説明

放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物およびその製造方法、ポリウレタン樹脂、磁気記録媒体、ならびに、放射線硬化性ポリウレタン樹脂用保存安定剤

【課題】優れた保存安定性と硬化性を兼ね備えた、磁気記録媒体用途に好適な放射線硬化性樹脂および樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】放射線硬化性官能基を含むポリウレタン樹脂および/またはその原料化合物、ならびに下記成分Cおよび成分Dを含む放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物。
成分C:フェノール化合物
成分D:ピペリジン−1−オキシル化合物、ニトロ化合物、ベンゾキノン化合物およびフェノチアジン化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物およびその製造方法に関するものであり、詳しくは、優れた保存安定性と硬化性とを兼ね備えた放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物およびその製造方法に関するものである。
更に本発明は、上記組成物から形成されるポリウレタン樹脂、上記組成物から形成される放射線硬化層を有する磁気記録媒体、および放射線硬化性ポリウレタン樹脂用保存安定剤に関する。
【背景技術】
【0002】
塗布型磁気記録媒体では、磁性粒子の分散性、塗膜耐久性、電磁変換特性、走行耐久性等に結合剤が重要な役割を果たしている。そこで磁気記録媒体用結合剤に関する様々な検討が行われている。例えば特許文献1には、優れた分散性、塗膜平滑性、電磁変換特性を有し、走行耐久性に優れた磁気記録媒体を提供するために、スルホン酸ポリオールを原料とするポリウレタン樹脂を結合剤として使用することが提案されている。
【0003】
従来、磁気記録媒体用結合剤としては、塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂等の熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂が広く使用されていた。これに対し近年、高い生産性とより強靭な塗膜を得るために、放射線硬化性官能基を導入した放射線硬化性樹脂を磁気記録媒体用結合剤として使用することが提案されている。例えば特許文献2〜5には、磁性層または非磁性層用結合剤として放射線硬化性樹脂を使用することが記載されている。また、上記特許文献1にも、分子内にアクリル系二重結合を少なくとも1つ有するジオールを使用し、ポリウレタン樹脂に放射線硬化性を付与することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−96798号公報
【特許文献2】特開2000−11353号公報
【特許文献3】特開2004−63049号公報
【特許文献4】特開2006−202415号公報
【特許文献5】特開昭62−107433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
放射線硬化性樹脂は、一般に放射線硬化性官能基を有するモノマーを使用して重合反応を行うか、または放射線硬化性官能基を有する化合物とポリマーを反応させポリマーの側鎖に放射線硬化性官能基を導入することによって合成される。上記反応は、通常、放射線硬化性官能基を反応させないために重合禁止剤の存在下で行われる。例えば特許文献5には、重合禁止剤としてベンゾキノン等を使用することが記載されている。
一方、塗布型磁気記録媒体を量産する際には、塗布液を例えば半年以上もの長期にわたり保存することが行われるが、放射線硬化性結合剤を使用すると塗布液の安定性が低下するという問題があった。これは、保存中に放射線硬化性官能基が反応することにより分子量が変化することが原因と考えられる。他方、保存中に放射線硬化性官能基が反応することを抑制するため、上記重合禁止剤を増量すると放射線照射時の硬化性が低下し強靭な塗膜を得ることが困難となる。
このように、放射線硬化性結合剤の長期保存安定性と放射線照射時の硬化性を両立する手段は、これまで見出されていなかった。
【0006】
そこで本発明の目的は、優れた保存安定性と硬化性を兼ね備えた、磁気記録媒体用途に好適な放射線硬化性樹脂および樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた。その結果、放射線硬化性樹脂の中でも放射線硬化性ポリウレタン樹脂に対して、フェノール化合物と、ピペリジン−1−オキシル化合物、ニトロ化合物、ベンゾキノン化合物およびフェノチアジン化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を組み合わせて使用することにより、硬化性を損なうことなく、長期間保存安定性を良好に維持することができることを新たに見出した。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
【0008】
即ち、上記目的は、下記手段によって達成された。
[1]放射線硬化性官能基を含むポリウレタン樹脂および/またはその原料化合物、ならびに下記成分Cおよび成分Dを含む放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物。
成分C:フェノール化合物
成分D:ピペリジン−1−オキシル化合物、ニトロ化合物、ベンゾキノン化合物およびフェノチアジン化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物
[2]前記原料化合物は、下記成分Aおよび成分Bを含む[1]に記載の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物。
成分A:イソシアネート化合物
成分B:ポリオール化合物
(上記成分AおよびBの少なくとも一方は放射線硬化性官能基を含む。)
[3]前記放射線硬化性官能基は、(メタ)アクリロイルオキシ基である[1]または[2]に記載の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物。
[4]成分Bは、放射線硬化性官能基を有するポリオール化合物を含む[2]または[3]に記載の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物。
[5]成分Bは、スルホン酸(塩)基含有ポリオールを含む[2]〜[4]のいずれかに記載の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物。
[6]前記スルホン酸(塩)基含有ポリオールは、下記一般式(1)で表される[5]に記載の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物。
【化1】

[一般式(1)中、Xは二価の連結基を表し、R1およびR2はそれぞれ独立に、少なくとも1つの水酸基を有する炭素数2以上のアルキル基または少なくとも1つの水酸基を有する炭素数8以上のアラルキル基を表し、Mは水素原子または陽イオンを表す。]
[7]前記ポリウレタン樹脂に対して、500ppm以上100000ppm以下の成分Cを含有し、かつ1ppm以上500ppm以下の成分Dを含有する[1]〜[6]のいずれかに記載の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物。
[8]磁気記録媒体形成用塗布液として、またはその調製のために使用される[1]〜[7]のいずれかに記載の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物。
[9]前記成分Aと成分Bとを成分Cの存在下で反応させることを含む、[2]〜[8]のいずれかに記載の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物の製造方法。
[10]前記反応の反応生成物に成分Dを混合することを含む[9]に記載の製造方法。
[11][1]〜[8]のいずれかに記載の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物を放射線硬化することによって得られたポリウレタン樹脂。
[12]非磁性支持体上に、強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、
[1]〜[8]のいずれかに記載の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物を含む塗布層を放射線硬化することによって得られた放射線硬化層を少なくとも一層有する磁気記録媒体。
[13]前記放射線硬化層は、前記磁性層である[12]に記載の磁気記録媒体。
[14]非磁性支持体と磁性層との間に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層を有し、かつ該非磁性層が前記放射線硬化層である[12]または[13]に記載の磁気記録媒体。
[15]フェノール化合物、ならびに、
ピペリジン−1−オキシル化合物、ニトロ化合物、ベンゾキノン化合物およびフェノチアジン化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物、
を含む放射線硬化性ポリウレタン樹脂用保存安定剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、長期保存安定性と放射線照射による硬化性(架橋性)に優れた、磁気記録媒体用途に好適な放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物を提供することができる。
本発明の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物は、長期保存後に磁性層、非磁性層等の塗布層形成のために使用した場合にも、放射線照射により良好な硬化性を示し高い塗膜強度を有する塗布層を形成することができる。また、磁気記録媒体用結合剤として熱硬化性樹脂を使用すると塗膜硬化のために長時間の熱処理を要するのに対し、放射線硬化性樹脂であれば短時間の放射線照射により塗膜を硬化させることができるため生産性の点でもきわめて有利である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物]
本発明の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」または「組成物」ともいう)は、放射線硬化性官能基を含むポリウレタン樹脂(以下、「放射線硬化性ポリウレタン樹脂」ともいう)および/またはその原料化合物、ならびに下記成分Cおよび成分Dを含むものである。
成分C:フェノール化合物
成分D:ピペリジン−1−オキシル化合物、ニトロ化合物、ベンゾキノン化合物およびフェノチアジン化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物
先に説明したように、放射線硬化性結合剤の長期保存安定性と放射線照射時の硬化性は相反する性質であり両立することは従来困難であったのに対し、本発明によれば、下記成分Cと成分Dとを組み合わせることにより、放射線硬化性ポリウレタン樹脂の硬化性を損なうことなく、その保存安定性を長期間良好に維持することができる。
【0011】
本発明の樹脂組成物は、少なくとも上記成分を含むものであればよく、上記成分以外に任意に溶剤、重合開始剤、触媒、等のポリウレタン合成に通常使用される各種成分を含むことができる。
また、本発明の樹脂組成物は、全成分を1液として含有する1液型でもよく、使用時に1液と2液とが順次混合される2液型、または3液型以上の多液型であってもよい。例えば後述するように、放射線硬化性ポリウレタン樹脂の原料化合物と成分Cとを混合した状態で放射線硬化性ポリウレタン樹脂の合成反応を行い、合成反応後に成分Dを添加することができる。
以下、本発明の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物に含まれる各成分について、更に詳細に説明する。
【0012】
(i)放射線硬化性ポリウレタン樹脂、その原料化合物
放射線硬化性ポリウレタン樹脂が有する放射線硬化性官能基は、放射線照射により硬化反応(架橋反応)を起こし得るものであればよく特に限定されるものではないが、反応性の点から、ラジカル重合性の炭素−炭素二重結合基が好ましく、アクリル系二重結合基が更に好ましい。ここでアクリル系二重結合基とは、アクリル酸、アクリル酸エステル、アクリル酸アミド、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、メタクリル酸アミド等の残基をいう。これらの中でも、反応性の点からは(メタ)アクリロイルオキシ基が好ましい。なお、本発明において、「(メタ)アクリロイルオキシ基」とは、メタクリロイルオキシ基とアクリロイルオキシ基とを含むものとし、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートとアクリレートとを含むものとする。
【0013】
本発明の樹脂組成物は、放射線硬化性ポリウレタン樹脂そのものを含むこともでき、放射線硬化性ポリウレタン樹脂の原料化合物を含むこともできる。放射線硬化性ポリウレタン樹脂の原料化合物としては、イソシアネート化合物、ポリオール化合物、放射線硬化性官能基含有化合物を挙げることができる。前記放射線硬化性ポリウレタン樹脂は、下記(A−1)、(A−2)のいずれの態様であってもよい。
(A−1)イソシアネート化合物とポリオール化合物とのウレタン化反応の反応生成物であるポリウレタン樹脂に、放射線硬化性官能基を高分子反応により側鎖として導入したもの。
(A−2)イソシアネート化合物とポリオール化合物の少なくとも一方として、放射線硬化性官能基を有する化合物を使用して得られたもの。
上記(A−1)の態様において放射線硬化性官能基の導入に使用する化合物としては、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、2−イソシアナトエチル(メタ)アクリレート等の炭素−炭素二重結合基を含有する化合物を挙げることができる。合成の簡便さ、コスト、原料入手性を考慮すると、上記(A−2)の態様が好ましい。以下、上記(A−2)の態様について更に詳細に説明する。
【0014】
上記(A−2)の態様における原料化合物としては、下記成分A、Bが使用される。
成分A:イソシアネート化合物
成分B:ポリオール化合物
(上記成分AおよびBの少なくとも一方は放射線硬化性官能基を含む。)
【0015】
放射線硬化性官能基は、成分A、成分Bのいずれか一方に含まれていればよく、両方に含まれていてもよい。原料の入手容易性、コスト面を考慮すると、成分Bであるポリオール化合物として、放射線硬化性官能基を有するものを使用することが好ましい。
以下、成分A、Bについて更に詳細に説明する。
【0016】
成分A
イソシアネート化合物とは、イソシアネート基を有する化合物をいい、成分Aとしては2官能以上の多官能イソシアネート化合物(以下、「ポリイソシアネート」という)を用いることが好ましい。成分Aとして使用可能なポリイソシアネートとしては、特に限定されず公知のものを用いることができる。例えば、TDI(トリレンジイソシアネート)、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)、p−フェニレンジイソシアネート、o−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどのジイソシアネートを使用することができる。成分Aとしては、イソシアネート化合物を1種のみ用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0017】
成分B
ポリオール化合物とは、1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物である。成分Bとしては、ポリオール化合物を1種のみ用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用することもできる。2種以上のポリオール化合物を組み合わせて使用する場合には、その少なくとも1つとして放射線硬化性官能基を有するポリオール化合物を使用することが好ましい。
【0018】
前記の放射線硬化性官能基を有するポリオール化合物としては、グリセリンモノアクリレート(グリセロールアクリレートとも呼ばれる)、グリセリンモノメタクリレート(グリセロールメタクリレートとも呼ばれる)(例えば日本油脂(株)製商品名ブレンマーGLM)、ビスフェノールA型エポキシアクリレート(例えば共栄社化学(株)製商品名エポキシエステル3000A)等の分子内にアクリル系二重結合を少なくとも1個有するジオールが好適である。これらジオールの中でも、成分C、成分Dとの組み合わせによる効果を得る上で、下記化合物(グリセリンモノ(メタ)アクリレート)が好ましい。以下において、R1は水素原子またはメチル基である。
【0019】
【化2】

