説明

放射線重合による膜表面変性

【課題】有機溶剤による予備湿潤を必要とせず、膜を浄化するために用いられる典型的なアルカリ性条件下における安定性を保ちながら同時に蛋白質及びペプチドのような生体分子との非特異的相互作用を最少限にする多孔質膜を提供すること。
【解決手段】本発明は、多孔質膜の表面の少なくとも一部を変性する方法であって、重合性基を有するモノマー又はモノマー混合物及びカチオン重合開始剤を多孔質膜に接触させ、前記モノマーを重合させ、それによって前記多孔質膜の表面の少なくとも一部を変性することを含む、前記方法を提供する。本発明はまた、こうして表面の少なくとも一部が変性された多孔質膜及びその使用方法をも提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2006年5月24日付けで出願された米国仮出願第60/802909号の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、概して分離技術の分野に関する。ある特定的な具体例において、本発明は、変性された表面を含む多孔質膜並びにその製造方法及びその使用方法、並びに変性表面を有する多孔質膜を含む系を提供する。
【背景技術】
【0003】
多孔質膜は、濾過技術を含めた広範な用途において用いることができる。キャスティング多孔質膜に用いられる材料に対する物理的及び化学的要望は厳しく、満たすのが難しいことがある。一方で、機械的に強く、熱的に安定であり且つほとんどの溶剤に対して化学的に不活性なバルクマトリックス(例えばポリマー)から成る膜が得られることが多くの場合望ましい。これらの要求を満たポリマーは典型的には疎水性だろうが、親水性の多孔質膜、例えばセルロース、ポリアミド等から成るものも報告されている。疎水性のバルクマトリックスから成る膜は典型的には疎水性の表面を有し、従ってたいていの水溶液が通過するようにするためには、有機溶剤で予め濡らす(予備湿潤)必要がある。しかしながら、予備湿潤は汚染物質を導入し、分離の時間及び費用を増加させる。
【0004】
多孔質膜は典型的には、蛋白質、ペプチド、脂質、炭水化物等から成る複雑な生体分子の分離精製に用いられる。これらの複雑な生体分子は、多孔質膜の疎水性表面との疎水性相互作用によって、又はある種の親水性膜の表面上の基とイオン結合若しくは水素結合を形成することによって、非特異的に相互作用する傾向があり、従って膜の汚染、劣悪な分離及び低い製品収量をもたらす。かくして、未変性の膜は生物学的用途を伴う多くの濾過用途に対して好適さの劣るものになることがある。対照的に、中性表面から成る親水性膜は有機溶剤による予備湿潤を必要とせず、様々なタイプの濾過の際に遭遇する生体分子と多孔質膜との間の非特異的な疎水性相互作用又は電荷−電荷相互作用の問題をしばしば未然に防ぐ。
【0005】
生体分子と多孔質膜との間の非特異的な相互作用の問題への1つの可能なアプローチは、多孔質膜を構成するバルクマトリックスの表面を中性表面を有する親水性材料で変性するものであることができる。膜表面変性への数多くのアプローチが今日までに報告されている。しかしながら、これらのアプローチは欠点がないものではない。
【0006】
この問題への1つの一般的なアプローチは、多孔質膜の表面上に親水性材料をグラフトさせることを伴うものである。グラフトは、膜の表面上への共有結合したコーティングをもたらす。例えば米国特許第3253057号、同第4151225号、同第4278777号及び同第4311573号の各明細書を参照されたい。グラフトは、プラズマ又はコロナ放電を用いたランダム酸化によって実施することができる。このアプローチは、ポリマーフィルムの表面活性化のために用いることができる。多孔質材料中への活性ガス種の浸透に限界があるせいで、その効果には一般的に限界がある。
【0007】
グラフトは、多孔質膜のバルクマトリックスに対して有害作用を有することがある。グラフトによってもたらされる膜への有害作用には、グラフトされた膜では膨潤する傾向が増大することが包含され、これは膜の完全性を変化させ、透過性の低下をもたらすことがある。
【0008】
別の変性技術としては、米国特許第4618533号明細書に開示されたような親水性モノマーのフリーラジカル重合の間に薄い架橋ポリマーフィルムを膜表面上に形成させるものがある。典型的にはアクリルベースの架橋剤が用いられる。
【0009】
膜表面を望ましいコーティング用分子とアクリル架橋剤との混合物でコーティングすることを教示した方法が報告されている。例えば米国特許第6193077号明細書を参照されたい。また、アクリル架橋剤なしでアルゴンプラズマを用いてポリエチレングリコール(PEG)でコーティングされた多孔質膜も報告されている。例えばWang et al., 2002, J. Membr. Sci., 195:103を参照されたい。しかしながら、プラズマは多孔質材料への浸透が不充分であるため、有用性に限界がある。
【0010】
アクリルベースのコーティングの使用に関してはいくつかの欠点がある。これらの中には、多孔質膜を含む濾過器アセンブリを洗浄するための好ましい方法である濃アルカリ溶液による処理に対する安定性が悪いことがある。別の欠点は、これらのコーティングは典型的には熱安定性が劣るということであり、かくして良好な防蛋白質表面を作るPEGベースモノマーの使用が排除される。さらに、前記の方法は膜への痕跡量のカルボキシル基の導入を伴うことがあり、これは反対方向に電荷した蛋白質を引き付けて膜への非特異的結合をもたらす傾向がある。最後に、多孔質膜表面を変性するために用いられる多くの前記の技術について、孔の目詰まりの問題点が残り、かくしてこの技術の用途が制限される。
【特許文献1】米国特許第3253057号明細書
【特許文献2】米国特許第4151225号明細書
【特許文献3】米国特許第4278777号明細書
【特許文献4】米国特許第4311573号明細書
【特許文献5】米国特許第4618533号明細書
【特許文献6】米国特許第6193077号明細書
【非特許文献1】Wang et al., 2002, J. Membr. Sci., 195:103
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、上記の欠点を克服する表面変性を多孔質膜に提供することが望ましい。特に、有機溶剤による予備湿潤を必要とせず、膜を浄化するために用いられる典型的なアルカリ性条件下における安定性を保ちながら同時に蛋白質及びペプチドのような生体分子との非特異的相互作用を最少限にする多孔質膜を提供することの要望が存在する。本明細書に記載する本発明の様々な具体例は、これらの要望を適える。
