説明

放射線遮蔽用パネル

【課題】耐食性に優れるとともに、組み立て及び分解を容易に行うことが可能な放射線遮蔽用パネルを提供する。
【解決手段】樹脂又はコンクリートと、放射線遮蔽物質とを含む板状の放射線遮蔽部材11と、前記放射線遮蔽部材の少なくとも一方の主面上に積層され、一体化された板状かつ耐食性の合せ部材12と、を具えるようにして、放射線遮蔽用パネル10を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線遮蔽用パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、原子力発電プラントにおいては、発電所において排出された放射性物質の遮蔽、保管、廃棄などは通常の定常作業の中で行なわれていた。しかしながら、例えば、原子力発電所において大規模な事故が発生した場合、放射線滞留水回収など全く予期せぬ様々な作業が伴う。これらの作業は、実際に放射線滞留水などが漏洩している場所において行われることになるが、実際に作業を行う者が放射線を浴びることなく作業が行えるように、γ線、中性子などの放射線を遮蔽する遮蔽材を用いた建屋や処理設備を建設することが要求される。
【0003】
上述のような遮蔽材としては、熱可塑性樹脂を母材とし、この母材中に平均粒径100μm〜200μmのチタン酸ジルコン酸鉛や酸化タングステンなどの重金属を含有させたものが開示されている。また、黒鉛からなる多孔質材中に鉛などの重金属を含浸させたものが開示されている。さらに、ホウ素化合物、ポリオレフィン系樹脂ビーズからなる骨材、及び樹脂バインダーを含むレジン層とコンクリート層とからなるブロック材が開示されている。
【0004】
しかしながら、上述した作業を行う場所は、放射線のみならず様々な環境下に置かれており、上記遮蔽材は放射線の遮蔽のみならず、種々の環境下での使用に耐えうるような特性を有している必要がある。特に原子力発電プラントは、海に近接して配置されているので、上記遮蔽材に対して耐食性を付与することは急務の課題となっている。
【0005】
また、上記建屋や処理設備などは、作業者の移動、及び作業に使用する各種機器類など現場の状況に応じで簡便に組み立てることができ、さらには分解できることも要求される。したがって、これら建屋及び処理設備を構成する遮蔽材にも、組み立て及び分解を容易に行うことができるような構成が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−315843号
【特許文献2】特開2000−171587号
【特許文献3】特開2008−232845号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、耐食性に優れるとともに、組み立て及び分解を容易に行うことが可能な放射線遮蔽用パネルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、樹脂又はコンクリート中に放射線遮蔽物質を含む板状の放射線遮蔽部材と、前記放射線遮蔽部材の少なくとも一方の主面上に積層され、一体化された板状かつ耐食性の合せ部材と、を具えることを特徴とする、放射線遮蔽用パネルに関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐食性に優れるとともに、組み立て及び分解を容易に行うことが可能な放射線遮蔽用パネルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施形態の放射線遮蔽用パネルの概略構成を示す斜視図である。
【図2】第1の実施形態の放射線遮蔽用パネルの使用態様を説明するための斜視図である。
【図3】第1の実施形態の放射線遮蔽用パネルの使用態様を説明するための斜視図である。
【図4】第2の実施形態の放射線遮蔽用パネルの概略構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の放射線遮蔽用パネルについて具体的に説明する。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態の放射線遮蔽用パネルの概略構成を示す斜視図である。
図1に示す放射線遮蔽用パネル10は、樹脂又はコンクリート中に放射線遮蔽物質を含む板状の放射性遮蔽部材11を中心材とし、その両主面上に板状かつ耐食性の合せ部材12が積層されて一体化された構造となっている。図1に示す放射線遮蔽用パネル10は、放射線遮蔽部材11の両主面側に耐食性の合せ部材12が積層、一体化されているので、例えば、耐食性が要求される屋外において、放射性遮蔽用パネル10を組み合わせて建屋や処理設備を建設するために用いるのに適している。
