説明

放射線硬化性被覆組成物

本発明は、粒子を0.6〜10vol%含む放射線硬化性一次被覆組成物であって、硬化すると、平衡弾性率が約1.5MPa以下となり、かつ10番目の空洞が出現した時点の耐空洞形成性(σ10cav)が少なくとも約1.1MPaとなる、放射線硬化性一次被覆組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、放射線硬化性一次被覆組成物、放射線硬化性一次および放射線硬化性二次被覆組成物を含む被覆系、一次および二次被覆を備える被覆された光ファイバ、上記被覆された光ファイバの少なくとも1種のガラス光ファイバを含む光ファイバテープ心線、ならびに放射線硬化性一次被覆組成物の光ファイバを被覆するための使用に関する。
【0002】
光ファイバは脆くて容易に破断するため、通常、光ファイバは、1種以上の放射線硬化性被覆組成物を用いて被覆されている。通常は、ガラス表面に直接施される比較的軟質で可撓性がある材料の一次被覆と、一次被覆上に施されるより硬質な被覆である二次被覆との少なくとも2種類の被覆が施されている。光ファイバの伝送特性は、光ファイバに直接接する一次被覆材料の平衡弾性率等の特性に著しく影響されることが知られている。比較的平衡弾性率の高い、例えば約1.5MPa以上の一次被覆材料で光ファイバを被覆すると、緩衝効果が低下するため光ファイバの減衰損失が増大するおそれがある。実際、光ファイバ業界においては、より軟質の(より平衡弾性率の低い)一次被覆を用いることによりマイクロベンディングに対する耐性をより高くし、したがって減衰損失を防ぐことが長年にわたり求められている。したがって、例えば、BoutenらによるJ.of Lightwave Technology、第7巻、1989年4月、680〜686頁に記載されているように、平衡弾性率が1.5MPa以下の一次被覆材料に注目が集まっている。
【0003】
しかしながら、このように平衡弾性率の低い一次被覆を使用した場合、特に平衡弾性率が1.3MPa未満の一次被覆を使用した場合は、被覆の完全性が危うくなる。したがって、このような被覆は非常に脆くなる傾向にあり、被覆された光ファイバを加工または使用する間に被覆内に欠陥が生じやすくなる。
【0004】
引張割線弾性率が低い(<1.5MPa)が引張破壊強度が高い(>1.5MPa)一次被覆が国際公開第99/08975号パンフレットに記載されている。上記被覆は、光ファイバを長期間にわたり安全かつ安定に保護すると同時に、極めて優れた伝送特性を達成すると言われている。しかしながら、被覆された光ファイバの使用中、特に、被覆されたファイバが一定期間(製造、ケーブル敷設、または地中埋設中)耐えなければならない高い応力および極端な温度の影響下においては、依然として欠陥が現れる場合がある。今日では、ファイバの線引速度が速くなっているために冷却プロファイルの勾配がより急峻になり、熱誘起応力の緩和時間がより短くなることから、この問題がさらに大きくなっている。
【0005】
国際公開第02/42237号パンフレットには、平衡弾性率が約1.5MPa以下の一次被覆と、一次被覆よりもTgがはるかに高い次の二次被覆とで被覆されたガラス光ファイバが記載されている。上記一次被覆は、少なくとも以下の応力を受ける:製造過程で温度が低下した場合、二次被覆はそのガラス温度(Tg)を通過してガラス状態になる一方で、一次被覆は依然としてガラス温度を超えている。一次被覆は温度がさらに低下すれば依然として収縮しようとするが、片側の剛直な二次被覆と反対側の剛直なガラスファイバとに挟まれて抑制されている。そのため、一次被覆の収縮過程が妨げられ、実質的に三軸応力が生じることになる。この応力により、接着が十分でない場合は、J.Electronic Packaging、1997年6月、第119巻、133〜137頁に収録されている記事である、KingおよびAloisioによる、表題「Thermomechnical Mechanism for Delamination of Polymer Coatings from Optical Fibers(光ファイバからポリマー被覆が剥離する熱機械的機構」に記載されているように、一次被覆がガラス表面から緩む可能性がある。着色中、ケーブル化中、および可能性として実使用中においても、ファイバは高低温サイクルに曝される場合があり、これによって一次被覆に同等の応力が生じる。
【0006】
この応力はまた、被覆内に欠陥が現れる原因にもなることが証明されている。このような欠陥は、実際、一次被覆自体のバルク破壊であり、一次被覆およびガラスの界面における剥離とは全く異なるものと認識しなければならない。本発明においては、被覆内のこのような欠陥を空洞(cavity)とも称する。
【0007】
本発明の目的は、一次および二次被覆ならびに場合によりインク組成物で被覆され、一次被覆が低い平衡弾性率を有しながらも十分に高い耐空洞形成性(cavitation strength)を有する光ファイバを得ることにある。
【0008】
本発明の他の目的は、硬化すると、実質的に空洞のない状態を維持する空洞形成に対する十分な耐性を有する、平衡弾性率が約1.5MPa以下の軟質の一次被覆となる、放射線硬化性一次被覆組成物を得ることにある。
【0009】
意外なことに、粒子を0.6〜10体積%(vol%)含む放射線硬化性一次被覆組成物を用いることによって上述の目的を達成することができることが見出された。上の定義において、粒子のvol%とは、粒子、すなわち、完全に分散した独立した一次粒子(以下、一次粒子と称する)および凝集体のこのような部分の総量を指す。
【0010】
本発明の一実施形態においては、上記粒子は、扁平度m=B/Tが10以下(ここで、厚みTは、粒子の対向する面(1つの面は、安定度が最も高い面である)の接線方向にある2つの平行な面間の最小距離であり、幅Bは、厚みTを画定する面に垂直であり、かつ粒子の対向する面の接線方向にある2つの平行な面間の最小距離である)であり、長さLが0.003〜3μm(ここで、Lは、厚みTおよび幅Bを画定する面に垂直であり、かつ粒子の対向する面の接線方向にある2つの平行な面間の距離である)である。本明細書における放射線硬化性一次被覆組成物は、硬化させると、平衡弾性率が約1.5MPa以下になり、10番目の空洞が出現した時点の耐空洞形成性(σ10cav)が少なくとも約1.1MPaとなる。本明細書における扁平度B/Tおよび長さLは、Heywood,H.、J.Pharm.Pharmacol.Suppl.、15、(1963)、56Tおよび「Particle Size Measurement(粒度測定)」、T.Allen、Chapman and Hall Ltd,、London(1975)に定義されているように、一次粒子に関し測定される。扁平度は、透過顕微鏡測定(TEM)によって測定される。光ファイバの一次被覆内の粒子の扁平度を測定するために、ガラス光ファイバに対し平行および垂直の両方の試料(断面(coupe))を一次被覆から切り出す。被覆中に存在する粒子の数に応じて、扁平度の測定にはより多くの断面が必要となるであろう。典型的には10〜100個の粒子を分析する。