【課題を解決するための手段】
【0012】
ある具体例において、本発明は、変性表面を含む多孔質膜並びにその製造方法及びその使用方法、並びに変性表面を有する多孔質膜を含む系を提供する。様々な具体例において、本発明は、特定用途の要望を満たすために調節された望ましい化学的又は物理的特性を付与する変性表面を有する多孔質膜を提供する。ある具体例において、本発明は、前記変性表面がポリマー組成物を含み、溶液の濾過の前に有機溶剤による予備湿潤を必要とせず、生体分子の非特異的相互作用(例えば膜と蛋白質、ペプチド、脂質若しくは炭水化物又は生物学的起源から誘導されたその他の分子(即ち膜を通るもの)との間の疎水性相互作用又は電荷−電荷相互作用)を最少限にし、多孔質膜を浄化するための好適な条件下(例えばアルカリ性条件下)において安定性を維持する多孔質膜を提供する。前記表面変性用組成物は、膜を横切る孔の内側表面を含めたすべての多孔質膜の表面と接触することができるものである。
【0013】
ある具体例において、本発明は、多孔質膜の表面の少なくとも一部を変性する方法であって、
(a)多孔質膜に
(1)・2つ以上の重合性基(即ち重合可能な基)を有するモノマー、又は
・少なくとも1種のモノマーが1つだけの重合性基を有し若しくは1つだけの重合性基から本質的に成り且つ少なくとも1種のモノマーが2つ以上の重合性基を有するモノマー混合物;
(2)カチオン重合開始剤;並びに
(3)随意としての、下に記載する官能性モノマー、添加剤及び溶剤の内の1種以上:
を接触させ;
(b)溶剤を用いた場合には随意にこの溶剤を除去し;
(c)(1)のモノマーを重合させ、それによって前記多孔質膜の表面の少なくとも一部を変性する:
ことを含む、前記方法を提供する。追加の随意工程として、重合開始剤としての働きをすることができる強酸が生成するようなある形のエネルギー(例えば放射エネルギー)に前記多孔質膜を曝すことを含ませることができる。別の随意工程として、(c)の多孔質膜を好適な溶剤で濯いで重合しなかった物質を洗い流すことを含ませることができる。
【0014】
別の具体例において、本発明は、多孔質膜の表面の少なくとも一部を変性するための系であって、
(a)表面を有する多孔質膜;
(b)・2つ以上の重合性基を有するモノマー、又は
・少なくとも1種のモノマーが1つだけの重合性基を有し若しくは1つだけの重合性基から本質的に成り且つ少なくとも1種のモノマーが2つ以上の重合性基を有するモノマー混合物;
(c)カチオン重合開始剤;並びに
(d)随意としての(1)官能性モノマー;(2)添加剤;(3)溶剤及び(4)エネルギー源の内の1種以上:
を含む前記系を提供する。
【0015】
さらに別の具体例において、本発明は、多孔質膜の表面に、
・2つ以上の重合性基を有するモノマー、又は
・少なくとも1種のモノマーが1つだけの重合性基を有し若しくは1つだけの重合性基から本質的に成り且つ少なくとも1種のモノマーが2つ以上の重合性基を有するモノマー混合物
を接触させて重合させた変性多孔質膜であって;その際に、カチオン重合開始剤並びに随意としてのエネルギー源及び溶剤の内の一方又は両方によって前記重合を促進し;そして前記変性表面がさらに(1)官能性モノマー;(2)添加剤:の内の1種以上を随意に含む、前記変性多孔質膜を提供する。
【0016】
さらなる具体例において、本発明は、少なくとも部分的に変性された表面を含む多孔質膜であって、該多孔質膜が、
(a)多孔質膜に
(1)・2つ以上の重合性基を有するモノマー、又は
・少なくとも1種のモノマーが1つだけの重合性基を有し若しくは1つだけの重合性基から本質的に成り且つ少なくとも1種のモノマーが2つ以上の重合性基を有するモノマー混合物;
(2)カチオン重合開始剤;並びに
(3)随意としての官能性モノマー、添加剤(それらの両方は下に記載する)及び溶剤の内の1種以上:
を接触させ;そして
(c)(1)のモノマーを重合させ、それによって前記多孔質膜の表面の少なくとも一部を変性する:
ことによって変性された、前記多孔質膜を提供する。
【0017】
さらに別の具体例において、本発明は、1種以上の生体分子を含む溶液を濾過する方法であって、少なくとも部分的に変性された表面を含む微孔質膜に、1種以上の生体分子を含む溶液を接触させることを含み、前記の膜の表面が、
(a)多孔質膜に:
(1)・2つ以上の重合性基を有するモノマー、又は
・少なくとも1種のモノマーが1つだけの重合性基を有し若しくは1つだけの重合性基から本質的に成り且つ少なくとも1種のモノマーが2つ以上の重合性基を有するモノマー混合物;
(2)カチオン重合開始剤;並びに
(3)随意としての官能性モノマー、添加剤及び溶剤の内の1種以上:
を接触させ;そして
(c)(1)のモノマーを重合させ、それによって前記多孔質膜の表面の少なくとも一部を変性する:
ことによって少なくとも部分的に変性されたものである、前記方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
カチオン重合
ある具体例において、本発明は、バルクマトリックス(例えばポリマー)から成る多孔質膜の表面の少なくとも一部を変性するためにカチオン重合を用いることができるという驚くべき発見に関する。カチオン重合は、シーラント、コーティング及び封入剤(カプセル剤)を作るために用いられてきた。例えば米国特許第4058401号明細書を参照されたい。ある場合には、これらのコーティングは、塗料又はコーティングとしてアルミニウム缶のような固体状物体上に塗布されるが、多孔質膜の表面変性用組成物としてではない。
【0019】
カチオン重合は、開始、伝播(成長)及び停止の3つの段階を伴う。この反応は、正電荷を有する開始剤の発生と共に始まる。典型的には、カチオン重合は求核分子のない環境において強酸によって開始させることができる。伝播が次に続き、この伝播は、これもまた正電荷を有する成長中の鎖へのポリマー種の付加を伴う。停止は、伝播反応を終わらせるものであり、成長中の鎖がアミンや水の分子のような求核分子と再結合した時に起こる。
【0020】
