説明

放射線発生装置及びそれを用いた放射線撮影装置

【課題】絶縁性液体に放射線発生管を浸漬した放射線発生装置において、高電圧に対する耐圧信頼性の高い、かつ小型軽量化を実現した放射線発生装置及びそれを用いた放射線撮影装置を提供する。
【解決手段】放射線を透過する第一の窓2を有する外囲器1と、外囲器1内に収納され、第一の窓2と対向する位置に放射線を透過する第二の窓15を有する放射線発生管10と、外囲器1と放射線発生管10との間に充填された絶縁性液体8と、第二の窓15に連通する放射線通過孔21を有し、放射線発生管10から第一の窓2側に突出した放射線遮蔽部材16と、を備える放射線発生装置であって、少なくとも放射線遮蔽部材16の第一の窓2と対向する面における内周及び外周が、固体の絶縁部材9で覆われていることを特徴とする放射線発生装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療機器及び産業機器分野における非破壊X線撮影等に適用できる放射線発生装置及びそれを用いた放射線撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、放射線発生管は電子放出源から放出される電子を高電圧で加速し、タングステン等の金属で構成されるターゲットに照射してX線等の放射線を発生させる。このとき発生した放射線は全方位に向かって放射される。そこで、必要以外の放射線を遮蔽するため、ターゲットの電子入射側及び放射線放出側に放射線遮蔽部材を配置した透過型放射線発生管が提案されている(特許文献1参照)。このような透過型放射線発生管では、放射線発生管又は放射線発生管を収納する外囲器の周囲全体を、鉛等の遮蔽部材で覆う必要がないため、装置の小型軽量化を実現することが可能である。
【0003】
ところで、放射線撮影に好適な放射線を発生させるためには、電子放出源とターゲットとの間に40kV〜150kVという高電圧を印加して、高エネルギーの電子線を照射する必要がある。このため、電子放出源とターゲットとの間、及び放射線発生管と外囲器との間には数十kV以上の高電位差が生じることとなる。このような高電圧に対する耐圧性を確保する手段としては、放射線発生管と外囲器との間に絶縁油を充填する構成、更に外囲器内に絶縁部材を配置する構成が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−265981号公報
【特許文献2】特開2007−80568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の透過型放射線発生管においては、電圧印加手段を中点接地方式とすることにより放射線発生装置を更に小型軽量化することが可能である。ここで、中点接地方式とは、ターゲットのGNDアースに対する電位を+(Va−α)[V]、電子放出源のGNDアースに対する電位を−α[V]、(但し、Va>α>0)に、それぞれ設定する方式である。αの値はVa>α>0の範囲内の任意の値であるが、一般的にはVa/2に近い値である。このような中点接地方式を採用した場合、グランドに対する電圧の絶対値が小さくなり、耐圧性を確保するために必要な沿面距離を短くすることができるため、装置の小型軽量化を図ることができる。
【0006】
その一方で、ターゲットと電気的に接続された放射線遮蔽部材と、一般的にグランド電位に接地される外囲器との間に高電位差が生じるため、放射線遮蔽部材の端部付近の絶縁性液体において電界集中が生じるおそれがある。係る絶縁性液体中の電界集中部においては、グランド電位に設定する外囲器との間で放電が発生する等の耐圧低下の問題が生じる場合があった。更には、係る電界集中の作用によって、周囲の絶縁性液体から放射線遮蔽部材の端部に電荷移動を生じる場合があり、この場合、放射線発生装置の駆動条件によっては、この電荷移動による絶縁性液体構成分子の重縮合を伴う絶縁性液体の劣化が生じる場合もあった。
【0007】
特許文献2では、中点接地の放射線発生装置が開示されているが、反射型のX線発生装置であるために、放射線放出口部の電位が略グランド電位であり、同じくグランド電位に設定される外囲器との間の放電の問題は生じにくい。更に絶縁部材の配置場所の選択に特別な理由の開示はなく、上記課題解決のための特別な示唆を与えるものではない。
【0008】
そこで、本発明は、絶縁性液体に放射線発生管を浸漬した放射線発生装置において、高電圧に対する耐圧の向上、小型軽量化を実現した放射線発生装置及びそれを用いた放射線撮影装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、放射線を透過する第一の窓を有する外囲器と、