【0011】
被覆された光ファイバの使用中における軟質の一次被覆の完全性は、その空洞形成に対する耐性に決定的に依存する。平衡弾性率の低い一次被覆でさえも、一次被覆が粒子を0.6〜10vol%含む場合は空洞形成に対する耐性を達成できることがここに見出された。
【0012】
さらに本発明は、本発明による放射線硬化性一次被覆組成物および二次被覆組成物を備えるガラス光ファイバ用被覆系に関する。
【0013】
本発明はまた、ガラス光ファイバと、本発明による放射線硬化性一次被覆組成物を硬化させることにより得られる一次被覆と、一次被覆上に適用された放射線硬化性二次被覆と、場合により二次被覆上に適用されたインク組成物とを備える被覆された光ファイバにも関する。
【0014】
上記一次被覆は、通常、光ファイバに十分に接着させることにより一次被覆−ガラス界面における剥離(すなわち接着剥がれ)の発生が最小限に抑えられる。二次被覆は、通常、一次被覆に十分に接着させることにより一次被覆−二次被覆界面における剥離の発生が最小限に抑えられる。一次被覆の耐空洞形成性は、被覆自体の内部における空洞形成を最小限に抑えるのに十分なものである。
【0015】
さらに本発明は、平面状に整列してマトリックス組成物中に埋め込まれた、被覆および場合により着色された複数本の光ファイバを備え、少なくとも1本の被覆された光ファイバが本発明に従い被覆された光ファイバである、光ファイバテープ心線に関する。
【0016】
本発明による耐空洞形成性の現象に適した定義は、実験の項に説明するように、引張試験機を用いて100μmの薄肉の(抑制された)層を引張速度20μm/min(または20%/min)で測定し、約20倍に拡大して観察した場合に、10番目の空洞が視認できるようになる応力である。
【0017】
本発明による一次被覆組成物は、粒子を0.6〜10vol%、好ましくは1〜5vol%、より好ましくは2〜4vol%含む。本発明の一実施形態においては、上記粒子は、扁平度m=B/Tが10以下、好ましくは8以下、より好ましくは5以下、特に2以下、その中でも特に1.5以下(ここで、厚みTは、粒子の対向する面(1つの面は、安定度が最も高い面である)の接線方向にある2つの平行な面間の最小距離であり、幅Bは、厚みTを画定する面に垂直であり、かつ粒子の対向する面の接線方向にある2つの平行な面間の最小距離である)であり、長さLが、0.003〜3μm(ここで、Lは、厚みTおよび幅Bを画定する面に垂直であり、かつ粒子の対向する面の接線方向にある2つの平行な面間の距離である)である。扁平度が1に近い、すなわち(ほぼ)球状の粒子が特に好適である。
【0018】
扁平度mは、Heywood,H.、J.Pharm.Pharmacol.Suppl.、15、(1963)、56Tおよび「Particle Size Measurement」、T.Allen,Chapman and Hall Ltd,、London(1975)に定義されているHeywood比:
長短度:n=L/B
扁平度:m=B/T
の1つである。
【0019】
通常は、無作為に選んだ100個の粒子の寸法を測定してその平均値をとる。芋虫形状粒子のように長短度が1を超える粒子(長短度は、L/Bとして定義され、LおよびBは、それぞれ上に定義した長さおよび幅である)の場合は、Lは、写真の面に投影された主軸に沿って一端から他端までを測定する。直径は、粒子の一端から他端に主軸と直角に引くことができる最も長い直線とする。
【0020】
本発明による放射線硬化性一次被覆組成物は、有機または無機粒子のどちらであってもよい粒子を含む。
【0021】
本発明の一実施形態においては、粒子は無機粒子である。好適な無機粒子としては、例えば、酸化物粒子、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化アンチモン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム、および酸化セリウムの群から選択される酸化物の粒子がある。異なる酸化物からの粒子の混合物を使用することも、複合酸化物の粒子を使用することも可能である。好ましくは、粒子は、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、または酸化ケイ素の粒子である。特に好適なのは、酸化ケイ素粒子、例えば、コロイド状シリカ粒子である。
【0022】
酸化物粒子の具体例としては、スズドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、リンドープ酸化スズ(PTO)、アンチモン酸亜鉛(AZO)、インジウムドープ酸化亜鉛(IZO)、および酸化亜鉛からなる群から選択される粒子の少なくとも1種を挙げることができる。これらの粒子は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもいずれであってもよい。
【0023】
これらの酸化物粒子の市販品の例としては、T−1(ITO)(三菱化学株式会社(Mitsubishi Materials Corporation)製)、パストラン(Passtran)(ITO、ATO)(三井金属鉱業株式会社(Mitsui Mining&Smelting Co.,Ltd.)製)、SN−100P(ATO)(石原産業株式会社(Ishihara Sangyo Kaisha,Ltd.)製)、Nano Tek ITO(シーアイ化成株式会社(C.I.Kasei Co.,Ltd.)製)、ATO、FTO(日産化学工業株式会社(Nissan Chemical Industries,Ltd.)製)等を挙げることができる。
【0024】