【0020】
磁気記録媒体用結合剤には、磁性粉末、非磁性粉末等の分散性を高めるために極性基を導入することが広く行われている。前記放射線硬化性ポリウレタン樹脂にも、分散性向上のために極性基を導入することが好ましい。極性基としては、例えば、ヒドロキシアルキル基、カルボン酸(塩)基、スルホン酸(塩)基、硫酸(塩)基、燐酸(塩)基等を挙げることができる。なお、本発明において、「スルホン酸(塩)基」とは、スルホン酸基(−SO3H)と−SO3Na、−SO3Li、−SO3K等のスルホン酸塩基とを含むものとする。カルボン酸(塩)基、硫酸(塩)基、燐酸(塩)基等についても同様である。
本発明の樹脂組成物は、上記極性基を導入するために、極性基含有ポリオール化合物を、成分Bとして含有することが好ましい。極性基含有ポリオール化合物としては、後述する各種ポリオールに極性基を導入したものを使用することができる。また、好適な極性基含有ポリオール化合物としては、下記一般式(1)で表されるスルホン酸(塩)基含有ポリオール化合物を挙げることができる。通常、ポリウレタン合成反応は有機溶媒中で行われるが、スルホン酸(塩)基含有ポリオール化合物は一般的に有機溶媒への溶解性に乏しいため反応性に乏しい点が課題であった。これに対し一般式(1)で表されるポリオール化合物は、有機溶媒への溶解性に優れるためポリウレタンの原料化合物として好適である。更に後述の実施例に示すように、一般式(1)で表されるポリオール化合物を原料化合物として得られた放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物は、成分C、D存在下で保存することにより長期間安定な状態で保存することができるとともに、放射線照射により良好な硬化性を示すことができる。
【0021】
【化3】

[一般式(1)中、Xは二価の連結基を表し、R1およびR2はそれぞれ独立に、少なくとも1つの水酸基を有する炭素数2以上のアルキル基または少なくとも1つの水酸基を有する炭素数8以上のアラルキル基を表し、Mは水素原子または陽イオンを表す。]
【0022】
以下、一般式(1)について更に詳細に説明する。
【0023】
一般式(1)におけるXは、二価の連結基を表し、二価の炭化水素基であることが好ましく、アルキレン基、アリーレン基、または、これらを2以上組み合わせた基であることがより好ましく、アルキレン基またはアリーレン基であることがさらに好ましく、エチレン基またはフェニレン基であることが特に好ましく、エチレン基であることが最も好ましい。
また、前記フェニレン基としては、o−フェニレン基、m−フェニレン基、および、p−フェニレン基を例示することができ、o−フェニレン基またはm−フェニレン基であることが好ましく、m−フェニレン基であることがより好ましい。
【0024】
前記アルキレン基の炭素数は、2以上20以下であることが好ましく、2以上4以下であることがより好ましく、2であることがさらに好ましい。また、前記アルキレン基は、直鎖状のアルキレン基であっても、分岐を有するアルキレン基であってもよいが、直鎖状のアルキレン基であることが好ましい。
【0025】
前記アリーレン基の炭素数は、6以上20以下であることが好ましく、6以上10以下であることがより好ましく、6であることがさらに好ましい。
【0026】
前記アルキレン基および前記アリーレン基は、下記に示す置換基を有していてもよいが、炭素原子および水素原子のみからなる基であることが好ましい。
前記アルキレン基が有していてもよい置換基としては、アリール基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルコキシ基、アリールオキシ基、および、アルキル基が例示できる。
前記アリーレン基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルコキシ基、アリールオキシ基、および、アリール基が例示できる。
【0027】
一般式(1)におけるR1およびR2はそれぞれ独立に、少なくとも1つの水酸基を有する炭素数2以上のアルキル基または少なくとも1つの水酸基を有する炭素数8以上のアラルキル基を表し、前記アルキル基およびアラルキル基は置換基を有していてもよい。
前記アルキル基およびアラルキル基が水酸基以外に有していてもよい置換基としては、アルコキシ基、アリールオキシ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、スルホニル基、および、シリル基が例示できる。これらの中でも、アルコキシ基またはアリールオキシ基であることが好ましく、炭素数1〜20のアルコキシ基または炭素数6〜20のアリールオキシ基であることがより好ましく、炭素数1〜4のアルコキシ基またはフェノキシ基であることがさらに好ましい。
また、前記アルキル基およびアラルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐を有していてもよい。
【0028】
1およびR2における水酸基の数は、それぞれ1以上であり、1または2であることが好ましく、1であることが特に好ましい。すなわち、一般式(1)で表されるスルホン酸(塩)基含有ポリオール化合物は、スルホン酸ジオール化合物であることが特に好ましい。
【0029】
1およびR2におけるアルキル基の炭素数は、有機溶媒への溶解性、原料調達性、コスト等の観点から2以上であり、2〜22であることが好ましく、3〜22であることがより好ましく、4〜22であることがよりいっそう好ましく、4〜8であることがさらに好ましい。
【0030】
1およびR2におけるアラルキル基の炭素数は、有機溶媒への溶解性、原料調達性、コスト等の観点から8以上であり、8〜22であることが好ましく、8〜12であることがより好ましく、8であることがさらに好ましい。
また、R1およびR2におけるアラルキル基は、窒素原子のα位およびβ位が飽和炭化水素鎖であることが好ましい。また、その場合、窒素原子のβ位には水酸基を有していてもよい。
また、R1およびR2は、窒素原子のα位には水酸基を有しないことが好ましく、少なくとも窒素原子のβ位に水酸基を1つ有していることがより好ましく、窒素原子のβ位のみに水酸基を1つ有していることが特に好ましい。窒素原子のβ位に水酸基を有することにより合成が容易となり、また、有機溶媒への溶解性を更に高めることができる。
【0031】
また、R1およびR2はそれぞれ独立に、少なくとも1つの水酸基を有する炭素数2〜22のアルキル基、少なくとも1つの水酸基を有する炭素数8〜22のアラルキル基、少なくとも1つの水酸基を有する炭素数3〜22のアルコキシアルキル基、または、少なくとも1つの水酸基を有する炭素数9〜22のアリールオキシアルキル基であることが好ましく、少なくとも1つの水酸基を有する炭素数2〜20のアルキル基、少なくとも1つの水酸基を有する炭素数8〜20のアラルキル基、少なくとも1つの水酸基を有する炭素数3〜20のアルコキシアルキル基、または、少なくとも1つの水酸基を有する炭素数9〜20のアリールオキシアルキル基であることがより好ましい。
【0032】
前記少なくとも1つの水酸基を有する炭素数2以上のアルキル基として具体的には、2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシペンチル基、2−ヒドロキシヘキシル基、2−ヒドロキシオクチル基、2−ヒドロキシ−3−メトキシプロピル基、2−ヒドロキシ−3−エトキシプロピル基、2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロピル基、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル基、2−ヒドロキシ−3−メトキシ−ブチル基、2−ヒドロキシ−3−メトキシ−3−メチルブチル基、2,3−ジヒドロキシプロピル基、3−ヒドロキシプロピル基、3−ヒドロキシブチル基、および、4−ヒドロキシブチル基、1−メチル−2−ヒドロキシエチル基、1−エチル−2−ヒドロキシエチル基、1−プロピル−2−ヒドロキシエチル基、1−ブチル−2−ヒドロキシエチル基、1−ヘキシル−2−ヒドロキシエチル基、1−メトキシメチル−2−ヒドロキシエチル基、1−エトキシメチル−2−ヒドロキシエチル基、1−ブトキシメチル−2−ヒドロキシエチル基、1−フェノキシメチル−2−ヒドロキシエチル基、1−(1−メトキシエチル)−2−ヒドロキシエチル基、1−(1−メトキシ−1−メチルエチル)−2−ヒドロキシエチル基、1,3−ジヒドロキシ−2−プロピル基等が例示できる。この中でも、2−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシ−3−メトキシプロピル基、2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロピル基、および、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル基、1−メチル−2−ヒドロキシエチル基、1−メトキシメチル−2−ヒドロキシエチル基、1−ブトキシメチル−2−ヒドロキシエチル基、1−フェノキシエチル−2−ヒドロキシエチル基を好ましく例示できる。
【0033】
前記少なくとも1つの水酸基を有する炭素数8以上のアラルキル基として具体的には、2−ヒドロキシ−2−フェニルエチル基、2−ヒドロキシ−2−フェニルプロピル基、2−ヒドロキシ−3−フェニルプロピル基、2−ヒドロキシ−2−フェニルブチル基、2−ヒドロキシ−4−フェニルブチル基、2−ヒドロキシ−5−フェニルペンチル基、2−ヒドロキシ−2−(4−メトキシフェニル)エチル基、2−ヒドロキシ−2−(4−フェノキシフェニル)エチル基、2−ヒドロキシ−2−(3−メトキシフェニル)エチル基、2−ヒドロキシ−2−(4−クロロフェニル)エチル基、2−ヒドロキシ−2−(4−ヒドロキシフェニル)エチル基、2−ヒドロキシ−3−(4−メトキシフェニル)プロピル基、および、2−ヒドロキシ−3−(4−クロロフェニル)プロピル基、1−フェニル−2−ヒドロキシエチル基、1−メチル−1−フェニル−2−ヒドロキシエチル基、1−ベンジル−2−ヒドロキシエチル基、1−エチル−1−フェニル−2−ヒドロキシエチル基、1−フェネチル−2−ヒドロキシエチル基、1−フェニルプロピル−2−ヒドロキシエチル基、1−(4−メトキシフェニル)−2−ヒドロキシエチル基、1−(4−フェノキシフェニル)2−ヒドロキシ−エチル基、1−(3−メトキシフェニル)−2−ヒドロキシエチル基、1−(4−クロロフェニル)−2−ヒドロキシエチル基、1−(4−ヒドロキシフェニル)2−ヒドロキシエチル基、1−(4−メトキシフェニル)−3−ヒドロキシ−2−プロピル基等が例示できる。この中でも、2−ヒドロキシ−2−フェニルエチル基、1−フェニル−2−ヒドロキシフェニル基を好ましく例示できる。
【0034】
一般式(1)におけるMは、水素原子または陽イオンを表す。
前記陽イオンは、無機陽イオンであっても、有機陽イオンであってもよい。前記陽イオンは、一般式(1)中の−SO3-を電気的に中和するものであり、1価の陽イオンに限定されず、2価以上の陽イオンとすることもできるが、1価の陽イオンが好ましい。なお、n価の陽イオンを使用する場合には、一般式(1)で表される化合物に対して、(1/n)モルの陽イオンを意味する。
【0035】
無機陽イオンとしては、特に制限はないが、アルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンが好ましく例示でき、アルカリ金属イオンがより好ましく例示でき、Li+、Na+、K+、Rb+、またはCs+がさらに好ましく例示できる。
有機陽イオンとしては、アンモニウムイオン、第四級アンモニウムイオン、ピリジニウムイオン等を例示できる。
【0036】
前記Mは、水素原子またはアルカリ金属イオンであることが好ましく、水素原子、Li+、Na+またはK+であることがより好ましく、K+であることが特に好ましい。
【0037】
一般式(1)で表されるポリオール化合物は、有機溶媒への溶解性をさらに向上させるため、分子内に1以上の芳香環を有することもできる。
また、一般式(1)におけるR1とR2とは、同じであっても、異なっていてもよいが、合成上の容易性から、同じであることが好ましい。
一般式(1)におけるR1およびR2は、それぞれ、炭素数5以上の基であることが好ましい。また、一般式(1)におけるR1およびR2は、それぞれ、芳香環および/またはエーテル結合を有する基であることが好ましい。
【0038】
以上説明した一般式(1)で表されるポリオール化合物の詳細については、特開2009−96798号公報を参照できる。特に一般式(1)で表されるポリオール化合物の合成方法については、特開2009−96798号公報段落[0028]、[0029]および[0045]ならびに同公報の実施例を参照できる。また、一般式(1)で表されるポリオール化合物としては、特開2009−96798号公報記載の式(2)、式(3)で表される化合物を挙げることができる。その詳細は、同公報段落[0030]〜[0034]に記載されている。一般式(1)で表されるポリオール化合物の具体例としては、以下の上記特開2009−96798号公報記載の例示化合物(S−1)〜(S−74)および下記例示化合物(S−71)〜(S−74)を挙げることができる。なお、以下においてPhはフェニル基を表し、Etはエチル基を表す。
【0039】
【化4】

