説明

放射能防護シート及び放射能防護シートの製造方法

【課題】放射能から簡便に身体又は物品を防護することができ、また、日常生活における放射線を遮蔽することができる放射能防護シート及びその製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の放射能防護シートは、クロロスルフォン化ポリエチレンと、放射線遮蔽粒子とを含有する放射線遮蔽層を備え、上記放射線遮蔽粒子が、(a)タングステン若しくはタングステン化合物、及び/又は(b)バリウム若しくはバリウム化合物を含む。当該放射能防護シートは、上記放射線遮蔽層を複数有する積層体であるとよい。また、当該放射能防護シートは、上記放射線遮蔽粒子として、(a)タングステン若しくはタングステン化合物を含む放射線遮蔽層と、(b)バリウム若しくはバリウム化合物を含む放射線遮蔽層とを備えるとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射能防護シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性物質による人体への悪影響を考慮した服としては、A.放射性ダスト等の放射性物質が人体に被着することを防止する放射能防護服と、B.放射性物質が放射する放射線を遮蔽する放射線防護服とが存在する。
【0003】
上記放射能防護服(上記A)にあっては、放射性ダストが空中に浮遊等していても、この放射性ダストが人体に被着せずに服に被着し、その後服に被着した放射性ダスト等を洗い流すことによって、この放射性ダストが人体に悪影響を及ぼすことを防止することができる。しかし、この放射能防護服は、放射線自体を遮蔽するものではなく、この放射能防護服を着用していても着用者が放射線を浴び被爆してしまう。
【0004】
一方、上記放射線防護服(上記B)にあっては、例えば原子力発電所内での作業を行う場合において、作業者の被爆を防ぐために用いられている。この放射線防護服としては、放射線を遮蔽するために鉛を含有する層を設けたものが一般的に用いられている。しかし、鉛は健康被害等が懸念され、耐用期間を過ぎた放射線防護服を廃棄する際に細心の注意が必要となる。
【0005】
また、上記放射線防護服(上記B)としては、ポリウレタン等のポリマーに放射線不透過性材料を混合したポリマー層を有するものも提案されている(特表2008−538136号公報)。この公報には、放射線不透過性材料として、鉛のほかに硫酸バリウムやタングステン等が例示されている。しかしながら、この公報所載の放射線防護服は、高い放射線遮蔽効果を持たせるよう作成されているので、放射線不透過性材料を多量に含ませる必要があり、結果として、非常に重く、さらに高額となる。
【0006】
昨今、原子力発電所等の特別な場所以外、つまりは日常生活の場においても、放射線による放射線被曝から身を守ることを考慮する人が増加している。ところが、上記放射能防護服(上記A)を着用していても放射線によって放射線被爆してしまう。また、放射線防護服(上記B)は非常に重く且つ高額であるため日常生活で着用することは現実的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2008−538136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、放射線を容易且つ的確に遮蔽することができ、日常生活において簡便に使用することができる放射能防護シート及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた発明は、
クロロスルフォン化ポリエチレンと、
放射線遮蔽粒子と
を含有する放射線遮蔽層を備え、
上記放射線遮蔽粒子が、
(a)タングステン若しくはタングステン化合物、及び/又は
(b)バリウム若しくはバリウム化合物
である放射能防護シートである。
【0010】
当該放射能防護シートは、クロロスルフォン化ポリエチレンと放射線遮蔽粒子とを含有する放射線遮蔽層を備えるため、この放射線遮蔽層によって放射線を遮蔽することができる。特に、当該放射能防護シートは、放射線遮蔽層のバインダーがクロロスルフォン化ポリエチレンを主成分とするので、放射線遮蔽粒子のみならずバインダーによっても放射線を遮蔽することができる。このため、当該放射能防護シートを用いて、例えば放射能防護服を作成した場合、従来の放射能防護服に比べて放射線を的確に遮蔽することができる。また、当該放射能防護シートは、クロロスルフォン化ポリエチレンを含有することにより、耐候性、耐オゾン性、耐薬品性等に優れる。このため、当該放射能防護シートは、屋外での長期使用が想定される物品等に好適に用いることができる。また、上記クロロスルフォン化ポリエチレンは、色安定性に優れ、室温でゴム状弾性を示すため、放射能防護服等の服飾品に加工し易く、また、この服飾品を着用した場合の着用感も良好である。また、当該放射能防護シートは、放射線遮蔽粒子として、(a)タングステン若しくはタングステン化合物、及び/又は(b)バリウム若しくはバリウム化合物を用いており、鉛を用いていないため、耐用期間を過ぎた当該放射能防護シートを廃棄する際には、処分方法や環境汚染防止措置等に煩わされることがない。
【0011】
当該放射能防護シートは、放射線遮蔽粒子が、硫酸バリウムを含むことが好ましい。このように放射線遮蔽粒子として硫酸バリウムを採用することにより、入手が比較的容易な放射線遮蔽粒子によって的確に放射線を遮蔽することができる。
【0012】
当該放射能防護シートは、複数の上記放射線遮蔽層を備えるとよい。これにより、例えば、当該放射能防護シートを製造する際に用いる塗工機の塗工量に制限があり目的とする膜厚が一度の塗工で得られない場合でも、複数の上記放射線遮蔽層を積層することにより目的の膜厚を達成することができる。
【0013】
