説明

放射線療法中の頭頸部癌患者において動的ACE−PETを用いる腫瘍の灌流及び酸化的代謝のイメージング

本発明は、頭頸部癌を診断するための最適PETトレーサーの使用方法を提供する。腫瘍の灌流及び酸化的代謝を評価するための非侵襲的方法であって、頭頸部癌の放射線療法(RT)及び唾液腺機能の評価で使用するのに適したPETトレーサーを用いるインビボイメージングのための方法が提供される。かかるPETトレーサーを含む医薬品及びかかる医薬品を調製するためのキットも提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頭頸部癌の放射線療法に関するイメージングのために使用できる陽電子放出断層撮影(PET)トレーサーの開発に関する。本発明は、具体的には、腫瘍の灌流及び酸化的代謝を評価するための非侵襲的方法であって、頭頸部癌の放射線療法(RT)及び唾液腺機能の評価に適したPETトレーサーのインビボイメージング用途のための方法に関する。かかる化合物を含む医薬品及びかかる医薬品を調製するためのキットも提供される。
【背景技術】
【0002】
短寿命の陽電子放出型放射性核種(例えば、18F及び11C)で標識されたトレーサーは、多くの受容体イメージング試験のために好ましい陽電子放出核種である。したがって、放射性標識リガンドは多種多様の疾患を定量的に検出しかつ特徴づけるために陽電子放出断層撮影(PET)で有用であるので、大きな臨床的可能性を有している。
【0003】
頭頸部の扁平上皮癌は、初期段階で診断されれば治癒可能である。腫瘍の正確な診断及びステージングは共に、予後及び治療戦略の決定にとって重要である。コンピューター断層撮影(CT)、磁気共鳴イメージング(MRI)及び超音波検査のような通常の解剖学的イメージング技術は、サイズ及び局部的腫瘍伸展の評価のため日常的に使用されている。しかし、これらの技術のすべてに関連する固有の制限が存在する(Vermeersch H, Loose D, Ham H, Otte A, Van de Wiele C. Nuclear medicine imaging for the assessment of primary and recurrent head and neck carcinoma using routinely available tracers. Eur J Nucl Med Mol Imaging 2003; 30:1689-700)。
【0004】
陽電子放出断層撮影(PET)は、腫瘍の生物学的特性を非侵襲的に検出する能力を向上させることができる。頭頸部癌における腫瘍のステージング、腫瘍再発の識別及び治療応答の予測のため、18F−フルオロ−2−デオキシ−D−グルコース(FDG)−PETが広く適用されてきた(Greven KM. Positron-emission tomography for head and neck cancer. Semin Radiat Oncol 2004; 14:121-9, Schwartz DL, Ford EC, Rajendran J, Yueh B, Coltrera MD, Virgin J, et al. FDG-PET/CT-guided intensity modulated head and neck radiotherapy: a pilot investigation. Head Neck 2005; 27:478-87, Avril NE, Weber WA. Monitoring response to treatment in patients utilizing PET. Radiol Clin North Am 2005; 43:189-204)。また、総腫瘍体積の画定におけるPETの使用も増加している(Paulino AC, Johnstone PA. FDG-PET in radiotherapy treatment planning: Pandora's box? Int J Radiat Oncol Biol Phys 2004; 59:4-5)。
【0005】
FDGは、エネルギー要求量の増加のため、悪性細胞中への取込みが高いグルコース類似体である(Strauss LG, Conti PS. The applications of PET in clinical oncology. J Nucl Med 1991; 32:623-48)。しかし、FDGは特異的な腫瘍マーカーではない。それは炎症組織中に蓄積し、また十分に分化した腫瘍を発見するには限界がある(Goerres GW, Von Schulthess GK, Hany TF. Positron emission tomography and PET CT of the head and neck: FDG uptake in normal anatomy, in benign lesions, and in changes resulting from treatment. AJR Am J Roentgenol 2002; 179:1337-43, Delbeke D, Coleman RE, Guiberteau MJ, Brown ML, Royal HD, Siegel BA, et al. Procedure guideline for tumor imaging with 18F-FDG PET/CT 1.0. J Nucl Med 2006; 47:885-95)。したがって、頭頸部癌におけるPETの効率を向上させるための新しいトレーサーの開発が必要である。
【0006】