【0040】
【化5】

【0041】
【化6】

【0042】
【化7】

【0043】
【化8】

【0044】
【化9】

【0045】
【化10】

【0046】
【化11】

【0047】
【化12】

【0048】
また、ポリオール化合物としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール、ダイマージオール等、一般にポリウレタン合成時に鎖延長剤として使用される公知のポリオール化合物を使用することもできる。これらの中でも、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールが好ましい。
【0049】
ポリエステルポリオールとしては、ポリカルボン酸(多塩基酸)と、ポリオールとを重縮合して得られ、二塩基酸(ジカルボン酸)とジオールとの反応により得られるものであることが好ましい。ポリエステルポリオールに用いることができる二塩基酸成分としては特に限定されないが、アジピン酸、アゼライン酸、フタル酸、Naスルホイソフタル酸等が好ましい。ジオールとしては2,2−ジメチル−1,3プロパンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等の分岐側鎖を有するものが好ましい。
【0050】
ポリエーテルポリオールとしては、ビスフェノールAのポリプロピレンオキサイド付加物やビスフェノールAのポリエチレンオキサイド付加物等の環状構造を有するものが好ましい。
【0051】
更にポリオール化合物としては、必要に応じて分子量100〜500程度の公知の短鎖ジオールを用いてもよい。中でも炭素数2以上の分岐側鎖をもつ脂肪族ジオール、環構造を有するエーテル化合物、有橋炭化水素構造を有する短鎖ジオール、スピロ構造を有する短鎖ジオールが好ましい。
【0052】
炭素数2以上の分岐側鎖をもつ脂肪族ジオールの具体例としては、特開2009−96798号公報段落[0059]に記載の各種化合物を例示できる。これらの中でも好ましいものは、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオールである。
【0053】
環構造を有するエーテル化合物としてはビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物、水素化ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、水素化ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物、および下記式で表されるフルオレン誘導体アルコールなどが挙げられる。
【0054】
【化13】

[上記式において、R1はHまたはCH3を表し、R2はOHまたは-OCH2CH2OHを表し、2つ存在するR1、R2はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
【0055】
有橋炭化水素構造またはスピロ構造としては、式(a)〜(c)よりなる群から選ばれた少なくとも1種の構造であることが好ましい。
【0056】
【化14】

【0057】
有橋炭化水素構造を有する短鎖ジオールの具体例としては、特開2009−96798号公報段落[0063]に記載の各種化合物を挙げることができる。 これらの中でも、好ましいものとしては、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールが挙げられる。
【0058】
スピロ構造を有する短鎖ジオールの具体例としては、特開2009−96798号公報段落[0064]に記載の各種化合物を挙げることができる。これらの中でも、好ましいものとしては、ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンが挙げられる。
【0059】
ポリウレタン樹脂の重合反応
前記放射線硬化性ポリウレタン樹脂は、イソシアネート化合物とポリオール化合物とのウレタン化反応により得ることができる。原料化合物を溶剤(重合溶媒)に溶解し、必要に応じて加熱、加圧、窒素置換等を行うことによりウレタン化反応を進行させることができる。ウレタン化反応のための反応温度、反応時間等の反応条件は、ウレタン化反応のための通常の反応条件を採用することができる。
【0060】
前述のように、上記イソシアネート化合物、ポリオール化合物は、好ましくは少なくとも一方が放射線硬化性官能基を含有する。イソシアネート化合物とポリオール化合物の少なくとも一方が放射線硬化性官能基を含有する場合、イソシアネート化合物とポリオール化合物は、前記成分C、Dから選ばれる化合物の少なくとも一種の存在下で反応させることが好ましい。これによりウレタン化反応時に放射線硬化性官能基による硬化反応の進行(放射線照射前の硬化反応の進行)を抑制することができる。ウレタン化反応時に添加する化合物としては、成分C、Dのいずれでもよいが、成分Cが好ましい。ウレタン化反応時に成分Cを添加する場合には、ウレタン化反応後に反応生成物(放射線硬化性ポリウレタン樹脂)を含む樹脂組成物に成分Dを添加することが好ましい。これにより硬化性を維持しつつ樹脂組成物の保存安定性を長時間維持することができる。また、ウレタン化反応は、重合触媒の存在下で行うことが好ましい。重合触媒としては公知のポリウレタン樹脂の重合触媒を使用することができ、第三級アミン触媒、有機スズ触媒等を例示できる。第三級アミン触媒としては、ジエチレントリアミン、N−メチルモルホリン、およびテトラメチルヘキサメチレンジアミンを例示でき、有機スズ触媒としては、ジブチルスズジラウレート、スズオクトエートを例示できる。本発明において、触媒として有機スズ触媒を使用することが好ましい。触媒の添加量は、重合に使用する原料化合物の全質量に対して例えば0.01〜5質量部、好ましくは0.01〜1質量部、さらに好ましくは0.01〜0.1質量部である。
【0061】
重合溶媒としては、ポリウレタン樹脂の合成に使用されている公知の溶剤から選択することができ、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル等のエステル系溶媒、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、シクロヘキサンが挙げられる。本発明の樹脂組成物は、溶媒として、上記重合溶媒として使用される溶剤を含むことができる。特に、磁気記録媒体形成用塗布液に広く使用されているメチルエチルケトン、シクロヘキサンノンまたはこれらの混合溶媒を含むことが好ましい。これら溶媒を含む組成物は、そのまままたは任意に添加剤を添加することにより磁気記録媒体形成用塗布液として使用することができる。
また、ポリウレタン合成後に放射線硬化性官能基を側鎖に導入する際には、放射線硬化性官能基を含有する化合物とポリウレタンとの反応を、前記成分C、Dから選ばれる化合物の少なくとも一種の存在下で行うことが好ましい。この場合に反応に添加する化合物としては、成分Cが好ましく、放射線硬化性極性基をポリウレタンに導入するための反応後、反応生成物(放射線硬化性ポリウレタン樹脂)を含む樹脂組成物に成分Dを添加することが好ましい。
【0062】
放射線硬化性ポリウレタン樹脂
(a)平均分子量
本発明の樹脂組成物に含まれる放射線硬化性ポリウレタン樹脂または前記原料化合物の反応により得られる放射線硬化性ポリウレタン樹脂は、質量平均分子量が1万以上50万以下(本発明において、「1万以上50万以下」を、「1万〜50万」とも記載することとする。以下、同様。)であることが好ましく、1万〜40万であることがより好ましく、1万〜30万であることがさらに好ましい。質量平均分子量が1万以上であれば、上記放射線硬化性ポリウレタン樹脂を結合剤として形成された塗布層の保存性が良好であり好ましい。また、質量平均分子量が50万以下であれば、良好な分散性が得られるので好ましい。
【0063】
例えば、グリコール由来のOH基とジイソシアネート由来のNCO基のモル比の微調整や反応触媒を用いることで質量平均分子量を所望の範囲に調整することができる。また、反応時の固形分濃度、反応温度、反応溶媒、反応時間等を調整することでも質量平均分子量を調整することができる。
【0064】
前記放射線硬化性ポリウレタン樹脂の分子量分布(Mw/Mn)は1.00〜5.50であることが好ましい。より好ましくは1.01〜5.40である。分子量分布が5.50以下であれば、組成分布が少なく、良好な分散性が得られるので好ましい。
【0065】
(b)ウレタン基濃度
前記放射線硬化性ポリウレタン樹脂のウレタン基濃度は2.0mmol/g〜5.0mmol/gであることが好ましく、2.1mmol/g〜4.5mmol/gであることがさらに好ましい。
ウレタン基濃度が2.0mmol/g以上であれば、ガラス転移温度(Tg)が高く良好な耐久性を有する塗膜を形成することができ、また、分散性も良好であり好ましい。また、ウレタン基濃度が5.0mmol/g以下であれば、良好な溶剤溶解性が得られ、ポリオール含有量の調整が可能であり、分子量のコントロールが容易であるので好ましい。
【0066】
(c)ガラス転移温度
前記放射線硬化性ポリウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg)は、10℃〜180℃であることが好ましく、10℃〜170℃であることがより好ましい。ガラス転移温度が10℃以上であれば、放射線硬化により高強度の塗膜を形成することができ、耐久性、保存性に優れた塗膜を得ることができるため好ましい。また、本発明の樹脂組成物を磁気記録媒体用塗布液として使用する際、含有される放射線硬化性ポリウレタン樹脂のガラス転移温度が180℃以下であれば、放射線硬化後にカレンダー処理をする場合でもカレンダー成形性が良好であり、電磁変換特性が良好な磁気記録媒体が得られるため好ましい。上記放射線硬化性ポリウレタン樹脂を放射線硬化することにより形成される塗膜のガラス転移温度(Tg)は、30℃〜200℃であることが好ましく、40℃〜160℃であることがより好ましい。ガラス転移温度が30℃以上であれば、良好な塗膜強度が得られ、耐久性、保存性が向上するので好ましい。また、磁気記録媒体において塗膜のガラス転移温度が200℃以下であれば、カレンダー成形性が良好であり、電磁変換特性が良好であるので好ましい。
【0067】
(d)極性基含有量
前記放射線硬化性ポリウレタン樹脂は、前述のように極性基を含有することが好ましい。
前記放射線硬化性ポリウレタン樹脂中の極性基の含有量は、1.0mmol/kg〜3500mmol/kgであることが好ましく、1.0mmol/kg〜3000mmol/kgであることがより好ましく、1.0mmol/kg〜2500mmol/kgであることが更に好ましい。
極性基の含有量が1.0mmol/kg以上であれば、磁性体への十分な吸着力を得ることができ、分散性が良好であるので好ましい。また、3500mmol/kg以下であれば、良好な溶剤への溶解性が得られるので好ましい。極性基としては、スルホン酸(塩)基が好ましい。先に説明したように、一般式(1)で表されるスルホン酸(塩)基含有ポリオール化合物を原料化合物として使用することにより、極性基としてスルホン酸(塩)基を含有する放射線硬化性ポリウレタン樹脂を得ることができる。また、他の極性基としては、ヒドロキシアルキル基、カルボン酸(塩)基、硫酸(塩)基、燐酸(塩)基等を挙げることができ、−OSO3M’、−PO3M’2、−COOM’、−OHが好ましい。この中でも、−OSO3M’がさらに好ましい。M’は、水素原子または1価のカチオンを表す。1価のカチオンとしては、アルカリ金属またはアンモニウムを例示できる。
【0068】
(e)水酸基含有量
前記放射線硬化性ポリウレタン樹脂には、水酸基(OH基)が含まれていてもよい。含まれるOH基の個数は1分子あたり1〜100000個が好ましく、1〜10000個がより好ましい。OH基の個数が上記範囲内であれば、溶剤への溶解性が向上するので分散性が良好となる。
【0069】
(f)放射線硬化性官能基含有量
前記放射線硬化性ポリウレタン樹脂が有する放射線官能基の詳細は、先に説明した通りである。その含有量は、1.0mmol/kg〜4000mmol/kgであることが好ましく、1.0mmol/kg〜3000mmol/kgであることがより好ましく、1.0mmol/kg〜2000mmol/kgであることがさらに好ましい。放射線硬化性官能基の含有量が1.0mmol/kg以上であれば、放射線硬化により高い強度を有する塗膜を形成できるので好ましい。また、放射線硬化性官能基の含有量が4000mmol/kg以下であれば、放射線硬化後にカレンダー処理をする場合でもカレンダー成形性が良好であり、本発明の樹脂組成物を磁気記録媒体形成用塗布液として使用することにより電磁変換特性が良好な磁気記録媒体が得られるので好ましい。本発明によれば、例えば上記好適な含有量で放射線硬化性官能基を含む放射線硬化性ポリウレタン樹脂の硬化性を損なうことなく、長期保存安定性を高めることができる。
【0070】
(ii)成分C(フェノール化合物)
成分Cであるフェノール化合物としては、ヒドロキシフェニル基を有する化合物であれば特に限定されるものではない。ヒドロキシフェニル基は置換基を有していてもよい。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、水酸基等が挙げられる。また、前記フェノール化合物は、置換または無置換のヒドロキシベンゼン骨格を複数個有する(ポリフェノール系化合物)であることもできる。ポリフェノール系化合物としては、特に限定されないが、入手性、効果の観点からビスフェノールA、イルガキュア1010(チバスペシャリティケミカルズ社製)等が好ましい。成分Cとしてのフェノール化合物の好ましい例としては、p−メトキシフェノール、ハイドロキノン、ポリフェノール系化合物、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール等が挙げられる。成分Cとしては、フェノール化合物を一種単独で使用してもよく、二種以上のフェノール化合物を併用してもよい。
【0071】
(iii)成分D
成分Dは、ピペリジン−1−オキシル化合物、ニトロ化合物、ベンゾキノン化合物およびフェノチアジン化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物である。成分Dは、上記化合物から選ばれる少なくとも一種であればよく、二種以上を併用することもできる。成分Dとしては、長期保存安定性と硬化性のバランスを取る観点から、ピペリジン−1−オキシル化合物、ニトロ化合物、ベンゾキノン化合物が好ましく、ピペリジン−1−オキシル化合物がより好ましい。
以下、成分Dとして使用される各化合物について順次説明する。
【0072】
1.ピペリジン−1−オキシル化合物
本発明においてピペリジン−1−オキシル化合物とは、以下のピペリジン−1−オキシル骨格を有する化合物を意味する。
【0073】
【化15】

