説明

放射線硬化型インク組成物、ならびにインクジェット記録方法および記録物

【課題】長期保存安定性に優れ、かつ、記録した画像において、柔軟性、硬化性および記録媒体に対する密着性に優れた放射線硬化型インク組成物を提供する。
【解決手段】(A)5質量%以上15質量%以下のN−ビニルカプロラクタムと、(B)70質量%以上90質量%以下のアクリル酸エステルモノマーと、(C)前記N−ビニルカプロラクタムの含有量に対して2000ppm以上7000ppm以下のp−ベンゾキノンおよびその誘導体から選択される少なくとも1種と、(D)前記アクリル酸エステルモノマーの含有量に対して500ppm以上2500ppm以下のハイドロキノンモノメチルエーテルと、を含有することを特徴とする放射線硬化型インク組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線硬化型インク組成物、ならびにそれを用いたインクジェット記録方法および記録物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、紫外線、電子線その他の放射線によって硬化する放射線硬化型インクの開発が進められている。このような放射線硬化型インクは、プラスチック、ガラス、コート紙等のインクを吸収しないまたはほとんど吸収しない非吸収メディアに対する記録において、速乾性があり、かつ、インクの滲みを防止した記録を実現することができる。このような放射線硬化型インクは、重合性モノマー、重合開始剤、顔料その他の添加剤等から構成されている。
【0003】
ところで、ポリエチレンテレフタレート樹脂や塩化ビニル樹脂等の柔軟性を有する記録媒体上に画像が形成された記録物は、例えば車体のような曲面を有する物品に貼付されることがある。このような用途では、前記記録物を引き延ばして物品に貼付することが通常であるため、記録媒体上に形成された画像は、引き延ばしてもクラックや剥がれを生じることなく、100%以上の伸度を有していることが望ましい。
【0004】
従来の放射線硬化型インクは、100%以上の伸度を有する柔軟な画像を記録するために、長鎖アルキルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレートのエチレンオキサイド付加物等の重合性モノマーを使用していた(例えば、特許文献1〜3参照)。また、前述したような柔軟性を有する記録媒体とその上に形成された記録物との密着性を向上させるために、N−ビニルラクタム類等の重合性モノマーを使用していた(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−199924号公報
【特許文献2】特開2007−131754号公報
【特許文献3】特開2008−7687号公報
【特許文献4】特開2008−201876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、N−ビニルラクタム類を含有する放射線硬化型インクは、経時的に増粘する傾向が見られ、長期保存安定性に問題があった。かかる放射線硬化型インクの保存安定性を向上させるためには、ハイドロキノンモノメチルエーテル等の重合禁止剤を添加することが検討されているが、これでも十分な保存安定性が得られているとはいえなかった。一方で、重合禁止剤を添加することにより、放射線硬化型インクの硬化性が悪化するという問題も生じ得る。
【0007】
本発明に係る幾つかの態様は、前記課題を解決することで、長期保存安定性に優れ、かつ、記録した画像において、柔軟性、硬化性および記録媒体に対する密着性に優れた放射線硬化型インク組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は前述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0009】
[適用例1]
本発明に係る放射線硬化型インク組成物の一態様は、
(A)5質量%以上15質量%以下のN−ビニルカプロラクタムと、
(B)70質量%以上90質量%以下のアクリル酸エステルモノマーと、
(C)前記N−ビニルカプロラクタムの含有量に対して2000ppm以上7000ppm以下のp−ベンゾキノンおよびその誘導体から選択される少なくとも1種と、
(D)前記アクリル酸エステルモノマーの含有量に対して500ppm以上2500ppm以下のハイドロキノンモノメチルエーテルと、
を含有することを特徴とする。
【0010】
適用例1の放射線硬化型インク組成物によれば、長期保存安定性に優れ、かつ、記録した画像において、硬化性および記録媒体に対する密着性に優れたものとなる。
【0011】
[適用例2]
適用例1において、
前記(C)p−ベンゾキノン誘導体は、メチル−p−ベンゾキノンまたは2−tert−ブチル−p−ベンゾキノンであることができる。
【0012】
[適用例3]
適用例1または適用例2において、
前記(B)アクリル酸エステルモノマーとして、20質量%以上50質量%以下のフェノキシエチルアクリレートを含有することができる。
【0013】
[適用例4]
適用例1ないし適用例3のいずれか一例において、
前記(B)アクリル酸エステルモノマーとして、35質量%以上65質量%以下の脂環式構造を有する単官能アクリレートを含有することができる。
【0014】
[適用例5]
適用例4において、
前記脂環式構造を有する単官能アクリレートは、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、およびジシクロペンテニルオキシエチルアクリレートから選択される少なくとも1種であることができる。
【0015】
[適用例6]
適用例1ないし適用例5のいずれか一例において、
前記(B)アクリル酸エステルモノマーとして、1質量%以上15質量%以下の脂環式構造を有する多官能アクリレートを含有することができる。
【0016】
[適用例7]
適用例6において、
前記脂環式構造を有する多官能アクリレートは、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレートであることができる。
【0017】
[適用例8]
適用例1ないし適用例7のいずれか一例において、
前記(B)アクリル酸エステルモノマーとして、1質量%以上5質量%以下のアミノアクリレートを含有することができる。
【0018】
[適用例9]
適用例1ないし適用例8のいずれか一例において、
測定温度20℃における粘度が10mPa・s以上40mPa・s以下であり、かつ、測定温度20℃における表面張力が20mN/m以上30mN/m以下であることができる。
【0019】
[適用例10]
本発明に係るインクジェット記録方法の一態様は、
(a)記録媒体上に適用例1ないし適用例9のいずれか一例に記載の放射線硬化型インク組成物を吐出する工程と、
(b)吐出された放射線硬化型インク組成物に対して、活性放射線光源から350nm以上430nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する活性放射線を照射する工程と、
