説明

放射線計測装置

【課題】短時間かつ容易に自身の健全性を確認できる放射線計測装置を提供することを課題とする。特に、放射線計測装置に異常が発生した場合、その異常がいずれのチャンネルで発生したかを短時間且つ容易に特定でき、さらに、荷電粒子ビームを照射することなく、電離箱側の不具合を発見できる放射線計測装置を提供する。
【解決手段】電離箱を用いた放射線計測装置であって、電離箱への印加電圧を変調する機構と、印加電圧の変調中に電離箱から発生する電荷を計測する機構を備えることによって、上記課題を解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を計測する放射線計測装置に係り、特に荷電粒子ビームを計測するのに公的な放射線計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子線治療ではビーム照射法としてスキャニング照射法が普及しつつある。スキャニング照射法は患部を微少領域(以下、スポット)に分割し、スポット毎に細径(1σ=3〜20mm)のビームを照射する。スポットに既定線量が付与されると、照射を停止して次の既定スポットに向けてビームを走査する。照射スポットをビーム進行方向(以下、深部方向)に対して垂直な方向(以下、横方向)に変更する場合は、走査電磁石でビームの照射位置を変更する。ある深さについてすべてのスポットに既定線量が付与されると、照射スポットを深部方向に変更する。照射スポットを深部方向に変更する場合は、加速器もしくはレンジシフタで被照射体に対するビームの入射エネルギーを変更する。最終的に全てのスポット、即ち患部全体に一様な線量が付与される。
【0003】
スキャニング照射法を採用する粒子線照射装置は、指示通りの位置にビームを照射できるよう調整される(位置誤差±1mm以下)。さらに、指示通りの入射エネルギーでビームを照射できるよう調整される(水中飛程誤差±1mm以下)。飛程は媒質中におけるビームの到達深度を示し、ビームの入射エネルギーに依存する。
【0004】
粒子線照射装置の調整結果を確認するため、放射線計測装置を用いてビームの照射位置、及びブラッグカーブが計測される。ブラッグカーブは深部方向に対するLET(線エネルギー付与:Linear Energy Transfer、単位[J/m])の分布であり、ビームの入射エネルギーに依存する。LETは媒質中を進むビーム粒子1個が深部方向へ単位距離進む間に媒質へ付与するエネルギーである。
【0005】
放射線計測装置は主に電離箱と信号処理装置で構成される。電離箱は2つの電極で電離層(材質は空気,希ガス等)を挟み込んだ構造を持つ。一方の電極に高電圧を印加して電離層に電場を形成し、ビーム照射時に電離層で発生した電離電荷を収集する。電離電荷量は電離層におけるビームのエネルギー損失量[MeV/秒]に比例する。また、電離箱は構造的にコンデンサと見なす事ができ、静電容量を持つ。信号処理装置は電離箱で発生した電荷をデジタル値に変換し、ディスプレイ等に表示する。また、ハードディスクドライブ等の記録装置に記録する。
【0006】
非特許文献1の放射線計測装置は深部方向に複数の平行平板電離箱を積層した構造を持ち、重粒子線のブラッグカーブを一度に計測できる。平行平板電離箱は2枚の板状電極で電離層を平行に挟み込んだ構造を持つ。電離層から得られた電荷量(単位[C])に較正係数を乗じると、水中線量D(単位[J/kg])を算出できる。線量Dは電離層の水等価体積で平均化した値である。水等価体積は媒質の横方向面積S×深部方向の水等価厚で表される。水等価厚とは、媒質を水で置き換えた場合に放射線に対して等しいエネルギー損失を与える厚みである。線量DはD=LET×n/ρ/Sの関係を満たす。nは電離層への入射粒子数、ρは媒質の密度(単位[kg/m3])である。非特許文献1の放射線計測装置は横方向に十分広い面積の電離層を持ち、全てのビーム粒子が電離層を通過する。従って、全ての層についてn=一定となるため、線量Dの分布からLETの分布、即ちブラッグカーブを算出できる。
【0007】
特許文献1には、2つの電極を有する放射線検出器と、この電極間に電圧を印加する電圧印加装置を備える放射線計測装置が開示される。この放射線計測装置は、この電極間に定電圧を印加して形成される電界に放射線を照射し、電極間に流れる電流を検出することによって放射線を計測する。
【0008】
粒子線治療装置の品質管理のため、ビーム計測は定期的に実施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5-27040号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】C.Brusasca, et al.,“A dosimetry system for fast measurement of 3D depth dose profiles in charged-particle tumor therapy with scanning techniques”Nucl. Instr. And. Meth. in Phys. Res.B 168 (2000) 578-692
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
保管中や搬送中等に、放射線計測装置が突如故障する場合がある。従って、放射線計測装置の動作確認は頻繁(例えば、ビーム計測毎)に実施されなければならない。
【0012】
