説明

放射線硬化性シリコーンゴム組成物

【課題】低照度および少エネルギー量の放射線、特にUV-LED光源から発生する紫外線の照射で容易かつ良好に硬化し、硬化後、速やかに各種基材に対する良好な接着性を示し、かつ過酷な条件下でも基材の防食効果に優れた硬化被膜を与える放射線硬化性組成物を提供する。
【解決手段】(A)複数個(2〜9個)の(メタ)アクリロイル基を有するケイ素含有基を分子鎖両末端におのおの3個ずつ有する特定のオルガノポリシロキサン(即ち、1分子中に12〜54個の(メタ)アクリロイル基を有する特定のオルガノポリシロキサン)、および(B)放射線増感剤を含有する放射線硬化性シリコーンゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低照度および少エネルギー量の放射線、特に紫外線発光ダイオード(UV-LED)光源から発生する紫外線の照射により優れた硬化性を示し、液晶等の電極、電気・電子部品等の電気・電子装置の防食性に優れた硬化被膜を与える放射線硬化性シリコーンゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線等の放射線を照射して硬化物とすることができるオルガノポリシロキサン組成物としては、例えば、複数個のアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基等のビニル官能性基を含有するオルガノポリシロキサンと光重合開始剤とからなる放射線硬化性光ファイバー用コーティング剤(特許文献1参照)が知られている。近年は、新しい光源として上市されているUV-LED光源を放射線源として使用できること、ならびに低照度および少エネルギー量の放射線照射でも硬化できて硬化速度が速いことがこれらのオルガノポリシロキサン組成物に要求されている。しかし、特許文献1の組成物は、硬化速度が遅いため、これらの要求を満たすことができず、電気・電子装置のコーティング剤、接着剤、またはポッティング剤としては使用できるものではない。
【0003】
本出願人は、複数の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する放射線官能性有機基を分子鎖両末端におのおの1個ずつ有するオルガノポリシロキサンと、光増感剤と、アルコキシ基を有する有機けい素化合物とを含有する放射線硬化性シリコーンゴム組成物を先に提案している(特許文献2参照)。しかし、上記の要求を満たす組成物は何ら開示も示唆もされていない。
【0004】
【特許文献1】特公平4−25231号公報
【特許文献2】特開平11−302348号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、低照度および少エネルギー量の放射線、特にUV-LED光源から発生する紫外線の照射で容易かつ良好に硬化し、硬化後、速やかに各種基材に対する良好な接着性を示し、かつ過酷な条件下でも基材の防食効果に優れた硬化被膜を与える放射線硬化性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、複数の(メタ)アクリロイル基を有するケイ素含有基を分子鎖両末端におのおの3個ずつ有する特定のオルガノポリシロキサンと、放射線増感剤とを含有する放射線硬化性シリコーンゴム組成物が、UV-LED光源を放射線源として、低照度および少エネルギー量の放射線照射でも硬化できて硬化速度が速いことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明は、上記課題を解決する手段として、
(A)下記一般式(1):
【0008】
【化1】

