説明

放射線被曝レベルの検出装置および検出方法

【構成】様々な構成の光励起性保存蛍燐光体および読み出し装置を使用して、放射線被曝を検出/モニタリングするための方法および装置を開示する。本発明の適用分野は国土安全保障、緊急事態対応、および医療分野である。一つの形態による装置は受信用の携行式線量測定装置、および複数の蛍燐光体素子で構成するため、大量被曝が発生した場合に住民スクリーニングを実施することができる。医療用途の別な形態は、挿入可能なプローブおよび接着性蛍燐光体パッチで構成するため、医療分野またはイメージング分野における放射線被曝を検出するために使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射線被曝の検出およびモニタリングするための装置および方法に関する。より具体的には、本発明は光励起性保存蛍燐光体(phosphor)によってX線、γ線や紫外線などの電離放射線を検出およびモニタリングすることに関する。
【0002】
本発明の具体的な応用分野は国土安全保障分野、緊急事態対応分野、および医療分野である。
【背景技術】
【0003】
光学的に刺激された保存蛍燐光体はX線などの電離放射線に暴露されると、準安定子電子ホール対を形成する物質であり、公知である。従来からこのような化合物は、医療用画像形成を目的としてイメージングプレート(imaging plate)として利用されている。この場合、イメージングプレートに検出すべき放射線を暴露してから、次の読み出し工程で低エネルギー可視レーザー光または低エネルギー赤外レーザー光にこのプレートを露光し、蛍燐光体内の潜在的なX線エネルギーを高エネルギー(例えば青−緑の)可視光の発光として発光する。このイメージング方法はコンピュータX線撮影と呼ばれ、蛍燐光体からの可視光発光を検出し、得られた電気信号をデジタルフォーマットに変換し、記録し、表示スクリーンに表示する。
【0004】
これら従来の光学的に刺激された蛍燐光体の場合、この蛍燐光体に保存された情報が読み出し工程で消去されるため、イメージングプレートを次に再使用することができる。
【0005】
線量測定に使用するさい、即ち被曝線量を測定するために使用するさい、従業員が被曝する恐れがある場合、経営者側は熱ルミネスセント蛍燐光体または光学的に刺激された蛍燐光体を組み入れた 線量カードまたはバッジを用意し、その被曝線量を記録しなければならない。熱ルミネスセント蛍燐光体も光学的に刺激された蛍燐光体も、カードの読み出し時に情報が消去される。
【0006】
WO2006/063409(Reisen&Kaczmarek)公報には、三価の+3酸化状態にあり、X線、γ線や紫外線などの放射線が照射されると2価の+2酸化状態に還元する希土類元素に基づく異なるクラスの保存蛍燐光体が開示されている。このような蛍燐光体の好ましい実例はBaFCl:Sm3+であり、X線、γ線や紫外線を照射すると相対的に安定なSm2+金属イオントラップを生成する。
【0007】
これらホトルミネセンス保存蛍燐光体が光学的に刺激された蛍燐光体と相違する点は、蛍燐光体が光励起しても電子ホール対の反転は生じないが、その代わりに狭い帯域で蛍燐光体が発光し、蛍燐光体の情報が自動的に消去されることがない点である。また、相対的に高いエネルギー(例えばブルー)の光によってホトルミネスセント蛍燐光体が光励起すると、蛍燐光体に保存されているX線エネルギーが放出されないため、相対的に低いエネルギー(例えばレッド)の発光が生じる。
【0008】
WO2006/063409号公報には、放射線への露光時に生成されるこれら安定な2価希土類(RE2+)中心が従来の蛍燐光体よりも狭いルミネセンスラインを発光し、かつコントラスト比も高くなるため、感光性が強くなり、医療用イメージング分野において低い放射線線量を利用できることが開示されている。さらに、イメージングプレートに保存されている情報が読み出し時に自動的に消去されることはないが、適宜選択される波長および強度の光に露光すると、計画的な消去が可能になり、イメージングプレートの再利用が可能になる。
【0009】
2008年10月8日に出願されたPCT/AU08/001566号公報(Riesen)には、蛍燐光体からのホスホレスセント発光に対して励起光源にゲート作用を与える少なくとも一つのゲート作用元素を有し、WO2006/063409号公報に開示されているタイプのホトルミネセンス保存蛍燐光体の読み出しに好適な装置および方法が開示されている。
【0010】
WO2006/063409号公報およびPCT/AU08/001566号公報の内容についてはいずれも本開示に援用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO2006/063409号公報
【特許文献2】PCT/AU08/001566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、例えば安全保障分野、緊急事態対応分野および医療分野などで使用できる、被曝放射線量の検出およびモニタリングを行う新しい装置および方法を提供することである。
【0013】
本発明の各態様については、以下の詳細な説明および特許請求の範囲の記載から明らかになるはずである。
【0014】
以下添付図面を参照して本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】放射線脅威を始めとするテロリスト脅威に関連する米国の国土安全保障の“脅威スペクトル”を示す図である。
【図2】は、本発明の第1実施態様に従って構成した個人線量測定ユニットおよびカードの一つの実施例を示す図である。
【図3】本発明の別な実施態様に従って構成した実施例の線量測定読み出し装置を示す図である。
【図4】本発明のさらに別な実施態様に従って構成した実施例の線量測定読み出し装置を示す図である。
【図5】本発明のさらに別な実施態様に従って構成した実施例の線量測定読み出し装置を示す図である。
【図6】携帯式線量測定カードの一実施態様を示す図である。
【図7】蛍燐光体カード、検出装置および表示装置を内蔵した自蔵式線量測定装置の一実施態様を示す図である。
【図8】医療用途を対象とした、線量測定ユニットおよびプローブから構成した本発明の一実施態様を示す図である。
【図9】放射線治療の結果としての実施例である線量分布“マップ”を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
脅威スペクトル
【0017】
図1は、核放射線脅威などのテロリズム事象の回避および抑制を目的とした米国国土安全保障の“脅威スペクトル”戦略を示す図である(出典:Deloitte Consulting)。同様な戦略思考は、他の政府によっても採用されている。
【0018】
この脅威スペクトルは、大きく2つのカテゴリーに分けられる。即ち、発見、予防対策および準備対策からなる事象の衝撃前に取られる“脅威回避”カテゴリーと、そして応戦、回復および抑止からなる事象後に取られる“衝撃抑制”カテゴリーである。
【0019】