前記外囲器内に収納され、前記第一の窓と対向する位置に放射線を透過する第二の窓を有する放射線発生管と、
前記外囲器と前記放射線発生管との間に充填された絶縁性液体と、
前記第二の窓に連通する放射線通過孔を有し、前記放射線発生管から前記第一の窓側に突出した放射線遮蔽部材と、
を備える放射線発生装置であって、
少なくとも前記放射線遮蔽部材の前記第一の窓と対向する面における内周及び外周が、固体の絶縁部材で覆われていることを特徴とする放射線発生装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、内部に絶縁性液体を充填した外囲器が有する第一の窓と、外囲器内に配置された放射線発生管が有する第二の窓と、を対向配置し、第二の窓に連通する放射線通過孔を有する放射線遮蔽部材の端部を固体の絶縁部材で覆う構成をとる。放射線遮蔽部材の端部における特に電界集中が生じるおそれがある箇所を、固体の絶縁部材で覆うため、放射線発生管と外囲器との間において放電のおそれのない電気的な耐圧向上を実現できる。電気的な耐圧向上により、沿面距離を短くすることができるため、小型軽量化も実現できる。更に、固体の絶縁部材は、絶縁性液体から放射線遮蔽部材の端部への電荷移動を防ぐこととなるため、絶縁性液体の劣化を防止する効果も奏する。よって、長時間にわたって耐圧性を確保できるため、より信頼性の高い放射線発生装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1の放射線発生装置の断面模式図である。
【図2】実施例2の放射線発生装置の放射線遮蔽部材周辺部の断面模式図である。
【図3】実施例3の放射線発生装置の放射線遮蔽部材周辺部の断面模式図である。
【図4】本発明の放射線発生装置を用いた放射線撮影装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されない。尚、本明細書で特に図示又は記載されない部分に関しては当該技術分野の周知又は公知技術を適用する。
【0013】
図1(a)は本発明の放射線発生装置の一実施形態を示す断面模式図であり、図1(b)は図1(a)における放射線遮蔽部材周辺部を拡大した断面模式図である。本実施形態の放射線発生装置は、透過型の放射線発生管10を備えており、この放射線発生管10は外囲器1の内部に収納されている。この外囲器内に放射線発生管10を収納した余空間には絶縁性液体8が充填されている。外囲器1の内部には、本実施形態のように不図示の回路基板及び絶縁トランス等から構成される電圧制御部3(電圧制御手段)を設けても良い。電圧制御部3を設けた場合、例えば放射線発生管10に端子4、5、6、7を介して電圧制御部3から電圧信号が印加され放射線の発生を制御することができる。
【0014】
外囲器1は、容器としての十分な強度を有していれば良く、金属やプラスチックス材料等から構成される。
【0015】
絶縁性液体8は、電気絶縁性を有していれば良く、例えば絶縁媒体及び放射線発生管10の冷却媒体としての役割を有する電気絶縁油を用いるのが好ましい。電気絶縁油としては、鉱油、シリコーン油等が好適に用いられる。その他に使用可能な絶縁性液体8としては、フッ素系電気絶縁性液体が挙げられる。
【0016】
外囲器1には、放射線を透過し外囲器外部に放射線を取り出すための第一の窓2が設けられている。放射線発生管10から放出された放射線はこの第一の窓2を通して外部に放出される。第一の窓2には、ガラス、アルミニウム、ベリリウム等が用いられる。
【0017】
放射線発生管10は、真空容器19、電子放出源11、ターゲット14、第二の窓15、放射線遮蔽部材16及び絶縁部材9を備えている。放射線発生管10には、本実施形態のように引出し電極12とレンズ電極13を設けても良い。これらを設けた場合、引出し電極12によって形成される電界によって電子放出源11から電子が放出され、放出された電子はレンズ電極13で収束され、ターゲット14に入射し放射線が発生する。また、本実施形態のように排気管20を設けても良い。排気管20を設けた場合、例えば排気管20を通じて真空容器19内を真空に排気した後、排気管20の一部を封止することで真空容器19の内部を真空にすることができる。
【0018】
