説明

放射線硬化型インク組成物セット及び記録方法

【課題】重ね塗り印刷を行う際にブリーディング及びハジキを抑制し、且つインク滴の吐
出安定性に優れた、放射線硬化型インク組成物セット及び記録方法を提供する。
【解決手段】第1重合性化合物及び第1光重合開始剤を含み、被着体に着弾する放射線硬
化型の第1インク組成物と、第2重合性化合物及び第2光重合開始剤を含み、少なくとも
前記第1インク組成物から形成されるドットに着弾する放射線硬化型の第2インク組成物
と、を含有する放射線硬化型インク組成物セットであって、前記第1インク組成物の吐出
時の粘度と、前記第1インク組成物の吐出時とは異なる温度での前記第2インク組成物の
吐出時の粘度とが同一であり、かつ、前記被着体への着弾時における前記第1インク組成
物の粘度が、前記ドットへの着弾時における前記第2インク組成物の粘度よりも高い、放
射線硬化型インク組成物セットである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線硬化型インク組成物セット及び記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、優れた耐水性、耐溶剤性や耐擦過性等を有する画像を形成するために、放射線硬
化型インク組成物が使用されている。この放射線硬化型インク組成物は重合性化合物及び
光重合開始剤を含む。そして、当該インク組成物を被記録媒体に塗布し、放射線の照射に
よりインク組成物中の重合性化合物を重合させてインクを固化することにより、画像が形
成される(印刷が行われる)。ところが、上記の放射線硬化型インク組成物を複数種用い
て印刷を行うと、インク境界線における滲みや混色(以下、「ブリーディング(blee
ding)」という。)が生じる場合がある。そこで、ブリーディングの発生を防止可能
な、重ね塗り印刷による画像形成方法が検討されている。
【0003】
例えば、活性光線硬化型インクをインクジェット記録により記録材料上に吐出する画像
形成方法において、活性光線の照射を2回以上に分け、インク着弾後最初に照射する活性
光線によるインクの硬化度を低くし、更に活性光線を照射してインクを完全に硬化させる
技術が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4147943号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示の技術は、隣接して打ち込まれたインクのブリー
ディングを防止できるが、オーバーコートのようにインクが重ね塗られた界面での現象に
は言及していない。オーバコート時の滲みを防ぐために下地の硬化を強めると、下地にお
いて所望のドット径が得られなかったり、上塗りのインクの撥液(以下、「ハジキ」(r
epelling)という。)が発生するため画像の光沢性に劣ったりするという問題が
ある。そのため、重ね塗り印刷時におけるブリーディングとハジキの両立は実現できてい
ない。さらに、上記特許文献1に開示の技術は、インク滴の吐出安定性に劣るという問題
があった。
【0006】
そこで、本発明は、オーバーコートのような重ね塗り印刷を行う際にブリーディング及
びハジキを抑制し、且つインク滴の吐出安定性に優れた、放射線硬化型インク組成物セッ
ト及び記録方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した。まず、重ね塗り印刷においてブリ
ーディングが発生する原因を検討した。その結果、重ね塗り印刷において先に着弾した被
着体上のインクの層(以下、「アンダーコート層」ともいう。)と後に着弾したアンダー
コート層上のインクの層(以下、「オーバーコート層」ともいう。)とが混和することに
より、アンダーコート層のインクがオーバーコート層側に流れ込み、これによりブリーデ
ィングが生じることが分かった。特に重ね打ち印刷(重ね塗り印刷)は、オーバコートに
用いるようなクリアインクや、白インクを下地にするような場合に用いられ、色の混色が
視認されやすい。
なお、本明細書における「被着体」とは、被記録媒体、又は被記録媒体の上方に既に形
成されたドットを意味する。
【0008】
次に、重ね塗り印刷においてハジキが発生する原因を検討した。上記特許文献1のよう
に隣接したドットのブリーディングに関しては、放射線の照射を2回以上に分けて、先の
照射による硬化の硬化度を低くし(以下、「仮硬化」という。)、後の照射により完全硬
化させる(以下、「本硬化」という。)ことにより、ブリーディングの発生を防止するこ
とはできる。しかし、重ね塗り印刷時のブリーディングを防止する程度にまでアンダーコ
ート層のインクが硬化すると、当該硬化によるアンダーコート層の変性によって、オーバ
ーコート層のインクのハジキが発生することが分かった。またアンダーコート層のインク
の硬化を強めすぎると濡れ広がる前に硬化し所望のドット径が得られないことも分かった