当該放射能防護シートは、上記放射線遮蔽層として、(a)タングステン若しくはタングステン化合物を含む放射線遮蔽層と、(b)バリウム若しくはバリウム化合物を含む放射線遮蔽層とを備えるとよい。これにより、当該放射能防護シートの放射線遮蔽効果を維持しつつ外面の色調を選択することができる。具体的には、上記(a)タングステン若しくはタングステン化合物は主に黒色を呈し、上記(b)バリウム若しくはバリウム化合物は主に白色又は無色を呈するため、外面の色調を適宜選択することができる。例えば、当該放射能防護シートを汚れが目立ちにくい方が好ましい物品に用いる場合には、外面に(a)タングステン若しくはタングステン化合物を含む放射線遮蔽層を配設し、逆に、明るい色調が好ましい物品に用いる場合には、外面に(b)バリウム若しくはバリウム化合物を含む放射線遮蔽層を配設することができる。さらには、当該放射能防護シートの外面に(b)バリウム若しくはバリウム化合物を含む放射線遮蔽層を配設し、上記(b)バリウム若しくはバリウム化合物の他に赤色や青色の色素を添加したり、上記第二放射線遮蔽層の外面側に図柄を印刷する等して当該放射能防護シートに意匠性を付与することもできる。このように当該放射能防護シートに意匠性を付与できるので、外観の相違を付けることでそれぞれの放射能防護シートを区別させることができる。つまり、例えば色によって、放射線遮蔽粒子の含有量や、当該放射能防護シートの大きさ(当該放射能防護シートにより形成した被覆の大きさ)等を区別できるよう設けることが可能となる。
【0014】
当該放射能防護シートは、上記放射線遮蔽層として、(a)タングステン若しくはタングステン化合物、及び(b)バリウム若しくはバリウム化合物を含む上記放射線遮蔽層を備える場合、上記(a)タングステン若しくはタングステン化合物の平均粒子径に対する(b)バリウム若しくはバリウム化合物の平均粒子径の比が0.01以上0.1以下であるとよい。これにより、平均粒子径の大きい(a)タングステン若しくはタングステン化合物同士の間に生じる隙間に平均粒子径の小さい(b)バリウム若しくはバリウム化合物が入り込み、当該放射能防護シートにおける放射線遮蔽粒子の密度を高めることができ、当該放射能防護シートの放射線遮蔽効果を高めることができる。
【0015】
当該放射能防護シートは、上記(a)タングステン若しくはタングステン化合物に対する(b)バリウム若しくはバリウム化合物の割合が、5質量%以上50質量%以下であることが好ましい。これにより、上記(a)タングステン若しくはタングステン化合物同士の間に生じる隙間に(b)バリウム若しくはバリウム化合物が十分に入り込むことができ、当該放射能防護シートにおける放射線遮蔽粒子の密度を高めることができる。結果として、当該放射能防護シートの放射線遮蔽効果をさらに高めることができる。
【0016】
当該放射線遮蔽層における上記放射線遮蔽粒子の割合が30質量%以上85質量%以下であることが好ましい。これにより、放射線から着用者等を効果的に防護することができる程度の放射線遮蔽効果を当該放射能防護シートに付与することができ、また製造が比較的容易に行うことができる。
【0017】
また、当該放射線遮蔽層における上記放射線遮蔽粒子の面積密度が0.1g/cm以上1g/cm以下であることが好ましい。これによっても、放射線から着用者等を効果的に防護することができる程度の放射線遮蔽効果を当該放射能防護シートに好適に付与することができる。
【0018】
当該放射能防護シートは、基材層をさらに備えるとよい。これにより、当該放射能防護シートの強度を向上させることができる。
【0019】
当該放射能防護シートは、最外層に防汚層をさらに備えるとよい。これにより、当該放射能防護シートの外面に、放射性物質等の汚れを付着し難くすることができる。その結果、着用者等を放射能からより効果的に防護するとともに、当該放射能防護シートに放射性物質が付着しにくく、また付着した放射性物質を容易に除去できる。
【0020】
上記防汚層が、主成分がオレフィン系樹脂からなる樹脂層であるとよい。オレフィン系樹脂層は、表面張力が高く、優れた防汚性を発揮することができる。
【0021】
また、上記課題を解決するためになされたもう一つの発明は、
主成分としてクロロスルフォン化ポリエチレンを含むバインダーに、放射線遮蔽粒子として(a)タングステン若しくはタングステン化合物及び/又は(b)バリウム若しくはバリウム化合物を、溶媒を用いて分散させ、放射線遮蔽層形成材料を調製する材料調製工程と、
上記放射線遮蔽層形成材料をシート体に形成するシート形成工程と
を有する放射能防護シートの製造方法である。
【0022】
上記製造方法によれば、クロロスルフォン化ポリエチレンと上記放射線遮蔽粒子とを含有する放射線遮蔽層を備える放射能防護シートが得られる。そして、この当該放射能防護シートは、既述のように日常生活における放射能及び放射線から簡便に着用者等を防護することができる。
【0023】
ここで「放射能」とは、不安定な原子核が安定な原子核に変わるときに放射線を放出する能力を意味する。また、「放射線」とは上記放射能(放射性物質)から放出されるX線、γ線などの電磁波、及びα線、β線、中性子線等の粒子線を意味する。また、「平均粒子径」とは、体積平均粒子径であり、動的光散乱測定法により23℃で測定した値である。具体的には、測定装置としてサブミクロン粒子径アナライザー(野崎産業株式会社製の「NICOMPMODEL370」)を用い、測定試料としては、テトラヒドロフランに放射線遮蔽粒子が0.1〜2.0質量%となるように分散させた放射線遮蔽粒子分散体を用いた。さらに、「平面密度」とは、当該放射能防護シートの平面方向の単位面積(1cm)あたりに放射線遮蔽粒子が存在する割合(質量)を意味する。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明は、放射線を簡易且つ的確に遮蔽することができ、また、日常の生活において簡便に使用することができる放射能防護シート及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る放射能防護シートを示す模式的断面図である。
【図2】図1の放射能防護シートとは異なる実施形態に係る放射能防護シートを示す模式的断面図である。
【図3】図1及び図2の放射能防護シートとは異なる実施形態に係る放射能防護シートを示す模式的断面図である。
【図4】図1から図3の放射能防護シートとは異なる実施形態に係る放射能防護シートを示す模式的断面図である。
【図5】図1から図4の放射能防護シートとは異なる実施形態に係る放射能防護シートを示す模式的断面図である。
【図6】図1から図5の放射能防護シートとは異なる実施形態に係る放射能防護シートを示す模式的断面図である。
【図7】図1から図6の放射能防護シートとは異なる実施形態に係る放射能防護シートを示す模式的断面図である。
【図8】図1から図7の放射能防護シートとは異なる実施形態に係る放射能防護シートを示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