強酸は、カチオン重合光開始剤をエネルギー源に曝すことによって生成させることができる。このエネルギー源には、電離及び非電離放射線、例えば紫外線(UV)、可視光線、赤外線、ガンマ放射線、電子ビーム(EB)からの放射線,マイクロ波及び無線周波放射線が包含され得る。ある具体例において、表面変性用ポリマー組成物がビニルエーテルから調製される場合、カチオン重合を開始させるのには電子ビームだけで充分であり、光開始剤は必要ない。開始剤をエネルギー源に曝すことにより、上記の荷電した種の形成がもたらされる。ある具体例においては、熱エネルギーがカチオン重合を開始させるのに好適であり得る。さらに別の具体例において、強酸開始剤は、開始剤を生じさせるためにエネルギー源を必要とすることなく提供され得る。かかる強酸の例には、トリフルオロメタンスルホン酸、ヘキサフルオロリン酸、過塩素酸等が包含される。
【0021】
カチオン重合の開始剤として強酸を生成させるために有用な光開始剤には、ジアゾニウム塩、オニウム塩及び有機金属錯体が包含され、これらは外的エネルギー源が適用された時に強酸の生成を引き起こすことができるものである。オニウム塩には、第VIa族元素の塩が包含され得る。この塩は、芳香族オニウム塩であることができる。オニウム塩のカチオンは、典型的には、ジフェニルヨードニウム及びトリフェニルスルホニウム並びにそれらの置換体から成ることができる。好適なオニウム塩の非限定的な例には、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラメチレンスルホニウムヘキサフルオロアルセネート、トリフェニルスルホニウムフルオロボレート、トリフェニルスルホニウムクロリド、ジフェニルヨードニウムフルオロボレート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアルセネート及びトリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネートが包含される。ジアゾニウム塩は、典型的には、ジアゾニウムカチオン(C652+)又はその置換体から成り、トリフラート(トリフルオロメタンスルホネート)、ヘキサフルオロホスフェート、p−トルエンスルホネート、ペルフルオロ−1−ブタンスルホネート、硝酸塩及びその他の強酸のアニオンのようなアニオンを含むことができる。有機金属錯体は通常、低求核性のアニオンを有する鉄−アレーン(芳香族炭化水素)塩、例えばIrgacure 261(米国オハイオ州レイクウッド所在のM.F. Cachat Company社製)を含む。
【0022】
カチオン重合において効果的な開始剤の濃度は、存在する湿分の量や望まれる反応速度のような様々なファクターに基づいて決定することができる。水、例えば大気中の湿気は、反応を急冷する(冷ます、抑制する)ことがある。ある具体例において、開始剤の濃度は、1〜10重量%;0.1〜20重量%;0.01〜25重量%;0.5〜5重量%;0.9〜1重量%;1〜3重量%の範囲である。特定的な具体例において、開始剤の濃度は0.1重量%とする。
【0023】
カチオン重合用の重合性モノマー(例えば、2つ以上の重合性基を有するモノマー、又は少なくとも1種のモノマーが1つだけの重合性基を有し若しくは1つだけの重合性基から本質的に成り且つ少なくとも1種のモノマーが2つ以上の重合性基を有するモノマー混合物)の溶液は、任意の好適な溶剤、例えば多孔質膜に対して不活性な有機溶剤(即ち、孔寸法の完全性が損なわれる程度まで多孔質膜を溶解若しくは膨潤させない有機溶剤)又は水を用いて、或は全く溶剤を用いずに、調製することができる。
【0024】
ある具体例において、水を溶剤として用いる場合には、これは重合の前に蒸発させることができる。別の具体例においては、用いられる任意の溶剤を、蒸発、凍結乾燥、非溶剤との交換等によって膜から除去することができる。ある具体例においては、重合に先立っての溶剤から膜の表面上へのモノマーのパーティションも検討され、それによって溶剤の除去又は蒸発の必要性が取り除かれる。別の具体例において、稠密コーティングが望まれる場合には、任意の溶剤を用い、例えば1種以上の重合性モノマー及び開始剤を用いるのが望ましいことがある。前記の膜は、多孔質のままであり続けるがしかし充填され、即ちフラックス(流動)がないだろう。このタイプの変性膜は、例えば透析に用いることができる。
【0025】
溶剤を用いる具体例において、溶剤は、重合混合物の成分(開始剤、モノマー等)を溶解させることができるものであるべきである。水はある場合に重合反応を急冷することがあるので、例えば1%未満、0.1%未満、0.01%未満、0.001%未満、0.0001%未満の低い水含有率を有するものが好適な溶剤である場合がある。水を溶剤として用いる場合には、これは、重合反応を行う前に除去、例えば蒸発させなければならない。様々なバルクマトリックス材料から成る膜用の好適な溶剤を、下記の表1に示す。
【表1】

【0026】
ある具体例においては、カチオン重合反応への様々な有用な添加剤が考えられる。添加剤は希釈剤、光増感剤及び遅延剤を包含することができ、これらはカチオン重合反応の速度及び程度を制御するために該重合反応に添加することができる。ある具体例において、これらの試薬はカチオン重合反応における連鎖停止剤としての働きをすることができる。従ってこれらの試薬はモノマーの重合度を調節するために用いることができ、これは変性された膜表面の様々な膨潤及び安定性挙動につながり得る。好適な希釈剤の例には、アミン、ポリマー状アルコール及び水のような任意の求核分子が包含される。光増感剤の例には、アントラセン、ピレン及びペリレンのような多核芳香族化合物がある。その他の添加剤には、界面活性剤が包含され得る。かくして、表面変性用ポリマーは、ある具体例においては、ポリマーが膜表面上で玉状になるのを防止し且つすべての標的表面の均一コーティングを確実にするために、好適な活性剤と組み合わせることができる。好適な界面活性剤の例には、ヘキサデカフルオロスルホン酸カリウム塩が包含される。
【0027】
ある場合にはまた、官能性モノマーもカチオン重合反応への潜在的に有用な添加剤として考えられる。これらの試薬は特定の化学官能基を有するものであることができ、膜表面に特別な特性、例えば分離方法の一部として多孔質膜に適用されるサンプル中に含有される興味深い検体(分析物)を引き付け、これに結合し又は弾く能力を与えるように選択することができる。ビニルエーテル及びグリシジルエーテルは、様々な化学種を用いて誘導体化して官能性モノマーを提供することができる。別の官能性モノマーには、第4級アンモニウム塩(非求核性対イオンを有するもの)を含有する分子が包含されることができ、重合性基は膜に永久正電荷を組み込むために用いることができる。
【0028】