【0013】
放射線遮蔽部材11を構成する樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂の他、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアセタール、ポリメチルメタクリレートなどの汎用の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂などの汎用の熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0014】
しかしながら、放射線遮蔽部材11、すなわち放射線遮蔽用パネル10が比較的高い温度に晒されるような環境下で使用される場合は、熱可塑性樹脂を用いた場合、放射線遮蔽用パネル10が軟化してしまい、十分な強度を保持することができない場合がある。したがって、上述したような熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。
【0015】
放射線遮蔽部材11を構成するコンクリートとしては、例えばアルミナセメント、高炉スラグセメント、フライアッシュセメント及びポルトランドセメントを含むことが好ましい。これらのセメント材は容易に入手ができるとともに安価であって、かつ海水や化学物質に対して安定であるので、上述のように、本実施形態の放射線遮蔽用パネル10を耐食性が要求される屋外で使用するのに適している。
【0016】
なお、放射線遮蔽部材11において樹脂又はコンクリートを使用する理由は、これらの材料が安価である程度の強度を有するとともに、硬化する際に一時的に溶融したような状態となるので、以下に説明する放射線遮蔽物質を均一かつ比較的多量に含むことができるためである。
【0017】
放射線遮蔽部材11を構成する放射線遮蔽物質は、ホウ素、ハフニウム、ガドリニウム、タングステン及び鉛などを例示することができる。この中でホウ素、ハフニウム、及びガドリニウムは、放射線の中でも中性子の遮蔽に効果があり、タングステン及び鉛は、放射線の中でもγ線の遮蔽に効果がある。したがって、上述した元素の中から、遮蔽すべき放射線の種類に応じて適宜選択して使用することが好ましい。
【0018】
なお、ホウ素は酸素、窒素、炭素などと化合物を形成しやすく、その結果、放射線遮蔽部材11の加工性が悪くなる場合がある。したがって、このような場合は、加工性が良好なアルミニウム若しくは上述したような樹脂と混合して使用することが好ましい。
【0019】
放射線遮蔽部材11中における放射線遮蔽物質の含有率は1質量%〜50質量%であることが好ましく、さらには20質量%〜40質量%であることが好ましい。これによって、中性子、γ線などの放射線の遮蔽効果を向上させることができる。なお、放射線遮蔽物質の含有率の範囲が比較的大きくなっているのは、放射線遮蔽の効果が、上述した放射線遮蔽物質の含有率のみで決定されるものではなく、以下に説明するように、放射線遮蔽物質の平均粒径、放射線遮蔽部材11の厚さに依存することによる。
【0020】
また、放射線遮蔽物質の平均粒径(粒子の最大径の平均)は2μm〜200μmであることが好ましい。この場合、放射線遮蔽物質は極めて微小であるので、いわゆるコロイド粒子となり、上述した樹脂やコンクリートが硬化の過程においてゾル状になる。したがって、チソトロピー的な性質によって樹脂又はコンクリートの密度が高くなり、これら樹脂、コンクリート中における放射線遮蔽物質の沈降を遅らせることができるので、樹脂、コンクリートが硬化するまでの間における放射線遮蔽物質の分布を均一に保持することができる。
【0021】
さらに、放射線遮蔽部材11の厚さが0.5mm〜10mmであることが好ましい。この場合、特に放射線遮蔽部材11が上述したような量であって、好ましくは上述した大きさの放射線遮蔽物質を含有する場合において、放射線遮蔽部材11による放射線の遮蔽を十分に行うことができるようになる。
【0022】
一般に、所定の材料を透過する以前の放射線強度をI、所定の材料を透過した後の放射線強度をIとすると、材料透過前後の放射線の減衰率は次式で表すことができる
/I= B・exp(−u・t)
(ここで、Bはビルドアップファクタ、uは線減衰係数、tは板厚を示す。)。
【0023】
本実施例では、放射線遮蔽部材11及び放射線遮蔽物質が上述のような要件を満足する場合、減衰率I /Iを例えば1/10〜1/1000とすることができる。