本発明の一実施形態においては、無機粒子は表面に反応性有機基を有する。このような反応性粒子は、さらなる非反応性有機基を有していてもいなくてもよい。全体の極性を調整し、したがって、粒子および結果として得られる被覆の疎水性または親水性を調整するために、さらなる非重合性基を使用してもよい。本発明による方法の一実施形態においては、放射線硬化性被覆組成物中に存在する粒子の大半は反応性ナノ粒子である。この粒子の反応性基および反応性希釈剤(存在する場合)の重合性基は、単独重合反応または共重合反応で重合させてもよい。このような場合、反応性基は重合性基である。混合物中に重合可能な異なる基が存在する場合、例えば、粒子および反応性希釈剤の基が異なる場合、またはこのような異なる基を含む反応性希釈剤および反応性/もしくは粒子の混合物を使用する場合、共重合反応を行うことが可能である。ナノ粒子の反応性基を、1種以上の反応性希釈剤の重合により形成されたポリマー網と反応させることも可能である。
【0025】
反応性粒子の調製自体は当該技術分野において周知であり、例えば、米国特許第6,025,455号明細書に記載されている。
【0026】
反応性有機基を粒子表面に導入するために使用することができる試剤(表面処理剤とも称される)の例としては、アルコキシシラン化合物、テトラブトキシチタン、テトラブトキシジルコニウム、テトライソプロポキシアルミニウム等を挙げることができる。これらの化合物は、単独で使用するかまたは2種以上を組み合わせて使用するかのいずれであってもよい。
【0027】
アルコキシシラン化合物の具体例としては、分子内に不飽和二重結合を有する化合物(γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等);分子内にエポキシ基を有する化合物(γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等);分子内にアミノ基を有する化合物(γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等);分子内にメルカプト基を有する化合物(γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等);アルキルシラン(メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン等)等を挙げることができる。その中でも、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、およびフェニルトリメトキシシランが、表面処理された酸化物粒子の分散物の安定性という観点から好ましい。
【0028】
表面処理剤としては、有機樹脂と共重合または架橋する官能基を含む化合物(反応性表面処理剤)も好ましい。このような表面処理剤としては、分子内に不飽和二重結合を含む上述の化合物または重合性不飽和基を少なくとも2個、以下の式(1)
−X−C(=Y)−NH− (1)
(式中、Xは、NH、O(酸素原子)、またはS(硫黄原子)を表し、Yは、OまたはSを表す)で示される基、およびシラノール基もしくは加水分解によりシラノール基を形成する基を含む化合物が好ましい。
【0029】
式(1)で示される基は、好ましくは、ウレタン結合[−O−C(=O)−NH−]、−O−C(=S)−NH−、およびチオウレタン基[−S−C(=O)−NH−]からなる群から選択される少なくとも1種の基である。
【0030】
このような表面処理剤の例としては、分子内にウレタン結合[−O−C(=O)NH−]および/またはチオウレタン結合[−S−C(=O)NH−]および少なくとも2個の重合性不飽和基を含むアルコキシシラン化合物を挙げることができる。このような化合物の具体例としては、以下の式(2)
【化1】


(式中、Rは、メチル基を表し、Rは、1〜6個の炭素原子を有するアルキル基を表し、Rは、水素原子またはメチル基を表し、mは、1または2のいずれかを表し、nは、1〜5の整数を表し、Xは、1〜6個の炭素原子を有する2価のアルキレン基を表し、Yは、3〜14個の炭素原子を有する線状、環式、または分岐の2価の炭化水素基を表し、Zは、2〜14個の炭素原子を有する線状、環式、または分岐の2価の炭化水素基を表し、Zは、エーテル結合を含んでいてもよい)で示される化合物を挙げることができる。
【0031】
式(2)で示される化合物は、メルカプトアルコキシシラン、ジイソシアネート、およびヒドロキシル基含有多官能性(メタ)アクリレートを反応させることによって調製してもよい。
【0032】
好ましい調製方法としては、メルカプトアルコキシシランをジイソシアネートと反応させることによりチオウレタン結合を含む中間体を得、そして残留イソシアネートをヒドロキシル基含有多官能性(メタ)アクリレートと反応させることによりウレタン結合を含む生成物を得る方法を挙げることができる。
【0033】
ジイソシアネートをヒドロキシル基含有多官能性(メタ)アクリレートと反応させることによりウレタン結合を含む中間体を得、そして残留イソシアネートをメルカプトアルコキシシランと反応させることによって同じ生成物を得てもよい。しかしながら、この方法は、メルカプトアルコキシシランと(メタ)アクリル基との付加反応を起こす原因となるので、生成物の純度が低下する。さらに、ゲルが形成される場合もある。
【0034】
式(2)で示される化合物を生成させるのに使用されるメルカプトアルコキシシランの例としては、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリブトキシシラン、γ−メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等を挙げることができる。その中でも、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランおよびγ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシランが好ましい。
【0035】
メルカプトアルコキシシランの市販品の例としては、SH6062(Toray−Dow Corning Silicone Co.,Ltd.製)を挙げることができる。
【0036】