多孔質膜及び表面変性用ポリマー
ある具体例において、本発明は、表面の少なくとも一部が変性された多孔質膜を提供する。ある具体例においては、多孔質膜の全表面(膜の深さ方向を横切る孔の内側表面を含む)が、例えば該表面にポリマー組成物を塗布することによって、変性される。ここ(本明細書)に記載したようなカチオン重合を用いて、任意の膜を変性することができる。この膜は、疎水性又は親水性のバルクマトリックス材料であってポリマー組成物(例えば親水性ポリマー)で変性されたものから成ることができる。ある具体例において、前記の膜は、カチオン重合を用いることによって、膜に通される溶液中に含有される分子の非特異的な結合を抑制し又は取り除くように変性することができる。
【0029】
膜のバルクマトリックス材料中の化学官能基の存在及びそのタイプに応じて、表面変性用組成物は膜の表面に共有結合することもでき、共有結合しないこともできる。従って、ある具体例において、表面変性用ポリマー組成物は、多孔質膜の表面全体に装着するが、しかし膜の表面に化学結合はしない。有利には、コーティングを共有結合させることなく膜を変性することによって、より頑丈且つ安定であって膨潤しにくい膜を提供する表面が得られ、それに伴って、水性溶剤中に入れた時にグラフトした膜によって経験される構造完全性への折衷点が提供される。表面変性用組成物は、使用前、例えば生分離の前又は貯蔵の間に多孔質膜を清浄化する際に用いられる条件下で起こり得るアルカリ加水分解を受けやすくない重合した多官能性モノマーから成ることができる。
【0030】
前記の多孔質膜の表面は、アクリレート系官能基を使用したりプラズマ又はコロナ放電を用いたりすることなく変性することができ、従って、アクリル試薬に関連した毒性が回避され、プラズマ及びコロナ放電において見受けられる膜の孔中への不充分なコーティング浸透が回避される。ある具体例においては、放射線誘導カチオン重合を用いて多孔質膜の表面を変性する。ここで用いた場合の表面とは、膜の外側表面、例えば上面、下面、並びに上面から下面への膜の深さ方向を横切る孔の内側表面の両方を指す。
【0031】
多孔質膜のバルクマトリックスは、1種以上のポリマーのような任意の好適な材料から成ることができる。多孔質膜を形成するための代表的な好適ポリマーには、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のようなポリオレフィン類;ポリスチレン又は置換ポリスチレン;ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリフッ化ビニリデン等を含むフッ素化ポリマー類;ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等のようなポリスルホン類;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等を含むポリエステル類;ポリアクリレート類及びポリカーボネート類;ポリ塩化ビニル及びポリアクリロニトリル類のようなビニルポリマー類;セルロース、ニトロセルロース及びセルロースアセテートのようなセルロース誘導体;ポリアミド類が包含される。また、ブタジエンとスチレンとのコポリマー、フッ素化エチレン−プロピレンコポリマー、エチレン−クロロトリフルオロエチレンコポリマー等を含むコポリマーも、多孔質材料のバルクマトリックスを形成させるために用いることができる。
【0032】
一般的に、前記多孔質膜は、0.001〜50μm、0.1〜5μm、0.01〜1μmの範囲の平均孔寸法を有する。ある具体例において、この平均孔寸法は、0.2μmである。別の具体例において、この平均孔寸法は、0.45μmである。膜深さ、即ち二つの外側表面の間の距離、又は膜の上面と下面との間の距離は、1〜1000μm、50〜500μm、75〜200μm、90〜150μmの範囲であることができる。
【0033】
前記の多孔質膜の表面変性用ポリマー組成物は、
・2つ以上の重合性基を有する任意の好適なモノマー、又は
・少なくとも1種のモノマーが1つだけの重合性基を有し若しくは1つだけの重合性基から本質的に成り且つ少なくとも1種のモノマーが2つ以上の重合性基を有するモノマー混合物
から成ることができる。重合性モノマーには、求核性基を持たないある範囲の溶剤可溶性重合性モノマー(アルコール、アミン、チオール等)が包含され得る。膜表面を変性するのに好適なポリマーの例には、ポリエチレングリコール(PEG)(ポリエチレングリコールジビニルエーテル及びポリエチレンジグリシジルエーテルを含む)、Nafionビニルエーテル類、並びにポリオレフィン類、ポリアクリレート類、ポリアミド類、ポリ−N−ビニルピロリドン、ポリシロキサン類、ポリオキサゾリン、ポリスチレン類が包含され得る。
【0034】
ある具体例において、前記表面変性用ポリマーは、親水性であることができる。この親水性のポリマーは、変性された膜表面への非特異的結合を最少限にするために、中性電荷であることができる。別の具体例において、前記表面変性用ポリマーは、別の望ましい化学的特性、例えば極性表面、又は特定材料に対する特異的親和性を提供するものであることができる。ある具体例において、前記表面変性用ポリマーは、多孔質膜の表面の少なくとも一部の上に表面変性用ポリマー又は架橋したフィルムを形成する重合性モノマーから成ることができる。ある具体例において、重合性モノマーは、脂肪族及び/又はエーテル結合を含むものであることができる。この重合性モノマーは、カチオン重合反応において反応することができる1つ以上の好適な化学官能基を含むことができる。好適な化学官能基の例には、グリシジルエーテルのようなエポキシド類、スチレン誘導体、ビニルエーテル類、並びに一般的に次の置換基:アルコキシ、フェニル、ビニル及び1,1−ジアルキル:の内の1種を有する炭素−炭素二重結合が包含される。カチオン重合によって重合可能な一般的な類の官能基は、チイラン、環状エーテル、ラクトン等のようなヘテロ環である。当業者であれば、モノマーの選択が架橋密度、フロー時間、フラックス及び検体忌避性のような変数に対する制御を提供するということを理解するであろう。
【0035】