〔式中、R1は独立に非置換または置換の炭素原子数1〜9の1価炭化水素基であり、Xは独立に下記一般式(2):
【0009】
【化2】


{式中、R2は炭素原子数2〜4の2価炭化水素基または酸素原子であり、R3は独立に、下記一般式:
【0010】
【化3】


(式中、Rは水素原子またはメチル基である)
で表される(メタ)アクリロイル基を1〜3個有する炭素原子数4〜25の1価の有機基であり、R4は独立に非置換または置換の炭素原子数1〜9の1価炭化水素基であり、R5は独立に炭素原子数1〜18の1価炭化水素基であり、nは1〜3の整数であり、mは0〜2の整数であり、かつn+mは1〜3の整数であり、但し、n=1のとき、前記R3は独立に2〜3個の(メタ)アクリロイル基を有する。}
で表される基であり、Yは独立に、X,R又はOR(ここで、XおよびRは前記のとおり)で表わされる基であり、Nは8〜10,000の整数である〕
で表されるオルガノポリシロキサン、および
(B)放射線増感剤
を含有する放射線硬化性シリコーンゴム組成物を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の組成物は、放射線、例えば紫外線、特にUV-LED光源から発生する紫外線を非常に弱い照度および少ないエネルギー量で照射しても容易かつ良好に硬化することから、例えば、有害な紫外線や熱の影響を受けやすい液晶、有機EL、フラットパネルディスプレイおよびプラズマディスプレイの電極、ならびに各種電気・電子部品等の保護コーティング剤および封止剤として有用であり、これらの製品の信頼性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書において、(メタ)アクリロイル((meth)acryloyl)、(メタ)アクリル、(メタ)アクリレート等は、それぞれ、アクリロイル(acryloyl)およびメタクリロイル(methacryloyl)、アクリルおよびメタクリル、ならびにアクリレートおよびメタクリレート等を包含する用語として使用する。また、「Me」はメチル基を、「Et」はエチル基を、「Pr」はプロピル基を、「iPr」はイソプロピル基を、「Ph」はフェニル基を意味するものである。
【0013】
[(A) オルガノポリシロキサン]
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、上記一般式(1)で表されるものであり、本発明の放射線硬化性シリコーンゴム組成物のベースポリマーとして使用されるものである。(A)成分のオルガノポリシロキサンは、放射線重合性基として、−OR3基を有している(即ち、分子鎖両末端おのおのに複数個の、具体的には4〜27個、好ましくは6〜18個の(即ち、1分子中に8〜54個、好ましくは12〜36個の)(メタ)アクリロイル基を有している)ので、紫外線、遠紫外線、電子線、X線、γ線等の放射線照射により容易に重合して本発明の組成物を硬化させることができるという特徴を有している。(A)成分は1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0014】
上記R1の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基、ノニル基等のアルキル基;シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、3-フェニルプロピル基等のアラルキル基;およびこれらの炭化水素基中の炭素原子に結合した水素原子の少なくとも一部をハロゲン原子、シアノ基等の置換基で置換した基、例えば、クロロメチル基、シアノエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等が挙げられる。
【0015】
中でも、メチル基が全R1の好ましくは50モル%以上、より好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上(例えば、90〜100モル%)を占め、フェニル基が全R1の好ましくは25モル%以下、より好ましくは10モル%以下(例えば、0〜10モル%)を占める。
【0016】
上記一般式(2)におけるR2は、炭素原子数2〜4の2価炭化水素基または酸素原子であるが、加水分解等に対する化学的安定性の点から、好ましくは2価炭化水素基である。この2価炭化水素基の具体例としては、エチレン基、プロピレン基(トリメチレン基)、メチルエチレン基、テトラメチレン基等のアルキレン基が挙げられるが、好ましくはエチレン基である。
【0017】
一般式(2)におけるR3は、1〜3個、好ましくは2〜3個、更に好ましくは3個の(メタ)アクリロイル基を、例えば、(メタ)アクリロイルオキシ((meth)acyloyloxy)基として有する炭素原子数4〜25、好ましくは5〜20の1価有機基である。R3は好ましくは2〜3個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する。R3の具体例としては、CH2=CHCOOCH2CH2-、[CH2=C(CH3)COOCH2]3C-CH2-、(CH2=CHCOOCH2)3C-CH2-、(CH2=CHCOOCH2)2C(C2H5)CH2-、
【0018】
【化4】


等の、1〜3個の(メタ)アクリロイルオキシ基で置換された炭素原子数1〜10、好ましくは2〜6のアルキル基等が挙げられる。中でも好ましくは、[CH2=C(CH3)COOCH2]3C-CH2-、(CH2=CHCOOCH2)3C-CH2-、(CH2=CHCOOCH2)2C(C2H5)CH2-および
【0019】
【化5】


であり、更に好ましくは、[CH2=C(CH3)COOCH2]3C-CH2-、(CH2=CHCOOCH2)3C-CH2-および
【0020】
【化6】


である。
【0021】
一般式(2)におけるR4は独立に非置換または置換の炭素原子数1〜9、好ましくは1〜6の1価炭化水素基である。R4の具体例としては、一般式(1)におけるR1について例示したものと同じものが挙げられ、R1の場合と同様に、メチル基が全R4の好ましくは50モル%以上、より好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上(例えば、90〜100モル%)を占め、フェニル基が全R4の好ましくは25モル%以下、より好ましくは10モル%以下(例えば、0〜10モル%)を占める。
【0022】
一般式(2)におけるR5は独立に炭素原子数1〜18、好ましくは1〜8の1価炭化水素基である。R5の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基等のアリール基;アリル基、プロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基等が挙げられるが、好ましくはアルケニル基等の脂肪族不飽和基ではないものがよい。
【0023】
一般式(1)におけるXの具体例としては、
【0024】
【化7】