を含むことを特徴とする。
【0020】
[適用例11]
本発明に係る記録物の一態様は、
適用例10に記載のインクジェット記録方法によって記録されたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施の形態に係るインクジェット記録方法に使用可能なインクジェット記録装置の斜視図。
【図2】図1に示した活性放射線照射装置の正面図。
【図3】図2のA−A矢視図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の好適な実施の形態について説明する。以下に説明する実施の形態は、本発明の一例を説明するものである。また、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。なお、以下の記載において(A)ないし(D)の各材料を、それぞれ(A)成分ないし(D)成分と省略して記載することもある。また、本発明において「画像」とは、ドット群から形成される印字パターンを示し、テキスト印字、ベタ印字も含める。
【0023】
1.放射線硬化型インク組成物
本発明の一実施形態に係る放射線硬化型インク組成物は、(A)5質量%以上15質量%以下のN−ビニルカプロラクタムと、(B)70質量%以上90質量%以下のアクリル酸エステルモノマーと、(C)前記N−ビニルカプロラクタムの含有量に対して2000ppm以上7000ppm以下のp−ベンゾキノンおよびその誘導体から選択される少なくとも1種と、(D)前記アクリル酸エステルモノマーの含有量に対して500ppm以上2500ppm以下のハイドロキノンモノメチルエーテルと、を含有することを特徴とする。
【0024】
以下、本実施の形態に用いられる各成分について詳細に説明する。
【0025】
1.1.(A)N−ビニルカプロラクタム
本実施の形態に係る放射線硬化型インク組成物は、(A)N−ビニルカプロラクタムを含有する。本実施の形態に係る放射線硬化型インク組成物は、反応成分中に(A)N−ビニルカプロラクタムを含有することにより、記録媒体とその上に記録した画像との密着性を向上させることができる。また、(A)N−ビニルカプロラクタムは、良好な硬化性を有しており、他の重合性モノマーに対する希釈性も良好であり、(B)アクリル酸エステルモノマーが有する機能を阻害することがない。
【0026】
(A)N−ビニルカプロラクタムの含有量は、放射線硬化型インク組成物の全質量を100質量%とした場合、5質量%以上15質量%以下であり、好ましくは10質量%以上15質量%以下である。(A)N−ビニルカプロラクタムの含有量が5質量%未満であると、記録媒体とその上に記録した画像との密着性に優れない場合がある。一方、15質量%を超えると、経時的に(A)成分が分解して粘度や色相が変化してしまい、放射線硬化型インク組成物の長期保存安定性を確保できない場合がある。
【0027】
1.2.(B)アクリル酸エステルモノマー
本実施の形態に係る放射線硬化型インク組成物は、重合性モノマーとして(A)N−ビニルカプロラクタムに加え、(B)アクリル酸エステルモノマーを含有する。(B)アクリル酸エステルモノマーの含有量は、放射線硬化型インク組成物の全質量を100質量%とした場合、70質量%以上90質量%以下であり、好ましくは75質量%以上85質量%以下である。(B)アクリル酸エステルモノマーは、主成分となる重合性モノマーであり、その種類によって記録媒体上に記録した記録物に様々な機能を付与することができる。(B)アクリル酸エステルモノマーとしては、例えば以下に示す化合物が挙げられる。
【0028】
1.2.1.フェノキシエチルアクリレート
本実施の形態に係る放射線硬化型インク組成物は、前記(B)アクリル酸エステルモノマーとして、フェノキシエチルアクリレートを含有することが好ましい。本実施の形態に係る放射線硬化型インク組成物は、フェノキシエチルアクリレートを含有することにより、記録媒体上に記録された画像の柔軟性や伸張耐久性を向上させることができる。また、フェノキシエチルアクリレートは、良好な硬化性を有しており、他の重合性モノマーに対する希釈性も良好であるため、非常に使いやすいという特徴を有している。
【0029】
フェノキシエチルアクリレートの含有量は、放射線硬化型インク組成物の全質量を100質量%とした場合、好ましくは20質量%以上50質量%以下であり、より好ましくは20質量%以上35質量%以下である。フェノキシエチルアクリレートの含有量が20質量%未満であると、記録媒体上に記録した画像の柔軟性や伸張耐久性に優れない場合がある。一方、50質量%を超えると、放射線硬化型インク組成物の長期保存安定性に優れない場合があるため、製品としての使用に適さない。
【0030】
1.2.2.脂環式構造を有する単官能アクリレート
本実施の形態に係る放射線硬化型インク組成物は、前記(B)アクリル酸エステルモノマーとして、脂環式構造を有する単官能アクリレートを含有することが好ましい。本実施の形態に係る放射線硬化型インク組成物は、脂環式構造を有する単官能アクリレートの含有量を適宜増減することにより、放射線硬化型インク組成物の粘性をインクジェット記録方式に適した低い値(20℃/10mPa・s以上40mPa・s以下)に調節することができる。単官能アクリレートは、総じて粘度が低いからである。さらに嵩高い脂環式構造を有することで、記録媒体の上に記録した画像に強靱性を付与することができ、これにより耐擦性を向上させることもできる。
【0031】
脂環式構造を有する単官能アクリレートとしては、例えば、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、イソボルニルアクリレート、トリメチロールプロパンフォルマルモノアクリレート、アダマンチルアクリレート、オキセタンアクリレート、3,3,5−トリメチルシクロヘキサンアクリレート等が挙げられる。これらのアクリル酸エステルモノマーは、1種単独で用いることもできるし、2種以上併用して用いてもよい。
【0032】
脂環式構造を有する単官能アクリレートの含有量は、放射線硬化型インク組成物の全質量を100質量%とした場合、好ましくは35質量%以上65質量%以下である。脂環式構造を有する単官能アクリレートの含有量が35質量%未満であると、記録媒体上に記録した画像の耐擦性が低くなる傾向がある。一方、65質量%を超えると、記録媒体上に記録した画像の柔軟性に優れなくなる傾向があり、記録媒体上に記録した画像にクラックや剥がれが発生しやすくなる。
【0033】
1.2.3.脂環式構造を有する多官能アクリレート