電極間に電圧を印加して形成される電界に放射線を照射し、この電極間に流れる電流を計測することで放射線を計測する放射線計測器の場合、この放射線検出器の異常を発見するためには、放射線を照射することが必要となる。しかしながら、このような放射線計測器の場合、放射線を照射する放射線源の設置等の準備に時間を要し、また放射線の計測にも時間を要することになる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は電離箱を用いた放射線計測装置であり、電離箱への印加電圧を変調する機構と、印加電圧の変調中に電離箱から発生する電荷を計測する機構とを備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明の放射線計測装置は、短時間且つ容易に自身の健全性を確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の好適な一実施例である放射線計測装置の陽子線照射装置への適用例を示す図である。
【図2】図1に示す放射線計測装置の構成図である。
【図3】図2に示す積層電離箱の構成図である。
【図4】図3に示す電荷収集用プリント基板の構成図である。
【図5】図3に示す高電圧印加用プリント基板の構成図である。
【図6】ワイヤーチェンバーの構成図である。
【図7】図2に示す主制御装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。
【0017】
本発明の好適な一実施例である放射線計測装置について、図1を用いて説明する。本実施例では、まずスキャニング照射法を用いる陽子線照射装置102の調整及び性能評価のために、放射線計測装置101を用いた例について説明する。本実施例の放射線計測装置101は陽子線照射装置102から照射されたビームが水中に形成するブラッグカーブを計測する。本実施例では放射線照射装置として陽子線照射装置102を例に説明するが、陽子より質量の重い粒子(炭素線等)を用いた重粒子線照射装置にも適用できる。また、光子線,電子線,ミュオン線,パイ中間子線,中性子線を用いた放射線照射装置にも適用できる。
【0018】
図1へ示すように、陽子線照射装置102は陽子線発生装置103,陽子線輸送装置104及び回転式照射装置105を有する。本実施例では回転ガントリーを備える回転式照射装置105を例に説明するが、照射装置は固定式であってもよい。陽子線発生装置103は、イオン源106,前段加速器107(例えば、直線加速器)及びシンクロトロン108を有する。まず、イオン源106から発生した陽子イオンを前段加速器107で加速する。前段加速器107から出射した陽子線(以下、ビーム)は、シンクロトロン108で所定のエネルギーまで加速された後、出射デフレクタ109から陽子線輸送装置104に出射される。最終的に、ビームは回転式照射装置105を経て放射線計測装置101に照射される。回転式照射装置105は回転ガントリー(図示せず)及び照射野形成装置110を有する。回転ガントリーに設置された照射野形成装置110は回転ガントリーと共に回転する。陽子線輸送装置104の一部は回転ガントリーに取り付けられている。本実施例では陽子線の加速装置としてシンクロトロン108を採用したが、サイクロトロンや直線加速器であってもよい。
【0019】
本実施例の照射野形成装置110によって実現される、スキャニング照射法の概略を説明する。スキャニング照射法では照射範囲を微少領域(スポット)に分割し、スポット毎にビームを照射する。スポットに既定線量が付与されると、照射を停止して次の既定スポットに向けてビームを走査する。照射スポットを横方向に変更する場合は照射野形成装置110に搭載した2対の走査電磁石(図示せず)を用いてビームの照射位置を変更する。
ある深さについてすべてのスポットに既定線量が付与されると、ビームのエネルギーをシンクロトロン108もしくは照射野形成装置110等に搭載したレンジシフタ(図示せず)で変更して照射スポットを深部方向に変更する。このような手順を繰り返して最終的に全てのスポットに一様な線量が付与される。
【0020】
走査電磁石を励磁しない状態でビームの中心が通る直線をビーム軸と定義する。また、回転式照射装置105の回転軸とビーム軸との交点をアイソセンタと定義する。スキャニング照射法では、アイソセンタ付近におけるビームの横方向広がりは1σ=3mm〜20mmである。
【0021】
図2を用いて放射線計測装置101の構造を説明する。放射線計測装置101は、レンジシフタ201,レンジシフタ駆動制御装置202,積層電離箱203,高電圧電源204,信号処理装置205及び主制御装置206を有する。
【0022】
レンジシフタ201は積層電離箱203の深部方向上流に位置し、厚みの異なる複数のエネルギー吸収体207を持つ。本実施例では、厚さ0.2mm,0.4mm,0.8mm,1.6mm,3.2mmの5枚である。陽子線照射装置102の調整及び性能評価の項目に応じて放射線計測装置101の深部方向の計測位置を変更するため、エネルギー吸収体207をビーム通過位置上に配置してビームのエネルギーを減衰させる。本実施例では深部方向の計測位置を最小0.2mm間隔で変更できる。変更範囲は0.2mmから6.2mmである。エネルギー吸収体207の素材と厚みの種類は陽子線照射装置102の調整及び性能評価の項目に応じて任意である。本実施例ではABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(Acrylonitrile butadiene styrene)樹脂)を使用する。また、放射線に対するABSと水の阻止能の比は1とする。レンジシフタ駆動制御装置202は、ビーム通過位置上に所望の厚みのエネルギー吸収体207が配置されるよう、レンジシフタ201を駆動・制御する。
【0023】
図3へ示すように、積層電離箱203は、電荷収集用プリント基板(以下、基板A)301と高電圧印加用プリント基板(以下、基板B)302を深部方向へ交互に積層した構造である。陽子線照射装置102の調整及び性能評価の項目に応じて、基板A301と基板B302の任意の積層数で構わない(ただし、各1枚ずつは最低限必要)。基板A301と基板B302の間にはスペーサ303を挿入して電離層を形成する。スペーサ303は絶縁体である。電離層は電離ガスで満たされる。本実施例では電離層を大気開放し、空気を電離ガスとして用いる。電離層を密封し、外部のガスポンプを用いてアルゴン等の電離ガスを循環させる構成でもよい。積層した基板A301,基板B302及びスペーサ303はボルト304を用いて固定する。ただし、基板A301,基板B302及びスペーサ303を安定して積層・固定できる方法であれば、この方法に限らない。