国土安全保障戦略全体に適合するように、脅威に対する反応および安全保障対策はこれら対応策の一つかそれ以上と相関していなければならない。
【0020】
放射能物質搬送に関する検出装置
本発明の一態様は、“汚い爆弾(dirty bomb)”核装置に使用される恐れのあるグレードの低い核物質などの核分裂物質の搬送を検出対象とする装置および方法に関する。
【0021】
本発明のこの実施態様の場合、高感度放射線検出システムは読み出し時に情報の自動的な消去が生じないホトルミネセンス蛍燐光体物質(photoluminescent phosphor material)、より具体的にはWO2006/063409号公報およびPCT/AU08/001566号公報に記載されているように、3価の3+酸化状態希土類元素を含む蛍燐光体物質を含有する一つかそれ以上の蛍燐光体プレートを有する。
【0022】
本発明の検出システムの場合、蛍燐光体物質の連続シートからなるプレートというよりむしろ、蛍燐光体ドットなどを配列したアレイ(array)から構成することができる。
【0023】
線量計プレートまたはアレイは、上記のような物質の搬送を検出しこれを防止することが望ましい港湾、国境、車両置場あるいはコンテナの輸送/移送施設などの場所において所定位置に永久的に、あるいは半永久的に据え付けておく。本発明の線量計プレートの場合、輸送車両、コンテナまたは人が近接通過する場所であって、簡単には迂回できない場所、例えば道路レーンまたはゲートウェイの両脇、車両が上または下を走行する表面、または空港の身体検査所や手荷物検査ステーションに設置することが好ましい。例えば、検出装置は空港やビルの金属検知ステーションに組み込んでおくことができる。
【0024】
放射能物質を携行した人間や物品が検出装置のそばを通過すると、希土類金属が2+状態に還元することによって放射能物質からの放出放射線に反応する。これは、読み出し装置による蛍燐光体の光励起によって検出でき、また蛍燐光体によって発光する光の検出によって検出できる。なお、細部についてはWO2006/063409号公報およびPCT/AU08/001566号公報に記載がある。
【0025】
搬送されている放射能物質のグレードが比較的低い、あるいは少量である、あるいは検出を逃れようとして遮蔽されている場合を想定して、蛍燐光体の結晶サイズおよび読み出し装置の構成を高感度検出向きにしておくのが好ましい。特に読み出し装置の場合、永久的に、あるいは反永久的に据え付けることができるため、比較的大型で、コストの高い設備を利用でき、蛍燐光体の光励起のために高品質安定化レーザー装置を利用でき、また発光光の検出のために高精度光検出器を利用でき、そして蛍燐光体プレートまたはアレイ上に適宜選択される複数の試験サイトを利用できる。
【0026】
非消去性蛍燐光体物質を使用することによって、背景放射線レベルをより精密に考慮することが可能になる。これは、車両やコンテナが検出器ステーションを通過する前に基線測定を行い、そして基線測定直後にさらに測定を行うことによって実現できる。また、蛍燐光体の非消去特性により、測定およびデータ分析を追加実施できる。例えば、ほぼ同じデータ点で複数の読み出し値を獲得すると、比較的低いSN比条件において検出精度をさらに高くすることができる。
【0027】
さらに、非消去性蛍燐光体物質を利用すると、より長いサイクルで、例えば複数の車両に対して測定値を分析することができるため、正常値に対して矛盾がある場合には、これを認識することが可能になり、また監視ビデオ画像などの他の形態の安全保障データに対してデータをクロスチェックすることができる。
【0028】
ファーストレスポンダー個人線量測定モニタリング
本発明の別な形態は、所謂“ファーストレスポンダー”(警察、消防署、救急隊および危険物質(Hazmat)取り扱い関係者)などの緊急要員などを始めとする放射線事象が発生した場合における要員の個人線量測定モニタリングに関し、そして一般的には住民スクリーニングにおける個人線量測定モニタリングに関する。
【0029】
本発明の一実施態様は、例えば、ファーストレスポンダーが制服の一部として装着することができる携帯式線量測定モニターから構成したファーストレスポンダーのための線量測定装置および線量測定方法に関する。
【0030】
個人線量測定モニタリングユニット/線量計カードの一例を図2に示す。
【0031】
上述したように、またWO2006/063409号公報およびPCT/AU08/001566号公報に記載されているように、本発明装置は、放射線に照射されると、検出すべき放射線核種によって酸化状態が変化する3+の3価希土類元素に基づく蛍燐光体の層を有する線量測定カードから構成することができる。蛍燐光体カードは、光励起源および蛍燐光体からの発光を検出する検出装置を有する携帯式モニタリング装置内に保持する。
【0032】
本発明のカードは、カードに構造的に一体化する好適な物質基体/基層、蛍燐光体層、および物理的な損傷および偶然的な被曝から蛍燐光体層を保護するオーバーコート層および/または外側ケーシングから構成することができる。
【0033】
本発明カードを組み込むか、あるいは保持する個人線量測定モニター装置は、周期的に、例えば1秒おきと5分おきとの間、より好ましくは5〜30秒おきなどの2秒おきと1分おきとの間で蛍燐光体からの情報獲得を開始する制御回路、ソフトウェアなどを有する。本発明の一実施態様では、約10秒おきに蛍燐光体の光励起が開始する。
【0034】
例えば1時間周期、1日周期または1週間周期などの一つかそれ以上の周期で検出された累積合計放射線被曝量をモニター装置によってモニタリングし、記録し、所定の閾値レベルに達したならば、警告信号を発信する。警告としては視覚的警告および/または聴覚的警告があり、例示すれば警告音および/またはLED閃光などである。また、本発明モニター装置は被曝レベルを示す数値表示や画像表示を含むLCDスクリーンまたはLEDスクリーンなどの表示スクリーン、および押しボタンなどの一つかそれ以上の使用者制御手段を有する。
【0035】
さらに、本発明モニター装置には、遠隔通信機能も付加することができるため、エリアモニタリングステーションまたはチームモニタリングステーションなどとして機能する遠隔ステーションなどの遠隔位置に警告を送信することができる。
【0036】
ここで本発明の携帯式線量測定モニタリング装置の対象とする用途に触れると、上述したように、高感度輸送検出装置の必要がない用途である。例えば、携帯式モニター装置の場合、約1〜10mGy程度の放射線感度があればそれで十分である。このため、例えばレーザー式および機械式のゲート装置の代わりに、蛍燐光体の光励起のために適宜選択される波長のパルス式LEDを使用することによって、より小型で、性能がそれ程高くなく、しかも低コストの光励起/検出装置を適用することが可能になる。
【0037】
また、本発明モニター装置は充電式電池などの電源を有する。この電池は、電池の寿命を超える期間ファーストレスポンダーが作業を続行する必要がある場合、あるいは電池充電の電源へのアクセスが限られている場合、交換することができる。