【0027】
[第一実施形態]
<放射能防護シート1>
図1の放射能防護シート1は、クロロスルフォン化ポリエチレンと放射線遮蔽粒子とを含有するシート状の可撓性を有する放射線遮蔽層から構成されている。上記放射線遮蔽粒子としては、(a)タングステン若しくはタングステン化合物及び(b)バリウム若しくはバリウム化合物を含んでいる。
【0028】
上記クロロスルフォン化ポリエチレンは、結晶性を有するポリエチレンに塩素を導入することで結晶性を阻害し、ゴム弾性を付与したものである。クロロスルフォン化ポリエチレンは、主鎖に二重結合を含まないため、耐候性、耐オゾン性、耐熱性、難燃性等に優れ、また、ハロゲンである塩素を含有するため、放射線遮蔽効果も期待される。上記放射能防護シート1は、このようなクロロスルフォン化ポリエチレンをバインダーとして含有することによってゴム弾性を有するため、被覆したいものの形状に沿って変形、加工しやすく、例えばコート、帽子、手袋等の服飾材料として好適に用いることができる。また、上記放射能防護シート1は、上記クロロスルフォン化ポリエチレンを有することによって、耐候性、耐オゾン性、耐熱性等に優れるため、屋外における長期使用や、屋外での作業に用いる物品に好適に用いることができる。
【0029】
上記クロロスルフォン化ポリエチレンの製造方法としては、例えば溶剤に溶解したポリエチレンに塩素と亜硫酸ガスとを触媒を用いて反応させ、塩素化ならびにクロロスルフォン化させることによって製造することができる。原料となる上記ポリエチレンとしては、例えば、高密度ポリエチレン又は低密度ポリエチレン等が挙げられる。原料となるポリエチレンとして高密度ポリエチレンを用いた場合は、機械強度が高く、加工性に優れたクロロスルフォン化ポリエチレンが得られ、また、上記ポリエチレンに長鎖分岐を含む低密度ポリエチレンを用いた場合は、溶剤に溶解すると溶液粘度が低く塗工性に優れるクロロスルフォン化ポリエチレンが得られる。なお、クロロスルフォン化ポリエチレンとしては、東ソー株式会社製商品名「TOSO−CSM」品番「TS−320」を用いることができる。
【0030】
上記(a)タングステン若しくはタングステン化合物のうち、タングステン化合物は、タングステンが含まれている化合物であれば特に限定されず、例えば、炭化物(WC、WC等)、酸化物(WO、WO等)、窒化物、ほう化物、又はタングステン合金など他の金属との複合化合物等が挙げられる。上記(a)タングステン若しくはタングステン化合物としては、入手が容易で比較的安価なタングステン及びその炭化物が好ましい。なお、タングステンとしては、日本タングステン株式会社製商品名「高純度W粉末」を用いることができる。
【0031】
上記(a)タングステン若しくはタングステン化合物は微細な粉末であることが好ましい。(a)タングステン若しくはタングステン化合物の平均粒子径の上限としては、10μmが好ましく、7μmがより好ましく、5μmがさらに好ましい。一方、上記平均粒子径の下限としては、0.5μmが好ましく、1μmがより好ましく、2μmがさらに好ましい。上記(a)タングステン若しくはタングステン化合物の平均粒子径が上記上限値よりも大きいと、当該放射能防護シートから上記(a)タングステン若しくはタングステン化合物が脱落するおそれがあり、一方、(a)タングステン若しくはタングステン化合物の平均粒子径が上記下限値よりも小さいと、(a)タングステン若しくはタングステン化合物を放射線遮蔽層に均一に分散させにくくなるおそれがある。
【0032】
上記(b)バリウム若しくはバリウム化合物のうち、バリウム化合物とは、入手の容易性等から硫酸バリウムが特に好適に用いられるが、その他バリウムが含まれている化合物であれば採用することが可能であり、例えば、塩化バリウム、水酸化バリウム、チタン酸バリウム等を採用可能である。
【0033】
上記(b)バリウム若しくはバリウム化合物は微細な粉末であることが好ましい。上記(b)バリウム若しくはバリウム化合物の平均粒子径の上限としては、2.3μmが好ましく、1.8μmがより好ましく、1.5μmがさらに好ましい。一方、上記平均粒子径の下限としては0.3μmが好ましく、0.8μmがより好ましく、1μmがさらに好ましい。上記(b)バリウム若しくはバリウム化合物の平均粒子径が上記上限値よりも大きいと、(a)タングステン若しくはタングステン化合物同士の間に生じる隙間を(b)バリウム若しくはバリウム化合物が密に埋められなくなるおそれがあり、一方、(b)バリウム若しくはバリウム化合物の平均粒子径が上記下限値よりも小さいと、製造時において(b)バリウム若しくはバリウム化合物の取り扱いが困難となるおそれがある。
【0034】
また、上記(b)バリウム若しくはバリウム化合物は、上記(a)タングステン若しくはタングステン化合物よりも平均粒子径が小さいものが好ましい。上記(a)タングステン若しくはタングステン化合物の平均粒子径に対する(b)バリウム若しくはバリウム化合物の平均粒子径の比としては、0.01以上0.1以下であることが好ましく、0.03以上0.08以下であることがより好ましく、0.04以上0.06以下であることがさらに好ましい。(a)タングステン若しくはタングステン化合物の平均粒子径に対する(b)バリウム若しくはバリウム化合物の平均粒子径を上記範囲とすることにより、粒子の大きい(a)タングステン若しくはタングステン化合物同士の間に生じる隙間に、粒子の小さい(b)バリウム若しくはバリウム化合物が効果的に入り込むことができる。これにより、放射線遮蔽層における放射線遮蔽粒子の密度を高めることができ、当該放射能防護シート1の放射線遮蔽効果を高めることができる。
【0035】
上記(a)タングステン若しくはタングステン化合物に対する(b)バリウム若しくはバリウム化合物の割合の上限としては、50質量%が好ましく、43質量%がより好ましく、34質量%がさらに好ましい。一方、(a)タングステン若しくはタングステン化合物に対する(b)バリウム若しくはバリウム化合物の割合の下限としては、5質量%が好ましく、8質量%がより好ましく、10質量%がさらに好ましい。(a)タングステン若しくはタングステン化合物に対する(b)バリウム若しくはバリウム化合物の割合が上記上限値よりも大きいと、(a)タングステン若しくはタングステン化合物同士の間に生じる隙間に対する(b)バリウム若しくはバリウム化合物の割合が過剰となり、(b)バリウム若しくはバリウム化合物を加える効果が薄れるおそれがあり、また両者を含有させた塗工液が石化状態となりやすく塗工が困難となるおそれがあり、さらには当該放射能防護シート1の可撓性が阻害されるおそれがある。一方、(a)タングステン若しくはタングステン化合物に対する(b)バリウム若しくはバリウム化合物の割合が上記下限値よりも小さいと、(a)タングステン若しくはタングステン化合物同士の間に生じる隙間に対する(b)バリウム若しくはバリウム化合物の割合が少なくなり、(a)タングステン若しくはタングステン化合物同士の間に生じる隙間を(b)バリウム若しくはバリウム化合物で十分に埋められなくなるおそれがある。