真空容器19は、放射線発生管10の内部を真空に保つためのもので、ガラスやセラミクス材料等が用いられる。真空容器19内の真空度は10-4〜10-8Pa程度であれば良い。真空容器19の内部には真空度を保つために、不図示のゲッターを配置しても良い。また、真空容器19は、開口部を有しており、その開口部には放射線通過孔21を有する放射線遮蔽部材16が接合されている。この放射線遮蔽部材16の放射線通過孔21の内壁に第二の窓15が接合されることにより真空容器19が密閉される。
【0019】
電子放出源11は、真空容器19の内部に、ターゲット14に対向して配置されている。電子放出源11にはタングステンフィラメントや、含浸型カソードのような熱陰極、又はカーボンナノチューブ等の冷陰極を用いることができる。電子放出源11の近傍には引出し電極12が配置され、引出し電極12によって形成される電界によって放出された電子は、レンズ電極13で収束され、ターゲット14に入射し放射線が発生する。このとき、電子放出源11とターゲット14間に印加される電圧Vaは、放射線の使用用途によって異なるものの、概ね40kV〜120kV程度である。
【0020】
ターゲット14は、第二の窓15の電子放出源側の面に配置されている。ターゲット14を構成する材料は、融点が高く、放射線発生効率の高いものが好ましい。例えばタングステン、タンタル、モリブデン等を用いることができる。発生した放射線がターゲット14を透過する際に生じる吸収を軽減するため、ターゲット14の厚みは数μm〜十数μm程度が適当である。
【0021】
第二の窓15は、ターゲット14を支持し、ターゲット14で発生する放射線の少なくとも一部を透過するものであり、放射線遮蔽部材16の放射線通過孔21内の第一の窓2と対向する位置に配置されている。第二の窓15を構成する材料は、ターゲット14を支持できる強度を有し、ターゲット14で発生した放射線の吸収が少なく、かつターゲット14で発生した熱をすばやく放熱できるよう熱伝導率の高いものが好ましい。例えばダイヤモンド、窒化シリコン、窒化アルミニウム等を用いることができる。第二の窓15についての上記要求事項を満たすため、第二の窓15の厚みは0.1mm〜数mm程度が適当である。
【0022】
放射線遮蔽部材16は、第二の窓15に連通する放射線通過孔21を有し、ターゲット14から放出された放射線のうち、不要な放射線を遮るものであり、真空容器19の開口部に接合され、放射線通過孔21の内壁に第二の窓15が接合されている。ターゲット14は放射線通過孔21の内壁に接合されていなくても良い。本発明では、放射線遮蔽部材16は少なくとも放射線発生管10から第一の窓側に突出していれば良い。また、放射線遮蔽部材16は、本実施形態のように円筒形等の筒形からなる2つの放射線遮蔽部材(第一の放射線遮蔽部材17と第二の放射線遮蔽部材18)で構成しても良い。
【0023】
第一の放射線遮蔽部材17は、ターゲット14の電子放出源側に散乱した放射線を遮蔽する機能を備えており、放射線発生管10から電子放出源11側に突出し、第二の窓15に連通する電子通過孔22を有する。電子放出源11から放出された電子は電子通過孔22を通過してターゲット14に衝突する。ターゲット14で発生した放射線のうち、ターゲット14の電子放出源側に散乱した放射線は第一の放射線遮蔽部材17で遮蔽される。
【0024】
第二の放射線遮蔽部材18は、第二の窓15を透過し放出された放射線の中で、不要な放射線を遮蔽する機能を備えており、放射線発生管10から第一の窓2側に突出し、第二の窓15に連通する放射線通過孔21を有する。第二の窓15を透過した放射線は放射線通過孔21を通過し、不要な放射線は第二の放射線遮蔽部材18で遮蔽される。
【0025】
外囲器1の外部に放射線をより多く取り出す観点からすると、第二の放射線遮蔽部材18の第二の窓15に連通する放射線通過孔21の開口面積が、図1(b)のように第二の窓15から第一の窓2側に向かって徐々に大きくなっているのが好ましい。これは、第二の窓15を透過した放射線が放射状の広がりを持っているからである。
【0026】
また、第一の放射線遮蔽部材17の電子通過孔22のターゲット側の開口部の重心と第二の放射線遮蔽部材18の放射線通過孔21のターゲット側の開口部の重心が一致しているのが好ましい。これは、このように配置することにより、透過型のターゲット14に電子が照射されることによって発生した放射線を、より確実により多く取り出せるからである。「開口部の重心」とは、開口部と同一の大きさ・形状、均一の厚さを想定した場合の重心をいう。例えば図1(b)のように、電子放出源11側から見たときに、第一の放射線遮蔽部材17の電子通過孔22のターゲット側の開口部と第二の放射線遮蔽部材18の放射線通過孔21のターゲット側の開口部が重なるようにすれば良い。
【0027】