【0024】
基板A301と基板B302は深部方向と直交する面に電極を蒸着したガラスエポキシ板である。電極はニッケルと金でメッキした銅である。ただし、絶縁体であれば基板はガラスエポキシに限らない。同様に、導体であれば電極は銅,ニッケル,金に限らない。
【0025】
図4へ示すように、基板A301の電極は3つの領域へ電気的に分割される。基板A301の中心を含む領域(中心領域)を小電極(第1電極)401、小電極401を取り囲む領域を大電極(第2電極)402、最も外側の領域をガード電極(第3電極)403と呼ぶ。小電極401は導線404に接続し、大電極402は導線405に接続し、ガード電極403は導線406に接続する。小電極401に接続する導線404と大電極402に接続する導線405のもう一端は、基板の内層を通って信号処理装置205の入力側に接続する。つまり、導線404が小電極401と信号処理装置205を接続し、導線405が大電極402と信号処理装置205を接続する。信号処理装置205は、既定時間中に入力した電荷を積算し、積算値を主制御装置206に送信する。ガード電極403に接続する導線406の一端は接地する。ガード電極403は基板B302から小電極401及び大電極402へのリーク電流を防止する。基板A301の電極は両面対称構造であり、表面と同様に裏面に面した電離層からも電荷を収集する。なお、小電極401と大電極402が構成する電極は、放射線計測装置101中の散乱とドリフトによって横方向へ2次元ガウス分布状に広がったスキャニング照射法のビーム(アイソセンタで1σ=3〜20mm)を十分捕獲可能な面積及び形状となっている。
【0026】
図5へ示すように、基板B302の電極は2つの領域へ電気的に分割される。中心領域を高電圧印加電極501、外側をガード電極502と呼ぶ。高電圧印加電極501は導線503に接続し、ガード電極502は導線504に接続する。導線503は高電圧印加電極501と高電圧電源204を接続し、高電圧電源204からの高電圧(絶対値で数千V以下)を高電圧印加電極501に印加する。ガード電極502と接続する導線504の一端は接地する。ガード電極502は基板B302から基板A301の小電極401及び大電極402へのリーク電流を防止する。基板B302の電極は両面対称構造であり、表面と同様に裏面の高電圧印加電極にも高電圧が印加される。基板Aの小電極401及び大電極402はほぼ0Vであり、電離層には電場が生じる。
【0027】
本実施例では、基板A301及び基板B302の1枚分の水等価厚を共に4.0mmとする。電離層(材質は空気)のエネルギー損失量は無視できるため、積層電離箱203のブラッグカーブの計測間隔は4.0mmとなる。
【0028】
本実施例では2重同心円形状としたが、基板A301の電極形状は陽子線照射装置102の調整及び性能評価の項目に応じて任意である。例えば、横方向の線量分布を計測するため電極をピクセル状又はストリップ状に分割し、各セグメントから独立して電離電荷を取り出す構成としてもよい。また、陽子線照射装置102の調整及び性能評価項目に応じた所望の電場分布を電離層に形成可能なら、基板B302の電極形状も任意である。
【0029】
図7へ示すように、主制御装置206にはディスプレイ208が備わる。ディスプレイ208には放射線計測装置101の制御用GUI209が表示される。制御用GUI209上には動作確認用ボタン210が備わる。ただし、動作確認用ボタン210は積層電離箱203や高圧電源204等に実体として備わっていてもよい。
【0030】
放射線計測装置101の動作確認の方法を説明する。まず、操作者は陽子線照射装置102の照射室(図示せず)等に放射線計測装置101を搬送し、任意の場所に設置する。
放射線計測装置101を設置後、操作者は主制御装置206を通して高電圧電源204,信号処理装置205に電源を投入する。基板B302の高電圧印加電極501に高電圧Vが印加され電離層に電場が発生する。小電極401,大電極402の領域に生じる静電容量をそれぞれCs,Clとすると、小電極401,大電極402の表面にはそれぞれCs×V,Cl×Vの電荷が誘起する。Cs,ClはそれぞれCs=ε0×Ss/d,Cs=ε0×Sl/dと示せる。ε0は空気の誘電率、Ssは小電極401の面積、Slは大電極402の面積、dは電離層の厚みである。このようにCs,Clは電離箱の構造にのみ依存するため、落下等の強い衝撃によって構造が変化しない限り一定である。
【0031】
操作者が制御用GUI209上の動作確認用ボタン210を押すと、主制御装置206は信号処理装置205へ計測開始信号を送信する。計測開始信号を受信すると、信号処理装置205は入力電荷の積算を開始する。直後、高圧電源204の出力が一定量(例えば、−100V)変化する。小電極401,大電極402の表面に誘起する電荷はCs×(V−100V),Cl×(V−100V)となり、導線404と導線405にはCs×100V,Cl×100Vの電荷が発生する。信号処理装置205は、導線404と導線405で発生した電荷をそれぞれ独立に積算する。高圧電源204の出力変化量は制御用GUI209から操作者が指定できる。
【0032】
電圧変調が完了すると、主制御装置206は信号処理装置205に計測完了信号を送信する。計測完了信号を受信すると、信号処理装置205は電荷の積算を停止し、積算値をチャンネル毎に主制御装置206へ記録する。記録完了後、信号処理装置205は自身に記録された全チャンネルの積算値をリセットする。最後に、基板B302への印加電圧はVに戻る。