本実施の形態に係る放射線硬化型インク組成物は、前記(B)アクリル酸エステルモノマーとして、脂環式構造を有する多官能アクリレートを含有することが好ましい。このような多官能アクリレートは、通常架橋剤として機能して光重合による硬化時間を短縮することができ、さらに多官能アクリレートが脂環式構造のような嵩高い構造を有することで、形成されるポリマーの強度を向上させることもできる。すなわち、本実施の形態に係る放射線硬化型インク組成物は、脂環式構造を有する多官能アクリレートを含有することにより、記録媒体上に記録した画像に強靱性を付与することができ、これにより耐擦性を向上させることができる。また、脂環式構造を有する多官能アクリレートは、他の重合性モノマーに対する希釈性も良好であり、N−ビニルカプロラクタムや他のアクリル酸エステルモノマーが有する機能を阻害することがない。
【0034】
脂環式構造を有する多官能アクリレートとしては、例えば、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、1,3−アダマンタンジオールジアクリレート等が挙げられる。これらのアクリル酸エステルモノマーは、1種単独で用いることもできるし、2種以上併用して用いてもよい。
【0035】
脂環式構造を有する多官能アクリレートの含有量は、放射線硬化型インク組成物の全質量を100質量%とした場合、1質量%以上15質量%以下であり、好ましくは5質量%以上10質量%以下である。脂環式構造を有する多官能アクリレートの含有量が1質量%未満であると、記録媒体上に記録した画像の耐擦性が悪くなる傾向がある。一方、15質量%を超えると、記録媒体上に記録した画像の柔軟性に優れなくなる傾向があり、記録媒体上に記録した画像にクラックや剥がれが発生しやすくなる。また、放射線硬化型インク組成物の粘度を上昇させてしまうため、インクジェットプリンターのノズルにおいて目詰まり等を生じさせやすくする傾向がある。
【0036】
1.2.4.アミノアクリレート
本実施の形態に係る放射線硬化型インク組成物は、前記(B)アクリル酸エステルモノマーとして、アミノアクリレートを含有することが好ましい。本実施の形態に係る放射線硬化型インク組成物は、アミノアクリレートを含有することにより、共重合反応を促進させることができる。
【0037】
アミノアクリレートの含有量は、放射線硬化型インク組成物の全質量を100質量%とした場合、好ましくは1質量%以上5質量%以下である。アミノアクリレートの含有量が1質量%未満であると、共重合反応が円滑に進行せず、記録媒体上に記録した画像の硬化性が不十分となることがある。一方、5質量%を超えても、共重合反応を促進させる効果の向上が見られず、過剰添加となり好ましくない。
【0038】
1.2.5.その他のアクリル酸エステルモノマー
本実施の形態に係る放射線硬化型インク組成物は、前記例示したアクリル酸エステルモノマーを含有することが好ましいが、これら以外の他のアクリル酸エステルモノマーを含有してもよい。他のアクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、以下に示すようなガラス転移点が0℃以下のアクリル酸エステルモノマーが挙げられる。このようなアクリル酸エステルモノマーは、記録媒体上に記録された画像の柔軟性や伸張耐久性を損なわないからである。
【0039】
<長鎖アルキルアクリレート>
長鎖アルキルアクリレートとしては、例えば、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、n−ノニルアクリレート、n−デシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、n−ラウリルアクリレート、n−トリデシルアクリレート、n−セチルアクリレート、n−ステアリルアクリレート、イソミリスチルアクリレート、イソステアリルアクリレート等が挙げられる。
【0040】
<ポリエチレンオキシドまたはポリプロピレンオキシド付加単官能アクリレート>
ポリエチレンオキシドまたはポリプロピレンオキシド付加単官能アクリレートとしては、例えば、(ポリ)エチレングリコールモノアクリレート、(ポリ)エチレングリコールアクリレートメチルエステル、(ポリ)エチレングリコールアクリレートエチルエステル、(ポリ)エチレングリコールアクリレートフェニルエステル、(ポリ)プロピレングリコールモノアクリレート、(ポリ)プロピレングリコールモノアクリレートフェニルエステル、(ポリ)プロピレングリコールアクリレートメチルエステル、(ポリ)プロピレングリコールアクリレートエチルエステル、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシ−ポリエチレングリコールアクリレート等が挙げられる。
【0041】
<フェノキシエチルアクリレート変性品>
フェノキシエチルアクリレート変性品としては、例えば、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシ−ポリエチレングリコールアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、ノニルフェノールEO付加物アクリレート等が挙げられる。
【0042】
1.3.(C)p−ベンゾキノンおよびその誘導体
本実施の形態に係る放射線硬化型インク組成物は、(C)p−ベンゾキノンおよびその誘導体から選択される少なくとも1種を含有する。本実施の形態に係る放射線硬化型インク組成物は、(C)成分を含有することにより、特に(A)N−ビニルカプロラクタムの分解を抑制することができる。これにより、放射線硬化型インク組成物の長期保存による粘度の上昇を防ぎ、長期安定性を確保することができる。
【0043】
p−ベンゾキノン誘導体としては、例えば、メチル−p−ベンゾキノン、2−tert−ブチル−p−ベンゾキノン,2,5−ジ−tert−ブチル−p−ベンゾキノン、2,5−ジフェニル−p−ベンゾキノン等が挙げられる。
【0044】
本実施の形態に係る放射線硬化型インク組成物において、(C)成分は1種単独で使用することもできるが、2種以上の(C)成分を併用することもできる。
【0045】
(C)成分の含有量は、(A)N−ビニルカプロラクタムの含有量に対して2000ppm以上7000ppm以下、より好ましくは2500ppm以上5000ppm以下である。(C)成分の含有量が前記範囲内であると、特に(A)N−ビニルカプロラクタムの分解を効果的に抑制することができ、放射線硬化型インク組成物の長期保存安定性を確保することができる。(C)成分の含有量が2000ppm未満であると、N−ビニルカプロラクタムの分解を十分に抑制することができず、その分解に伴い放射線硬化型インク組成物の粘度が上昇する傾向がある。一方、7000ppmを超えると、N−ビニルカプロラクタムの分解を抑制することはできるが、放射線硬化型インク組成物が硬化するのに多大のエネルギーを要することになり、硬化性に支障が生じる場合がある。
【0046】
1.4.(D)ハイドロキノンモノメチルエーテル
本実施の形態に係る放射線硬化型インク組成物は、(D)ハイドロキノンモノメチルエーテルを含有する。本実施の形態に係る放射線硬化型インク組成物は、(D)成分を含有することにより、特に(B)アクリル酸エステルモノマーの分解を抑制することができる。これにより、放射線硬化型インク組成物の長期保存による粘度の上昇を防ぎ、長期安定性を確保することができる。