等が挙げられる。
【0025】
一般式(1)におけるYは、独立に、上記したX,R又はORで示されるいずれかの基であり、好ましくはX及び/又は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基などのアルコキシ基などのOR基である。
【0026】
一般式(1)におけるNは8〜10,000の整数であるが、好ましくは48〜1,000の整数である。
【0027】
上記一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサンの好ましい具体例としては、下記式:
【0028】
【化8】


〔式中、Xは下記式:
【0029】
【化9】


で表わされる基、または、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基から選ばれる少なくとも1種のアルコキシ基であり、Xは下記式:
【0030】
【化10】


で表わされる基であり、Lは10〜9,995の整数であり、Mは5〜5,000の整数である。〕
で表されるものが挙げられる。
【0031】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、例えば、対応するクロロシロキサン類と、式:ROH(Rは前記のとおりである)で表わされる、活性水酸基を有する(メタ)アクリロイル基含有化合物と、式:ROH(Rは前記のとおりである)で表わされる化合物との脱塩化水素反応等によって調製することができる。前記クロロシロキサン類としては、例えば、下記式:
【0032】
【化11】


(式中、Yはアルケニル基であり、RおよびNは前記のとおりである。)
で示される分子鎖両末端におのおの3個のアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンと、式:HSi(R4)3-m-nClm+n(R、nおよびmは前記のとおりである。)で表わされる、ヒドロシリル化可能なSiH結合を有する(オルガノ)ハイドロジェンクロロシランとの付加反応物が挙げられる。当業者であれば、上記一般式(2)におけるRに応じて前記Yを適宜選択することができる。例えば、Rがエチレン基であるときは、Yをビニル基とすればよく、Rがプロピレン基(トリメチレン基)であるときは、Yをアリル基とすればよい。
【0033】
また、活性水酸基を有する(メタ)アクリロイル基含有化合物としては、例えば、2-ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-1-アクリロイルオキシ-3-メタクリロイルオキシプロパン等が挙げられる。
【0034】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、上記一般式(2)に記載の1つのケイ素原子に複数個の(メタ)アクリロイル基を有することが好ましいので、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレートおよびペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートが好ましく、特にペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0035】
[(B)放射線増感剤]
(B)成分の放射線増感剤は特に限定されない。(B)成分は1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。(B)成分の好ましい例としては、ベンゾフェノン等のベンゾイル化合物(またはフェニルケトン化合物)、特に、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン等のカルボニル基のα−位の炭素原子上にヒドロキシ基を有するベンゾイル化合物(またはフェニルケトン化合物)、2−メチル−1−(4−メチルチオ)フェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン;2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビスアシルモノオルガノフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4,-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等のオルガノホスフィンオキサイド化合物;イソブチルベンゾインエーテル等のベンゾインエーテル化合物;アセトフェノンジエチルケタール等のケタール化合物;チオキサントン系化合物;アセトフェノン系化合物等が挙げられる。特にUV-LEDから発生する放射線は単一波長であるので、UV-LEDを光源として用いる場合、340〜400nmの領域に吸収スペクトルのピークを有する放射線増感剤を使用するのが有効である。上記の放射線増感剤とともに、チオキサントン系開始剤、ベンゾフェノン系開始剤を併用することで、得られる組成物の表面硬化性がより向上する。
【0036】
(B)成分の含有量は、放射線増感剤として本発明の組成物の紫外線等の放射線の照射による硬化に有効な量であればよく、特に制限されないが、上記(A)成分100質量部に対して、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.5〜10質量部、更により好ましくは1.0〜5.0質量部である。
【0037】
[(C)チタン含有有機化合物]
本発明の組成物には、上記(A)および(B)成分に加えて、更に、必要に応じて配合される任意成分として、(C)チタネート化合物およびチタンキレート化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種のチタン含有有機化合物を配合することができる。(C)成分は、本発明の組成物から得られる硬化物の接着力をより向上させる接着助剤として配合される。(C)成分を該組成物に配合することにより、放射線照射で硬化した際に、各種基材に対するより良好な接着性をより速やかに該硬化物に付与することができる。(C)成分は一種単独でも二種以上を組み合わせても使用することができる。
【0038】
(C)成分としては、例えば、下記一般式:
(R6O)pTi(OSiR789)4-p
(式中、R6は炭素原子数1〜8、好ましくは2〜4のアルキル基であり、R7、R8およびR9は各々独立に炭素原子数1〜10、好ましくは1〜8のアルキル基またはアルコキシ基であり、pは0〜4の整数である)
で表されるチタネート化合物が挙げられる。
【0039】
上記R6としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基等のアルキル基が挙げられる。
【0040】
上記R7〜R9としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基等のアルコキシ基が挙げられる。
【0041】
上記一般式で表される化合物の具体例としては、テトラメチルチタネート、テトラエチルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトライソブチルチタネート、テトラヘキシルチタネート、テトラ(2-エチルヘキシル)チタネート等のチタネート化合物;(C37O)3TiOSi(CH3)(OC37)2、(C37O)3TiOSi(CH3)2(OC37)、[(CH3)3SiO]3TiOSi(CH3)2(OC37)、[(CH3)3SiO]4Ti等の、トリアルキルシロキシ基、アルコキシジアルキルシロキシ基、トリアルコキシシロキシ基、アルキルジアルコキシシロキシ基等のトリオルガノシロキシ基を有するチタン化合物が挙げられる。
【0042】
(C)成分としては、更に、例えば、配位子としてアセチルアセトナト基、メチルアセトアセタト基およびエチルアセトアセタト基の少なくとも一種を有し、ケイ素原子含有基を有してもよいチタンキレート化合物であって、該ケイ素原子含有基を有する場合には該チタンキレート化合物中のチタン原子と該ケイ素原子含有基中のケイ素原子とが酸素原子を介して結合している該チタンキレート化合物が挙げられる。このチタンキレート化合物の具体例としては、以下のものが例示される:
【0043】
【化12】