【0009】
上記ブリーディング及びハジキの問題を解決すべく、更に研究を進めた結果、着弾時の
温度において、第1インク組成物の粘度が第2インク組成物の粘度よりも高くなるように
、インク組成物セットを設計すればよいことを見出した。これにより、より高粘度である
アンダーコート層の第1インク組成物がオーバーコート層側に流れ込むこと(ブリーディ
ング)を防止できることを知見した。しかも、より低粘度であるオーバーコート層の第2
インク組成物が濡れ広がり易くなるため、そのハジキが抑制され光沢性に優れた画像が形
成されることを見出した。
【0010】
即ち、インク組成物セットにおいて、複数種のインク組成物の粘度が、吐出時の温度で
互いに同一であり、かつ、着弾時の温度で、アンダーコート層を形成すべき第1インク組
成物の粘度が、オーバーコート層を形成すべき第2インク組成物の粘度よりも高くなるこ
とが重要であることを見出した。そして、吐出時及び着弾時において、第1インク組成物
及び第2インク組成物の温度及び粘度が上記の関係を全て満たす放射線硬化型インク組成
物セットを用いて重ね塗り印刷を行うことにより、上記の課題を解決できることを見出し
、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は下記のとおりである。
[1]
第1重合性化合物及び第1光重合開始剤を含み、被着体に着弾する放射線硬化型の第1
インク組成物と、第2重合性化合物及び第2光重合開始剤を含み、少なくとも前記第1イ
ンク組成物から形成されるドットに着弾する放射線硬化型の第2インク組成物と、を含有
する放射線硬化型インク組成物セットであって、前記第1インク組成物の吐出時の粘度と
、前記第1インク組成物の吐出時とは異なる温度での前記第2インク組成物の吐出時の粘
度とが同一であり、かつ、前記被着体への着弾時における前記第1インク組成物の粘度が
、前記ドットへの着弾時における前記第2インク組成物の粘度よりも高い、放射線硬化型
インク組成物セット。
[2]
前記第1重合性化合物は、前記第1インク組成物100質量%に対し、10質量%以上
のオリゴマーを含み、前記第2重合性化合物は、前記第2インク組成物100質量%に対
し、10質量%以下のオリゴマーを含む、[1]に記載の放射線硬化型インク組成物セッ
ト。
[3]
前記オリゴマーが多分岐オリゴマーである、[2]に記載の放射線硬化型インク組成物
セット。
[4]
第1重合性化合物及び第1光重合開始剤を含む放射線硬化型の第1インク組成物を吐出
して被着体に着弾させる工程と、第2重合性化合物及び第2光重合開始剤を含む放射線硬
化型の第2インク組成物を、前記第1インク組成物の前記吐出時とは異なる温度で、かつ
、前記第1インク組成物の前記吐出時の粘度と同一の粘度で吐出して、前記第1インク組
成物の前記着弾時よりも低い粘度で前記第1ドットに着弾させる工程と、付着した前記第
1及び第2インク組成物によって形成される塗布層に放射線を照射することにより、塗布
層を硬化させる工程と、を含む、記録方法。
[5]
前記第1インク組成物の前記吐出時の温度と前記第2インク組成物の前記吐出時の温度
との差が5〜20℃の範囲である、[4]に記載の記録方法。
[6]
前記第1インク組成物を吐出するプリンターヘッド及び前記第2インク組成物を吐出す
るプリンターヘッドのうち少なくともいずれかが、その吐出の際に25〜50℃の範囲で
加温される、[4]又は[5]に記載の記録方法。
[7]
前記被着体が前記第1インク組成物の着弾の際に10〜30℃の範囲で冷却される、[
4]〜[6]のいずれかに記載の記録方法。
[8]
前記第1ドットの表面を硬化させる前記工程及び/又は前記第2ドットの表面を硬化さ
せる前記工程において、2回以上前記放射線を照射して仮硬化及び本硬化を行い、且つ、
前記仮硬化の際に照射する前記放射線による前記第1インク組成物及び/又は前記第2イ
ンク組成物の硬化度が5〜70%である、[4]〜[7]のいずれかに記載の記録方法。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ラインプリンターの構成を示すブロック図である。
【図2】図1のラインプリンターの一態様における記録領域周辺の概略図である。
【図3】図1のラインプリンターの他の態様における記録領域周辺の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の
実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することがで
きる。
[記録装置構成]
本発明の一実施形態は、記録装置、即ちプリンターに係る。当該プリンターは重ね塗り
印刷に用いられる。第1重合性化合物及び第1光重合開始剤を含みアンダーコート層を形
成する第1インク組成物と、第2重合性化合物及び第2光重合開始剤を含みオーバーコー
ト層を形成する第2インク組成物とを、この順で、被着体である被記録媒体に順次吐出し
て着弾させ、放射線を照射し硬化させることで画像を形成する。
【0014】
上記のプリンターが画像を形成する際、それぞれの吐出時において、当該第1インク組
成物の温度と当該第2インク組成物の温度との間に差を設け、且つ当該第1インク組成物
の粘度と当該第2インク組成物の粘度とを同一にする。これにより、重ね塗り印刷を行う
際に、インクドットの吐出安定性が優れ、かつ、ブリーディングもハジキも生じないとい
う特性(以下、単に「特性」という。)をより向上させることができる。このような前提
に基づき、本実施形態のプリンターを詳細に説明する。
なお、第1インク組成物と第2インク組成物の粘度とが「同一」とは、所望の粘度に対
するばらつきが、±5%以内であることを意味する。
図1は、本実施形態で使用するラインプリンターの構成を示すブロック図である。図2
は、図1のラインプリンターの一態様における記録領域周辺の概略図である。
【0015】
プリンターの種類として、ラインプリンター及びシリアルプリンターが挙げられる。こ
れらの中でもラインプリンターにおいては、後述するように、被記録媒体を所定の方向(
以下、「搬送方向」という。)に一度走査するだけで画像が形成される。そのため、ライ
ンプリンターにおいては、シリアルプリンター等と比較して、異なる色のドットが隣接す
る可能性が高い。したがって、ラインプリンターにおいては、インクが重ね塗られた界面
におけるハジキ、及びブリーディングが特に生じやすく、ハジキやブリーディングへの対
策がより重要になる。
【0016】
それぞれの着弾時に、アンダーコート層を形成する第1インク組成物の温度とオーバー
コート層を形成する第2インク組成物の温度とは、通常同一となる。あるいは、それぞれ
の着弾時の温度を、被記録媒体を冷却等することにより調整してもよい。そして、その温
度において、第1インク組成物の粘度を第2インク組成物の粘度よりも高くする。これに
より、ラインプリンターにおいても、ブリーディングが防止され、且つハジキがなく光沢
性に優れた画像が形成される。
なお、第1インク組成物の温度と第2インク組成物の温度とが「同一」とは、設定温度
に対する差が±2℃以内であることを意味する。
また、上記の第1インク組成物及び第2インク組成物の具体的組成については後述する