【0038】
本発明の線量測定カードの場合、例えば、以下により詳細に説明するように、モニター装置の一部を分解する必要性、着脱式のカバーを取り外してより精密な線量測定装置でさらに試験する必要性、あるいは個人モニター装置の故障や損傷、平形電池の使用を想定して、モニター装置に半永久的に保持することができる。
【0039】
図2に示す実施態様などの別な実施態様では、蛍燐光体カードは、例えばカードスロットなどの開口によってモニター装置に着脱自在に挿入することができる。なお、この開口に例えばバネ式の射出機構などを設けると、カードの挿入または引き抜きが簡単になる。このように構成すると、上記のようにより精密な装置で試験を行うために個人モニター装置に属するカードを取り外せるだけでなく、放射線事象が発生した場合に、例えば他のファーストレスポンダーや一般住民を被曝スクリーニングするために、この個人モニター装置を利用して他の対応する蛍燐光体カードを試験できる。
【0040】
さらに別な本発明の実施態様では、一つの線量測定装置に2つの線量測定モニターを利用することができる。即ち、第1線量測定装置を有する個人モニター(例えば、モニタリングユニットが割り当てられた個人の放射線被曝レベルを連続検出するためにモニター中に永久的に、半永久的にあるいは着脱自在に取り付けられる第1カードなど)、および放射線事故が発生したさいに、医療補助要員を割り当てるために最初のトリアージ(triage)スクリーニングを可能にし、他の人の線量測定カードの第1パススクリーニング(first pass screening)のために使用してもよい第2の着脱式カードモニタリング/取り付け構成である。
【0041】
必要な場合には、上記2つの線量測定モニターには2つの異なるサイズまたは形状のカードを使用することができる。例えば、第2カード取り付けの場合、一般的な住民のスクリーニング用サイズのより小さなカードを受け取ることができるようにしてもよい。
【0042】
本発明装置の2つの線量測定モニターの場合、異なる線量測定技術を利用することができる。例えば、装置の個人線量測定モニターには、Canberra社のUltraRadiac Personal Radiation Monitorに利用されている公知の半導体系線量測定モニタリング技術を適用することができ、一方本発明装置の第2モニターには上記の着脱式蛍燐光体カードを受け取るスロット技術を利用することができる。住民スクリーンなどに使用しない場合には、第2線量測定カード用の箇所(the secondary dosimeter card bay)は、装着者の被曝レベルを検出するために定期的に参照することができる蛍燐光体カードを第1モニターのバックアップとして保持することができる。
【0043】
図3に、特性および構成は全体として図2の携帯式線量測定読み出し装置と同じであるが、通信ケーブルポートや無線接続によってコンピュータに接続できるようにした携帯式線量測定読み出し装置を示す。このような装置は第1パススクリーニング装置として国土安全保障、軍事用途などで使用できる。
【0044】
スクリーニング/医療トリアージを対象とした線量測定
放射線被曝の治療に関してかなりの研究努力が世界的に行われ、急性放射線症の新規でコストの高い治療が開発段階にある。
【0045】
集団住民被曝を伴う放射線事故が発生した場合、直ちに取らなければならない対策の一つは、迅速な集中治療が必要な人は誰かを、そして他の治療が必要な人は誰かを、即ち治療の優先順位を即座に決定することである。
【0046】
本発明の一つの実施態様は、住民のなかの広い分布に好適で、各自に装着できるため、住民の集団放射線被曝が発生した場合に、集団スクリーニングまたはトリアージを迅速かつ効率よく実施できる複数形態の線量測定検出器を提供するものである。
【0047】
本発明の別な実施態様は、線量測定カードのより精密な測定値を読み出すことができる携帯式線量測定読み出し装置であって、例えばスタッフの日常的な被曝スクリーニングを対象として、あるいは例えば放射線事故が発生した場合に、上記のような個人線量計ユニットを使用して患者を被曝レベルによって粗くカテゴリー化した後、患者の再検査トリアージを行うことを対象として病院施設で使用する携帯式線量測定読み出し装置に関する。
【0048】
図4に、本発明の一実施態様による線量測定読み出し装置の一例を示す。
【0049】
図4の線量測定読み出しユニットは、読み出し対象の線量測定カードを受け取る一つかそれ以上のカードスロット、線量測定モニタリング装置、および電源/制御回路を有するキャビネットシェル(cabinet shell)を備えている。
【0050】
図4に示すように、ユニットキャビネットはラップトップコンピュータのスペースと同じ大きさの高さと深さをもつため、例えば深さが15〜30cm、そして幅が20〜40cmであるため、使用時には、ラップトップコンピュータが占める基部になる。このユニットは、例えばUSBポート規格、wifi接続規格、ブルーツース接続規格やその他の好適な有線/無線接続規格によってラップトップコンピュータと通信する一つかそれ以上の通信手段を装備しているため、ユニットのユーザーインターフェース/ディスプレーとして使用することができる。
【0051】
キャビネットの正面には、参照すべき線量測定カードを受け取るスロット、そして適宜設けられる電源ボタンおよびカード射出ボタンなどの一組の基本的な制御手段および状態表示器がある。
【0052】
カードスロットについては、複数のいくつかの異なるサイズまたはタイプの線量測定カードを受け取ることができるように構成するか、あるいは適宜選択される複数のスロットを設けてもよい。
【0053】
ユニットの検出/モニタリング構成素子については、高感度のものが好ましく、例えば100nGy〜100Gyの測定範囲の解像度が好ましく、あるいは場合に応じて約100nGy〜1mGyの解像度で1mGy〜1Gyの高感度が好ましい。パルス式レーザーまたはLED光源、第1ゲート素子、レンズおよびビームスプリッター、光検出器および第2ゲート素子を利用したPCT/AU2008/001566号公報に開示され、かつ図2および図15に図示されている装置が、一つの好ましい装置形態である。
【0054】
図5に、専用の表示スクリーンおよび制御素子を備えた自立型装置として使用できるため、操作においてラップトップコンピュータやその他のコンピュータに接続する必要がない装置のさらに別な実施態様を示す。図5のユニットの場合、衝撃、および悪影響を与える環境因子でも故障せず耐性をもつ堅牢な構成であることが好ましい。例えば、これは、酷使に耐え得るキャビネット、角部の耐衝撃性保護、および鉱業や軍関連用途を使用対象とする堅牢化携帯コンピュータの構成に関してそれ自体公知な堅牢化手段を利用すれば実現することができる。
【0055】
図5から理解できるように、この実施例のユニットはサイズの小さい線量測定カード、例えば主要寸法がおよそ5〜30mm程度のミニSDカードまたはマイクロSDカードなどの線量測定カードとともに使用することができる。このカードは、装置の可動式かあるいは着脱式のカバーの後に形成した開口からユニットに挿入することができる。