【0074】
ピペリジン−1−オキシル化合物としては、置換基を有するピペリジン−1−オキシル骨格を含むものでもよく、無置換のピペリジン−1−オキシル化合物でもよい。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、シアノ基、水酸基、イソチオシアネート基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニルアミノ基、アリールカルボニルオキシ基、ピペリジン環炭素を含むカルボニル基等の下記例示化合物に含まれる置換基等が挙げられる。また、ピペリジン−1−オキシル化合物としてはピペリジン−1−オキシル骨格を1つ有するものを使用してもよく2つ以上有するものと使用してもよい。好ましいピペリジン−1−オキシル化合物としては、以下の例示化合物(1-a)〜(1-l)を挙げることができる。中でも例示化合物(1-f)、(1-j)、(1-l)、(1-b)、(1-k)が好ましく、(1-f)、(1-j)、(1-l)、(1-b)がより好ましく、(1-f)、(1-j)、(1-l)が更に好ましい。
【0075】
【化16】

【0076】
2.ニトロ化合物
ニトロ化合物としては、R−NO2で表されるニトロ基を有する化合物であれば特に限定されるものではない。上記においてR部は、例えばアリール基(好ましくは炭素数6〜10のアリール基、例えばフェニル基)、アルキル基(好ましくは、炭素数1〜12のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、直鎖または分岐のブチル基、直鎖または分岐のアミル基、直鎖または分岐のヘキシル基、直鎖または分岐のヘプチル基、直鎖または分岐のオクチル基、直鎖または分岐のノニル基、直鎖または分岐のデシル基、直鎖または分岐のウンデシル基、直鎖または分岐のドデシル基であり、ヘテロ原子を含んでいてもよい)である。ニトロ化合物としては、入手性の観点から、ニトロベンゼン、ニトロメタン等が好ましい。
【0077】
3.ベンゾキノン化合物
ベンゾキノン化合物とは、ベンゾキノン骨格を含む化合物であり、含まれるベンゾキノン骨格は、以下に示すo−ベンゾキノン骨格であってもp−ベンゾキノン骨格であってもよい。
【0078】
【化17】

【0079】
ベンゾキノン化合物としては、入手性の観点から、p−ベンゾキノン骨格を有する化合物が好ましい。ベンゾキノン化合物にベンゾキノン骨格は、無置換であっても置換基を有していてもよい。置換基としては、(置換基を有していてもよい)アルキル基、アルコキシル基、水酸基、ハロゲン原子、アリール基、シアノ基、ニトロ基、等の下記例示化合物に含まれる置換基等が挙げられる。また、ベンゾキノン化合物としてはベンゾキノン骨格を1つ有するものを使用してもよく2つ以上有するものと使用してもよい。好ましいベンゾキノン化合物としては、下記例示化合物を挙げることができる。
【0080】
【化18】


【0081】
4.フェノチアジン化合物
フェノチアジン化合物とは、以下に示すフェノチアジン骨格を有する化合物を意味する。
【0082】
【化19】

【0083】
フェノチアジン化合物に含まれるフェノチアジン骨格は、無置換であっても置換基を有していてもよい。置換基としては、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアミノ基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アシル基、アリールカルボニル基、トリハロメチル基等の下記例示化合物に含まれる置換基が挙げられる。
【0084】
フェノチアジン化合物としてはフェノチアジン骨格を1つ有するものを使用してもよく2つ以上有するものと使用してもよい。好ましいフェノチアジン化合物としては、下記例示化合物(4-a)〜(4-g)を挙げることができる。なかでも例示化合物(4-b)、(4-c)、(4-d)、(4-e)、(4-f)、(4-g)が好ましく、(4-b)、(4-c)、(4-d)、(4-e)、(4-f)がより好ましく、(4-c)、(4-d)、(4-e)、(4-f)がさらに好ましい。
【0085】
【化20】