いくつかの最近の研究は、11C−アセテート(「ACE」)が若干の癌タイプ(例えば、肺癌、肝細胞癌、腎臓癌、前立腺癌及び星状細胞腫)に対する有用なトレーサーであり得ることを実証している(Higashi K, Ueda Y, Matsunari I, Kodama Y, Ikeda R, Miura K, et al. 11C-acetate PET imaging of lung cancer: comparison with 18F-FDG PET and 99mTc-MIBI SPET. Eur J Nucl Med Mol Imaging 2004; 31:13-21, Ho CL, Yu SC, Yeung DW. 11C-acetate PET imaging in hepatocellular carcinoma and other liver masses. J Nucl Med 2003; 44:213-21, Fricke E, Machtens S, Hofmann M, van den Hoff J, Bergh S, Brunkhorst T, et al. Positron emission tomography with 11C-acetate and 18F-FDG in prostate cancer patients. Eur J Nucl Med Mol Imaging 2003; 30:607-11, Shreve P, Chiao PC, Humes HD, Schwaiger M, Gross MD. Carbon-11-acetate PET imaging in renal disease. J Nucl Med 1995; 36:1595-601, Liu RS, Chang CP, Chu LS, Chu YK, Hsieh HJ, Chang CW, et al. PET imaging of brain astrocytoma with 1-(11)C-acetate. Eur J Nucl Med Mol Imaging 2006; 33:420-7)。Ho他(Ho CL, Yu SC, Yeung DW. 11C-acetate PET imaging in hepatocellular carcinoma and other liver masses. J Nucl Med 2003; 44:213-21)は、十分に分化した肝細胞癌が増加したACE取込み及び最少のFDG取込みを示すことを報告した。これらの所見は、ACE及び18F−アセテートが肝細胞癌のPETイメージングにおいてFDGを補足するラジオトレーサーとして高い感度及び特異性を有し得ることを表していた。
【0007】
しかし、頭頸部癌におけるACE−PET及び18F−アセテートPETに関する現在の知識はわずかである。頭頸部癌は致命的な悪性疾患であって、その治療目的のためには外科手術、化学療法及び/又は放射線療法(RT)の組合せが使用される。したがって、この分野におい高い感度及び特異性を有する新しい分子イメージング技術を開発することがますます要望されている。増加しつつある証拠の数々は、癌における中間代謝の変化を治療結果に結び付けている。したがって本発明は、ACE−PETを用いて被験体における腫瘍の灌流及び酸化的代謝をインビボで評価するための非破壊的方法を提供する。この方法は、放射線療法に対する不良な応答を予測する代謝異常を文書化するために使用できる。このように、腫瘍の酸化的代謝の回復は癌療法を改善するための可能な標的である。
【0008】
本明細書中における参考文献の考察又は引用は、かかる参考文献が本発明に対する先行技術であることを容認するものと解すべきでない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2008/023251号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
長く感じられていた頭頸部癌の最適ステージングの必要性に鑑み、腫瘍の灌流及び酸化的代謝を評価するためのさらに進んだ非侵襲的方法が要求されている。これらの方法は、頭頸部癌を有する被験体にPETトレーサーを投与することを含むであろう。かかる化合物を含む医薬品及びかかる医薬品を調製するためのキットも提供される。
【0011】
本発明の一実施形態では、腫瘍の灌流及び酸化的代謝を評価するための非侵襲的方法であって、頭頸部癌を有する被験体に対するPETトレーサーのインビボ投与を含む方法が開示される。この場合、PETトレーサーはACE又は18F−アセテートであり得る。
【0012】
本発明の別の実施形態は、頭頸部癌を有する被験体において腫瘍の灌流及び酸化的代謝を評価するための非侵襲的方法であって、PETトレーサーの医薬組成物の投与を含む方法である。本発明のさらに別の実施形態では、PETトレーサーを哺乳動物への投与に適した形態で生体適合性キャリヤーと共に含んでなる医薬組成物が開示される。
【0013】
本発明のさらに別の実施形態では、被験体における頭頸部癌に対する個人別RT治療を含む、腫瘍の灌流及び酸化的代謝を評価するための非侵襲的方法であって、PETトレーサーの化合物の医薬組成物を投与する段階、腫瘍の輪郭を描写する段階、及び腫瘍に個人別放射線量を与える段階を含む方法が開示される。
【0014】
本発明はまた、被験体における頭頸部癌に対する個人別RT治療を含む、腫瘍の灌流及び酸化的代謝を評価するための非侵襲的方法であって、PETトレーサーの化合物の医薬組成物を投与する段階、唾液腺機能を評価する段階、及び腫瘍に個人別放射線量を与える段階を含む方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、完全寛解(CR)及び部分寛解(PR)を有する患者において、酸化的代謝速度(OXm)を放射線量に対してプロットして示している。(*)ベースラインに対してP<0.05。
【図2】図2は、完全寛解(CR)及び部分寛解(PR)を有する患者において、平均腫瘍相対灌流(rF)累積線量に対してプロットして示している。2群間に有意差は観られなかった。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、癌における中間代謝の変化と治療結果との間のリンクを明らかにする。詳しくは、ACE−PETを用いて腫瘍の酸化的代謝及び栄養灌流がインビボで測定される。本発明はさらに、コンピューター断層撮影(CT)、磁気共鳴イメージング断層撮影(MRI)及びFDG−PETより最適のステージングを有する陽電子放出断層撮影(PET)によって明らかになる最適PETトレーサー取込みを調べることで頭頸部癌を有する患者を検査することにも関する。
【0017】