【0047】
(D)成分の含有量は、(B)アクリル酸エステルモノマーの含有量に対して500ppm以上2500ppm以下、より好ましくは700ppm以上2200ppm以下である。(D)成分の含有量が前記範囲内であると、(B)アクリル酸エステルモノマーの分解を効果的に抑制することができ、放射線硬化型インク組成物の長期保存安定性を確保することができる。(D)成分の含有量が500ppm未満であると、アクリル酸エステルモノマーの分解を十分に抑制することができず、その分解に伴い放射線硬化型インク組成物の粘度が上昇する傾向がある。一方、2500ppmを超えると、アクリル酸エステルモノマーの分解を抑制することはできるが、放射線硬化型インク組成物が硬化するのに多大のエネルギーを要することになり、硬化性に支障が生じる場合がある。
【0048】
1.5.光重合開始剤
本実施の形態に係る放射線硬化型インク組成物は、前述した成分の他に、さらに光重合開始剤を含有してもよい。光重合開始剤とは、記録媒体の上に吐出された放射線硬化型インク組成物に活性放射線を照射することによって、前述した重合性モノマーの共重合反応を開始させる機能を有する化合物の総称である。
【0049】
光重合開始剤としては、例えば、アルキルフェノン系光重合開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤、チタノセン系光重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤等の公知の光重合開始剤が挙げられる。これらの中でも、前述した反応成分との相溶性に優れた2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、広域な吸光特性を有するビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド等の分子開裂型や、ジエチルチオキサントン等の水素引き抜き型が好ましい。アシルフォスフィンオキサイド系の光重合開始剤が好ましい理由は、光開裂の前後で発色団の構造が大きく変化するため吸収の変化が大きく、フォトブリーチング(光退色)と呼ばれる吸収の減少が見られるからである。また、吸収がUV領域からVL領域まで及ぶにもかかわらず黄変が起こりにくく、内部硬化にも優れているからである。このため、透明な厚膜や隠蔽力の大きい顔料入り塗膜に対して特に好ましい。チオキサントン系の光重合開始剤が好ましい理由は、光開裂後の反応系内に残存する酸素と反応して系内の酸素の濃度を下げる作用があるからである。酸素濃度が下がる分だけ、ラジカル重合阻害の程度が低減できるので、表面硬化性を改善することができる。さらにアシルフォスフィン系の光重合開始剤とチオキサントン系の光重合開始剤とを併用するのが特に好ましい。これらの光重合開始剤は、1種単独で用いることもできるが、2種以上組み合わせて用いることによりそれぞれの特性を最大限に引き出すことが可能となる。
【0050】
光重合開始剤の含有量は、放射線硬化型インク組成物の全質量を100質量%とした場合、好ましくは1質量%以上20質量%以下、より好ましくは5質量%以上15質量%以下である。光重合開始剤の含有量が1質量%未満であると、光重合開始剤の機能が発揮されない場合があり、記録媒体上に記録した画像の硬化性が不十分となることがある。一方、20質量%を超えても、前述した重合性モノマーの共重合反応を開始させる効果の向上が見られず、過剰添加となり好ましくない。
【0051】
1.6.その他の添加剤
本実施の形態に係る放射線硬化型インク組成物は、必要に応じて、顔料、分散剤、スリップ剤、光増感剤等の添加剤を含有することができる。
【0052】
本実施の形態に係る放射線硬化型インク組成物は、そのままでもいわゆるクリアインクとして機能することができるが、さらに顔料を添加してもよい。本実施の形態において使用可能な顔料としては、特に制限されないが、無機顔料や有機顔料が挙げられる。無機顔料としては、酸化チタンおよび酸化鉄に加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法等の公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。一方、有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等を含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キノフラロン顔料等)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等を使用することができる。
【0053】
本実施の形態で使用可能な顔料の具体例のうち、カーボンブラックとしては、C.I.ピグメントブラック7が挙げられ、例えば、三菱化学株式会社から入手可能なNo.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B等が、コロンビアケミカルカンパニー社から入手可能なRaven5750、同5250、同5000、同3500、同1255、同700等が、また、キャボット社から入手可能なRegal400R、同330R、同660R、MogulL、同700、Monarch800、同880、同900、同1000、同1100、同1300、同1400等が、さらに、デグッサ社から入手可能なColorBlackFW1、同FW2、同FW2V、同FW18、同FW200、ColorBlackS150、同S160、同S170、Printex35、同U、同V、同140U、SpecialBlack6、同5、同4A、同4等が挙げられる。
【0054】
また、本実施の形態に係る放射線硬化型インク組成物をイエローインクとする場合に使用可能な顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、120、128、129、138、150、151、154、155、180、185、213等が挙げられる。
【0055】
また、本実施の形態に係る放射線硬化型インク組成物をマゼンタインクとする場合に使用可能な顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、168、184、202、209、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
【0056】
また、本実施の形態に係る放射線硬化型インク組成物をシアンインクとする場合に使用可能な顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15:3、15:4、16、22、60等が挙げられる。
【0057】
また、本実施の形態に係る放射線硬化型インク組成物をグリーンインクとする場合に使用可能な顔料としては、例えば、C.I.ピグメントグリーン7、8、36等が挙げられる。
【0058】
