説明

放射線硬化性不飽和ポリエステル・ウレタン樹脂

本発明は、反応性の高いシンナー(D)と、ポリエステル(A)、多官能性イソシアナート(B)およびヒドロキシル基を有するオレフィン系不飽和モノマー(C)から誘導される成分を有する放射線硬化不飽和ポリエステル・ウレタン樹脂(ABC)とを含むコーティング剤、その製造方法、ならびに基材をコーティングするためのその使用方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線硬化性不飽和ポリエステル・ウレタン樹脂に関する。本発明はさらに、その調製方法、およびコーティング用、特に金属上のコーティング用バインダとしてその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル・ウレタン・アクリレートをベースとした放射線硬化性樹脂は、たとえばドイツ特許出願公開第198 35 849 A1から公知である。
【特許文献1】ドイツ特許出願公開第198 35 849 A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
粉体コーティング用のそうした樹脂と異なり、本発明の目的は、固形物の質量分率が50%を超える粘性でも、スプレーまたはロール塗によって速いコーティング速度で室温(23℃)での塗布が可能な樹脂溶液を提供することである。こうしたコーティング剤の粘度は、反応性の高い希釈剤を加えることによって低下させることができるが、その希釈剤は放射線硬化時にコーティング中に組み込まれ、脆化および基材への接着力の減損をもたらす。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明を導いた実験で、場合によっては不飽和の脂肪酸をポリエステル・ウレタン・アクリレート中に組み込むことにより、その粘度が低下し、同時に基材、特に金属への接着が著しく改善されることが分かった。
【0005】
本発明は、場合によっては不飽和のポリエステル樹脂A、多官能性イソシアナートBおよびヒドロキシル基を含むオレフィン系不飽和モノマーCから誘導される構造単位を含む、放射線硬化性不飽和ポリエステル・ウレタン樹脂ABCを提供する。不飽和ポリエステル・ウレタン樹脂を、反応性の高い希釈剤Dと混合することによってコーティング剤が調製され、希釈剤Dは、不飽和ポリエステル・ウレタン樹脂と共重合可能な2重結合を1分子あたり少なくとも1個含み、好ましくはヒドロキシル価が0mg/g〜10mg/g、特に好ましくは0mg/g〜5mg/gである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
ポリエステル樹脂Aは、炭素原子2〜20個を有する直鎖、分枝または環式の2価脂肪族アルコールA1と、場合によっては、炭素原子2〜6個、好ましくは2〜4個を有するアルキレン基を含み、好ましくは1分子あたり平均2個のヒドロキシル基を有し、数平均重合度が2〜40、好ましくは3〜35のポリオキシアルキレンポリオールA1’と、炭素原子3〜20個を有する3価以上の脂肪族アルコールA2と、炭素原子2〜40個を有する脂肪族または芳香族の少なくとも2価の酸A3と、炭素原子6〜30個を有する、場合によっては不飽和の脂肪酸A4とから誘導される構造単位を含む。ポリエステルAを調製するための縮合混合物中のA1〜A4成分の質量分率は、好ましくは2%〜20%、5%〜40%、5%〜50%および15%〜60%であり、それぞれの場合に、質量分率の和は100%である。A1〜A4成分の質量分率は、好ましくは5%〜15%、10%〜30%、10%〜40%および20%〜50%である。
【0007】
好ましい成分A1は、グリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,5−ジヒドロキシ−3−オキサペンタン、1,8−ジヒドロキシ−3,6−ジオキサオクタン、ネオペンチルグリコール、1,4−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ならびにいわゆる「TCDアルコール」(オクタヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデンジメタノール)などの二環式脂肪族アルコールや多環式脂肪族アルコールである。
【0008】
好ましいポリオキシアルキレンポリオールA1’は、オリゴエチレン、ポリエチレングリコール、オリゴプロピレン、ポリプロピレングリコールおよびいわゆるポリ−THF(オリゴ−1,4−ブチレングリコール、およびポリ−1,4−ブチレングリコール)である。こうしたポリオキシアルキレンポリオールA1’の数平均モル質量Mは、好ましくは62g/mol〜3000g/mol、特に好ましくは300g/mol〜2000g/molである。