PETイメージングは、陽電子を放出する放射性トレーサー分子を使用する断層撮影用核イメージング技術である。陽電子が電子に出会った場合、両者は消滅し、結果としてγ線の形態でエネルギーが放出され、これがPETスキャナーによって検出される。生体によって使用される天然物質をトレーサー分子として使用することで、PETは生体内の構造に関する情報を提供するばかりでなく、生体又はその特定領域の生理学的機能に関する情報も提供する。さらに、トレーサー分子の選択は何を走査するかに依存する。一般に、検査対象領域に蓄積するか、或いは特定タイプの組織(例えば、癌細胞)によって選択的に取り込まれるトレーサーが選択される。走査は、放射性トレーサー分子が検査対象の生化学的プロセスに入る時間間隔後に得られる動的シリーズ又は静止画像からなる。スキャナーは、トレーサー分子の空間的及び時間的分布を検出する。PETはまた、放射性トレーサー分子の領域濃度の測定を可能にする定量的イメージング方法でもある。PETトレーサー中に常用される放射性核種は、11C、18F、15O、13N又は76Brである。
【0018】
さらに、短寿命の陽電子放出型放射性核種(例えば、11C、t1/2=20.3分)で標識されたトレーサーが、PETと組み合わされた各種の非侵襲的インビボ試験においてしばしば使用される。標識物質の放射性、短い半減期及びマイクロモル以下の量のため、これらのトレーサーの製造には普通と異なる合成方法が必要とされる。これらの方法を構築する際の重要な部分は、新しい11C及び18F標識前駆体の開発及び取扱いである。これは、新しいタイプの化合物を標識するためばかりでなく、所定の化合物を様々な位置で標識する可能性を高めるためにも重要である。
【0019】
化合物が11Cで標識される場合、比放射能を最大にすることが通常重要である。これを達成するためには、同位体希釈度及び合成時間を最小にしなければならない。標識反応で[11C]二酸化炭素を使用する場合、大気中二酸化炭素からの同位体希釈度は実質的に大きい。一酸化炭素の低い反応性及び低い大気中濃度(CO2に関する3.4×104ppmに対して0.1ppm)のため、この問題は[11C]一酸化炭素を用いる反応によって低減される。
【0020】
本発明では、被験体において頭頸部癌を診断するためばかりでなく、さらに進んだ治療の必要な癌患者のサブグループを同定するためにも最適のPETトレーサーとしてACE及び18F−アセテートが開発される。頭頸部癌の診断にPET技術及び最適のPETトレーサーを使用することには、いくつかの利点がある。1つの利点は、本発明の方法が、CT、MRI又はFDG−PETを用いてもすべての患者では達成されないこの癌の最適ステージングを可能にすることである。別の利点は、本発明の方法が、RTアプローチを個人化することで新規な治療機会(例えば、強度変調放射線治療)へのドアを開くためのさらに進んだ分子イメージングプローブを提供することである。第三に、唾液腺が機能していない症例では、本発明の方法は唾液腺を避ける必要がないRT線量計画を可能にし、副作用の増加なしに一層高い線量を腫瘍に与えることができる。
【0021】
FastLab(登録商標)又はTracerlab(登録商標)のような自動化システムを用いてACE及び18F−アセテートを得た後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて類似体の構造が確認される。さらに、計算研究を行って各種類似体の物理的性質及び3D画像を探求する追加のツールを用いて類似体の構造が確認された。かかる計算研究は、CAChe(登録商標)としても知られるコンピューター支援分子設計モデリングツールを用いて行うことができる。CAChe(登録商標)は、分子を描画及びモデル化すると共に、分子に関する計算を実施して分子特性及びエネルギー値を発見することができる。かかる計算は、古典力学及び量子力学からの方程式を分子に適用するコンピューターアプリケーションによって実施される。
【0022】
さらに、局部的に進行した頭頸部癌では、放射線療法、化学療法及び外科手術を併用しても5年無進行生存率は47%にすぎない。治療の失敗は複数の要因に関係するが、その一部は実験的によく特徴づけられているものの、結果を向上させるという点から見た進歩は遅い。不良な腫瘍酸素供給は放射線耐性及び局所不全を引き起こすので、腫瘍の低酸素症は治療応答を決定する重要な要因である。細胞内酸素は放射線によって誘発されたDNA損傷を定着させるために必要であるが、腫瘍が酸化的リン酸化を維持するためにも必要である。不十分な灌流から生じる酸素欠乏は、腫瘍細胞に呼吸から生存のための嫌気性解糖へのスイッチングを強いるであろう。しかし、多くの癌がたとえ酸素の存在下でも共通の解糖表現型を共有することは、Warburg(Warburg O., On respiratory impairment in cancer cells. Science 1956; 124: 269-270)の時代からよく知られている。Warburgは、この現象をミトコンドリア機能の乱れが酸化的リン酸化の障害及び疾患進行を引き起こすことに帰因させた。この線に沿った最近のインビトロ研究は、Warburgの考えを確認しているように思われる。酸化的代謝能力の欠如した腫瘍細胞は一層悪性の表現型を示し、酸化的代謝は癌の増殖を制御する上での重要な因子であり得る。腫瘍解糖の増加は[18F]−フルオロデオキシグルコース(FDG)−PETによってインビボで検出でき、PETを用いた腫瘍FDG取込みの定量化は予後情報を与えるように思われる。なお、グルコース取込みは低酸素症の分布に無関係であるように思われる。これらの所見は、インビボでの腫瘍の酸化的代謝及び灌流のイメージングがこれらの機序に対する洞察を可能にし、結局は腫瘍応答を予測することを示唆している。
【0023】
アセテートはすべての生物の中間代謝において枢軸的役割を有しており、1−[11C]アセテートは10年前に心筋の酸化的代謝のPETトレーサーとして開発されかつ有効と確認された。外因性ACEは大抵の組織中に活発に抽出され、抽出速度は例えば心筋層(17)における血流速度にほぼ等しい。細胞内部では、ACEは[11C]アセチル−CoAに転化され、効果的に捕捉される。ミトコンドリアでは、トリカルボン酸(TCA)回路を通しての[11C]アセチル−CoAの末端酸化により、[11C]CO2の生成及び循環中への戻り拡散による組織からの放射能のクリアランスが起こる。さらに最近では、ACE−PETは、FDGに貪欲でない各種の癌の位置を決定するため臨床的に使用されてきた(Oyama N, Akino H, Kanamaru H, Suzuki Y, Muramoto S, Yonekura Y, et al. 11C-acetate PET imaging of prostate cancer. J Nucl Med 2002; 43: 181-186)。