【0044】
【化13】


(式中、nは2〜100の整数である)。
【0045】
(C)成分を本発明の組成物に添加する場合、その含有量は、上記(A)成分100質量部に対して、20質量部以下(即ち、0〜20質量部)の範囲で必要に応じて調整することができ、好ましくは0.001〜20質量部、より好ましくは0.01〜10質量部、更により好ましくは0.1〜5質量部である。
【0046】
[他の配合成分]
本発明の組成物には、上記(A)〜(C)成分に加えて、本発明の目的および効果を損なわない限度において他の成分を配合してもよい。例えば、本発明の組成物から得られる硬化物の接着力をより向上させる接着助剤として、一般式:
Si(OR10)4
(式中、R10は、炭素原子数1〜6、好ましくは1〜4の非置換またはアルコキシ置換のアルキル基である)
で表されるアルコキシシランおよびその部分加水分解縮合物からなる群より選ばれる有機ケイ素化合物を配合してもよい。この有機ケイ素化合物は一種単独でも二種以上を組み合わせても使用することができる。この有機ケイ素化合物を該組成物に配合することにより、各種基材に対するより良好な接着性を該硬化物に付与することができる。接着助剤として機能する上記(C)成分のチタン含有有機化合物と併用してもよい。
【0047】
前記R10の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基等のアルコキシ置換のアルキル基が挙げられ、好ましくは、メチル基、エチル基である。なお、前記アルコキシシランの部分加水分解縮合物とは、前記アルコキシ基の加水分解縮合反応によって生成する、分子中に少なくとも1個、好ましくは2個以上のアルコキシ基が残存するシロキサン化合物(ケイ素原子数が2〜100個、好ましくは2〜30個程度のシロキサンオリゴマー)を意味する。
【0048】
前記有機ケイ素化合物を本発明の組成物に添加する場合、その含有量は、(A)成分100質量部に対して、0.5〜10質量部、好ましくは0.5〜5.0質量部である。
【0049】
また、硬化時における収縮率、および得られる硬化物の熱膨張係数、機械的強度、耐熱性、耐薬品性、難燃性、燃膨張係数、ガス透過率等を適宜調整することを目的として各種添加剤を配合してもよい。更に、煙霧質シリカ、シリカエアロゲル、石英粉末、ガラス繊維、酸化鉄、酸化チタン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の無機質充填剤;ヒドロキノン、メトキシヒドロキノン、2,6-ジ-tert-ブチル-p−クレゾール等のラジカル重合禁止剤(ポットライフ延長剤)等を配合してもよい。
【0050】
[組成物の調製および硬化]
本発明の組成物は、上記(A)および(B)成分、ならびに必要に応じて(C)成分および他の配合成分を混合することにより得られる。得られた組成物は、これに放射線を照射することにより速やかに硬化して硬化直後から強固な接着性を発現するゴム状弾性体を与える。
【0051】
照射する放射線としては、紫外線、遠赤外線、電子線、X線、γ線等が挙げられるが、装置の手軽さ、扱いの容易性等から、紫外線を使用することが好ましい。紫外線を発する光源としては、例えば、UV LED、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアークランプ、キセノンランプ等が挙げられる。紫外線(ピーク波長:320〜390nm)の照射量は、例えば、本発明の組成物を厚み2mmに成形したものに対して、例えば、100〜2,400mJ/cm2、好ましくは 200〜800mJ/cm2である。
【0052】
[用途]
本発明の組成物から得られる硬化物は、電気・電子装置の保護膜および封止剤として有用であり、過酷な条件下においても非常に優れた防食効果を発揮しうる。電気・電子装置としては、例えば、液晶、有機EL、フラットパネルディスプレイ、プラズマディスプレイ等の電極;電子回路(基板)等の各種電気・電子部品等が挙げられる。該電気・電子装置は、本発明の組成物を該電気・電子装置に塗布し、塗布された該組成物に放射線を照射して該組成物を硬化させることにより、封止することができる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を、合成例、比較合成例、実施例、比較例によって説明するが、本発明はこれらの合成例または実施例に制限されるものではない。なお、下記において、「部」は質量部を示す。
【0054】
[合成例1]
攪拌装置、還流冷却器、滴下ロートおよび乾燥空気導入器を備えた1,000mLの反応装置に、下記平均一般式:
【0055】
【化14】