放射線遮蔽部材16を構成する材料は、放射線の吸収率が高く、かつ熱伝導率の高いものが好ましい。例えばタングステン、タンタル等の金属材料を用いることができる。不要な放射線を遮蔽するため、第一の放射線遮蔽部材17と第二の放射線遮蔽部材18の厚みは3mm以上が適当である。
【0028】
ターゲット14と第一の放射線遮蔽部材17及び第二の放射線遮蔽部材18とは、直接又は第二の窓15を介して、機械的かつ熱的に接触している。このため、ターゲット14で発生した熱は第二の放射線遮蔽部材18に伝わり、第二の放射線遮蔽部材18を介して絶縁性液体8に伝わって速やかに放熱される。よって、ターゲット14の温度上昇が抑制される。
【0029】
本発明は、第二の放射線遮蔽部材18の端部、正確には第二の放射線遮蔽部材18の第一の窓2と対向する面(以下、「第二の放射線遮蔽部材18の端面」という。)における内周及び外周が、固体の絶縁部材9で覆われていることを特徴とする。「内周」とは、第二の放射線遮蔽部材18の内壁(放射線通過孔21の内壁)に対応し、「外周」とは、第二の放射線遮蔽部材18の外壁に対応する。第二の放射線遮蔽部材18と外囲器1との間の耐圧性の確保の観点からすると、第二の放射線遮蔽部材18の端面の内周及び外周における絶縁部材9の厚みは0.1mm〜10mm程度が適当である。
【0030】
絶縁部材9を構成する材料は、電気絶縁性が高い固体で耐熱性が高いものが好ましく、無機材料又は有機材料が適用可能である。無機材料としては、ダイヤモンド、ガラス、窒化シリコン、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム等を用いることができる。有機材料としては、ガラスエポキシ、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。絶縁部材9として絶縁性液体8よりも電気絶縁性が高いものを用いても良い。絶縁部材9の取り付け方法としては接着剤による接合・機械的なネジ止め等が挙げられ、絶縁部材9が樹脂材料であれば、直接、第二の放射線遮蔽部材18の端面の内周及び外周に形成しても良い。
【0031】
高電位となっている第二の放射線遮蔽部材18と、グランド電位である外囲器1(第一の窓2を含む)との間における絶縁性液体8の電位分布において、第二の放射線遮蔽部材18の端部に電界集中が生じるおそれがある。第二の放射線遮蔽部材18の端部の中でも、特に第二の放射線遮蔽部材18の端面の内周及び外周に電界集中が生じるおそれがある。これは、第二の放射線遮蔽部材18の端面の内周部及び外周部が尖った形状をしているためである。本発明では、特に電界集中が生じるおそれがある第二の放射線遮蔽部材18の端面の内周及び外周を固体の絶縁部材9で覆うため、電気的な耐圧向上と絶縁性液体8の劣化の防止を実現できる。一般に、電気絶縁油のような絶縁性液体は高い電気絶縁性と耐圧性を有するが、絶縁性液体中に含まれている、あるいは経時劣化により生じる不純物、水分、気泡などにより、耐圧性が低下する場合がある。また、絶縁性液体の流動性(対流、イオン泳動)の影響で、変性物・コンタミが第二の放射線遮蔽部材18の先端部に付着・固着することで放電しやすくなる。そのため電界集中ポイント(放射線遮蔽部材の端部のように尖った部分)を絶縁性液体等の流動性部材からなる誘電体で占めている場合よりも、非流動の固体材料からなる誘電体で占めている場合の方が、耐圧信頼性の点で良く、より確実に高耐圧性を維持できる。電気的な耐圧向上により、後述の沿面距離を短くすることができるため、小型軽量化も実現できる。よって、長時間にわたって耐圧性を確保できるため、より信頼性の高い放射線発生装置を実現できる。
【0032】
尚、図1では、第二の放射線遮蔽部材18の端面の内周と外周とで囲まれた領域を固体の絶縁部材9で覆っている。第二の放射線遮蔽部材18と外囲器1との間で発生する放電の抑制効果を高める観点からすると、絶縁部材9をこのように配置するのが好ましいが、少なくとも第二の放射線遮蔽部材18の端面の内周及び外周が絶縁部材9で覆われていれば本発明の効果が得られる。
【0033】