【0017】
プリンター1は、被記録媒体上に画像を形成する記録装置であり、外部装置であるコン
ピューター110と通信可能に接続されている。
ここで、本明細書における「被記録媒体上」とは、被記録媒体の表面上、及び、当該表
面の上方に位置することを意味し、当該表面に隣接する場合であってもよく、隣接せずに
当該表面に隣接するアンダーコート層に隣接する場合であってもよい。
【0018】
コンピューター110にはプリンタードライバーがインストールされている。プリンタ
ードライバーは、表示装置(図示せず)にユーザーインターフェイスを表示させ、アプリ
ケーションプログラムから出力された画像データを印刷データ(画像形成データ)に変換
させるためのプログラムである。このプリンタードライバーは、フレキシブルディスクF
DやCD−ROMなどの「コンピューターが読み取り可能な被記録媒体」に記録されてい
る。又は、このプリンタードライバーは、インターネットを介してコンピューター110
にダウンロードすることも可能である。なお、このプログラムは、各種の機能を実現する
ためのコードから構成されている。
【0019】
そして、コンピューター110は、プリンター1に画像を形成させるため、当該画像に
応じた印刷データをプリンター1に出力する。
【0020】
ここで、本明細書における「記録装置」とは、被記録媒体上に画像を形成する装置を意
味し、例えばプリンター1が該当する。また、「記録制御装置」とは、記録装置を制御す
る装置を意味し、例えば、プリンタードライバーをインストールしたコンピューター11
0が該当する。
【0021】
本実施形態のプリンター1は、放射線の照射により硬化する放射線硬化型インク組成物
を吐出することにより、被記録媒体上に画像を形成する装置である。放射線硬化型インク
組成物は、重合性化合物及び光重合開始剤などを含み、放射線の照射に起因して重合反応
が起こることにより硬化する。上記放射線としては、α線、β線、γ線、電子線、X線、
紫外線(UV)、可視光線及び赤外線が挙げられる。中でも、X線等と比較し安全性面で
放射線の取り扱いが比較的簡単なこと、並びに、可視光及び赤外線に反応するインク組成
物については取り扱いの注意が煩雑なことから、紫外線(UV)が好ましい。
なお、放射線硬化型インク組成物の具体的組成については後述する。
【0022】
プリンター1は、少なくとも、アンダーコート層を形成する第1インク組成物とオーバ
ーコート層を形成する第2インク組成物とを用いて、画像を形成する(印刷を行う)。第
1インク組成物及び第2インク組成物の組み合わせとして、特に限定されないが、例えば
、カラーインク同士の組み合わせ、カラーインク及びクリアインク、並びに白インク及び
カラーインクが挙げられる。
また、プリンター1は、上記のような2層の重ね塗り印刷だけでなく、3層以上の重ね
塗り印刷によって画像を形成することもできる。例えば3層の重ね塗り印刷の場合、プリ
ンター1は、アンダーコート層を形成する第1インク組成物と、第2インク組成物と、オ
ーバーコート層を形成する第3インク組成物とを用いて、画像を形成する。その際、当該
第2インク組成物の層は、上記第1インク組成物から見るとオーバーコート層に相当し、
上記第3インク組成物から見るとアンダーコート層に相当する。第1、第2及び第3イン
ク組成物の組み合わせとして、特に限定されないが、例えば、カラーインク同士の組み合
わせ、カラーインク2層及びクリアインク、白インク及びカラーインク2層、並びに白イ
ンク、カラーインク及びクリアインクが挙げられる。隣接するカラーインクの層は、同じ
色の層でも異なる色の層でもよい。
なお、上記のカラーインクとして、特に限定されないが、例えば、CMYKの4色の放
射線硬化型インク組成物が挙げられる。上記のCMYKとは、シアン(C)、マゼンダ(
M)イエロー(Y)及びブラック(K)の4色を意味する。
【0023】
本実施形態のプリンター1は、搬送ユニット20、ヘッドユニット30、照射ユニット
40、検出器群50、及びコントローラー60を有する。外部装置であるコンピューター
110から印刷データを受信したプリンター1は、コントローラー60によって各ユニッ
ト、即ち搬送ユニット20、ヘッドユニット30及び照射ユニット40を制御して、印刷
データに従い、被記録媒体上に画像を形成する。コントローラー60は、コンピューター
110から受信した印刷データに基づいて、各ユニットを制御し、被記録媒体上に画像を
形成する。プリンター1内の状況は検出器群50によって監視されており、検出器群50
は、検出結果をコントローラー60に出力する。コントローラー60は、検出器群50か
ら出力された検出結果に基づいて、各ユニットを制御する。
【0024】
搬送ユニット20は、被記録媒体を搬送方向に搬送させるためのものである。この搬送
ユニット20は、図2に示すように、例えば、上流側搬送ローラ23A及び下流側搬送ロ
ーラ23Bと、ベルト24とを有する。搬送モータ(図示せず)が回転すると、上流側搬
送ローラ23A及び下流側搬送ローラ23Bが回転し、ベルト24が回転する。給紙ロー
ラ(図示せず)によって給紙された被記録媒体は、ベルト24によって、記録可能な領域
(ヘッドと対向する領域)まで搬送される。ベルト24が被記録媒体を搬送することによ
って、被記録媒体がヘッドユニット30に対して搬送方向に移動する。記録可能な領域を
通過した被記録媒体は、ベルト24によって外部へ排紙される。
なお、搬送中の被記録媒体は、ベルト24に静電吸着又はバキューム吸着されている。
また、ここでは、便宜上、「給紙」という文言を用いたが、本実施形態における被記録媒
体としては、後述の被記録媒体を用いることができる。
【0025】
ヘッドユニット30は、被記録媒体に向けて放射線硬化型インク組成物を吐出するため
のものである。ヘッドユニット30は、画像を形成するための放射線硬化型インク組成物
として、少なくとも第1インク組成物及び第2インク組成物を吐出する。以下では、第1
インク組成物としてカラーインク、第2インク組成物としてクリアインクを用いた場合の
具体的態様を説明する。
【0026】
ヘッドユニット30は、搬送中の被記録媒体に対して各インクを吐出することによって
、被記録媒体上にドットを形成し、画像を形成する。本実施形態のプリンター1はライン
プリンターであり、ヘッドユニット30の各ヘッドは被記録媒体の幅相当のドットを一度
に形成することができる。具体的には、図2に示すように、搬送方向の上流側から順に、
ブラックインクヘッドK、シアンインクヘッドC、マゼンダインクヘッドM、イエローイ
ンクヘッドY及びクリアインクヘッドCLの各ヘッドが設けられている場合、各ヘッドが
紙面の奥から手前方向(搬送方向と垂直な方向)に、被記録媒体の幅相当のドットを吐出
できるように複数個配置されている。このように、上流側から各ヘッドを制御し、被記録
媒体の幅に相当する一ライン中の必要な箇所でドットを形成することにより、被記録媒体
を搬送方向に一度走査するだけで、画像を形成することができる。
なお、上記のブラックインクヘッドKはブラックの放射線硬化型インク組成物の吐出部
である。上記のシアンインクヘッドCはシアンの放射線硬化型インク組成物の吐出部であ
る。上記のマゼンダインクヘッドMはマゼンダの放射線硬化型インク組成物の吐出部であ
る。上記のイエローインクヘッドYはイエローの放射線硬化型インク組成物の吐出部であ
る。上記のクリアインクヘッドCLはクリア(無色透明)の放射線硬化型インク組成物の
吐出部である。
【0027】