【0009】
好ましい成分A2は、グリセロール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジトリメチロールエタン、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、ソルビトールおよびマンニトールである。
【0010】
好ましい成分A3は、二塩基性酸としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、フタール酸、イソフタール酸、テレフタール酸、ナフタレン−2,3−ジカルボン酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸およびシクロヘキサンジカルボン酸であり、好ましい三塩基性酸は、トリメリト酸、トリメシン酸およびスルホイソフタール酸である。ベンゼンテトラカルボン酸やベンゾフェノンテトラカルボン酸など四塩基性以上の酸も、酸A3の物質の量に対して最高0.1モル/モルまでの小さい割合で使用することができる。
【0011】
もちろん、酸A3の無水物または他の反応性の高い誘導体、たとえばそのメチルエステルも、少なくとも部分的に重縮合で使用することができる。同様にアルコールA1および/またはA2と酢酸など揮発性の酸のエステルも少なくとも部分的に使用することができる。
【0012】
好ましい成分A4は、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、エルカ酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、エラエオステアリン酸、アラキドン酸、およびイワシ酸である。アマニ油脂肪酸、トール油脂肪酸、ヒマワリ油脂肪酸、ヒマシ油脂肪酸、ヤシ油脂肪酸、落花生油脂肪酸など天然油から得られるこうした脂肪酸の混合物も適している。
【0013】
多官能性イソシアナートBは、少なくとも2個のイソシアナート基を有し、好ましくは、アルキレン基中に炭素原子4〜12個を有する直鎖、分枝および環式の脂肪族ジイソシアナート;アリール基中に炭素原子6〜18個を有する芳香族ジイソシアナート;ならびに前記イソシアナート由来のアロファン酸エステル、イソシアヌル酸エステル、ビウレットおよびウレトジオンから選択される。1,4−テトラメチレンジイソシアナート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート、2,4−トルイレンジイソシアナート、2,6−トルイレンジイソシアナート、ビス(4−イソシアナートフェニル)メタン、テトラメチルキシリレンジイソシアナートおよびこれらイソシアナートの上記誘導体が好ましい。
【0014】
ヒドロキシル基を含むオレフィン系不飽和モノマーCは、アリルアルコール、メタリルアルコール、ならびにA1およびA2の項であげた2価以上のアルコールとアクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、イソクロトン酸などオレフィン系不飽和モノカルボン酸C21とのモノエステルC2からなる群から選択される。(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシ−1−メチルエチルおよび(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシ−2−メチルエチルが好ましい。
【0015】
反応性の高い希釈剤Dは、不飽和ポリエステル・ウレタン樹脂と共重合可能な2重結合を少なくとも1個含む。その希釈剤のヒドロキシル価は、好ましくは0mg/g〜10mg/g、特に好ましくは0mg/g〜5mg/gである。好ましくは、C21項であげた酸の2分子とエステル化する2価アルコールA1の直鎖アセタール、ならびにC21項であげた酸の一つの少なくとも1分子とエステル化する多価アルコールA2の環式アセタールである。(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパンホルマールおよびジ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトールホルマールが特に好ましい。
【0016】
不飽和ポリエステル・ウレタン樹脂ABCは、成分A1〜A4を重縮合させてポリエステルAを得、次いでそれを好ましくは触媒および重合抑制剤の存在下で、多官能性イソシアナートBとヒドロキシル基を含む不飽和化合物Cとの反応生成物BCと反応させることによって調製され、BC中の反応性の高いイソシアナート基が完全に消費される。反応生成物BCは、少なくとも平均1個のイソシアナート基および少なくとも平均1個のオレフィン系2重結合を有する。