で表わされるビニル基含有オルガノポリシロキサン1モルにH(Me)SiCl2 6モルを付加反応させて得られたポリマー675g、2-ヒドロキシ-1-アクリロイルオキシ-3-メタクリロイルオキシプロパン(商品名:NKエステル701−A、新中村化学工業(株)製)97g、アクリル酸2-ヒドロキシエチル30g、トルエン200mL、トリエチルアミン26g、および重合禁止剤としてジブチルヒドロキシトルエン(2,6-ジ-tert-ブチル-p−クレゾール)2,000ppm(質量基準)とを仕込み、これらを攪拌しながら70℃に昇温して7時間加熱した。その後、得られた混合物を放冷し、濾過し、得られたろ液に中和剤としてプロピレンオキサイド4gを添加し、室温にて1時間攪拌した。その後、100℃/30mmHgの条件でストリップを行って、次式で示される透明なオイル状のオルガノポリシロキサンを得た。
【0056】
【化15】


〔式中、Xは下記式:
【0057】
【化16】


で表わされる基であり、Xは下記式:
【0058】
【化17】


で表わされる基である。〕
【0059】
[比較合成例1]
【0060】
【化18】


で示されるオルガノポリシロキサン571g、2-ヒドロキシ-1-アクリロイルオキシ-3-メタクリロイルオキシプロパン(商品名:NKエステル701−A、新中村化学工業(株)製)47g、トルエン200mL、トリエチルアミン26g、および重合禁止剤としてジブチルヒドロキシトルエン(2,6-ジ-tert-ブチル-p−クレゾール)2,000ppm(質量基準)とを仕込み、これらを攪拌しながら70℃に昇温して7時間加熱した。その後、得られた混合物を放冷し、濾過し、得られたろ液に中和剤としてプロピレンオキサイド4gを添加し、室温にて1時間攪拌した。その後、100℃/30mmHgの条件でストリップを行って、次式で示される透明なオイル状のオルガノポリシロキサンを得た。
【0061】
【化19】

【0062】
[実施例1]
合成例1で得られたオイル状のオルガノポリシロキサン 100部、2-メチル-1-(4-(メチルチオ)フェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン 2部、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン 2部、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド 0.5部、下記構造式で示されるチタンキレート化合物 0.1部を混合して、放射線硬化性オルガノポリシロキサン組成物を得た。
【0063】
【化20】