本発明の他の実施形態においては、シリカナノ粒子、例えば、Hanse Chemie AG製のナノクリル(Nanocryl)が粒子として使用される。ナノクリル製品は、広範囲な標準的な不飽和(メタ)アクリル系モノマーおよびオリゴマー(ポリエステル−、エポキシ−、ウレタン−、およびメラミンアクリレート)中に均質に分散されたコロイド状シリカを60%まで含むものである。シリカ相は、直径が約20nmであり、極端に狭い粒度分布を有する表面改質された合成SiO微小球体からなる。好適なナノクリル製品の例は、XP21シリーズのものである。本発明の一実施形態においては、モノアクリレート、例えば、XP21/0765またはXP21/1306が使用される。これらの製品はwww.hanse−chemie.comで探すことができる。
【0037】
本発明の他の実施形態においては、粒子は有機粒子である。
【0038】
有機ポリマー粒子の例としては、ポリオレフィン、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエステル、シリコーン樹脂、スチレン/ジビニルベンゼンコポリマー等を挙げることができる。ポリマー粒子としては、架橋ポリマー粒子または未架橋ポリマー粒子のいずれを使用してもよい。さらに、多くの架橋性モノマーを任意の比率で容易に共重合することができるので、ポリマー粒子を高度に架橋させることができる。有機ポリマー粒子の市販品としては、ミペロン(Mipelon)XM−220(三井石油株式会社(Mitsui Petrochemical Co.,Ltd.)製)、ポリメチルメタクリレート球状微粒子MB、MBX、ポリスチレン粒子SBX(積水化成品工業株式会社(Sekisui Plastics Co.,Ltd.)製)、シリコーン高機能粉末Torayfill(Toray−Dow Corning Silicone Co.,Ltd.製)、機能性球状微粒子ポリマーアートパール(Art Pearl)(根上工業株式会社(Negami Chemical industrial Co.,Ltd.)製)等を挙げることができる。さらに、複合粒子、例えば、コアシェル型ゴム、例えば、アクリル系コアシェル型ゴムを使用してもよい。コアシェル型ゴムの好適な例としては、パラロイド(Paraloid)(ローム・アンド・ハース(Rohm&Haas))およびDurastrength(アルケマ(Arkema))が挙げられる。
【0039】
動的光散乱法または電子顕微鏡法により測定された粒子の数平均粒度は、好ましくは0.003〜3μm、より好ましくは0.004〜1μm、特に0.005〜0.1μm、その中でも特に0.01〜0.03μmである。
【0040】
本発明の一次被覆は、平衡弾性率が約1.5MPa以下である。本発明による平衡弾性率は、ASTM D5026−95aに準拠して、DMTAの引張モード(in tension)で測定され、平衡弾性率は、実験の項に記載するように決定される。このような低平衡弾性率の一次被覆を使用すると、ガラスファイバの減衰損失に対する感度が低くなる。この減衰損失に対する感度を低下させることは、いわゆるマイクロベンディングによる減衰に敏感な、いわゆる「ノンゼロ分散シフトシングルモード光ファイバ」およびマルチモードファイバに特に適切である。好ましくは、平衡弾性率は、約1.3MPa以下、1.2MPa以下、1.0MPa以下、0.9MPa以下、0.8MPa以下、0.7MPa以下、または0.6MPa以下である。通常、平衡弾性率は、約0.05MPa以上、好ましくは約0.1MPa以上、より好ましくは約0.2MPa以上、最も好ましくは約0.3MPa以上であろう。
【0041】
低平衡弾性率製品の場合は、耐空洞形成性を十分に高くすべきである。本発明は、硬化させることにより上述の要件を満たす一次被覆となる一次被覆組成物を提供する。
【0042】
耐空洞形成性は、実験の項に記載する方法に従い測定されるが、これは、約20倍の拡大倍率において定められた個数の空洞が視認できるようになる三軸応力である。本発明においては、引張速度20μm/min(または20%min−1)で厚さ100μmの試料に2番目、4番目、または10番目の空洞が約20倍の拡大倍率で視認できるようになる応力が測定される。
【0043】
本発明は、硬化すると平衡弾性率が約1.5MPa以下となり、10番目の空洞が出現した時点の耐空洞形成性(σ10cav)が少なくとも約1.1MPaとなる一次被覆組成物に関する。好ましくは、σ10cavは、約1.2MPa以上、より好ましくは約1.3MPa以上、最も好ましくは約1.5MPa以上である。
【0044】
さらに本発明は、ガラス光ファイバと、その上に適用された一次被覆と、二次被覆と、場合により続いてその上に適用されたインク組成物とを備える被覆された光ファイバであって、一次被覆が本発明による放射線硬化性一次被覆組成物を硬化させることにより得られる、光ファイバに関する。
【0045】
本発明の放射線硬化性一次被覆組成物を用いると、耐空洞形成性の割には非常に低い平衡弾性率を有しながらも依然として高水準の完全性を有する被覆を作製することが可能になる。
【0046】
さらに本発明は、硬化した二次被覆が高いTgおよび/または23℃における高い貯蔵弾性率を示す被覆系の設計を可能にする。高弾性率を有する二次被覆は、特定のケーブル設計に望ましい。
【0047】
一次被覆は、(非常に)低い、すなわち約1.5MPa以下の平衡弾性率を有し、Tgは約0℃未満、好ましくは約−5℃未満、より好ましくは約−10℃未満、最も好ましくは約−20℃未満である。本明細書におけるTgは、1Hzで高温側から開始した場合のDMTA曲線における最初のtan−δピークを測定する。通常、一次被覆のTgは少なくとも約−80℃、好ましくは少なくとも約−60℃である。
【0048】
通常、1HzのDMTAにおいてtan−δピークとして測定される二次被覆のTgは約40℃以上である。好ましくは、Tgは、約50℃以上、より好ましくは約60℃以上である。通常は、Tgは約100℃以下であろう。本明細書におけるTgは、1Hzで高温側から開始した場合のDMTA曲線における最初のtan−δピークを測定する。23℃における貯蔵弾性率E’は、好ましくは約200MPa以上、より好ましくは400〜3000MPaである。
【0049】
本発明の一実施形態においては、放射線硬化性一次被覆組成物は、光開始剤および添加剤を含む(メタ)アクリレート官能性オリゴマーおよび放射線硬化性モノマーをベースとする。添加剤の例としては、安定剤およびカップリング剤、好ましくはシランカップリング剤が挙げられる。硬化後の一次被覆のガラスへの接着性は、国際公開第99/15473号パンフレット(参照により本明細書に援用する)に記載されている接着性試験に従い測定した場合、通常は、50%RHおよび95%RH(相対湿度)で少なくとも約5g重である。好ましくは、接着力は、50%RHおよび95%RHの両方において少なくとも約10g重、より好ましくは少なくとも約20g重、特に好ましくは少なくとも約50g重、最も好ましくは少なくとも約80g重である。この接着力は、250g重という高さであってもよい。