【0024】
この態様のイメージングでは、酸化で消費されないアセチル単位が増殖支持のため同化的に使用されるという事実が利用される。放射線療法で治療されている患者における連続動的ACE−PET走査は、結果に対する腫瘍灌流及びミトコンドリア機能の役割をインビボで評価することを可能にする。
【0025】
以下、頭頸部癌の放射線療法(RT)及び唾液腺機能の評価に適したPETトレーサーのインビボイメージング用途のために腫瘍灌流及び酸化的代謝を評価する非侵襲的方法の詳細な説明が示される。かかる化合物を含む医薬品及びかかる医薬品を調製するためのキットも提供される。
【0026】
本発明の一実施形態では、腫瘍灌流及び酸化的代謝を評価するための非侵襲的方法であって、頭頸部癌を有する被験体に対するPETトレーサーのインビボ投与を含む方法が開示される。この場合、PETトレーサーはACE又は18F−アセテートであり得る。
【0027】
本発明の別の実施形態は、頭頸部癌を有する被験体において腫瘍灌流及び酸化的代謝を評価するための非侵襲的方法であって、PETトレーサーの医薬組成物の投与を含む方法である。本発明のさらに別の実施形態では、PETトレーサーを哺乳動物への投与に適した形態で生体適合性キャリヤーと共に含んでなる医薬組成物が開示される。
【0028】
本発明のさらに別の実施形態では、被験体における頭頸部癌に対する個人別RT治療を含む、腫瘍灌流及び酸化的代謝を評価するための非侵襲的方法であって、PETトレーサーの化合物の医薬組成物を投与する段階、腫瘍の輪郭を描写する段階、及び腫瘍に個人別放射線量を与える段階を含む方法が開示される。
【0029】
本発明のさらに別の実施形態では、PETトレーサーを哺乳動物への投与に適した形態で生体適合性キャリヤーと共に含んでなる医薬組成物が開示される。
【0030】
本発明のさらに別の実施形態は、PETトレーサー或いはその塩又は溶媒和物を含むキットであって、その医薬組成物の調製に適したキットを示している。
【0031】
かかるキットは、好ましくは無菌でパイロジェンフリーの形態にある第2の実施形態の適当な前駆体であって、イメージング成分の無菌供給源との反応により最小数の操作で所望の医薬品が得られるような前駆体を含んでいる。かかる考慮事項は、放射性医薬品(特に、放射性同位体が比較的短い半減期を有する放射性医薬品)の場合において、取扱いを容易にし、したがって放射性薬剤師に対する放射線量を低減させるために特に重要である。かくして、かかるキットの再構成用の反応媒質は好ましくは上記に定義したような「生体適合性キャリヤー」であり、最も好ましくは水性のものである。
【0032】
好適なキット容器は、注射器による溶液の追加及び抜取りを許しながら、無菌保全性及び/又は放射能安全性の維持、さらに任意には不活性ヘッドスペースガス(例えば、窒素又はアルゴン)の維持を可能にする密封容器を含んでいる。好ましいかかる容器は、気密クロージャーを(通例はアルミニウムからなる)オーバーシールと共にクリンプ加工した隔壁密封バイアルである。かかる容器は、例えばヘッドスペースガスの変更又は溶液のガス抜きのために所望される場合、クロージャーが真空に耐え得るという追加の利点を有している。
【0033】
かかるキットはさらに、放射線防護剤、抗菌防腐剤、pH調整剤又はフィラーのような追加成分を任意に含むことができる。「放射線防護剤」という用語は、水の放射線分解から生じる含酸素遊離基のような高反応性遊離基を捕捉することにより、レドックス過程のような分解反応を阻止する化合物を意味する。本発明の放射線防護剤は、好適にはアスコルビン酸、p−アミノ安息香酸(即ち−アミノ安息香酸)、ゲンチシン酸(即ち、2,5−ジヒドロキシ安息香酸)及びこれらと生体適合性陽イオンとの塩から選択される。「生体適合性陽イオン」及びその好ましい実施形態は、上記に記載した通りである。「抗菌防腐剤」という用語は、潜在的に有害な微生物(例えば、細菌、酵母又はかび)の増殖を阻止する薬剤を意味する。抗菌防腐剤はまた、用量に応じて多少の殺菌性を示すこともある。本発明の抗菌防腐剤の主な役割は、再構成後の医薬組成物(即ち、放射性イメージング生成物そのもの)中におけるこのような微生物の増殖を阻止することである。しかし、抗菌防腐剤は、任意には再構成に先立って本発明の非放射性キットの1種以上の成分中における潜在的に有害な微生物の増殖を阻止するためにも使用できる。好適な抗菌防腐剤には、パラベン類(即ち、メチル、エチル、プロピル又はブチルパラベン或いはこれらの混合物)、ベンジルアルコール、フェノール、クレゾール、セトリミド及びチオメルサールがある。好ましい抗菌防腐剤はパラベン類である。
【0034】
「pH調整剤」という用語は、再構成キットのpHがヒト又は哺乳動物への投与のために許容し得る範囲(およそpH4.0〜10.5)内にあることを保証するために有用な化合物又は化合物の混合物を意味する。好適なかかるpH調整剤には、トリシン、リン酸塩又はTRIS[即ち、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン]のような薬学的に許容し得る緩衝剤、及び炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム又はこれらの混合物のような薬学的に許容し得る塩基がある。コンジュゲートを酸性塩の形態で使用する場合には、pH調整剤を任意には独立のバイアル又は容器に入れて供給することができ、その結果としてキットのユーザーは多段操作の一部としてpHを調整することができる。
【0035】
「フィラー」という用語は、製造及び凍結乾燥中における材料の取扱いを容易にすることができる薬学的に許容し得る増量剤を意味する。好適なフィラーには、塩化ナトリウムのような無機塩、及びスクロース、マルトース、マンニトール又はトレハロースのような水溶性糖又は糖アルコールがある。
【0036】