(式中、nは10である)
【0064】
この組成物を深さ1mm、幅 120mm、長さ 170mmの金型に流し込み(厚み1mm)、該組成物にUV-LED(日亜化学工業製)2灯を備えるコンベア炉内(照度:3000mW/cm2)で0.2秒間紫外線を照射し(エネルギー量:600mJ/cm2)、硬化物を得た。
【0065】
<各種性能評価>
・物性
得られた硬化物について、その物性(硬度、伸び、引張り強さ)を、JIS K 6301 に準拠して測定した(なお、硬度はスプリング式A型試験機によって測定した)。その結果を表1に示す。
・表面タック
得られた硬化物の表面を指触した時の糸引きの有無を観察することにより表面タックの有無を評価した。その結果を表1に示す。表中、糸引きが観察されなかった場合を「無し」と表現し、糸引きが観察された場合を「有り」と表現する。表面タックがない場合、表面硬化性が良好であると評価され、表面タックがある場合、表面硬化性が不良であると評価される。
【0066】
[比較例1]
実施例1において、合成例1で得られたオイル状のオルガノポリシロキサンの代わりに比較合成例1で得られたオイル状のオルガノポリシロキサンを用いた以外は、実施例1と同様にして組成物を調製し、該組成物について実施例1と同様の試験を行った。その結果を表1に示す。
【0067】
【表1】


注:「測定不可」とは硬度が低いため該当する物性が測定できなかったことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1):
【化1】

〔式中、R1は独立に非置換または置換の炭素原子数1〜9の1価炭化水素基であり、Xは独立に下記一般式(2):
【化2】


{式中、R2は炭素原子数2〜4の2価炭化水素基または酸素原子であり、R3は独立に、下記一般式:
【化3】


(式中、Rは水素原子またはメチル基である)
で表される(メタ)アクリロイル基を1〜3個有する炭素原子数4〜25の1価の有機基であり、R4は独立に非置換または置換の炭素原子数1〜9の1価炭化水素基であり、R5は独立に炭素原子数1〜18の1価炭化水素基であり、nは1〜3の整数であり、mは0〜2の整数であり、かつn+mは1〜3の整数であり、但し、n=1のとき、前記R3は独立に2〜3個の(メタ)アクリロイル基を有する。}
で表される基であり、Yは、独立にX,R又はOR(ここで、XおよびRは前記のとおり)で表わされる基であり、Nは8〜10,000の整数である〕
で表されるオルガノポリシロキサン、および
(B)放射線増感剤
を含有する放射線硬化性シリコーンゴム組成物。
【請求項2】
YがXである請求項1に係る組成物。
【請求項3】
前記R3が2〜3個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する請求項1に係る組成物。
【請求項4】
更に、
(C)チタネート化合物およびチタンキレート化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種のチタン含有有機化合物
を含有する請求項1または2に係る組成物。
【請求項5】
前記(C)成分が、
下記一般式:
(R6O)pTi(OSiR789)4-p
(式中、R6は炭素原子数1〜8のアルキル基であり、R7、R8およびR9は各々独立に炭素原子数1〜10のアルキル基またはアルコキシ基であり、pは0〜4の整数である)
で表されるチタネート化合物、並びに、
配位子としてアセチルアセトナト基、メチルアセトアセタト基およびエチルアセトアセタト基の少なくとも一種を有し、ケイ素原子含有基を有してもよいチタンキレート化合物であって、該ケイ素原子含有基を有する場合には該チタンキレート化合物中のチタン原子と該ケイ素原子含有基中のケイ素原子とが酸素原子を介して結合している該チタンキレート化合物
からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物である請求項3に係る組成物。
【請求項6】
(A)成分100質量部に対して、(B)成分0.1〜10質量部を含有し、(C)成分を含有する場合には(C)成分0.001〜20質量部を含有する請求項1〜4のいずれか1項に係る組成物。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に係る組成物に放射線を照射して得られた硬化物で封止された電気・電子装置。
【請求項8】
前記放射線が紫外線発光ダイオードから発生した放射線である請求項6に係る電気・電子装置。

【公開番号】特開2007−131812(P2007−131812A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−328640(P2005−328640)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】