【0086】
本発明の樹脂組成物における成分Cの含有量(複数種の化合物を使用する場合にはそれらの合計量)は、長期保存安定性と硬化性を両立する観点から、放射線硬化性ポリウレタン樹脂の固形分(原料化合物を含む樹脂組成物においては反応が100%進行した際に得られるポリウレタン固形分換算。以下同様。)に対し、1ppm以上500000ppm以下が好ましく、1ppm以上400000ppm以下がより好ましく、1ppm以上300000ppm以下が更に好ましく、500ppm以上100000ppm以下が特に好ましい。
一方、本発明の樹脂組成物における成分Dの含有量(複数種の化合物を使用する場合にはそれらの合計量)は、長期保存安定性と硬化性を両立する観点から、放射線硬化性ポリウレタン樹脂の固形分に対し1ppm以上500000ppm以下が好ましく、1ppm以上400000ppm以下がより好ましく、1ppm以上300000ppm以下が更に好ましく、1ppm以上500ppm以下が特に好ましい。
また、本発明の樹脂組成物における固形分濃度は特に限定されるものではないが、10質量%以上であることが好ましく固形分100%であってもよいが、保存安定性と取り扱いの容易性の点から固形分濃度は10〜80質量%程度がより好ましく、20〜60質量%程度が更に好ましい。
【0087】
成分C、Dは、放射線硬化性ポリウレタン樹脂またはその原料化合物を含む組成物に同時に添加してもよく順次添加してもよい。放射線硬化性ポリウレタン樹脂の合成反応時にある成分を添加し、合成反応後、他の成分を添加することが好ましい。合成反応中に添加される成分は、放射線照射時の硬化性を損なわずに合成中に放射線硬化性官能基が反応することを抑制する役割を果たし、合成後に添加される成分は合成中に添加された成分とともに、放射線照射時の硬化性を損なわずに保存安定性を高める役割を果たすと考えられる。合成中に添加する成分としては、成分Cおよび成分D中のニトロ化合物が好ましく、合成後に添加される成分としては成分Dが好ましい。
【0088】
以上説明した本発明の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物に含まれる各種成分は、公知の方法または前述の方法により合成することができる。また市販品として入手可能なものもある。
【0089】
[放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物の製造方法]
更に本発明は、前記した成分Aと成分B(少なくとも一方は放射線硬化性官能基を含む)を成分Cの存在下で反応させることを含む、本発明の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物の製造方法に関する。本発明の製造方法では、成分Cの存在下で成分Aと成分Bとを反応させて得られた反応生成物(放射線硬化性ポリウレタン樹脂)に成分Dを混合することが好ましい。これによりウレタン化反応時に放射線硬化性官能基が反応することを抑制したうえで、放射線照射による硬化性を損なうことなく放射線硬化性ポリウレタン樹脂の長期保存安定性を高めることができる。
本発明の製造方法の詳細は、先に説明した通りである。また具体的態様については後述の実施例も参照できる。本発明の製造方法は、本発明の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物を製造する方法として好適であるが、前述のように、本発明の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物は、上記製造方法によって得られるものに限定されるものではない。
【0090】
[ポリウレタン樹脂]
更に本発明は、本発明の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物を放射線硬化することによって得られたポリウレタン樹脂に関する。硬化反応のために照射する放射線として、例えば、電子線や紫外線を用いることができる。電子線を使用する場合は、重合開始剤が不要である点で好ましい。放射線照射は公知の方法で行うことができ、その詳細については、例えば特開2009−1348389号公報段落[0021]〜[0023]等を参照できる。また、放射線硬化装置や放射線照射硬化の方法などについては、「UV・EB硬化技術」((株)総合技術センター発行)や「低エネルギー電子線照射の応用技術」(2000、(株)シーエムシー発行)などに記載されているような公知技術を用いることができる。
【0091】
[磁気記録媒体]
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体上に、強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、本発明の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物を含む塗布層を放射線硬化することによって得られた放射線硬化層を少なくとも一層有するものである。
上記放射線硬化層は、例えば磁性層であることができる。または本発明の磁気記録媒体が、非磁性支持体と磁性層との間に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層を有する場合には、磁性層および/または非磁性層が上記放射線硬化層であることができる。
本発明の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物は、長期保存中のポリウレタン樹脂の分子量変化等による経時変化が少なく安定な状態であり、かつ長期保存後も硬化性が良好に維持され得る。したがって、本発明の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物を長期保存した後に上記塗布層を形成したとしても、放射線照射によって硬化反応を良好に進行させ高強度な放射線硬化層を形成することができる。
以下、本発明の磁気記録媒体について、更に詳細に説明する。
【0092】
結合剤
磁性層、非磁性層に含まれる結合剤としては、本発明の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物を放射線硬化することによって得られた、本発明のポリウレタン樹脂を挙げることができる。更に、磁性層、非磁性層に含まれる結合剤としては、本発明の放射線硬化性ポリウレタン樹脂とともに他の結合剤を併用することもできる。併用する結合剤としては、本発明のポリウレタン樹脂を除くポリウレタン樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレートなどを共重合したアクリル系樹脂、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアルキラール樹脂などを挙げることができる。また、本発明の磁気記録媒体が、本発明のポリウレタン樹脂を含まない層を有する場合、該層において使用される結合剤としても、上記結合剤を挙げることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、塩化ビニル系樹脂である。本発明の磁気記録媒体において使用可能な結合剤樹脂の詳細については、特開2009−96798号公報段落[0081]〜[0094]を参照できる。
【0093】
結合剤の含有量は磁性層の場合、強磁性粉末の充填度と磁性層の強度を両立する観点から、強磁性粉末100質量部に対して、5質量部以上30質量部以下であることが好ましく、10質量部以上20質量部以下であることがより好ましい。また、結合剤として本発明のポリウレタン樹脂を含む層においては、本発明のポリウレタン樹脂が結合剤全体の50重量%以上を占めることが好ましく、60〜100重量%を占めることがより好ましく、70〜100重量%を占めることが更に好ましい。非磁性層における結合剤使用量についても上記と同様である。
【0094】
磁性層
(i)強磁性粉末
本発明の磁気記録媒体は、磁性層に結合剤とともに強磁性粉末を含む。強磁性粉末としては、針状強磁性体、平板状磁性体、または球状もしくは楕円状磁性体を使用することができる。高密度記録化の観点から、針状強磁性体の平均長軸長は、20nm以上50nm以下であることが好ましく、20nm以上45nm以下であることがより好ましい。平板状磁性体の平均板径は、六角板径で10nm以上50nm以下であることが好ましい。磁気抵抗ヘッドで再生する場合は、低ノイズにする必要があり、板径は40nm以下であることが好ましい。板径が上記範囲であれば、熱揺らぎがなく安定な磁化が望める。また、ノイズも低くなるため高密度磁気記録に適する。球状もしくは楕円状磁性体は、高密度記録化の観点から、平均直径が10nm以上50nm以下であることが好ましい。
上記のような微粒子状の強磁性体の分散性を高めるためには、前述のように極性基を含有する結合剤を使用することが好ましい。この点から、例えば前記一般式(1)で表されるポリオール化合物を原料化合物として得られた放射線硬化性ポリウレタン樹脂を結合剤として使用することが好ましい。
【0095】
上記強磁性粉末の平均粒子サイズは、以下の方法により測定することができる。
強磁性粉末を、日立製透過型電子顕微鏡H−9000型を用いて粒子を撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントして粒子写真を得る。粒子写真から目的の磁性体を選びデジタイザーで粉体の輪郭をトレースしカールツァイス製画像解析ソフトKS−400で粒子のサイズを測定する。500個の粒子のサイズを測定する。上記方法により測定される粒子サイズの平均値を強磁性粉末の平均粒子サイズとする。
【0096】
なお、本発明において、磁性体等の粉体のサイズ(以下、「粉体サイズ」と言う)は、(1)粉体の形状が針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粉体を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、(2)粉体の形状が板状乃至柱状(ただし、厚さ乃至高さが板面乃至底面の最大長径より小さい)場合は、その板面乃至底面の最大長径で表され、(3)粉体の形状が球形、多面体状、不特定形等であって、かつ形状から粉体を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
また、該粉体の平均粉体サイズは、上記粉体サイズの算術平均であり、500個の一次粒子について上記の如く測定を実施して求めたものである。一次粒子とは、凝集のない独立した粉体をいう。
【0097】
また、該粉体の平均針状比は、上記測定において粉体の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粉体の(長軸長/短軸長)の値の算術平均を指す。ここで、短軸長とは、上記粉体サイズの定義で(1)の場合は、粉体を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚さ乃至高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、粉体の形状が特定の場合、例えば、上記粉体サイズの定義(1)の場合は、平均粉体サイズを平均長軸長と言い、同定義(2)の場合は平均粉体サイズを平均板径と言い、(最大長径/厚さ乃至高さ)の算術平均を平均板状比という。同定義(3)の場合は平均粉体サイズを平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)という。
【0098】
以上説明した各磁性体については、特開2009−96798号公報段落[0097]〜[0110]に詳細に記載されている。
【0099】
(ii)添加剤
磁性層には、必要に応じて添加剤を加えることができる。添加剤としては、研磨剤、潤滑剤、分散剤・分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、溶剤などを挙げることができる。上記添加剤の具体例等の詳細については、例えば特開2009−96798号公報段落[0111]〜[0115]を参照できる。
【0100】
また、磁性層には、必要に応じてカーボンブラックを添加することができる。磁性層で使用可能なカーボンブラックとしては、ゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を挙げることができる。カーボンブラックの比表面積は好ましくは100〜500m2/g、より好ましくは150〜400m2/g、DBP吸油量は好ましくは20〜400ml/100g、より好ましくは30〜200ml/100gである。カーボンブラックの粒子径は、好ましくは5〜80nm、より好ましく10〜50nm、さらに好ましくは10〜40nmである。カーボンブラックのpHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlがそれぞれ好ましい。磁性層で使用できるカーボンブラックについては、例えば「カーボンブラック便覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。それらは市販品として入手可能である。
【0101】
本発明で使用されるこれらの添加剤は、磁性層、さらに後述する非磁性層でその種類、量を必要に応じて使い分けることができる。また本発明で用いられる添加剤のすべてまたはその一部は、磁性層または非磁性層用の塗布液の製造時のいずれの工程で添加してもよい。例えば、混練工程前に強磁性粉末と混合する場合、強磁性粉末と結合剤と溶剤による混練工程で添加する場合、分散工程で添加する場合、分散後に添加する場合、塗布直前に添加する場合などがある。
【0102】
非磁性層
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体と磁性層との間に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層を有していてもよい。走行耐久性を高めるためには、前記放射線硬化層として非磁性層を形成することが好ましい。
【0103】
上記非磁性粉末は、無機物質でも有機物質でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物などが挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。
【0104】
具体的には二酸化チタン等のチタン酸化物、酸化セリウム、酸化スズ、酸化タングステン、ZnO、ZrO2、SiO2、Cr23、α化率90〜100%のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、α−酸化鉄、ゲータイト、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、2硫化モリブデン、酸化銅、MgCO3、CaCO3、BaCO3、SrCO3、BaSO4、炭化珪素、炭化チタンなどが単独または2種類以上を組み合わせて使用される。好ましいものは、α−酸化鉄、酸化チタンである。
【0105】
非磁性粉末の形状は、針状、球状、多面体状、板状のいずれでもあってもよい。
非磁性粉末の結晶子サイズは、4nm〜1μmが好ましく、40〜100nmがさらに好ましい。結晶子サイズが4nm〜1μmの範囲であれば、分散が困難になることもなく、また好適な表面粗さを有するため好ましい。
これら非磁性粉末の平均粒径は、5nm〜2μmが好ましい。5nm〜2μmの範囲であれば、分散も良好で、かつ好適な表面粗さを有するため好ましい。ただし必要に応じて平均粒径の異なる非磁性粉末を組み合わせたり、単独の非磁性粉末でも粒径分布を広くしたりして同様の効果をもたせることもできる。とりわけ好ましい非磁性粉末の平均粒径は、10〜200nmである。本発明の磁気記録媒体に使用可能な非磁性粉末の詳細については、特開209−96798号公報段落[0123]〜[0132]を参照できる。
【0106】
非磁性層には非磁性粉末と共に、カーボンブラックを混合し表面電気抵抗を下げ、光透過率を小さくすると共に、所望のμビッカース硬度を得ることができる。非磁性層のμビッカース硬度は、通常25〜60kg/mm2、好ましくはヘッド当りを調整するために、30〜50kg/mm2であり、薄膜硬度計(日本電気(株)製 HMA−400)を用いて、稜角80度、先端半径0.1μmのダイヤモンド製三角錐針を圧子先端に用いて測定することができる。光透過率は一般に波長900nm程度の赤外線の吸収が3%以下、たとえばVHS用磁気テープでは0.8%以下であることが規格化されている。このためにはゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を用いることができる。
【0107】
本発明において、非磁性層に用いられるカーボンブラックの比表面積は好ましくは100〜500m2/g、更に好ましくは150〜400m2/g、DBP吸油量は好ましくは20〜400ml/100g、更に好ましくは30〜200ml/100gである。カーボンブラックの粒子径は好ましくは5〜80nm、より好ましく10〜50nm、更に好ましくは10〜40nmである。カーボンブラックのpHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlがそれぞれ好ましい。非磁性層で使用できるカーボンブラックについては、例えば「カーボンブラック便覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。それらは市販品として入手可能である。
【0108】
また非磁性層には目的に応じて有機質粉末を添加することもできる。このような有機質粉末としては、例えば、アクリルスチレン系樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、メラミン系樹脂粉末、フタロシアニン系顔料が挙げられるが、ポリオレフィン系樹脂粉末、ポリエステル系樹脂粉末、ポリアミド系樹脂粉末、ポリイミド系樹脂粉末、ポリフッ化エチレン樹脂も使用することができる。その製法は、特開昭62−18564号公報、特開昭60−255827号公報に記されているようなものが使用できる。
【0109】