照射ユニット40は、被記録媒体上に着弾した放射線硬化型インク組成物のドットに向
けて放射線を照射するものである。被記録媒体上に形成されたドットは、照射ユニット4
0からの放射線の照射を受けることにより、硬化する。本実施形態における照射ユニット
40は、図3に示すように、仮硬化用照射部42a〜42d及び本硬化用照射部44を備
えてもよい。図3は、図1のラインプリンターの他の態様における記録領域周辺の概略図
である。
【0028】
上述のように、本実施形態のプリンター1は、アンダーコート層を形成する第1インク
組成物とオーバーコート層を形成する第2インク組成物との間の、吐出時及び着弾時にお
ける温度及び粘度を所定の関係に調整する。これにより、本実施形態は、仮硬化を行わな
くても、重ね塗り印刷の際に、ブリーディングを発生させず、さらにハジキも発生させず
、且つインクドットの吐出安定性に優れることを特徴とする。本実施形態は、当該特徴に
加えて、さらに仮硬化を行うことにより、ブリーディングの発生を一層防止することがで
きる。
【0029】
仮硬化用照射部42a〜42dは、被記録媒体上に形成されたドットを仮硬化させるた
めの放射線を照射する。ここで、仮硬化(ピニング)とは、インクの仮留めを意味し、ド
ット間の滲みの防止やドット径の制御のために行う硬化をいう。よって、ドット(液滴)
の少なくとも一部、例えばドット表面が硬化されればよい。
【0030】
仮硬化用照射部42a〜42dは、それぞれ、ブラックインクヘッドK、シアンインク
ヘッドC、マゼンダインクヘッドM、及びイエローインクヘッドYの搬送方向下流側に設
けられている。つまり、インク色ごとに仮硬化用照射部が設けられている。
【0031】
この仮硬化用照射部42a〜42dは、放射線照射の光源として発光ダイオード(LE
D:Light Emitting Diode)を備えている。LEDは入力電流の大きさを制御することに
よって、照射エネルギーを容易に変更することが可能である。仮硬化の放射線照射エネル
ギーに制限はなく、インク組成によっても異なるが、紫外線照射エネルギーとして好まし
くは100mJ/cm以下であり、より好ましくは10〜50mJ/cmである。
紫外線照射エネルギーが上記範囲内であると、ハジキが一層効果的に防止される。本硬
化用照射部44は、被記録媒体上に形成されたドットをほぼ完全に硬化させるための放射
線を照射する。本硬化用照射部44は、クリアインクヘッドCLよりも搬送方向下流側に
設けられている。また、被記録媒体の幅方向における本硬化用照射部44の長さは被記録
媒体の幅以上である。そして、本硬化用照射部44は、ヘッドユニット30の各ヘッドに
よって形成されたドットに放射線を照射する。
【0032】
本実施形態の本硬化用照射部44は、放射線照射の光源として、LED又はランプを備
えている。当該ランプとして、特に限定されないが、例えば、メタルハライドランプ、キ
セノンランプ、カーボンアーク灯、ケミカルランプ、低圧水銀ランプ及び高圧水銀ランプ
が挙げられる。本硬化の放射線照射エネルギーに制限はなく、インク組成によっても異な
るが、紫外線照射エネルギーとして好ましくは200mJ/cm以上であり、仮硬化の
紫外線照射エネルギーと比較して2〜200倍程度である。
【0033】
検出器群50には、ロータリー式エンコーダ(図示せず)や紙検出センサ(図示せず)
等が含まれる。ロータリー式エンコーダは、上流側搬送ローラ23Aや下流側搬送ローラ
23Bの回転量を検出する。ロータリー式エンコーダの検出結果に基づいて、被記録媒体
の搬送量を検出することができる。紙検出センサは、給紙中の被記録媒体の先端の位置を
検出する。
【0034】
コントローラー60は、プリンターの制御を行うための制御ユニット(制御部)である
。コントローラー60は、インターフェイス部61と、CPU62と、メモリー63と、
ユニット制御回路64とを有する。インターフェイス部61は、外部装置であるコンピュ
ーター110とプリンター1との間でデータの送受信を行う。CPU62は、プリンター
全体の制御を行うための演算処理装置である。メモリー63は、CPU62のプログラム
を格納する領域や作業領域等を確保するためのものであり、RAM、EEPROM等の記
憶素子を有する。CPU62は、メモリー63に格納されているプログラムに従って、ユ
ニット制御回路64を介して各ユニットを制御する。
【0035】
[記録方法]
本発明の他の実施形態は、記録方法に係る。当該方法は、第1重合性化合物及び第1光
重合開始剤を含む第1インク組成物と第2重合性化合物及び第2光重合開始剤を含む第2
インク組成物とを被着体に向けて吐出して被着体上に着弾させ、放射線を照射して硬化さ
せることにより画像を形成するものであり、下記の各工程のようにドット形成の間の硬化
工程を含んでもよい。
第1の工程は、第1インク組成物をヘッドから吐出して被着体に着弾させる工程である
。第2の工程は、当該第2インク組成物をヘッドから吐出して第1ドットに着弾させる工
程である。第3の工程は、付着した上記の第1及び第2インク組成物によって形成される
塗布層に放射線を照射することにより、塗布層を硬化させる工程である。
【0036】
ここで、ヘッドからの吐出時において当該第1インク組成物と当該第2インク組成物と
の間で温度に差を設け、すなわち、それらのインク組成物の温度を互いに異ならせて、粘
度を互いに同一にする。言い換えれば、着弾時に粘度の異なるようなインクを吐出時に同
一粘度にすることを、吐出時に異なる温度にすることで達成するのである。これにより、
重ね塗り印刷を行う際にインクドットの吐出安定性が優れたものとなることに加えて、本
実施形態により得られる上述の特性をより向上させることができる。また、各インク組成
物の着弾時の温度は被記録媒体の温度に依存して、通常同一となるが、その温度における
当該第2インク組成物の粘度を当該第1インク組成物の粘度よりも低くする。これにより
、重ね塗り印刷を行う際にハジキ及びブリーディングの発生を効果的に防止できる。
【0037】
上記吐出時において、上記第1インク組成物と上記第2インク組成物との間の温度差は
、好ましくは5〜20℃の範囲であり、より好ましくは10〜15℃の範囲である。上記
温度差が5℃以上であると、本実施形態の特性(効果)が十分に得られる。一方、上記温
度差が20℃以下であると、第1インク組成物を吐出するプリンターヘッドが高温に晒さ
れることを防止することにより、当該ヘッドの耐久性を良好なものとすることができる。
吐出時の各インク組成物間の温度差が20℃を超えるということは、高い方の温度が常温
よりも少なくとも20℃を超える温度となり、当該ヘッドの耐久性に影響を及ぼし始める
50℃付近に到達し得る。そのため、上記温度差が20℃以下であることがヘッドの耐久
性の観点から好ましい。
【0038】
上記第1インク組成物を吐出するプリンターヘッド及び上記第2インク組成物を吐出す
るプリンターヘッドのうち少なくともいずれかが、インク組成物を吐出する際に好ましく
は25〜50℃の範囲で加温される。より好ましくは30〜45℃の範囲で加温される。
加温温度が上記の範囲内であると、当該ヘッドの耐久性を良好なものとすることができ、
且つ吐出するのに十分低粘度化できる。
【0039】
上記被記録媒体は、インク組成物の着弾時に10〜30℃の範囲で冷却されることが好
ましい。より好ましくは15〜25℃の範囲で冷却される。冷却温度が上記の範囲内であ
ると、室温近辺であるため、被記録媒体の極端な温度制御による変形を防ぐことができる