【0056】
前記装置の好適な検出/モニタリング機能は、上記と同じであり、またPCT/AU2008/001566号公報に開示されている通りである。
【0057】
図6に、ファーストレスポンダー隊員、作業員、あるいは放射線事故が発生する恐れのある地域の一般住民に支給することができ、および/または危険物質取り扱いチーム隊員などのファーストレスポンダー隊員によってバックアップ装置として携行することができる線量測定カードの一形態を示す。
【0058】
このカードは、上述したように、基材、蛍燐光体層、および保護層または保護ケーシングから構成することができる。
【0059】
カードの表面には、例えばこの種のカードに特有な世界共通基準による二次元バーコードなどのバーコード領域を形成することができる。また、装置にはバーコード読み出し素子を組み込むことができるため、そのカードが誰のものであるかを確認でき、また医療イメージングまたは放射線治療などの背景的な、または偶然による累積放射線量の概算を可能にする発行日を始めとする、他の適切な情報であって、遠隔データベースに保持することができる情報を確認することができる。
【0060】
線量測定カードの情報を確認する機能に加えて、バーコードは、被試験カードの蛍燐光体の領域との関係が物理的に知られているロケーター(locator)としても機能することができる。従って、バーコードの位置から装置によってカードのどの領域を試験すべきかがわかるため、カードのサイズまたはタイプが異なる装置の利用が簡単になる。
【0061】
ロケーターとしてバーコードを使用する代わりに、あるいはこれに加えて、カードには他のロケーター手段、例えばカードに付けた別なマーキング、あるいはカードに形成したスロットまたはカットアウトなどの物理的な形状体であって、装置による被試験領域の決定に役立つ手段なども利用することができる。
【0062】
図6の線量測定カードの場合、物理的に他の形態を取ることも可能である。具体的には、可撓性の基材に、国土安全保障分野で“共通の国内プラットフォーム(common domestic platform)”として知られているもの、即ち使用者各自が日々の活動において例えば携行する携帯式の、運転免許証、保険証や身分証明書、時計や医療用警告ブレスレットなどにカードを接着できる接着層を設層することができる。一つの実施態様では、カードを可撓性のある自己接着性ストリップとして構成し、個人の消費財物品、例えば携帯電話の電池室カバーの後に、あるいは内部にこのストリップを取り付けることができる。
【0063】
必要ならば、蛍燐光体層をカードの可撓性の小さい部分に形成してもよく、この部分を可撓性の接着性ストリップに組み込むことによって所定位置に固定してもよい。
【0064】
可撓性ストリップカードには、上記したように、例えばバーコードおよび/またはロケーターマーキングを印刷することができる。
【0065】
さらに別な実施態様では、例えば直径が1mm〜5mmの小さなコアサンプルがカードを介して取り出されるようにパンチ加工した、運転免許証や身分証明書などのカード内部に内側層として蛍燐光体を設層することができる。この場合、サンプル縁部でパンチサンプルから蛍燐光体層が露出するため、上述した方法と同じようにして読み出しを行うことができる。
【0066】
線量測定読み取り装置には、例えばパンチおよび試験するためにパンチされたサンプルを受け取るレセプタクル/サンプルホルダーからなる、サンプルをカードから取り出すパンチツールを利用することができる。このパンチ装置は、サンプル縁部を掻き取ってこの縁部をクリーン化して、蛍燐光体を読み出すことができる掻き取り素子(scraper)などとしても機能することができる。
【0067】
カード内部の蛍燐光体層の層厚については、パンチされたサンプルが少なくとも約0.1mg、好ましくは0.1〜10mg、より好ましくは約1〜5mgの蛍燐光体を含む程度であれば十分である。
【0068】
また、蛍燐光体については、複数のサンプルをパンチするために十分な寸法の独立した単層としてカード内部に設層することができる。あるいは、カードの複数の特定領域に蛍燐光体が存在するように構成してもよい。これら領域におけるカードおよび蛍燐光体特性は同一であってもよく、あるいは異なっていてもよい。同じ領域の場合、経時的に複数のサンプルを取り込み比較してもよく、あるいは領域毎に蛍燐光体に隣接してカードに異なる減衰物質または異なるエネルギー補償物質を利用した場合には、カード装着者が被曝した放射線種のより優れた同定を実現することができる。
【0069】
本発明のさらに別な実施態様は、自動表示型個人用線量測定装置であって、蛍燐光体カード、検出装置、およびこの装置が被曝した放射線被曝レベルを表示する表示装置を利用した自動表示型個人用線量測定装置に関する。
【0070】
この装置の一形態を図7に示す。図示の線量測定装置の場合、全体として矩形形状であり、高さおよび幅がおよそクレジットカード程度であり、そしてカード厚がおよそ2〜3倍程度である。この装置は、事故の恐れのある地域の住民全体各自が、例えば財布の中に携行する装置として、あるいは危険物質取り扱いチーム隊員などのファーストレスポンダー隊員のバックアップ装置として使用することができる。
【0071】
この実施態様の装置は、上述の蛍燐光体、蛍燐光体によって検出された放射線被曝量を読み出すモニタリング/測定装置、および被曝レベルを表示する独立した一つの電子表示装置から構成することができる。なお、表示装置としては、危険レベルを表示するグリーン、オレンジおよびレッドのLEDライトを利用するこができる。これらLEDライトのうち2つを一度に発光させることによって、この装置は5つの被曝レベル:グリーン、グリーン/オレンジ、オレンジ、オレンジ/レッド、およびレッドを表示できる。
【0072】
本実施態様の装置は、交換可能な電池または内蔵電池などの電源を有する。
【0073】
カードは、例えば印刷回路基板(PCB)または表面実装構成素子印刷回路基板構成体、PCBと表面実装構成体のハイブリッド体、あるいはソリッドステートな素子および蛍燐光体からなるハイブリッド体で構成することができる。
【0074】
また、カードの表面には、これらレベルそれぞれに対する適切な対応策に関する指示を書き込むことができる。
【0075】
この実施態様の装置も精密な測定ではなく、それほど精度の高くない被曝レベルを表示することを対象とするため、感度についてはおよそ10〜100mGy、好ましくは10〜50mGyの解像度があればよく、読み出し装置もそれほど洗練度の高くない蛍燐光体の光励起のためのパルス式LEDであればよい。
【0076】
電池の故障や動作不良が発生した場合には、カードから蛍燐光体素子を取り出して、図2〜図5に関連して説明したカードモニタリングユニットのうち一つを読み出せばよい。
【0077】