また、本実施の形態に係る放射線硬化型インク組成物をオレンジインクとする場合に使用可能な顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ51、66等が挙げられる。
【0059】
また、本実施の形態に係る放射線硬化型インク組成物をホワイトインクとする場合に使用可能な顔料としては、例えば、塩基性炭酸鉛、酸化亜鉛、酸化チタン、チタン酸ストロンチウム等が挙げられる。
【0060】
本実施の形態で使用可能な顔料の平均粒子径は、好ましくは10nm〜200nmの範囲であり、より好ましくは50nm〜150nmの範囲である。
【0061】
本実施の形態に係る放射線硬化型インク組成物に添加し得る顔料の添加量は、放射線硬化型インク組成物の全質量を100質量%とした場合、好ましくは0.1質量%以上25質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上15質量%以下である。
【0062】
本実施の形態に係る放射線硬化型インク組成物は、前述した顔料の分散性を高める目的で分散剤を添加してもよい。本実施の形態で使用可能な分散剤としては、Solsperse3000、5000、9000、12000、13240、17000、24000、26000、28000、36000(以上、ルーブリゾール社製)、ディスコールN−503、N−506、N−509、N−512、N−515、N−518、N―520(以上、第一工業製薬株式会社製)等の高分子分散剤が挙げられる。
【0063】
本実施の形態に係る放射線硬化型インク組成物は、スリップ剤を添加してもよい。本実施の形態で使用可能なスリップ剤としては、好ましくはシリコーン系界面活性剤であり、より好ましくはポリエステル変性シリコーンまたはポリエーテル変性シリコーンである。具体的には、ポリエステル変性シリコーンとしては、BYK−347、同348、BYK−UV3500、同3510、同3530(以上、ビックケミー・ジャパン株式会社製)等が挙げられ、ポリエーテル変性シリコーンとしては、BYK−3570(ビックケミー・ジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0064】
本実施の形態に係る放射線硬化型インク組成物は、光増感剤を添加してもよい。本実施の形態で使用可能な光増感剤としては、アミン化合物(脂肪族アミン、芳香族基を含むアミン、ピペリジン、エポキシ樹脂とアミンの反応生成物、トリエタノールアミントリアクリレートなど)、尿素化合物(アリルチオ尿素、o−トリルチオ尿素など)、イオウ化合物(ナトリウムジエチルジチオホスフェート、芳香族スルフィン酸の可溶性塩など)、ニトリル系化合物(N,N−ジエチル−p−アミノベンゾニトリルなど)、リン化合物(トリ−n−ブチルフォスフィン、ナトリウムジエチルジチオフォスファイドなど)、窒素化合物(ミヒラーケトン、N−ニトリソヒドロキシルアミン誘導体、オキサゾリジン化合物、テトラヒドロ−1,3−オキサジン化合物、ホルムアルデヒドまたはアセトアルデヒドとジアミンの縮合物など)、塩素化合物(四塩化炭素、ヘキサクロロエタンなど)等が挙げられる。
【0065】
1.7.物性
本実施の形態に係る放射線硬化型インク組成物の20℃における粘度は、好ましくは10〜40mPa・sであり、より好ましくは15〜25mPa・sである。放射線硬化型インク組成物の20℃における粘度が前記範囲内にあると、ノズルから放射線硬化型インク組成物が適量吐出され、放射線硬化型インク組成物の飛行曲がりや飛散を一層低減することができるため、インクジェット記録装置に好適に使用することができる。なお、粘度は、粘弾性試験機MCR−300(Pysica社製)を用いて、20℃の環境下でShear Rateを10〜1000に上げていき、Shear Rate200時の粘度を読み取ることにより測定することができる。
【0066】
本実施の形態に係る放射線硬化型インク組成物の20℃における表面張力は、好ましくは20mN/m以上30mN/m以下である。放射線硬化型インク組成物の20℃における表面張力が前記範囲内にあると、放射線硬化型インク組成物が撥液処理されたノズルに濡れにくくなる。これにより、ノズルから放射線硬化型インク組成物が適量吐出され、放射線硬化型インク組成物の飛行曲がりや飛散を一層低減することができるため、インクジェット記録装置に好適に使用することができる。なお、表面張力は、自動表面張力計CBVP−Z(協和界面化学株式会社製)を用いて、20℃の環境下で白金プレートをインクで濡らしたときの表面張力を確認することにより測定することができる。
【0067】
2.インクジェット記録方法
本発明の一実施形態に係るインクジェット記録方法は、(a)記録媒体上に前述した放射線硬化型インク組成物を吐出する工程と、(b)吐出された放射線硬化型インク組成物に対して、活性放射線光源から350nm以上430nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する活性放射線を照射する工程と、を含むことを特徴とする。
【0068】
以下、本実施の形態に係るインクジェット記録方法について各工程ごとに説明する。
【0069】
2.1.工程(a)
本工程は、記録媒体上に前述した放射線硬化型インク組成物を吐出する工程である。
【0070】
放射線硬化型インク組成物については、前述したとおりであるから、詳細な説明を省略する。
【0071】
記録媒体としては、特に限定されないが、例えばポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート等のプラスチック類およびこれらの表面が加工処理されているもの、ガラス、コート紙等が挙げられる。
【0072】
放射線硬化型インク組成物を吐出する手段としては、例えば、以下に説明するインクジェット記録装置を用いることができる。
【0073】
図1は、本実施の形態に係るインクジェット記録方法に使用可能なインクジェット記録装置の斜視図である。
【0074】
図1に示したインクジェット記録装置20は、記録媒体Pを副走査方向SSに送るモーター30と、プラテン40と、放射線硬化型インク組成物を微少粒径にしてヘッドノズルから噴射して記録媒体Pに吐出する記録ヘッドとしての印刷ヘッド52と、該印刷ヘッド52を搭載したキャリッジ50と、キャリッジ50を主走査方向MSに移動させるキャリッジモーター60と、印刷ヘッド52によって放射線硬化型インク組成物を吐出した記録媒体P上のインク付着面に活性放射線を照射する一対の活性放射線照射装置90A、90Bとを備えている。
【0075】
キャリッジ50は、キャリッジモーター60に駆動される牽引ベルト62によって牽引され、ガイドレール64に沿って移動する。
【0076】
図1に示した印刷ヘッド52は、3色以上のインクを噴射するフルカラー印刷用のシリアル型ヘッドであり、各色ごとに多数のヘッドノズルが備えられている。かかる印刷ヘッド52が搭載されるキャリッジ50には、前記印刷ヘッド52の他に、印刷ヘッド52に供給される黒色インクを収容したブラックインク容器としてのブラックカートリッジ54と、印刷ヘッド52に供給されるカラーインクを収容したカラーインクとしてのカラーインクカートリッジ56とが搭載されている。各カートリッジ54、56に収容されているインクは、前述した放射線硬化型インク組成物である。