「生体適合性キャリヤー」とは、組成物が生理学的に許容され得るようにして(即ち、毒性又は過度の不快感なしに哺乳動物体に投与できるようにして)化合物を懸濁又は溶解するための流体(特に液体)である。生体適合性キャリヤー媒質は、好適には、無菌のパイロジェンフリー注射用水、(有利には注射用の最終生成物が等張性又は非低張性になるように平衡させ得る)食塩水のような水溶液、或いは或いは1種以上の張度調整物質(例えば、血漿陽イオンと生体適合性対イオンとの塩)、糖(例えば、グルコース又はスクロース)、糖アルコール(例えば、ソルビトール又はマンニトール)、グリコール(例えば、グリセロール)又は他の非イオン性ポリオール物質(例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなど)の水溶液のような注射可能なキャリヤー液体である。生体適合性キャリヤー媒質はまた、エタノールのような生体適合性有機溶媒を含んでいてもよい。かかる有機溶媒は、親油性の高い化合物又は配合物を可溶化するために有用である。好ましくは、生体適合性キャリヤー媒質はパイロジェンフリー注射用水、等張食塩水又はエタノール水溶液である。静脈内注射用生体適合性キャリヤー媒質のpHは好適には4.0〜10.5の範囲内にある。
【0037】
さらに、医薬組成物は好適には、無菌保全性を維持しながら皮下注射針による1回又は数回の穿刺に適したシール(例えば、クリンプ加工した隔壁シールクロージャー)を備えた容器に入れた状態で供給される。かかる容器は1回分又は複数回分の患者用量を含むことができる。好ましい複数用量容器は、複数回分の患者用量を含む(例えば、容積10〜30cm3の)単一のバルクバイアルからなり、したがって臨床的状況に合わせて製剤の実用寿命中に様々な時間間隔で1回分の患者用量を臨床グレードの注射器に抜き取ることができる。予備充填注射器は1回分のヒト用量又は「単位用量」を含むように設計され、したがって好ましくは臨床用に適した使い捨て注射器又は他の注射器である。放射性医薬組成物に関しては、予備充填注射器には、施術者を放射性の薬用量から防護するための注射器シールドを任意に設けることができる。好適なかかる放射性医薬品注射器シールドは当技術分野で公知であり、好ましくは鉛又はタングステンを含んでいる。放射性医薬品は、PETイメージングのためには、所望の信号を生み出すのに十分な量で患者に投与すればよい。通常、体重70kg当たり0.01〜100mCi、好ましくは0.1〜50mCiの典型的な放射性核種投与量で十分であろう。
【0038】
本発明のさらに別の実施形態では、被験体における頭頸部癌に対する個人別RT治療のための方法であって、PETトレーサーの化合物を含む医薬組成物を投与する段階、腫瘍の輪郭を描写する段階、及び腫瘍中に個人別放射線量を与える段階を含む方法が特許請求される。
【0039】
標準的なRTアプローチを使用すれば、腫瘍中に蓄積される放射線量はすべての患者について同じである。新規な治療機会(例えば、強度変調放射線治療)では、RTアプローチを個人化するためのさらに進んだ分子イメージングプローブが要求される。1つの臨床的問題は、腫瘍の輪郭描写及び腫瘍内部での線量の差別に関係している。ACE及び18F−アセテートPET画像から導かれる腫瘍体積はFDG−PETからの体積より顕著に大きく、これは放射性標識アセテートが既存の方法より良好なRTのための腫瘍輪郭描写を可能にすることを実証している。
【0040】
本発明はまた、被験体における頭頸部癌に対する個人別RT治療を含む、腫瘍灌流及び酸化的代謝を評価するための非侵襲的方法であって、PETトレーサーの化合物の医薬組成物を投与する段階、唾液腺機能を評価する段階、及び腫瘍中に個人別放射線量を与える段階を含む方法を提供する。
【0041】
また、有害な副作用を回避するため、正常組織(具体的には頭部の唾液腺)に対するRT線量を低減させることもますます要求されている。若干の症例では、唾液腺は機能していない。これらの症例をルーチンスキャンの一部として検出することができれば、RT線量計画は唾液腺を避ける必要がなく、副作用の増加なしに一層高い線量を腫瘍に与えることができる。ACE及び18F−アセテートPETは、唾液腺機能の評価のために有用である。この情報を線量計画アルゴリズム中に組み込むことは、頭頸部癌におけるRTの治療結果を向上させる。
【実施例】
【0042】
以下の実施例で本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は決して本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0043】
実験的研究
患者
本研究には、組織学的に確認された扁平上皮癌を頭頸部に有する9名の患者における下記の研究結果が含まれている。すべての患者は本研究前には治療を受けておらず、放射線療法の候補者であった。原発腫瘍のステージ及び位置を含む臨床的特性を表1に示す。腫瘍のステージングは、CT又はMRI、組織学的検査及び臨床検査によって実施した。すべての関係する患者にはインフォームドコンセントを与えた。9名の患者の研究は、放射線療法で治療を受けている被験体におけるACE−PET走査によれば、結果に対する腫瘍灌流及びミトコンドリア機能の役割をインビボで評価できることを表している。アセテート取込みの増加は、本研究に含まれる頭頸部扁平上皮癌の原発腫瘍及びリンパ節転移の目立った特徴である。ACE−PETは良好な品質の診断画像を提供し、癌患者の部分集合におけるFDG−PETよりも鋭敏な頭頸部腫瘍のステージング用ツールであり得る。腫瘍体積決定のためにACE−PETを使用したところ、FDG−PETより51%大きい体積が得られた。
【0044】
原発腫瘍のステージ及び位置を含む臨床的特性を表1に示す。かかる腫瘍の通常のステージングをCT(n=9)、MRI(n=1)、組織学的検査及び臨床検査によって実施した。すべての原発腫瘍及び多くの転移部位において、誘導生検によって組織学的確認を得た。生検で確認されなかった転移(n=5)は、すべての利用可能な情報の組合せに基づいて悪性と見なされ、3ヶ月追跡調査に含まれた。本研究に関係するすべての患者にはインフォームドコンセントを与えた。本研究は、関係する病院の倫理委員会によって承認された。
【0045】
PETイメージング
9名の患者において、29回の動的ACE−PETスキャンを実施例した。5名の患者は専用のPET装置(Siemens ECAT HR+、ノックスビル、米国テネシー州)でスキャンし、PET画像を解剖学的位置決定用の線量計画CT画像と同時記録した。4名の患者はハイブリッドPET−CT装置(GE Discovery ST、米国ウィスコンシン州ミルウォーキー)でスキャンした。ACE−PETは、放射線療法の開始前7日以内にすべての患者で試験した(ベースライン)。ロジスティック(logistic)な問題のため、すべての患者をそれに続くすべての時点でスキャンできたわけではなかった。5名の患者が15Gyの平均線量(線量範囲9.6〜20Gy)後にスキャンされ、7名の患者が30Gyの平均線量(線量範囲24〜37Gy)後にスキャンされ、8名の患者が55Gyの平均線量(線量範囲42〜68Gy)後にスキャンされた。