このように、本発明の各種形態の場合、共通技術基盤に基づく一組みの異なる線量測定カード/読み出しを提供することができるため、集団放射線被曝事故が発生した場合の自動表示装置および比較的低コストのファーストレスポンダー/ファーストパススクリーニング読み出し装置から医療的措置を割り当てる事後トリアージを対象とするより感度の高い読み出し装置までの感度もコストも異なる多数の装置によってカードを読み出すことができる。
【0078】
医療治療における放射線量の検出およびモニタリング
本発明のさらに別な形態は、線量測定の医療への応用に、およびメディカルイメージング/デンタルイメージングに関し、より好適には、本発明の癌治療などの放射線治療における線量検出および線量制御への応用に関する。
【0079】
治癒治療または緩和治療に使用する癌治療の一つの形態は、放射線治療である。この治療では、線形加速器(リニアック)からの光子ビームなどの電離放射線ビームを癌の特定部位に照射し癌細胞を破壊する。ビームは患者の体外から照射してもよく(外部ビーム放射線療法)、あるいは腫瘍部位に放射線源を埋めて内部から照射してもよい(小線源療法)。
【0080】
副作用を抑え、かつ皮膚および隣接正常組織への損傷を抑制するために、そして治療の全体効果に耐え得る患者の能力を高めるために、通常は、全放射線量を少量に分け、経時的に照射する。これは、一回の放射線治療クールと数日または数週間にわたる複数クールの両者についていえる。
【0081】
放射線治療では、全放射線量、線量の個別照射線量への分割、および放射線ビームの癌部位への正確な照射が治療の成功にとって重要であり、また治療の副作用を最小限に抑えためにも重要である。
【0082】
本発明の一つの態様の目的は、患者に対してよりよい臨床結果を与えるために役立つ装置および方法を提供することである。
【0083】
一実施例を図8に示す本発明の一つの実施態様は、放射線治療において患者に照射する放射線を検出するさいに使用する放射線検出プローブを提供するものである。このプローブは、その一部に設けられた放射線検出蛍燐光体素子、および蛍燐光体素子を必要な部位、例えば治療すべき腫瘍に隣接する部位に案内する案内ワイヤまたは他の手段を備えた中空ルーメン(lumen)を有するプローブ本体からなる。
【0084】
さらに、本発明のプローブは、一つかそれ以上の光ファイバーなどの光伝達素子を有する。これら素子があるため、適宜選択される波長のLEDまたはレーザー源などの蛍燐光体光励起源を蛍燐光体に照射することによって蛍燐光体の遠隔読み出しが可能になる。また、蛍燐光体から発光した光を患者の外部にある読み出し装置に送ることができる。
【0085】
プローブの遠位端部に設けられる蛍燐光体素子については、読み出し時に情報が消去されないタイプの蛍燐光体からなる素子が好ましく、さらにいえば、上述したように、またWO2006/063409号公報およびPCT/AU08/001566号公報に記載されているように、3価の3+希土類元素を有する蛍燐光体からなる素子が最も好ましい。
【0086】
複数の蛍燐光体素子を離間アレイの形で設けてもよく、例えばプローブに1〜2cmの長さにわたって設けてもよい。蛍燐光体素子にはそれぞれ光ファイバーおよび読み出し機構を設けることができるため、プローブ近傍の治療ビームの全放射線強度プロファイルおよび放射線強度プロファイルの分布の両者に関する情報を得ることができる。あるいは、共通の読み出しデータを共有でき、放射線の全体値を得ることができる。
【0087】
本発明の一つの実施態様では、蛍燐光体素子それぞれは、各光ファイバーの端部に取り付けた蛍燐光体物質のマイクロドットで構成することができる。
【0088】
プローブ本体は細長くかつ可撓性であるため、プローブを目的の位置に案内する案内機構、例えばそれ自体公知なタイプで、手術用プローブおよび遠隔手術器具に関連してよく知られている案内ワイヤ機構を備えた中空ルーメンカテーテルを設けることができる。
【0089】
本発明のプローブは例えば口腔、鼻腔や直腸腔などの体腔から身体内部に挿入してもよく、あるいはリンパ管系を介して、または患者の組織を介して直接患部に経皮挿入またはアクセスしてもよい。
【0090】
プローブの他端部、即ち遠位端部には、図8に示すように、プローブを検出/読み出しユニットに接続する光学的接続部および適宜使用される他の接続部がある。プローブと検出ユニットは患者を取り囲む殺菌フィールドの外部で接続するのが好ましく、プローブのみが殺菌を要する。
【0091】
本発明ユニットは、例えば上記読み出し技術、またWO2006/063409号公報およびPCT/AU08/001566号公報に記載されている読み出し技術を利用した蛍燐光体素子によって検出された放射線被曝レベルを参照し、これを読み出す検出ユニットを利用する。なお、本発明装置内の蛍燐光体カードにブルーLEDまたはレーザー源を照射する代わりに、光ファイバーを介してプローブにそって蛍燐光体に照射して、これを光励起し、上述のように発光させる場合にはこの限りではない。
【0092】
蛍燐光体によって発光された光はプローブ内の光ファイバーにそって検出ユニットに戻り、ここで発光スペクトルが検出分析されて、プローブ位置での放射線量が求められる。
【0093】
複数の光ファイバーを使用して、光励起源としてもよく、また検出ユニットに戻る蛍燐光体光を発光させてもよい。あるいは、独立した一つの光ファイバーを検出ユニットに内蔵されるビームスプリッターと共用してもよく、検出ユニットとプローブとの間に介在配置してもよい。
【0094】
プローブを操作するさいには、放射線治療を開始する前に患者の内部または外部にこれを装着し、プローブの蛍燐光体素子を目的の位置に、通常は被照射腫瘍に隣接する位置に置き、腫瘍への照射線量を決定する。あるいは、腫瘍に隣接する健全な組織近傍に設定し、健全な組織への照射線量を読み出してもよい。
【0095】
検出された放射線照射量読み出し値を次に使用して、次の放射線照射量を設定するための条件を検出表示するか、あるいは検出制御することができる。
【0096】
検出/表示モードを使用する場合には、検出ユニットを使用して放射線技師(医師)に検出された放射線照射量を表示し、累積照射量および予定の放射線照射計画に対する比較などの他の適切な情報を表示することができる。このユニットは、検出された照射量がある一定のパラメーターから外れた場合に、警告信号を音声や画像で示すように設定してもよい。この場合には、放射線技師(医師)は、表示された情報および自身の判断に基づいて次の放射線照射量を調節すればよい。
【0097】
検出/制御モードを使用する場合には、検出ユニットからの検出された照射線量情報を放射線治療装置に通信により戻して、予めプログラム化された照射線量計画と比較するとともに、必要ならば、将来の照射線量に関して装置が発生する放射線量を調節する。
【0098】
さらに別な実施態様では、プローブは例えば接着剤によって患者の皮膚に密着する蛍燐光体パッチで構成することができる。このパッチは、少なくとも一つの蛍燐光体素子、および検出ユニットに接続される光ファイバーから構成する。これら蛍燐光体パッチは、例えば、上述のように放射線治療時に偶然発生する放射線被曝の検出、あるいはメディカルイメージング時の放射線被曝の検出に利用することができる。後者の場合、個々のドットパッチをイメージングフィールドの外側領域にある一つかそれ以上の位置に貼ると、目標領域の影のない状態で放射線照射量を測定できるイメージングを実現することができる。