非磁性層の結合剤樹脂、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他は、磁性層のそれが適用できる。特に、結合剤樹脂量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関しては磁性層に関する公知技術が適用できる。
【0110】
非磁性支持体
本発明に用いることのできる非磁性支持体としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドが好ましい。
これらの支持体はあらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理などを行ってもよい。また、本発明に用いることのできる非磁性支持体の表面粗さはカットオフ値0.25mmにおいて中心平均粗さRa3〜10nmであることが好ましい。
【0111】
平滑化層
本発明の磁気記録媒体には、平滑化層を設けてもよい。平滑化層とは、非磁性支持体表面の突起を埋めるための層であり、非磁性支持体上に磁性層を設けた磁気記録媒体の場合は非磁性支持体と磁性層の間、非磁性支持体上に非磁性層および磁性層をこの順に設けた磁気記録媒体の場合には非磁性支持体と非磁性層の間に設けることができる。
平滑化層は、放射線硬化性化合物を放射線照射により硬化させて形成することができる。
放射線硬化性化合物とは、紫外線または電子線などの放射線を照射すると重合または架橋を開始し、高分子化して硬化する性質を有する化合物をいう。上記平滑化層を形成するために、本発明の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物を使用することもできる。
【0112】
バックコート層
一般に、コンピュータデータ記録用の磁気テープは、ビデオテープ、オーディオテープに比較して繰り返し走行性が強く要求される。このような高い保存安定性を維持させるために、非磁性支持体の磁性層が設けられた面とは反対の面にバックコート層を設けることもできる。バックコート層用塗布液は、研磨剤、帯電防止剤などの粒子成分と結合剤とを有機溶媒に分散させることにより形成することができる。粒状成分として各種の無機顔料やカーボンブラックを使用することができる。また、結合剤としては、例えば、ニトロセルロース、フェノキシ樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン等の樹脂を単独またはこれらを混合して使用することができる。上記バックコート層を形成するために、本発明の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物を使用することも可能である。
【0113】
層構成
本発明の磁気記録媒体において、非磁性支持体の好ましい厚さは3〜80μmである。また、非磁性支持体と非磁性層または磁性層の間に上記平滑化層を設ける場合、平滑化層の厚さは例えば0.01〜0.8μm、好ましくは0.02〜0.6μmである。また、上記バックコート層の厚さは、例えば0.1〜1.0μm、好ましくは0.2〜0.8μmである。
【0114】
磁性層の厚さは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化されるものであるが、一般には0.01〜0.10μm以下であり、好ましくは0.02μm以上0.08μm以下であり、さらに好ましくは0.03〜0.08μmである。また、磁性層の厚さ変動率は±50%以内が好ましく、さらに好ましくは±40%以内である。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。
【0115】
非磁性層の厚さは、0.2〜3.0μmであることが好ましく、0.3〜2.5μmであることがより好ましく、0.4〜2.0μmであることがさらに好ましい。なお、本発明の磁気記録媒体の非磁性層は、実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば不純物として、あるいは意図的に少量の磁性体を含んでいても、本発明の効果を示すものであり、本発明の磁気記録媒体と実質的に同一の構成とみなすことができる。なお、実質的に同一とは、非磁性層の残留磁束密度が10mT(100G)以下または抗磁力が7.96kA/m(100 Oe)以下であることを示し、好ましくは残留磁束密度と抗磁力を持たないことを意味する。
【0116】
製造方法
磁性層、非磁性層等の各層を形成するための塗布液を製造する工程は、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなることが好ましい。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。本発明で用いられる強磁性粉末、非磁性粉末、結合剤、カーボンブラック、研磨剤、帯電防止剤、潤滑剤、溶剤などすべての原料はどの工程の最初または途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、ポリウレタンを混練工程、分散工程、分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。また、本発明の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物に、上記原料を同時または逐次添加することにより、塗布液を製造することもできる。例えば強磁性粉末、非磁性粉末等の粉末成分をニーダにより解砕した後、本発明の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物(更に任意に併用される他の結合剤成分)を添加して混練工程を行い、この混練物に各種添加剤を添加し分散工程を行うことにより塗布液を調製することができる。
【0117】
各層形成用塗布液を調製するためには、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダなど強い混練力をもつものを使用することが好ましい。ニーダを用いる場合は、強磁性粉末または非磁性粉末100質量部に対して15〜500質量部の結合剤(但し、全結合剤の30質量%以上が好ましい)を使用して混練処理することが好ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報、特開平1−79274号公報に記載されている。また、磁性層用塗布液および非磁性層用塗布液を分散させるには、ガラスビーズを用いることができる。ガラスビーズ以外には、高比重の分散メディアであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズが好適である。これら分散メディアの粒径と充填率は最適化して用いられる。分散機は公知のものを使用することができる。
【0118】
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、例えば、走行下にある非磁性支持体の表面に、非磁性層塗布液を所定の膜厚となるように塗布して非磁性層を形成し、次いでその上に、磁性層塗布液を所定の膜厚となるようにして磁性層を塗布して形成する。複数の磁性層塗布液を逐次または同時に重層塗布してもよく、非磁性層塗布液と磁性層塗布液とを逐次または同時に重層塗布してもよい。下層の非磁性層用塗布液と上層の磁性層用塗布液とを逐次で重層塗布する場合には、磁性層塗布液に含まれる溶剤に非磁性層が一部溶解する場合がある。ここで非磁性層を放射線硬化層とすれば、放射線照射により非磁性層中で放射線硬化性成分が重合・架橋し高分子量化が生じるため、磁性層塗布液に含まれる溶剤への溶解を抑制ないしは低減することができる。したがって、下層の非磁性層用塗布液と上層の磁性層用塗布液とを逐次で重層塗布する場合には、上層の磁性層用塗布液を塗布する前に放射線照射を行い、硬化した非磁性層上に磁性層を形成することが好ましい。この場合に使用される非磁性層塗布液は、本発明の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物を用いて調製することが好ましい。
【0119】
上記磁性層塗布液または非磁性層塗布液を塗布する塗布機としては、エアードクターコート、ブレードコート、ロッドコート、押出しコート、エアナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビヤコート、キスコート、キャストコート、スプレイコート、スピンコート等が利用できる。これらについては例えば(株)総合技術センター発行の「最新コーティング技術」(昭和58年5月31日)を参考にできる。放射線硬化層を形成する際には、塗布液を塗布して形成した塗布層を放射線照射によって放射線硬化させる。放射線照射処理の詳細は、前述の通りである。また、塗布工程後の媒体には、磁性層の配向処理、表面平滑化処理(カレンダー処理)、熱収縮低減のための熱処理等の各種の後処理を施すことができる。それらの処理の詳細については、例えば特開2009−96798号公報段落[0146]〜[0148]を参照できる。得られた磁気記録媒体は、裁断機、打抜機などを使用して所望の大きさに裁断して使用することができる。
【0120】
物理特性
本発明の磁気記録媒体の磁性層の飽和磁束密度は、100〜300T・m(1,000〜3,000G)であることが好ましい。また磁性層の抗磁力(Hr)は、143.3〜318.4kA/m(1,800〜4,000Oe)であることが好ましく、より好ましくは159.2〜278.6kA/m(2,000〜3,500Oe)である。抗磁力の分布は狭い方が好ましく、SFDおよびSFDrは0.6以下であることが好ましく、0.2以下であることが更に好ましい。
【0121】
本発明の磁気記録媒体のヘッドに対する摩擦係数は、温度−10〜40℃、湿度0〜95%の範囲において0.5以下であることが好ましく、より好ましくは0.3以下である。また、帯電位は−500〜+500V以内が好ましい。磁性層の0.5%伸びでの弾性率は、面内各方向で好ましくは0.98〜19.6GPa(100〜2,000kg/mm2)、破断強度は、好ましくは98〜686MPa(10〜70kg/mm2)、磁気記録媒体の弾性率は、面内各方向で好ましくは0.98〜14.7GPa(100〜1,500kg/mm2)、残留のびは、好ましくは0.5%以下、100℃以下のあらゆる温度での熱収縮率は、好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下、最も好ましくは0.1%以下である。
【0122】
磁性層および非磁性層のガラス転移温度(110Hzで測定した動的粘弾性測定の損失弾性率の極大点)は、前述の塗膜のガラス転移温度の好ましい範囲として記載した範囲内にあることが好ましい。損失弾性率は1×107〜8×108Pa(1×108〜8×109dyne/cm2)の範囲にあることが好ましく、損失正接は0.2以下であることが好ましい。損失正接が大きすぎると粘着故障が発生しやすい。これらの熱特性や機械特性は媒体の面内各方向において10%以内でほぼ等しいことが好ましい。
磁性層中に含まれる残留溶媒は好ましくは100mg/m2以下、さらに好ましくは10mg/m2以下である。塗布層が有する空隙率は非磁性層、磁性層とも好ましくは30容量%以下、さらに好ましくは20容量%以下である。空隙率は高出力を果たすためには小さい方が好ましいが、目的によってはある値を確保した方がよい場合がある。例えば、繰り返し用途が重視されるディスク媒体では空隙率が大きい方が保存安定性は好ましいことが多い。
【0123】
放射線硬化性樹脂は、放射線照射により重合乃至架橋して高分子化して硬化する性質を有する。前記硬化反応は、放射線照射により進行するため、放射線硬化性樹脂を含む塗布液は比較的低粘度であり放射線を照射しない限り粘度が安定している。そのため、塗布層を硬化処理するまでの間に、レベリング効果により支持体表面の粗大突起を遮蔽(マスキング)することができる。したがって、放射線硬化層を形成することにより表面平滑性が高く高密度記録再生特性に優れた磁気記録媒体を得ることができる。また前述のように結合剤成分として極性基を含有する結合剤を使用することにより、強磁性粉末等の粉末成分の分散性を高めることも磁性層の表面平滑性向上に寄与し得る。ただし長期保存中に放射線硬化性樹脂の分子量変化が顕著に発生すると、上記レベリング効果を良好に得ることが困難となり磁性層の表面平滑性低下の原因となる。これに対し本発明の樹脂組成物は、長期保存安定性に優れるため、長期保存後に使用した場合であっても表面平滑性の高い磁性層を形成することが可能である。他方、長期保存安定性と硬化性が両立されていないと、優れた表面平滑性が得られたとしても媒体の耐久性は低下する。これに対し本発明の樹脂組成物は、上記の通り長期間安定に保存可能であるとともに、長期保存後も良好な硬化性を示すことができる。
また、前述の様に、下層の非磁性層用塗布液と上層の磁性層用塗布液とを逐次で重層塗布する場合には、磁性層塗布液に含まれる溶剤に非磁性層が一部溶解する場合がある。ここで非磁性層を放射線硬化層とすれば、磁性層塗布液による非磁性層の溶解を抑制ないしは低減することができる。この結果、非磁性層の溶解に起因する磁性層表面の平滑性低下を抑制することができる。
このように本発明の樹脂組成物を磁気記録媒体形成用塗布液に使用することは、表面平滑性および耐久性に優れた磁気記録媒体が得られる点で有利であり、かつ樹脂組成物(塗布液)を一度に大量に調製し長期保存することが可能となるため生産性向上にも寄与し得る。
【0124】
本発明の磁気記録媒体において、デジタルオプチカルプロフィメーター(WYKO社製TOPO−3D)を用いて測定した磁性層の中心面表面粗さRaは4.0nm以下であることが好ましく、より好ましくは3.0nm以下であり、さらに好ましくは2.0nm以下である。磁性層の最大高さSRmaxは、0.5μm以下、十点平均粗さSRzは0.3μm以下、中心面山高さSRpは0.3μm以下、中心面谷深さSRvは0.3μm以下、中心面面積率SSrは20〜80%、平均波長Sλaは5〜300μmであることがそれぞれ好ましい。磁性層の表面突起は0.01〜1μmの大きさのものを0〜2,000個の範囲で任意に設定することが可能であり、これにより電磁変換特性、摩擦係数を最適化することが好ましい。これらは支持体のフィラーによる表面性のコントロールや磁性層に添加する粉末の粒径と量、カレンダー処理のロール表面形状などで容易にコントロールすることができる。カールは±3mm以内とすることが好ましい。
【0125】
本発明の磁気記録媒体における非磁性層と磁性層と間では、目的に応じ非磁性層と磁性層でこれらの物理特性を変えることができるのは容易に推定されることである。例えば、磁性層の弾性率を高くし保存安定性を向上させると同時に非磁性層の弾性率を磁性層より低くして磁気記録媒体のヘッドへの当りをよくすることができる。
【0126】
本発明の磁気記録媒体に磁気記録された信号を再生するヘッドについては特に制限はないが、高密度記録された信号を高感度再生するためには再生ヘッドとしてMRヘッドを使用することが好ましい。再生ヘッドとして使用されるMRヘッドには特に制限はなく、例えばAMRヘッド、GMRヘッドやTMRヘッドを用いることもできる。また、磁気記録に用いるヘッドは特に制限されないが、記録ヘッドの飽和磁化量は、高密度記録のために1.0T以上であることが好ましく、1.5T以上であることがより好ましい。
【0127】
[放射線硬化性ポリウレタン樹脂用保存安定剤]
本発明の放射線硬化性ポリウレタン樹脂用保存安定剤は、前記成分C(フェノール化合物)、ならびに、前記成分D(ピペリジン−1−オキシル化合物、ニトロ化合物、ベンゾキノン化合物およびフェノチアジン化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物)を含む。成分Cと成分Dを組み合わせることにより、放射線硬化性ポリウレタン樹脂の硬化性を損なうことなく、その保存安定性を高めることができる。例えば、放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物に成分C、Dを添加することにより、樹脂成分の分子量変化が低減ないしは抑制されることによって保存安定性が向上したことを確認することができる。
【0128】
本発明の保存安定剤は、成分Cおよび成分Dを含む全成分を1剤として含有する1剤式であってもよく、使用時に1剤と2剤とを同時または順次混合する2剤式または3剤以上の多剤式であってもよい。例えば、放射線硬化性ポリウレタン樹脂の原料化合物に対し、第1剤として成分Cを添加し、次いで重合反応後に成分Dを添加することができる。成分Cとして1種のフェノール化合物を使用することもでき、2種以上のフェノール化合物を使用することもできる。成分Dについても同様である。放射線硬化性ポリウレタン樹脂に対する成分C、Dの使用量については前述の通りである。
【実施例】
【0129】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし本発明は、実施例に示す態様に限定されるものではない。以下に示す「部」、「%」は、特に示さない限り質量部、質量%を示す。
【0130】
1.一般式(1)で表されるスルホン酸(塩)基含有ポリオール化合物の合成例
【0131】
(合成例−1)
スルホン酸(塩)基含有ジオール化合物(例示化合物(S−1))の合成
2−アミノエタンスルホン酸100部、水酸化リチウム1水和物33.5部を水250部に添加し、45℃、30分撹拌した。1,2−ブチレンオキシド156部を添加し、45℃でさらに2時間撹拌した。トルエン400部を添加し10分撹拌した後、静置して下層を分取した。得られた下層を固化・乾燥し、ビス(2−ヒドロキシブチル)アミノエタンスルホン酸のリチウム塩(S−1)を得た。(S−1)の1H NMRデータおよびその帰属を以下に示す。なお、以下に記載の1H NMRの測定には、400MHzのNMR(BRUKER社製AVANCEII−400)を使用した。
(S−1):1H NMR (D2O = 4.75 ppm) δ(ppm) = 3.68 (2H, m), 3.10 (2H, m), 2.59 (2H, m), 2.40 (4H, m), 1.45 (4H, m), 0.89 (6H, t).
【0132】
【化21】