【0050】
本発明の放射線硬化性一次被覆組成物は、通常、粒子以外に、
(A)分子量が約1000以上の少なくとも1種のオリゴマーを20〜98wt%、好ましくは20〜80wt%、より好ましくは30〜70wt%と、
(B)1種以上の反応性希釈剤を0〜80wt%、好ましくは5〜70wt%、より好ましくは10〜60wt%、最も好ましくは15〜60wt%と、
(C)ラジカル重合反応を開始させるための1種以上の光開始剤を0.1〜20wt%、好ましくは0.5〜15wt%、より好ましくは1〜10wt%、最も好ましくは2〜8wt%と、
(D)添加剤を0〜5wt%と
を含む。
【0051】
好ましくは、オリゴマー(A)は、(メタ)アクリレート基、ウレタン基、および骨格を含むウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーである。(メタ)アクリレートには、アクリレートだけでなくメタクリレート官能性も包含される。骨格は、ポリイソシアネートと反応されたポリオールおよびヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートから誘導されたものである。しかしながら、ウレタンを含まないエチレン性不飽和オリゴマーも使用してもよい。
【0052】
好適なポリオールとしては、例えば、ポリエーテルポリオール、例えば、ポリプロピレングリコール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、アクリルポリオール、炭化水素ポリオール、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ポリオール等がある。これらのポリオールは、単独で使用しても2種以上を組み合わせて使用してもいずれであってもよい。これらのポリオールの構造単位の重合方法に特別な制限はない。ランダム重合、ブロック重合、またはグラフト重合のいずれも許容される。好適なポリオール、ポリイソシアネート、およびヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートの例が国際公開第00/18696号パンフレットに開示されており、これを参照により本明細書に援用する。
【0053】
これらのポリオールの水酸基価から導かれる数平均分子量は、通常、約50〜約25,000g/mol、好ましくは約500〜約15,000g/mol、より好ましくは約1,000〜約8,000g/mol、最も好ましくは約1,500〜6,000g/molである。
【0054】
ウレタン(メタ)アクリレートの調製に用いられる、ポリオール、ジ−またはポリイソシアネート(国際公開第00/18696号パンフレットに開示)、およびヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートの比率は、ポリオールに含まれるヒドロキシル基1当量に対し、ポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基が約1.1〜約3当量、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートに含まれるヒドロキシル基が約0.1〜約1.5当量使用されるように決定される。
【0055】
これらの3種の原料の反応において、ナフテン酸銅、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸亜鉛、ジ−n−ブチルスズジラウレート、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、2−メチルトリエチレンアミン等のウレタン化触媒が、通常は反応体の総量の約0.01〜約1wt%の量で使用される。反応は、約10〜約90℃、好ましくは約30〜約80℃の温度で実施される。
【0056】
本発明の組成物中に用いられるウレタン(メタ)アクリレートの数平均分子量は、好ましくは約1,200〜約20,000g/mol、より好ましくは約2,200〜約10,000g/molの範囲にある。ウレタン(メタ)アクリレートの数平均分子量が約1000g/mol未満の場合、樹脂組成物は室温でガラス状になる傾向があり、一方、数平均分子量が約20,000g/molを超えると組成物の粘度が高くなり、組成物の取り扱いが困難になる。
【0057】
ウレタン(メタ)アクリレートは、好ましくは、樹脂組成物の総量の約20〜約80wt%の量で存在する。組成物が光ファイバの被覆材料として使用される場合、極めて優れた被覆性だけでなく硬化された被覆に優れた可撓性および長期信頼性を確保するためには、約20〜約80wt%の範囲が特に好ましい。
【0058】
好ましいオリゴマーは、ポリエーテルベースのアクリレートオリゴマー、ポリカーボネートアクリレートオリゴマー、ポリエステルアクリレートオリゴマー、アルキドアクリレートオリゴマー、およびアクリル化アクリルオリゴマーである。そのウレタン含有オリゴマーがより好ましい。よりさらに好ましくは、ポリエーテルウレタンアクリレートオリゴマーおよび上述のポリオールのブレンドを用いたウレタンアクリレートオリゴマーであり、特に好ましくは、脂肪族ポリエーテルウレタンアクリレートオリゴマーである。「脂肪族」という用語は、完全に脂肪族のポリイソシアネートが用いられていることを指す。しかしながら、ウレタンを含まないアクリル化アクリルオリゴマー、ウレタンを含まないポリエステルアクリレートオリゴマー、ウレタンを含まないアルキドアクリレートオリゴマー等のウレタンを含まないアクリレートオリゴマーも好ましい。
【0059】
好適な反応性希釈剤(B)は、参照により本明細書に援用する国際公開第97/42130号パンフレットに開示されている重合性単官能性ビニルモノマーおよび重合性多官能性ビニルモノマーである。
【0060】
