説明

放射線量測定方法と放射線量測定装置

【課題】放射線量測定装置の最終応答値を時定数の経過を待たずに予測演算して表示する放射線量測定方法および予測対応型放射線量測定装置を提供すること。
【解決手段】放射線の入射により出力パルスを発生する出力部と、前記出力パルスの到達をカウントし適宜サンプリング・タイムTによってカウント毎秒計数率を算出する計数率演算部と、複数の前記カウント毎秒計数率に基づき移動平均値を算出する移動平均値演算部と、現移動平均値および前移動平均値ならびに前カウント毎分計数率に基づき現カウント毎分計数率を次式N0=60×(M0−M-1)/Δt+N-1(ここでN0:現カウント毎分計数率、N-1:前カウント毎分計数率、M0:現移動平均値、M-1:前移動平均値、Δt:サンプリング・タイム)により予測する予測演算部と、予測演算された現カウント毎分計数率を表示する表示部とを備えたこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所や素粒子・高エネルギーに関する研究所あるいは医療機関の放射線治療室など放射線の放射を伴う環境下における安全性を確保するため、放射性物質による汚染等の有無およびその汚染レベルを見落とすことなく検出ないし測定する放射線量測定装置および測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性物質を取扱う環境下にあっては、従来より空間線量モニタリングの繃線測定器、放射性物質による表面汚染モニタリングのゲートモニタやハンドフットクロスモニタなどを用いて、当該環境における放射線の線量率ないし計数率(単位時間当たりの線量ないし出力パルスカウント数)の測定が適時実施される。
【0003】
測定はまず、検出器に備わるプローブ等を被測定物に対してたとえば移動させながらバックグラウンドを有意に超す値を持つ汚染箇所を探査し、発見された汚染箇所において更に一定時間そのプローブを保持したまま測定装置の指針が安定してからこれを最終的な線量率ないし計数率(以下、適宜「最終応答値」ともいう。)として行われるのが一般的である。
【0004】
このような測定に供される放射線量測定器として、たとえばシンチレーション検出器を用いたサーベイメータなどがよく知られる。
【0005】
ところで、上記のような放射線量測定装置に備わる電気回路は、コンデンサや抵抗を配して構成されるのが普通である。
【0006】
このため計器の応答がいわゆる一次遅れ系の遅延を呈し、放射線量の正確な測定には少なくとも時定数に応じた測定時間を要するのが現状である。
【0007】
しかしながら、実際には被測定物に対して少なくとも毎秒50mm程度の移動速度に対応できないようでは実働に堪え得るものとは謂い難く、また緊急被曝事故等の発生時にあって空間線量率や汚染箇所の計数率を測定するに際して、異常と検知した箇所においてプローブ等を静止させてから上記時定数に応じた測定時間を待っていては、最終応答値を得るまでに膨大な時間を要してしまい安全を確保することはできない。
【0008】
そして汚染箇所の発見のためにプローブを移動させながらサーベイメータの測定値を読む場合、仮に測定対象との距離10mm、時定数10秒、移動速度毎秒50mmとするとその出力は静止時の最終応答値の10%から15%程度に急減し、熟練者以外では特に軽微な汚染箇所において有意な変化を認識することが困難なのが実情である。
【0009】
特に事故時にあっては、放射性物質による人体の汚染検査に関し一人当たりに長い時間がかかると、特に被験者数が多数の場合には、検査の遅延から被験者の被曝量を把握できず深刻な問題となることがある。
【0010】
さらに日常の放射線管理においても、測定箇所が多数であれば必然的に検査時間が長時間に及ぶために安全管理が不充分となり、他方検査時間を短縮すべくプローブ等の移動速度を上げると、上記時定数の問題から、正確な放射線量測定が行えず、いずれにしても当該管理環境下の安全性の確保が困難であるとの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際出願PCT/JP2006/302748
【特許文献2】特開2008−101922
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで本発明は、従来の放射線量測定装置が有する上記の問題点に鑑み、放射線量測定装置の最終応答値を時定数の経過を待たずに予測演算して表示する放射線量測定方法および予測対応型放射線量測定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決することを目的としてなされた本発明放射線量測定方法の構成は、放射性物質の放射線量を測定する方法であって、適宜サンプリング・タイムΔtによって得られた複数のカウント毎秒計数率に基づき移動平均値を算出するステップと、算出された現移動平均値および前移動平均値ならびに予測演算された前カウント毎分計数率に基づき現カウント毎分計数率を次式N0=60×(M0−M-1)/Δt+N-1(ここでN0:現カウント毎分計数率、N-1:前カウント毎分計数率、M0:現移動平均値、M-1:前移動平均値、Δt:サンプリング・タイム)により予測演算するステップと、予測演算された現カウント毎分計数率を適宜の表示手段により表示するステップとを備えたことを特徴とするものである。