【0099】
パッチには、それぞれを専用の光ファイバーによって検出ユニットにリンクしたドットなどの複数の蛍燐光体領域を形成することができ、より広い皮膚面積にわたって放射線被曝をモニタリングすることができる。あるいは、複数の離散的なパッチを使用してもよい。
【0100】
蛍燐光体パッチは、上述したように、全体として可撓性ストリップ蛍燐光体パッチを元に構成することができ、また上述したように、バーコードやその他の印などをその上に設けることができる。さらに、パッチに位置マーキングを設けてもよく、患者と機器とを相対的に位置決めするのに役立ち、治療精度を確保することができる。
【0101】
本発明のさらに別な形態では、例えば、蛍燐光体の可撓性シート基材および接着剤を利用した、面積のより広い蛍燐光体パッチを患者の皮膚に貼り付け、放射線治療後に取り外すことができるように構成する。このように構成すると、遠隔地にある読み出し装置によって参照し、読み出し処理を行うことができる。このような装置は構成および操作が全体として本明細書で説明する他の読み出し装置と同様であり、あるいは一つの形態では、パッチをシュラウドで覆うことによって周囲の光を遮断することができる。
【0102】
また、パッチは連続層として、あるいは離散的なドットからなるアレイなどの形でパッチに設けることができる。
【0103】
カードと読み出し装置とのアラインメントを維持するために適宜カード上に形成した位置マーキングや構成を利用すると、本明細書に記載する他の線量計カードのいずれかを読み出すためにも同様にシュラウド実装装置を利用することができる。
【0104】
あるいは、パッチは治療の場で使用することができる。この場合も同様に、バーコードや位置マーキングなどのマーキングを設けることができ、放射線技師(医師)の役に立つ。
【0105】
治療の場でパッチを読み出すために、例えば全体として携帯式バーコードスキャナーと同じ形状の携帯式スキャニングヘッドをケーブルによって読み出し装置本体に取り付けて、読み出し装置を構成することができる。
【0106】
治療の場で使用する読み出し装置の一実施態様では、パッチスキャニングヘッドは、オペレーターによってパッチに被せるシュラウドを有するとともに、環状部分を有する。この環状部分の直径については、パッチの直径よりも大きく設定するか、実質的に同じ直径に設定するのが好ましく、このように設定すると、シュラウドがパッチに隙間なく嵌るため、シュラウドに光が入射することは実質的にない。
【0107】
また、スキャニングヘッドに位置決め手段を設けることも可能であり、この手段がパッチのマーキングと協調し、オペレーターがスキャニングヘッドを正しくアライメントし、かつ位置決めするのに役立つ。例えば、パッチの周囲に、シュラウド内のセンサーによって検出されるマーキングを設けることができ、そしてスキャニングヘッドには、LEDなどを設けることができ、このLEDは例えばレッドからグリーンに変色することによってヘッドが正しい位置にあることを示す。
【0108】
あるいは、スキャニングヘッドに、マイクロ機械式ミラー系またはその他の調節機構を設けると、光学系の微調整を行うことができ、パッチに対するスキャニングヘッドのアライメントに多少の狂いがあっても蛍燐光体を読み出すことができる。
【0109】
本発明の一つの実施態様では、放射線源と腫瘍部位との間において患者の皮膚に貼り付けられる蛍燐光体シートで蛍燐光体パッチを構成することができ、放射線が患者の体内に入射した部分について線量“マップ”を作成することができる。この点が、患者の身体を透過した放射線の画像を形成する従来の放射線イメージングとは異なる。
【0110】
本発明の一つの実施態様では、蛍燐光体パッチの読み出し解像度が比較的低くてもよいため、読み出し装置として、蛍燐光体パッチの等分布刺激源や電荷結合素子(CCD)カメラなどの低コストの検出技術を利用することができる。また一部の実施態様では、使用するCCDカメラの解像度を比較的低く、例えば0.5メガピクセル程度に設定することができる。
【0111】
検出装置が受信した情報を次に処理して、照射放射線の分布および/または入射放射線量をグラフの形で、例えば異なる範囲の放射線線量が異なる色によって描かれているゾーンとして、あるいは放射線線量の色強度が検出線量を表わすように諧調化されたゾーンとして描かれている線量マップを作成する。このような線量マップの一例を図9に示す。図9には、より暗く着色されたゾーンがより高い放射線被曝ゾーンを示す矩形パッチが示されている。最も暗いゾーンが、より狭い治療放射線ゾーンを表し、そしてより明るいゾーンが照射放射線被曝の範囲を示す。
【0112】
あるいは、蛍燐光体シートが多数の離散的な蛍燐光体ドット領域を有している場合、読み出し“マップ”は、読み出し点のアレイとして作成することができる。
【0113】
線量測定蛍燐光体素子を組み込んだ作業着
本発明のさらに別な形態は、例えば、兵員に支給される兵服、緊急隊員または他のファーストレスポンダーに支給される制服などの放射線被曝の恐れのある人員を対象とした作業着、および被曝の恐れのある病院職員やその他のヘルスケア員を対象とした職業を表わす制服、並びに蛍燐光体素子をこれら支給制服に組み込むことによってこのような人員の放射線被曝をモニタリングする方法に関する。
【0114】
本発明の一つの実施態様では、上述したような蛍燐光体材料を救急隊員などの要員の作業制服に組み込むことができる。例えば、蛍燐光体素子は作業制服の生地内の所定位置に設けることができる。具体的には、蛍燐光体は、ポリマー材質中に浮かした状態で設ける(suspended)か、あるいはその他の手段で組み入れ、そして特定の位置において制服の生地に含まれる糸(thread)として形成した蛍燐光体から構成することができる。例えば、蛍燐光体含有糸は、生地に織り込むことができるため、あるいは制服の縫い目またはストライプにそって織り交ぜることができるため、放射線被曝が疑われた場合に、あるいは定期的なルーティン試験のために、取り外して試験することができる。
【0115】
蛍燐光体を浮かした状態で設けたポリマー材質については、蛍燐光体を読み出すために使用する光源下で非蛍光性か、あるいは蛍光性が低くなければならない。
【0116】
本発明の一つの実施態様では、糸を例えばナイロン材質の中空チューブで構成することができ、そこに含有させる蛍燐光体ビーズについては、例えば光学グレードエポキシなどの光学グレード材質に浮かせた状態で設けるか、あるいはこの材質でカプセル化した蛍燐光体物質で構成することができる。放射線事象が疑われる場合には、あるいは定期試験のために、中空糸を切断し、蛍燐光体ビーズを取り出し、読み出しを行うことができる。
【0117】