【0033】
動作確認で得られた放射線計測装置101の出力値について、主制御装置206は前回の動作確認時の値からの変化率を計算し、ディスプレイ208に表示する。操作者は変化率に対して任意の閾値を設定できる。閾値を超える変動を見せたチャンネルに対して、主制御装置206はディスプレイ208に異常を通知する。また、主制御装置206は今までの動作確認で得られた記録値の推移をディスプレイ208に表示する。ディスプレイ208に表示された結果から、操作者は放射線計測装置101の健全性を判断する。このように本実施例によれば、放射線計測装置101の動作確認を少ない手間と時間で実施できる。放射線計測装置101の健全性を頻繁に確認できるため、より信頼性の高い線量計測が可能になる。
【0034】
放射線計測装置101の出力異常は、主に積層電離箱203と信号処理装置205のどちらかの故障によって引き起こされる。このとき定電流源(図示せず)を用いて信号処理装置205に一定の電流を入力すれば、どちらが異常の原因であるか特定できる。入力電荷に対して信号処理装置205からの出力値が予想値と一致すれば、積層電離箱203側の故障と判断できる。ここで、予想値(単位[count])=入力電荷×信号処理装置の設計ゲイン(単位[count/C])である。不一致であれば、信号処理装置205側の故障と判断できる。この作業は動作確認時に異常と判明したチャンネルについてのみ実施すればよいため、汎用の定電流源を用いたとしても少ない手間と時間で異常原因を特定できる。またこれにより、ビームを照射せずに電離箱の故障の有無を特定できる。
【0035】
積層電離箱203を図6に示すワイヤーチェンバー601で置き換えた場合も本実施例と同様の効果が得られる。ワイヤーチェンバー601はビームの通過位置と幅を計測可能な多チャンネルの電離箱で、複数のワイヤー602を電離層中に平行に並べた構造を持つ。ワイヤー602間は電気的に独立で、それぞれ信号処理装置205に接続している。電圧はほぼ0Vである。ワイヤー602を挟むように配置した2枚の高電圧印加電極603に高電圧を印加し、電離層に電場を形成する。ビームの通過によって電離層に電離電荷が発生すると、電離電荷は発生位置から最も近いワイヤー602までドリフトし、ワイヤー602の一端に取り付けられた導線(図示せず)を伝って信号処理装置205に入力する。ワイヤー602毎の出力電荷の分布から、ビームの通過位置と幅を算出できる。
【0036】
本実施例の放射線計測装置101を用いてブラッグカーブ計測する手順を説明する。まず、陽子線照射装置102の照射室に放射線計測装置101を搬送し、患者カウチ(図示せず)上に固定する。次に、患者位置決め用レーザーマーカを参考に患者カウチを可動させて放射線計測装置101を位置決めする。本実施例では、ビーム軸が各層の小電極401の中心を通過するように位置決めする。患者カウチの替わりに放射線計測装置101専用の位置決め用可動冶具を製作し、用いても良い。
【0037】
位置決め完了後、操作者は照射室から制御室(図示せず)に移動する。制御室では、主制御装置206を用いて放射線計測装置101の計測制御と陽子線照射装置102のビーム照射制御を行う。まず、操作者は主制御装置206を通してレンジシフタ駆動制御装置202,高電圧電源204,信号処理装置205に電源を投入する。基板B302の高電圧印加電極501に高電圧が印加され電離層に電場が発生する。本実施例では接地0Vに対して負極の高電圧を高電圧印加電極501に印加する。レンジシフタ201の全てのエネルギー吸収体207はビーム通過位置から外れた状態で待機する。
【0038】
操作者は、主制御装置206に所望の計測間隔を設定する。本実施例では、ビームの入射エネルギーが高い条件でのブラッグカーブ計測を想定して1.0mmに設定する。操作者は主制御装置206から陽子線照射装置102の照射条件(ビームエネルギー,照射スポット位置,照射スポット数等)を設定し、ビーム照射開始を指示する。ブラッグカーブ計測ではビーム軸上のスポットに対してビームを照射するため、走査電磁石は励磁されない。ビーム照射開始の指示を受けると、陽子線照射装置102は主制御装置206に対して照射開始信号を送信する。照射開始信号を受信すると主制御装置206は信号処理装置205へ計測開始信号を送信する。計測開始信号を受信すると、信号処理装置205は入力電荷の積算を開始する。直後、シンクロトロン108で加速されたビームは陽子線輸送装置104を経て回転式照射装置105に出射し、操作者が主制御装置206に設定した条件に従って放射線計測装置101にビームが照射される。
【0039】
ビームが電離層を通過すると電離層中のビーム線量に比例した数のイオン対、即ち正イオンと電離電子のペアが生成する。生成したイオン対は電場の向きと平行にドリフトする。ビーム軸が各層の小電極401の中心を通過するように放射線計測装置101を位置決めしているため、ビーム軸からの距離が小電極401半径未満の位置で生成した電離電子は小電極401に到達し、ビーム軸からの距離が小電極401半径以上大電極402半径未満の位置で生成した電離電子は大電極402に到達する。小電極401及び大電極402へ到達した電子の数に比例して、それぞれに接続した導線404と導線405に電荷が発生する。信号処理装置205はビーム照射中に入力した電荷、即ち基板A301の小電極401に接続する導線404で発生した電荷と、大電極402に接続する導線405で発生した電荷を、それぞれ独立に積算する。
【0040】
操作者の設定した条件に従ってビーム照射を完了すると陽子線照射装置102は主制御装置206に照射完了信号を送信する。照射完了信号を受信すると、主制御装置206は信号処理装置205に計測完了信号を送信する。計測完了信号を受信すると、信号処理装置205は電荷の積算を停止し、積算値をチャンネル毎に主制御装置206へ記録する。