【0014】
本発明放射線量測定方法の前記移動平均値は、3〜10個程度のカウント毎秒計数率に基づく移動平均値であるのが望ましく、また各カウント毎秒計数率のうち現時点により近い過去のカウント毎秒計数率へより大きな重みを付与してなる加重移動平均値として算出することも可能である。
【0015】
上記の課題を解決することを目的としてなされた本発明放射線量測定装置の構成は、放射線の入射により出力パルスを発生する出力部と、前記出力パルスの到達をカウントし適宜サンプリング・タイムTによってカウント毎秒計数率を算出する計数率演算部と、複数の前記カウント毎秒計数率に基づき移動平均値を算出する移動平均値演算部と、現移動平均値および前移動平均値ならびに前カウント毎分計数率に基づき現カウント毎分計数率を次式N0=60×(M0−M-1)/Δt+N-1(ここでN0:現カウント毎分計数率、N-1:前カウント毎分計数率、M0:現移動平均値、M-1:前移動平均値、Δt:サンプリング・タイム)により予測する予測演算部と、予測演算された現カウント毎分計数率を表示する表示部とを備えたことを特徴とするものである。
【0016】
本発明放射線量測定器の前記移動平均値演算部は、3〜10個程度の適宜個数のカウント毎秒計数率に基づき移動平均値を算出するのが望ましく、また各カウント毎秒計数率のうち現時点により近い過去のカウント毎秒計数率へより大きな重みを付与してなる加重移動平均値によって演算処理を行うよう構成することも可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明放射線量測定方法ないし放射線量測定装置によれば、入射する放射線のカウント毎秒計数率の移動平均値に基づく最終応答値を簡易な計算処理によって予測することができるため、複雑な演算処理過程や機械的構成を要することなく測定時間を大幅に短縮し、測定器における毎秒50mm以上の移動速度にも対応することができる。
【0018】
また、移動平均値をとるに際しカウント毎秒計数率のサンプルを3〜10個程度とるよう構成することで、計器の応答速度を高く維持しつつノイズによる揺らぎを抑えることもできる。
【0019】
そして、移動平均値を算出するに際し現時点により近い過去のカウント毎秒計数率に対してより大きな重みを付与して加重移動平均値とすることによって、平均値をとるためのサンプル(カウント毎秒計数率)を多く設定したときにあっても計器の応答が鈍くなることのないよう補正し得るとの効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明方法による予測応答型の測定装置の構成を例示した模式図。
【図2】本発明測定装置および測定方法の演算処理工程を示すブロック図。
【図3】放射線源に対して測定されたカウント毎秒計数率およびその各種サンプル数で算出される移動平均値を例示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
つづいて、本発明装置及び方法の実施の形態例を図により説明する。
【0022】
図1は本発明方法による予測応答型の測定装置(たとえばサーベーメータ)の構成を例示した模式図、図2は本発明測定装置の演算処理工程を示したブロック図、図3は放射線源に対して測定されたカウント毎秒計数率およびその各種サンプル数に基づいて算出される移動平均値を例示したグラフである。
【0023】
図1において、1は本発明に係るサーベイメータの一例であって、表示部Dを有する装置本体とシンチレータSおよび光電子増倍管Tを有するプローブPを備えてなる。
【0024】
シンチレータSとしては、タリウム活性化ナトリウムNaI(TI)や銀活性化硫化亜鉛ZnS(Ag)、あるいはプラスチックシンチレータなどいずれのシンチレータも本発明測定装置には適用可能である。
【0025】
はじめに、汚染箇所にある放射性物質(線源)Rから放射された放射線が、測定を開始した本発明測定装置1のプローブPの入射窓(図示せず)に入射すると、シンチレータSの蛍光作用により生じた蛍光が光電子増倍管Tにおいて光電面から電子として放出された後に増幅されて電気信号パルスに変換され、出力部14より計数率演算部10へ出力パルスとして出力される。
【0026】
計数率演算部10では、上記出力パルスを受けて、1秒間にカウントされた出力パルスのカウント数をカウント毎秒計数率CPSとして、適宜のサンプリング・タイムΔt(本実施例においてたとえば0.1秒とするが、これに限られない)ごとに算出する。
【0027】
時間の経過とともに計数率演算部10において算出されたカウント毎秒計数率CPSは、移動平均値演算部11にて順次、加重移動平均値Mのサンプルとして供される。
【0028】
すなわち、仮に3つのカウント毎秒計数率CPSを移動平均のサンプル値として設定した場合においては、下式により、たとえば現在のカウント毎秒計数率(現カウント毎秒計数率CPS0)に対して3の加重を付与し、その一つ前のカウント毎秒計数率(前カウント毎秒計数率CPS-1)に対しては2の加重を付与し、そのさらに一つ前のカウント毎秒計数率(前々カウント毎秒計数率CPS-2)に対しては加重を付与することなく(1の加重で)移動平均値Mを算出することができる。
【0029】
【数1】

