の制御回路41は、照射開始信号を受信すると、X線の照射が開始されたことを検出してリセット動作を停止して、蓄積動作を開始させる(S102)。そして、蓄積動作の開始時に内蔵タイマによってX線の照射時間の計測を開始する。制御回路41は、X線の照射時間が経過すると、X線の照射終了を検出して(S103)、線量プロファイル測定動作を開始する(S104)。
【0084】
線量プロファイル測定動作において、制御回路41は、TFT43をオフした状態のまま、信号処理回路40によって、各信号線48に接続された積分アンプ49のリーク電圧VLを読み出して、各信号線43の配列方向(x方向)の線量プロファイルを測定する(S104)。制御回路41は、測定した線量プロファイルのコントラスト(最大値と最小値の差)を算出する。そして、LUT57を参照してコントラストに応じたゲインの値を決定し、その値のゲインを増幅器53に設定する(S105)。
【0085】
制御回路41は、ゲインを設定すると、読み出し動作を開始させる(S106)。読み出し動作では、ゲートドライバ39から各走査線47に対してゲートパルスが順次出力され、1行単位で画素37の信号電荷が読み出される。積分アンプ49が出力する電圧信号Dは、増幅器53によって、設定されたゲインで増幅されて出力される。図4、5に示すように、コントラストが大きい場合にはゲインは小さく、コントラストが小さい場合にはゲインは大きく設定されるので、A/D変換器51のダイナミックレンジを有効に利用することができ、画像の濃度に応じた適切な濃度階調を描出できる。
【0086】
また、増幅器53のゲインは全画素37に対して一律に適用されるため、本発明は、ゲインを領域毎に変更する従来と比べて、A/D変換後の画像補正部58におけるオフセット補正や感度補正などの画像補正が複雑にならない。具体的には、従来技術で述べた特許文献1に記載の第2の方法のように領域毎にゲインの値を変えると、同じ濃度の画素37であっても、領域が異なればゲインの値が変化するため画素値が変わってしまう。そのため、画像補正においてはゲインの値を考慮してオフセット補正や感度補正を行う必要がある。これに対して、本発明は全画素37に対して一律に適用すれば、そうした必要はないため、画像補正が複雑にならない。
【0087】
また、本発明では、ゲインの値を決定するための線量プロファイルの測定は、TFT43がオフされた状態で信号線48に漏れるリーク電流を利用して行っている。そのため、TFT43をオンして画素37から信号電荷を読み出すことにより線量プロファイルを測定する場合と比較して、信号電荷のロスが少ない。信号電荷の量はX線の入射線量に対応するので、線量プロファイルの測定のためにX線の線量を増加させるといった必要もなくなり、被検体Hの被曝量が増加することもない。また、リーク電流に応じたリーク電荷の量は信号電荷の量と比較して僅かであるため、信号電荷を読み出すよりも読み出し時間が短時間で済むので、測定時間も短い。
【0088】
また、上記電圧出力回路55において、ゲインを増幅器53で変更する例で説明したが、ゲインをMUX50で変更してもよい。
【0089】
また、リーク電流は僅かであるため、リーク電圧VLの読み出し時には電圧出力回路55のゲインの値を最大にしておくのが好ましい。もちろん、信号電荷を読み出す際には、電圧出力回路55のゲインは、線量プロファイルのコントラストに応じた値に設定される。
【0090】
また、上記例では、制御回路41は、線量プロファイルのコントラストのみに基づいてゲインの値を決定する例で説明したが、コントラストに加えて、線量プロファイルの最小値を考慮してゲインの値を決定してもよい。コントラストが小さくても最小値が高いときは、ゲインを大きくし過ぎると画素値が飽和してしまう場合があるからである。その反対に、コントラストが大きくても最小値が小さければ、ダイナミックレンジに余裕がある場合もある。
【0091】
そのため、制御回路41は、コントラストが小さくても最小値が高いときは、コントラストのみに基づいて決定したゲインの値よりもゲインの値を低めにし、反対にコントラストが大きくても最小値が小さいときは、コントラストのみに基づいて決定したゲインの値よりもゲインの値を高めにする。
【0092】
また、上記例では、撮像領域38内に配される全信号線48のリーク電流に基づいて、信号線48の配列方向(x方向)の全域の線量プロファイルを測定して、その線量プロファイルのコントラストを調べてゲインを設定する例を示したが、信号線48の配列方向の全域の線量プロファイルのコントラストではなく、一部の領域の線量プロファイルのコントラストを調べてゲインを設定してもよい。