ある具体例において、前記重合性モノマーは、0.5〜100容量/容量%、0.5〜50容量/容量%、3〜30容量/容量%;1〜40容量/容量%;2〜15容量/容量%;5〜10容量/容量%の濃度で初期コーティング用混合物中に存在させることができる。ある具体例においては、前記重合性モノマーを10容量/容量%超の濃度で存在させることができる。特定的な具体例においては、前記重合性モノマーを10容量/容量%の濃度で存在させることができる。別の特定的な具体例においては、前記重合性モノマーを20容量/容量%の濃度で存在させることができる。別の特定的な具体例においては、前記重合性モノマーを30容量/容量%の濃度で存在させることができる。さらに別の特定的な具体例においては、前記重合性モノマーを100容量/容量%の濃度で存在させることができ、従って膜の孔の全容積がポリマー組成物で満たされる。
【0036】
本発明の方法
ある具体例において、本発明は、アクリル試薬を用いることなく多孔質膜の表面の少なくとも一部を変性する方法を提供する。別の具体例において、本発明は、プラズマエネルギーを使用することなく多孔質膜の表面の少なくとも一部を変性する方法を提供する。さらに別の具体例において、本発明は、グラフトを使用することなく、例えば表面変性用ポリマー組成物を多孔質膜表面に共有結合させることなく、多孔質膜の表面の少なくとも一部を変性する方法を提供する。
【0037】
さらなる具体例において、本発明は、多孔質膜の表面の少なくとも一部を変性する方法であって、
(a)多孔質膜の少なくとも1つの表面に、
(1)メタノール;
(2)ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル及び
(3)ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート;
(4)ヘキサデカフルオロスルホン酸カリウム塩
を含む溶液を接触させ、
(b)(a)の多孔質膜から溶剤を除去し;
(c)(b)の多孔質膜を(a)のモノマーが重合するように紫外線に曝す:
ことを含む、前記方法を提供する。
【0038】
ある種のポリマー膜、例えばポリエーテルスルホンのようなポリスルホンは、有害な態様で多官能性モノマーと相互作用することがある。従って、本発明の方法においては、ポリスルホン膜をカチオン重合開始剤及び重合性モノマーと接触させた後に、濯ぎ工程を追加することが考えられる。この濯ぎは、好適な溶剤を用いて行うことができる。また、重合後の追加の濯ぎ工程も考えられる。
【0039】
ある具体例においては、カチオン重合において用いた溶剤を除去又は蒸発させた後に、多孔質膜に好適な湿分バリヤーを施す追加工程が考えられる。この湿分バリヤーは、大気中の湿分から膜を保護することができる袋(例えばポリエチレン袋)のような好適な容器又は窒素シールを含むことができる。このバリヤーは、放射エネルギーを透過することができるものであってよく、従ってエネルギー源が紫外線のような光エネルギーである場合、好適なバリヤーは光を透過するものである。
【0040】
さらに別の具体例において、本発明は、変性用ポリマー組成物が多孔質膜の1つ以上の表面を覆う度合い及び程度を、例えば希釈剤又は遅延剤を用いることによって調節する方法を提供する。さらに別の具体例において、本発明は、多孔質膜の流量及び/又はフラックスを調節する方法を提供する。この方法は、表面変性用ポリマー組成物の選択及び濃度並びに/又は開始剤の濃度を変えることを伴うことができる。さらなる具体例において、本発明は、カチオン重合反応に1種以上の官能性モノマーを含ませることによって、多孔質膜の表面を好適な化学官能基で変性する方法を提供する。
【0041】
本発明のある具体例においては、前記多孔質膜と重合性モノマー及びカチオン開始剤並びに随意としての1種以上の次の官能性モノマー及び溶剤とを、1〜30分間;2〜5分間;1〜3分間;0.5〜10分間;2〜3分間;1〜2分間;5〜7分間接触させる。ある具体例においては、前記多孔質膜と(1)溶剤;(2)重合性モノマー及び(3)カチオン重合開始剤を含む溶液とを、10分間以上接触させる。
【0042】
大気中の湿気は重合反応の速度及び程度に影響を及ぼすことがある。本発明に従うカチオン重合は、0〜100%の範囲の湿度において実施することができる。ある具体例において、この湿度は90%未満、80%未満、70%未満、60%未満、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満、1%未満である。別の具体例において、カチオン重合は、100%未満の湿度において実施することができる。一般的に湿度が低いほど反応の制御が良好になる。従って、ある具体例においては、完全に乾燥した雰囲気中、例えば乾燥窒素シール下でカチオン重合を実施することができる。重合反応を0%より高い湿度において実施する場合には、0%の湿度において用いられる開始剤の濃度と比較して高い濃度の開始剤を用いることによって、湿度が高くなった分を補うことができる。
【0043】
ここに記載した多孔質膜は、1種以上の生体分子の分離を含めた(しかしこれに限定されない)濾過/分離方法に用いることができる。例として、生体分子は蛋白質、蛋白質フラグメント又はペプチドであることができる。蛋白質は、免疫グロブリン、例えばIgG、IgA、IgM、IgD、IgE又はそれらの官能化等価物であることができる。免疫グロブリン官能化等価物には、それらの抗原性エピトープの結合する能力を維持した免疫グロブリンフラグメントが包含され得る。本発明の多孔質膜は、ナノ濾過、限外濾過及び精密濾過分離に用いることができる。
【0044】
ここに記載した多孔質膜は、ポリマー性表面コーティングに少なくとも1つの官能性モノマーを組み込むことによって、フィルターを通過したサンプル溶液中に含有される特定の検体に化学的に結合するように設計することができる。例として、所望の検体と反応してこれに結合する化学官能基を、表面変性用ポリマー組成物中へと導入することができる。また、ポリマー組成物は、所望の官能性の特定リガンドを組み込むように設計することもできる。
【0045】
本発明の系
ある具体例において、本発明はまた、多孔質膜の表面を変性するための系をも提供する。この系は、多孔質膜、カチオン開始剤及び1種以上の重合性モノマーを含むことができる。この系はまた、随意に次のものの内の1種以上をも含むことができる:溶剤、1種以上の官能性モノマー、1種以上の添加剤、光開始剤、エネルギー源、例えば電離又は非電離エネルギー。ある具体例において、前記エネルギー源は、紫外線であることができる。好適な紫外線源には、Fusion UV Systems社(米国メリーランド州ゲーサーズバーグ所在)によって製造されているもののような、2つの紫外線源(上面に1つ、下面に1つ)を有するUVコンベヤーが包含され得る。別の具体例において、エネルギー源は電子ビームであることができる。好適な電子ビーム源には、例えばEnergy Sciences社(米国マサチューセッツ州ウィルミントン所在)によって製造されているもののような、中央に封じられたEBチャンバーを有するコンベヤーが包含され得る。本発明の別の具体例においては、重合を開始させるのにエネルギー源が要求されずに、単純に溶液中にすでに存在する強酸によって行うことができる。