【0024】
放射線遮蔽用パネル10を構成する板状の耐食性合せ部材12は、アルミニウム又はアルミニウム合金から構成することができる。アルミニウムおよびアルミニウム合金は大気中にて表面に不働態皮膜を形成するため、大気中での耐食性に優れる特徴を有する。
【0025】
例えば、アルミニウム及びアルミニウム合金の組成としては、アルミニウムが99質量%以上の非熱処理型合金に属する1000系の純アルミニウム、銅が1.5〜6.8質量%添加された熱処理型合金に属するアルミニウム−銅−マンガン系合金となる2000系、マンガンが0.3〜1.5質量%添加された非熱処理型合金に属するアルミニウム−マンガン系合金の3000系、ケイ素が11〜13.5質量%添加された非熱処理型合金に属するアルミニウム−ケイ素系合金の4000系、マグネシウムが0.2〜5.6質量%添加された非熱処理型合金に属するアルミニウム−マグネシウム系合金の5000系、マグネシウムが0.35〜1.8質量%およびケイ素が0.2〜1.2質量%添加された熱処理型合金に属する6000系、亜鉛が0.8〜6.5質量%添加された熱処理型合金に属する7000系などを挙げることができる。
【0026】
また、上記板状の耐食性合せ部材12は、ステンレス鋼から構成することができる。ステンレス鋼の組成としては、ニッケルが3〜10質量%、クロムが21〜32質量%添加され、残部が鉄からなるオーステナイト・フェライト系の二相ステンレス鋼、ニッケルが4質量%以下、クロムが11〜32質量%添加され、残部が鉄からなるフェライト系ステンレス鋼、ニッケルが3.5〜28質量%、クロムが15〜25質量%添加され、残部が鉄からなるオーステナイト系ステンレス鋼などを例示することができる。
【0027】
なお、フェライト系ステンレス鋼において、ニッケルの含有量は少ないほど好ましいが、実際の下限値は約0.1質量%である。
【0028】
さらに、上記板状の耐食性合せ部材12は、ニッケル又はニッケル合金から構成することができる。ニッケルは銅との合金により海水中での孔食発生が抑制される。また、モリブデンとの合金により還元性環境での耐食性が、クロムとの合金により酸化性環境における耐食性が増加する。例えば、ニッケル及びニッケル合金の組成としては、ニッケルが99質量%以上の純ニッケル、銅が27.0〜34.0質量%添加され、残部がニッケルであるニッケル−銅系合金、モリブデンが15.0〜30.0質量%添加され、残部がニッケルであるニッケル−モリブデン系合金、クロムが14.0〜23.5質量%添加され、残部がニッケルであるニッケル−クロム系合金などを例示することができる。
【0029】
耐食性合せ部材12を放射線遮蔽部材11に積層して一体化するに際しては、所定の接着剤やビスなど公知の技術を用いて行うことができる。また、放射線遮蔽部材11を特に熱硬化性樹脂やコンクリートから構成する場合は、熱硬化性樹脂及びコンクリートを硬化させる際に、これらの上に上記耐食性合せ部材12を載置することにより、上記熱硬化性樹脂及びコンクリートの硬化に伴って、耐食性合せ部材12が放射線遮蔽部材11に固定されるようになる。
【0030】
なお、耐食性合せ部材12の厚さは、上述した材料の種類や使用環境等によって異なるが、例えば0.5mm〜10mmとすることができる。
【0031】
また、放射線遮蔽用パネル10の大きさは、用途に応じて適宜に設定することができるが、例えば幅300mm〜2000mm、長さ300mm〜50000mm、及び厚さ1mm〜50mmとすることができる。
【0032】
図2及び図3は、本実施形態の放射線遮蔽用パネル10の使用態様を示す斜視図である。
図2に示す放射線遮蔽用パネル10では、その両側面の相対向する位置に凹部11A及び凸部11Bを形成している。そして、放射線遮蔽用パネル10を実際に組み立てる際には、図3に示すように、一方の放射線遮蔽用パネル10の凹部11A及び凸部11Bを他方の放射線遮蔽用パネル1の凸部11B及び凹部11Aと係合するようにして組み立てる。これによって、複数の放射線遮蔽用パネル10を組み立てる際において、これら複数の放射性遮蔽用パネル10の位置ずれなどを防止することができ、互いに密に配列して組み立てることができる。
【0033】
なお、一方の放射線遮蔽用パネル10の凹部11A及び凸部11Bを他方の放射線遮蔽用パネル1の凸部11B及び凹部11Aと係合する際には、この係合部をビス止めや接着剤塗布など、公知の手法を用いて固定することができる。
【0034】