また、本発明の放射線発生装置における電圧制御手段としては、陽極接地方式と中点接地方式のいずれの方式も採用することができるが、中点接地方式を採用するのが好ましい。陽極接地方式とは、ターゲット14と電子放出源11との間に印加する電圧をVa[V]としたとき、陽極であるターゲット14の電位をグランド(0[V])に設定し、電子放出源11の電位を−Va[V]に設定する方式である。一方、中点接地方式とは、ターゲット14のGNDアースに対する電位を+(Va−α)[V]、電子放出源11のGNDアースに対する電位を−α[V]、(但し、Va>α>0)に、それぞれ設定する方式である。αの値はVa>α>0の範囲内の任意の値であるが、一般的にはVa/2に近い値である。中点接地方式を採用することで、グランドに対する電圧の絶対値を小さくすることができ、沿面距離を短くすることができる。沿面距離とは、ここでは電圧制御部3と外囲器1との距離、及び放射線発生管10と外囲器1との距離である。沿面距離を短くすることができると、外囲器1のサイズを小さくすることができ、その分絶縁性液体8の重量も小さくすることができるため、放射線発生装置をより小型軽量化することが可能となる。
【実施例】
【0034】
本発明の放射線発生装置の実施例を以下に示す。
【0035】
[実施例1]
実施例1では図1の放射線発生装置を用いた。各部材の説明、及び放射線発生装置の説明については上述のとおりであるため省略する。
【0036】
本実施例においては、固体の絶縁部材9としてエポキシ樹脂材料を選び、第二の放射線遮蔽部材18の端面の内周及び外周を覆うように第二の放射線遮蔽部材18に固定した。絶縁部材9は第二の放射線遮蔽部材18の端面の内周と外周とで囲まれた領域を覆っている。第二の放射線遮蔽部材18の端面の内周及び外周における絶縁部材9の厚みは上述の範囲に設定した。絶縁性液体8としては、鉱油からなる絶縁油を使用した。また、電圧制御手段は中点接地方式を採用した。電子放出源11はタングステンフィラメントを用い、不図示の加熱手段によって加熱し、電子を放出させた。係る放出された電子を引出し電極12・レンズ電極13に印加した電圧によって生じる電位分布による電子線軌道制御と、電子放出源11とターゲット14間に印加される電圧Vaによって高エネルギーに加速することでターゲットに衝突させ、放射線を発生させた。ターゲット14は薄膜状のタングステンを使用した。電子放出源11の動作条件は、電子放出源の電子放出部に対する引出し電極12に+50[V]、電子放出部に対するレンズ電極13に1000[V]、電子放出部に対する加速電圧Vaとして100[kV]とした。また、このために、ターゲット14の外囲器の不図示の導通部に対する電位として+50[kV]、電子放出源11の電位を同様にして−50[kV]に設定した。なお、前記外囲器の導通部は、GND電位に接地した。
【0037】
図1の放射線発生装置を用いて上記条件で放射線の放射を行い、発生した放射線の線量を測定したところ、安定した放射線量が得られることを確認した。また、放射線発生装置の電気的な耐圧にも問題がなかった。更に、絶縁油の劣化も生じなかった。
【0038】
[実施例2]
実施例2では図2の放射線発生装置を用いた。本実施例は、固体の絶縁部材9として、第二の放射線遮蔽部材18の端面の内周を覆う第一の絶縁部材と、第二の放射線遮蔽部材18の端面の外周を覆う第二の絶縁部材を用いた点が実施例1と異なる。この点を除いては、使用した部材も、放射線発生装置の構成も実施例1と同じとした。第二の放射線遮蔽部材18の端面の内周及び外周における絶縁部材9の厚みは上述の範囲に設定した。図2の放射線発生装置を用いて実施例1と同様の条件で放射線の放射を行い、発生した放射線の線量を測定したところ、安定した放射線量が得られることを確認した。また、放射線発生装置の電気的な耐圧にも問題がなかった。更に、絶縁油の劣化も生じなかった。
【0039】
[実施例3]
実施例3では図3の放射線発生装置を用いた。本実施例は、第二の放射線遮蔽部材18の端面の外周で囲まれた領域全体を固体の絶縁部材9で覆った点が実施例1と異なる。この点を除いては、使用した部材も、放射線発生装置の構成も実施例1と同じとした。第二の放射線遮蔽部材18の端面の内周及び外周における絶縁部材9の厚みは上述の範囲に設定した。図3の放射線発生装置を用いて実施例1と同様の条件で放射線の放射を行い、発生した放射線の線量を測定したところ、安定した放射線量が得られることを確認した。また、放射線発生装置の電気的な耐圧にも問題がなかった。更に、絶縁油の劣化も生じなかった。尚、第二の窓15を透過した放射線は絶縁部材9を透過し、その後第一の窓2から外囲器1の外部に放出されるため、放射線量を低減させないためには、絶縁部材9の放射線透過率を、絶縁性液体8の放射線透過率以上とするのが好ましい。
【0040】
[実施例4]