上記重合性ビニルモノマーは、好ましくは、樹脂組成物の総量の約10〜約70wt%、より好ましくは約15〜約60wt%の量で使用される。好ましい反応性希釈剤は、エトキシル化ノニルフェノールアクリレートやプロポキシル化ノニルフェノールアクリレート等のアルコキシル化アルキル置換フェノールアクリレート、ビニルカプロラクタム等のビニルモノマー、イソデシルアクリレート、ラウリルアクリレート、エチルヘキシルアクリレート、ジエチレングリコールエチルヘキシルアクリレート、エトキシル化ビスフェノールAジアクリレート等のアルコキシル化ビスフェノールAジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラメチレングリコールトリアクリレート(TMGTA)、テトラメチレングリコールジアクリレート(TMGDA)、ネオペンチルグリコールジアクリレート(NPGDA)、およびジプロピレングリコールジアクリレート(DPGDA)である。
【0061】
好ましくは、光開始剤(C)は、フリーラジカル光開始剤である。一般に、フリーラジカル光開始剤は、開始ラジカルが形成される過程に応じて2種類に分類される。照射により単分子結合開裂を起こす化合物は、I型または均等開裂光開始剤(homolytic photo−initiator)と呼ばれる。励起状態にある光開始剤が別の分子(共開始剤)と相互作用することにより二分子反応してラジカルを生成する場合、この開始剤系はII型光開始剤と呼ばれる。一般に、このII型光開始剤の2つの主要な反応経路は、励起された開始剤による水素引き抜きまたは光誘起電子移動に開裂が続くものである。
【0062】
好適なフリーラジカル光開始剤の例が国際公開第00/18696号パンフレットに開示されており、これを参照により本明細書に援用する。
【0063】
好ましくは、存在する光開始剤の総量は、被覆組成物の総量に対し約0.10wt%〜約20.0wt%である。より好ましくは、この総量は、少なくとも約0.5wt%、特に好ましくは少なくとも約1.0wt%、最も好ましくは少なくとも約2.0wt%である。さらに、この総量は、好ましくは約15.0wt%未満、より好ましくは約10.0wt%未満、特に好ましくは約6.0wt%未満である。
【0064】
本発明の好ましい一実施形態においては、少なくとも1種の光開始剤は、リン、硫黄、または窒素原子を含む。よりさらに好ましくは、光開始剤混合物(photo−initiator package)は、リン原子を含む光開始剤および硫黄原子を含む光開始剤の組合せを少なくとも含む。
【0065】
本発明の他の実施形態においては、化合物(C)の少なくとも1種は、オリゴマーまたはポリマー光開始剤である。
【0066】
添加剤(D)としては、光ファイバの伝送損失の原因となる水素ガスの発生を防ぐために、アミン化合物を本発明の液状硬化性樹脂組成物に添加してもよい。本明細書において使用してもよいアミンの例としては、ジアリルアミン、ジイソプロピルアミン、ジエチルアミン、ジエチルヘキシルアミン等を挙げることができる。
【0067】
上述の成分に加えて、酸化防止剤、UV吸収剤、光安定剤、シランカップリング剤、塗面改良剤、熱重合禁止剤、レベリング剤、界面活性剤、着色剤、防腐剤、可塑剤、潤滑剤、溶剤、充填材、老化防止剤、濡れ性向上剤等の様々な添加剤を必要に応じて本発明の液状硬化性樹脂組成物中に使用してもよい。一次被覆中に着色剤を使用する場合は、好ましくは、顔料に替えてダイを使用する。より好ましくは、着色剤を使用しない。
【0068】
放射線硬化性一次被覆組成物は、例えば、欧州特許出願公開第0565798号明細書、欧州特許出願公開第0566801A2号明細書、欧州特許出願公開第0895606号明細書、欧州特許出願公開第0835606号明細書、および欧州特許出願公開第0894277号明細書に記載されている。特に、低平衡弾性率被覆は、国際公開第99/08975号パンフレット、国際公開第99/52958号パンフレット、国際公開第91/03499号パンフレット、および欧州特許第566801B1号明細書に記載されている。これらの参考文献は、当業者が低平衡弾性率被覆を製造するのに十分な情報を提供するので、その内容を参照により本明細書に援用する。
【0069】
本発明の液状硬化性樹脂組成物の23℃におけるゼロ剪断粘度は、通常、約0.2〜約200Pa.s、好ましくは約2〜約15Pa.sの範囲にある。
【0070】
本発明の一次被覆の破断伸びは、典型的には約50%を超え、好ましくは約60%を超え、より好ましくは、破断伸びは少なくとも約100%、より好ましくは少なくとも約150%であるが、典型的には、約400%を超えない。破断伸びは、それぞれ5mm/min、50mm/min、または500mm/minの速度で測定してもよいが、好ましくは50mm/minである。
【0071】
本発明の好ましい一実施形態によれば、平衡弾性率Eが約1.5MPa以下である一次被覆は、体膨張係数α23が約6.85×10−4−1以下、好ましくは約6.70×10−4−1以下、より好ましくは約6.60×10−4−1以下、よりさらに好ましくは約6.50×10−4−1以下、最も好ましくは約6.30×10−4−1以下である。
【0072】
本発明はまた、本発明による放射線硬化性一次被覆組成物および放射線硬化性二次被覆組成物を備えるガラス光ファイバ用被覆系にも関する。
【0073】
一般に、放射線硬化性一次被覆組成物中の粒子は、一次被覆組成物を硬化させることにより無色透明な一次被覆が得られるように選択される。
【0074】
一般に、光ファイバは、最初に一次被覆、続いて二次被覆で被覆される。この被覆は、ウェットオンウェット系(一次被覆を先に硬化させない)として適用してもウェットオンドライ系として適用してもよい。一次被覆をダイで着色してもよいし、または二次被覆を顔料もしくはダイで着色してもよいし、または透明な二次被覆をさらにインクで被覆してもよい。通常、一次および二次被覆の厚みは、それぞれ約30μmである。通常、インク被覆の厚みは、約5μm(3〜10μm)である。
【0075】
被覆および好ましくは着色された光ファイバは、上記光ファイバを複数本(通常は平行に整列されている)備えるテープ心線に使用してもよい。この複数本の光ファイバは、テープ心線を得るための1種以上のマトリックス材料でさらに被覆されている。したがって、さらに本発明は、通常は平行に整列した、被覆が施され好ましくは着色された光ファイバを複数本備え、上記被覆された光ファイバが、少なくとも本発明による一次被覆および好ましくは本発明による二次被覆を備えるテープ心線に関する。
【0076】
以下の実施例および試験方法により本発明をさらに説明する。
【0077】
[試験方法の説明]