【0046】
ある具体例において、本発明は、多孔質膜の表面を変性するための自動化された系を提供する。かくして、開始剤、多官能性モノマー又は一官能性モノマーと多官能性モノマーとの混合物、及び溶剤を混合する工程、この混合物を多孔質膜の表面の少なくとも一部に塗布する工程、この膜を濯ぐ工程及びこの膜から溶剤を除去する工程を含めたいずれかの又はすべての工程を自動化することができる。
【実施例】
【0047】
例1:カチオン重合及びUVを用いたPEG変性膜
メタノール中のポリエチレングリコールジビニルエーテル(10容量/容量%)及びジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート(0.1重量/容量%)の溶液を調製した。この溶液中に、孔寸法0.22μmの微孔質PVDF膜を2〜5分間浸し、取り出し、空気中で乾燥させてメタノールを除去し、次いで透明な4ミルのポリエチレン袋中に入れた。次いで、Fusion UV Systems F450紫外線電球を2つ(膜の上及び下)備えた紫外線(UV)コンベヤーに25フィート/分(約7.6m/分)の速度で通した。この膜を次いで袋から取り出し、ソックスレー装置を用いてメタノールで抽出し、空気中で乾燥させた。最終的な膜は、初期の膜と比較して僅かに黄色っぽい色合を有していた。重量増加は約10%であり、減衰全反射赤外分光法(Attenuated Total Infra-Red Spectroscopy)(ATR−IR)は膜表面上にPEGポリマーが存在することをはっきり示した。この膜は自然に水で湿潤し、その深さ方向全体で均一の親水性の特徴を示した。この所見は、膜を湿潤させ、環境走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することによって確認された。この変性膜は水を容易に通し、未変性膜と比較した水フラックス損失は約10%だった(50秒対42秒の100ミリリットルMilliQ水のフロー時間)。この変性膜は、低い蛋白質結合(18μg/cm2のヤギ抗ウサギIgG)を示した。フラックス及び蛋白質結合は、1MのNaOH溶液に3時間曝した後にも変化しなかった。比較データを表2に示す。
【表2】

*Durapore(登録商標)はPVDF膜である。
【0048】
例2:カチオン重合及びEBを用いたPEG変性膜
メタノール中のポリエチレングリコールジビニルエーテル(20容量/容量%)、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート(0.2重量/容量%)及びヘキサデカフルオロスルホン酸カリウム塩(HFSK)(2重量/容量%)の溶液を調製した。この溶液中に、孔寸法1.0μmの微孔質UPE膜を2〜5分間浸し、この溶液から取り出し、空気中で乾燥させてメタノールを除去した。この膜を、2MRadの合計放射線量を受け取るように電子ビーム(EB)に曝した。この膜を、ソックスレー装置を用いてメタノールで抽出し、空気中で乾燥させた。最終的な膜は、元の膜と比較して黄色っぽい色合を有していた。これは水中によく湿潤した。重量増加は60〜70%周辺で、水100ミリリットルのフロー時間は、未変性膜についての3秒から変性膜については5〜6秒に増加した。この膜への蛋白質結合は50μg/cm2だった。
【0049】
例3:PVDF膜上のグリシジルエーテルのカチオン重合
ヘキサデカフルオロスルホン酸カリウム塩(HFSK)(1重量/容量%)、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート(1重量/容量%)及びエチレングリコールジグリシジルエーテル(20容量/容量%)を含有するメタノール溶液を調製した。この溶液中に、孔寸法0.22μmの微孔質PVDF膜を2〜5分間浸し、取り出し、空気中で乾燥させてメタノールを除去し、次いで透明な4ミルのポリエチレン袋中に入れた。次いで、UVコンベヤーに10フィート/分(約3.0m/分)の速度で通した。この膜を次いで袋中に保ち、50℃のオーブン中に1時間入れ;取り出し、ソックスレー装置を用いてメタノールで抽出し、空気中で乾燥させた。最終的な膜は、元の材料と同じ外観を有し、水中に非常によく湿潤し、重量増加は7.9%であり、蛋白質結合は14.8μg/cm2だった。比較として、同じ条件下でしかしオーブン処理をせずに調製した膜は、疎水性だった。
【0050】
例4:加熱なしでのグリシジルエーテルのカチオン重合
例3の手順を繰り返したが、膜をオーブン中に入れずに、室温において24時間袋の中に留まらせ、その後に濯ぎ及び抽出を実施した。最終的な膜は、元の材料と同じ外観を有し、水中に非常によく湿潤し、重量増加は30.4%であり、蛋白質結合は12.9μg/cm2だった。
【0051】
例5:加熱なしでのジグリシジルエーテルのカチオン重合
エチレングリコールジグリシジルエーテルの代わりにポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(分子量550、Aldrich社)(20容量/容量%)を用いて、例4の手順を繰り返した。この膜はオーブン中に入れず、袋中に室温において17時間留まらせ、その後に濯ぎ及び抽出を実施した。最終的な膜は、元の材料と同じ外観を有し、水中に非常によく湿潤し、重量増加は30.6%であり、蛋白質結合は12.7μg/cm2だった。
【0052】
例6:ジグリシジルエーテルのカチオン共重合
ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(MW550、Aldrich社)(10容量/容量%)及びエチレングリコールジグリシジルエーテル(10容量/容量%)の両方をコーティングミックス中に用いて、例5の手順を繰り返した。この膜は、室温において17時間放置し、その後に濯ぎ及び抽出を実施した。最終的な膜は、元の材料と同じ外観を有し、水中に非常によく湿潤し、重量増加は16.2%であり、蛋白質結合は28.5μg/cm2だった。
【0053】
例7:UPE膜上のグリシジルエーテルのカチオン重合