【0040】
上記第1インク組成物の第1ドット及び/又は上記第2インク組成物の第2ドットに放
射線を照射する際、2回以上放射線を照射して仮硬化及び本硬化を行ってもよい。仮硬化
の際に照射する放射線による当該インク組成物の硬化度、即ち当該インク組成物中の当該
重合性化合物が硬化物へ転化する率は、好ましくは5〜70%であり、より好ましくは5
〜40%であり、さらに好ましくは10〜20%である。硬化度が上記の範囲内であると
、ハジキが一層効果的に防止されるとともに、ブリーディングとハジキを両立することが
できる。
以下、図1〜図3を参照しつつ、本実施形態をより具体的に説明する。
【0041】
まず、コントローラー60(図1)は、図2に示すように、被記録媒体がブラックイン
クヘッドKの下を通る際にブラックインクヘッドKからブラックインクを吐出させる。吐
出されたブラックインクは被記録媒体に着弾してドットを形成する。シアンインク、マゼ
ンダインク及びイエローインクについても同様にドット形成を行う。
なお、図3に示すように、ブラックインクを吐出した後、被記録媒体が仮硬化用照射部
42aを通る際に放射線を照射させ、ブラックインクヘッドKによって形成されたドット
の仮硬化を行ってもよい。仮硬化を行う場合、カラーインクによるカラードットが色毎に
形成された直後に、対応する仮硬化用照射部からそれぞれ放射線が照射される。シアンイ
ンク、マゼンダインク及びイエローインクについても同様に仮硬化を行ってもよい。
【0042】
次に、図2に示すように、クリアインクヘッドCLによって全面にクリアインクを塗布
し、照射部において、被記録媒体上に形成されたドットに放射線を照射して硬化させる。
なお、図3に示すように、上記の仮硬化を行った場合、本硬化用照射部44によって、
被記録媒体上に形成されたドットに放射線を照射して本硬化させることができる。
【0043】
上記の記録方法においては、インクジェット方式を用いることが好ましい。即ち、上述
した放射線硬化型インク組成物を被記録媒体上に吐出し着弾させることにより画像を形成
する際、インクジェット記録方法を用いることができる。当該インクジェット記録方法と
して、従来より公知の方法を使用できる。これらの中でも特に、圧電素子の振動を利用し
て液滴を吐出させる方法、即ち電歪素子の機械的変形によりインクドットを形成するイン
クジェットヘッドを用いた記録方法を用いることにより、優れた品質の画像を形成するこ
とができる。
【0044】
このように、本実施形態によれば、重ね塗り印刷を行う際にハジキもブリーディングも
生じず、且つインクドットの吐出安定性に優れた、記録方法を提供することができる。
【0045】
[放射線硬化型インク組成物セット]
本発明の他の一実施形態は、放射線硬化型インク組成物セットに係る。当該インク組成
物セットは、第1重合性化合物及び第1光重合開始剤を含み、被着体に着弾する第1イン
ク組成物と、第2重合性化合物及び第2光重合開始剤を含み、少なくとも第1インク組成
物から形成されるドットに着弾する第2インク組成物とを含有する。
【0046】
ここで、それぞれの吐出時においては、当該第1インク組成物の温度と当該第2インク
組成物の温度とが異なり、且つ当該第1インク組成物の粘度と当該第2インク組成物の粘
度とが同一である。これにより、上述のとおり、重ね塗り印刷を行う際のインクドットの
吐出安定性が優れたものとなることに加えて、本実施形態により得られる上述の特性をよ
り向上させることができる。当該第1インク組成物及び当該第2インク組成物の間の温度
差は、上述のとおり、好ましくは5〜20℃の範囲であり、より好ましくは10〜15℃
の範囲である。
【0047】
また、着弾時においては、当該第1インク組成物の温度と当該第2インク組成物の温度
とは通常同一であり、且つ当該第1インク組成物の粘度が当該第2インク組成物の粘度よ
りも高い。これにより、上述のとおり、重ね塗り印刷を行う際のハジキ及びブリーディン
グの発生を効果的に防止できる。
【0048】
上記の放射線硬化型インク組成物セットは、上述のとおり、第1インク組成物と第2イ
ンク組成物とを含有し、第1インク組成物はアンダーコート層を形成し、第2インク組成
物はオーバーコート層を形成する。当該インク組成物セットが第1インク組成物及び第2
インク組成物からなる場合、当該インク組成物セットは2層の重ね塗り印刷に使用される
。第1及び第2インク組成物の組み合わせは、上述のとおりである。また、当該インク組
成物セットが上記第2インク組成物の層をオーバーコートする第3インク組成物をさらに
有する場合、当該インク組成物セットは3層の重ね塗り印刷に使用される。第1、第2及
び第3インク組成物の組み合わせは、上述のとおりである。同様に、当該インク組成物セ
ットが第nインク組成物をオーバーコートする第(n+1)インク組成物をさらに有する
場合、当該インク組成物セットは(n+1)層の重ね塗り印刷に使用される(nは任意の
整数)。
【0049】
以下、放射線硬化型インク組成物セットを構成する各インク組成物に含まれる成分を説
明する。なお、下記の「インク組成物」は、第1、第2、第3、・・・第n及び第(n+
1)インク組成物の各々を意味する。
【0050】
〔重合性化合物〕
本実施形態のインク組成物に用いられる重合性化合物は、後述する光重合開始剤の作用
により放射線などの光の照射時に重合し、固化する化合物であれば、特に制限はない。例
えば、単官能基、2官能基、及び3官能基以上の多官能基を有する種々のモノマー及びオ
リゴマーが使用可能である。
【0051】
ここで、本明細書における「モノマー」とは、重量平均分子量が100〜3,000の
分子を意味する。本明細書における「オリゴマー」とは、重量平均分子量が500〜20
,000の分子を意味する。
【0052】
放射線硬化型インク組成物の温度粘度特性(横軸を温度とし、縦軸を粘度としたときの
温度−粘度曲線;粘度の温度依存性を示す指標)は、温度が高いほど粘度が低くなり、且
つ温度が高いほど傾きが小さくなる曲線を描く。そして、吐出時の温度は、着弾時の温度
(被記録媒体が常温の場合、ほぼ常温)以上であるのが通常である。
上述の温度粘度特性は、放射線硬化型インク組成物中のオリゴマー量に拠る。そのため
、上記の放射線硬化型インク組成物セットが第1インク組成物及び第2インク組成物から
なる場合、上記第1重合性化合物は、上記第1インク組成物100質量%に対し、10質
量%以上のオリゴマーを含むことが好ましい。これに加えて、上記第2重合性化合物は、
上記第2インク組成物100質量%に対し、10質量%以下のオリゴマーを含むことが好
ましい。第1重合性化合物及び第2重合性化合物におけるオリゴマーの各含有量が上記範
囲内であると、インク組成物の粘度を容易に調整することができる。より具体的には、着
弾時における、第1インク組成物の粘度及び第2インク組成物の粘度を一層容易に異なる
ように調整することができる。上記第1重合性化合物は、上記第1インク組成物100質
量%に対し、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15〜30質量%のオリ
ゴマーを含むことが好ましい。一方、上記第2重合性化合物は、上記第2インク組成物1
00質量%に対し、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは3〜8質量%のオ
リゴマーを含むことが好ましい。
なお、放射線硬化型インク組成物セットが第3インク組成物を含む場合、即ち3層の重
ね塗り印刷となる場合、各インク組成物中のオリゴマーの含有量は5質量%以下が好まし
い。
【0053】
上記モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン
酸、クロトン酸、イソクロトン酸及びマレイン酸等の不飽和カルボン酸やそれらの塩又は
エステル、ウレタン、アミド及びその無水物、アクリロニトリル、スチレン、種々の不飽
和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、並びに不飽和ウレタンが挙げ
られる。
他の単官能モノマーや多官能モノマーとして、N−ビニル化合物を含んでいてもよい。
N−ビニル化合物としては、N−ビニルフォルムアミド、N−ビニルカルバゾール、N−
ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、アクリロイル
モルホリン、及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0054】
また、上記オリゴマーとしては、例えば、直鎖オリゴマーや多分岐オリゴマー等の上記
のモノマーから形成されるオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレート、脂肪族ウレタン
(メタ)アクリレート、芳香族ウレタン(メタ)アクリレート及びポリエステル(メタ)
アクリレートが挙げられる。
【0055】
上記で列挙したものの中でも(メタ)アクリル酸のエステル、即ち(メタ)アクリレー
トが好ましい。重合性化合物として(メタ)アクリレートを使用した場合、インクの硬化
性、及び硬化膜の被着体への密着性を良好にすることができる。また、上記のオリゴマー
の中では多分岐オリゴマーが好ましい。重合性化合物として多分岐オリゴマーを使用した
場合、インク組成物の粘度を容易に調整することができる。ここで、多分岐オリゴマーと
は、1分子中に複数の分岐鎖を有するオリゴマーを意味する。多分岐オリゴマーについて
は後述する。
なお、本明細書における「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びそれに対応す
るメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリル」はアクリル及びそれに対応するメタク
リルを意味する。
【0056】
上記(メタ)アクリレートのうち、単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、イ
ソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)ア
クリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソミリス
チル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル
−ジグリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ブ
トキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレー
ト、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコ
ール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェ
ノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イ
ソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒ
ドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メ
タ)アクリレート、ラクトン変性可とう性(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキ
シル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテ
ニルオキシエチル(メタ)アクリレート、及びイソボルニル(メタ)アクリレートが挙げ
られる。
【0057】
上記(メタ)アクリレートのうち、2官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、ト
リエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)ア
クリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコー
ルジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4
−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリ
レート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(
メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフ
ェノールAのEO(エチレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノー
ルAのPO(プロピレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリ
ン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、及びポリテトラメチレングリコー
ルジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0058】
上記(メタ)アクリレートのうち、3官能以上の多官能(メタ)アクリレートとしては
、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロール
プロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、
ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メ
タ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリン
プロポキシトリ(メタ)アクリレート、カウプロラクトン変性トリメチロールプロパント
リ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、
及びカプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが挙げられ
る。
【0059】
これらの中でも、硬化時の塗膜の伸び性が高く、且つ低粘度であるため、インクジェッ
ト記録時の射出安定性が得られやすいという観点から、重合性化合物として、単官能(メ
タ)アクリレートを含むことが好ましい。さらに塗膜の硬さが増すという観点から、単官
能(メタ)アクリレートと2官能(メタ)アクリレートとを併用することがより好ましい