【0077】
キャリッジ50のホームポジション(図1の右側の位置)には、停止時に印刷ヘッド52のノズル面を密閉するためのキャッピング装置80が設けられている。印刷ジョブが終了してキャリッジ50がこのキャッピング装置80の上まで到達すると、図示しない機構によってキャッピング装置80が自動的に上昇して、印刷ヘッド52のノズル面を密閉する。このキャッピングにより、ノズル内のインクの乾燥が防止される。キャリッジ50の位置決め制御は、例えば、このキャッピング装置80の位置にキャリッジ50を正確に位置決めするために行われる。
【0078】
このようなインクジェット記録装置20を使用することにより、記録媒体上に放射線硬化型インク組成物を吐出することができる。また、インクジェット記録装置20によれば、工程(a)と工程(b)とを別個の装置で行うことなく、工程(a)と工程(b)とを一の装置で連続的に行うことが可能となる。
【0079】
2.2.工程(b)
本工程は、吐出された放射線硬化型インク組成物に対して、活性放射線光源から350nm以上430nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する活性放射線を照射する工程である。本工程によれば、記録媒体上に吐出された放射線硬化型インク組成物に特定波長の活性放射線を照射することにより、該放射線硬化型インク組成物が硬化されて、記録媒体上に画像を記録することができる。
【0080】
以下、前述したインクジェット記録装置20を用いて、工程(b)を行う場合について詳細に説明する。
【0081】
図2は、図1に示した活性放射線照射装置90A(図2の190Aに相当)、90B(図2の190Bに相当)の正面図である。図3は、図2のA−A矢視図である。
【0082】
図1ないし図3に示すように、活性放射線照射装置190A、190Bは、キャリッジ50の移動方向に沿った両側端にそれぞれ取り付けられている。
【0083】
図2に示すように、印刷ヘッド52の向かって左側に取り付けられた活性放射線照射装置190Aは、キャリッジ50が右方向(図2の矢印B方向)に移動する右走査時に、記録媒体P上に吐出されたインク層196に対して活性放射線照射を行う。一方、印刷ヘッド52の向かって右側に取り付けられた活性放射線照射装置190Bは、キャリッジ50が左方向(図2の矢印C方向)に移動する左走査時に、記録媒体P上に吐出されたインク層196に対して活性放射線照射を行う。
【0084】
各活性放射線照射装置190A、190Bは、キャリッジ50に取り付けられて、活性放射線光源192をそれぞれ1個ずつ整列支持した筐体194と、活性放射線光源192の発光および消灯を制御する(図示しない)光源制御回路とを備えている。図2および図3に示すように、活性放射線照射装置190A、190Bには、活性放射線光源192がそれぞれ1個ずつ設けられているが2個以上設けてもよい。活性放射線光源192としては、LEDまたはLDのいずれかを使用することが好ましい。これにより、活性放射線光源として水銀灯ランプ、メタルハライドランプ、その他のランプ類を使用した場合と比較して、フィルター等の装備のために活性放射線光源が大型化することを回避することができる。また、フィルターによる吸収で出射された活性放射線強度が低下することがなく、放射線硬化型インク組成物を効率良く硬化させることができる。
【0085】
また、各活性放射線光源192は、出射される波長が同じものでもよいし、異なっていてもよい。活性放射線光源192としてLEDまたはLDを使用する場合、出射される活性放射線の発光ピーク波長は350〜430nm程度の範囲のいずれかとすればよい。
【0086】
以上に説明した活性放射線照射装置190A、190Bによれば、図2に示すように、印刷ヘッド52からの吐出で記録媒体P上に付着させたインク層196に対して、印刷ヘッド52近傍の記録媒体P上を照射する活性放射線光源192により活性放射線192aが照射され、インク層196の表面および内部を硬化させることができる。
【0087】
活性放射線の照射量は、記録媒体P上に付着させたインク層196の厚さにより異なるため厳密には特定できず、適宜好ましい条件を選択するものではあるが、前述した放射線硬化型インク組成物を用いているので、300〜1000mJ/cm程度の活性放射線照射量で十分に硬化させることができる。
【0088】
インクジェット記録装置20によれば、放射線硬化型インク組成物の粘度が低く、インク層の膜厚が比較的薄いフルカラー印刷時においても、記録媒体P上に吐出された複数の放射線硬化型インク組成物を滲みや色混じりという不具合を生じることなく、良好に硬化させることができる。
【0089】
なお、インクジェット記録装置20の構成は、前述した記録ヘッド、キャリッジおよび活性放射線光源等の構成に限定されるものではなく、本実施の形態に係るインクジェット記録方法の趣旨に基づいて種々の形態を採用することができる。
【0090】
3.記録物
本発明の一実施形態に係る記録物は、前述したインクジェット記録方法によって記録されたものである。記録媒体の上に記録した画像は、前述した放射線硬化型インク組成物を用いて形成されたものであるから、柔軟性に優れていると共に、硬化性および記録媒体に対する密着性にも優れている。
【0091】
本実施の形態に係る記録物の用途は、特に限定されず、前述した記録媒体上に記録した画像として使用することができる。記録媒体の上に記録した画像は、柔軟性に優れていると共に、記録媒体に対する密着性にも優れていることから、屈曲または延伸加工性能が要求される物品に貼付する用途に特に適している。
【0092】
4.実施例
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0093】
4.1.顔料分散液の調製
着色剤としてシアン顔料(チバ・ジャパン株式会社製、商品名「IRGALITE BLUE GLVO」)20質量部、分散剤としてSolsperse36000(LUBRIZOL社製)1質量部に、単官能モノマーとしてのフェノキシエチルアクリレート(大阪有機化学工業株式会社、商品名「V#192」)を加えて全体を100質量部とし、混合撹拌して混合物とした。この混合物を、サンドミル(安川製作所株式会社製)を用いて、ジルコニアビーズ(直径1.5mm)と共に6時間分散処理を行った。その後、ジルコニアビーズをセパレータで分離することにより、シアン顔料分散液を得た。
【0094】
4.2.放射線硬化型インク組成物の調製