【0046】
ACEスキャンセッションの部分集合(n=23)では、0.5MBq/kg体重のACEボーラスの注射直後における心臓の動的イメージングにより、腫瘍灌流の絶対定量化のための画像誘導動脈入力関数を取得した。
【0047】
心臓スキャンから10分後、10MBq/kg体重のACEの静脈内ボーラス注射直後に頭頸部領域のイメージングを行った。走査時間は32分であって、時間フレームは12×5秒、6×10秒、4×30秒、4×60秒、2×120秒及び4×300秒であった。
【0048】
標準的な臨床全身プロトコルを用いて、ベースライン位置でFDG−PETを実施した。この場合、5MBq/kg体重のFDGの静脈内注射から1時間後に頭頸部領域をスキャンした。ベースラインACE及びFDGスキャンは、同日又は隣接した日に実施した。
【0049】
アセテートPETイメージング
6名の患者は専用のPETで試験し、4名の患者はPET/CTで検査した。10MBq/kg体重のACEの静脈内注射直後に32分の動的放出スキャンを実施した。走査時間は12×5秒、6×10秒、4×30秒、4×60秒、2×120秒及び4×300秒であった。フレーム30(注射から17〜22分後)は、一般に最高の腫瘍/バックグラウンド比を有する最良の画像品質を与え、したがって以後のデータ解析のために選択された。
【0050】
FDG−PETイメージング
5MBq/kg体重のFDGの静脈内注射から1時間後に全身走査を実施した。6名の患者はPET/CTで検査し、4名の患者はPETのみで試験した。患者には、取込み期間中は横臥姿勢を保ち、発声及びその他の頸部筋肉使用を避けるように指示した。
【0051】
データ解析
Hermes Multimodality(商標)ソフトウェア(Nuclear Diagnostics社、スウェーデン国ストックホルム)を用いた手動補正によって支援される正規化相互情報操作により、すべての患者においてPET画像をCT又はMRI画像と共に同時記録した。Hermes Volume Display(商標)バージョンV2βを用いて、FDG−PET及びACE−PET画像を定性的及び定量的に解析した。定性的解析では、2人の核医学医師がPET画像を目視で解釈し、不一致があれば総意によって解決した。FDG及びACEの腫瘍取込みは、反対側又は周囲の組織に比べて無視可能(negligible)、軽度(mild)、中等度(moderate)及び強度(intensive)に格付けした。軽度以上の異常な取込みは陽性と見なした。定量的解析では、平均標準化取込み値(SUV)並びにACE及びFDG−PETによって画定された腫瘍体積を評価した。SUVは、体積中の平均放射能濃度(Bq/cc)を体重1キログラム当たりの注射量(Bq)で割った値として計算した。無視可能な病変に関しては、同様な腫瘍体積を視覚的に相関させた融合画像によって手作業で描いた。
【0052】
FDG−PET及びACE−PETにおける各腫瘍体積は、バックグラウンドに対して補正された最大放射能の50%閾値に設定された同一ピクセル値を追跡することで自動的に画定した。バックグラウンドは、腫瘍に隣接しながらもそれから安全な距離に独立に描かれた検査対象領域(ROI)から測定した。各体積の同一ピクセル値は次式に従って計算した。
【0053】
同一ピクセル値=(MPVtumor+APVbackground)×50%
MPVは最大ピクセル値であり、APVはバックグラウンドROIの平均ピクセル値である。このアプローチは可変バックグラウンド活性を考慮に入れており、腫瘍体積測定値に対する変動バックグラウンド取込みの効果を効果的に抹消し、極めて再現可能であることが判明した。腫瘍の位置がACEの正常に高い生理学的取込みを有する唾液腺に近い症例では、腫瘍体積をCT及びPETの総合情報に基づいて手作業で調整した。このような理由によって手作業の調整が必要であったのは、1例の原発腫瘍及び5例の転移のみであった。
【0054】
統計的分析
FDG SUVとACE SUVとの関係をPearsonの相関係数によって決定した。ANOVA検定を用いてトレーサー取込みを組織学的細胞分化と比較した。FDG及びACEによるSUV及び体積の差は、ノンパラメトリックWilcoxon符号付きランク検定によって分析した。転移の体積は中央値±四分位数で示されたが、これはそれが正規分布を示さなかったからである。0.05より小さいp値は統計的に有意であると見なした。計算はSPSSバージョン11.5によって実施した。
【0055】
腫瘍のクリアランス速度
原発腫瘍はすべてのスキャンにおいて明確に可視化された。すべてのACEスキャンにおける最高取込みを画定する検査対象領域(ROI)から、原発腫瘍の時間−活性曲線(TAC)を求めた。指数関数曲線を4〜32分に収集されたデータに当てはめることでTACを分析した。腫瘍の酸化的代謝は下記の式から導いた。
【0056】
Y=Ae-OXm*t
式中、腫瘍の放射能(Bq/cc)、Aは定数、tは時間(分)、OXmはmin-1単位の[11C]クリアランス速度である。当てはめの平均R2は0.93であった。
【0057】
腫瘍の灌流
心臓スキャンの左心室キャビティ内に小さいROIを配置して初回のボーラス通過のTACを求めることで動脈血入力関数を導いた。チャンバーを通る初回ボーラス通過の曲線下面積で動脈血活性を積分し、以後の腫瘍スキャンの注射量に対して基準化した。
【0058】
初回ボーラス通過の終了時に蓄積した原発腫瘍のピーク活性を評価した。体循環が心臓スキャンと腫瘍スキャンとの間で変化しなかったと仮定して、初回通過時のピーク腫瘍活性を動脈血積分で割ることで(mL/分/mL組織で表される)絶対抽出速度を計算した。動脈入力はすべてのセッションで得られなかったので、腫瘍中の初期ピーク保持率と小脳の初期ピーク保持率との比によって相対灌流指数(rF)を定量化した。小脳を基準として選択したのは、この領域が放射線療法から除外され、すべての患者においてスキャンセッション間の変動が最小である極めて安定な抽出速度(0.08±0.03mL/分/mL)を有していたからである。23回のスキャンにおける腫瘍灌流の絶対定量化により、0.47±0.01mL/分/mLの平均が得られた。同時rF測定の平均は5.87±0.39であり、2つの方法は直線的に相関していた(r=0.57、p=0.005)。