次に、図4を用いて本発明の放射線発生装置を用いた放射線撮影装置について説明する。図4は本実施例の放射線撮影装置の構成図である。本実施例の放射線撮影装置は、放射線発生装置30、放射線検出器31、信号処理部32、装置制御部33及び表示部34を備えている。放射線発生装置30としては、例えば実施例1〜3の放射線発生装置が好適に用いられる。放射線検出器31は信号処理部32を介して装置制御部33に接続され、装置制御部33は表示部34及び電圧制御部3に接続されている。放射線発生装置30における処理は装置制御部33によって統括制御される。例えば、装置制御部33は放射線発生装置30と放射線検出器31による放射線撮影を制御する。放射線発生装置30から放出された放射線は、被検体35を介して放射線検出器31で検出され、被検体35の放射線透過画像が撮影される。撮影された放射線透過画像は表示部34に表示される。また例えば、装置制御部33は放射線発生装置30の駆動を制御し、電圧制御部3を介して放射線発生管10に印加される電圧信号を制御する。
【0041】
本実施例における放射線撮影装置を用いVaとして100kVの設定で放射線撮影を行ったところ、電気的な耐圧の問題も無く良好な撮影を行うことができた。
【符号の説明】
【0042】
1:外囲器、2:第一の窓、3:電圧制御部(電圧制御手段)、4〜7:端子、8:絶縁性液体、9:絶縁部材、10:放射線発生管、11:電子放出源、12:引出し電極、13:レンズ電極、14:ターゲット、15:第二の窓、16:放射線遮蔽部材、17:第一の放射線遮蔽部材、18:第二の放射線遮蔽部材、19:真空容器、20:排気管、21:放射線通過孔、22:電子通過孔、30:放射線発生装置、31:放射線検出器、32:信号処理部、33:装置制御部、34:表示部、35:被検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を透過する第一の窓を有する外囲器と、
前記外囲器内に収納され、前記第一の窓と対向する位置に放射線を透過する第二の窓を有する放射線発生管と、
前記外囲器と前記放射線発生管との間に充填された絶縁性液体と、
前記第二の窓に連通する放射線通過孔を有し、前記放射線発生管から前記第一の窓側に突出した放射線遮蔽部材と、
を備える放射線発生装置であって、
少なくとも前記放射線遮蔽部材の前記第一の窓と対向する面における内周及び外周が、固体の絶縁部材で覆われていることを特徴とする放射線発生装置。
【請求項2】
前記絶縁部材は、少なくとも前記放射線遮蔽部材の前記第一の窓と対向する面における内周と外周とで囲まれた領域を覆っていることを特徴とする請求項1に記載の放射線発生装置。
【請求項3】
前記絶縁部材は、少なくとも前記放射線遮蔽部材の前記第一の窓と対向する面における内周を覆う第一の絶縁部材と、少なくとも前記放射線遮蔽部材の前記第一の窓と対向する面における外周を覆う第二の絶縁部材と、からなることを特徴とする請求項1に記載の放射線発生装置。
【請求項4】
前記絶縁部材は、少なくとも前記放射線遮蔽部材の前記第一の窓と対向する面における外周で囲まれた領域全体を覆うことを特徴とする請求項1に記載の放射線発生装置。
【請求項5】
前記絶縁性液体は電気絶縁油であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の放射線発生装置。
【請求項6】
前記絶縁部材は前記絶縁性液体よりも電気絶縁性が高いことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の放射線発生装置。
【請求項7】
前記放射線発生管はその内部に、電子放出源と前記第二の窓の前記電子放出源側の面に配置され前記電子放出源から放出される電子の照射により放射線を発生させるターゲットとを備えており、
前記放射線発生装置は前記ターゲットのGNDアースに対する電位を+(Va−α)[V]、前記電子放出源のGNDアースに対する電位を−α[V]、(但し、Va>α>0)に、それぞれ設定する電圧制御手段を有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の放射線発生装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の放射線発生装置と、前記放射線発生装置から放出され被検体を透過した放射線を検出する放射線検出器と、を備えることを特徴とする放射線撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−20792(P2013−20792A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152792(P2011−152792)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】