【0060】
一方、上記の多分岐オリゴマーとして、特に限定されないが、例えば、デンドリマー、
ハイパーブランチオリゴマー、スターオリゴマー及びグラフトオリゴマーが挙げられる。
上記のデンドリマー、ハイパーブランチオリゴマー、スターオリゴマー及びグラフトオリ
ゴマーとしては、従来より公知の化合物が使用可能である。これらの中でも、好ましくは
デンドリマー及びハイパーブランチオリゴマーである。重合性化合物としてデンドリマー
を使用した場合、放射線硬化型インク組成物の粘度を極めて容易に調整することができる
。上記多分岐オリゴマーの中でも、より好ましくはハイパーブランチオリゴマーである。
【0061】
上記のハイパーブランチオリゴマーは、2個以上のモノマーが繰り返し単位として結合
したオリゴマーに複数の官能基が結合したオリゴマーを指す。重合性化合物としてハイパ
ーブランチオリゴマーを使用した場合、ハイパーブランチオリゴマーは一般に官能基を多
数有しているため、放射線硬化型インク組成物の硬化速度を一層増大させることができ、
靭性も一層良好にすることができる。上記の官能基の例としてアクリロイル基が挙げられ
、アクリロイル基を官能基として有するハイパーブランチオリゴマーは、多官能基にも関
わらず、低粘度を維持できるため、放射線硬化型インク組成物の粘度を極めて容易に調整
することができる。アクリロイル基を官能基として有するハイパーブランチオリゴマーに
は、一分子中に有するアクリロイル基の数に応じて、ポリエステル6官能アクリレート、
ポリエステル9官能アクリレートやポリエステル16官能アクリレート等が存在する。
アクリロイル基を官能基として有するハイパーブランチオリゴマーの市販品として、例
えば、CN2300(ポリエステル6官能アクリレート)、CN2301(ポリエステル
9官能アクリレート)及びCN2302(ポリエステル16官能アクリレート)(以上、
サートマー(SARTOMER)社製)等が挙げられる。
【0062】
上記の重合性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、
第1重合性化合物及び第2重合性化合物は互いに、同一の成分で構成されてもよく、異な
る成分で構成されてもよい。
【0063】
〔光重合開始剤〕
本実施形態における放射線硬化型インク組成物に含まれる重合開始剤は、放射線などの
光のエネルギーによって、ラジカルやカチオンなどの活性種を生成し、上記重合性化合物
の重合を開始させるものであれば特に制限されない。ラジカル重合開始剤やカチオン重合
開始剤を使用することができ、中でもラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。ラ
ジカル重合開始剤を使用することにより、カチオン重合の場合のような湿度による重合阻
害を受けないため、印字環境を選ばないという有利な効果が得られる。
なお、カチオン重合開始剤として、特に限定されないが、例えば、化学増幅型フォトレ
ジストや光カチオン重合に利用される化合物が用いられる(有機エレクトロニクス材料研
究会編、「イメ−ジング用有機材料」、ぶんしん出版(1993年)、187〜192ペ
ージ、技術情報協会、「光硬化技術」、2001年に紹介されている光酸発生剤)。本実
施形態に好適な化合物例として、まず、ジアゾニウム、アンモニウム、ヨ−ドニウム、ス
ルホニウム等の芳香族オニウム化合物のB(C,PF,AsF,S
bF,CFSO塩を挙げることができる。対アニオンとしてボレート化合物を
持つものが、酸発生能力が高いため、好ましい。また、スルホン酸を発生するスルホン化
物、ハロゲン化水素を光発生するハロゲン化物、及び鉄アレン錯体も好適に挙げられる。
カチオン重合開始剤の市販品として、例えばUV1−6992(トリフェニルスルフォニ
ウム塩、ダウケミカル社(The Dow Chemical Company)製)等が挙げられる。
【0064】
上記のラジカル重合開始剤としては、例えば、芳香族ケトン類、アシルホスフィン化合
物、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物、ヘキサアリールビイミダゾー
ル化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセ
ン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、及びアルキルアミン
化合物が挙げられる。
【0065】
ラジカル重合開始剤の具体例としては、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタ
ール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニ
ルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、べンズアルデヒド、フルオレン、アント
ラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロ
ベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェ
ノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベン
ジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチ
ルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン
、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−ク
ロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリ
ノ−プロパン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォス
フィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキ
サイド、2,4−ジエチルチオキサントン及びビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)
−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシドが挙げられる。
【0066】
ラジカル重合開始剤の市販品としては、例えば、IRGACURE 651(2,2−
ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン)、IRGACURE 184(1−
ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)、DAROCUR 1173(2−ヒ
ドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン)、IRGACURE 29
59(1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチ
ル−1−プロパン−1−オン)、IRGACURE 127(2−ヒドロキシ−1−{4
−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−
メチル−プロパン−1−オン}、IRGACURE 907(2−メチル−1−(4−メ
チルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン)、IRGACURE 36
9(2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン
−1)、IRGACURE 379(2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェ
ニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン)、DAR
OCUR TPO(2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキ
サイド)、IRGACURE 819(ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フ
ェニルフォスフィンオキサイド)、IRGACURE 784(ビス(η5−2,4−シ
クロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1
−イル)−フェニル)チタニウム)、IRGACURE OXE 01(1.2−オクタ
ンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)])、IR
GACURE OXE 02(エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイ
ル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム))、IRGA
CURE 754(オキシフェニル酢酸、2−[2−オキソ−2−フェニルアセトキシエ
トキシ]エチルエステルとオキシフェニル酢酸、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル
エステルの混合物)(以上、チバ・ジャパン社(Ciba Japan K.K.)製)、DETX−S
(2,4−ジエチルチオキサントン)(日本化薬社(Nippon Kayaku Co., Ltd.)製)、
Lucirin TPO、LR8893、LR8970(以上、BASF社製)、及びユ
ベクリルP36(UCB社製)などが挙げられる。
【0067】
上記光重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい
。また、第1光重合開始剤及び第2光重合開始剤は互いに、同一の成分で構成されてもよ
く、異なる成分で構成されてもよい。
【0068】
〔色材〕
本実施形態における放射線硬化型インク組成物は、色材をさらに含んでもよい。上記色
材は、顔料及び染料のうち少なくとも一方である。
【0069】
(顔料)
本実施形態において、色材として顔料を用いることにより、放射線硬化型インク組成物
の耐光性を向上させることができる。顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用する
ことができる。
【0070】
無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャ
ネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化
チタンを使用することができる。
【0071】
また、有機顔料として、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔
料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料
、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノ
フタロン顔料等の多環式顔料、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料
型キレート等)、染色レーキ(塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ)、ニトロ顔料、
ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料が挙げられる。上記顔料は1種単独で用
いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0072】
また、カラーインデックスに記載されていない顔料であっても水に不溶であればいずれ
も使用できる。
【0073】
(染料)
本実施形態において、色材として染料を用いることができる。染料としては、特に限定
されることなく、酸性染料、直接染料、反応性染料及び塩基性染料が使用可能である。上
記染料として、例えば、C.I.アシッドイエロー17,23,42,44,79,14
2、C.I.アシッドレッド52,80,82,249,254,289、C.I.アシ
ッドブルー9,45,249、C.I.アシッドブラック1,2,24,94、C.I.
フードブラック1,2、C.I.ダイレクトイエロー1,12,24,33,50,55
,58,86,132,142,144,173、C.I.ダイレクトレッド1,4,9
,80,81,225,227、C.I.ダイレクトブルー1,2,15,71,86,
87,98,165,199,202、C.I.ダイレクドブラック19,38,51,
71,154,168,171,195、C.I.リアクティブレッド14,32,55
,79,249、C.I.リアクティブブラック3,4,35が挙げられる。
【0074】
また、上記の放射線硬化型インク組成物は、色材を含まないクリアインクにも適用可能
である。
【0075】
また、上記顔料は、後述する分散剤又は界面活性剤中に分散させて用いることができる