【0059】
腫瘍のグルコース取込み
FDGデータから、腫瘍ROIの放射能濃度を体重1グラム当たりの注射活性で割った標準取込み値(SUV)として腫瘍グルコース取込み(Tglu)を求めた。
【0060】
放射線療法及び腫瘍応答
標準化技術により、3D治療計画を用いて原発腫瘍及びリンパ節転移に外部ビーム放射線療法を施した。総線量は68Gyであり、一般には1フラクション当たり2Gy、1週当たり5フラクションであった。
【0061】
結果は、放射線療法の完了から6〜8週後に臨床検査、汎内視鏡検査及びCT又はMRI走査によって評価した。腫瘍応答は、標準基準(22)に従って完全応答(CR)、部分応答(PR)、安定疾患及び進行性疾患として記録した。1名の患者は、攻撃的な腫瘍増殖のため、放射線療法後に手術を受けた。患者は、本論文の提出又は死亡まで、定期的に追跡調査を受けた。追跡調査期間の中央値は26ヶ月(範囲1.5〜45ヶ月)であった。6名の患者がCRと見なされ(表2)、そのうちの5名が論文提出時に生きていた。3名の患者はPRを示し、全員が追跡調査中に死亡した。CR及びPR患者群の間における処方放射線量の差は存在しなかった。
【0062】
結果:
腫瘍の酸化的代謝
腫瘍のOXm値を表2及び図1に示す。放射線療法前、CRの平均OXmはPRの平均OXmのほぼ2倍であり(p=0.02)、群間でのオーバーラップはなかった。CRのOXmは、放射線療法中に有意に変化しなかった。それとは対照的に、PRのOXmはベースラインに比べて30Gy(p=0.002)及び55Gy(p=0.008)で有意に増加した。PRでは、1名の患者のみが15Gyでスキャンされ、したがってANOVA解析に含めなかった。30Gy又は55Gyでは、CR及びPRの間にOXmの有意差はなかった。
【0063】
腫瘍の灌流
表3及び図2は、CR及びPRの原発腫瘍rFを示している。CR群では、腫瘍rFはベースラインから15Gyまで増加する傾向を示し(p=0.06)、30Gyでは比較的安定であり、次いで55Gyでは減少した(15GyでのrFに比べてp=0.03)。PRでは、rFの有意差は認められなかった(p=0.41)。CR及びPRの間では、同じ線量におけるrFの有意差は見られなかった。
【0064】
腫瘍のグルコース取込み
すべての原発腫瘍においてFDG取込みの増加が見られ(表1)、Tgluは10.9±2.4SUVであった。TgluはCRよりPRにおいて有意に高かった(p=0.04)。
【0065】
相関関係
CRでは、総合的なOXm及びrFに正の相関が見られ(r=0.69、p=0.001)、この相関はベースラインにおいてほぼ完全であった(r=0.93、p=0.008)。PRでは、OXm及びrFは相関していなかった。ベースラインTgluはOXmと逆の相関(r=−0.57、p=0.11)を示す傾向があったが、rFとは有意に相関していなかった。
【0066】
結論
この研究は、非侵襲的な分子イメージング方法を用いて、ヒトの癌の中間代謝を放射線療法への応答の点から探求した。腫瘍組織からの炭素単位の終末クリアランス速度を腫瘍の酸化的代謝の指標として使用したが、不良な結果を示す患者では有意に低かった。酸化的代謝の障害は、強い灌流にもかかわらず増加した解糖に関連していた。腫瘍の灌流はすべての癌において実質的であったが、好ましい結果を示す癌においてだけは酸化的代謝組織と連動していた。
【0067】
本明細書中に開示されたデータは、酸化的代謝から、頭頸部癌において放射線療法への耐性に関連した好気的解糖への生体エネルギースイッチの存在をインビボで示している。OXmのベースライン評価は、治療結果を予測した。最低のOXm速度は部分応答を示す腫瘍において記録され、すべてのPR患者は放射線療法から26ヶ月以内に死亡した。注目すべきことには、患者No3は高度に分化した腫瘍を有するT2N0M0としてステージングされたが、攻撃的な腫瘍増殖及び転移のため6ヶ月以内に死亡した。この患者はすべての患者のうちで最低のOXm及び最高のTgluを有していた。これは、生体エネルギーシフトが結果に影響を与えると共に、標準的な診断評価では直ちに明らかとならないことを表している。
【0068】
癌細胞が生体エネルギー的に劣る解糖表現型を発現するには、恐らくいくつかの異なる機序が存在している。以前の研究では、これらの変化がミトコンドリアDNAの突然変異、低酸素症、及び両生体エネルギー経路中の酵素調節の変化並びに増殖の促進に関連することが指摘されていた。最もありそうなのは、この表現型が、酸素依存性を最小にするか又はミトコンドリアのプロアポトーシス的役割をダウンレギュレートするすることで生存を容易にすることである。我々のデータは原因を示す結論を与えないが、腫瘍の生体エネルギー状態と臨床状況との関連に関する以前のインビトロ所見を拡張する。治療学的観点からは、最近の研究によれば、腫瘍細胞を強制的に解糖からミトコンドリアの酸化的代謝に移行させると癌の増殖が阻止されることが示され、腫瘍の侵襲性が呼吸と逆比例関係にある可能性があると仮定された。この線に沿った試みで患者を階層化するためには、定量的な代謝イメージングが極めて重要であろう。
【0069】
PR腫瘍ではOXmが放射線療法中に増加したが、これは放射線耐性癌におけるミトコンドリアの機能障害が可逆的である可能性を高める。この群では放射線によって灌流はあまり変化しなかったので、減圧及び再灌流による受動的な再酸素供給のみでOXmの増加を説明することはできなかろう。4%O2中で増加させた癌細胞はその酸素消費を増加させ、低線量の放射線で処置した場合に酸素正常状態で増殖させた細胞よりも早く死滅する。これは、結果予測因子としての低酸素症の役割が完全には解明されていないことを示唆している。基質利用可能性の変化のみが、ミトコンドリア機能を変化させることはあり得る。さらに、酸化的代謝の低下した癌細胞は放射線療法中にミトコンドリア質量を増加させるが、このことも所見を説明できよう。それでも、インビボでの放射線療法に対するミトコンドリア応答は十分に理解されておらず、この領域での向上した翻訳研究のためには恐らくさらに統合的なアプローチが必要である。
【0070】