【0017】
重縮合は温度120℃〜200℃で行い、反応時間は2〜20時間である。縮合生成物(水または、反応性の高い誘導体の場合、低級アルコールまたは揮発性の酸)の除去は、生成した水と共沸混合物を形成し、かつ縮合および相分離後に再循環されるエントレインメント剤を加えることによって促進することができる。反応終了後、エントレインメント剤を好ましくは減圧蒸留によって分離する。
【0018】
次いで、ポリエステルAを、イソシアナートBの別個に調製した付加物およびヒドロキシル基を含む不飽和化合物Cと反応させ、場合によっては、ジラウリン酸ジブチルスズ、有機チタン化合物、ビスマス塩、ビスマス・キレート化合物など金属有機化合物を触媒として加える。ウレタンの形成の終了後(BCのイソシアナート基が完全に消費)、反応性の高い希釈剤Dを加えるのが好ましく、この場合、固形物の質量分率を液体混合物ABCおよびDの質量に対して約50%〜約70%に調整する。反応性の高い希釈剤は、好ましくは重縮合用の反応温度で加えることができる。それにより混合物は低い粘度に保持され、十分撹拌することができるからである。
【0019】
不飽和ポリエステル・ウレタン樹脂と反応性の高いシンナーの混合物は、任意の基材、好ましくは金属、特に卑金属に20μm〜80μmの薄い層(乾燥した層の厚さ)で塗布することができる。通常、光開始剤を加えて高エネルギー光または照射による硬化を促進する。
【0020】
次いで、コートした基材を、紫外線または電子ビームの照射によって硬化させる。好ましい基材は、金属、木材、紙、厚紙またはプラスチックである。硬化したコーティングは、基材、特に金属に対して優れた接着性を示す。このようにしてコートした金属シートを、同じ場所で90度まで数回曲げてもコーティングの剥落はない。従って、本発明によるコーティング剤は、引き続いてプレス、深絞りまたはパンチングによって変形される金属ストリップをコート(コイル・コーティング)するのに特に適している。
以下の実施例は、本発明を例示する。
【実施例1】
【0021】
ポリエステルの調製
グリコール62.1g、トリメチロールプロパン134.2g、アジピン酸146.1gおよび落花生油脂肪酸280gを混合し、オクト酸スズ0.2gおよびメチルイソブチルケトン30gを加えて180℃に加熱した。留出物を凝縮し、相分離後溶媒を再循環させた。酸価は約10時間後で5mg/g未満であった。溶媒を減圧下で留去すると、ポリエステル約569gが残った。
【実施例2】
【0022】
オレフィン系不飽和モノイソシアナートの調製
トルイレンジイソシアナート174gを冷却しながら25℃でアクリル酸ヒドロキシエチル116gと混合した。混合物を注意深く65℃に加熱し、イソシアナート濃度が一定になるまでその温度で保持した。
【実施例3】
【0023】
コーティング剤の調製
実施例1のポリエステル100gを、ヒドロキノンモノメチルエーテル0.2gおよびジラウリン酸ジブチルスズ0.2gとともに50℃に加熱した。実施例2の不飽和イソシアナート70gを分割してその混合物に加えた。冷却によって温度を80℃未満に保持した。添加終了後、イソシアナートがもはや検出不能になるまで、撹拌を80℃で継続した(4時間)。次いで、アクリル酸トリメチロールプロパンホルマール113.4gを加え、得られた混合物を室温(23℃)に冷却した。混合物は、固形物の質量分率約60%、粘度2980mPa・s(23℃、25s−1)であった。
【実施例4】
【0024】
コーティングの試験
実施例3のコーティング剤、および比較のための、反応性の高い希釈剤であるアクリル酸トリメチロールプロパンホルマールを含む市販のアクリル酸ポリエステル・ウレタン樹脂(固形物の質量分率:55%)を、反応性の高い希釈剤を含むバインダ100gあたり光開始剤(Darocure(登録商標)1173、ベンゾフェノン・タイプ)5gを加えて調製した。粘度(23℃、25s−1)は、実施例3のコーティング剤で3000mPa・s、比較例で7660mPa・sであった。
【0025】
硬化後24時間で膜の振子型硬度(pendulum hardness)(層厚50μmの乾燥膜についてガラス板上で測定)は、実施例3のコーティング剤で83秒、比較例で33秒であった。
【0026】
錆止めボンデ金属板(無処理、片面研磨の鋼板ST 1405、実施例4.1および4.1C)および鋼板26S/60/OC(スプレー式リン酸塩被膜付のST 1405、実施例4.2および4.2C)をこうしたワニス塗料でコートし、コーティングを水銀蒸気ランプ(出力80W、距離10cm、コンベア・ベルト速度毎分4m)の紫外光照射によって硬化させた。濡れ膜厚さはそれぞれの場合に50μmであった。濡れ膜厚さ8μmの膜が、他の鋼板26S/60/OCに付着した(実施例4.3および4.3C)。