蛍燐光体物質を含有させる制服の位置は、肺や腎臓などの放射線被曝に対して最も敏感な身体部位に対応させればよく、糸を色コード化またはラベル化すると、どの糸がどの身体部位に対応するかを確認することができるため、着用者の放射線被曝のパターンおよび深刻度を確認することができる。
【0118】
上記の糸に蛍燐光体を含める別な方法として、上述した蛍燐光体のマイクロドットまたはビーズと同様なものを制服の所定の位置に組み入れてもよい。
【0119】
例えば、ある種の兵員が見舞われる恐れがあると考えられる高エネルギー被曝、高線量放射線被曝を検出することが望ましい本発明の一実施態様では、制服の蛍燐光体素子にさらに放射線と相互作用して検出を強める隣接物質、例えばバリウム担持ポリマーやその他の好適な材質を設けてもよく、dmaxを調節することができる。このdmax調節材質は例えば蛍燐光体糸を取り囲むシース(sheath)として、あるいはマイクロドット上の層として組み込むことができ、蛍燐光体を読み出す前に取り外すものである。
【0120】
本発明の一つの形態では、蛍燐光体物質を基材に設け、兵員やその他の被曝の恐れのある人員の皮膚の下に直接埋め込む(なお、身体組織深く、また筋肉組織深く埋め込まない)ことができるために好適な生体適合性の光学グレード物質でカプセル化することができる。埋め込みは、代表的には、簡単に位置決めすることができる身体の領域で行うと、装着者への刺激が最小に抑えられ、特に機械的衝撃や圧力などの作用を受けにくくなる。具体的には、肘上の腕の内部である。
【0121】
本発明の一つの形態では、この埋め込み体(implant)は定期的な間隔で、あるいは放射線被曝事故が疑われた後に取り外して、放射線被曝線量を読み出すことができる。
【0122】
本発明の別な形態では、光ファイバーを含む読み出しプローブ、例えば医療用線量計に関連して上述した線量計と全体として同様な読み出しプローブを使用して、埋め込み体にアクセスできる。この埋め込み体の読み出しプローブの場合、近位端部に、皮膚を貫通して埋め込まれた線量計と物理的に接触する中空ニードルを備えた中空ルーメンカテーテルとして構成することができる。読み出しプローブからの光ファイバーは中空ニードルに引き込まれ、埋め込み体に接触し、読み出しを行う。場合に応じて、カテーテルを灌注加工して、光ファイバーの端部と埋め込み体との間の接触面を洗うことができるようにしてもよい。
【0123】
ニードルプローブには組織深さ計を設けてもよく、このデータを使用すれば、埋め込み体上の組織の層を原因とするエネルギー蓄積量を計算するこができる。
【0124】
本明細書で使用する用語“からなる”は“開かれた”意味で理解すべきであり、即ち“有する”という意味で理解すべきである。換言すると、“閉じられた”意味、即ち“からのみなる”という意味に限定される用語ではない。また、同様な用語“から構成される、で構成される”も明細書に出てくる場合には、同様に解釈すべきである。
【0125】
以上、本発明の具体的な実施態様について説明してきたが、当業者にとっては、本発明の本質的な特徴要件から外れなくても、本発明は他の形態でも実施可能であることは自明なはずである。従って、本発明の実施態様および実施例は、あらゆる点で説明的なもので、制限的なものではなく、従って本発明と等価な意味および範囲内に含まれる変更はいずれも本発明に包含されるものである。さらに、本明細書での公知例への言及は、反対の断りがない限り、このようは公知例が、当業者に共通して知られていたことを認めるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線治療において患者の放射線被曝を検出するさいに使用する放射線線量測定プローブであって、該プローブの一部に設けた放射線検出蛍燐光体、および該蛍燐光体を目的の位置に案内する手段を備えたプローブ本体を有することを特徴とする放射線線量測定プローブ。
【請求項2】
さらに、前記蛍燐光体と前記プローブの遠位端部との間において光を伝達する少なくとも一つの光伝達素子を有する請求項1に記載の放射線線量測定プローブ。
【請求項3】
光励起光源から光を前記蛍燐光体に伝達する第1光伝達素子、および前記蛍燐光体が発光する光を検出装置に伝達する第2光伝達素子を有する請求項2に記載の放射線線量測定プローブ。
【請求項4】
第1光伝達素子が光励起光源から光を前記蛍燐光体に伝達し、かつ前記蛍燐光体が発光する光を検出装置に伝達する請求項2に記載の放射線線量測定プローブ。
【請求項5】
前記光伝達素子が光ファイバーである請求項2〜4のいずれか1項に記載の放射線線量測定プローブ。
【請求項6】
前記プローブが、さらに、前記プローブを放射線線量測定モニタリング装置に接続するコネクターを有する請求項2〜5のいずれか1項に記載の放射線線量測定プローブ。
【請求項7】
前記蛍燐光体が、読み出し時に情報を消去しないタイプの光励起性保存蛍燐光体である請求項1〜6のいずれか1項に記載の放射線線量測定プローブ。
【請求項8】
前記蛍燐光体が、3価の+3酸化状態にある少なくとも一つの希土類元素からなり、そしてX線、γ線または紫外線を照射すると、該3価の+3酸化状態が2価の+2酸化状態に還元される請求項7に記載の放射線線量測定プローブ。
【請求項9】
前記希土類元素がサマリウムである請求項8に記載の放射線線量測定プローブ。
【請求項10】
放射線治療において患者の放射線被曝を検出するさいに使用する放射線線量測定モニターであって、請求項1〜9のいずれか1項に記載のプローブと通信する読み出し装置、および前記蛍燐光体の放射線被曝レベルを表示する表示装置からなる放射線線量測定モニター。
【請求項11】
放射線治療において患者の放射線被曝を検出するさいに使用する放射線線量測定モニタリング装置であって、請求項1〜9のいずれか1項の放射線線量測定プローブ、および請求項10に記載の放射線線量測定モニターからなる放射線線量測定モニタリング装置。
【請求項12】
放射線治療を受ける患者の皮膚に接着する基材、および該基材によって支持され、放射線の照射を受けると酸化状態が変化する蛍燐光体を有することを特徴とする放射線線量測定パッチ。
【請求項13】
前記基材が可撓性である請求項12に記載の放射線線量測定パッチ。
【請求項14】
前記パッチが一つかそれ以上のロケーターマーキングを有する請求項12または13に記載の放射線線量測定パッチ。
【請求項15】
前記パッチがひとつかそれ以上のバーコードマーキングを有する請求項11〜14のいずれか1項に記載の放射線線量測定パッチ。
【請求項16】
放射線治療の照射放射線に反応して前記蛍燐光体の酸化状態が変化し、該治療の該照射放射線線量を記録する請求項11〜15のいずれか1項に記載の放射線線量測定パッチ。
【請求項17】
前記蛍燐光体が、前記治療の前記照射放射線線量の分布を記録する請求項16に記載の放射線線量測定パッチ。
【請求項18】
放射線治療中患者の放射線被曝をモニタリングする方法であって、放射線線量測定プローブの一部に放射線検出蛍燐光体を形成した放射線線量測定プローブおよび該蛍燐光体を案内する手段を有するプローブ本体を準備し、前記患者の放射線治療位置に近接して前記蛍燐光体が設けられるように前記プローブを案内し、そして前記蛍燐光体の刺激および蛍燐光体反応の検出を行うことによって前記蛍燐光体を参照することからなることを特徴とする該モニタリング方法。