20%エチレングリコールジグリシジルエーテル、2%HFSK及び1.0μmのUPE膜を用いて、例5の手順を繰り返した。この膜は、袋中で室温において17時間放置した。抽出及び乾燥後に、この膜は水で迅速且つ均一に湿潤した。重量増加は50〜60%であり、フラックス損失は無視できる程度だった。
【0054】
例8:UPE膜上のエチレングリコールジグリシジルエーテル及びベンジルグリシジルエーテルのカチオン重合
20%エチレングリコールジグリシジルエーテル及び1.0μmのUPE膜を用い、5%(重量/容量)ベンジルグリシジルエーテルを加えて、例7の手順を繰り返した。重量増加は50〜60%で、フラックス損失は無視できる程度だった。赤外線スペクトルは、膜コーティング中に芳香族特徴の存在を示した(700cm-1)。
【0055】
例9:PES膜上のグリシジルエーテルのカチオン重合
メタノール中のポリエチレングリコールジビニルエーテル(30容量/容量%)及びジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート(DPIHP)(0.4重量/容量%)の溶液を調製した。この溶液中に、孔寸法0.22μmの微孔質PES膜を30分間浸し、取り出し、メタノール中のDPIHPの0.4%溶液で簡単に濯ぎ、空気中で10分間乾燥させ、次いで10MRadの電子ビーム放射線に曝した。この膜を次いでソックスレー装置を用いてメタノールで抽出し、空気中で乾燥させた。最終的な膜は、初期の膜と比較して僅かに黄色っぽい色合を有していた。最終的な膜は、初期の膜と比較して僅かに黄色っぽい色合を有していた。重量増加は約4%であり、減衰全反射赤外分光法(ATR−IR)は膜表面上にPEGポリマーが存在することをはっきり示した。フラックス損失は、未変性膜と比較して約50%だった(100ミリリットルMilliQ水のフロー時間が32秒対20秒)。この変性膜は、非常に低い蛋白質結合を示した(16.2μm/cm2のヤギ抗ウサギIgG)。
【0056】
例10:溶剤として水を用いたPVDF膜上のグリシジルエーテルのカチオン重合
ヘキサデカフルオロスルホン酸カリウム塩(HFSK)(2重量/容量%)、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート(1重量/容量%)及びエチレングリコールジグリシジルエーテル(20容量/容量%)を含有する水性溶液を調製した。孔寸法0.22μmの微孔質PVDF膜をイソプロパノールで予備湿潤させ、脱イオン水に交換し、前記溶液中に3分間浸し、取り出し、オーブン中で50℃において20分間乾燥させて水を除去し、次いで透明な4ミルのポリエチレン袋中に入れた。次いでこれをUVコンベヤーに10フィート/分(約3.0m/分)の速度で通した.この膜を袋中に室温において17時間保ち;袋から取り出し、ソックスレー装置を用いてメタノールで抽出し、空気中で乾燥させた。最終的な膜は、元の材料と同じ外観を有し、水中によく湿潤し、重量増加は16%であり、水フラックスは元の未変性膜のフラックスの約50%だった。
【0057】
例11:PVDF膜上の100%ジビニルエーテルのカチオン重合
純粋なトリエチレングリコールジビニルエーテル中にジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェートを1%(重量/容量)の濃度まで溶解させた。この溶液中に、孔寸法0.22μmの微孔質PVDF膜を2分間浸し、取り出し、透明な4ミルのポリエチレン袋中に入れた。次いで、Fusion UV Systems F450紫外線電球を2つ(膜の上及び下)備えた紫外線(UV)コンベヤーに25フィート/分(約7.6m/分)の速度で通した。この膜を次いで袋から取り出し、ソックスレー装置を用いてメタノールで抽出し、空気中で乾燥させた。最終的な膜は、初期の膜と比較して黄色っぽい色を有していた。重量増加は約125%であり、この膜は親水性のポリマーで完全に満たされており、水フラックスは無視できる程度に小さかった。
【0058】
明細書及び特許請求の範囲に記載された成分、反応条件等の量を表わすすべての数値はすべての場合において「約」がつけられるものであると理解されたい。従って、明細書及び添付した特許請求の範囲に記載した数値パラメーターは、別途記載がない限り、概算値であり、本発明によって得ることが求められる所望の特性に基づいて変化させることができるものである。少なくとも、そして特許請求の範囲への均等の原則の適用を制限しようとするものではなく、それぞれの数値パラメーターは、有効桁数及び通常の丸め方法に鑑みて解釈されるべきである。
【0059】
当業者には明らかなように、本発明の技術思想及び範囲から逸脱することなく、本発明の多くの改良及び変更を為すことができる。ここに記載した特定的な具体例は飽くまで例として与えたものであり、何らかの制限を意味するものではない。明細書及び実施例は単に例示と見なされることが意図され、本発明の真の範囲及び技術思想は添付した特許請求の範囲に示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質膜の表面の少なくとも一部を変性する方法であって、
(a)多孔質膜に
(1)・2つ以上の重合性基を有するモノマー、又は
・少なくとも1種のモノマーが1つだけの重合性基を有し且つ少なくとも1種のモノマーが2つ以上の重合性基を有するモノマー混合物;
(2)カチオン重合開始剤;並びに
(3)随意としての官能性モノマー、添加剤、溶剤及びエネルギー源の内の1種以上:
を接触させ;
(b)溶剤を用いた場合には随意にこの溶剤を除去し;
(c)(1)のモノマーを重合させ、それによって前記多孔質膜の表面の少なくとも一部を変性する:
ことを含む、前記方法。
【請求項2】