【0030】
なお、移動平均値Mのサンプルとされるカウント毎秒計数率CPSは3つに限られるものではなく、また加重移動平均Mの加重方法も上記実施例に限定されない。
【0031】
移動平均値Mが、加重の付与されない(全ての重みが1である)単純移動平均値Mなどであってよいことも言うまでもない。
【0032】
予測演算部12では、上記の移動平均値Mを用いてカウント毎分計数率N(最終応答値N)が下式により予測演算される。
【0033】
【数2】

【0034】
すなわち現在の移動平均値(現移動平均値M0)とその一つ前の移動平均値(前移動平均値M-1)を利用して、上記サンプリング・タイムΔtの間におけるカウント毎秒計数率CPSから算出された移動平均値Mの増減率がサンプリング・タイムΔt間にそのまま維持されたと仮定することによって現在のカウント毎分計数率Nを予測演算することができる。
【0035】
なお、測定開始直後のカウント毎分計数率Nについては、最初に測定されたカウント毎秒計数率CPSを単に60倍して換算するなど適宜の方法によって求めることが可能である。
【0036】
これにより、従来の時定数を含む一次遅れ系のサーベイメータに比して、きわめて短時間のうちに最終応答値であるカウント毎分計数率Nを予測演算することができる。しかもこの予測演算は前示のとおりきわめて簡易な演算式によって行われるため、複雑な演算処理プログラムあるいは機械的構成を必要とすることなく迅速な測定を実現し得る。
【0037】
また、予測演算の基礎とする値は入射線に対するカウント毎秒計数率CPSの移動平均値Mであるため、通常環境下および汚染環境下に存するノイズ等への過剰な反応による揺らぎに対してもこれを効果的に抑制することを実現し得る。
【実施例】
【0038】
図3は、ポジション300(Position 300)において線源Rを有する被測定物に沿って本発明測定装置1のプローブPを走らせたとき、移動平均値演算部11での演算の基礎とするカウント毎秒計数率CPSのサンプル数をそれぞれ3,10,30,100に設定した場合の(単純)移動平均値Mの推移にカウント毎秒計数率CPSの生のデータを重ねて表示したグラフである。
【0039】
図3に示すグラフからも明らかなとおり、単に算出されたカウント毎秒計数率CPSを60倍にしてカウント毎分計数率へ換算すると、生のデータに散見される測定値の揺らぎの影響を大きく受けることになってしまう。
【0040】
これに対して、カウント毎秒計数率CPSのサンプル数を3〜10程度の適宜個数に設定しこれらを基礎に移動平均値を取得した場合には、生のデータの揺らぎについて効果的に抑制し得ると共に、生データと移動平均値Mとが著しく乖離し又測定計器の応答速度を鈍らせるということがない。
【0041】
本発明の予測方法については、入射した放射線量の増加分のみならず減少分についてもほぼ正確な数値を予測演算し得ることは図3の示すとおりである。
【0042】
なお、本発明の技術思想は、本実施例のサーベイメータのように蛍光作用を利用したものに限定されることはなく、GM計数管などの気体、又は半導体検出器などの固体における電離作用を利用した測定装置および測定方法にも適用可能であることは勿論であり、また可搬式のものに限られることもない。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は以上の通りであって、入射する放射線のカウント毎秒計数率の移動平均値に基づく最終応答値をきわめてシンプルな演算処理によって予測することができるため、複雑な演算処理過程や機械的構成を要することなく測定時間を大幅に短縮し、測定器における毎秒50mm以上の移動速度にも対応することができ、移動平均値をとるに際してはカウント毎秒計数率のサンプルを3〜10程度の適宜個数に設定して構成すれば、計器の応答速度を高く維持しつつもノイズによる揺らぎを抑えることができ、また現時点により近い過去のカウント毎秒計数率に対し適度な重みを付与した加重移動平均値とすることによっては平均値をとるためのサンプル数を多く設定したときにあっても計器の応答が鈍くなることのないよう補正を施すことができるとの効果を有するから放射線量測定装置および測定方法に適用してきわめて有用である。
【符号の説明】
【0044】
1 本発明放射線量測定装置
10 計数率演算部
12 予測演算部
13 表示部
14 出力部
P プローブ
T 光電子増倍管
S シンチレータ
R 放射線源
D 表示窓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性物質の放射線量を測定する方法であって、
適宜サンプリング・タイムΔtによって得られた複数のカウント毎秒計数率に基づき適宜個数の移動平均値を算出するステップと、
算出された現移動平均値および前移動平均値ならびに予測演算された前カウント毎分計数率に基づき現カウント毎分計数率を次式
【数3】