【0036】
当該放射能防護シート1は、上記(a)タングステン若しくはタングステン化合物及び(b)バリウム若しくはバリウム化合物以外にも放射線遮蔽効果を有する物質を含有することができる。このような物質としては、例えば、原子番号が30以上の元素を含む物質が挙げられ、具体的には、例えば亜鉛、イットリウム、ストロンチウム、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、モリブデン、タンタル、錫、鉛、ビスマス又はこれらの化合物等が挙げられる。これらなかでも、入手が容易な点において、錫、モリブデン、ニオブ、タンタル、ジルコニウム及びこれらの化合物が好ましい。
【0037】
上記放射線遮蔽層2における上記放射線遮蔽粒子の割合の上限としては85質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、70質量%がさらに好ましい。一方、上記放射線遮蔽層2における上記放射線遮蔽粒子の割合の下限としては、30質量%が好ましく、35質量%がより好ましく、40質量%がさらに好ましい。上記放射線遮蔽層2における上記放射線遮蔽粒子の割合が上記上限値よりも大きいと、バインダーとなるクロロスルフォン化ポリエチレンの割合が相対的に少なくなることにより、上記放射線遮蔽層2の強度が低下するおそれがあり、また放射線遮蔽粒子を含有させた塗工液を塗工することが困難となるおそれがあり、さらには当該放射能防護シート1の可撓性が阻害されるおそれがある。一方、上記放射線遮蔽層2における上記放射線遮蔽粒子の割合が上記下限値よりも小さいと、上記放射線遮蔽層2の放射線遮蔽効果が低下して放射線から効果的に身体等を防護することができなくなるおそれがある。
【0038】
上記放射線遮蔽層2における上記放射線遮蔽粒子の平面密度の上限としては、1g/cmが好ましく、0.8g/cmがより好ましく、0.6g/cmがさらに好ましい。一方、上記放射線遮蔽層2における上記放射線遮蔽粒子の平面密度の下限としては、0.1g/cmが好ましく、0.3g/cmがより好ましく、0.4g/cmがさらに好ましい。上記放射線遮蔽層2における放射線遮蔽粒子の密度が上記上限値よりも大きいと、当該放射能防護シート1が重くなり過ぎるおそれがあり、一方、上記放射線遮蔽層2における上記放射線遮蔽粒子の密度が上記下限値よりも小さいと、上記放射線遮蔽層2の放射線遮蔽効果が低下して放射線から効果的に身体等を防護することができなくなるおそれがある。
【0039】
上記放射線遮蔽層2の厚みの上限としては5mmが好ましく、3mmがより好ましい。一方、上記厚みの下限としては0.2mmが好ましく、0.5mmがより好ましい。上記放射線遮蔽層2の厚みが上記上限値よりも大きいと、当該放射能防護シート1が厚すぎて、被覆したいものの形状に沿って変形、加工しにくくなるおそれがあり、一方、上記放射線遮蔽層2の厚みが上記下限値よりも小さいと、十分な放射線防護効果が得られないおそれがあり、また当該放射能防護シート1の強度が不十分となるおそれがある。
【0040】
当該放射能防護シート1は、最外層に防汚層3を備えていてもよい。このように、当該放射能防護シート1が最外層に防汚層3を備えることによって、当該放射能防護シート1の外面に放射性物質を付着し難くすることができる。これにより、着用者等を放射能からより効果的に防護するとともに、当該放射能防護シートに放射性物質が付着しにくく、また付着した放射性物質を容易に除去できる。上記防汚層としては、主成分がオレフィン系樹脂からなる樹脂層を好適に採用可能である。オレフィン系樹脂層は、表面張力が高く、優れた防汚性を発揮することができる。さらに、上記防汚層3としては、例えば、光触媒物質を含有する被膜、親水性表面処理加工を施した被膜又は帯電防止処理を施した被膜等を採用することもできる。
【0041】
上記光触媒物質を含有する被膜は、当該放射能防護シート1の外面に付着したカビや細菌等の汚れを、外部からの紫外線によって分解し、当該放射能防護シート1の外面を清潔に保つことができる。その結果、当該放射能防護シート1の外面に放射性物質を付着し難くすることができる。
【0042】
上記光触媒物質としては、例えばTiO、ZnO、SrTiO、CdS、GaP、InP、GaAs、BaTiO、KNbO、Fe、Ta、WO、SnO、Bi、NiO、CuO、SiC、SiO、MoS、InPb、RuO、CeO等が挙げられる。これらのなかでも、酸化チタン(TiO)、過酸化チタン(ペルオキソチタン酸)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化錫(SnO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、酸化タングステン(WO)、酸化ビスマス(Bi)、酸化鉄(Fe)が好ましい。上記光触媒性物質の粒径としては、小さい方が光触媒活性に優れるため好ましく、具体的には、平均粒子径として50nm以下が好ましく、20nm以下がより好ましい。
【0043】
上記光触媒物質を含有する被膜における光触媒性物質の配合量としては、高い光触媒活性が得られる点で多い程好ましく、具体的には、10質量%以上70質量%以下が好ましい。上記光触媒性物質の配合量が10質量%未満であると光触媒活性が不十分となるおそれがあり、一方、光触媒性物質の配合量が70質量%を越えると光触媒活性は高くなるものの、隣接する放射線遮蔽層との密着性が不十分になるおそれや、防汚層の表面摩耗強さが不十分となり、屋外耐久性が低下するおそれがある。
【0044】