【0076】
〔その他の成分〕
本実施形態における放射線硬化型インク組成物は、上記に挙げた成分以外の成分を含ん
でもよい。当該成分として、特に限定されないが、例えば、分散剤、界面活性剤及び重合
禁止剤が挙げられる。
【0077】
上記の分散剤として、特に限定されないが、例えば、高分子分散剤などの顔料分散液を
調製するのに慣用されている分散剤、味の素ファインテクノ(株)製のアジスパーシリー
ズ、アビシア(株)製のソルスパーズシリーズ、BYKChemie社製のディスパービ
ックシリーズ、楠本化成(株)製のディスパロンシリーズ等が挙げられる。上記高分子分
散剤として、特に限定されないが、例えば、ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリア
ミン、ビニル系ポリマー及びコポリマー、アクリル系ポリマー及びコポリマー、ポリエス
テル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、アミノ系ポリマー、含珪素ポリマー、含
硫黄ポリマー、含フッ素ポリマー、及びエポキシ樹脂等の一種以上を主成分とするものが
挙げられる。
【0078】
上記の界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、シリコーン系界面活性剤と
して、ポリエステル変性シリコーンやポリエーテル変性シリコーンを用いることができ、
ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン又はポリエステル変性ポリジメチルシロキサン
を用いることが特に好ましい。具体例としては、BYK−347、BYK−348、BY
K−UV3500、3510、3530、3570(ビックケミー・ジャパン社(BYK Ja
pan KK)製)を挙げることができる。
【0079】
上記の重合禁止剤としては、特に限定されないが、例えば、IRGASTAB UV1
0及びUV22(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社(Ciba Specialty Chemicals Inc
.)製)などを用いることができる。重合禁止剤を添加することにより、放射線硬化型イ
ンク組成物の保存安定性が向上する。
【0080】
さらに、上記の放射線硬化型インク組成物は、重合促進剤、スリップ剤、浸透促進剤及
び湿潤剤(保湿剤)、並びにその他の添加剤を含んでもよい。当該その他の添加剤として
は、例えば定着剤、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、放射線吸収剤、キレート剤、pH調整
剤及び増粘剤が挙げられる。
【0081】
なお、被記録媒体としては、非吸収性であれば特に制限はないが、例えば、ポリエチレ
ンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの樹脂材料を用いるこ
とができる。また、これらの被記録媒体の表面に処理層(コート層)などを有していても
よい。
【0082】
[放射線硬化型インク組成物セットの物性]
吐出時において、上記第1インク組成物の温度と上記第2インク組成物の温度とは異な
る。その際の温度差は上述のとおりであるため、ここでの説明は省略する。
【0083】
吐出時において、上記第1インク組成物の粘度と上記第2インク組成物の粘度とは同一
である。その際の粘度は、好ましくは3〜30mPa・sであり、好ましくは10〜15
mPa・sである。当該粘度が上記の範囲内であると、吐出安定も良好に保て、かつ粘度
も極端に低くないことからインクの設計のマージンも広いという有利な効果が得られる。
【0084】
着弾時において、上記第1インク組成物の温度と上記第2インク組成物の温度とは同一
である。その際の温度は、好ましくは10〜30℃であり、好ましくは15〜25℃であ
る。当該温度が上記の範囲内であると、室温近辺であるため、被記録媒体の極端な温度制
御による変形を防ぐことができる。
【0085】
着弾時において、アンダーコート層を形成する上記第1インク組成物の粘度はオーバー
コート層を形成する上記第2インク組成物の粘度よりも高い。このような関係の下で、上
記第1インク組成物の粘度は、好ましくは30mPa・s以上、より好ましくは35mP
a・s以上、さらに好ましくは30〜70mPa・sである。一方、上記第2インク組成
物の粘度は、好ましくは30mPa・s未満、より好ましくは25mPa・s未満、さら
に好ましくは15〜25mPa・sである。アンダーコート層の第1インク組成物の粘度
が上記範囲内であると、オーバーコート層側に流れ込むこと(ブリーディング)を一層防
止でき、且つ硬化によるアンダーコート層の変性を防止してオーバーコート層の第2イン
ク組成物のハジキを一層防止できる。一方、オーバーコート層の第2インク組成物の粘度
が上記範囲内であると、第2インク組成物が一層濡れ広がり易くなるため、ハジキがなく
光沢性に一層優れた画像を形成できる。
【0086】
本実施形態において、吐出時の第1インク組成物の粘度と第2インク組成物の粘度とを
互いに同一にするには、それぞれのインク組成物を吐出するプリンターヘッドを加温等し
て温度を変化させる方法を用いればよい。
また、着弾時の第1インク組成物の粘度を第2インク組成物の粘度よりも高くするには
、被記録媒体の温度を変化させ、それぞれのインク組成物の着弾時の粘度を制御する方法
を用いればよい。
なお、インク組成物における各成分の種類や組成を調整する際には、上記温度粘度特性
を考慮に入れると調整が容易となる。即ち、インク組成物の温度粘度特性は、そこに含ま
れる各成分の温度粘度特性にある程度依存するため、例えば同一のオリゴマー成分を用い
て量を変えることで、着弾時(例えば常温)の粘度を異ならせることができ、かつ吐出時
の粘度は上記温度粘度特性に則り、温度を調整することで同一にすることができる。それ
らのインク組成物の温度粘度特性は、温度差による粘度の制御を把握しやすいという有利
な効果が得られるといった点からも、互いに同一に近い形状であるほど好ましい。
【0087】
このように、本実施形態によれば、重ね塗り印刷を行う際にハジキもブリーディングも
生じず、且つインクドットの吐出安定性に優れた、放射線硬化型インク組成物セットを提
供することができる。
【実施例】
【0088】
以下、本実施形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこ
れらの実施例のみに限定されるものではない。
【0089】
[材料]
実施例及び比較例において使用した材料は、下記に示すとおりである。
〔顔料〕
・C.I.ピグメントブラック−7(東洋インキ製造社(TOYO INK MFG. CO., LTD.)製