以下の結果が得られた。
【0027】
【表1】

【0028】
エリクセン塗膜強度(Erichsen cupping)試験およびクロスハッチ(crosshatch)試験を、それぞれDIN EN ISO 1520およびDIN EN ISO 2409に従って行い、評価した。示されたカッピング(cupping)は、衝撃球による変形(単位はmm)であり、ワニス塗料が、変形したスポットから衝撃球のために剥落することはまだない。クロスハッチ試験で「0」は、硬化したワニス塗料をクロスハッチにカットして生成した四角部分のいずれも、カット部分に粘着テープを被覆し、そのテープを剥ぎ取ったときでも、破断点を示さないことを意味する。
【0029】
エリクセン衝撃試験は、ASTM D2794に従って行う。この試験は、ワニス塗料の層が突出部(bulge)から未だ剥ぎ取られない(球の衝撃点から側方に)落下球のエネルギーを示す。
【0030】
T−ベンドは、ASTM D 4145に従って測定された。T0は、基材を180度まで曲げた場合どんなクラックもなく、ベンドを粘着テープで被覆し、そのテープを剥ぎ取った場合接着のどんな損失もないことを意味する。従って、T1等は、基材をそれぞれの場合180度まで平らに2回、3回等曲げた場合、そうした損傷特性が全くないことを意味する。第1回の曲げの半径がもちろん最小である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルA、多官能性イソシアナートBおよびヒドロキシル基を含むオレフィン系不飽和モノマーCから誘導される構造単位を含むことを特徴とする放射線硬化性不飽和ポリエステル・ウレタン樹脂ABC。
【請求項2】
前記ポリエステルAが、炭素原子2〜20個を有する直鎖、分枝または環式の2価脂肪族アルコールA1と、炭素原子3〜20個を有する、場合によっては3価以上の脂肪族アルコールA2と、炭素原子2〜40個を有する脂肪族または芳香族の少なくとも二塩基性の酸A3と、炭素原子6〜30個を有する脂肪酸A4とから誘導されることを特徴とする請求項1に記載の放射線硬化性不飽和ポリエステル・ウレタン樹脂ABC。
【請求項3】
前記ポリエステルAがさらに、炭素原子2〜6個を含むアルキレン基を有し、数平均重合度が2〜40の構造単位ポリオキシアルキレンポリオールA1’を含むことを特徴とする請求項1に記載の放射線硬化性不飽和ポリエステル・ウレタン樹脂ABC。
【請求項4】
前記ポリエステルAを調製するための縮合混合物中の前記成分A1〜A4の質量分率が、2%〜20%、5%〜40%、5%〜50%および15%〜60%であり、それぞれの場合に質量分率の和が100%であることを特徴とする請求項1に記載の放射線硬化性不飽和ポリエステル・ウレタン樹脂ABC。
【請求項5】
前記ポリエステルAが、ヒドロキシル価0mg/g〜150mg/gおよび酸価5mg/g〜200mg/gを有することを特徴とする請求項1に記載の放射線硬化性不飽和ポリエステル・ウレタン樹脂ABC。
【請求項6】
反応性の高い希釈剤Dおよび請求項1に記載の放射線硬化性不飽和ポリエステル・ウレタン樹脂ABCを含むことを特徴とするコーティング剤。
【請求項7】
前記反応性の高い希釈剤Dが、不飽和ポリエステル・ウレタン樹脂と共重合可能な2重結合を1分子あたり少なくとも1個含むことを特徴とする請求項6に記載のコーティング剤。
【請求項8】
前記反応性の高い希釈剤Dが、ヒドロキシル価0mg/g〜10mg/gを有することを特徴とする請求項6に記載のコーティング剤。
【請求項9】
固形分の質量分率が、50%〜70%であることを特徴とする請求項6に記載のコーティング剤。
【請求項10】
請求項6に記載のコーティング剤を塗布すること、および高エネルギー放射線を照射することによって前記コーティングを硬化させることを含むことを特徴とする基材をコーティングする方法。

【公表番号】特表2007−503491(P2007−503491A)
【公表日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524304(P2006−524304)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【国際出願番号】PCT/EP2004/009338
【国際公開番号】WO2005/021614
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(505456584)サイテク サーフェィス スペシャルティーズ オーストリア ゲーエムベーハー (16)
【Fターム(参考)】