上記光触媒性物質は、無機系多孔質微粒子に担持させてから用いることが好ましい。これにより、防汚層中に上記光触媒性物質を均一に分散させることができる。このような無機系多孔質微粒子としては、例えば、シリカ、(合成)ゼオライト、チタンゼオライト、リン酸ジルコニウム、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛カルシウム、ハイドロタルサイト、ヒドロキシアパタイト、シリカアルミナ、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイソウ土等が挙げられる。上記無機系多孔質微粒子の平均粒子径は、0.01μm以上10μm以下が好ましく、0.05μm以上5μm以下がより好ましい。また、光触媒性物質を無機系多孔質微粒子に担持させるには、光触媒性物質を含有する金属アルコラートによるゾル−ゲル薄膜製造工程を応用した表面処理を施すことが好ましい。
【0045】
上記光触媒物質を含有する被膜の厚みとしては、0.1μm以上10μm以下が好ましい。上記厚みが0.1μmよりも少ないと、防汚性が十分に得られないおそれがあり、一方、10μmを超えると防汚層の屈曲性が低下し、亀裂が生じやすくなるおそれがある。
【0046】
また、上記親水性表面処理加工を施した被膜は、防汚層の外面が親水性となるため、当該放射能防護シート1の表面に水滴が付着した場合に、この水滴の表面張力を小さくすることができる。これにより、水滴は水膜となって広がり流れ落ちるため、放射性物質等の汚れが付着しても降雨等によって洗い流され、当該放射能防護シート1の外面を清潔に保つことができる。上記親水性表面処理加工の具体的な方法としては、シリカやリン酸チタニア系化合物などの親水性材料を塗布する方法等が挙げられる。
【0047】
さらに、上記帯電防止処理を施した被膜は、当該放射能防護シート1の外面に静電気を発生させにくくすることができる。その結果、上記防汚層の外面に静電気によって空気中の粉塵や埃を引き寄せ難くなり、当該放射能防護シート1の外面に放射性物質を付着し難くすることができる。帯電防止処理の具体的な方法としては、例えば酸化錫、酸化アンチモン、酸化アンチモン−酸化亜鉛複合物、酸化アンチモン−酸化スズ複合物(ATO)、酸化インジウム−酸化スズ複合物(ITO)等の導電性金属酸化物微粒子を含有した塗料を当該放射能防護シート1の最外面に塗布する方法等が挙げられる。
【0048】
また、当該放射能防護シート1は、上記以外にも本発明の目的を阻害しない範囲で各種添加剤を添加することができる。このような各種添加剤としては、例えば染料、顔料、無機補強剤、可塑剤、加工助剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、ワックス、結晶核剤、可塑剤、離型剤、加水分解防止剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、防徽剤、防錆剤、イオントラップ剤、難燃剤、難燃助剤、無機充填材、有機充填材等を挙げることができる。
【0049】
当該放射能防護シート1の通気量の上限としては、例えば、60L/m/秒が好ましく、50L/m/秒がより好ましい。一方、上記通気量の下限としては、20L/m/秒が好ましく、30L/m/秒がより好ましい。当該放射能防護シート1の通気量が上記上限値よりも大きいと、当該放射能防護シート1の通気性が高すぎて、微細な放射性ダスト等が通過することにより着用者が被爆するおそれがあり、一方、当該放射能防護シート1の通気量が上記下限値よりも小さいと、十分な通気性が得られず、着用者が発する熱や蒸気を外部に十分に発散できないおそれがある。
【0050】
当該放射能防護シート1の透湿度としては、例えば100g/m/24hr以下であることが好ましく、50g/m/24hr以下であることがより好ましく、10g/m/24hr以下であることがさらに好ましく、非透湿性であることが特に好ましい。当該放射能防護シート1の透湿度が上記上限値よりも大きいと、放射性の水分が透過することによって、十分な放射線遮蔽効果が得られずに着用者等が被爆するおそれがある。なお、当該放射能防護シート1の透湿度の下限値としては、1g/m/24hr以上であることが好ましい。また、ここで、この透湿度は、JIS Z0208カップ法に準拠して温度40℃、相対湿度90%で測定した測定値である。
【0051】
<放射能防護服>
当該放射能防護シート1は、公知の方法により、裁断、縫製されることによって放射能防護服の原料として好適に用いられることができる。この放射能防護服は、放射性物質が着用者等に被着することを防止することができるため、放射能から着用者を効果的に防護することができる。また、当該放射能防護シート1を用いて作成した放射能防護服は、放射線遮蔽層2を備えるため、日常生活における放射線を遮蔽することができ、着用者を被爆から簡易に防護することができる。
【0052】
<利点>
上記構成からなる当該放射能防護シート1は、クロロスルフォン化ポリエチレンと放射線遮蔽粒子とを含有する放射線遮蔽層2を備えるため、この放射線遮蔽層2によって着用者等を日常生活における放射線から効果的に防護することができる。また、当該放射能防護シート1は、クロロスルフォン化ポリエチレンを含有するため、耐候性、耐オゾン性、耐薬品性等に優れ、屋外での長期使用が想定される物品等に好適に用いることができる。また、上記クロロスルフォン化ポリエチレンは、色安定性に優れ、室温でゴム状弾性を示すため、例えばコート、帽子、手袋等の服飾品に加工し易く、着用した場合の着用感も良好である。また、当該放射能防護シート1は最外層に防汚層を備えることにより、当該放射能防護シート1の防汚性を向上させることができ、これにより、着用者等を放射能からより効果的に防護するとともに、当該放射能防護シート1に付着した放射性物質を意図せずに他の場所へ運んでしまう等の二次汚染を効果的に防止することができる。
【0053】
<放射能防護シート1の製造方法>
当該放射能防護シート1の製造方法は、バインダーとしてのクロロスルフォン化ポリエチレンに放射線遮蔽粒子を溶媒を用いて分散させた放射線遮蔽層形成材料を調製する材料調製工程と、上記放射線遮蔽層形成材料をシート体に成形するシート成形工程と、上記シート成形工程で得られたシート体の一方の面に防汚層を形成する防汚層形成工程とを有している。
【0054】
上記材料調製工程としては、例えば、クロロスルフォン化ポリエチレンと上記放射線遮蔽粒子と溶媒とを攪拌機内に投入し、撹拌し、放射線遮蔽層形成材料を調製する方法等が挙げられる。
【0055】
上記溶媒としては、特に限定されず、例えば、水、有機溶媒等が挙げられる。また、溶媒として水を用い、クロロスルフォン化ポリエチレンを分散させたラテックスを用いることもできる。