【0093】
例えば、図8に示すように、被写体の一部(例えば、被検体Hの関心領域など)の領域の線量プロファイルのコントラスト(Δd)に基づいてゲインを設定してもよい。こうすれば、関心領域以外の濃度の影響が少なくなり、より関心領域のコントラストに応じたゲインが設定されるので、関心領域の濃度に適した濃度階調が描出できる。
【0094】
この場合には、例えば撮像領域38の中心付近に関心領域が配置されるようにポジショニングを行った上で撮影を行う。制御回路41に対しては、線量プロファイルのうちコントラストを調べる範囲が予め指定される。制御回路41は、撮像領域38の全域の線量プロファイルのうち、指定された範囲(撮像領域38の中心付近)におけるコントラストを算出する。もちろん、この場合には、全信号線48からリーク電流を読み出す必要はなく、指定された範囲のみのリーク電流を読み出して線量プロファイルを測定してもよい。
【0095】
また、上記例では、線量プロファイル測定動作を、X線の照射終了後に開始する例で説明したが、X線の照射終了前に開始してもよい。X線の照射終了前であっても、リーク電流は信号線48に流れはじめているので、線量プロファイルの測定は可能である。ただし、上記例のように各行のリーク電流の積分アンプ49への到達時間には時間差があるので、X線の照射終了後、到達時間の時間差を考慮したタイミングで線量プロファイル測定動作を開始することが好ましい。
【0096】
また、上記例では、撮像領域38内の信号線48の配列方向(x方向)の一次元の線量プロファイルを測定し、そのコントラストに基づいてゲインを設定しているが、図9に示すように、x方向とy方向の二次元の線量プロファイルを測定してゲインを設定してもよい。図9に示す線量プロファイルは、図3及び図8で示した楕円形の被写体を撮影した場合の例である。二次元の線量プロファイルは、1画面内の画素37毎の濃度分布を表すので、そのコントラストに応じたゲインを設定することで、一次元の線量プロファイルを利用する場合よりも、より画像の濃度に適した濃度階調を描出できる。
【0097】
二次元の線量プロファイルを測定する場合には、リーク電流を用いて次のように行う。上述したとおり、各画素37からのリーク電荷が積分アンプ49に到達する到達時間には積分アンプ49からの距離に応じた時間差がある。例えば、図10に示すように、各行の画素37からのリーク電荷をCL1〜CLnとすると、各リーク電荷CL1〜CLnは、積分アンプ49に一番近い最終行の画素37のリーク電荷CLnから順に積分アンプ49に入力され、1行目の画素37のリーク電荷CL1が最後に入力される。
【0098】
図11に示すように、積分アンプ49にはリーク電荷CLnから順に蓄積され、積分アンプ49が出力するリーク電圧VLは、リーク電荷CL1〜CLnの蓄積量に応じて上昇する。各行のリーク電荷CL1〜CLnの到達時間には時間差があるので、制御回路41は、その時間差に応じた間隔T毎にリーク電圧VLを読み出して、逐次内部メモリに記録する。リーク電圧VLは、その時点におけるリーク電荷CLの積算値に応じた値であるので、制御回路41は、最新のリーク電圧VLから前回読み出したリーク電圧VLの差を求めて、各行の画素37のリーク電荷CL1〜CLnに応じたリーク電圧ΔVL1〜ΔVLnを算出する。
【0099】
制御回路41は、リーク電圧ΔVL1〜ΔVLnをプロットすることで、信号線48に沿った方向(y方向)の線量プロファイルを測定する。制御回路41は、各信号線48のy方向の線量プロファイルを、x方向に配列して、x方向とy方向の二次元の線量プロファイルを得る。そして、制御回路41は、測定した二次元の線量プロファイルに基づいてその最大値と最小値のコントラストを算出し、算出したコントラストに応じてゲインの値を決定し、決定した値のゲインを増幅器53に設定する。
【0100】
また、上記例では、リーク電流に基づいて線量プロファイルを測定しているが、リーク電流の代わりに、特許文献1に記載されているようにバイアス電流に基づいて線量プロファイルを測定してもよい。
【0101】
この場合には、図12に示すように、撮像領域38内において画素37に行単位に接続される各バイアス線44に電流計61を配置し、各バイアス線44に流れるバイアス電流が計測される。バイアス電流の大きさは、画素37に蓄積される電荷量と比例する。1本のバイアス線44には、1行分の画素37が接続されているため、各バイアス線44には、各行の画素37に蓄積される電荷量の積算値に応じたバイアス電流が流れる。制御回路41は、各電流計61の計測値を読み出して、x方向の一次元の線量プロファイルを測定する。本例のバイアス線44は行単位に接続されており、信号線48と直交しているので、x方向の一次元の線量プロファイルが測定されるが、バイアス線44を信号線48と平行に配設してもよい。こうすれば、y方向の一次元の線量プロファイルが測定される。