【請求項19】
前記プローブに複数の蛍燐光体素子を設け、そしてこれら複数の蛍燐光体素子を参照して、前記治療の放射線分布をモニターする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
放射線治療中患者の放射線被曝をモニタリングする方法であって、該患者の放射線照射側の所定位置において少なくとも一つの蛍燐光体パッチを該患者の皮膚に貼り付けることからなり、このさいに該蛍燐光体パッチとして、基材と、そしてこの基材によって支持され、放射線を照射すると酸化状態が変化する蛍燐光体とからなるパッチを使用し、そしてさらに該蛍燐光体の刺激および蛍燐光体反応の検出によって該蛍燐光体パッチの該蛍燐光体を参照することを含むことを特徴とする上記モニタリング方法。
【請求項21】
前記少なくとも一つの蛍燐光体パッチが複数の蛍燐光体位置を含み、そして前記参照が前記複数の蛍燐光体位置を参照し、放射線被曝の分布を検出することを含む請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記複数の蛍燐光体位置を離散的な蛍燐光体領域によって形成する請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記複数の蛍燐光体位置が独立した一つの蛍燐光体領域内にある請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記参照が前記複数の蛍燐光体位置の同時刺激、および前記複数の蛍燐光体位置の前記蛍燐光体反応のイメージの取り込みからなる請求項21または22に記載の方法。
【請求項25】
前記参照が、可動の参照ヘッドによって前記複数の蛍燐光体領域を個別に参照することからなる請求項22に記載の方法。
【請求項26】
前記可動の参照処理ヘッドが、蛍燐光体領域に対する前記参照ヘッドの目的位置を表示するインジケーターを有する請求項22に記載の方法。
【請求項27】
放射線照射を受けると状態が変化する蛍燐光体、該蛍燐光体を参照して、該蛍燐光体が被曝した放射線レベルを検出する読み出し装置、および該検出された放射線被曝レベルを表示する表示装置からなることを特徴とする個人放射線線量測定モニター。
【請求項28】
前記蛍燐光体が、ホトルミネセンス蛍燐光体である請求項27に記載の個人放射線線量測定モニター。
【請求項29】
前記蛍燐光体が蛍燐光体素子上にあり、この素子が前記読み出し装置に可動的にあるいは交換可能に受け取られる請求項27に記載の個人放射線線量測定モニター。
【請求項30】
前記蛍燐光体素子を取り外し、同様な蛍燐光体素子と交換して同様な蛍燐光体素子の放射線被曝レベルを検出できるように構成した請求項29に記載の個人放射線線量測定モニター。
【請求項31】
2つの放射線被曝検出装置を有する請求項27〜30のいずれか1項に記載の個人放射線線量測定モニター。
【請求項32】
前記2つの放射線検出装置が、前記蛍燐光体および前記読み出し装置からなる第1放射線被曝検出装置、および第2放射線被曝検出装置を有する請求項31に記載の個人放射線線量測定モニター。
【請求項33】
前記第2放射線被曝検出装置が別な蛍燐光体素子、および該別な蛍燐光体素子の読み出し装置からなる請求項32に記載の個人用放射線線量測定モニター。
【請求項34】
前記2つの放射線検出装置が、前記モニターの装着者の放射線被曝レベルを検出する第1放射線被曝検出装置、および他の装着者の蛍燐光体素子を受け取り、これらを試験する第2放射線被曝検出装置を有する請求項31に記載の個人放射線線量測定モニター。
【請求項35】
放射線被曝のスクリーニング対象住民各自に個人放射線保存蛍燐光体装置を支給し、
広範囲の緊急時対策隊員に、前記蛍燐光体装置を参照して前記蛍燐光体装置が被曝した放射線被曝レベルを検出できる第1読み出し装置であって、該放射線被曝レベルを第1感度または解像度まで読み出すことができる第1読み出し装置を支給し、
前記第1読み出し装置を使用して前記住民の一部に前記蛍燐光体装置を試験し、そして被試験住民を検出された放射線被曝レベルに従って分け、
より狭い範囲の緊急時対策隊員に、前記蛍燐光体装置を参照してこの蛍燐光体装置の放射線被曝レベルを検出できる第2読み出し装置であって、前記放射線被曝レベルを前記第1感度または解像度よりも高い第2感度または解像度まで読み出すことができる第2読み出し装置を支給し、そして
前記第2読み出し装置を使用して、前記第1読み出し装置を使用した試験の前記結果によって前記被試験住民から既に分けられている前記住民のさらに一部に前記蛍燐光体装置を試験することを特徴とする放射線被曝を対象としたスクリーニング方法。
【請求項36】
職業上被曝の恐れのある人々を対象としたスクリーニング方法であって、
これらの人々に、一つかそれ以上の放射線保存蛍燐光体素子を有する着衣を支給し、そして
これら放射線保存蛍燐光体素子をスクリーニングして放射線被曝を検出することからなることを特徴とするスクリーニング方法。
【請求項37】
前記の一つかそれ以上の放射線保存蛍燐光体素子が、前記着衣に組み込んだ糸からなる請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記放射線蛍燐光体素子を前記着衣の所定位置に設け、そして各放射線蛍燐光体素子をマーキングして、前記着衣における前記素子の位置を表示するように構成した請求項36または37に記載の方法。
【請求項39】
前記放射線蛍燐光体素子を色でコード化して前記位置を表示するように構成した請求項38に記載の方法。
【請求項40】
一つかそれ以上の放射線蛍燐光体素子を組み込んだことを特徴とする作業着衣。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−524241(P2012−524241A)
【公表日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−504999(P2012−504999)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【国際出願番号】PCT/AU2010/000432
【国際公開番号】WO2010/118478
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(511247105)ドジメトリー アンド イメージング ピーティーワイ リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】DOSIMETRY & IMAGING PTY LTD
【住所又は居所原語表記】Rupert Myers Building,Gate 14 Barker Street,University of New South Wales,Sydney,New South Wales 2052 Australia
【Fターム(参考)】