記録完了後、信号処理装置205は自身に記録された全チャンネルの積算値をリセットする。
【0041】
積算値を記録すると主制御装置206はレンジシフタ駆動制御装置202にエネルギー吸収体207の挿入を指示する。本実施例では、まず厚さ0.2mmと0.8mmのエネルギー吸収体207を挿入する。エネルギー吸収体207の挿入が完了すると、主制御装置206は最初に操作者が設定した照射条件で陽子線照射装置102に再度ビーム照射開始を指示する。ビーム通過位置からエネルギー吸収体207を全て外した最初の計測と同様に、放射線計測装置101は電離層で発生した電荷を信号処理装置205で積算する。ビーム照射完了後に信号処理装置205が計測完了信号を受信すると、電荷の積算を停止して積算値をチャンネル毎に主制御装置206へ新たに記録する。記録完了後、信号処理装置205は全チャンネルの積算値をリセットする。
【0042】
積算値を記録すると主制御装置206はレンジシフタ駆動制御装置202に厚さ0.4mmと1.6mmエネルギー吸収体207の挿入を指示する。厚さ0.2mmと0.8mmのエネルギー吸収体207はビーム通過位置から排出される。エネルギー吸収体207の挿入・排出が完了すると、主制御装置206は最初に操作者が設定した照射条件で陽子線照射装置102に再度ビーム照射開始を指示する。計測間隔1.0mmでブラッグカーブを計測するためには、このようにビーム軸上に挿入したエネルギー吸収体207の合計厚みを0.0mm(ビーム通過位置からエネルギー吸収体207を全て外した状態),1.0mm,2.0mm,3.0mmと4回変更して計測を繰り返す。
【0043】
挿入したエネルギー吸収体207の厚みがrのとき、積層電離箱203の表面から数えてi番目の電離層(以下、電離層i)に面する小電極401で得られた積算電荷をQs(i,r)、大電極402で得られた積算電荷をQl(i,r)とする。エネルギー吸収体207の厚みを変更した全計測が完了すると、主制御装置206はQs(i,r)とQl(i,r)を加算してQ(i,r)を得る。即ち、Q(i,r)=Qs(i,r)+Ql(i,r)である。基板A301,基板B302,電離層及びエネルギー吸収体207の水等価厚は事前に計測されており、この情報に基づいて主制御装置206はQ(i,r)をQ(x)に変換する。xは水面からの深さである。さらに、主制御装置206は較正係数を乗じてQ(x)を水中線量D(x)に換算する。
【0044】
小電極401と大電極402が構成する電極は、横方向へ2次元ガウス分布状に広がったスキャニング照射法のビームを全て捕獲できる。従って、小電極401と大電極402に接する電離層へ入射するビームの粒子数nは一定である。D(x)=LET(x)×n/S/ρより、D(x)は最終的にLET(x)へ変換される。Sは小電極401と大電極402が構成する電極の面積である。nは加速器の蓄積電荷から概算できるが、仮にnが不明の場合でもLET(x)の相対的な分布が得られる。主制御装置206は得られたxについてのLET(x)の分布、即ちブラッグカーブをディスプレイ208に表示する。ディスプレイ208に表示されたブラッグカーブを確認して操作者は陽子線照射装置102の調整結果及び性能を評価する。
【0045】
以下に、放射線計測装置101の校正方法を説明する。放射線計測装置101へのビーム照射時に、上流から数えてi番目の電離層(以下、電離層i)の小電極401及び大電極402に生じた電離電荷をそれぞれQs(i),Ql(i)とする。各電離層に対して同じ量且つ同じエネルギーのビームを照射しても、電離電荷Qs(i),Ql(i)にはバラつきが生じる。電離層の厚みd(i)には工作精度によってバラつき(例えば、±0.1mm)が生じるためである。Qs(i),Ql(i)は電離層中でのビームのエネルギー損失量に比例するため、同じ量且つ同じエネルギーのビームを照射しても、電離層の厚みd(i)に比例してQs(i),Ql(i)は増減する。
【0046】
こうした電離電荷Qs(i),Ql(i)のバラつきを補正するためには、電離層毎に校正係数Ks(i),Kl(i)が必要である。Qs′(i)=Ks(i)×Qs(i),Ql′(i)=Kl(i)×Ql(i)とすると、Qs′(i),Ql′(i)は以下の式(1)及び式(2)を満たす。ただし、nは放射線計測装置101における電離層の総数を示す。
Qs′(i)=Qs′(1)=Qs′(2)=…=Qs′(i)=…=Qs′(n) …(式1)
Ql′(i)=Ql′(1)=Ql′(2)=…=Ql′(i)=…=Ql′(n) …(式2)
従来、校正係数Ks(i),Kl(i)は、同じ量且つ同じエネルギーの放射線を発生する線源を用いて電離層毎にQs(i),Ql(i)を計測し、算出する必要があった。このような作業には多くの時間と操作者の労力を必要とした。
【0047】
本実施例によれば、多チャンネルの電離箱、例えば積層電離箱の校正係数Ks(i),Kl(i)を短時間且つ一度に取得できる。また、校正係数の取得時において放射線計測器への放射線照射も不要である。以下に、放射線計測器101を例として多チャンネルの電離箱における校正係数Ks(i),Kl(i)の取得手順を説明する。
【0048】
まず、操作者は主制御装置206を通して高電圧電源204,信号処理装置205に電源を投入する。高電圧印加電極501に高電圧Vが印加され、電離層に電場が生じる。電離層iの小電極401,大電極402にはそれぞれCs(i)×V,Cl(i)×Vの電荷が誘起される。Cs(i),Cl(i)は電離層iの小電極401及び大電極402が持つ静電容量であり、それぞれ(式3)及び(式4)を満たす。
【0049】
Cs(i)=ε×Ss/d(i) …(式3)
Cl(i)=ε×Sl/d(i) …(式4)
【0050】
εは電離層を満たす材質(本実施例では、空気)の誘電率、Ssは小電極401の面積、Slは大電極402の面積である。