【0102】
このようにリーク電流の代わりにバイアス電流を利用して線量プロファイルを測定することも可能だが、バイアス電流を利用する場合には電流計などの追加部品が必要となり部品コストが増加する。上述したように、リーク電流を利用する場合には、線量プロファイルの測定に信号処理回路40を利用できるため部品コストの増加もない。また、リーク電流の場合には、二次元の線量プロファイルを測定できるといったメリットもある。そのため、バイアス電流を利用するよりも、リーク電流を利用して線量プロファイルを測定することが好ましい。
【0103】
なお、本発明に係るX線撮影システムは、上記実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない限り種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【0104】
上記例では、電子カセッテ21は、X線発生装置11からの照射開始信号を受けてX線の照射開始を検出しているが、X線発生装置11と通信することなく、電子カセッテ21においてX線の照射開始を自己検出してもよい。照射開始の自己検出の方法としては、例えば、リセット動作時の積分アンプ49の出力電圧の上昇、TFT43がオフされた状態におけるリーク電圧の上昇、バイアス電流の上昇を監視する方法など各種の方法があり、いずれの方法でもよい。
【0105】
また、X線撮影システム10は病院の撮影室に据え置かれるタイプに限らず、回診車に搭載されるタイプや、X線源13、線源制御装置14、電子カセッテ21、撮影制御装置23等を事故、災害等の緊急医療対応が必要な現場や在宅診療を受ける患者の自宅に持ち運んでX線撮影を行うことが可能な可搬型のシステムに適用してもよい。
【0106】
上記例では、電子カセッテと撮影制御装置を別体で構成した例で説明したが、撮影制御装置の機能を電子カセッテの制御回路に内蔵する等、電子カセッテと撮影制御装置を一体化してもよい。
【0107】
上記実施形態では、可搬型のX線画像検出装置である電子カセッテを例に説明したが、据え置き型のX線画像検出装置に本発明を適用してもよい。
【0108】
本発明は、X線に限らず、γ線等の他の放射線を使用する撮影システムにも適用することができる。
【符号の説明】
【0109】
10 X線撮影システム
11 X線発生装置
12 X線撮影装置
13 X線源
14 線源制御装置
21 電子カセッテ
23 撮影制御装置
24 コンソール
36 FPD
37 画素
40 信号処理回路
41 制御回路(線量プロファイル測定手段、ゲイン設定手段)
43 TFT
44 バイアス線
45 結線
46 バイアス電源
48 信号線
49 積分アンプ
53 増幅器
55 電圧出力回路
61 電流計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線の入射量に応じた信号電荷を蓄積する複数の画素が行及び列の二次元に配列された撮像領域と、前記各画素に前記信号電荷を蓄積させる蓄積動作と前記各画素から前記信号電荷を読み出す読み出し動作とを行わせるためのスイッチング素子と、各画素に行単位又は列単位で接続され前記放射線の入射量に応じた電流が流れる複数の配線とを有し、放射線源から照射され被写体を透過した放射線を受けて被写体の放射線画像を検出する検出パネルと、
前記画素から読み出された前記信号電荷を電圧信号に変換して、前記電圧信号を増幅して出力する電圧出力回路と、出力された前記電圧信号をデジタルデータに変換するA/D変換器とを含む信号処理回路と、
前記読み出し動作の開始前に、前記スイッチング素子がオフされた状態で前記複数の配線に流れる前記電流を検出して、前記撮像領域内における、少なくとも前記放射線の入射線量の一次元の分布を表す線量プロファイルを測定する線量プロファイル測定手段と、
前記線量プロファイルのコントラストに応じて、前記電圧信号を増幅する増幅率であるゲインの値を1つ決定し、決定した値のゲインを前記電圧出力回路に設定するゲイン設定手段とを備えていることを特徴とする放射線画像検出装置。
【請求項2】
前記ゲイン設定手段は、前記コントラストが小さいほど前記ゲインの値を大きくすることを特徴とする請求項1記載の放射線画像検出装置。