[A.耐空洞形成性の測定]
[測定構成]
測定構成については、国際公開第02/42237号パンフレットに記載されており、これを参照により本明細書に援用する。
【0078】
測定構成は、装置の(可動)天板にビデオカメラが取り付けられたディジタル制御式ディジタル引張試験機ZWICK1484からなる。ロードセルに接続された固定具で試料を所定の位置に固定する。こうすることにより、空洞の成長をリアルタイムで追跡することができる。
【0079】
再現性のある耐空洞形成性の値を得るために、測定構成自体に関する2つの重要な点に留意すべきである。まず第1に、空洞形成が開始する力および硬化した被覆内の実際の応力レベル間の正確な変換を可能にするためには、構成のパラレリティ(parallellity)が非常に重要である。板のパラレリティが非常に良好な場合は、フィルム全体への応力の分配がほぼ平坦になり、被覆層は(ほぼ)(力/試料面積)の比に等しい均等な3軸応力レベルσを受ける。
【0080】
一方、構成の位置合わせが不十分であった場合は、試料にトルクが働き、その結果としてポリマーフィルムに不均一な裂けが生じる場合がある。この場合、応力分布が均等でないため、記録された力の信号をフィルム内の実際の応力に変換することが困難になる。
【0081】
平行度は、引張試験機の可動板上の3つのマイクロメータネジを用いて精密調整することができる。円形のガラス板(直径が40mm、厚みが少なくとも5mm)を使用し、調整板に嵌め込まれた3つの焼き入れした鋼球を用いることにより、マイクロメータネジの精度(約1μm)の範囲内で測定構成内の試料の平行度を調整することができる。
【0082】
他の重要な要素は、構成全体の剛性にあり、測定構成内に弾性エネルギーが貯蔵されるのを防ぐために、測定構成のコンプライアンスを可能な限り低くするべきである。したがって、調整板を厚さ15mmの鋼製とし、それによって、構成全体のコンプライアンスを約0.2μm/Nとした。コンプライアンスの測定は、同じ形状の溶接された鋼試料を用いて行い、測定された力および変位から決定する。
【0083】
[試料の調製]
ガラス板(ボロケイ酸塩(boro silicatum)ガラス)および石英ビレットを、ガラス板の粗さ(Ra)の値が1.17±0.18μmとなり、石英ビレットの粗さ(Ra)の値が1.18±0.04μmとなる程度まで、カーボランダム粉末を用いて微細研磨した。次いで、このガラスおよび石英片を600℃のオーブンで1時間焼くことによって汚れを除去し、表面をアセトンで洗浄した後、乾燥させた。きれいな面にホコリが溜まらないよう、密閉容器に保管した。
【0084】
表面を以下のようにシラン溶液で処理した。
【0085】
[シラン溶液の調製]
エタノール95%−水5%の溶液を酢酸でpH4.5〜5.5に調整し、シラン(ウィトコ(Witco)からのメタクリロキシプロピルトリメトキシシランA174)を加えることにより5%シラン溶液(おおよそで、エタノール74.39wt%/水3.84wt%/酢酸16.44wt%/シラン5.32wt%)を得た。このシラン溶液を室温で5分間放置して加水分解させてシラノールを形成させた。
【0086】
調製直後のシラン溶液をピペットを用いてガラスまたは石英の表面に適用した。処理されたガラスまたは石英板を90℃のオーブンに入れて5〜10分間でシラン層を硬化させた。処理されたガラスまたは石英板をエタノールに静かに浸すことにより過剰な物質を洗い流した。
【0087】
実施例を以下のように組み立てた。
【0088】
2枚板構成のマイクロメータ(two−plate micrometer)の上側の板に吸引装置(吸引ポンプ)を用いて石英カップを取り付けた。
【0089】
石英ビレットおよびガラス板の両方を用いてマイクロメータのゼロ点調整を行った。ガラス板の中央に樹脂滴を静かに載せた。
【0090】
2枚板構成のマイクロメータの下側の板にガラス板を載せ、石英ビレットを樹脂滴にゆっくり押し当てながらフィルム厚を調整した。次いで、Fusion F600W UVランプ装置(ランプとして、R500の反射板を備えた1600Mの発光体(600W/インチ;これは240W/cmに相当するので、合計6000W)を有し、1つはHバルブを有するUVランプ、1つはDバルブを有するUVランプである)を用いて1J/cmの紫外線を照射することにより試料を硬化させた(試料の硬化にはDバルブを使用した)。
【0091】
UV光による後硬化を起こすことができないように試料を暗所に保管した。
【0092】
硬化した試料は、調製から1〜2時間以内に測定を行った。
【0093】
[測定]
ZWICKからの1484型引張試験装置に試料を取り付けた。
【0094】
実験開始時にフィルムに加えられた応力を表示しながらビデオカメラでフィルムの挙動を記録した。特段の断りがない限り、引張速度は20μm/minとした。顕微鏡を用いて約20倍に拡大した(9.5mmの試料をビデオスクリーン上で19cmに拡大した)。ビデオテープから、特定の測定応力において複数の空洞が出現したことを確認した。
【0095】
[B.平衡弾性率の測定:DMTAによる23℃における貯蔵弾性率(E’23)およびガラス転移温度]
[試料調製]
上の段落Aに記載したように、Fusion F600W UVランプ装置を使用し、Dバルブを用いて、ベルト速度を20.1m/minとして、1J/cmのUV照射量(AN international Light 390−bugを用いて測定)で試料を硬化させた。
【0096】
[測定]
標準的な基準であるASTM D5026−95a「Standard Test Method for Measuring the Dynamic Mechanical Properties of Plastics in Tension(プラスチックの動的機械特性を引張モードで測定するための標準的試験方法)」に従い、本発明の被覆に適した以下の条件で動的機械分析(DMTA)(引張)を行うことにより、本発明の一次被覆の平衡弾性率を測定した。
【0097】
以下の試験条件で温度掃引測定を実施した。
【0098】
【表1】

【0099】
装置の較正はすべてISO 9001に準じて行った。
【0100】
動的測定であるDMTA測定において、以下の弾性率を測定した:貯蔵弾性率E’、損失弾性率E”、および以下の関係式:E=(E’+E”1/2に従う動的弾性率E。損失正接tanδ=E”/E’を用いてTgを決定した。
【0101】