・C.I.ピグメントブルー−15:3(東洋インキ製造社製)
・C.I.ピグメントバイオレット−19(東洋インキ製造社製)
・C.I.ピグメントイエロー−180(東洋インキ製造社製)
〔分散剤〕
・ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミン
〔光重合開始剤〕
・Irgacure 184(チバ・ジャパン社製)
・Darocure TPO(チバ・ジャパン社製)
・UV1−6992(ダウケミカル社製)
〔重合性化合物〕
・CN2300(ハイパーブランチオリゴマー、サートマー社製)
・CN2301(ハイパーブランチオリゴマー、サートマー社製)
・CN550(ポリエーテルアクリレートオリゴマー、サートマー社製)
・SR355(4官能モノマー、サートマー社製)
・SR256(単官能モノマー、サートマー社製)
・P−4(下記化学式P−4に示すデンドリマー、重量平均分子量約1,620)
【0090】
【化1】


・P−10(下記化学式P−10に示すハイパーブランチオリゴマー、重量平均分子量8
,000)
【0091】
【化2】


・P−16(下記化学式P−16に示すハイパーブランチオリゴマー、重量平均分子量1
2,000)
【0092】
【化3】

【0093】
なお、上記のP−10及びP−16を表す化学式中の数値はモル%を意味する。また、
上記のP−4、P−10及びP−16の製造方法はそれぞれ、特開2006−28276
4号公報に記載された例示化合物P−4、例示化合物P−10及び例示化合物P−16の
製造方法と同様である。
・OXT−221(3,7−ビス(3−オキセタニル)−5−オキサ−ノナン、東亜合成
社(TOAGOSEI CO., LTD.)製)
・セロキサイド2021A(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポ
キシシクロヘキサンカルボキシレート、ダイセル・サイテック社(DAICEL-CYTEC Company
LTD.)製)
〔被記録媒体〕
・PETフィルム PET50(K2411) PA−T1 8LK リンテック株式会社
【0094】
[実施例1〜3、比較例1〜3]
〔紫外線硬化型インク組成物の製造〕
まず、顔料分散液を調製した。下記表1に種類及び配合量を質量部で記載した顔料及び
分散剤を混合撹拌した。得られた混合物を、サンドミル(安川製作所株式会社製)を用い
て、ジルコニアビーズ(直径1.5mm)と共に6時間分散処理を行った。その後、ジル
コニアビーズをセパレータで分離することにより、実施例及び比較例で使用する顔料分散
液を得た。
【0095】
次に、アンダーコート層を形成する、紫外線硬化型の第1インク組成物(CMYKのカ
ラーインク)と、オーバーコート層を形成する、紫外線硬化型の第2インク組成物(クリ
アインク)とを製造した。上記で得られた顔料分散液に、下記表1に記載した重合性化合
物及び光重合開始剤を調合した後、スターラーを用いてこれらの材料を混合攪拌した。こ
のようにして、紫外線硬化型の第1インク組成物及び紫外線硬化型の第2インク組成物を
得た。
【0096】
〔紫外線硬化型インク組成物の吐出時及び着弾時における温度及び粘度の測定、並びに記
録物の製造〕
ラインプリンターを用いて、膜厚10μmとなるように紫外線硬化型第1インク組成物
をPETフィルム上に吐出して塗布した。その際、吐出時及び着弾時における温度は、ヘ
ッドノズル面に付随したサーミスタ及び被記録物媒体上の表面温度から見積もり、吐出時
及び着弾時における粘度は、それぞれの温度における粘度を別途レオメータ(Physica社
製、MCR-300)を用い測定して見積もった。
【0097】
続いて、上記のラインプリンターを用いて、膜厚10μmとなるように紫外線硬化型第
2インク組成物を上記のアンダーコート層上に吐出して塗布した。その際、上記と同様の
方法により、吐出時及び着弾時における温度及び粘度を測定し、見積もった。
【0098】
その後、アンダーコート層及びクリアインクともにメタルハライドランプで(照射エネ
ルギー:200mJ/cm)本硬化した。このようにして、PETフィルム上に、カラ
ーインク及びクリアインクがこの順に重ね塗り印刷された記録物を製造した。
【0099】
【表1】

【0100】
【表2】

【0101】
上記の表1及び表2中、「C」はシアンインク、「M」はマゼンダインク、「Y」はイ
エローインク、「K」はブラックインク、「Cl」はクリアインクを意味する。これらの
うち、「C」、「M」、「Y」及び「K」は第1インク組成物としてアンダーコート層を
形成し、「Cl」は第2インク組成物としてオーバーコート層を形成した。また、25℃
の粘度(mPa・s)(着弾時の粘度)中、Aは35mPa・s以上であり、Bは30m
Pa・s以上35mPa・s未満であり、Cは25mPa・s以上30mPa・s未満で
あり、Dは25mPa・s未満であることを意味する。
吐出時(40℃)の粘度(mPa・s)中、Aは15mPa・s以上であり、Bは10
mPa・s以上15mPa・s未満であり、Cは5mPa・s以上10mPa・s未満で
あり、Dは5mPa・s未満であることを意味する。
【0102】
〔記録物におけるブリーディング及び埋まりの評価〕
(1.ブリーディングの評価)
上記記録物のオーバーコート層におけるカラーインク(第1インク組成物)の滲みの有
無を目視で観察して評価した。観察結果を下記表3に示す。ここで、評価基準は下記のと
おりである。
A:滲み無し、
B:滲み有り。
【0103】
(2.埋まりの評価)
上記記録物をオーバーコート層側から見たときに、アンダーコート層のカラーインク(
第1インク組成物)が観察されるか否かにより、埋まりを評価した。観察結果を下記表3
に示す。ここで、評価基準は下記のとおりである。
A:アンダーコート層のカラーインクは見えず、オーバーコート層の表面形状も平坦であ
った、
B:アンダーコート層のカラーインクは見えないが、オーバーコート層の表面形状に凹凸
があった、
C:アンダーコート層のカラーインクがむき出して見えた。
なお、埋まりの評価結果が良好であるほど、オーバーコート層を形成するクリアインク
(第2インク組成物)のハジキがより少なく光沢性により優れる。
【0104】
【表3】

【0105】
上記の結果より、比較例1〜3の放射線硬化型インク組成物セットと比較して、実施例
1〜3の放射線硬化型インク組成物セットを用いることにより、ブリーディング及びハジ
キの発生を防止できることを見出した。なお、実施例1〜3のインク組成物セットは、吐
出時において、第1インク組成物及び第2インク組成物の温度が異なり粘度が同一であっ
て、且つ、着弾時において、第1インク組成物及び第2インク組成物の温度が同一であり
粘度は第1インク組成物の方がより高い。
【符号の説明】
【0106】
1 プリンター、20 搬送ユニット、23A 上流側搬送ローラ、23B 下流側搬
送ローラ、24 ベルト、30 ヘッドユニット、40 照射ユニット、42a 仮硬化
用照射部、42b 仮硬化用照射部、42c 仮硬化用照射部、42d 仮硬化用照射部
、44 本硬化用照射部、50 検出器群、60 コントローラー、110 コンピュー
ター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1重合性化合物及び第1光重合開始剤を含み、被着体に着弾する放射線硬化型の第1
インク組成物と、第2重合性化合物及び第2光重合開始剤を含み、少なくとも前記第1イ
ンク組成物から形成されるドットに着弾する放射線硬化型の第2インク組成物と、を含有
する放射線硬化型インク組成物セットであって、
前記第1インク組成物の吐出時の粘度と、前記第1インク組成物の吐出時とは異なる温
度での前記第2インク組成物の吐出時の粘度とが同一であり、かつ、前記被着体への着弾
時における前記第1インク組成物の粘度が、前記ドットへの着弾時における前記第2イン
ク組成物の粘度よりも高い、放射線硬化型インク組成物セット。
【請求項2】
前記第1重合性化合物は、前記第1インク組成物100質量%に対し、10質量%以上
のオリゴマーを含み、
前記第2重合性化合物は、前記第2インク組成物100質量%に対し、10質量%以下
のオリゴマーを含む、請求項1に記載の放射線硬化型インク組成物セット。
【請求項3】
前記オリゴマーが多分岐オリゴマーである、請求項2に記載の放射線硬化型インク組成
物セット。
【請求項4】
第1重合性化合物及び第1光重合開始剤を含む放射線硬化型の第1インク組成物を吐出
して被着体に着弾させる工程と、
第2重合性化合物及び第2光重合開始剤を含む放射線硬化型の第2インク組成物を、前
記第1インク組成物の前記吐出時とは異なる温度で、かつ、前記第1インク組成物の前記
吐出時の粘度と同一の粘度で吐出して、前記第1インク組成物の前記着弾時よりも低い粘
度で前記第1ドットに着弾させる工程と、
付着した前記第1及び第2インク組成物によって形成される塗布層に放射線を照射する
ことにより、塗布層を硬化させる工程と、
を含む、記録方法。
【請求項5】
前記第1インク組成物の前記吐出時の温度と前記第2インク組成物の前記吐出時の温度
との差が5〜20℃の範囲である、請求項4に記載の記録方法。
【請求項6】
前記第1インク組成物を吐出するプリンターヘッド及び前記第2インク組成物を吐出す
るプリンターヘッドのうち少なくともいずれかが、その吐出の際に25〜50℃の範囲で
加温される、請求項4又は5に記載の記録方法。
【請求項7】
前記被着体が前記第1インク組成物の着弾の際に10〜30℃の範囲で冷却される、請
求項4〜6のいずれか1項に記載の記録方法。
【請求項8】
前記第1ドットの表面を硬化させる前記工程及び/又は前記第2ドットの表面を硬化さ
せる前記工程において、2回以上前記放射線を照射して仮硬化及び本硬化を行い、且つ、
前記仮硬化の際に照射する前記放射線による前記第1インク組成物及び/又は前記第2イ
ンク組成物の硬化度が5〜70%である、請求項4〜7のいずれか1項に記載の記録方法


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−184609(P2011−184609A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52811(P2010−52811)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】