表1または表2に記載の組成(質量%)となるように、N−ビニルカプロラクタム、アクリル酸エステルモノマー、光重合開始剤、スリップ剤を混合し完全に溶解させた。そこに、2−tert−ブチル−p−ベンゾキノンをN−ビニルカプロラクタムに対して表1または表2の記載の濃度(ppm)となるように添加し、ハイドロキノンモノメチルエーテルをアクリル酸エステルモノマーに対して表1または表2に記載の濃度(ppm)となるように添加して完全に溶解させた。その後、これに前記シアン顔料分散液をシアン顔料の濃度が表1または表2に記載の組成(質量%)となるように撹拌しながら滴下した。滴下終了後、常温で1時間混合撹拌し、さらに5μmのメンブランフィルターでろ過して、各放射線硬化型インク組成物を得た。
【0095】
なお、表中で使用した成分は、下記のとおりである。
・N−ビニルカプロラクタム(BASF社製、商品名「N−ビニルカプロラクタム」)
・フェノキシエチルアクリレート(大阪有機化学工業株式会社、商品名「V#192」)
・ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート(日立化成工業株式会社製、商品名「FA512AS」)
・ジシクロペンテニルアクリレート(日立化成工業株式会社製、商品名「FA511AS」)
・ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート(ダイセル・サイテック株式会社製、商品名「EBECRYL IRR214K」)
・アミノアクリレート(ダイセル・サイテック株式会社製、商品名「EBECRYL 7100」)
・IRGACURE 819(チバ・ジャパン株式会社製、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、光重合開始剤)
・DAROCUR TPO(チバ・ジャパン株式会社製、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、光重合開始剤)
・DETX(日本化薬株式会社製、光重合開始剤)
・BYK−UV3500(ビックケミー・ジャパン株式会社製、ポリエーテル変性アクリル基を有するポリジメチルシロキサン、スリップ剤)
・IRGALITE BLUE GLVO(チバ・ジャパン株式会社製、シアン顔料)
・Solsperse36000(LUBRIZOL社製、分散剤)
・2−tert−ブチル−p−ベンゾキノン(東京化成工業株式会社製、重合禁止剤)
・ハイドロキノンモノメチルエーテル(関東化学株式会社製、重合禁止剤)
【0096】
4.3.記録物の作製
インクジェットプリンターPX−G5000(セイコーエプソン株式会社製)を用いて、前記放射線硬化型インク組成物をそれぞれのノズル列に充填した。常温、常圧下でPVCフィルム(住友スリーエム株式会社製、商品名「IJ−180」)上に、インクのドット径が中ドットで印刷物の膜厚が10μmとなるようなベタパターン画像を印刷すると共に、キャリッジの横に搭載した紫外線照射装置内のUV−LEDから照射強度がそれぞれ60mW/cmの365nm、395nmの2波長の紫外線を照射してベタパターン画像を硬化させた。以上のようにして、PVCフィルム上にベタパターン画像が印刷された記録物を作製した。なお、積算光量が400mJ/cmとなるような硬化条件で硬化処理を行った。
【0097】
4.4.評価試験
得られた記録物について、下記の評価試験を行った。なお、下記の評価試験は、全て室温環境下で行った。
【0098】
4.4.1.保存安定性の評価
前記放射線硬化型インク組成物をサンプル瓶に入れ、完全に密閉した。このサンプル瓶を60℃で1週間保存した後、20℃に戻したときの粘度を測定した。保存前の20℃における粘度と保存後の20℃における粘度とを測定し、その粘度の変化率により保存安定性を評価した。粘度の測定は、サンプル瓶を20℃の恒温槽に1時間入れた後、粘弾性試験機MCR−300(Pysica社製)により測定した。なお、評価基準の分類については、以下のとおりである。
A:粘度の変化率が±5%未満である。
B:粘度の変化率が5%以上10%未満である。
C:粘度の変化率が10%以上である。
【0099】
4.4.2.柔軟性の評価
まず、前記記録物を所定の大きさ(このときの長さをLとする。)にカットし、引張試験機(A&D株式会社製)にセットした。引張試験機の引張速度を100mm/分と設定し、前記記録物を引張試験機により引っ張り、前記記録物にクラックまたは剥がれ(以下、「クラック等」という。)が発生した時点を目視により確認した。引張開始時からクラック等が発生した時点までの時間から引っ張られた記録物の長さを算出し、これをLとした。下記式(1)からPVCフィルム上に形成された画像のクラック等発生伸度(%)を算出し、記録物の柔軟性について評価した。
画像のクラック等発生伸度(%)={(L−L)/L}×100 …(1)
なお、評価基準の分類については、以下のとおりである。
A:前記伸度が120%以上である。
B:前記伸度が100%以上120%未満である。
C:前記伸度が100%未満である。
【0100】
4.4.3.硬化性の評価
紫外線照射装置内のUV−LEDから照射強度を1000mW/cmとしたこと以外は、前記「4.3.記録物の作製」と同様にして、PVCフィルム上にベタパターン画像が印刷された記録物を作製した。この記録物の表面がタックフリーの状態となるまでに要した積算光量を求めて、硬化性の評価を行った。タックフリーの状態であるか否かの判断は、記録物の表面を綿棒で擦り、記録物の表面および深部の双方に擦り痕がない状態であればタックフリーの状態であると判断した。なお、評価基準の分類については、以下のとおりである。
A:積算光量が200mJ/cm未満である。
B:積算光量が200mJ/cm以上300mJ/cm未満である。
C:積算光量が300mJ/cm以上400mJ/cm未満である。
D:積算光量が400mJ/cm以上である。
【0101】
4.4.4.密着性の評価
JIS K5600−5−6(塗料一般試験法−第5部:塗膜の機械的性質−第6節:付着性(クロスカット法))に準じて、PVCフィルムと画像との密着性の評価を行った。なお、評価基準の分類については、以下のとおりである。
0:カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にも剥がれがない。
1:カットの交差点における塗膜の小さな剥がれが認められる。
2:塗膜がカットの縁に沿って、および/または交差点において剥がれている。
3:塗膜がカットの縁に沿って、部分的または全面的に大剥がれを生じており、および/または目のいろいろな部分が、部分的または全面的に剥がれている。
4:塗膜がカットの縁に沿って、部分的または全面的に大剥がれを生じており、および/または数か所の目が部分的または全面的に剥がれている。
5:剥がれの程度が分類4を超えている。
【0102】
4.5.評価結果
以上の評価試験の結果について、表1および表2に併せて記載した。
【0103】
【表1】

【0104】
【表2】

【0105】
表1に記載の実施例1〜10の放射線硬化型インク組成物によれば、いずれも保存安定性が良好であり、かつ、クラック等発生伸度が100%以上であることから柔軟性に富み、PVCフィルムに対する密着性が良好であり、しかも硬化性に優れた画像をPVCフィルム上に記録することができた。