により予測演算するステップと、
予測演算された現カウント毎分計数率を適宜の表示手段により表示するステップと
を備えた放射線量測定方法。
【請求項2】
前記移動平均値は、直近の3〜10程度の適宜個数のカウント毎秒計数率に基づく移動平均値である請求項1の放射線量測定方法。
【請求項3】
前記移動平均値は、それぞれのカウント毎秒計数率に対して任意の重みを付与した加重移動平均値である請求項1または2の放射線量測定方法。
【請求項4】
前記加重移動平均値は、それぞれのカウント毎秒計数率のうちより新しいものに対してより大きな重みを付与してなる請求項3の放射線量測定方法。
【請求項5】
前記移動平均値は直近のm個のカウント毎秒計数率に対して古いものから順にそれぞれ1,2,…mの重みを付与した加重移動平均値とし、次式
【数4】


により算出する請求項1〜4のいずれかの放射線量測定方法。
【請求項6】
放射線の入射により出力パルスを発生する出力部と、
前記出力パルスの到達をカウントし適宜サンプリング・タイムトtによってカウント毎秒計数率を算出する計数率演算部と、
複数の前記カウント毎秒計数率に基づき移動平均値を算出する移動平均値演算部と、
現移動平均値および前移動平均値ならびに前カウント毎分計数率に基づき現カウント毎分計数率を次式
【数5】


により予測する予測演算部と、
予測演算された現カウント毎分計数率を表示する表示部と
を備えた放射線量測定装置。
【請求項7】
前記移動平均値演算部は、直近の3〜10程度の適宜個数のカウント毎秒計数率に基づく移動平均値を算出する請求項6の放射線量測定装置。
【請求項8】
前記移動平均値演算部は、それぞれのカウント毎秒計数率に対して任意の重みを付与した加重移動平均値を算出する請求項6または7の放射線量測定装置。
【請求項9】
前記移動平均値演算部は、それぞれのカウント毎秒計数率のうちより新しいものに対してより大きな重みを付与して加重移動平均値を算出する請求項8の放射線量測定装置。
【請求項10】
前記移動平均値演算部は直近のm個のカウント毎秒計数率に対して古いものから順にそれぞれ1,2,…mの重みを付与した加重移動平均値を次式
【数6】


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−169645(P2010−169645A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14790(P2009−14790)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【出願人】(593217890)応用光研工業株式会社 (5)
【出願人】(301032942)独立行政法人放射線医学総合研究所 (149)
【Fターム(参考)】