【0051】
操作者が制御用GUI209上の校正係数取得ボタン(図示せず)を押すと、主制御装置206は信号処理装置205へ計測開始信号を送信する。計測開始信号を受信すると、信号処理装置205は入力電荷の積算を開始する。直後、高圧電源204の出力がdV(例えば、−100V)だけ変化する。小電極401及び大電極402に誘起される電荷はそれぞれCs(i)×(V+dV),Cl(i)×(V+dV)となり、信号処理装置205には導線404と導線405を介してCs(i)×dV,Cl(i)×dVの電荷が検出される。信号処理装置205はこれらの電荷を独立に積算する。高圧電源204の出力変化量dVは制御用GUI209から操作者が指定できる。
【0052】
電圧の変調が完了すると、主制御装置206は信号処理装置205に計測完了信号を送信する。計測完了信号を受信すると、信号処理装置205は電荷の積算を停止し、積算結果をデジタル値に変換して主制御装置206に送信する。主制御装置は、受信した積算電荷量のデジタル値を記録する。信号処理装置205は、自身に記録された積算値を全てリセットする。最後に、基板B302への印加電圧は再びVに戻る。
【0053】
次に、主制御装置は記録された電荷量Cs(i)×dV,Cl(i)×dVのデジタル値を校正係数Ks(i),Kl(i)として登録する。即ち、(式5)及び(式6)である。
【0054】
Ks(i)=Cs(i)×dV …(式5)
Kl(i)=Cl(i)×dV …(式6)
【0055】
(式3)及び(式4)が示すようにCs(i),Cl(i)はd(i)に反比例するため、校正係数Ks(i),Kl(i)をQs(i),Ql(i)に乗じることで厚みd(i)の影響を打ち消すことができる。
【0056】
本実施例ではスキャニング照射法に用いる陽子線照射装置101の調整及び性能評価のために放射線計測装置101を用いる例を示したが、本実施例の放射線計測装置101を用いれば体積照射時の陽子線治療装置101から出射されるビームの深部線量分布も計測できる。体積照射とは、スキャニング照射法の手順に従って被照射体の任意の領域(患部)へ一様線量を付与することである。体積照射時の深部線量分布を放射線計測装置101で計測する方法について、以下説明する。
【0057】
ブラッグカーブ計測の場合と同様に、操作者は照射室に放射線計測装置101を搬送し患者カウチ上に固定する。次に、レーザーマーカを参考にカウチを可動させ、放射線計測装置101を位置決めする。本実施例では、ビーム軸が各層の小電極401の中心を通過するように位置決めする。位置決め完了後、操作者は照射室から制御室に移動する。まず、操作者は主制御装置206を通してレンジシフタ駆動制御装置202,高電圧電源204,信号処理装置205に電源を投入する。操作者は主制御装置206に所望の計測間隔を設定する。本実施例では1.0mmに設定する。
【0058】
ブラッグカーブ計測と同様の手順で計測を開始する。操作者は、主制御装置206から体積照射用の陽子線照射装置102の照射条件(ビームエネルギー,照射スポット位置,照射スポット数等)を設定し、ビーム照射開始を指示する。体積照射時の横方向の照射範囲は小電極401に対して十分大きいものとする。ビーム照射開始の指示を受けると、陽子線照射装置102は主制御装置206に対して照射開始信号を送信する。照射開始信号を受信すると、主制御装置206は信号処理装置205へ計測開始信号を送信する。計測開始信号を受信すると信号処理装置205は入力側で発生する電荷を積算し始める。直後、シンクロトロン108で加速されたビームは陽子線輸送装置104を経て、回転式照射装置105に出射する。最終的に、操作者が主制御装置206に設定した条件に従って放射線計測装置101へビームが照射される。
【0059】
あるスポットに既定線量が付与されると、照射を停止して次の既定スポットに向けてビームを走査する。照射スポットを横方向に変更する場合は走査電磁石でビームの照射位置を変更する。ある深さについてすべてのスポットに既定線量が付与されると、照射スポットを深部方向に変更する。照射スポットを深部方向に変更する場合は、ビームのエネルギーをシンクロトロン108もしくは照射野形成装置110等に搭載したレンジシフタ(図示せず)で変更する。最終的に全てのスポットに一様な線量が付与される。
【0060】
操作者の設定した条件に従って体積照射が完了すると、陽子線照射装置102は主制御装置206に照射完了信号を送信する。照射完了信号を受信すると、主制御装置206は信号処理装置205に計測完了信号を送信する。計測完了信号を受信すると、信号処理装置205は電荷の積算を停止し、積算値をチャンネル毎に主制御装置206へ記録する。
記録完了後、信号処理装置205は全チャンネルの積算値をリセットする。
【0061】
積算値を記録すると主制御装置206はレンジシフタ駆動制御装置202にエネルギー吸収体207の挿入を指示する。本実施例では、まず厚さ0.2mmと0.8mmのエネルギー吸収体207を挿入する。エネルギー吸収体207の挿入が完了すると、主制御装置206は最初に操作者が設定した照射条件で陽子線照射装置102に再度体積照射開始を指示する。ビーム通過位置からエネルギー吸収体207を全て外した最初の計測と同様に、放射線計測装置101は電離層で発生した電荷を信号処理装置205で積算する。ビーム照射完了後に信号処理装置205が計測完了信号を受信すると、電荷の積算を停止して積算値をチャンネル毎に主制御装置206へ新たに記録する。記録完了後、信号処理装置205は全チャンネルの積算値をリセットする。
【0062】