上に詳述した条件下において周波数1Hzで測定されたDMTA曲線の10〜100℃の温度範囲における貯蔵弾性率E’の最小値を被覆の平衡弾性率とする。DMTA曲線の23℃における貯蔵弾性率E’をE’23とする。
【0102】
[実施例]
[オリゴマーAの合成]
1Lの4ッ口丸底フラスコに、機械的攪拌機、温度計、環流冷却器、滴下漏斗、および乾燥空気の導入ラインを取り付けた。2,4−トルエンジイソシアネート(Mondur(登録商標)TDS)49.36グラムおよび2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)0.25グラムを秤量してフラスコに入れた。この混合物を室温の乾燥空気雰囲気中、固体が完全に溶解するまで撹拌した。結果として得られた溶液に、2−ヒドロキシエチルアクリレート(2−HEA)16.45グラムを、45〜60分で添加が完了する速度で加えた。添加中、温度を60℃まで上昇させた。添加完了後に温度を60℃で1時間保持し、次いで、ジブチルスズジラウレート0.25グラムを加えた。ジブチルスズジラウレートを加えた後、温度を60℃でさらに30分間保持し、この時点で試料を採取し、ジブチルアミン試薬でブロモフェノールブルー終点まで滴定することにより残留イソシアネート含量を測定した。残留イソシアネート含量の値が理論値に到達したら残りの添加を開始してもよい。結果として得られた溶液に、ヒドロキシル末端ポリ(プロピレングリコール)(Pluracol(登録商標)P2010)433.68グラムを加えた。添加は滴下漏斗を用いて15〜30分かけて行うかあるいは適当な容器から一度に行ってもよい。添加が完了したら混合物を85℃に加熱し、イソシアネート値が0.2%未満を記録するまでこの温度を維持する。次いで、結果として得られたオリゴマーを好適な容器に注ぐ。
【0103】
[配合実施例1〜3および比較実験A]
【0104】
【表2】

【0105】
[平衡弾性率および耐空洞形成性 実施例1〜3および比較実験A]
【0106】
【表3】

【0107】
この結果から、ナノクリルXP21/1306粒子が一次被覆中に存在することによって、限られた平衡弾性率の上昇を犠牲にするのみで、耐空洞形成性が大幅に向上することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子を0.6〜10vol%を含む放射線硬化性一次被覆組成物であって、硬化すると平衡弾性率が約1.5MPa以下となり、かつ10番目の空洞が出現した時点の耐空洞形成性(σ10cav)が少なくとも約1.1MPaとなる、放射線硬化性一次被覆組成物。
【請求項2】
前記粒子の扁平度m=B/Tが10以下(ここで、厚みTは、前記粒子の対向する面(1つの面は、安定度が最も高い面である)の接線方向にある2つの平行な面間の最小距離であり、幅Bは、前記厚みTを画定する前記面に垂直であり、かつ前記粒子の対向する面の接線方向にある2つの平行な面間の最小距離である)であり、かつ前記粒子の長さLが0.003〜3μm(ここで、Lは、前記厚みTおよび幅Bを画定する前記面に垂直であり、かつ前記粒子の対向する面の接線方向にある2つの平行な面間の距離である)である、請求項1に記載の放射線硬化性一次被覆組成物。
【請求項3】
前記粒子が、1種以上の種類の無機粒子である、請求項1または2に記載の放射線硬化性一次被覆組成物。
【請求項4】
前記粒子が、その表面に反応性有機基を有する、請求項3に記載の放射線硬化性一次被覆組成物。
【請求項5】
前記粒子が、1種以上の種類の有機粒子である、請求項1または2に記載の放射線硬化性一次被覆組成物。
【請求項6】
前記粒子が、前記一次被覆組成物を硬化させることによって得られる一次被覆が無色透明になるように選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の放射線硬化性一次被覆組成物。
【請求項7】
(A)分子量が約1000以上の少なくとも1種のオリゴマーを20〜98wt%と、
(B)1種以上の反応性希釈剤を0〜80wt%と、
(C)ラジカル重合反応を開始させるための1種以上の光開始剤を0.1〜20wt%と、
(D)添加剤を0〜5wt%と
をさらに含み、粒子の総量および(A)〜(D)を合計すると100wt%となる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の放射線硬化性一次被覆組成物。
【請求項8】
前記σ10cavが、少なくとも約1.1MPaである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の放射線硬化性一次被覆組成物。
【請求項9】
前記平衡弾性率が、約1.2MPa以下である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の放射線硬化性一次被覆組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の放射線硬化性一次被覆組成物および放射線硬化性二次被覆組成物を備えるガラス光ファイバの被覆系。
【請求項11】
ガラス光ファイバ、その上に適用された、請求項1〜9のいずれか一項に記載の一次被覆組成物を硬化させることにより得られる一次被覆、前記一次被覆上に適用された二次被覆、および場合により前記二次被覆上に適用されたインク組成物を備える、被覆された光ファイバ。
【請求項12】
平面状に整列されてマトリックス組成物中に埋め込まれた、被覆および場合により着色された複数本の光ファイバを備える光ファイバテープ心線であって、少なくとも1本の被覆された光ファイバが請求項11に記載の被覆された光ファイバである、光ファイバテープ心線。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の放射線硬化性一次被覆組成物の、ガラス光ファイバを被覆するための使用。

【公表番号】特表2010−511770(P2010−511770A)
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540187(P2009−540187)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【国際出願番号】PCT/NL2007/050617
【国際公開番号】WO2008/069656
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】