【請求項3】
前記コントラストは、前記線量プロファイルにおける最大値と最小値の差であることを特徴とする請求項1又は2記載の放射線画像検出装置。
【請求項4】
前記ゲイン設定手段は、前記コントラストに加えて、前記最小値に基づいて前記ゲインの値を決定することを特徴とする請求項3記載の放射線画像検出装置。
【請求項5】
前記線量プロファイルは、前記撮像領域の一部の線量プロファイルであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の放射線画像検出装置。
【請求項6】
前記配線は、前記撮像領域内において前記画素に列単位で接続され、前記画素から前記信号電荷を読み出すための信号線であり、
前記線量プロファイル測定手段は、前記スイッチング素子がオフ状態のときに前記画素から前記信号線にリークするリーク電流を検出することにより、前記線量プロファイルを測定することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の放射線画像検出装置。
【請求項7】
前記電圧出力回路は、信号線毎に接続されており、
前記線量プロファイル測定手段は、前記リーク電流に応じて前記電圧出力回路が出力する出力電圧を読み出して前記線量プロファイルを測定することを特徴とする請求項6記載の放射線画像検出装置。
【請求項8】
前記リーク電流に応じた前記出力電圧の読み出し時には、前記電圧出力回路のゲインを最大にすることを特徴とする請求項7記載の放射線画像検出装置。
【請求項9】
前記線量プロファイル測定手段は、前記リーク電流を検出することにより、前記信号線の配列方向の一次元の前記線量プロファイルを測定することを特徴とする請求項7又は8記載の放射線画像検出装置。
【請求項10】
前記線量プロファイル測定手段は、X線の照射開始後、各行の画素から前記信号線に流れ出す前記リーク電流の時間差を利用して、前記撮像領域内の二次元の前記線量プロファイルを測定することを特徴とする請求項7又は8記載の放射線画像検出装置。
【請求項11】
前記線量プロファイル測定手段は、前記放射線の照射終了後に前記線量プロファイルの測定を開始することを特徴とする請求項10記載の放射線画像検出装置。
【請求項12】
前記配線は、前記画素に行単位又は列単位で接続され、前記画素にバイアス電圧を印加するためのバイアス線であり、
前記線量プロファイル測定手段は、前記スイッチング素子がオフ状態のときに前記バイアス線に流れるバイアス電流を検出することにより、前記線量プロファイルを測定することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の放射線画像検出装置。
【請求項13】
放射線の入射量に応じた信号電荷を蓄積する複数の画素が行及び列の二次元に配列された撮像領域と、前記各画素に前記信号電荷を蓄積させる蓄積動作と前記各画素から前記信号電荷を読み出す読み出し動作とを行わせるためのスイッチング素子と、各画素に行単位又は列単位で接続され前記放射線の入射量に応じた電流が流れる複数の配線と、前記画素から読み出された前記信号電荷を電圧信号に変換して、前記電圧信号を増幅して出力する電圧出力回路と、出力された前記電圧信号をデジタルデータに変換するA/D変換器とを含む信号処理回路とを有し、放射線源から照射され被写体を透過した放射線を受けて前記被写体の放射線画像を検出する放射線画像検出装置に用いられ、前記電圧信号を増幅する増幅率であるゲインを設定するゲイン設定方法において、
前記読み出し動作の開始前に、前記スイッチング素子がオフされた状態で前記複数の配線に流れる前記電流を検出して、前記撮像領域内における、少なくとも前記放射線の入射線量の一次元の分布を表す線量プロファイルを測定する線量プロファイル測定ステップと、
前記線量プロファイルのコントラストに応じて、前記電圧信号を増幅する増幅率であるゲインの値を1つ決定し、決定した値のゲインを前記電圧出力回路に設定するゲイン設定ステップとを備えていることを特徴とする放射線画像検出装置に用いられるゲイン設定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−161553(P2012−161553A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25852(P2011−25852)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】