【0056】
上記シート成形工程としては、上記材料調製工程で得られた放射線遮蔽層形成材料を、連続的に流される工程紙の上に塗工してシート体を成形する方法等が挙げられる。上記放射線遮蔽層形成材料を工程紙に塗工する手段としては、周知の方法が使用でき、例えば、スリットコート法、ロールコート法、ブレードコート法、エアーナイフコート法、フローコート法、グラビアコート法、スプレー法又はバーコート法等を用いることができる。また、上記以外にも、例えば、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法、Tダイ法、インフレーション法など公知の方法も採用することができる。他には、例えば、上記放射線遮蔽層形成材料を充填機から工程紙上に滴下し、この放射線遮蔽層形成材料が滴下された工程紙を振動させて放射線遮蔽層形成材料を均一なシート状に形成する方法も挙げられる。なかでも、上記放射線遮蔽層形成材料の粘度が高くても塗工可能であり、塗工幅の変更が容易なロールコート法を用いることが好ましい。また、上記シート成形工程は、塗工された放射線遮蔽層形成材料を乾燥する工程を有し、この乾燥工程は、自然乾燥、熱風乾燥等、公知の乾燥方法を用いることができる。
【0057】
上記防汚層形成工程としては、例えば、無機系多孔質微粒子に担持させた光触媒性物質を適当なバインダーに含有、分散させて、上記シート成形工程で得られたシート体の一方の面に塗工する方法等が挙げられる。バインダーに分散させた上記光触媒物質をシート体に塗工する方法としては、例えば、上記シート成形工程で用いた塗工方法を用いることができる。
【0058】
[第二実施形態]
<放射能防護シート11>
次に、本発明の第二実施形態である放射能防護シート11について、図2を参酌しつつ以下に説明する。
【0059】
図2の放射能防護シート11は、クロロスルフォン化ポリエチレンと(a)タングステン若しくはタングステン化合物とを含む放射線遮蔽層12と、クロロスルフォン化ポリエチレンと(b)バリウム若しくはバリウム化合物とを含む放射線遮蔽層13とから構成されている。当該放射能防護シート11は、上記放射線遮蔽層12と上記放射線遮蔽層13とが積層された積層体である。当該放射能防護シート11は、この積層体のみから構成されている。
【0060】
上記放射線遮蔽層12の平均厚さの上限としては、1mmが好ましく、700μmがより好ましく、500μmがさらに好ましい。一方、上記放射線遮蔽層12の平均厚さの下限としては10μmが好ましく、100μmがより好ましく、300μmがさらに好ましい。上記放射線遮蔽層12の平均厚さが上記上限値よりも大きいと、当該放射能防護シート11が重厚となり、取り扱い性が低下するおそれがある。一方、上記放射線遮蔽層12の平均厚さが上記下限値よりも小さいと、製造工程において均一な放射線遮蔽層12を形成することが困難となるおそれがある。
【0061】
上記、放射線遮蔽層13の平均厚さに関しては、上記放射線遮蔽層12の平均厚さと同様である。
【0062】
なお、上記放射線遮蔽層12に含有される(a)タングステン若しくはタングステン化合物、及び上記放射線遮蔽層13に含有される(b)バリウム若しくはバリウム化合物の種類、平均粒子径は、上記第一実施形態の(a)タングステン若しくはタングステン化合物及び(b)バリウム若しくはバリウム化合物とそれぞれ同様である。また、放射線遮蔽層12及び放射線遮蔽層13における放射線遮蔽粒子の割合及び平面密度(単位面積における両層12,13に含まれる放射線遮蔽粒子の合計)は上記第一実施形態の放射線遮蔽層2と同様である。
【0063】
<利点>
当該放射能防護シート11は、上記放射線遮蔽層12と上記放射線遮蔽層13とが積層されていることにより、上記第一実施形態における放射能防護シート1と同様に、放射線から着用者等を防護することができる。また、上記(a)タングステン若しくはタングステン化合物は主に黒色を呈し、上記(b)バリウム若しくはバリウム化合物は主に白色または無色を呈するため、当該放射能防護シート11は一方の面と他方の面で色合いが異なり、当該放射能防護シート11の外面の色調を適宜選択することができる。具体的には、当該放射能防護シート11を、汚れが目立ちにくい方が好ましい物品に用いる場合には、外面に放射線遮蔽層12を配設し、逆に、明るい色調が好ましい物品に用いる場合には、外面に上記放射線遮蔽層13を配設することができる。さらには、当該放射能防護シート11の外面に上記放射線遮蔽層13を配設したうえで、上記(b)バリウム若しくはバリウム化合物の他に赤色や青色の顔料を添加したり、放射線遮蔽層の外面側に図柄を印刷する等して、当該放射能防護シート11に意匠性を付与することもできる。このように当該放射能防護シートに意匠性を付与できるので、外観の相違を付けることでそれぞれの放射能防護シートを区別させることができる。つまり、外面の色によって、放射線遮蔽粒子の含有量や、当該放射能防護シートの大きさ(当該放射能防護シートにより形成した被覆の大きさ)等を区別できるよう設けることが可能となる。
【0064】
<放射能防護シート11の製造方法>
当該放射能防護シート11の製造方法は、特に限定されず、例えば、放射線遮蔽層12の材料となる放射線遮蔽層形成材料と放射線遮蔽層13の材料となる放射線遮蔽層形成材料とをそれぞれ調製する材料調製工程と、この放射線遮蔽層形成材料をシート体に形成するシート形成工程とを備えている。このシート形成工程は、上記材料調製工程で得られた放射線遮蔽層形成材料のうち一方を用いて放射線遮蔽層12を成形する工程、この放射線遮蔽層12に他方の放射線遮蔽層形成材料からなる放射線遮蔽層13を積層する工程とを有する。ここで、上記材料調製工程及びシートを成形する工程は、例えば、上述の第一実施形態で用いた材料調製工程及びシート成形工程と略同様の方法をそれぞれ用いることができる。
【0065】
上記シート形成工程としては、例えば、工程紙上に、まず放射線遮蔽層12を形成し、この放射線遮蔽層12の表面に放射線遮蔽層13の材料となる放射線遮蔽層形成材料を塗工して放射線遮蔽層13を積層する方法等が挙げられる。また、これとは逆に、工程紙上に放射線遮蔽層13を形成し、この放射線遮蔽層13の表面に放射線遮蔽層12の材料となる放射線遮蔽層形成材料を塗工して放射線遮蔽層12を積層してもよい。また、これらの方法以外にも、上記放射線遮蔽層12と放射線遮蔽層13とを別々に形成し、その後、これらを熱接着する方法や、接着剤を介してこれらを積層接着する方法等を採用することも可能である。