【0133】
(合成例−2)
スルホン酸(塩)基含有ジオール化合物(例示化合物(S−2))の合成
(合成例−1)において、1,2−ブチレンオキシドの代わりにブチルグリシジルエーテルの使用した以外は、(合成例−1)と同様にして、ビス(2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロピル)アミノエタンスルホン酸のリチウム塩(S−2)を合成した。(S−2)の1H NMRデータおよびその帰属を以下に示す。
(S−2):1H NMR (D2O = 4.75 ppm) δ(ppm) = 3.84 (2H, m), 3.55-3.30 (8H, m), 3.38 (2H, m), 2.95 (4H, m), 2.51 (2H, m), 1.49 (4H, m), 1.27 (4H, m), 0.83 (6H, t).
【0134】
【化22】

【0135】
(合成例−3)
スルホン酸(塩)基含有ジオール化合物(例示化合物(S−31))の合成
フラスコに、蒸留水100ml、タウリン50g(0.400mol)、和光純薬製KOH 22.46g(純度87%)を添加し、内温を50℃に昇温して内容物を完全に溶解した。
次いで、内温を40℃に冷却し、ブチルグリシジルエーテル 140.4g(1.080mol)を30分かけて滴下した後、50℃に昇温して2時間攪拌した。溶液を室温まで冷却し、トルエン100ml添加して、分液し、トルエン層を廃棄した。次いで、シクロヘキサノン400ml添加し、110℃に昇温してディーンスタークで水を除去してスルホン酸(塩)基含有ジオール化合物(S−31)の50%シクロヘキサノン溶液を得た。生成物の1H NMRデータを以下に示す。NMR分析結果から、生成物は例示化合物(S−31)に加えて、例示化合物(S−64)等、その他の化合物も含む混合物であることが確認された。
1H NMR (CDCl3): δ(ppm) =4.5(br.), 3.95-3.80 (m), 3.50-3.30 (m),3.25-2.85 (m), 2.65-2.5 (m),2.45-2.35(m),1.6- 1.50 (5重線), 1.40-1.30 (6重線),1.00-0.90 (3重線).
【0136】
(合成例−4)
スルホン酸(塩)基含有ジオール化合物(例示化合物S−3))の合成
使用するエポキシドをスチレンオキシドに変えて(合成例−1)と同様の操作により目的物を得た。
【0137】
(合成例−5)
スルホン酸(塩)基含有ジオール化合物(例示化合物(S−7))の合成
m−アミノベンゼンスルホン酸スルホン酸100部、水酸化リチウム1水和物24部を水250部に添加し、45℃、30分撹拌した。1,2−ブチレンオキシド112部を添加し、45℃でさらに2時間撹拌した。トルエン400部を添加し10分撹拌した後、静置し下層を分取した。得られた下層を固化・乾燥し、目的物を得た。
【0138】
(合成例−6)
スルホン酸(塩)基含有ジオール化合物(例示化合物(S−8))の合成
使用するアルカリを水酸化ナトリウムに変えて(合成例−5)と同様の操作により目的物を得た。
【0139】
(合成例−7)
スルホン酸(塩)基含有ジオール化合物(例示化合物(S−9))の合成
使用するアルカリを水酸化カリウムに変えて(合成例−5)と同様の操作により目的物を得た。
【0140】
(その他の合成例)
例示化合物(S−10)〜(S−74)を、(合成例−1)と同様の操作で合成した。なお、例示化合物(S−10)〜(S−74)のうち、塩を有さないスルホン酸含有ジオール化合物は、対応するスルホン酸塩ジオール化合物1部とシクロヘキサノン5部との溶液に対し、強酸性のイオン交換樹脂(Aldrich社製アンバーライトIRI120H)を使用して、アルカリ金属イオンの除去を行うことによって得た。
【0141】
2.放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物(樹脂溶液)の実施例、比較例
【0142】
(実施例1)
フラスコに、鎖延長剤として、4,4’−(プロパン−2,2−ジイル)ジフェノールのメチルオキシラン付加物(ADEKA社製BPX−1000、質量平均分子量1000)52.87g(濃度355.32mmol/kg)、グリセロールメタクリレート(日本油脂社製ブレンマーGLM)6.35gおよびジメチロールトリシクロデカン(OXEA社製TCDM)12.48g、極性基導入成分としてスルホン酸(塩)基含有ジオール化合物(例示化合物(S−72))1.70g、重合溶媒としてシクロヘキサノン101.36g、成分Cとしてp−メトキシフェノール0.232gを添加した。次いで、メチレンビス(4,1−フェニレン)=ジイソシアネート(MDI)(日本ポリウレタン社製ミリオネートMT)42.66gとシクロヘキサノン52.73gの溶液を15分かけて滴下した。次いで、重合触媒としてジ−n−ブチルチンラウレート0.348gを添加し、80℃に昇温して3時間撹拌した。反応終了後シクロヘキサノン116.69gを添加し、ポリウレタン樹脂溶液を得た。ウレタン合成後、得られたポリウレタン樹脂溶液に、成分Dとしてp−ベンゾキノンをポリウレタン固形分に対し100ppm添加した。、
以上の工程で得られたポリウレタン樹脂溶液の固形分は30%であった。上記ポリウレタン樹脂溶液調製後1日以内に、この溶液に含まれるポリウレタン樹脂の質量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を後述の方法で求めたところ、、Mw=3.8万、Mn=2.4万であった。上記ポリウレタン樹脂のスルホン酸(塩)基含有量を後述の方法で測定したところ、69.55mmol/kgであった。また、GPCにて残存モノマーは確認されなかったため、放射線硬化性官能基含有量は、仕込み比率から355.32mmol/kgと算出される。
【0143】
(実施例2)
フラスコに、鎖延長剤として、4,4’−(プロパン−2,2−ジイル)ジフェノールのメチルオキシラン付加物(ADEKA社製BPX−1000、質量平均分子量1000)57.50g、グリセロールメタクリレート(日本油脂社製ブレンマーGLM)6.50g(濃度355.44mmol/kg)、およびジメチロールトリシクロデカン(OXEA社製TCDM)10.50g、極性基導入成分としてスルホン酸(塩)基含有ジオール化合物(例示化合物(S−31))3.40g、重合溶媒としてシクロヘキサノン107.66g、成分Cとしてp−メトキシフェノール0.240gを添加した。次いで、メチレンビス(4,1−フェニレン)=ジイソシアネート(MDI)(日本ポリウレタン社製ミリオネートMT)42.21gとシクロヘキサノン51.47gの溶液を15分かけて滴下した。次いで、重合触媒としてジ−n−ブチルチンラウレート0.361gを添加し、80℃に昇温して3時間撹拌した。反応終了後シクロヘキサノン121.28gを添加し、ポリウレタン樹脂溶液を得た。ウレタン合成後、得られたポリウレタン樹脂溶液に、成分Dとして4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(4−OH−TEMPO)をポリウレタン固形分に対し50ppm添加した。
以上の工程で得られたポリウレタン樹脂溶液の固形分は30%であった。この溶液に含まれるポリウレタン樹脂の質量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、スルホン酸(塩)基含有量を後述の方法により測定したところ、Mw=3.6万、Mn=2.4万、スルホン酸(塩)基含有量69.66mmol/kgであった。また、GPCにて残存モノマーは確認されなかったため、放射線硬化性官能基含有量は、仕込み比率から355.44mmol/kgと算出される。
【0144】
(実施例3〜7)
使用するスルホン酸(塩)基含有ジオール化合物、成分Cおよび成分Dを表1に示すものに変更した点以外、実施例2と同様の方法でポリウレタン樹脂溶液を得た。実施例3〜6では、、GPCにて残存モノマーは確認されなかったため、放射線硬化性官能基含有量は、仕込み比率から355.32mmol/kgと算出される。また、実施例3〜6で得られたポリウレタン樹脂中の後述の方法で測定したスルホン酸(塩)基含有量は69.55mmol/kgであった。実施例7でも、GPCにて残存モノマーは確認されなかったため、放射線硬化性官能基含有量は、仕込み比率から360.76mmol/kgと算出される。また、実施例7で得られたポリウレタン樹脂中の後述の方法で測定したスルホン酸(塩)基含有量は6.66mmol/kgであった。各実施例の溶液中のポリウレタン樹脂の質量平均分子量(Mw)を後述の方法で測定した結果を表1に示す。
【0145】
(比較例1)
ウレタン合成後、得られたポリウレタン樹脂溶液に、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(4−OH−TEMPO)(成分D)を添加しなかった点以外、実施例2と同様の方法でポリウレタン樹脂溶液を得た。得られたポリウレタン樹脂溶液中のポリウレタン樹脂の質量平均分子量(Mw)を後述の方法で測定した結果を表1に示す。
【0146】
(比較例2)
ウレタン合成を、p−メトキシフェノール(成分C)に代えてベンゾキノン(成分D)の存在下で行い、ウレタン合成後に成分C、Dを添加しなかった点以外、実施例2と同様の方法でポリウレタン樹脂溶液を得た。得られたポリウレタン樹脂溶液中のポリウレタン樹脂の質量平均分子量(Mw)を後述の方法で測定した結果を表1に示す。
【0147】
(比較例3)
ベンゾキノン量を10倍に増量した点以外、比較例2同様の方法でポリウレタン樹脂溶液を得た。得られたポリウレタン樹脂溶液中のポリウレタン樹脂の質量平均分子量(Mw)を後述の方法で測定した結果を表1に示す。
【0148】
評価方法
(1)平均分子量の測定
実施例、比較例の各ポリウレタン樹脂溶液中に含まれるポリウレタン樹脂の平均分子量(Mw、Mn)は、0.3%の臭化リチウムを含有するDMF溶媒を用いたGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)にて標準ポリスチレン換算で求めた。
(2)スルホン酸(塩)基濃度
蛍光X線分析により硫黄(S)元素のピーク面積から硫黄元素量を定量し、ポリウレタン樹脂1kgあたりの硫黄元素量に換算し、ポリウレタン樹脂中のスルホン酸(塩)基濃度を求めた。
(3)保存安定性の評価
実施例、比較例で得られたポリウレタン樹脂溶液を53℃、密閉の条件で保存して、GPCにより得られる分子量に変化が現れるまでの日数を調べた。
(4)放射線硬化性評価
実施例、比較例で得られた各ポリウレタン樹脂溶液を、固形分濃度約20%に希釈し試料溶液とした。この試料溶液をアラミドベース上にブレード(300μm)を用いて塗布し、室温で二週間乾燥し、塗布厚み30〜50μmの塗布膜を得た。
次いでこの塗布膜に電子線照射器を用いて、10kGの強度で3回、計30kGの電子線を照射した。
次いで、電子線を照射した膜を、テトラヒドロフラン100ml中に浸漬し、60℃2時間抽出した。抽出終了後、THF100mLで膜を洗浄し、真空乾燥で140℃3時間乾燥させた。次いで、抽出終了後の(乾燥させた膜の)残分の質量をゲル分の質量とし、(ゲル分/抽出前の塗布膜の質量)×100で算出される値をゲル分率として表1に示す。ゲル分率が高いほど塗膜強度が高く放射線硬化が良好に進行したことを示す。
【0149】
【表1】