積算値を記録すると主制御装置206はレンジシフタ駆動制御装置202に厚さ0.4mmと1.6mmエネルギー吸収体207の挿入を指示する。厚さ0.2mmと0.8mmのエネルギー吸収体207はビーム通過位置から排出される。エネルギー吸収体207の挿入・排出が完了すると、主制御装置206は最初に操作者が設定した照射条件で陽子線照射装置102に再度ビーム照射開始を指示する。計測間隔1.0mmで深部線量分布を計測するためには、このようにビーム軸上に挿入したエネルギー吸収体207の合計厚みを0.0mm(ビーム通過位置からエネルギー吸収体207を全て外した状態),1.0mm,2.0mm,3.0mmと4回変更して計測を繰り返す。
【0063】
ブラッグカーブ計測と同様に、主制御装置206は計測結果からQs(x)を算出する。主制御装置206はQs(x)を水中線量Ds(x)に換算し、xについてディスプレイ208へ表示する。小電極401の面積は体積照射時の横方向の照射範囲と比べて十分小さく、計測で得られた線量は放射線計測装置101中における小電極401中心の局所的な線量と等価である。ディスプレイ208に表示された深部線量分布を確認して、操作者は陽子線照射装置102の調整結果及び性能を評価する。
【0064】
本実施例ではスキャニング照射法に用いる陽子線照射装置101の調整及び性能評価のために放射線計測装置101を用いる例を示したが、本実施の放射線計測装置101は、散乱体照射法によって水中に形成する深部線量分布も計測できる。本実施例の陽子線照射装置は、実施例1の陽子線照射装置102とほぼ同じ構造である。照射野形成装置110の構造のみ若干異なる。
【0065】
本実施例の照射野形成装置110によって実現される散乱体照射法の概略を、散乱体照射法の代表的例であるウォブラー照射法を用いて以下に説明する。実施例1と同様に照射野形成装置110は走査電磁石を有する。加えて、本実施例の照射野形成装置110は散乱体,コリメータ,ボーラス,拡大ブラッグピーク形成フィルタ(図示せず)を有する。
【0066】
横方向に均一な線量分布を形成するための手段を説明する。患部領域とビームの入射エネルギーに応じて走査電磁石電源(図示せず)から適切な時間変化量を持った電流が供給される。走査電磁石電源からは、ビームを円形に走査するため周期的に正負が反転し、走査電磁石毎に位相が90度ずれ、最大電流値の等しい交流電流が供給される。このときの最大電流値がビームの走査範囲を決めている。また、ビームの散乱量をコントロールするため、ビーム径路には散乱体が設置される。コリメータは患部形状に合わせて適切な形に可動し、患部領域外への被曝量を低減する。この結果、設定された患部領域において照射線量が集中し、可能な限り均一な線量分布の照射野を形成する。横方向に均一な線量分布を形成する手段としては走査電磁石の替わりに2つの散乱体をビーム経路上に配置した二重散乱体法も有効である。
【0067】
次に、深部方向へ均一な線量分布を形成するための手段を説明する。まず、患部の深さに応じてビームエネルギーを変更し、ビームの到達深度を患部領域と一致させる。ビームのエネルギーは、シンクロトロン108もしくは照射野形成装置110等に搭載したレンジシフタ(図示せず)で変更する。次に、ボーラスは患部形状に合わせて適切なものが選択される。患部領域とビームの入射エネルギーに応じて適切な拡大ブラッグピーク形成フィルタ(以下、SOBP(Spread Out Bragg Peak)フィルタと略す)を選択する。SOBPフィルタはビーム径路上に設置される。
【0068】
SOBPフィルタの機能を説明する。SOBPフィルタはビームが通過する面に厚みの異なる階段状の構造を持つ。ビームがSOBPフィルタの各段を適切な配分で通過することで単一エネルギーのビームに適切な配分のエネルギー分布を与え、単一エネルギーの粒子線が深部方向へ形成する鋭いブラッグピークを患部形状に合わせて拡大する。このようなSOBPフィルタをリッジフィルタという。本実施例では、以上のようにSOBPフィルタとしてリッジフィルタを用いる例を示したが、このリッジフィルタに替えて飛程変調ホイールを用いる事もできる。
【0069】
散乱体照射法の深部線量分布を放射線計測装置101で計測する方法について、以下説明する。実施例1と同様に、操作者は照射室に放射線計測装置101を搬送し患者カウチ上に固定する。次に、レーザーマーカを参考にカウチを可動させ、放射線計測装置101を位置決めする。本実施例ではビーム軸と小電極401の中心が一致するように位置決めする。位置決め完了後、操作者は照射室から制御室に移動する。制御室では、主制御装置206を用いて放射線計測装置101の計測制御と陽子線照射装置102のビーム照射制御を行う。まず、操作者は主制御装置206を通してレンジシフタ駆動制御装置202,高電圧電源204,信号処理装置205に電源を投入する。操作者は主制御装置206に所望の計測間隔を設定する。本実施例では1.0mmに設定する。
【0070】
実施例1の体積照射と同様の手順でビームの深部線量分布を計測する。操作者は、主制御装置206から陽子線照射装置102の照射条件(ビームエネルギー,拡大ブラッグピーク幅,コリメータ形状,散乱体の厚み等)を設定し、ビーム照射開始を指示する。照射野形成装置110内のビーム経路上に、設定条件に対応した散乱体,コリメータ,拡大ブラッグピーク形成フィルタが挿入される。ボーラスを用いる場合は操作者が直接照射野形成装置110に取り付ける。照射範囲とビームエネルギーに応じて、走査電磁石電源から適切な時間変化量を持った交流電流が走査電磁石に供給される。横方向の照射範囲は小電極401に対して十分大きいものとする。ビーム照射開始の指示を受けると、陽子線照射装置102は主制御装置206に対して照射開始信号を送信する。照射開始信号を受信すると主制御装置206は信号処理装置205へ計測開始信号を送信する。計測開始信号を受信すると信号処理装置205は入力側で発生する電荷を積算し始める。直後、シンクロトロン108で加速されたビームは陽子線輸送装置104を経て回転式照射装置105に出射し、操作者が主制御装置206に設定した条件に従って放射線計測装置101へビーム照射される。
【0071】