前記多孔質膜が疎水性のバルクマトリックスから成る、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記の疎水性のバルクマトリックスがポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、置換ポリスチレン;ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリフッ化ビニリデン;ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル及びポリアクリロニトリルから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記モノマーが親水性である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記モノマーがポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレングリコールジビニルエーテル、ポリエチレングリコールジビニルエーテル、ポリオレフィン、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリ−N−ビニルピロリドン、ポリシロキサン、ポリオキサゾリン、ポリスチレンから選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記カチオン重合開始剤がジアゾニウム塩、オニウム塩及び有機金属錯体から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記オニウム塩がジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラメチレンスルホニウムヘキサフルオロアルセネート、トリフェニルスルホニウムフルオロボレート、トリフェニルスルホニウムクロリド、ジフェニルヨードニウムフルオロボレート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアルセネート、トリフェニルスルホニウム及びヘキサフルオロアンチモネートから選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記エネルギー源が放射エネルギー源である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記放射エネルギー源が紫外線、可視光線、赤外線、ガンマ放射線、電子ビームからの放射線、マイクロ波放射線及び無線周波放射線から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程(a)〜(c)を100%より低い湿度において実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
多孔質膜の表面に、
・2つ以上の重合性基を有するモノマー、又は
・少なくとも1種のモノマーが1つだけの重合性基を有し若しくは1つだけの重合性基から本質的に成り且つ少なくとも1種のモノマーが2つ以上の重合性基を有するモノマー混合物
を接触させて重合させた変性多孔質膜であって;その際に、カチオン重合開始剤並びに随意としてのエネルギー源及び溶剤の内の一方又は両方によって前記重合を促進し;そして前記変性表面がさらに(1)官能性モノマー;(2)添加剤:の内の1種以上を随意に含む、前記変性多孔質膜。
【請求項12】
前記多孔質膜が疎水性のバルクマトリックスから成る、請求項11に記載の変性多孔質膜。
【請求項13】
前記の疎水性のバルクマトリックスがポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、置換ポリスチレン;ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリフッ化ビニリデン;ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル及びポリアクリロニトリルから選択される、請求項12に記載の変性多孔質膜。
【請求項14】
前記の多官能性モノマー又は一官能性モノマーと多官能性モノマーとの混合物が親水性のモノマーである、請求項11に記載の変性多孔質膜。
【請求項15】
前記の親水性の多官能性モノマーがポリエチレングリコール(PEG)ジビニルエーテル、PEGジグリシジルエーテル、並びに少なくとも2個の重合性官能基を含有するように変性されたポリオレフィン、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリ−N−ビニルピロリドン、ポリシロキサン、ポリオキサゾリン、ポリスチレンのようなその他のプレポリマーから選択される、請求項14に記載の変性多孔質膜。
【請求項16】
前記カチオン重合開始剤がジアゾニウム塩、オニウム塩及び有機金属錯体から選択される、請求項15に記載の変性多孔質膜。
【請求項17】
前記オニウム塩がジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラメチレンスルホニウムヘキサフルオロアルセネート、トリフェニルスルホニウムフルオロボレート、トリフェニルスルホニウムクロリド, ジフェニルヨードニウムフルオロボレート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアルセネート及びトリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネートから選択される、請求項16に記載の変性多孔質膜。
【請求項18】
前記溶剤が水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル、ジエチルエーテル、アセトン、テトラヒドロフラン及びジクロロメタンから選択される、請求項11に記載の変性多孔質膜。
【請求項19】
多孔質膜の表面を変性する方法であって、
(a)前記多孔質膜に
(1)溶剤;
(2)多官能性モノマー又は一官能性モノマーと多官能性モノマーとの混合物及び
(3)カチオン重合開始剤;並びに
(4)随意としての官能性モノマー及び添加剤の内の1種以上
を含む溶液を接触させ;
(b)この膜を溶剤又は溶剤中のカチオン開始剤の溶液で濯ぎ;
(c)(b)の膜から溶剤を除去し;
(d)(b)の膜を(a)のポリマーが重合するようなエネルギーに曝す:
ことを含む、前記方法。
【請求項20】
前記多孔質膜がポリスルホン、ポリエーテルスルホン及びポリフェニルスルホンから選択される、請求項21に記載の方法。

【公開番号】特開2007−321147(P2007−321147A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−137035(P2007−137035)
【出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【出願人】(390019585)ミリポア・コーポレイション (212)
【氏名又は名称原語表記】MILLIPORE CORPORATION
【Fターム(参考)】