ACE−PETは、栄養灌流及び酸化的代謝の定量的推定値を与えた。代謝は、簡単な当てはめ操作でOXm(組織からの[11C]クリアランス速度)を計算することによって評価した。OXm及びACE−PETは、心筋組織中における局所的な酸素消費量の非侵襲的測定のためのゴールデンスタンダードであり、最近には腎臓動物モデルにおいても有効性が確認された。安静時の正常志願者における心筋O2消費量は3〜4マイクロモル/分/グラムであり、0.05〜0.07min-1のOXm値に関連していた。それに応じて、癌におけるOXm値は心筋のOXm値より実質的に低かった。異なる組織からのOXmが絶対表現のままで直接に比較できるかどうかは知られていない。得られた値はこの材料に関連して意味があるように思われ、さらなる確認が必要である。
【0071】
PETを用いた灌流の速度論的推定には、動脈試料又は実質的な血液隔室からの血液入力関数が画像中に要求される。動脈試料採取は本研究においては侵襲的すぎると思われ、また頸部血管における血管内活性は部分体積効果のため正確には測定できない。したがって我々は、定量的心臓PETにおける標準的な方法であるほぼ同時の左心室血液プールイメージングからの動脈ACE活性を評価した。絶対ACE抽出速度は平均して0.47mL/分/mLであり、同じ技術を用いて安静時の健常心筋で記録された灌流速度及び他の方法を用いて得られたヒトの癌における以前のデータの灌流速度に近かった。このアプローチは本研究の複雑さを増加させたので、すべての時点で心臓スキャンを求めることはしなかった。小脳基準を用いた代替血液活性により、腫瘍の栄養灌流の簡単な指標が成功裡に得られた。
【0072】
局所灌流が組織の要求によって規定されることは正常生理学における基本原理である。CR患者では、OXm及びrFは高度に相関していた。これは、この基本原理が放射線感受性の癌では有効であること、及びこれらの腫瘍が放射線療法中にもエネルギー生成のために主として呼吸に頼ることを共に示す新規な所見である。CR腫瘍の灌流は、15Gyで増加する傾向を示し、次いで55Gyで減少した。この所見は、成功した放射線療法の早期における細胞死が腫瘍の減圧を引き起こし、再灌流をもたらすという概念によく合致している。大部分の腫瘍細胞が死んだ療法の終了時には、総代謝要求量が低下し、血流は少なくて済んだ。治療中におけるインビボでの腫瘍灌流に関する報告は少なく、多少矛盾している。本研究で測定された灌流は、結果とは直接に関係していなかった。
【0073】
動的ACE−PETは、ただ1回のトレーサー注射、短時間走査プロトコル及び簡単な評価技術を用いて、頭頸部癌患者における腫瘍の酸化的代謝及び灌流の同時で非侵襲的な評価を可能にした。腫瘍塊の可視化は優れていた。この方法の使用は、オンサイトのサイクロトロンを備えたPET施設に限定され、これが欠点である。限られた患者数が解釈に影響を与えたかもしれないので、追認及び確認のための研究が必要である。
【0074】
したがって、本発明は、動的ACE−PETを用いて患者における腫瘍の灌流及び酸化的代謝を同時に評価するための新しい非侵襲的方法を提供する。この方法は、放射線療法に対する不良な応答を予測する代謝異常を文書化するために使用できる。腫瘍の酸化的代謝の回復は、癌療法を改善するための可能な標的である。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

特定の実施形態及び参考文献の引用
本発明は、本明細書中に記載された特定の実施形態によって技術的範囲が限定されるべきでない。実際、本明細書中に記載されたものに加えて、当業者には本発明の様々な変更態様が上述の説明及び添付の図面から明らかとなろう。かかる変更態様は添付の特許請求の範囲内に含まれるものとする。
【0078】
様々な刊行物及び特許出願が本明細書中に引用されているが、その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍の灌流及び酸化的代謝を評価するための非侵襲的方法であって、頭頸部癌を有する被験体へのPETトレーサーのインビボ投与を含む方法。
【請求項2】
前記PETトレーサーがACEである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記PETトレーサーが18F−アセテートである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
頭頸部癌を有する被験体における腫瘍の灌流及び酸化的代謝を評価するための非侵襲的方法であって、PETトレーサーの医薬組成物の投与を含む方法。
【請求項5】
医薬組成物がPETトレーサーを生体適合性キャリヤーと共に哺乳動物への投与に適した形態で含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
PETトレーサー或いはその塩又は溶媒和物を含むキットであって、請求項4記載の医薬組成物の調製に適したキット。
【請求項7】
被験体における頭頸部癌に対する個人別RT治療を含む、腫瘍の灌流及び酸化的代謝を評価するための非侵襲的方法であって、PETトレーサーの化合物の医薬組成物を投与する段階、腫瘍の輪郭を描写する段階、及び腫瘍中に個人別放射線量を与える段階を含む方法。
【請求項8】
被験体における頭頸部癌に対する個人別RT治療を含む、腫瘍の灌流及び酸化的代謝を評価するための非侵襲的方法であって、PETトレーサーの化合物の医薬組成物を投与する段階、唾液腺機能を評価する段階、及び腫瘍中に個人別放射線量を与える段階を含む方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2012−525597(P2012−525597A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−508669(P2012−508669)
【出願日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【国際出願番号】PCT/US2010/032870
【国際公開番号】WO2010/127054
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(305040710)ジーイー・ヘルスケア・リミテッド (99)
【Fターム(参考)】