操作者の設定した条件に従って照射が完了すると、陽子線照射装置102は主制御装置206に照射完了信号を送信する。照射完了信号を受信すると主制御装置206は信号処理装置205に計測完了信号を送信する。計測完了信号を受信すると、信号処理装置205は電荷の積算を停止し、積算値をチャンネル毎に主制御装置206へ記録する。記録完了後、信号処理装置205は全チャンネルの積算値をリセットする。
【0072】
積算値を記録すると主制御装置206はレンジシフタ駆動制御装置202にエネルギー吸収体207の挿入を指示する。本実施例では、まず厚さ0.2mmと0.8mmのエネルギー吸収体207を挿入する。エネルギー吸収体207の挿入が完了すると、主制御装置206は最初に操作者が設定した照射条件で陽子線照射装置102に再度照射開始を指示する。ビーム通過位置からエネルギー吸収体207を全て外した最初の計測と同様に、放射線計測装置101は電離層で発生した電荷を信号処理装置205で積算する。ビーム照射完了後に信号処理装置205が計測完了信号を受信すると、電荷の積算を停止して積算値をチャンネル毎に主制御装置206へ新たに記録する。記録完了後、信号処理装置205は全チャンネルの積算値をリセットする。
【0073】
積算値を記録すると主制御装置206はレンジシフタ駆動制御装置202に厚さ0.4mmと1.6mmエネルギー吸収体207の挿入を指示する。厚さ0.2mmと0.8mmのエネルギー吸収体207はビーム通過位置から排出される。エネルギー吸収体207の挿入・排出が完了すると、主制御装置206は最初に操作者が設定した照射条件で陽子線照射装置102に再度ビーム照射開始を指示する。計測間隔1.0mmで深部線量分布を計測するためには、このようにビーム軸上に挿入したエネルギー吸収体207の合計厚みを0.0mm(ビーム通過位置からエネルギー吸収体207を全て外した状態),1.0mm,2.0mm,3.0mmと4回変更して計測を繰り返す。
【0074】
実施例1と同様に、主制御装置206は計測結果からQs(x)を算出する。主制御装置206はQs(x)を水中線量Ds(x)に換算し、xについてディスプレイ208へ表示する。小電極401の面積は横方向の照射範囲と比べて十分小さく、計測で得られた線量は放射線計測装置101中における小電極401中心の局所的な線量と等価である。
ディスプレイ208に表示された深部線量分布を確認して、操作者は陽子線照射装置102の調整結果及び性能を評価する。
【0075】
本実施例の放射線計測装置によれば、短時間且つ容易に自身の健全性を確認することができる。本実施例の放射線計測装置に異常が発生した場合は、その異常がいずれのチャンネルで発生したかを短時間且つ容易に特定できる。ここで、チャンネルとは、放射線計測装置において放射線を計測するために必要な一連の回路構成を示す。本実施例の放射線計測装置101の場合、積層電離箱203を構成する各電極につながるいずれの信号処理装置に異常が発生したかを、短時間かつ容易に判断することができる。また、放射線計測装置に対してビーム(放射線)を照射することなく不具合を発見できるため、試験時間の損失を防ぐことができる。このように、本実施例では、放射線計測装置101の動作確認を少ない手間と時間で実施できる。放射線計測装置101の健全性を頻繁に確認できるため、より信頼性の高い線量計測が可能になる。また、健全性の判定だけでなく異常原因の特定も少ない手間と時間で実施できる。
【符号の説明】
【0076】
101 放射線計測装置
102 陽子線照射装置
103 陽子線発生装置
104 陽子線輸送装置
105 回転式照射装置
106 イオン源
107 前段加速器
108 シンクロトロン
109 出射デフレクタ
110 照射野形成装置
201 レンジシフタ
202 レンジシフタ駆動制御装置
203 積層電離箱
204 高電圧電源
205 信号処理装置
206 主制御装置
207 エネルギー吸収体
208 ディスプレイ
209 制御用GUI
210 動作確認用ボタン
301 電荷収集用プリント基板(基板A)
302 高電圧印加用プリント基板(基板B)
303 スペーサ
304 ボルト
401 小電極(第1電極)
402 大電極(第2電極)
403 ガード電極(第3電極)
404,405,406,503,504 導線
501,603 高電圧印加電極
502 ガード電極
601 ワイヤーチェンバー
602 ワイヤー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電離箱を用いた放射線計測装置であり、
前記電離箱へ印加する電圧を変調する電圧変調機構と、
前記電離箱の印加電圧を変調する間に前記電離箱から発生する電荷を計測し、前記計測した電荷に基づいて、いずれのチャンネルが異常であるかを判定する判定機構とを備えることを特徴とする放射線計測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線計測装置であり、
前記電離箱が積層電離箱であることを特徴とする放射線計測装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の放射線計測装置であり、
前記電離箱の信号収集用電極が電気的に2つ以上の領域に分割され、前記領域毎に独立に前記電荷を収集することを特徴とする放射線計測装置。
【請求項4】
請求項1に記載の放射線計測装置であり、
前記電離箱がワイヤーチェンバーであることを特徴とする放射線計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−177633(P2012−177633A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41116(P2011−41116)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】