【0066】
[第三実施形態]
<放射能防護シート21>
次に、本発明の第三実施形態である放射能防護シート21について、図3を参酌しつつ以下に説明する。
【0067】
図3の放射能防護シート21は、放射線遮蔽層が積層される基材層22を有し、具体的には、基材層22、放射線遮蔽層13及び放射線遮蔽層12がこの順で積層されている。より具体的に説明すると、放射線遮蔽層12及び基材層22が、それぞれ当該放射能防護シート21の最外層となるように、放射線遮蔽層13を挟み込みように積層されている。
【0068】
上記基材層22は、当該放射能防護シート21の強度を向上させるために当該放射能防護シート21の一方の面に積層されるものであり、織物又は編物等から構成される。このような基材層22を構成する繊維としては、特に限定されず、例えばポリエステル繊維、アセテート繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、炭素繊維、レーヨン繊維、アクリル繊維、ポリウレタン繊維、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、高密度ポリエチレン繊維、綿、麻又は羊毛、ガラス繊維、炭素繊維等が挙げられる。これらの中でも、綿、ポリエステル繊維、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、高密度ポリエチレン繊維が好ましく、綿及びポリエステル繊維がより好ましい。また、これらの繊維は起毛処理が施されていても良い。
【0069】
上記基材層22の厚みは、特に限定されず、例えば、1mm以下とすることができ、0.1mm以上1mm以下が好ましく、より好ましくは0.2mm以上0.5mm以下である。上記基材層22の厚みが上記下限値よりも小さいと、当該放射能防護シート21の耐久性が低下するおそれが生じ、一方、上記基材層22の厚みが上記上限値よりも大きいと当該放射能防護シート21が重厚となり、取り扱い性が低下するおそれがある。なお、上記基材層22の厚みは、商品名「ダイヤルシクネスゲージDS−1211(新潟精機株式会社製)」を用いて、半径2cm円内の任意の5箇所において測定した結果の平均値である。
【0070】
なお、当該放射能防護シート21における放射線遮蔽物層(a)12及び放射線遮蔽物層(b)13は、上記第二実施形態における放射線遮蔽物層(a)12及び放射線遮蔽物層(b)13と同様の構成とすることができる。
【0071】
<利点>
当該放射能防護シート21は、上記第二実施形態における当該放射能防護シート11の一方の面に、基材層22をさらに備えているため、当該放射能防護シート21の強度及び耐久性を向上させることができる。また、当該放射能防護シート21を、例えば放射能防護服等の服飾品の材料として用いる場合、着用者に触れる方の面に上記基材層22を配設することにより、手触り感や着心地感を向上させることができる。
【0072】
<放射能防護シート21の製造方法>
当該放射能防護シート21の製造方法としては、特に限定されず、例えば、放射線遮蔽層12の材料となる放射線遮蔽層形成材料と放射線遮蔽層13の材料となる放射線遮蔽層形成材料とをそれぞれ調製する材料調製工程と、この放射線遮蔽層形成材料をシート体に形成するシート形成工程とを備えている。このシート形成工程としては、上記材料調製工程で得られた放射線遮蔽層形成材料のうち一方を用いて放射線遮蔽層13を基材層22に積層する工程、この放射線遮蔽層12に他方の放射線遮蔽層形成材料からなる放射線遮蔽層13を積層する工程とを有する方法を採用可能である。ここで、上記材料調製工程は、例えば、上述の第一実施形態で用いた材料調製工程と略同様の方法を用いることができる。また、放射線遮蔽層13に放射線遮蔽層12を積層する工程は、例えば、上述の第二実施形態と同様の方法を用いることができる。
【0073】
上記基材層22に放射線遮蔽層13を積層する工程としては、例えば、上記放射線遮蔽層13をシート状に形成し、この放射線遮蔽層13を基材層22に積層する方法を採用することが可能である。この場合には、所謂転写によって基材層22に放射線遮蔽層13を積層することができる。具体的には、上述の第一実施形態のように工程紙上に放射線遮蔽層形成材料を塗工し、この放射線遮蔽層形成材料の半硬化状態で基材層22を重ね合せ、その後工程紙を剥離することで基材層22に放射線遮蔽層13を積層することができる。なお、この積層工程は、上記方法に限定されるものではなく、形成された基材層22、放射線遮蔽層12及び放射線遮蔽層13を熱接着する方法や、接着剤を介してこれらを積層接着する方法等を採用することも可能である。さらには、基材層22が放射線遮蔽層形成材料が染み込みにくいものである場合には、上述のような工程紙を用いずに、基材層22に直接放射線遮蔽層形成材料を塗工する方法を採用することも可能である。
【0074】
[その他の実施形態]
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【0075】
上記第二実施形態において、放射能防護シート11は放射線遮蔽層12及び放射線遮蔽層13をそれぞれ一層ずつ積層されているが、図4に示すように、放射線遮蔽層13を挟み込むように放射線遮蔽層12が放射線遮蔽層13の両面に積層された三層構造に形成されていてもよく(放射能防護シート31)、また、図5に示すように、放射線遮蔽層12及び放射線遮蔽層13が交互に積層され、それぞれ2層ずつ備える四層構造でもよい(放射能防護シート41)。また、当該放射能防護シート51は、図6に示すように、放射線遮蔽粒子として(a)タングステン若しくはタングステン化合物及び(b)バリウム若しくはバリウム化合物を有する放射線遮蔽層2を挟み込むように、放射線遮蔽層12がこの放射線遮蔽層2の両面に積層された三層構造でもよい。
【0076】
また、上記第三実施形態において放射能防護シート21は、基材層22が当該放射能防護シート21の最外面となるように積層されているが、この基材層22は、図7に示すように、放射線遮蔽層12及び放射線遮蔽層13に挟み込まれるように積層され、当該放射能防護シート61の内部に配設されていてもよく(放射能防護シート61)、また、図8に示すように、放射線遮蔽層12、放射線遮蔽層13、基材層22、放射線遮蔽層13及び放射線遮蔽層12がこの順で積層されていてもよい(放射能防護シート71)。