【0106】
一方、表2の比較例1の放射性硬化型インク組成物は、(C)成分を含有していない。そのため、保存安定性の評価試験において(A)N−ビニルカプロラクタムの分解に伴い粘度の変化率が10%以上となり、良好な保存安定性が得られなかった。
【0107】
表2の比較例2の放射性硬化型インク組成物は、N−ビニルカプロラクタムの含有量に対して(C)成分を10000ppm含有しているため、硬化させるのに400mJ/cm以上の照射エネルギーを要した。よって、硬化性の評価試験において良好な結果が得られなかった。
【0108】
表2の比較例3の放射性硬化型インク組成物は、アクリル酸エステルモノマー含有量に対して(D)成分を3000ppm含有しているため、硬化させるのに400mJ/cm以上の照射エネルギーを要した。よって、硬化性の評価試験において良好な結果が得られなかった。
【0109】
表2の比較例4の放射線硬化型インク組成物は、(A)N−ビニルカプロラクタムを3.5質量%含有している。(A)N−ビニルカプロラクタムの含有量が5質量%未満であると、PVCフィルムに対する画像の密着性が著しく低下することが判明した。
【0110】
表2の比較例5の放射線硬化型インク組成物は、(A)N−ビニルカプロラクタムを17.0質量%含有している。(A)N−ビニルカプロラクタムの含有量が15質量%を超えると、(A)ビニルカプララクタムの分解が生じやすくなり放射線硬化型インク組成物の保存安定性が低下することが判明した。
【0111】
表2の比較例6の放射線硬化型インク組成物は、(A)N−ビニルカプロラクタムの含有量に対して(C)成分を1700ppm含有している。この場合には、(A)N−ビニルカプロラクタムの含有量に対して(C)成分の含有量が相対的に低いため、(A)ビニルカプララクタムの分解が生じやすくなり放射線硬化型インク組成物の保存安定性が低下することが判明した。
【0112】
表2の比較例7の放射線硬化型インク組成物は、(A)N−ビニルカプロラクタムの含有量に対して(C)成分を7500ppm含有している。この場合には、(A)N−ビニルカプロラクタムの含有量に対して(C)成分の含有量が相対的に高いため、放射線硬化型インク組成物の硬化性が損なわれることが判明した。
【0113】
表2の比較例8の放射線硬化型インク組成物は、(B)アクリル酸エステルモノマーの含有量に対して(D)成分を400ppm含有している。この場合には、(B)アクリル酸エステルモノマーの含有量に対して(D)成分の含有量が相対的に低いため、放射線硬化型インク組成物の保存安定性が損なわれることが判明した。
【0114】
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0115】
20…インクジェット記録装置、30…モーター、40…プラテン、50…キャリッジ、52…印刷ヘッド(記録ヘッド)、54…ブラックインクカートリッジ、56…カラーインクカートリッジ、60…キャリッジモーター、62…牽引ベルト、64…ガイドレール、80…キャッピング装置、90A(190A)、90B(190B)…活性放射線照射装置、192…活性放射線光源、194…筐体、196…インク層、P…記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)5質量%以上15質量%以下のN−ビニルカプロラクタムと、
(B)70質量%以上90質量%以下のアクリル酸エステルモノマーと、
(C)前記N−ビニルカプロラクタムの含有量に対して2000ppm以上7000ppm以下のp−ベンゾキノンおよびその誘導体から選択される少なくとも1種と、
(D)前記アクリル酸エステルモノマーの含有量に対して500ppm以上2500ppm以下のハイドロキノンモノメチルエーテルと、
を含有する、放射線硬化型インク組成物。
【請求項2】
請求項1において、
前記(C)p−ベンゾキノン誘導体は、メチル−p−ベンゾキノンまたは2−tert−ブチル−p−ベンゾキノンである、放射線硬化型インク組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記(B)アクリル酸エステルモノマーとして、20質量%以上50質量%以下のフェノキシエチルアクリレートを含有する、放射線硬化型インク組成物。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、
前記(B)アクリル酸エステルモノマーとして、35質量%以上65質量%以下の脂環式構造を有する単官能アクリレートを含有する、放射線硬化型インク組成物。
【請求項5】
請求項4において、
前記脂環式構造を有する単官能アクリレートは、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、およびジシクロペンテニルオキシエチルアクリレートから選択される少なくとも1種である、放射線硬化型インク組成物。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項において、
前記(B)アクリル酸エステルモノマーとして、1質量%以上15質量%以下の脂環式構造を有する多官能アクリレートを含有する、放射線硬化型インク組成物。
【請求項7】
請求項6において、
前記脂環式構造を有する多官能アクリレートは、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレートである、放射線硬化型インク組成物。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか一項において、
前記(B)アクリル酸エステルモノマーとして、1質量%以上5質量%以下のアミノアクリレートを含有する、放射線硬化型インク組成物。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか一項において、
測定温度20℃における粘度が10mPa・s以上40mPa・s以下であり、かつ、測定温度20℃における表面張力が20mN/m以上30mN/m以下である、放射線硬化型インク組成物。
【請求項10】
(a)記録媒体上に請求項1ないし請求項9のいずれか一項に記載の放射線硬化型インク組成物を吐出する工程と、
(b)吐出された放射線硬化型インク組成物に対して、活性放射線光源から350nm以上430nm以下の範囲に発光ピーク波長を有する活性放射線を照射する工程と、
を含む、インクジェット記録方法。
【請求項11】
請求項10に記載のインクジェット記録方法によって記録された、記録物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−168735(P2011−168735A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35712(P2010−35712)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】