このように、放射線遮蔽用パネル10はパネル形状であるので、建屋の組み立てや処理設備の建設を簡易に行うことができる。また、同様の理由から、建屋や処理設備が最早必要なくなった場合においては、上述した係合部を離隔等することによって簡易に分解することができる。
【0035】
また、図2及び図3に示す使用態様はあくまで一例であって、複数の放射線遮蔽用パネル10は、汎用の建築技術を用いることによって如何様にも組み立てることができ、分解することができる。
【0036】
(第2の実施形態)
図4は、本実施形態の放射線遮蔽用パネルの概略構成を示す斜視図である。なお、図1〜図3に示す構成要素と類似あるいは同一の構成要素に関しては、同一の符号を用いている。
【0037】
図4に示す放射線遮蔽用パネル20は、樹脂又はコンクリート中に放射線遮蔽物質を含む板状の放射性遮蔽部材11を中心材とし、その一方の主面上にのみ板状かつ耐食性の合せ部材12が積層されて一体化された構造となっている。したがって、図4に示す放射線遮蔽用パネル20は、放射線遮蔽部材11の一方の主面側に耐食性の合せ部材12が積層、一体化されているので、例えば、耐食性が要求される屋内において、放射性遮蔽用パネル20を組み合わせて建屋や処理設備を建設するために用いるのに適している。また、これら建屋や処理設備の壁材として用いるのに適している。
【0038】
なお、図4に示す放射性遮蔽用パネル20は、耐食性環境下に対して耐食性合せ部材12が晒されるような環境、すなわち耐食性合せ部材12が外側で放射線遮蔽部材11が内側を向くようにして使用する。
【0039】
放射性遮蔽部材11及び耐食性合せ部材12について特徴及び作用効果については、第1の実施形態と同じであるので、説明を省略する。
【0040】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として掲示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0041】
10,20 放射線遮蔽用パネル
11 (板状の)放射線遮蔽部材
12 (板状の)耐食性合せ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂又はコンクリート中に放射線遮蔽物質を含む板状の放射線遮蔽部材と、
前記放射線遮蔽部材の少なくとも一方の主面上に積層され、一体化された板状かつ耐食性の合せ部材と、
を具えることを特徴とする、放射線遮蔽用パネル。
【請求項2】
前記樹脂は、熱硬化性樹脂であることを特徴とする、請求項1に記載の放射線遮蔽用パネル。
【請求項3】
前記放射線遮蔽物質は、ホウ素、ハフニウム、ガドリニウム、タングステン及び鉛からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の放射線遮蔽用パネル。
【請求項4】
前記放射線遮蔽部材中における前記放射線遮蔽物質の含有率が、1質量%〜50質量%であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の放射線遮蔽用パネル。
【請求項5】
前記放射線遮蔽物質の平均粒径が2μm〜200μmであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載の放射線遮蔽用パネル。
【請求項6】
前記放射線遮蔽部材の厚さが0.5mm〜10mmであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一に記載の放射線遮蔽用パネル。
【請求項7】
前記合せ部材は、アルミニウム又はアルミニウム合金を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一に記載の放射線遮蔽用パネル。
【請求項8】
前記合せ部材は、ステンレス鋼を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一に記載の放射線遮蔽用パネル。
【請求項9】
前記合せ部材は、ニッケル又はニッケル合金を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一に記載の放射線遮蔽用パネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−36871(P2013−36871A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173628(P2011−173628)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)