【0150】
評価結果
表1に示すように、成分Cのみ、または成分Dのみを使用した比較例1、2では硬化性は良好であったものの、実施例と比べ経時安定性が著しく低下した。成分Dを比較例2の10倍量に増量した比較例3では、経時安定性は高めることができたものの、放射線照射して得られた硬化膜のゾル分率が低かった。この結果から、保存安定性を高めようと成分Dのみを多量に添加すると、硬化性が損なわれることがわかる。
これに対し成分Cと成分Dとを併用した実施例1〜7では、ポリウレタン樹脂溶液は優れた経時安定性を示した。また、比較例3に示すように、通常長期保存安定性を高めるための成分を添加すると硬化性が低下するのに対し、実施例1〜7では放射線照射して得られた硬化膜のゾル分率が高く硬化性も良好であった。
以上の結果から、成分Cと成分Dとを併用することにより、放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物の硬化性を損なうことなく、その保存安定性を高めることができることが示された。
【0151】
3.磁気記録媒体の実施例、比較例
【0152】
(実施例8)
<磁性層塗布液の調液>
針状強磁性微粉末(平均長軸長35nm) 100部をオープンニーダーで10分間粉砕し、次いで実施例1のポリウレタン樹脂溶液を固形分換算で15部添加した後60分間混練した。この混練物に、研磨剤(Al23、粒子サイズ 0.3μm)2部、カーボンブラック(粒子サイズ 40μm)2部、メチルエチルケトン/トルエン=1/1混合溶媒 200部を加えてサンドミルで360分間分散した。
得られた分散液に、ブチルステアレート 2部、ステアリン酸 1部、シクロヘキサノン 50部を加え、さらに20分間撹拌混合したあと、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、磁性層塗布液を調製した。
【0153】
<非磁性層塗布液の調液>
α−Fe23(平均粒径 0.15μm、SBET 52m2/g、表面処理Al23、SiO2、pH6.5〜8.0)85部をオープンニーダーで10分間粉砕し、次いで塩化ビニル/酢酸ビニル/グリシジルメタクリレート=86/9/5の共重合体にヒドロキシエチルスルフォネートナトリウム塩を付加した化合物(SO3Na=6×10-5eq/g、エポキシ=10-3eq/g、Mw 30,000)を7.5部、実施例2のポリウレタン樹脂溶液を固形分換算で10部、シクロヘキサノン60部を添加し60分間混練した。この混練物に、メチルエチルケトン/シクロヘキサノン=6/4混合溶媒 200部を加えてサンドミルで120分間分散した。
得られた分散液に、ブチルステアレート 2部、ステアリン酸 1部、メチルエチルケトン 50部を加え、さらに20分間撹拌混合したあと、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、非磁性層塗布液を調製した。
【0154】
<磁気記録媒体の作製>
厚さ7μmのポリエチレンテレフタレート支持体の表面に、接着層としてスルホン酸含有ポリエステル樹脂を乾燥後の厚さが0.1μmになるようにコイルバーを用いて塗布した。
次いで、上記接着層上に得られた非磁性層塗布液を厚さ1.5μmに塗布して塗布層を形成した後、該塗布層に30kGの電子線を照射して非磁性層(放射線硬化層)を形成した。さらにその直後に、形成した非磁性層上に乾燥後の厚さが0.1μmになるように上記磁性層塗布液を塗布した。磁性層塗布液が塗布された非磁性支持体に対し、磁性層塗布液が未乾燥の状態で0.5テスラ(5,000ガウス)のCo磁石と0.4テスラ(4,000ガウス)のソレノイド磁石で磁場配向を行った後、磁性層塗布液の塗布層に30kGの電子線を照射して磁性層(放射線硬化層)を形成した。次いで、金属ロール−金属ロール−金属ロール−金属ロール−金属ロール−金属ロール−金属ロールの組合せによるカレンダー処理を速度100m/min、線圧300kg/cm、温度90℃で行なった後1/2インチ(17.7mm)幅にスリットし磁気テープを得た。
【0155】
(実施例9)
非磁性層塗布液の調製時、実施例2のポリウレタン樹脂溶液に代えて実施例7のポリウレタン樹脂溶液を用いた点以外は、実施例8と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0156】
(実施例10)
磁性層塗布液の調製時、針状強磁性微粉末(平均長軸長35nm)の代わりに六角平板状フェライト微粉末(平均板径10nm)を用いた点以外は、実施例8と同様にして磁気テープを作製した。
【0157】
(比較例4)
磁性層塗布液の調製時に実施例1のポリウレタン樹脂溶液に代えて比較例1のポリウレタン樹脂溶液を用いた点および非磁性層塗布液の調製時に実施例2のポリウレタン樹脂溶液に代えて比較例1のポリウレタン樹脂溶液を用いた点以外は、実施例8と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0158】
評価方法
実施例8〜10および比較例4で作製した磁気テープについて、以下の評価を行った。結果を表2に示す。
(1)磁性層の表面平滑性
Digital Instrument社製Nanoscope IIを用い、トンネル電流10nA、バイアス電流400mVで30μm×30μmの範囲を走査して高さ10nm〜20nmの突起数を求め、比較例4を100としたときの相対値で示した。
(2)電磁変換特性(S/N比)
各磁気テープのS/N比を、ヘッドを固定した1/2インチ リニアシステムで測定した。ヘ−ド/テ−プの相対速度は10m/secとした。記録は飽和磁化1.4TのMIGヘッド(トラック幅18μm)を使い、記録電流は各テープの最適電流に設定した。再生ヘッドには素子厚み25nm、シールド間隔0.2μmの異方性型MRヘッド(A−MR)を用いた。
記録波長0.2μmの信号を記録し、再生信号をシバソク製スペクトラムアナライザーで周波数分析し、キャリア信号(波長0.2μm)の出力とスペクトル全域の積分ノイズとの比をS/N比とし、比較例4を0dBとした相対値で示した。
(3)繰り返し摺動耐久性
40℃10%環境下で磁性層面をAlTiC製の円柱棒に接触させて荷重100g(T1)をかけ、2m/secの摺動速度で繰り返し10,000パスまで摺動を行ったあとのテープダメージを目視および光学顕微鏡観察(倍率:100〜500倍)により、以下のランクで評価した。
優秀:ややキズが見られるが、キズのない部分の方が多い。
良好:キズがない部分よりもキズがある部分の方が多い。
不良:磁性層が完全に剥離している。
(4)保存性
LTO−G3カートリッジ用のリールにテ−プを600m巻いた状態で60℃90%2週間保存した。保存後のテ−プの摺動耐久性を上記(3)と同じ方法で測定した。
【0159】
【表2】

【0160】
評価結果
表2に示すように、実施例8〜10の磁気テープは、比較例4の磁気テープと比べてすべての評価項目において優れた結果を示した。本願発明者らは、この結果について以下のように推察している。
実施例8〜10の磁気テープが優れた平滑性を示した理由は、非磁性層を放射線硬化した後に磁性層塗布液を塗布したため、磁性層塗布液への非磁性層の溶解による層間混合を抑制できたことに起因する。非磁性層結合剤として使用した放射線硬化性ポリウレタン樹脂の硬化性が良好であったため、放射線照射により強固な塗膜を形成できたことも上記層間混合抑制に寄与している。また、非磁性層、磁性層とも結合剤に含まれるスルホン酸(塩)基による分散性向上が達成されたことも、平滑性向上の一因と考えられる。実施例8〜10の磁気テープが優れた電磁変換特性を示した理由は、上記の通り磁性層表面性が良好であったことに起因するものである。
実施例8〜10の磁気テープが優れた繰り返し摺動耐久性を示した理由は、磁性層に使用した放射線硬化性ポリウレタン樹脂の硬化性が良好であったため強固な塗膜を形成できたことにある。
また、非磁性層の硬化が不十分であると非磁性層成分の磁性層側への移動量が多くなり、磁性層の硬化が不十分な場合には磁性層表面からの各種成分の染み出し量が多くなる。このような現象が生じると保存中にテープの張り付きが生じる、テープ表面に析出物が発生する、等の理由から保存性が低下する。実施例8〜10の磁気テープは、磁性層、非磁性層とも放射線硬化性が良好であっため優れた保存性を示した。
【0161】
以上説明した表1および表2の結果から、本発明によれば、放射線照射による硬化性を損なうことなく、放射線硬化性ポリウレタン樹脂の保存安定性を長期間良好に維持できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明の磁気記録媒体は、優れた耐久性および保存性を発揮することができるので繰り返し走行耐久性および保存性が求められるバックアップテープとして好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線硬化性官能基を含むポリウレタン樹脂および/またはその原料化合物、ならびに下記成分Cおよび成分Dを含む放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物。
成分C:フェノール化合物
成分D:ピペリジン−1−オキシル化合物、ニトロ化合物、ベンゾキノン化合物およびフェノチアジン化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物
【請求項2】
前記原料化合物は、下記成分Aおよび成分Bを含む請求項1に記載の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物。
成分A:イソシアネート化合物
成分B:ポリオール化合物
(上記成分AおよびBの少なくとも一方は放射線硬化性官能基を含む。)
【請求項3】
前記放射線硬化性官能基は、(メタ)アクリロイルオキシ基である請求項1または2に記載の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項4】
成分Bは、放射線硬化性官能基を有するポリオール化合物を含む請求項2または3に記載の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項5】
成分Bは、スルホン酸(塩)基含有ポリオールを含む請求項2〜4のいずれか1項に記載の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項6】
前記スルホン酸(塩)基含有ポリオールは、下記一般式(1)で表される請求項5に記載の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物。
【化1】

[一般式(1)中、Xは二価の連結基を表し、R1およびR2はそれぞれ独立に、少なくとも1つの水酸基を有する炭素数2以上のアルキル基または少なくとも1つの水酸基を有する炭素数8以上のアラルキル基を表し、Mは水素原子または陽イオンを表す。]
【請求項7】
前記ポリウレタン樹脂に対して、500ppm以上100000ppm以下の成分Cを含有し、かつ1ppm以上500ppm以下の成分Dを含有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項8】
磁気記録媒体形成用塗布液として、またはその調製のために使用される請求項1〜7のいずれか1項に記載の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項9】
前記成分Aと成分Bとを成分Cの存在下で反応させることを含む、請求項2〜8のいずれか1項に記載の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
前記反応の反応生成物に成分Dを混合することを含む請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物を放射線硬化することによって得られたポリウレタン樹脂。
【請求項12】
非磁性支持体上に、強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、
請求項1〜8のいずれか1項に記載の放射線硬化性ポリウレタン樹脂組成物を含む塗布層を放射線硬化することによって得られた放射線硬化層を少なくとも一層有する磁気記録媒体。
【請求項13】
前記放射線硬化層は、前記磁性層である請求項12に記載の磁気記録媒体。
【請求項14】
非磁性支持体と磁性層との間に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層を有し、かつ該非磁性層が前記放射線硬化層である請求項12または13に記載の磁気記録媒体。
【請求項15】
フェノール化合物、ならびに、
ピペリジン−1−オキシル化合物、ニトロ化合物、ベンゾキノン化合物およびフェノチアジン化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物、
を含む放射線硬化性ポリウレタン樹脂用保存安定剤。

【公開番号】特開2011−34633(P2011−34633A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−179956(P2009−179956)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】