【0077】
また、上記基材層22は、織物又は編物等から構成されているが、上記基材層22は他の素材、例えば、ゴムシート、合成樹脂シート、不織布等から構成されていてもよい。さらに、上記基材層22は上記第三実施形態のように積層される以外に、放射線防止層の中部に埋め込まれていてもよい。
【0078】
当該放射能防護シートは、上記放射能防護服以外にも、例えば、レインコート、帽子、手袋、ブーツ、エプロン等の服飾品にも用いることができる。また、例えば傘、テント、防寒又は防水シート等のアウトドア用品のシートとしても好適に用いることができる。
【0079】
[実験例1]
放射線遮蔽粒子としてタングステンを用い、この放射線遮蔽粒子をバインダーとしてのクロロスルフォン化ポリエチレンに溶媒を用いて分散させた放射線遮蔽層形成材料(塗工液)を調製した。なお、溶媒はトルエンを用い、放射線遮蔽粒子及びバインダーの合計質量に対して4質量%添加した。
【0080】
上記調製に関してバインダーと放射線遮蔽粒子との合計質量に対する放射線遮蔽粒子の含有量(放射線遮蔽層における放射線遮蔽粒子の含有量)を変更して実験を行った。その実験の結果、上記含有量が85質量%以内であれば、好適に塗工可能な塗工液が得られることが判明した。
【0081】
[実験例2]
放射線遮蔽粒子としてタングステンと硫酸バリウムとを用い、この放射線遮蔽粒子をバインダーとしてのクロロスルフォン化ポリエチレンに溶媒を用いて分散させた放射線遮蔽層形成材料(塗工液)を調製した。なお、溶媒はトルエンを用い、放射線遮蔽粒子及びバインダーの合計質量に対して4質量%添加した。上記調製に際してバインダーと放射線遮蔽粒子との合計質量に対する放射線遮蔽粒子の含有量(放射線遮蔽層における放射線遮蔽粒子の含有量)は80質量%とした。
【0082】
上記調製に関してタングステンと硫酸バリウムとの比(タングステンに対する硫酸バリウムの比)を下記表1のように変更して実験を行った。その実験の結果、タングステンに対する硫酸バリウムの比が60質量%を超えた場合(表1の上から二段)石化状態となってしまうため、50質量%以下が好ましく、43%以下であることがより好ましいとが判明した。さらに、34質量%以下の場合(表1の上から四段目以降)石化状態が起こらずより良好であることが判明した。
【0083】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0084】
以上のように、本発明の放射能防護シートは、放射線を的確且つ簡易に遮蔽することができ、また、日常の生活において簡便に使用することができる。
【符号の説明】
【0085】
1 放射能防護シート
2 放射線遮蔽層
3 防汚層
11 放射能防護シート
12 第一放射線遮蔽層
13 第二放射線遮蔽層
21 放射能防護シート
22 基材層
31 放射能防護シート
41 放射能防護シート
51 放射能防護シート
61 放射能防護シート
71 放射能防護シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分としてクロロスルフォン化ポリエチレンを含むバインダーと、
このバインダーに分散される放射線遮蔽粒子と
を有する放射線遮蔽層を備え、
上記放射線遮蔽粒子が、
(a)タングステン若しくはタングステン化合物、及び/又は
(b)バリウム若しくはバリウム化合物
である放射能防護シート。
【請求項2】
上記放射線遮蔽粒子が、硫酸バリウムを含む請求項1に記載の放射能防護シート。
【請求項3】
複数の上記放射線遮蔽層を備える請求項1または請求項2に記載の放射能防護シート。
【請求項4】
上記放射線遮蔽層として、
(a)タングステン若しくはタングステン化合物を含む放射線遮蔽層と、
(b)バリウム若しくはバリウム化合物を含む放射線遮蔽層と
を備える請求項3に記載の放射能防護シート。
【請求項5】
上記放射線遮蔽層として(a)タングステン若しくはタングステン化合物、及び(b)バリウム若しくはバリウム化合物を含む上記放射線遮蔽層を備え、
上記(a)タングステン若しくはタングステン化合物の平均粒子径に対する(b)バリウム若しくはバリウム化合物の平均粒子径の比が0.01以上0.1以下である請求項1から請求項4の何れか1項に記載の放射能防護シート。
【請求項6】
上記(a)タングステン若しくはタングステン化合物に対する(b)バリウム若しくはバリウム化合物の比が5質量%以上50質量%以下である請求項5に記載の放射能防護シート。
【請求項7】
上記放射線遮蔽層における放射線遮蔽粒子の含有量が30質量%以上85質量%以下である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の放射能防護シート。
【請求項8】
上記放射線遮蔽層における放射線遮蔽粒子の面積密度が0.1g/cm以上1g/cm以下である請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の放射能防護シート。
【請求項9】
基材層をさらに備える請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の放射能防護シート。
【請求項10】
最外層に防汚層をさらに備える請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の放射能防護シート。
【請求項11】
上記防汚層が、主成分がオレフィン系樹脂からなる樹脂層である請求項10に記載の放射能防護シート。
【請求項12】
主成分としてクロロスルフォン化ポリエチレンを含むバインダーに、放射線遮蔽粒子として(a)タングステン若しくはタングステン化合物及び/又は(b)バリウム若しくはバリウム化合物を、溶媒を用いて分散させ、放射線遮蔽層形成材料を調製する材料調製工程と、
上記放射線遮蔽層形成材料をシート体に形成するシート形成工程と
を有する放射能防護シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−104785(P2013−104785A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248890(P2011−248890)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000165088)恵和株式会社 (63)
【Fターム(参考)】